(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の説明
炭素分子篩膜は、天然ガスストリームからの二酸化炭素(CO
2)の除去に関して多大な可能性を示してきた。ガス分離または膜の適用において、炭素分子篩は、原子量で少なくとも90パーセント(90%)の炭素、その残りを様々な他の要素で構成される篩を含んでいてもよい。CMS膜は、ポリマー前駆体の熱分解により形成することができる。
【0004】
高分子膜の性能は、ある程度カスタマイズすることができる;しかしながら、これらの高分子膜材料の分離性能は、CO
2透過性およびCO
2/CH
4選択性に関するいわゆる「ポリマーの上限のトレードオフライン(polymer upper bound trade-off line)」で向上が止まる。このトレードオフは、透過ストリーム中のCO
2と共に不要に高いメタン損失を引き起こす可能性がある。
【0005】
CO
2透過性は、CO
2流束に相当する生産性の便利な尺度であり、これは、緻密な選択層の厚さと、この層全体に作用するCO
2分圧差とによって正規化されている。透過性の単位は、通常「バーラー(Barrer)」で報告され、1バーラー=10
−10[cc(STP)cm]/[cm
2.秒.cmHg]である。膜選択性は、緻密な層の厚さとは無関係であることが理想的であり、上流側の総圧力と下流側の総圧力の比率がCO
2透過性とCH
4透過性の比率よりもかなり大きいような望ましいケースでは、CO
2透過性とCH
4透過性の比率に等しい。
【0006】
CMS膜は、緻密フィルム形状の場合、上限を超える能力を有する。従来のCMS緻密フィルム膜を使用すれば、上流側50psiaおよび35℃の純ガスで、メタン透過性に対するCO
2透過性を約75もの高さにすることができる。いくつかの中空糸形状のCMS膜は、最大1168psiaの上流側圧力および35℃で、50%CO
2が混合されたガスメタンストリームからCO
2を約90の選択性で分離することができる。
【0007】
CMS中空糸膜は頼もしい選択性を示すが、それらは、熱分解後、同じ前駆体ポリマーの熱分解の前および後に相当する緻密フィルムにおける生産性の増加に基づき期待される生産性よりも低い生産性を示す。非対称膜の場合の生産性の単位は、厚さを正規化する因子を含有しないので、流束は、膜全体の上流側と下流側との間に作用する分圧差で割ることによってのみ正規化される:1GPU=10
−6cc(STP)/[cm
2.秒.cmHg]。
【0008】
CMS膜の性能に影響を与える可能性がある数種のパラメーターがあり、このようなパラメーターとしては、例えば、これらに限定されないが:(i)使用されるポリマー前駆体;(ii)熱分解前の前駆体の前処理;(iii)熱分解過程、例えば最終加熱温度または熱分解の雰囲気;および(iv)熱分解後のCMS膜の後処理が挙げられる。
【0009】
一例として、これらに限定されないが、マトリミド(Matrimid)(登録商標)5218および6FDA:BPDA−DAMなどの従来のポリイミド前駆体を使用して、CMS緻密フィルム膜に詳細な調査を行っている。両方のポリイミド前駆体の化学構造は、特殊なジアミン、5(6)−アミノ−1−(4’アミノフェニル)−1,3,−トリメチルインダン(マトリミド(登録商標))をベースとする熱可塑性ポリイミドについては
図1aに図示され、一般的には6FDA:BPDA−DAMと称される2,4,6−トリメチル−1,3−フェニレンジアミン(DAM)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、および5,5’−[2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチリデン]ビス−1,3−イソベンゾフランフランジオン(6FDA)については
図1bに図示される。マトリミド(登録商標)5218は、製造中に完全にイミド化された可溶性の熱可塑性ポリイミドであり、高温処理の必要がなく、様々な一般的な溶媒に可溶性である。
【0010】
熱分解過程パラメーター、例えば最終加熱温度を調節することによって、結果得られたCMS膜の性能を改変し、これらの前駆体のどちらよりもより優れた性能を達成することができることが示されている。他の研究では、CMS緻密フィルム膜に対する熱分解環境の作用を調べており、膜分離性能と、様々なレベルの酸素を含有する異なる雰囲気とを関連付けている。これらの研究は、一例としてその内容が参照により本明細書に組み入れられる米国特許公報第2011/0100211A1号で示されたような熱分解中のCMS膜への「酸素ドーピング」という概念を取り入れたものである。
【0011】
その内容が参照により本明細書に組み入れられるKorosらの米国特許第6,565,631号(Koros)では、CMS緻密フィルムを工業的に適した中空糸の形状に延伸している。Korosは、これらの膜の合成を示し、高いフィード圧力および不純物のもとでのそれらの性能を評価した。Korosによって教示されたような膜は、極端な条件下で耐性を有し、著しい性能の劣化を起こさないことが示される。6FDA:BPDA−DAM前駆体を使用したKorosのCMS中空糸の膜は、約30の気体透過単位(GPU)のCO
2透過を示し、10%CO
2を含有する混成ガスメタンストリームからのCO
2/CH
4選択性が、最大1000psiaの上流側圧力および35℃で55であった。マトリミド(登録商標)前駆体ベースのCMS膜に関して同じ試験条件下で、Korosの膜は、最大200psiaの上流側圧力および35℃で約85のより高い選択性が観察されたが、透過は約12GPUでありいくらか減少した。
【0012】
CMS中空糸膜を工業的利用する際、低い透過が懸念される。この分野の研究者は、その懸念を、
図2aおよび2bでマトリミド(登録商標)ベースの前駆体に関して示されるような基礎構造の形態の崩壊と関連付けることによりこの問題に取り組もうとしてきた。本発明の目的に関して、本発明者らは、基礎構造の崩壊を、以下の式
【0013】
【数1】
【0014】
