特許第6144996号(P6144996)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6144996
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】偏心揺動型の減速装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20170529BHJP
【FI】
   F16H1/32 A
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-168750(P2013-168750)
(22)【出願日】2013年8月14日
(65)【公開番号】特開2015-36581(P2015-36581A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089015
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 剛博
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】為永 淳
(72)【発明者】
【氏名】志津 慶剛
(72)【発明者】
【氏名】阿部 瞬
【審査官】 塚原 一久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−205377(JP,A)
【文献】 特開2008−044537(JP,A)
【文献】 特開2012−180809(JP,A)
【文献】 実開平04−111946(JP,U)
【文献】 特開2009−204156(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0115518(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/28−1/48、48/00−48/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合する外歯歯車と、該外歯歯車を偏心揺動回転させる偏心体軸と、前記外歯歯車の軸方向一側部に配置されたフランジ部材と、該フランジ部材に連結されると共に前記外歯歯車に設けられた貫通孔を貫通するピン部材と、該ピン部材に外嵌されたローラ部材と、前記外歯歯車の軸方向他側部に配置されたカバー部材と、を備える偏心揺動型の減速装置において、
前記ローラ部材と前記カバー部材との間に、スペーサ部材が配置され、
前記外歯歯車は、前記スペーサ部材を収容する凹部を有し、
前記スペーサ部材の内周および外周の少なくとも一方が、該外歯歯車と接触する
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記外歯歯車と前記スペーサ部材の内周および外周の少なくとも一方との接触が、隙間嵌めによる接触である
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項3】
内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合する外歯歯車と、該外歯歯車を偏心揺動回転させる偏心体軸と、前記外歯歯車の軸方向一側部に配置されたフランジ部材と、該フランジ部材に連結されると共に前記外歯歯車に設けられた貫通孔を貫通するピン部材と、該ピン部材に外嵌されたローラ部材と、前記外歯歯車の軸方向他側部に配置されたカバー部材と、を備える偏心揺動型の減速装置において、
前記ローラ部材と前記カバー部材との間に、スペーサ部材が配置され、
前記外歯歯車と前記スペーサ部材が、一体的に回転する
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記スペーサ部材は、突起部を有し、
該突起部が、前記外歯歯車の貫通孔に嵌合している
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかにおいて、
前記カバー部材は、前記スペーサ部材と当接する突出部を有し、
該突出部は、前記スペーサ部材の内周角部および外周角部とは接触しない
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかにおいて、
前記スペーサ部材の一部が、前記外歯歯車の軸方向側面から軸方向に突出している
