特許第6144900号(P6144900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オークマ株式会社の特許一覧

特許6144900ダイナミックブレーキ検査機能を備えたインバータ装置
<>
  • 特許6144900-ダイナミックブレーキ検査機能を備えたインバータ装置 図000002
  • 特許6144900-ダイナミックブレーキ検査機能を備えたインバータ装置 図000003
  • 特許6144900-ダイナミックブレーキ検査機能を備えたインバータ装置 図000004
  • 特許6144900-ダイナミックブレーキ検査機能を備えたインバータ装置 図000005
  • 特許6144900-ダイナミックブレーキ検査機能を備えたインバータ装置 図000006
  • 特許6144900-ダイナミックブレーキ検査機能を備えたインバータ装置 図000007
  • 特許6144900-ダイナミックブレーキ検査機能を備えたインバータ装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6144900
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】ダイナミックブレーキ検査機能を備えたインバータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 3/22 20060101AFI20170529BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   H02P3/22 A
   H02P27/06
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-264511(P2012-264511)
(22)【出願日】2012年12月3日
(65)【公開番号】特開2014-110704(P2014-110704A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年6月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 知宏
【審査官】 ▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−136596(JP,A)
【文献】 特開2009−165296(JP,A)
【文献】 特開平07−079583(JP,A)
【文献】 特開平11−191987(JP,A)
【文献】 特開2009−118689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 3/22
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイナミックブレーキ機能を備え、電流ループPI演算器および電流ループフィードフォワード演算器でモータを駆動制御する、インバータ装置であって、
スイッチの切り替えにより、モータの動力線に接続または接続解除されるダイナミックブレーキ抵抗を備えたダイナミックブレーキと、
前記ダイナミックブレーキの異常の有無を検出するダイナミックブレーキ検査器と、
を備え、
前記ダイナミックブレーキ検査器は、前記ダイナミックブレーキの検査が指示された場合に、電流指令値として、モータを回転させず、モータをロックさせるロック電流値を設定するとともに前記スイッチの切り替えにより前記ダイナミックブレーキ抵抗を前記モータの動力線に接続し、前記ダイナミックブレーキの異常の有無に応じて変動するパラメータの実測値と理論値との比較結果に基づいて前記ダイナミックブレーキの異常の有無を検出する、
ことを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインバータ装置であって、
前記ダイナミックブレーキ検査器は、電流ループPI演算器の出力である電流誤差補正分電圧指令値が、予め設定した理論値である電圧誤差基準値より大きくなった場合に、ダイナミックブレーキに異常があることを示す信号を出力する、ことを特徴とするインバータ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のインバータ装置であって、
前記ダイナミックブレーキ検査器は、前記電流指令値としてロック電流値が設定、かつ、ダイナミックブレーキを前記モータの動力線に接続しない状態で得られる前記電流ループPI演算器の出力に基づいてモータの電気定数を補正し、当該補正された電気定数に応じて、前記ダイナミックブレーキ抵抗を前記モータの動力線に接続した際に用いる電流ループフィードフォワード演算器の定数を可変する、ことを特徴とするインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミックブレーキ検査機能を備えたインバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイナミックブレーキとは、インバータで駆動している永久磁石を有したモータにおいて、インバータの故障や電源系統の故障等の異常により、インバータで制御して回転中のモータを停止させることができない場合、モータの動力線の相間を抵抗で短絡し、前記抵抗で回転中のモータの運動エネルギーを熱エネルギーに変換し、制動停止する技術である。かかる技術においては、インバータで制御してモータを駆動している正常な状態では、リレー等で相間の抵抗を切り離しておく必要がある。前記リレーの故障や、前記抵抗の断線等の回路故障が発生した場合、モータの運動エネルギーを熱エネルギーに変換できず、モータの回転停止時間がのびる。その結果、工作機械等においてモータとボールねじを結合し、ボールねじを介して制御対象を動作させる駆動系等では停止距離がのび機械を破損させる可能性がある。また、三相のうち一相の回路故障が発生した場合は、モータの極対数に比例したリップル電流が流れ、その電流に比例した制動トルクが発生するため、前記駆動系にダメージを与える課題がある。
【0003】
図4にダイナミックブレーキの故障を検出するインバータ装置のブロック図を示す。上位制御装置1は、モータの位置検出器11で検出した位置θmに基づき、インバータが正常な状態でモータを制御するための通常用電流指令Ius’、Ivs’とダイナミックブレーキ検査モード信号modeを出力する。ダイナミックブレーキ検査器8は、ダイナミックブレーキ検査指令modedとダイナミックブレーキを検査するための電流指令Ius’’、Ivs’’を出力する。電流指令切替器2は、前記ダイナミックブレーキ検査指令modedに基づき、電流指令Ius、Ivsを出力する。図4中のu相電流制御器3a〜3eとv相電流制御器4a〜4eは、相の違いのみであり、同一要素であるため、4a〜4eの説明は省略する。減算器3aにて演算した、前記u相電流指令Iusと電流検出器3eにより検出したu相電流検出値Iudの差を電流ループPI演算器3bに入力する。電流ループPI演算器3bは比例・積分演算により電流誤差補正分u相電圧指令Δeuを出力する。電流ループフィードフォワード補償量演算器3cは前記u相電流指令Iusより電流フィードフォワード分u相電圧指令euffを演算し、加算器3dが、前記電流誤差補正分u相電圧指令Δeuと前記電流フィードフォワード分u相電圧指令euffを加算し、u相電圧指令を出力する。インバータ6は、動力ON/OFFスイッチ12を介して、モータ10に対し、前記u相電圧指令euとv相電圧指令evと減算器5で前記u相電圧指令euとv相電圧指令evより演算するw相電圧指令ewに基づいて電圧を印加する。
【0004】
ダイナミックブレーキON/OFF用スイッチ9は、前記ダイナミックブレーキ検査指令modedにより、ダイナミックブレーキ抵抗7をモータ動力線に非接続/接続する。動力ON/OFFスイッチ12は、前記ダイナミックブレーキ検査指令modedにより、モータとインバータを接続/非接続する。
【0005】
図5に前記ダイナミックブレーキ検査器8のブロック図を示す。mode判別用スイッチ830は、前記ダイナミックブレーキ検査モード信号modeより、前記ダイナミックブレーキ検査指令modedを出力する。ダイナミックブレーキ検査用電流指令切替器832は、前記ダイナミックブレーキ検査指令modedを遅延させる遅延演算器831の出力に基づき、電流指令振幅833に設定したKiを前記電流指令Ius’’、Ivs’’として出力する。OR回路834は、電圧検出値比較器835,837が出力する、予め設定した電圧検出値基準値836,838と、前記ダイナミックブレーキ抵抗7の両端に接続した電圧計13a、13bの出力Vu、Vvと、の比較結果より、異常状態を示す信号ALMを、前記上位制御装置に対して出力する。
【0006】
上位制御装置がダイナミックブレーキ検査モード信号modeをONした場合、ダイナミックブレーキ検査器8は、ダイナミックブレーキ検査指令modedをONし、前記ダイナミックブレーキON/OFF用スイッチ9により、ダイナミックブレーキ抵抗7をモータ動力線に接続し、動力ON/OFFスイッチ12により、モータとインバータを非接続する。この状態で、遅延演算器831に設定された時間に基づいて、以下の2パターンの電流指令で、前記ダイナミックブレーキ抵抗7に対して通電する。
パターン1:Ius=Ki、Ivs=0
パターン2:Ius=0 、Ivs=Ki ・・・(式1)
【0007】
上記の場合、ダイナミックブレーキ抵抗7のそれぞれの抵抗値がRとすると、電圧計13a,13bの出力は、
パターン1:Vu=Ki×R、Vv=0
パターン2:Vu=0、Vv=Ki×R ・・・(式2)
となる。前記ダイナミックブレーキ抵抗7が断線していた場合や、前記ダイナミックブレーキON/OFF用スイッチ9がオープン故障していた場合は、(式2)で示した電圧が得られない。
【0008】
電圧検出値基準値836,838のref3,ref4に、抵抗の精度誤差、電圧計測誤差等のαを含んだ(式3)の値を予め設定することで、比較器835,837が範囲を超えた場合にHレベルを出力し、前記OR回路834が、異常状態を示す信号ALMを、前記上位制御装置に対して出力する。
パターン1:ref3=±α、ref4=Ki×R±α
パターン2:ref3=Ki×R±α、ref4=±α ・・・(式3)
【0009】
以上の通り、モータを始動させる前にダイナミックブレーキ検査を実施することで、ダイナミックブレーキに関わる回路が故障し、インバータで制御して回転中のモータを停止させることができない場合、ダイナミックブレーキ機能の故障を検出し、モータを動作させないことで、結果的に停止距離がのび機械を破損させることがなくなる。
【0010】
図6に、他のダイナミックブレーキの故障を検出するインバータ装置のブロック図を示す。前記従来例と同一要素には同一符号を付しており説明は省略する。前記ダイナミックブレーキ検査器8は、インバータ6にも前記ダイナミックブレーキ検査モード信号modedを出力する。図7に、インバータ6のブロック図を示す。インバータが正常な状態でモータを制御するためのPWMパルス発生回路6hとダイナミックブレーキをテストするため、異なる相の1相の上アームと1相の下アームを順にオンするテストパルス発生回路6iを備え、インバータスイッチング指令切替スイッチ6gが前記ダイナミックブレーキ検査指令modedにより、前記どちらか一方のパルスを各アーム6a〜6fにON/OFF指令する。
【0011】
上位装置がダイナミックブレーキ検査モード信号modeをONした場合、ダイナミックブレーキ検査器8は、ダイナミックブレーキ検査指令modedをONし、前記ダイナミックブレーキON/OFF用スイッチ9により、ダイナミックブレーキ抵抗7をモータ動力線に接続し、動力ON/OFFスイッチ12により、モータとインバータを非接続する。この状態で、前記インバータスイッチング指令切替スイッチ6gから出力するパルスにより、電圧計13a,13bの出力Vu、Vvは、パターン別にインバータの直流電圧Vdcに応じて(式4)の値が出力される。
パターン1:Vu=Vdc/2R、Vv=0
パターン2:Vu=0、 Vv=Vdc/2R ・・・(式4)
【0012】
前記ダイナミックブレーキ抵抗7が断線していた場合や、前記ダイナミックブレーキ抵抗ON/OFF用スイッチ9がオープン故障していた場合は、(式4)で示した電圧が得られない。電圧検出値基準値836、838のref3、ref4に、抵抗の精度誤差、電圧計測誤差等のαを含んだ(式5)の値を予め設定することで、電圧検出値比較器835,837が範囲を超えた場合にHレベルを出力し、前記OR回路が、異常状態を示す信号ALMを、前記上位制御装置に対して出力する。
パターン1:ref3=±α、 ref4=Vdc/2R±α
パターン2:ref3=Vdc/2R±α、 ref4=±α ・・・(式5)
【0013】
以上の通り、モータを始動させる前にダイナミックブレーキ検査を実施することで、
ダイナミックブレーキに関わる回路が故障し、インバータで制御して回転中のモータを停止させることができない場合、ダイナミックブレーキ機能の故障を検出し、モータを動作させないことで、結果的に停止距離がのび機械を破損させることがなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2009−142115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
図4に示した従来技術において、電流指令値は各相一定の電流値であり、図6に示した従来技術においても、各相に一定の電流が順次流れるため、モータのトルクを制御することができない。よって、ダイナミックブレーキ検査を実施する場合は、モータとインバータを非接続状態にするための前記動力ON/OFFスイッチ12が必要となるため、システムが大きくなり、また、高価になる課題がある。そこで、本発明では、ダイナミックブレーキ検査を安全に実施でき、システム全体が小さく、また、安価なインバータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題に対してなされたものである。本発明のインバータ装置は、ダイナミックブレーキ機能を備え、電流ループPI演算器および電流ループフィードフォワード演算器でモータを駆動制御する、インバータ装置であって、スイッチの切り替えにより、モータの動力線に接続または接続解除されるダイナミックブレーキ抵抗を備えたダイナミックブレーキと、前記ダイナミックブレーキの異常の有無を検出するダイナミックブレーキ検査器と、を備え、前記ダイナミックブレーキ検査器は、前記ダイナミックブレーキの検査が指示された場合に、電流指令値として、モータを回転させず、モータをロックさせるロック電流値を設定するとともに前記スイッチの切り替えにより前記ダイナミックブレーキ抵抗を前記モータの動力線に接続し、前記ダイナミックブレーキの異常の有無に応じて変動するパラメータの実測値と理論値との比較結果に基づいて前記ダイナミックブレーキの異常の有無を検出する、ことを特徴とする。
【0017】
好適な態様では、前記ダイナミックブレーキ検査器は、電流ループPI演算器の出力である電流誤差補正分電圧指令値が、予め設定した理論値である電圧誤差基準値より大きくなった場合に、ダイナミックブレーキに異常があることを示す信号を出力する。
【0018】
他の好適な態様では、前記ダイナミックブレーキ検査器は、前記電流指令値としてロック電流値が設定、かつ、ダイナミックブレーキを前記モータの動力線に接続しない状態で得られる前記電流ループPI演算器の出力に基づいてモータの電気定数を補正し、当該補正された電気定数に応じて、前記ダイナミックブレーキ抵抗を前記モータの動力線に接続した際に用いる電流ループフィードフォワード演算器の定数を可変する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によるダイナミックブレーキ検査機能を備えたインバータ装置によれば、インバータとモータを切り離す手段が不要となるため、システムが小さく、また、安価になる。さらに、ダイナミックブレーキ検査を安全に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態であるインバータ装置の構成を示すブロック図である。
図2】ダイナミックブレーキ検査器の構成を示すブロック図である。
図3】ダイナミックブレーキ検査器の他の構成を示すブロック図である。
図4】従来のインバータ装置の構成を示すブロック図である。
図5】従来のダイナミックブレーキ検査器の構成を示すブロック図である。
図6】従来の他のインバータ装置の構成を示すブロック図である。
図7】従来のインバータの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。図1図3において、図4図7を参照して説明した従来技術と同一要素には同一符号を付している。以下では、当該同一要素の説明は省略する。
【0022】
本発明の実施形態であるインバータ装置の制御ブロック図を図1に示す。このインバータ装置では、モータの始動に先だってダイナミックブレーキの検査が行われる。検査を実行する際には、上位装置は、ダイナミックブレーキ検査モード信号modeをONにする。ダイナミックブレーキ検査器8は、上位装置がダイナミックブレーキ検査モード信号modeをONした場合、フィードフォワード補償定数Kffを出力し、電流ループフィードフォワード補償量演算器3c,4cの定数を可変する。電流ループPI演算器3b,4bは、各相の電流誤差補正分電圧指令Δeu、Δevを出力する。
【0023】
図2に前記ダイナミックブレーキ検査器8のブロック図を示す。電流指令位相演算器816,817は、前記位置検出器11からのモータ位置検出値θmとモータ極対数815の積から演算されたモータ電気角θより、各相の電流指令位相を演算する。図2から明らかな通り、u相の電流指令位相はsinθであり、v相の電流指令位相はsin(θ―120°)である。換言すれば、各相の電流位相は、120°ずつずれている。算出された電流指令位相に、不変の一定値である電流指令振幅値818を乗じて、各相のダイナミックブレーキを検査するための電流指令Ius’’,Ivs’’が出力される。ここで、ダイナミックブレーキの検査が行われるとき、すなわち、モータ始動前の段階では、モータ電気角θも、不変の一定値である。そのため、モータ始動前の段階では、電流指令Ius’’,Ivs’’は不変の一定値となる。また、この電流指令Ius’’,Ivs’’は、常に120°の位相差を保った値となる。この電流指令Ius’’,Ivs’’のように、各相に印加される電流が、120°の位相差を保ち、かつ、一定の値で不変の場合、モータは回転することなく静止する。つまり、ここで、算出される電流指令Ius’’,Ivs’’は、モータが回転せず、モータ磁極位置で位置決めしてロックするロック電流値となる。
【0024】
mode判別用スイッチ801は、前記ダイナミックブレーキ検査モード信号modeがONの場合、前記ダイナミックブレーキ検査指令moded・ON(High)を出力し、前記ダイナミックブレーキ検査モード信号modeがOFFの場合、前記ダイナミックブレーキ検査指令moded・OFF(Low)を出力する。
【0025】
ダイナミックブレーキON/OFF判別スイッチ803は、前記ダイナミックブレーキ検査指令modedを遅延させる遅延演算器802の出力に基づき、ダイナミックブレーキ抵抗7をON/OFFするための、DBROFF信号を出力する。より具体的には、遅延演算器802は、予め設定された時間Tdだけ、ダイナミックブレーキ検査指令modedを遅延させる。ダイナミックブレーキON/OFF判別スイッチ803は、(遅延後の)ダイナミックブレーキ検査指令modedがONの場合、DBROFF・ON信号(High)を、ダイナミックブレーキ検査指令modedがOFFの場合、DBROFF・OFF信号(Low)を出力する。DBROFF・ON信号が出力された場合、ダイナミックブレーキはOFFとなり、DBROFF・OFF信号が出力された場合、ダイナミックブレーキはONとなる。
【0026】
電流ループフィードフォワード補償量切替スイッチ804は、前記DBROFF信号に基づき、電流ループフィードフォワード補償量805、806を切替え、出力する。具体的には、DBROFF信号がONの場合、電流ループフィードフォワード補償量805(r1)を、DBROFF信号がOFFの場合、電流ループフィードフォワード補償量806((r1×R)/(r1+R))を、出力する。
【0027】
OR回路813は、電圧誤差比較器809、811が出力する、予め設定した電圧誤差基準値810、812に設定されたref2と前記Δeu、Δevの比較結果、および、位置基準値808に予め設定されたref1と前記モータ位置検出値θmの比較結果より、異常状態を示す信号ALMを、前記上位制御装置に対して出力する。AND回路814は、前記modedと前記ALMの両方がONの場合に、異常状態と判断して、前記インバータ6に対してゲートブロック信号GBLKを出力する。
【0028】
以上の構成のダイナミックブレーキ検査器8での、ブレーキ検査の流れについて説明する。ダイナミックブレーキ検査器8は、モータに通電した場合に、モータが回転せず、モータ磁極位置で位置決めしてロックするように、前記電気角θへの電流指令ius’’、ivs’’を出力する。上位装置がダイナミックブレーキ検査モード信号modeをONした場合、前記ダイナミックブレーキ検査器8は、modedをONするため、前記電気角θへの電流指令ius’’、ivs’’が電流指令として選択される。また、前記modeをONしたタイミングをt=0として、前記ダイナミックブレーキ検査器8は、前記遅延演算器802に予め設定された時間Tdに応じて(式6)に示すフィードフォワード補償定数Kffを出力する。式中、r1はモータ1相分の抵抗値、Rはダイナミックブレーキ抵抗値を示す。なお、前記時間Tdはモータの電気的時定数の10倍以上を設定することが望ましい。
Kff=r1 (0≦t<Td)
Kff=(r1×R)/(r1+R) (Td≦t) ・・・(式6)
【0029】
また、前記ダイナミックブレーキ検査器8は、(式7)に示すダイナミックブレーキをON/OFFする指令である前記DBROFF信号を出力する。
DBROFF=ON (0≦t<Td)
DBROFF=OFF (Td≦t) ・・・(式7)
【0030】
時間0≦t<TdにおけるU相とV相の電圧Eun、Evnの理論値は、
Eun=r1×Kt×SINθ
Evn=r1×Kt×SIN(θ−120°) ・・・(式8)
であり、時間Td≦tにおけるU相とV相の電圧Eun、Evnの理論値は、
Eun=(r1×R)/(r1+R)×Kt×SINθ
Evn=(r1×R)/(r1+R)×Kt×SIN(θ−120°)・・・(式9)
となる。
【0031】
一方、前記電流ループフィードフォワード補償量演算器3c,4cは、euff,evffとして前記(式6)のKffにより、0≦t<Td、Td≦tともに、理論値の電圧指令を出力する。よって、前記電流ループPI演算器出力は、電流検出誤差、モータ1相分の抵抗値r1精度誤差、ダイナミックブレーキ抵抗値R精度誤差により発生する理論値の電圧差、すなわち各相の電流誤差を補正するための電圧指令Δeu,Δevを出力する。該電圧指令は、モータ電気的特性の変化による抵抗値の変化があった場合や、前記ダイナミックブレーキ抵抗7が断線していた場合や、前記ダイナミックブレーキON/OFF用スイッチがオープン故障していた場合は、Δeu,Δevが大きくなる。電圧誤差基準値810,812のref2に、電流検出誤差と抵抗精度誤差により発生する電圧誤差αを予め設定することで、電圧誤差比較器809,811が範囲を超えた場合に前記OR回路にHレベルを出力する。また、モータの故障や位置検出器の故障等により電流指令通り電流が通電できず、意図せずモータが回転する可能性があるため、位置基準値808に予め設定されたref1に、モータが回転しても機械等他に影響がない位置βを予め設定し、比較器807がその範囲を超えた場合に前記OR回路にHレベルを出力する。前記OR回路は、前記電圧誤差がαより大きく、前記位置検出値θmがβより大きくなった場合に、異常状態を示す信号ALMを、前記上位制御装置に対して出力する。また、AND回路814は、前記modedと前記ALM時がONの場合、すなわち、ダイナミックブレーキ検査中に異常状態と判断した場合に、インバータに対し、ゲートブロック信号GBLKを出力し、モータへの通電を即遮断する。
【0032】
以上の通り、モータを始動させる前にダイナミックブレーキ検査を実施することで、ダイナミックブレーキに関わる回路が故障し、インバータで制御して回転中のモータを停止させることができない場合、ダイナミックブレーキ機能が故障を検出し、モータを動作させないことで、結果的に停止距離がのび機械を破損させることがなくなる。また、インバータとモータを切り離す手段が不要であり、システムが小さく、また、安価に実施することができ、さらに、ダイナミックブレーキ検査は安全に実施できる。
【0033】
なお、上述の説明で明らかな通り、本実施形態では、moded・ONとなってから(すなわちius’’、ivs’’が電流指令として選択されてから)、DBROFF・OFFになるまで(すなわちダイナミックブレーキONになるまで)に、遅れTdを発生させている。換言すれば、遅れTdの間、ダイナミックブレーキをモータに非接続とした状態で、モータを回転させないロック電流値を、電流指令としてモータを制御している。かかる遅れTdを発生させるのは、モータの電気定数を補正するためである。すなわち、モータの制御に用いられるパラメータのうち、例えば、モータ一相分の抵抗値r1の値等は、各モータごとに個体差があり、設計値との間に多少の誤差がある。かかる誤差を含んだ値をそのまま用いた場合、モータの駆動制御やブレーキの異常検出の精度が低下する。そこで、本実施形態では、ブレーキ検査の指示が入力されてから遅れ時間Tdの間だけ、ブレーキ抵抗とモータとを非接続としている。この間、フィードバック値またはフィードバック値から算出されるパラメータ、例えば、電流誤差補正分電圧指令Δeu、Δevの値などに応じて、電流ループフィードフォワード補償量805を補正している。これにより、より精度の高い前記euff、evffが出力されるため、より正確にダイナミックブレーキ検査を実施することが可能となる。
【0034】
図3に、他のダイナミックブレーキ検査器8のブロック図を示す。図2と同一要素には同一符号を付しており説明は省略する。r1’演算用電流指令切替スイッチ821は、各相の電流指令ius’’、ivs’’のどちらか大きい方をyとして出力し、r1’演算用電圧誤差切替スイッチ820は、前記yの出力情報より、該当する相の電圧誤差をxとして出力する。r1’演算器は(式10)により、r1’を演算し、電流ループフィードフォワード補償量806のr1’を可変する。
r1’=x/y+r1
すなわち、
r1’=Δev/ivs’’+r1 (ius’’<ivs’’)
r1’=Δeu/ius’’+r1 (ius’’>ivs’’)・・(式10)
【0035】
なお、ius’’=ivs’’のときは、u相、v相のいずれの電流指令値・誤差補正分電圧値を使用してもよいため、予め、いずれの相を使用するか、決めておく。モータとインバータ間の電線が長く、その抵抗値が大きくなる場合には、(式10)中のx/y成分が電線による抵抗値となる。(式10)から明らかなように、r1’は、電流誤差補正分電圧値Δev,Δeuの値に応じて可変され、電流ループフィードフォワード補償量806は、このr1’に基づいて算出される。したがって、電流ループフィードフォワード補償量806は、電流誤差補正分電圧値Δev,Δeuの値に応じて可変されるといえる。このように、電流ループフィードフォワード補償量806を可変することにより、ダイナミックブレーキを接続して電流を通電するTd≦tにおいて、精度の高い前記euff,evffが出力されるため、より正確にダイナミックブレーキ検査を実施することが可能となる。
【0036】
なお、これまでの説明では、電流誤差補正分電圧値Δev,Δeuの値と、予め設定した電圧誤差基準値810、812との比較結果に応じて、ブレーキの異常を検出していたが、ダイナミックブレーキの異常に応じて、換言すれば、ダイナミックブレーキにより生じる抵抗の値に応じて変動するパラメータの実測値と理論値を比較するのであれば、他の形態であってもよい。例えば、検出電流値Iud,Ivdと電流指令値Ius,Ivsとの比較結果に応じてブレーキの異常を検出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 上位制御装置、2 電流指令切替器、3a,4a 減算器、3b,4b 電流ループPI演算器、3c,4c 電流ループフィードフォワード補償量演算器、3d,4d 加算器、3e,4e 電流検出器、5 減算器、6 インバータ、7 ダイナミックブレーキ抵抗、8 ダイナミックブレーキ検査器、9 ダイナミックブレーキON/OFF用スイッチ、10 モータ、11 位置検出器、801,830 mode判別用スイッチ、802,831 遅延演算器、803 ダイナミックブレーキON/OFF判別スイッチ、804 電流ループフィードフォワード補償量切替スイッチ、805,806 電流ループフィードフォワード補償量、807 位置比較器、808 位置基準値、809,811 電圧誤差比較器、810,812 電圧誤差基準値、813 OR回路、814 AND回路、815 モータ極対数、816,817 電流指令位相演算器、818 電流指令振幅値、820 r1’演算用電圧誤差量切替スイッチ、821 r1’演算用電流指令切替スイッチ、822 r1’演算器、12 動力ON/OFFスイッチ、13a,13b 電圧計、832 ダイナミックブレーキ検査用電流指令切替器、833 電流指令振幅、834 OR回路、835,837 電圧検出値比較器、836,838 電圧検出値基準値、6a〜6f インバータスイッチング素子、6g インバータスイッチング指令切替スイッチ、6h PWMパルス発生回路、6i テストパルス発生回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7