(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数時間断面において配電系統内の複数のセンサにより計測された電圧および線路潮流を含む状態の計測値と、前記配電系統内の線路のインピーダンスおよび接続状態を示す系統構成データと、前記配電系統内の各ノードにおけるセンサまたは負荷の最大誤差とを記憶する記憶部と、
各ノードに対し、前記最大誤差に基づいて重み係数を算出する重み係数算出部と、
前記複数時間断面のそれぞれに対し、前記計測値に基づく第一初期値を決定し、前記系統構成データと前記第一初期値とを用いる潮流計算により、前記状態の第一推定値を算出し、前記第一推定値と前記第一初期値と前記重み係数とに基づいて第二初期値を算出し、前記系統構成データと前記第二初期値とを用いる潮流計算により、前記状態の第二推定値を算出する推定値算出部と、
前記複数時間断面の計測値と、前記複数時間断面の第二推定値とに基づいて、前記複数のセンサのそれぞれの定常誤差およびランダム誤差を算出する個体誤差算出部と、
を備える配電系統の状態推定装置。
前記推定値算出部は、前記第一推定値および前記第一初期値の偏差と前記重み係数とを用いる目的関数の最適化計算により前記第一初期値の修正量を算出し、前記第一初期値と前記修正量とに基づいて前記第二初期値を算出する、
請求項1に記載の状態推定装置。
前記推定値算出部は、前記定常誤差に基づいて前記計測値を補正することにより補正計測値を算出し、前記補正計測値に基づく第三初期値を決定し、前記系統構成データと前記第三初期値とを用いる潮流計算により、前記状態の第三推定値を算出する、
請求項3に記載の状態推定装置。
前記推定値算出部は、前記ランダム誤差に基づいて前記重み係数を補正することにより補正重み係数を算出し、前記第三推定値および前記第三初期値の偏差と前記重み係数と前記第三初期値とに基づいて第四初期値を算出し、前記系統構成データと前記第四初期値とを用いる潮流計算により、前記状態の補正推定値を算出する、
請求項4に記載の状態推定装置。
前記個体誤差算出部は、前記定常誤差および前記ランダム誤差の少なくともいずれかと、前記最大誤差とを用いて、前記複数のセンサの中から異常な傾向を示すセンサを検出する、
請求項5に記載の状態推定装置。
複数時間断面において配電系統内の複数のセンサにより計測された電圧および線路潮流を含む状態の計測値と、前記配電系統内の線路のインピーダンスおよび接続状態を示す系統構成データと、前記配電系統内の各ノードにおけるセンサまたは負荷の最大誤差とを記憶し、
各ノードに対し、前記最大誤差に基づいて重み係数を算出し、
前記複数時間断面のそれぞれに対し、前記計測値に基づく第一初期値を決定し、前記系統構成データと前記第一初期値とを用いる潮流計算により、前記状態の第一推定値を算出し、前記第一推定値と前記第一初期値と前記重み係数とに基づいて第二初期値を算出し、前記系統構成データと前記第二初期値とを用いる潮流計算により、前記状態の第二推定値を算出し、
前記複数時間断面の計測値と、前記複数時間断面の第二推定値とに基づいて、前記複数のセンサのそれぞれの定常誤差およびランダム誤差を算出する、
ことを備える状態推定方法。
複数時間断面において配電系統内の複数のセンサにより計測された電圧および線路潮流を含む状態の計測値と、前記配電系統内の線路のインピーダンスおよび接続状態を示す系統構成データと、前記配電系統内の各ノードにおけるセンサまたは負荷の最大誤差とを記憶し、
各ノードに対し、前記最大誤差に基づいて重み係数を算出し、
前記複数時間断面のそれぞれに対し、前記計測値に基づく第一初期値を決定し、前記系統構成データと前記第一初期値とを用いる潮流計算により、前記状態の第一推定値を算出し、前記第一推定値と前記第一初期値と前記重み係数とに基づいて第二初期値を算出し、前記系統構成データと前記第二初期値とを用いる潮流計算により、前記状態の第二推定値を算出し、
前記複数時間断面の計測値と、前記複数時間断面の第二推定値とに基づいて、前記複数のセンサのそれぞれの定常誤差およびランダム誤差を算出する、
ことをコンピュータに実行させる状態推定プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
本実施例では、電力系統に設置されたセンサからの電圧・電流等の複数時間断面の計測値から、電力系統の電圧、電流、有効電力、無効電力の分布と併せて、センサの個体毎の誤差を定常誤差とランダム誤差に分けて推定する状態推定装置を備える電力系統システムの例を説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施例1の電力系統システムの構成を示す。本実施例の電力系統システムは、電力系統100と状態推定装置10を含む。電力系統100は、例えば配電系統である。電力系統100は、変電所120と、母線または電柱を表すノード110と、変電所120および幾つかのノード110を結ぶ配電線を表すブランチ130と、ノード110に接続される需要家の負荷140と、ブランチ130上に設けられているセンサ150、で構成される。以下の説明において、符号のアルファベットによって要素を区別する必要がない場合、アルファベットを省略することがある。
【0014】
センサ150は、ノード110の電圧と、ブランチ130を通過する電流と、有効電力と、無効電力を計測する。センサ150は、通信ネットワーク200を介して状態推定装置10に計測値を送る。
【0015】
次に、状態推定装置10の構成について説明する。
【0016】
状態推定装置10は、計測値受信部11、計測値データベース(DB)12、最大誤差データベース13、重み係数演算部14、重み係数データベース15、設備データベース16、電圧電流分布推定部17、電圧電流分布データベース18、センサ個体誤差推定部19、定常誤差データベース20、ランダム誤差データベース21、で構成される。
【0017】
状態推定装置10は、例えばメモリおよびマイクロプロセッサを含むコンピュータであっても良い。メモリは、状態推定装置10の処理を実行させる状態推定プログラムおよびデータを格納する。マイクロプロセッサは、メモリに接続され、メモリ内の状態推定プログラムに従って状態推定装置10の処理を実行する。なお、状態推定プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納され、コンピュータにより読み出されても良い。
