【実施例1】
【0097】
レンチウイルスマイクロRNAリポーターベクターの構築および検証
HSCなどの稀であまり特性評価されていない集団を含む造血細胞中でのmiRNAの活性を決定するために、本発明者らは、人工結合部位(miRT、miRNA標的部位)をトランスジーンカセットに付加し、内因性miRNAにより、レンチウイルスベクターから発現されたトランスジーンを下方調節することができるという本発明者らの以前の観察(Brown BD., 2006)を利用した。かくして、本発明者らは、リアルタイムおよび単一の細胞分解でmiRNA活性を読み取るレンチウイルスmiRNAリポーターベクターを構築することを目指した。二方向レンチウイルスベクター(Bd.LV)により、最小サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターの形態で反対向きにTATAボックスに融合したヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターから構成される、二方向活性を有する構成的プロモーターにより駆動される2個のリポーター遺伝子の協調的発現が可能になる(Amendola M., 2005)。この設計により、両リポーターを2種の独立した転写物として発現させることができるため、それらの一方を、miRTを3'UTRに付加することによりmiRNAに応答するようにすることができるが(「miRNAリポーター」)、miRTを備えていない他方はmiRNAにより影響されず、内部対照(「正規化因子」)として働くであろう。本発明者らは、miRNAリポーターとしての緑色蛍光タンパク質(GFP)と、構成的に発現される正規化因子としてのトランケート型ヒト低親和性神経増殖因子受容体(NGFR)とを含有するそのようなBd.LVの一団をクローニングした。
【0098】
本発明者らは、造血組織中で発現されると考えられる2種のmiRNA、miR-223およびmiR-126-3pを精査することを選択した。miR-223は、分化した骨髄細胞においては高度かつ特異的に発現されるが、リンパ球においては存在しないと報告されており(Fazi F., 2005)、本発明者らは、よく特性評価された系列中での本発明者らのリポーターBd.LVの性能を試験することができた。さらに、本発明者らは、miR-223が造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)集団中でどのように発現されるかを探索することを望んだ。遺伝子療法的観点から、疾患を有する子孫の治療的修正を完全に維持しながら、感受性幹細胞集団中での的外れのトランスジーン発現を防止するために、HSPCにおいては強く発現されるが、分化した子孫においては発現されないmiRNAを同定することは非常に意味があるであろう。miR-126がヒトCD34
+ HSPC中では特異的に検出されたが、他の造血細胞集団中では検出されなかったため、大規模miRNAクローニングは、miR-126がこれらの基準を満たすことを示唆していた(Landgrafら、2007)。
【0099】
本発明者らは、miR-223およびmiR-126-3pのためのリポーターBd.LV(それぞれ、Bd.LV-223TおよびBd.LV-126T)、ならびに任意のmiRTを含まない対照Bd.LVを作製した(
図1)。次いで、これらのベクターを、様々な細胞型の一団上で評価した(
図2)。HEK293T胚性腎細胞、U937単球細胞およびヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)を、適合用量のBd.LV-ctr、Bd.LV-223TおよびBd.LV-126Tで形質導入し、形質導入の数日後にフローサイトメトリー(FACS)によりリポーター発現について分析した。HEK293T細胞は低レベルから検出不可能なレベルのmiR-223またはmiR-126を発現する一方、U937細胞はmiR-223を強く発現するが、miR-126を発現せず(
図2a)、HUVECはmiR-126を発現するが、miR-223を発現しない(Kuehbacherら、2007)。さらなる対照として、本発明者らは、遍在プロモーターの制御下にpri-mir-126を含有するLVで形質導入することによりmiR-126を異所的に発現するようにHEK293T細胞を遺伝子操作した(ここで、野生型HEK293T細胞と反対に、HEK293T.LV.miR-126と呼ぶ)。
【0100】
HEK293T細胞においては、NGFRを発現する形質導入細胞のGFP平均蛍光強度(MFI)は、3種全部のBd.LVと同一であった(
図2b、左列)が、これはmiR-223もmiR-126-3pもこれらの細胞中では発現されないことを確認するものである。際だって対照的に、Bd.LV.223Tで形質導入されたU937細胞は、Bd.LV.126TまたはBd.LV.ctrlと比較してGFP MFIの実質的な低下を示したが、これはmiR-126ではなく、miR-223がU937細胞中で生物学的に活性であることを示している。対照的に、HUVECは、対照ベクターと比較した場合、Bd.LV-126Tに対して特異的にGFPの抑制を示した。同様に、Bd.LV-126Tリポーターで形質導入されたHEK293T.LV.miR-126細胞は、野生型HEK293T細胞と比較してGFP発現を強く下方調節した(
図2bの3行目の最後と最初のプロットを比較されたい)。
【0101】
より定量的な表現でmiRNA活性を記述するために、本発明者らは、対照Bd.LVに関するmiRNAリポーターBd.LVの正規化平均蛍光強度(MFI)に基づいて「タンパク質抑制倍数」値(FR)を算出した(
図2c)。ベクター群間での様々なレベルの遺伝子導入を説明するために、本発明者らは、miRNAリポーターGFPと共に化学量論量で転写される内部正規化因子NGFRを使用した。かくして、本発明者らは、NGFR陽性細胞に対してFACS分析を行い、それぞれのBd.LVに関するGFP MFIでNGFR MFIを割って「トランスジーン比」(TGR)を算出した。次いで、miRNAリポーターベクター(それぞれ、Bd.LV.223TまたはBd.LV.126T)について得られたTGRを、対照Bd.LVのTGRで割った。本発明者らが以後「抑制倍数」と呼ぶこの商は、ベクター用量および形質導入レベルとは無関係であり(ベクター用量応答曲線の少なくとも直線部分内)、分析した細胞中でmiRNA活性の定量的リードアウトを提供する(
図2c)。本発明者らのmiRTは、同族miRNAと完全に相補的であるように設計されたものである。かくして、本発明者らは、miRNAにより認識される転写物が分解されると予想した。これを証明するために、本発明者らは、U937およびHEK293T.LV.miR-126細胞中でRT-PCRによりNGFRおよびGFP mRNA転写物を測定し、
図2cに概略されたように「RNA抑制倍数」を算出した。実際、GFP転写物は、それぞれ、7および14の算出されたRNA抑制倍数により示されるように、U937.Bd.LV.223T細胞ならびにHEK293T.LV.miR-126.Bd.LV.126T細胞中でNGFR転写物と比較して低かった(
図2c、菱形)。
【0102】
総合すれば、これらの結果は、本発明者らのmiRNAに調節されるBd.LVが細胞系においてmiRNA活性を忠実に報告し、本発明者ら自身の、および以前に公開されたmiRNA発現データと一致することを示している。従来のmiRNAプロファイリング技術に加えて、本発明者らのベクターはmiRNAの存在を報告するだけでなく、その生物活性をも報告する。本発明者らのBd.LVリポーターを担持する細胞のFACS分析により、単一細胞レベルでmiRNA活性を評価することが可能になり、かくして、免疫表現型決定によりさらに再分割することができる異種細胞混合物を分析するのに好適である。
【0103】
マウス造血系におけるmiR-223およびmiR-126活性の特性評価
一度、細胞系においてmiRNA活性を測定する際のリポーターBd.LVの信頼性を証明したら、本発明者らは一次造血細胞における前記miRNAの活性を精査するために動いた。この目的のために、本発明者らは、実験設定において広く入手可能であり、容易に操作でき、よく特性評価されているため、マウスモデルを利用した。実際、稀なHSPC集団中でmiRNA活性を定義することを目指す場合、表面マーカーによりよく特性評価されたマウス造血系が大いに有利である。本発明者らの実験手法は、系列マーカー陽性細胞を枯渇させることにより骨髄由来マウスHSPCを富化し、それらをレンチウイルスmiRNAリポーターベクターで形質導入し、これらの細胞を致死的に照射されたコンジェニックレシピエントマウスに移植することであった。次いで、マイクロRNA活性を長時間にわたって末梢血白血球中でモニターして、分化した細胞中でのそれらの活性を決定した。安定な生着に到達した後、マウスを安楽死させ、表面免疫型決定により定義された複数の骨髄集団中でmiRNA活性を決定した。このように、本発明者らは、これらのmiRNAが予め同定されたHSPC中で発現されるかどうかを評価することを望んだ。特に、本発明者らは、miR-126が多くの原始的HSC区分に存在するかどうかを決定することを望んだ。第1セットのマウスに、以前に記載されたリポーターBd.LVにより形質導入されたHSPCを移植した(
