(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
省エネ、省電力を目的とし、これまでの蛍光灯、水銀灯、白熱灯など照明に代え、LED照明を用いることが行われており、それぞれの光源からの光を有効に利用するため種々の工夫が提案されている。
【0003】
例えば照明器具の反射板について、反射性の向上が望まれており、蛍光灯照明の反射板として高反射性塗装金属板が提案されている(特許文献1)。
この高反射性塗装金属板では、塗膜中に酸化チタン顔料を固形成分換算値で、30〜60%含有させ、かつ低波長域の波長が400〜700nmにおける反射性を向上するため2種類の蛍光顔料を含有させるようにしている。
【0004】
また、室内などの壁面の反射率を高くすることで明るくすることが提案され、特許文献2の被膜材組成物では、金属酸化物製の球状微粒子と白顔料である酸化チタンとが合成樹脂中に分散されてなる固形皮膜を形成する塗料として、固形皮膜の組成が球状微粒子:10〜60%、酸化チタン:10〜40%、これらの合計が40〜75%、および球状微粒子/酸化チタンの割合:0.2〜5.0とすることで、屋内壁面に適用した場合に、照明を変えることなく照度(明るさ)を増大するようにしている。
さらに、壁紙についても鏡面反射に近いアルミ蒸着フィルムをラミネート加工したものもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、室内などの内装用の壁紙に対して特許文献1の高反射性塗装金属板の技術を適用しようとすると、固形成分が多く粘性が高いことから金属板への塗膜の形成とは異なり、壁紙の基材シートへの塗膜のコーティング性が悪くそのまま適用することができないという問題がある。
また、特許文献2の被膜材組成物を塗布した壁紙やアルミ蒸着フィルムをラミネート加工した壁紙では、鏡面反射である正反射光の比率が多く、ぎらつきがあって快適性に問題がある。
さらに、これまでの壁紙では、視覚的に白く見せることを目的として無機白色顔料である酸化チタンや蛍光増白剤を用いることは行われているが、光源、特にLED光源に対して効率よく反射できるようにすることは、全く考慮されていないのが現状である。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点と現状に鑑みてなされたもので、基材シートに対しても塗膜の形成が容易で、低波長域の光、特にLED光源に対しても効率よく反射させることができる壁紙を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
低波長域の光、特にLED光源に対する反射効率を高めた壁紙の開発に当たり、鋭意検討を重ね、まず、これまでの蛍光灯とLED照明との分光分析を行った。
その結果、
図14に示すように、昼光色蛍光灯などでは、波長が430nm、550nm、610nm付近にピークがあり、LED照明では、蛍光灯に比べ波長が430〜480nm付近の光が強いということが分かり、低波長域の光、昼光色蛍光灯では、430nm付近の光、LED照明では、特に430〜480nm付近の光の反射率を向上することが有効であること分かった。
【0009】
一方、従来の壁紙では、酸化チタンは下地を隠すための下地隠蔽性を向上させること、あるいは白度の強い意匠性を持たせるために配合されることが主な目的であり、蛍光顔料については酸化チタンの処方量に加工上、限界があることから補助的に白度を上げるために使用するのが一般的であり、壁紙としての白さは十分確保されていた。
【0010】
しかし、LED照明などに対する反射率の向上のために酸化チタンや蛍光増白剤についてさらなる検討を行ったところ、酸化チタンは波長が550nm以上の光に対して優れた反射特性を有し、蛍光増白剤は波長が550nm以下の光に対して優れた反射特性を有することが分かり、これらの材料を適度に配合することでLED照明などに対して有効な反射特性を有する壁紙を開発できることを知見し、本願発明を完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明の請求項1記載の壁紙は、基材シート上に反射性塗膜を有する壁紙であって、前記反射性塗膜は合成樹脂バインダに無機白色顔料の酸化チタンを11phr以上30phr未満と、蛍光増白剤を1〜2phrとを添加されてなり、可視光波長の反射スペクトル;450〜740nmを85%以上にすることを可能に構成したことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の請求項2記載の壁紙は、請求項1記載の構成に加