特許第6144921号(P6144921)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6144921建築物の設計方法、それを用いた製造方法、及びそれに用いる設計装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6144921
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】建築物の設計方法、それを用いた製造方法、及びそれに用いる設計装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20170529BHJP
【FI】
   G06F17/50 604A
   G06F17/50 680B
   G06F17/50 604H
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-24344(P2013-24344)
(22)【出願日】2013年2月12日
(65)【公開番号】特開2014-153994(P2014-153994A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年9月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004673
【氏名又は名称】パナホーム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐田 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】中川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】吉富 信太
【審査官】 合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−217631(JP,A)
【文献】 特開2002−324087(JP,A)
【文献】 特開2001−134628(JP,A)
【文献】 特開平09−325949(JP,A)
【文献】 特開2001−034600(JP,A)
【文献】 柴田 良一, 小林 友人, 加藤 史郎,遺伝的アルゴリズムを用いたRC構造物の耐震壁の配置問題に関する基礎的研究,日本建築学会東海支部研究報告書,日本,一般社団法人日本建築学会,1999年 2月13日,第37号,第213-216頁
【文献】 高田 豊文, 小浜 芳朗,離散的最適化手法を適用した耐震壁の配置計画,経営の科学 オペレーションズ・リサーチ,日本,社団法人日本オペレーションズ・リサーチ学会,2001年 7月 1日,第46巻/第7号,第349-354頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
IEEE Xplore
CiNii
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱、梁及び耐力壁を少なくとも含む構造部材を有する建築物の架構体を、コンピュータを用いて設計するための方法であって、
前記コンピュータに、前記建築物の形状と荷重条件とを含む建築物基本情報を入力する工程と、
前記コンピュータに、前記構造部材を前記架構体に配置するための設計制約条件を入力する工程と、
前記コンピュータに、前記架構体の各架構面について、前記設計制約条件を満たし、かつ、設計因子が異なる前記構造部材の全ての設計パターンを表す複数の対立遺伝子からなる対立遺伝子群を入力する工程と、
前記コンピュータが、前記設計制約条件に基づいて、前記設計因子が異なる複数種類の架構体からなる集団を生成する工程と、
前記コンピュータが、前記構造部材の少なくとも一つについて、遺伝的アルゴリズムに基づいて、前記設計因子の少なくとも一つの最適解を、前記集団を用いて計算する最適化計算工程とを含み、
前記架構面は、一対の前記柱と、前記柱間を継ぐ少なくとも1本の前記梁とを含む垂直面であり、
前記対立遺伝子は、一枚の前記耐力壁の配置を表し、
前記集団は、前記各架構体の前記設計因子を特定する複数の染色体情報を含み、
前記染色体情報は、前記対立遺伝子が格納可能であり、かつ、前記架構面毎に、該架構面に配置可能な前記耐力壁の枚数分設けられた遺伝子座と、前記遺伝子座に格納された前記対立遺伝子とを含むことを特徴とする架構体の設計方法。
【請求項2】
柱、梁及び耐力壁を少なくとも含む構造部材を有する建築物の架構体を、コンピュータを用いて設計するための方法であって、
前記コンピュータに、前記建築物の形状と荷重条件とを含む建築物基本情報を入力する工程と、
前記コンピュータに、前記構造部材を前記架構体に配置するための設計制約条件を入力する工程と、
前記コンピュータに、前記架構体の各架構面について、前記設計制約条件を満たし、かつ、設計因子が異なる前記構造部材の全ての設計パターンを表す複数の対立遺伝子からなる対立遺伝子群を入力する工程と、
前記コンピュータが、前記設計制約条件に基づいて、前記設計因子が異なる複数種類の架構体からなる集団を生成する工程と、
前記コンピュータが、前記構造部材の少なくとも一つについて、遺伝的アルゴリズムに基づいて、前記設計因子の少なくとも一つの最適解を、前記集団を用いて計算する最適化計算工程とを含み、
前記架構面は、一対の前記柱と、前記柱間を継ぐ少なくとも1本の前記梁とを含む垂直面であり、
前記対立遺伝子は、少なくとも一枚の前記耐力壁の配置を表し、
前記対立遺伝子群は、前記架構面に配置される前記耐力壁の枚数毎に、前記対立遺伝子がグループ化された対立遺伝子小群を含み、
前記集団は、前記各架構体の前記設計因子を特定する複数の染色体情報を含み、
前記染色体情報は、前記対立遺伝子が格納可能であり、かつ、前記架構面毎に二つ設けられた遺伝子座と、前記遺伝子座に格納された前記対立遺伝子とを含み、
前記各架構面の二つの遺伝子座は、前記架構面に配置される前記耐力壁の枚数が格納される第1遺伝子座と、
