(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6144533
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】回転子積層鉄心および回転子積層鉄心の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/27 20060101AFI20170529BHJP
【FI】
H02K1/27 501C
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-98530(P2013-98530)
(22)【出願日】2013年5月8日
(65)【公開番号】特開2014-220911(P2014-220911A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(74)【代理人】
【識別番号】100071054
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高久
(72)【発明者】
【氏名】香月 謙治
(72)【発明者】
【氏名】緒方 萌
【審査官】
マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−261095(JP,A)
【文献】
特許第3786946(JP,B1)
【文献】
国際公開第2012/026003(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層鉄心本体の軸方向に貫通形成した磁石収容孔に永久磁石を挿入し、硬化させた樹脂により前記永久磁石を前記積層鉄心本体に固定して成る回転子積層鉄心において、
前記永久磁石の少なくとも一方の端面を、前記積層鉄心本体の軸方向端面より内側に位置させると共に、前記一方の端面と前記積層鉄心本体の軸方向端面との間に開口部を形成し、かつ前記一方の端面の全部を前記開口部内に露出させたことを特徴とする回転子積層鉄心。
【請求項2】
前記開口部は四方にテーパー面を有する先細りのテーパ形状となって、前記一方の端面の全部が、前記開口部の先細り側から露出していることを特徴とする請求項1記載の回転子積層鉄心。
【請求項3】
積層鉄心本体の軸方向に貫通形成した磁石収容孔に永久磁石を挿入し、硬化させた樹脂により前記永久磁石を前記積層鉄心本体に固定して成る回転子積層鉄心の製造方法において、
前記磁石収容孔に治具の支持凸部を嵌入して前記治具に前記積層鉄心本体を載置し、前記支持凸部により前記磁石収容孔の内部に前記永久磁石を支持した状態で、前記樹脂を前記磁石収容孔に充填する工程を含み、
前記支持凸部を前記回転子積層鉄心から外した時に形成される開口部に前記永久磁石の一方の端面の全部を露出させることを特徴とする回転子積層鉄心の製造方法。
【請求項4】
積層鉄心本体の軸方向に貫通形成した磁石収容孔に永久磁石を挿入し、硬化させた樹脂により前記永久磁石を前記積層鉄心本体に固定して成る回転子積層鉄心の製造方法において、
前記磁石収容孔に治具の支持凸部を嵌入して前記治具に前記積層鉄心本体を載置し、前記支持凸部により前記磁石収容孔の内部に前記永久磁石を支持した状態で、前記樹脂を前記磁石収容孔に充填する工程を含み、
前記支持凸部において前記永久磁石の端面と当接する支持面は、前記永久磁石の端面の形状と相似であるとともに前記永久磁石の端面以上の面積を有することを特徴とする回転子積層鉄心の製造方法。
【請求項5】
積層鉄心本体の軸方向に貫通形成した磁石収容孔に永久磁石を挿入し、硬化させた樹脂により前記永久磁石を前記積層鉄心本体に固定して成る回転子積層鉄心の製造方法において、
前記磁石収容孔に治具の支持凸部を嵌入して前記治具に前記積層鉄心本体を載置し、前記支持凸部により前記磁石収容孔の内部に前記永久磁石を支持した状態で、前記樹脂を前記磁石収容孔に充填する工程を含み、