で示されるように、熱分解の後および前の繊維壁の厚さの比率が、熱分解の後および前の緻密フィルムの厚さの比率の0.8未満である状態と定義している。例えば6FDA:BPDA−DAMのような堅固な(robust)より高いガラス転移温度(T
g)を有するポリマー前駆体の場合でさえ、
図3aおよび3bに示されるマトリミド(登録商標)前駆体と比較して低い程度であるが、熱分解の際の基礎構造の崩壊が観察されている。
【0015】
非対称CMS中空糸において、(T
gを超える)熱分解中に強い熱処理を受けることによりポリマー鎖がほどけ、その結果、それらのセグメントが互いに近接した状態に移動して、実際の膜分離の厚さを増大させる。このような分離の厚さの増大が、透過性/実際の分離の厚さと定義される主な透過の低下の根本的な原因であると考えられる。CMS緻密フィルム膜の透過性は高いにもかかわらず、熱分解中の形態の崩壊のために、従来のCMS中空糸膜は、有効な膜厚さが大きくなり透過の低下を起こす。
【0016】
非対称中空糸膜は、多孔質の基礎構造によって支持される極薄の緻密な表面薄層を含む。非対称中空糸膜は、
図4aで図示されているドライジェット/ウェットクエンチ紡糸法(dry-jet/wet quench spinning process)によって形成することができる。紡糸に使用されるポリマー溶液は、「ドープ」と称される。ドープ組成物は、
図4bで示されるような三成分系の相平衡状態図によって説明することができる。
【0017】
ポリマーの分子量および濃度は、中空糸の全体の形態に影響を与えるドープの粘度および物質移動係数と厳密に相関している。溶媒と溶媒以外のものとの比率は、バイノーダル(binodal)に近い第1相領域のドープが維持されるように調節されると予想される。ドープ中の揮発性成分の量は、表面薄層形成の成功のための主な要因である。
【0018】
緻密な表面薄層は、揮発性溶媒を蒸発させて、ドープ組成物をガラス化領域(
図4bにおいて、「表面薄層形成」の矢印で示された点線で示される)に向かわせることによって形成される。ドープ相がクエンチ槽中で分離して第2相領域(
図4bにおいて「基礎構造形成」の矢印で示された点線で示される)に入ると、多孔質の基礎構造が形成される。
【0019】
このようにして、多孔質支持体構造を有する緻密な選択的な表面薄層を含む望ましい非対称の形態が形成される。
図4aの方法では、ドープおよび内径の流体がスピナレットを介して空隙に共押し出しされ(「ドライジェット(dry-jet)」)、このときに緻密な表面薄層が形成され、次いで水を含むクエンチ槽に浸され(「ウェットクエンチ(wet-quench)」)、このときにドープ相が分離して多孔質の基礎構造を形成し、緻密な表面薄層を支持することができる。クエンチ槽中での相分離後、ガラス化した繊維は巻き取りドラムで回収され、溶媒交換のために維持される。溶媒交換技術は、非対称中空糸中に形成された孔の維持において重要な役割を果たす可能性がある。
【0020】
したがって、繊維紡糸過程の間、
図4aで示されるように、基礎構造の孔は、ドープ溶液からのポリマーの相分離過程の間にドープ溶液中の溶媒分子をクエンチ槽中の溶媒以外の水分子で交換することによって形成される。形成された孔は、非対称中空糸の形態としてよく充填された均一なポリマー鎖分布にはならない。したがって、このような前駆体繊維におけるポリマー鎖の広がった分布は、熱力学的に不安定な状態とみなされ、熱分解が完了する前に十分なセグメントの移動が起こる場合、CMS中空糸中の基礎構造の形態が崩壊する傾向が大きくなる可能性がある。この場合、熱分解中に、前駆体繊維の多孔質形態は、厚く緻密な崩壊した層になる。この膜形態の変化は、ポリマー前駆体のガラス転移温度(T
g)から始まると見られる。T
gより高温での熱処理下では、未配向のポリマー鎖は、鎖の移動を増大させる柔らかく粘性のゾーンに入るため、それらを互いに近接した状態に移動させることを可能にする。この熱処理は鎖の充填密度を高め、その結果として基礎構造の崩壊が生じる。強い熱処理下でのポリマー前駆体の鎖の弛緩が、孔崩壊の根本的な原因である。
【0021】
これまでに、例えばマトリミド(登録商標)CMS中空糸などのCMS繊維のT
gにおける基礎構造の崩壊のメカニズムに関する研究や、膜の崩壊問題を相殺しようとするためのいくつかの方法が行われてきた。例えば、T
gにおける基礎構造の崩壊の仮説を試験するために、
図5aおよび5bで示される透過およびSEMによる特徴付けを行った。非対称マトリミド(登録商標)前駆体繊維を、真空雰囲気(約1mtorr)で、10分の熱浸漬時間で、最大320℃に加熱した(マトリミドのT
gは約315℃)。T
gで熱処理した後の同じ繊維を、同じ真空雰囲気下で標準的な熱分解温度プロトコールを使用して(
図5a)熱分解する。
【0022】
図5bは、100psiaおよび35℃で試験した際の、T
gで生じた基礎構造の崩壊のためにCMS非対称中空糸膜で起こった透過の低下を図示する。
図5bで示されるように、T
gで加熱処理したマトリミド(登録商標)繊維のCO
2透過(塗りつぶしの四角形)は、前駆体(塗りつぶしのひし形)およびCMS中空糸の透過(塗りつぶしの三角形)と比較して著しい透過の低下を起こした。T
gで約10分の短い浸漬時間ですら、実質的に厚さで正規化した前駆体の緻密フィルムの生産性(0.2GPU−凝固点)に相当する起こり得る最大程度(0.13GPU)に透過が低下するのに十分である。透過の低下のために、非対称前駆体繊維における高い移動流束という利点は、著しく、または完全に失われ、このような繊維は、同じような厚さを有する前駆体緻密フィルムとして処理される可能性がある。
【0023】
T
gにおける前駆体繊維の著しい透過の低下は、CMS繊維の形態が、T
gで実質的に完全に崩壊することを示す。崩壊した繊維と比べたCMSの透過(塗りつぶしの三角形)の増加は、熱分解中の揮発性化合物の分解によるものである。CMS繊維の崩壊に関して、重要な温度ゾーンは、ガラス転移T
gと分解T
dとの間である。温度がT