【0018】
次に、状態推定装置10の各要素について詳細に説明する。
【0019】
計測値受信部11は、通信ネットワーク200を介してセンサ150の計測値を受信する。
【0020】
計測値データベース12は、計測値受信部11が受信した計測値に基づくテーブルを格納する。
図2は、計測値の一例を示す。計測値は、センサ毎に、センサにより計測されたノード状態の計測値と、当該計測の時刻である計測時刻、当該センサが設けられているノードを示すノードID、当該センサを示すセンサIDが対応づけられたものである。ノード状態の計測値は、A、B、Cの三相の各相または各相間の電圧、電流、有効電力、無効電力を含む。三相の計測値は、計測値受信部11により、三相の平均値か、または代表相の値に変換され、計測値データベース12として格納される。これにより、計測値データベース12は、複数の計測時刻(時間断面)の計測値を格納する。なお、計測値データベース12は、三相の計測値を格納していても良いし、変換された計測値を格納していても良い。
【0021】
最大誤差データベース13は、センサの機種毎に定められた最大計測誤差と、負荷の最大按分誤差を含む最大誤差を格納する。
図3は、最大誤差データベース13の一例を示す。最大誤差データベース13は、ノード毎に、ノードと、センサIDと、最大誤差、を対応づけたテーブルである。ノードにセンサが設けられている場合、当該ノードの最大計測誤差は、センサの電圧、電流、有効電力、無効電力の最大計測誤差と、負荷の最大按分誤差の有効電力成分および無効電力成分を含む。ノードにセンサが設けられていない場合、負荷の最大按分誤差の有効電力成分および無効電力成分を含む。センサの最大計測誤差εの代わりにセンサの最大計測誤差率eとセンサの定格値Mratが与えられている場合、最大計測誤差εを式(1)のように計算しても良い。
【0022】
【数1】
【0023】
図4は、センサの最大計測誤差率の一例を示す。最大計測誤差の代わりに、センサ毎に、電圧、電流、有効電力、無効電力の最大計測誤差率がセンサ仕様として予め与えられている。
図5は、センサの定格値の一例を示す。センサ毎に、電圧、電流、有効電力、無効電力の定格値がセンサ仕様として予め与えられている。最大按分誤差は、工場や太陽光発電等の負荷の種別に基づいて設定されることが望ましい。重み係数演算部14は、最大誤差データベース13における最大誤差εを用いて式(2)のように重み係数Wを計算する。
【0024】
【数2】
【0025】
重み係数データベース15は、重み係数演算部14によって計算された重み係数を格納する。
図6は、重み係数データベース15の一例を示す。重み係数データベース15は、センサ毎に、電圧、電流、有効電力、無効電力の重み係数、ノード、センサIDを対応づけたテーブルである。
【0026】
設備データベース16は、電力系統100の設備データを格納する。設備データベース16は、ブランチデータベース、修正量上下限データベース、感度係数データベースを含む。
【0027】
図7は、ブランチデータベースの一例を示す。ブランチデータベースは、ブランチ130と、その配電線インピーダンスを対応づけたテーブルである。配電線インピーダンスは、例えば抵抗とリアクタンスで表される。
【0028】
図8は、修正量上下限データベースの一例を示す。修正量上下限データベースは、変電所120の送出電圧および負荷140の有効電力成分と無効電力成分のそれぞれについて、修正量の上下限率を、ノードと対応づけたテーブルである。上下限率は、センサの最大計測誤差および需要家の契約電力に基づく負荷の上限値に基づいて決定することが望ましい。例えば、負荷が契約電力を超えないことを条件として負荷の上限値を決定する。
【0029】
感度係数データベースは、或るノードのノード状態の或る変数を変化させた場合の、各ノードまたは各ブランチの電圧、電流、有効電力の変化量を示す感度係数を格納する。
図9は、送出電圧の感度係数データベースの一例を示す。送出電圧の感度係数データベースは、或るノードの送出電圧Vを変化させた場合の、各ノードの電圧、電流、有効電力、無効電力の感度係数αを示す。送出電圧の感度係数データベースは、送出電圧Vを変化させるノード毎のテーブルを有する。
図10は、有効電力負荷の感度係数データベースの一例を示す。有効電力負荷の感度係数データベースは、負荷140の有効電力成分Lpを変化させた場合の、各ノードの電圧、電流、有効電力、無効電力の感度係数βを示す。有効電力負荷の感度係数データベースは、有効電力負荷Lpを変化させるノード毎のテーブルを有する。
図11は、無効電力負荷の感度係数データベースの一例を示す。無効電力負荷の感度係数データベースは、負荷140の無効電力成分Lqを変化させた場合の、各ノードの電圧、電流、有効電力、無効電力の感度係数γを示す。無効電力負荷の感度係数データベースは、無効電力負荷Lqを変化させるノード毎のテーブルを有する。
【0030】
感度係数の計算方法について説明する。
図12は、感度係数の計算方法を示す。ここで、iを、電圧の計測値が得られたノードを示す番号をiとし、潮流を示すI、P、Qの計測値が得られたノードを示す番号をkとし、最適化問題の変数となるΔV、ΔLp、ΔLqを有するノードを示す番号をjとする。感度係数α、β、γは、ノードjの変電所120の送出電圧ΔVjおよび負荷140の有効電力成分ΔLpjと無効電力成分ΔLqjをそれぞれ変化させた場合の、ノードijの電圧変化ΔVij、ブランチkjの負荷の電流変化ΔIkj、有効電力変化ΔPkj、負荷の無効電力変化ΔQkj、を示す指標である。ΔVijは、初期条件から送出電圧Vjを微小変化させて潮流計算を行い、初期条件での潮流計算結果と微小変化させた潮流計算結果の偏差を求めることで把握することができる。ΔIkj、ΔPkj、ΔQkjについても、同様の方法で把握することができる。ここで、送出電圧ΔVjの変化に対するΔVij、ΔIkj、ΔPkj、ΔQkjの変化をそれぞれαVij、αIkj、αPkj、αQkjとする。負荷の有効電力成分ΔLpjの変化に対するΔVij、ΔIkj、ΔPkj、ΔQkjの変化をそれぞれβVij、βIkj、βPkj、βQkjとする。負荷の無効電力成分ΔLqjの変化に対するΔVij、ΔIkj、ΔPkj、ΔQkjの変化をそれぞれγVij、γIkj、γPkj、γQkjとする。これらの感度係数の計算は、式(3)〜(14)で表される。