前記第1遺伝子座の前記枚数に基づいて、前記対立遺伝子小群から選択される前記対立遺伝子が格納される第2遺伝子座とを含むことを特徴とする架構体の設計方法。
【請求項3】
柱、梁及び耐力壁を少なくとも含む構造部材を有する建築物の架構体を、コンピュータを用いて設計するための方法であって、
前記コンピュータに、前記建築物の形状と荷重条件とを含む建築物基本情報を入力する工程と、
前記コンピュータに、前記構造部材を前記架構体に配置するための設計制約条件を入力する工程と、
前記コンピュータに、前記架構体の各架構面について、前記設計制約条件を満たし、かつ、設計因子が異なる前記構造部材の全ての設計パターンを表す複数の対立遺伝子からなる対立遺伝子群を入力する工程と、
前記コンピュータが、前記設計制約条件に基づいて、前記設計因子が異なる複数種類の架構体からなる集団を生成する工程と、
前記コンピュータが、前記構造部材の少なくとも一つについて、遺伝的アルゴリズムに基づいて、前記設計因子の少なくとも一つの最適解を、前記集団を用いて計算する最適化計算工程とを含み、
前記架構面は、一対の前記柱と、前記柱間を継ぐ少なくとも1本の前記梁とを含む垂直面であり、
前記対立遺伝子は、少なくとも一枚の前記耐力壁の配置を表し、
前記対立遺伝子群は、前記架構面に配置される前記耐力壁の性能値毎に、前記対立遺伝子がグループ化された対立遺伝子小群を含み、
前記集団は、前記各架構体の前記設計因子を特定する複数の染色体情報を含み、
前記染色体情報は、前記対立遺伝子が格納可能であり、かつ、前記架構面毎に二つ設けられた遺伝子座と、前記遺伝子座に格納された前記対立遺伝子とを含み、
前記各架構面の二つの遺伝子座は、前記架構面に配置される前記耐力壁の性能値が格納される第1遺伝子座と、
前記第1遺伝子座の前記性能値に基づいて、前記対立遺伝子小群から選択される前記対立遺伝子が格納される第2遺伝子座とを含むことを特徴とする架構体の設計方法。
【請求項4】
前記設計因子は、前記構造部材の配置又は断面形状を含む請求項1乃至3のいずれかに記載の架構体の設計方法。
【請求項5】
前記最適解は、前記架構体から計算可能である互いに独立した第1目標変数及び第2目標変数をともに満足させる前記設計因子である請求項1乃至4のいずれかに記載の架構体の設計方法。
【請求項6】
前記最適化計算工程は、
前記各染色体情報に基づいて、前記各架構体の前記第1目標変数及び前記第2目標変数を計算する計算工程、
少なくとも一部の前記染色体情報に対して交叉及び突然変異させて、再構成された染色体情報から構成される新たな集団を生成する遺伝子操作工程、及び
前記第1目標変数及び前記第2目標変数をともに満足する少なくとも一つの前記染色体情報が存在するか否かを判断する工程を含む請求項5記載の架構体の設計方法。
【請求項7】
前記集団は、前記第1目標変数及び前記第2目標変数の最適化度が高い染色体情報からなるエリート群を含み、
前記遺伝子操作工程では、前記エリート群の前記染色体情報を交叉及び突然変異させることなく、前記新たな集団に含める請求項6記載の架構体の設計方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の架構体の設計方法によって計算された少なくとも一つの前記最適解に基づいて、前記架構体及び前記建築物を製造する建築物の製造方法
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載の架構体の設計方法を実行するための演算処理装置を含む設計装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設計因子の最適解を、短時間で求めることができる架構体の設計方法。
【背景技術】
【0002】
例えば、軸組工法による建築物の架構体は、柱、梁及び耐力壁等を含む構造部材を有している。これらの構造部材は、建築物の形状や荷重条件に応じて、その配置や断面形状等を含む設計因子が決定される。従来、建築物の形状や荷重条件を満たしつつ、架構体の強度を高めることができる設計因子を、コンピュータを用いて求めることが行われている。関連する技術としては、次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4712075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
設計因子の最適解を得るためには、例えば、設計因子の全てのパターンを組み合わせた複数のサンプルについて、架構体の強度を計算することが考えられる。しかしながら、このような方法では、全てのサンプルについて計算又は判定処理等が必要となるため、多くの計算時間が必要になるという問題点があった。
【0005】
一方、前記特許文献1記載の方法では、計算時間を短縮するために、サンプルの個数を人為的に少なくするという手法が提案されている。しかしながら、このような方法では、適切にサンプルを絞ることは非常に困難であるため、設計因子の最適解を得るのが難しいという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、設計因子の最適解を、短時間で求めることができる架構体の設計方法、それを用いた製造方法、及びそれに用いる設計装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のうち請求項1記載の発明は、柱、梁及び耐力壁を少なくとも含む構造部材を有する建築物の架構体を、コンピュータを用いて設計するための方法であって、前記コンピュータに、前記建築物の形状と荷重条件とを含む建築物基本情報を入力する工程と、前記コンピュータに、前記構造部材を前記架構体に配置するための設計制約条件を入力する工程と、前記コンピュータに、前記架構体の各架構面について、前記設計制約条件を満たし、かつ、設計因子が異なる前記構造部材の全ての設計パターンを表す複数の対立遺伝子からなる対立遺伝子群を入力する工程と、前記コンピュータが、前記設計制約条件に基づいて、前記設計因子が異なる複数種類の架構体からなる集団を生成する工程と、前記コンピュータが、前記構造部材の少なくとも一つについて、遺伝的アルゴリズムに基づいて、前記設計因子の少なくとも一つの最適解を、前記集団を用いて計算する最適化計算工程とを含み、前記架構面は、一対の前記柱と、前記柱間を継ぐ少なくとも1本の前記梁とを含む垂直面であり、前記対立遺伝子は、一枚の前記耐力壁の配置を表し、前記集団は、前記各架構体の前記設計因子を特定する複数の染色体情報を含み、前記染色体情報は、前記対立遺伝子が格納可能であり、かつ、前記架構面毎に、該架構面に配置可能な前記耐力壁の枚数分設けられた遺伝子座と、前記遺伝子座に格納された前記対立遺伝子とを含むことを特徴とする。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、柱、梁及び耐力壁を少なくとも含む構造部材を有する建築物の架構体を、コンピュータを用いて設計するための方法であって、前記コンピュータに、前記建築物の形状と荷重条件とを含む建築物基本情報を入力する工程と、前記コンピュータに、前記構造部材を前記架構体に配置するための設計制約条件を入力する工程と、前記コンピュータに、前記架構体の各架構面について、前記設計制約条件を満たし、かつ、設計因子が異なる前記構造部材の全ての設計パターンを表す複数の対立遺伝子からなる対立遺伝子群を入力する工程と、前記コンピュータが、前記設計制約条件に基づいて、前記設計因子が異なる複数種類の架構体からなる集団を生成する工程と、前記コンピュータが、前記構造部材の少なくとも一つについて、遺伝的アルゴリズムに基づいて、前記設計因子の少なくとも一つの最適解を、前記集団を用いて計算する最適化計算工程とを含み、前記架構面は、一対の前記柱と、前記柱間を継ぐ少なくとも1本の前記梁とを含む垂直面であり、前記対立遺伝子は、少なくとも一枚の前記耐力壁の配置を表し、前記対立遺伝子群は、前記架構面に配置される前記耐力壁の枚数毎に、前記対立遺伝子がグループ化された対立遺伝子小群を含み、前記集団は、前記各架構体の前記設計因子を特定する複数の染色体情報を含み、前記染色体情報は、前記対立遺伝子が格納可能であり、かつ、前記架構面毎に二つ設けられた遺伝子座と、前記遺伝子座に格納された前記対立遺伝子とを含み、前記各架構面の二つの遺伝子座は、前記架構面に配置される前記耐力壁の枚数が格納される第1遺伝子座と、前記第1遺伝子座の前記枚数に基づいて、前記対立遺伝子小群から選択される前記対立遺伝子が格納される第2遺伝子座とを含むことを特徴とする
【0009】
また、請求項3記載の発明は、柱、梁及び耐力壁を少なくとも含む構造部材を有する建築物の架構体を、コンピュータを用いて設計するための方法であって、前記コンピュータに、前記建築物の形状と荷重条件とを含む建築物基本情報を入力する工程と、前記コンピュータに、前記構造部材を前記架構体に配置するための設計制約条件を入力する工程と、前記コンピュータに、前記架構体の各架構面について、前記設計制約条件を満たし、かつ、設計因子が異なる前記構造部材の全ての設計パターンを表す複数の対立遺伝子からなる対立遺伝子群を入力する工程と、前記コンピュータが、前記設計制約条件に基づいて、前記設計因子が異なる複数種類の架構体からなる集団を生成する工程と、前記コンピュータが、前記構造部材の少なくとも一つについて、遺伝的アルゴリズムに基づいて、前記設計因子の少なくとも一つの最適解を、前記集団を用いて計算する最適化計算工程とを含み、前記架構面は、一対の前記柱と、前記柱間を継ぐ少なくとも1本の前記梁とを含む垂直面であり、前記対立遺伝子は、少なくとも一枚の前記耐力壁の配置を表し、前記対立遺伝子群は、前記架構面に配置される前記耐力壁の性能値毎に、前記対立遺伝子がグループ化された対立遺伝子小群を含み、前記集団は、前記各架構体の前記設計因子を特定する複数の染色体情報を含み、前記染色体情報は、前記対立遺伝子が格納可能であり、かつ、前記架構面毎に二つ設けられた遺伝子座と、前記遺伝子座に格納された前記対立遺伝子とを含み、前記各架構面の二つの遺伝子座は、前記架構面に配置される前記耐力壁の性能値が格納される第1遺伝子座と、前記第1遺伝子座の前記性能値に基づいて、前記対立遺伝子小群から選択される前記対立遺伝子が格納される第2遺伝子座とを含むことを特徴とする
【0010】
また、請求項4記載の発明は、前記設計因子は、前記構造部材の配置又は断面形状を含む請求項1乃至3のいずれかに記載の架構体の設計方法である。
【0011】
また、請求項5記載の発明は、前記最適解は、前記架構体から計算可能である互いに独立した第1目標変数及び第2目標変数をともに満足させる前記設計因子である請求項1乃至4のいずれかに記載の架構体の設計方法である。
【0012】
また、請求項6記載の発明は、前記最適化計算工程は、前記各染色体情報に基づいて、前記各架構体の前記第1目標変数及び前記第2目標変数を計算する計算工程、少なくとも一部の前記染色体情報に対して交叉及び突然変異させて、再構成された染色体情報から構成される新たな集団を生成する遺伝子操作工程、及び前記第1目標変数及び前記第2目標変数をともに満足する少なくとも一つの前記染色体情報が存在するか否かを判断する工程を含む請求項5記載の架構体の設計方法である。
【0013】
また、請求項7記載の発明は、前記集団は、前記第1目標変数及び前記第2目標変数の最適化度が高い染色体情報からなるエリート群を含み、前記遺伝子操作工程では、前記エリート群の前記染色体情報を交叉及び突然変異させることなく、前記新たな集団に含める請求項6記載の架構体の設計方法である。
【0014】
また、請求項8記載の発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の架構体の設計方法によって計算された少なくとも一つの前記最適解に基づいて、前記架構体及び前記建築物を製造する建築物の製造方法である。
【0015】