前記支持凸部においる底部領域の形状は、前記磁石収納孔における開口の形状と合致することを特徴とする回転子積層鉄心の製造方法。
【請求項6】
前記治具は搬送トレイであることを特徴とする請求項3記載の回転子積層鉄心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の回転子を構成する回転子積層鉄心および其の製造方法に関し、詳しくは、積層鉄心本体の軸方向に貫通形成した磁石収容孔に永久磁石を挿入し、硬化させた樹脂により前記永久磁石を上記積層鉄心本体に固定して成る回転子積層鉄心、および其の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動機の一態様として、永久磁石を取付けた回転子積層鉄心を構成要素とするIPMモータ(埋込構造永久磁石同期電動機)が知られており、例えばハイブリッドカー用の駆動源として上記IPMモータが多く採用されている。
【0003】
図7および
図8に示す如く、上記IPMモータの構成要素である回転子積層鉄心Aは、
積層した複数の鉄心片Ba,Ba…をカシメ等により固着一体化した積層鉄心本体Bを備えている。
【0004】
この積層鉄心本体Bには、所定数の磁石収容孔Bo,Bo…が、軸方向(鉄心片Ba,Ba…の積層方向)に貫通形成されており、夫々の磁石収容孔Bo,Bo…には、延板状の永久磁石M,M…が挿入され、これら永久磁石M,M…は樹脂Rにより積層鉄心本体Bに固定されている。
【0005】
ここで、上述した構成の回転子積層鉄心Aにおいて、樹脂Rにより永久磁石Mを固定する方法には、先ず積層鉄心本体Bを加熱(予熱)したのち、磁石収容孔Boに永久磁石Mを挿入し、次いで溶融した樹脂Rを磁石収容孔Boに充填することにより、永久磁石Mの全体を樹脂封止する方法が提供されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3786946号公報
【特許文献2】特許第4137962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、永久磁石Mを固定するための樹脂Rとしては、熱硬化性樹脂が多く採用されており、この場合、上述の如く加熱された積層鉄心本体Bの磁石収容孔Boに、高温の溶融した樹脂Rを充填したのち、回転子積層鉄心Aを常温に冷却する工程を経る。
【0008】
このとき、回転子積層鉄心Aの冷却に伴って、樹脂Rは積層鉄心本体Bの軸方向に収縮する一方、樹脂封止された永久磁石Mは積層鉄心本体Bの軸方向に膨張することとなる。
【0009】
すなわち、
図9に示した延板状の永久磁石Mにおいて、磁化方向軸(磁化容易軸)mでは熱膨張係数が+(正)であるのに対し、磁化方向軸mと直交する非磁化方向軸v,hでは熱膨張係数が−(負)であるため、上記永久磁石Mは冷却されることによって軸方向に膨張することとなる。
【0010】
このため、回転子積層鉄心Aの冷却に伴い、
図10中の矢印Saで示す如く、樹脂Rには収縮方向の応力が生じ、
図10中の矢印Sbで示す如く、永久磁石Mには膨張方向の応力が生じ、これらの応力は互いに押し合う方向に作用することとなる。
【0011】
一方、
図8に示す如く、積層鉄心本体Bにおける磁石収容孔Boの断面形状は、永久磁石Mの全体を樹脂封止するために、上記永久磁石Mの断面形状よりも一回り大きく設定されており、また、回転子積層鉄心Aにおける磁気特性の向上を目的として、特に永久磁石Mの長手方向における磁石収容孔Boとのギャップ部gが大きく設定されている。
【0012】
ここで、上記ギャップ部gにおいては、軸方向に沿って樹脂Rのみが充填されているため、回転子積層鉄心Aを冷却する際、上述の如く樹脂Rと永久磁石Mとの間には互いに押し合う方向の応力が生じるのに対し、
図10中の矢印Scで示す如く、ギャップ部gには樹脂Rを大きく収縮させようとする応力のみが生じることとなる。
【0013】