【0031】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
【0032】
電圧電流分布推定部17は、計測値データベース12の計測値、重み係数データベース15の重み係数、設備データベース16の各種設備データ、を用いて、或る時間断面における各ノードおよび各ブランチの電圧、電流、有効電力、無効電力、負荷を推定する電圧電流分布推定処理を行う。
【0033】
以下、電圧電流分布推定処理の流れを説明する。
図13は、電圧電流分布推定処理を示す。
【0034】
ステップS11で、電圧電流分布推定部17は、計測値データベース12を読込む。具体的には、或る時間断面の、各ノードおよび各ブランチの電圧、電流、有効電力、無効電力の計測値を読み込む。ステップS12で、電圧電流分布推定部17は、重み係数データベース15を読込む。具体的には、各ノードおよび各ブランチの重み係数を読み込む。ステップS13で、電圧電流分布推定部17は、設備データベース16を読込む。具体的には、ブランチデータベース内の配電線インピーダンスと、修正量上下限データベース内の変電所120の送出電圧、負荷140の有効電力成分および無効電力成分の修正量の上下限率と、感度係数データベース内の感度係数を読込む。
【0035】
ステップS14で、電圧電流分布推定部17は、第一初期値を決定し、記憶する。
図14は、第一初期値の一例を示す。この図は、送出電圧V、負荷の有効電力成分Lpおよび無効電力成分Lqの第一初期値を示す。電圧電流分布推定部17は、計測値データベース12内の変電所120のノード110aの電圧を、送出電圧Vの第一初期値として用いる。ここでの電圧は三相の平均値とした。更に電圧電流分布推定部17は、計測値データベース12の有効電力および無効電力の計測値から、センサ区間の負荷の有効電力および無効電力を計算し、それらを各ノードの契約電力に基づいて按分することで、負荷の有効電力成分Lpおよび無効電力成分Lqの計算値を算出し、負荷Lp、Lqの第一初期値として用いる。
【0036】
ステップS15で、電圧電流分布推定部17は、送出電圧V、負荷の有効電力Lpおよび無効電力Lqの修正量の上下限値を計算する。上下限値の計算式を式(15)に示す。ここでxは、修正量上下限データベースに示されている、電圧、負荷の有効電力成分および無効電力成分の上下限率である。
【0037】
【数15】
【0038】
ステップS16で、電圧電流分布推定部17は、ステップS11〜14により得られた計測値データベース12、重み係数データベース15、設備データベース16、第一初期値のデータを用いて、潮流計算を実行する。電圧電流分布推定部17は、潮流計算により、各ノードおよび各ブランチの電圧、電流、有効電力、無効電力を推定して第一推定値とする。
【0039】
ステップS17で、電圧電流分布推定部17は、各ノードおよび各ブランチの電圧、電流、有効電力、無効電力の第一推定値と計測値の偏差を計算する。具体的には、ステップS11で読み込んだ計測値と、ステップS16で計算した潮流計算による第一推定値の偏差を計算する。例えば、あるノードiの電圧については、計測値Vi’と第一推定値Viの偏差ΔViから偏差ΔVi=Vi’―Viを求める。電流、有効・無効電力等についても、同様に計算する。
【0040】
ステップS18で、電圧電流分布推定部17は、送出電圧V、負荷の有効電力成分Lpおよび無効電力成分Lqの修正量を計算する。ここで、電圧電流分布推定部17は、各ノードおよび各ブランチの電圧、電流、有効電力、無効電力の偏差および負荷の偏差を最小化する。修正量の計算方法について、以下に示す。
【0041】
送出電圧および負荷の修正量を計算する最適化計算は、二次計画法として定式化される。まず目的関数fについて説明する。目的関数fは、電圧、電流、有効電力、無効電力の偏差、および負荷の偏差、に重み係数をかけたものの総和とし、式(16)で定義される。
【0042】
【数16】
【0043】
ここで、Axは重み係数である。yVi、yIk、yPk、yQkはそれぞれ、電流I、電圧V、有効電力P、無効電力Qの計測値と第一推定値の偏差を定義する中間変数であり、yLpj、yLqjはそれぞれ、負荷Lp、Lqの計算値と第一推定値の偏差を定義する中間変数であり、式(17)で表される。なお、目的関数fは、負荷についてのLp、Lqを用いなくても良い。
【0044】
【数17】
【0045】
これらの式は、二次計画問題の中の等式制約として扱われる。ここで、電圧V、電流I、有効電力P、無効電力Qの計測値と第一推定値の偏差が初期値として与えられると共に、負荷Lp、Lqの計算値と第一推定値の偏差が初期値として与えられる。ここで、ΔLpjはノードjに接続される負荷の有効電力成分の修正量を表し、ΔLqjは同じく無効電力成分の修正量を表し、ΔVjは変電所120の送出電圧の修正量を表す。ΔLpj、ΔLqjとΔVjが最適化問題の変数となる。
【0046】
次に、電圧電流分布推定部17は、不等式制約として、ステップS15で計算した送出電圧、負荷の有効電力成分Lpおよび無効電力成分Lqの修正量の上下限値を用いる。次に、電圧電流分布推定部17は、感度係数α、β、γとして、ステップS13で読み込んだ値を用いる。
【0047】
以上のように定式化された二次計画問題を解き、目的関数fを最小化する最適化計算により、送出電圧V、負荷の有効電力Lpおよび無効電力Lqの修正量を得ることができる。
【0048】
ステップS19で、電圧電流分布推定部17は、ステップS18で計算した送出電圧V、負荷の有効電力成分Lpおよび無効電力成分Lqの修正量に基づいて、送出電圧V、負荷の有効電力成分Lpおよび無効電力成分Lqの第一初期値を修正して第二初期値とする。電圧電流分布推定部17は、第二初期値を用いて潮流計算を再度実施することにより、各ノードおよび各ブランチの電圧、電流、有効電力、無効電力の第二推定値を計算する。
【0049】
以上で、電圧電流分布推定処理が終了する。この処理により、或る時間断面における電力系統の各ノードおよび各ブランチの電圧、電流、有効電力、無効電力を精度良く推定することができる。第一推定値と第一初期値と重み係数に基づいて、第一初期値を修正し、第一初期値より精度の高い第二初期値を算出することができる。第一推定値および第一初期値の偏差と重み係数を用いる目的変数の最適化計算により、第一初期値の修正量を算出することができる。第一初期値が負荷の計算値を含み、第一初期値を修正して第二初期値を算出することにより、状態推定の精度を向上させることができる。また、第二初期値を用いる潮流計算により、第一推定値より精度の高い第二推定値を算出することができる。