gを過ぎてゴム領域に入ると、無定形のゴム状ポリマーは流動できるようになるが、ポリマーが分解し始めるまで篩構造は形成されない。それゆえに、一般的に、CMS繊維が欠陥を取り込むことなくこれらのゾーン間の温度を通過する時間を最小化することが、優れた分離能力を維持しつつ透過の損失を防ぐかまたは少なくする最良の方法を提供する。ただし実際には、極めて速い速度での加熱により欠陥の発生が起こり、分離能力を低下させることが観察されている。それゆえに、最適な加熱速度は実験的に決定しなければならない。
【0024】
図6aは、T
gで熱処理した後のマトリミド(登録商標)繊維のSEM画像であり、
図6bで示されるような同じ前駆体繊維の形態から得られた最終的なCMS繊維で観察された崩壊した形態を表している。
【0025】
例えばマトリミド(登録商標)前駆体などのポリマー前駆体における基礎構造の崩壊を減らすかまたはなくすために試みられてきた従来の技術としては、これらに限定されないが、ポリマー前駆体の多孔質支持体に「膨張剤(puffing agents)」を吹き込むこと;ガラス転移温度T
g未満で繊維を熱的に安定化すること;および高密度化を回避するためにポリマー鎖に架橋を形成することなどが挙げられる。
【0026】
可能性のある「膨張剤(puffing agents)」は、加熱の際に大きい揮発性の副産物に分解して、分解後に炭素中に空隙を残すことができる化学種である。このような吹き込み(puffing)技術の1つとしては、ポリエチレングリコール(PEG)の使用が挙げられる。PEGは、より高温で加熱すると「アンジッピング(unzipping)作用」を起こすことができる。実質的に全てのPEG分子が、約350℃の天井温度でアンジッピングする(unzip)ことを観察することができる。熱分解前にPEGを孔に吹き込むことにより、マトリミド(登録商標)のT
g(約315℃)付近での崩壊を防ぐ試みがなされた。
図7に、マトリミド(登録商標)およびPEG(分子量:3400)それぞれのTGA曲線の比較を示す。
【0027】
PEGを使用する利点は、PEGは水溶性であり、経済的な繊維紡糸後の工程で孔中に容易に吸収される点である。それにもかかわらず、PEG吹き込みの後でさえも熱分解時に基礎構造の崩壊が発生することが観察された。いかなる特定の操作の理論に固執するつもりはないが、PEG吹き込みが基礎構造の崩壊に目に見える効果がない理由は、例えば約315℃のT
gから約425℃の分解点までの崩壊の広い温度範囲によるものと考えられる。崩壊はPEGのアンジッピング(unzipping)温度の前に始まるために、PEG吹き込みは、孔を安定化することにおいて恐らく不成功である。
【0028】
また熱分解前のポリマー前駆体の熱的な安定化も、従来の方法を酸化性の雰囲気および非酸化性の雰囲気の両方で使用することにより試みられている。準備作業において、繊維を、加熱炉中でT
g未満の270℃で48時間の持続時間で予備加熱することにより、予備的に安定化した。熱処理後、標準的なプロトコールを使用して熱分解を行った。試験から、孔の温度安定化は、マトリミド(登録商標)の崩壊に対して際立った影響をまったくもたらさなかったことが示された。
【0029】
試みられたその他の従来の方法は、熱分解の前にポリマー前駆体を架橋することである。例えば、他の問題の解決を試みていた研究者は、これまでに例えばマトリミド(登録商標)などの前駆体を、UV放射およびジアミンクロスリンカーを使用して架橋することを試みていた。このような従来の、マトリミド(登録商標)ベースの前駆体のためのジアミンリンカーを使用する架橋形成技術は、うまくいかないことが証明されている。
図8aおよび8bのSEM画像で示されるように、ジアミン架橋マトリミド(登録商標)前駆体繊維から得られたCMSでもなお崩壊が観察された。ジアミンによる架橋形成は、より高温で加熱すると可逆的になることが研究から示された。
【0030】
基礎構造の崩壊問題に加えて、商業的な製造を可能にするためのCMSのスケールアップに対する第二の課題は、1回の熱分解工程で大量のCMSを生産することである。スケールアップ問題を克服する選択肢の1つは、ポリマー前駆体繊維を束で熱分解することであるが、それでもなお束になっていないものと同じかまたは類似の分離性能を有する個々のCMS繊維しか得られない。従来の技術を使用した場合、束で熱分解すると、ポリマー前駆体のフローは、基礎構造の崩壊を引き起こすだけでなく、繊維が一緒に「付着して」しまう可能性もある。従来の技術による未改変前駆体繊維を使用した場合、熱分解中に互いに接触した(または付着した)状態から繊維を分離する必要が生じることが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
したがって、当業界において、熱的に安定化されたポリマー前駆体および非対称CMS中空糸膜の必要性は未だある。
【課題を解決するための手段】
【0033】
簡単に説明すると、典型的な形態において、本発明は、ポリマー前駆体が温度遷移を経る前にそれを安定化することにより、ガラス転移温度(T
g)におけるポリマーの温度遷移中に慣習的に起こる基礎構造の崩壊を制限または予防する。その結果得られたポリマーは、強化されたガス分離能力を示す優れたCMS膜を提供する。代表的な実施態様において、CMS繊維は、生成物の付着を回避し、熱分解前にポリマー前駆体が安定化されない場合に基礎構造の崩壊と多孔質形態の高密度化によって引き起こされる移動流束の従来の低下を少なくするか、またはなくし、それと同時に優秀な分離効率を有する中空糸である。
【0034】
典型的なポリマーは、例えば二酸化炭素およびメタンなどの望ましいガスを通過させて分離することを可能にする。好ましくは、このようなポリマーは、1種またはそれより多くの望ましいガスが、他の構成要素とは異なる拡散速度でポリマーを透過することを可能にする、すなわち、個々のガスのうち1種、例えば二酸化炭素が、メタンよりも速い速度でポリマーを介して放散することを可能にする。
【0035】
CO
2とCH
4とを分離するための炭素分子篩膜の作製で使用することに関して、最も好ましいポリマーとしては、ポリイミドのウルテム(Ultem)(登録商標)1000、マトリミド(登録商標)5218、6FDA/BPDA−DAM、6FDA−6FpDA、および6FDA−IPDAが挙げられる。
【0036】
他の典型的なポリマーの例としては、置換または非置換のポリマーが挙げられ、例えば、ポリスルホン;ポリ(スチレン)、例えばアクリロニトリルスチレンコポリマー、スチレンブタジエンコポリマー、およびスチレン−ビニルベンジルハライドコポリマーなどのスチレン含有コポリマー;ポリカーボネート;セルロース系ポリマー、例えば酢酸セルロース−ブチレート、セルロースプロピオナート、エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロースなど;ポリアミドおよびポリイミド、例えばアリールポリアミドおよびアリールポリイミド;ポリエーテル;ポリエーテルイミド;ポリエーテルケトン;ポリ(アリーレンオキサイド)、例えばポリ(フェニレンオキサイド)およびポリ(キシレンオキサイド);ポリ(エステルアミド−ジイソシアネート);ポリウレタン;ポリエステル(ポリアリレートを包含する)、例えばポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(アルキルメタクリレート)、ポリ(アクリレート)、ポリ(フェニレンテレフタレート)など;ポリピロロン;ポリスルフィド;上述したもの以外のアルファ−オレフィン系不飽和を有する単量体からのポリマー、例えばポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(ブテン−1)、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリビニル、例えば、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルエステル)、例えばポリ(酢酸ビニル)およびポリ(プロピオン酸ビニル)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルエーテル)、ポリ(ビニルケトン)、ポリ(ビニルアルデヒド)、例えばポリ(ビニルホルマール)およびポリ(ビニルブチラール)、ポリ(ビニルアミド)、ポリ(ビニルアミン)、ポリ(ビニルウレタン)、ポリ(ビニル尿素)、ポリ(リン酸ビニル)、ならびにポリ(硫酸ビニル);ポリアリル;ポリ(ベンゾベンズイミダゾール);ポリヒドラジド;ポリオキサジアゾール;ポリトリアゾール;ポリ(ベンズイミダゾール);ポリカルボジイミド;ポリホスファジン;など、およびインターポリマー、例えば上記のものからの反復単位を含有するブロックインターポリマー、例えばアクリロニトリル−臭化ビニル−パラ−スルホフェニルメタリルエーテルのナトリウム塩のターポリマーなど;ならびに前述のもののいずれかを含有するグラフトおよびブレンドから選択してもよい。置換ポリマーをもたらす典型的な置換基としては、ハロゲン、例えばフッ素、塩素、および臭素;ヒドロキシル基;低級アルキル基;低級アルコキシ基;単環式アリール;低級アシル基などが挙げられる。膜が、少なくとも約10の二酸化炭素/メタン選択性を示すことが好ましく、より好ましくは少なくとも約20、最も好ましくは少なくとも約30の二酸化炭素/メタン選択性を示す。
【0037】
ポリマーは、ゴム状ポリマーまたは軟質のガラス状ポリマーとは対照的に、硬質のガラス状ポリマーであることが好ましい。ガラス状ポリマーは、ポリマー鎖のセグメントの移動速度に関してゴム状ポリマーとは区別される。ガラス状態のポリマーは、ゴム状ポリマーを液体様の性質にする迅速な分子の動きと、セグメントの形状を長い距離にわたり(>0.5nm)迅速に調節する能力がない。ガラス状ポリマーは、非平衡状態で存在し、その分子鎖はもつれており、その分子主鎖は不動のコンフォメーションで固定されている。論じられているように、ガラス転移温度(T
g)は、ゴム状態またはガラス状態との分岐点である。T
gを超えると、ポリマーは、ゴム状態で存在し;T
g未満だと、ポリマーは、ガラス状態で存在する。一般的に、ガラス状ポリマーは、ガス拡散のための選択的な環境を提供し、ガス分離用途にとって好ましい。硬質のガラス状ポリマーとは、分子内の回転性の動きが制限された硬質のポリマー鎖の主鎖を有するポリマーを意味するものであり、多くの場合、高いガラス転移温度(T
g>150℃)を有することを特徴とする。
【0038】
硬質のガラス状ポリマーにおいて、拡散係数が、選択性を制御する傾向があり、ガラス状の膜は、小さい低沸点の分子を優先的に選択する傾向がある。好ましい膜は、メタンおよび他の軽質炭化水素よりも、二酸化炭素、硫化水素、および窒素を優先的に通過させると予想される硬質のガラス状ポリマー材料で作製される。このようなポリマーは当業界周知であり、例えば、ポリイミド、ポリスルホン、およびセルロース系ポリマーが挙げられる。
【0039】
本発明は、ガス分離用の非対称中空糸CMS膜の生産で使用するための改変されたポリマー前駆体を含み得る。本発明の実施態様は、炭化水素含有ストリームからCO
2およびH
2Sを分離するためのCMS膜の生産を対象とする。他の実施態様において、CMS膜は、天然ガスからの窒素の分離、空気からの酸素の分離、炭化水素からの水素の分離、および類似の炭素数を有するパラフィンからのオレフィンの分離に使用することができる。本発明の実施態様は、ポリマー前駆体を安定化すること、好ましくは熱分解後のCMS膜の性能を維持または改善することを対象とする。様々な実施態様において、本発明は、修飾剤を使用して改変されたポリマー前駆体から形成された非対称炭素分子篩膜である。いくつかの実施態様において、修飾剤は、場合によりビニルおよび/またはアルコキシ基で置換されたシランであってもよい。一実施態様において、修飾剤は、ビニルアルコキシシラン、またはビニルトリアルコキシシランであってもよい。一実施態様において、ビニルトリエトキシシランまたはビニルトリメトキシシラン(VTMS)、特にVTMSが、化学的な前駆体処理のための修飾剤として使用することができる。いくつかのさらなる実施態様において、前駆体は、前駆体にVTMSを晒すことにより、少なくとも部分的に熱的および/または物理的に安定化される。
【0040】
代表的な実施態様の一つにおいて、本発明は、実質的に崩壊していない非対称炭素膜として使用するためのポリマー前駆体を改変する方法であり、本方法は、接触用容器中にポリマー前駆体を提供する工程、接触用容器中に修飾剤を提供する工程、および接触用容器中でポリマー前駆体の少なくとも一部を修飾剤の少なくとも一部と接触させて、ポリマー前駆体の少なくとも一部の改変を達成することにより、熱分解されるときに実質的に崩壊していない非対称炭素膜を作製する改変されたポリマー前駆体を作製する工程を含む。いくつかの実施態様において、ポリマー前駆体は、マトリミド(登録商標)および6FDA:BPDA−DAMからなる群より選択されるポリマーを包含し、修飾剤は、ビニルトリメトキシシランである。
【0041】
さらなる実施態様において、接触用容器中でポリマー前駆体を修飾剤で改変する工程は、接触用容器を加熱することにより、接触用容器中の内容物の温度を、所定期間で反応温度範囲内に高めることを含む。いくつかの追加の実施態様において、反応温度範囲は、およそ25℃からおよそポリマー前駆体のガラス転移温度までの範囲;およそ100℃からおよそポリマー前駆体のガラス転移温度までの範囲;およびおよそ100℃からおよそ250℃までの範囲からなる群より選択される。
【0042】
いくつかの実施態様において、期間は、およそ30分からおよそ24時間である。
【0043】
いくつかの実施態様において、ポリマー前駆体は、非対称中空ポリマー繊維であり、その場合、さらにその他の実施態様において、ポリマー前駆体は、芳香族イミドポリマー前駆体繊維である。
【0044】
追加の実施態様において、本方法は、熱分解チャンバーで、少なくとも熱分解副産物が生成する温度にポリマー前駆体を加熱することにより、改変されたポリマー前駆体を熱分解することをさらに含む。さらなる実施態様において、本方法は、前記加熱工程中に、熱分解チャンバー全体に不活性ガスを流動させることをさらに含む。追加の実施態様において、熱分解チャンバーと接触用容器とは、同じである。
【0045】
さらなる実施態様において、改変されたポリマー前駆体は、多孔質の第二のポリマー支持体に支持された第一のポリマーを含む複合構造である。さらにその他の実施態様において、ポリマー前駆体は、熱分解してCMS膜を形成することができるが、熱分解中にその非対称構造が崩壊しない材料である。
【0046】
他の実施態様において、本発明は、実質的に崩壊していない非対称炭素膜のための改変されたポリマー前駆体であり、このポリマー前駆体は、接触用容器中にポリマー前駆体を提供する工程、接触用容器中に修飾剤を提供する工程、および接触用容器中でポリマー前駆体の少なくとも一部を修飾剤の少なくとも一部と接触させて、ポリマー前駆体の少なくとも一部の改変を達成することにより、熱分解されるときに非対称炭素膜を作製する改変されたポリマー前駆体を作製する工程によって作製される。
【0047】
さらに他の実施態様において、本発明は、実質的に崩壊していない非対称炭素膜のための、複数の改変されたポリマー前駆体間の付着を少なくする方法であり、本方法は、接触用容器中に複数のポリマー前駆体を提供する工程、接触用容器中に修飾剤を提供する工程、複数の接触用容器中でポリマー前駆体の少なくとも一部を修飾剤の少なくとも一部と接触させて、複数のポリマー前駆体の少なくとも一部の改変を達成することにより、熱分解されるときに複数の実質的に崩壊していない非対称炭素膜を作製する複数の改変されたポリマー前駆体を作製する工程を含み、ここで複数の改変されたポリマー前駆体の少なくとも一部は互いに付着しない。
【0048】
その他の代表的な実施態様において、本発明は、前駆体の前処理を使用して炭素膜を形成する方法であり、本方法は、ポリマー前駆体を提供すること、ポリマー前駆体の少なくとも一部を前処理すること、および前処理したポリマー前駆体を熱分解に晒すことを含み、ここでポリマー前駆体の少なくとも一部を前処理する工程は、前駆体の前処理がなされていない炭素膜と比べて、非対称炭素膜のガス透過において少なくとも300%の増加をもたらす。
【0049】
ポリマー前駆体の少なくとも一部を前処理する工程は、前駆体の前処理がなされていない炭素膜と比べて、非対称炭素膜のガス透過において少なくとも400%の増加をもたらす可能性がある。
【0050】
ポリマー前駆体の少なくとも一部を前処理する工程は、前駆体の前処理がなされていない炭素膜と比べて、炭素膜のガス分離の選択性の増加をもたらすことができる。
【0051】
ポリマー前駆体は、可溶性の熱可塑性ポリイミドを含み得る。ポリマー前駆体は、非対称中空ポリマー繊維を含み得る。ポリマー前駆体は、芳香族イミドポリマー前駆体を含み得る。
【0052】
ポリマー前駆体の少なくとも一部を前処理する工程は、ポリマー前駆体を化学的に改変することを含み得る。
【0053】
その他の代表的な実施態様において、ポリマー前駆体から炭素膜を形成する方法において、ここで本方法は、ポリマー前駆体を提供する工程とポリマー前駆体を熱分解に晒す工程とを包含し、ここで炭素膜は、第一のガス透過と第一のガス分離の選択性とを有しており、さらに本発明は、前処理と熱分解の後、改善された炭素膜が第二のガス透過と第二のガス分離の選択性とを有するように、熱分解の前にポリマー前駆体の少なくとも一部を前処理する改善工程を含み、ここで第二のガス透過または第二のガス分離の選択性の少なくとも一方が、それぞれ第一のガス透過または第一のガス分離の選択性よりも大きい。
【0054】
その他の代表的な実施態様において、本発明は、炭素膜として使用するためのポリマー前駆体を改変する方法であり、本方法は、容器中にポリマー前駆体を提供すること、容器中に修飾剤を提供すること、容器中で修飾剤の少なくとも一部をポリマー前駆体と接触させて、ポリマー前駆体の少なくとも一部の改変を達成すること、および改変されたポリマー前駆体を熱分解に晒して、炭素膜を形成することを含む。
【0055】
炭素膜は、中空糸膜、非対称膜を含む中空糸膜、および/または実質的に崩壊していない非対称中空糸膜を含み得る。
【0056】
修飾剤は、ビニルトリメトキシシランまたはビニルトリエトキシシランであってもよく、好ましくはビニルトリメトキシシランである。
【0057】
本方法は、容器中に開始剤を提供すること、および/または熱分解中に不活性ガスを流動させることをさらに含めることができる。
【0058】
ポリマー前駆体は、多孔質の第二のポリマーに支持された第一のポリマーを含む複合構造であってもよい。非対称中空糸膜は、熱分解過程中に互いに接触した状態であり、熱分解後に互いに付着していない一束の膜繊維を含み得る。
【0059】
その他の代表的な実施態様において、本発明は、炭素膜の製造方法であり、本方法は、可溶性の熱可塑性ポリイミドを含むポリマー前駆体を提供すること、ポリマー前駆体を修飾剤で化学的に改変すること、およびチャンバーで、少なくとも熱分解副産物が生成する温度に化学的に改変された前駆体を加熱することを含み、ここで該炭素膜は、100psia、35℃で純粋なCO
2およびCH
4ガスストリーム中で試験した場合、10より大きいCO
2透過(GPU)と88より大きいCO
2/CH
4選択性とを有する。修飾剤は、ビニルトリメトキシシランを含み得る。
【0060】
その他の代表的な実施態様において、本発明は、炭素膜の製造方法であり、本方法は、可溶性の熱可塑性ポリイミドを含むポリマー前駆体を提供すること、ポリマー前駆体を修飾剤で化学的に改変すること、およびチャンバーで、少なくとも熱分解副産物が生成する温度に化学的に改変された前駆体を加熱することを含み、ここで該炭素膜は、100psia、35℃で純粋なCO
2およびCH
4ガスストリーム中で試験した場合、53より大きいCO
2透過(GPU)と48より大きいCO
2/CH
4選択性とを有する。
【0061】
その他の代表的な実施態様において、本発明は、上記で開示した方法のうち1つによって形成された炭素分子篩膜である。
【0062】
これらおよび他の目的、特徴、ならびに本発明の利点は、添付の図面と共に以下の明細書を読めばより明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0064】
本発明の好ましい実施態様を詳細に説明するが、他の実施態様も考慮されることが理解されよう。したがって、本発明が、その範囲内で、以下の説明に記載された、または図面で図示された構成要素の構造および配置の詳細に限定されることは意図していない。本発明は、その他の実施態様であってもよく、様々な方法で実施または実行が可能である。また好ましい実施態様の説明において、明確にするために特定の用語も使用される。
【0065】
また単数形「a」、「an」、および「the」は、本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、文章中に明らかな他の指示がない限り複数形の対象を包含することにも留意すべきである。
【0066】
また好ましい実施態様の説明において、専門用語も、明確にする目的で使用される。各用語は、当業者により理解されるその最も広い意味を想定しており、類似の目的を達成するために類似の方式で稼働する全ての技術的に等価なものも包含することが意図される。
【0067】
範囲は、本明細書では、「約」または「およそ」の1つの特定の値から、および/または「約」または「およそ」の他の特定の値までのように示す場合がある。このような範囲が示される場合、他の実施態様は、1つの特定の値から、および/または他の特定の値までを包含する。
【0068】
「含む」または「含有する」または「包含する」は、少なくとも指定された化合物、要素、粒子、または方法の工程が、組成物または物品または方法中に存在するが、他の化合物、材料、粒子、方法の工程が指定されたものと同じ機能を有していたとしても、このような他の化合物、材料、粒子、方法の工程の存在を排除しないことを意味する。
【0069】
また、1つまたはそれより多くの方法の工程が述べられている場合、追加の方法の工程の存在、または明示されたそれらの工程間に介在する方法の工程を排除しないということも理解されよう。同様に、装置またはシステム中の1つまたはそれより多くの構成要素が述べられている場合、追加の構成要素、または明示された構成要素間に介在する構成要素の存在を排除しないということも理解されよう。
【0070】
本発明の様々な実施態様は、好ましくは熱分解後にCMS膜の性能を維持または改善するために、ポリマー前駆体を安定化することを対象とする。以降に記載される本発明は、明確にする目的で、「炭素」に関して説明される。しかしながら、他の「炭素以外の」膜も、本発明の様々な実施態様を使用して生産が可能であるため、本発明の範囲は「炭素」分子篩膜に限定されないことに留意すべきである。本発明の様々な実施態様は、CMS膜およびCMS膜のポリマー前駆体を改変するための改善された技術を使用する。
【0071】
上記で論じられたように、この開示の様々な形態は、改変されたポリマー前駆体を生産するためのポリマー前駆体の改変を対象とする。次いで改変されたポリマー前駆体を熱分解して、CMS繊維を生産することができる。「ポリマー前駆体」は、本明細書で使用される場合、これまでに論じられた典型的なポリマーのうち1種を使用して製造された非対称中空糸を包含することが意図される。ポリマー前駆体は、これまでに説明したドライジェット/ウェットクエンチ紡糸法(dry-jet/wet quench spinning process)に従って製造することができる。しかしながら、非対称中空糸の生産が可能な他の方法も使用することができる。本明細書で使用されるような「ポリマー前駆体」はまた、繊維前駆体、または単に前駆体、またはポリマー前駆体の一般名もしくは商標名としても説明される。例えば、マトリミド(登録商標)前駆体、マトリミド(登録商標)前駆体繊維、および非対称マトリミド(登録商標)前駆体繊維は全て、マトリミド(登録商標)ポリマーの5(6)−アミノ−1−4’−アミノフェニル−1,3−トリメチルインダンをベースとするポリマー前駆体を説明していることが意図される。同様に、改変されたポリマー前駆体は、修飾剤で改変されたポリマー前駆体であってもよく、さらに、同様に改変された前駆体、改変された繊維前駆体、改変されたマトリミド(登録商標)前駆体などと表される場合もある。
【0072】
様々な実施態様において、本開示は、修飾剤を使用して改変されたポリマー前駆体から形成された非対称炭素分子篩膜である。修飾剤はまた、本明細書では化学修飾剤と称される場合もあり、さらに改変過程も、化学的に改変することと称される場合もある。いくつかの実施態様において、化学的な前駆体処理のための修飾剤としてはビニルトリメトキシシランが使用されるが、他のシランも修飾剤として採用することができる。一般的に、本開示で使用するためのシランは、式R
1R
2R
3R
4Siによって説明することができ、式中、R
1、R
2、R
3、およびR
4のそれぞれは、独立して、ビニル、C
1〜C
6アルキル、−O−アルキル、またはハロゲン化物であり、ただし該シランは、少なくとも1つのビニル基と、少なくとも1つの−O−アルキルまたはハロゲン化物とを含有する。O−アルキルは、あらゆるC
1〜C
6アルキルオキシ(またはアルコキシ)基であってもよく、このような基としては、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなどが挙げられ、好ましくはメトキシまたはエトキシである。理論に制限されることは望まないが、修飾剤は、ポリマー前駆体の改変中にSi−O−Siの連結を生成することができる化合物であると考えられる。それゆえに、修飾剤は、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルジメトキシクロロシラン、ビニルジエトキシクロロシラン、ビニルメトキシジクロロシラン、ビニルエトキシジクロロシラン、またはビニルトリクロロシランなどのモノシランであってもよい。また修飾剤は、短鎖オリゴシロキサンであってもよく、その場合、R
1R
2R
3R
4のうち1つまたはそれより多くが、モノシランと類似した置換を有する−O−シリルであり、このような短鎖オリゴシロキサンとしては、例えば、オリゴシラン上に少なくとも1つのビニルと少なくとも1つのアルコキシまたはハロゲン化物とを有するジシロキサンまたはトリシロキサン、例えばビニルペンタメトキシジシロキサン、またはジビニルテトラメトキシジシロキサンが挙げられる。好ましくは、修飾剤は、ビニルトリメトキシシランまたはビニルトリエトキシシランであってもよい。
【0073】
いくつかのさらなる実施態様において、前駆体ポリマーは、ビニルトリメトキシシラン(VTMS)を前駆体に晒すことによって、少なくとも部分的に、熱的および/または物理的に安定化される。本発明の様々な実施態様はビニルトリメトキシシランと様々な前駆体を使用して論じられるが、本発明は、論じられたビニルトリメトキシシランまたは前駆体の使用に限定されないことが理解されよう。類似の化学的および機械的な特徴を有する本発明の様々な実施態様の目的に好適なその他の前処理のための化学物質および他の前駆体は、本発明の範囲内であるとみなされる。
【0074】
いくつかの実施態様において、VTMSでの前駆体の改変は、接触用装置中に、様々な持続時間でVTMSと前駆体繊維とを添加することによって行われる。さらに、いくつかの実施態様において、実際の熱分解工程の前に、自己熱による圧力下で、反応容器中で前駆体と修飾剤とを加熱する。
【0075】
図9は、本発明の様々な実施態様に係る典型的な方法の図解である。接触用装置320中で、前駆体繊維300を、例えばVTMSなどの修飾剤302に添加する。前駆体繊維300は、例えば、これらに限定されないが、マトリミド(登録商標)および6FDA:BPDA−DAMなどの使用に好適な様々な従来の非対称中空糸であってもよい。VTMSによるマトリミド(登録商標)前駆体の改変のために、前駆体繊維300は、追加の化学物質を何も用いずに、単に密封した接触用装置320中で過量のVTMS液302に浸すだけでもよい。接触用装置320は、室温で維持してもよいし、または加熱した対流式オーブン(約200℃)で約30分加熱して、改変過程を発生させてもよい。加熱した場合、この反応後に、反応管320を冷却して、液体302から繊維304を取り出す。次いで繊維304を、150℃で、真空中で6時間置き、過量の修飾剤302を除去する。
【0076】
いかなる特定の操作の理論に制限されることはないが、主要なポリマー前駆体が熱分解して炭素が形成される前に、VTMSは前駆体を改変すると考えられる。注目すべきことに、本発明は、芳香環を有する前駆体繊維に限定されない。注目すべきことに、芳香環を有するその他の様々な前駆体繊維も好適である可能性があり、したがってそれらも本発明の範囲内であるとみなされる。
【0077】
例えば、限定するつもりはないが、本発明の様々な実施態様は、ポリイミド前駆体分子の6FDA:BPDA−DAMを使用することができる。前で論じられたように、前駆体のシラン分子を改変する目的は、T
gを超える熱処理中にポリマー鎖に安定性を付与することである。未改変の6FDA:BPDA−DAMを使用した場合、膜の崩壊は、構造間の様々な差のために、例えば未改変のマトリミド(登録商標)などの他の繊維よりも小さい可能性がある。例えば、6FDA:BPDA−DAMは、マトリミド(登録商標)のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する。また6FDA:BPDA−DAMのより嵩高なCF
3基も、熱分解中に分子中に残る。6FDA二無水物単量体から作製された他のポリイミドは、前駆体として使用され、例えばVTMSなどの修飾剤で処理されると6FDA:BPDA−DAMと同様に作用することが期待される。
【実施例】
【0078】
実験方法
材料