ことを特徴とする偏心揺動型の減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型の減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、偏心揺動型の減速装置が開示されている。
【0003】
この減速装置は、内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合する外歯歯車と、該外歯歯車を偏心揺動回転させる偏心体軸とを備える。
【0004】
外歯歯車の軸方向一側部には、フランジ部材が配置されている。フランジ部材には、外歯歯車に設けられた貫通孔を貫通するピン部材が連結されている。ピン部材には、該ピン部材と外歯歯車との摺動を促進させるためのローラ部材が外嵌されている。
【0005】
外歯歯車の軸方向他側部には、減速装置の軸方向側部を覆うカバー部材が配置されている。このカバー部材と前記ローラ部材との間には、位置決めプレート(スペーサ部材)が介在されており、ローラ部材の軸方向の位置規制を、該位置決めプレートによって行っている。
【0006】
特許文献1の減速装置では、この構成により、内歯歯車と外歯歯車との相対回転を、前記ローラ部材およびピン部材を介して該減速装置の出力として取り出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−204156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような構造の偏心揺動型の減速装置にあっては、ローラ部材とカバー部材との間に配置されたスペーサ部材が、該ローラ部材との当接によって摩耗し易いという問題があった。
【0009】
本発明は、このような従来の問題を解消するためになされたものであって、ローラ部材とカバー部材との間に配置されたスペーサ部材が、早期に摩耗してしまうのを抑制することができる偏心揺動型の減速装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、スペーサ部材が早期に摩耗してしまうメカニズムを調査し、その結果得られた知見に基づいてなされた。この知見については、後に詳述する。
【0011】
本発明は、内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合する外歯歯車と、該外歯歯車を偏心揺動回転させる偏心体軸と、前記外歯歯車の軸方向一側部に配置されたフランジ部材と、該フランジ部材に連結されると共に前記外歯歯車に設けられた貫通孔を貫通するピン部材と、該ピン部材に外嵌されたローラ部材と、前記外歯歯車の軸方向他側部に配置されたカバー部材と、を備える偏心揺動型の減速装置において、前記ローラ部材と前記カバー部材との間に、スペーサ部材が配置され、前記外歯歯車は、前記スペーサ部材を収容する凹部を有し、前記スペーサ部材の内周および外周の少なくとも一方が、該外歯歯車と接触する構成とすることにより、上記課題を解決したものである。
【0012】
この構成により、スペーサ部材を外歯歯車の動き(自転および揺動)とほぼ同期させることができるため、スペーサ部材の早期の摩耗をより抑制することができる。
【0013】
また、本発明は、内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合する外歯歯車と、該外歯歯車を偏心揺動回転させる偏心体軸と、前記外歯歯車の軸方向一側部に配置されたフランジ部材と、該フランジ部材に連結されると共に前記外歯歯車に設けられた貫通孔を貫通するピン部材と、該ピン部材に外嵌されたローラ部材と、前記外歯歯車の軸方向他側部に配置されたカバー部材と、を備える偏心揺動型の減速装置において、前記ローラ部材と前記カバー部材との間に、スペーサ部材が配置され、前記外歯歯車と前記スペーサ部材が、一体的に回転する構成とすることにより、同じく上記課題を解決したものである。
【0014】
この構成によれば、スペーサ部材が、外歯歯車の動きと完全に同期して動くため、同様にスペーサ部材の早期の摩耗をより抑制することができる。
【0015】