【0050】
電圧電流分布データベース18は、電圧電流分布推定部17が推定した各ノードおよび各ブランチの電圧、電流、有効電力、無効電力の第二推定値を格納する。
図15は、電圧電流分布データベース18の一例を示す。電圧電流分布データベース18は、各第二推定値、ノード、センサID、時刻を対応づけたテーブルである。計測値データベース12に格納されている複数の時間断面のそれぞれに対して電圧電流分布推定処理が行われることにより、電圧電流分布データベース18は、複数の時間断面の第二推定値を格納する。
【0051】
センサ個体誤差推定部19は、電圧電流分布データベース18の第二推定値と、計測値データベース12の計測値を用いて、センサの個体毎の誤差であるセンサ個体誤差情報を計算するセンサ個体誤差推定処理を行う。センサ個体誤差情報は、定常誤差およびランダム誤差を含む。
【0052】
以下、センサ個体誤差推定処理の流れを説明する。
図16は、センサ個体誤差推定処理を示す。
【0053】
ステップS21で、センサ個体誤差推定部19は、計測値データベース12を読込む。具体的には、センサ個体誤差推定部19は、複数時間断面の電圧、電流、有効電力、無効電力の計測値を読込む。ステップS22で、センサ個体誤差推定部19は、電圧電流分布データベース18を読込む。具体的には、複数時間断面の電圧、電流、有効電力、無効電力の第二推定値を読込む。ステップS23で、センサ個体誤差推定部19は、各時間断面の計測値と第二推定値の偏差を算出する。
【0054】
ステップS24で、センサ個体誤差推定部19は、センサ毎の定常誤差を推定する。ステップS25で、センサ個体誤差推定部19は、センサ毎のランダム誤差を推定する。
図17は、或るセンサにおける複数時間断面の偏差の分布の一例を示す。この図において横軸は電圧の計測値と第二推定値の偏差を表し、縦軸は頻度を表す。ステップS24で、センサ個体誤差推定部19は、ステップS23で計算した偏差から、複数時間断面の偏差の平均値を計算し、その平均値μを定常誤差とする。ステップS25で、センサ個体誤差推定部19は、ステップS23で計算した偏差から、複数時間断面の偏差の標準偏差σを計算し、その標準偏差をランダム誤差とする。定常誤差は、センサに変圧器が用いられている場合の変圧比の誤差などに起因する。また、ランダム誤差は、センサにコンデンサが用いられている場合の温度特性や、計測値の通信タイミングのずれなどに起因する。
【0055】
以上のセンサ個体誤差推定処理によれば、複数時間断面の電圧、電流、有効電力、無効電力の計測値と第二推定値から、センサの個体毎の誤差を定常誤差とランダム誤差に分けて把握することができる。
【0056】
定常誤差データベース20は、センサ個体誤差推定部19が推定した定常誤差を格納する。
図18は、定常誤差データベース20の一例を示す。定常誤差データベース20は、センサが設けられているノード毎に、ノードと、センサIDと、電圧、電流、有効電力、無効電力の定常誤差を対応づけたテーブルである。
【0057】
ランダム誤差データベース21は、センサ個体誤差推定部19が推定したランダム誤差を格納する。
図19は、ランダム誤差データベース21の一例を示す。ランダム誤差データベース21は、センサが設けられているノード毎に、ノードと、センサIDと、電圧、電流、有効電力、無効電力のランダム誤差を対応づけたテーブルである。
【0058】
本実施例によれば、センサのタイプ毎に定められた誤差ではなく、センサの個体毎の誤差を推定することができる。
【実施例2】
【0059】
本実施例では、実施例1の機能に加え、定常誤差を用いる計測値を補正する機能と、ランダム誤差を用いる重み係数を補正する機能と、補正した計測値および補正した重み係数を用いて電力系統の電圧、電流、有効電力、無効電力の分布を推定する機能を備えた状態推定装置の例を説明する。
【0060】
本実施例の電力系統システムは、実施例1の状態推定装置10に代えて状態推定装置10bを有する。
図20は、実施例2の状態推定装置10bの構成を示す。本実施例の状態推定装置10bは、状態推定装置10の要素に加え、補正計測値演算部22、補正計測値データベース23、補正重み係数演算部24、補正重み係数データベース25、補正電圧電流分布推定部26、補正電圧電流分布データベース27、を含む。状態推定装置10bの要素のうち、状態推定装置10の要素と同一の符号を付けた要素については、同一の機能を有するとして、その説明を省略する。
【0061】
補正計測値演算部22は、計測値データベース12の計測値と、定常誤差データベース20のセンサ個体の定常誤差と、を用いて計測値を補正し補正計測値とする。補正計測値の計算式を式(18)に示す。
【0062】
【数18】
【0063】
補正計測値データベース23は、補正計測値演算部22によって計算された補正計測値を格納する。
図21は、補正計測値データベース23の一例を示す。補正計測値データベース23は、センサが設けられているノード毎に、時刻と、ノードと、センサIDと、電圧、電流、有効電力、無効電力の補正計測値を対応づけたテーブルである。ここでの補正計測値は三相の平均値である。
【0064】
補正重み係数演算部24は、ランダム誤差データベース21のセンサ個体のランダム誤差を用いて補正重み係数を計算する。補正重み係数の計算は、実施例1で説明した重み係数演算部14の処理と同じであるが、最大誤差εの代わりにランダム誤差を用いる。
【0065】
補正重み係数データベース25は、補正重み係数演算部24によって計算された補正計測値を格納する。
図22は、補正重み係数データベース25の一例を示す。補正重み係数データベース25は、センサが設けられているノード毎に、時刻と、センサIDと、電圧、電流、有効電力、無効電力の補正重み係数を対応づけたテーブルである。
【0066】
