(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6144954
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】撮像レンズ
(51)【国際特許分類】
G02B 13/00 20060101AFI20170529BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
G02B13/00
G02B13/18
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-89041(P2013-89041)
(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公開番号】特開2014-211586(P2014-211586A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】391014055
【氏名又は名称】カンタツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201248
【弁理士】
【氏名又は名称】田伏 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100091694
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 守
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雅也
【審査官】
瀬戸 息吹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−048996(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0134904(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 − 17/08
G02B 21/02 − 21/04
G02B 25/00 − 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体撮像素子用の撮像レンズであって、物体側から像面側に向かって順に、開口絞りと、正の屈折力を有する第1レンズと、像面側に凹面を向けた負の屈折力を有する第2レンズと、像面側に凸面を向けた正の屈折力を有する第3レンズと、光軸近傍で物体側に凸面を向けたメニスカス形状で正の屈折力を有する両面が非球面の第4レンズと、光軸近傍で像面側に凹面を向けた負の屈折力を有する両面が非球面の第5レンズとで構成され、以下の条件式(1)を満足することを特徴とする撮像レンズ。
(1)|r1|>|r2|
ただし、
r1:第1レンズの物体側の面の曲率半径
r2:第1レンズの像面側の面の曲率半径
【請求項2】
以下の条件式(2) を満足することを特徴とする請求項1に記載の撮像レンズ。
(2)0.9<ih/f<1.1
ただし、
f: 撮像レンズ全系の焦点距離
ih: 最大像高
【請求項3】
以下の条件式(3)を満足することを特徴とする請求項1に記載の撮像レンズ。
(3)2.20<|r1/r2|<8.20
ただし、
r1: 第1レンズの物体側の面の曲率半径
r2: 第1レンズの像面側の面の曲率半径
【請求項4】
以下の条件式(4)を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の撮像レンズ。
(4)−1.50<f2/f<−1.00
ただし、
f2: 第2レンズの焦点距離
【請求項5】
以下の条件式(5)を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の撮像レンズ。
(5) 0.70<f3/f<1.50
ただし、
f3: 第3レンズの焦点距離
【請求項6】
前記第4レンズの非球面は、光軸上以外の位置に変極点を有することを特徴とする請求項1または2に記載の撮像レンズ。
【請求項7】
前記第5レンズの非球面は、光軸上以外の位置に変極点を有することを特徴とする請求項1または2に記載の撮像レンズ。
【請求項8】
以下の条件式(6) を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の撮像レンズ。
