【文献】
堀 駿, 林 将利, 永井 拓生, 新谷 眞人,住宅構造部材の転用及び循環システムに関する基礎的研究,知能と情報,日本,日本知能情報ファジィ学会,2011年 8月15日,第23巻/第4号,第457-468頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本発明の架構体の設計方法(以下、単に「設計方法」ということがある)は、例えば、工業化住宅等の建築物の架構体を、コンピュータを用いて設計するための方法である。
【0025】
図1に示されるように、コンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含む。この本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置及びディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられる。
【0026】
また、記憶装置には、本実施形態の設計方法の処理手順(プログラム)が予め記憶される。この処理手順は、コンピュータ1の演算処理装置によって実行される。従って、コンピュータ1は、本発明の設計方法を実施するための設計装置1Aとして構成される。
【0027】
図2及び
図3に示されるように、架構体2は、例えば、柱3、梁4及び耐力壁5を含む構造部材6を有する。梁4は、柱3、3間を水平に継ぐ複数の大梁7と、大梁7で囲まれた水平架構面9をさらに区分する小梁8とを含む。これらの大梁7及び小梁8は、2階以上の床(図示省略)を支持するための床梁、又は屋根10を支持するための屋根梁として構成される。また、大梁7及び小梁8は、例えば、略横H字状の型鋼等から構成される。
【0028】
図4(a)に示されるように、各水平架構面9は、一本目の小梁(以下、「第一小梁」ということがある。)8aが配置されることにより、二個の小架構面13に区分される。さらに、
図4(b)に示されるように、水平架構面9は、二本目の小梁(以下、「第二小梁」ということがある。)8bが、二個の小架構面13の何れかに配置されることにより、三個の小架構面13に区分される。このように、水平架構面9は、小梁8が配置されることにより、複数個の小架構面13に区分される。
【0029】
本実施形態の小架構面13は、図において、水平架構面9の左下側の頂点である基準点15aに最も近い第1小架構面13A、及び第1小架構面13Aの次に基準点15aに近い第2小架構面13Bが含まれる。さらに、小架構面13は、第2小架構面13Bの次に基準点15aに近い第3小架構面13Cが含まれる。
【0030】
図5には、本実施形態の設計方法の具体的な処理手順が示されている。この設計方法では、少なくとも一つの小梁8(
図2に示す)について、その設計因子の少なくとも一つの最適解を計算する。本実施形態の設計因子は、小梁8の配置である。
【0031】
本実施形態の設計方法では、先ず、コンピュータ1に、建築物の基本情報が入力される(基本情報入力工程S1)。
図6には、本実施形態の基本情報入力工程S1の具体的な処理手順が示される。
【0032】
本実施形態の基本情報入力工程S1では、先ず、建築物の形状が、コンピュータ1に入力される(工程S11)。この工程S11では、
図7に示されるように、例えば、建築物の柱3、耐力壁5、大梁7、水平架構面9及び屋根10(
図3に示す)の形状及び配置が、コンピュータ1に入力される。なお、この工程S11では、設計因子である小梁8(
図2及び
図3に示す)は入力されない。
【0033】
柱3、耐力壁5及び大梁7は、予め定められた水平モジュール又は垂直モジュールを基準として、その配置や長さ等が設定されている。また、柱3、及び大梁7は、例えば、ボルトがモデル化されたピン16により固定される。これにより、小梁8(
図2に示す)を除いた架構体2及び水平架構面9が設定される。さらに、本実施形態の大梁7は、その長手方向がX軸方向、又はY軸方向に沿って配置されている。
【0034】
また、柱3、耐力壁5及び大梁7には、例えば、それらの断面形状や、断面2次モーメント等の構造計算に必要なパラメータが設定される。このような柱3、大梁7及び耐力壁5の配置等やパラメータは、いずれも数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
【0035】
