特許第6144742号(P6144742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6144742
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】車両の風切音低減構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20170529BHJP
【FI】
   B62D25/08 G
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-192615(P2015-192615)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-65422(P2017-65422A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2016年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 直人
(72)【発明者】
【氏名】堂ヶ平 雄作
【審査官】 田合 弘幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−018840(JP,A)
【文献】 実開平06−060583(JP,U)
【文献】 実開昭61−082882(JP,U)
【文献】 実開昭59−114373(JP,U)
【文献】 実開昭58−139283(JP,U)
【文献】 特開2009−248773(JP,A)
【文献】 実開昭60−163174(JP,U)
【文献】 特開2015−083459(JP,A)
【文献】 実開昭61−205832(JP,U)
【文献】 米国特許第4152021(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B62D 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインボディの上方に設けられたフロントガラスと、前記メインボディから後方に向かって斜め上方に立ち上がるように設けられ前記フロントガラスの側縁を支持するフロントピラーと、前記フロントガラスの下方に設けられ車両の前進走行時に前記メインボディを構成するフロントフードの上部を流通した空気が流入する樋溝が形成されたカウルと、を備えた車両であって、
前記カウルの側端には、前記樋溝内に構成される樋空間に連続するとともに、前記メインボディの側面に開口を有し、前記樋空間を流通した空気が通過する空気流排出路が設けられ、
前記空気流排出路の開口は、前記メインボディに対する前記フロントピラーの立ち上がり開始部よりも下方に位置している
ことを特徴とする車両の風切音低減構造。
【請求項2】
前記空気流排出路の流路断面積は、前記樋空間の端部の断面積と同等以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の風切音低減構造。
【請求項3】
前記メインボディの側面には、前記空気流排出路の開口の上方に位置し、前記空気流排出路の開口から排出された空気を後方に案内する整流部材が設けられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の風切音低減構造。
【請求項4】
前記空気流排出路の開口は、前記メインボディを構成する、フロントフェンダ、前記フロントピラー、ドア、フロントフードのいずれかに形成されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両の風切音低減構造。
【請求項5】
メインボディの上方に設けられたフロントガラスと、前記メインボディから上方に延びるように設けられ前記フロントガラスの側縁を支持するフロントピラーと、前記フロントガラスの下方に設けられ車両の前進走行時に前記メインボディを構成するフロントフードの上部を流通した空気が流入する樋溝が形成されたカウルと、を備えた車両であって、
前記カウルの側端には、前記樋溝内に構成される樋空間に連続するとともに、前記メインボディの側面に開口を有し、前記樋空間を流通した空気が通過する空気流排出路が設けられている
ことを特徴とする車両の風切音低減構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントピラーの近傍で発生する風切音を抑制するための車両の風切音低減構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両は、車室の前面側の上部に設けられたフロントガラスと、フロントガラスの幅方向両側に設けられたフロントピラーと、を有している。フロントピラーは、下端側から上端側に向かってフロントガラスと共に後傾しており、後側にサイドウインドウが位置している。フロントガラスの下端にはボディの車幅方向に延びるカウルが設置されており、フロントガラスから流れ落ちた雨水の車外への排出や外気の車室への導入がこのカウルを介して行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
カウルは、フロントガラスとフロントフードとの間に配置されており、近年では箱状のカウルボックスに代わり樋状のカウルパネルが主流となっている。通常、カウルパネルは、樹脂射出成形によって製造されており、フロントガラスの直下にU字断面形状やV字断面形状の樋が形成され、その両端部がフロントフェンダの幅方向内側に位置している。なお、樋は、平面視におけるフロントガラス下端の湾曲に沿うように、中央から左右に向かうにしたがって後方に向かうように湾曲している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−127365号公報
