(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6145086
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】把持治具及び圧力損失測定装置
(51)【国際特許分類】
B25J 15/08 20060101AFI20170529BHJP
G01N 15/08 20060101ALI20170529BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20170529BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
B25J15/08 S
G01N15/08 A
B01D39/20 D
F01N3/28 Z
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-500964(P2014-500964)
(86)(22)【出願日】2013年2月22日
(86)【国際出願番号】JP2013054620
(87)【国際公開番号】WO2013125711
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2015年11月18日
(31)【優先権主張番号】特願2012-37738(P2012-37738)
(32)【優先日】2012年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】坂下 俊
(72)【発明者】
【氏名】内田 雅之
【審査官】
土岐 和雅
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2009/098958(WO,A1)
【文献】
特開平04−041194(JP,A)
【文献】
特開2010−237170(JP,A)
【文献】
特表平08−507380(JP,A)
【文献】
特開平05−261300(JP,A)
【文献】
特許第4307974(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N15/00〜15/14、B01D39/00〜41/00、B25J1/00〜21/00、F01N3/00〜11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状体を把持する把持治具であって、
筒状の治具基材と、その筒状の治具基材の内周面側に設けられた筒状の伸縮部材と、を有し、
前記筒状の伸縮部材の両端側が、前記筒状の治具基材の両端側に、全周にわたり固定されているとともに、
前記筒状の伸縮部材の内周面の形状が、把持される前記柱状体の外形より小さく、
前記筒状の治具基材の内周面の形状が、把持される前記柱状体の外形より大きく、更に、
前記筒状の治具基材の内周面に、全周にわたる溝が形成され、
前記筒状の伸縮部材がゴムチューブであり、
前記筒状の治具基材の内周面に、全周にわたる凹部が形成されており、
前記凹部の中に前記溝が形成され、
前記溝の中に形成され、前記治具基材を貫通する孔を有する把持治具。
【請求項2】
前記筒状の伸縮部材の内周面の形状が、把持される前記柱状体の外形に対し3〜50%小さい請求項1に記載の把持治具。
【請求項3】
前記筒状の治具基材の内周面の形状が、把持される前記柱状体の外形に対し、1mm超、20mm以下の範囲の差で大きい請求項1又は2に記載の把持治具。
【請求項4】
前記筒状の治具基材の外周面と内周面を貫通する孔と、その孔を開閉する開閉手段と、を有し、前記孔に、前記開閉手段を介して、真空発生手段が接続される請求項1〜3の何れか1項に記載の把持治具。
【請求項5】
前記孔に、前記開閉手段を介して、加圧手段が接続される請求項4に記載の把持治具。
【請求項6】
前記ゴムチューブの材料が、天然ゴムである請求項1〜5の何れか1項に記載の把持治具。
【請求項7】
前記筒状の治具基材の軸長が、把持される前記柱状体の軸長に対し、5mm以上、10mm以下の範囲の差で小さい請求項1〜6の何れか1項に記載の把持治具。
【請求項8】
把持される前記柱状体が、ハニカム構造体である請求項1〜7の何れか1項に記載の把持治具。
【請求項9】
前記ハニカム構造体が、セラミックス製で異形である請求項8に記載の把持治具。
【請求項10】
流体が流入出する流入端面及び流出端面を有する柱状のハニカム構造体を前記流体が通過する際に生ずる、前記流体の圧力損失を測定する圧力損失測定装置であり、
前記ハニカム構造体を保持するハニカム構造体保持手段と、
前記ハニカム構造体を前記流体が通過するように駆動する流体通過手段と、
前記ハニカム構造体を通過する前記流体の流速を計測する流速計測手段と、
前記流体が、前記流速計測手段で計測された流速で前記ハニカム構造体を通過する際に生ずる前記圧力損失を測定する圧力損失測定手段と、
前記四つの手段の相互間を前記流体が通過するようにそれぞれの間を連結する流路と、を備えてなり、
前記ハニカム構造体保持手段として、請求項8又は9に記載の把持治具を用いる圧力損失測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱状体が、異形であり、形状精度が劣り、脆弱性のものであっても、その柱状体を破損させることなく把持することが可能な治具と、その治具で把持された柱状体の圧力損失を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガスを浄化するための触媒を担持する担体として、ハニカム構造体が多用されている。このハニカム構造体は、排ガスに含まれる粒子状物質(パティキュレートマター(PM))を捕集し除去するパティキュレートフィルタ(PF)としても、広く用いられる。そして、そのPFには、ディーゼルエンジン用のDPFやガソリンエンジン用のGPFがある。
【0003】