また、本発明は、内歯歯車と、該内歯歯車に内接噛合する外歯歯車と、該外歯歯車を偏心揺動回転させる偏心体軸と、前記外歯歯車の軸方向一側部に配置されたフランジ部材と、該フランジ部材に連結されると共に前記外歯歯車に設けられた貫通孔を貫通するピン部材と、該ピン部材に外嵌されたローラ部材と、前記外歯歯車の軸方向他側部に配置されたカバー部材と、を備える偏心揺動型の減速装置において、前記ローラ部材と前記カバー部材との間に、スペーサ部材が前記外歯歯車の周方向に間欠的に設けられ、かつ、該スペーサ部材が、前記ピン部材の公転と一体的に公転する構成とすることにより、同じく上記課題を解決したものである。
【0016】
この構成によれば、スペーサ部材を、ピン部材の公転と同期して公転させることができるため、同様にスペーサ部材の早期の摩耗をより抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ローラ部材とカバー部材との間に配置されたスペーサ部材が、早期に摩耗してしまうのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置の構成を示す、一部に要部拡大断面を含む断面図
図2図1の矢視II−II線に沿う断面図
図3】本発明の他の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置を示す、(A)図2相当の断面図、(B)(A)のIIIB−IIIB線に沿う部分断面図、(C)(A)のIIIC−IIIC線に沿う部分断面図
図4図3に示す減速装置のスペーサの部分斜視図
図5】本発明の更に他の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置を示す、(A)図2相当の断面図、(B)(A)のVB−VB線に沿う部分断面図
図6】本発明の更に他の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置を示す、(A)図2相当の断面図、(B)(A)のVIB−VIB線に沿う部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の減速装置12の構成を示す断面図、図2は、図1の矢視II−II線に沿う断面図である。
【0021】
この減速装置12は、内歯歯車14と、該内歯歯車14に内接噛合する外歯歯車16と、該外歯歯車16を偏心揺動回転させる(偏心体軸を構成する)入力軸18と、を備え、内歯歯車14と外歯歯車16との間に生じる相対回転を出力として取り出している。減速装置12は、偏心体軸が内歯歯車14の径方向中央に一本のみ存在する、いわゆる「中央クランクタイプ」と称される偏心揺動型の減速装置である。
【0022】
以下、入力側から順に構成を説明してゆく。
【0023】
入力軸18は、モータ22のモータ軸24と一体化されている(モータ軸24が減速装置12の入力軸を兼ねている)。入力軸18には、キー26を介して2つの偏心体28を備える起振部材30が連結されている。各偏心体28の外周は、入力軸18の軸心O1に対して偏心している。偏心体28の外周には、偏心体軸受32を介して外歯歯車16が偏心揺動回転可能に組み込まれている。すなわち、入力軸18と起振部材30は、一体化されることで外歯歯車16を偏心揺動回転させる偏心体軸を構成している。外歯歯車16は、内歯歯車14に内接噛合している。
【0024】
内歯歯車14は、この実施形態では、ケーシング34と一体化された内歯歯車本体14Aと、該内歯歯車本体14Aに支持された円柱状の支持ピン14Bと、該支持ピン14Bの外周に回転自在に組み込まれ、内歯歯車14の内歯を構成する外ローラ14Cとで主に構成されている。内歯歯車14の内歯の数(外ローラ14Cの数)は、外歯歯車16の外歯の数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
【0025】
外歯歯車16の軸方向一側部には、フランジ部材36が配置されている。フランジ部材36には、圧入孔36Aが形成されており、該圧入孔36Aにピン部材38が圧入によって嵌合・連結されている。このピン部材38は、外歯歯車16に設けられた貫通孔16Aを貫通している。ピン部材38の外周には、ローラ部材40が摺動可能に嵌合(外嵌)されている。ローラ部材40と外歯歯車16の貫通孔16Aとの間には、偏心体28の偏心量の2倍に相当する隙間が確保されている。
【0026】
フランジ部材36は、軸径がより縮小された中間部42を介して、さらに軸径が縮小された出力軸部44と一体化されている。ローラ部材40、ピン部材38、フランジ部材36、中間部42、および出力軸部44は、一体的に回転する大きな出力部材46を構成している。出力部材46は、前記中間部42および出力軸部44において2つの出力軸受48、50を介してケーシング34に回転自在に支持されている。