補正電圧電流分布推定部26は、補正計測値データベース23の補正計測値と、補正重み係数データベース25の補正重み係数と、重み係数データベース15の重み係数と、を用いて、電力系統の各ノートおよび各ブランチの電圧、電流、有効電力、無効電力を推定する。補正電圧電流分布推定部26の処理は、実施例1の電圧電流分布推定処理と同様である。但し、補正電圧電流分布推定部26は、計測値データベース12の計測値の代わりに補正計測値データベース23の補正計測値を使用して第一初期値の代わりに第三初期値を決定し、第三初期値を用いる潮流計算により第一推定値の代わりに第三推定値を算出する。また、補正電圧電流分布推定部26は、電圧、電流、有効電力、無効電力の重み係数として、重み係数データベース15の重み係数の代わりに補正重み係数データベース25の補正重み係数を使用し、負荷の重み係数として、重み係数データベース15の重み係数を使用し、最適化計算を行うことにより修正量を算出し、修正量によって第三初期値を修正することにより第二初期値の代わりに第四初期値を算出する。更に、補正電圧電流分布推定部26は、第四初期値を用いる潮流計算により、第二推定値の代わりに補正推定値を算出する。
【0067】
補正電圧電流分布データベース27は、補正電圧電流分布推定部26によって推定された電力系統の各ノートおよび各ブランチの電圧、電流、有効電力、無効電力の補正推定値を格納する。補正電圧電流分布データベース27の構成は、実施例1の電圧電流分布データベース18と同じである。
【0068】
本実施例によれば、定常誤差を用いて計測値を補正することにより補正計測値を算出し、ランダム誤差を用いて補正重み係数を算出し、補正計測値と補正重み係数を用いて状態推定を行うことで、電力系統の電圧、電流、有効電力、無効電力の分布の推定精度を高めることができる。定常誤差に基づいて計測値を補正し、補正された計測値を用いる潮流計算を行うことにより、状態推定の精度を向上させることができる。また、ランダム誤差に基づいて重み係数を補正し、補正された重み係数に基づいて初期値を修正し、修正された初期値を用いる潮流計算を行うことにより、状態推定の精度を向上させることができる。
【実施例3】
【0069】
本実施例では、実施例2の機能に加えて、定常誤差データベース20とランダム誤差データベース21を更新する機能を備えた状態推定装置の例を説明する。
【0070】
本実施例の電力系統システムは、実施例2の状態推定装置10bに代えて状態推定装置10bを有する。
図23は、実施例3の状態推定装置10cの構成を示す。状態推定装置10cは、状態推定装置10bの要素に加え、センサ個体誤差更新判定部28と、センサ個体誤差更新ログデータベース29、を含む。状態推定装置10cの要素のうち、状態推定装置10bの要素と同一の符号を付けた要素については、同一の機能を有するとして、その説明を省略する。
【0071】
センサ個体誤差更新判定部28は、補正計測値データベース23に格納される電圧、電流、有効電力、無効電力の補正計測値と、補正電圧電流分布データベース27に格納される電圧、電流、有効電力、無効電力の補正推定値、に基づいて、センサ個体誤差推定部19に定常誤差とランダム誤差を再計算させるトリガーを送るセンサ個体誤差更新判定処理を行う。また、センサ個体誤差更新判定部28は、センサ個体誤差更新ログデータベース29にセンサ個体誤差情報の更新を判定した時刻と更新の有無を対応づけたテーブルを格納する。
【0072】
図24は、センサ個体誤差更新判定処理を示す。センサ個体誤差更新判定部28は、センサ毎に、センサ個体誤差更新判定処理を実行する。
【0073】
ステップS31で、補正計測値データベース23から複数時間断面の電圧、電流、有効電力、無効電力の補正計測値を読込む。ここでの複数時間断面とは、前回のセンサ個体誤差更新判定処理の時間断面から、今回のセンサ個体誤差更新判定処理の時間断面までの計測期間を意味する。そして、複数時間断面の補正計測値とは、この計測期間に計測された計測値を補正した補正計測値を意味する。本実施例において、複数時間断面とは特に説明しない限りこの計測期間を意味する。
【0074】
ステップS32で、センサ個体誤差更新判定部28は、補正電圧電流分布データベース27から複数時間断面の電圧、電流、有効電力、無効電力の補正推定値を読込む。ステップS33で、センサ個体誤差更新判定部28は、電圧、電流、有効電力、無効電力の各々について時間断面毎の補正計測値と補正推定値の偏差を計算して補正偏差とする。
【0075】
ステップS34で、センサ個体誤差更新判定部28は、複数時間断面の補正偏差の平均値を計算する。以下、μV、μI、μP、μQはそれぞれ、電圧の補正偏差の平均値、電流の補正偏差の平均値、有効電力の補正偏差の平均値、無効電力の補正偏差の平均値を示す。
【0076】
ステップS35〜S38で、センサ個体誤差更新判定部28は、センサ個体誤差情報の更新の有無を判定する。ステップS35、S36、S37、S38ではそれぞれ、補正偏差の平均値μV、μI、μP、μQと予め定められた許容範囲を比較し、いずれかの平均値が許容範囲を逸脱していれば更新が必要と判定する。例えば、補正偏差の平均値の絶対値の許容値が予め設定され、センサ個体誤差更新判定部28は、μV、μI、μP、μQのいずれかの絶対値が許容値を超えている場合、更新が必要と判定する。
【0077】
図25は、或るセンサの電圧の補正偏差の分布の一例を示す。この図において横軸は電圧の補正偏差を表し、縦軸は頻度を表す。この例では、電圧の補正偏差の平均値μVは15V、許容範囲は±10Vであり、平均値μVは許容範囲を逸脱するため、センサ個体誤差情報の更新が必要と判定する。許容範囲の上下限の大きさを示す許容値は、電圧、電流、有効電力、無効電力のそれぞれについて、0から最大計測誤差までの範囲で予め設定しておく。許容値が0に近いほど、センサ個体誤差情報の推定値の精度は向上するが、センサ個体誤差情報の更新回数が増加する。そのため、許容値は、状態推定装置を運用しながら、更新回数が許容できる範囲で0に近い値に設定することが望ましい。
【0078】
ステップS35〜S38で補正偏差の平均値μV、μI、μP、μQのいずれかが許容範囲を逸脱した場合、ステップS39で、センサ個体誤差更新判定部28は、更新が必要であると判定し、センサ個体誤差情報を再計算させるトリガーをセンサ個体誤差推定部19へ送る。ステップS35〜S38で補正偏差の平均値μV、μI、μP、μQのいずれも許容範囲を逸脱していない場合、センサ個体誤差更新判定部28は、処理をステップS310へ移行させる。
【0079】
ステップS310で、センサ個体誤差更新判定部28は、センサ個体誤差更新判定処理を実施した時刻と判定結果(更新の有無)を対応づけたテーブルをセンサ個体誤差更新ログデータベース29に格納する。
