(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6145097
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】強化された熱管理のための合成エステルに基づく誘電性流体組成物
(51)【国際特許分類】
H01B 3/20 20060101AFI20170529BHJP
【FI】
H01B3/20 K
H01B3/20 N
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-533676(P2014-533676)
(86)(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公表番号】特表2015-501507(P2015-501507A)
(43)【公表日】2015年1月15日
(86)【国際出願番号】US2012057291
(87)【国際公開番号】WO2013049170
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年7月23日
(31)【優先権主張番号】61/541,572
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】スー・ジュン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ダーク・ビー・ツィンクウェッグ
(72)【発明者】
【氏名】ゼノン・リセンコ
【審査官】
近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2005/022558(WO,A1)
【文献】
特開平08−092581(JP,A)
【文献】
特開昭59−161431(JP,A)
【文献】
特開2002−146380(JP,A)
【文献】
特開昭59−065043(JP,A)
【文献】
米国特許第05958851(US,A)
【文献】
米国特許第06583302(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 3/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
官能基化12−カルボキシメチルステアリン酸メチルを含む、電気器具のための誘電性流体組成物であって、
前記官能基化12−カルボキシメチルステアリン酸メチルが、
(a)400ダルトン(Da)〜10,000Daの数平均分子量;
(c)25℃において0.2パーセント未満の散逸率;
(d)250℃より高い燃焼点;
(e)40℃において35センチストーク未満の動粘性率;
(f)−30℃未満の流動点;
(g)0.03mg KOH/g未満の酸性度;および
(h)それらの組み合わせ
から選択された少なくとも1の性質を有し、
前記官能基化12−カルボキシメチルステアリン酸メチルが、
(i) 12−ヒドロキシメチルステアリン酸メチルと直鎖または分岐鎖状のC3〜C20アルコールとをヒドロキシメチルエステルを形成するために適切な条件下で反応させ、
(ii)得られたヒドロキシメチルエステルと、直鎖および分岐鎖状のC4〜C20遊離酸塩化物、脂肪酸、カルボン酸無水物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されたカルボン酸とを反応させること
を含む方法によって製造される、
前記誘電性流体組成物。
【請求項2】
前記官能基化12−カルボキシメチルステアリン酸メチルが、1重量パーセント〜100重量パーセントの範囲の量において存在する、請求項1に記載の前記誘電性流体組成物。
【請求項3】
前記官能基化12−カルボキシメチルステアリン酸メチルが、30重量パーセント〜90重量パーセントの範囲の量において存在する、請求項1または2に記載の前記誘電性流体組成物。
【請求項4】
天然のトリグリセリド;遺伝子的に改質された天然油;別の合成エステル;鉱油;ポリアルファオレフィン;藻の油;またはこれらの組み合わせをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の前記誘電性流体組成物。
【請求項5】
前記数平均分子量が400ダルトン〜5,000ダルトンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の前記誘電性流体組成物。
【請求項6】
(a)12−ヒドロキシメチルステアリン酸メチルと直鎖または分岐鎖状のC3〜C20アルコールとをヒドロキシメチルエステルを形成するために適切な条件下で反応させ、
(b)前記ヒドロキシメチルエステルと、直鎖および分岐鎖状のC4〜C20遊離酸塩化物、脂肪酸、カルボン酸無水物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されたカルボン酸とを、官能基化12−カルボキシメチルステアリン酸メチルを形成するのに適切な条件下で反応させることを含む、誘電性流体組成物を製造する方法。
【請求項7】
前記アルコールがC8〜C10アルコールからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記カルボン酸が、直鎖および分岐鎖状のC8〜C10脂肪酸およびカルボン酸無水物から選択される、請求項6または7に記載の前記方法。
【請求項9】
前記カルボン酸が、直鎖および分岐鎖状のC8〜C10遊離酸塩化物から選択される、請求項6〜8のいずれか1項に記載の前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は「強化された熱管理のための合成エステルに基づく誘電性流体組成物」という標題の、2011年9月30日に出願された米国仮特許出願第61/541,272号からの優先権を主張する、非仮出願であり、該仮出願の教示は参照することにより、あたかも以下に完全に再現されているように本明細書に取り込まれる。
【0002】
本発明の分野
本発明は変圧器の熱管理のために使用される誘電性流体の分野に特に関する。より詳細には、本発明は、変圧器および他の器具のための電気的な絶縁および/または熱放散の両方を与える、改良された組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
変圧器の熱管理は変圧器操作の安全性のために重要であることが公知である。慣用の変圧器は相対的に高い温度において効率的に稼働するが、過剰な熱は変圧器の寿命にとって有害である。これは、変圧器はエネルギーを与えられた成分または導電体が、他の部品、導電体または内部の回路と接触することまたは弧絡することを防止するために使用される電気的絶縁体を含むからである。一般的に、絶縁体が受ける温度が高ければ高いほど、その寿命は短い。絶縁が失敗すると、時々火事をもたらす内部の不良またはショートが起こり得る。
【0004】
過剰な温度上昇および早すぎる変圧器の故障を防ぐために、変圧器は一般的に液状の冷却剤で満たされており、通常の変圧操作の間に発生される相対的に大量の熱を放散させる。冷却剤は、誘電性媒体として変圧器の部品を電気的に絶縁するためにもまた機能する。該誘電性流体は、多くの用途において20年を超える、伝達(transfer)の耐用年数のために、冷却することができかつ絶縁することができなければならない。該誘電性流体は対流により変圧器を冷却するので、誘電性流体の効率を決定する上で、種々の温度における誘電性流体の粘度は重要な因子の一つである。
【0005】
鉱油は、ある程度の熱および酸化安定性を提供し得るので特に、種々の誘電性配合物において試されてきた。しかし、不幸なことに、鉱油は環境にやさしくないと考えられており、場合によっては摂氏150度(℃)もの低さである、許容できないほどに低い燃焼点を示し得るが、該燃焼点は、望ましくないことに、誘電性流体がある用途たとえば変圧器における使用の間に暴露される可能性のある最高温度に近い。その低い燃焼点のために、研究者らは代替の誘電性物質を探してきた。
【0006】
この、代替物の探究において、植物油が、環境にやさしく、望ましく高い燃焼点(150℃よりかなり高い)および望ましい誘電性という所望される特徴を示す誘電性媒体として早くから特定されていた。植物油は、短期間内に生分解され得る。最後に、植物油は固体の絶縁物質との強化された相溶性を提供し得る。
【0007】
代替品を探している研究者らはたくさんの可能性のある流体を特定してきた。たとえば米国特許第6,340,358号明細書(Cannonら)は、環境にやさしく、高い引火点および高い燃焼点を有する植物油をベースとする電気的に絶縁する流体を記載している。ベースの油は該油の最高の可能な酸化および熱安定性を作りだすために水素化されている。植物油はたとえば大豆、ひまわり、キャノーラ、およびコーン油から選択される。
【0008】
米国特許出願公開第2008/0283803号明細書は、精製され、漂白され、脱ろうされ、脱臭された少なくとも1の植物油および少なくとも1の抗酸化剤を含む誘電性組成物を記載している。該誘電性流体は、生物をベースとする物質であるところの、少なくとも1の合成エステルをさらに含む。該特許は、用語「合成エステル」を(1)生物をベースとするまたは石油に由来するポリオールと(2)生物をベースとするまたは石油に由来する直鎖または分岐鎖状の有機酸との反応により製造されるエステルを意味すると定義している。用語「ポリオール」は、2以上のヒドロキシル基を有するアルコールを意味する。該生物をベースとする、含まれる合成エステルの適切な例は、ポリオールを、植物油たとえばヤシ油から誘導された、C8〜C10の炭素鎖の長さを有する有機酸と反応させることにより製造されたものである。合成エステルは、C7〜C9の基を有する合成のペンタエリスリトールエステルもまた含む。合成エステルを作るために有機酸と反応させるための他の適切なポリオールは、ネオペンチルグリコール、ジペンタエリスリトール、およびe−エチルヘキシル、n−オクチル、イソオクチル、イソノニル、イソデシル、およびトリデシルアルコールを含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらおよびたくさんの研究者による努力にもかかわらず、経済的な実行可能性および生分解の可能性とともに所望される性質の組み合わせを有する誘電性流体を開発する必要性がまだある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一つの態様において、本発明は、400ダルトン(Da)〜10,000Daの数平均分子量(Mn)、20キロボルト/1mmギャップ(kV/mm)より高い絶縁破壊強度、25℃において0.2パーセント(%)未満の散逸率(dissipation factor)、250℃より高い燃焼点、40℃において35センチストーク(cSt)未満の動粘性率、−30℃未満の流動点(pour point)、および試料1グラム当たり0.03ミリグラム水酸化カリウム(mg KOH/g)未満の酸性度、並びにそれらの組み合わせから選択された少なくとも1の性質を有する、官能基化された12−カルボキシメチルステアリン酸メチルを含む、電気器具のための誘電性流体組成物である。
【0011】
別の態様において、本発明は、(a)12−ヒドロキシメチルステアリン酸メチルと直鎖または分岐鎖状のC3〜C20アルコールとをヒドロキシメチルエステルを形成するために適切な条件下で反応させ、(b)該ヒドロキシメチルエステルと、直鎖および分岐鎖状のC4〜C20遊離酸塩化物、脂肪酸、カルボン酸無水物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されたカルボン酸とを、官能基化された12−カルボキシメチルステアリン酸メチルを形成するのに適切な条件下で反応させることを含む、誘電性流体組成物を製造する方法である。
本願明細書中に示される発明の具体例として、以下の発明が挙げられる。
[1] 官能基化された12−カルボキシメチルステアリン酸メチルを含む、電気器具のための誘電性流体組成物において、
(a)400ダルトン(Da)〜10,000Daの数平均分子量;
(b)20キロボルト/1mmギャップより高い絶縁破壊;
(c)25℃において0.2パーセント未満の散逸率;
(d)250℃より高い燃焼点;
(e)40℃において35センチストーク未満の動粘性率;
(f)−30℃未満の流動点;
(g)0.03mg KOH/g未満の酸性度;および
(h)それらの組み合わせ
から選択された少なくとも1の性質を有する、前記誘電性流体組成物。
[2] 前記官能基化された12−カルボキシメチルステアリン酸メチルが、1重量パーセント〜100重量パーセントの範囲の量において存在する、[1]に記載の前記誘電性流体組成物。
[3] 前記官能基化された12−カルボキシメチルステアリン酸メチルが、30重量パーセント〜90重量パーセントの範囲の量において存在する、[1]または[2]に記載の前記誘電性流体組成物。
[4] 天然のトリグリセリド;遺伝子的に改質された天然油;別の合成エステル;鉱油;ポリアルファオレフィン;藻の油;またはこれらの組み合わせをさらに含む、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の前記誘電性流体組成物。
[5] 前記数平均分子量が400ダルトン〜5,000ダルトンである、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の前記誘電性流体組成物。
[6] (a)12−ヒドロキシメチルステアリン酸メチルと直鎖または分岐鎖状のC3〜C20アルコールとをヒドロキシメチルエステルを形成するために適切な条件下で反応させ、(b)前記ヒドロキシメチルエステルと、直鎖および分岐鎖状のC4〜C20遊離酸塩化物、脂肪酸、カルボン酸無水物、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されたカルボン酸とを、官能基化された12−カルボキシメチルステアリン酸メチルを形成するのに適切な条件下で反応させることを含む、誘電性流体組成物を製造する方法。
[7] 前記アルコールがC8〜C10アルコールからなる群から選択される、[6]に記載の方法。
[8] 前記カルボン酸が、直鎖および分岐鎖状のC8〜C10脂肪酸およびカルボン酸無水物から選択される、[6]または[7]に記載の前記方法。
[9] 前記カルボン酸が、直鎖および分岐鎖状のC8〜C10遊離酸塩化物から選択される、[6]〜[8]のいずれか1項に記載の前記方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1〜
図4は、本発明に係る化学式である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は電気器具の熱管理に有用であり、かつ種々の望ましい性質を有する誘電性流体組成物を提供する。これらの性質は、特定かつ非制限的な実施態様においては、20キロボルト/mmギャップ(kV/mm)より高い絶縁破壊強度、25℃において0.2パーセント(%)未満の散逸率、250℃より高い燃焼点、40℃において35センチストーク(cSt)未満の動粘性率、−30℃の流動点、および試料1グラム当たり0.03ミリグラム水酸化カリウム(mg KOH/g)未満の酸性度を含み得る。さらに、それは400ダルトン(Da)〜10,000Daの範囲の数平均分子量(Mn)を有し、該分子量は目標とする用途において有用である粘度を保証することを助ける。これらの性質を測定するために使用される米国材料試験協会(ASTM)標準は、以下の表1に示される。
【表1】
【0014】
本誘電性流体組成物は、市販入手可能な製品12−ヒドロキシメチルステアリン酸メチル(以下「HMS」と略記される)から出発して、または、予備製造段階においては、一般的に公知であり広く入手可能な植物油である大豆油から出発して、製造され得る。大豆油は、かなりの量の不飽和酸、たとえば、特に、オレイン酸、リノール酸、およびリノレン酸(これらはすべて18の炭素原子を含む)、を含む。大豆油は、相対的により少ない量の飽和脂肪酸、たとえばステアリン酸(これはまた別の18炭素鎖化合物である)および16炭素鎖化合物であるパルミチン酸、をもまた含む。不飽和酸は
図1に示される。
【0015】
これらの飽和および不飽和物質は、ハイドロホルミル化(あるいはオキソプロセスまたはオキソ合成として公知である)および連続する水素化により、ヒドロキシルを有する脂肪酸に転化され得る。たとえば不飽和脂肪酸であるオレイン酸は、
図2に示されるような、本発明に先立って行われるハイドロホルミル化と水素化との一連の手順により、転化され得、本発明における出発物質として使用されるHMSを形成する。
【0016】
しかし、ハイドロホルミル化反応には基本的に選択性がないので、結果は、C−9およびC−10炭素が同等にハイドロホルミル化され、その結果、続く水素化から2つのアルコールの混合物が製造されるということであることに留意されたい。これは、それぞれ、リノール酸メチルがハイドロホルミル化および水素化されると、最終的に4つの化合物が製造されるが、リノレン酸メチルがハイドロホルミル化および水素化されると、6つの化合物が得られることを意味する。HMS化合物のこの混合物は本発明の出発物質としてそのまま使用され得るか、または、該混合物が含む単官能性オレインおよび二官能性リノレン脂肪エステルは容易に分離されて、それぞれ出発のHMSとして使用され得る。
【0017】
HMSがひとたび調達または製造されると、それは本発明の方法の最初の段階において使える状態である。この段階はHMSのエステル交換を含み、HMSはヒドロキシメチルエステルを形成する適切な条件下で直鎖または分岐鎖状のC3〜C20アルコールと反応される。より好ましい実施態様では、このアルコールまたは分岐鎖状のアルコールはC6〜C12、より好ましくはC8〜C10、のアルコールであってもよい。この反応のより好ましい条件は化学量論的過剰量のアルコール、より好ましくは、HMSに対する化学量論的量の3〜6倍、最も好ましくは4〜6倍を含む。たとえば、ナトリウムまたはカリウム塩基、たとえばナトリウムメトキサイド(NaOCH
3);アルキルスズオキシド、たとえばトリn−ブチルスズオキシドまたはジブチルスズジラウレート;チタン酸エステル;および酸たとえば塩酸または硫酸から選択される効果的なエステル交換触媒;100℃〜200℃、より好ましくは120℃〜190℃、最も好ましくは140℃〜180℃の範囲の温度;大気圧;および生成物を分離および精製するための薄膜式エバポレーター(WFE)、を使用することもまた望ましい。方法についての採用可能な変形は、本明細書に含まれる実施例から理解可能であるが、これらは単なる例示である。
【0018】
一旦、ヒドロキシメチルエステルが製造されると、たとえばHMSおよび2−エチルヘキサノールの反応が9/10−ヒドロキシメチルステアリン酸2−エチルヘキシルであるエステル交換生成物を与え、またはHMSと2−エチルヘキサノールとの反応が、9/10−ヒドロキシメチルステアリン酸2−エチルヘキシルであるエステル交換生成物を与える、次に、第二のプロセス工程において、それをエステル化剤またはキャッピング剤(直鎖または分岐鎖状のC4〜C20、好ましくはC6〜C12,より好ましくはC8〜C10のカルボン酸である)と反応させることよりエステル化される。この酸は、遊離酸の塩化物、脂肪酸塩化物、カルボン酸無水物およびそれらの組み合わせから選択される。この第二の段階の目的は、官能基化すること、すなわち遊離のヒドロキシ基の末端をキャップし、そうすることにより、より高い燃焼点を与えながら、分岐を増やす。
【0019】
この第二の段階が適切な条件下で行われるとき、結果はHMSに基づくキャップされたオキシアルカン酸エステルである。たとえばもしヒドロキシメチルエステルがステアリン酸2−エチルヘキシルであり、第二の段階のエステル化(すなわちキャッピング)が酸塩化物、たとえばデカン酸クロリド、を使用して行われるならば、結果は9/10−メチルオキシデカノイルステアリン酸2−エチルヘキシルである。もしヒドロキシメチルエステルがステアリン酸2−エチルオクチルであり、かつ第二段階のエステル化がオクタン酸クロリドを使用して行われるならば、結果は9/10オキシオクタノイルステアリン酸2−エチルオクチルである。もしヒドロキシメチルエステルがステアリン酸2−エチルオクチルであり、第二段階エステル化がイソ酪酸無水物を使用して行われるならば、結果は9/10−オキシイソ酪酸ステアリン酸2−エチルオクチルである。当業者は、選択されるダイマー(すなわちヒドロキシメチルエステル)およびキャッピング剤によって、本発明には他に様々な実施態様があること、並びに、本明細書の実施例は説明の目的のためだけに与えられており、いかなる意味においても本発明の完全な範囲を示すことを意図されていないことを理解する。
【0020】
この第二段階の反応のための好ましい条件は化学量論的小過剰(好ましくは、1モルパーセント(モル%)〜10モル%、より好ましくは0.5モル%〜5モル%、最も好ましくは0.1モル%〜0.2モル%)のキャッピング剤を含む。効果的なエステル交換触媒、たとえば、ナトリウムまたはカリウム塩基、たとえばナトリウムメトキサイド(NaOCH
3);アルキルスズオキシド、たとえばトリn−ブチルスズオキシド;またはジブチルスズジラウレート;チタン酸エステル;および酸たとえば塩酸または硫酸から選択されるもの;100℃〜200℃、より好ましくは120℃〜190℃、最も好ましくは140℃〜180℃の範囲の温度;大気圧;および任意の適切な蒸発手段たとえば蒸発WFEを使用することもまた望ましい。商業規模においては、遊離のカルボン酸、たとえばデカン酸、は脂肪酸塩化物または酸無水物より、より経済的であり得る。方法についての採用可能な変形は、本明細書に含まれる実施例から理解可能であるが、これらは単なる例示である。
【0021】
以下の
図3および
図4は、本方法が不飽和酸、たとえばオレイン酸、のハイドロホルミル化および水素化から始まる本発明で得られうる2つの生成物を説明するために与えられる。単なる例示として、
図3は10−メチルオキシデカノイルステアリン酸2−エチルヘキシルを示す。
図4は、9−メチルオキシデカノイルステアリン酸2−エチルヘキシルを示す。両方の化合物は、本発明の方法が記載されたように、かつ記載された物質を使用して行われたときに典型的に含まれる。そのような近い関係にある誘導体生成物の組み合わせの存在は多くの場合、燃焼点温度のかなりの上昇および流動点温度の低下に貢献する。たとえば
図3および
図4に示されている化合物を組み合わせること、それはリノレン酸メチルのハイドロホルミル化の結果として前もって組み合わされ得る、は2つのアルコールをもたらし、所望される組み合わせの誘電性流体組成物の簡単な製造を可能にする。
【0022】
これらの物質の組み合わせは、2段階反応の連続の生成物として本発明に従って製造された誘電性流体組成物において、−30℃未満の流動点を有し、305℃の燃焼点を性質として示し得る。
【0023】
本明細書に記載されたように製造されたとき、上記に記載された方法により製造された新規な組成物は高度に所望される性質を示し得る。たとえばそれらは、400ダルトン(Da)〜10,000Da、好ましくは500Da〜5,000Daの数平均分子量(Mn);20キロボルト/1mmギャップ(kV/mm)より高い、好ましくは25kV/mmギャップより高い絶縁破壊;25℃において0.2パーセント(%)未満、好ましくは25℃において0.1パーセント(%)未満の散逸率;250℃より高い、好ましくは300℃より高い燃焼点(または引火点と呼ばれる);40℃において35cSt未満、好ましくは40℃において30cSt未満の動粘性率;−30℃未満、好ましくは40℃未満の流動点;および/または0.03mg KOH/g未満、好ましくは0.025mgKOH/g未満の酸性度を有し得る。
【0024】
本発明の誘電性流体組成物のさらなる利点は、それらが未希釈で、すなわち用途、たとえば変圧器内、において使用される誘電性流体の100重量パーセント(重量%)において使用され得ること、もしくは、1重量%〜100重量%の範囲のレベルにおいてそのような用途のための種々の他の誘電性流体と組み合わされ得るおよびそれらと相溶性であり得ることである。特定の実施態様では、本発明の組成物は、30重量%〜90重量%のそのような組み合わせ流体、より好ましい実施態様ではそれは40重量%〜90重量%、最も好ましくは50重量%〜90重量%を含み得ることが好ましい。
【0025】
本発明の誘電性流体組成物と組み合わされ得る追加の誘電性流体は、非制限的な例において、天然のトリグリセリドたとえばひまわり油、キャノーラ油、大豆油、パーム油、菜種油、綿実油、コーン油、ヤシ油、および藻類油;遺伝子的に改質された天然油、たとえば高オレインひまわり油、および高オレインキャノーラ油;合成エステルたとえばペンタエリスリトールエステル;鉱油たとえばUniVolt(商標)電気絶縁油(エクソンモービルより入手可能);ポリアルファオレフィン類、500Da〜1200Daの範囲のMn値を有する、たとえばポリエチレン−オクテン、−ヘキサン、−ブチレン、−プロピレンおよび/または−デカレン分岐鎖状、ランダムコポリオリゴマー類;およびこれらの組み合わせを含む。追加の誘電性および/または非誘電性流体を含めることは性質をかなり変更すること、したがってその効果は目標とされる用途にしたがって考慮に入れられるべきであることは当業者には自明である。
【0026】
本発明の誘電性流体組成物の利点の中には、それらは生分解性であること、再生可能な資源から得られること、および一般的に、環境にやさしいものとして分類されることがある。さらに、それらの相対的に高い燃焼点のため、それらはそれらの誘電性競合者の多くより一般的に引火性が低い。また、それらは良好な熱および加水分解に対する安定性を示すので、絶縁系の寿命を延ばすのに役立ち得る。
【実施例】
【0027】
実施例1:HMS/ME−810(オクタン酸およびデカン酸の約50:50重量%の配合物)
第1日:800.06グラムのHMSが3000ミリリットル(mL)の三口丸底フラスコに計量される。コンデンサー、ディーンシュタークトラップ、Thermowatch温度制御装置付き温度計、オーバーヘッド機械式攪拌機、ストッパー、およびN
2導入口が追加される。反応は撹拌され、843.51gのME−810が添加され、反応は160℃まで加熱される。反応の進行はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により監視され、32mLのオーバーヘッドがディーンスタークトラップに集められた後、反応は冷却され、粗混合物は連続フローおよび以下の条件を使用してWFEにより精製される。
【表2】
【0028】
底の物質(bottoms)が集められ、オーバーヘッドは捨てられる。底の物質はFREを再び通過されて、未反応のME−810酸および未反応のHMSの除去を完全にする。溶液は透明な、山吹色である。
【表3】
【0029】
実施例2:HMS/2−エチル−1−ヘキサノール/デカン酸クロリド
第1日:245.8gの2−エチル−1−ヘキサノールが1000mLの三口丸底フラスコに計量される。コンデンサー、ディーンスタークトラップ、Thermowatch温度制御装置付き温度計、オーバーヘッド機械式攪拌機、ストッパー、およびN
2導入口が追加される。攪拌機のスイッチが入れられる。ナトリウム(Na)金属の1/2キューブ(−0.179g、つぶされ、小片へとカットされる)がフラスコに添加される。熱が60℃まで上昇される。該ナトリウムは45分後に溶解した。204.92gのHMSが該フラスコに添加される。フラスコの周りに断熱材が巻きつけられ、反応は160℃まで加熱される。120℃においてメタノールがディーンシュタークトラップに集まり始める。6時間後、ガスクロマトグラフィー(GC)が、反応が完結したことを確認する。反応が冷却されたとき、50mLのトルエン、50mLの脱イオン(DI)水(H
2O)が添加され30mlの1NHClで中和される。反応は水で洗浄されて塩化ナトリウムを除去し、有機層は無水MgS0
4上で乾燥される。トルエンおよび未反応の2−エチル−1−ヘキサノールは真空において除去される。GCは過剰の2−エチル−1−ヘキサノールがまだあることを確認し、試料は以下の条件を使用してWFEの中を通される。2−エチル−1−ヘキサノールを含むオーバーヘッド留分は捨てられる。
【表4】
【0030】
209.75gの生成物が1000mLの三口丸底フラスコに計量される。コンデンサー、Thermowatch温度制御装置付き温度計、オーバーヘッド機械式攪拌機、ストッパー、およびN
2導入口が追加される。攪拌機のスイッチが入れられる。50mLのトルエンが添加される。添加用のロートを使用して、104.54g、1.2モル過剰のデカン酸クロリドが添加される。1時間後、デカン酸クロリドが添加され、反応は加熱なしに終夜、撹拌し続けることを許される。翌日、GCが、反応が完結したことを確認する。
【0031】
100mLのメタノールが試料に添加されて、未反応の酸塩化物を転化させる。反応は水で洗浄されて、過剰のHClを除去する。水性層は捨てられる。有機層は無水の粉末であるMgSO
4を使用して乾燥され、トルエンとメタノールは真空において除去される。試料は前と同じ条件を使用してWFEの中を通されて、いかなる過剰の溶媒をも除去する。オーバーヘッドは捨てられる。酸価は0.054mg KOH/gであると測定される。
【0032】
実施例3:HMS/2−エチルヘキサン酸
第1日:101.05gのHMSが500mLの三口丸底フラスコに計量される。コンデンサー、ディーンシュタークトラップ、Thermowatch温度制御装置付き温度計、オーバーヘッド機械式攪拌機、ストッパー、およびN
2導入口が追加される。攪拌機のスイッチが入れられる。断熱材がフラスコの周りに巻きつけられる。132.9gの2−エチルヘキサン酸が添加される。熱が170℃まで上昇される。反応の進展がGPCにより監視され、生成物の分子量を決定する。完結すると、未反応の2−エチルヘキサン酸は以下の条件を使用してWFEにより除去される。生成物は透明な、山吹色である。オーバーヘッドは捨てられる。
【表5】
【0033】
実施例4:HMS/2−エチル−1−ヘキサノール/オクタン酸クロリド
第1日:353.67gの2−エチル−1−ヘキサノールが2000mLの三口丸底フラスコに計量される。コンデンサー、ディーンシュタークトラップ、Thermowatch温度制御装置付き温度計、オーバーヘッド機械式攪拌機、ストッパー、およびN
2導入口が追加される。攪拌機のスイッチが入れられる。ナトリウム金属(−0.52g、つぶされ、小片へとカットされる)がフラスコに添加され、反応が60℃まで加熱される。該ナトリウムは45分後に溶解した。300gのHMSひまわりのモノマーがフラスコに添加される。フラスコの周りに断熱材が巻きつけられる。反応は160℃まで加熱される。120℃においてメタノールのオーバーヘッドが集まり始める。4時間後、GCが、反応が完結したことを確認する。熱のスイッチが切られる。16.5mlのオーバーヘッドが集められる。反応が冷却されたとき、100mLのトルエンおよび100mLのDI H
2Oが添加され30mlの1NHClで中和される。3回の水洗浄が行われ、分液ロートを使用して分離される。水性層は捨てられる。無水の粉末であるMgSO
4がフラスコにおいて凝集するのが止まるまで、MgSO
4がエルレンマイヤーフラスコに添加される。そうすると溶液は透明である。トルエンおよび過剰の2−エチル−1−ヘキサノールを除去するために、試料はポンプに固定されたロータリーエバポレーター(ロタバップ)を使用して蒸発される。まず、水浴の温度が40℃に設定されて、トルエンを除去し、その後90℃まで上昇されて、2−エチル−1−ヘキサノールを除去する。GCが、過剰の2−エチル−1−ヘキサノールがまだあることを確認すると、該試料は以下の条件を使用して、WFEの中を通される。
【表6】
【0034】
291gの生成物が2000mLの三口丸底フラスコに計量される。コンデンサー、Thermowatch温度制御装置付き温度計、オーバーヘッド機械式攪拌機、ストッパー、およびN
2導入口が追加される。攪拌機のスイッチが入れられる。150mlのトルエンが添加される。添加用のロートを使用して、119.2g、1.2モル過剰のオクタン酸クロリドが添加される。1時間後、オクタン酸クロリドの添加が完了し、反応は加熱なしに終夜、撹拌し続けることを許される。翌日、GCが、反応が完結したことを確認する。
【0035】
200mLのメタノールが試料に添加される。試料はロタバップに載せられて、トルエンおよびメタノールを除去する。試料は前と同じ条件を使用してWFEの中を通され、いかなる過剰の溶媒をも除去する。オーバーヘッドは捨てられる。
試料は終夜および午前中、冷凍庫に入れられ、凍っていないことが見いだされる。
酸価は0.046mg KOH/1gであると測定される。