【0027】
ケーシング34は、軸方向中央に位置するケーシング本体34Aと、ケーシング本体34Aの反負荷側において前記モータ軸24(入力軸18)を支持するカバー(カバー部材)54と、該ケーシング本体34Aの負荷側において前記出力部材46を支持するエンドカバー56と、で主に構成されている。
【0028】
カバー54は、外歯歯車16の一側部に配置され、減速装置12のケーシング34の一部を構成すると共に、モータケーシングの一部を兼ねている。なお、モータ軸24(入力軸18)は、このカバー54とフランジ部材36とにそれぞれ配置された入力軸受60、62によって支持されている。
【0029】
ここで、図1の拡大断面および図2を合わせて参照して、ローラ部材40の軸方向の位置決めに関係する構成について詳細に説明する。図2は、図1の矢視II−II線に沿う断面を示しており、(A)は、外歯歯車16が、図1図2における最も上側に偏心したとき、(B)は、最も下側に偏心したときをそれぞれ示している。
【0030】
ローラ部材40は、既に述べたように、外歯歯車16の貫通孔16Aを貫通しているピン部材38の外周に外嵌している。ローラ部材40は、ピン部材38とは固定されておらず、ピン部材38に対し、周方向に摺動可能であると共に、軸方向にも移動可能である。
【0031】
ローラ部材40の軸方向フランジ部材36側への移動は、該ローラ部材40とフランジ部材36との当接によって規制されている。
【0032】
一方、ローラ部材40の軸方向カバー54側への移動は、以下のような構成によって規制されている。
【0033】
すなわち、ローラ部材40とカバー54との間には、該ローラ部材40の軸方向位置を規制するスペーサ(スペーサ部材)70が配置されている。外歯歯車16は、該スペーサ70を収容する凹部16Dを有している。スペーサ70の外周(外周面70A)は、凹部16Dの外周壁16D1と接触し、スペーサ70の内周(内周面70B)は、凹部16Dの内周壁16D2と接触している。
【0034】
より具体的に説明すると、外歯歯車16の凹部16Dは、該外歯歯車16のカバー54側の側面16Eにリング状に形成されており、当該リングの外周壁16D1の径がD16D1、内周壁16D2の径がd16D2、径方向の寸法がR16、軸方向深さはH16Dである。
【0035】
スペーサ70は、本実施形態では、リング状の平板で構成されている。スペーサ70は、当該平板のカバー54側に、該カバー54の突出部54Aに当接する第1側面70Cを備え、当該平板のローラ部材40側に、該ローラ部材40のカバー側端面40Aに当接する第2側面70Dを備える。スペーサ70の厚みはW70、外径はd70A、内径はD70B、径方向の寸法はR70である。
【0036】
スペーサ70の外径d70Aは、外歯歯車16の凹部16Dの外周壁16D1の径D16D1に対応し、スペーサ70の内周面70Bの径D70Bは、凹部16Dの内周壁16D2の径d16D2に対応し、スペーサ70の径方向の寸法R70は、凹部16Dの径方向の寸法R16に、それぞれ対応している。すなわち、スペーサ70は、凹部16Dに丁度嵌合・接触する寸法で形成されている。なお、本実施形態では、スペーサ70は、鉄系のプレートで形成されており、凹部16Dとの嵌合・接触は、「隙間嵌め」による嵌合・接触とされている。換言するならば、凹部16Dの外周壁16D1の径D16D1は、スペーサ70の外径d70Aよりも若干大きく、かつ、スペーサ70の内周面70Bの径D70Bは、凹部16Dの内周壁16D2の径d16D2よりも若干大きい。
【0037】
なお、スペーサ70は、この実施形態では、外周面70Aおよび内周面70Bの双方とも、凹部16Dの外周壁16D1および内周壁16D2に接触するように構成しているが、凹部16Dとの接触は、外周面70Aおよび内周面70Bのいずれか一方のみであってもよい。また、接触態様についても、一方または双方を、「締まり嵌め」による接触としてもよい。この点については、後述する。
【0038】
また、本実施形態では、外歯歯車16の凹部16Dの軸方向深さH16Dは、スペーサ70の厚みW70よりも小さい(H16D<W70)。すなわち、スペーサ70は、軸方向の一部のみが凹部16Dに収容されており、他の一部は、外歯歯車16の軸方向カバー側の側面16Eよりもカバー54側に突出している。これは、スペーサ70の強度を確保しつつ、外歯歯車16に形成する凹部16Dの軸方向深さH16Dをできるだけ浅く抑え、外歯歯車16の強度が低下するのを抑制することを意図したものである。