え、前記合成樹脂バインダを塩化ビニル樹脂としたことを特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明の請求項3記載の壁紙は、請求項1または2記載の構成に加え、前記反射性塗膜の表面にラミネート加工による樹脂フィルムまたはコーティング加工による樹脂の防汚層を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1記載の壁紙によれば、基材シート上に反射性塗膜を有する壁紙であって、前記反射性塗膜は合成樹脂バインダに無機白色顔料の酸化チタンを11phr以上30phr未満と、蛍光増白剤を1〜2phrとを添加されてなり、可視光波長の反射スペクトル;450〜740nmを85%以上にすることを可能に構成したので、白色顔料の酸化チタンをこの範囲で添加しても基材シートに対する隠蔽性やコーティング性を確保することができ、しかも波長が550nm以上の光に対して優れた反射特性を有する壁紙とすることができる。また、酸化チタンとともに、蛍光増白剤をこの範囲で添加することで、波長が550nm以下の光に対して優れた反射特性を有する壁紙とすることができる。
したがって、この壁紙によれば、低波長域の光、特にLED照明に対してぎらつきのない生活空間に適した優れた反射特性を確保することができると同時に、基材シートへの反射膜の塗工も容易となり、可視光波長の反射スペクトル;450〜740nmを85%以上にした壁紙とすることができる。
【0015】
本発明の請求項2記載の壁紙によれば、前記合成樹脂バインダを塩化ビニル樹脂としたので、これまでの塩化ビニル樹脂の壁紙の特性を備えるとともに、LED照明などに対してぎらつきのない生活空間に適した優れた反射特性を確保することができると同時に、基材シートへの反射膜の塗工も容易となり、可視光波長の反射スペクトル;450〜740nmを85%以上にした壁紙とすることができる。
【0016】
本発明の請求項3記載の壁紙によれば、前記反射性塗膜の表面にラミネート加工による樹脂フィルムまたはコーティング加工による樹脂の防汚層を設けたので、樹脂フィルムや樹脂コーティングによる防汚層によって反射性塗膜の汚れを防止することができ、反射特性の変化を防止して安定した反射特性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】既存の壁紙の拡散反射率の測定結果を示すグラフである。
【
図2】本発明の壁紙の一実施の形態にかかる酸化チタンの添加量による拡散反射率の変化を示すグラフである。
【
図3】本発明の壁紙の一実施の形態にかかる酸化チタンを11phrとした蛍光増白剤の添加量による拡散反射率の変化を示すグラフである。
【
図4】本発明の壁紙の一実施の形態にかかる酸化チタンを13phrとした蛍光増白剤の添加量による拡散反射率の変化を示すグラフである。
【
図5】本発明の壁紙の一実施の形態にかかる酸化チタンを15phrとした蛍光増白剤の添加量による拡散反射率の変化を示すグラフである。
【
図6】本発明の壁紙の一実施の形態にかかる酸化チタンを18phrとした蛍光増白剤の添加量による拡散反射率の変化を示すグラフである。
【
図7】本発明の壁紙の一実施の形態にかかる酸化チタンを21phrとした蛍光増白剤の添加量による拡散反射率の変化を示すグラフである。
【
図8】本発明の壁紙の一実施の形態にかかる酸化チタンを23phrとした蛍光増白剤の添加量による拡散反射率の変化を示すグラフである。
【
図9】本発明の壁紙の一実施の形態にかかる酸化チタンを27phrとした蛍光増白剤の添加量による拡散反射率の変化を示すグラフである。
【
図10】本発明の壁紙の一実施の形態にかかる汚染物付着時の拡散反射率の変化を示すグラフである。
【
図11】本発明の壁紙の一実施の形態にかかる汚染物除去後の拡散反射率の変化を示すグラフである。
【
図12】本発明の壁紙の一実施の形態にかかる防汚層を有する壁紙の汚染物除去後の拡散反射率の変化を示すグラフである。
【
図13】本発明の壁紙の一実施の形態にかかる全反射率と拡散反射率の変化を示すグラフである。
【
図14】照明装置の分光分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。
本発明の壁紙は、基材シート上に反射性塗膜を有する壁紙で、反射性塗膜は、合成樹脂バインダ、例えば塩化ビニル樹脂に無機白色顔料の酸化チタンを11phr以上30phr未満と、蛍光増白剤を1〜2phrとを添加されることで、可視光波長の反射スペクトル;450〜740nmを85%以上にできるようにしたものである。
【0019】