一般に、ハニカム構造体は、脆弱性のセラミックス製品であり、その外形は多くの場合円柱状を呈し、内部にはその円柱体の2つの端面間を連通するように複数のセルが備わる。そのセルは複数の隔壁によって形成されており、その隔壁は多数の細孔を有する多孔質である。そして、ハニカム構造体がPFとして用いられる場合には、所定のセルの(排ガスの)流入端面及び残余のセルの(排ガスの)流出端面とが、交互に目封じされる。PFとして用いられると、流入端面側からセル内に流入した排ガスは、濾過層として機能する隔壁を経由して、流出端面側から流出される。このとき、排ガス中の粒子状物質は、多孔質の隔壁上に捕捉される。
【0004】
このようなハニカム構造体を用いた触媒やフィルタは、一般に、排ガスの流路(例えば自動車の排気管)に設置される。そのため、排ガスがハニカム構造体を通過する際に抵抗が生じ、エンジンの性能に影響を及ぼす。従って、触媒やフィルタの仕様として、一定の流速下における圧力損失を提示することが求められる。
【0005】
このような事情から、触媒の担体やフィルタそのものであるハニカム構造体の圧力損失を測定する必要が生じる。そして、圧力損失測定に際しては、測定用の排ガスを一定の流速下で流しても測定中に不安定にならないように、測定対象であるハニカム構造体を確りと把持して固定することが必要である。従来、圧力損失の測定及びそのためのハニカム構造体の把持は、例えば特許文献1〜3に開示される手段(従来技術)で行われていた。
【0006】
ところが、近時、ハニカム構造体として、外形が柱状ではあるが円柱状(中心軸に垂直な断面が円形)ではなく断面が異形であって、一体成形品のものが多くなってきた。このような異形のハニカム構造体は、形状(寸法)が、基準となる設計値に対して、±10mm程度、あるいはそれ以上ばらついてしまうことがある。これは、製造に際して、セラミックス材料の焼成過程を経るからである。特に、断面が楕円形の場合には、直角度や捩れ(円周振れ)にかかる狂いが、大きくなり易い。そして、一体成形品の場合、形状を修正する加工を施さないので、上記従来技術では、形状精度の劣るハニカム構造体を把持し、正確に圧力損失を測定することが困難な場合がある。この理由は、圧力損失測定に際しては、測定用の排ガスの全量が漏れなくハニカム構造体を通過するように、気密の状態にして、ハニカム構造体を把持する必要があるところ、従来技術では、形状精度がばらつくハニカム構造体を、優れた気密性で把持することが出来ないためである。従来技術では、把持されるハニカム構造体の形状公差(許容可能な寸法の最大値と最小値の差)は、断面が円形の場合に±2mm程度、断面が異形の場合に±1mm程度が限界であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2807370号公報
【特許文献2】特許第4307974号公報
【特許文献3】特開2010−237170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものである。本発明の課題は、形状精度がばらつき易い異形のハニカム構造体であっても(勿論、断面が円形のハニカム構造体であっても)、気密性よく、把持可能な手段を提供し、それを通じて、形状精度がばらついた広い測定対象(ハニカム構造体)に対し、正確な圧力損失測定を実現することにある。研究が重ねられた結果、以下に示す手段によって、この課題が解決されることが見出され、本発明の完成に至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、先ず、本発明によれば、柱状体を把持する把持治具であって、筒状の治具基材と、その筒状の治具基材の内周面側に設けられた筒状の伸縮部材と、を有し、筒状の伸縮部材の両端側が、筒状の治具基材の両端側に、全周にわたり固定されているとともに、筒状の伸縮部材の内周面の形状が、把持される柱状体の外形(外側の形状)より小さく、筒状の治具基材の内周面の形状が、把持される柱状体の外形(外側の形状)より大きい把持治具が提供される。
【0010】
本発明に係る把持治具においては、上記筒状の伸縮部材の内周面の形状が、把持される柱状体の外形に対し、3〜50%小さいことが好ましい。
【0011】
本発明に係る把持治具においては、既述の通り、筒状の伸縮部材の内周面の形状が、把持される柱状体の外形(外側の形状)より小さい。ここで、筒状の伸縮部材の内周面の形状の、把持される柱状体の外形に対する小ささの程度を、伸縮部材形状比率と呼ぶこととする。そして、筒状の伸縮部材の内周面の形状が把持される柱状体の外形に対し3〜50%小さいことを、伸縮部材形状比率が3〜50%である、と表現する。この伸縮部材形状比率は、筒状の伸縮部材と、把持される柱状体とが、それぞれの断面の形状において相似であるとした場合に、それぞれの断面の形状における中心軸から周までの長さで規定される。その長さは、例えば、断面の形状が円であれば半径、楕円であれば長径と短径である。筒状の伸縮部材及び柱状体の、断面の形状とは、筒状体ないし柱状体の、軸方向に垂直な断面の形状である。筒状の伸縮部材の内周面の形状は、把持される柱状体の外形(外側の形状)より小さいから、筒状の伸縮部材の断面の形状の周長は、把持される柱状体の断面の形状の周長より、短くなる。そして、実際には、例えばゴムチューブ等の伸縮部材は定形体ではないが、伸縮はさせず、面積は一定として、柱状体の断面の形状と相似する形状を想定して、伸縮部材形状比率を算出する。例えば、柱状体が楕円柱体でありその断面が楕円であれば、筒状の伸縮部材の断面も相似する楕円を想定して、伸縮部材形状比率を算出する。
【0012】
本発明に係る把持治具においては、上記筒状の治具基材の内周面の形状が、把持される柱状体の外形に対し、1mm超、20mm以下の範囲の差で大きいことが好ましい。
【0013】