本実施形態の水平架構面9は、二階の床を支持する第1水平架構面9A〜第4水平架構面9Dと、屋根10(
図3に示す)を支持する第5水平架構面9E〜第8水平架構面9Hとを含んでいる。さらに、
図8に示されるように、各水平架構面9A〜9Hには、水平モジュールに準じて等間隔に配された複数の節点17が定義されている。本実施形態の節点17は、例えば、階段や吹き抜け等の開口部(図示省略)を除いた領域のみに設定される。このような各水平架構面9A〜9Hは、コンピュータ1に記憶される。
【0036】
屋根10(
図3に示す)は、柱3及び梁4と同様に、水平モジュール又は垂直モジュールを基準として、その配置や形状が設定される。このような屋根10の配置等は、数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
【0037】
次に、本実施形態では、建築物の荷重条件が、コンピュータ1に入力される(工程S12)。荷重条件は、建築物に作用する外力に関する情報である。荷重条件は、例えば、建築物の各種仕様、例えば、外壁仕様、床仕様、屋根葺材、耐火仕様、耐震等級又は耐風等級などに基づいて入力される。このような荷重条件も数値データであり、コンピュータ1に記憶される。
【0038】
建築物基本情報は、一般的なCADや一貫構造計算システム等のソフトウェアを用いて設定することができる。本実施形態では、二階建ての建築物が一例として示されたが、例えば、一階建てや、三階建て以上のものでも良い。
【0039】
次に、コンピュータ1に、小梁8を架構体2に配置するための設計制約条件が入力される(工程S2)。本実施形態の設計制約条件としては、
図8に示されるように、各水平架構面9A〜9Hにおいて、小梁8が固定可能な向き及び位置が設定される。
【0040】
本実施形態の小梁8は、その長手方向が設定される。この長手方向は、図において、X軸方向、又は、Y軸方向に限定される。なお、長手方向は、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、X軸方向の成分と、Y軸方向の成分とを含む任意の方向に限定されてもよい。
【0041】
また、本実施形態の小梁8は、小梁8の一対の端部8t、8tのうち、水平架構面9の基準点15aに最も近い端部(以下、単に「基準端部」ということがある。)18の固定位置が設定される。この基準端部18の固定位置は、各水平架構面9A〜9Hに定義された節点17に限定される。上述したように、節点17は、階段等の開口部(図示省略)を除いた領域のみに設定される。これにより、小梁8は、各水平架構面9の開口部(図示省略)を除いた領域に、水平モジュールに従って配置される。
【0042】
さらに、本実施形態では、設計制約条件として、各水平架構面9A〜9Hに配置される小梁8の本数の上限値が設定される。この上限値は、各水平架構面9A〜9Hに配置可能な小梁8の最大本数よりも小に設定される。また、上限値は、架構体2に必要な強度や、コスト等の諸条件に応じて、任意に設定することができる。本実施形態では、例えば「3」が設定される。これらの設計制約条件は、座標値等の数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
【0043】
次に、コンピュータ1が、設計制約条件に基づいて、設計因子が異なる複数種類の染色体情報からなる集団を生成する(集団生成工程S3)。
図9に示されるように、各染色体情報21は、水平架構面9A〜9H毎に、一本の小梁8の配置を定義する遺伝子情報を格納可能な少なくとも一個の遺伝子座22が定義される。
図10には、本実施形態の集団生成工程S3の具体的な処理手順が示される。
【0044】
本実施形態の集団生成工程S3では、先ず、コンピュータ1に、小梁8(
図4に示す)が定義される(工程S31)。この小梁8は、断面形状や、断面2次モーメント等が定義された数値データである。このような数値データは、コンピュータ1に記憶される。
【0045】
次に、コンピュータ1に、染色体情報21の遺伝子座22が設定される(工程S32)。
図9に示されるように、本実施形態の遺伝子座22は、方向情報を格納可能な方向遺伝子座22a、及び位置情報を格納可能な位置遺伝子座22bが含まれる。
【0046】
また、染色体情報21は、各水平架構面9A〜9Hにおいて、方向遺伝子座22a及び位置遺伝子座22bが、小梁8の本数の上限値(例えば、3)と同一個数ずつ定義される。従って、各染色体情報21は、各水平架構面9A〜9Hにおいて、小梁8(本実施形態では、第一小梁8a、第二小梁8b及び第三小梁8c)毎に、方向遺伝子座22a及び位置遺伝子座22bが割り当てられる。