また、請求項9記載の発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の架構体の設計方法を実行するための演算処理装置を含む設計装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の架構体の設計方法は、柱、梁及び耐力壁を少なくとも含む構造部材を有する建築物の架構体を、コンピュータを用いて設計するための方法である。本発明の設計方法は、コンピュータが、構造部材の少なくとも一つについて、遺伝的アルゴリズムに基づいて、設計因子の少なくとも一つの最適解を計算する最適化計算工程を含む。
【0022】
本発明の設計方法では、従来のように、設計因子の全てのパターンを組み合わせた複数のサンプルを計算することなく、少ないサンプルで設計因子を進化させることができる。従って、本発明の設計方法は、設計因子の最適解を、短時間で求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態の設計方法を実行する設計装置の斜視図である。
図2】架構体の斜視図である。
図3】本実施形態の設計方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図4】本実施形態の基本情報入力工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図5】耐力壁を省いた架構体の斜視図である。
図6図5の平面図である。
図7】(a)はX軸架構面を示す斜視図、(b)はY軸架構面を示す斜視図である。
図8】配置可能領域を示す平面図である。
図9】本実施形態の対立遺伝子群入力工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図10】対立遺伝子を示す正面図である。
図11】染色体情報及び対立遺伝子群の一覧表を示す線図である。
図12】複数の染色体情報からなる集団の概念図である。
図13】染色体情報から特定される架構体の斜視図である。
図14】本実施形態の最適化計算工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図15】第1目標変数及び第2目標変数の計算結果を示す線図である。
図16】本実施形態の遺伝子操作工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図17】本実施形態の次世代集団生成工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図18】(a)は交叉前の染色体情報を示す概念図、(b)は交叉後の染色体情報を示す概念図である。
図19】突然変異を説明する概念図である。
図20】耐力壁の枚数分の遺伝子座を有する染色体情報、及び、対立遺伝子群の一覧表を示す線図である。
図21】二つの遺伝子座を有する実施形態の染色体情報、及び、対立遺伝子群の一覧表を示す線図である。
図22】他の実施形態の二つの遺伝子座を有する染色体情報、及び、対立遺伝子群の一覧表を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本発明の架構体の設計方法(以下、単に「設計方法」ということがある)は、例えば、工業化住宅等の建築物の架構体を、コンピュータを用いて設計するための方法である。
【0025】
図1に示されるように、コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含む。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられる。
【0026】
また、記憶装置には、本実施形態の設計方法の処理手順(プログラム)が予め記憶される。この処理手順は、コンピュータ1の演算処理装置によって実行される。従って、コンピュータ1は、本発明の設計方法を実施するための設計装置1Aとして構成される。
【0027】
図2に示されるように、本実施形態の架構体2は、柱3、梁4及び耐力壁5を含む構造部材6を有する。架構体2には、一対の柱3、3と、該柱3、3間を継ぐ少なくとも1本の梁4とを含む垂直な架構面7が形成される。この架構面7には、耐力壁5が配置される。本実施形態の耐力壁5は、2本の柱5a、5aと、該柱5a、5a間に接続されかつ互いに逆向きに傾く2本の斜材5b、5bとを含んで構成される。
【0028】
図3には、本実施形態の設計方法の具体的な処理手順が示されている。この設計方法では、図2に示した構造部材6の少なくとも一つについて、その設計因子の少なくとも一つの最適解を計算する。本実施形態の設計因子は、耐力壁5の配置である。
【0029】
本実施形態の設計方法では、先ず、コンピュータ1に、建築物の基本情報が入力される(基本情報入力工程S1)。図4には、本実施形態の基本情報入力工程S1の具体的な処理手順が示される。
【0030】
本実施形態の基本情報入力工程S1では、先ず、建築物の形状が、コンピュータ1に入力される(工程S11)。この工程S11では、図5及び図6に示されるように、例えば、建築物の柱3、梁4、架構面7及び屋根8の形状及び配置が、コンピュータ1に入力される。なお、この工程S11では、設計因子である耐力壁5(図2に示す)は入力されない。
【0031】
柱3及び梁4は、予め定められた水平モジュール又は垂直モジュールを基準として、その配置や長さ等が設定されている。また、柱3及び梁4は、例えば、ボルトがモデル化されたピン9により固定される。これにより、耐力壁5(図2に示す)を除いた架構体2及び架構面7が設定される。
【0032】
また、柱3及び梁4には、例えば、それらの断面形状や、断面2次モーメント等の構造計算に必要なパラメータが設定される。このような柱3及び梁4の配置等やパラメータは、いずれも数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
【0033】
図5に示されるように、本実施形態の架構面7は、X軸方向に沿って配置されるX軸架構面11と、Y軸方向に沿って配置されるY軸架構面12とを含む。
【0034】
図7(a)に示されるように、X軸架構面11は、架構体2の1階に配置される第1架構面11A〜第6架構面11Fと、2階に配置される第7架構面11G〜第12架構面11Lとを含む。
【0035】
図7(b)に示されるように、Y軸架構面12は、架構体2の1階に配置される第13架構面12A〜第16架構面12Fと、2階に配置される第17架構面12G〜第24架構面12Lとを含む。これらの架構面11A〜12Lは、コンピュータ1に記憶される。
【0036】
図6に示されるように、屋根8は、柱3及び梁4と同様に、水平モジュール又は垂直モジュールを基準として、その配置や形状が設定される。このような屋根8の配置等が、数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
【0037】
次に、本実施形態では、建築物の荷重条件が、コンピュータ1に入力される(工程S12)。荷重条件は、建築物に作用する外力に関する情報である。荷重条件は、例えば、建築物の各種仕様、例えば、外壁仕様、床仕様、屋根葺材、耐火仕様、耐震等級、又は、耐風等級などに基づいて入力される。このような荷重条件も数値データであり、コンピュータ1に記憶される。
【0038】
建築物基本情報は、一般的なCADや一貫構造計算システム等のソフトウェアを用いて設定することができる。本実施形態では、二階建ての建築物が一例として示されたが、例えば、一階建てや、三階建て以上のものでも良い。
【0039】
次に、コンピュータ1に、構造部材6を架構体2に配置するための設計制約条件が入力される(工程S2)。本実施形態の設計制約条件は、図8に示されるように、各架構面7において、耐力壁5を配置できる領域(以下、単に「配置可能領域」ということがある。)14に関する情報を含んでいる。配置可能領域14は、各架構面11A〜12L(図7に示す)において、窓や扉等の開口部15を除いた領域として設定される。このような配置可能領域14は、座標値等の数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
【0040】
次に、各架構面11A〜12L(図7に示す)について、設計因子が異なる複数の対立遺伝子からなる対立遺伝子群が、コンピュータ1に入力される(対立遺伝子群入力工程S3)。図9には、本実施形態の対立遺伝子群入力工程S3の具体的な処理手順が示される。
【0041】
対立遺伝子とは、設計因子が異なる複数の耐力壁5の仕様に関する情報である。本実施形態の対立遺伝子群入力工程S3では、先ず、構造部材6(耐力壁5)が、コンピュータ1に入力される(工程S31)。図10に示されるように、耐力壁5は、例えば、水平モジュールに基づいて、幅W1が異なる複数種類のものが設定される。本実施形態の耐力壁5は、幅W1aが450mmの小耐力壁5Aと、幅W1bが900mmの大耐力壁5Bとを少なくとも含む。各耐力壁5A、5Bは、柱5a及び斜材5bの断面形状や、断面2次モーメント等が、数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
【0042】
次に、コンピュータ1に、対立遺伝子からなる対立遺伝子群が入力される(工程S32)。本実施形態の対立遺伝子16は、各架構面11A〜12L(図7に示す)について、配置可能領域14を考慮した耐力壁5の配置パターンを表している。即ち、対立遺伝子群17は、設計制約条件を満たす耐力壁5の配置パターンを意味している。
【0043】
図11に示されるように、対立遺伝子群17は、各架構面11A〜12L(図7に示す)において、耐力壁5の配置パターンが異なる複数の対立遺伝子16から構成される。本実施形態の複数の対立遺伝子16は、各耐力壁5A、5Bの少なくとも1枚が配される全ての配置パターンを表している。なお、耐力壁5の全ての配置パターンをもれなく設定するために、本実施形態では、複数の対立遺伝子16は、設計制約条件と、各耐力壁5A、5Bとに基づいて、コンピュータ1によって自動で計算及び記憶している。
【0044】
各対立遺伝子16には、該対立遺伝子16を一意に識別するためのインデックス(例えば、「0001」等)が設けられている。このような複数の対立遺伝子16及び対立遺伝子群17は、数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
【0045】
次に、コンピュータ1が、設計因子が異なる複数種類の架構体2からなる集団を生成する(集団生成工程S33)。図12に示されるように、本実施形態の集団18は、複数の染色体情報19を含む。各染色体情報19は、対立遺伝子16が格納可能な少なくとも一つの遺伝子座21と、この遺伝子座21に格納された対立遺伝子16(図11に示す)とを含む。
【0046】
本実施形態において、遺伝子座21は、架構面11A〜12L毎に一つずつ設定される。図11に示されるように、各遺伝子座21に格納される対立遺伝子16は、各架構面11A〜12Lに対応する対立遺伝子群17の中から一つ選択される。これにより、各染色体情報19は、配置可能領域14に基づいて、例えば、図13に示されるような、耐力壁5が配置された一つの架構体2(設計サンプル)を特定することができる。
【0047】
本実施形態の遺伝子座21には、対立遺伝子16のインデックスのみが格納される。これにより、各染色体情報19は、各遺伝子座21に格納される対立遺伝子16を特定することができる。
【0048】
遺伝子座21に格納される対立遺伝子16は、例えば、乱数関数に従ってランダムに選択されるのが望ましい。これにより、遺伝子座21には、対立遺伝子16が不規則に配置されるため、様々なバリエーションの染色体情報19を容易に設定することができる。このような染色体情報19は、数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
【0049】
次に、コンピュータ1が、遺伝的アルゴリズム(GA)に基づいて、設計因子の少なくとも一つの最適解を計算する(最適化計算工程S4)。
【0050】
