【文献】
International Journal of Toxicology, 2007, Vol.26, p.373-380
【文献】
XI-LI WU,EFFECT OF ARTEMISININ 以下省略,CHINESE JOURNAL OF INTEGRATIVE MEDICINE,CHINESE ASSOCIATION OF TRADITIONAL 以下備考,2011年 4月21日,V17 N4,P277-282,AND WESTERN MEDICINE
【文献】
Acta. Biochim Biophys. Sin., 2010, Vol.42, p.916-923
【文献】
MIRSHAFIEY ABBAS,PHARMACEUTICAL BIOLOGY,2008年,V46 N9,P639-646
【文献】
International Immunopharmacology, 2006, Vol.6, p.1243-1250
【文献】
International Journal of Oncology, 2011, Vol.39, p.279-285
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記化合物は、アーテスネート(artesunate)、アーテミシニン(artemisinin)、アーテメター(artemether)、ジヒドロアーテミシニン(dihydroartemisinin)、アルテリン酸(artelinic acid)およびアルテモチル(artemotil)からなる群より選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の治療剤。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態では、化学式Iに記載の化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルにおいて、R
1およびR
2は、独立して、Hまたは置換されてもよい炭素数1〜10のアルキルであり、R
3およびR
4は結合してカルボニル(=O)基を形成する;または、R
1およびR
2は、独立して、Hまたは置換されてもよい炭素数1〜10のアルキルであり、R
3はHであり、かつR
4はHまたは−OR
5であり、この際R
5はHまたはアルキル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキルおよびヘテロアリールアルキルから選択される置換されてもよい基である。
【0022】
本発明の他の実施形態では、化学式Iに記載の化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルにおいて、R
1およびR
2は、独立して、Hまたは置換されてもよい炭素数1〜10のアルキルであり、R
3およびR
4は結合してカルボニル(=O)基を形成する。
【0023】
本発明の他の実施形態では、化学式Iに記載の化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルにおいて、R
1およびR
2は、独立して、Hまたは置換されてもよい炭素数1〜10のアルキルであり、R
3はHであり、かつR
4はHまたは−OR
5であり、この際R
5はHまたはアルキル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキルおよびヘテロアリールアルキルから選択される置換されてもよい基である。
【0024】
本発明のさらなる実施形態では、化学式Iに記載の化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルにおいて、R
1およびR
2は、独立して、Hまたは置換されてもよい炭素数1〜3のアルキルであり、R
3およびR
4は結合してカルボニル(=O)基を形成する;または、R
1およびR
2は、独立して、Hまたは置換されてもよい炭素数1〜3のアルキルであり、R
3はHであり、かつR
4はHまたは−OR
5であり、この際R
5はHまたはアルキル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキルおよびヘテロアリールアルキルから選択される置換されてもよい基である。
【0025】
本発明のさらなる実施形態では、化学式Iに記載の化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルにおいて、R
1およびR
2は、独立して、Hまたは置換されてもよいメチルであり、R
3およびR
4は結合してカルボニル(=O)基を形成する;または、R
1およびR
2は、独立して、Hまたは置換されてもよいメチルであり、R
3はHであり、かつR
4はHまたは−OR
5であり、この際R
5はHまたはアルキル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキルおよびヘテロアリールアルキルから選択される置換されてもよい基である。
【0026】
本発明のさらなる実施形態では、化学式Iに記載の化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルにおいて、R
1およびR
2は、共に独立して、メチル(−CH
3)であり、R
3およびR
4は結合してカルボニル(=O)基を形成する;または、R
1およびR
2は共にメチル基であり、R
3はHであり、かつR
4はHまたは−OR
5であり、この際R
5はHまたはアルキル、ヘテロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アリールアルキルおよびヘテロアリールアルキルから選択される置換されてもよい基である。
【0027】
本発明のさらなる実施形態では、化学式Iに記載の化合物において、R
1およびR
2は共に置換されてもよいメチルであり、R
3およびR
4は結合してカルボニル(=O)基を形成する;または、R
1およびR
2は共にメチル基であり、R
3はHであり、かつR
4はHまたは−OR
5であり、この際R
5はH、−CH
3、−CH
2CH
3、−CO(CH
2)
2COOHおよび−CH
2C
6H
4COOHからなる群より選択される。
【0028】
ある実施形態では、R
5はH、アルキルまたはアリールアルキルであり、前記アルキルおよび/またはアリールアルキルは、1つ以上のハロ(halo)、=O、COOR
6、OR
6およびOCOR
6で置換されてもよく、この際R
6はHまたは炭素数1〜6のアルキルである。たとえば、本発明の一実施形態では、化学式Iに記載の化合物において、R
1およびR
2は共にメチルであり、R
3およびR
4は結合してカルボニル(=O)基を形成する;または、R
1およびR
2は共にメチルであり、R
3はHであり、かつR
4は−OR
5であり、この際R
5はH、アルキルまたはアリールアルキルであり、前記アルキルおよび/またはアリールアルキルは、1つ以上のハロ(halo)、=O、COOR
6、OR
6およびOCOR
6で置換されてもよく、この際R
6はHまたは炭素数1〜6のアルキルである。
【0029】
本発明のある実施形態では、R
5はH、−CH
3、−CH
2CH
3、−CO(CH
2)
2COOHおよび−CH
2C
6H
4COOHからなる群より選択されてもよい。
【0030】
ある実施形態では、R
5はカルボキシルを有し、化学式Iの化合物はカルボン酸塩またはエステルとして任意に用いられる。ある実施形態では、前記エステルは炭素数1〜6のアルキルエステルのような単純なアルキルエステルであり、この際炭素数1〜6のアルキルは1つ以上のハロ(halo)、ヒドロキシルまたは炭素数1〜4のアルコキシ基で置換されてもよい。化学式Iの化合物がエステルであるとき、メチル、エチル、プロピルもしくはブチルエステル、または2−メトキシエチルエステルもしくはエチレングリコールエステルであってもよい。
【0031】
ここで用いられるように、「アルキル」、「アルケニル」および「アルキニル」との語は、直鎖、分岐鎖および環状である一価のヒドロカルビルラジカル、ならびにこれらの組み合わせを含み、非置換の場合はCおよびHのみを含む。例としては、メチル、エチル、イソブチル、シクロヘキシル、シクロペンチルエチル、2−プロペニル、3−ブチニルなどが挙げられる。かような各基における炭素原子の合計数をここで記載することもあり、たとえば、基が炭素原子を10個まで含む場合は、炭素数1〜10と表す。たとえば、ヘテロ基において炭素原子がヘテロ原子(たとえば、N、O、S)に置換される場合、基を記載する数は、たとえば炭素数1〜6として依然書かれるとしても、基中の炭素原子の数と、記載される環または鎖において炭素原子の置換として含まれるかようなヘテロ原子の数とを足した合計を表す。
【0032】
ある実施形態では、本発明のアルキル、アルケニルおよびアルキニル基は、炭素数1〜10(アルキル)または炭素数2〜10(アルケニルもしくはアルキニル)である。あるいは、これらは、炭素数1〜8(アルキル)または炭素数2〜8(アルケニルもしくはアルキニル)である。あるいは、これらは、炭素数1〜4(アルキル)または炭素数2〜4(アルケニルもしくはアルキニル)であることもある。1つの基は、2種類以上の多重結合または2つ以上の多重結合を有することができる;かような基は、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有するときは「アルケニル」との語の定義内に含まれ、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を有するときは「アルキニル」との語の定義内に含まれる。
【0033】
アルキル、アルケニルまたはアルキニル基の典型的な任意の置換基は、ハロ(halo)、=O、=N−CN、=N−OR、=NR、OR、NR
2、SR、SO
2R、SO
2NR
2、NRSO
2R、NRCONR
2、NRCOOR、NRCOR、CN、COOR、CONR
2、OCOR、CORおよびNO
2を含むが、これらに制限されない。この際各Rは、独立して、H、炭素数1〜8のアルキル、炭素数2〜8のヘテロアルキル、炭素数1〜8のアシル、炭素数2〜8のヘテロアシル、炭素数2〜8のアルケニル、炭素数2〜8のヘテロアルケニル、炭素数2〜8のアルキニル、炭素数2〜8のヘテロアルキニル、炭素数6〜10のアリールまたは炭素数5〜10のヘテロアリールであり、各Rはハロ(halo)、=O、=N−CN、=N−OR’、=NR’、OR’、NR’
2、SR’、SO
2R’、SO
2NR’
2、NR’SO
2R’、NR’CONR’
2、NR’COOR’、NR’COR’、CN、COOR’、CONR’
2、OOCR’、COR’およびNO
2で置換されてもよい。この際各R’は、独立して、H、炭素数1〜8のアルキル、炭素数2〜8のヘテロアルキル、炭素数1〜8のアシル、炭素数2〜8のヘテロアシル、炭素数6〜10のアリールまたは炭素数5〜10のヘテロアリールである。アルキル、アルケニルおよびアルキニル基は、炭素数1〜8のアシル、炭素数2〜8のヘテロアシル、炭素数6〜10のアリールまたは炭素数5〜10のヘテロアリールで置換されてもよい。ある実施形態では、アルキル、アルケニルまたはアルキニル基は、1つ以上のハロ(halo)、=O、COOR
6、OR
6およびOCOR
6で置換され、この際R
6はHまたは炭素数1〜6のアルキルである。
【0034】
ここで用いられる「アルキル」は、シクロアルキルおよびシクロアルキルアルキル基を含むが、「シクロアルキル」との語は、環炭素原子を介して連結する炭素環式非芳香族基を示すのに用いられてもよく(すなわち、分子に連結するその開殻価電子(open valence)が環炭素上にある)、「シクロアルキルアルキル」との語は、アルキレンリンカーを通じて分子に連結する炭素環式非芳香族基を示すのに用いられてもよい。同様に、「ヘテロシクリル」は、環員としてヘテロ原子を少なくとも1つ有し、CまたはNのような環原子を介して分子に連結する非芳香族環基を示すのに用いられうる;また、「ヘテロシクリルアルキル」は、リンカーを通じて他の分子に連結されるかような基を示すのに用いられうる。シクロアルキル、シクロアルキルアルキル、ヘテロシクリルおよびヘテロシクリルアルキル基に適切な大きさや置換基は、上記アルキル基で述べたものと同様である。ここで用いられるものとして、これらの語は、環が芳香族でない限り、1つまたは2つの二重結合を有する環も含む。
【0035】