【0047】
次に、コンピュータ1が、染色体情報21の各遺伝子座22に、遺伝子情報を格納する(工程S33)。本実施形態の方向遺伝子座22aには、方向情報が格納される。さらに、位置遺伝子座22bには、位置情報が格納される。
【0048】
方向情報は、小梁8の長手方向を定義するものである。また、方向情報は、少なくとも一桁の文字又は数値、本実施形態では少なくとも一桁の数値で定義される。本実施形態の方向情報がとり得る各数値は0〜2であり、詳細は次のとおりである。
0:小梁の配置なし
1:X軸方向と平行
2:Y軸方向と平行
【0049】
方向情報は、各水平架構面9A〜9Hに配置される複数の小梁8毎に異なる桁数の数値で定義される。本実施形態の各小梁8の方向情報の桁数は、該小梁8が配置可能な水平架構面9又は小架構面13の個数と同一に設定される。さらに、方向情報の各桁は、水平架構面9又は小架構面13において、小梁8の配置の有無が定義される。
【0050】
例えば、
図8に示されるように、各水平架構面9A〜9H(本例では、第1水平架構面9Aを代表して示す)において、第一小梁8aは、水平架構面9の一つのみに配置可能である。従って、
図11(a)に示されるように、第一小梁8aの方向遺伝子座22aに格納される方向情報は、一桁の数値からなる。また、方向情報の一桁の数値は、水平架構面9おいて、第一小梁8aの配置の有無が定義される。
【0051】
例えば、第一小梁8aの方向情報が「2」の場合、第一小梁8aは、水平架構面9に、その長手方向をY軸方向と平行に配置される。一方、
図11(b)に示されるように、第一小梁8aの方向情報が「1」の場合、第一小梁8aは、水平架構面9に、長手方向をX軸方向と平行に配置される。また、第一小梁8aの方向情報が「0」の場合、第一小梁8aは、水平架構面9に配置されない。なお、第一小梁8
aが配置されない場合は、第二小梁8
b以降の全ての小梁8が配置されない。従って、第一小梁8aの方向情報が「0」の場合は、第二小梁8b以降の方向情報及び位置情報が無視される。
【0052】
図12(a)に示されるように、各水平架構面9A〜9H(本例では、第1水平架構面9Aを代表して示す)において、第二小梁8bは、第一小梁8aによって区切られた二個の小架構面13A、13Bの何れかに配置可能である。従って、第二小梁8bの方向遺伝子座22aに格納される方向情報は、二桁の数値からなる。また、方向情報の一桁目の数値は、第1小架構面13Aにおいて、第二小梁8bの配置の有無が定義される。さらに、方向情報の二桁目の数値は、第2小架構面13Bにおいて、第二小梁8bの配置の有無が定義される。
【0053】
例えば、方向情報が「10」の場合は、一桁目の数値が「0(小梁8の配置なし)」である。これにより、第二小梁8bは、第1小架構面13Aに配置されない。一方、二桁目の数値は、「1(X軸方向と平行)」である。これにより、第二小梁8bは、第2小架構面13Bに、長手方向をX軸方向と平行に配置される。
【0054】
図12(b)に示されるように、方向情報が「02」の場合は、一桁目の数値が「2(Y軸方向)」である。これにより、第二小梁8bは、第1小架構面13Aに、長手方向をY軸方向と平行に配置される。一方、二桁目の数値が「0(小梁8の配置なし)」である。これにより、第二小梁8
bは、第2小架構面13Bに配置されない。
【0055】
さらに、方向情報が「00」の場合は、一桁目及び二桁目の数値がともに「0(小梁8の配置なし)」であるため、第1小架構面13A及び第2小架構面13Bにおいて、第二小梁8bが配置されない。また、第二小梁8bは、各水平架構面9A〜9Hに一本しか配置できないため、方向情報の一桁目の数字及び二桁目の数字の双方に、0以外の数値が設定されることはない。
【0056】
同様に、第三小梁8cの方向遺伝子座22aに格納される方向情報は、三桁の数値からなる。また、一桁目の数値は、第1小架構面13Aにおいて、第三小梁8cの配置の有無が定義される。さらに、二桁目の数値は、第2小架構面13Bにおいて、第三小梁8cの配置の有無が定義される。また、三桁目の数値は、第3小架構面13C(図示省略)において、第三小梁8cの配置の有無が定義される。
【0057】