【0039】
なお、ピン部材38のカバー側端面38Eとスペーサ70の第2側面70Dとの間には、隙間δ1が確保されている。つまり、ピン部材38は、(製造誤差があっても)スペーサ70の第2側面70Dとは接触しない。
【0040】
図2から明らかなようにスペーサ70の径方向の寸法R70は、外歯歯車16がどのような揺動位置にあっても、スペーサ70の第2側面70Dの一部が、必ずローラ部材40のカバー側端面40Aと当接できる寸法とされている。一方で、このスペーサ70の径方向の寸法R70は、ローラ部材40の外径d40よりも僅かに小さい(d40>R70)。すなわち、スペーサ70は、いかなる揺動位置においても、ローラ部材40のカバー側端面40Aの全面とは、接していない。これは、ローラ部材40の位置規制としては、該ローラ部材40のカバー側端面40Aの一部にスペーサ70が当接していれば足りるため、両部材40、70の摺動抵抗をできるだけ抑制することを意図したためである。なお、スペーサ70のカバー54側の内周角部70F1、70F2、外周角部70K1、70K2は、いずれもほぼ45度の面取りがなされている。
【0041】
一方、カバー54には、軸方向ローラ部材40側にリング状に突出する突出部54Aが設けられ、スペーサ70の第1側面70Cは、該突出部54Aに接触している。具体的には、突出部54Aの先端は軸と直角の平面部54A1とされ、第1側面70Cは、この平面部54A1に当接している。
【0042】
カバー54の突出部54Aは、スペーサ70のカバー54側の内周角部70F1、外周角部70K1のいずれとも、接触していない。
【0043】
次に、本実施形態に係る偏心揺動型の減速装置12の作用を説明する。
【0044】
モータ22のモータ軸24の回転によって、該モータ軸24と一体化されている減速装置12の入力軸18が回転すると、キー26を介して入力軸18と連結されている起振部材30が回転する。起振部材30が回転すると、該起振部材30と一体的に形成されている偏心体28が回転し、入力軸(偏心体軸)18が1回回転する毎に偏心体軸受32を介して外歯歯車16が内歯歯車14に内接噛合しながら1回偏心揺動回転する。この結果、外歯歯車16と内歯歯車14の噛合位置が、順次ずれてゆく現象が発生し、外歯歯車16は、内歯歯車14との歯数差分、すなわち「1歯分」だけ、固定状態にある内歯歯車14に対して相対回転する(自転する)。この自転成分が、ローラ部材40およびピン部材38を介して外歯歯車16の軸方向側部に配置されたフランジ部材36に伝達され、フランジ部材36と一体化されている出力軸部44が回転する。この結果、(内歯歯車14と外歯歯車16の歯数差:この例では1)/(外歯歯車16の歯数)に相当する減速比の減速を実現することができる。
【0045】
この動力伝達のメカニズムから明らかなように、ローラ部材40は、外歯歯車16の内歯歯車14に対する相対回転成分をピン部材38に伝達する際に、ピン部材38の外周で(該ピン部材38に対して)回転しながら、ピン部材38と共に入力軸18の軸心O1の周りを公転する。そのため、従来は、ローラ部材40を位置決めしている部材に、該ローラ部材40の公転軌跡に沿って、周方向に連続する「掻き傷」が形成されてしまうという問題があった(掻き傷の発生は、実際に確認されている)。特に、この実施形態のように、ピン部材38がフランジ部材36から片持ち状態で突出している構造の場合、運転時に掛かる荷重によってピン部材38に曲げモーメントが掛かると、該ピン部材38に外嵌されているローラ部材40の軸心O2も傾いてしまうため、ローラ部材40のカバー側端面40Aも傾いてしまうことから、公転による「掻き傷」の形成に強く影響していたと推測される。
【0046】
また、この「掻き傷」によって発生した摩耗粉が、ピン部材38とローラ部材40との間の摺動面や偏心体軸受32の転動面等に入り込んでこれらの部分の摺動や転動に悪影響を与えてしまうことがあるという、より大きな2次的問題も生じていた。
【0047】