ここで用いられるものとして、「アシル」は、カルボニル炭素原子(−C(O)−)の2つの開殻価電子のうち1つと結合しているアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルラジカルを有する基を包含し、ヘテロアシルは、カルボニル炭素以外の少なくとも1つの炭素が、(たとえばN、OおよびSから選択される)ヘテロ原子によって置換された対応する基を意味する。カルボニルの他方の開殻価電子は、ベースの分子にアシル基またはヘテロアシル基を連結することができる。ゆえに、ヘテロアシルは、−C(=O)−ヘテロアリールだけでなく、たとえば−C(=O)ORや−C(=O)NR
2を含む。
【0036】
アシルおよびヘテロアシル基は、カルボニル炭素原子の開殻価電子を通じて接続されたいかなる基または分子にも結合される。ある実施形態では、これらはホルミル、アセチル、ピバロイルおよびベンゾイルを含む炭素数1〜8のアシル基、ならびにメトキシアセチル、エトキシカルボニルおよび4−ピリジノイルを含む炭素数2〜8のヘテロアシル基である。ヒドロカルビル基、アリール基およびアシルまたはヘテロアシル基を含むかような基のヘテロ体は、アシルまたはヘテロアシル基の各対応成分に対して一般的に適した置換基としてここに示される置換基で置換されてもよい。
【0037】
「芳香族」部分または「アリール」部分は、公知の芳香族特性を有する単環式または融合二環式の部分を意味する;たとえば、フェニルおよびナフチルを含む。同様に、「ヘテロ芳香族」および「ヘテロアリール」は、環員として(たとえばO、S、Nから選択される)ヘテロ原子を1つ以上含むかような単環式または融合二環式系を意味する。6員環だけでなく5員環では、ヘテロ原子を含有しても芳香族性は許容される。典型的なヘテロ芳香族系は、ピリジル、ピリミジル、ピラジニル、チエニル、フラニル、ピロリル、ピラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イミダゾリルなどの単環式の炭素数5〜6の芳香族基、およびインドリル、ベンゾイミダゾリル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル、イソキノリル、キノリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾフラニル、ピラゾロピリジル、キナゾリニル、キノザリニル、シンノリニルなどの炭素数8〜10の二環基を形成するために、上記の単環基のうち1つとフェニル環または任意のヘテロ芳香族単環基とが融合して形成される融合二環式の部分を含む。環系全体の電子分布に関して芳香族的性質を有するいかなる単環系または融合環二環系もこの定義に含まれる。この定義は、分子残基に直接接続する少なくとも1つの環が芳香族的性質を有する二環基も含む。ある実施形態では、環系は5〜12の環員原子を含む。ある実施形態では、単環式ヘテロアリールは5〜6の環員を含み、二環式ヘテロアリールは8〜10の環員を含む。
【0038】
アリールおよびヘテロアリール部分は、炭素数1〜8のアルキル、炭素数2〜8のアルケニル、炭素数2〜8のアルキニル、炭素数5〜12のアリール、炭素数1〜8のアシルおよびこれらのヘテロ体を含む種々の置換基で置換されてもよく、各置換基自身もさらに置換されてもよい;アリールおよびヘテロアリール部分の他の置換基は、ハロ(halo)、OR、NR
2、SR、SO
2R、SO
2NR
2、NRSO
2R、NRCONR
2、NRCOOR、NRCOR、CN、COOR、CONR
2、OCOR、CORおよびNO
2を含み、この際各Rは、独立して、H、炭素数1〜8のアルキル、炭素数2〜8のアルケニル、炭素数2〜8のアルキニル、炭素数6〜10のアリール、炭素数5〜10のヘテロアリール、炭素数7〜12のアリールアルキルまたは炭素数6〜12のヘテロアリールアルキルであり、各Rは上記アルキル基で述べたように置換されてもよい。ある実施形態では、これらは1つ以上のハロ(halo)、=O、COOR
6、OR
6およびOCOR
6で置換され、この際R
6はHまたは炭素数1〜6のアルキルである。アリールまたはヘテロアリール基上の置換基は、当然に、かような置換基の各タイプまたは置換基の各構成要素に適するとここで示される基でさらに置換されてもよい。よって、たとえば、アリールアルキル置換基は、アリール部分上でアリール基にとって典型的であるとここで示される置換基で置換されてもよいし、アルキル部分上でアルキル基にとって典型的または適するとここで示される置換基で置換されてもよい。
【0039】
同様に、「アリールアルキル」および「ヘテロアリールアルキル」は、置換または非置換、飽和または不飽和、環式または非環式のリンカーを含む、アルキレンなどの連結基を通じて、これらの結合点に結合する芳香族およびヘテロ芳香族の環系を意味する。リンカーは炭素数1〜8のアルキルまたはこれらのヘテロ体でもよい。これらのリンカーはカルボニル基を有してもよく、ゆえにアシルまたはヘテロアシル部分として置換基を提供することが可能となる。アリールアルキル基中のアリールまたはヘテロアリール環は、上記アリール基で述べたものと同じ置換基で置換されていてもよい。アリールアルキル基は、上記アリール基で定義した基で置換されてもよいフェニル環と、非置換または1つもしくは2つの炭素数1〜4のアルキル基で置換された炭素数1〜4のアルキレンとを含んでもよい。この際、アルキル基は、任意に環を巻いてシクロプロパン、ジオキソラン、オキサシクロペンタンなどの環を形成してもよい。同様に、ヘテロアリールアルキル基は、アリール基上の典型的な置換基として上述した基で置換されてもよい炭素数5〜6の単環式ヘテロアリール基と、非置換または1つもしくは2つの炭素数1〜4のアルキル基で置換されている炭素数1〜4のアルキレンとを含んでもよい。または、ヘテロアリールアルキル基は、置換されてもよいフェニル環もしくは炭素数5〜6の単環式ヘテロアリールと、非置換または1つもしくは2つの炭素数1〜4のアルキル基で置換された炭素数1〜4のヘテロアルキレンとを含んでもよい。この際、アルキル基は、任意に環を巻いてシクロプロパン、ジオキソランまたはオキサシクロペンタンのような環を形成してもよい。
【0040】
アリールアルキル基が置換されてもよいと記載されるとき、基のアルキル部分またはアリールもしくはヘテロアリール部分のいずれかに置換基があればよい。アルキル部分上に存在してもよい置換基は、一般的には上記アルキル基で述べたものと同じである;アリールまたはヘテロアリール部分上に存在してもよい置換基は、一般的には上記アリール基で述べたものと同じである。ある実施形態では、アリールアルキルまたはヘテロアリールアルキルは、1つ以上のハロ(halo)、=O、COOR
6、OR
6およびOCOR
6で置換され、この際R
6はHまたは炭素数1〜6のアルキルで置換されている。
【0041】
ここで用いられる「アリールアルキル」基は、置換されていない場合はヒドロカルビル基であり、環およびアルキレンもしくは同様のリンカー中の炭素原子の合計数により記載される。よって、ベンジル基は炭素数7のアリールアルキル基であり、フェニルエチルは炭素数8のアリールアルキルである。
【0042】
ここで用いられる「アルキレン」は、二価のヒドロカルビル基を意味する;これは二価なので、2つの他の基に同時に連結できる。アルキレンは−(CH
2)
n−を意味し、この際、nは1〜8であり、好ましくはnは1〜4であり、特定された場合にかかわらす、アルキレンはその他の基で置換されてもよく、その他の長さでもよい。アルキレンの開殻価電子は鎖の反対側の末端にある必要はない。よって、シクロプロパン−1,1−ジイルが環状基であるように、−CH(Me)−および−C(Me)
2−も「アルキレン」の語の範囲内に含まれる。アルキレン基が置換されている場合、置換基はここで述べるようなアルキル基上に典型的に存在するものも含む。
【0043】
一般的に、アルキル、アルケニル、アルキニル、アシルもしくはアリールもしくはアリールアルキル基、または置換基に含まれるこれらの基のいずれかのヘテロ体は、これら自身がさらなる置換基によって置換されていてもよい。置換基について特記しない限り、これらの置換基の性質は、基本の置換基自身に関して列挙したものと類似している。よって、たとえば、R’の実施形態がアルキルの場合、R’が化学的な道理にかない、アルキルに本来課されるサイズ制限を損なわないときは、このアルキルはR’の実施形態で列挙されている残りの置換基で置換されてもよい;たとえば、アルキルまたはアルキニルで置換されたアルキルは、これらの実施形態について炭素原子の上限を単純に拡張しうる。しかしながら、アリール、アミノ、アルコキシ、=Oなどで置換されたアルキルは本発明の範囲内に含まれ、これらの置換基の原子は、示されているアルキル、アルケニルなどの基を記載するのに用いられる数にはカウントされない。置換基の数が特定されない場合、かようなアルキル、アルケニル、アルキニル、アシルまたはアリール各基は、開殻価電子に準じた置換基の数で置換されてもよい;特に、これらの基のいずれも、たとえば開殻価電子のいずれかまたは全てがフッ素原子で置換されてもよい。
【0044】
ここで用いられる「置換されてもよい」とは、特定の基または記載されている基が非水素置換基を有しないこと、または基もしくは基が1つ以上の非水素置換基を有することを指す。特記しない限り、存在しうるかような置換基の合計数は、記載されている基の非置換体上に存在する水素原子の数と等しく、ある実施形態では、基上に許容される置換基の数は基中の炭素原子の数と等しい。カルボニル酸素(=O)のように、任意の置換基が二重結合を介して接続する場合、基は2つの開殻価電子を占有し、含まれうる他の置換基の合計数は他の開殻価電子の数に応じて減少する。
【0045】
ここで用いられる「ハロ(halo)」は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を含む。「ヘテロ」原子は、窒素、酸素、硫黄、リン、ホウ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群より選択される。好ましくは、ヘテロ原子は窒素、酸素および硫黄からなる群より選択される。
【0046】
化学式Iで記載される典型的な化合物は、アーテスネート(artesunate)、アーテミシニン(artemisinin)、アーテメター(artemether)、ジヒドロアーテミシニン(dihydroartemisinin)(DHAまたはアルテニモル(artenimol)としても知られ、アーテスネートのプロドラッグの活性代謝産物であり、経口投与されうる)、アルテリン酸(artelinic acid)およびアルテモチル(artemotil)(アーテエター(arteether)としても知られる)である。化合物は、(R
3およびR
4の立体異性に関して)α体、β体のいずれでもよい。
【0049】
アーテミシニンの体系的(国際純正応用化学連合、IUPAC)名称は、(3R,5aS,6R,8aS,9R,12S,12aR)−オクタヒドロ−3,6,9−トリメチル−3,12−エポキシ−12H−ピラノ[4,3−j]−1,2−ベンゾジオキセピン−10(3H)−オンである。ジヒドロアーテミシニンの体系的(IUPAC)名称は、(3R,5aS,6R,8aS,9R,12S,12aR)−デカヒドロ−3,6,9−トリメチル−3,12−エポキシ−12H−ピラノ[4,3−j]−1,2−ベンゾジオキセピン−10−オールである。アルテリン酸の体系的(IUPAC)名称は、4−[(3R,5aS,6R,8aS,9R,10S,12R,12aR)−デカヒドロ−3,6,9−トリメチル−3,12−エポキシ−12H−ピラノ[4,3−j]−1,2−ベンゾジオキセピン−10−イル]オキシ]メチル安息香酸である。簡潔にするため、「化学式Iの化合物」の意味は、(アーテスネート、アーテミシニン、アーテメター、ジヒドロアーテミシニン、アルテリン酸およびアルテモチルなどの)ここで開示されている特定の化合物を含む、上記の好ましい狭義の定義を含む。
【0050】
したがって、本発明の一実施形態では、腎臓病の治療(特に、CKDの治療だけでなくAKIの治療)に用いられる、アーテミシニンもしくはその誘導体またはその製薬上許容される塩もしくはエステルが提供される。一実施形態では、アーテミシニン誘導体は、アーテスネート、アーテメター、ジヒドロアーテミシニン、アルテリン酸およびアルテモチルからなる群より選択される。
【0051】
本発明の一実施形態では、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルは、腎臓病の治療で用いるために提供されてもよい。
【0052】
