特許第6144941号(P6144941)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6144941
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】六フッ化リン酸リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/455 20060101AFI20170529BHJP
【FI】
   C01B25/455
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-67122(P2013-67122)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-189454(P2014-189454A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】下川床 祥城
(72)【発明者】
【氏名】原田 功
【審査官】 飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−144348(JP,A)
【文献】 特開2006−302591(JP,A)
【文献】 特開平10−092468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/00−25/46
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒中で、フッ化リチウムと、前記フッ化リチウムの量に対して当量未満の量の五フッ化リンと、を反応させることにより、六フッ化リン酸リチウムと、オキシフッ化リン、オキシフッ化リン由来の酸不純物及びフッ化水素からなる不純物と、を含む混合溶液を得る工程と、
前記混合溶液に対し、露点温度が−60℃以下のガスを用いてバブリングを行うことにより、前記混合溶液中における、前記オキシフッ化リンの濃度、前記オキシフッ化リン由来の酸不純物の濃度及び前記フッ化水素の濃度を低減させるバブリング工程と、
を有し、
前記バブリングは、前記ガスの流量が前記混合溶液1mlあたり0.5ml/分以上であり、バブリング時間が60分以上であり、且つ、バブリング中の有機溶媒中の温度が0℃〜40℃の範囲である条件で行う六フッ化リン酸リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及び1,2−ジメトキシエタンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む有機溶媒である請求項1に記載の六フッ化リン酸リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記ガスが、窒素ガスである請求項1又は請求項2に記載の六フッ化リン酸リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記バブリング工程は、前記混合溶液に前記バブリングを行うことにより、オキシフッ化リン由来の酸不純物の濃度の合計が100重量ppm未満であり、且つ、フッ化水素の濃度が200重量ppm未満である六フッ化リン酸リチウム溶液を得る工程である請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の六フッ化リン酸リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六フッ化リン酸リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン電池は、携帯電話、ノートパソコンをはじめ幅広い電子機器に搭載され、その需要は急速に伸びている。また、エコ自動車などの動力源として実用化が進んでおり、電力の平準化やスマートグリッドのための蓄電装置としても精力的に研究がなされている。六フッ化リン酸リチウム(LiPF)はリチウムイオン電池の電解質として有用な化合物である。
【0003】
