特許第6144789号(P6144789)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6144789転写材、記録物、記録物の製造方法、画像記録装置及び記録物の製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6144789
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】転写材、記録物、記録物の製造方法、画像記録装置及び記録物の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B44C 1/17 20060101AFI20170529BHJP
   B41M 5/52 20060101ALI20170529BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20170529BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20170529BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20170529BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20170529BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   B44C1/17 A
   B41M5/52 110
   B41M5/00 120
   B41M5/00 100
   B41J2/01 501
   B41J2/01 125
   B41J2/01 101
   B32B27/20 A
   B32B27/30 A
   B32B27/40
【請求項の数】10
【全頁数】66
(21)【出願番号】特願2016-20177(P2016-20177)
(22)【出願日】2016年2月4日
【審査請求日】2016年2月24日
(31)【優先権主張番号】特願2015-76846(P2015-76846)
(32)【優先日】2015年4月3日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-239720(P2015-239720)
(32)【優先日】2015年12月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000208743
【氏名又は名称】キヤノンファインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澄川 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】筒井 喬紘
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−174965(JP,A)
【文献】 特開2004−284310(JP,A)
【文献】 特開2002−121515(JP,A)
【文献】 特開2003−025715(JP,A)
【文献】 特開2008−018645(JP,A)
【文献】 特開2003−285542(JP,A)
【文献】 特開平10−181192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C63/00−65/82
B32B1/00−43/00
B41M5/00,5/382−5/52
B44C1/16−1/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シート、透明シート及び色材受容層がこの順で積層された積層構造を有する転写材であって、
前記色材受容層は、無機微粒子及び水溶性樹脂を含有し、
前記透明シートは、樹脂E1及び樹脂E2の少なくとも2種類の樹脂を含有しており、
前記樹脂E1のガラス転移温度Tg1は50℃より大きく90℃未満、前記樹脂E2のガラス転移温度Tg2は90℃以上120℃以下であり、少なくとも前記樹脂E2は、前記透明シート中に粒子状態で残存しており、
前記樹脂E1と前記樹脂E2の比率(E1/E2)が下記式(1)を満たしていることを特徴とする転写材。
3.0≦E1/E2≦65.0 (1)
【請求項2】
前記樹脂E1と前記樹脂E2がアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン/酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂から選択される請求項1に記載の転写材。
【請求項3】
前記樹脂E1がアクリル系樹脂であり、前記樹脂E2がウレタン系樹脂である請求項1に記載の転写材。
【請求項4】
画像支持体、画像が記録された色材受容層、および透明シートが積層された記録物であって、
前記画像は、前記画像支持体と当接する前記色材受容層の面に形成され、
前記色材受容層および前記透明シートは、請求項1から3のいずれか一項に記載の前記転写材から転写されることを特徴とする記録物。
【請求項5】
前記記録物の前記透明シートに含まれる前記樹脂E2の一部あるいは全てが造膜している請求項に記載の記録物。
【請求項6】
前記転写材の前記色材受容層に記録された前記画像は、反転画像である請求項に記載の記録物。
【請求項7】
前記転写材の前記色材受容層に記録された前記画像は、顔料インクにより形成されている請求項に記載の記録物。
【請求項8】
前記転写材の前記色材受容層に記録された前記画像は、インクジェット方式により形成されている請求項に記載の記録物。
【請求項9】
画像支持体と、画像が記録された色材受容層および透明シートが積層された記録物を製造する製造方法であって、
請求項1から3のいずれか一項に記載の前記転写材の前記色材受容層に前記画像を記録する工程1と、
前記色材受容層に前記画像が記録された前記転写材を、前記色材受容層の側から前記画像支持体に加熱圧着する工程2と、
前記転写材から前記基材シートを剥離して、前記画像が記録された前記色材受容層及び前記透明シートがこの順で積層された前記記録物を得る工程3と、
を含むことを特徴とする記録物の製造方法。
【請求項10】
前記工程2の加熱圧着時に前記転写材の転写部に含まれる前記樹脂E2の一部あるいは全てを造膜し、かつ、前記転写材の非転写部に含まれる少なくとも前記樹脂E2を粒子として残存させ、
前記工程3で、前記転写部に含まれる前記樹脂E2の一部あるいは全てを造膜し、且つ前記非転写部に含まれる前記樹脂E2を粒子として残存させた状態を維持したまま、前記転写材から前記基材シートを剥離して前記記録物を得る請求項に記載の記録物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写材、記録物、記録物の製造方法、画像記録装置及び記録物の製造装置に関する。さらに詳しくは、基材シート、透明シート及び色材受容層がこの順で積層された積層構造を有する転写材、この転写材を用いた記録物及びこの記録物の製造方法、並びに記録物の製造に用いられる画像記録装置及びこの画像記録装置を用いた記録物の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の熱転写記録方法が知られている。それらの中でも、基材シート上に着色転写層を形成した熱転写シートを用いる熱転写方法であって、熱転写シートの背面からサーマルヘッド等により、形成すべき画像に沿う形状に加熱して、着色転写層を熱転写受像シートの表面に熱転写して、画像形成する熱転写方法が一般的である(特許文献1)。この熱転写方法は、マルチメディアに関連した様々なハードウエア及びソフトウエアの発達により、コンピューターグラフィックス;衛星通信による静止画像;CD−ROM等に記録されたデジタル画像;ビデオ等のアナログ画像;等の多種多様な画像のフルカラーのハードコピーシステムの市場を拡大している。
【0003】
紙、樹脂製品、及び金属等の各種材質からなる対象物に画像を形成して記録物を得る場合、従来では、対象物に対して熱転写方式で画像を形成する。この熱転写方式は、着色転写層の構成によって、熱溶融転写方式と昇華転写方式とに大別される。両方式ともに、フルカラー画像の形成が可能であり、例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、さらに必要に応じてブラックの三色又は四色の熱転写シートを用意する。そして、1枚の熱転写受像シートの表面に各色の画像を重ねて熱転写して、フルカラー画像を形成する。
【0004】
熱溶融転写方式により記録物を製造する方法としては、例えば、基材上に剥離可能な受容層が設けられた転写材と、染料層を有する熱転写シートとを用いる方法であって、染料層の染料を受容層に転写して転写材に画像を形成した後、その転写材を対象物に当接させた状態で加熱し、受容層を対象物に転写する、記録物の製造方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
また、昇華転写方式により記録物を製造する方法としては、昇華転写型の熱転写シートを用いて画像を形成する記録物の製造方法が提案されている(特許文献3)。
【0006】
昇華転写型の熱転写シートは、顔写真等の階調性画像を精密に形成することができる。反面、当該画像は、通常の記録インクにより形成された画像とは異なり、耐候性、耐摩擦性、及び耐薬品性等の耐久性に欠けるという不具合がある。その解決策として、熱転写画像上に熱転写性樹脂層を有する保護層熱転写フィルムを重ね合わせる方法であって、サーマルヘッド又は加熱ロール等を用いて、透明性を有する熱転写性樹脂層を転写させ、画像上に保護層を形成する方法がある(特許文献4)。
【0007】
また、対象物に対して熱転写方式で画像を形成することに代えて、インクジェット方式で画像を形成する方法も提案されている。例えば、転写材の受容層にインクジェット方式で画像を印画する技術であって、この転写材と被転写体とを重ね合わせて加熱し、被転写体に受容層を転写する技術も提案されている(特許文献5、及び特許文献6)。
【0008】
受容層を保護する技術としては、例えば基材上に少なくとも表面層及び接着層を積層したラミネートフィルムの表面層に2種類以上のエマルジョンを含有する方法が提案されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−238791号公報
【特許文献2】特開2000−238439号公報
【特許文献3】特開2003−211761号公報
【特許文献4】特開2008−44130号公報
【特許文献5】特表2006−517871号公報
【特許文献6】特開平8−207450号公報
【特許文献7】特開2002−121515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
転写により保護層と色材受容層を画像支持体上に形成するには、剥離工程において、剥離時の端部にバリ等が発生しないように、保護層と色材受容層の端部の切れ(箔切れ性)を良好にする必要がある。同時に、テープ剥離等の試験において保護層と色材受容層との間で剥がれないように保護層と色材受容層との接着性を良好にする必要がある。さらにICカードなど長期間にわたって使用される記録物には高度な耐久性(耐薬品性及び耐擦過性)が求められる。また、記録物には保護層表面のべたつきがないなどの保護層の質感も求められる。
【0011】
しかしながら、特許文献5及び6では、端部の切れ性、耐薬品性、及びべたつきについての十分な説明がなされていない。また、保護層は樹脂を用いた膜であるため、剥離時に端部にバリが発生する等端部の切れ性については不十分である。
【0012】
一方、特許文献7では、Tg30℃以下とTg80℃以上のエマルジョンを用いている。しかし、特にTg30℃以下の低Tgのエマルジョンを用いると保護層表面がべたついてしまい、質感が低下するとともにロール形状にした時にブロッキングが発生しやすい課題があった。
【0013】
本発明は、上述の課題を解決するためになされ、端部の切れ性向上、及び色材受容層と透明シートとの接着性の向上、耐薬品性の向上、べたつき防止を達成することが可能な転写材、記録物、記録物の製造方法、画像記録装置及び記録物の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明によれば、以下に示す、転写材、記録物、記録物の製造方法、画像記録装置及び記録物の製造装置が提供される。
【0015】
[1]転写材:
基材シート、透明シート及び色材受容層がこの順で積層された積層構造を有する転写材であって、前記色材受容層は、無機微粒子及び水溶性樹脂を含有し、前記透明シートは、エマルジョンE1及びエマルジョンE2の少なくとも2種類のエマルジョンを含有しており、前記エマルジョンE1のガラス転移温度Tg1は50℃より大きく90℃未満、前記エマルジョンE2のガラス転移温度Tg2は90℃以上120℃以下であり、少なくとも前記エマルジョンE2は、前記透明シート中に粒子状態で残存していることを特徴とする転写材。
【0016】
[2]記録物:
画像支持体、画像が記録された色材受容層、および透明シートが積層された記録物であって、前記色材受容層および前記透明シートは、前記[1]に記載の前記転写材から転写されることを特徴とする記録物。
【0017】
[3]記録物の製造方法:
画像支持体と、画像が記録された色材受容層および透明シートが積層された記録物を製造する製造方法であって、基材シート、透明シート及び色材受容層がこの順で積層された積層構造を有する転写材であって、前記色材受容層は無機微粒子及び水溶性樹脂を含有し、前記透明シートはエマルジョンE1及びエマルジョンE2の少なくとも2種類のエマルジョンを含有している転写材の、前記色材受容層に前記画像を記録する工程1と、前記色材受容層に前記画像が記録された前記転写材を、前記色材受容層の側から前記画像支持体に加熱圧着する工程2と、前記転写材から前記基材シートを剥離して、前記画像が記録された前記色材受容層及び前記透明シートがこの順で積層された前記記録物を得る工程3と、を含むことを特徴とする記録物の製造方法。
【0018】
[4]画像記録装置:
前記[1]に記載の前記転写材を搬送経路に送り出す供給部と、前記搬送経路に送り出された前記転写材の前記色材受容層に、色材を付与して画像を記録する記録部と、を備えたことを特徴とする画像記録装置。
【0019】
[5]記録物の製造装置:
前記[2]に記載の前記記録物を製造する製造装置であって、前記[4]に記載の前記画像記録装置と、前記画像支持体を前記搬送経路に送り出す画像支持体供給部と、前記搬送経路に送り出された前記画像支持体に前記転写材を付着させる付着部と、前記転写材から前記基材シートを剥離する剥離部と、を備えたことを特徴とする記録物の製造装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によって、端部の切れ性向上、色材受容層と透明シートとの接着性向上、透明シートのべたつきを低減して耐ブロッキング性向上、及び記録物の耐薬品性の向上を達成することが可能な転写材、記録物、記録物の製造方法、画像記録装置及び記録物の製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の記録物の一の実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の転写材の一の実施形態を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の転写材の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の転写材の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図5】隙間吸収型の色材受容層に顔料インクが定着した状態を示す断面図である。
図6】膨潤吸収型の色材受容層にインクが定着した後の色材受容層の膨潤状態を示す断面図である。
図7】隙間吸収型の色材受容層に染料インクが定着した後に染料インクがマイグレーションした状態を示す断面図である。
図8】転写材にマーキングを印刷した状態を示す説明図である。
図9】転写材に貼り合わせガイドを印刷した状態を示す説明図である。
図10】転写材の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
図11】転写材を画像支持体に貼付した状態において、積層体を厚さ方向に切断した場合を示す断面図である。
図12】転写材を画像支持体に貼付し、記録物を形成した状態を模式的に示す斜視図である。
図13】転写材と画像支持体との積層体から分離爪により基材シートを剥離する工程を模式的に示す断面図である。
図14】転写材と画像支持体との積層体から剥離ロールにより基材シートを剥離する工程を模式的に示す断面図である。
図15】画像支持体の両面に転写材を貼付した状態を模式的に示す上面図及び側面図である。
図16】記録物を製造する製造装置の第1の構成例を模式的に示す説明図である。
図17】製造装置とコントローラとの接続状態を示すブロック図である。
図18図17に示した記録部の制御系の構成を示すブロック図である。
図19】製造装置の動作フローを示すフローチャートである。
図20】記録物の製造方法の工程を示す工程図である。
図21】透明シートの表面状態を示す説明図で、エマルジョンの一方が造膜し、他方が粒子として残存している状態を示す。
図22】透明シートの表面状態を示す説明図で、すべてのエマルジョンが造膜している状態を示す。
図23】転写材を画像支持体に加熱圧着した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に限定されず、その発明特定事項を有する全ての対象を含む。なお、同一構造の部材については図面において同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0023】
本発明者等は、上述の課題について鋭意検討を行った結果、端部の切れ性に優れ、透明シートと色材受容層との接着性が良好であり、透明シートのべたつきを低減して耐ブロッキング性を向上し、且つ記録物の耐薬品性の向上させることが可能な転写材を実現することができた。
【0024】
転写材は、基材シート、透明シート及び色材受容層がこの順で積層された積層構造を有する。色材受容層は、無機微粒子及び水溶性樹脂を含有し、透明シートは、少なくともエマルジョンE1及びエマルジョンE2を含有し、エマルジョンE1のガラス転移温度Tg1は50℃より大きく90℃未満であり、かつエマルジョンE2のガラス転移温度Tg2は90℃以上120℃以下であり、少なくともエマルジョンE2が粒子として残存した状態である。
【0025】
2種類のエマルジョンを用いることで、透明シートの保護性能を保ちつつ、エマルジョン粒子を均一に分散された透明シートを形成することができる。
【0026】
透明シートに2種類のエマルジョンを用いてガラス転移温度を制御し、エマルジョンE1を膜状態、エマルジョンE2を粒子状態することで、以下の効果を得ることができる。
(1)透明シートと色材受容層の接着性が向上し、転写不良を抑制できる。
(2)剥離時の透明シートの箔切れ性が向上する。
(3)透明シートの耐薬品性が向上し、高耐久にすることができる。
(4)透明シートのべとつきがなくなり、透明シートの質感が向上する。
【0027】
まず、効果(1)について説明する。透明シートに2種類のエマルジョンを用いて2種類のエマルジョンのガラス転移温度を制御し、エマルジョンE1を膜状態、エマルジョンE2を粒子状態にする。すると、エマルジョンE1が粒子状態で存在するエマルジョンE2のバインダーとして作用する。エマルジョンE1が膜状態になると色材受容層の水溶性樹脂と密着するようになり、透明シートと色材受容層の接着性が向上する。接着性が向上することで、剥離工程で基材シートを剥離した時に、透明シートと色材受容層の界面で剥離がおこる剥離不良を防止できる。
【0028】
次に効果(2)について説明する。エマルジョンE2を粒子状態とすることで、図23に示すように加熱圧着時に、画像支持体55と色材受容層が接着している部分963の透明シート部分980と、画像支持体と色材受容層が接着していない部分964の透明シート部分981と、で膜状態が異なるように制御することができる。すなわち、加熱圧着時において、透明シート部分980はヒートロールの熱が伝わりやすいため、エマルジョンE2の一部が膜化して一部粒子が残存した状態(図23(b))、あるいは透明シートのエマルジョンE2が完全に皮膜化した状態(図23(c))になる。このとき、一部あるいは完全に膜化したエマルジョンE2は、予め膜化しているエマルジョンE1と結合力が強化されて透明シートの膜強度を強化することができる。一方、透明シート部分981はヒートロールの熱が伝わらないため、エマルジョンE2を粒子状態のままにすることができる。透明シート部分980と透明シート部分981では膜の状態が異なるため、剥離工程では、境界部982を基点としてクラックが入りやすくなる。以上から、2種類のエマルジョンを用いて、エマルジョンE2の膜状態を加熱圧着時の温度を利用して変化させることにより、箔切れが良好することができる。一方で、転写部と非転写部の境なく透明シート全体を膜状態にした場合は、クラックが入りにくく箔切れ性が低下する。
【0029】
また、効果(3)については、一般的にエマルジョンは、Tgが高くなると、エマルジョン樹脂の分子鎖間に働く力が強くなるため、アルコールなどの溶剤に溶けにくくなり、耐薬品性が向上する。また、エマルジョンが硬い樹脂となるため、耐擦過性などの耐久性も向上する。このため、ガラス転移温度が50℃より大きいエマルジョンを用いる。このとき、硬度の高いエマルジョンE1が膜状態であると、透明シートの膜強度が高くなり、耐擦過性が向上し、アルコールに浸漬したときにも、透明シートが色材受容層からはがれる不良を防止することができる。
【0030】
さらに効果(4)ついて説明する。エマルジョンE1のガラス転移温度Tg1を50℃より大きく、エマルジョンE2のTg2は90℃以上にすると、各々の樹脂は伸びにくくなり、さらに手の油脂又は汗になじみにくくなるため、透明シートのべたつきが防止できる。特に、Tgが50℃より大きいと、硬度が硬く伸びにくいエマルジョンE1は膜化してもこの性質を維持できるため、透明シートに触ったときのべたつきを押さえることができ、質感を向上できる。
【0031】
上記4つの効果により、本実施形態の転写材では、エマルジョンE1のガラス転移温度Tg1は50℃より大きく90℃未満であり、かつエマルジョンE2のガラス転移温度Tg2は90℃以上120℃以下であり、少なくともエマルジョンE1を膜状態とし、少なくともエマルジョンE2を粒子として残存した状態とする。これにより、耐薬品性向上、接着性向上、端部の切れ性向上、及びべたつき防止の全てを成立させるに至った。
【0032】
但し、本実施形態の転写材のように透明シートにガラス転移温度が室温より十分に高い2種類のエマルジョンを含有する場合は、透明シート形成時もしくは色材受容層形成時の加熱乾燥温度を精密に制御する必要がある。すなわち、エマルジョンはガラス転移温度を境として、膜状態あるいは粒子状態が変化するため、塗工時の温度管理が不十分になるとエマルジョンの存在状態が変化する場合がある。
【0033】
そこで、透明シート形成時あるいは色材受容層形成時の乾燥温度をガラス転移温度Tg1以上且つガラス転移温度Tg2より小さくするように制御することが好ましい。エマルジョンはガラス転移温度以上で加熱することで膜化させることができ、ガラス転移温度以上の温度を加えなければ粒子として残存する。ガラス転移温度が室温より十分に高いエマルジョンE1とE2を透明シートに使用する場合においては、塗工時の乾燥温度を考慮しなければ十分な効果は得られない。すなわちエマルジョン塗布後にガラス転移温度Tg1以下で乾燥した場合、エマルジョンE1とE2は両方粒子状態であって、色材受容層形成時に透明シートのエマルジョンのはがれ又は粉落ちが発生する場合があり、色材受容層が均一に形成できない。一方、エマルジョン塗布後の乾燥温度をガラス転移温度Tg2以上にするとエマルジョンE1とE2は両方とも膜状態となって、箔切れ性が得られない。
【0034】