図26は、センサ個体誤差更新ログデータベース29の一例を示す。センサ個体誤差更新ログデータベース29は、センサ個体誤差更新処理を実施した日付(年、月、日)および時刻と、センサ個体誤差情報の更新の有無を対応づけている。
【0080】
以上のセンサ個体誤差更新判定処理は、1カ月毎など一定期間毎のタイミングで開始することが望ましい。一定期間毎とする理由は、センサ個体誤差情報が経年劣化によって変化するためである。また、センサ個体誤差推定部18は、定期的にセンサ個体誤差情報を再計算しても良い。
【0081】
本実施例によれば、複数時間断面の補正計測値と複数時間断面の補正推定値を用いてセンサ個体誤差情報を再計算するタイミングを決定することが可能となる。これにより、センサ個体誤差情報の変化に応じて、センサ個体誤差情報を更新することができる。また、更新されたセンサ個体誤差情報を用いて状態推定を行うことにより、状態推定の精度を向上させることができる。
【実施例4】
【0082】
本実施例では、実施例2の構成に加えて、表示装置を設ける例を示す。
【0083】
本実施例の電力系統システムは、実施例2の状態推定装置10bに代えて状態推定装置10dを有し、更に表示装置400を有する。
図27は、実施例4の状態推定装置10dの構成を示す。状態推定装置10dは、状態推定装置10bの要素に加え、通信部30を含む。表示装置400は、通信ネットワーク300を介して通信部30に接続されている。状態推定装置10dの要素のうち、状態推定装置10bと同一の符号を付けた要素は、同一の機能を有するとして、説明を省略する。
【0084】
通信部30は、最大誤差データベース13の最大計測誤差、計測値データベース12の計測値、ランダム誤差データベース21のランダム誤差と、補正計測値データベース23の補正計測値、補正電圧電流分布データベース27の電圧、電流、有効電力、無効電力の分布の推定値とを、通信ネットワーク300を介して、状態推定装置10の外部の表示装置400に送る。なお表示装置400は、状態推定装置10に直接、接続されていても良い。
【0085】
表示装置400は、通信部30から通信ネットワーク300を介して送られたデータを画面に表示する。
図28は、表示画面の一例を示す。この表示画面は、電力系統100の電圧分布に関する表示である。表示画面の縦軸は電圧、横軸は電力系統の線路亘長を表す。円形の点511は計測値を表し、菱形の点512は補正計測値を表し、実線の曲線513は補正推定値を表し、破線のバー514は最大計測誤差の幅、実線のバー515はランダム誤差の幅を表す。
【0086】
本実施例によれば、表示装置400を設けることで、電力系統の運用者が、センサの計測値と、センサの補正計測値と、最大計測誤差と、ランダム誤差と、電圧、電流、有効電力、無効電力などの補正推定値のいずれかを表示画面から把握することができる。また、ノードの位置に対してこれらの分布を表示することにより、運用者は、電力系統100全体の状態を把握することができる。
【実施例5】
【0087】
本実施例では、実施例2の機能に加え、予め定められた複数の期間のそれぞれとセンサ個体誤差情報を対応づけて格納する機能を備えた状態推定装置の例を説明する。複数の期間のそれぞれは、所定の周期の一部であり、1年の中の季節、1週間の中の曜日、1日の中の時間帯などである。
【0088】
本実施例の状態推定装置10bの構成は、実施例2と同様であるが、定常誤差データベース20と、ランダム誤差データベース21の構成が異なる。
【0089】
図29は、実施例5のランダム誤差データベース21の一例を示す。本実施例のランダム誤差データベース21は、実施例2のランダム誤差データベース21に加え、推定に使用した計測値の期間を表す項目を含む。期間は、季節、曜日、時間帯などにより特定される。即ち、本実施例のランダム誤差データベース21は、季節、曜日、時間帯とランダム誤差を対応づけたテーブルである。センサの誤差の要因の一つである温度変化は、期間の長さにより、定常誤差として現れる場合とランダム誤差として現れる場合がある。
【0090】
本実施例の定常誤差データベース20も、実施例2の定常誤差データベース20に加え、期間を含む。定常誤差データベース20の構成は、ランダム誤差データベース21と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0091】
補正計測値演算部22は、対象とする複数時間断面に対応する期間の定常誤差を定常誤差データベース20から読込み、補正計測値を計算する。同様に、補正重み係数演算部24は、対象とする複数時間断面に対応する期間のランダム誤差をランダム誤差データベース21から読込み、補正重み係数を計算する。
【0092】
このように、定常誤差とランダム誤差を、時間帯別に把握することで、センサの構成機器の温度特性による定常誤差とランダム誤差の変化を把握でき、より高精度にセンサの定常誤差とランダム誤差を把握することができる。また、定常誤差とランダム誤差の精度が向上することにより、定常誤差とランダム誤差を使用する補正計測値演算部と補正重み係数演算部と補正電圧電流分布推定部の精度を向上させることができる。
【実施例6】
【0093】
本実施例では、実施例1の機能に加え、異常な傾向を示すセンサを特定する機能を備えた状態推定装置の例を説明する。
【0094】
本実施例の電力系統システムは、実施例1の状態推定装置10に代えて状態推定装置10fを有する。
図30は、実施例6の状態推定装置10fの構成を示す。状態推定装置10fは、状態推定装置10の要素に加え、センサ組合せ指定部31、センサ組合せデータベース32、異常センサ特定部33、異常センサデータベース34、を含む。状態推定装置10fの要素のうち、状態推定装置10の要素と同一の符号を付けた要素については、同一の機能を有するとして、その説明を省略する。
【0095】
センサ組合せ指定部31は、計測値データベース12の計測値を用いて、全てのセンサの中から、センサ個体誤差情報の算出に使用するセンサの組合せを指定するセンサ組合せ指定処理を行う。
【0096】
図31は、センサ組合せ指定処理を示す。
【0097】
ステップS41で、センサ組合せ指定部31は、計測値データベース12を読込む。具体的には、計測値データベース12から、センサIDと、電圧、電流、有効電力、無効電力の計測値を読込む。
【0098】
