(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態>
本発明の一実施形態に係る柱支持構造が適用されて木造建築物10の柱梁架構12について説明する。
【0015】
図4(A)に示すように、木造建築物10は、鉄筋コンクリート造の基礎14と、木製の柱50と木製の梁20とで構成された柱梁架構12と、を有する構造となっている。
【0016】
木製の柱50は、
図2と
図3とに示すように、木製の荷重支持部60と荷重支持部60の周囲に設けられた耐火被覆層70とを有する耐火集成材とされている。
【0017】
[耐火集成材]
つぎに、柱50を構成する耐火集成材について説明する。
【0018】
前述したように、柱(耐火集成材)50は、荷重を支持する荷重支持部(心材部)60と荷重支持部60の周囲に設けられた耐火被覆層70とを有している。また、耐火被覆層70は、モルタルバー52が埋設された燃止層(もえどまりそう)54と燃代層(もえしろそう)56とで構成されている。
【0019】
荷重支持部60は柱(耐火集成材)50の中心部分に設けられ、燃止層54は荷重支持部60の外側に荷重支持部60を取り囲むように設けられ、燃代層56は燃止層54の外側に燃止層54を取り囲むように設けられている。
【0020】
そして、火災時には外側の燃代層56が燃焼し炭化して炭化層となることで断熱効果を発揮すると共に燃止層54を構成するモルタルバー52が熱を吸収しながら燃焼を停止させることで、中心部にある荷重を支持する荷重支持部60を火災から保護されるようになっている。
【0021】
柱(耐火集成材)50の作製方法は特に限定されるものではないが、つぎに一例を説明する。
【0022】
荷重支持部60は木材からなる心材62を積層し圧締することによって作製されている。そして、燃止層54及び燃代層56は、木材からなる燃代材74を荷重支持部60の周囲に燃止層54(モルタルバー52)と共に積層し接着することによって柱50(耐火集成材)が作製されている。
【0023】
なお、柱(耐火集成材)50の心材62及び燃代材74は、木材によって形成されていればよい。例えば、心材及び燃代材は、米松、唐松、檜、杉、あすなろ等の一般の木造建築に用いられる木材(以下、「一般木材」とする)によって形成してもよいし、これらの一般木材を角柱状の単材に加工し、この単材を複数集成し単材同士を接着剤により接着して一体化することによって形成してもよい。
【0024】
また、燃止層54は、火炎及び熱の進入を抑えて燃え止まり効果を発揮できる層であればよい。例えば、燃止層54は、難燃性を有する層や熱の吸収が可能な層であればよい。
【0025】
難燃性を有する層としては、木材に難燃薬剤を注入して不燃化処理した難燃薬剤注入層が挙げられる。熱の吸収が可能な層は、一般木材よりも熱容量が大きな材料、一般木材よりも断熱性が高い材料、又は一般木材よりも熱慣性が高い材料によって形成してもよいし、これらの材料と一般木材とを組み合わせて形成してもよい。また、難燃性を有する層と、熱の吸収が可能な層とを組み合わせて燃止層を形成してもよい。
【0026】
また、一般木材よりも熱容量が大きな材料としては、モルタル、石材、ガラス、繊維補強セメント、石膏等の無機質材料、各種の金属材料などが挙げられる。一般木材よりも断熱性が高い材料としては、珪酸カルシウム板、ロックウール、グラスウールなどが挙げられる。一般木材よりも熱慣性が高い材料としては、セランガンバツ、ジャラ、ボンゴシ等の木材が挙げられる。
【0027】
なお、本実施形態では、梁20も上記と同様の構造の耐火集成材で構成されている。
【0028】
[柱支持構造]
つぎに、本発明の一実施形態に係る柱支持構造について説明する。
【0029】
図1に示すように、木造建築物10の基礎14は、鉄筋コンクリート造の基礎梁16とフーチング部18とで構成されている。そして、フーチング部18に、木製の柱50の柱脚部80がコンクリートに埋設され固定されている(
図4も参照)。なお、本実施形態では、柱50の柱脚部80は、荷重支持部60のみで構成されている。つまり、フーチング部18には荷重支持部60のみが埋設されている(
図2も参照)。
【0030】
基礎14(フーチング部18)には、柱脚部80の側面81の上端部の側面81Aに接触するように補強板102が埋設され、柱脚部80の側面81の下端部の側面81Bに接触するように補強板104が埋設されている。補強板102、104は、荷重支持部60(柱脚部80)よりも強度が大きければよく、鋼材、PC版、硬質木材、硬質ゴム等の材料で構成されている。
【0031】
柱脚部80の下方には、後述する柱50を位置決めするための仮設材200が埋設されている。