遺伝的アルゴリズムは、生物が環境に適応して進化していく過程を、工学的に模倣した学習的アルゴリズムである。この遺伝的アルゴリズムでは、遺伝子で表現した複数の染色体情報に対して、交叉、又は、突然変異等の遺伝子操作を繰り返す。これにより、遺伝的アルゴリズムでは、少ないサンプルから、染色体情報を時系列的に進化させて、最適解を短時間で得ることができる。図14には、本実施形態の最適化計算工程S4の具体的な処理手順が示される。
【0051】
本実施形態の最適化計算工程S4では、先ず、集団18の各染色体情報19に基づいて、架構体2の第1目標変数及び第2目標変数が計算される(計算工程S41)。
【0052】
図15に示されるように、本実施形態の第1目標変数は、架構体2の概算のコストである。このコストは、例えば、染色体情報19の各対立遺伝子16で設定される各構造部材の重量に、構造部材の単価を乗じて合算する方法や、構造部材毎に、データベース化された部材価格に基づいて合算する方法等により計算される。また、第1目標変数は、数値が小さいほど良好である。さらに、第1目標変数の許容範囲は、例えば、目標コストの1.10倍以下である。目標コストは、例えば、建築物の予算等に基づいて、適宜設定される。このような第1目標変数は、染色体情報19毎に計算され、コンピュータ1に記憶される。
【0053】
第2目標変数は、対立遺伝子16で定義される架構体2の設計制約条件への適応度である。第2目標変数と、第1目標変数とは、互いに独立した変数である。この第2目標変数(設計制約条件への適応度)は、架構体2の強度や、設計制約条件(配置可能領域14)に違反する対立遺伝子16の個数に基づいて計算される。
【0054】
架構体2の強度は、例えば、建築基準法で指定されている保有水平耐力計算(所謂ルート3計算)等によって求められる。また、設計制約条件(配置可能領域14)に違反する対立遺伝子16の個数が一つでもある場合は、第2目標変数(適応度)が減じられる。この第2目標変数は、数値が高い程良好であり、1.0以上であれば、架構体2に求められる条件を満足する。このような第2目標変数は、染色体情報19(図12に示す)毎に計算され、コンピュータ1に記憶される。なお、適応度が1.0未満である場合は、架構体2のコストである第1目標変数に、ペナルティとして数値を加算しても良い。
【0055】
次に、コンピュータ1が、第1目標変数及び第2目標変数をともに満足する少なくとも一つの染色体情報19(以下、単に「最適解」ということがある)が存在するか否かを判断する(判断工程S42)。本実施形態の判断工程S42では、集団18を構成する全ての染色体情報19のうち、最適解が存在すると判断された場合、次の製造工程S5が実行される。
【0056】
一方、最適解が存在しないと判断された場合は、コンピュータ1が、少なくとも一部の染色体情報19に対して交叉及び突然変異等の遺伝子操作を行い、染色体情報19を再構成して(遺伝子操作工程S43)、計算工程S41及び判断工程S42を再度実行する。これにより、最適化計算工程S4では、最適解を確実に得ることができる。
【0057】
本実施形態の判断工程S42では、最適解が存在するか否かのみが判断されたが、これに限定されるわけではない。例えば、判断工程S42では、上記の条件に加え、第1目標変数で表される架構体2のコストが最も低い染色体情報19Sが、複数回(例えば、5〜15回)更新されない場合にのみ、次の製造工程S5が実行されるものでもよい。
【0058】
製造工程S5では、最終世代の集団18において、最適化度が最も高い染色体情報19Sに基づいて、架構体2及び建築物が製造される。これにより、本実施形態の設計方法では、架構体2のコストを所定の範囲に抑えつつ、強度が最も高い架構体2及び建築物を、容易かつ確実に製造することができる。
【0059】
なお、最適化度が最も高い染色体情報19Sとは、例えば、第2目標変数が1以上である全ての染色体情報19のうち、第1目標変数が、最も低い第1目標変数の1.10倍以下であり、かつ、第2目標変数の計算に用いられる架構体2の強度が最も高い染色体情報19と定めることができる。
【0060】
図16には、本実施形態の遺伝子操作工程S43の具体的な処理手順が示される。本実施形態の遺伝子操作工程S43では、先ず、図15に示されるように、コンピュータ1が、集団18に属する複数の染色体情報19を、第1目標変数で表される架構体2のコストが低い順に順位付けする(工程S431)。
【0061】
次に、コンピュータ1は、各染色体情報19を、エリート群23と、非エリート群24とに分類する(工程S432)。エリート群23は、集団18に属する全ての染色体情報19のうち、最適化度が相対的に高い染色体情報19から構成される。一方、非エリート群24は、エリート群23の染色体情報19よりも最適化度が低い染色体情報19から構成される。エリート群23の割合は、適宜設定することができるが、例えば、集団18を構成する全ての染色体情報19の5〜20%程度のものと定めてもよい。
【0062】
次に、コンピュータ1は、次の計算工程S41で用いる染色体情報19の新たな集団18を生成する(次世代集団生成工程S433)。図17には、本実施形態の次世代集団生成工程S433の具体的な処理手順が示される。
【0063】
次世代集団生成工程S433では、先ず、コンピュータ1が、エリート群23の染色体情報19を、交叉又は突然変異させることなく、新たな集団18に含める(工程S71)。これにより、計算工程S41では、エリート群23の染色体情報19が含まれるため、確実に最適解を求めることができる。このエリート群23の染色体情報19は、新たな集団18を構成する染色体情報19として、コンピュータ1に記憶される。
【0064】
次に、コンピュータ1は、集団18を構成する一部の染色体情報19を対象に交叉を実施する(交叉工程S72)。
【0065】
図18(a)、(b)に示されるように、本実施形態では、例えば、一対の染色体情報19a、19bにおいて、二つの交叉点26、26で挟まれた遺伝子座21、21に格納された対立遺伝子16(図11に示す)を入れ換える。このような交叉では、同一の架構面11A〜12Lを設定する遺伝子座21間で、対立遺伝子16が入れ替えられる。従って、染色体情報19は、同一の対立遺伝子群17(図11に示す)の対立遺伝子16で、遺伝子座21の対立遺伝子16を再構成することができる。この再構成された染色体情報19は、新たな集団18を構成する染色体情報19として、コンピュータ1に記憶される。なお、交叉点26、26は、コンピュータ1によってランダムに設定されるのが望ましい。