このような本発明の壁紙との比較のため、まず、既存の壁紙について拡散反射率について調べて見た。
既存の壁紙では、表面の樹脂層の組成は、表1に示したように、いずれも酸化チタンを含有しており、蛍光増白剤についても一部の壁紙は含有しているが、いずれの既存の壁紙についても、
図1に示すように、LED照明で必要とされる450〜740nmのすべての範囲の波長域で85%以上の拡散反射率を有するものはなかった。
【0020】
そこで、まず、拡散反射率に寄与する無機白色顔料である酸化チタンの添加量について、実験を行い、その隠蔽性およびコーティング性から評価・検討した。
なお、実験では、蛍光増白剤を使用せずに酸化チタン単体の塩化ビニル樹脂(バインダ)への添加量を変えて行った。その際の隠蔽性およびコーティング性についての評価結果を表2および
図2に示した。
この結果から、合成樹脂バインダである塩化ビニル樹脂への酸化チタンの添加量が9phrでは、隠蔽性不良となり、30phrでは、コーティング性が悪く、これらから、酸化チタンの添加量は、11phr以上30phr未満の範囲が適していることが分かった。
なお、隠蔽性の評価は、JIS A6921隠蔽性試験の3級以上を合格とし、コーティング性の評価は、裏打ち紙(基材シート)に塗布した際に塗布ムラやスジが発生しないものを○とした。
また、酸化チタン添加量による拡散反射率については、
図2に示すように、波長が550nm以上の波長域では85%以上となり、この波長範囲の反射率向上に有効であることが分かる。なお、反射率について、表2では、450〜740nmの波長域で拡散反射率が85%以上でないとして×としているが、酸化チタンのみの添加による評価のためである。
【0021】
次に、蛍光増白剤の塩化ビニル樹脂への添加量と反射特性について実験を行って検討した。実験では、酸化チタンの添加量を一定として蛍光増白剤の添加量を変えてその影響を評価した。
酸化チタンの添加量については、反射特性の向上に有効な添加量である11phr以上30phr未満の範囲内で、11phr,13phr,15phr,18phr,21phr,23phr,27phrの7点の一定の値について、蛍光増白剤の添加量をそれぞれ0.5phr,1.0phr,1.5phr,2.0phrに変化させるとともに、比較のため添加しない0phrとした場合についても実験を行った。
この実験での各組成と実験結果について表3〜9および
図3〜9にそれぞれ酸化チタンの添加量を一定とした場合の拡散反射率について示した。
蛍光増白剤による反射特性は、各表3〜7および
図3から明らかなように、添加量が1.0phr以上(1.0〜2.0phr)の範囲で波長が430nm以上の波長域で反射率を85%以上にすることができることが分かった。
また、蛍光増白剤の添加によって、特にこの添加量が1.0〜2.0phrの範囲では、波長が550nm以下の光に対して優れた反射特性を有することがわかる。
なお、蛍光増白剤の添加量を2.0phr以上にしても良いが、反射率の向上には限界があり、反射率の増加に寄与しない無駄な添加となってしまう。
【0022】
以上のように、実験結果に基づき、塩化ビニル樹脂に無機白色顔料である酸化チタンを11phr以上30phr未満添加するとともに、蛍光増白剤を1〜2phr添加した反射塗膜を基材シート上に塗布した壁紙によれば、可視光波長の反射スペクトル(450〜740nm)を85%以上にすることができる。
これにより、低波長域の昼光色蛍光灯などの反射光に加え、特にLED照明の反射特性を大幅に向上することができ、LED照明によれば、これまでの蛍光灯や白熱電灯による照明に比べ、省エネ、省資源を図ることができる。
【0023】
なお、上記各実験中、本願発明の無機白色顔料である酸化チタンを11phr以上30phr未満添加するとともに、蛍光増白剤を1〜2phr添加した反射塗膜を塗布した壁紙についての実験は、本願の実施例に相当するものである。
【0024】
この壁紙に用いる基材シートとしては、通常、壁紙の裏打ち紙として使用されているシートを用いることができ、反射性塗膜を塗布できるものであれば良く、紙、不織布、織布などが用いられる。また、紙としては、一般紙に限らず、難燃剤を含有させた難燃紙であっても良い。なお、上記各実施例を含む実験では、基材シートとして普通紙を用いた。
【0025】
この壁紙の反射性塗膜を構成する合成樹脂バインダとしては、上記の塩化ビニル樹脂に限らず、壁紙のバインダとして通常使用されている合成樹脂を用いることができ、例えばEVA樹脂(エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂)、ポリエチレン樹脂などを用いることもできる。