図1を参照;Bd.LV-ctr、n=5匹の移植マウス;Bd.LV-223T、n=6匹のマウス;またはBd.LV-126T、n=4匹のマウス)。
【0104】
末梢血(PB)を移植の8週間後にサンプリングし、物理的パラメーターおよび表面マーカーに従って白血球集団を顆粒球(CD11b+、side scatterhi SSchi)、単球(CD11b+SSClo)、B細胞(CD19+)およびT細胞(CD11b-CD19-)に選別した(
図3a)。FACSによりこれらの白血球サブセット内でGFP miRNAリポーターおよびNGFR正規化因子発現を定量した(
図3b)。GFPはBd.LV-ctr-およびBd.LV-126T-形質導入HSPCに由来する全ての白血球サブセットにおいて同様に発現されたが、本発明者らは、特にPB骨髄細胞中でのGFPの強い下方調節を認めたが、Bd.LV-223T群内のリンパ球においては認めなかった。miR-223活性の定量は顆粒球および単球においてそれぞれ30倍および17倍を示したが、miR-126はPB白血球中では活性ではなかった(
図3c)。異なるHSPCサブセット中でのmiR-223およびmiR-126プロフィールを特性評価するために、本発明者らは、Bd.LVリポーターマウスを犠牲にし、その骨髄を多色免疫表現型決定分析にかけて、異なる前駆細胞および幹細胞サブ集団を予め同定した。これを上記のマウスについて行ったが、脱安定化GFP変異体に基づいてより感受性の高いmiRNAリポーターを発現するHSPCを移植したマウスに対するその後の実験においても行った。このリポーターは、GFPにC末端に融合したプロリン-グルタミン酸-セリン-トレオニンに富む(PEST)配列を含む。PESTモチーフは素早いプロテアソーム分解およびタンパク質の迅速な代謝回転を媒介し、GFPの半減期を約26時間から4時間に短縮する(Kitseraら、2007)。この短いdGFPの半減期により、本発明者らは、おそらくHSCが前駆細胞に遷移する間に生じるmiRNA発現の変化をより正確に検出することができるようになった。標準的なGFPよりも低いdGFPシグナルを確実に決定するために、GFP遺伝子を含まないBd.LV-NGFRベクターを担持するマウス群を含有させることにより、それぞれ個々のサブ集団中の自己蛍光をGFP MFIから差し引いた。以下の
図4におけるFACSプロットは、より感受性の高いBd.dGFPベクターを移植されたマウスのBMから得られたものである。しかしながら、標準的なGFPリポーターを担持するマウスにおけるmiRNA活性の決定は非常に類似する結果を与えたので、
図3c中の抑制倍数を、行った2つの独立した実験に由来する合わせたデータ上で算出することができる(Bd-ctr、n=10;Bd-223T、n=9;Bd-126T、n=13匹のマウス)。
【0105】
マウスHSPCおよびその子孫におけるマイクロRNA活性のフットプリンティング
次いで、本発明者らは、再構成されたマウスから単離された複数の予め同定された造血サブ集団中でBdLVリポータータンパク質レベルを定量した。HSPC区分を、c-Kit
hi系列マーカー
-/low免疫表現型を有する骨髄(BM)細胞と定義し、Sca-1、CD150、CD48およびCD45の発現に基づいて様々な自己再生能力および分化能力を有する画分に再分割した。注目すべきは、免疫表現型c-Kit
+Sca-1
+Lin
-(KSL)CD150
hiCD48
-を有する5種の細胞のうちの3種が、単一細胞移植の際に長期的な複数系列増殖能力を有し、かくして、真正なHSCであることが報告されたことである(Kiel MJ., 2005)。さらに、文献(Pronk CJ., 2007)および本発明者ら自身の知見に基づいて、本発明者らは、顆粒球/単球前駆細胞(GMP)対巨核球および赤血球前駆細胞(EP)について富化されたサブセットにKit
+Sca
-Lineage
-細胞を再分割し、miRNA発現を評価した。興味深いことに、miR-126、miR-130aおよびmiR-196bは、多くの原始的HSCについて富化された画分において最も高い活性を示し、この活性は分化の初期段階で失われた(
図4)。重要なことに、miR-126、miR-130aおよびmiR-196bは、ある程度のmiR-126活性を再確立するようである最終的に分化した顆粒球を除いて、リンパ球および骨髄系列の分化した細胞において大部分は不活性である。miR-223は大部分のKSL細胞および全ての骨髄前駆細胞(GMP)において発現されたが、EPにおいては鋭く下方調節された。予想通り、miR-223は骨髄分化の間に進行的に上方調節されたが、BおよびTリンパ球はそれを回避した(
図5a)。また、miR-17〜92クラスターのメンバー(miR-19、miR-93a、miR-17-5p)は、HSPC中での高度な発現をもたらした。しかしながら、それらの抑制活性は、さらなる分化の間に維持され、最終的に分化したB細胞および顆粒球においてのみ、ある程度まで低下した(
図5a)。最終的に、let-7aは、真正のHSCを含む全ての造血細胞型において実質的な抑制活性を保持し、その遍在的発現パターンと一致していた。
【0106】
miR-126による条件的自殺からのHSCの保護
前記miRNA活性フットプリントは、免疫表現型に従う造血細胞集団の予備的単離に基づくものであった。機能的に確定した細胞サブセットにおいて選択されたmiRNAの活性を最終的に確立するために、本発明者らは、様々なmiRT配列により調節される単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)遺伝子を発現するレンチウイルスベクターに基づいて条件的自殺系を考案した(
図6a)。TKは約35時間の半減期で非常に安定であるため、本発明者らは、dGFPのPESTドメインをTKのC末端に融合させることにより、TKタンパク質を脱安定化させた(本明細書ではdTKと呼ぶ)。HSPCを、示された自殺ベクターの1つまたはGFP対照ベクターで形質導入し、GCVの存在下または非存在下で、半固形培地中に播種した(
図6b)。対照TKベクターで形質導入されたHSPCは、GCVの存在下ではコロニーを形成しなかった。miR-142T配列をdTK転写物に付加した場合、コロニー形成を完全にレスキューし、これはこのmiRNAの全造血発現と一致していた(Brown BD., 2006)。代わりに、miR-142Tは骨髄コロニーの増殖を少なくとも部分的に修復したが、赤血球コロニー数は有意に低下し(p<0.001)、対照TKで形質導入された細胞と統計的に異ならなかった。miR-126Tについては骨髄コロニーの部分的レスキューも得られたが、miR-223Tについて得られたものよりも低レベルであった。GCVは、miR-130aT群においては骨髄および赤血球コロニーの両方の増殖を完全に阻害したが、これは分化の初期段階でのmir-130aの鋭い下方調節と一致していた。
【0107】
次いで、本発明者らは、機能的に確定したHSCにおけるmiRNA活性を証明するためにin vivo自殺アッセイを開発した。TK/GCV自殺系は毒性的になるために細胞分裂を必要とする。TK形質導入細胞と非形質導入BM支持細胞とを同時移植するパイロット実験により、生着の最初の2週間以内に与えられた1週間のGCVはTKで形質導入された長期的に再増殖するHSCを効率的に排除することが示された(データは示さない)。次いで、本発明者らは、dTK-126TもしくはdTK-142TおよびGFPを発現するmiRNA調節性二方向自殺ベクター、またはdTKおよびΔNGFRを発現する対照二方向自殺ベクターでHSPCを形質導入した。次いで、対照またはmiRNA調節性自殺ベクターの1つで形質導入された細胞を、生着期の間にGCVを受けたか、または受けなかったコンジェニックマウスに同時移植した(
図6c)。末梢血キメラ現象の長期分析により、多くのNGFR
+細胞がGCV処理マウスにおいて効率的に排除されたが、GFP
+細胞は相対数が増加して生存することが示された。これは、dTK-126TおよびdTK-142Tで形質導入された細胞の両方について、複数の系列(顆粒球、単球、BおよびTリンパ球)において、および7ヶ月を超える期間観察された。これらのデータは、miR-126およびmiR-142が両方とも、TKタンパク質発現およびGCVにより誘導される細胞死を防止するのに十分なレベルで長期的に増殖するHSC中で発現されることを立証している。
【0108】
遺伝子療法のためにmiR-126調節を活用する際の安全性
次いで、本発明者らは、上記のBdLV研究において用いられたのと同じプロモーターからd4GTP.126T転写物を発現するレンチウイルスベクターの生殖腺組込み物を担持するトランスジェニックマウス系(Tg.126Tマウス)を誘導した。若い成体のTg.126TマウスのLin
-BM細胞のFACS分析により、移植されたマウスにおいて観察されたのと類似するmiR-126活性のパターンが示された(
図7a)。これは、miR-126がHSC中で生理学的に発現されることを確認するものである。miR-126は、内皮細胞中で発現されることが知られており、発達中の機能喪失は血管新生の欠損に起因して胎児死亡をもたらした(Fish JE., 2008)。Tg.126Tマウスには全体的な表現型異常は存在しなかった。Tg.126マウスを交雑させた場合、その親のベクター要素の平均数を維持した正常なサイズの同腹子が得られた(
図7b)。このデータは、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK)プロモーターからのmiR-126T配列の発現がマウスの発達を阻害しなかったことを示し、miR-126T発現がこれらの環境下で内皮細胞における天然miR-126標的の調節を阻害し得るという仮説に異議を唱えるものである。造血細胞におけるこの後者の問題をさらに排除するために、本発明者らは競合的再増殖実験を設定した。CD45.1
+ HSPCを、致死量の放射線を照射したCD45.1
+レシピエントに、Tg.126Tマウスに由来する等量のCD45.2
+ HSPCと共に同時注入した。末梢血キメラ現象は安定であり、全ての主要な血液系列について約40〜50%のCD45.2+細胞(n=4)で少なくとも1年間(分析の最後の時点)維持された(
図7c)。総合すれば、これらのデータは、miR-126が原始的なHSC中で発現され、バイオセンサー手法がmiRNA発現に基づいて単一細胞レベルで造血細胞を同定するための強力で非毒性的な手段を提供することを示している。
【0109】
ヒト造血細胞中での候補miRNA活性の特性評価
マウス造血系におけるmiR-223、miR-130aおよびmiR-126活性の本発明者らの特性評価は、分化した骨髄細胞およびリンパ系細胞中での治療的発現を可能にしながら、HSPC中でのトランスジーン毒性を制限するための有望な内因性調節因子として、これらのmiRNAを提唱した。本発明者らは次に、遺伝子療法の実際の標的であるヒト造血細胞中でのこれらのmiRNAの活性を調査しようとした。本発明者らは、ヒトCB CD34
+細胞を、miR-126、miR-130a、miR-223のためのリポーターBd.LVで形質導入した(
図8A)。細胞を、HSPCの短期的維持のための支援を提供するin vitro条件下で培養し、CD34/CD38発現に基づくサブ集団をフローサイトメトリーにより同定した。骨髄(CD13
+)および赤血球(CD235
+)の分化を、メチルセルロースアッセイを用いて評価した。miR-126、miR-130aおよびmiR-223は全て、CD34+ HSPC集団中でその対応するリポーター転写物を抑制した。分化の際に、miR-223は骨髄系列においては活性を維持したが、それは赤血球分化の間に低下した。対照的に、miR-126は骨髄分化の間にその活性を喪失したが、赤血球子孫中ではそれを維持した。これらの発現パターンを、条件的自殺アッセイにより機能的に検証した(
図8b)。miR-130aは骨髄および赤血球系列の両方においてその活性を喪失した。それぞれの集団におけるmiRNA活性の定量(
図8A)は、試験したmiRNAのうち、原始的HSPCについて富化されたCD34
+CD38
-CB画分中でmiR-126が最も強力なmiRNAであることを示していた。
図8c/dは、miR-126TおよびmiR-130aT配列を組合わせることによるmiRT配列のさらなる最適化を示す。
【実施例2】
【0110】
HSPC中での強制的GALC発現
マウスHSPC(mHSPC)中でのGALC過剰発現の実行可能性を評価するために、本発明者らは、FVB/twi(GALC -/-)マウスからLin-細胞を単離した。mHSPCを、最適化されたサイトカイン混合物の存在下、MOI 100でGALC.LVを用いて形質導入した(Biffiら、2004)。形質導入後、細胞をin vitroで10〜14日間培養して、Q-PCRにより酵素活性およびベクターコピー数(VCN)を評価した。本発明者らは、GALCの発現レベルと、対照ベクターARSA.LVおよびIDUA.LVでmHSPCを形質導入することにより得られた他のリソソーム酵素アリールスルファターゼA(ARSA)およびイズロニダーゼ(IDUA)の過剰発現とを比較した。全てのベクターが、ヒトPGKプロモーターを含有する同じ発現カセットからトランスジーンを発現した。本発明者らの目的は野生型HSPC中の生理学的酵素レベルに対する形質導入された-/-HSPC中での酵素過剰発現を比較することであったので、ARSA KOマウスおよびIDUA KOマウスから得られたmHSPCを、それぞれARSA.LVおよびIDUA.LV形質導入のために用いた。mHSPCの形質導入は-/-細胞中でリソソーム酵素活性を再構成し、形質導入された-/-mHSPCの培養子孫中での野生型レベルに対して酵素過剰発現を誘導した(
図9A)。しかしながら、GALC発現の増加(野生型の2倍以上)は、同様のVCNにも拘わらず、IDUA.LVおよびARSA.LV対照により得られたIDUAおよびARSAの増加(それぞれ、野生型の320倍および5.6倍)と比較して有意に低かった。
【0111】
正常なドナー(n.d.)から得られたCBからのCD34
+選択を介して単離された、ヒトHSPC(hHSPC)に対して、同様の実験を行った。hHSPCを、以前に最適化された形質導入プロトコル105を用いて、MOI 100でGALC.LV、ARSA.LVおよびIDUA.LVを用いて形質導入した。mHSPCと同様、本発明者らは、形質導入細胞のin vitro培養の際に酵素活性再構成およびVCNを評価した。n.d.のCB(n=4)に由来するHSPCのGALC.LV形質導入は、IDUA.LV(n=3)およびARSA.LV(n=6)対照と比較して、培養細胞子孫中での酵素の過剰発現の制限を誘導した(
図9B)。
【0112】
LV媒介性GALC発現時のGALC発現HSPCのin vitro機能の損傷
mHSPCコロニー形成能力に対する形質導入および酵素発現の効果を、CFCアッセイにより評価した。同数のGALC/GFP/ARSA.LVで形質導入されたmHSPCを、コロニーアッセイのために播種した。ARSAはHSPC機能に影響しないことが以前に示されていたので(Capontondoら、2007)、それを対照リソソーム酵素として選択した。12回の独立した実験において、GALC.LV形質導入-/-および+/+ mHSPCは、GFP.LVおよびARSA.LV形質導入細胞と比較して有意に少ない数のコロニーを生じた(GALC -/-細胞については
図10A)。GALC.LVで形質導入されたmHSPCに由来するコロニーは、対照と比較して顕著に小さいサイズのものであった(
図24B)。これらの結果は、LV形質導入時のGALC過剰発現が、mHSPCコロニー形成能力を損傷させることを示唆していた。GALC.LV形質導入時の赤血球と骨髄コロニーの相対比率は、対照と類似していた(示さず)が、これは、酵素発現が同程度に異なる造血系列を損傷させたことを示唆している。
【0113】
GALC.LVで形質導入されたmHSPCのコロニー形成能力の低下は、高度に形質導入されたGALCを過剰発現する造血前駆細胞の死の結果生じた可能性がある。高度に形質導入されたmHSPCの陰性選択の発生可能性を調査するために、本発明者らはQ-PCRによりコロニーのVCNを定量した。Q-PCRを、4個のコロニーの各プールから抽出されたDNAに対して行った(分析にとって十分な量の材料を得るためにプールを作製した)。GALC.LVで形質導入されたmHSPCから得られたコロニーは、対照と比較した場合、有意に少ないベクター含量を示したが(
図10A)、これは、高度に形質導入された前駆細胞の陰性選択の発生を示唆している。
【0114】
これらのデータに従って、本発明者らは、機能的損傷およびin vitroでの選択が、形質導入の毒性効果またはベクター産生細胞により放出され、ベクターと共に同時精製された夾雑物の存在に起因するかどうかを識別することができなかった。GALC.LV産生の間に、293T細胞はプレートから剥離し、これは、GALC発現がこれらの細胞に対しても毒性的であることを示唆していることに言及しなければならない。この理由から、ベクター調製物への死んだ293T細胞に由来する毒性分子の組込みを排除することはできなかった。この問題に対処するために、本発明者らは、造血特異的マイクロRNA、GALCmir142T.LV 56により調節される対照ベクターを作製した。トランスジーンの下流に組込まれたマイクロRNA 142のための4個の標的配列により、293T LV産生細胞などの非造血細胞中でのGALC発現を損傷させることなく、mHSPCおよびその子孫における発現を抑制することができる。この技術は、マイクロRNA転写後調節に基づく:造血細胞によってのみ発現されるマイクロRNA 142は、トランスジーンの下流のその標的配列を認識し、転写物の翻訳およびトランスジーンの発現を阻害する。予想されたように、GALCmir142T.LVを用いるmHSPCの形質導入は、GALC活性の増加と関連しなかった(
図10B)。さらに、GALCmir142T.LV(n=6)で形質導入されたmHSPCは、対照と比較して、影響を受けないコロニー形成能力およ同様のベクター含量を示し、かくして、以前に観察された損傷がGALC発現に依存することを確認している(
図10A)。
【0115】
本発明者らは、ヒトHSPCにも対するGALC過剰発現の効果を調査した。hHSPCを、n.d. CBおよびBMならびに廃棄されるようにスケジュールされたGLD患者の採取されたBMから単離した。同数のhHSPCを、GALC.LVもしくはARSA.LVで形質導入するか、またはGFP.LV対照ベクターをCFCアッセイのために播種して、形質導入されたhHSPCのコロニー形成能力を評価した。マウス細胞の場合と同様、GALC.LVで形質導入されたn.d.およびGLD hHSPCは、コロニー形成能力の損傷を示した(