【特許文献2】特開2000−280934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車の走行時には、エンジン音やタイヤ音、各種風切音等が乗員にとって騒音となり、乗員の快適性を損なう要因となっている。特にフロントピラーの近傍における風切音(以下、単に風切音と記す)は、運転席や助手席の乗員の頭部に近い部位で発生するため、自動車の快適性が損なわれる原因となる。風切音は、フロントガラスの前面に沿って流通してフロントピラーから後方に流れる空気によって発生する。つまり、フロントガラスの前面に沿って流れる空気は、フロントピラーの後縁で剥離した直後に車体中心側に回り込む縦渦となり、フロントピラーの側方を流れる空気と衝突することで風切音を発生させる。
【0006】
風切音の大きさは、フロントピラーから後方に流れる空気の量との間に正の相関を有する。前述したカウルパネルを備えた自動車では、フロントピラーの下部で空気の流量が大きくなるため、風切音が大きくなる。すなわち、フロントフードの前面に沿って流れる空気は、その一部がカウルパネルの樋空間に吹き込んだ後、後方に向けて湾曲した樋空間を幅方向に流れる。樋空間の幅方向両端に流れた空気は、フロントフェンダの幅方向内側面に衝突して上方に向きを変えてフロントフェンダを乗り越え、フロントガラスの前面に沿って幅方向に流通してフロントピラーの下部に流れ込む空気の流れと合流する。その結果、フロントピラーの下部の後縁で剥離する空気の流量が増大し、上述の縦渦が大きくなって風切音が大きくなる。
【0007】
本発明の目的とするところは、フロントピラーの近傍の空気の流れに対するカウルパネルの樋空間を流通した空気の流れの合流を抑制し、風切音の低減を図ることのできる車両の風切音低減構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するために、メインボディの上方に設けられたフロントガラスと、前記メインボディから後方に向かって斜め上方に立ち上がるように設けられ前記フロントガラスの側縁を支持するフロントピラーと、前記フロントガラスの下方に設けられ車両の前進走行時に前記メインボディを構成するフロントフードの上部を流通した空気が流入する樋溝が形成されたカウルと、を備えた車両であって、前記カウルの側端には、前記樋溝内に構成される樋空間に連続するとともに、前記メインボディの側面に開口を有し、前記樋空間を流通した空気が通過する空気流排出路が設けられ、前記空気流排出路の開口は、前記メインボディに対する前記フロントピラーの立ち上がり開始部よりも下方に位置している。
【0009】
これにより、カウルの樋空間を幅方向に流れる空気が、空気流排出路に導かれてメインボディに対するフロントピラーの立ち上がり開始部よりも下方から排出される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カウルの樋空間を幅方向に流れる空気を、空気流排出路に導いてメインボディに対するフロントピラーの立ち上がり開始部よりも下方から排出することができるので、フロントピラーの近傍の空気の流れに対するカウルの樋空間を流通した空気の流れの合流を抑制することができ、風切音を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態を示す自動車の全体斜視図である。
図2図1中A部の拡大平面図である。
図3図1中A部の拡大側面図である。
図4図2中のB−B拡大断面図である。
図5図3中のC−C拡大断面図である。
図6】実施形態の作用を示す要部平面図である。
図7】実施形態の作用を示す要部側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至図7は本発明の一実施形態を示すものである。
【0013】
本発明の風切音低減構造を備えた車両としての自動車1は、セダン型乗用車であり、図1に示すように、フロントフェンダ2、フロントフード3、フロントドア4、リヤドア5、リヤフェンダ6等を外殻とするメインボディ10を有している。メインボディ10からはフロントピラー11、センタピラー12およびリヤピラー13が上方に延設され、各ピラー11〜13の上端にルーフ14が支持されている。
【0014】
フロントピラー11やルーフ14には、車室の上部前面を画成するフロントガラス15の外縁が支持されている。フロントガラス15は全体が後傾した曲面形状を有しており、フロントピラー11はフロントガラス15の側端の傾斜に対応して後傾している。なお、フロントドア4およびリヤドア5にはそれぞれサイドガラス16,17が昇降自在に保持され、フロントドア4の上部にはドアミラー18が取り付けられている。
【0015】
フロントガラス15の下縁前方には、車幅方向に沿って樹脂射出成形品のカウルパネル20が装着されている。カウルパネル20は、雨中走行時にフロントフード3やフロントガラス15から流れてきた雨水を排出すべく、図4に示すように、円弧断面形状の樋溝21を有している。樋溝21は、フロントガラス15の下端側の湾曲に沿うように中央から左右に向かうに連れて後方に向かうように湾曲しており、フロントフード3の後方への延長線Lとの間に略半円断面の樋空間22を画成している。
【0016】
カウルパネル20には、図2に示すように、車室に外気を導入するための外気導入孔23が複数形成されるとともに、フロントフード3の下面に密着するラバーシール24が前端に装着されている。なお、カウルパネル20は、バルクヘッドに取り付けられた図示しないワイパ機構(ワイパモータやワイパーアーム)等を覆っている。
【0017】