ステップS42で、センサ組合せ指定部31は、センサの組合せを決定する。具体的には、全てのセンサの中から、センサ個体誤差情報の算出に使用するセンサの組合せをセンサ組合せケースとして指定する。例えば、一つのセンサ組合せケースは、全てのセンサの中の一つのセンサを使用せず、他のセンサを使用する組み合わせである。
【0099】
センサ組合せデータベース32は、センサ組合せ指定部31でケース分けされたセンサの組合せを格納する。
図32は、センサ組合せデータベース32の一例を示す。センサ組合せデータベース32は、センサ組合せケース毎に、センサ組合せケースを示すセンサ組合せケース番号(No)、当該センサ組合せケースに含まれるセンサのセンサID、当該センサのセンサ使用の可否、の項目を含むテーブルである。センサ使用の可否の項目において、「可」はセンサの計測値を使用することを表し、「否」はセンサの計測値を使用しないことを表す。この例において、センサ組合せケース番号「1」では、センサID「130b」および「130c」のセンサの計測値を使用し、センサID「130a」のセンサの計測値を使用しないことを表す。
【0100】
センサ組合せ指定処理の後、センサ組合せケースに、電圧電流分布推定部17およびセンサ個体誤差推定部19は、計測値データベース12から、センサ組合せケースに対応したセンサの計測値を読み込み、その計測値を用いて、実施例1と同様の電圧電流分布推定処理およびセンサ個体誤差推定処理を行う。
【0101】
異常センサ特定部33は、定常誤差データベース20の定常誤差と、ランダム誤差データベース21のランダム誤差と、センサ組合せデータベース32のセンサ組合せケース毎の使用するセンサのセンサID、を用いて、異常な傾向を示すセンサを特定する異常センサ特定処理を行う。
【0102】
図33は、異常センサ特定処理を示す。
【0103】
ステップS51で、異常センサ特定部33は、センサ組合せデータベース32を読込む。具体的には、センサ組合せデータベース32から、センサ組合せケース番号順に、一つのセンサ組合せケースの、センサID、センサID毎のセンサ使用の可否、を読込む。ステップS52で、異常センサ特定部33は、最大誤差データベース13を読込む。具体的には、最大誤差データベース13内の使用するセンサの、電圧、電流、有効電力、無効電力の最大計測誤差を読込む。
【0104】
ステップS53で、異常センサ特定部33は、定常誤差データベース20を読込む。具体的には、定常誤差データベース20内の使用するセンサの、ノードと、センサIDと、定常誤差、を読込む。ステップS54で、異常センサ特定部33は、ランダム誤差データベース21を読込む。具体的には、ランダム誤差データベース21内の使用するセンサの、ノードと、センサIDと、ランダム誤差、を読込む。
【0105】
ステップS55で、異常センサ特定部33は、センサ毎に、電圧、電流、有効電力、無効電力の各々について、定常誤差とランダム誤差の合計値をセンサ個体誤差として計算する。
【0106】
ステップS56で、異常センサ特定部33は、センサ毎に、電圧、電流、有効電力、無効電力の各々について、センサ個体誤差と最大計測誤差を比較する。センサ個体誤差>最大計測誤差である場合、異常センサ特定部33は、対称のセンサ組合せケースの中に、異常な傾向を示すセンサが含まれると判定する。異常センサ特定部33は、センサ個体誤差の代わりに、定常誤差またはランダム誤差のどちらか一方を用いて判定しても良い。
【0107】
ステップS57で、異常センサ特定部33は、すべてのセンサ組合せケースに対してS51〜S56の処理を終了したか否かを判定する。すべてのセンサ組合せケースの処理が終了していない場合、異常センサ特定部33は、処理をS51へ移行させ、次のセンサ組合せケースの処理を行う。すべてのセンサ組合せケースの処理を終了した場合、ステップS58で、異常センサ特定部33は、すべてのセンサ組合せケースの異常センサの判定結果に基づいて、異常センサを特定する。
【0108】
例えば、前述のセンサ組合せデータベース32の例において、センサ組合せケース番号「1」で異常センサが含まれないと判定され、センサ組合せケース番号「2」、「3」で異常センサは含まれると判定された場合、異常センサ特定部33は、センサID「130a」を異常センサとして特定する。即ち、異常センサ特定部33は、異常センサが含まれないと判定されたセンサ組合せケースで使用されないセンサを、異常センサとして特定する。
【0109】
異常センサデータベース34は、異常センサ特定処理の結果を格納する。
図34は、異常センサデータベース34の一例を示す。異常センサデータベース34は、異常センサ特定部33によって特定された異常な傾向を示すセンサのセンサIDと、その判定時刻、を対応づけたテーブルである。
【0110】
本実施例によれば、センサ組合せケース毎にセンサ個体誤差を算出し、センサ個体誤差を判定することで、異常な傾向を示すセンサを特性することができる。
【実施例7】
【0111】
本実施例では、実施例1の機能に加えて、センサ個体の定常誤差とランダム誤差を用いて開閉器の入り切り状態を判定する機能を備えた状態推定装置の例を説明する。
【0112】
図35は、実施例7の電力系統システムの構成を示す。実施例1の電力系統システムと比較すると、本実施例の電力系統システムは、電力系統100に代えて電力系統100gを有し、状態推定装置10に代えて状態推定装置10gを有する。電力系統100gは、電力系統100と比較すると、センサ150の代わりに計測機能を備えた開閉器であるセンサ開閉器160を有する。状態推定装置10と比較すると、状態推定装置10gは、状態推定装置10の構成に加え、センサ開閉器入切判定部35を含む。実施例7の電力系統システムの要素のうち、実施例1の電力系統システムの要素と同一の符号を付けた要素については、同一の機能を有するとして、その説明を省略する。
【0113】
次に、センサ開閉器160の構成について説明する。
図36は、センサ開閉器160の構成を示す。センサ開閉器160は、センサ161および162と、開閉器163とを含む。センサ161および162は、送信装置164に接続されている。送信装置164は、通信ネットワーク200に接続されている。
【0114】
次に、センサ開閉器160の各構成について説明する。
【0115】
センサ161および162は、センサ150と同様の機能を有する。センサ161はセンサ開閉器160の変電所120側(S側)に設置されたセンサである。センサ162はセンサ開閉器160の末端側(L側)に設置されたセンサである。