図11A)。GALC.LVで形質導入されたhHSPCに由来するコロニーは、対照と比較した場合、有意に低いベクター含量、低下したサイズおよび保存された赤血球-骨髄比率を示し、これは再び、高度に形質導入された前駆細胞の陰性選択を示唆している(
図11A)。またこの場合、対照ベクターGALCmir142T.LVを用いて、形質導入の亜特異的毒性効果を排除した。マウス細胞の場合と同様、GALCmir142T.LVで形質導入されたhHSPC(n=4)は、対照細胞において観察されたものと類似するGALC活性およびコロニー形成能力を示した(
図11AおよびB)。
【0116】
全体として、これらのデータは、LV形質導入時の強制的GALC de novo発現は、マウスおよびヒトのHSPCの両方に対して有害な効果を示し、GALCを過剰発現する細胞の陰性選択および機能的損傷を誘導する。
【0117】
LV媒介性GALC発現時のHSPCのin vivo機能の損傷
本発明者らは、GALC.LV形質導入およびGALC de novo発現の際のm-およびhHSPCの再増殖能力を評価するためにin vivo実験を行った。in vivo試験を、mHSPCについてはtwiおよびFVB/twiマウス上で、hHSPCについてはRag2cマウス上で行った。
【0118】
本発明者らの初期実験を、方法の節に記載のように、GLDの重篤モデルであるtwiマウス上で行った。第1セットの実験を、twiマウスにおけるHCTのための条件を設定するように充てた。野生型ドナーからの総BM移植をこれらのマウスにおいて行ったところ、115により以前に報告されたように、最大で100日間までその寿命が有意に増加した。これらの予備実験により、最適な照射用量を定義することできた。twiマウスはCD45.2対立遺伝子を担持するため、CD45.1対立遺伝子を担持するドナーHSCの使用により、ドナー細胞の生着を評価することができた。本発明者らの目標はtwi HSCを形質導入することであったため、本発明者らはLin-HSPCの移植を設定して、総BM細胞の使用と比較して、形質導入および移植される細胞数を減少させようとした。野生型(+/+)マウスに由来するHSPCを、最適化されたサイトカイン混合物(Biffiら、2004)の存在下、MOI 100で、PGK_GFP.LV(GFP.LV)を用いて形質導入した(
図12A)。形質導入後、細胞を、致死量の放射線を照射された8日齢のtwiマウスまたは+/-対照に移植した。対照群は、野生型BMまたはLin-細胞を移植されたtwiマウスも含んでいた。驚くべきことに、および対照動物と違って、HSPCを移植された-/-twiマウスは致死条件後に生存せず、かくして、これはLin-細胞のみがtwiマウスを再生できなかったことを示唆している(
図12B)。
【0119】
かくして、本発明者らは、HSCを枯渇させた、形質導入されていないBM由来造血前駆細胞の同時移植により、GFP.LVで形質導入されたHSPCの生着を支援することを決定した。これらの細胞は、+/+マウスの総BMからのSca1+細胞の磁気的枯渇により得られたものである。興味深いことに、GFP.LVで形質導入された+/+ Lin-細胞および形質導入されていない+/+ Sca1-細胞を移植されたtwiマウスは、+/+総BM移植を用いて得られたものと類似する生存率に達した(
図12B)。GFP.LVで形質導入されたHSPCの生着を、末梢血に対するフローサイトメトリーにより評価した。移植の5〜6週間後、細胞蛍光分析により、GFP
+HSPC由来細胞の高い生着率が示された(
図12C)。かくして、+/+ Sca1-前駆細胞の同時移植は、精製されたHSPCの生着欠損をレスキューし、総+/+BM移植の場合に得られたもの(Yeagerら、1993;Wuら、2000)と同様に寿命を延長し、twiマウスの表現型を改善することができた。
【0120】
一度、移植手順を+/+HSPCおよびGFP.LVを用いて最適化したら、GALC.LVで形質導入された-/-HSPCおよび+/+またはGALC.LVで形質導入された-/-Sca1細胞をtwiマウスに移植した。GALC.LVで形質導入された-/-HSPCおよび+/+非形質導入細胞を受けたtwiマウスは、+/+総BMまたは+/+HSPCおよびSca1前駆細胞を移植したマウスよりも有意に長く生存し、その表現型の改善およびより遅い疾患進行を示した(
図12B)。このデータは、GALCを過剰発現するHSPCの移植が、従来のHSCTと比較して独特の治療的利益を提供することを示唆していた。しかしながら、本発明者らがQ-PCRによりこれらのマウスのBM中のGALC.LV形質導入細胞の存在を評価した時、本発明者らは、0.8〜1の低いベクターコピー数(VCN)を見出し、これは、低いVCNを有するGALC.LV形質導入細胞のみが生着することができたことを示唆している。
【0121】
にも拘わらず、共にGALC.LVで形質導入された-/-Lin-およびSca1-細胞を受けたtwiマウスは、致死的条件化後に死滅したか、または未処理のマウスと同様の寿命を有していた。これらの結果は、GALC.LVで形質導入された前駆細胞がHSPC生着を支援することができず、生着の失敗と造血の自己再構成をもたらすことを示唆していた。
【0122】
本発明者らは、重篤度がわずかに低いモデルを利用するために、GLDの通常のtwiモデルの代わりに、FVB/twiマウスを使用することを決定した:以前の実験により、Sca1支援細胞を必要とすることなくLin-細胞移植の成功がこのモデルにおいて可能であることが示された。さらに、FVB/twiマウスはより多くの同腹子を有し、かくして、本発明者らはmHSPCを単離するためにより多数の-/-マウスを得ることができた。
【0123】
形質導入されたmHSPCを、致死量の放射線を照射した8日齢のFVB/twi -/-およびヘテロ接合性(+/-)レシピエントに移植した(
図13)。生物学的変動を減少させるために、本発明者らは、-/-および+/-同腹子を移植した。対照群のマウスにはGFP.LVで形質導入された+/+細胞を移植した。この対照群について、形質導入効率を、in vitro培養物上で形質導入の7日後に細胞蛍光分析を行うことにより評価したが、形質導入細胞の生着をHSCTの6週間後に末梢血上で細胞蛍光分析を行うことにより評価した。形質導入効率は非常に高く、GFP
+細胞の75%〜93%の範囲であった。GFPを移植された動物は全て、移植細胞の高い生着率(63%〜85%)を示し、照射対照は全て(HSCTを受けなかった致死量の放射線を照射されたマウス)は、条件化後3週間以内に死滅し、かくして、HSCT条件の正確な設定が確認された。GFP.LVで形質導入された+/+ mHSPCを受ける-/-マウスは、非移植対照マウスと比較して、致死的条件化後に生存日数の延長を達成した。未処理およびGFPを移植されたFVB/twiマウスの生存日数は、twiマウスのそれぞれの群において観察されたものに対してより長く、かくして、表現型の重篤度に対する遺伝的背景の影響が確認された。また、形質導入されたmHSPCの生着を、犠牲時にBM移植マウスから抽出されたDNA上でQ-PCRにより評価した。ゲノムあたりのVCNとして測定された、GFP.LVで形質導入されたmHSPCの有意な生着が観察された(表2)。驚くべきことに、GALC.LVで形質導入された-/-または+/+ mHSPCを移植した-/-および+/-マウスは共に、致死的照射に対して生存しなかった(照射対照のものと同様、21日以内に死滅)(
図13およびデータは示さない)。Q-PCRは、そのBM中で非常に低いものから検出不可能なVCNを示した(表2)。これらの結果は、GALCで形質導入されたmHSPCの機能的損傷を示し、致死的条件化宿主を再生させることができなくなった。
【0124】
GALCを発現するマウスおよびヒトHSPCのアポトーシス
GALC.LVで形質導入されたHSPCの機能的損傷を検出したら、本発明者らは、これがde novo GALC発現により媒介される形質導入細胞のアポトーシスに起因するものであり得るかどうかを評価した。アポトーシスの発生を、トランスジーン発現がおそらくAnnexin V染色およびTUNELアッセイにより安定状態(
図14B中のGFP発現を参照)に達する時、2つの異なる時点、形質導入の2および5日後に評価した。1番目の技術は初期のアポトーシス細胞を標識し、2番目の技術は後期のアポトーシス細胞を標識するものである。m-およびhHSPCを、GALC.LVおよび対照GFP/ARSA.LVで形質導入した。形質導入および洗浄の後、細胞をTUNELアッセイのためにマトリゲル被覆カバースリップ上に塗布するか、または通常のプレート中で培養し、Annexin VおよびTUNELについて染色した。共焦点顕微鏡観察において、大多数のGALC.LVで形質導入されたmHSPCがTUNEL陽性であり、凝縮クロマチンを含む核の拡大を示したが、これは、両時点でのアポトーシスの幅広い発生を証明している(
図14A-B)。対照的に、ARSA/GFP.LVで形質導入された細胞は、多くはTUNEL陰性であった。Annexin V染色はアポトーシスの発生を確認したが、これは、対照と比較して、GALCで形質導入されたm-およびhHSPCの間でより多くのアポトーシス細胞を示している(
図14C)。
【0125】
GALC発現毒性に対する感受性は分化および細胞系列に依存する