このように、本実施形態の方向情報の各桁は、水平架構面9又は小架構面13において、小梁8の配置の有無が定義されるため、小梁8の長手方向だけでなく、小梁8が配置される水平架構面9又は小架構面13を定義することができる。従って、このような方向情報は、染色体情報21の遺伝子座22の個数を少なくするのに役立つ。
【0058】
次に、位置情報は、各小梁8が配置される水平架構面9又は小架構面13において、小梁8の基準端部18の固定位置を定義するものである。
図11(a)及び
図12(a)に示されるように、本実施形態の位置情報は、水平架構面9又は小架構面13の夫々において、基準端部18が当接する辺25の長さL2に対する、基準点15a、15bと小梁8の基準端部18との距離L1の比率で定義される。従って、本実施形態の位置情報がとり得る数値は、0.0〜1.0である。
【0059】
例えば、第一小梁8aの方向情報が「2」であり、かつ位置情報が「0.4」の場合、第一小梁8aの基準端部18の固定位置は、該基準端部18が当接する辺25(X軸方向)の長さL2xに対して、水平架構面9の基準点15aからの距離L1x(X軸方向)が0.4である節点17に定義される。なお、位置情報の数値が例えば、「0.5」の場合は、水平架構面9に節点17が存在しない。このような場合、基準端部18の固定位置は、位置情報の数値に最も近い節点17に定義される。
【0060】
また、方向情報が「0」である場合は、水平架構面9に第一小梁8
aが配置されない。このため、位置情報には、例えば、「*」等の記号を入力して、他の位置情報と区別してもよい。
【0061】
図12(a)に示されるように、第二小梁8bの方向情報が「10」であり、かつ位置情報が「0.5」の場合、第二小梁8bの基準端部18の固定位置は、該基準端部18が当接する辺25(Y軸方向)の長さL2yに対して、第2小架構面13Bの基準点15bからの距離L1y(Y軸方向)が0.5である節点17に定義される。
【0062】
このように、本実施形態の位置情報は、小梁8の基準端部18の固定位置を定義することができる。従って、位置情報は、方向情報とともに用いられることにより、小梁8の配置を一意に定義することができる。
【0063】
本実施形態の工程S33では、コンピュータ1が、各水平架構面9A〜9Hの各小梁8において、設計制約条件に基づいて、上記の方向
情報及び位置
情報を、方向遺伝子座22a及び位置遺伝子座22bに格納する。これにより、各染色体情報21は、各水平架構面9A〜9Hにおいて、上限値以下の本数分の小梁8がそれぞれ配置された一つの架構体2(設計サンプル)を特定することができる。
【0064】
なお、方向
情報及び位置
情報は、例えば、コンピュータ1が、乱数関数に従って、ランダムに決定されるのが望ましい。これにより、方向遺伝子座22a及び位置遺伝子座22bには、方向
情報及び位置
情報が不規則に設定されるため、様々なバリエーションの染色体情報21を容易に設定することができる。このような染色体情報21は、数値データとして、コンピュータ1に記憶される。
【0065】
次に、コンピュータ1が、遺伝的アルゴリズム(GA)に基づいて、設計因子の少なくとも一つの最適解を計算する(最適化計算工程S4)。
【0066】
遺伝的アルゴリズムは、生物が環境に適応して進化していく過程を、工学的に模倣した学習的アルゴリズムである。この遺伝的アルゴリズムでは、遺伝子で表現した複数の染色体情報に対して、交叉、又は突然変異等の遺伝子操作を繰り返す。これにより、遺伝的アルゴリズムでは、少ないサンプルから、染色体情報を時系列的に進化させて、最適解を短時間で得ることができる。
図13には、本実施形態の最適化計算工程S4の具体的な処理手順が示される。
【0067】
本実施形態の最適化計算工程S4では、先ず、集団20の各染色体情報21に基づいて、架構体2の第1目標変数及び第2目標変数が計算される(計算工程S41)。
【0068】
図14に示されるように、本実施形態の第1目標変数は、架構体2の概算のコストである。このコストは、例えば、染色体情報21に設定される小梁の重量に、該小梁の単位重量当たりの単価を乗じて合算する方法や、小梁毎に、データベース化された部材価格に基づいて合算する方法等により計算される。
【0069】
また、第1目標変数は、数値が小さいほど良好である。さらに、第1目標変数の許容範囲は、例えば、目標コストの1.10倍以下である。目標コストは、例えば、建築物の予算等に基づいて、適宜設定される。このような第1目標変数は、染色体情報21毎に計算され、コンピュータ1に記憶される。