六フッ化リン酸リチウムの製造方法については種々提案されているが、例えば、リチウムイオン電池用溶媒中でフッ化リチウムと五フッ化リンを反応させる方法がある(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−165210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された上記方法においては、溶媒としてリチウム電池用溶媒を使用しているため、反応により得られた溶液を直接リチウムイオン電池用電解液として使用することが可能である。
しかしながら、反応を行う際に、五フッ化リンや六フッ化リン酸リチウムがわずかな水分と反応して加水分解を起こし、揮発性の酸不純物が副生する。
その結果、反応により得られた溶液からこれらの酸不純物が白煙状のガスとして揮発するため、そのまま取扱うことが困難である。また、これらの酸不純物が溶液中に溶け込んだ状態でリチウムイオン電池用電解液として使用すると、電池特性が低下する傾向にある。
【0006】
そこで、本発明は、上記に鑑みて、揮発性の酸不純物が少ない六フッ化リン酸リチウムを製造する方法を提供することを目的とする。
なお、揮発性の酸不純物とは、例えば、オキシフッ化リン(POF)、フッ化水素(HF)等を示す。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に対し、有機溶媒中でフッ化リチウムと五フッ化リンとを反応させて得られた混合溶液に、露点温度が−60℃以下のガスを用いてバブリングを行う、バブリング工程を有する六フッ化リン酸リチウムの製造方法により、揮発性の酸不純物が少ない六フッ化リン酸リチウムを製造できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち本発明の課題を解決する手段は、以下のとおりである。
【0008】
<1> 有機溶媒中でフッ化リチウムと五フッ化リンとを反応させて得られた混合溶液に、露点温度が−60℃以下のガスを用いてバブリングを行うバブリング工程を有する六フッ化リン酸リチウムの製造方法。
【0009】
<2> 前記有機溶媒が、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及び1,2−ジメトキシエタンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む有機溶媒である<1>に記載の六フッ化リン酸リチウムの製造方法。
【0010】
<3> 前記ガスが、窒素ガスである<1>又は<2>に記載の六フッ化リン酸リチウムの製造方法。
【0011】
<4> 前記バブリングは、前記ガスの流量が前記混合溶液1mlあたり0.5ml/分以上であり、バブリング時間が60分以上であり、且つ、バブリング中の有機溶媒中の温度が0℃〜40℃の範囲である条件で行う<1>〜<3>のいずれか1つに記載の六フッ化リン酸リチウムの製造方法。
【0012】
<5> 前記バブリング工程は、前記混合溶液に前記バブリングを行うことにより、オキシフッ化リン由来の酸不純物の濃度の合計が100重量ppm未満であり、且つ、フッ化水素の濃度が200重量ppm未満である六フッ化リン酸リチウム溶液を得る工程である<1>〜<4>のいずれか1つに記載の六フッ化リン酸リチウムの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の六フッ化リン酸リチウムの製造方法によれば、揮発性の酸不純物が少ない六フッ化リン酸リチウムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[六フッ化リン酸リチウムの製造方法]
本発明の六フッ化リン酸リチウムの製造方法は、有機溶媒中でフッ化リチウムと五フッ化リンとを反応させて得られた混合溶液に、露点温度が−60℃以下のガスを用いてバブリングを行うバブリング工程を有する製造方法である。
【0015】
このような製造方法で製造することにより、揮発性の酸不純物が少ない六フッ化リン酸リチウムが得られる。
【0016】
また、本発明においては、揮発性の酸不純物であるオキシフッ化リンが少なくなるため、オキシフッ化リン由来の酸不純物(オキシフッ化リンと有機溶媒とが反応した酸不純物)の生成も抑制されることとなる。