エマルジョンE1とエマルジョンE2の比率を精密に制御すると前述の効果をさらに高めることができる。すなわち、比率E1/E2は下記式(1)を満たし、より好ましくは5.0≦E1/E2≦50.0、さらにより好ましくは10.0≦E1/E2≦35.0を満たすことが好ましい。比率E1/E2を65.0以下、さらに好ましくは50.0以下、より好ましくは35.0以下にすることで、エマルジョンE2が増加する。粒子成分が増えることで、画像支持体55と色材受容層が接着している部分963の透明シート部分980に含有され、加熱転写時の熱で溶融軟化し、膜状態となったエマルジョンと、画像支持体と色材受容層が接着していない部分964の透明シート部分981に含有される粒子状態のエマルジョンの膜強度の差が大きくなる。これにより、境界部982でクラックが入り易くなり、端部にバリの発生がなく箔切れ性を良好にすることができる。一方、比率E1/E2が3.0以上、より好ましくは5.0以上、さらにより好ましくは10.0以上とすることで、エマルジョンE1が増加する。造膜成分が増える。ことで膜強度が向上し、色材受容層を塗工したときの収縮によってもひびが入りにくくすることができる。さらに造膜成分が増えることで色材受容層との接触面積が大きくなり、色材受容層と透明シートの接着性を向上させる効果もある。特に10.0≦E1/E2≦35.0の範囲にすることで接着性と端部の切れ性、及びひび割れ防止を高レベルで両立できる。比率E1/E2が65.0より大きくなると、粒子成分が少なくなり、膜の状態に近づくため、境界部982にクラックが入りにくく、箔切れ性が得られない。また比率E1/E2が3.0より小さいと、エマルジョンE2のバインダーとなるエマルジョンE1が少なくなる。そのため、色材受容層形成時に透明シートのエマルジョンのはがれ又は粉落ちが発生する場合があり、色材受容層が均一に形成できない。さらには膜成分が少なくなるため、色材受容層との接着性が低下し、透明シートのはがれが発生しやすくなる。
3.0≦E1/E2≦65.0 (1)
【0035】
本実施の形態では、図20に示すように、まず転写材の色材受容層53に記録ヘッド607で反転画像72を記録する(工程1)。次に、ヒートロール21を用いて転写材と画像支持体を加熱圧着して、画像支持体55に色材受容層53を転写させる(工程2)。最後に剥離ロール88を用いて基材シート50を剥離する(工程3)ことで、記録物を得ることができる。
【0036】
本実施の形態の記録物は、画像支持体、画像が記録された色材受容層および透明シートが積層された記録物であって、色材受容層および透明シートは、後述する転写材から転写された記録物である。
【0037】
後述する[3]の工程2の加熱圧着温度を制御することで記録物の透明シートに含まれるエマルジョンE2を粒子状態又は膜状態に変化させることが出来る。すなわち転写温度を色材受容層に含まれる水溶性樹脂のガラス転移温度以上且つTg2以上とすることで透明シート中のエマルジョンE2が一部造膜、あるいは全て造膜した状態の記録物を作成することが出来る。一方で転写温度を色材受容層に含まれる水溶性樹脂のガラス転移温度以上、かつTg1以上、かつTg2未満とすることで透明シートのエマルジョンE2が粒子として残存した記録物を作成することが出来る。透明シートのエマルジョンE2の一部あるいは全てが造膜している記録物がより好ましく、記録物のエマルジョンE2を造膜させることで予め膜化しているエマルジョンE1と結合力が強化されて透明シートの膜強度を強化することができる。
【0038】
記録物の製造方法としては、工程2の加熱圧着時に、画像支持体55と色材受容層が接着している部分963の透明シート部分980に含まれるエマルジョンE2の一部あるいは全てを造膜し、かつ、画像支持体と色材受容層が接着していない部分964の透明シート部分981に含まれるエマルジョンE2を粒子として残存させ、工程3で、透明シート部分980に含まれるエマルジョンE2の一部あるいは全てを造膜し且つ透明シート部分981に含まれるエマルジョンE2を粒子として残存させた状態を維持したまま、転写材から基材シートを剥離して記録物を得ることが好ましい。
【0039】
画像支持体55と色材受容層が接着している部分963の透明シート部分980は、ロールと画像支持体に転写材がはさまれて圧力がかかった状態になる。そのため、転写材への伝熱効率が高くなって、転写温度をTg2以上とした場合に、エマルジョンE2がTg2以上に加熱されて膜状態になる。一方で画像支持体と色材受容層が接着していない部分964の透明シート部分981は、転写材に圧力がかからない状態となる。そのため、伝熱効率が著しく低下し、転写温度Tg2以上とした場合でもエマルジョンE2はTg2以上に加熱されることはなく、粒子として残存する。
【0040】
このように加熱圧着時に、画像支持体55と色材受容層が接着している部分963の透明シート部分980に含まれるエマルジョンE2の一部あるいは全てを造膜し、かつ、画像支持体と色材受容層が接着していない部分964の透明シート部分981に含まれるエマルジョンE2を粒子として残存させ、工程3で、透明シート部分980に含まれるエマルジョンE2の一部あるいは全てを造膜し且つ透明シート部分981に含まれるエマルジョンを粒子として残存させた状態を維持したまま、転写材から基材シートを剥離する。すると、透明シート部分980については記録物のエマルジョンE2が造膜させることで予め膜化しているエマルジョンE1と結合力が強化される。透明シート部分981はエマルジョンE2が粒子として残存しているため、結合力は弱い状態となる。このような結合部と非結合部で結合力に違いを出すことで、境界部にクラックが入りやすくなり、端部にそってより綺麗に転写することができるようになるため、より箔切れ性は向上する。
【0041】
[1]転写材:
本実施形態の転写材は基材シート、透明シート及び色材受容層がこの順で積層された積層構造を有する転写材であって、色材受容層は、無機微粒子及び水溶性樹脂を含有し、透明シートは、エマルジョンE1及びエマルジョンE2を含有し、エマルジョンE1のガラス転移温度Tg1は50℃より大きく90℃未満であり、エマルジョンE2のガラス転移温度Tg2は90℃以上120℃以下であり、少なくともエマルジョンE2が粒子として残存した状態である。
【0042】
具体的に、本実施の形態の転写材1は、図2に示すように、色材を受容する色材受容層53と、透明シート52と、色材受容層53及び透明シート52を支持する基材シート50と、を備えている。転写材は、基材シート上に色材受容層を備え、転写材に画像を記録後、画像支持体に色材受容層を転写により設ける際の中間シートとして作用する。転写材の色材受容層を画像支持体に転写することで画像支持体の色材受容層に画像が形成できるようになる。図2は、本実施の形態の転写材の一の実施形態を示し、転写材1を厚さ方向に切断した場合を示す断面図である。本実施の形態の転写材は、図2に示す転写材1のように、基材シート50、透明シート52及び色材受容層53、を備えた転写材である。
【0043】
[1−1]色材受容層:
色材受容層は、色材を受容する層である。そして、色材受容層は、少なくとも無機微粒子、水溶性樹脂を含有する。色材受容層の好ましい形態としては、水溶性高分子の網目構造中に色材(例えばインク等)を受容する膨潤吸収型と、無機微粒子により形成される空隙中に色材を受容する空隙吸収型とが存在する。本実施の形態の転写材は、少なくとも無機微粒子及び水溶性樹脂を含有する組成物からなる空隙吸収型の色材受容層を備えている。空隙吸収型の色材受容層は、無機微粒子によって形成される空隙によって色材を速やかに吸収することができる。従って、転写材を画像支持体に加熱圧着させる際に、色材が急激に突沸することが少なく、転写材と画像支持体とが完全に接着しない不具合(接着性不良)、及び転写材と画像支持体との間に気泡が残る不具合(気泡残り)を抑制することができる。また、色材受容層が無機微粒子を含有することで図23に示すように無機微粒子の隙間にクラックが入りやすくなることで端部のバリ残りを抑制することができる。
【0044】
色材受容層を形成する際に、無機微粒子の平均粒子径と、水溶性樹脂の重量平均重合度及びけん化度とを精密に制御することが好ましい。これにより、色材受容層の透明性(透過性)、及び色材受容層と透明シートとの接着強度を向上させることができる。これにより、透明シートの側からの画像の視認性を向上させることができる。従って、色材として、色材受容層に浸透し難い顔料インクを使用した場合でも、インク密度を増加させるために、又は多量のインクを受容させるために色材受容層の厚さを増大させる必要がない。このため、転写材、延いては記録物の全体厚さを薄厚化することができる。
【0045】
[1−1−1]無機微粒子:
無機微粒子は、無機材料からなる微粒子である。無機微粒子は色材受容層に色材を受容する空隙を形成する機能を有する。
【0046】
無機微粒子を構成する無機材料の種類としては特に制限はない。ただし、インク吸収能が高く、発色性に優れ、高品位の画像が形成可能な無機材料であることが好ましい。例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、ケイソウ土、アルミナ、コロイダルアルミナ、水酸化アルミニウム、ベーマイト構造のアルミナ水和物、擬ベーマイト構造のアルミナ水和物、リトポン(硫酸バリウムと硫化亜鉛の混合物)、ゼオライト等を挙げることができる。
【0047】
これらの無機材料からなる無機微粒子の中でも、アルミナ及びアルミナ水和物からなる群より選択される少なくとも1種の物質からなるアルミナ微粒子が好ましい。アルミナ水和物としては、ベーマイト構造のアルミナ水和物、及び擬ベーマイト構造のアルミナ水和物等を挙げることができる。アルミナ、ベーマイト構造のアルミナ水和物、及び擬ベーマイト構造のアルミナ水和物は、色材受容層の透明性及び画像の記録濃度を向上させることができる点において好ましい。
【0048】
ベーマイト構造のアルミナ水和物は、長鎖のアルミニウムアルコキシドに対して酸を添加して加水分解・解膠を行うことによって得ることができる(特開昭56−120508号公報参照)。解膠には有機酸及び無機酸のいずれを用いてもよい。ただし、硝酸を用いることが好ましい。硝酸を用いることにより、加水分解の反応効率を向上させることができ、形状が制御されたアルミナ水和物を得ることができ、分散性が良好な分散液を得ることができる。
【0049】
無機微粒子は、その平均粒子径が120〜200nmであることが好ましい。平均粒子径を、好ましくは120nm以上、さらに好ましくは140nm以上とすることで、色材受容層のインク吸収性を向上させることができ、記録後の画像におけるインクの滲み及びビーディングを抑制することができる。一方、平均粒子径を、好ましくは200nm以下、さらに好ましくは170nm以下とすることで、無機微粒子による光散乱を抑制し、色材受容層の光沢性及び透明性を向上させることができる。また、色材受容層の単位面積当たりの無機微粒子数を増加させることができるため、インク吸収性を向上させることができる。従って、画像の記録濃度を向上させることができ、記録後の画像のくすみを抑制することができる。
【0050】
無機微粒子としては、公知の無機微粒子をそのまま用いてもよいし、又は粉砕分散機等を用いて公知の無機微粒子の平均粒子径及び多分散指数を調整した無機微粒子を用いてもよい。粉砕分散機の種類としては特に制限はない。例えば、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、湿式メディア型粉砕機(サンドミル、ボールミル)、連続式高速撹拌型分散機、及び超音波分散機等の従来公知の粉砕分散機を用いることができる。
【0051】
粉砕分散機をより具体的に例示すると、以下全て商品名で、マントンゴーリンホモジナイザー、ソノレータ(以上、同栄商事製);マイクロフルイタイザー(みずほ工業製);ナノマイザー(月島機械製);アルティマイザー(伊藤忠産機製);パールミル、グレンミル、トルネード(以上、浅田鉄鋼製);ビスコミル(アイメックス製);マイティーミル、RSミル、SΓミル(以上、井上製作所製);荏原マイルダー(荏原製作所製);ファインフローミル、キャビトロン(以上、太平洋機工製);等を挙げることができる。
【0052】
また、無機微粒子は、平均粒子径の範囲を満たし、かつ、多分散指数(μ/<Γ>2)が0.01〜0.20であることが好ましく、0.01〜0.18とすることがさらに好ましい。上述の範囲に設定することで粒子の大きさを一定に保つことが可能になるため、色材受容層の光沢性及び透明性を向上させることができる。従って、画像の記録濃度を向上させることができ、記録後の画像のくすみを抑制することができる。
【0053】
なお、本明細書にいう平均粒子径および多分散指数は動的光散乱法によって測定された値を、「高分子の構造(2)散乱実験と形態観察 第1章 光散乱」(共立出版 高分子学会編)、或いはJ.Chem.Phys.,70(B),15 Apl.,3965(1979)に記載のキュムラント法により解析することで求めることができる。動的光散乱の理論によれば、異なる粒径を持つ微粒子が混在している場合、散乱光からの時間相関関数の減衰に分布を有する。この時間相関関数をキュムラント法により解析することで、減衰速度の平均(<Γ>)と分散(μ)が求まる。減衰速度(Γ)は粒子の拡散係数と散乱ベクトルの関数で表わされるため、ストークス−アインシュタイン式を用いて、流体力学的平均粒径を求めることができる。従って、減衰速度の分散(μ)を平均の二乗(<Γ>2)で除した多分散指数(μ/<Γ>2)は、粒径の散らばりの度合いを表わしており、値が0に近づく程、粒径の分布は狭くなることを意味する。本発明で定義される平均粒子径及び多分散指数は、例えば、レーザー粒径解析装置PARIII(大塚電子製)等を用いて容易に測定することができる。
【0054】
無機微粒子は1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。「2種以上」とは、材質自体が異なる無機微粒子の他、平均粒子径及び多分散指数等の特性が異なる無機微粒子も含まれる。
【0055】
[1−1−2]水溶性樹脂:
水溶性樹脂は、25℃において、水と完全に混和するか、水に対する溶解度が1(g/100g)以上の樹脂である。水溶性樹脂は、無機微粒子を結着するバインダーとして機能する。
【0056】
水溶性樹脂としては、下記式(2)を満たす水溶性樹脂であれば、特に制限はない。|ΔSP|が0.6以上になると水溶性樹脂とエマルジョンE1の分子間力が弱くなり、色材受容層と透明シートの接着性が低下して、テープ剥離等の試験において透明シートと色材受容層との間で剥がれが生じるため好ましくない。上記の範囲にすることで、水溶性樹脂とエマルジョンE1の分子間力により強力に接着することができ、透明シートと色材受容層の接着性を向上させることができる。
0≦|ΔSP|≦0.6 (2)
【0057】
例えば、澱粉、ゼラチン、カゼイン及びこれらの変性物;
メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;
ポリビニルアルコール(完全けん化、部分ケン化、低けん化等)又はこれらの変性物(カチオン変性物、アニオン変性物、シラノール変性物等);
尿素系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、エピクロルヒドリン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエチレンイミン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルピロリドン系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸又はその共重合体樹脂、アクリルアミド系樹脂、無水マレイン酸系共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂等の樹脂;等を挙げることができる。
【0058】
水溶性樹脂の中でも、ポリビニルアルコール、特にポリ酢酸ビニルを加水分解(けん化)することにより得られる、けん化ポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールのSP値はPVC及びPET−GのSP値と値が近い。従って、したがって、転写時の熱で水溶性樹脂および画像支持体が溶融すると両者の相溶性が高まり、水溶性樹脂は画像支持体に強固に接着される。ポリビニルアルコールは、画像支持体としてPVC又はPET−Gを使用した場合に、画像支持体と色材受容層との接着性(転写性能)を向上させることができ、特に好ましく用いられる。
【0059】
色材受容層は、けん化度70〜100mol%のポリビニルアルコールを含有する組成物からなることが好ましい。けん化度とは、ポリビニルアルコールの酢酸基と水酸基の合計モル数に対する水酸基のモル数の百分率を意味する。
【0060】
けん化度を、好ましくは70mol%以上、さらに好ましくは86mol%以上とすることで、色材受容層が過度に硬くならず、色材受容層に適度な柔軟性を付与することができる。したがって、剥離工程において色材受容層の箔切れ性が向上し、端部のバリの発生を抑制することができる。また、無機微粒子とポリビニルアルコールを含む塗工液の粘度を低下させることができる。従って、透明シートに対して塗工液を塗工し易くなり、転写材の生産性を向上させることができる。一方、けん化度を、好ましくは100mol%以下、さらに好ましくは90mol%以下とすることで、色材受容層に適度な硬さを付与することができる。これにより、透明シートと色材受容層との接着強度を向上させて、接着強度の不足による透明シートからの色材受容層の剥離を抑制することができる。また、色材受容層に適度な親水性を付与することができ、インクの吸収性が良好となる。従って、色材受容層に高品位の画像を記録することが可能となる。
【0061】
けん化度の範囲を満たす、けん化ポリビニルアルコールとしては、完全けん化ポリビニルアルコール(けん化度98〜99mol%)、部分けん化ポリビニルアルコール(けん化度87〜89mol%)、低けん化ポリビニルアルコール(けん化度78〜82mol%)等を挙げることができる。中でも、部分けん化ポリビニルアルコールが好ましい。
【0062】
色材受容層は、重量平均重合度が2,000〜5,000のポリビニルアルコールを含有する組成物からなることが好ましい。
【0063】
重量平均重合度を、好ましくは2,000以上、さらに好ましくは3,000以上とすることで、色材受容層に適度な柔軟性を付与することができる。したがって、剥離工程において色材受容層の箔切れ性が向上し、端部のバリの発生を抑制することができる。一方、重量平均重合度を、好ましくは5,000以下、さらに好ましくは4,500以下とすることで、色材受容層に適度な硬さを付与することができる。これにより、透明シートと色材受容層との接着強度を向上させて、接着強度の不足による透明シートからの色材受容層の剥離を抑制することができる。また、無機微粒子とポリビニルアルコールを含む塗工液の粘度を低下させることができる。従って、透明シートに対して塗工液を塗工し易くなり、転写材の生産性を向上させることができる。また、色材受容層の細孔が埋まることを防止し、細孔の開口状態を良好に保つことができ、インクの吸収性が良好となる。従って、色材受容層に高品位の画像を記録することが可能となる。
【0064】
重量平均重合度の値は、JIS−K−6726に記載の方法に準拠して算出される。
【0065】
水溶性樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。「2種以上」とは、けん化度及び重量平均重合度等の特性が異なる水溶性樹脂も含まれる。
【0066】
水溶性樹脂の量は、無機微粒子100質量部に対し、3.3〜20質量部とすることが好ましい。水溶性樹脂の量を、好ましくは3.3質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上とすることで、色材受容層のひび割れ及び粉落ちが発生し難くなる。一方、水溶性樹脂の量を、好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下とすることで、インクの吸収性が良好となる。
【0067】
[1−1−3]カチオン性樹脂:
使用するカチオン性樹脂は、分子中にカチオン性の原子団(例えば、4級アンモニウム等)を有する。また、カチオン性樹脂の重量平均分子量は15,000以下である。また、使用するカチオン性樹脂は、SP値が画像支持体を構成する樹脂のSP値と近いだけでなく、画像支持体に転写材を加熱圧着させる際の熱で容易に溶融し、また、静電気的な結合も促進する。そのため、画像支持体と色材受容層との接着性を更に強固にし、画像支持体と色材受容層との接着性(転写性能)を向上させることができる。すなわち、カチオン性樹脂は一般的にマイナスに帯電しているインクと静電気的に結合するため、色材受容層中にインクを定着させることができる。しかし、この機能に加え、15,000以下の重量平均分子量を持つカチオン性樹脂は、(1)画像支持体のSP値に近い値となるように選択しているため、画像支持体と親和性が高く、転写時の画像支持体と色材容層との接着性を向上させることができる。また、使用するカチオン性樹脂は、(2)融点が低く、転写時の熱で容易に溶融するので、画像支持体と色材受容層との接着性をさらに強くする。さらに、使用するカチオン性樹脂は、(3)分子量が小さいため、色材受容層への添加量が少なくても、色材受容層中に多くの分子を添加できる。よって、一般的にマイナスに帯電している画像支持体と静電気的に結合できるカチオン基を、色材受容層の表面に介在させることができ、結果として、画像支持体と接着性を向上させることができる。さらに(4)樹脂分散顔料との接着性を高めることができる。すなわち、樹脂分散顔料の分散樹脂のSP値は、使用するカチオン性樹脂のSP値と近い。そのため、転写時の熱でカチオン性樹脂および分散樹脂が溶融すると両者の相溶性が高まり、樹脂分散顔料は色材受容層に強固に接着される。(5)カチオン性樹脂が転写時の熱で溶融し、透明シートのエマルジョンと相溶した状態で静電気的に結合される。すると、カチオン性樹脂が接着力の低い粒子状のエマルジョンE2とも強力に接着し、色材受容層と透明シートの接着性をより高めることができる。これにより、色材受容層の画像支持体への転写性能が向上する。したがって、使用するカチオン性樹脂は、上記5つの効果により、色材受容層の画像支持体への転写性能を高める役目を果たしている。
【0068】
このようなカチオン性樹脂としては、例えばポリアリルアミン(例えばアリルアミン系重合物、ジアリルアミン系重合物等)及びウレタン系重合物から選択される少なくとも1種の重合物を用いることが好ましい。これらの中でも、特に低分子のポリアリルアミンは、(1)融点が80℃付近と低く、画像支持体に転写材を加熱圧着させる際に容易に溶融すること;(2)分子構造が小さいために、色材受容層表面において単位面積当たりのカチオン基を多く存在させることができ、画像支持体に対する静電気的な結合を促進することができること;等の理由から、特に好ましく用いることができる。
【0069】
なお、ポリアリルアミンは、下記一般式(3)で示される少なくとも1種のポリアリルアミンであることが好ましい。
【0070】
【化1】
【0071】
(式中、R3、R4、R5は、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、アルケニル基、アルカノール基、アリルアルキル基、アリルアルケニル基を示す。また、R3、R4、R5はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。X-は、無機系、有機系の陰イオンを示す。nは重合度を示す整数である。)
【0072】