【0116】
開閉器163は、センサ開閉器160に繋がれた配電線を接続または遮断する電力機器である。例えば、電力系統100g内のセンサ開閉器160cは、ブランチ150bと150cの間を接続または遮断する。また、本実施例では、センサ開閉器160に繋がれた配電線が接続されている状態を「入」と定義し、配電線が遮断されている状態を「切」と定義する。
【0117】
送信装置164は、センサ161および162の計測値を、通信ネットワーク200を介して状態推定装置10に送信する。
【0118】
次に、センサ開閉器入切判定部35について説明する。センサ開閉器入切判定部35は、計測値データベース12の計測値と、定常誤差データベース20の定常誤差と、ランダム誤差データベース21のランダム誤差を用いてセンサ開閉器160の入切状態を判定するセンサ開閉器入切判定処理を行う。
【0119】
図37は、センサ開閉器入切判定処理を示す。
【0120】
ステップS61で、センサ開閉器入切判定部35は、計測値データベース12からセンサ161(S側)および162(L側)の電圧計測値VS、VLを読込む。
図38は、実施例7の計測値の一例を示す。本実施例の計測値は、センサ開閉器160内のセンサ毎に、A、B、Cの三相の各相または各相間の電圧、電流、有効電力、無効電力と、計測時刻と、ノードと、センサ開閉器IDを対応づけたテーブルである。本実施例において、この三相の計測値は、計測値受信部11により、三相の平均値に変換され、計測値データベース12として格納される。
【0121】
ステップS62で、センサ開閉器入切判定部35は、定常誤差データベース20からセンサ161(S側)およびセンサ162(L側)の電圧の計測値の定常誤差μS、μLをそれぞれ読込む。
図39は、実施例7の定常誤差データベース20の一例を示す。本実施例の定常誤差データベース20は、センサ開閉器160内のセンサ毎に、電圧、電流、有効電力、無効電力の各々の定常誤差と、ノードIDと、センサ開閉器IDを対応づけたテーブルである。
【0122】
ステップS63で、センサ開閉器入切判定部35は、ランダム誤差データベース21からセンサ161(S側)およびセンサ162(L側)の電圧の計測値のランダム誤差σS、σLをそれぞれ読込む。
図40は、実施例7のランダム誤差データベース21の一例を示す。本実施例のランダム誤差データベース21は、センサ開閉器160内のセンサ毎に、電圧、電流、有効電力、無効電力の各々のランダム誤差の推定値と、ノードIDと、センサ開閉器IDを対応づけたテーブルである。
【0123】
ステップS64で、センサ開閉器入切判定部35は、センサ161(S側)およびセンサ162(L側)の電圧の計測値VS、VLを用いて式(19)のように計測電圧差ΔVSLを計算する。ここで計測電圧差ΔVSLは絶対値とする。
【0124】
【数19】
【0125】
ステップS65で、センサ開閉器入切判定部35は、センサ161(S側)およびセンサ162(L側)の電圧計測値の定常誤差μS、μLおよびランダム誤差σS、σLを用いて式(20)および式(21)のようにセンサ個体誤差εS、εLを計算する。
【0126】
【数20】
【数21】
【0127】
ステップS66で、センサ開閉器入切判定部35は、センサ161(S側)およびセンサ162(L側)のセンサ個体誤差εS、εLを用いて、式(22)のように電圧センサ個体差εSLを計算する。
【0128】
【数22】
【0129】
ステップS67で、センサ開閉器入切判定部35は、電圧計測差ΔVSLが電圧センサ個体差εSLより大きいか否かを判断する。判断の結果、電圧計測差ΔVSLが電圧センサ個体差εSLより大きい場合、センサ開閉器入切判定部35は、処理をステップS68に移行させる。小さい場合、センサ開閉器入切判定部35は、処理をステップS69に移行させる。
【0130】
ステップS68で、センサ開閉器入切判定部35は、センサ開閉器160が「入」状態であると判定する。ステップS69で、センサ開閉器入切判定部35は、センサ開閉器160が「切」状態であると判定する。ステップS68およびステップS69においてセンサ開閉器入切判定部35は、判定結果を電圧電流分布推定部17へ送る。
【0131】
センサ開閉器入切判定処理によれば、センサ開閉器160の入切状態を判定することができる。
【0132】
次に、本実施例の電圧電流分布推定処理について説明する。本実施例の電圧電流分布推定処理は、実施例1の電圧電流分布推定処理に、配電系統の構成を判断する処理を追加したものである。例えば、センサ開閉器入切判定部35が、センサ開閉器160a、160b、および160cのうち、センサ開閉器160aおよび160bを「入」、160cを「切」と判断した場合について説明する。
【0133】
この例において電圧電流分布推定部17は、変電所120を表すノード110aからセンサ開閉器160cが接続されるノード110eまでの各ノードとそれらを結ぶブランチ150aから150dまでの各ブランチを、電圧電流分布推定処理の対象となる配電系統と判断し、対象の配電系統について実施例1と同様の電圧電流分布推定処理を行う。
【0134】
本実施例によれば、センサ個体の定常誤差とランダム誤差の推定値に基づいて開閉器の入り切り状態を判定する機能を備えることで、配電系統の構成を判断し、状態推定の対象を決定することが可能となる。
【0135】
本発明の一態様を表す用語について説明する。記憶部は、計測値データベース12、最大誤差データベース13、設備データベース16、定常誤差データベース20、ランダム誤差データベース21、補正計測値データベース23、補正重み係数データベース25などに対応する。重み係数算出部は、重み係数演算部14などに対応する。推定値算出部は、電圧電流分布推定部17、補正電圧電流分布推定部26、補正計測値演算部22、補正重み係数演算部24などに対応する。個体誤差算出部は、センサ個体誤差推定部19、異常センサ特定部33などに対応する。表示制御部は、通信部30などに対応する。更新判定部は、センサ個体誤差更新判定部28などに対応する。開閉状態判定部は、センサ開閉器入切判定部35などに対応する。系統構成データは、設備データベース16などに対応する。開閉器は、センサ開閉器160、開閉器163などに対応する。
【0136】
本発明は、以上の実施例に限定されるものでなく、その趣旨から逸脱しない範囲で、他の様々な形に変更することができる。