本発明で用いられる化合物は、当業者にとって公知のいかなる適した方法によっても得ることができる。たとえば、Roらは、人工酵母における抗マラリア前駆体であるアーテミシニン酸の合成を開示している(Ro et al.(2006),Nature,440(7086):940−3)。Van Herpenらは、アーテミシニン酸の合成に用いられるベンサミアナタバコ(Nicotinia benthamiana)の人工体を開示している(Van Herpen et al.(2010),PLoS One,5(12):e14222)。あるいは、たとえばKohlerらが開示しているように、植物であるクソニンジン(Artemisia annua L)(チンハオス)から、当業者にとって公知のいかなる適した方法によってもアーテミシニンは得られうる(Kohler et al,(1997),J Chromatogr A,785(1−2):353−60)。また、米国特許出願公開第2008/0139642号明細書でも、アーテミシニン誘導体の合成が開示されている。
【0053】
アーテスネートは、ジヒドロアーテミシニン(DHA、アーテミシニン化合物の活性代謝産物)から、これを塩基性媒体中でコハク酸無水物と反応させることによっても合成できる。塩基/溶媒としてピリジン、重炭酸ナトリウムのクロロホルム溶液、触媒DMAP(N,N−ジメチルアミノピリジン)およびトリエチルアミンの1,2−ジクロロエタン溶液が用いられ、収率は100%に達する。大量製造は、ジクロロメタン中で、ピリジン、触媒量のDMAPおよびコハク酸無水物の混合物でDHAを処理することに関連する。アーテスネートを定量的収率で得るため、ジクロロメタン混合物を6〜9時間撹拌する。生成物はさらにジクロロメタンで再結晶する。通常、α−アーテスネートが形成される(融点135〜137℃)。
【0054】
アーテミシニンおよびその誘導体を得るための他の方法は、当業者にとっても明らかである。ジヒドロアーテミシニンのようなアーテミシニンおよびその誘導体は、シグマアルドリッチ(Poole,Dorset,英国)のような供給元から入手できる。
【0055】
本発明の実施形態では、化学式Iの化合物またはこれらの塩もしくは誘導体は、1つ以上の薬学的に活性な薬剤と組み合わせて投与されてもよい。
【0056】
本発明の第2の態様では、腎臓病の治療に使用される、化学式Iの化合物またはその塩もしくはエステル誘導体と、製薬上許容される賦形剤とを含有する薬剤組成物が提供される。本発明のこの態様は、腎臓病の治療に使用される、アーテミシニンまたはその誘導体およびそのエステルと、製薬上許容される賦形剤とを含有する薬剤組成物にまで及ぶ。また、本発明のこの態様は、腎臓病の治療を必要とする患者に本発明の薬剤組成物を投与することによる、腎臓病の治療方法にまで及ぶ。
【0057】
製薬上許容される賦形剤は、結合剤、充填剤、コーティング、崩壊剤、可溶化剤および溶媒を含む。
【0058】
化学式Iの化合物は、製薬上許容される塩の形で存在してもよく、例としては、塩酸塩(HCl)、メシル酸塩、マレイン酸塩、塩化物、臭化物、クエン酸塩、酒石酸塩、硫酸塩、リン酸塩が挙げられ、任意の好ましいカチオン(ナトリウム、カルシウム、ベンザチン、マグネシウム、アンモニア、亜鉛、カリウムなど)を含む。化学式Iの化合物の多くは、カルボン酸基を含んでもよい;かような化合物については、カルボン酸を脱プロトン化してカルボン酸塩を形成することにより、塩を形成することができる。
【0059】
薬剤組成物は、1つ以上のさらなる薬学的に活性な薬剤を含んでもよい。
【0060】
薬剤組成物は、当業者にとって好ましいと考えられるいかなる経路で投与のために適応されてもよい。たとえば、薬剤組成物は(口腔または舌下などの)経口、非経口、静脈内、筋肉内、くも膜下もしくは腹腔内投与、または吸入による投与に適応されてもよい。かような組成物は、製薬分野において公知のいかなる方法により(たとえば、無菌条件下で有効成分とキャリアまたは賦形剤とを混合させることにより)調製されてもよい。
【0061】
経口投与に適応される薬剤組成物は、カプセルまたは錠剤;粉末または顆粒;溶液、シロップまたは懸濁液(水溶液もしくは非水溶液;または可食性の泡もしくはホイップ;またはエマルション)などのように不連続単位として存在してもよい。ジヒドロアーテミシニン(DHA)は脂溶性であるため、経口投与に特に有用でありうる。
【0062】
錠剤または硬ゼラチンカプセルに好適な賦形剤は、ラクトース、トウモロコシデンプンまたはその誘導体、ステアリン酸またはその誘導体などである。柔カプセル剤と共に使用される好適な賦形剤は、たとえば植物油、ワックス、脂、半固体または液体ポリオールなどである。
【0063】
溶液およびシロップの調製において使用されうる賦形剤は、たとえば水、ポリオール、糖などである。懸濁液の調製においては、水中油型または油中水型懸濁液を提供するために、油(たとえば植物油)が用いられる。
【0064】
吸入による投与に適応される薬剤組成物は、定量加圧エアロゾル、噴霧器または吸入器の各種の方法によって生成される微粒子のダストやミストなどである。
【0065】
非経口投与に適用される薬剤組成物は、対象患者の血液と実質的に等張な製剤を与える抗酸化剤、緩衝液、静菌薬、溶質を含む水性または非水性の無菌注射液;および懸濁剤、増粘剤を含む水性および非水性の無菌懸濁液などである。注射可能な溶液に使用されうる賦形剤は、たとえば、水、アルコール、ポリオール、グリセリン、植物油などである。組成物は、一回服用または複数回服用のコンテナ(たとえば密封されたアンプルやバイアル)中に存在してもよく、使用直前に無菌液体(たとえば注射用水)の添加のみ要される凍結乾燥状態で保管されてもよい。即席の注射溶液および懸濁液は、無菌の粉末、顆粒および錠剤から調製されてもよい。
【0066】
薬剤組成物は、防腐剤、可溶化剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料、着色剤、着臭剤、塩(本発明の物質はこれら自身が製薬上許容される塩の形で提供されてもよい)、緩衝液、コーティング剤または抗酸化剤を含有してもよい。薬剤組成物は、本発明の物質に加えて治療有効成分を含有してもよい。
【0067】
かような組成物は、人間向けまたは獣医学向けに製剤化されてもよい。文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除き、本出願は、動物だけでなく人間に対して等しく適用されるとして解釈されるべきである。
【0068】
化学式Iの化合物を含有する本発明の任意の組成物を調製する際、化学式Iの化合物の溶解性を向上させるために、当業者はいかなる必要な手順を踏んでもよい。たとえば、Ansari et al.(2009),Arch Pharm Res Vol.,32(1):155−65で記載されているように、化学式Iの化合物はシクロデキストリン包接錯体などの包接錯体の形で存在してもよい。したがって、化学式Iの化合物は、包接錯体(たとえばシクロデキストリン包接錯体またはヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン錯体)の形で存在してもよい。溶解性向上のためのその他の技術、たとえば(ラウリル硫酸ナトリウムなどの)界面活性剤や(エタノールまたはDMSOなどの)共溶媒の使用は、当業者にとって明らかである。
【0069】
本発明の薬剤組成物の用量は幅広い範囲内で変えることができ、治療する疾患または障害、治療を受ける個人の年齢および状態などに依存し、最終的には医師が適切な使用量を決定するであろう。たとえば、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルは、0.1〜50mg/kg、0.1〜30mg/kg、0.1〜3mg/kgまたは0.3〜3mg/kgの量で投与されてもよい。ある実施形態では、アーテスネートは50、30、25、20、15、10、5または1mg/kg以下の量で投与される。化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルは、一度にこれらの用量を投与されてもよい。あるいは、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルは、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、1日5回投与されてもよく、この際、各ボーラス投与量は上記の用量より(むしろ1日の累積用量より)少ないことが好ましい。ある実施形態では、1日3回または1日2回または1日1回のみより多く、化合物は投与されない。ある実施形態では、少なくとも6時間おいて、好ましくは少なくとも12時間おいて用量は与えられる。化合物はボーラス投与として投与されてもよく、あるいは当業者により適切と考えられる期間にわたって(たとえば点滴により)投与されてもよい。ある実施形態では、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルは、単回ボーラス投与用量、または1日1回、1日2回、1日3回もしくはそれ以上として、0.1〜5mg/kg(または0.1〜3mg/kg)の量で投与されてもよい。
【0070】
重要なことに、本発明者らは驚くべきことに、症状が発症した後でも、(本発明の)化学式Iの化合物(および薬剤組成物)が急性腎損傷の治療に有効であることを発見した。たとえば、本発明者らは、(血清クレアチニンの顕著な増加を引き起こす)AKIから24時間後の投与が、血清クレアチニンレベルを損傷前のレベルまで低下させ、これにより回復時間を短縮化させるのであろうことを発見した。
【0071】
したがって、本発明の第3の態様では、腎臓病の治療に使用される(特にAKIの治療に用いられる)、本発明の化学式Iの化合物または薬剤組成物が提供され、この際、化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は腎損傷の12時間後に投与される。化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は、腎損傷の発症の少なくとも6、12、16、20、24、28、32、36、40、44、48、52、56、60、72もしくは96時間またはそれ以上の時間で任意に投与される。たとえば、化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は、腎損傷の6〜96時間後、12〜72時間後、24〜72時間後または24〜48時間後に投与されてもよい。化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は、腎損傷から最長で120時間後(たとえば、腎損傷から最長で96、72または48時間後)に投与されてもよい。
【0072】
あるいは、化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は、腎損傷の任意時間後(たとえば、血清クレアチニン、血清尿素または尿排出量などのAKIに関連する公知因子を測定する下記のAKIの診断の任意時間後)に投与されてもよい。
【0073】
本発明のこの態様は、腎臓病の治療を必要とする患者に、本発明の化学式Iの化合物または薬剤組成物を投与することを含むAKIの治療方法に及ぶものであり、この際、化学式Iの化合物は、腎損傷の6、12、16、20、24、28、32、36、40、44、48、52、56、60、72もしくは96時間またはそれ以上の時間後に投与される。たとえば、化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は、腎損傷の6〜96時間後、12〜72時間後、24〜72時間後または24〜48時間後に投与することができる。化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は、腎損傷から最長で120時間後(たとえば、腎損傷から最長で96、72または48時間後)に投与されてもよい。あるいは、化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は、腎損傷の任意時間後(たとえば、血清クレアチニン、血清尿素または尿排出量などのAKIに関連する公知因子を測定する下記のAKIの診断の任意時間後)に投与されてもよい。
【0074】
ゆえに、本発明に記載のAKIの治療方法は、任意の公知の診断マーカーを使用することなどにより(たとえば血清クレアチニンおよび/もしくは尿素濃度、ならびに/または尿排出量を測定することにより)、AKIを診断する工程をさらに含んでもよい。AKIが存在する場合(もしくは存在する疑いがある場合、または患者がAKIを発症するおそれがあると判断される場合)、必要に応じて化学式Iの化合物(または薬剤組成物)が投与される。特に、クレアチニンおよび/もしくは尿素レベルが予想水準を上回る場合、ならびに/または尿産生もしくは糸球体ろ過速度(GFR)が低下して予想水準を下回る場合、化学式Iの化合物(または薬剤組成物)が患者に投与される。
【0075】