カチオン性樹脂の重量平均分子量は、好ましくは1,000〜15,000、さらに好ましくは1,000〜10,000、特に好ましくは1,000〜5,000である。平均分子量を前記範囲内とすることで塗工液の安定性を向上させることができることに加えて、色材受容層の空隙が減少し難く、色材の吸収性を維持することができる。更に、カチオン性樹脂の平均分子量を5,000以下とすると、画像支持体と接する色材受容層の表面にカチオン基(即ち、静電気的な結合を行う吸着サイト)をより多く分布させることができる。そのため、画像支持体と色材受容層との接着性(転写性能)を更に向上させることができる。なお、平均分子量が15000より大きくなると画像支持体と接する色材受容層の表面にカチオン基(則ち、静電気的な結合を行う吸着サイト)が少なくなるため、色材受容層との接着性(転写性能)が低下する。一方、重量平均分子量が1000より小さくなると、印刷時のインク溶媒とともに色材受容層内部にカチオン性樹脂が移動してしまい色材受容層の表面に分布するカチオン基の量が少なくなるため、好ましくない。
【0073】
カチオン性樹脂の使用量は、無機微粒子(アルミナ水和物等)に対して0.01質量%以上かつ5質量%以下とすることが好ましく、0.01質量%以上かつ3質量%以下とすることがさらに好ましい。カチオン性樹脂の使用量が上述の範囲を超えると、無機微粒子の分散液又は分散液にバインダーを添加した塗工液の粘度が高くなり、分散液又は塗工液の保存性又は塗工性が低下する場合がある。
【0074】
カチオン性樹脂の融点は、60℃以上かつ160℃以下であることが好ましい。カチオン性樹脂の融点を上述の範囲内とすることで、画像支持体に対して転写材を加熱圧着させる際にカチオン性樹脂を溶融させることができ、画像支持体と色材受容層との接着性(転写性能)を向上させることができる。
【0075】
[1−1−4]厚さ:
色材受容層の厚さとしては特に制限はない。ただし、色材受容層の厚さが5〜40μmであることが好ましい。色材受容層の厚さを、好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上とすることで、インクの吸収性と色材受容層の透明性を確保することができる。また、インクの吸収性及びインクの定着性が良好となる。一方、色材受容層の厚さを、好ましくは40μm以下、さらに好ましくは20μ以下とすることで、色材受容層の透明性を向上させることができる。さらに、画像支持体に加熱圧着させる際にも熱伝導を良好にできるため、画像支持体と色材受容層との接着性(転写性能)を向上させることができる。また、画像支持体としてプラスチックカードを用いた場合に、記録物全体の厚さをJIS6301に記載される総厚さ0.84mm以下に抑制することが容易になる。
【0076】
[1−2]透明シート:
本実施の形態の転写材は、図2に示す転写材1のように、透明シート52を備えている。
【0077】
[1−2−1]エマルジョン:
本実施の形態の透明シート52はエマルジョンE1、エマルジョンE2を含有する。以下、エマルジョンE1、エマルジョンE2についてさらに詳細に説明する。
【0078】
[1−2−2]エマルジョンの状態:
本実施の形態は、エマルジョンE1が造膜し、少なくともエマルジョンE2が粒子として残存している状態である。本実施の形態において、エマルジョンの「造膜状態」とはガラス転移温度以上の温度で加熱処理された状態を意味する。一方でエマルジョンの「粒子状態」とはガラス転移温度以上の加熱処理がされていない状態を意味する。エマルジョン塗工後の乾燥温度をエマルジョンE1のガラス転移温度Tg1以上、エマルジョンE2のガラス転移温度Tg2未満とする。これにより、エマルジョンE1が造膜し、少なくともエマルジョンE2が粒子として残存している透明シートを製造することができる。
【0079】
これにより、図23に示すように加熱圧着時に、画像支持体55と色材受容層が接着している部分963の透明シート部分980と、画像支持体と色材受容層が接着していない部分964の透明シート部分981と、で膜状態が異なるように制御することができる。すなわち、加熱圧着時において、透明シート部分980はヒートロールの熱が伝わりやすいため、エマルジョンE2の一部が膜化して一部粒子が残存した状態(図23(b))、あるいは透明シートのエマルジョンE2が完全に皮膜化した状態(図23(c))になる。このとき、一部あるいは完全に膜化したエマルジョンE2は、予め膜化しているエマルジョンE1と結合力が強化されて透明シートの膜強度を強化することができる。一方、透明シート部分981はヒートロールの熱が伝わらないため、エマルジョンE2を粒子状態のままにすることができる。透明シート部分980と透明シート部分981では膜の状態が異なるため、剥離工程では、境界部982を基点としてクラックが入りやすくなる。以上から、2種類のエマルジョンを用いて、エマルジョンE2の膜状態を加熱圧着時の温度を利用して変化させることにより、箔切れを良好にすることができる。尚、製造工程でTg2以上の温度で加熱処理した場合、エマルジョンE1及びエマルジョンE2が両方とも膜化した状態となって、転写の境界部982でクラックがはいりにくくなり、十分な端部の切れ性が得られない。一方、Tg1以下の温度で加熱処理するとエマルジョンE1及びエマルジョンE2が両方とも粒子状態となり、透明シートが形成できない。
【0080】
[1−2−3]エマルジョンのガラス転移温度:
本実施形態において、ガラス転移温度(Tg)とは非晶質の固体を加熱した場合に、低温では結晶なみに堅く(剛性率が大きく)流動性がなかった(粘度が測定不可能なほど大きかった)固体が、ある狭い温度範囲で急速に剛性と粘度が低下し流動性が増す温度である。ガラス転移温度Tgは、各モノマーの単独重合体(ホモポリマー)のガラス転移温度(Tg)及び該モノマーの質量分率(質量基準の共重合割合)に基づいてフォックス(Fox)の式から算出される値をいう。
【0081】
なお、本実施の形態においてガラス転移温度を表す数値の単位は、特に断りのない限り「℃」である。例えば、三種類のモノマーabcからなる共重合体のガラス転移温度は下記式(4)のように求められることとする。
【0082】
1/Tg=Wa/Tga+Wb/Tgb+Wc/Tgc (4)
Tga,Tgb,Tgc:各abcモノマーのホモポリマーのガラス転移温度
W:各モノマーの重量
Tg:共重合体のガラス転移温度
【0083】
ホモポリマーのTgとしては、公知資料に記載の値を採用する。ここに開示される技術では、ホモポリマーのTgとして、具体的には以下の値を用いる。
2−エチルヘキシルアクリレート −70℃
n−ブチルアクリレート −55℃
エチルアクリレート −22℃
メチルアクリレート 8℃
メチルメタクリレート 105℃
イソボルニルアクリレート 94℃
イソボルニルメタクリレート 180℃
酢酸ビニル 32℃
2−ヒドロキシエチルアクリレート −15℃
スチレン 100℃
アクリル酸 106℃
メタクリル酸 130℃
【0084】
上記で例示した以外のホモポリマーのTgについては、「Polymer Handbook」(第3版、John Wiley & Sons,Inc、1989年)に記載の数値を用いる。「Polymer Handbook」(第3版、John Wiley & Sons,Inc、1989年)にも記載されていない場合には、特開2007−51271号公報に記載の測定方法により得られる値を用いる。
【0085】
[1−2−4]エマルジョンE1:
本実施の形態においてエマルジョンE1は透明シートを形成時に造膜状態にある。造膜状態はエマルジョンE1のガラス転移温度Tg1以上の温度で加熱処理することで作り出すことが出来る。エマルジョンE1を造膜させることで、色材受容層との接触面積を増大させることができ、透明シートと色材受容層の接着性が向上し、テープ剥離等の試験において保護層と色材受容層との間で剥がれないように制御することができる。
【0086】
[1−2−5]エマルジョンE1のTg:
エマルジョンE1のガラス転移温度Tg1は50℃より大きく90℃未満である。Tg1はより好ましくは55℃より大きく80℃未満、さらにより好ましくは55℃より大きく70℃未満である。Tg1を50℃より大きく、さらに好ましくは55℃より大きくすることでエマルジョンE1のガラス転移温度が高くなって、透明シートの膜部分は硬く伸びにくくなる。これにより、端部を切るときに膜が伸びるのを抑え、端部を綺麗に保つことができるので、端部の切れ性が向上する。それに加えて、Tg1を上記範囲に制御することで、樹脂が手の油脂又は汗になじみにくくなるとともに、膜の伸び性が抑えられ、透明シートに手が触れた場合でも、透明シートが手に密着しにくく、透明シートのべたつきを抑える効果もある。さらにTg1を高くするとエマルジョン樹脂の分子鎖間に働く力が強くなり、アルコール等の薬品に溶解しにくくなって、記録物の耐薬品性を著しく向上させることができる。一方、Tg1を好ましくは90℃未満、より好ましくは80℃未満、さらに好ましくは70℃未満とすることで、透明シートの形成時の造膜を容易に行うことができ、透明シートと色材受容層の接着性を向上させることができる。さらには膜の脆さを改善し、耐水試験での透明シートはがれ等を防止することも出来る。また、実際の製造工程上、乾燥温度を完全に一定に保つのは難しく、ある程度の幅が出来る。乾燥温度に幅がある場合、Tg1とTg2が近い値であると、エマルジョンE1を膜化させようとしたときに過剰な熱がかかり、乾燥温度がTg2を超えて、エマルジョンE1の膜状態、エマルジョンE2の粒子状態を維持しにくい場合がある。従って、Tg1とTg2が下記式(5)の関係を満たし、Tg2とTg1に10℃程度の差があると、乾燥温度に幅があった場合でも、過剰な熱がかかることなく、エマルジョンE1が膜状態、エマルジョンE2が粒子状態を維持しやすくなるため好ましい。Tg1が50℃以下になると、樹脂が手の油脂又は汗になじんでしまい、べたつきが発生すると共に、ロール形状にした時のブロッキングも発生しやすい。Tg1が90℃以上になると、エマルジョンE1が造膜しにくいため透明シートと色材受容層の接着性が低下し、透明シートの剥がれが発生しやすい。さらには膜が脆くなり、耐水試験での透明シートはがれが発生しやすい。
Tg2−Tg1≧10 (5)
【0087】
[1−2−6]エマルジョンE1のSP値:
また、本実施の形態においては、透明シートのエマルジョンE1のSP値と、色材受容層の水溶性樹脂のSP値との差ΔSPの絶対値が下記式(2)を満たすことが好ましい。SP値の値が近いほど相溶性が高くなるため、高い接着性を示す。上記の範囲にすることで、エマルジョンE1は水溶性樹脂との相溶性が増し、膜化したエマルジョンE1と水溶性樹脂との分子間距離が短くなるため、分子間力が増加し、透明シートと色材受容層の接着性が向上し、テープ剥離等の試験において保護層と色材受容層との間でより剥がれにくくすることができる。ΔSPが0.6より大きくなると、相溶性が低下し、膜化したエマルジョンE1と水溶性樹脂との分子間距離が長くなり、分子間力が低下することによって、接着力の低下が起こるため好ましくない。
0≦|ΔSP|≦0.6 (2)
【0088】
SP値について説明する。SP値は溶解度パラメーターを示し、ヒルデブラントパラメータとも呼ばれる。正則溶液論では溶媒−溶質間に作用する力は分子間力のみと仮定されるので溶解パラメーターは分子間力を表す尺度として使用される。実際の溶液は正則溶液とは限らないが、2つの成分のSP値の差が小さいほど溶解度が大となることが経験的に知られている。
【0089】
正則溶液理論では溶媒−溶質間に作用する力は分子間力のみとモデル化されているので、液体分子を凝集させる相互作用が分子間力のみであると考えることができる。液体の凝集エネルギーΔEは蒸発エンタルピーとΔH=ΔE+PΔVの関係にあることから、モル蒸発熱ΔHとモル体積Vとより、溶解パラメーターを下記式(6)で定義する。すなわち、1cm3の液体が蒸発するために必要な蒸発熱の平方根(cal/cm31/2から計算される。
【0090】
実際の溶液が正則溶液であることは稀であるが、溶媒−溶質分子間には水素結合等分子間力以外の力も作用し、2つの成分が混合するか相分離するかはそれらの成分の混合エンタルピーと混合エントロピーの差で熱力学的に決定される。しかし経験的に溶解パラメーターが近い物質は混ざりやすい傾向を持つ。そのためSP値は溶質と溶媒の混ざりやすさを判断する目安ともなる。ただし、本実施の形態のようなプラスチックの基材では相溶性は使用する材質の極性によって左右され、極性が高いほど相溶性が高く、分子結合力を示すCED(凝集エネルギー密度)の平方根であらわされるSP値が近いほど相溶性が高い。
【0091】
【数1】
【0092】
なお、本実施の形態においては、SP値は下記一般式(7)で示される。代表的なSP値を表1に示す。表1は、「プラスチック加工技術ハンドブック」、1995年6月12日、高分子学会編、日刊工業新聞社発行、1474頁、表3.20に示される各種プラスチックのSP値を転記したSP値を示す。
【0093】
(SP)2=CEO=ΔE/V=(ΔH−RT)/V=d(CE)/M (7)
[ΔE:蒸発エネルギー(kcal/mol)、V:モル体積(cm2/mol)、ΔH:蒸発エネルギー(kcal/mol)、R:ガス定数、M:グラム分子量(g/mol)、T:絶対温度(K)、d:密度(g/cm3)、CE:凝集エネルギー(kcal/mol)]
【0094】
【表1】
【0095】
(溶解度パラメーター(SP値)の算出法)
本実施の形態において、上記表にないアクリル系ポリマーの溶解度パラメーター(SP値)は、下記式(8)で定義されFedorsの算出法[「ポリマー・エンジニアリング・アンド・サイエンス(Polymer Eng. & Sci.)」,第14巻,第2号(1974),第148〜154ページ参照](ただし、Δeiは原子又は基に帰属する25℃における蒸発エネルギー、Δviは25℃におけるモル体積である)にて計算して求めることができる。
【0096】
【数2】
【0097】
上記式(8)中のΔei及びΔviに、主な分子中のi個の原子及び基に与えられた一定の数値を示す。また、原子又は基に対して与えられたΔe及びΔvの数値の代表例を、以下の表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
次に、共重合体のポリマーのSP値算出方法について説明する。共重合体のSP値は下記式(9)に示すような平均法が用いられる。
Copolymerσ2 = φ1σ12 + φσ22・・・ (9)
φ:体積分率
σ:溶解度パラメーター
【0100】
[1−2−7]エマルジョンE1の材質:
エマルジョンE1の材質としては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、エチレン/酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂等の樹脂又はそれらの共重合体樹脂が好ましい。上記の中でもアクリル系樹脂は、比較的低温での造膜が可能で、塗膜の透明性が高くかつ水溶性樹脂として含有されるけん化ポリビニルアルコールとSP値が近く接着性を向上させることができるため、特に好ましく使用される。さらにアクリル系樹脂は比較的硬い樹脂であり、膜の伸び性を抑え、端部の切れ性を向上させる効果もある。
【0101】
アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル単独又はこれを用いた共重合体を用いることができる。(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸ラウリル等を挙げることができる。これらの(メタ)アクリル酸エステルは単独、又は組み合わせて用いることができる。さらに、これらの(メタ)アクリル酸エステルと共重合可能な単量体を追加重合して用いることができ、このような単量体としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸ヒドロキシルエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルプロピル、(メタ)アクリル酸(4) 特開2002−121515号公報に記載のヒドロキシルブチル等の水酸基を有する単量体;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等のアルコキシ基を有する単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基を有する単量体;(メタ)アクリロニトリルニトリル基を有する単量体;スチレン、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の芳香環を有する単量体;(メタ)アクリルアミド等のアミド基を有する単量体;N−アルコキシ基を有する単量体又はN−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル基を有する単量体;N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブチロール(メタ)アクリルアミド等の、N−アルキロール基を有する単量体;ビニルクロライド、ビニルブロマイド、アリルクロライド、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、クロロメチルスチレン、フッ化ビニル等のハロゲン原子が結合した基を有する単量体;エチレン、プロピレン、ブタジエン等のオレフィン系単量体等を挙げることができる。以上示した材料の反応性の基を利用して部分架橋することも可能である。
【0102】
本実施の形態に用いられるエマルジョンは一般的によく知られた公知の技術により合成でき、市販の材料を使うことも可能である。エマルジョンに用いられる樹脂のTgは、モノマー成分とその比率をかえることにより調整することができる。
【0103】
エマルジョンE1は1種類のエマルジョンとしてもよいし、複数のエマルジョンをブレンドして用いてもよい。
【0104】
[1−2−8]エマルジョンE2:
本実施の形態においてエマルジョンE2は透明シートの形成時に粒子状態にある。「粒子状態」はエマルジョンE2のガラス転移温度Tg2以上の加熱処理を加えないことによって元のエマルジョンの粒子状態を維持させることで作り出すことが出来る。エマルジョンE2を粒子状態にすることで、転写時の端部の切れ性を良好にし、透明シートのべたつきを抑えることができる。
【0105】
[1−2−9]エマルジョンE2のTg:
エマルジョンE2のガラス転移温度Tg2が90℃以上120℃以下であり、より好ましくは95〜115℃、さらにより好ましくは100〜110℃である。エマルジョンE2のガラス転移温度Tgを90℃以上、より好ましくは95℃以上、さらにより好ましくは100℃以上とすることで、画像支持体55と色材受容層が接着している部分963の透明シート部分980に含有され、加熱転写時の熱で溶融軟化し、膜状態となったエマルジョンと、画像支持体と色材受容層が接着していない部分964の透明シート部分981に含有される粒子状態のエマルジョンの膜強度の差が大きくなる。これにより、境界部982でクラックが入りやすくなり、端部にバリの発生がなく箔切れ性を良好にすることができる。さらに上記範囲にすることで、エマルジョンE2の樹脂は伸びにくくなり、さらに手の油脂及び汗になじみにくくなるため、透明シートのべたつきが防止できる。加えて上記範囲にすることでアルコール等の薬品に対する溶解性が低下し、耐薬品性が向上する。またエマルジョンE2のガラス転移温度Tgを120℃以下、より好ましくは115℃以下、さらにより好ましくは110℃以下にすることで、加熱圧着における熱エネルギーを低エネルギーで効率的に制御でき、画像支持体への過剰な熱エネルギーの付加による熱変形を防止することができる。本実施形態においては色材受容層の水溶性樹脂のポリビニルアルコール(PVA)をガラス転移温度の約90℃以上にすることで色材受容層を画像支持体に転写できる。このため上記温度範囲であれば、色材受容層を画像支持体に加熱圧着するとき色材受容層は約90℃まで加熱される。この過程で、ヒートロール側に近い透明シートはTg2以上に加熱されるため、転写時に過剰な熱エネルギーを与えることなく、エマルジョンE2を膜化させて転写することができる。Tg2が90℃より小さくなると手の油脂又は汗になじみやすくなるためべたつきやすくなり、ブロッキングも発生しやすい。さらにクラックが入りにくくなり、箔切れ性も低下する。加えて、Tg2が90℃よりちいさくなると、アルコール等の薬品に溶解しやすくなり、薬品に対する保護性能が大きく低下する。Tg2が120℃より大きくなると加熱圧着における熱エネルギーを高エネルギーが必要となり、画像支持体への過剰な熱エネルギーの付加による熱変形が発生しやすい。
【0106】
[1−2−10]エマルジョンE2の材質:
本実施の形態のエマルジョンE2を構成する高分子物質としてはエマルジョンE1と同等の高分子物質を使用できる。ただし、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂は透明シートと基材シートのSP値の差SP1を1.1以上に制御でき、基材シートからの剥離性が向上するため、好ましく用いられる。エマルジョンE2に特に好ましいのはウレタン系樹脂である。ウレタン系樹脂とすることで適度なやわらかさを持ち、べたつきが抑えられる。さらには膜の脆さ及び薬品への溶解性を改善し、アルコールなど薬品に浸漬しても割れ及びはがれ等が起きにくく、耐薬品性が向上できる。エマルジョンE2はエマルジョンE1と異なる種類の樹脂を用いることが好ましく、種類の異なる樹脂を用いることで樹脂同士の相溶が起こりにくく、転写前の状態で膜と粒子の共存状態が維持しやすい。エマルジョンE1にアクリル系樹脂を用いた場合、エマルジョンE2に特に好ましいのはウレタン系樹脂である。
【0107】
ウレタン系樹脂としては、例えば、以下に挙げるポリオール化合物とジイソシアネート化合物とを種々組み合わせて、重付加反応により合成されたウレタン系樹脂を挙げることができる。ウレタン系樹脂は特に限定されないが、好ましくはポリエーテル系のポリオール化合物とジイソシアネート化合物から合成されるポリエーテルウレタン系樹脂が好ましい。ポリエーテルウレタン系樹脂は加水分解しにくいので、記録物の耐水性を含む耐久性が向上する。
【0108】
ポリオール化合物としては、2つの水酸基を含有するジオール、若しくは3以上の水酸基を含有するポリオールであれば特に限定されずに用いることができる。たとえば、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、アクリル系、ポリブタジエン系若しくはポリオレフィン系等のポリオール、カプロラクトン変性ポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリウレタンポリオール、エポキシポリオール、エポキシ変性ポリオール、アルキド変性ポリオール、ひまし油、フッ素含有ポリオール等のポリオールを単独で用いてもよいし、これらを併用しても良い。
【0109】
ポリエーテル系ポリオールとしては、具体的には、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、シュークロース等の多価アルコール類、エチレンジアミン等の脂肪族アミン化合物類、トルエンジアミン、ジフェニルメタンー4,4−ジアミン等の芳香族アミン化合物、エタノールアミンおよびジエタノールアミン等のようなアルカノールアミン類のような少なくとも2個以上の活性水素基を有する化合物を出発原料として、これにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド若しくはポリオキシテトラメチレンオキサイドに代表されるアルキレンオキサイドを付加させて得られるポリオール等が挙げられる。
【0110】
ポリエステル系ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールペンタンジオール、ヘキサンジオール、グリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパンおよびその他の低分子ポリオールなどから選ばれる少なくとも1種と、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、その他の低分子脂肪族カルボン酸およびオリゴマー酸などから選ばれる少なくとも1種との縮合重合体;プロピオンラクトンまたはバレロラクトン等の開環重合体;等が挙げられる。
【0111】
その他のポリオールとしては、たとえば、ポリマーポリオール、ポリカーボネートポリオール;ポリブタジエンポリオール;水素添加されたポリブタジエンポリオール;アクリルポリオール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等の低分子ポリオールが挙げられる。