フロントフェンダ2には、図3に示すように、前後に長い長円形の開口としての空気流排出孔31が形成されるとともに、空気流排出孔31の直上に前後に長い長方形の整流部材としての整流プレート32が設けられている。空気流排出孔31は、側方視で樋空間22と略同位置、すなわち、前後方向でフロントピラー11の基部の直前、上下方向でメインボディ10に対するフロントピラー11の立ち上がり開始部より下方に位置している。一方、整流プレート32は、前端が空気流排出孔31の前端と略同位置にあるが、後端は空気流排出孔31の後端よりも後方に延びている。なお、整流プレート32は、衝突時において容易に脱落するように、取付面に設けられた樹脂ピン(図示せず)によってフロントフェンダ2に取り付けられているが、フロントフェンダ2の裏面(内面)からスクリュー等によって締結されていてもよい。
【0018】
カウルパネル20の側端には、樋空間22とフロントフェンダ2の空気流排出孔31とを連通させるべく、樹脂射出成形品で筒状の空気流排出路としての空気流排出ダクト41が設置されている。空気流排出ダクト41は、内端(空気の導入側)41aが樋空間22に連続する略半円断面を有する一方、外端(空気の排出側)41bが空気流排出孔31に連続する長円断面を有している。空気流排出ダクト41は、その流路の断面積が樋空間22の断面積以上で、且つ、流路の形状が略一定となるように形成され、カウルパネル20の端部から真横に延びて側端部が空気流排出孔31に嵌め込まれている。
【0019】
以上のように構成された自動車1において、前進走行を行うと、フロントフード3の上部を流通する空気の大部分は、フロントガラス15からルーフ14やフロントピラー11を経由して後方に流れ、一部の空気がカウルパネル20の樋空間22に流入する。
【0020】
フロントガラス15の前面に沿って幅方向に流通してフロントピラー11の後縁まで流通した空気は、図6及び図7中に矢印で示すように、フロントピラー11の後縁で剥離した直後に車体中心側に回り込む縦渦となり、フロントピラー11の側方を流通する空気と衝突することで風切音を発生させる。
【0021】
一方、樋空間22に流入した空気は、図6及び図7に示すように、両端側が後方に向くように湾曲した樋溝21に沿って樋空間22内を幅方向の端部に向かって流通し、空気流排出ダクト41に導入された後、空気流排出ダクト41内を通過してフロントピラー11の立ち上がり開始部より下方に位置する空気流排出孔31から排出される。この際、空気流排出ダクト41は、流路の断面積が樋空間22の端部断面積以上で、且つ、流路の形状が略一定になっているため、樋空間22を流通した空気は抵抗をほぼ受けることなく空気流排出孔31に到達する。空気流排出孔31から排出された空気は、整流プレート32によって上方に位置するフロントピラー11側への流通が抑制され、フロントフェンダ2の側方を流れる空気とともに後方に流れる。これにより、カウルパネル20に流入した空気がフロントピラー11の近傍の空気の流れに合流し難くなり、縦渦が強められることに起因する風切音の増大が効果的に抑制される。
【0022】
このように、本実施形態の車両の風切音低減構造によれば、カウルパネル20の側端には、樋空間22に連続するとともに、フロントフェンダ2の側面に空気流排出孔31を有する空気流排出ダクト41が設けられ、空気流排出孔31は、メインボディ10に対するフロントピラー11の立ち上がり開始部よりも下方に位置している。
【0023】
これにより、カウルパネル20の樋空間22を幅方向に流れる空気を、空気流排出ダクト41に導いてフロントピラー11の立ち上がり開始部よりも下方から排出することができるので、フロントピラー11の下部における空気の流れに対するカウルパネル20の樋空間22を流通した空気の流れの合流を抑制することができ、風切音を低減することが可能となる。
【0024】
また、空気流排出ダクト41の流路断面積は、樋空間22の端部断面積と同等以上である。
【0025】
これにより、樋空間22を流通した空気を、抵抗をほぼ受けることなく空気流排出孔31に到達させることができるので、フロントピラー11の下部における空気の流れに対するカウルパネル20の樋空間22を流通した空気の流れの合流をより確実に抑制することが可能となる。
【0026】
また、メインボディ10の側面には、空気流排出孔31の上方に位置し、空気流排出孔31から排出された空気を後方に案内する整流プレート32が設けられている。
【0027】
これにより、整流プレート32によって空気流排出孔31から排出された空気の流れがフロントピラー11の近傍の空気の流れに合流することをより確実に抑制することができるので、風切音の増大を効果的に抑制することが可能となる。
【0028】
尚、本発明は前記実施形態に限られるものではなく、種々に変更実施可能である。例えば、前記実施形態は、本発明をセダン型乗用車に適用したものであるが、ワンボックス型自動車やミニバン型(いわゆる、1.5ボックス型)自動車、コンバーチブル型自動車等にも当然に適用可能である。また、空気流排出孔についても、上記実施形態で例示したフロントフェンダに限らず、ボディ構成や各部寸法の差違等に応じ、フロントピラーやフロントドア、フロントフードに設置するようにしてもよい。また、カウルパネルは、鋼板等のプレス成型品であってもよいし、逆3角断面の樋空間を画成するV字断面形状の樋溝を有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0029】
1…自動車、2…フロントフェンダ、3…フロントフード、10…メインボディ、11…フロントピラー、15…フロントガラス、20…カウルパネル、21…樋溝、22…樋空間、31…空気流排出孔、32…整流プレート、41…空気流排出ダクト。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7