一定の患者集団について、血清クレアチニン、血清尿素または尿産生の正常水準または予想水準は当業者にとって公知であり、これらの因子(およびその他)からAKIが存在するか否かを決定することができるであろう。Bellomo et al.(2004),Critical Care,8(4):R204−R212では、正常水準およびAKIが存在するか否かの決定方法が開示されている。たとえば、血清クレアチニンの増加が1.5倍を上回り、糸球体ろ過速度(GFR)が25%低下し、および/または尿排出量レベルが6時間かけて0.5ml/kg/hを下回る場合、患者はAKIのおそれがあると示唆される。血清クレアチニンの増加が2倍を上回り、糸球体ろ過速度(GFR)が50%低下し、および/または尿排出量レベルが12時間かけて0.5ml/kg/hを下回る場合、患者にはAKIが存在することが示唆される。血清クレアチニンの増加が3倍を上回り(または血清クレアチニン濃度が4mg/dl(350μmol/l)以上であり)、糸球体ろ過速度(GFR)が75%低下し、および/または尿排出量レベルが24時間かけて0.3ml/kg/hを下回る場合、患者は腎不全を患っていることが示唆される。
【0076】
好ましい正常基準値のクレアチニンレベルは表1に供される。
【0078】
たとえば、血清クレアチニンレベルが、黒人男性では1.8mg/dl(159μmol/l)以上、その他の男性では1.5mg/dl(132μmol/l)以上、黒人女性では1.35mg/dl(120μmol/l)以上、またはその他の女性では1.2mg/dl(106μmol/l)以上の場合、AKIが存在するか患者はAKIのおそれがある。
【0079】
したがって、本発明の一態様では、治療方法は血清クレアチニンレベルの測定を含み、正常な基準値レベルを上回る(たとえば正常な予想基準値レベルの1.5倍もしくは2倍もしくはそれ以上となる)または上記の閾値を上回る場合、化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は患者に投与される。
【0080】
腎損傷は、たとえば手術、特に(腎臓移植手術などの)腎臓手術および(開胸手術および冠動脈バイパス手術などの)心臓手術、外傷性出血(外傷性ショック)、敗血症、造影剤腎症(X線造影剤腎症)、腎毒性薬剤誘発性AKI、(たとえば下痢に続発する)血液量減少、虚血(たとえば腎動脈の急性閉塞に誘発される虚血)、敗血症、急性心不全、肝腎障害症候群、(敗血性ショックを伴う肺炎などの)肺炎、腎臓閉塞、炎症性実質性疾患、血管炎、糸球体腎炎、間質性腎炎、悪性高血圧症、腎盂腎炎、両側性皮質壊死、アミロイド症、悪性疾患誘発性AKI、タンパク尿症など、(腎前性か否かにかかわらず)複数の因子によって引き起こされてもよい。AKIに寄与しうる腎毒性薬剤は、阻害剤、(ヨウ素化X線造影剤などの)X線造影剤、アミノグリコシド、アンフォテリシン、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)、β−ラクタム抗生物質、スルホンアミド、アシクロビル、メトトレキサート、シスプラチン、シクロスポリン、タクロリムス、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、アンジオテンシン受容体阻害薬などである。実際、1つ以上の上記原因がAKIに寄与しうる。
【0081】
一般的に、AKIは、腎臓機能が極度に喪失するまでは無症候性であり、他の症状と併せて診断されるか、冠動脈バイパス移植手術または腎臓移植手術を受ける患者のようにリスクのある集団において診断されることが多い。その他の診断方法も当業者にとっては公知だが、クレアチニンおよび尿素は標準的な診断物質である。本発明者らは、驚くべきことに、AKIが発症した後でもAKIが治癒することを発見した。ゆえに、本発明の化学式Iの化合物および薬剤組成物は、AKIの予防だけでなく、疾患発症後の治療において早期回復を助けて起こりうる下流の合併症の回避を助けることにも有用である。
【0082】
一般的に、本発明の実施形態では、(上述のとおり)他の適切な投与経路は当業者にとって明らかであるが、本発明の化学式Iの化合物または薬剤組成物は静脈投与に使用される。
【0083】
本発明の第4の態様では、腎臓病の治療に使用される薬剤の製造における、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルの使用が提供される。本発明の他の態様では、腎臓病の治療に使用される薬剤の製造に使用される、アーテミシニンおよびその誘導体またはその製薬上許容される塩もしくはエステルの使用が開示される。一実施形態では、アーテミシニン誘導体は、アーテスネート、アーテメター、ジヒドロアーテミシニン、アルテリン酸およびアルテモチルからなる群より選択される。化合物または薬剤組成物は、急性腎損傷の診断後、または患者が急性腎損傷を発症するおそれがあるとの診断後に投与されることを目的としたものでもよい。あるいは、化合物または薬剤組成物は、腎損傷の12時間後(または実際には、腎損傷の少なくとも6、12、16、20、24、28、32、36、40、44、48、52、56、60、72もしくは96時間後、またはそれ以上の時間後)に投与されてもよい。
【0084】
本発明の第5の態様では、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルと、1つ以上のさらなる薬学的に活性な薬剤とを含有するパーツを有する、必要とする患者への同時、個別および連続投与のためのキットが提供される。パーツのキットは、使用のための説明書を任意に含んでもよい。化学式Iの化合物は単位剤形(unit-dosage form)で存在してもよい。本発明のパーツのキットは、腎臓病の治療に使用されることを目的とするものである。
【0085】
さらなる薬学的に活性な化合物は、キサンチン誘導体(ペントキシフィリンなど、たとえば0.1〜400mg/kgの範囲の用量である)、重炭酸ナトリウム、ビタミンD、エリスロポエチン(たとえば1000IU/kgの用量範囲で投与される)、グリシルレチン酸誘導体(カルベノキソロンなど、たとえば0.01〜30mg/kgの用量範囲である)、およびPPAR−γアゴニスト(ロシグリタゾン、ピオグリタゾン、シグリタゾン、プロスタグランジンA1もしくはプロスタグランジンD2(たとえば0.03〜10mg/kgの範囲の用量である)または15−デオキシデルタ12,14−プロスタグランジンJ2(15D−PGJ2、たとえば0.1〜3mg/kgの範囲の用量で静脈に投与される)などを含む。
【0086】
あるいは、本発明の化学式Iの化合物または薬剤組成物は、腎臓病の治療のために使用される単独の薬学的に活性な成分または組成物として単独で投与されてもよい。
【0087】
本発明の第1態様の化合物は、腎臓の全部もしくは一部の虚血再灌流(ischaemia-reperfusion)を引き起こす外科手術、腎臓移植もしくは腎臓および膵臓移植(および冠動脈バイパス移植(CABG)手術においても)、特に、虚血で引き起こされるいかなる損傷を低減するための手術または移植時における腎臓の灌流において、有用である。本発明の第1態様の化合物は、腎機能代替療法においても有用である。ゆえに、本発明はそのような方法に使用される化学式Iの化合物を提供する。
【0088】
本発明の実施形態では、化学式Iの化合物またはその塩もしくは誘導体は、1つ以上の薬学的に活性な薬剤と組み合わせて投与されてもよい。ゆえに、本発明の薬剤組成物は、1つ以上のさらなる薬学的に活性な薬剤を含有する。
【0089】
本発明のその他の態様では、腎臓移植方法またはCABG手術方法における、本発明の化学式Iの化合物の使用または薬剤組成物の使用が提供される。ある実施形態では、本発明の化学式Iの化合物または薬剤組成物は、手術終了後(たとえば、ドナー腎臓が移植された後や、腎臓が挿入される切り口が(たとえば縫合により)閉じられた後)に投与される。特に、化合物または薬剤組成物は、手術または腎損傷の少なくとも6、12、16、20、24、28、32、36、40、44、48、52、56、60、72もしくは96時間後、またはそれを超える時間後に投与される。たとえば、化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は、手術または腎損傷の6〜96、12〜72、24〜72または24〜48時間後に投与されることを目的とするものでもよい。化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は腎損傷から最長で120時間後、たとえば腎損傷から最長96、72または48時間後に投与されることを目的とするものでもよい。
【0090】
腎臓移植手術の場合、本発明の化学式Iの化合物または薬剤組成物は、ドナー患者もしくはレシピエント患者またはその双方に投与されてもよい。化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は、腎臓の全部または一部の虚血再灌流の上記時間後に、患者に投与されてもよい。本発明のある実施形態では、化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は、急性腎損傷の診断後または急性腎損傷のおそれの診断後に患者に投与される。
【0091】
本発明のさらなる態様では、(本発明の)化学式Iの化合物(または薬剤組成物)を患者に投与することを含む腎臓移植方法およびCABG手術方法についても提供される。化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は、術前、術中および/または術後に投与されてもよい。一般的に、「手術方法」とは、通常は手術を行った病院または医療施設で患者の回復を観察する術後処置を含むのに対し、「術後」とは侵襲的方法の完了後(手術後)を意味する。
【0092】
術後に本発明の化学式Iの化合物または薬剤組成物が投与される方法では、化合物または組成物は、通常は手術完了の12時間以上後、たとえば手術の6、12、16、20、24、28、32、36、40、44、48、52、56、60、72もしくは96時間後、またはそれを超える時間後に投与される。一般的に、化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は、術後(すなわち手術後)から最長で120時間後(たとえば手術から最長で96、72または48時間後)に投与されることを目的とするものでもよい。
【0093】
腎臓移植方法またはCABG手術方法において、手術が完了した後(たとえばドナー腎臓の移植後)、たとえば血清クレアチニン、血清尿素および/もしくは尿排出量、またはその他の適切なAKIの診断マーカーの測定によって、患者はAKIについて観察される。患者がAKIの症状を有する場合、またはAKIが存在すると診断される場合、または患者がAKIを発症するおそれがあると判断される場合、その後、AKIを治療するために本発明の化学式Iの化合物または薬剤組成物が投与されてもよい。これは、全ての患者を予防的に治療するというよりむしろ、手術後にAKIが発症するか否か、または患者がAKIを発症するおそれが高まるか否かについて評価するために待つことによる患者への不要な薬剤投与と関連する問題を回避する。
【0094】
本発明の方法では、化学式Iの化合物(または薬剤組成物)は、通常、静脈内に投与される。
【0095】
腎臓移植方法は、「腎臓移植ガイドライン」(Kalble et al.,(2006),European Association of Urology)内で記載されている方法など、当業者にとって公知の好ましい方法でよい。本発明の腎臓移植方法は、腎臓と膵臓とが同時に移植される腎臓・膵臓移植方法を含む。腎臓移植の基本的方法は、(ドナー患者由来の)ドナー腎臓をレシピエント患者に外科的に移植する工程を含む。
【0096】
CABGの基本的方法は、患者の体の他の箇所(通常は胸部または脚部(たとえば乳腺動脈内))から血管を採取して、存在する動脈内の狭窄部または閉塞の上流または下流の冠状動脈に取り付ける工程を含む。この新しい血管はグラフトとして知られる。グラフトは、狭窄または閉塞された冠状動脈部周辺で血流を迂回させる。通常、今後確実にこの手術が繰り返されないよう、医師は複数のグラフトを行う。グラフト血管の移植後、胸骨および切り口は縫合糸により閉じられる。CABGの方法は当業者にとって明らかである。
【0097】
腎臓移植方法では、ドナー腎臓は化学式Iの化合物を含有する溶液を用いて灌流されてもよく、したがって、本発明の方法はそのような工程を含んでもよい。たとえば、かような溶液は、化学式Iの化合物を含む再灌流溶液またはその製薬上許容される塩もしくはエステルと、1つ以上の増量剤とを含有してもよい。一実施形態では、増量剤は晶質もしくはコロイドまたは晶質とコロイドとの組み合わせである。