【0070】
第2目標変数は、方向
情報及び位置
情報で定義される架構体2の設計制約条件への適応度である。第2目標変数と、第1目標変数とは、互いに独立した変数である。この第2目標変数(設計制約条件への適応度)は、架構体2の強度や、設計制約条件に違反する方向
情報及び位置
情報の個数に基づいて計算される。
【0071】
架構体の強度は、例えば、建築基準法で指定されている保有水平耐力計算(所謂ルート3計算)等によって求められる。また、設計制約条件に違反する方向
情報及び位置
情報の個数が一つでもある場合は、第2目標変数(適応度)が減じられる。この第2目標変数は、数値が高い程良好であり、1.0以上であれば、架構体2に求められる条件を満足する。このような第2目標変数は、染色体情報21(
図12に示す)毎に計算され、コンピュータ1に記憶される。なお、適応度が1.0未満である場合は、架構体2のコストである第1目標変数に、ペナルティとして数値を加算しても良い。
【0072】
次に、コンピュータ1が、第1目標変数及び第2目標変数をともに満足する少なくとも一つの染色体情報21(以下、単に「最適解」ということがある)が存在するか否かを判断する(判断工程S42)。本実施形態の判断工程S42では、集団20を構成する全ての染色体情報21のうち、最適解が存在すると判断された場合、次の製造工程S5が実行される。
【0073】
一方、最適解が存在しないと判断された場合は、コンピュータ1が、少なくとも一部の染色体情報21に対して交叉及び突然変異等の遺伝子操作を行い、染色体情報21を再構成する(遺伝子操作工程S43)。そして、再構成した染色体情報21に基づいて、計算工程S41及び判断工程S42が再度実行される。これにより、最適化計算工程S4では、最適解を確実に得ることができる。
【0074】
本実施形態の判断工程S42では、最適解が存在するか否かのみが判断されたが、これに限定されるわけではない。例えば、判断工程S42では、上記の条件に加え、第1目標変数で表される架構体2のコストが最も低い染色体情報21Sが、複数回(例えば、5〜15回)更新されない場合にのみ、次の製造工程S5が実行されるものでもよい。
【0075】
製造工程S5では、最終世代の集団20において、最適化度が最も高い染色体情報21Sに基づいて、架構体2及び建築物が製造される。これにより、本実施形態の設計方法では、架構体2のコストを所定の範囲に抑えつつ、強度が最も高い架構体2及び建築物を、容易かつ確実に製造することができる。
【0076】
なお、最適化度が最も高い染色体情報21Sとは、例えば、第2目標変数が1以上である全ての染色体情報21のうち、第1目標変数が、最も低い第1目標変数の1.10倍以下であり、かつ、第2目標変数の計算に用いられる架構体2の強度が最も高い染色体情報21と定めることができる。
【0077】
図15には、本実施形態の遺伝子操作工程S43の具体的な処理手順が示される。本実施形態の遺伝子操作工程S43では、先ず、
図14に示されるように、コンピュータ1が、集団20に属する複数の染色体情報21を、第1目標変数で表される架構体2のコストが低い順に順位付けする(工程S431)。
【0078】
次に、コンピュータ1は、各染色体情報21を、エリート群26と、非エリート群27とに分類する(工程S432)。エリート群26は、集団20に属する全ての染色体情報21のうち、最適化度が相対的に高い染色体情報21から構成される。一方、非エリート群27は、エリート群26の染色体情報21よりも最適化度が低い染色体情報21から構成される。エリート群26の割合は、適宜設定することができるが、例えば、集団20を構成する全ての染色体情報21の5〜20%程度のものと定めてもよい。
【0079】
次に、コンピュータ1は、次の計算工程S41で用いる染色体情報21の新たな集団20を生成する(次世代集団生成工程S433)。
図16には、本実施形態の次世代集団生成工程S433の具体的な処理手順が示される。
【0080】
次世代集団生成工程S433では、先ず、コンピュータ1が、エリート群26の染色体情報21を、交叉又は突然変異させることなく、新たな集団20に含める(工程S71)。これにより、計算工程S41では、エリート群26の染色体情報21が含まれるため、最適解から遠ざかるのを防ぐことができる。このエリート群26の染色体情報21は、新たな集団20を構成する染色体情報21として、コンピュータ1に記憶される。