本発明に係る把持治具においては、既述の通り、筒状の治具基材の内周面の形状が、把持される柱状体の外形(外側の形状)より大きい。ここで、筒状の治具基材の内周面の形状の、把持される柱状体の外形に対する大きさの程度(差)を、治具基材形状差と呼ぶこととする。そして、筒状の治具基材の内周面の形状が把持される柱状体の外形に対し1mm超、20mm以下の範囲の差で大きいことを、治具基材形状差が1mm超、20mm以下である、と表現する。筒状の治具基材と、把持される柱状体とは、それぞれの断面の形状において、概ね相似であることを前提として、それぞれの断面の形状における中心軸から周までの長さに基づいて、治具基材形状差が求められる。その長さは、例えば、断面の形状が円であれば半径、楕円であれば長径と短径である。筒状の治具基材及び柱状体の、断面の形状とは、筒状体ないし柱状体の、軸方向に垂直な断面の形状である。筒状の治具基材の内周面の形状は、把持される柱状体の外形(外側の形状)より大きいから、筒状の治具基材の断面の形状の周長は、把持される柱状体の断面の形状の周長より、長くなる。但し、柱状体の外形は、ばらつくことがあり、筒状の治具基材の断面の形状と、把持される柱状体の断面の形状は、厳密に相似である必要はない。筒状の治具基材の内周面の形状は、柱状体を収めることが出来て、好ましくは治具基材形状差が1mm超、20mm以下となるような、形状であればよい。
【0014】
本発明に係る把持治具においては、上記筒状の治具基材の外周面と内周面を貫通する孔と、その孔を開閉する開閉手段と、を有し、孔に、開閉手段を介して真空発生手段が接続されることが好ましい。この孔及び開閉手段が備わる場合に更に、孔に、開閉手段を介して加圧手段が接続されることが好ましい。
【0015】
原始的な開閉手段は、継手と蓋であり、好ましくは、開閉手段として、弁や開閉機能を有する継手(ポート)を採用することが出来る。真空発生手段と加圧手段の両方を接続することも好ましく、その場合には、開閉手段は三方弁であることが好ましい。真空発生手段は、孔において真空を発生可能な手段であればよい。真空発生手段として、例えば、真空ポンプやエゼクタやその他の真空発生器を設けてもよいが、別の場所に設けたそれらに配管で接続させるだけでもよい。同様に、加圧手段は、孔における大気(空気)の圧力を高められる手段であればよい。加圧対象は、最終的に筒状の伸縮部材である。加圧手段として、例えば、コンプレッサやその他の加圧器を設けてもよいが、別の場所に設けたそれらに配管で接続させるだけでもよい。
【0016】
本発明に係る把持治具においては、筒状の治具基材の内周面に、全周にわたる凹部が形成されていることが好ましい。
【0017】
本発明に係る把持治具においては、筒状の治具基材の内周面に、全周にわたる溝が形成されていることが好ましい。
【0018】
本発明に係る把持治具において、上記した孔及び開閉手段は複数組あってもよいが、この溝が形成される場合には、孔及び開閉手段は1組でもよい。この溝の中に上記の孔を設けることが好ましい。
【0019】
筒状の治具基材の内周面に、全周にわたる凹部と、全周にわたる溝との、両方が形成されていることが特に好ましく、その場合には、凹部を形成する面(これも内周面である)に、溝が形成されることになる。
【0020】
本発明に係る把持治具においては、筒状の伸縮部材がゴムチューブであることが好ましい。この場合に、そのゴムチューブの材料が、天然ゴムであることが好ましい。
【0021】
ゴムチューブにはつなぎ目(シーム)は、存在していてもよいが、段差が殆どなく(0.5mm以下)、且つ、そのつなぎ目の引張り強度及び引張りに対する伸び量が、他の部分(つなぎ目以外)と、殆ど同じ(それぞれ±10%以内)であることが必要である。
【0022】
本発明に係る把持治具においては、上記筒状の治具基材の軸長が、把持される柱状体の軸長に対し、5mm以上、10mm以下の範囲の差で小さいことが好ましい。
【0023】
本発明に係る把持治具は、把持される柱状体が、ハニカム構造体である場合に、好適に用いられる。本発明に係る把持治具は、特に、ハニカム構造体が、セラミックス製で異形である場合に、好適に用いられる。
【0024】
本発明に係る把持治具が把持の対象とする柱状体とは、外形が柱状の物体である。そして、本発明に係る把持治具が好適に用いられる柱状体は、内部構造がハニカム構造の柱状体(即ち、上記のハニカム構造体)である。
【0025】
又、異形とは、一般に普通とは異なっている形を意味するが、本明細書にいう異形とは、柱状体の中心軸に垂直な断面が円形ではない、柱状体の形状をいう。柱状体にかかり単に円形あるいは楕円形というとき、柱状体の断面が円形あるいは楕円形であることを意味し、この場合、柱状体の外形は、円柱体あるいは楕円柱体である。
【0026】
次に、本発明によれば、流体が流入出する流入端面及び流出端面を有する柱状のハニカム構造体を流体が通過する際に生ずる、流体の圧力損失を測定する圧力損失測定装置であり、ハニカム構造体を保持するハニカム構造体保持手段と、ハニカム構造体を流体が通過するように駆動する流体通過手段と、ハニカム構造体を通過する流体の流速を計測する流速計測手段と、流体が、流速計測手段で計測された流速でハニカム構造体を通過する際に生ずる圧力損失を測定する圧力損失測定手段と、四つの手段の相互間を流体が通過するようにそれぞれの間を連結する流路と、を備えてなり、ハニカム構造体保持手段として、把持される柱状体がハニカム構造体である場合の本発明に係る把持治具を用いる圧力損失測定装置が提供される。
【0027】
上記した圧力損失測定装置として、例えば特許文献1〜3に開示されている圧力損失測定装置であって、ハニカム構造体を保持する手段として、上記した何れかの把持治具を用いるものを挙げることが出来る。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る把持治具は、柱状体を把持する把持治具である。筒状の治具基材と、その筒状の治具基材の内周面側に設けられた筒状の伸縮部材と、を有し、筒状の伸縮部材の両端側は、筒状の治具基材の両端側に、全周にわたって固定されている。ここで、筒状の伸縮部材及び治具基材の両端側とは、筒状体において開口している両方の端部の側である。筒状の治具基材の内周面側に設けられた筒状の伸縮部材の両端側が、筒状の治具基材の両端側に、全周にわたって固定されているので、筒状の治具基材を基点として、筒状の伸縮部材を伸ばすことが出来る。又、その筒状の伸縮部材と筒状の治具基材の間には、空間が形成される。
【0029】
そして、本発明に係る把持治具では、筒状の伸縮部材の内周面の形状は把持される柱状体の外形より小さく、筒状の治具基材の内周面の形状は把持される柱状体の外形より大きい。そのため、筒状の伸縮部材を伸ばして内周を大きくしておけば、柱状体を、筒状の治具基材の中へ収めることが出来る。その状態で、伸ばした伸縮部材を元へ戻せば、内周面の形状が小さい伸縮部材は、柱状体に圧接することになり、伸縮部材によって柱状体を確りと把持することが可能である。
【0030】
このような本発明に係る把持治具において、筒状の治具基材の内周面の形状を、把持される柱状体の外形より、許容可能な柱状体の寸法の最大値を含むように大きくすれば、柱状体の断面形状が、円形か異形かによらず、又、柱状体が一体成形のセラミック製品であるときの形状精度の良し悪しにも左右されずに、良好な把持を実現することが出来る。そして、伸縮部材の伸縮性(伸縮率、伸縮力)を利用して把持するので、柱状体の
形状公差ないし最大誤差を大きく設定することが出来る。
【0031】
更に、触媒の担体やフィルタそのものであるハニカム構造体は、セラミック製で外壁が薄く、縁が欠け易いものであるが、これが把持される柱状体の場合にも、本発明に係る把持治具は伸縮部材で柱状体を把持するので、破損の可能性は低減される。本発明に係る把持治具は、従来の把持冶具のように、把持される柱状体の端面近傍の周面を部分的に把持するのではなく、筒状の伸縮部材の内周面全体を使って柱状体を把持するので、この点でも、縁は欠け難くなり、破損の可能性は低減される。加えて、筒状の伸縮部材の接触面積を大きく確保することが出来ることから、弱い把持力でも確りと柱状体を把持することが出来る。従って、不用意に大きな把持力の発生による圧縮破損が起こり難い。そして、本発明に係る把持治具では、筒状の伸縮部材の把持面積が広いため、把持される柱状体の周面が波打ったような形状の場合でも、良好に把持することが出来る。
【0032】
本発明に係る把持治具は、その好ましい態様において、上記筒状の伸縮部材の内周面の形状が、把持される柱状体の外形に対し、3〜50%小さいので、伸びた伸縮部材だけで、別途の加圧手段によらずとも、柱状体を把持することが可能である。柱状体を把持する力(把持力)は、伸縮部材形状比率の設定や、伸縮部材の材料の選定(例えばゴムチューブにかかるゴムの伸縮性(伸縮率、伸縮力)、ゴムの機械的強度)によって、調整することが出来る。この把持力は、柱状体への伸縮部材の圧接力(圧力)である。本発明に係る把持治具では、伸縮部材形状比率が3〜50%と広いので、把持対象物である柱状体の強度や質量に応じて、この伸縮部材形状比率を調整し易い。従って、柱状体を把持するために必要な把持力も、容易に調節することが出来る。別途の加圧手段による調節は、必ずしも要さない。又、伸縮部材としては、柱状体を把持した状態においても更に伸び得るものを、採用することが出来る。そうすれば、柱状体が異形の場合に、周面の曲率変化によって、伸縮部材に皺が発生することを、回避可能である。皺の発生は、把持時の柱状体に対する不均一な圧縮応力発生の要因となり得るが、この好ましい態様によれば、これを防げるので、把持力は、柱状体に均一になる。
【0033】
本発明に係る把持治具は、その好ましい態様において、筒状の治具基材の内周面の形状が、把持される柱状体の外形に対し、1mm超、20mm以下の範囲の差で大きいので、その範囲の中心値を、形状の基準値(設計値)とすれば、異形の場合であっても、概ね±10mmの形状公差に対応することが可能である。筒状の治具基材の内周面の形状が把持される柱状体の外形に対し大きいとは、筒状の治具基材と柱状体との間に隙間があるということであり、その隙間を上記の通りの寸法で大きくとることが出来るので、柱状体の脱着作業を容易かつ迅速に行うことが出来る。
【0034】
本発明に係る把持治具は、その好ましい態様において、筒状の治具基材の外周面と内周面を貫通する孔と、その孔を開閉する開閉手段と、を有し、孔に、開閉手段を介して、真空発生手段が接続されるので、柱状体を脱着する際に、筒状の治具基材と筒状の伸縮部材の間の空間を真空にして(負圧にして)、筒状の伸縮部材を筒状の治具基材の表面(内周面)に貼り付けることが出来る。そうすると、柱状体の脱着時に筒状の伸縮部材と柱状体が全く擦れることなく、把持作業を完了させることが出来る。そのため、柱状体に破損(縁の欠け等)が生じ難いとともに、伸縮部材も劣化し難く、頻繁に交換する必要がない。
【0035】
本発明に係る把持治具は、その好ましい態様において、孔に、開閉手段を介して、加圧手段が接続されるので、筒状の治具基材と筒状の伸縮部材の間の空間に、例えば空気を入れて空間を膨らませる(伸縮部材を伸ばす)ことが可能である。従って、柱状体の把持力を、例えば空気圧によって容易に調整することが出来る。そして、柱状体の形状によらず、均一な把持力を安定して発生させ得る。既述の通り、把持力は、伸縮部材形状比率の設定や伸縮部材の材料の選定によって、調整することが出来るけれども、それらで対応出来ない範囲の把持力を発生させるために、この空気圧の印加が有効である。空気圧によれば、伸縮部材形状比率の設定や伸縮部材の材料の選定よりも、把持力を細かく調節することが可能である。又、伸縮部材として柔軟性に優れたゴムチューブを選び、空気圧によって把持力を発生させれば、把持される柱状体の周面に凹凸がある場合でも、その柱状体の表面の形状にゴムチューブを追随させて、周面に対し均一な把持力で、柱状体を把持することが可能である。
【0036】
本発明に係る把持治具は、その好ましい態様において、筒状の治具基材の内周面に、全周にわたる凹部が形成されているので、筒状の伸縮部材を伸縮させ易く、柱状体の把持及び開放(把持しない)動作(合わせて脱着ともいう)を、行い易い。これは、凹部が形成されていると、筒状の伸縮部材を伸ばさなくても、その筒状の伸縮部材と筒状の治具基材の間に空間が形成され、その空間においては、筒状の伸縮部材と筒状の治具基材が密着していないからである。そして、筒状の治具基材の外周面と内周面を貫通する孔は、この空間に通じることになるから、孔を通じて、上記真空発生手段によりこの空間を減圧して、伸縮部材を治具基材の表面(凹部のある内周面)に貼り付けることが出来る。又、孔を通じて、上記加圧手段によりこの空間を加圧して、伸縮部材自体の圧接力に加えて、この加圧力で、伸縮部材を柱状体の周面に圧接することが出来る。
【0037】
本発明に係る把持治具は、その好ましい態様において、筒状の治具基材の内周面に、全周にわたる溝が形成されているので、筒状の伸縮部材を伸縮させ易く、柱状体の把持及び開放動作(脱着)を行い易い。これは、その溝で、常に、筒状の伸縮部材と筒状の治具基材が離隔しているからである。筒状の伸縮部材は、筒状の治具基材の内周面側に設けられるので、凹部がなければ、両者は接している。又、凹部があっても、筒状の治具基材と筒状の伸縮部材の間の空間を真空にして、筒状の伸縮部材を筒状の治具基材の表面に貼り付ける場合がある。このような状態では、筒状の伸縮部材に粘着性があると、筒状の治具基材に粘着してしまって、筒状の伸縮部材を伸縮させ難い。しかしながら、溝が形成されていれば、その溝では筒状の伸縮部材は筒状の治具基材から離れているので、筒状の伸縮部材を伸縮させ易くなる。又、上記加圧手段により空間に空気を入れて加圧する場合に、空気がこの溝を伝わって、全周に回り易くなる。従って、溝が設けられる場合には、孔及び開閉手段はそれぞれ1つ(1組)あればよい。
【0038】
本発明に係る把持治具は、その好ましい態様において、筒状の伸縮部材としてゴムチューブを用いているので、廉価に作製することが出来る。そして、特に好ましい態様において、伸縮部材であるゴムチューブの材料が、表面が粗い天然ゴムであるので、この伸縮部材(天然ゴム)が柱状体の周面に密着し易く、柱状体への圧接力(圧力)が小さくても、良好に柱状体を把持することが出来る。
【0039】
本発明に係る把持治具は、その好ましい態様において、筒状の治具基材の軸長が、把持される柱状体の軸長に対し、5mm以上、10mm以下の範囲の差で大きいので、柱状体の一方の端部(例えば上端面近傍の周面部分)を保持したままの状態で、把持冶具へ柱状体を収めて、把持動作を完了することが出来る。従って、把持させるに際し、柱状体を筒状の治具基材の中へ落とし込むことを回避することが出来、柱状体の他方の端部(例えば下端面部分)を破損させることがない。
【0040】
本発明に係る圧力損失測定装置は、ハニカム構造体保持手段として、本発明に係る把持治具を用いているので、触媒の担体やフィルタそのものであるハニカム構造体の圧力損失を、正確に測定することが出来る。これは、本発明に係る把持治具が、圧力漏れを起こさずに、ハニカム構造体を保持することが出来るからである。例えば、既述の通り、本発明に係る把持治具では、伸縮部材に皺が発生し難い。この皺は圧力漏れの要因になるが、皺の発生を防止することが出来れば気密性は確保され、圧力漏れは起こり難くなる。又、上記の通り、ハニカム構造体(柱状体)の周面が波打っていると、圧力漏れの要因になり易いが、本発明に係る把持治具における伸縮部材の把持面積が広いので、把持される柱状体の周面が波打ったような形状の場合でも、圧力漏れを起こさずに気密性を確保しながら、柱状体を把持することが出来る。更に、ハニカム構造体(柱状体)の周面に凹凸があると、圧力漏れの要因になり易いが、既述の通り、本発明に係る把持治具において、伸縮部材として柔軟性に優れたゴムチューブを選び、空気圧によって把持力を発生させれば、把持される柱状体の周面に凹凸がある場合でも、その柱状体の表面の形状にゴムチューブを追随させて、周面に対し均一な把持力で、柱状体を把持することが可能であるから、圧力損失測定に際し、シール性を保つことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明に係る把持治具の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図2A】本発明に係る把持治具の一の実施形態を模式的に示す断面図であり、
図1における破線Bによる断面を示し、筒状の伸縮部材を伸縮させていない自然な状態を表す図である。
【
図2B】本発明に係る把持治具の一の実施形態を模式的に示す断面図であり、
図1における破線Bによる断面を示し、柱状体を収める際の状態を表す図である。
【
図2C】本発明に係る把持治具の一の実施形態を模式的に示す断面図であり、
図1における破線Bによる断面を示し、柱状体を把持している状態を表す図である。
【
図3A】本発明に係る把持治具の他の実施形態を模式的に示す断面矢視図であり、
図1における矢視AAに相当する断面を示し、柱状体を収める直前の状態を表す図である。
【
図3B】本発明に係る把持治具の他の実施形態を模式的に示す断面矢視図であり、
図1における矢視AAに相当する断面を示し、柱状体を収めた直後の状態を表す図である。
【
図3C】本発明に係る把持治具の他の実施形態を模式的に示す断面矢視図であり、
図1における矢視AAに相当する断面を示し、収めた柱状体を把持している状態を表す図である。
【
図4A】本発明に係る圧力損失測定装置の一の実施形態を模式的に示す構成図である。
【
図4B】本発明に係る圧力損失測定装置の一の実施形態を模式的に示す図であり、一部を拡大して示す斜視図である。
【
図5A】本発明に係る圧力損失測定装置の他の実施形態を模式的に示す図であり、一部を拡大して示す斜視図である。
【
図5B】本発明に係る圧力損失測定装置の他の実施形態を模式的に示す図であり、一部を拡大して示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施の形態について、適宜、図面を参酌しながら説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明の実施の形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は以下に記述される手段である。
【0043】
先ず、
図1及び
図2A〜
図2Cを参照して、本発明に係る把持治具の一の実施形態を示しつつ、その構成について、説明する。
図1及び
図2A〜
図2Cに示される把持治具70は、異形であるハニカム構造体(柱状体)2を把持する把持治具である。把持されるハニカム構造体2は、セラミックス製品であり、中心軸に垂直な断面が楕円形の構造体である。把持治具70は、筒状の治具基材50と、その治具基材50の内周面60の側に設けられた筒状のゴムチューブ(伸縮部材)52と、を有する。把持治具70自体には、ハニカム構造体2は含まれない。
【0044】
筒状の治具基材50は、更に、主基材50aと2つの副基材50bで、構成される。ゴムチューブ52の両端側(
図1及び
図2A〜
図2Cにおける上下の開口側)は、主基材50aと2つの副基材50bに挟まれており、これによって、ゴムチューブ52の両端側は、筒状の治具基材50の両端側に、全周にわたって固定されている。
【0045】
把持治具70において、ゴムチューブ52の内周面62の形状は、把持されるハニカム構造体2の外形より、例えば8%小さい。具体的には、楕円形のハニカム構造体2を把持する把持治具70において、ゴムチューブ52の内周面62の形状も、伸縮させない状態においては楕円形になっている。そして、内周面62の長径がハニカム構造体2の長径より8%小さく、内周面62の短径がハニカム構造体2の短径より8%小さい、ということである。
【0046】
一方、把持治具70において、治具基材50の内周面60の形状は、把持されるハニカム構造体2の外形より、例えば7mm大きい。具体的には、楕円形のハニカム構造体2を把持する把持治具70において、治具基材50の内周面60の形状も楕円形になっている。そして、内周面60の長径がハニカム構造体2の長径より7mm大きく、内周面60の短径がハニカム構造体2の短径より7mm大きい、ということである。このような把持治具70によれば、ハニカム構造体2の形状公差として、±3.5mmを許容する。
【0047】
把持治具70では、治具基材50の外周面61と内周面60を貫通する孔53と、その孔53を開閉可能なポート51(開閉手段)と、を有する。そして、孔53には、ポート51を介して、図示しない真空発生器(真空発生手段)とコンプレッサ(加圧手段)が接続されている。具体的には、図示しないが、ポート51に配管が接続され、そこに三方弁が備わり、分岐する一方の側が真空発生器に接続され、他方の側がコンプレッサに接続される。
【0048】
把持治具70には、治具基材50の内周面60に、全周にわたる凹部55が形成されている。凹部55を形成する面は、内周面60自体である。孔53は、その凹部に開口するように設けられる。そして、孔53は、1箇所に開いているだけであるが、その孔53に接続するように、治具基材50の内周面60(凹部)に、全周にわたる溝54が形成されている。換言すれば、溝54の中に孔53が形成されている、ということである。
【0049】
把持治具70では、治具基材50の軸長は、ハニカム構造体2の軸長に対して、例えば8mm小さい。そのため、大きいハニカム構造体2は、治具基材50から、少しだけ飛び出していて、ハニカム構造体2の上端面を掴んで、ハニカム構造体2を出し入れすることが出来る。
【0050】
続いて、本発明に係る把持治具を使用する方法について、上記した把持治具70の場合を例にして、説明する。既述の通り、把持治具70は、伸縮させない自然の状態におけるゴムチューブ52の内周面62の形状は(
図2Aを参照)、ハニカム構造体2の外形より小さい(
図2A及び
図2Bを参照)。そこで、先ず、上記三方弁を、上記真空発生器が接続される側に操作し、真空発生器を稼動させて、孔53を通じて、治具基材50とゴムチューブ52の間の空間を、真空にする。そうすると、ゴムチューブ52は、外部の方へ吸引されて、治具基材50の表面(凹部55を形成する面)に貼り付き、結果として、ゴムチューブ52の内周は拡がる(
図2Bを参照)。
【0051】
一方、治具基材50の内周面60の形状は、ハニカム構造体2の外形より大きいので(
図2B及び
図2Cを参照)、ゴムチューブ52の内周が拡がった状態であれば、ハニカム構造体2を、治具基材50の中へ収めることが出来る。その後、真空発生器を停止し、一旦、孔53における圧力を大気圧に戻せば、小さいゴムチューブ52は、ハニカム構造体2に圧接し、ハニカム構造体2を把持する。このままでもよいが、上記三方弁を、上記コンプレッサが接続される側に操作し、コンプレッサを稼動させて、孔53から空気を送り込めば、その空気は溝54を伝わって直ぐに全周に行きわたり、治具基材50とゴムチューブ52の間の空間において、圧力が高まる。そうすると、ゴムチューブ52は、ハニカム構造体2へ向けて伸び、より強くハニカム構造体2に圧接し、ハニカム構造体2は確りと把持される。
【0052】
次に、
図3A〜
図3Cを参照して、本発明に係る把持治具の他の実施形態を示しつつ、その構成について、説明する。
図3A〜
図3Cに示される把持治具170は、把持治具70と同じく、異形であるハニカム構造体2を把持する把持治具である。把持治具170は、筒状の治具基材150と、その治具基材150の内周面160の側に設けられた筒状のゴムチューブ152と、を有する。把持治具170自体には、ハニカム構造体2は含まれない。
【0053】
筒状の治具基材150は、更に、主基材150aと2つの副基材150bで、構成される。ゴムチューブ152の両端側(
図3A〜
図3Cにおける上下の開口側)は、主基材150aと2つの副基材150bに挟まれており、これによって、ゴムチューブ152の両端側は、筒状の治具基材150の両端側に、全周にわたって固定されている。
【0054】
把持治具170において、ゴムチューブ152の内周面162の形状は、把持されるハニカム構造体2の外形より、例えば12%小さい。具体的には、楕円形のハニカム構造体2を把持する把持治具170において、ゴムチューブ152の内周面162の形状も、伸縮させない状態においては楕円形になっている。そして、内周面162の長径がハニカム構造体2の長径より12%小さく、内周面162の短径がハニカム構造体2の短径より12%小さい、ということである。
【0055】
一方、把持治具170において、治具基材150の内周面160の形状は、把持されるハニカム構造体2の外形より、例えば12mm大きい。具体的には、楕円形のハニカム構造体2を把持する把持治具170において、治具基材150の内周面160の形状も楕円形になっている。そして、内周面160の長径がハニカム構造体2の長径より12mm大きく、内周面160の短径がハニカム構造体2の短径より12mm大きい、ということである。このような把持治具170によれば、ハニカム構造体2の形状公差として、±6mmを許容する。
【0056】
把持治具170では、治具基材150の外周面161と内周面160を貫通する孔153と、その孔153を開閉可能なポート151(開閉手段)と、を有する。そして、孔153には、ポート151を介して、図示しない真空発生器とコンプレッサが接続されている。具体的には、図示しないが、ポート151に配管が接続され、そこに三方弁が備わり、分岐する一方の側が真空発生器に接続され、他方の側がコンプレッサに接続される。
【0057】
以上のように、把持治具170は、概ね把持治具70と同じ構造を有するが、把持治具170には、治具基材150の内周面160に凹部は形成されておらず、この点で異なる。但し、孔153に接続するように、治具基材150の内周面160(凹部ではない)に、全周にわたる溝154が形成されている点は同じである。
【0058】
把持治具170では、治具基材150の軸長は、ハニカム構造体2の軸長に対して、例えば10mm小さい。そのため、大きいハニカム構造体2は、治具基材150から、少しだけ飛び出していて、ハニカム構造体2の上端面を掴んで、ハニカム構造体2を出し入れすることが出来る。又、把持治具170では、下端に爪部材156が配置される。ゴムチューブ152の伸縮性に基づく把持力は、常にハニカム構造体2へ作用するけれども、ゴムチューブ152の劣化等による破損が急に生じて、把持力を喪失した場合でも、爪部材156によって、ハニカム構造体2の脱落を防止することが出来る。
【0059】
続いて、本発明に係る把持治具を使用する方法について、上記した把持治具170の場合を例にして、説明する。既述の通り、把持治具170は、伸縮させない自然の状態におけるゴムチューブ152の内周面162の形状は(
図3Aを参照)、ハニカム構造体2の外形より小さい(
図3A及び
図3Bを参照)。そこで、先ず、上記三方弁を、上記真空発生器が接続される側に操作し、真空発生器を稼動させて、孔153を通じて、治具基材150とゴムチューブ152の間の空間を、真空にする。そうすると、ゴムチューブ152は、外部の方へ吸引されて、治具基材150の表面(凹部のない内周面)に貼り付き、結果として、ゴムチューブ152の内周は拡がる(
図3A及び
図3Bを参照)。
【0060】
一方、治具基材150の内周面160の形状は、ハニカム構造体2の外形より大きいので(
図3B及び
図3Cを参照)、ゴムチューブ152の内周が拡がった状態であれば、ハニカム構造体2を、治具基材150の中へ収めることが出来る。その後、真空発生器を停止し、一旦、孔153における圧力を大気圧に戻せば、小さいゴムチューブ152は、ハニカム構造体2に圧接し、ハニカム構造体2を把持する。このままでもよいが、上記三方弁を、上記コンプレッサが接続される側に操作し、コンプレッサを稼動させて、孔153から空気を送り込めば、その空気は溝154を伝わって直ぐに全周に行きわたり、治具基材150とゴムチューブ152の間の空間において、圧力が高まる。そうすると、ゴムチューブ152は、ハニカム構造体2へ向けて伸び、より強くハニカム構造体2に圧接し、ハニカム構造体2は確りと把持される。
【0061】
次に、本発明に係る把持治具を作製する方法について、上記した把持治具70の場合を例にして、説明する。この把持治具70は、従来知られた材料を用いて、適宜、加工し、組み立てて、得られる。ゴムチューブ52としては、シリコンゴム等も採用することが出来るが、例えば、市販されている飴色の輪ゴムを輪切りにする前の、ゴムチューブを特に好適に用いることが出来る。これは一般に、天然ゴム製である。治具基材50(主基材50a,副基材50b)は、耐久性に優れていて形状精度を実現し得るものであれば特に材料を限定しないが、鉄、ステンレス、樹脂、及び軽金属(アルミニウム、マグネシウム等)のうちの何れかを用いて加工し、得ることが好ましい。これらの材料によれば、取扱い容易であり、例えば、適用すべき従来の圧力損失測定装置に合わせるように、治具基材50の外形精度を高く保つことが出来る。
【0062】
次に、
図4A及び
図4Bを参照して、本発明に係る圧力損失測定装置の一の実施形態を示しつつ、その構成について、説明する。
図4A及び
図4Bに示される圧力損失測定装置1は、ハニカム構造体保持手段として、上記した把持治具70(治具基材50)を用いている。この圧力損失測定装置1は、流路を備えたハニカム構造体2の、流入端面33aの側と流出端面33bの側との間の、圧力損失を測定可能なものである。
【0063】
圧力損失測定装置1には、把持治具70と組み合わされる本体側把持治具103a、103bが備わる。把持治具70に保持されるハニカム構造体2からみて、本体側把持治具103bの側には、圧力計P1を備えた静圧チャンバ11が設けられ、それを介して流路6につながる。一方、本体側把持治具103aの側には、整流ノズル10が設けられ、それを介してサンプルボックス40につながる。そのサンプルボックス40には、ハニカム構造体2の圧力損失を測定する際の、測定環境を表す物理量(例えば、温度、大気圧等)を計測可能な計測手段が備わる。その一例が、温度計T、圧力計P2である。そして、圧力計P1を備えた静圧チャンバ11と、少なくとも圧力計P2を備えたサンプルボックス40とが、圧力損失測定手段を構成する。
【0064】
圧力損失測定装置1は、ブロワ4を備える。このブロワ4は、ハニカム構造体2を流体(空気)が通過するように駆動する流体通過手段である。ブロワ4は、測定対象となるハニカム構造体2のサイズ、圧力損失の値の大きさ等に応じた性能(回転数(速度)、排気量等)を有するものであればよい。ブロワ4として、回転数をインバータ制御可能なものを用いることが好ましい。又、好ましいブロワ4は、吐出圧力5kPa以上のターボブロワである。流通させる流体(空気)の脈動の発生を抑制することが出来、正確な流速設定、及び測定誤差の少ない圧力損失の測定が可能となるからである。
【0065】
圧力損失測定装置1は、空気の取入れ口となるサンプルボックス40からサイレンサまでを連通する、流路6を備える。この流路6によって、ハニカム構造体保持手段、流体通過手段、流速計測手段、及び圧力損失測定手段の相互間は連結され、それらを空気が通過出来るようになる。又、圧力損失測定装置1は、超音波流量計5を備える。この超音波流量計5は、ハニカム構造体2を通過する空気の流速を計測する流速計測手段である。超音波流量計5の上流側には、整流ハニカム12等の整流手段が配設され、これによって、誤差の少ない安定した流速の計測を行うことが可能である。流体通過手段であるブロワ4の上流側及び下流側には、サイレンサ(吸入サイレンサ14、吐出サイレンサ15)が配設され、ブロワ4の騒音を軽減する。そして、本体側把持治具103a,103b及び本発明に係る把持治具70によれば、端面を塞ぐことがなく、良好に、ハニカム構造体2を保持することが出来る。そのため、より正確に、圧力損失を測定することが可能となる。
【0066】
次に、本発明に係る圧力損失測定装置を使用する方法について、上記した圧力損失測定装置1を用いて、ハニカム構造体2の圧力損失を測定する場合を例にして、説明する。先ず、ハニカム構造体2を把持治具70で把持する。次いで、把持治具70で把持されたハニカム構造体2を、本体側把持治具103a,103bによって、圧力損失測定装置1に組み込む。即ち、本発明に係る把持治具70は、圧力損失測定装置1に組み込まれる場合には、中間治具と位置付けられるものである。次に、ブロワ4を駆動させ、流路6を経由してサンプルボックス40から空気を吸引し、ハニカム構造体2内に空気を通過させ、吐出口13から空気を排出する。このとき、超音波流量計5による空気の流速の計測値をモニタリングし、ブロワ4の回転数を調整する。そして、圧力計P1,P2によって、圧力損失を求めればよい。
【0067】
次に、
図5A及び
図5Bを参照して、本発明に係る圧力損失測定装置の他の実施形態を示しつつ、本発明に係る把持治具と、本体側把持治具と、の組み合わせについて、説明する。
図5A及び
図5Bに示される把持治具270,370(治具基材250,350)は、既述の把持治具70,170(治具基材50,150)に相当するものである。又、
図5A及び
図5Bに示される本体側把持治具203a,203b,303a,303bは、既述の本体側把持治具103a,103bに相当するものである。そして、
図5A及び
図5Bにおいて点線で囲われた部分は、シールされる部分である。
【0068】
図5Aに示されるように、本体側把持治具203a,203bは、それぞれチャック部257を有し、そのチャック部257によって、把持治具270(治具基材250)は固定され、それらの間に、シール部(空間)が生まれる。このように、把持治具270で把持されたハニカム構造体2は、本体側把持治具203a,203bによって、圧力損失測定装置に組み込まれる。この本体側把持治具203a,203bを用いる場合には、シール部(空間)は3箇所になる。
【0069】
一方、
図5Bに示される本体側把持治具では、(図において上側の)本体側把持治具303bはチャック部357を有するが、(図において下側の)本体側把持治具303aはチャック部を有していない。その代わり、
図5Bに示される(本発明に係る)把持治具370の側に、フランジ358が備わる。そのフランジ358を本体側把持治具303aに固定することによって、把持治具370で把持されたハニカム構造体2は、圧力損失測定装置に組み込まれる。尚、本体側把持治具303bの方は、本体側把持治具203a,203bと同様に、チャック部357によって、把持治具370(治具基材350)は固定される。本体側把持治具303a,303bを用いると、シール部(空間)は2箇所になり、本体側把持治具203a,203bを用いる場合より、減少する。そのため、エア漏れのリスクも、本体側把持治具303a,303bを用いた場合の方が、小さくなる。
【0070】
尚、図示を省略するが、(上側及び下側の)両方の本体側把持治具においてチャック部を設けないで、両方の(本発明に係る)把持治具の側にフランジを設けることも、好ましい。この場合、何れの側においても、フランジを本体側把持治具に固定することによって、把持治具で把持されたハニカム構造体が、圧力損失測定装置に組み込まれる。そして、シール部(空間)は1箇所になり、エア漏れのリスクは、最も小さくなる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の把持治具は、あらゆる柱状体を把持する手段として、利用することが出来る。特に、触媒の担体やフィルタそのものである柱状のハニカム構造体を把持する手段として、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1:圧力損失測定装置
2:ハニカム構造体
4:ブロワ
5:超音波流量計
6:流路
10:整流ノズル
11:静圧チャンバ
12:整流ハニカム
13:吐出口
14:吸入サイレンサ
15:吐出サイレンサ
33a:流入端面
33b:流出端面
40:サンプルボックス
50,150,250,350:治具基材
50a,150a:主基材
50b,150b:副基材
51,151:ポート
52,152:ゴムチューブ
53,153:孔
54,154:溝
55:凹部
60,160:(治具基材の)内周面
61,161:(治具基材の)外周面
62,162:(ゴムチューブの)内周面
70,170,270,370:把持治具
103a,103b,203a,203b,303a,303b:本体側把持治具
156:爪部材
257,357:チャック部
358:フランジ
P1,P2:圧力計
T:温度計