【0066】
本実施形態において、交叉は、二つの交叉点26、26で挟まれた対立遺伝子16を入れ換える二点交叉である場合が例示されたが、これに限定されるわけではない。交叉としては、例えば、一点交叉、多点交叉、又は、一様交叉などでもよく、これらを組み合わせ実施されるものでもよい。
【0067】
次に、コンピュータ1は、集団18を構成する一部の染色体情報19を対象に突然変異を実施する(突然変異工程S73)。本実施形態の突然変異工程S73では、交叉の対象となっていない染色体情報19を対象に突然変異を実施する。
【0068】
図19に示されるように、本実施形態では、先ず、各染色体情報19において、遺伝子座21がランダムに選択される。次に、選択された遺伝子座21に格納された対立遺伝子16が、当該遺伝子座21に対応する対立遺伝子群17からランダムに選択された対立遺伝子16に置換される。このような突然変異は、交叉とは異なり、集団18を構成する各染色体情報19の対立遺伝子16に限定されることなく、新たな対立遺伝子16で、遺伝子座21の対立遺伝子16を再構成することができる。従って、突然変異は、局所的な最適解に陥ることを防ぎうる。この再構成された染色体情報19は、新たな集団18を構成する染色体情報19として、コンピュータ1に記憶される。
【0069】
このように、本実施形態の最適化計算工程S4では、第1目標変数及び第2目標変数の最適化度が高いエリート群23の染色体情報19を残しつつ、残りの染色体情報19を再構成し、新たな進化を試みることができる。これにより、本発明の設計方法では、少ないサンプルで、設計因子を進化させることができる。従って、本発明の設計方法は、最適解を短時間で求めることができる。
【0070】
突然変異させる染色体情報19の割合は、適宜設定することができるが、例えば、集団18を構成する全ての染色体情報19の10〜40%程度のものと定めてもよい。突然変異させる染色体情報19の割合が10%未満の場合、対立遺伝子16を十分に進化させることができないおそれがある。逆に、突然変異される染色体情報19の割合が、40%を超える場合、設計制約条件に違反する対立遺伝子16が大幅に増加し、最適解を短時間で求めることができないおそれがある。
【0071】
また、第1目標変数で表される架構体2のコストが許容範囲に収まり、かつ、第2目標変数で表される適応度を満足する染色体情報19が現れてからは、概ね最適解近傍を探索できていると判断することができる。このため、次世代集団生成工程S433では、良好な染色体情報19同士の交叉による進化を優先させるのが望ましい。これにより、最適化計算工程S4では、最適解を短時間で求めることができる。この場合、突然変異の割合は、集団18を構成する全ての染色体情報19の5〜10%程度に設定されてもよい。
【0072】
また、集団18に属する染色体情報19の個数は、15〜50個が望ましい。なお、染色体情報19の個数が15個未満であると、対立遺伝子16を十分に進化させることができないおそれがある。逆に、染色体情報19の個数が50個を超えると、多くの計算時間を要するおそれがある。
【0073】
さらに、集団18に属する染色体情報19の個数は、例えば、建物の階数及び延べ床面積によっても決定されるのが望ましい。例えば、本実施形態のような二階建ての建築物の場合には、下記の延べ床面積毎に設定された個数に従って、染色体情報19が設定されるのが望ましい。また、三階建ての建築物の場合には、下記の個数に5個プラスした個数分の染色体情報19が設定されるのが望ましい。さらに、一階建ての建築物の場合には、下記個数に5個マイナスした個数分の染色体情報19が設定されるのが望ましい。
100m2未満:20個
100〜120m2:25個
120〜140m2:30個
140〜160m2:35個
160〜180m2:40個
180〜200m2:45個
200m2以上:50個
【0074】
本実施形態の設計方法では、図11に示されるように、架構面11A〜12L毎に一つの遺伝子座21を有する染色体情報19が例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、図20に示されるように、染色体情報19は、架構面11A〜12L毎に、該架構面11A〜12Lに配置可能な耐力壁5の枚数分の遺伝子座21を有するものでもよい。この実施形態では、各架構面11A〜12Lに配置可能な耐力壁5の枚数が2枚である。従って、染色体情報19は、架構面11A〜12L毎に、二つの遺伝子座21、21が設定される。
【0075】
この実施形態の遺伝子座21は、架構面11A〜12L毎に、耐力壁5の枚数分設定されるため、対立遺伝子群17の対立遺伝子16を、1枚の耐力壁5の配置パターンで定義することができる。従って、この実施形態の対立遺伝子群17は、対立遺伝子16の個数を、図11に示した前実施形態に比べて少なくすることができる。
【0076】
架構面11A〜12L毎に設定される二つの遺伝子座21、21に、例えば同一の対立遺伝子16が格納されると、耐力壁5、5が重複して配置される場合がある。このため、耐力壁5、5が重複して配置される染色体情報19については、最適解候補から除外する必要がある。最適解候補から除外する方法としては、例えば、計算工程S41において、第1目標変数に、ペナルティとして数値を加算してもよい。これにより、判断工程S42では、耐力壁5、5が重複する染色体情報19を除いて、最適解の有無が判断される。
【0077】
また、この実施形態の交叉工程S72及び突然変異工程S73では、架構面11A〜12L毎に、二つの対立遺伝子16、16を一組として、それぞれ入れ替えるのではなく、個々の対立遺伝子16毎に入れ替えられるのが望ましい。これにより、交叉工程S72及び突然変異工程S73では、二つの対立遺伝子16、16の組み合わせに限定されることなく、対立遺伝子16を効率的に組み替えることができる。