【0098】
晶質は、ナトリウムイオン、塩化物イオン、乳酸イオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンからなる群より選択される少なくとも2つのイオンを含有する塩の水溶液である。ある実施形態では、晶質は、ナトリウムイオン、塩化物イオン、乳酸イオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンからなる群より選択される少なくとも3つのイオンを含有する水溶液である。ある実施形態では、晶質は、ナトリウムイオン、塩化物イオン、乳酸イオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンからなる群より選択される少なくとも4つのイオンを含有する水溶液である。ある実施形態では、晶質は、ナトリウムイオン、塩化物イオン、乳酸イオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンを含有する水溶液である。晶質は、重炭酸イオンおよび/またはグルコースも含有してもよい。
【0099】
晶質の例としては、(生理食塩水、乳酸リンゲル液もしくはハートマン液などの)無機塩または水溶性分子の水溶液が挙げられる。通常、乳酸リンゲル液1Lには以下のものが含有される:
−ナトリウムイオン 約130mEq=130mmol/L
−塩化物イオン 約109mEq=109mmol/L
−乳酸 約 28mEq= 28mmol/L
−カリウムイオン 約 4mEq= 4mmol/L
−カルシウムイオン 約 3mEq=1.5mmol/L。
【0100】
通常、ナトリウム、塩化物、カリウムおよび乳酸は、NaCl(塩化ナトリウム)、NaC
3H
5O
3(乳酸ナトリウム)、CaCl
2(塩化カルシウム)およびKCl(塩化カリウム)に由来する。しかしながら、必要なイオン濃度に達するためにその他の成分が使用されてもよいことは、当業者にとって公知である。乳酸リンゲル液は、通常はアルカリ化溶液であるが、pHが6〜7の範囲(たとえば6.5)にあってもよい。
【0101】
(乳酸ナトリウム化合物としても知られる)ハートマン液1Lには、以下のものが含有されうる:
−ナトリウムイオン 131mEq=131mmol/L
−塩化物イオン 111mEq=111mmol/L
−乳酸 29mEq= 29mmol/L
−カリウムイオン 5mEq= 5mmol/L
−カルシウムイオン 4mEq= 2mmol/L。
【0102】
したがって、一実施形態では、再灌流溶液は、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルと、晶質増量剤とを含有し、晶質増量剤は、ナトリウムイオン、塩化物イオン、乳酸イオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンからなる群より選択される少なくとも3つのイオンを含有する水溶液である。他の実施形態では、再灌流溶液は、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルと、晶質増量剤とを含有し、晶質増量剤は、ナトリウムイオン、塩化物イオン、乳酸イオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンからなる群より選択される少なくとも4つのイオンを含有する水溶液である。さらに他の実施形態では、再灌流溶液は、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルと、晶質増量剤とを含有し、晶質増量剤はナトリウムイオン、塩化物イオン、乳酸イオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンを含有する水溶液である。
【0103】
これらの実施形態では、イオンは、当業者にとって公知のいかなる好ましい濃度で存在してもよい。たとえば、ナトリウムイオンは約100〜約150mmol/Lの濃度で存在してもよい。塩化物イオンは約90〜約120mmol/Lの濃度で存在してもよい。乳酸イオンは約20〜約30mmol/Lの濃度で存在してもよい。カリウムイオンは約2〜約6mmol/Lの濃度で存在してもよい。カルシウムイオンは約1〜約5mmol/Lの濃度で存在してもよい。(存在するのであれば)重炭酸イオンは約10〜約50mmol/Lの濃度で存在してもよい。(存在するのであれば)グルコースは約2〜約10重量%、たとえば約3〜約6重量%の濃度で存在してもよい。
【0104】
したがって、他の実施形態では、再灌流溶液は、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルを含み、水溶液には以下のものが含有される:
−ナトリウムイオン 約100〜約150mmol/L
−塩化物イオン 約90〜約120mmol/L
−乳酸 約20〜 約30mmol/L
−カリウムイオン 約2〜 約6mmol/L
−カルシウムイオン 約1〜 約5mmol/L。
【0105】
当業者にとっては明らかであろうが、上記の水溶液は好ましい晶質増量剤の例である。
【0106】
あるいは、再灌流溶液は、コロイド増量剤を含んでもよく、または上記晶質増量剤とコロイド増量剤との混合物を含んでもよい。好ましいコロイド増量剤の例としては、ゼラチン、コハク化ゼラチン、アルブミン、デキストラン(たとえば、デキストラン40、デキストラン70もしくはデキストラン75)、血液、またはエーテル化デンプン(ヒドロキシエキルデンプン、テトラスターチ、ヘタスターチもしくはペンタスターチとしても知られる)が挙げられる。通常、コロイドはこれらの成分を含有する水溶液である。たとえば、コロイドは、ゼラチン、コハク化ゼラチン、アルブミン、デキストラン、血液およびエーテル化デンプンからなる群より選択される少なくとも1つの成分を含んでもよい。
【0107】
市販で入手可能なコロイドとしては、Haemaccel(登録商標)(Piramal、尿素結合を介して架橋された分解ゼラチンポリペプチド含有)、Gelofusine(登録商標)(Braun、コハク化ゼラチン(修飾流動性ゼラチン、平均分子量30000)40g(4%)、Na
+154mmol、Cl
−120mmol/L)、Gelopasma(登録商標)(Fresenius Kabi、部分的に加水分解およびコハク化されたゼラチン(修飾液状ゼラチン)(無水ゼラチンとして)30g(3%)、Na
+150mmol、K
+5mmol、Mg
2+1.5mmol、Cl
−100mmol、乳酸30mmol/L)、Isoplex(登録商標)(Beacon、コハク化ゼラチン(修飾流動性ゼラチン、平均分子量30000)40g(4%)、Na
+145mmol、K
+4mmol、Mg
2+0.9mmol、Cl
−105mmol、乳酸25mmol/L)、Volpex(登録商標)(Beacon、コハク化ゼラチン(修飾流動性ゼラチン、平均分子量30000)40g(4%)、Na
+154mmol、Cl
−125mmol/L)、Voluven(登録商標)(Fresenius Kabi、6%ヒドロキシエチルデンプン(重量平均分子量130000)含有0.9%塩化ナトリウム注射液)、Volulyte(登録商標)(Fresenius Kabi、6%ヒドロキシエチルデンプン(重量平均分子量130000)含有0.6%塩化ナトリウム静脈点滴、Na
+137mmmol、K
+4mmol、Mg
2+1.5mmol、Cl
−110mmol、酢酸34mmol/L含有)、Venofundin(登録商標)(Braun、6%ヒドロキシエチルデンプン(重量平均分子量130000)含有0.9%塩化ナトリウム注射液)、Tetraspan(登録商標)(Braun、6%または10%ヒドロキシエチルデンプン(重量平均分子量130000)含有0.625%塩化ナトリウム、Na
+140mmol、K
+4mmol、Mg
2+1mmol、Cl
−118mmol、Ca
2+2.5mmol、酢酸24mmol、マレイン酸5mmol/L含有)、HAES−steril(登録商標)(Fresenius Kabi、10%ペンタスターチ(重量平均分子量200000)含有0.9%塩化ナトリウム静脈点滴)、Hemohes(登録商標)(Braun、6%または10%ペンタスターチ(重量平均分子量200000)含有0.9%塩化ナトリウム静脈点滴)、HyperHAES(登録商標)(Frenesius Kabi、6%ヒドロキシエチルデンプン(重量平均分子量200000)含有7.2%塩化ナトリウム静脈点滴)およびRescueFlow(登録商標)(Vitaline、6%デキストラン70静脈点滴含有7.5%塩化ナトリウム静脈点滴)が挙げられる。
【0108】
したがって、一実施形態では、再灌流溶液は、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルと、コロイド増量剤および/もしくは晶質増量剤とを含有し、コロイド増量剤はゼラチン、コハク化ゼラチン、アルブミン、デキストラン、血液およびエーテル化デンプンからなる群より選択される1つ以上の成分を含み、晶質増量剤はナトリウムイオン、塩化物イオン、乳酸イオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンからなる群より選択される少なくとも3つのイオンを含む水溶液である。
【0109】
さらなる実施形態では、再灌流溶液は、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルと、コロイド増量剤および/もしくは晶質増量剤とを含み、コロイド増量剤はゼラチン、コハク化ゼラチン、アルブミン、デキストラン、血液およびエーテル化デンプンからなる群より選択される1つ以上の成分を含み、晶質増量剤は以下のものを含む:
−ナトリウムイオン 約100〜150mmol/L
−塩化物イオン 約90〜120mmol/L
−乳酸 約20〜 30mmol/L
−カリウムイオン 約2〜 6mmol/L
−カルシウムイオン 約1〜 5mmol/L。
【0110】
臓器に供される再灌流溶液の量は、当業者によって決定されてもよい。
【0111】
再灌流溶液は水溶液である。各成分の濃度は、要求に応じて当業者によって決定されてもよい。たとえば、化学式Iの化合物(またはその製薬上許容される塩もしくはエステル)の濃度は、10
−6〜10
−2M(たとえば10
−5〜3×10
−3M)でもよい。ある実施形態では、化学式Iの化合物(またはその製薬上許容される塩もしくはエステル)は、10
−2M以下の濃度で存在する。ある実施形態では、化学式Iの化合物(またはその製薬上許容される塩もしくはエステル)は、10
−6Mまたは10
−5M以上の濃度で存在する。
【0112】
再灌流溶液は低張、高張または等張のいずれでもよい。ある実施形態では、増量剤(および/または再灌流溶液)は等張溶液である。
【0113】
再灌流溶液は、当業者にとって好ましいと思われる追加成分を含有してもよい。たとえば、再灌流溶液は、マンニトール、ヘモグロビン(たとえば2〜9g/Lの用量範囲)、PEG化ヘモグロビン(たとえばMP4OX(登録商標)(4g/L PEG−Hb含有乳酸化電解液、Sangart))、PEG化カルボキシヘモグロビン(たとえばMP4CO(登録商標)(43mg/mL PEG化カルボキシヘモグロビン[≧90%COヘモグロビン飽和]含有生理的酢酸電解液、Sangart))、血小板(たとえば50×10
8/L以上の用量)、フィブリノゲン(たとえば50mg/kgの用量)、抗繊維素溶解薬、リコンビナント活性化凝固因子VII(rFVIIa)およびプロトロンビン複合体からなる群より選択される1つ以上の追加成分を含んでもよい。
【0114】
化学式Iの化合物を含有する水溶液を調製する際、化学式Iの化合物の溶解性を向上させるために、当業者はいかなる必要な工程を踏んでもよい。たとえば、Ansari et al.(2009), Arch Pharm Res Vol.,32(1):155−65で示されているように、化学式Iの化合物は、シクロデキストリン包接錯体などの包接錯体の形で存在してもよい。したがって、化学式Iの化合物は、包接錯体(たとえばシクロデキストリン包接錯体またはヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン錯体)の形で存在してもよい。溶解性を向上させるためのその他の技術、たとえば(ラウリル硫酸ナトリウムなどの)界面活性剤や(エタノールまたはDMSOなどの)共溶媒の使用は、当業者にとって明らかである。
【0115】
本発明の腎臓移植方法は、罹患した一方または双方の腎臓の除去を含んでもよい。あるいは、罹患した腎臓はレシピエント患者内に残ったままでもよい。
【0116】