図1及び
図5に示すように、仮設材200は、ベースプレート202と、ベースプレート202の四隅部分に締結されたアンカーボルト204と、を有している。各アンカーボルト204の先端部には、定着板206が設けられている。また、前述した下側の補強板104は、このベースプレート202に接合されている。なお、図示は省略するが、定着板206の替わりに、アンカーボルト204の先端部をJ字形状に曲げて付着力を向上させた構造であってもよい。
【0032】
前述したように本実施形態では、木製の荷重支持部60のみがコンクリートに埋設されている。よって、コンクリートに埋設される柱脚部80(荷重支持部60)の外周面に、耐水塗装を施すことが望ましい。
【0033】
また、
図7に示すように、基礎14(フーチング部18)の上面14Aと境界部分の耐水性を向上させるために、耐火被覆層70の下端70Aを基礎の上面14Aよりも上側に位置するよう設定し、上面14Aに跨るように難燃性を有する耐水シール90を柱脚部80の側面81Aに接着してもよい。なお、この場合、耐水シール90が露出することで意匠性が低下しないように、耐水シール90の外側に意匠面を構成する木栓92等を設けてもよい。
【0034】
(施工方法)
つぎに、本実施形態の柱支持構造の施工方法の一例について説明する。
【0035】
図6(A)に示すように、柱50の柱脚部80(
図6(B)及び
図2を参照)を落とし込む柱脚スペース15を残して基礎14(フーチング部18)を打設する。なお、基礎14(フーチング部18)を打設する際に、柱脚スペース15の底部15Aにベースプレート202が露出するように、アンカーボルト204を基礎14(フーチング部18)に埋設させ、仮設材200を配設しておく。
【0036】
図6(B)に示すように、柱50の柱脚部80を仮設材200の補強板104の中に差し込むように落とし込むことで、柱50の柱脚部80が仮設材200で仮固定されると共に位置決めされる。
【0037】
図6(C)に示すように、上側の補強板102を柱脚部80の側面81の上端部の側面81Aに釘や接着剤等で仮固定する。そして、柱脚スペース15にコンクリートを打設して、柱50の柱脚部80を埋設して固定する。
【0038】
[作用及び効果]
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0039】
図1及び
図4(A)等に示すように、柱50を支持する基礎14(フーチング部18)に柱50の柱脚部80(
図2も参照)を埋設して固定することで、柱50が基礎14に強固に固定される。よって、
図4(B)に示すように、地震時における柱50にかかる水平方向の力Fに抵抗する抵抗力が大きくなる。つまり、木造建築物10の柱梁架構12を構成する木製の柱50の水平剛性が向上する。
【0040】
また、荷重支持部60のみが埋設され固定されることで、耐火被覆層70の固定強度の影響を受けることがなくなるので、柱脚部80の固定強度が確保される。よって、柱50の水平方向の力Fに抵抗する抵抗力がより確実に確保される向上する。別の観点から説明すると、本実施形態における柱50では耐火被覆層70は構造体でないため、埋設される柱脚部から耐火被覆層70を除くことで(構造体としての荷重支持部60のみを埋設して固定することで)、柱脚としての構造性が確保される。
【0041】
また、柱50の水平方向の力Fに抵抗する際、柱脚部80(荷重支持部60)の側面81、特に上端部の側面81Aと下端部の側面81Bとに大きな支圧がかかる。しかし、本実施形態では、補強板102、104が支圧を受けるので、支圧がかかることによる柱脚部80(荷重支持部60)の側面81の圧縮変形が抑制される。よって、柱脚部80の固定強度が更に向上し、この結果、柱50の水平方向の力Fに抵抗する抵抗力が更に向上する。別の観点から説明すると、支圧による木製の柱脚部80(荷重支持部60)への基礎14のめり込みが防止される。
【0042】
なお、本実施形態では、下側の補強板104は、仮設材200のベースプレート202に接合され、柱脚部の側面の圧縮変形を抑制させる補強手段と柱脚部を位置決めする位置決め手段との二つの機能を有している。
【0043】
ここで、
図14に示す柱脚部80が基礎14に埋設されていない(本発明が適用されていない)比較例としての木造の柱梁架構800について説明する。
【0044】
柱梁架構800を構成する木製の柱50は、梁20との接合部及び基礎14との接合部はピン接合となっている。よって、これら接合部の回転剛性が低いため、柱梁架構800には、RC耐震壁802や鉄骨ブレース804等の水平力抵抗要素が必要となる。