【0081】
次に、コンピュータ1は、集団20を構成する一部の染色体情報21を対象に交叉を実施する(交叉工程S72)。
【0082】
図17(a)、(b)に示されるように、本実施形態では、例えば、一対の染色体情報21a、21b間において、二つの交叉点29、29で挟まれた各遺伝子座22a、22bに格納されている方向情報又は位置情報が入れ替えられる。このような交叉では、一対の染色体情報21a、21b間において、同一の小梁8を定義する方向情報又は位置情報同士を入れ替えることができる。従って、交叉は、方向遺伝子座22aに格納されている方向情報、及び、位置遺伝子座22bに格納されている位置情報を改めて設定することなく、容易に再構成することができる。この再構成された染色体情報21は、新たな集団20を構成する染色体情報21として、コンピュータ1に記憶される。なお、交叉点29、29は、コンピュータ1によってランダムに設定されるのが望ましい。
【0083】
本実施形態において、交叉は、二つの交叉点29、29で挟まれた方向情報及び位置情報を入れ換える二点交叉である場合が例示されたが、これに限定されるわけではない。交叉としては、例えば、一点交叉、多点交叉、又は一様交叉などでもよく、これらを組み合わせ実施されるものでもよい。
【0084】
次に、コンピュータ1は、集団20を構成する一部の染色体情報21を対象に突然変異を実施する(突然変異工程S73)。本実施形態の突然変異工程S73では、交叉の対象となっていない染色体情報21を対象に突然変異を実施する。
【0085】
図18に示されるように、本実施形態では、先ず、各染色体情報21において、方向遺伝子座22a、又は位置遺伝子座22bがランダムに選択される。次に、選択された方向遺伝子座22a、又は位置遺伝子座22bに格納された方向情報及び位置情報が、方向遺伝子座22a、又は位置遺伝子座22bに対応する方向情報、又は位置情報が取りうる全て数値のうち、ランダムに選択された数値に置換される。
【0086】
このような突然変異は、交叉とは異なり、集団20を構成する各染色体情報21に定義されている方向情報、又は位置情報に限定されることなく、新たな方向情報、又は位置情報で再構成することができる。従って、突然変異は、局所的な最適解に陥ることを防ぎうる。この再構成された染色体情報21は、新たな集団20を構成する染色体情報21として、コンピュータ1に記憶される。
【0087】
このように、本実施形態の最適化計算工程S4では、第1目標変数及び第2目標変数の最適化度が高いエリート群26の染色体情報21を残しつつ、残りの染色体情報21を再構成し、新たな進化を試みることができる。これにより、本発明の設計方法では、少ないサンプルで、設計因子を進化させることができる。従って、本発明の設計方法は、最適解を短時間で求めることができる。
【0088】
突然変異させる染色体情報21の割合は、適宜設定することができるが、例えば、集団20を構成する全ての染色体情報21の10〜40%程度のものと定めてもよい。突然変異させる染色体情報21の割合が10%未満の場合、遺伝子情報を十分に進化させることができないおそれがある。逆に、突然変異される染色体情報21の割合が、40%を超える場合、設計制約条件に違反する遺伝子情報が大幅に増加し、最適解を短時間で求めることができないおそれがある。
【0089】
また、第1目標変数で表される架構体2のコストが許容範囲に収まり、かつ、第2目標変数で表される適応度を満足する染色体情報21が現れてからは、概ね最適解近傍を探索できていると判断することができる。このため、次世代集団生成工程S433では、良好な染色体情報21同士の交叉による進化を優先させるのが望ましい。これにより、最適化計算工程S4では、最適解を短時間で求めることができる。この場合、突然変異の割合は、集団20を構成する全ての染色体情報21の5〜10%程度に設定されてもよい。
【0090】
また、集団20に属する染色体情報21の個数は、15〜50個が望ましい。なお、染色体情報21の個数が15個未満であると、遺伝子情報を十分に進化させることができないおそれがある。逆に、染色体情報21の個数が50個を超えると、多くの計算時間を要するおそれがある。
【0091】