マクロファージおよびミクログリアは、LSDのためのHSPC遺伝子療法手法における、神経系などの罹患組織中で酵素活性を再構成するHSPCエフェクター子孫である。本発明者らは、単球原型細胞系(U937)、一次ヒト単球、一次マウスマクロファージおよびミクログリアは、LV媒介性遺伝子導入の際にGALC発現毒性を経験し得るかどうかを評価した。
【0126】
さらに、造血分化の間のGALC誘導性アポトーシスの特異性をさらに分析するために、本発明者らは、TおよびBリンパ球を試験した。GALCの免疫検出を可能にし、形質導入効率を見積もるために、いくつかの実験において、本発明者らは、遺伝子がヒトインフルエンザウイルスのヘマグルチニンタンパク質に由来するHAペプチドをコードする配列と読み枠を合わせて融合された、C末端タグ付トランスジーンを用いた。HAタグ付酵素は、非改変酵素のものと匹敵する比活性を有し、リソソーム区分に適切に分類された(データは示さない)。形質導入後、本発明者らは、TUNELアッセイおよびGALC活性により様々な時点でアポトーシスの発生を評価した。予想通り、分析した全ての細胞型は様々なレベルの基礎的GALC活性を示した(
図17)。
【0127】
腹膜細胞採取の接着画分としてマウスマクロファージを取得した。ミクログリアの一次培養物を、確立されたプロトコル(Armstrong RC., 1998; Grittiら、1996)により、+/+および-/-FVB/twiマウスの脳から単離した。さらに、本発明者らは、一次単球およびU937単球細胞系の両方を試験した。ヒト単球を、CD14単球マーカーの陽性選択によりPBMCから単離した。GFP.LVを用いて形質導入条件を設定し、細胞蛍光分析(可能な場合)または共焦点顕微鏡観察により形質導入効率を分析した。一度、形質導入プロトコルが最適化されたら、ミクログリアおよびマクロファージをGALC/LV/GALC-HA.LVおよび対照ベクターを用いて、それぞれMOI 50および200で効率的に形質導入し、基礎レベル以上にGALCを発現させた(
図18)。高い発現レベル(野生型レベルに対して最大40倍)が達成された場合でも、TUNELアッセイは、全ての試験した細胞において、GALC.LV形質導入およびGALC過剰発現後に低頻度のアポトーシスまたはアポトーシスがないことを示した(
図18)。+/+と-/-ミクログリアの間には差異は観察されなかった(
図18および他のデータは示さない)。これらの結果は、HSC遺伝子療法エフェクター細胞がGALC毒性に対して感受性ではないことを示し、かくして、GLDのためのHSC遺伝子療法戦略を開発するために、HSPC中ではGALC発現を回避するべきであるが、罹患組織に酵素を標的化することができる分化した造血骨髄細胞中ではそれを促進するべきであることを示唆している。
【0128】
ヒトTおよびBリンパ球を、それぞれ、総PBMCのPHA刺激およびEBV形質転換の際に取得した。単球およびマクロファージを用いる実験と同様、GFP.LVおよびフローサイトメトリーを用いることにより形質導入を最適化した。Bリンパ球をGALC.LV/GALC-HA.LVおよび対照ベクターを用いてMOI 100で効率的に形質導入したが、Tリンパ球にはMOI 100での2個のヒットを用いた。形質導入時のGALC活性の持続的増加にも拘わらず、全ての実験時点でアポトーシスは検出されず(
図19)、かくして、分化した造血細胞がGALC過剰発現に対して検出可能なほどに感受性ではないという意見をさらに支持している。
【0129】
miRNA126によるGALC発現に対するin vitroでの調節
HSPC中でのmiRNA126に調節されるGALC発現の効果を評価するために、本発明者らは、GALC.miR126T.LVまたはGFP.miR126T.LVもしくはGALC.LVを用いてMOI 100でmHSPCを形質導入した。洗浄後、細胞をCFCアッセイのために播種するか、またはGALC活性アッセイおよびQ-PCR分析のために2週間in vitroで培養した。GALC.miR126T.LVを用いる形質導入により、野生型レベルに対して最大2倍まで、分化したmHSPC子孫中で超生理学的レベルでGALC活性を再構成することができた(
図35B)。重要なことに、GALC.miR126T.LVで形質導入されたmHSPCから得られたコロニー数は対照と同様であり、GALC.LVコロニーに対してほぼ2倍であり(
図21C)、かくして、miRNA126によるGALC発現の調節により、形質導入されたmHSPCのコロニー形成能力が保存されることを示唆している。これらの有望な結果により、本発明者らは、影響されないコロニー形成能力が、GALC.miR126T.LVで形質導入されたmHSPCのアポトーシスからのレスキューに起因するかどうかを評価するよう促された。形質導入後、mHSPCをマトリゲル被覆カバースリップ上に播種し、培養の2および5日後にTUNELアッセイを実施した。共焦点顕微鏡観察により、アポトーシスのレベルを評価した。GALC.miR126T,LVで形質導入された細胞に対するTUNELアッセイにより、対照LVで形質導入された細胞中で観察されたものと同様、両時点で少しのアポトーシスまたはアポトーシスがないことが示された(2および5日目で、それぞれ、1%1および3%2)(
図22A-B)。このデータは、miRNA126によるGALC発現の抑制がGALC誘導性アポトーシスからmHSPCをレスキューすることができることを示していた。
【0130】
miRNA126によるGALC発現に対するin vivoでの調節
mHSPC再増殖能力に対するmiRNA126調節性GALC発現の効果を、+/- FVB/twiマウスにおいて評価した。致死量の放射線を照射された8日齢のマウスに、GALC.miR126T.LVで形質導入された-/- mHSPCまたたはPGK GALC.LVで形質導入された細胞を移植し、生存日数を短期間および長期間の両方で評価した。CD11b_GALC.LVについて観察されたものと同様、GALC.miR126T.LVで形質導入されたmHSPCを移植された+/- FVB/twiマウスは、致死的条件化後に生存しなかったPGK_GALC.LVを移植されたマウスと違って、死亡からレスキューされ、長期間(HSCT後に3ヶ月以上)生存した。GALC.miR126T.LVで形質導入されたmHSPCを移植されたマウスを80日齢で安楽死させ、Q-PCR分析をBM上で行った場合、本発明者らは、平均5のVCNを見出し、かくして、HCT後に長期間、BM中に形質導入細胞が存在することが確認された。
【0131】
全体として、CD11b_GALC.LVで形質導入された細胞について観察された結果と共に、これらの結果は、本発明者らの改善された調節性遺伝子療法戦略による、GALC欠損のレスキューの成功およびHSPC中でのde novo GALC発現からの保護を示している。
【0132】
強制的GALC発現はHSPCに対して毒性的であるが、分化した造血細胞に対しては毒性的ではない
遺伝子療法のモデルを開発するために、本発明者らは、野生型および5%未満の残留酵素活性(Trs)
45をもたらす点突然変異を担持するGLDマウスに由来するHSPCを、GALCまたはGFPを発現するレンチウイルスベクターを用いて形質導入した(
図23A)。GALCベクターを用いる形質導入は、GLD細胞の培養子孫においてGALC活性を再構成させ、GFPで形質導入された野生型細胞と比較して約2倍の過剰発現をもたらした(
図23B)。同様の発現レベルが、野生型マウスHSPCならびに正常なCBもしくはBMに由来するヒトCD34
+ HSPCの形質導入時に観察された(
図23B)。予想外なことに、強制的GALC発現は、GFPで形質導入された細胞と比較して、マウスおよびヒトのHSPCの両方のコロニー形成活性を損傷させた(
図23Dおよびデータは示さない)。形質導入の2日後に行ったTUNELアッセイにより、GFPで形質導入されたHSPCではなく、GALCで形質導入されたHSPCの多くがTUNEL陽性であり、凝縮クロマチンを含む核の拡大を示すことが示された(
図23EおよびF)。これらの知見は、GALCで形質導入されたHSPCのコロニー形成能力損傷が、アネキシンV染色(示さず)によっても確認されるように、アポトーシスの誘導に起因するものであることを示唆している。miR-142に調節されるGALCをコードするレンチウイルスベクターで形質導入されたHSPCは正常なコロニー形成活性およびアポトーシスの非存在を示したため、HSPCの機能的損傷は、強制的/de novoでのGALC発現により直接引き起こされたものであり、ベクター調製物に関連する毒性によって引き起こされるものではなかった。実際、142T配列は、造血細胞中ではGALC酵素発現を抑制したが、LV産生細胞
33中では抑制しなかった(
図23B)。GALCで形質導入されたマウスHSPCは致死的照射からTrsマウスをレスキューすることができなかったため、強制的/de novo GALC発現は、長期的に生着する細胞に対しても毒性的であった(
図24A)。
【0133】
HSC移植の際に、マクロファージおよびミクログリアは、罹患組織中でGALC活性を再構成するのを担うエフェクター子孫である。強制的/de novo GALC発現による毒性も罹患した分化細胞に影響したかどうかを試験するために、本発明者らは、ヒト一次単球、TおよびBリンパ球、ならびにマウスミクログリアを、GALC-ベクターまたは対照ベクターで形質導入した(
図24B)。効率的な形質導入およびGALC過剰発現が全ての細胞型において達成されたが、TUNELアッセイは培養物中で低いアポトーシスまたはアポトーシスがないことを示した(
図24BおよびC)。かくして、GALC発現に対する感受性はHSPCの独特の特徴であり、成熟した造血細胞中では観察されなかった。
【0134】
miR-126調節はGALC発現毒性からHSPCをレスキューし、GLDの遺伝子療法を可能にする
HSPC中でのde novo GALC発現の選択的毒性は、GLDの遺伝子療法の成功のためには、HSPC中でのトランスジーン発現を厳密に調節する必要があることを強調している。かくして、本発明者らは、本発明者らの新規miR-126に基づく調節系の効果を試験し、それと、分化したHSPC子孫にGALC発現を標的化する骨髄特異的CD11bプロモーターに基づく転写戦略とを比較した。両戦略ともGALC誘導性毒性から形質転換されたHSPCをレスキューした(
図23B-Eを参照)。しかしながら、再構成されたGALC活性は、同様のベクターコピー数に形質導入された培養物を比較した場合でも、CD11b-GALC形質導入細胞よりもGALC-126Tレンチベクター(GALC発現がPGKプロモーターにより駆動される)で形質導入された細胞の子孫において実質的に高かった(野生型レベルの最大2倍)(
図23BおよびC)。本発明者らはまた、GALC.126TレンチウイルスベクターがGALC毒性からヒトHSPCを効率的に保護することを検証した(
図23CおよびD)。成熟した造血細胞中での超生理学的酵素活性から得られる同様の利益を考慮して、本発明者らは、GLD療法のin vivo試験のためにmiRNA調節性ベクターを選択した。
【0135】
Trsマウスに由来するHSPCを、GALC-126Tレンチウイルスベクターで形質導入し、新生Trsマウス中に移植した。移植されたマウスはうまく生着し(
図24A)、未処理のTrsマウス(p<0.0001)に関してだけでなく、野生型GFPで形質導入されたHSPC(p=0.002;
図24AおよびD)を移植されたマウスに関しても有意に長い生存日数を示した。さらに、本発明者らがBM中で測定されたベクターコピー数に従って遺伝子療法で治療されたマウスを階層化した場合、最も高いベクター含量を有する動物が有意に長い生存日数を示し(
図6E)、これは、造血細胞中での超生理学的酵素発現がHSC移植の治療効果を増加させることを強く示唆している。実際、罹患した脳への機能的GALC酵素の効率的送達および欠損活性の再構成が、遺伝子療法により治療されたTrsマウスの脳において観察された(
図24F-I)。治療されたマウスの中枢神経系において、GALC活性がIba
+、CD45
+浸潤造血細胞内、およびIba
-、CD45
-非造血細胞内の両方で検出された(
図24F-I)が、これは、移植され、形質導入されたHSPCの子孫による酵素分泌におそらく起因する常在細胞の交叉補正を証明している。重要なことに、酵素活性の再構成および生存日数の増加は、歩行能力の保存および痙攣の減少(GLDに関連する意図的な震え)と共に、治療されていない罹患対照と比較して治療されたマウスの有意に改善された表現型と関連していた。
【0136】
考察
造血系におけるmiRNA発現の大規模プロファイリング
本研究において用いられたmiRNAリポーターベクターは、miRNA発現レベルにのみ依存するよりもむしろ、miRNA生物活性を測定する機会を提供し、かくして、生物学的に意味のある、miRNA機能の定量的読み出しを提供する。Brownらは、miRNA標的に対する有意な抑制活性を生じさせるためには、miRNA発現の閾値レベルに到達しなければならず、それは細胞内で利用可能な制限的RNAi機構の結果であり得ると提唱している(Brownら、2007)。小分子RNAが、制限されたRNAiエフェクター複合体について競合する場合、miRNAの活性RISCへの組込みを確保するためには十分に高レベルの発現が必要であり得る。かくして、非常に低レベルで発現されるこれらのmiRNA種は、機能的RISCの一部ではないため、ほとんど活性を有さないか、または全く有さないかもしれない。miRNAプロファイリング試験は、miRNA発現における相対的差異のみを考慮することが多く、かくして、統計学的に有意な差異を示唆し得るが、しかしながら遺伝子調節とは無関係であり得る。ゲノム規模でのmiRNA発現分析の幅(例えば、マイクロアレイもしくは大規模配列決定による)と、miRNAリポーターBd.LV手法との組合せは、マイクロRNAの研究に別の次元を加える。それは示差的miRNA発現の生物学的意味を厳密に検証することを可能にし、それを用いて、複数の細胞集団にわたって、単一細胞分解と共に、および生細胞において、選択されたmiRNAの発現を縦方向に研究することができる。本発明者らはこの手法を用いて、HSCのような稀で、入手しにくい細胞集団における選択されたmiRNAの発現を研究した。本発明者らのmiRNAリポーターベクター研究は、文献に記載されたmiR-223およびmiR-126発現プロフィールに関するデータを確認するだけでなく、高度に純粋なHSPCサブ集団およびその子孫におけるこれらのmiRNAの活性に関するさらなる情報を付加した。miR-223はマウスおよびヒトの骨髄系列において豊富に発現されると以前に記載されている(Chenら、2004;Faziら、2005;Rosaら、2007)。実際、本発明者らのリポーターベクターのデータは、顆粒球における最も高いmiR-223活性を見出した。さらに、miR-223活性はまた
、単球およびHSPCの階層、特に、顆粒球-単球系列の前駆細胞においても示された。本発明者らのデータは、少なくともいくつかの多能性造血細胞が、マウスおよびヒトの両方において、miR-223を発現することを示唆している。1つの可能性は、これらの細胞が顆粒球-単球の運命に向けて準備されているということである。本発明者らの二方向リポーターベクターにより、miR-223発現に従ってこれらのHSPC集団を分画し、その分化能力を探査することができる。これらの研究は、表面マーカーにのみ依存せずに骨髄前駆細胞を予め同定し、おそらく系列コミットメントの最も早い段階を調査するための新規方法を提供することができる。
【0137】
造血系におけるmiR-126の発現は、今まであまり特性評価されていなかった。幅広く大規模な配列決定に基づくmiRNAプロファイリング研究は、それをCD34
+ HSPCに広く割り当てた。本発明者らはここで、miR-126がマウスおよびヒトHSPCにおいて、特に、多くの原始的HSCについて富化されたサブセット内で活性であることを示す。分化の初期段階の間に、miR-126活性は進行的に低下する。miR-126のヒトHSCへの結合を、UHN、Torontoの本発明者らの共同研究者(Lechmanら、2008、ASH Abstract)により実施されたNOD/SCIDマウスから新鮮に単離されたBdLV.126Tで形質導入されたCB HSPCの分析によりさらに確認する。本発明者らのデータは、多くの下流の系列におけるサイレンシングと共に、miR-126の幹細胞/初期前駆細胞特異的発現パターンを支持している。
【0138】
興味深いことに、「コア結合因子」(CBF)中の突然変異を特徴とする急性骨髄性白血病(AML)の亜群は、高レベルのmiR-126 121を発現する。著者らは、polo様キナーゼを同定した(miR-126の検証された標的としてのPLK-2)。PLK-2は細胞周期の調節因子として認識されており、血液悪性腫瘍における腫瘍抑制遺伝子として作用し得る。miR-126とHSCとの堅い結合を考慮して、本発明者らは、UHN、TorontoのJohn Dick氏のグループと協力して、AMLの発達階層の頂点に立つ稀なサブ集団であり、化学療法耐性および再発の原因であると考えられる(Barabeら、2007;Kennedyら、2007)、白血病幹細胞(LSC)中でのmiR-126の活性を研究している。予備的結果は、AMLサンプル、特に、CBF-AML以外の亜群に属するものが、miR-126発現の勾配を示し、LSC富化CD34
+38
-画分において最も高く、非生着画分において低いことを示唆している。miR-126活性のこのパターンは、免疫不全NOD/SCIDマウスへのLSCの移植の際に維持される。かくして、レンチウイルスリポーターBd.LVにより可視化されるmiR-126活性は、白血病AML幹細胞のための新しい生物マーカーおよび潜在的な治療標的として役立ち得る(Lechmanら、2008、ASH Abstract)。
【0139】
造血系以外では、miR-126は内皮細胞における血管新生シグナリングの正の調節因子として広く記載されている。血管新生は、元々存在する血管の増殖を介する新しい血管の形成を説明するものである。血管新生を促進するシグナルとしては、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)およびホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)カスケードを活性化し、内皮細胞の運動および増殖を調節し、その後の血管出芽を調節する、血管内皮増殖因子(VEGF)および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)が挙げられる。miR-126は血管新生プロセスに関与する2個の検証された標的、Sprouty関連EVH1ドメイン含有タンパク質(Spred1)およびPI3Kの調節サブユニットを有し、それらは両方ともVEGF/FGFシグナリングの負の調節因子である。miR-126を欠く内皮細胞は、血管新生シグナルに応答することができない。ゼブラフィッシュにおけるmiR-126のノックダウンは、胚発生の間の血管の完全性の喪失および出血をもたらすが(Fishら、2008)、マウスにおけるmiR-126の欠失は、血管の完全性の喪失および内皮細胞増殖、移動および血管新生の欠陥に起因して、漏れやすい血管、出血、および部分的胚致死性を引き起こす(Wangら、2008)。
【0140】
まとめると、miR-126は血管新生内皮細胞ならびに造血幹細胞およびその直近の子孫において生物学的に関連するレベルで発現される。興味深いことに、miR-126の発現は、内皮細胞とHSCが共通して有する別の因子である。事実、胚発生の間に、卵黄嚢における内皮細胞と造血細胞(赤血球)の同時出現、ならびに大動脈-性腺-中腎領域(AGM)におけるHSCと内皮細胞の連続的出現は、いわゆる「血管芽細胞」集団から生じる、これらの2つの系列の共通の起源を強調している。驚くべきことではないが、HSCならびに転写因子ならびにTie2受容体、Sca-1、VEGFR-(Flt-1)、VEGFR-(Flk-1)およびCD31などの膜受容体中で上昇した血管内皮中で広く発現されると元々考えられた多くの遺伝子一覧が存在する。
【0141】
発生を介する、および成体骨髄における、微小血管とHSCとの機能的および解剖学的関連を考慮すれば、miR-126は造血ニッチの恒常性に寄与し、その内皮成分とHSC成分の両方の増殖を調節することができる。
【0142】
miRNA機能によるmiRNA調節性LVの阻害
miRNA調節の活用に関する1つの関心は、miRNA標的配列を含有する転写物を過剰発現することにより天然miRNA標的の調節を阻害する可能性である。マイクロRNAに調節されるLVの生態および安全性を理解するために、本発明者らは、miRNAの活性を飽和させるための用量要件を定量した(Gentnerら、2009)。miRNA標的配列を含有する大量の転写物で細胞をチャレンジする際の感受性リポーターおよび天然miRNA標的の調節の喪失を測定して、本発明者らは、生理学的miRNA調節を阻害する閾値が、一般的には高く、強力なウイルスプロモーターからの発現を駆動する場合にのみ到達することができることを見出した。ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターなどの中程度のプロモーターから発現されたmiRNA標的配列は、高いベクターコピー数(最大50個の組込み物)でも、miRNA活性を飽和させなかった。これは、miRNAの調節を、中程度のプロモーターおよび細胞あたり限られた数の組込み物からmiRNA調節性転写物を発現させる場合にHSC遺伝子療法に安全に活用することができることを示唆していた。しかしながら、本発明者らは、miRNA活性を意図的に阻害するためにレンチウイルスベクターを遺伝子操作し、かくして、miRNA機能を特性評価するための道具として用いることができることを見出した。
【0143】
強力なプロモーターからmiRNA標的配列を過剰発現させた場合、本発明者らは、miRNA活性を飽和させ、そのmiRNA 126の天然の標的の調節の喪失をもたらすことができることを証明した。さらに、本発明者らは、本発明者らの標的配列の設計を変化させることにより、飽和を助けることができることを見出した。本論文に記載されたものなどの本発明者らの遺伝子調節性ベクターについて、本発明者らは、siRNAの作用様式と同様(Brownら、2007)、主にmRNA転写物の分解をもたらす完全に相補的なmiRNA結合部位を活用した(
図2cを参照)。このプロセスは速い反応速度で起こるため(Haleyら、2004)、miRNA-RISC複合体は、実際には高い回転率を有する酵素のように働き、それを飽和させることは本質的に困難である。他方、miRNA標的配列中にmiRNAのヌクレオチド9と11の間に不一致を導入した場合、転写物の分解は弱まり(57)、miRISC/mRNA複合体を、動物細胞中の天然miRNAによっても主に用いられる「翻訳抑制」経路に再指向させる。翻訳抑制は分解よりも遅い速度で起こるようであるため、本発明者らは、不完全な標的が、完全に相補的な標的に対してmiRNA活性をより効率的に競合的に遮断することを示した(Gentnerら、2009)。重要なことに、レンチウイルスベクターに基づく技術により、ゲノム中へのmiRNAノックダウンのために設計されたそのような発現カセットの安定な組込みが可能になり、かくして、それはmiRNA活性を安定に阻害することができるプラットフォームである。本発明者らはこの技術を上手く活用して、miR-223の安定なノックダウンを取得した。高いベクターコピー数でmiR-223ノックダウンベクターで形質導入されたBM細胞をマウスに移植することにより、骨髄細胞の増殖が得られるが、これは、miR-223が骨髄造血の負の調節因子として顆粒球・単球前駆細胞に対して作用することを示唆している。さらに、本発明者らは、miR-223ノックダウンベクターを含有するBMで再構成されたマウスにおいて炎症性肺病変を発見したが、これは、炎症性骨髄細胞の調節におけるmiR-223のさらなる機能を示唆している(Gentnerら、2009)。驚くべきことに、これらのマウスは、最近記載されたmiR
-223ノックアウトマウス系(Johnnidisら、2008)を表現型模写した。遺伝子ノックアウトとは別に、miRNA機能喪失試験は今まで、「antagomir」(Krutzfeldtら、2005)と呼ばれる化学的に改変されたmiRNAアンチセンス分子の一過的トランスフェクションに限られていた。効率的であるが、それらの使用は、容易にトランスフェクトすることができる細胞に限られ、多くの一次細胞の場合は異なる。さらに、ノックダウンは一過的であり、かくして、遺伝子モデル系には容易に適用できない。本発明者らは、安定なmiRNAノックダウンを媒介するLVに関する広い適用を想定している。それらはmiRNAの生理学的役割を調査するための重要な道具を構成するであろう。
【0144】
造血幹細胞遺伝子療法へのマイクロRNA調節性ベクターの適用
本研究で本発明者らが記載するリポーター遺伝子発現のパターンはまた、遺伝子療法に対する関連的影響を持つ。多くの臨床遺伝子療法構築物は、標的細胞型中でのトランスジーンの強固な発現を保証するが、的外れの発現をももたらす遍在的に発現するプロモーターを含む。この異所性発現は、毒性、遺伝子改変細胞の対抗選択、トランスジーン産物に対する免疫応答の誘発、またはさらには癌性形質転換をもたらし得る(Weilら、1997; Ottら、2006; Brownら、2006; Brownら、2007; Woodsら、2006)。
【0145】
HSCに送達される治療的トランスジーンへのmiR-223標的配列の付加は、顆粒球単球前駆細胞および少なくともHSCのサブ画分などの骨髄子孫における発現を防止するであろう。重要なことに、この戦略はリンパ球および赤血球系列における完全な治療的発現をもたらすであろう。
【0146】
骨髄およびリンパ球系列の分化した子孫ではなく、HSPCにおいて強く発現されるmiR-126の同定により、疾患を有する子孫における発現および治療効果を維持しながら、感受性幹細胞集団における潜在的に毒性的なトランスジーンの発現を防止することができる。
【0147】
GALC de novo発現の毒性
LSD患者(Rohrbachら、2007; Bradyら、2004)および動物モデル(Biffiら、2006; Sanoら、2005; Hoflingら、2004; Sandsら、1997)における酵素置換および遺伝子療法適用は、一般的には、リソソーム酵素投与の毒性の欠如および正常レベルを超える発現を示した。異染性白質ジストロフィー(MLD)の場合、スルファチド代謝におけるGALCの上流の工程を触媒するARSAのLV媒介性過剰発現の安全性が、mHSPC、hHSPCおよびトランスジェニックマウスにおいて証明され(Biffiら、2004;Capontondoら、2007)、この疾患のためのHSPC遺伝子療法の臨床試験を促進している。ここで、本発明者らは、LV媒介性GALC遺伝子導入および発現後のマウスおよびヒトHSPCの明らかな毒性ならびにin vitroおよびin vivoでの機能的損傷に関する予想外の知見を報告する。GALC.LVで形質導入されたマウスHSPCは、コロニー形成能力の損傷を示し、骨髄破壊的移植レシピエントに生着することができず、長期的に再増殖することができなかった。これは、高度に形質導入されたHSPCの陰性選択およびアポトーシスと関連していた。GALC発現がマイクロRNAにより調節される対照ベクター(Mechtcheriakovaら、2007)(造血系列細胞中でのみ発現される) (Brownら、2006)で形質導入された、マウスおよびヒトHSPCにおいて観察されたアポトーシスの欠如および機能的損傷により、形質導入細胞の死の決定における発現されたGALCの独特の役割が確認された。
【0148】
分化した細胞はGALC関連毒性に対する感受性が低い