【0045】
これに対して、本実施形態では、前述したように、柱脚部80が基礎14に埋設されて固定されているので、
図4(B)に示すように、柱50の水平方向の力Fに抵抗する抵抗力が向上している。すなわち、柱50単体で水平力抵抗要素となり、柱50と梁20との接合部がピン結合であっても、RC耐震壁802や鉄骨ブレース等(
図14参照)の水平抵抗要素を不要又は削減することがき、この結果、コストが削減されると共に設計の自由度が向上する。
【0046】
<変形例>
つぎに本実施形態の変形例について説明する。
【0047】
(第一変形例)
図9に示す第一変形例の柱支持構造のように、柱脚部80の側面81の圧縮変形を抑制させる補強手段としての補強板102、104や柱50の位置決めのための位置決め手段としての仮設材200が設けられていない構造であってもよい。
【0048】
[補強手段]
つぎに、柱脚部80の側面81の圧縮変形を抑制させる補強手段の変形例について説明する。
【0049】
(第二変形例)
図8(A)と
図8(B)に示す第二変形例の柱支持構造では、補強板250は、鋼材、PC版、硬質木材、及び硬質ゴム等で構成されると共に、柱脚部80の全周に且つ鉛直方向の全域に亘って設けられている。つまり、補強板250は、柱脚部80の全断面に亘って補強している。よって、柱脚部80(荷重支持部60)の側面81の圧縮変形がより効果的に抑制される。よって、柱脚部80の固定強度が更に向上し、この結果、柱50の水平方向の力に抵抗する抵抗力が更に向上する。
【0050】
(第三変形例)
図8(C)に示す第三変形例の柱支持構造では、補強手段は、柱脚部80の下側に設けられた本設材300である。本設材300は、仮設材200(
図5参照)と略同様の構成であるが、ベースプレート202に接合され突出する補強板104が柱脚部80に埋め込まれた構成となっている。このような構成とすることで、側面81にかかる支圧が補強板104からベースプレート202とアンカーボルト204とを介して基礎14に伝達され、この結果、柱脚部80の側面81の圧縮変形が抑制される。
【0051】
[固定手段]
柱50にかかる水平方向の力Fに抵抗する抵抗力をより大きくするために、コンクリートに埋設された柱50の柱脚部80の固定強度を高めることが考えられる。よって、コンクリートに埋設された柱50の柱脚部80の固定強度を高めるために、別途、固定手段を設けてもよい。また、固定強度を高める固定手段としては、スタッドを設けることが有効である。
【0052】
よって、次に固定手段の一例としてのスタッドを用いて柱脚部80の固定強度をより大きくした変形例について説明する。なお、下記変形例では、前述した
図8(A)及び
図8(B)に示す第二変形例の補強板250を用いた例で説明しているが、
図1等に示す高い支圧がかかる側部81A,81Bを部分的に補強する補強板102、104を用いてもよい。
【0053】
(第四変形例)
図10(A)に示す第四変形例の柱支持構造では、頭付スタッド254が補強板250の側面に接合され基礎14に埋設されている。よって、頭付スタッド254により補強板250が基礎14に強固に固定され、これによりコンクリートに埋設された柱50の柱脚部80の固定強度がより大きくなる。そして、柱50の柱脚部80の固定強度がより大きくなり、この結果、柱50の水平方向の力F(
図4(B))に抵抗する抵抗力が更に向上する。
【0054】
(第五変形例)
図10(B)に示す第五変形例の柱支持構造では、全ネジ鋼棒の頭付スタッド256が補強板250を貫通し柱脚部80に打ち込まれると共に、ナット258を用いて補強板250に溶接固定されている。よって、頭付スタッド256により補強板250が基礎14に強固に固定されると共に、柱脚部80に打ち込まれた頭付スタッド256が直接的に柱脚部80を固定する。これにより、柱50の柱脚部80の固定強度が更に大きくなり、この結果、柱50の水平方向の力F(
図4(B))に抵抗する抵抗力が更に向上する。
【0055】
(その他)
なお、スタッド以外の固定手段で柱脚部80の固定強度を大きくしてもよい。
【0056】
また、図示は省略するが、
図9に示す第一変形例のように補強手段がない構造において、スタッドを柱脚部80に打ち込んで埋設して固定強度を大きくした構成であってもよい。
【0057】
[位置決め手段]
上記実施形態では、
図5に示すように、下側の補強板104は、仮設材200のベースプレート202に接合され、柱脚部80の側面81の圧縮変形を抑制させる補強手段と柱脚部80を位置決めする位置決め手段との二つの機能を有していた。そして、次に他の構成の位置決め手段の変形例を説明する。
【0058】
(第六変形例)