ここで記載される腎臓移植方法は、全腎移植だけでなく部分腎移植も含む。
【0117】
本発明のさらなる態様では、化学式Iの化合物を含む溶液(たとえば上記の再灌流溶液)に腎臓を浸漬する(bathing)ことを含む灌流方法が提供される。この方法は生体外で行われる。腎臓はドナー患者(生きている患者または死体のいずれか)から得られる。したがって、本発明の灌流方法によりドナー腎臓が灌流される腎臓移植方法についても提供される。腎臓の灌流は、ドナー患者に移植する前、間および/または後で起こる。
【0118】
本発明のさらなる態様では、尿毒症の治療に使用される、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステル、または本発明の薬剤組成物についても提供される。尿毒症は、尿やその他の老廃物が血中に滞留することを意味する。尿毒症は、腎臓病によって引き起こされるが、他の要因、たとえば、(たとえば高タンパク食や胃腸出血に起因する)肝臓での尿素産生の増加、(たとえば心停止もしくは低血圧または膀胱破裂による腎臓への血流減少に起因する)尿素排出量の減少、脱水または腎臓感染にもよっても引き起こされる。しかしながら、通常、本発明のこの態様は、腎臓病関連の尿毒症(たとえばAKI関連尿毒症)に関する。本発明のこの態様は、尿毒症の治療を必要とする患者に、本発明の化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステル、または薬剤組成物を投与することによる、尿毒症の治療方法にも及ぶ。
【0119】
本発明の他の態様では、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルを含有する透析液が提供される。本発明のさらなる態様では、透析に使用される化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルが提供される。本発明のこの態様は、透析液の製造における、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルの使用にも及ぶ。
【0120】
透析液は、腎臓の透析に使用される溶液である。透析液は、半透膜のろ過される血液とは逆側を流れる。通常、透析液は水溶液であり、ナトリウム、塩化物、乳酸および重炭酸などのイオンを含有してもよい。溶液は、グルコースもしくは(イコデキストリンなどの)デキストリン、または類似する化合物を含有してもよい。イコデキストリンは、デンプン誘導体であり、水溶液の状態でコロイド浸透圧剤(osmotic agent)として使用される、分岐型水溶性グルコース重合体(α−(1→4)および10%未満のα−(1→6)グリコシド結合によりデキストランの形をなす、重量平均分子量13000〜19000Da、数平均分子量5000〜6500Da)である。存在してもよい他のイオンとしては、カルシウムおよびマグネシウムイオンが挙げられるが、通常はナトリウム、塩化物、乳酸および重炭酸イオンより低濃度である。
【0121】
透析にはいくつか種類があるが、本発明の透析では、通常、血液透析または腹膜透析が使用されるであろう。
【0122】
市販で入手可能は透析液の例としては、Extraneal(登録商標)(Baxer、イコデキストリン含有透析液)、Gambrisol Trio(登録商標)(Gambro、グルコース含有透析液)およびPhysioneal(Baxer、グルコース含有透析液)が挙げられる。
【0123】
一例として、Extraneal(登録商標)(イコデキストリン)は、コロイド浸透圧剤であるイコデキストリンを含有する腹膜透析液である。イコデキストリンは、デンプン誘導体であり、α(1−4)グリコシド結合および10%未満のα(1−6)グリコシド結合で結合した、重量平均分子量13000〜19000Daおよび数平均分子量5000〜6500Daである水溶性のグルコース重合体である。100mLのExtranealには、イコデキストリン(7.5g)、塩化ナトリウム(535mg)、乳酸ナトリウム(448mg)、塩化カルシウム(25.7mg)、塩化マグネシウム(5.08mg)がそれぞれ含有される。1Lあたりの電解質の含量は以下の通りである:
−ナトリウム :132mEq/L
−カルシウム :3.5mEq/L
−マグネシウム:0.5mEq/L
−塩化物 : 96mEq/L
−乳酸 : 40mEq/L。
【0124】
したがって、本発明のある実施形態では、透析液は、化学式Iの化合物に加え、ナトリウム、塩化物、乳酸および重炭酸からなる群より選択される少なくとも2つのイオンをさらに含有してもよい。本発明のある実施形態では、透析液は、化学式Iの化合物に加え、ナトリウム、塩化物、乳酸および重炭酸からなる群より選択される少なくとも3つのイオンをさらに含有してもよい。本発明の他の実施形態では、透析液は、化学式Iの化合物に加え、ナトリウム、塩化物、乳酸および重炭酸イオンを含有してもよい。
【0125】
本発明のさらなる実施形態として、透析液はカルシウムおよび/またはマグネシウムイオンをさらに含有してもよい。ある実施形態では、カルシウムおよびマグネシウムイオンは、もし存在するのであれば、ナトリウム、塩化物、乳酸および重炭酸イオンのそれぞれより少ない濃度で存在する。
【0126】
本発明のある実施形態では、透析液は浸透圧剤(osmotic agent)を含有してもよい。浸透圧剤の例としては、グルコース、ポリグルコースまたはアミノ酸などが挙げられる。ポリグルコース透析液は、Grzegorzewska et al.(2001), Adv Perit Dialに記載されている。アミノ酸は、必須アミノ酸、非必須アミノ酸のいずれでもよく、L−、D−アイソフォームのいずれでもよい。本発明のある実施形態では、透析液は、グルコース、ポリグルコース、アミノ酸、イコデキストリンおよび重炭酸イオンからなる群より選択される少なくとも1つの成分を含んでもよい。たとえば、透析液は、化学式Iの化合物またはその製薬上許容される塩もしくはエステルと、ナトリウム、塩化物および乳酸イオンからなる群より選択される少なくとも2つのイオンと、グルコース、ポリグルコース、アミノ酸、イコデキストリンおよび重炭酸からなる群より選択される少なくとも1つの成分とを含有してもよい。
【0127】
ナトリウムイオンは、約100〜約150mEq/Lの濃度で存在してもよい。塩化物イオンは、約75〜約125mEq/Lの濃度で存在してもよい。乳酸イオンは、約10〜約50mEq/Lの濃度で存在してもよい。重炭酸イオンは、約10〜約50mEq/Lの濃度で存在してもよい。カルシウムイオンは、5mEq/Lより低い濃度、たとえば約1〜約5mEqの濃度で存在してもよい。マグネシウムイオンは、5mEqより低い濃度、たとえば約0.1〜約2mEqの濃度で存在してもよい。
【0128】
イコデキストリンは、約50〜100g/Lの量で存在してもよい。グルコースは、約5〜50g/Lの量で存在してもよい。
【0129】
化学式Iの化合物は、透析中または腎臓病中の損傷からの腎臓の保護に供する濃度で存在してもよい。たとえば、化学式Iの化合物またはその許容される塩もしくはエステルは、10
−6〜10
−2M(たとえば10
−5〜3×10
−3M)の量で存在してもよい。ある実施形態では、化学式Iの化合物(またはその製薬上許容される塩もしくはエステル)は、10
−2M以下の濃度で存在してもよい。ある実施形態では、化学式Iの化合物(またはその製薬上許容される塩もしくはエステル)は、10
−6Mまたは10
−5M以上の濃度で存在してもよい。
【0130】
本発明の一実施形態では、急性腎損傷の治療に使用されるアーテスネートが提供される。アーテスネートは静脈内投与に使用され、腎損傷後(またはAKI診断後)12時間以上で投与されてもよい。AKIの治療方法は、0.1〜3mg/kgの量のアーテスネートを、AKIの治療を必要とする患者の静脈内に投与することを含む。腎臓移植方法は、腎臓病のリスクを最小限にするため、術前、術中および/または術後にドナー患者にアーテスネートを投与することを含む。あるいは、腎臓移植方法は、術後の血清クレアチニンレベル測定を含んでもよく、腎臓病を発症しているまたはAKI発症のおそれがあると判断される患者にアーテスネートは投与されるべきである。
【0131】
本発明の第1態様の特徴は、本発明の第2態様以降に準用する。
【0132】
本発明は、後述の実施例を参照して記述されるが、これらは参照のみを目的として提示されており、本発明の範囲はこれらに制限されるものではない。実施例では、図面の番号について言及される。
【実施例】
【0133】
本研究において準拠した動物プロトコルは、Her Majesty’s Stationary Officeより出版された動物実験に関する英国内務省ガイドライン(科学的手続)(1986年施行)および米国学術研究会議の実験動物の管理・使用に関するガイドラインの双方の派生に対応する、地域の動物実験委員会(Animal Use and Care Committee)によって承認された。
【0134】
<1.ラットにおける外傷性出血に誘発される臓器の損傷および機能障害に対するアーテスネートの効果の評価>
[1.1 外科手術]
雄ウィスターラット(271±5g)35匹を、チオペンタール(120mg/kg i.p.,LINK Pharmaceuticals Ltd.,West Sussex,英国)で麻酔し、必要に応じてチオペンタールの補充注射(〜10mg/kg i.v.)により麻酔状態を保った。サーモスタット制御された保温マット(Harvard Apparatus Ltd., Kent,英国)の上に動物を置き、恒温ブランケットに接続した直腸プローブにより体温を37±1℃に維持した。気道の開通性を維持して自発呼吸を促進するため、短いポリエチレンチューブ[内径(ID)1.67mm, Portex,Kent,英国]を気管内腔に挿入することにより気管切開を行った。左大腿動脈にカニューレ(ID0.40mm,Portex)を挿入し、平均動脈血圧(MAP)およびパルス波形からの心拍数(HR)の偏差の測定のため、圧力変換器(SP844血圧センサー,Memscap,米国)に連結した。これらは両方とも、実験期間において、ウィンドウズ(登録商標)XPを起動するインテル標準コンピュータにインストールされたデータ収集システム(Powerlab 8SP, Chart v5.5.3,AD Instruments、Hastings,英国)上に表示された。ヘパリン処理シリンジを用いた採血を容易にするため、右頸動脈にカニューレ(ID0.58mm,Portex)を挿入した。乳酸リンゲル液(RL)、出血液、試験化合物および/または賦形剤の投与のため、右頸静脈にカニューレ(ID0.40mm,Portex)を挿入した。また、尿の回収のため、膀胱にもカニューレ(ID0.76mm,Portex)を挿入した。外科手術を完了後、15分間かけて心臓血管のパラメータを安定化させた。
【0135】
[1.2 出血および蘇生]
安定化後、MAPが10分間で35±5mmHgまで低下するよう、右頸動脈に挿入したカニューレを介して血液を採取した。この時点以降、代償期での採血(交感神経反応により採血に応じてMAPが上昇する)または非代償期での乳酸リンゲル液の静脈内注射(動物は高MAPを上昇・維持できなくなる)のいずれかにより、MAPを35±5mmHgに90分間維持した。出血時における平均採血量は、9.8±0.2mlであった(全出血群にわたってn=31)。出血開始90分後、20ml/kg乳酸リンゲル液を10分間静脈内注射し、次いで出血液と100u/mlヘパリン加生理食塩水との半量混合物を50分間静脈内注射することにより、蘇生を行った。1時間蘇生後、体液補充として乳酸リンゲル液点滴の静脈注射(1.5ml/kg/h)を開始し、さらに3時間維持した。
【0136】
[1.3 臓器の損傷/機能障害の定量化]
蘇生の兆候から数時間後、実験を終結するため心臓を除去した後、右頸動脈から血液1.2mLを採取し、血清ゲルチューブ(Sarstedt,Numbrecht,ドイツ)に移した。サンプルを遠心(9900rpm×3分)して血清を分離し、24時間以内に尿素、クレアチニン、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびクレアチニンキナーゼ(CK)を測定した(Idexx Laboratories Ltd.,West Yorkshire,英国)。糸球体の機能障害の指標であるクレアチニンクリアランスを見積もるため、実験終盤3時間で回収された尿について、クレアチニンレベルを分析し、以下のように算出した。
【0137】
【数1】
【0138】
[1.4 実験計画]
ラットを下記の群にランダムに割り当てた:
(i) 偽(n=4)
(ii) HSコントロール(n=10)
(iii) HS+アーテスネート1mg/kg(n=6)