【0026】
無機白色顔料である酸化チタンは、酸化チタン単体で良く、ルチル型やアナターゼ型などのいずれであっても良い。また、表面に酸化アルミニウム、酸化けい素、酸化亜鉛などを被覆したものや硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウムなどと複合化した酸化チタン顔料であっても良い。なお、上記各実施例を含む実験では、酸化チタンとしてテイカ株式会社のJR−401を用いた。
【0027】
蛍光増白剤は、1種類のもので良く、波長が550nm以下の光に対して優れた反射特性を有するものであれば良い。なお、上記各実験では、蛍光増白剤として日弘ビックス株式会社のNB−0294改を用いた。
【0028】
また、実施例を含む実験では、分光測色計としてコニカミノルタ株式会社のCM−5を使用した。各実験(実施例に相当する部分を含む)では、色相値として正反射光を除いた拡散反射光の分光反射率を示した。
【0029】
なお、この発明の壁紙を構成する反射塗膜には、通常の塗膜に添加される添加剤などを用いても良く、例えば各表中に記載したように、酸化チタンおよび蛍光増白剤のほか、可塑剤、無機充填剤(例えば炭酸カルシウム)、安定剤、発泡剤など種々のものが添加され
て反射性塗膜が構成される。
【0030】
次に、このような反射性塗膜を備えた壁紙は、内装材として用いられることから、生活環境中の汚染物によって表面層が汚れ、本来の反射特性が得られないことが想定される。
そこで、汚染物による拡散反射率への影響について検討・評価するため、次のような実験を行った。なお、汚染物については、壁紙工業会設定の「汚れ防止性能壁紙規定」に準じて汚染物の付着および除去を行った。
まず、表面が反射性塗膜である壁紙に対し、汚染物が付着した場合の拡散反射率について、汚染物が付着しない場合と比較し、その結果を表10および
図10に示した。
この汚染物の付着により、コーヒー、醤油、クレヨン、水性ペンのいずれの汚染物に対しても著しい拡散反射率の低下が見られた。
そこで、汚染物の除去を行うため汚染物を拭き取り、その後の拡散反射率について測定し、その結果を表11および
図11に示した。
汚染物を拭き取ることで、拡散反射率をある程度回復することができるものの、本来の拡散反射率からは依然として低下した状態である。
【0031】
そこで、壁紙の表面層に汚れ防止のための防汚層を設ける。
防汚層としては、樹脂フィルムをラミネート加工して形成したり、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂、アクリル系樹脂などをコーティング加工することで形成する。なお、防汚層としては、例えばエバールフィルムラミネートタイプ、ファンクレアフィルムラミネートタイプなどのラミネート加工のものを挙げることもできる。
なお、これらのラミネート加工やコーティング加工を施した壁紙についての拡散反射率については、説明および図示を省略したが、加工前の拡散反射率とほぼ変化がないことを確認している。
例えば、フッ素系樹脂を塗工して防汚層を形成した壁紙に汚染物を付着後、拭き取った場合の拡散反射率について実験を行って調査し、その結果を表12および
図12に示した。
この結果から、防汚層を表面に設けることで、例えば汚染物が付着しても拭き取ることで、拡散反射率をほぼ付着前の状態に回復できることが分かる。
したがって、壁紙の反射性塗膜の表面に防汚層を設けることで、たとえ生活環境での汚染物が付着しても、これを拭き取って除去することで、ほぼ付着前の状態に拡散反射率を回復することができる。
【0032】
また、本願発明の壁紙について、全反射率と拡散反射率を計測したところ、
図13に示すように、全反射率と拡散反射率がほとんど変わらないため、鏡面反射によるギラツキがないことを確認している。
これに対し、アルミ蒸着ラミネート壁紙では、全反射率が高く、優れているものの、拡散反射率は60%以下であり、2つの反射率の値が大きく相違している。
【実施例】
【0033】
本発明の実施例は、既に説明した上記各実験中、本願発明の無機白色顔料である酸化チタンを11phr以上30phr未満添加するとともに、蛍光増白剤を1〜2phr添加した反射塗膜を塗布した壁紙についての実験が本願の実施例に相当するものであることから、ここでの重複する説明は省略する。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
【表5】
【0039】
【表6】
【0040】
【表7】
【0041】
【表8】
【0042】
【表9】
【0043】
【表10】
【0044】
【表11】
【0045】
【表12】