さらに、集団20に属する染色体情報21の個数は、例えば、建物の階数及び延べ床面積によっても決定されるのが望ましい。例えば、本実施形態のような二階建ての建築物の場合には、下記の延べ床面積毎に設定された個数に従って、染色体情報21が設定されるのが望ましい。また、三階建ての建築物の場合には、下記の個数に5個プラスした個数分の染色体情報21が設定されるのが望ましい。さらに、一階建ての建築物の場合には、下記個数に5個マイナスした個数分の染色体情報21が設定されるのが望ましい。
100m
2未満:20個
100〜120m
2:25個
120〜140m
2:30個
140〜160m
2:35個
160〜180m
2:40個
180〜200m
2:45個
200m
2以上:50個
【0092】
本実施形態の設計方法では、
図9に示されるように、各小梁8の配置を定義する遺伝子座22が、方向遺伝子座22a、及び位置遺伝子座22bのみからなるものが例示されたが、これに限定されるわけではない。例えば、
図19に示されるように、遺伝子座22は、方向遺伝子座22a及び位置遺伝子座22bに加えて、さらに、架構面遺伝子座22cを含むものでもよい。
【0093】
架構面遺伝子座22cは、方向遺伝子座22a及び位置遺伝子座22bと同様に、各水平架構面9A〜9Hにおいて、小梁8の本数の上限値と同一個数ずつ定義される。従って、各染色体情報21は、各水平架構面9A〜9Hにおいて、小梁8毎に、架構面遺伝子座22cが割り当てられる。
【0094】
また、架構面遺伝子座22cには、架構面情報が格納される。架構面情報は、各小梁8が配置される水平架構面9又は小架構面13を特定するものである。この架構面情報は、少なくとも一桁、本実施形態では一桁の数値で定義される。本実施形態の架構面情報は、例えば次のとおりである。
0:小梁の配置なし
1:水平架構面又は第1小架構面
2:第2小架構面
3:第3小架構面
【0095】
例えば、
図20に示されるように、第一小梁8aの架構面情報が「1」の場合、第一小梁8aは、水平架構面9に配置される。一方、第一小梁8aの架構面情報が「0」の場合、第一小梁8aは、水平架構面9に配置されない。
【0096】
図21(a)に示されるように、第二小梁8bの架構面情報が「1」の場合、第二小梁8bは、第1小架構面13Aに配置される。また、
図21(b)に示されるように、第二小梁8bの架構面情報が「2」の場合、第二小梁8bは、第2小架構面13Bに配置される。さらに、第二小梁8bの架構面情報が「0」の場合、第二小梁8bは、第1小架構面13A及び第2小架構面13Bに配置されない。
【0097】
このように、架構面情報は、各小梁8が配置される水平架構面9又は小架構面13を特定することができるため、前実施形態のように、方向情報の桁数を小梁8が配置可能な水平架構面9又は小架構面13の個数と同一に設定して、水平架構面9又は小架構面13に配置される小梁8の有無を定義する必要がない。従って、染色体情報21は、方向情報を、小梁8の長手方向を定義する一桁の数値で定義することができるため、データ構造及び処理手順を簡略化することができる。
【0098】
図22(a)に示されるように、遺伝子座22は、本数遺伝子座22dをさらに含むものでもよい。この本数遺伝子座22dは、各染色体情報21において、水平架構面9A〜9H毎に定義される。
【0099】
各本数遺伝子座22dには、少なくとも一桁の数値からなる本数情報が格納される。この本数情報は、各水平架構面9A〜9Hにおいて、第1目標変数及び第2目標変数を計算、並びに、交叉及び突然変異させる小梁8の本数を定義するものである。
【0100】
例えば、第1水平架構面9Aの本数情報が小梁8の本数の上限値(例えば、3)である場合は、第1水平架構面9Aにおいて、全ての小梁8を対象に、第1目標変数及び第2目標変数を計算、並びに、交叉及び突然変異させる。
【0101】
一方、
図22(b)に示されるように、第1水平架構面9Aの本数情報が「2」である場合は、第1水平架構面9Aにおいて、第一小梁8a及び第二小梁8bのみが対象となり、第三小梁8cが非対象となる。従って、本数情報は、各水平架構面9A〜9Hにおいて、第1目標変数及び第2目標変数の計算、並びに、交叉及び突然変異させる小梁8を、計算途中で動的に変更することができる。
【0102】
これにより、この実施形態では、例えば、最適解を求める途中段階において、第1目標変数及び第2目標変数の結果に基づいて、小梁8の本数を絞り込むことができるため、最適解を効率よく求めることができる。