【0017】
(混合溶液の調製)
本発明の製造方法では、まず、有機溶媒中でフッ化リチウムと五フッ化リンとを反応させることにより混合溶液を調製する。
混合溶液の調製方法は、フッ化リチウムと五フッ化リンとの反応が有機溶媒中で行われる方法であればよいが、例えば、有機溶媒に対する溶解度が低いフッ化リチウムを有機溶媒に添加して有機溶媒中に分散させた後、五フッ化リンのガスを吹き込んで行う方法が挙げられる。
生成された六フッ化リン酸リチウムは、有機溶媒に対する溶解度が高いため、混合溶液中に溶解して表面に被膜として残り難い状態で反応が進行する。
【0018】
この反応における反応温度は、0℃〜40℃の範囲であることが好ましい。
反応温度が0℃以上となることにより、有機溶媒の凝固が抑制され、反応が進行し易い傾向にある。一方、反応温度が40℃以下であることにより、有機溶媒と五フッ化リンとの反応が抑制され、着色を伴う酸不純物の混入を抑制することができる。
なお、上記反応温度は、有機溶媒中の温度を示す。
【0019】
有機溶媒に分散させるフッ化リチウムの量は、有機溶媒に対して0.1質量%〜10質量%が好ましく、4質量%〜7質量%がより好ましい。
【0020】
五フッ化リンの量は、フッ化リチウムに対して当量未満が好ましい。
五フッ化リンの量がフッ化リチウムに対して当量未満であることにより、過剰の五フッ化リンが溶媒と反応し、着色を伴い酸不純物が混入することを抑制できる。
【0021】
本発明で使用する有機溶媒としては、リチウムイオン電池用電解液として公知な溶媒が挙げられ、具体的には、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及び1,2−ジメトキシエタンが挙げられ、これらの中でも、粘度が低く取扱い易い観点から、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネートが好ましく、エチルメチルカーボネートが特に好ましい。また、これらは複数種類を混合して用いてもよい。
【0022】
(バブリング工程)
次に、上述のようにして得られる混合溶液に、露点温度が−60℃以下のガスを用いてバブリングするバブリング工程について説明する。
上述した有機溶媒中でのフッ化リチウムと五フッ化リンとの反応において、原料の五フッ化リン及び生成物の六フッ化リン酸リチウムは、わずかな水分と反応して加水分解され、揮発性の酸不純物としてオキシフッ化リンやフッ化水素を副生する。
そこで、これらの揮発性の酸不純物を除去するため、フッ化リチウムと五フッ化リンとを反応させて得られた混合溶液に、ガスをバブリングする。
【0023】
バブリングに使用するガスの種類は、露点温度が−60℃以下であれば特に限定されず、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、空気が挙げられる。
これらの中でも、経済性がよく、且つ揮発性の酸不純物を除去する観点から、窒素ガスが好ましい。
【0024】
バブリングを行う際のガスの流量は、溶液1ml当たり0.5ml/分以上が好ましく、揮発性の酸不純物をより除去する観点から、1ml/分〜1.5ml/分がより好ましく、1.5ml/分〜2ml/分が特に好ましい。
【0025】
バブリングする時間は、30分以上が好ましく、60分以上がより好ましく、90分以上がさらに好ましく、120分以上が特に好ましい。
なお、バブリングの時間は、長いほど好ましい。
【0026】
また、バブリングを行うときの温度は、0℃〜40℃の範囲であることが好ましい。
温度が0℃以上となることにより、溶媒の凝固が抑制される。一方、40℃以下であることにより、オキシフッ化リンが溶媒と反応し、着色を伴い酸不純物が混入することを抑制するため好ましい。
なお、上記反応温度は、有機溶媒中の温度を示す。
【0027】
以上のようにして得た溶液を固液分離することにより、過剰のフッ化リチウムを分離し、六フッ化リン酸リチウム溶液を得る。
固液分離の方法は、特に制限はなく、例えば、加圧ろ過、吸引ろ過等が挙げられる。
【0028】
上述の製造方法により六フッ化リン酸リチウムを製造した場合、リチウムイオン電池用電解液に六フッ化リン酸リチウムが含まれている、六フッ化リン酸リチウム溶液が得られる。この六フッ化リン酸リチウム溶液は、直接リチウムイオン電池用電解液として使用することができる。
六フッ化リン酸リチウム溶液は、オキシフッ化リン由来の酸不純物の濃度の合計が100重量ppm未満であり、且つ、フッ化水素の濃度が200重量ppm未満であることが好ましい。
なお、六フッ化リン酸リチウム溶液は、目的に合わせてリチウムイオン電池用溶解液を添加して濃度を調整することができる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。なお、以下の実施例において、「%」は質量%を表す。また、以下の実施例において、窒素、ヘリウム、空気はいずれも露点が−60℃以下のものを使用した。実施例3、4、及び10は、参考例である。
【0030】
[実施例1]
攪拌器と還流管を備えた1Lのテフロン(登録商標)製反応器に、窒素雰囲気下で、フッ化リチウム30.7g(1.18mol)とエチルメチルカーボネート200mlとを導入し、攪拌を開始した。次いで、反応器内を5℃〜20℃に保ち、窒素5ml/分をキャリアガスとしてバブリングしながら、五フッ化リン75g(0.59mol)を210分かけてバブリングした。五フッ化リンの導入後、還流管の上部から白煙状のガスが発生していることが目視で確認された。このガスをFT−IRで分析した結果、オキシフッ化リンを1.2vol%、フッ化水素を0.12vol%含有していた。
次いで、得られた混合溶液に対して窒素バブリングを行った。窒素流量を100ml/分(溶液1mlあたり0.5ml/分)に設定し、反応器内を5℃〜10℃に保ち、60分間バブリングした。60分後、還流管の上部から発生していた白煙状のガスが消失していることが目視で確認された。ガスをFT−IRにて分析した結果、フッ化水素、オキシフッ化リンは検出されなかった。
得られた液をろ過し、過剰のフッ化リチウムを除去した。ろ液の19F−NMR測定を行った結果、六フッ化リン酸リチウムの生成が確認された。ろ液中のオキシフッ化リンの濃度は34重量ppm、フッ化水素の濃度は135重量ppmであった。オキシフッ化リンと有機溶媒とが反応した酸不純物(オキシフッ化リン由来の酸不純物)は20重量ppm未満であった。
【0031】
[実施例2]
実施例1と同様の方法でフッ化リチウムと五フッ化リンとを反応させた後、得られた混合溶液に対して窒素バブリングを行った。窒素流量を400ml/分(溶液1mlあたり2ml/分)に設定し、反応器内を5℃〜10℃に保ち、60分間バブリングした。
60分後、還流管の上部から発生していた白煙状のガスが消失していることが目視で確認された。ガスをFT−IRにて分析した結果、フッ化水素、オキシフッ化リンは検出されなかった。
得られた液をろ過し、過剰のフッ化リチウムを除去した。ろ液の19F−NMR測定を行った結果、六フッ化リン酸リチウムの生成が確認された。ろ液中のオキシフッ化リンの濃度は21重量ppm、フッ化水素の濃度は70重量ppmであった。オキシフッ化リンと有機溶媒とが反応した酸不純物は20重量ppm未満であった。
【0032】
[実施例3]
実施例1と同様の方法でフッ化リチウムと五フッ化リンとを反応させた後、得られた混合溶液に対して窒素バブリングを行った。窒素流量を100ml/分(溶液1mlあたり0.5ml/分)に設定し、反応器内を5℃〜10℃に保ち、30分間バブリングした。30分後、還流管の上部から発生していた白煙状のガスが残存していることが目視で確認された。
得られた液をろ過し、過剰のフッ化リチウムを除去した。ろ液の19F−NMR測定を行った結果、六フッ化リン酸リチウムの生成が確認された。ろ液中のオキシフッ化リンの濃度は78重量ppm、フッ化水素の濃度は195重量ppmであった。オキシフッ化リンと有機溶媒とが反応した酸不純物は180重量ppmであった。
【0033】
[実施例4]
実施例1と同様の方法でフッ化リチウムと五フッ化リンとを反応させた後、得られた混合溶液に対して窒素バブリングを行った。窒素流量を400ml/分(溶液1mlあたり2ml/分)に設定し、反応器内を5℃〜10℃に保ち、30分間バブリングした。3
0分後、還流管の上部から発生していた白煙状のガスが残存していることが目視で確認された。
得られた液をろ過し、過剰のフッ化リチウムを除去した。ろ液の19F−NMR測定を行った結果、六フッ化リン酸リチウムの生成が確認された。ろ液中のオキシフッ化リンの濃度は68重量ppm、フッ化水素の濃度は140重量ppmであった。オキシフッ化リンと有機溶媒とが反応した酸不純物は155重量ppmであった。
【0034】
[実施例5]
実施例1と同様の方法でフッ化リチウムと五フッ化リンとを反応させた後、得られた混合溶液に対して窒素バブリングを行った。窒素流量を100ml/分(溶液1mlあたり0.5ml/分)に設定し、反応器内を50℃に保ち、60分間バブリングした。60分後、還流管の上部から発生していた白煙状のガスが消失していることが目視で確認された。ガスをFT−IRにて分析した結果、フッ化水素、オキシフッ化リンは検出されなかった。
得られた液をろ過し、過剰のフッ化リチウムを除去した。ろ液の19F−NMR測定を行った結果、六フッ化リン酸リチウムの生成が確認された。ろ液中のオキシフッ化リンの濃度は45重量ppm、フッ化水素の濃度は625重量ppmであり、その他に、オキシフッ化リン由来物としてオキシフッ化リンと有機溶媒とが反応した酸不純物が569重量ppm検出された。
【0035】
[実施例6]
実施例1と同様の方法でフッ化リチウムと五フッ化リンとを反応させた後、得られた混合溶液に対してヘリウムガスによりバブリングを行った。ヘリウム流量を100ml/分(溶液1mlあたり0.5ml/分)に設定し、反応器内を5℃〜10℃に保ち、60分間バブリングした。60分後、還流管の上部から発生していた白煙状のガスが消失していることが目視で確認された。ガスをFT−IRにて分析した結果、フッ化水素、オキシフッ化リンは検出されなかった。
得られた液をろ過し、過剰のフッ化リチウムを除去した。ろ液の19F−NMR測定を行った結果、六フッ化リン酸リチウムの生成が確認された。ろ液中のオキシフッ化リンの濃度は50重量ppm、フッ化水素の濃度は138重量ppmであり、その他に、オキシフッ化リン由来物としてオキシフッ化リンと有機溶媒とが反応した酸不純物は20重量ppm未満であった。
【0036】
[実施例7]
実施例1と同様の方法でフッ化リチウムと五フッ化リンとを反応させた後、得られた混合溶液に対して空気によりバブリングを行った。空気の流量を100ml/分(溶液1mlあたり0.5ml/分)に設定し、反応器内を5℃〜10℃に保ち、60分間バブリングした。60分後、還流管の上部から発生していた白煙状のガスが消失していることが目視で確認された。ガスをFT−IRにて分析した結果、フッ化水素、オキシフッ化リンは検出されなかった。
得られた液をろ過し、過剰のフッ化リチウムを除去した。ろ液の19F−NMR測定を行った結果、六フッ化リン酸リチウムの生成が確認された。ろ液中のオキシフッ化リンの濃度は75重量ppm、フッ化水素の濃度は182重量ppmであり、その他に、オキシフッ化リン由来物としてオキシフッ化リンと有機溶媒とが反応した酸不純物は20重量ppm未満であった。
【0037】
[実施例8]
攪拌器と還流管を備えた1Lのテフロン(登録商標)製反応器に、窒素雰囲気下で、フッ化リチウム30.7g(1.18mol)とジメチルカーボネート200mlとを導入し、攪拌を開始した。次いで、反応器内を5℃〜20℃に保ち、窒素5ml/分をキャリアガスとしてバブリングしながら、五フッ化リン75g(0.59mol)を210分かけてバブリングした。五フッ化リンの導入後、還流管の上部から白煙状のガスが発生していることが目視で確認された。このガスをFT−IRで分析した結果、オキシフッ化リンを1.3vol%、フッ化水素を0.1vol%含有していた。
次いで、得られた混合溶液に対して窒素バブリングを行った。窒素流量を100ml/分(溶液1mlあたり0.5ml/分)に設定し、反応器内を5℃〜10℃に保ち、60分間バブリングした。60分後、還流管の上部から発生していた白煙状のガスが消失していることが目視で確認された。ガスをFT−IRにて分析した結果、フッ化水素、オキシフッ化リンは検出されなかった。
得られた液をろ過し、過剰のフッ化リチウムを除去した。ろ液の19F−NMR測定を行った結果、六フッ化リン酸リチウムの生成が確認された。ろ液中のオキシフッ化リンの濃度は48重量ppm、フッ化水素の濃度は165重量ppmであった。オキシフッ化リンと有機溶媒とが反応した酸不純物(オキシフッ化リン由来の酸不純物)は20重量ppm未満であった。
【0038】
[実施例9]
攪拌器と還流管を備えた1Lのテフロン(登録商標)製反応器に、窒素雰囲気下で、フッ化リチウム30.7g(1.18mol)とジエチルカーボネート200mlとを導入し、攪拌を開始した。次いで、反応器内を5℃〜20℃に保ち、窒素5ml/分をキャリアガスとしてバブリングしながら、五フッ化リン75g(0.59mol)を210分かけてバブリングした。五フッ化リンの導入後、還流管の上部から白煙状のガスが発生していることが目視で確認された。このガスをFT−IRで分析した結果、オキシフッ化リンを1.4vol%、フッ化水素を0.14vol%含有していた。
次いで、得られた混合溶液に対して窒素バブリングを行った。窒素流量を100ml/分(溶液1mlあたり0.5ml/分)に設定し、反応器内を5℃〜10℃に保ち、60分間バブリングした。60分後、還流管の上部から発生していた白煙状のガスが消失していることが目視で確認された。ガスをFT−IRにて分析した結果、フッ化水素、オキシフッ化リンは検出されなかった。
得られた液をろ過し、過剰のフッ化リチウムを除去した。ろ液の19F−NMR測定を行った結果、六フッ化リン酸リチウムの生成が確認された。ろ液中のオキシフッ化リンの濃度は60重量ppm、フッ化水素の濃度は170重量ppmであった。オキシフッ化リンと有機溶媒とが反応した酸不純物(オキシフッ化リン由来の酸不純物)は20重量ppm未満であった。
【0039】
[実施例10]
実施例1と同様の方法でフッ化リチウムと五フッ化リンとを反応させた後、得られた混合溶液に対して窒素バブリングを行った。窒素流量を20ml/分(溶液1mlあたり0.1ml/分)に設定し、反応器内を5℃〜10℃に保ち、60分間バブリングした。
60分後、還流管の上部から発生していた白煙状のガスが残存していることが目視で確認された。
得られた液をろ過し、過剰のフッ化リチウムを除去した。ろ液の19F−NMR測定を行った結果、六フッ化リン酸リチウムの生成が確認された。ろ液中のオキシフッ化リンの濃度は123重量ppm、フッ化水素の濃度は357重量ppmであった。オキシフッ化リンと有機溶媒とが反応した酸不純物は548重量ppm検出された。
【0040】
[比較例1]
実施例1と同様の方法でフッ化リチウムと五フッ化リンとを反応させた。得られた混合溶液からは白煙状のガスが発生していることが目視で確認された。
得られた液をろ過し、過剰のフッ化リチウムを除去した。ろ液の19F−NMR測定を行った結果、六フッ化リン酸リチウムの生成が確認された。ろ液中のオキシフッ化リンの濃度は145重量ppm、フッ化水素の濃度は420重量ppmであった。オキシフッ化リンと有機溶媒とが反応した酸不純物は645重量ppmであった。
【0041】
本発明の方法における、バブリングの条件およびバブリングの結果を表1に示した。
【0042】
【表1】
【0043】
上記の結果より、実施例におけるバブリング工程を有する六フッ化リン酸リチウムの製造方法であれば、比較例における製造方法に比較して、ろ過後のろ液中における不純物濃度が低くなることが明らかである。
また、実施例1及び2と、実施例3及び4と、の比較により、ろ過後のろ液中における不純物濃度は、バブリングの流量が0.5ml/分以上であり、バブリングの時間が60分以上である場合に、より低くなることがわかる。
さらに、実施例1及び5との比較より、ろ過後のろ液中における不純物濃度は、バブリングの反応温度が50℃未満である場合に、より低くなることがわかる。
加えて、実施例1、6及び7の比較より、ろ過後のろ液中における不純物濃度は、バブリングに使用するガスが窒素ガスである場合に、より低くなることがわかる。
そして、実施例1、8及び9の比較より、ろ過後のろ液中における不純物濃度は、混合溶液中の有機溶媒がエチルメチルカーボネートである場合に、より低くなることがわかる。