このように、磁石収容孔Boにおける上下の開口に臨む樹脂Rの端面に、上述した如き応力の偏倚が生じると、永久磁石Mの臨む樹脂Rの表面が膨出する反面、ギャップ部gにおける樹脂Rの表面が陥没して、上記樹脂Rの表面に「うねり」が形成され、上記「うねり」の発生状況が複数の磁石収容孔Bo,Bo…毎に相違することで、回転子積層鉄心Aにおける回転モーメントのアンバランスを生じ、モータトルクの低下を招来する不都合があった。
【0014】
また、上述した如くギャップ部gに樹脂Rの収縮に起因する大きな応力が生じることにより、隣り合う磁石収容孔Bo,Boの端部同士が近接した部位(ブリッジ部)Bbや、磁石収容孔Bo,Boの端部が積層鉄心本体Bの外周縁と接近した部位Bn,Bnでは、最悪の場合、応力の集中によってモータ破壊を引き起こす虞れがあった。
【0015】
また、上述した如くギャップ部gにおいては樹脂Rが大きく収縮するため、該樹脂Rを磁石収容孔Boの内側へ引き込む力が作用し、これにより永久磁石Mの端面と樹脂Rとの界面にクラックを生じたり、さらには上記樹脂Rと積層鉄心本体Bとの剥離を生じることで、積層鉄心本体Bと永久磁石Mとの固着強度が著しく低下することとなり、最悪の状況においてはモータ破壊を引き起こす虞れがあった。
【0016】
本発明の目的は、上記実状に鑑みて、樹脂に生じた応力の偏倚に起因するモータトルクの低下、樹脂のクラック、さらにはモータ破壊等を未然に防止することの可能な、回転子積層鉄心および回転子積層鉄心の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するべく、請求項1の発明に係る回転子積層鉄心は、積層鉄心本体の軸方向に貫通形成した磁石収容孔に永久磁石を挿入し、硬化させた樹脂により永久磁石を積層鉄心本体に固定して成る回転子積層鉄心において、
永久磁石
の少なくとも一方の端面を、積層鉄心本体の軸方向端面より内側に位置させ
ると共に、一方の端面と積層鉄心本体の軸方向端面との間に開口部を形成し、かつ一方の端面の全部を開口部内に露出させたことを特徴としている。
【0018】
請求項2の発明に係る回転子積層鉄心は、請求項1の発明に係る回転子積層鉄心において、
開口部は四方にテーパー面を有する先細りのテーパ形状となって、一方の端面の全部が、開口部の先細り側から露出していることを特徴としている。
【0019】
請求項3の発明に係る回転子積層鉄心の製造方法は、積層鉄心本体の軸方向に貫通形成した磁石収容孔に永久磁石を挿入し、硬化させた樹脂により永久磁石を積層鉄心本体に固定して成る回転子積層鉄心の製造方法において、
磁石収容孔に治具の支持凸部を嵌入して治具に積層鉄心本体を載置し、支持凸部により磁石収容孔の内部に永久磁石を支持した状態で、樹脂を磁石収容孔に充填する工程を含
み、
支持凸部を回転子積層鉄心から外した時に形成される開口部に永久磁石の一方の端面の全部を露出させることを特徴としている。
【0020】
請求項4の発明に係る回転子積層鉄心の製造方法は、
積層鉄心本体の軸方向に貫通形成した磁石収容孔に永久磁石を挿入し、硬化させた樹脂により永久磁石を積層鉄心本体に固定して成る回転子積層鉄心の製造方法において、
磁石収容孔に治具の支持凸部を嵌入して治具に積層鉄心本体を載置し、支持凸部により磁石収容孔の内部に永久磁石を支持した状態で、樹脂を磁石収容孔に充填する工程を含み、
支持凸部において永久磁石の端面と当接する支持面は、永久磁石の端面の形状と相似であるとともに永久磁石の端面以上の面積を有することを特徴としている。
【0021】
請求項5の発明に係る回転子積層鉄心の製造方法は、
積層鉄心本体の軸方向に貫通形成した磁石収容孔に永久磁石を挿入し、硬化させた樹脂により永久磁石を積層鉄心本体に固定して成る回転子積層鉄心の製造方法において、
磁石収容孔に治具の支持凸部を嵌入して治具に積層鉄心本体を載置し、支持凸部により磁石収容孔の内部に永久磁石を支持した状態で、樹脂を磁石収容孔に充填する工程を含み、
支持凸部においる底部領域の形状は、磁石収納孔における開口の形状と合致することを特徴としている。
【0022】
請求項6の発明に係る回転子積層鉄心の製造方法は、請求項3の発明に係る回転子積層鉄心の製造方法において、治具は搬送トレイであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る回転子積層鉄心によれば、永久磁石における少なくとも一方の端面を、磁石収容孔の開口
部内に露出させたことにより、永久磁石における積層鉄心本体の軸方向に膨張しようとする応力を、上記永久磁石における露出している端面に逃がすことによって、永久磁石を固定するための樹脂に応力の偏倚が生じることが抑えられ、もってモータトルクの低下、樹脂のクラック、さらにはモータ破壊等を未然に防止することが可能となる。
【0024】
【0025】
本発明に係る回転子積層鉄心の製造方法によれば、磁石収容孔に治具の支持凸部を嵌入して上記治具に積層鉄心本体を載置し、支持凸部により磁石収容孔の内部に永久磁石を支持した状態で樹脂を磁石収容孔に充填する工程を含むことで、永久磁石における少なくとも一方の端面を、磁石収容孔の開口
部内に露出させたことにより、モータトルクの低下、樹脂のクラック、さらにはモータ破壊等を未然に防止し得る回転子積層鉄心を容易に製造することが可能となる。
【0026】
本発明に係る回転子積層鉄心の製造方法に
おいて、支持凸部において永久磁石の端面と当接する支持面を、永久磁石の端面の形状と相似、かつ永久磁石の端面以上の面積を有する形状とした
場合、支持凸部により永久磁石を支持する際、上記支持凸部の支持面に対する永久磁石の位置決めを容易に行うことが可能となる。
【0027】
本発明に係る回転子積層鉄心の製造方法に
おいて、支持凸部における底部領域の形状を、磁石収容孔における開口の形状と合致させた
場合、治具に対する積層鉄心本体の位置決めが確実に行われるとともに、磁石収容孔における開口の全域を解放させることが可能となる。
【0028】
本発明に係る回転子積層鉄心の製造方法
において、治具が搬送トレイである
場合、積層鉄心本体を金型装置にセットする前に、永久磁石を予め磁石収容孔に挿入しておくことができ、もって優れた作業性を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】(a)は本発明に係る回転子積層鉄心を示す全体外観平面図、(b)は本発明に係る回転子積層鉄心を示す全体外観側面図。
【
図2】本発明に係る回転子積層鉄心を示す要部断面平面図。
【
図3】(a)は
図1(a)中のa−a線断面図、(b)は
図1(a)中のb−b線断面図。
【
図4】本発明に係る回転子積層鉄心の製造方法における、金型装置に積層鉄心本体と永久磁石とをセットした状態を、永久磁石の展延方向に破断して示す要部断面側面図。
【
図5】本発明に係る回転子積層鉄心の製造方法における、金型装置に積層鉄心本体と永久磁石とをセットした状態を、永久磁石の厚さ方向に破断して示す要部断面側面図。
【
図6】本発明に係る回転子積層鉄心の製造方法における、支持突起を備えた金型装置の下型を示す要部外観斜視図。
【
図7】(a)は従来の回転子積層鉄心を示す全体外観平面図、(b)は従来の回転子積層鉄心を示す全体外観側面図。
【
図8】(a)は従来の回転子積層鉄心を示す要部断面平面図、(b)は
図7(a)中のVIII−VIII線断面図。
【
図9】回転子積層鉄心を構成する永久磁石を、磁化方向軸mおよび非磁化方向軸v,hと併せて示した全体外観斜視図。
【
図10】従来の回転子積層鉄心の製造方法において、製造時に作用する各部の応力状態を示した回転子積層鉄心の要部断面側面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る回転子積層鉄心および其の製造方法について、実施例を示す図面を参照しつつ詳細に説明する。
なお、本実施例においては、IPMモータ(埋込構造永久磁石同期電動機)を構成する回転子積層鉄心に本発明を適用した例を示している。
【0031】
図1〜
図3に示す如く、IPMモータの構成要素である回転子積層鉄心1は、積層した複数の鉄心片2A,2A…をカシメ等により固着一体化した積層鉄心本体2を具備している。
【0032】
この積層鉄心本体2には、所定数の磁石収容孔2O,2O…が、軸方向(鉄心片2A,2A…の積層方向)に貫通形成されており、夫々の磁石収容孔2O,2O…には、延板状の永久磁石3,3…が挿入され、これら永久磁石3,3…は、樹脂4を用いて積層鉄心本体2に固定されている。
【0033】
図3に示す如く、磁石収容孔2Oの内部に固定された永久磁石3は、上下の端面3e,3eが、積層鉄心本体2の上面(軸方向端面)2uと下面(軸方向端面)2lより内方に位置しており、さらに永久磁石3における下方の端面3eは、樹脂4に形成された開口部4oを介して、磁石収容孔2Oにおける下方の開口2oに臨んでいる。
【0034】
上記樹脂4の開口部4oは、磁石収容孔2Oにおける下方の開口2oの周縁から立ち上がり、磁石収容孔2Oの内方に傾斜するテーパ形状を呈しており、上記開口部4oの上方においては、永久磁石3の端面3eが磁石収容孔2Oの開口2oに臨んで完全に露出しているとともに、上記磁石収容孔2Oの開口2oは全域に亘って開放されている。
【0035】
なお、上述した実施例における回転子積層鉄心1の構成は、永久磁石3における下方の端面3eが、磁石収容孔2Oの開口2oに臨んで完全に露出している以外、
図7および
図8に示した従来の回転子積層鉄心Aと基本的に変わるところはない。
【0036】
さらに、上述した回転子積層鉄心1においては、後述する金型装置10(
図4,
図5参照)に積層鉄心本体2をセットしたのち、積層鉄心本体2の磁石収容孔2Oに永久磁石3を挿入し、次いで積層鉄心本体2を加熱し、溶融した樹脂4を磁石収容孔2Oに注入して永久磁石3を樹脂封止したのち、回転子積層鉄心Aを常温に冷却することによって、樹脂4により永久磁石3を積層鉄心本体2に固定する方法が採用されている。
【0037】
上述した如き構成の回転子積層鉄心1によれば、永久磁石3おける一方の端面3eを、
磁石収容孔2Oの開口2oに臨んで完全に露出させたことにより、永久磁石3における積層鉄心本体2の軸方向に膨張しようとする応力を、上記永久磁石3における露出している端面3eに逃がすことによって、永久磁石3を固定するための樹脂4に応力の偏倚が生じることが抑えられ、もって従来技術の項において詳述した様々な不都合、すなわちモータトルクの低下、樹脂のクラック、さらにはモータ破壊等の問題を、未然に防止することが可能となる。
【0038】
図4および
図5は、上述した回転子積層鉄心1の製造方法における1つの工程を示しており、金型装置10を構成する治具としての上型11および下型12の間には、積層鉄心本体2が所定位置にセットされている。
【0039】
上型11は、積層鉄心本体2の上面2uと圧接しており、積層鉄心本体2の磁石収容孔2Oに溶融した樹脂を注入するためのポット11sを備えている。
【0040】
下型12は、積層鉄心本体2の下面2lと当接するベース部12Aと、該ベース部12Aに突設されて積層鉄心本体2の磁石収容孔2Oに嵌入する支持凸部12Bとを備えている。
【0041】
回転子積層鉄心1を製造するには、先ず、積層鉄心本体2の磁石収容孔2Oに支持凸部12Bを嵌入するとともに、積層鉄心本体2の下面2lをベース部12Aに当接させることで、上記積層鉄心本体2を下型12に載置する。
【0042】
次いで、積層鉄心本体2の磁石収容孔2Oに永久磁石3を挿入し、支持凸部12Bの支持面12sに載置することにより、上記永久磁石3を磁石収容孔2Oの内部における所定位置に支持(セット)する。
【0043】
こののち、積層鉄心本体2の上面2uに上型11を圧接させ、溶融した樹脂をポット11sから積層鉄心本体2の磁石収容孔2Oに充填して永久磁石3を樹脂封止する。
【0044】
ここで、下型12における支持凸部12Bの支持面12sは、永久磁石3における端面3eと相似の矩形状を呈しているとともに、その面積は上記端面3e以上に設定されているため、完成した回転子積層鉄心1における永久磁石3の端面3eは、全面が完全に露出することとなり、もって永久磁石3が積層鉄心本体2の軸方向に膨張しようとする応力を有効に逃がすことができ、永久磁石3を固定している樹脂に応力の偏倚が生じることを抑えられる。
【0045】
なお、下型12はこれに換えて、特許第5023124号に記載された搬送トレイに支持凸部を設けて用いても良く、この場合、積層鉄心本体を金型装置にセットする前に予め磁石収容孔に永久磁石を挿入しておくことができるので作業性に優れたものとなる。
【0046】
また、支持凸部12Bにおける支持面12sの面積が、永久磁石3の端面3eよりも大きく設定されていることで、上記支持面12sに対する永久磁石3の多少のずれは許容されるため、支持凸部12Bによって永久磁石3を支持する際、位置決め(セッティング)を容易に行うことができる。
【0047】
なお、支持凸部12Bにおける支持面12sの形状を、永久磁石3における端面3eの形状と合致させることも可能であり、さらに磁石収容孔2Oに充填される樹脂の量が従来技術よりも減ることで、樹脂に生じる応力の偏倚を緩和する効果が認められることから、
支持凸部12Bにおける支持面12sの形状を、永久磁石3の端面3eよりも若干小さく設定することも可能である。
【0048】
また、
図6に示す支持凸部12Bにおける底部領域12bの形状は、積層鉄心本体2における磁石収容孔2Oの開口2oと合致しており、このため支持凸部12Bが磁石収容孔2Oに嵌入した際、下型12に対する積層鉄心本体2の位置決めが確実に行われることとなり、さらに磁石収容孔2Oに充填された樹脂が開口2oに達しないので、上記開口2oが全域に亘って解放されることとなる。
【0049】
また、上記支持凸部12Bは、
図6に示す如く底部領域12bから支持面12sに向けて先細りのテーパ形状を呈しているため、四方のテーパ面が有効な抜き勾配として作用することで、下型12から回転子積層鉄心1を容易に取り外すことが可能となる。
【0050】
また、上述した如く支持凸部12Bによって永久磁石3を支持したことで、回転子積層鉄心1における永久磁石3の端面3eは、積層鉄心本体2の下面2lよりも内側に位置しているが、支持凸部12Bの磁石収容孔2Oへの入り代、言い換えれば支持凸部12Bの高さ寸法は、0.1〜0.5mm程度であることが望ましく、0.1mm以上であれば、永久磁石3が膨張した際に積層鉄心本体2の下面2lから飛び出ることを防止でき、0.5mm以内であれば、樹脂面の凹みによる回転子積層鉄心1の品質低下を最低限に抑えることが可能となる。但し、最適な支持凸部12Bの高さ寸法は、回転子積層鉄心1の設計仕様によって全く相違し、もって上述した数値に限定されるものでないことは勿論である。
【0051】
なお、上述した実施例の回転子積層鉄心1では、永久磁石3における一方(下方)の端面3eのみを露出させる構成としたが、永久磁石3における上下両方の端面3e,3eを露出させても良く、このような構成を採用する場合には、下型12の支持凸部12Bと同様の凸部を、金型装置10の上型11にも設ければ良いことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
1…回転子積層鉄心、
2…積層鉄心本体、
2A…鉄心片、
2O…磁石収容孔、
2o…開口、
2u…上面(軸方向端面)、
2l…下面(軸方向端面)、
3…永久磁石、
3e…端面、
4…樹脂、
4o…開口部、
10…金型装置、
11…上型(治具)、
12…下型(治具)、
12A…ベース部、
12B…支持凸部、
12s…支持面、
12b…底部領域。