(iv) HS+アーテスネート3mg/kg(n=7)
(v) HS+アーテスネート10mg/kg(n=8)。
【0139】
偽手術ラットについては、出血または蘇生せずに同一の外科手術を施した。蘇生時、10%DMSO(1ml/kg i.v.)またはアーテスネート(1、3または10mg/kg i.v.)のいずれかを動物に施した。
【0140】
[1.5 材料]
特記しない限り、全ての化合物はシグマアルドリッチ社(Poole,Dorset,英国)から購入した。全てのストック溶液は、非発熱性生理食塩水[0.9%(w/v)NaCl:Baxter Healthcare Ltd.,Thetford,Norfolk,英国]で調製した。乳酸リンゲル液についても、Baxter Healthcare Ltd.から購入した。チオペンタール(Thiovet
TM)は、Link Pharmaceuticals,Horsham,英国から購入した。マルチパリン(ヘパリン注射液 B.P.,5000iu/ml)は、National Veterinary Services,Stoke−on−Trent,英国から購入し、マルチパリン0.1mlを0.9%(w/v)塩化ナトリウム4.9mlに添加して濃度100u/mlとし、マルチパリン5mlを0.9%(w/v)塩化ナトリウム1Lに添加して、濃度25u/mlとした。アーテスネートについても、シグマアルドリッチ社(Poole,Dorset,英国)から購入した。
【0141】
[1.6 統計的分析]
表および図に記載される全数値は、n個観測に対する平均値±平均値の標準誤差(SEM)として表す。各データポイントは、最大10個体の動物から得られた生化学的測定値を示す。統計的分析は、GraphPad Prism 5.03(GraphPad Software,San Diego,California,米国)を用いて実施した。繰り返し測定を伴わないデータは、Dunnett’s post hoc testに基づくone−way ANOVAにより評価した。繰り返し測定を伴うデータは、Bonferroni’s post hoc testに基づくtwo−way ANOVAにより評価した。0.05未満のP値は有意であるとみなした。
【0142】
[1.7 出血性ショックに起因する循環不全に対するアーテスネートの効果]
偽手術ラットと比較して、賦形剤で治療したHSラットは、蘇生期間においてMAPの有意な低下を示した(P<0.05、
図1)。蘇生段階におけるアーテスネート投与(1、3または10mg/kg)は、蘇生段階における出血に起因するMAPの低下が弱まった(P>0.05、
図1)。
【0143】
[1.8 出血性ショックに誘発される臓器の損傷および機能障害に対するアーテスネートの効果]
偽手術ラットと比較して、賦形剤で治療したHSラットは、血清尿素(P<0.001、
図2A)およびクレアチニン(P<0.001、
図2B)の有意な増加が見られた;偽手術ラットと比較して、クレアチニンクリアランスは有意に減少し(P<0.005、
図2C)、腎臓および糸球体の機能障害の発症を示した。3mg/kgアーテスネートを用いたHSラットの治療は、HSラットと比較して、血清尿素(P<0.05、
図2A)およびクレアチニン(P<0.005、
図2B)の増加が有意に弱まった;一方、10mg/kgアーテスネートを用いた治療は、血清クレアチニン(P<0.005、
図2B)の増加およびクレアチニンクリアランス(P<0.005、
図2C)の減少が有意に弱まった。1mg/kgアーテスネートを用いたHSラットの治療は、血清尿素(P>0.05、
図2A)およびクレアチニン(P>0.05、
図2B)の増加またはクレアチニンクリアランス(P>0.05、
図2C)の減少に対して有意な効果を有しなかった。
【0144】
偽手術ラットと比較して、賦形剤で治療したHSラットは、血清AST(P<0.005、
図3A)、ALT(P<0.005、
図3B)およびクレアチニンキナーゼ(P<0.05、
図3C)の有意な増加が見られ、肝損傷および骨格筋損傷の発症を示した。アーテスネート(3、10mg/kgの両方)を用いたHSラットの治療は、血清AST(P<0.05、
図3A)、ALT(P<0.005、
図3B)およびクレアチニンキナーゼ(P<0.05、
図3C)の増加を有意に弱めた。1mg/kgアーテスネートを用いた治療は、AST(P>0.05、
図3A)、ALT(P>0.05、
図3B)またはクレアチニンキナーゼ(P>0.05、
図3C)の増加に対して有意な効果を有しなかった。
【0145】
<2.ラットにおける火傷に誘発される臓器の損傷および機能障害に対するアーテスネートの効果の評価>
[2.1.外科手術]
重さ300〜350gの雄ウィスターラット(Harlan,Udine,イタリア)22匹を、チオペンタール(Eutasil
TM,60mg/kg i.p.;Sanofi Veterinaria,Alges,ポルトガル)で麻酔し、必要に応じて補給した。麻酔したラット(の背部および腹部)を剃毛し、サーモスタット制御された保温マット(Harvard Apparatus Ltd.,Kent,英国)の上に置き、恒温ブランケットに接続した直腸プローブにより体温を37±1℃に維持した。気道の開通性を維持し、自発呼吸を促進するため、気管切開を行った。火傷に30分先立ち、3.2節に記載のように、ラットを賦形剤または薬剤で治療した。火傷を誘発するため、人工泡鋳型(synthetic foam template)を用いて、背部の剃毛した肌を99℃のお湯に10秒間浸漬させることにより、60%の第3度火傷を誘発した。その後、ラットを乾燥し、保温マットの上に置いた。火傷の6時間後、麻酔薬の過剰摂取によりラットを剖検し、臓器の損傷および機能障害の分析のために血清サンプルを採取した。
【0146】
[2.2 実験計画]
ラットを下記の群にランダムに割り当てた:
(i) 偽手術(n=4)
(ii) 火傷+10%DMSO(n=10)
(iii) 火傷+アーテスネート(n=9)。
【0147】
偽手術ラットについては、火傷させずに(室温の水に浸漬させて)同様の外科手術を施した。火傷30分前および火傷30分後に10%DMSO(1ml/kg i.v.)またはアーテスネート(3mg/kg i.v.)のいずれかを動物に施した。
【0148】
[2.3 材料]
特記しない限り、全ての化合物は、シグマアルドリッチQuimica S.A.(Sintra,ポルトガル)から購入した。チオペンタール(Eutasil
TM)は、Sanofi Veterinaria(Miraflores, Alges,ポルトガル)から購入した。全てのストック溶液は、非発熱性生理食塩水(0.9%NaCl、B.Braun Medical Lda,Queluz,ポルトガル)で調製した。
【0149】
[2.4 統計的分析]
各データポイントは、最大10個体の動物から得られた測定値を表す。データはMann−Whitney U testを用いて評価した。
【0150】
[2.5 火傷に誘発される腎機能障害に対するアーテスネートの効果]
偽手術ラットと比較して、火傷を受けて賦形剤で治療されたラットは、血清尿素(P<0.05、
図4A)およびクレアチニン(P<0.05、
図4B)の有意な増加が見られ、腎機能障害の発症を示した。3mg/kgアーテスネートを用いた火傷ラットの治療は、火傷ラットと比較して、血清尿素(P<0.05、
図4A)およびクレアチニン(P<0.05、
図4B)の増加を有意に弱めた。
【0151】
[2.6 火傷に誘発される肝損傷に対するアーテスネートの効果]
偽手術ラットと比較して、火傷を受けて賦形剤で治療されたラットは、血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)(P<0.05、
図5A)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)(P<0.05、
図5B)の有意な増加が見られ、肝損傷の発症を示した。3mg/kgアーテスネートを用いた火傷ラットの治療は、火傷に誘発される血清AST(P>0.05、
図5A)およびALT(P>0.05、
図5B)の増加に対して有意な効果を有しなかった。
【0152】
[2.7 要約]
賦形剤を用いた火傷を受けたラットの治療は、(血清尿素およびクレアチニンの増加で示されるように)有意な腎機能障害、および(血清ASTおよびALTの増加で示されるように)有意な肝損傷を引き起こした。
【0153】
3mg/kgアーテスネートを用いた火傷ラットの治療は、火傷に起因する、(血清尿素およびクレアチニンを用いて測定される)腎機能障害の有意な減少をもたらした。しかしながら、3mg/kgアーテスネートを用いた火傷ラットの治療は、火傷に誘発される(血清ASTおよびALTを用いて測定される)肝損傷に対して有意な効果を有しなかった。
【0154】
<3.0 急性腎損傷および細胞内タンパク質の活性化に対する時間の効果>
[3.1 急性腎損傷 −外科手術および臓器損傷/機能障害の定量化]
本実験は、240〜290gの重さを有し、標準の餌および水を不断で摂取した雄ウィスターラット(Charles River Ltd,Margate,英国)63匹について行った。動物は、ケタミン(150mg/kg)およびキシラジン(15mg/kg)の国際薬局方混合物(mixture i.p.)(1.5ml/kg)で麻酔した。毛を剃り、肌を70%アルコール(v/v)で消毒した。次に、動物を37℃に設定した恒温ブランケット上に置いた。手術開始に先立ち、動物に0.1mg/kg s.c.ブプレノルフィン(0.1ml/kg)を施した。次に、正中線開腹を実施した。(腎動脈、静脈および神経からなる)右腎茎を分離し、滅菌済の4−0シルク編み縫合糸(Pearsalls Ltd.,Taunton,英国)で結紮した。次に、右腎臓を外科的に除去した。左腎茎を分離し、時間0のときに非外傷性の微小血管クランプを用いて締め付けた。片側性腎虚血から30分後、クランプを取り除いて再灌流した。再灌流については、37℃で生理食塩水8ml/kgを腹部に注射し、全ての切り口が2層で縫合された後(Ethicon Prolene 4−0)、確実にリフローするようさらに5分間腎臓を観察した。その後、動物を恒温ブランケット上で回復させ、回復後にケージに移した。実験終了の24時間前に、ラットを代謝ケージに入れて尿を回収し、続いて推定クレアチニンクリアランスおよびナトリウム分画排泄率の両方を測定した。実験終了時点で、心穿刺により血液を非ヘパリン処理シリンジに採取して、1.3ml血清ゲルチューブ(Sarstedt,ドイツ)に移した。血液を9900gで5分遠心して血清を分離した。血清中の全ての生化学マーカーおよび尿について、営利の獣医学試験研究所(IDEXX Ltd,West Sussex,英国)にて盲検法で測定した。心臓を除去した後、左腎臓を除去した。左腎臓の半分を瞬間凍結して−80℃で保存し、残り半分を10%中性緩衝ホルマリン中で保存した。
【0155】
[3.2 実験計画(タイムコース)]
ラットを下記の群にランダムに割り当てた:
(i) 虚血前(n=4)
(ii) 再灌流24時間(n=4)
(iii) 再灌流48時間(n=8)
(v) 再灌流72時間(n=4)。
【0156】
[3.3 組織学的評価およびスコアリング]
腎臓を10%中性緩衝ホルマリン中で48時間固定した後、70%エタノールで脱水した。組織をパラフィンに包埋し、切片厚さのばらつきを最小限にするため、単独の試験者により4μmの厚さで切片を切り出した。スライドをキシレンで脱パラフィン処理し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、Keyence Biozero BZ−8000 microscope(Ontario,カナダ)で観察した。糸球体の収縮、尿細管の膨張、好塩基球増加症、壊死および内腔の詰まりなどの組織学的特徴を記録した。1スライドにつき10枚のランダム画像を撮影し、腎損傷のマーカーとしてImageJを用いて合計の組織表面積を定量した。
【0157】
[3.4 ウェスタンブロット分析]
ウェスタンブロットは、上記[22]のとおりに実施した。各マーカーにつきウェスタンブロット分析の個別実験を3回実施し、別々の組織について各ウェスタンブロット実験を行った。簡潔に述べると、先に瞬間凍結したラット腎臓サンプルをホモジナイズし、4℃にて4000gで5分遠心した。上清を除去し、4℃にて15000gで40分遠心し、細胞質画分を得た。ペレット状の核は抽出バッファーで再懸濁した。懸濁液を4℃にて15000gで20分遠心した。得られた核タンパク質を含む上清を慎重に取り出し、ビシンコニン酸(BCA)タンパク質アッセイを用いて、下記の製造元の指示に従い、タンパク質含量を測定した。8%ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)でタンパク質を分離して、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写し、次いで一次抗体(マウス抗トータルIκBα 1:1000希釈液;マウス抗pIκBα Ser
32/36 1:1000希釈液;ウサギ抗トータルeNOS 1:200希釈液;ヤギ抗peNOS Ser
1177 1:200希釈液;ウサギ抗NF−κB p65 1:1000希釈液)と共にインキュベートした。次に、ブロットをホースラディッシュペルオキシダーゼが結合した二次抗体(1:10000希釈)と共にインキュベートし、ECL検出システムを用いて発現させた。オートラジオグラフィーにより免疫反応性のあるバンドを可視化した。ゲルローディングの均一性を評価するため、膜を剥離してβアクチンモノクローナル抗体(1:5000希釈)と共にインキュベートし、続いて抗マウス抗体(1:10000希釈)と共にインキュベートした。バンドのデンシトメトリー分析はGel Pro(登録商標)Analyzer 4.5,2000ソフトウェア(Media Cybernetics,Silver Spring,MD,米国)を用いて実施し、光学濃度分析は偽群に対する増加倍率として表した。偽群では、ゲルの免疫反応性のあるバンドをそれぞれ測定し、第1の免疫反応性バンド(標準偽サンプル)に対して正規化し、同じ群に属する全ての結果を平均値±SEMとして表した。これは、第1の免疫反応性バンドを数値1としたときの偽群に対するSEMを与える。ゲルローディングの均一性を評価するため、膜を剥離してβアクチンモノクローナル抗体と共にインキュベートし、続いて抗マウス抗体と共にインキュベートした。相対的なバンド強度を評価し、並行するβアクチン発現に対して正規化した。次いで、偽動物と比較した相対タンパク質発現を確立するため、各群は対応する偽データに対して調整した。
【0158】
[3.5 材料]
特記しない限り、全ての化合物は、シグマアルドリッチ社(Poole,Dorset,英国)から購入した。全てのストック溶液は、非発熱性生理食塩水(0.9%[w/v]NaCl;Baxter Healthcare Ltd.,Thetford,Norfolk,英国)から購入した。乳酸リンゲル液は、Baxter Healthcare Ltd.から購入した。ウェスタンブロット分析用抗体はSanta Cruz Biotechnology, Inc.(Heidelberg,ドイツ)から購入した。
【0159】
[3.6 統計的分析]
表および図に記載される全数値は、n回観測の平均値±平均値の標準誤差(SEM)として表す。各データポイントは、最大11個体の動物から得られた生化学的測定値を表す。GraphPad Prism 6.0b(GraphPad Software,San Diego,California,米国)を用いて統計的分析を実施した。繰り返し測定を伴わないデータは、Bonferroni’s multiple−comparison post hoc testに基づくone−way ANOVAにより評価した。0.05未満のP値は有意であるとみなした。
【0160】
[3.7 結果]
基準値(虚血前)と比較して、片側性腎虚血を30分受けたラットは、再灌流24時間で(血清尿素およびクレアチニンの増加により測定される)腎臓、(推定クレアチニンクリアランスの減少として測定される)糸球体、および(ナトリウム分画排泄率の上昇として測定される)尿細管の有意な機能障害を発症し、次いで治療介入なしで腎臓、糸球体および尿細管機能の漸進的な回復が見られた(
図6)。基準値(虚血前)と比較して、片側性腎虚血を30分受けたラットは、再灌流48時間で有意な腎損傷の組織学的兆候(方法を参照)が生じた(
図7)。これらの結果は、急性腎損傷の発症を示している。基準値(虚血前)と比較して、片側性腎虚血を30分受けたラットは、再灌流48時間で有意なIκBα上のSer
32/36のリン酸化、そしてIKK複合体の活性化が見られた(
図8A)。続いて、再灌流48時間で、IKK複合体の活性化は有意なNF−κBサブユニットp65の核移行を引き起こした(
図8B)。さらに、再灌流48時間で、基準値と比較してeNOS上のSer
1177のリン酸化が有意に減少した(
図8C)。
【0161】
<4.0 片側性腎虚血/再灌流の回復ラットモデルにおけるアーテスネートの遅延投与の効果>
[4.1 外科手術]
ウィスターラット(240〜270g、Charles River,Margate,英国)31匹を本実験に用いた。ラットをケタミン(100mg/ml)およびキシラジン(20mg/ml)の混合物(2:1;1.5ml/kg,i.p.)で麻酔し、ケタミン/キシラジンの補充注射(200μg/kg i.p.)により麻酔状態を維持した。ブプレノルフィンを0.1mg/kg s.c.(0.5ml/kg)の量で投与した。ラットを37℃に設定したサーモスタット制御された保温マット(Harvard Apparatus Ltd.,Kent,英国)上に置いた。その後、正中線開腹を行った。解剖学上の右腎臓を除去し、腎動脈および腎静脈について以下の永久的結紮を行った。(腎動脈、静脈および神経からなる)左腎茎を分離して、非外傷性微小血管クランプを用いて0〜30分締め付けた。体温計で直腸温度を測定する方法により、虚血時の体温を35±1℃に維持した。片側性腎虚血30分後、クランプを外して再灌流を48時間行った。腎臓のクランプを外した後、37℃で生理食塩水2mlを腹部に注射して全ての切り口を2層で縫合してから、確実にリフローさせるため、さらに5分間腎臓を観察した。その後、恒温ブランケット上でラットを麻酔から回復させ、ケージに戻した。剖検24時間前にラットをそれぞれ代謝ケージに置いて尿を回収した。再灌流48時間終了時に、チオペンタール(120mg/kg i.p.,LINK Pharmaceuticals Ltd.,West Sussex,英国)でラットを再度麻酔した。
【0162】
[4.2 サンプル回収]
経時実験では、再灌流段階を通じて、ラットから連続的な血液サンプルを回収した。再灌流期間に続いて、心穿刺を介して心臓の右心室から約3.5mlの血液を非ヘパリン処理5mlシリンジに採取し、すぐに1.3ml血清ゲルチューブ(Sarstedt,ドイツ)に移した。血液を9900gで3分間遠心して血清を分離し、次いでこれを分析まで−80℃で保存した。肺、肝臓および腎臓について、各臓器の一部を切除し、液体窒素で瞬間凍結して−80℃で保存し、(必要であれば)残りを分析まで10%ホルマリン中に置いた。血清中の全ての生化学マーカーおよび尿について、営利の獣医学試験研究所(IDEXX Ltd,West Sussex,英国)にて盲検法により測定した。血清の尿素およびクレアチニンは腎機能障害の指標として用いた。クレアチニンクリアランスは糸球体機能障害の指標として用い、以下のように算出した。
【0163】
【数2】
【0164】
ナトリウム分画排泄率は、尿細管機能障害の指標として用い、以下のように算出した。
【0165】
【数3】
【0166】
[4.3 実験計画]
動物をランダムに7つの実験群に分け、再灌流24時間で1ml/kg i.v.ボーラス投与として重炭酸ナトリウム、再灌流24時間でi.v.ボーラス投与として0.3mg/kgアーテスネート、のいずれかで治療した(表2および表3参照、nは実験した動物の個体数を表す)。
【0167】
【表2】
【0168】
【表3】
【0169】
[4.4 材料および薬剤調製]
重炭酸ナトリウムはシグマアルドリッチ社から購入し、10mlチューブとして−20℃で保存した。生理食塩水はBaxter Healthcare Ltd(UKF7124)から入手した。実験開始に先立ち、アーテスネート(Guilin Pharmaceuticals Co Ltd,中国)を3mg/ml当量に調製し、1か月以内は−20℃で保存した。注射日には1当量を冷凍庫から取り出し、必要な濃度に希釈した(以下参照)。
【0170】
アーテスネート0.3mg/kg:i.v.ボーラス投与量0.3mg/kg
化合物は1ml/kgの量で投与する。
【0171】
ゆえに、各ラットの重さが250gであると想定した場合の化合物の濃度は以下のとおりである:
p.o.ボーラス濃度=0.3mg/ml
ストック濃度=1ml当量中3mg/ml
【0172】
希釈因子:3÷0.3=10
ボーラス投与量に対してラット1匹あたり1ml、すなわち重炭酸ナトリウム900μlにつき3mg/mlアーテスネートストック100μlが要される。
【0173】
[4.5 統計的評価]
表および図の全数値は、n回観測の平均値±SEMとして表し、nは実験した動物の個体数を表す。全ての統計的分析は、GraphPad Prism 6.0(GraphPad Software,San Diego,California,米国)を用いて計算した。生化学的データは、2つより多くの群を表すデータについてはone−way ANOVAにより分析し、次いで、コントロール賦形剤を用いた偽/治療群との比較のためにDunnett’s post hoc testを行った。0.05未満のP値は有意であるとみなした。
【0174】
[4.6 虚血および再灌流に起因する腎機能障害に対する時間およびアーテスネートの効果]
基準値(再灌流0時間)と比較して、片側性腎虚血を30分受けたラットは、再灌流24時間で腎機能障害のピークに達し、その後治療介入なしで腎機能が漸進的に回復した(
図9A−B)。
【0175】
偽手術ラットと比較して、片側性腎虚血30分および再灌流48時間を施されたラットは、血清尿素(5.75±0.28→34.13±2.23mmol/L)(P<0.05、
図9C)、および血清クレアチニン(35.60±1.26→205.90±22.23μmol/L)(P<0.05、
図9D)の有意な増加を示した。これらの結果は、急性腎損傷の発症を示している。虚血/再灌流のみ受けたラットと比較して、再灌流24時間(機能障害のピーク)で0.3mg/kgアーテスネートを用いた治療は、血清尿素(34.13±2.23→21.63±1.51mmol/L)(P<0.05、
図9C)、および血清クレアチニン(205.90±22.23→115.4±9.72μmol/L)(P<0.05、
図9D)を有意に弱めた。
【0176】
[4.7 虚血および再灌流に起因する糸球体機能障害に対する時間およびアーテスネートの効果]
基準値(再灌流0時間)と比較して、片側性腎虚血を30分受けたラットは、再灌流24時間で糸球体機能障害のピークに達し、その後治療介入なしで糸球体機能が漸進的に回復した(
図10A)。
【0177】
偽手術ラットと比較して、片側性腎虚血30分および再灌流48時間を受けたマウスは、推定クレアチニンクリアランスの有意な増加を示した(0.51±0.02→0.08±0.01ml/min/100gbw)(P<0.05、
図10B)。これらの結果は、急性腎損傷の発症を示している。虚血/再灌流のみを受けたラットと比較して、再灌流24時間(機能障害のピーク)で0.3mg/kgアーテスネートを用いた治療は、推定クレアチニンクリアランスを有意に弱めた(0.08±0.01→0.14±0.02ml/kg/100gbw)(P<0.05、
図10B)。
【0178】
[4.8 虚血および再灌流に起因する尿細管機能障害に対する時間およびアーテスネートの効果]
基準値(再灌流0時間)と比較して、片側性腎虚血を30分受けたラットは、再灌流24時間で尿細管機能障害のピークに達し、その後治療介入なしで糸球体機能が漸進的に回復した(
図11A)。
【0179】
偽手術ラットと比較して、片側性腎虚血30分および再灌流48時間を受けたマウスは、ナトリウム分画排泄率の有意な上昇を示した(0.59±0.07→4.45±0.65%)(P<0.05、
図11B)。これらの結果は急性腎損傷の発症を示している。虚血/再灌流のみを受けたラットと比較して、再灌流24時間(機能障害のピーク)で0.3mg/kgアーテスネートを用いた治療は、ナトリウム分画排泄率を有意に弱めた(4.45±0.65→1.90±0.17%)(P<0.05、
図11B)。
【0180】
[4.9 要約および結論]
右腎摘出術後に片側腎虚血を30分受けたマウスは、(血清クレアチニンおよび尿素の増加で示される)腎機能障害、(推定クレアチニンクリアランスの減少で示される)糸球体機能、および(ナトリウム分画排泄率の上昇で示される)尿細管機能障害の一時的な向上を示した。機能障害のピークは再灌流開始24時間後で起こり、漸進的に減少して、再灌流開始72時間後に機能回復をもたらした。
【0181】
腎、糸球体および尿細管機能障害のピーク(再灌流開始24時間後)で、0.3mg/kg(i.v.)の用量のアーテスネートを用いた治療は、24時間以内に腎、糸球体および尿細管機能の顕著な改善をもたらした。