図11に示す第六変形例の柱支持構造では、柱脚部80の底部に穴85が形成されている。また、仮設材220のベースプレート202に突出棒222が接合されている。そして、柱脚部80の穴85にベースプレート202から突出する突出棒222が挿入させることで、位置決めされる構造となっている。
【0059】
なお、この場合には、別途、補強板104(
図5)や補強板250(
図8)を設けるとなおよい。
【0060】
[固定部]
上記実施形態では、柱50の柱脚部80が埋設され固定する固定部は、基礎14(フーチング部18)であったが、これに限定されない。よって、次に固定部の変形例(柱50の柱脚部80が固定される他の固定部)について説明する。
【0061】
(第七変形例)
図12に示す第七変形例の柱支持構造では、基礎14の上に設けられた根巻き部19に柱脚部80が埋設され固定されている。
【0062】
なお、
図12では、
図9に示す第一変形例の柱支持構造と同様に、補強手段、固定手段、及び位置決め手段が設けられていないが、上記実施形態及び変形例のように、補強手段、固定手段、及び位置決め手段が設けられていてもよい。
【0063】
(第八変形例)
図13に示す第八変形例の柱支持構造では、鉄筋コンクリート製の柱梁架構30の上に木製の柱梁架構12が設けられている。そして、鉄筋コンクリート造の柱梁架構30を構成する梁32の上に設けられた根巻き部19に、柱50の柱脚部80が埋設され固定されている。
【0064】
なお、根巻き部19が設けられていないで、鉄筋コンクリート造の梁32に、柱50の柱脚部80が埋設され固定された構成であってもよい。
【0065】
また、
図13でも、
図9に示す第一変形例の柱支持構造と同様に、補強手段、固定手段、及び位置決め手段が設けられていないが、上記実施形態及び変形例のように、補強手段、固定手段、及び位置決め手段が設けられていてもよい。
【0066】
(第九変形例)
図15に示す第九変形例の柱支持構造では、基礎14に鋼製の固定材500が設けられている。固定材500は、ベースプレート202と、ベースプレート202の四隅部分に締結されたアンカーボルト204と、筒部502と、を有している。各アンカーボルト204はフーチング部18に埋設されている。また、各アンカーボルト204の先端部には、定着板206が設けられている。基礎14(梁16)上には基礎スラブ15が設けられ、本変形例では、基礎スラブ15にベースプレート15が埋設された構造となっている。
【0067】
筒部502は、平面視矩形状の筒状の部材とされ、ベースプレート202の上面に立設されている。筒部502は、柱50の柱脚部80よりも大きく、且つ燃代層56を含む柱50の外形よりも小さくなるように設定さている。また、筒部502は根元部分のみが基礎スラブ15に埋設され、根本部分よりも上側部分は基礎14の上面から突出している(筒部502の上側部分は露出している)。そして、この筒部502に柱50の柱脚部80が落とし込まれると共に、モルタルSが流し込まれ固定されている。
【0068】
また、基礎スラブ5から露出した筒部502の上側部分の側面には、木製の仕上材510が接着されている。仕上材510は、柱50の側面と面一となるように厚みが設定されている。なお、仕上材510の下端部が、基礎14に埋設されていてもよい。
【0069】
このように、基礎14に埋設された固定材500の筒部502に柱50の柱脚部80を落とし込みモルタルSで固定する構造とすることで、施工性が向上すると共に、柱50の柱脚部80の剛性及び耐力が向上する。
【0070】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態及び各変形例に限定されない。
【0071】
例えば、上記実施形態及び各変形例では、固定部には荷重支持部60のみが埋設されて固定されていたが、これに限定されない。例えば、耐火被覆層70を構成する燃止層54と荷重支持部60とが埋設された構造であってもよい。或いは、燃代層56も埋設された構造であってもよい。
【0072】
また、上記実施形態及び変形例の木造の柱梁架構は、耐火集成材であったが、これに限定されない。上記実施形態で説明した以外の集成材を用いてもよいし、単材の木材を用いてもよい。例えば、荷重支持部の周りに耐火被覆した木材であってもよいし、薬剤を含浸させた木材であってもよい。より具体的には、例えば、荷重支持部の外側に木材に難燃薬剤を注入して不燃化処理した難燃薬剤注入層で構成された一層構造の耐火被覆層が設けられた構造であってもよい。
【0073】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない