特許第6144951号(P6144951)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6144951
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の注入材注入工法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20170529BHJP
【FI】
   E04G23/02 B
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2013-83712(P2013-83712)
(22)【出願日】2013年4月12日
(65)【公開番号】特開2014-205996(P2014-205996A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2016年2月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉山 真貴
【審査官】 星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4033784(JP,B2)
【文献】 特許第3439711(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E21D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物のひび割れやジャンカや鉄筋周囲の空隙にエポキシ樹脂を注入するにあたって,コンクリート構造物に直径6〜10mmに穿孔し,該穿孔穴よりひび割れやジャンカや鉄筋周囲の空隙にエポキシ樹脂を注入して硬化させた後,穿孔穴に満たされ硬化しているエポキシ樹脂の頭部分をコンクリート表面から15〜25mm除去し,且つ該エポキシ樹脂とともにその周囲のコンクリートを直径15〜30mm除去してモルタルを充填することを特徴とするコンクリート構造物の注入材注入工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,コンクリート構造物にひび割れが生じたり,コンクリート構造物内部にあるジャンカや,RC造においてコンクリート打設時等に鉄筋周囲に生じた空隙にエポキシ樹脂を注入する際のコンクリート構造物の注入材注入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,コンクリート建築物にひび割れが生じて亀裂が発生したり,コンクリート構造物内部にジャンカや鉄筋周囲に空隙がある場合,これらの欠陥は漏水の原因になり,またコンクリート構造物としての強度が不足することがあるため,エポキシ樹脂等を注入して補修する必要がある。
【0003】
これらの欠陥を補修する方法としては,コンクリート構造物の亀裂部等にドリルで穴を穿孔し,該穴に高圧注入バルブのノズルを差し込みエポキシ樹脂を注入して補修する高圧工法や,注射器形状をした注入器において,シリンダとピストン間に弾性体を介在させ,同様にコンクリート構造物の亀裂部等にドリルで穴を穿孔し,該穴に注入器のノズルを差し込み弾性体の圧縮力でシリンダ内のエポキシ樹脂を注入して補修する低圧工法等が知られている。
【0004】
また,コンクリート構造物のひび割れや,ジャンカ,鉄筋周囲の空隙に注入充填剤を注入する方法において,コンクリートやモルタル部分に,コンクリートやモルタル表面から鉄筋位置に達する非貫通穴(A)または,深さ1〜100mm程度の非貫通穴(A)を穿つ,あるいは穴を開けずに,コンクリートやモルタル部分のひび割れ部(B)と連通し,該穴(A)の口端部より穴の先端,又はひび割れ部(B)に向けて注入材(X)を注入するに際し,注入器(Y)を用い,一定の圧力で,穴(A)又はひび割れ部(B)内に注入材(X)を注入すると共に,穴(A)内と注入治具(2)又は注入治具(2)内の空気を外部に抜き,穴(A)内と注入治具(2)又は注入治具(2)内を低圧状態にしながら穴(A)内,又は,ひび割れ部(B)から注入材(X)を注入することを特徴とするコンクリート構造物への注入材の注入方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−30244号公報
【0006】
しかしながら,コンクリート構造物にドリルで穿孔した穴から補修剤としてエポキシ樹脂を注入した場合,該穿孔穴には硬化後のエポキシ樹脂が充填さることになり,気温が低い冬から春に補修工事が行なわれてエポキシ樹脂が硬化した場合,夏季に該エポキシ樹脂の頭部が膨らんでコンクリートの壁面や床面である表面より飛び出ることがあるという課題がある。特に該膨れは,コンクリートの壁面や床面全体が薄塗り塗料等で塗装されている場合は外観上その凹凸が目立つという課題となっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は,気温が低い冬から春にかけて,コンクリート構造物にドリルで穿孔した穴から補修剤としてエポキシ樹脂を注入して硬化させても,夏季に該エポキシ樹脂の頭部が膨らんでコンクリート壁面や床面である表面より飛び出ることのないコンクリート構造物の注入材注入工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、コンクリート構造物のひび割れやジャンカや鉄筋周囲の空隙にエポキシ樹脂を注入するにあたって,コンクリート構造物に直径6〜10mmに穿孔し,該穿孔穴よりひび割れやジャンカや鉄筋周囲の空隙にエポキシ樹脂を注入して硬化させた後,穿孔穴に満たされ硬化しているエポキシ樹脂の頭部分をコンクリート表面から15〜25mm除去し,且つ該エポキシ樹脂とともにその周囲のコンクリートを直径15〜30mm除去してモルタルを充填することを特徴とするコンクリート構造物の注入材注入工法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコンクリート構造物の注入材注入工法は,気温が低い冬から春にかけて,コンクリート構造物にドリルで穿孔した穴から補修剤としてエポキシ樹脂を注入して硬化させても,夏季に該エポキシ樹脂の頭部が膨らんでコンクリート壁面や床面である表面より飛び出ることがないという効果がある。
【0011】
特にコンクリートの壁面や床面全体が薄塗り塗料等で塗装されている場合は上記エポキシ樹脂がコンクリートの表面より飛び出ることがないため外観上の美観が保たれるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明にかかるコンクリート構造物は,特には補修後の外観上の美観が要求される建築物に関するが,コンクリート表面を穿孔するにあたっては,まずは該コンクリート表面を全面サンディングしてひび割れ等を明確し,またコンクリート構造物の断面が欠損して鉄筋が露出している場合には,その欠損部分にポリマーセメントモルタル等にて予め断面補修を行なっておく。
【0014】
次に補修剤であるエポキシ樹脂を注入するポイントに印をつけ,直径6〜10mm程度で深さ40〜200mm程度にドリルにて穿孔し,該穿孔穴に残っている削粉を吸塵して清掃する。清掃後,例えばエポキシ樹脂をシリンダ内に充填した注射器形状の注入器のノズルを該穿孔穴に挿し込みセットしてシリンダ内のエポキシ樹脂をひび割れ等に注入する。
【0015】
注入するエポキシ樹脂は,JISA6024建築補修用注入エポキシ樹脂に規定される規格値を満足するものであれば特に限定はされない。
【0016】
エポキシ樹脂が硬化後は注入器を撤去し,穿孔穴に満たされている硬化後のエポキシ樹脂の頭部分を深さ15〜25mmにドリルにて除去し,該穴を清掃しモルタル充填する。除去するエポキシ樹脂の頭部分が15mmより浅いと,充填したモルタルが夏季に下から持ち上げられて膨れが生じる場合があり,25mm超では必要以上の作業となり作業効率が低下する。
【0017】
ドリルにて硬化しているエポキシ樹脂の頭部分を除去する際には該エポキシ樹脂とともにその周囲のコンクリートを除去することが好ましく,直径6〜10mmの穿孔穴に充填され硬化しているエポキシ樹脂に対しては,除去するコンクリートの直径は15〜30mm程度が適している。15mm以下では充填したモルタルが夏季に下から持ち上げられて膨れが生じる場合があり,30mm超では作業効率が低下する。
【0018】
モルタルは,普通ポルトランドセメントに適量の細骨材と水を混合したもの(配合比の例;普通ポルトランドセメン:細骨材:水=1:2〜3:0.6)や,市販速乾セメント(商品名,サンホーム(株)社製,ポルトランドセメントに硅砂を配合したもの)1.3kgに水0.3kgを混合したものを使用することができ,上記エポキシ樹脂の頭部分を除去して形成された穴に,コンクリート表面と面一に充填する。
【0019】
モルタルが硬化後は,美観のため,コンクリート表面全体に塗料や塗材を塗布して仕上げる。
【0020】
以下,実施例及び比較例にて具体的に説明する。
【実施例】
【0021】
実施例
実施例として,市販JISA6024に適合するエポキシ樹脂ジョリシールJB−396W(商品名,粘度175mPa・s/23℃,Tg;54℃,アイカ工業株式会社製)を使用し,硬化後の該エポキシ樹脂の頭部を除去して該穴に充填するモルタルとして市販速乾セメントモルタル(商品名,サンホーム(株)社製,普通ポルトランドセメントに硅砂が配合されたもの)1.3kgに水0.3kgを混合したものを使用して実施例とした。
【0022】
比較例
実施例と同じエポキシ樹脂注入材を使用し,硬化後の該エポキシ樹脂の頭部分を除去しないでモルタルも充填しないものを比較例とした。
【0023】
評価項目及び評価方法
【0024】
膨れ試験
JISA5371の300mm×300mm×厚さ60mmの乾燥したコンクリート平板(ケット水分計HI−520コンクリートレンジにて5%以下)の表面であって端部から相対する他端方向に200mmの長さで深さ15mm幅15mmでUカットし5℃環境下に放置する。実施例においては5℃に調整したJB−396Wを該Uカット部に充填して硬化させ,5℃にて28日間養生する。その後,上記端部から20mmの長さで直径22mmの半円状にコンクリートと共に硬化したJB−396Wの頭部を除去し,上記市販速乾セメントモルタルを充填して7日間硬化させ実施例の膨れ試験用試験体とした。
【0025】
比較例においては,同様にコンクリート平板の表面に形成されたUカット目地にJB−396Wを充填し5℃28日間養生したものを比較例の膨れ試験用試験体とした。
【0026】
上記充填し硬化した市販速乾セメントモルタル表面又はエポキシ樹脂表面の上記端部に歪みゲージとしてプラスチック用ゲージGFLA−6−50−3LT((株)東京測器研究所製)を貼り付け,試験体の温度を5℃から35℃に変化させ測定される歪み(μ)をデータロガーTDS−303((株)東京測器研究所製)にて測定した。歪みが250μ超を×,250μ以下を○として評価した。
【0027】
評価結果
評価結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
まとめ
実施例では35℃における歪みは0μであり,夏季において膨れは発生しないものと評価される。これに対して比較例では330μの歪みが測定され,夏季において膨れが目視可能であるものと評価される。