本発明者らは、造血系列の分化した細胞(リンパ球、単球、マクロファージおよびミクログリア)および他の系列に由来する細胞(オリゴデンドロサイト、ならびに神経前駆細胞)(Grittiら、私信)が、LV媒介性GALC過剰発現によって影響されないことに気付いた。従って、HSPCは細胞生存のGALC媒介性およびスフィンゴ脂質媒介性制御に対する独特の感受性を有するようであり、それは成熟した骨髄、TおよびB細胞への分化の間に見かけ上失われ、造血系列に制限される。これに関する可能な説明は、ミクログリアまたはオリゴデンドロサイトなどの他の細胞型と比較して、HSPC中で検出される基礎的GALC活性が非常に低いことである。さらに、スフィンゴ脂質代謝の役割と、CerならびにSoおよびS1Pなどの誘導分子の内容における変化の結果は、細胞型および分化段階に応じて変化し得る。例えば、オリゴデンドロサイト中での細胞内Cer蓄積の効果は、深く研究されたが、その知見は矛盾している。最近の研究により、スフィンゴミエリン分解からのCer産生を担う酸スフィンゴミエリナーゼの誘導は、Cerの蓄積およびアポトーシスの誘導をもたらした(Chudakovaら、2008)。酸化ストレスによるか、またはアルツハイマー病におけるアミロイド-βペプチドの蓄積により誘導されるオリゴデンドロサイトの細胞死に同じ経路が関与するようである(Janaら、2007;Leeら、2004)。しかしながら、成熟オリゴデンドロサイトはまた、Cerの蓄積を誘導するいくつかの前アポトーシス刺激に対して耐性であるとも記載されている。同様に、前アポトーシスTNF刺激に対する示差的応答が、高レベルのアポトーシスが観察されたオリゴデンドロサイト前駆体において、およびアポトーシス刺激に対して耐性であるようである成熟オリゴデンドロサイトにおいて観察された(Scurlockら、1999)。成熟オリゴデンドロサイトはまた、IL-1投与により誘導されるアポトーシスに対しても耐性である(Brogiら、1997)。これは、細胞内Cerの増加が、その特定の細胞型において、およびその特定の分化段階で活性化される経路に応じて、異なる方法で管理されることを示唆している。この仮説を支持して、神経組織における細胞内Cerの増加が、酸セラミダーゼの高い活性により管理されることが報告された(Huangら、2004)。この酵素は、CerからSoへの分解を触媒し、次いで、S1Pにリン酸化される。S1PはCerにより誘導されるアポトーシスから細胞をレスキューし(Betitoら、2006)、神経前駆細胞中での増殖を誘導する(Haradaら、2004)。同様の機構が、GALC過剰発現に関連するアポトーシスに対するオリゴデンドロサイトの感受性の低下の原因となると仮定することができる。スフィンゴ脂質代謝経路はまた、オリゴデンドロサイト中で非常に活発であり、ミエリン糖スフィンゴ脂質(GalCerおよびスルファチド)を産生するためのミエリン化に関与する。さらに、これらの分子は、グリコシナプスを形成する炭水化物間相互作用に関与する(概説については、Boggsら、2008を参照されたい)。
【0149】
単球およびマクロファージにおいて観察されるGALCのde novo発現により誘導されるアポトーシスに対する感受性の低下を、セラミダーゼの活性およびその分泌作用の両方によって説明することができる。報告は、内皮細胞および免疫系の細胞中で、CerはSoおよびS1Pに迅速に変換され、分泌されることを示している。血漿中では、これらの分子はアルブミンに結合し、リンパ球上の特異的受容体のためのシグナルとして作用する(概説については、78 142 143Hannunら、2008; Mechtcheriakovaら、2007; Riveraら、2008を参照されたい)。
【0150】
安全かつ有効なGLD遺伝子療法のためのGALC発現の転写後調節
トランスジーン発現の調節は、遺伝子療法の分野において重要である。特に、マイクロRNA(miRNA)による転写後調節の可能性は、細胞型および分化に応じて、トランスジーンの発現レベルを調整するための最近開いた新しい見込みを有する(Gentnerら、2008)。本研究においては、本発明者らは、GALC分泌およびオリゴデンドロサイトの交叉補正の原因となる、分化した細胞中での酵素過剰発現を可能にしながら、GALC過剰発現毒性に対して最も感受性の高い細胞であることが示されたHSPCにおいてGALC発現を抑制するために本発明の技術を適用した。特に、本発明者らは、末梢血単核細胞と比較して、HSPC中でより高度に発現されると報告された(145)、マイクロRNA126を選択した。本発明者らのデータは、HSC特異的miRNA126によるGALC発現の調節が、in vitroでGALCのde novoで誘導されるアポトーシスからHSPCを保護し、GALC.miR126T.LVを用いるGALC -/- HSPCの形質導入が、CFCアッセイにより評価されるように、多能性前駆細胞のコロニー形成能力を損傷させることなく、超生理学的レベルでその分化した子孫中での酵素活性の再構成を可能にすることを示した。このデータにより、miRNA126が、HSPCにおいてのみGALC発現を抑制し、その分化した子孫においては抑制しないことが確認された。影響されないコロニー形成能力は、GALC発現がHSCだけでなく、CFCアッセイにおいて造血コロニーの形成を担う多能性前駆細胞においても抑制されることを示し得る。
【0151】
さらに、GALC +/- FVB/twiマウスへの、GALC.miR126T.LVで形質導入されたHSPCの移植は、治療された動物の長期的生存をもたらした。このデータは、miRNA126によるより原始的なHSCにおけるGALC活性の抑制が、その長期的再増殖能力および分化能力を保存することができることを示している。HSCTの10週間後のBM中の高度に形質導入された細胞の存在により、長期HSCがGALC過剰発現アポトーシスからレスキューされることがさらに確認された。
【0152】
重要なことに、HSC特異的miRNAによる転写後調節により、PGKなどの強力なプロモーターの使用が可能になり、それによって、分化したHSPC子孫におけるトランスジーンの、調節されていないPGK_GALC.LVを用いた場合に得られたものと同じ発現レベルを達成することができる。上記で考察されたように、有効であるHSC遺伝子療法にとって必要とされるGALC発現のレベルは未知である。しかしながら、臨床的利益を得るのに十分である酵素発現レベルが低い場合でも、より強力なプロモーターの使用により、ベクターコピー数を減少させることができるが、所望の酵素発現を達成することができる。この問題は、HSC遺伝子療法の臨床翻訳の安全性と関連し得る。
【0153】
結論
レンチウイルスベクタープラットフォームは、マイクロRNAの機能を研究するための多用途で高度に有用な道具である。開発された二方向miRNAリポーターベクターにより、複雑な細胞混合物中の単一細胞レベルでのmiRNA活性の測定、従来のmiRNA発現プロファイリング手法への新しい次元の付加が可能になる。この手法を用いて、本発明者らは、かつてない解像度で造血幹細胞および前駆細胞(HSPC)集団中でのいくつかのmiRNAの発現を分析した。プロモーターとmiRNA標的設計の変化は、miRNAの生理学的役割を詳述するための基礎として機能喪失表現型を生成するのに有用な、安定なmiRNAノックダウンを達成することができるレンチウイルスベクターをもたらすことができる。安定なmiRNAノックダウン後のプロテオミック分析により、天然設定において調節されるそのmiRNAの重要な標的の同定が可能になるであろう。
【0154】
これらの基礎生物学の疑問に対処するほかに、miRNA調節性ベクターは有意な治療能力を有する。治療的トランスジーンの3'UTRに付加された場合、miRNA標的配列は異所性トランスジーン発現を低下させ、かくして、トランスジーン毒性を軽減するか、または回避することができる。特に、造血幹細胞(HSC)は遺伝子改変された娘細胞を連続的に供給することによって長期的疾患補正を保証するものであるため、HSCの生態は、遺伝子療法治療によって阻害されてはならない。本明細書で特性評価されたmiRNAであるmiR-126、miR-130aおよびmiR-223は、HSPC中では望ましくないトランスジーン発現を制限するが、分化した子孫においてはそれを可能にし、臨床遺伝子療法プロトコル中でさらに開発されるであろう。
【0155】
特許出願および特許の各々の審査中のものを含む、本明細書に記載の特許出願および特許の各々、ならびに上記特許出願および特許の各々に引用されるか、または参照される各文書(「特許出願に引用される文書」)ならびに特許出願および特許の各々において、ならびに特許出願に引用される文書のいずれかに引用されるか、または記載される任意の製品のための任意の製造業者の説明書またはカタログは、参照により本明細書に組入れられるものとする。さらに、本文に引用される全ての文書、および本文に引用される文書に引用されるか、または参照される全ての文書、ならびに本文に引用されるか、または記載される任意の製品のための任意の製造業者の説明書またはカタログは、参照により本明細書に組入れられるものとする。
【0156】
本発明の記載された方法および系の様々な改変および変更が、本発明の範囲および精神を逸脱することなく当業者には明らかとなるであろう。本発明を特定の好ましい実施形態と関連付けて説明してきたが、特許請求された本発明がそのような特定の実施形態に不当に制限されるべきではないと理解されるべきである。実際、分子生物学または関連する分野における当業者にとって明らかである本発明を実行するための記載された様式の様々な改変が、特許請求の範囲内にあると意図される。
【0157】
参考文献