しかしながら、本実施形態によれば、外歯歯車16が、スペーサ70を収容する凹部16Dを有し、スペーサ70の外周面70Aおよび内周面70Bが、該外歯歯車16の凹部16Dの外周壁16D1および内周壁16D2とそれぞれ接触するように構成してある。この構造により、スペーサ70を外歯歯車16の動き(自転および揺動)と「ほぼ同期して回転」させることができ、その結果、ローラ部材40の公転ともほぼ同期することになるため、スペーサ70の摩耗、特に、周方向に連続した「掻き傷」による摩耗の発生を抑制することができる。
【0048】
ここで、「ほぼ同期して回転」という作用について、より具体的に説明すると、本実施形態では、外歯歯車16の凹部16Dの外周壁16D1とスペーサ70の外周面70A、および、凹部16Dの内周壁16D2とスペーサ70の内周面70Bは、いずれも、「隙間嵌め」にて接触している。このため、「隙間嵌め」の隙間の程度にもよるが、スペーサ70は、必ずしも完全に外歯歯車16の自転と同期して回転しないことがある。例えば、ローラ部材40に掛かる負荷が軽くて軸心O2の傾きが殆どなく、スペーサ70とローラ部材40とが小さな面圧で円滑に摺動している場合には、スペーサ70は、外歯歯車16の自転と同期して回転しないことがある。しかしながら、このときは、スペーサ70とローラ部材40との摺動自体が円滑に行われているわけであるから、ローラ部材40の摩耗はほとんど問題とならず、周方向に連続する「掻き傷」も、ほとんど形成されない。
【0049】
一方、例えば、接続されている被駆動部材の負荷が大きいとき等、ローラ部材40の軸心O2が傾いてしまうような状態では、スペーサ70とローラ部材40は高い面圧で摺動し、円周方向に連続する「掻き傷」が形成される要因となってしまう。
【0050】
しかしながら、本実施形態では、スペーサ70とローラ部材40が高い面圧で摺動するようなときは、スペーサ70は、外歯歯車16の自転と同期して容易に回転するため、このような周方向に連続する「掻き傷」が形成されてしまうのが防止される。
【0051】
結局、本実施形態によれば、スペーサ70とローラ部材40との摺動が、低い面圧で円滑に行われている状態においても、また、高い面圧で高抵抗下で行われている状態において、スペーサ70の摩耗は、効果的に防止される。
【0052】
一方、「隙間嵌め」での接触は、a)スペーサ70の凹部16Dへの組み込みが容易になる、b)外歯歯車16には、熱処理が必須であるため、仕上げ加工無しで締まり嵌めの寸法の精度を確保するのは困難であるが、隙間嵌めならば、仕上げ加工をしなくても特に支障はない、等の締まり嵌めでは得られない利点が得られる。そのため、コストをも考慮した現実的な構造という観点では、隙間嵌めで接触させるという構造は、合理的である。
【0053】
また、本実施形態では、スペーサ70の内周角部70F1、70F2および外周角部70Kl、70K2は、いずれも、ほぼ45度の面取りがなされるように構成してある。また、カバー54の突出部54Aは、スペーサ70のカバー54側の内周角部70F1、外周角部70K1のいずれとも、接触していない。これにより、固い素材で形成されたスペーサ70のカバー54側の内周角部70F1や外周角部70K1が、カバー54の突出部54Aの平面部54A1を傷つけてしまう現象(いわゆる「かじり」と称される現象)の発生が防止され、スペーサ70を、カバー54の突出部54Aの平面部54A1に円滑に摺動させることができる。また、スペーサ70の内周角部70F2や外周角部70K2の面取り処理により、ローラ部材40のカバー側端面40Aとスペーサ70の内周角部70F2および外周角部70K2との間に「かじり」等が発生するのを防止して、スペーサ70を、ローラ部材40のカバー側端面40Aに円滑に摺動させることができる。
【0054】
また、スペーサ70は、軸方向の一部のみが凹部16Dに収容されており、他の一部は、外歯歯車16の軸方向カバー側の側面16Eよりもカバー54側に突出している。これにより、スペーサ70の強度を確保しつつ、外歯歯車16に形成する凹部16Dの軸方向深さH16Dをできるだけ浅く抑えると共に、外歯歯車16とローラ部材40との軸方向の接触長さを長く確保することができる。その結果、スペーサ70の全てが外歯歯車16の凹部16Dに入り込む構造と比較して、外歯歯車16の強度が低下するのをより防止すると共に、外歯歯車16とローラ部材40との動力伝達をより確実に行わせることができる。
【0055】
なお、前述したように、スペーサ70の外周面70Aおよび内周面70Bの一方、または双方を、外歯歯車16の凹部16Dと「締まり嵌め」で接触させることもできる。この場合は、スペーサ70は、常に外歯歯車16と一体的に回転(自転および揺動)するため、スペーサ70において周方向に連続する「掻き傷」は、構造的に発生しない。したがって、外歯歯車16とスペーサ70とを完全に一体的に回転させたい場合には、スペーサ70が締まり嵌めによって凹部16Dと接触するように構成するとよい。
【0056】
図3図4に本発明の他の実施形態の一例を示す。
【0057】
外歯歯車とスペーサ部材を完全に一体的に回転させる構成は、上記「締まり嵌め」の構成に限定されない。例えば、図3図4に示された構成でも、外歯歯車とスペーサ部材とを完全に一体的に回転させることができる。
【0058】
図3図4に示された構成では、スペーサ76は、リング状のスペーサ本体76Aと複数の突起部76Bを有している。各突起部76Bは、貫通孔16Aに対応する間隔で形成され、スペーサ本体76Aの径方向寸法R76Aの範囲内において、外歯歯車16の(ピン部材38の貫通する)貫通孔16A内に丁度収容される形状(円の一部を切り欠いた形状)とされている。貫通孔16Aと突起部76Bの接触は、隙間嵌めでも締まり嵌めでもよい(隙間嵌めの方が低コストである)。
【0059】
なお、本実施形態では、スペーサ本体76Aの突起部76Bに対応する位置の裏面に凹部76Cが形成されているが、この凹部76Cは、なくてもよい。
【0060】
外歯歯車16には、そのカバー54側の軸方向側面16Eに凹部16Dが形成され、スペーサ76のスペーサ本体76Aの軸方向のー部は、この凹部16Dに収容されている。そして、外歯歯車16の凹部16Dの外周壁16D1および内周壁16D2に、スペーサ76のスペーサ本体76Aの外周面76A1および内周面76A2が接触している。なお、このスペーサ本体76Aの外周面76A1および内周面76A2の接触も、隙間嵌めでも締まり嵌めでもよい。
【0061】
この構成によれば、外歯歯車16の貫通孔16Aとスペーサ76の突起部76Bとの嵌合により、外歯歯車16と、スペーサ76とを、滑ることなく「一体回転」させることができる。すなわち、スペーサ76は、外歯歯車16の揺動と一体的に揺動し、かつ外歯歯車16の自転と同期して回転する。そのため、スペーサ76は、ローラ部材40の公転とも同期して回転することになるため、該スペーサ76の摩耗が抑制され、特に、周方向に連続した「掻き傷」は、構造的に発生しない。
【0062】
その他の構成は、先の実施形態と同様であるため、図中で同一または類似する部分に同一の符号を付し、重複説明は省略する。
【0063】
なお、図3図4の実施形態においては、スペーサ76は、外歯歯車16の貫通孔16Aに嵌合する突起部76Bを有している。そのため、この突起部76Bと貫通孔16Aとの係合により、スペーサ76は、外歯歯車16の凹部16Dと接触しなくても、外歯歯車16と一体回転することが可能である。したがって、図3図4の構造においては、外歯歯車16については、凹部16Dの形成を省略するようにしてもよい。
【0064】
これにより、外歯歯車16の加工コストをより低減することができる。また、凹部16Dを形成したことによって外歯歯車16の強度が低下するのを抑制できる。さらには、外歯歯車16の軸方向カバー側の側面16Eから突起部76Bが入り込む寸法(深さH16D)をより小さくできるため、その分ローラ部材40と外歯歯車16の貫通孔16Aとの軸方向の接触長さを大きく確保することができ、外歯歯車16とローラ部材40(およびピン部材38)との動力伝達もより確実に行うことができるようになる。
【0065】
図5に、本発明の更に他の実施形態を示す。
【0066】
図5に示した実施形態では、スペーサ90が、外歯歯車82の周方向に間欠的に設けられている。具体的には、スペーサ90は、円形のベース部90Aおよび該ベース部90Aと同軸の突起部90Bを有し、全部で8個用意されている。各スペーサ90は、外歯歯車82に8個形成されている貫通孔82Aに個別に収容されている。具体的には、突起部90Bが、貫通孔82Aに、隙間嵌め、または締まり嵌めによって嵌合している。すなわち、本実施形態に係るスペーサ90は、(複数あるローラ部材40を、纏めて位置規制するのではなく)、各ローラ部材40をそれぞれ個別に位置規制している。
【0067】
この実施形態においても、外歯歯車82には、凹部82Dが形成され、スペーサ90のベース部90Aの軸方向のー部は、この凹部82Dに収容されている。ただし、スペーサ90の外周(外周面)90A1は、該外歯歯車82の凹部82Dには、接触していない。代わりに、スペーサ90の突起部90Bの外周(外周面)90B1が貫通孔82Aの内周面80A1と接触している。
【0068】
この構成によっても、外歯歯車82の貫通孔82Aとスペーサ90の突起部90Bとの嵌合により、外歯歯車82と、スペーサ90とを、滑ることなく「一体回転」させることができる。すなわち、スペーサ90は、外歯歯車82の揺動と一体的に揺動し、かつ外歯歯車82の自転と同期して回転する。
【0069】
なお、この図5の構成についても、外歯歯車82の凹部82Dの形成を省略するように構成し、スペーサ90のベース部90Aを外歯歯車82のカバー側端部82Eと当接させるようにしてもよい。これにより、図3図4の構成において外歯歯車16の凹部16Dの形成を省略した場合と同様な作用効果を得ることができる。
【0070】
なお、図3図5の構造例では、スペーサ部材に、外歯歯車の貫通孔に嵌合する突起部を形成することによって、外歯歯車とスペーサ部材とを一体回転させるようにしていたが、外歯歯車とスペーサ部材とを一体回転させる構造は、図3図5の構造に限定されず、どのような構造としてもよい。例えば、外歯歯車にスペーサ部材を接着するようにしてもよい。
【0071】
また、上記実施形態においては、スペーサ部材(スペーサ70、76、90)が、外歯歯車の動きと、ほぼ、あるいは完全に同期するように構成し、特に、スペーサ部材に円周方向に連続する「掻き傷」が形成されないようにしていた。しかしながら、スペーサ部材の周方向に連続する「掻き傷」は、スペーサ部材を、(外歯歯車と一体的に回転させるのではなく)ピン部材の公転と一体的に回転(公転)させるように構成することによっても実現することができる。
【0072】
この構成例を図6に示す。
【0073】
図6に示す構成例では、ピン部材92の端部の外周(外周面92A)に係合可能なキャップ形状のスペーサ94を被せるようにしている。すなわち、この例も、スペーサ94は、外歯歯車98の周方向に間欠的に設けられていることになる。スペーサ94の円筒部(ピン部材92の外周面92Aと接している部分)94Aのローラ部材96側の端面94Bがローラ部材96のカバー側端面96Aと当接することにより、ローラ部材96の軸方向の位置規制が行われる。ピン部材92の外周面92Aとスペーサ94の円筒部94Aの内周(内周面94C)との接触は、隙間嵌めでも締まり嵌めでもよい(隙間嵌めの方が低コストである)。スペーサ94は、ローラ部材96とカバー54(図6では図示略)との間に配置される。このため、隙間嵌めであっても、ピン部材92から抜け落ちることはない。
【0074】
スペーサ94の円筒部94Aの外径d94は、ローラ部材96の外径d96よりも小さい(d94<d96)。したがって、スペーサ94は、外歯歯車98の貫通孔98Aとは接触していない。しかし、この構成により、スペーサ94は、完全にピン部材92の(入力軸18の軸心O1周りの)公転と同期して回転する。したがって、たとえピン部材92の軸心O2が傾いたとしても、スペーサ94の円筒部94Aのローラ部材96側の端面94Bとローラ部材96のカバー側端面96Aは、互いに傾くことなく同軸で当接することになり、スペーサ94の摩耗が極めて効果的に抑制される。
【0075】
なお、図6の構造例では、ピン部材92の端部の外周(外周面92A)に係合可能なキャップ形状のスペーサ94を被せるようにさせるようにして、スペーサ部材をピン部材の公転と同期させるようにしていた。しかし、スペーサ部材がピン部材と一体的に公転するならば、上記図6の構造例に限定されず、どのような構造としてもよい。例えば、ピン部材とスペーサ部材とを接着するようにしてもよい。
【0076】
なお、スペーサ部材の素材は、上記実施形態では、鉄系の素材が採用されていたが、本実施形態では、構造上、摩耗を小さく抑えることができることから、樹脂等のより安価かつ軽量の素材で形成することも可能である。
【符号の説明】
【0077】
12…減速装置
14…内歯歯車
14A…内歯歯車本体
16…外歯歯車
16A…貫通孔
16D…凹部
16E…カバー側端面
18…偏心体軸(入力軸)
28…偏心体
32…偏心体軸受
34…ケーシング
36…フランジ部材
36B…軸方向外歯歯車側の端面
38…ピン部材
40…ローラ部材
40A…カバー側端面
54…カバー(カバー部材)
54A…突出部
70…スペーサ(スペーサ部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6