【0078】
図21には、さらに他の実施形態の染色体情報19が示される。この実施形態の染色体情報19は、架構面11A〜12L毎に、二つの遺伝子座21を有する。二つの遺伝子座21は、各架構面11A〜12Lに配置される耐力壁5の枚数(数字)が格納される第1遺伝子座21Aと、対立遺伝子16のインデックスが格納される第2遺伝子座21Bとを含む。
【0079】
この実施形態の各対立遺伝子群17は、耐力壁5の枚数毎に、対立遺伝子16がグループ化された対立遺伝子小群29を含む。対立遺伝子小群29は、1枚の耐力壁5の配置を表す対立遺伝子16をグループ化した第1小群29Aと、2枚の耐力壁5の配置を表す対立遺伝子16をグループ化した第2小群29Bとを含む。
【0080】
染色体情報19の第2遺伝子座21Bには、第1遺伝子座21Aに格納される枚数に基づいて、第1小群29A又は第2小群29Bから選択される対立遺伝子16のインデックスが格納される。本実施形態の対立遺伝子16のインデックスは、第1小群29A及び第2小群29Bとで共通のものが採用されている。
【0081】
この実施形態の交叉工程S72及び突然変異工程S73では、第1遺伝子座21Aに格納される耐力壁5の枚数と、第2遺伝子座21Bに格納される対立遺伝子16とを一組として入れ替えるのではなく、第1遺伝子座21Aに格納される耐力壁5の枚数と、第2遺伝子座21Bに格納される対立遺伝子16とが別々に入れ替えられるのが望ましい。これにより、交叉工程S72及び突然変異工程S73では、架構面11A〜12Lの第1、第2遺伝子座21A、21Bの組み合わせに限定されることなく、耐力壁5の枚数及び対立遺伝子16を、効率的に再構成することができる。
【0082】
本実施形態では、対立遺伝子16のインデックスが、第1小群29A及び第2小群29Bとで共通のものが採用されている。このため、例えば、第1遺伝子座21Aに格納される耐力壁5の枚数と、第2遺伝子座21Bに格納される対立遺伝子16のインデックスとが別々に入れ替えられた場合でも、入れ替えられた後の枚数及びインデックスから対立遺伝子16を一意に定めることができる。
【0083】
さらに、最適化計算工程S4では、第1遺伝子座21A、21Aを優先して、交叉又は突然変異させた後に、第2遺伝子座21B、21Bを交叉又は突然変異させるのが望ましい。これにより、最適化計算工程S4では、各架構面11A〜12Lに配される耐力壁5の枚数を確定させた後に、耐力壁5の配置を設定することができるため、染色体情報19をより効率的に再構成することができる。
【0084】
図22には、さらに他の実施形態の染色体情報19が示される。この実施形態の染色体情報19は、架構面11A〜12L毎に、二つの遺伝子座21、21を有する。二つの遺伝子座21は、各架構面11A〜12Lに配置される耐力壁の性能値(数字)が格納される第1遺伝子座21Aと、第1遺伝子座21Aの性能値に基づく対立遺伝子16のインデックスが格納される第2遺伝子座21Bとを含む。ここで、本実施形態の性能値は、図10に示した1枚の大耐力壁5Bの強度に対する耐力壁5の強度の比率である。
【0085】
また、この実施形態の各対立遺伝子群17は、耐力壁5の性能値毎に、対立遺伝子16がグループ化された対立遺伝子小群30を含む。本実施形態の対立遺伝子小群30は、性能値が0.5以下の対立遺伝子16をグループ化した第1小群30Aと、性能値が0.5〜1.0の対立遺伝子16をグループ化した第2小群30Bと、性能値が1.0〜1.5の対立遺伝子16をグループ化した第3小群30Cとを含む。
【0086】
また、染色体情報19の第2遺伝子座21Bには、第1遺伝子座21Aに格納される性能値に基づいて、第1小群30A、第2小群30B又は第3小群30Cから選択される対立遺伝子16のインデックスが格納される。本実施形態の対立遺伝子16のインデックスは、第1小群30A、第2小群30B及び第3小群30Cとで共通のものが採用されている。
【0087】
この実施形態の交叉工程S72及び突然変異工程S73では、図21に示した前実施形態と同様に、第1遺伝子座21Aに格納される耐力壁5の性能値と、第2遺伝子座21Bに格納される対立遺伝子16とが別々に入れ替えられるのが望ましい。
【0088】
本実施形態では、対立遺伝子16のインデックスが、第1小群30A、第2小群30B及び第3小群30Cで共通のものが採用されている。このため、例えば、第1遺伝子座21Aに格納される耐力壁5の性能値と、第2遺伝子座21Bに格納される対立遺伝子16のインデックスとが別々に入れ替えられた場合でも、入れ替えられた後の性能値及びインデックスから対立遺伝子16を一意に定めることができる。
【0089】
さらに、最適化計算工程S4では、第1遺伝子座21A、21を優先して交叉又は突然変異させた後に、第2遺伝子座21B、21を交叉又は突然変異させるのが望ましい。これにより、最適化計算工程S4では、各架構面11A〜12Lに配される耐力壁5の性能値を確定した後に、耐力壁5の配置を設定することができるため、染色体情報19をより効率的に再構成することができる。
【0090】
これまでの実施形態では、設計因子が、耐力壁5の配置であるものが例示されたが、これに限定されるわけではなく、例えば、耐力壁5の断面形状でもよい。この場合、対立遺伝子群17には、耐力壁5の断面形状の全てのパターンが設定された複数の対立遺伝子16が設定される。
【0091】
また、設計因子は、耐力壁5の柱5a、斜材5bの配置又は断面形状でもよく、これらを組み合わせても良い。さらに、設計因子は、耐力壁5のみならず、柱3又は梁4の配置又は断面形状でもよい。
【0092】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【符号の説明】
【0093】
2 架構体
3 柱
4 梁
5 耐力壁
6 構造部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22