(6) 0.6<TTL/2ih<1.0
ただし、
TTL:フィルタ類を取り外した際の開口絞りから像面までの光軸上の距離
ih:最大像高
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型の撮像装置に使用されるCCDセンサやC-MOSセンサの固体撮像素子上に被写体の像を結像させる撮像レンズに関し、特に、小型化、薄型化が進むスマートフォンや携帯電話機およびPDA(Personal Digital Assistant)などの携帯端末機器等、さらには、ゲーム機やPCなどの情報端末機器等に搭載される撮像装置に内蔵する撮像レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどの携帯端末機器等に搭載される撮像装置の性能は、高画素化に対応した高い解像力を備えるようになっている。また、これらの撮像装置に組み込まれる撮像レンズに対しても、高解像度、小型化、薄型化、明るいレンズ系であることが要求されている。また、広範囲に被写体の像を撮影可能な、広い画角に対応するカメラは、様々な分野での利用が一層期待されるようになっている。例えば、小型な監視カメラや防犯カメラへのニーズはもちろんのこと、近年ではスマートフォンで遠隔操作できるカメラ付きロボット掃除機や、カメラが組み込まれたメガネ型ヘッドマウントディスプレイなども急速に開発が進んでいる。これらの製品に搭載する撮像装置に内蔵する撮像レンズには、高い性能と小型化に加えて、従来よりも広い画角、または広い視野角に適応することが強く求められている。
【0003】
しかしながら、撮影画角の広角化を図ると、特に周辺部における収差補正が非常に困難になり、良好な光学性能を確保できないという問題が生じやすい。そのため、高解像度、小型化、薄型化に対応し、かつ広角化の要求を満足する撮像レンズを実現することは難しい。
【0004】
従来、広い画角への対応や高性能化を目指した撮像レンズとしては、例えば、以下の特許文献1から3のような撮像レンズが知られている。
【0005】
特許文献1には、物体側から順に、像面側に凹面を向けた負の第1レンズ、像面側が凸面である正の第2レンズ、開口絞り、物体側に平面を向けた平凸レンズもしくは曲率半径の絶対値が大きな面を物体側に向けた両凸レンズである第3レンズ、及び正の合成屈折力を有する第4レンズと第5レンズとの接合からなる撮像レンズが開示されている。
【0006】
特許文献2には、物体側から像面側に向かって順に配置された、正の屈折力を有する両凸レンズからなる第1レンズと、負の屈折力を有し、像面側のレンズ面が凹面である第2レンズと、正の屈折力を有し、像面側のレンズ面が凸面であるメニスカスレンズからなる第3レンズと、負の屈折力を有し、両方のレンズ面が非球面形状で、像面側のレンズ面が光軸近傍で凹面である第4レンズとを備える撮像レンズが開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、物体側より順に、正の第1レンズと、正の第2レンズと、負の第3レンズ、正の第4レンズ、負の第5レンズからなる、小型化および諸収差の良好な補正を目指した撮像レンズが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−075141号公報
【特許文献2】特開2010−271541号公報
【特許文献3】特開2010−026434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に記載の撮像レンズは、F値が2.0と明るいレンズ系であると共に、第1レンズに負の屈折力を持たせることにより、約90°の広い画角を実現している。しかしながら、光学全長は約18mmであり、小型化および薄型化には対応できない。また、全てのレンズ面が球面であるため、収差補正が困難であり、良好な結像性能を得ることは難しい。実際に、開示されている収差図でも球面収差量が大きいことが分かる。さらには、全てのレンズがガラス材料で形成されているため、低コスト化の面においても不利である。
【0010】
上記特許文献2に記載の撮像レンズは、光学全長は5.4mm程度で、撮像素子の有効撮像面の対角線の長さとの比は0.9程度であり、比較的薄型化が実現できている。また、最大画角が70°から75°程度であり、比較的広角化が図られているが、近年の更なる広角化の要求には対応できていない。さらに、F値は2.8程度であり、小型で高画素の撮像素子に十分に対応できる明るいレンズ系であるとはいえない。
【0011】
上記特許文献3に記載の撮像レンズは、F値は2.0から2.5程度の明るいレンズ系を実現しつつ、諸収差を良好に補正している。5枚構成のため、諸収差の補正には有利だが、小型化および薄型化には不利であり、光学全長は7.8mm程度と長く、光学全長と最大像高の比は1.1程度となっている。また、最大画角は62°程度である。従って、特許文献3の撮像レンズにおいても、前述した近年の要求を同時に満足することができない。
【0012】
このように、従来の技術においては、高解像度、小型化、薄型化に対応し、かつ広角化の要求を満足することは困難であった。
【0013】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、最大画角で90°前後の広い画角を実現しつつ、諸収差を良好に補正することが可能であり、5枚構成でありながら、小型、薄型で且つ比較的明るい撮像レンズを低コストで提供することにある。
【0014】
なお、ここでいう薄型とは光学全長が撮像素子の有効撮像面の対角線の長さよりも短いレベルを指しており、広角とは全画角で90°程度のレベルを指している。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による撮像レンズは、固体撮像素子用の撮像レンズであって、物体側から像面側に向かって順に、開口絞りと、正の屈折力を有する第1レンズと、像面側に凹面を向けた負の屈折力を有する第2レンズと、像面側に凸面を向けた正の屈折力を有する第3レンズと、光軸近傍で物体側に凸面を向けたメニスカス形状で両面が非球面の第4レンズと、光軸近傍で像面側に凹面を向けた負の屈折力を有する両面が非球面の第5レンズとで構成され、以下の条件式(1)を満足することを特徴とする。
(1)|r1|>|r2|
ただし、
r1:第1レンズの物体側の面の曲率半径
r2:第1レンズの像面側の面の曲率半径
【0016】
上記構成の撮像レンズは、正の第1レンズ、負の第2レンズ、正の第3レンズで構成された正の合成屈折力のレンズ群と、第4レンズ、第5レンズで構成された負の合成屈折力のレンズ群を配置しており、光学全長の短縮を図るうえで有利な構成としている。
【0017】
第1レンズは、物体側の面の曲率半径を像面側の面の曲率半径より大きく設定しており、従来では達成することができなかったレベルの広角化に対応するものとなっている。すなわち、条件式(1)を満足することによって、広角化を好適に実現するものである。一般に、広角になるほどレンズ周辺部で発生する諸収差の補正が課題になる。第1レンズで発生する球面収差は、第1レンズに適切な非球面を採用することである程度緩和することが可能だが、本発明が目指すレベルの広い画角に対応する場合、第1レンズの非球面の効果だけでは限界が生じる。そのため、残存する球面収差の補正は、第1レンズの像面側に配置された複数のレンズが担うことになる。本発明では、特に第4レンズに形成した非球面の効果により、広い画角であっても十分実用可能な性能を実現可能にしている。
【0018】
第2レンズは、像面側に凹面を向けた負の屈折力を有するレンズであり、主に第1レンズで発生する球面収差および軸上色収差、倍率色収差の良好な補正に寄与している。
【0019】
第3レンズは像面側に凸面を向けた正の屈折力を有するレンズであり、非点収差および像面湾曲の補正に寄与している。
【0020】
第4レンズは、光軸近傍で物体側に凸面を向けたメニスカス形状のレンズであり、物体側の面および像面側の面に適切な非球面形状を形成することで、広角化に伴う球面収差、像面湾曲、歪曲収差の増加を抑制する。主に収差補正用として配置されるレンズであるため、撮像レンズを構成する5枚レンズの中で最も弱いパワーに設定するとともに、レンズ中心部から周辺部に至る有効径の範囲内で、厚みの変化および非球面サグ量の変化が少ない形状となっている。
【0021】
第5レンズは、像面側に凹面を向けた負の屈折力を有するレンズであり、物体側の面および像面側の面に適切な非球面を形成することで撮像素子へ入射する光線の角度を制御する効果を得ている。
【0022】
また、本発明の撮像レンズは以下の条件式(2)を満足することが望ましい。
(2)0.9<ih/f<1.1
ただし、
f:撮像レンズ全系の焦点距離
ih:最大像高
【0023】
条件式(2)は、撮像レンズ全系の焦点距離と最大像高の比を規定するものであり、広角化およびF値2.8以下程度の明るさを実現しつつ、良好な結像性能を実現するための条件である。条件式(2)の下限値を下回ると、最大像高に対して撮像レンズ全系の焦点距離が長くなりすぎ、広角化に不利になる。一方、条件式(2)の上限値を上回ると、最大像高に対して撮像レンズ全系の焦点距離が短くなりすぎ、広角化、小型化、薄型化には有利となるが、画角が広くなりすぎることで、周辺部の良好な収差補正が困難になり、光学性能の劣化が生じる。
【0024】
また、本発明の撮像レンズは以下の条件式(3)を満足することが望ましい。
(3)2.20<|r1/r2|<8.20
ただし、
r1: 第1レンズの物体側の面の曲率半径
r2: 第1レンズの像面側の面の曲率半径
【0025】
条件式(3)は、第1レンズの近軸における面形状を適切に規定するものである。条件式(3)の上限値を上回ると、第1レンズで発生する球面収差が増加する傾向になるとともに、光学全長が長くなる傾向になる。一方、条件式(3)の下限値を下回ると、第1レンズで発生する球面収差は減少する傾向になり、光学全長も短縮する傾向になるが、非点収差が悪化する傾向になる。条件式(3)を満足することで、広角化に伴って発生する第1レンズの収差量を抑制することが可能になる。
【0026】
本発明の撮像レンズは、以下の条件式(4)を満足することが望ましい。
(4)−1.50<f2/f<−1.00
ただし、
f2: 第2レンズの焦点距離
【0027】
条件式(4)は、撮像レンズ全系のパワーに対する第2レンズの負のパワーを規定し、色収差を良好に補正するための条件である。条件式(4)の下限値を下回ると第2レンズの負のパワーが弱くなり過ぎ、色収差の補正が困難になる。一方、条件式(4)の上限値を上回ると第2レンズの負のパワーが強くなり過ぎ、光学全長の短縮が困難となる。
【0028】
本発明の撮像レンズは、以下の条件式(5)を満足することが望ましい。
(5) 0.70<f3/f<1.50
ただし、
f3: 第3レンズの焦点距離
【0029】
条件式(5)は、撮像レンズ全系のパワーに対する第3レンズの正のパワーを規定し、球面収差およびコマ収差を良好に補正するための条件である。条件式(5)の下限値を下回ると第3レンズの正のパワーが強くなり過ぎ、球面収差やコマ収差が増大するため好ましくない。一方、条件式(5)の上限値を上回ると第3レンズの正のパワーが弱くなり過ぎ、光学全長の短縮が困難となる。
【0030】
本発明の撮像レンズにおいて、第4レンズは光軸の近傍では物体側の面が凸面で像面側の面が凹面の最も弱い正の屈折力を有するメニスカス形状のレンズとし、物体側および像面側のそれぞれの面に、有効径の範囲内で光軸上以外の位置に変極点を有する非球面形状に形成することが望ましい。ここで、物体側および像面側の非球面に変極点を形成することは、物体側の面の周辺部および像面側の面の周辺部がともに、変極点を過ぎると物体側へ向かうように変化する形状に形成されることになる。このような非球面形状にすることによって、広角化に伴って増大するレンズ周辺部の歪曲収差、像面湾曲および非点較差を好適に補正することができる。
【0031】
本発明の撮像レンズにおいて、第5レンズは光軸の近傍で像面側の面が凹面で負の屈折力を有するレンズとし、物体側および像面側のそれぞれの面に、有効径の範囲内で光軸上以外の位置に変極点を有する非球面形状に形成することが望ましい。物体側および像面側の非球面に変極点を形成することによって、第4レンズの収差補正効果と併せて歪曲収差および像面湾曲の最終的な補正と共に、撮像素子へ入射する光線の角度を適切な範囲に制御する。また、光軸近傍における像面側の凹面の負のパワーによって、バックフォーカスの確保を容易にしている。なお、第5レンズの光軸近傍の形状は、物体側の面を凸面としたメニスカス形状が望ましいが、物体側の面を凹面とした両凹形状を選択する事も可能である。
【0032】
なお、本発明でいう変極点とは、レンズ面に接する接平面が光軸と垂直に交わる非球面上の点を意味する。
【0033】
また、本発明の撮像レンズは、以下の条件式(6)を満足することが望ましい。
(6) 0.6<TTL/2ih<1.0
ただし、
TTL:フィルタ類を取り外した際の開口絞りから像面までの光軸上の距離
ih:最大像高
【0034】
条件式(6)は、光学全長と最大像高との関係を規定するものである。本発明における広角撮像レンズにおいては、条件式(6)の上限値を上回ると光学全長が長くなりすぎるため、近年要求されるレベルに適応した撮像レンズの薄型化が困難となる。一方、条件式(6)の下限値を下回ると光学全長が短くなりすぎて、諸収差の補正が困難になるとともに、5枚レンズを構成するスペースが狭くなり過ぎる。無理に狭いスペースに構成すれば、製造可能なレンズ厚の確保が困難になる、適切な非球面形状の形成が困難になる、製造時の誤差感度が高くなるなどの問題が生ずる。
【0035】
また、本発明の撮像レンズはすべてプラスチック材料を採用する事が可能であり、その場合、製造が容易になるため低コストでの生産が可能になる。すなわち、高性能な撮像レンズを低コストで提供することが可能になる。さらに、撮像レンズを構成する5枚のレンズは、諸収差をより好適に補正するため、全ての面を非球面で形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0036】
本発明により、従来達成が困難であった広い画角を実現しつつ、諸収差を良好に補正でき、小型化、薄型化に対応可能な、比較的明るい撮像レンズを低コストで得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】実施例1の撮像レンズの概略構成を示す図である。
【
図2】実施例1の撮像レンズの球面収差、非点収差、歪曲収差を示す図である。
【
図3】実施例2の撮像レンズの概略構成を示す図である。
【
図4】実施例2の撮像レンズの球面収差、非点収差、歪曲収差を示す図である。
【
図5】実施例3の撮像レンズの概略構成を示す図である。
【
図6】実施例3の撮像レンズの球面収差、非点収差、歪曲収差を示す図である。
【
図7】実施例4の撮像レンズの概略構成を示す図である。
【
図8】実施例4の撮像レンズの球面収差、非点収差、歪曲収差を示す図である。
【
図9】実施例5の撮像レンズの概略構成を示す図である。
【
図10】実施例5の撮像レンズの球面収差、非点収差、歪曲収差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1、
図3、
図5、
図7、
図9はそれぞれ、本実施形態の実施例1から5に係る撮像レンズの概略構成図を示している。いずれも基本的なレンズ構成は同様であるため、ここでは実施例1の概略構成図を参照しながら、本実施形態の撮像レンズ構成について説明する。
【0039】
図1に示すように、本実施形態の撮像レンズは、物体側から像面側に向かって順に、開口絞りSTと、正の屈折力を有する第1レンズL1と、負の屈折力を有する第2レンズL2と、正の屈折力を有する第3レンズL3と、正の屈折力を有する第4レンズL4と、負の屈折力を有する第5レンズL5とで構成されている。
【0040】
また、第5レンズL5と像面IMとの間には、平行平面板のフィルタIRが配置されている。なお、このフィルタIRは省略することが可能である。フィルタの厚みによって光学系の結像位置は変化するため、本発明における光学全長とは、フィルタを取り外した際の開口絞りから像面までの光軸上の距離として定義している。
【0041】
上記5枚構成の撮像レンズにおいて、第1レンズL1は物体側の面および像面側の面が共に凸面で形成された両面が非球面のレンズであり、第2レンズL2は像面側の面が凹面で形成されたメニスカス形状で両面が非球面のレンズであり、第3レンズL3は像面側の面が凸面で形成されたメニスカス形状で両面が非球面のレンズであり、第4レンズL4は光軸Xの近傍で物体側の面が凸面のメニスカス形状で両面が非球面のレンズであり、第5レンズL5は光軸Xの近傍で像面側の面が凹面のメニスカス形状で両面が非球面のレンズである。
【0042】
第1レンズL1は、物体側の面の曲率半径が像面側の面の曲率半径より大きくなっており、広い画角からの光線を取り込みやすい形状としている。また、両面に形成した非球面によって第1レンズL1で発生する球面収差を補正している。
【0043】
第2レンズL2は、撮像レンズ全系のパワーに対して最適な負のパワーを配分し、両面に形成した非球面によって主に第1レンズL1で発生する球面収差の補正と、軸上色収差、倍率色収差を良好に補正している。
【0044】
第3レンズL3は、撮像レンズ全系のパワーに対して最適な正のパワーを配分し、両面に形成した非球面によって非点収差および像面湾曲を良好に補正している。
【0045】
第4レンズL4は、光軸Xの近傍では物体側の面が凸面で像面側の面が凹面の最も弱い正の屈折力を有するメニスカス形状になっている。物体側および像面側のそれぞれの面は、有効径の範囲内で光軸上以外の位置に一つの変極点を有する非球面形状が形成されている。従って、物体側の面の周辺部および像面側の面の周辺部がともに、変極点を過ぎると物体側へ向かうように変化する形状に形成されている。このような非球面形状は、広角化に伴って増大するレンズ周辺部の歪曲収差、像面湾曲および非点較差を好適に補正する。
【0046】
第5レンズL5は、光軸Xの近傍で像面側の面が凹面で負の屈折力を有するメニスカス形状のレンズになっている。物体側および像面側のそれぞれの面は、有効径の範囲内で光軸上以外の位置に一つの変極点を有する非球面形状が形成されている。従って、物体側の面の周辺部および像面側の面の周辺部がともに、変極点を過ぎると物体側へ向かうように変化する形状に形成されている。このような非球面形状は、第4レンズL4の収差補正効果と併せて歪曲収差および像面湾曲の最終的な補正と共に、像面IMへ入射する光線の角度を適切な範囲に制御する。また、光軸Xの近傍における像面側の面の負のパワーによって、バックフォーカスの確保を容易にしている。なお、第5レンズL5の光軸Xの近傍における形状は、物体側の面を凸面としたメニスカス形状が望ましいが、物体側の面を凹面とした両凹形状を選択する事も可能であり、その際には物体側の面の変極点は不要である。
【0047】
また、本実施形態の撮像レンズは、すべてプラスチック材料を採用しているため、低コストでの大量生産を可能にしている。より具体的には、第1レンズL1、第3レンズL3、第4レンズL4、第5レンズL5にはアッベ数が50から60の範囲の低分散なシクロオレフィン系のプラスチック材料を、第2レンズL2にはアッベ数が20から30の範囲の高分散なポリカーボネート系のプラスチック材料を採用している。第2レンズL2に上述した高分散の材料を選択することで、色収差の良好な補正が図られている。
【0048】
本発明の撮像レンズは、以下の条件式を満足する。
(1)|r1|>|r2|
(2)0.9<ih/f<1.1
(3)2.20<|r1/r2|<8.20
(4)−1.50<f2/f<−1.00
(5)0.70<f3/f<1.50
(6)0.6<TTL/2ih<1.0
ただし、
r1:第1レンズL1の物体側の面の曲率半径
r2:第1レンズL1の像面側の面の曲率半径
ih:最大像高
f:撮像レンズ全系の焦点距離
f2:第2レンズL2の焦点距離
f3:第3レンズL3の焦点距離
TTL:フィルタIR類を取り外した際の開口絞りから像面IMまでの光軸上の距離
【0049】
本実施形態では、すべてのレンズ面を非球面で形成している。これらのレンズ面に採用する非球面形状は光軸方向の軸をZ、光軸に直交する方向の高さをH、円錐係数をk、非球面係数をA4、A6、A8、A10、A12、A14、A16としたとき数式1により表わされる。
【0051】
次に本実施形態に係る撮像レンズの実施例を示す。各実施例において、fは撮像レンズ全系の焦点距離を、FnoはFナンバーを、ωは半画角を、ihは最大像高をそれぞれ示す。また、iは物体側から数えた面番号、rは曲率半径、dは光軸上のレンズ面間の距離(面間隔)、Ndはd線(基準波長)の屈折率、νdはd線に対するアッベ数をそれぞれ示す。なお、非球面に関しては、面番号iの後に*(アスタリスク)の符号を付加して示す。
【実施例1】
【0052】
基本的なレンズデータを以下の表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1の撮像レンズは、表
6に示すように条件式(1)から(6)の全てを満たしている。
【0055】
図2は実施例1の撮像レンズについて、球面収差(mm)、非点収差(mm)、歪曲収差(%)を示したものである。球面収差図は、F線(486nm)、d線(588nm)、C線(656nm)の各波長に対する収差量を示している。また、非点収差図にはサジタル像面S、タンジェンシャル像面Tにおける収差量をそれぞれ示している(
図4、
図6、
図8、
図10においても同じ)。
図2に示すように、各収差は良好に補正されていることが分かる。
【0056】
また、約90°の広い画角を達成し、F値は2.4程度の明るい撮像レンズ系が実現されている。さらに、光学全長TTLは4.20mmと短く、光学全長TTLと最大像高ihとの比(TTL/2ih)が0.74であり、5枚構成でありながら薄型化が実現されている。
【実施例2】
【0057】
基本的なレンズデータを以下の表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
実施例2の撮像レンズは、表
6に示すように条件式(1)から(6)の全てを満たしている。
【0060】
図4は実施例2の撮像レンズについて、球面収差(mm)、非点収差(mm)、歪曲収差(%)を示したものである。
図4に示すように、各収差は良好に補正されていることが分かる。
【0061】
また、約90°の広い画角を達成し、F値は2.4程度の明るい撮像レンズ系が実現されている。さらに、光学全長TTLは4.19mmと短く、光学全長TTLと最大像高ihとの比(TTL/2ih)が0.74であり、5枚構成でありながら薄型化が実現されている。
【実施例3】
【0062】
基本的なレンズデータを以下の表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
実施例3の撮像レンズは、表
6に示すように条件式(1)から(6)の全てを満たしている。
【0065】
図6は実施例3の撮像レンズについて、球面収差(mm)、非点収差(mm)、歪曲収差(%)を示したものである。
図6に示すように、各収差は良好に補正されていることが分かる。
【0066】
また、約90°の広い画角を達成し、F値は2.4程度の明るい撮像レンズ系が実現されている。さらに、光学全長TTLは4.19mmと短く、光学全長TTLと最大像高ihとの比(TTL/2ih)が0.74であり、5枚構成でありながら薄型化が実現されている。
【実施例4】
【0067】
基本的なレンズデータを以下の表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
実施例4の撮像レンズは、表
6に示すように条件式(1)から(6)の全てを満たしている。
【0070】
図8は実施例4の撮像レンズについて、球面収差(mm)、非点収差(mm)、歪曲収差(%)を示したものである。
図8に示すように、各収差は良好に補正されていることが分かる。
【0071】
また、約90°の広い画角を達成し、F値は2.4程度の明るい撮像レンズ系が実現されている。さらに、光学全長TTLは4.24mmと短く、光学全長TTLと最大像高ihとの比(TTL/2ih)が0.74であり、5枚構成でありながら薄型化が実現されている。
【実施例5】
【0072】
基本的なレンズデータを以下の表5に示す。
【0073】
【表5】
【0074】
実施例5の撮像レンズは、表
6に示すように条件式(1)から(6)の全てを満たしている。
【0075】
図10は実施例5の撮像レンズについて、球面収差(mm)、非点収差(mm)、歪曲収差(%)を示したものである。
図10に示すように、各収差は良好に補正されていることが分かる。
【0076】
また、約90°の広い画角を達成し、F値は2.4程度の明るい撮像レンズ系が実現されている。さらに、光学全長TTLは3.89mmと短く、光学全長TTLと最大像高ihとの比(TTL/2ih)が0.68であり、5枚構成でありながら薄型化が実現されている。
【0077】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る撮像レンズは、撮影画角が約90°の広い画角を達成しながら、収差が良好に補正された光学系を可能にする。また、光学全長TTLと最大像高ihとの比(TTL/2ih)は0.74以下を達成するほどの薄型化が図られている。さらにF値は2.4程度の明るい撮像レンズ系の実現を可能にする。
【0078】
表
6に実施例1から5に係る条件式(1)から(6)の値を示す。
【0079】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の各実施の形態に係る5枚構成の撮像レンズは、小型化、薄型化が進むスマートフォンや携帯電話機およびPDA(Personal Digital Assistant)などの携帯端末機器等、さらには、ゲーム機やPCなどの情報端末機器等に搭載される撮像装置に内蔵する光学系に適用した場合、当該カメラの広角化と高性能化を図ることができる。
【符号の説明】
【0081】
ST 開口絞り
L1 第1レンズ
L2 第2レンズ
L3 第3レンズ
L4 第4レンズ
L5 第5レンズ
IR フィルタ
IM 像面