【0112】
ジイソシアネート化合物は、特に限定されずに用いることができる。ジイソシアネート化合物としては、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート,1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート,m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’―ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニレンジイソシアネート、4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)等を挙げることができる。
【0113】
[1−2−11]エマルジョンE2の平均粒子径:
エマルジョンE2の平均粒径としては特に制限はないが、好ましくは1〜200nm、より好ましくは5〜150nm、さらにより好ましくは10〜50nmである。平均粒子径を、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上、さらにより好ましくは10nm以上とすることで、画像支持体55と色材受容層が接着している部分963の透明シート部分980に含有され、加熱転写時の熱で溶融軟化し、膜状態となったエマルジョンと、画像支持体と色材受容層が接着していない部分964の透明シート部分981に含有される粒子状態のエマルジョンの膜強度の差が大きくなる。これにより、境界部982でクラックが入り易くなり、端部にバリの発生がなく箔切れ性を良好にすることができる。本実施形態の転写材では、エマルジョンE2を粒子状態に維持させるため、そのエマルジョンE2の粒径は透明シートの透明性に大きく影響する。エマルジョンE2の平均粒子径を、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、さらにより好ましくは50nm以下とすることで透明シートの透明性を良好にすることができる。さらには、粒子径が上記以下の場合は、細かいクラックがはいりやすくなり、端部の切れ性も良好となる。エマルジョンE2の平均粒径が1nmより小さいと粒子が小さすぎるため透明シートが膜に近い状態となって、転写時にクラックが入りにくく箔切れ性が低下する。E2の平均粒径が200nmより大きいと透明性が低下する。
【0114】
[1−2−12]エマルジョンE1、E2の混合比率:
エマルジョンE1とエマルジョンE2の比率(E1/E2)は下記式(1)を満たすことが好ましく、より好ましくは5.0≦E1/E2≦50.0、さらにより好ましくは10.0≦E1/E2≦35.0を満たすことが好ましい。比率E1/E2を65.0以下、さらに好ましくは50.0以下、より好ましくは35.0以下にすることで、エマルジョンE2が増加する。粒子成分が増えることで、画像支持体55と色材受容層が接着している部分963の透明シート部分980に含有され、加熱転写時の熱で溶融軟化し、膜状態となったエマルジョンと、画像支持体と色材受容層が接着していない部分964の透明シート部分981に含有される粒子状態のエマルジョンの膜強度の差が大きくなる。これにより、境界部982でクラックが入り易くなり、端部にバリの発生がなく箔切れ性を良好にすることができる。一方、比率E1/E2が3.0以上、より好ましくは5.0以上、さらにより好ましくは10.0以上とすることで、エマルジョンE1が増加する。造膜成分が増えることで膜強度が向上し、さらに色材受容層との接触面積が大きくなり、色材受容層と透明シートの接着性を向上させることができる。特に10.0≦E1/E2≦35.0の範囲にすることで接着性と端部の切れ性、ひび割れ防止を高レベルで両立できる。比率E1/E2が65.0より大きくなると、粒子成分が少なくなり、膜の状態に近づくため、クラックがはいりにくく、箔切れ性が得られない。また比率E1/E2が3.0より小さいと、エマルジョンE2のバインダーとなるエマルジョンE1が少なくなるため、色材受容層形成時に透明シートのエマルジョンのはがれ又は粉落ちが発生する場合があり、色材受容層が均一に形成できない。さらには膜成分が少なくなるため、色材受容層との接着性が低下し、透明シートのはがれが発生しやすくなる。
3.0≦E1/E2≦65.0 (1)
【0115】
エマルジョンE1とE2の割合(E1/E2)が10より小さい(エマルジョンE2の割合が9.1%より多い)と、透明シートと色材受容層を含む転写材の透明シートにエマルジョンを使用し、一部は造膜、一部は粒子状態にすると、透明シート上に色材受容層を塗工する際の色材受容層が乾燥していくときの収縮に耐え切れず、透明シートのひび割れが発生しやすくなる場合がある。この現象は色材受容層を含有するタイプの転写材特有の現象であって、水溶性化合物と無機微粒子を含む水性塗工液を透明シート上に塗工する場合にのみ発生する。基材と保護層のみで構成されている転写材では発生しない。特にインクジェット方式に好ましく用いられる転写材の場合は、色材受容層に大量のインクを吸収させる必要があるため、色材受容層の厚みが大きくなり、塗工量と乾燥時の収縮量も合わせて大きくなるため、塗工時のひび割れが発生しやすい。さらに接着性、箔切れ性、耐薬品性、及びべたつき防止を考慮して、透明シート中で膜化しているエマルジョンにガラス転移温度Tg1が50℃より大きいエマルジョン樹脂E1を用いる場合はエマルジョン樹脂が硬く伸びにくくなる。これにより、収縮によってひび割れの現象が非常に発生しやすい傾向にある。以上のことから、基材、色材受容層、及び透明シートが順次積層され、透明シートがエマルジョンE1とE2を含み、膜化しているエマルジョンE1のガラス転移温度Tg1が50℃より大きく、エマルジョンE2を粒子として残存させている場合は、エマルジョンE1とE2の比率を精密に制御することが重要である。
【0116】
本実施の形態の透明シートはエマルジョンE1とエマルジョンE2の他にエマルジョンを加えてもよい。例えばガラス転移温度が120℃より大きいエマルジョンを加えてもよい。ガラス転移温度のより高いエマルジョンを加えることで、高温で転写した場合でも、記録物の透明シート中に確実に適量の粒子を残存させることができる。これにより、基材と透明シートが接触する面積は低下し、基材からの剥離性が向上して、転写性を向上することができる。エマルジョンE1とE2の他にもう一種類エマルジョンを加えることで、膜状態、粒子状態のエマルジョンの選択自由度が上がり、他の機能を付加することが出来る。
【0117】
本実施の形態の透明シート52が基材シートに当接する場合は、基材シートのSP値と透明シートのSP値との差SP1が下記式(10)を満たす材料を選択することが好ましい。基材シートのSP値と、転写材の基材シートに当接する層のSP値との差SP1が、下記式(10)の関係を満たすようにすることで、透明シートと基材シートの接着性は比較的弱い状態で積層されていることなる。この範囲にすることで、転写時においては基材シートを透明シートから容易に剥離しやすい状況になり、一方で、色材受容層と画像支持体は接着性をより強固にすることができるため、転写時の転写性を高めることができる。
1.1≦SP1≦3 (10)
【0118】
また、本実施の形態の転写材を画像支持体に加熱圧着させ、基材シートを剥離すると、透明シートを介して色材受容層に記録された画像を本来の画像として視認することが可能となる。また、転写材を画像支持体に加熱圧着させた場合に、透明シートが色材受容層に記録された画像の保護層として機能する。
【0119】
透明シートは、JIS K7375に準拠して測定される全光線透過率が50%以上、好ましくは90%以上のシートを意味する。従って、透明シートには、無色透明シートの他、半透明シート、及び着色透明シート等も含まれる。
【0120】
[1−2−13]厚さ:
透明シートの厚さとしては特に制限はない。ただし、透明シート層の厚さが1〜40μmであることが好ましく、2〜30μmがさらに好ましく、4〜20μmがさらにより好ましい。透明シートの厚さを好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは4μm以上とすることで、透明シートの耐水性及び耐擦過性を確保することができる。また、一方、色材受容層の厚さを、好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下、さらにより好ましくは20μm以下とすることで、透明シートの透明性を向上させることができる。さらに、加熱圧着させる際にも熱伝導を良好にできるため、透明シートと色材受容層との接着性(転写性能)を向上させることができる。また、画像支持体としてプラスチックカードを用いた場合に、記録物全体の厚さをJIS6301に記載される総厚さ0.84mm以下に抑制することが容易になるため好ましい。
【0121】
なお、色材受容層に画像を記録するインクとして染料インクを用いる場合には、紫外線による染料の分解(光劣化)を防止するために、透明シートが、UVカット剤を含有することが好ましい。UVカット剤としては、例えばベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等の紫外線吸収剤;酸化チタン、酸化亜鉛等の紫外線散乱剤;等を挙げることができる。
【0122】
[1−3]基材シート:
本実施の形態の転写材は、図2に示す転写材1のように、基材シート50を備えている。基材シート(「剥離ライナー」又は「セパレータ」とも称される。)は、離型層又は色材受容層の支持体となるシート体である。
【0123】
基材シートの材質及び形態等については、基材シートのSP値と色材受容層のSP値との差SP1が式(10)が成立する材料であることが好ましく、このような基材シートとしては、樹脂フィルム等を挙げることができる。例えば、従来の熱転写シートの基材フィルムとして利用されていた樹脂フィルム等をそのまま利用することができる。
【0124】
例えば、ポリエステル(PET等)、ナイロン(脂肪族ポリアミド)、ポリイミド、酢酸セルロース、セロハン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ゴム、フッ素樹脂、アイオノマー等の樹脂からなる樹脂フィルム;等が好ましい。これらの中でも、耐熱性に優れるPETフィルムが好ましい。色材受容層を構成する水溶性樹脂としてポリビニルアルコールを用い、かつ、基材シートとしてPETフィルムを用いると、PETのSP値とポリビニルアルコール又はカチオン性樹脂のSP値が比較的離れており、SP1の値を大きくすることができるため好ましい。樹脂フィルムは1種を単独で、又は2種以上を複合又は積層して用いることができる。
【0125】
基材シートの厚さは材料強度等を考慮して適宜決定すればよく、特に制限はない。ただし、基材シートの厚さが5〜200μmであることが好ましい。基材シートの厚さを、好ましくは5μm以上、さらに好ましくは10μm以上とすることで、色材受容層を積層した際に、その積層体のカールを防止することができる。転写材をロール状とする場合は、転写材の製造装置上での搬送性を向上させるために、転写材の厚さは15μm以上であることが好ましい。転写材をカットシート状とする場合は、カットシートのカールを防止する観点から、転写材の厚さは30μm以上であることが好ましい。
【0126】
一方、基材シートの厚さを200μm以下、好ましくは60μm以下、さらに好ましくは50μm以下とすることで、転写材を画像支持体に加熱圧着させる場合の熱伝達性を良好にすることができる。
【0127】
[1−4]離型層:
本実施の形態の転写材は、図3に示す転写材1のように、離型層51を備えていてもよい。離型層は、離型剤を含有する組成物からなる層で、基材シート50と透明シート52の間に設けられる。離型層51を備えることによって、透明シート52から基材シート50を容易に剥離することができる。離型層は特に限定されないが、特開2015−110321号公報に記載されている離型層を好ましく使用することができる。
【0128】
[1−5]アンカー層:
本実施の形態の転写材は、図3に示す転写材1のようにアンカー層59をさらに備えていてもよい。アンカー層59は透明シート52と色材受容層53との間に配置される。アンカー層を備えることで、透明シートと色材受容層との接着性及び接着強度を向上させることができ、接着強度の不足により透明シートから色材受容層が剥離する不具合を抑制することができる。アンカー層は特に限定されないが、特開2015−110321号公報に記載されているアンカー層を好ましく使用することができる。
【0129】
[1−6]ホログラム層:
本実施の形態の転写材は、図3に示す転写材1のように、ホログラム層58をさらに備えていてもよい。ホログラム層58は、三次元像が記録された層であり、透明シート52と色材受容層53との間に配置される。ホログラム層を備えることで、記録物(クレジットカード等)の偽造を防止する効果が付与される。ホログラム層としては特に制限はなく、従来公知のホログラム層を採用することができ、例えば特開2015−110321号公報に記載されているホログラム層を好ましく使用することができる。
【0130】
[1−7]積層構造:
本実施の形態の転写材は、図2に示す転写材1のように、基材シート50、透明シート52及び色材受容層53がこの順で積層された積層構造を有している。「基材シート、透明シート及び色材受容層がこの順で積層」とは、基材シート、透明シート、及び色材受容層の間に他の層が介在するか否かに拘わらず、基材シート、透明シート、及び色材受容層がこの順序に従って積層されていることを意味する。すなわち、図3に示す転写材1のように、透明シート52と色材受容層53との間に、アンカー層59又はホログラム層58が存在する構造も、「基材シート、透明シート及び色材受容層がこの順で積層」された積層構造に含まれる。
【0131】
ただし、本実施の形態の転写材は、図2に示す転写材1のように、基材シート50、透明シート52、及び色材受容層53が相互に当接された積層構造を有することが好ましい。すなわち、基材シート50と透明シート52、透明シート52と色材受容層53の間に、他の層(シートも含む。)が介在していない構造が好ましい。記録物の対象物となるクレジットカード等は厚さの制限が厳格であるため、積層される層又はシートの数を減じ、記録物を薄厚化することが望ましいからである。特に、色材受容層に含まれるポリビニルアルコールの重量平均重合度、けん化度を精密に調整すれば、透明シートと色材受容層との接着強度が顕著に向上し、必ずしも離型層又はアンカー層を形成する必要がなくなる。このような構成によれば、転写材延いては記録物を薄厚化することができるという利点がある。
【0132】
本実施の形態の転写材が、図3に示す転写材1のように、離型層51、アンカー層59、又はホログラム層58をさらに備える場合には、色材受容層53、アンカー層59、ホログラム層58、透明シート52、離型層51及び基材シート50がこの順で積層された積層構造を有することが好ましい。
【0133】
[1−8]転写材の形状と厚さ:
本実施の形態においては、画像記録装置又は記録物の製造装置の構造に合わせて、転写材をロール状又はシート状(カットシート状)としてもよい。ロール状とする場合には、色材受容層を外側にしても内側にしてもよい。しかし、画像記録装置の搬送機構に最適化させるためには、色材受容層を外側、基材シートを内側としてロール状に巻かれた外表のロール状転写材とすることが好ましい。一方で、色材受容層にゴミが付着するのを防止するためには、色材受容層を内側、基材シートを外側としてロール状に巻かれた内表のロール状転写材とすることが好ましい。外表と内表はそれぞれ用途に応じて使い分けることが出来る。
【0134】
本実施の形態においては、基材シートの厚さが、色材受容層の厚さの1.5〜5倍であることが好ましい。1.5倍以上とすることでシート状(カットシート状)の転写材のカールを防止することができ、画像記録装置又は記録物の製造装置における転写材の搬送性を良好にすることができる。一方、5倍以下とすることで、画像支持体に転写材を加熱圧着させる際の熱伝達性を良好にすることができる。
【0135】
本実施の形態の転写材は、熱時剥離型であってもよいし、冷時剥離型であってもよい。熱時剥離型とは、画像支持体と転写材を加熱圧着させた後、両部材の積層体の温度が高い状態のまま基材シートを剥離することが最適な転写材である。一方、冷時剥離型とは、画像支持体と転写材を加熱圧着させた後、両部材の積層体の温度が低下した状態で基材シートを剥離することが最適な転写材である。
【0136】
熱時剥離型の転写材は、画像支持体に加熱圧着させた後、すぐに基材シートを剥離することができるため、生産性の面で優れている。例えば、ロール状転写材を用い、基材シートの剥離をロール・ツー・ロール(roll to roll)で行うことにより生産性を向上させることができる。一方、冷時剥離型の転写材は、画像支持体と転写材を加熱圧着させた後、両部材の積層体の温度が低下してからも基材シートの剥離が可能である。従って、シート状(カットシート状)の転写材を用いる場合等には、画像支持体と転写材を加熱圧着させた後、基材シートを剥離する際のハンドリングが容易になるため好ましい。
【0137】
[1−9]製造方法:
本実施の形態の転写材は、例えば、基材シートにエマルジョンE1とエマルジョンE2を混合した透明シート用塗工液を塗工、乾燥(加熱)し、透明シート内のエマルジョンE1が造膜した状態、エマルジョンE2が粒子として残存した状態で、基材シート上に透明シートが積層された積層体を作り、基材シート、透明シートがこの順で積層された積層体に、無機微粒子、水溶性樹脂及びカチオン性樹脂を含有する塗工液を塗工することにより製造することができる。なお、以下の記載においては、転写材の項等で既に説明した事項については割愛し、製造方法固有の事項のみ説明する。
【0138】
[1−9−1]透明シート:
透明シートはエマルジョンE1とエマルジョンE2を混合した透明シート用塗工液を調整し、これを基材シートの表面に塗布し、乾燥(加熱)させて透明シートを形成することで得られる。
【0139】
塗工液の媒体としては、水性媒体を用いることが好ましい。水性媒体としては、水;水と水溶性有機溶剤との混合溶媒;等を挙げることができる。水溶性有機溶剤としては、例えば、
メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;
アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;
テトラヒドロフラン等のエーテル類;等を挙げることができる。
【0140】
透明シート用塗工液には、本発明の効果を妨げない限り、各種添加剤を含有させることができる。
【0141】
[1−9−1−1]塗工:
透明シートの形成は、エマルジョンを含む塗工液を、ロールコーティング法、ロッドバーコーティング法、スプレーコーティング法、エアーナイフコーティング法、及びスロットダイコーティング法等により塗工し、乾燥させることで行なうことができる。
【0142】
透明シート用塗工液の塗工量は、固形分換算で1〜40g/m2とすることが好ましく、さらに好ましくは2〜30g/m2、さらにより好ましくは4〜20g/m2である。塗工量を好ましくは1g/m2以上、さらに好ましくは2g/m2以上、さらにより好ましくは4g/m2以上とすることで、透明シートの耐水性及び耐擦過性を確保することができる。一方、塗工量を、好ましくは40g/m2以下、さらに好ましくは30g/m2以下、さらにより好ましくは20g/m2以下とすることで、透明シートの透明性を向上させることができる。さらに、加熱圧着させる際にも熱伝導を良好にできるため、透明シートと色材受容層との接着性(転写性能)を向上させることができる。また、画像支持体としてプラスチックカードを用いた場合に、記録物全体の厚さをJIS6301に記載される総厚さ0.84mm以下に抑制することが容易になるため好ましい。
【0143】
[1−9−1−2]透明シート形成時の乾燥:
本実施形態は透明シート形成時に透明シートに含有するエマルジョンE1が造膜し、エマルジョンE2が粒子状態とするための乾燥(加熱)工程を含む。
【0144】
透明シート形成時の乾燥温度をエマルジョンE1のガラス転移温度Tg1以上且つエマルジョンE2のガラス転移温度Tg2未満とすることで、エマルジョンE1が造膜し、エマルジョンE2が粒子として残存している透明シートを製造することができる。エマルジョンE1が造膜し且つエマルジョンE2が粒子で残存した状態であると膜強度を保ちつつ、転写剥離時に、画像支持体55と色材受容層が接着している部分963の透明シート部分980に含有され、加熱転写時の熱で溶融軟化し、膜状態となったエマルジョンと、画像支持体と色材受容層が接着していない部分964の透明シート部分981に含有される粒子状態のエマルジョンの膜強度の差が大きくなる。これにより、境界部982でクラックが入りやすいので、端部の切れ性、接着性は良好となり、アルコール等に浸漬したときの透明シートのはがれも起こりにくい。さらに粒子が残存すると透明シートと指が触れたときの接触面積が小さくなり、べたつきが起こりにくい。透明シート形成時にTg2以上の温度で加熱乾燥すると、エマルジョンE1とE2が両方とも造膜した状態となり、転写時に端部にクラックが入りにくく、十分な切れ性が得られない。また、E1とE2が両方とも造膜した状態では、基材シートからの剥離性も悪化する。一方透明シート形成時にTg1より小さい温度で加熱してしまうとエマルジョンE1及びエマルジョンE2が両方とも粒子状態となり、膜が形成しにくい。また、膜が形成できたとしても平滑性が低下し、色材受容層への十分な接着性が得られないし、透明シートの強度が著しく低下し、薬品などに浸漬したときの剥がれなども発生しやすい。透明シート形成時の乾燥温度が高いと塗工スピードをあげることができるので、生産性の面では透明シート形成時の乾燥温度は上記範囲内で出来るだけ高いほうが好ましい。
【0145】
[1−9−1−3]その他:
基材シートは、予め表面改質が行われていてもよい。基材シートの表面を粗面化する表面改質を行うことにより、基材シートの濡れ性が向上し、透明シートとの接着性を向上させることができる場合がある。表面改質の方法としては特に制限はない。例えば、透明シートの表面に、予めコロナ放電処理又はプラズマ放電処理を行う方法;基材シートの表面にIPA又はアセトン等の有機溶剤を塗工する方法;等を挙げることができる。これらの表面処理は、基材シートと透明シートとの結着性が高まり、強度が向上し、基材シートから透明シートが剥離する不具合を防止することができる。
【0146】
そして、透明シートは、他の層又はシートとの積層体とした状態で用いてもよい。例えば、アンカー層、透明シート、離型剤を含有する組成物からなる離型層、又は基材シートが順次積層された積層シートを用いてもよい。
【0147】
離型層は、基材シートを構成する樹脂フィルム等に、離型層を構成する樹脂又はワックスを含有する塗工液を塗工し、乾燥することにより形成することができる。塗工方法としては、従来公知の塗工方法、例えばグラビア記録法、スクリーン記録法、及びグラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の塗工方法を挙げることができる。
【0148】
基材シートと透明シートに積層した積層体は、予め表面改質が行われていてもよい。透明シートの表面を粗面化する表面改質を行うことにより、透明シートの濡れ性が向上し、色材受容層又はアンカー層との接着性を向上させることができる場合がある。表面改質の方法としては特に制限はない。例えば、透明シートの表面に、予めコロナ放電処理又はプラズマ放電処理を行う方法;透明シートの表面にIPA又はアセトン等の有機溶剤を塗工する方法;等を挙げることができる。これらの表面処理は、色材受容層と透明シートとの結着性が高まり、強度が向上し、透明シートから色材受容層が剥離する不具合を防止することができる。
【0149】
[1−9−2]色材受容層:
色材受容層は、少なくとも無機微粒子、水溶性樹脂及びカチオン性樹脂を、適当な媒体と混合して色材受容層用塗工液を調製し、これを透明シートの表面に塗布し、乾燥させて色材受容層を形成することで得られる。
【0150】
塗工液の媒体としては、水性媒体を用いることが好ましい。水性媒体としては、水;水と水溶性有機溶剤との混合溶媒;等を挙げることができる。水溶性有機溶剤としては、例えば、
メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類;
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;
アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;
テトラヒドロフラン等のエーテル類;等を挙げることができる。
【0151】
塗工液としては、熱融着性樹脂をさらに含有する塗工液を用いることが好ましい。熱融着性樹脂としては、プライマー層の項で例示した材料、特にガラス転移温度が60〜160℃の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。また、塗工液の濡れ性を向上させ、結着性を高めるために、ポリオレフィン樹脂等を含有させることが好ましい。中でもポリエチレンを含有させることが好ましい。ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び高密度ポリエチレン(HDPE)等を挙げることができる。ただし、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、及びポリプロピレン等も用いることができる。
【0152】
塗工液には、本発明の効果を妨げない限り、各種添加剤を含有させることができる。反転画像を記録するインクとして染料インクを用いる場合には、染料固着剤を含有させることが好ましい。染料固着剤は染料分子のアニオン性基と結合して塩を形成し、染料を水に対して不溶化させることで、マイグレーションを防止することができる。
【0153】
その他の添加剤としては、例えば界面活性剤、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、インク定着剤、ドット調整剤、着色剤、蛍光増白剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、pH調整剤等を挙げることができる。
【0154】
塗工液中の無機微粒子の濃度は塗工液の塗工性等を考慮して適宜決定すればよく、特に制限はない。ただし、濃度は、塗工液の全質量に対し、10〜30質量%とすることが好ましい。
【0155】
[1−9−2−1]塗工:
色材受容層の形成は、例えば基材シート及び透明シートの積層体を構成する透明シートの表面に、塗工液を塗工することにより行う。塗工後は必要により塗工液の乾燥を行う。これにより、図2に示すような、基材シート50、透明シート52及び色材受容層53がこの順で積層された積層構造を有する転写材1を得ることができる。
【0156】
アンカー層、透明シート、離型層、及び基材シートがこの順で積層された積層シートを用いる場合には、積層シートを構成するアンカー層の表面に、塗工液を塗工すればよい。これにより、図3に示すような色材受容層53、アンカー層59、透明シート52、離型層51及び基材シート50がこの順で積層された積層構造を有する転写材1を得ることができる。
【0157】
塗工方法としては、従来公知の塗工方法を用いることができる。例えば、ブレードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、スロットダイコーティング法、バーコーティング法、グラビアコーティング法、及びロールコーティング法等を挙げることができる。
【0158】
色材受容層用塗工液の塗工量は、固形分換算で10〜40g/m2とすることが好ましい。塗工量を、好ましくは10g/m2以上、さらに好ましくは15g/m2以上とすることで、インク中の水分吸収性に優れた色材受容層を形成することができる。従って、記録された反転画像中のインクが流れたり、反転画像が滲んだりする不具合を抑制することができる。一方、塗工量を、好ましくは40g/m2以下、さらに好ましくは20g/m2以下とすることで、塗工層を乾燥させる際に転写材にカールが発生し難くなる。また、色材受容層の厚さを薄くすることにより、最終的に形成される記録物の厚さを薄厚化することができる。画像支持体がクレジットカード等のプラスチックカードである場合には、日本工業規格(JIS−X−6305)により厚さが厳格に規定されているため、上記塗工量とすることが有効である。
【0159】
[1−9−2−2]色材受容層形成時の乾燥:
色材受容層用塗工液の塗工時に乾燥工程を設ける場合は、乾燥温度をエマルジョンE2のガラス転移温度Tg2未満にする必要がある。透明シート形成時の乾燥工程によって、色材受容層用塗工液を塗工するときにはエマルジョンE1が造膜し、エマルジョンE2が粒子状態となっている。しかし、色材受容層塗工時の乾燥温度がTg2以上になるとエマルジョンE2が造膜し、透明シート全体でエマルジョンE1とE2の両方が膜化した状態になり、転写材を転写するときにクラックがはいりにくくなって、端部の切れ性が低下する。
【0160】
透明シート上に色材受容層用塗工液の塗工する場合に、塗工液が乾燥し、収縮していく過程で透明シートが収縮に耐え切れずひび割れが起こる場合がある。透明シートに含まれるエマルジョンE1及びエマルジョンE2の比率であるE1/E2が下記式(1)を満たすことでひび割れを防ぐことが出来る。エマルジョンE1とエマルジョンE2の比率(E1/E2)は下記式(1)を満たすことが好ましく、より好ましくは5.0≦E1/E2≦50.0、さらにより好ましくは10.0≦E1/E2≦35.0を満たすことが好ましい。比率E1/E2を65.0以下、さらに好ましくは50.0以下、より好ましくは35.0以下にすることで、エマルジョンE2が増加する。粒子成分が増えることで、画像支持体55と色材受容層が接着している部分963の透明シート部分980に含有され、加熱転写時の熱で溶融軟化し、膜状態となったエマルジョンと、画像支持体と色材受容層が接着していない部分964の透明シート部分981に含有される粒子状態のエマルジョンの膜強度の差が大きくなる。これにより、境界部982でクラックが入り易くなり、端部にバリの発生がなく箔切れ性を良好にすることができる。一方、比率E1/E2が3.0以上、より好ましくは5.0以上、さらにより好ましくは10.0以上とすることで、エマルジョンE1が増加する。造膜成分が増えることで膜強度が向上し、さらに色材受容層との接触面積が大きくなり、色材受容層と透明シートの接着性を向上させることができる。特に10.0≦E1/E2≦35.0の範囲にすることで接着性と端部の切れ性、ひび割れ防止を高レベルで両立できる。比率E1/E2が65.0より大きくなると、粒子成分が少なくなり、膜の状態に近づくため、クラックがはいりにくく、箔切れ性が得られない。また比率E1/E2が3.0より小さいと、エマルジョンE2のバインダーとなるE1が少なくなるため、色材受容層形成時に透明シートのエマルジョンのはがれ又は粉落ちが発生する場合があり、色材受容層が均一に形成できない。さらには膜成分が少なくなるため、色材受容層との接着性が低下し、透明シートのはがれが発生しやすくなる。
3.0≦E1/E2≦65.0 (1)
【0161】
[1−10]画像:
図4は、転写材を模式的に示す斜視図である。転写材は、色材受容層に画像が形成されていることが好ましい。特に図4に示す転写材1のように、色材受容層53に、色材受容層53の側から見ると鏡像となり、透明シート52の側から見ると正像となる反転画像72が記録されていることが好ましい。
【0162】
本実施の形態の転写材においては、図4に示す転写材1のように、反転画像72は、色材受容層53の透明シート52が積層されていない面に記録されている。特にインクジェット記録方式により記録された画像は従来の熱転写方式と比較して、記録物の生産性及び情報セキュリティーを向上させることができ、記録コストの低減を図ることが可能となる。
【0163】
本実施の形態の転写材においては、画像が、染料インクにより形成された画像であってもよいし、顔料インクにより形成された画像であってもよい。ただし、画像が、顔料インクにより形成された画像であることが好ましい。顔料インクにより反転画像を形成することで、色材受容層の表面にインク中の水分及び溶媒が残存し難くなる(すなわち、乾燥が容易となる)。これにより、水分又は溶媒に起因する画像支持体と転写材(具体的には色材受容層)との接着不良及びマイグレーション(インクの移動)を有効に防止することができる。さらに、顔料インクにより反転画像を形成することで、反転画像の耐光性を向上させることができる。
【0164】
上記内容についてさらに詳細に説明する。顔料インクは、図5に示すように、空隙吸収型の色材受容層64においては、顔料インク中の顔料成分63は粒子径が大きい。そのため、色材受容層64を形成する無機微粒子65で構成される細孔の内部まで浸透せずに、色材受容層64の記録表面で定着する。さらに、空隙吸収型の色材受容層64は、膨潤型の色材受容層とは異なり、色材受容層64が膨潤することなく平滑に保たれる。一方、膨潤吸収型の色材受容層の場合は、図6に示すように、インク中の水分により色材受容層67が膨潤して、色材受容層67の表面に凹凸が発生する。そのため、画像支持体に対する接着性を低下させてしまう。また、インク中の残存水分及び溶媒は色材受容層66の表面に残る。そのため、付着工程における残存水分及び溶媒の蒸発により、画像支持体と色材受容層のとの密着性が不足する可能性があるため、好ましくない
【0165】
また、空隙吸収型の色材受容層64においては、顔料インク中の顔料成分63は色材受容層64の表面で定着する。一方でインク中の水分及び溶媒成分62は、色材受容層64の内部まで浸透し、表面の顔料成分63と分離(固液分離)する。これにより、転写時には、顔料表面は乾燥した状態になるため、水分の蒸発による接着不良を防止し接着性を向上することができる。また、残存水分及び溶媒成分62は色材受容層64の内部にとどまるため、顔料成分63は、再度、残存水分及び溶媒成分62が接触することがない。そのため、インクの移動(マイグレーション)を防止することができる。一方で染料インクは、図7に示すように、残存水分の影響により染料成分68が染料成分69のように移動(マイグレーション)してしまうため、にじみが発生する。
【0166】
また、顔料インク中の顔料成分としては、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、又は、スルホン基のうち、少なくとも1種の官能基又はその塩を結合させる表面処理がなされたことで、分散剤なしで水中に分散が可能となった自己分散顔料又は顔料粒子の周りを樹脂で被覆した樹脂分散型の顔料成分を用いることができる。特に転写材の色材受容層にカチオン性樹脂が含有する場合は、一般的にマイナス帯電している顔料粒子は、カチオン性樹脂との静電気的に結合し、色材受容層と顔料インクとの接着性を強固にしている。尚、顔料粒子の周りを樹脂で被覆している樹脂分散顔料が、自己分散顔料に比べて転写性能を向上させるため好ましく用いられる。樹脂分散型の顔料を用いることによって、インク媒体を分離した後の顔料粒子同士の結着力を高めることができる。これにより、顔料膜の表面上の水分は顔料膜によって、色材受容層中の下層の水分とはほぼ遮断され、さらに下層からの水分補給もほぼ遮断された状態になる。従って、顔料膜の表面上の水分が少量であれば、自然乾燥で十分に乾燥できる。また、樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のアクリル樹脂を用いることが好ましい。
【0167】
また、分散樹脂のSP値は、色材受容層の水溶性樹脂のポリビニルアルコールなどのSP値と近い。そのため、転写時の熱で分散樹脂および水溶性樹脂が溶融すると、両者の相溶性が高まり、樹脂分散顔料は色材受容層にも強固に接着される。そのため、記録画像の表面が顔料膜で覆われても、色材受容層との結着性を高めることができる。さらに、分散樹脂のSP値は、画像支持体のPVC及びPET−GなどのSP値と値が近い。そのため、転写時の熱で分散樹脂および画像支持体表面の構成成分(PVC及びPET−Gなど)が溶融すると、両者の相溶性が高まり、樹脂分散顔料は画像支持体に強固に接着される。これにより、記録画像の色材受容層表面が顔料膜で覆われても、画像支持体との結着性を高めることができる。よって、画像支持体に対する色材受容層の転写性能を向上させることができる。
【0168】
顔料粒子の周りを被覆する樹脂としては、酸価100〜160mgKOH/gである(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が好ましい。酸価を、100mgKOH/g以上とすると、サーマル方式でインクを吐出するインクジェット記録方式において吐出安定性が向上する。一方、酸価を160mgKOH/g以下とすると、顔料粒子に対して相対的に疎水性を有するようになりインクの定着性及び耐滲み性が良好となる。従って、インクの高速定着及び高速記録に適する。
【0169】
ここで酸価とは、1gの樹脂を中和するのに必要となるKOHの量(mg)であり、その親水性を示す指標となり得る。なお、この場合の酸価は、樹脂分散剤を構成する各モノマーの組成比から計算により求めることもできる。しかし、具体的な顔料分散体の酸価の測定方法としては、電位差滴定により酸価を求める、Titrino(Metrohm製)等を使用することができる。
【0170】
顔料分散体で使用する樹脂は、疎水性の顔料を水系液媒体中に良好に分散させる分散機能を有することが好ましく、ランダムコポリマーが使用される。ランダムコポリマー以外、例えばブロックコポリマー等は、顔料の親水性が高くなることが多く、記録画像の耐水性が劣ることが多いため好ましくない。顔料分散体で使用する樹脂の製法は、常法により、例えば、特許4956917号に開示されている方法を用いることができる。なお、顔料インクの各成分と物性の好ましい範囲については、例えば、特開2015−110321号公報に記載されている。
【0171】
顔料インクは、いわゆる水性顔料インクである。水性顔料インクは、水溶性媒体に顔料を分散させている。また、水性顔料インクは、顔料−樹脂分散と呼ばれるタイプであり、表面に対してランダム構造である(メタ)アクリル酸エステル系共重合物を吸着させて水性媒体中に分散させている。製法は、常法により、例えば、特許第4956917号公報に開示されている方法で水性顔料インクを得ることができる。
【0172】
[1−10−1]顔料:
顔料としては、例えば、カーボンブラック及び有機顔料等を挙げることができる。各種顔料の1種、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0173】
カーボンブラックの具体例は、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料で、例えば、商品名としてレイヴァン(アディティア・ビルラ製)、ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)、ヴァルカン(Valcan)(以上キャボット製)、カラーブラック(Color Black)、プリンテックス(Printex)、スペシャルブラック(Special Black)(以上エボニック製)、三菱カ−ボンブラック(三菱化学製)等の冠称を有するカーボンブラックを使用することができる。勿論、これらに限定されるものではなく、従来公知のカーボンブラックを使用することも可能である。物性的には、一次粒子径が10〜40nm、BET法による比表面積が50〜400m2/g、吸油量40〜200ml/100g、揮発分が0.5〜10%、pHが2〜9であるカーボンブラックであることが好ましい。なお、DBP吸収量は、JIS K6221 A法によって測定される。
【0174】
有機顔料の具体例は、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザエロー、ベンジジンエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料;リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料;アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料;キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料;ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料;イソインドリノンエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料;ベンズイミダゾロンエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料;ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料;チオインジゴ系顔料;縮合アゾ系顔料;チオインジゴ系顔料;その他、フラバンスロンエロー、アシルアミドエロー、キノフタロンエロー、ニッケルアゾエロー、銅アゾメチンエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等の顔料が例示できる。
【0175】
また、有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、以下の有機顔料が例示できる。勿論、下記以外でも従来公知の有機顔料が使用可能である。
【0176】
C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、151、153、154、166、168;
C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61;
C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240;
C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;
C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64;
C.I.ピグメントグリーン7、36;
C.I.ピグメントブラウン23、25、26;
【0177】
[1−10−2]樹脂:
顔料分散体で使用する樹脂としては疎水性の顔料を水系液媒体中に良好に分散させる分散機能を有することが好ましく、ランダムコポリマーが使用される。ランダムコポリマー以外、例えばブロックコポリマー等は、顔料の親水性が高くなることが多く、記録画像の耐水性が劣ることが多いため好ましくない。
【0178】
ランダムコポリマーの例としては、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物が好ましく用いられる。(メタ)アクリル酸エステル系共重合物は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル及びそれらと共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体を共重合させることにより得ることができる。(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸又はメタクリル酸が挙げられ、なかでも電気的中性状態とアニオン状態の共存範囲を広く制御できることを考慮すると(メタ)アクリル酸が好ましく用いられる、
【0179】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等のアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラメチレンエーテルグルコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドのランダムポリマーグリコール又は同ブロックポリマーグリコールのモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシド−ポリテトラメチレンエーテルのランダムポリマーグリコール又は同ブロックポリマーグリコールのモノ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ベンジル等を挙げることができる。
【0180】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合物は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、モノエチレン性不飽和単量体の他に、スチレン系単量体も含めることができる。ここでスチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−クロロスチレン等を挙げることができる。すなわち、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物は、スチレン系単量体を有するスチレン−(メタ)アクリル酸系共重合体であることが好ましい。
【0181】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合物の重量平均分子量は、スチレン換算で重量平均分子量(Mw)が6,000〜12,000の範囲にあることが好ましく、7,000〜9,000の範囲にあることがさらに好ましい。上記の範囲にすることで、顔料分散体の分散安定性を高め、粘度が低く設定でき、ヒーター部分でのコゲーションを抑え長期間安定した記録を行わせることができる。重量平均分子量が6,000未満であると水性顔料分散体自体の分散安定性が低下するため好ましくない。また、重量平均分子量が12,000を超えると水性顔料分散体の粘度が高くなるだけでなく、分散性が低下する傾向が認められる。さらにヒーター部分に対するコゲーションがひどくなり、サーマル方式インクジェットプリンタのノズル先端からインク液滴の不吐出を引き起こす原因となるので好ましくない。
【0182】
[1−10−3]顔料分散体:
顔料分散体は顔料が(メタ)アクリル酸エステル系共重合物で被覆されることにより調製される。
【0183】
顔料分散体の平均粒子径は、液中での動的光散乱法により求められる値が、70〜150nmであることが好ましく、80〜120nmであることが好ましい。平均粒子径が150nmを超えるとインクの沈降が促進されるため、長期間での分散安定性がそこなわれるため好ましくない。一方、平均粒子径が70nmより小さくなると、画像を形成するのに十分な発色性又は得られた画像に対して十分な耐候性を得ることができなくなるため好ましくない。
【0184】
具体的な平均粒子径の測定方法としては、例えば、レーザー光の散乱を利用した、FPAR−1000(大塚電子製、キュムラント法解析)、ナノトラックUPA 150EX(日機装製、50%の積算値の値とする)等を使用して測定できる。
【0185】
顔料分散体のインク中への添加量は、インク全量に対して、好ましくは0.5〜10質量%、さらに好ましくは1.0〜8.0質量%、特に好ましくは1.5〜6.0質量%であることが好ましい。顔料濃度が0.5質量%より小さくなると画像を形成するのに十分な発色性を得ることができない。また添加量が10.0%質量を超えると、水性顔料インクの粘度が上昇してしまい、吐出が困難になるため好ましくない。
【0186】
水性顔料分散体においては、顔料と(メタ)アクリル酸エステル系共重合物との割合は、分散体の分散性を保ち、さらに顔料インクの粘度を低く保つ観点から、質量換算で顔料1部に対して、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物が0.2〜1.0部の範囲にあることが好ましい。
【0187】
顔料を(メタ)アクリル酸エステル系共重合物で被覆する際には、酸析工程を組み込むことが好ましい。酸析とは、顔料と塩基性物質の水溶液に溶解している(メタ)アクリル酸エステル系共重合物とを含有する液媒体に酸性物質を加えて酸性化することにより、(メタ)アクリル酸エステル系共重合物中のアニオン性基を中和される前の官能基に戻して、該重合物を析出させることである。
【0188】
この様な酸析工程としては、分散工程と必要に応じて実施される蒸留工程を経て得られた水性分散体に塩酸、硫酸及び酢酸等の酸を加えて酸性化し、塩基と塩を形成することによって溶解状態にある(メタ)アクリル酸エステル系共重合物を顔料粒子表面に析出させる工程である。この工程を実施することにより、顔料と(メタ)アクリル酸エステル系共重合物との相互作用をより高めることができる。その結果、マイクロカプセル型複合粒子が水性分媒中に分散している形態を取らせることができる。そして、水性顔料分散体として、分散到達レベル、分散所要時間及び分散安定性等の物性面、及び耐溶剤性等の使用適性面で、より優れた効果を存分に発揮させることができる。
【0189】
こうして相互作用を高めて得られた析出物を濾別する濾過工程を実施し、より好ましくはその析出物を濾過工程終了後、洗浄する洗浄工程を実施する。そして、顔料分散体中に吸着せずに存在するフリーポリマーを除去して、再度塩基性物質と共に水性媒体中に分散させる再分散工程を実施することで、分散安定性により優れた水性顔料分散体を得ることができる。
【0190】
[1−10−4]水溶性化合物:
顔料インクは、少なくとも水溶性化合物に、顔料分散体を分散させている。本実施の形態の水溶性化合物の種類としては特に制限はないが、水溶性化合物が、水溶性有機溶媒及び25℃で固体の水溶性化合物の群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0191】
ここにいう「水溶性化合物」とは、水と自由に混和するか、又は水に対する溶解度(25℃)が20g/100g以上の化合物を意味する。水溶性化合物は、水溶性有機溶媒及び25℃で固体の水溶性化合物の群から選択される少なくとも1種である。水溶性化合物を含有させることで、水の蒸発を防止し、乾燥によるインクの固着を防止することができる。
【0192】
水溶性化合物としては、例えば以下に掲げるようなアルコール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類、カルボン酸アミド類、複素環類、ケトン類、アルカノールアミン類:等、各種水溶性有機溶媒を用いることができる。また、尿素、エチレン尿素、トリメチロールプロパン等のような25℃で固体の水溶性化合物を用いることもできる。
【0193】
(1)アルコール類:
メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール等の炭素数1〜5の鎖式アルコール類;
(2)多価アルコール類:
エチレングリコール(エタンジオール)、プロパンジオール(1,2−、1,3−)、ブタンジオール(1,2−、1,3−、1,4−)、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール等のアルカンジオール類;
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルカンジオールの縮合体;
グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール等のアルカンジオール類以外の多価アルコール類;
(3)グリコールエーテル類:
エチレングリコールのモノメチルエーテル;
ジエチレングリコールのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル;
トリエチレングリコールのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノブチルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル;
テトラエチレングリコールのジメチルエーテル、ジエチルエーテル;
(4)カルボン酸アミド類:
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド;
(5)複素環類:
テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;
2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルモルホリン等の含窒素複素環類;
スルホラン等の含硫黄複素環類;
(6)尿素類:
尿素、エチレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(N,N’−ジメチルエチレン尿素)等の尿素類;
(7)ケトン類:
アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;
4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン(ジアセトンアルコール)等のケトアルコール;
(8)アルカノールアミン類:
モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン;
(9)その他:
ジメチルスルホキシド、ビスヒドロキシエチルスルホン等の含硫黄化合物;
【0194】
水溶性有機溶媒の中では、多価アルコール類が好ましく、グリセリンがさらに好ましい。グリセリンは揮発し難く、インクの固着を防止する効果に優れる点において好ましい。また、水溶性有機溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。例えばグリセリンと、グリセリン以外の多価アルコール及び含窒素複素環類を併用することも好ましい。この際、グリセリン以外の多価アルコールとしてはトリエチレングリコール等を、含窒素複素環類としては2−ピロリドン等を用いることができる。このような混合溶媒はインクの増粘を防止する効果が高い点において好ましい。
【0195】
水溶性有機溶媒の含有率としては特に制限はない。ただし、水性媒体の蒸発を防止し、乾燥によるインクの固着を防止する効果を得るために、含有率はインク全質量に対して5質量%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上である。一方、高い駆動周波数にも対応可能とし、また、カビの発生を防止する観点から、含有率はインク全質量に対して50質量%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは40質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。
【0196】
25℃で固体の水溶性化合物としては、尿素及びエチレン尿素等を用いることが好ましく、エチレン尿素を用いることが好ましい。25℃で固体の水溶性化合物の含有率としては特に制限はない。ただし、水性媒体の蒸発を防止し、乾燥によるインクの固着を防止する効果を得るために、含有率はインク全質量に対して5質量%以上とすることが好ましく、9質量%以上とすることがさらに好ましい。一方、過剰の添加による不具合を防止するため、含有率はインク全質量に対して40質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることがさらに好ましく、15質量%以下とすることが特に好ましい。
【0197】
[1−10−5]界面活性剤:
本実施の形態においては、インクの表面張力をコントロールして、画像記録媒体におけるインクのにじみ度合い又は浸透性を任意にコントロールする目的で、又はヘッド内でのインクの濡れ性を向上し、インクのヒーター面上でのコゲーションを防止し、吐出を向上させたりする目的で必要に応じて、インクに界面活性剤を含有してもよい。
【0198】
このような界面活性剤としては、特に制限はないが、以下に挙げる界面活性剤を好適に用いることができる。なお、界面活性剤は単独で使用しても複数を併用してもよい。
【0199】
〔ノニオン性界面活性剤〕
ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体等。脂肪酸ジエタノールアミド、アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物、アセチレングリコール系界面活性剤等。
【0200】
〔アニオン性界面活性剤〕
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルフォン酸塩等。アルファスルホ脂肪酸エステル塩、アルキルベンゼンスルフォン酸塩、アルキルフェノールスルフォン酸塩、アルキルナフタリンスルフォン酸塩、アルキルテトラリンスルフォン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等。
【0201】
〔カチオン性界面活性剤〕
アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウムクロリド等。
【0202】
〔両性界面活性剤〕
アルキルカルボキシベタイン等。
【0203】
その中でも、アセチレングリコール系界面活性剤及びポリオキシエチレンアルキルエーテル等は、インクの吐出安定性を向上させることができるため、特に好ましく使用される。
【0204】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、下記一般式(11)に示す化合物(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド付加物)を用いる。
【0205】
【化2】
【0206】
(一般式(11)中、U、Vはそれぞれ独立に1以上の整数であり、U+Vは、2〜20の整数である)
【0207】
[1−10−6]水:
水としては、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。水の含有率としては特に制限はない。ただし、インクの全質量に対し、含有率は、30〜90質量%であることが好ましく、さらに好ましくは40〜85質量%であり、特に好ましくは50〜80質量%である。含有率を30質量%以上とすることにより、顔料及び水溶性化合物を水和させることができ、顔料及び水溶性化合物の凝集を防止することができる。一方、含有率を90質量%以下とすることにより、相対的に水溶性有機化合物の量が増える。そして、水性媒体中の揮発成分(水等)が揮発してしまった場合でも、顔料の分散状態を維持することができ、顔料の析出及び固化を防止することができる。
【0208】
[1−10−7]他の添加剤:
インクは、目的に応じて、界面活性剤以外の添加剤を含有していてもよい。そのような添加剤としては、例えばpH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、及び塩等を挙げることができる。
【0209】
[1−10−8]粘度:
インクの粘度ηは、1.5〜5.0mPa・sであることが好ましく、さらに好ましくは、1.6〜3.5mPa・s、特に好ましくは1.7〜3.0mPa・sである。粘度を1.5mPa・s以上とすることにより、良好なインク滴を形成することができる。一方、粘度を5.0mPa・s以下とすることにより、インクの流動性が向上し、ノズルへのインク供給性、延いてはインクの吐出安定性が向上する。
【0210】
インクの粘度は、JIS Z 8803に準拠して、温度25℃の条件下、E型粘度計(例えば、東機産業製「RE−80L粘度計」等)を用い、測定した値を意味する。インクの粘度は、界面活性剤の種類又は量の他、水溶性有機溶媒の種類又は量等により調整することができる。
【0211】
[1−10−9]表面張力:
インクの表面張力γは、25〜45mN/mであることが好ましい。表面張力を25mN/m以上とすることにより、インク吐出口のメニスカスを維持することができ、インクがインク吐出口から流出してしまう不具合を防止することができる。また表面張力を45mN/m以下とすることにより、インクの画像記録媒体への吸収速度を最適にすることができ、インクの吸収不足による定着不良という不具合を防止することができる。
【0212】
インクの表面張力は、温度25℃、自動表面張力計(例えば、協和界面科学製「CBVP−Z型」等)を用い、白金プレートを用いたプレート法により測定した値を意味する。インクの表面張力は、界面活性剤の添加量、水溶性有機溶剤の種類及び含有量等により調整することができる。
【0213】
[1−10−10]pH:
インクのpHは、7.5〜10.0であることが好ましく、さらに好ましくは8.5〜9.5である。pHが7.5未満では顔料粒子の分散安定性が悪くなり、顔料の粒子の凝集が起こりやすくなるため好ましくない。一方、pHが10.0を超えると、インクのpHが高すぎてしまい、使用する装置の部材によっては、インクと接することによってケミカルアタックを引き起こす。これにより有機物又は無機物がインク中に溶出することによって、結果として吐出不良を引き起こすため好ましくない。
【0214】
インクの粘度は、温度25℃の条件下、pHメーター(例えば、HORIBA(製)D−51等)を用い、測定した値を意味する。
【0215】
[1−11]画像の記録:
次いで、転写材における色材受容層の透明シートが積層されていない面に、画像記録する。特に、色材受容層の側から見ると鏡像となり、透明シートの側から見ると正像となる反転画像を、記録する。これにより、図4に示すように、転写材1の色材受容層53に反転画像72が記録される。
【0216】
インクジェット記録方式とは、記録ヘッドに形成された複数のノズルから転写材に対してインク(インク滴)を吐出して画像を記録する方式である。インクジェット記録方式の種類としては特に制限はない。ただし、駆動パルスに応じた熱エネルギーをノズル内のインクに付与して膜沸騰により気泡を形成させ、この気泡によってノズルからインク滴を吐出させるサーマルインクジェット記録方式が好ましい。
【0217】
インクジェット記録方式は、インクジェット記録装置(インクジェットプリンタ)により実施することができる。インクジェットプリンタは、画像記録時に記録ヘッドと転写材が接触しないので、極めて安定した画像記録を行うことができる点において好ましい。インクジェットプリンタの種類としては特に制限はない。ただし、インク吐出口及びインク流路等からなるノズルを複数集積したマルチノズルヘッドを転写材の搬送方向と直交するように多数配列させたラインヘッドを備えたフルライン型のインクジェットプリンタを用いることが好ましい。フルライン型のインクジェットプリンタは転写材の搬送に合わせて複数のノズルのインク吐出口から同時にインクを吐出させて画像の記録を行う。このため、高品位で高解像度の画像を高速で記録することができる点において好ましい。
【0218】
記録ヘッドのインクの吐出量としては、20pl以下であることが好ましい。インクの吐出量を、好ましくは20pl以下、さらに好ましくは10pl以下、特に好ましくは5pl以下とすることにより、転写材と画像支持体との加熱圧着工程においてインクの水分量を適切なレベルにコントロールすることができる。また、吐出量を小さくするほど、色材受容層でのインクの広がりを抑えることができ、稠密で十分な濃度の反転画像を記録することができる。さらには、画像層(インク層)の厚さを抑えることが可能となる。
【0219】
また、本実施の形態においては記録ヘッドを記録面に対して相対的に移動走査させつつ順次転写材を搬送する、シリアルヘッド型のインクジェット記録方式を用いてもよい。シリアルヘッドは、熱転写方式の記録速度に比べて十分な優位性があり、また液滴を小さくできるので高品位な画像を容易に作成することができる。
【0220】
また、画像は画像支持体よりも大きなサイズで記録することが好ましい。このようにすることで、ふち無し記録が可能になり、良好な画像を得ることができる。特にインクジェットを用いる場合、画像支持体に直接ふち無し記録を行うとエッジ部分にインクが吸収されエッジ部分の画像品位が悪化する。しかし、本実施の形態においてはインクジェット方式によってもエッジ部の良好な印刷が可能となる。
【0221】
[1−11−1]マーキング処理:
また、画像を記録する際に、図8に示すように転写工程での自動ラミネート機の位置合わせ用に、画像形成領域161又は記録領域160の外側に、位置あわせ用のマーキング162を印刷することができる。このマーキングを、透過及び反射型のセンサーで読み取ることにより、転写時の貼り合わせ位置を正確に行うことができる。また、図9に示すように、転写材がカットシート形状である場合は、画像形成領域161の外側に、マーキング162に加えて、貼り合わせガイド163を記録すると、転写時の貼り合わせの位置調整を容易に行うことができる。
【0222】
[1−11−2]インクの乾燥:
本実施の形態の転写材においては、画像を形成しているインクジェット記録用のインクの水分量を、インクの総打ち込み量に対して70質量%以下となるまで乾燥することが好ましい。インクの水分量を、好ましくは70%質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下とすることにより、画像支持体と転写材を加熱圧着させる際に、インク成分の急激な蒸発が抑制される。そして、画像支持体と転写材との密着強度の低下、及び色材受容層における気泡残り等の不具合を防止することができる。なお、ここにいう水分量とは、色材を除く水及び不揮発性溶媒等の総量を意味する。
【0223】
インクの総打ち込み量は、記録ヘッドのインク吐出量により調整することができる。水分量の制御を容易に行えるように、予め画像記録時のドット数を間引く等して、打ち込み量を制限してもよい。
【0224】
乾燥は、ハロゲンヒータ等のヒーター(熱源)、又はファン等の排気装置等により行うことができる。ただし、ヒーター等の特別な乾燥手段を設けずに、十分な長さの搬送路を搬送させることによって、自然乾燥を促してもよい。
【0225】
[1−12]プライマー層:
本実施の形態においては、図10に示すように、記録後の転写材1の色材受容層53の表面にプライマー層56をさらに備えていることが好ましい。プライマー層56は、接着性を有する層であり、色材受容層の表面に配置される。この場合、画像支持体と接する層はプライマー層となる。プライマー層を備えることで、画像支持体と転写材との接着性、接着強度を向上させることができ、接着強度の不足により画像支持体から転写材が剥離する不具合を抑制することができる。プライマー層を設けることにより、プライマー層のSP値と画像支持体のSP値との差SP2を、下記一般式(12)の範囲に制御することができ、接着性及び接着強度を向上させることができる。そのため、画像支持体から色材受容層が剥離する不具合を抑制することができる。特に、本実施の形態においては、画像支持体としてPVC及びPET−G以外のPET基材を用いる場合、プライマー層を設けることは有効である。プライマー層としては特に制限はないが、特開2015−110321号公報に記載されているプライマー層を好ましく使用することができる。
0≦SP2≦1.0 (12)
【0226】
[2]記録物:
記録物は、画像支持体と、画像が記録された色材受容層および透明シートが積層された記録物であって、画像が記録された色材受容層および透明シートは、前記[1]に記載の転写材から転写される。
【0227】
具体的に、本実施の形態の記録物は、図1に示す記録物73のように、画像支持体55と、画像が記録された色材受容層および透明シートと、を備える。そして、色材受容層および透明シートが、本実施の形態の転写材の色材受容層53に画像が記録され、基材シートが剥離されて得られる。さらに、記録物73は、画像支持体55、色材受容層53及び透明シート52がこの順で積層された積層構造を有しており、色材受容層53は、無機微粒子及び水溶性樹脂を含有し、透明シート52は、エマルジョンE1及びエマルジョンE2を含有し、エマルジョンE1のガラス転移温度Tg1は50℃より大きく90℃未満であり、エマルジョンE2のガラス転移温度Tg2は90℃以上120℃以下であり、エマルジョンE1が造膜した状態で、かつエマルジョンE2が粒子として残存した状態とする。これによって、記録物の端部の切れ性向上、色材受容層と透明シートとの接着性の向上、透明シートの耐薬品性向上、及びべたつき防止を達成することが出来る。
【0228】
[3]記録物の製造方法:
記録物の製造方法は、画像支持体と、画像が記録された色材受容層および透明シートが積層された記録物の製造方法であって、前記[1]に記載の転写材の色材受容層に画像を記録する工程1と、色材受容層に画像が記録された転写材を、色材受容層の側から画像支持体に加熱圧着する工程2と、転写材から基材シートを剥離して、画像支持体、画像が記録された色材受容層及び透明シートがこの順で積層された記録物を得る工程3と、を含む。
【0229】
以下、具体的に、本実施の形態の記録物の製造方法(工程2、工程3)について説明する。
【0230】
図11は、本実施の形態の転写材を画像支持体55に貼付した積層体84を模式的に示す断面図である。図12は、図11に示す積層体84から基材シート50を剥離して記録物73を得る工程を模式的に示す斜視図である。
【0231】
本実施の形態の転写材は、図11に示すように、色材受容層53を画像支持体55と対向させるように画像支持体55に貼付して用いる。これにより、画像支持体55、色材受容層53及び透明シート52がこの順で積層された積層体84が形成される。これにより、転写材の色材受容層53に記録された反転画像が画像支持体55に貼付される。
【0232】
その後、図12に示すように積層体から基材シート50を剥離することにより記録物73を得ることができる
【0233】
[3−1]画像支持体:
画像支持体は、転写材の画像が支持される対象物である。画像支持体の構成としては特に制限はない。樹脂を構成材料とする画像支持体(樹脂ベース支持体)、及び紙を構成材料とする画像支持体(紙ベース支持体)等を挙げることができる。樹脂ベース支持体としては、例えばクレジットカード、及びICカード等の樹脂製カード等を挙げることができる。紙ベース支持体としては、例えばパスポート等の紙製冊子、及び紙製カード等を挙げることができる。
【0234】
[3−1−1]樹脂ベース支持体:
樹脂ベース支持体を構成する樹脂は、画像支持体の用途に応じて適宜選択すればよく、特に制限はない。例えば、
ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体等のポリエステル樹脂;
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂;
ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ4フッ化エチレン、エチレン−4フッ化エチレン共重合体等のポリフッ化エチレン系樹脂;
ナイロン6、ナイロン6,6等の脂肪族ポリアミド樹脂;
ポリ塩化ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコール、ビニロン等のビニル重合体樹脂;
三酢酸セルロース、セロハン等のセルロース系樹脂;
ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸エチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系樹脂;
ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリイミド等の、その他の合成樹脂;を挙げることができる。
【0235】
樹脂ベース支持体を構成する樹脂は、例えば、脂肪族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、セルロースアセテート、ポリカプロラクトン等の生分解性樹脂であってもよい。また、樹脂ベース支持体は、樹脂を主たる構成材料としていればよく、例えば金属箔等の樹脂以外の材料を含んでいてもよい。
【0236】
[3−1−2]紙ベース支持体:
紙ベース支持体を構成する紙の種類としても特に制限はなく。例えば、コンデンサーペーパー、グラシン紙、硫酸紙、サイズ度の高い紙、合成紙(ポリオレフィン系、ポリスチレン系)、上質紙、アート紙、コート紙、キャストコート紙、壁紙、裏打用紙、合成樹脂又はエマルジョン含浸紙、合成ゴムラテックス含浸紙、合成樹脂内添紙、板紙、セルロース繊維紙等を挙げることができる。
【0237】
[3−1−3]その他:
樹脂ベース支持体及び紙ベース支持体は、必要に応じて、エンボス、サイン、ICメモリ(ICチップ)、光メモリ、磁気記録層、偽変造防止用記録層(パール顔料層、透かし記録層、マイクロ文字等)、エンボス記録層、ICチップ隠蔽層等を備えていてもよい。
【0238】
また、樹脂ベース支持体及び紙ベース支持体は、上述の材質からなる単層体として構成してもよいし、材質又は厚さの異なるシート又はフィルムを2層以上貼り合わせた複層体として構成してもよい。
【0239】
さらに、画像支持体の全体の厚さは、30〜800μmであることが好ましい。画像支持体の厚さを、好ましくは30μm以上、さらに好ましくは500μm以上、特に好ましくは650μm以上とする。一方、画像支持体の厚さを、好ましくは800μm以下、さらに好ましくは770μm以下とする。画像支持体としてプラスチックカードを用いた場合に、記録物全体の厚さをJIS6301に記載される総厚さ0.68〜0.84mmに制御することができる。
【0240】
[3−2]積層構造:
本実施の形態の記録物は、図1図12に示す記録物73のように、画像支持体55、色材受容層53及び透明シート52がこの順で積層された積層構造を有している。
【0241】
[3−3]転写材と画像支持体との加熱圧着:
画像支持体と転写材とを、画像支持体、色材受容層及び透明シートがこの順で積層されるように当接させた状態で加熱圧着する。これにより、画像支持体、色材受容層及び透明シートがこの順で積層された積層構造を有する記録物を得る。
【0242】
加熱圧着の温度は、好ましくは90〜160℃、さらにより好ましくは120〜160℃に制御することが好ましい。加熱圧着の温度を、好ましくは90℃以上とすることにより、色材受容層中のカチオン性樹脂、水溶性樹脂等の樹脂及びプライマー層(又はアンカー層)に含まれる熱可塑性樹脂を接着に十分な程度に溶融し、画像支持体と転写材とを圧着させることができる。90℃以上とすることで透明シート内のエマルジョンE1を膜化させ、転写性を良好にすることができる。さらに120℃以上とすることで透明シート内のエマルジョンE2を膜化させ、すでに膜化されているエマルジョンE1との結合力が強化され、箔切れ性を良好にすることが出来る。一方、加熱圧着の温度を、好ましくは160℃以下とすることにより、画像支持体と転写材を加熱圧着させる際に、インク成分の急激な蒸発が抑制される。そして、画像支持体と転写材との接着強度の低下、及び色材受容層における気泡残り等の不具合を防止することができる。また180℃程度の加熱によって色材受容層が黄変を始めるため、上記温度範囲に制御することで色材受容層の黄変を防止することが出来る。
【0243】
尚、図23に示すように加熱圧着時に、画像支持体55と色材受容層が接着している部分963の透明シート部分980と画像支持体と色材受容層が接着していない部分964の透明シート部分981で膜状態が異なるように制御することが好ましい。すなわち、加熱圧着時において、透明シート部分980は画像支持体と接触することでヒートロールの熱が伝わりやすいため、エマルジョンE2の一部が膜化して一部粒子が残存した状態(図23(b))あるいは透明シートのエマルジョンE2が完全に皮膜化した状態(図23(c))になる。このとき、一部あるいは完全に膜化したエマルジョンE2は予め膜化しているエマルジョンE1と結合力が強化されて透明シートの膜強度を強化することができる。一方で透明シート部分981はヒートロールの熱が伝わらないため、エマルジョンE2を粒子状態のままにすることができる。透明シート部分980と透明シート部分981では膜の状態が異なるため、剥離工程では、境界部982を基点としてクラックが入りやすくなる。2種類のエマルジョンを用いて、エマルジョンE2の膜状態を加熱圧着時の温度を利用して変化させることにより、箔切れが良好となる。
【0244】
尚、転写温度は、エマルジョンE2のガラス転移温度Tg2近傍にすることが好ましい。加熱圧着時に色材受容層の表面温度をエマルジョンE2のガラス転移温度Tg2近傍になるように制御すると、図21に示すようにエマルジョンE2は透明シートの一部で膜化し、一部粒子が残存した状態の記録物を作成することが出来る。透明シートの一部に粒子が残存した状態を残すことで、基材と透明シートが接触する面積は低下し、基材からの剥離性が向上して、転写性を向上することができるため好ましい。さらに記録物の状態でも透明シート内でエマルジョンの粒子状態を維持することで、手で触ったときのべたつきを防止し、質感を向上させることが出来るため好ましい。
【0245】
エマルジョンE2は転写時の色材受容層の温度がエマルジョンE2のガラス転移温度を大幅に上回るように、転写温度又は転写速度を調整することで、図22に示すように完全に皮膜化した状態で転写することもできる。透明シートのエマルジョンE2を完全に皮膜化した状態にすることで、膜強度と透明性が向上し、記録物の擦過による破損と画像のくすみを防ぐことができる。使用者の要求する性能に応じて、エマルジョンE2が粒子の状態(図23(a))、皮膜化した状態(図23(b)、図23(c))を使い分けることができるが、加熱圧着時にエマルジョンE2を完全に膜状態にした状態(図23(c))で転写剥離工程を行うほうが、箔切れを向上することができる。
【0246】
加熱圧着の方法としては特に制限はない。例えば、画像支持体に対して転写材を積層して積層体とし、積層体を一対のヒートロール間に挟み込み、加熱圧着する方法等を挙げることができる。この際、ヒートロールの表面温度は、100〜180℃とすることが好ましい。これにより、積層体の搬送速度が速く加熱時間が十分にとれない場合でも、積層体を60〜160℃に加熱することができる。上記温度範囲にすることでエマルジョンE2の一部が膜化して一部粒子が残存した状態あるいは透明シートのエマルジョンE2が完全に皮膜化した状態になる。一部あるいは完全に膜化したエマルジョンE2は予め膜化しているエマルジョンE1と結合力が強化されて透明シートの膜強度を強化することができる。
【0247】
このとき、図16に示すような製造装置25を用いる場合、画像支持体11側に接するヒートロール22は、シリコンロールを使用することが好ましい。この構成とすることで、シリコンロールはSP値が8.7付近になるため、基材シート側から色材受容層を加熱するヒートロール21の熱圧着によっても、ヒートロール22へ色材受容層が付着しにくくなり、色材受容層の転写を防止することができる。
【0248】
[3−4]基材シート及び離型層の剥離:
得られた記録物は、最後に、図12に示すように基材シート50を剥離することにより、画像支持体55、色材受容層53及び透明シート52がこの順で積層された構造の記録物73が得られる。この記録物73においては、透明シート52が最上層に位置し、その下層側に位置する色材受容層53に記録された反転画像72を保護している。なお、プライマー層を用いる場合は、画像支持体55は、プライマー層を介して色材受容層53に十分に接着固定される。
【0249】
基材シートを剥離する際、転写材が熱時剥離である場合は加熱圧着後、温度が下がらないうちに直ちに剥離を行うことが好ましい。このような熱時剥離タイプの場合は、図13に示す分離爪86による剥離機構、又は図14に示す剥離ロール88による剥離が好ましく、転写工程における転写材の供給をロール・ツー・ロール(roll to roll)で行う場合に生産性の面で適している。
【0250】
一方、転写材が冷時剥離型の場合は、温度が下がっても剥離することができる。このような場合は、ロール又はピール機構による剥離だけでなく、手動で剥離することも可能になる。そのため、特にカットシート状に加工した転写材を用いる場合に、好適に使用できる。なお、ロール・ツー・ロール(roll to roll)剥離を行う際の、剥離角度θは0〜165°であり、さらに好ましくは0〜90°である。この剥離角度θに設定することにより、プリンタ走行中に、プレカット処理部にて転写材のプレカット処理により分離されたパッチ部分が不用意に剥がれたり、めくれたりすることを防止することができる。図14において剥離角度θは、図に示す角度であるが、これに限定されない。
【0251】
なお、加熱圧着、剥離工程においては、公知の2本ロールタイプ、及び4本ロールタイプのラミネート機を使用してもよい。4本ロールタイプは2本ロールタイプに比べて、加熱圧着時の熱が伝わりやすく、転写剥離工程が容易に行うことができるため、好ましく使用される。
【0252】
[3−5]両面同時剥離:
なお、画像支持体の両面に同時に記録物を転写する場合は、図15に示すように、下面転写材92と上面転写材94のフィルム上の記録位置をずらすことが好ましい。この構成とすることで、熱ローラ転写におけるSP値が同じである色材受容層同士の接着を防止することができ、表裏同時転写が可能となる。また、ピール部90により基材シートを容易に引き剥がすことができる。
【0253】
[4]画像記録装置
画像記録装置は、前記[1]に記載の転写材を搬送経路に送り出す供給部と、搬送経路に送り出された転写材の色材受容層に、色材を付与して画像を記録する記録部と、を備える。
【0254】
[5]記録物の製造装置:
記録物の製造装置は、前記[2]に記載の記録物の製造装置であって、前記[4]に記載の画像記録装置と、画像支持体を搬送経路に送り出す画像支持体供給部と、搬送経路に送り出された画像支持体に転写材を付着させる付着部と、転写材から基材シートを剥離する剥離部と、を備える。
【0255】
[5−1]製造装置:
図16は、本実施の形態の記録物を製造する製造装置の構成例(以下、「製造装置」ともいう。)を模式的に示す側面図である。
【0256】
[5−1−1]主要な構成:
製造装置25は、ロール状でかつその外面に色材受容層が配置されるように巻かれた転写材1を搬送経路へと送り出す供給部4と、搬送経路へと送り出した転写材1に、色材、水、及び不揮発性の有機溶媒等を含有する水系インクを直接吐出して、反転画像を記録する記録部6と、を備えている。
【0257】
また、製造装置25は、インクが付与された転写材1の中の水分を蒸発させて画像支持体11との密着性を向上させるための乾燥部7と、蒸発した水分によって、機内の結露を防止するファン10と、記録部6において反転画像が記録された転写材1にプレカット処理を行うプレカット処理部5を備えている。
【0258】
さらに、製造装置25は、画像支持体11を加熱して転写材1との密着性を向上させるための予備加熱部19と、反転画像が記録された色材受容層及び透明シートを画像支持体11に付着させる付着部29と、付着後の画像支持体11のカールを矯正するカール矯正部150と、基材シートを剥離する剥離部151と、両面印刷を行う際に画像支持体11反転させる画像反転部152と、反転画像が記録された画像支持体11を排出して集積する排出部26と、を備えている。
【0259】
[5−1−2]動作:
供給部4は、色材受容層を外表に巻いたロール状の転写材1を、図中の矢印に示す方向に回転させ、転写材1を記録部6へ送り出す。その際、転写材1はガイド板27で案内されるとともに、グリップローラ3とニップローラ2で挟持され、平坦な状態で記録部6へと搬送される。
【0260】
供給部4から転写材1の搬送が開始されると、記録部6は転写材1の色材受容層に反転画像を記録する。その後、転写材1は乾燥部7を通過する。乾燥部7は反転画像を形成するインク中の水等を蒸発させ、ファン10は蒸発した水分を排気する。これにより、色材受容層に反転画像が記録された転写材1が得られる。このとき、マーキング印刷も合わせて行う。次に、転写材1は、センサー部31により、マーキングの位置検出が行われ、プレカット処理部5でプレカット処理が行われる。
【0261】
一方、画像支持体供給部12は、予備加熱部19に画像支持体11を1枚ずつ供給する。
【0262】
予備加熱部19は、転写材1との密着性を向上させるため、画像支持体11の加熱を行う。さらに、レジストガイド14が画像支持体11と転写材1の位置合わせを行う。その後、画像支持体11が転写材1の上に積層される。
【0263】
画像支持体11と転写材1との積層体は付着部29に搬送される。付着部29は一対のヒートロール21、22を備えている。積層体が一対のヒートロール21、22の間を通過する際に画像支持体11と転写材1とが加熱圧着される。
【0264】
その後、画像支持体11と転写材1との積層体は、カール矯正部150に搬送され、カール矯正される。さらに転写材1を構成している基材シート及び離型層が剥離部151で剥離され、巻取りロール24に巻き取られる。また、両面印刷を行う際は、画像反転部152によって画像支持体を反転させ、この画像支持体をレジストガイド14までバックフィードさせる。また同様にしてバックフィードさせた画像支持体に転写された色材受容層に裏面画像の記録を行い、その後、表面印刷と同様に付着部29、カール矯正部150、剥離部151での工程を経て裏面の記録を行う。このような動作を経て、画像支持体11に転写材1が加熱圧着された記録物を得ることができる。
【0265】
[5−1−3]製造装置とコントローラとの接続:
図17に示すように、製造装置25(画像形成記録装置)は、ネットワーク47を経由してコントローラ41に接続される。ただし、この製造装置25は、ネットワーク47を介さずに、シリアル・ポート、パラレル・ポート、又はUSBポート等を介してコントローラ41に接続することも可能である。製造装置25は、記録部、乾燥部、プレカット処理部、付着部、カール矯正部、剥離部、及び画像反転部等を備える。CPUが記録部に備えられ、記録部、乾燥部、プレカット処理部、予備加熱部、付着部、カール矯正部、剥離部、及び画像反転部に接続されている。そして、CPUが、記録部、乾燥部、プレカット処理部、予備加熱部、付着部、カール矯正部、剥離部、及び画像反転部の動作を制御するように構成されている。
【0266】
ネットワーク47は、インターネット、ローカルエリアネットワーク(LAN)等のネットワークであり、有線、無線を問わない。コントローラ41は、製造装置25を制御するためのコンピュータである。コントローラ41では、制御部44、表示部45、入出力部46、記憶部42、及び通信部43がシステム・バス48を介して互いに接続される。また、コントローラ41にはデジタルカメラ、及び画像データ等を読み込むためのドライブ装置等が接続される場合もある。さらに、コントローラ41には製版装置等が接続されることもある。
【0267】
制御部44は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を有する。CPUは、記録部、ROM等に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、演算処理及び動作制御を行い、システム全体を制御する。ROMは、不揮発性メモリであり、プログラム及びデータ等を恒久的に保持する。また、RAMは、揮発性メモリであり、プログラム及びデータ等を一時的に保持する。
【0268】
表示部45は、CRTモニタ及び液晶パネル等のディスプレイ装置と、ディスプレイ装置と連携してコンピュータのビデオ機能を実現するための論理回路等(ビデオアダプタ等)とを含む表示装置等である。
【0269】
入出力部46は、データの入出力を行う部分である。データの入力を行う入力部としては、例えば、キーボード及びマウス等のポインティングデバイス、及びテンキー等がある。ユーザは、これらの入力部を介して、コントローラ41に対して、操作指示、動作指示、データ入力、及び維持管理等を行うことができる。また、入出力部46は、不図示のスキャナ及びドライブ装置等と接続され、これらの外部装置からの入力データを制御部44に転送したり、データを外部装置に出力したりする。
【0270】
記憶部42は、データを記憶する装置であり、磁気ディスク、メモリ、及び光ディスク装置等がある。記憶部42には、制御部44が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、及びOS(Operating System)等が格納される。また、記憶部42は、製造装置25の記録部6で記録されるパターンを格納することもできる。通信部43は、コントローラ41とネットワーク47間の通信を媒介する通信インターフェースであり、通信制御装置及び通信ポート等を有する。なお、パーソナルコンピュータ等をコントローラ41の代りに用いることも可能である。
【0271】
[5−1−4]制御系:
図18は、図16に示す記録部6に設けられた制御系の構成を示すブロック図である。ホストPC120から送信された記録データ又はコマンドはインターフェイスコントローラ102を介してCPU100に受信される。CPU100は、記録部の記録データの受信、記録動作、及び記録メディアのハンドリング等、全般的な制御を司る演算処理装置である。CPU100は、受信したコマンドを解析した後、記録データの各色成分のイメージデータをイメージメモリ106にビットマップ展開する。記録前の動作処理として、CPU100は、出力ポート114、モータ駆動部116を介してキャッピングモータ122とヘッドアップダウンモータ118を駆動し、各々の記録ヘッド22K、22C、22M、22Yをキャッピング位置(待機位置)から離して記録位置(画像形成位置)に移動させる。
【0272】
続いて、一定速度で搬送される転写材にインクを吐出し始めるタイミング(記録タイミング)を決定するためのセンサー部31(先端検出センサ)で転写材の位置を検出する。その後、転写材の搬送に同期して、CPU100はイメージメモリ106から対応する色の記録データを順次に読み出し、この読み出したデータを各々の記録ヘッド22K、22C、22M、22Yに記録ヘッド制御回路112を介して転送する。これにより、記録ヘッドの各ノズルに設けられた吐出エネルギー発生素子が記録データに従って駆動され、駆動された吐出エネルギー発生素子によってノズルからインク滴が吐出される。吐出されたインク滴は、記録ヘッドに対向する位置にある転写材の色材受容層(インク受容部)へと着弾し、ドットを形成する。このドットの集合によって所望の画像が形成される。
【0273】
なお、CPU100の動作はプログラムROM104に記憶された処理プログラムに基づいて実行される。プログラムROM104には、制御フローに対応する処理プログラム及びテーブル等が記憶されている。また、作業用のメモリとしてワークRAM108が使用される。
【0274】
[5−1−5]製造装置の動作フロー:
次に、図16に示す製造装置25の動作フローを、図19のフローチャートに従って説明する。このフローチャートは図18に示すCPU100により実行される。
【0275】
記録部のCPUは、コントローラよりネットワーク又は各種ポートを介して記録データが送信されたか否かを判断し(S101)する。記録データが送信されていると判断されると(S101のYES)、CPUは供給部からの未記録の転写材の供給を開始させ(S102)る。センサー部で転写材の検知を行い、センサー部が転写材を検出していなければ(OFFであれば(S103のYES))、転写材への記録部による記録動作が開始される(S104)。記録動作が終了すると(S105のYES)、乾燥部は、記録部によって記録された転写材から余分な水分を蒸発させるための乾燥処理を行う(S106)。その後、転写材はプレカット処理部へ搬送されプレカット処理される。
【0276】
一方、CPUに記録データが送信されると(S107のYES)、画像支持体供給部から予備加熱部へと画像支持体が給送される(S108)。この後、記録部で記録された転写材の密着性を向上させるため、予備加熱部によるプレ加熱処理が行われる(S110)。レジストガイドにおいて画像支持体と転写材との位置合わせが開始され(S111)、転写材との位置合わせが完了した時点で(S113)、先のステップへと進む。このとき、S112のステップはYESであり、画像支持体は転写材上に載り、付着部によって転写材と画像支持体とを接着させる(S115)。この後、剥離部へと搬送されるに伴って、プレカット処理部でプレカットされた部分を基点に、転写材の基材が剥離し、記録物(最終記録物)が排出部に積載される(S116)。記録物では、色材受容層を挟み込む形で透明シートが付着され、優れた画像品位を実現するとともに、強固な堅牢性を有する。
【0277】
[5−1−6]製造装置により実行される処理:
[5−1−6−1]転写材の位置検出及びプレカット処理:
図16に示すセンサー部31では、転写材1のプレカット部及び付着部と同期をとるため、転写材1の位置を検出し、その検出結果に基づいて各部の制御が行われている。マーキング検出には、反射型又は透過型の光センサーを用いている。
【0278】
[5−1−6−2]プレカット処理:
本実施の形態の転写材を製造する際には、色材受容層を形成した後、色材受容層の側から、色材受容層と透明シートの一部に切り込みを入れるプレカット処理を行ってもよい。プレカット処理により、転写材に反転画像を記録して転写材とし、転写材と画像支持体とを接着した後に、切り込みを起点にして透明シートを綺麗に切断することができる。従って、均一な厚さの透明シートからなる強固な保護層を形成することができ、色材受容層に形成された反転画像に十分な耐久性が付与される。好ましいプレカット処理としては特開2015−110321号公報に記載の方法が挙げられる。
【0279】
[5−1−6−3]記録処理:
記録ヘッドに形成された複数のノズルから転写材にインク(インク滴)を吐出して画像を形成するインクジェット方式画像形成装置(インクジェットプリンタ)が広く使用されている。ノズルからインク滴を吐出させる技術として、駆動パルスに応じた熱エネルギーをノズル内のインクに供給して膜沸騰による気泡を形成させ、この気泡によってノズルからインク滴を吐出させる技術が知られている。形成する画像に応じた多数のインク滴がノズルから転写材に吐出されることにより転写材に画像が形成される。
【0280】
フルライン型のインクジェットプリンタは、画像記録速度を向上させるために、インク吐出口及びインク流路等からなるノズルを複数集積したマルチノズルヘッドを転写材の搬送方向に直交させて多数配列させたラインヘッドを用いる。このフルライン型のプリンタでは、転写材の搬送に合わせて複数のノズルのインク吐出口から同時にインクを吐出させて画像の記録を行う。このため、フルライン型のインクジェットプリンタによれば、画像品位で高解像度の画像を高速で形成するとともに、転写時の速度と同速度で記録できるという、現在のプリンタに対する要求を満足させることができる。また、インクジェットプリンタは、画像記録時に記録ヘッドと転写材とが非接触であるので、非常に安定した画像記録を行うことができるという利点も有している。
【0281】
図16に示す製造装置25においては、転写材1がグリップローラ3とニップローラ2とに挟持されつつ記録部6へと搬送される間に、ガイド板27が存在する。転写材1はそのガイド板27の上を通過し案内されて記録部6に入る。記録部6は、K、C、M、Yの4つの記録ヘッドを主な構成要素としている。4個の記録ヘッドは、画像データに応じてインクを吐出し、転写材1に設けた色材受容層にインク滴を吐出して画像を形成する。
【0282】
[5−1−6−4]水分蒸発制御:
転写時に受容層表面にインクが残存していると画像支持体と密着不良となる。転写時の加熱による受容層表面層に残るインク成分又はインクの急激な蒸発により、密着性不足又は受容層の部分的な気泡残り等の不具合の可能性がある。そのため、インクジェット記録後、転写前に転写材の搬送路に効果的な工夫を施したプレ乾燥が必要な場合がある。ヒーター等の特別な乾燥手段を設けずに、転写前に十分な長さの搬送路を備える構成として自然乾燥を促してもよい。またその際に蒸発したインク成分のために装置内部の気流制御、又は排気手段が必要な場合がある。図16に示すように、記録部6によって転写材1上の色材受容層に記録した反転画像を、乾燥部7とガイド板27の間を通す際に、ハロゲン若しくはそれに順ずる熱源及び風、又はそれら二つの組み合わせによる蒸発機能を持つ乾燥部7によって、受容層に記録した画像に含まれているインクの主成分である水又は若干の揮発性溶剤成分を蒸発させる。そして、蒸発した気体が機内において結露等するのを防ぐために、ファン10によって気流及び排気の制御を行う。気流制御を併用することによって、色材受容層表面の飽和蒸気圧も改善されて乾燥が促進される場合もある。
【0283】
水分制御によって、付着工程時に色材受容層中のインクの水分量(色材を除く水と不揮発性溶媒等の総量)を、インクの総打ち込み量に対して、好ましくは70%以下、さらに好ましくは50%以下に制御する。インクの水分量が70%より多く残る場合には、色材受容層の厚さにも拠るが、色材受容層表面層に残るインク成分又はインクの急激な蒸発により密着性不足又は受容層の部分的な気泡残り等の不具合の可能性があるため好ましくない。また、インクの総打ち込み量は、ヘッドの吐出量により異なるが、水分制御が適切に行われるように、予め画像形成時のドット数を間引く等して、打ち込み量を制限する等して、適正な打ち込み量に設定することができる。
【0284】
[5−1−6−5]付着工程:
図16に示すように、転写材1上の色材受容層に、記録部6にて画像が形成され、次にその転写材1がガイド板27の上に案内されて、2本のヒートロール21、22を備える付着部29に移動する。画像支持体11は、枚葉状のシートの形態で画像支持体供給部12に置かれて、レジストガイド14で位置を補正され、転写材1の搬送に合わせて供給される。画像支持体供給部12では、画像支持体11の転写面へのゴミ付着又はピックアップ時によるゴムロールからの汚染を防止するため、下方からの給紙とする。
【0285】
転写材1の画像形成された色材受容層と、画像支持体11のプライマー層とが当接されるように、転写材1と画像支持体11を重ねてヒートロール21、22間に搬送し加熱することで、画像支持体11と画像形成された転写材1とが接着する。その後、基材シートを転写材1から剥離する。これにより、画像支持体11上に、画像の形成された色材受容層と共に透明シートが付着した状態となる。つまり、画像支持体11上には透明シートが保護膜として最上層に位置し、その保護膜の下に画像が形成される。
【0286】
また、転写時にインク中の水の急激な蒸発が発生すると密着不良又は受容層の部分的な気泡残りが発生するため、転写時の温度はインクの蒸発温度以下の範囲とする。転写時における色材受容層への加熱は、プラスチックカード等の厚めの画像支持体側からでなく、主として転写材の基材シート側からの熱伝達によって行われる。付着工程時の色材受容層の最大到達温度は、インクの主成分たる水の蒸発温度を超えないように制御すればよい。つまり、転写材1と画像支持体11とを接着させる際のヒートロールの表面温度は、水が蒸発して転写材1と画像支持体11との間に気泡ができない温度であればよい。また、搬送速度等が速く熱源による加熱時間が十分に取れない場合は、熱源と受容部との温度差が生じる場合もある。そのため、ヒートロールの表面温度は、100〜180℃等、通常の水の蒸発温度よりも高くなるように制御しても構わない。また、閉空間による加熱では、圧力上昇による沸点上昇もあるため、プライマー層と透明シート層とに挟まれた色材受容層では、水の蒸発温度は上昇する。そのため、接着性・箔切れ性に考慮してさらに高い温度となるように制御してもよい。
【0287】
[5−1−6−6]プレ加熱:
図16に示すように、画像記録された転写材1と画像支持体11との位置を合わせて付着させる場合は、画像支持体(カード等)の表面を、転写材1を付着させる前に予備加熱部19で適度に加熱しておけば、転写材1上の色材受容層の加熱による過度な温度上昇を制御できる。
【0288】
[5−1−6−7]カール矯正:
図16に示すように、画像支持体11と転写材1を付着させた後に、カール矯正部150でカールを矯正し、画像支持体11のカールをフラットにする。画像支持体のカールは、画像支持体11が温かいうちに、加熱プレートと、加熱プレートと対向する支持プレートで挟み込むことで矯正することができる。
【0289】
[5−1−6−8]剥離処理:
図16に示すように、付着部29を通過した転写材1のうち、基材シートの部分は、プレカット処理により画像形成領域以外の領域が剥がされて、巻取りロール24側に巻き取られる。また、画像形成された画像支持体11は、排出部26に搬送されて一枚ずつ集積されていく。
【0290】
[5−1−6−9]画像反転装置:
両面記録を行う際は、図16に示すように、製造装置25が画像反転部152を備えることが好ましい。剥離後の記録物は反転装置により反転され、裏面記録をおこなうために、反転された記録物はレジストガイド14までフィードバックされる。これと同時に転写材もフィードバックされ、フィードバック後、記録部、付着部、カール矯正部、及び剥離部で表面の記録と同様の処理を行い、裏面にも画像が形成される。
【0291】
図1は記録物73の構成を示す。記録物73は、図1に示すように、画像支持体55と透明シート52の間に色材受容層53を挟み込むように透明シート52が付着されていることにより、優れた画像品位と強い堅牢性を併せ持つ。
【0292】
製造装置としてはこの他にも、例えば特開2015−110321号公報に記載されている製造装置に転写材を搭載して用いることができる。プリンタ部と転写部がそれぞれ独立した構成であってもよい。プリンタ部と転写部にはそれぞれ公知の装置を用いてもよい。
【0293】
以上説明したように、上記の製造装置は、転写材が基材上に少なくとも透明シートと色材受容層を有している場合に、転写材を画像支持体に付着させる工程において色材受容層のインク水分量の制御と付着時の温度制御とを行っている。これにより、転写材の透明シートと画像支持体との接着性を向上し、耐候性、耐水性、耐薬品性、及び耐ガス性等の各種耐久性に優れた記録物を提供することができる。
【実施例】
【0294】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、下記の実施例によっていかなる制限を受けるものではない。なお、以下の記載における「部」、「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0295】
(実施例1)
以下の方法により、透明シート、転写材及び記録物を製造した。
【0296】
[エマルジョン水溶液2の合成]
第1のガラス製反応容器に攪拌機、還流冷却管、温度計、窒素ガス導入管を備えつけた後、ノニオン系乳化剤としてアクアロンRN−30(第一工業製薬(株)製)6g、アニオン系乳化剤アクアロンHS−30(第一工業製薬(株)製)6g、メチルメタアクリレート130.0g、エチルアクリレート5.0g、メタクリル酸5.0gを用い、水275gを入れ攪拌し総量427.0gの混合物を調整した。次にこの混合物の36gを取りだし、同様の第2の反応容器に移した後、窒素ガス導入下73℃で40分間乳化を行った。次いで重合開始剤としてペルオキソニ硫酸アンモニウム17gを水36gに溶解し、乳化液に添加した。その後、混合物の残量を第1の反応容器より取りだし100分間かけて、第2の反応容器内に徐々に滴下し、73℃で重合を行った。混合物残量を滴下終了した後、73℃で80分間攪拌を継続し、エマルジョン水溶液2(Tg:101℃、樹脂固形分35.0%)を合成した。色材受容層のSP値との差の絶対値|ΔSP|は0.2であった。この分散粒子の平均粒径は80nmであった。
【0297】
[積層シートの製造]
ジョンクリル社製J352D(Tg56℃、アクリル系エマルジョン、濃度45%)90部とエマルジョン水溶液2(Tg:101℃)10部を混合し、PET基材シート(商品名:テトロンG2、厚さ19μm、帝人デュポンフィルム社製)の表面に塗工した後、乾燥することにより、積層シートを製造した。エマルジョンE1とエマルジョンE2の混合比率(E1/E2)は11.6であった。塗工は、ダイコーターを用い、5m/分の塗工速度で、乾燥後の塗工量が10g/m2となるように行った。乾燥温度は90℃とした。
【0298】
[アルミナ水和物分散液の調製]
ベーマイト構造(擬ベーマイト構造)を有するアルミナ水和物A(商品名「Disperal HP14」、サソール製)20部を純水(79.6部)中に添加し、さらに酢酸0.4部を添加して解膠処理を行うことにより20%アルミナ水和物分散液を得た。アルミナ水和物分散液におけるアルミナ水和物微粒子の平均粒子径は140nmであった。次いで、分散液に対して、ホウ酸0.3部を添加し、ホウ酸添加アルミナ水和物分散液を得た。
【0299】
[ポリビニルアルコール水溶液の調製]
ポリビニルアルコール(商品名「PVA235」、クラレ製)をイオン交換水に溶解し、固形分含量が8%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。なお、ポリビニルアルコールは、重量平均重合度が3,500、けん化度が87〜89mol%、SP値は9.4であった。
【0300】
[色材受容層形成用塗工液の調製]
ホウ酸添加アルミナ水和物分散液100部に、ポリビニルアルコール水溶液27.8部を加え、さらにカチオン性樹脂としてポリアリルアミン3.0部を加え、スタティックミキサーにより混合し、色材受容層形成用の塗工液を得た。ポリアリルアミンとしては、重量平均重合度が1,600のポリアリルアミン(商品名「PAA−01」、日東紡製)を用いた。
【0301】
[転写材の製造]
混合の直後に、塗工液を、積層シートにおける透明シートの表面に塗工し、乾燥することにより、空隙吸収型の色材受容層を備えた、実施例1の転写材を製造した。塗工液の塗工は、ダイコーターを用い、5m/分の塗工速度で、乾燥後の塗工量が10g/m2となるように行った。乾燥温度は60℃とした。転写材は、色材受容層を外側、基材シートを内側としてロール状に巻くことによりロール状転写材とした。色材受容層の厚さは10μmであった。
【0302】
得られた転写材に、製造装置(図に示す製造装置25)を用いて、顔料インクにより60%ベタ印刷を行い、その転写材を画像支持体に加熱圧着させ、その後、基材シートを剥離することにより、実施例1の記録物を得た。顔料インクの調製法については、後述する。製造装置25の記録部6としては、ラインヘッドを搭載したプリントモジュール(商品名「PM−200Z」、キヤノンファインテック製)を、画像支持体としては、塩化ビニル製のカード(商品名「C−4002」、エボリス製)を用いた。加熱圧着は、温度160℃、圧力3.9Kg/cm、搬送速度50mm/secの条件で行った。基材シートを剥離する際の引き剥がし角度は90°とした。色材受容層のSP値と画像支持体のSP値の差SP2は0.1であった。
【0303】
[顔料インクの調製]
<(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の合成>
(合成例1)
撹拌装置、滴下装置、温度センサー及び上部に窒素導入装置を有する還流装置を取り付けた反応容器にメチルエチルケトン1,000部を仕込み、そのメチルエチルケトンを撹拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸2−ヒドロキシエチル63部、メタクリル酸141部、スチレン417部、メタクリル酸ベンジル188部、メタクリル酸グリシジル25部、重合度調整剤(商品名「ブレンマーTGL」、日本油脂社製)33部、及びペルオキシ−2−エチルヘキサン酸−t−ブチル67部を混合して得た混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で10時間反応を継続させて、酸価110mgKOH/g、ガラス転移点(Tg)89℃、重量平均分子量8,000の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)の溶液(樹脂分:45.4%)を得た。
【0304】
<水性顔料分散体の調製1>
冷却機能を備えた混合槽に、フタロシアニン系ブルー顔料1,000部、合成例1で得た(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)の溶液、25%水酸化カリウム水溶液、及び水を仕込み、撹拌及び混合して混合液を得た。なお、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)は、フタロシアニン系ブルー顔料に対して、不揮発分で40%の比率となる量を用いた。また、25%水酸化カリウム水溶液は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A−1)が100%中和される量を用いた。さらに、水は、得られる混合液の不揮発分を27%とする量を用いた。得られた混合液を直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置に通し、循環方式により4時間分散させた。なお、分散液の温度を40℃以下に保持した。
【0305】
混合槽から分散液を抜き取った後、水10,000部で混合槽と分散装置の流路を洗浄し、洗浄液と分散液を混合して希釈分散液を得た。得られた希釈分散液を蒸留装置に入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を留去して濃縮分散液を得た。室温まで放冷した濃縮分散液を撹拌しながら2%塩酸を滴下してpH4.5に調整した後、ヌッチェ式濾過装置にて固形分を濾過して水洗した。得られた固形分(ケーキ)を容器に入れ、水を加えた後、分散撹拌機を使用して再分散させ、25%水酸化カリウム水溶液にてpH9.5に調整した。その後、遠心分離器を使用し、6000Gで30分間かけて粗大粒子を除去した後、不揮発分を調整して水性シアン顔料分散体(顔料分:14% 酸価110)を得た。
【0306】
フタロシアニン系ブルー顔料を、カーボンブラック系ブラック顔料、キナクリドン系マゼンタ顔料又はジアゾ系イエロー顔料に変更したことを除いては、水性シアン顔料分散体と同様にして、水性ブラック顔料分散体、水性マゼンタ顔料分散体、又は水性イエロー顔料分散体を得た。
【0307】
<インクの調製>
表3に示す組成(合計:100部)となるように、水性顔料分散体及び表3に示す各成分を容器に投入し、プロペラ撹拌機を使用して30分以上撹拌した。その後、孔径0.2μmのフィルター(日本ポール社製)で濾過して顔料インクを調製した。なお、表3中の「AE−100」は、アセチレングリコール10モルエチレンオキサイド付加物(商品名「アセチレノールE100」、川研ファインケミカル製)を示す。
【0308】
【表3】
【0309】
(実施例2)
エマルジョンE1とエマルジョンE2の比率(E1/E2)を30.9に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0310】
(実施例3)
エマルジョン水溶液2を第一工業製薬社製スーパーフレックス130(Tg:101℃、樹脂固形分35.0%)に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0311】
(実施例4)
[エマルジョン水溶液3の合成]
2−ヒドロキシエチルヘキシルアクリレート55g、メチルアクリレート30.0g、メチルメタアクリレート50.0g、アクリル酸10.0gを用い、その他はエマルジョン水溶液2とまったく同じ方法でエマルジョン水溶液3(Tg:40℃、樹脂固形分45.0%)を合成した。この分散粒子の平均粒径は80nmであった。|ΔSP|は0.5であった。
【0312】
[エマルジョン水溶液4の合成]
メチルメタアクリレート100.0g、エチルアクリレート20.0g、2−ヒドロキシルエチルアクリレート10.0g、メタクリル酸5.0gを用い、その他はエマルジョン水溶液2とまったく同じ方法でエマルジョン水溶液4(Tg:78℃、樹脂固形分45.0%)を合成した。この分散粒子の平均粒径は80nmであった。|ΔSP|は0.2であった。
【0313】
[エマルジョン水溶液5の合成]
メチルアクリレート50.0g、エチルアクリレート5.0g、メチルアクリレート40.0g、メタクリル酸5.0gを用い、その他はエマルジョン水溶液2とまったく同じ方法でエマルジョン水溶液5(Tg:51℃、樹脂固形分45.0%)を合成した。この分散粒子の平均粒径は80nmであった。|ΔSP|は0.4であった。
【0314】
[エマルジョン水溶液6の合成]
メチルアクリレート20.0g、エチルアクリレート115.0g、2−ヒドロキシルアクリレート5.0g、メタクリル酸10.0gを用い、その他はエマルジョン水溶液2とまったく同じ方法でエマルジョン水溶液6(Tg:90℃、樹脂固形分35.0%)を合成した。この分散粒子の平均粒径は80nmであった。|ΔSP|は0.3であった。
【0315】
[エマルジョン水溶液7の合成]
メチルメタアクリレート50.0g、2−ヒドロキシルアクリレート35.0g、メタクリル酸5.0gを用い、その他はエマルジョン水溶液2とまったく同じ方法でエマルジョン水溶液7(Tg:59℃、樹脂固形分45.0%)を合成した。この分散粒子の平均粒径は80nmであった。|ΔSP|は0.5であった。
【0316】
[転写材の合成]
J352Dをエマルジョン水溶液5に変更し、比率E1/E2を3.0に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0317】
(実施例5)
J352Dをエマルジョン水溶液4に変更し、比率E1/E2を3.0に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0318】
(実施例6)
エマルジョン水溶液2をエマルジョン水溶液6に変更し、比率E1/E2を3.0に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0319】
(実施例7)
J352Dをエマルジョン水溶液7に変更し、比率E1/E2を3.0に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0320】
(実施例8)
比率E1/E2を3.0に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0321】
(実施例9)
比率E1/E2を63.0に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0322】
(実施例10)
J352Dを日信化学工業株式会社製ビニブラン603(Tg60℃、塩化ビニル系、|ΔSP|=0.2、樹脂固形分50%)に変更し、比率E1/E2を3.0に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0323】
(実施例11)
J352Dを東洋紡株式会社製バイロナールMD1245(Tg61℃、ポリエステル系、|ΔSP|=1.3、樹脂固形分30%)に変更し、比率E1/E2を3.0に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0324】
(実施例12)
比率E1/E2を1.3に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0325】
(実施例13)
比率E1/E2を127.3に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0326】
(実施例14)
転写温度を95℃に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0327】
(実施例15)
DIC株式会社製ハイドランCP―7050(Tg190℃、固形分濃度25質量%)を1部加えたことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0328】
(比較例1)
積層シートをJ352Dのみを塗工して作成したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0329】
(比較例2)
積層シートをエマルジョン水溶液2のみを塗工して作成し、透明シート形成時と色材受容層形成時の乾燥温度を120℃に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0330】
(比較例3)
透明シート形成時の乾燥温度を120℃に変更し、比率E1/E2を3.0に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0331】
(比較例4)
色材受容層形成時の乾燥温度を120℃に変更し、比率E1/E2を3.0に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0332】
(比較例5)
J352Dをエマルジョン水溶液3に変更し、比率E1/E2を3.0に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0333】
(比較例6)
J352Dをエマルジョン水溶液6に変更し、比率E1/E2を3.0に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0334】
(比較例7)
エマルジョン水溶液2をエマルジョン水溶液4に変更し、比率E1/E2を3.0に変更したことを除いては実施例1と同様にして、転写材、さらには記録物を得た。
【0335】
[評価<切れ性>]
実施例又は比較例の転写材を用いて画像支持体に色材受容層を転写し、記録物を作製した際の、記録物端部の状態を評価した。評価は目視により行った。その結果を表4〜表6に示す。
◎:端部からはみ出した不要な転写層が無い。
○:端部から不要な転写層はみ出している箇所(バリ)が少量ある。
△:端部から不要な転写層はみ出している箇所(バリ)がある。
×:記録物の端部全体にわたってバリが大量に発生する。
【0336】
[評価<接着性(剥離性)>]
実施例又は比較例の記録物を用いて接着性試験を行った。
【0337】
転写した記録物の表面を目視で観察し、透明シートの状態を評価した。記録物にカッターで5mm四方の切れ目をいれ、透明シートの表面にセロテープ(登録商標)を貼り付けて、500g/cm2の荷重をかけながら、勢いよく該テープを剥がした際の透明シートの状態を評価した。その結果を表4〜表6に示す。
◎:剥離なし。
○:全体の5%以内の剥離あり。
△:全体の10%以内の剥離あり。
×:全体の10%以上の剥離あり。
【0338】
[評価<耐薬品性>]
実施例又は比較例の記録物を用いて耐薬品性試験を行った。記録物を98%エタノールに1日浸漬し、記録物の状態を評価した。その結果を表4〜表6に示す。
◎:剥離なし。
○:細かいひび割れあり。
△:全体の10%以内の剥離あり。
×:全体の10%以上の剥離あり。
【0339】
[評価<べたつき性>]
実施例又は比較例の記録物を用いてべたつき性試験を行った。記録物に手で触れた際に張り付き度合いを記録物のべたつき性として評価した。その結果を表4〜表6に示す。
◎:インク受容層がべとつかない。
○:インク受容層が若干べとつくが手に張り付かない。
△:インク受容層が若干べとつき、手に張り付く。
×:インク受容層のべとつきがひどく、手に張り付く。
【0340】
[評価<ひび割れ>]
実施例又は比較例の記録物の透明シートのひび割れを目視と顕微鏡で評価した。その結果を表4〜表6に示す。
◎:透明シートのひび割れがない。
○:透明シートのひび割れは目視では見えないが、顕微鏡で極少量ある。
△:透明シートのひび割れはあるが、透明シートのはがれはない。
×:透明シートのひび割れがあり、透明シートのはがれがある。
【0341】
【表4】
【0342】
【表5】
【0343】
【表6】
【符号の説明】
【0344】
1 転写材
6 記録部
11 画像支持体
22K、22C、22M、22Y 記録ヘッド
25 製造装置
50 基材シート
52 透明シート
53 色材受容層
55 画像支持体
64 色材受容層
65 無機微粒子
66 色材受容層
67 色材受容層
73 記録物
【要約】      (修正有)
【課題】端部の切れ性に優れ、さらに、色材受容層と透明シートとの接着性、耐薬品性、及び耐ブロッキング性に優れた転写材、記録物、記録物の製造方法、画像記録装置及び記録物の製造装置を提供する。
【解決手段】基材シート50、透明シート52及び色材受容層53がこの順で積層された積層構造を有する転写材1であって、色材受容層53は、無機微粒子及び水溶性樹脂を含有し、透明シート52は、エマルジョンE1及びエマルジョンE2の少なくとも2種類のエマルジョンを含有しており、エマルジョンE1のガラス転移温度Tg1は50℃より大きく90℃未満、エマルジョンE2のガラス転移温度Tg2は90℃以上120℃以下であり、少なくともエマルジョンE2は、透明シート52中に粒子状態で残存している。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23