研究で使用されるガラス状ポリマーは、マトリミド(登録商標)5218および6FDA:BPDA−DAMであった。これらのポリマーは供給源から入手し、マトリミド(登録商標)5218は、ハンツマン・インターナショナルLLC(Huntsman International LLC)から得て、6FDA:BPDA−DAMは、アクロン・ポリマー・システム(Akron Polymer Systems)(APS)により研究室でカスタム合成した。ビニルトリメトキシシランをシグマ−アルドリッチ(Sigma-Aldrich)から得た。上述したポリマーを得るために、他の利用可能な供給源を使用してもよいし、またはそれらを合成してもよい。例えば、このようなポリマーは、その内容が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,234,471号で説明されている。
【0079】
ポリマー前駆体中空糸膜の形成
非対称中空糸膜は、多孔質の基礎構造によって支持される極薄の緻密な表面薄層を含む。図解の目的で使用される例において、非対称中空糸膜は、一例として
図4aで図示される、従来のドライジェット/ウェットクエンチ紡糸法(dry-jet/wet quench spinning process)によって形成される。本発明は、ポリマー前駆体を形成するいかなる特定の方法または過程にも限定されない。紡糸に使用されるポリマー溶液は、「ドープ」と称される。ドープ組成物は、
図4bで示されるような三成分系の相平衡状態図によって説明することができる。欠陥のない非対称中空糸の形成は、その内容が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,902,422号で説明されている方法に従って行われた。
【0080】
ポリマー前駆体繊維の前処理
VTMSによるマトリミド(登録商標)前駆体の改変のために、一例として
図9で図示されているように、密閉した接触用容器中で繊維を過量のVTMS液に浸す。繊維をVTMSに室温(25℃)で24時間浸漬することにより改変を行ったところ、後で論じられる例で示される観察と類似の観察が得られた。
【0081】
第二の実施態様では、密閉したセル中でVTMSをマトリミド(登録商標)前駆体と接触させ、対流式オーブンで200℃で30分加熱した。加熱後、セルを室温(約25℃)に冷却し、液体から繊維を取り出した。次いで繊維を150℃、真空中で6時間置き、過量のVTMSを除去した(VTMSの沸点は135℃)。
【0082】
熱分解
ポリマー繊維を、ステンレス鋼のワイヤーメッシュ上に置き、所定長さのワイヤーでメッシュと繊維を巻きつけることによりその場に保持した。
図10で図示されているように、メッシュの支持体を熱分解装置に入れた。各ポリイミド前駆体ごとに異なる熱分解温度および雰囲気を使用した。
【0083】
マトリミド(登録商標):
最終的な熱分解温度は650℃であり、温度プロファイルは以下の通り:
1.13.3℃/分の一定比率で50から250℃
2.3.85℃/分の一定比率で250から635℃
3.0.25℃/分の一定比率で635から650℃
4.650℃で2時間浸漬
熱分解の雰囲気:超高純度アルゴン(約99.9%)。
【0084】
6FDA:BPDA−DAM:
最終的な熱分解温度は550℃であり、温度プロファイルは以下の通り:
a.13.3℃/分の一定比率で50から250℃
b.3.85℃/分の一定比率で250から535℃
c.0.25℃/分の一定比率で535から550℃
d.550℃で2時間浸漬。
【0085】
熱分解の雰囲気:26.3ppmの酸素を含むアルゴン。
【0086】
図10に、この研究で使用される熱分解システムを示す。温度調節器(オメガ・エンジニアリング社(Omega Engineering, Inc.))を使用して、加熱炉(サーモクラフト社(Thermocraft(登録商標), Inc.))を加熱し、石英管(ナショナル・サイエンティフィック社(National Scientific Co.))中で繊維支持体を維持した。石英管の両末端にケイ素のOリングを有する金属フランジの組立体(MTIコーポレーション(MTI Corporation))を使用した。酸素分析器(ケンブリッジ・センソテック社(Cambridge Sensotec Ltd.)、ラピドックス(Rapidox)2100シリーズ、英国ケンブリッジ、10
−20ppm〜100%で±1%の精度)をつなげて、熱分解過程中の酸素濃度をモニターした。
【0087】
CMS膜試験モジュール
CMS繊維を、その内容が参照により本明細書に組み入れられるKorosらによる米国特許公報第2002/0033096A1号で説明されているようにして構築した単一の繊維モジュールで試験した。純粋なガスフィードと、Korosらによる米国特許公報第2002/0033096A1号で説明されているものに類似した混成ガスフィードの両方について、CMS繊維モジュールを定体積で可変圧力の透過システムで試験した。
【0088】
実験結果の総論
実施例1
マトリミド(登録商標)前駆体からのCMS膜を、上記の実験の章で説明したようにして製造した。以下に実施例の検証を示す。
【0089】
VTMS改変前駆体からのCMS繊維膜のSEM画像
マトリミド(登録商標)改変前駆体からのCMS膜は、SEMにおいて改善された形態を示す。
図11aおよび11bは、マトリミド(登録商標)の改善された基礎構造の形態を示すSEM画像である。
【0090】
改変された前駆体からのCMSの移動特性
CMS−VTMS改変マトリミド(登録商標):
100psigで純粋なCO
2と純粋なCH
4を使用して、排気の透過によりCMSモジュールを試験した。表1で示されるように、前処理されたCMSの透過は、未処理CMSに対して約4倍増加し、選択性における変化はみられなかった。
【0091】
【表1】
【0092】
実施例2
6FDA:BPDA−DAM前駆体からのCMS膜を、上記の実験の章で説明されているようにして製造した。以下に実施例の検証を示す。
【0093】
VTMS改変前駆体からのCMS繊維膜のSEM画像
6FDA:BPDA−DAM改変前駆体からのCMS膜は、SEMにおいて改善された形態を示す。
図12aおよび12bは、6FDA:BPDA−DAMの改善された基礎構造の形態を示すSEM画像である。
【0094】
改変された前駆体からのCMSの移動特性
VTMS改変6FDA:BPDA−DAMを用いたCMS:
VTMSで改変された6FDAモジュールを用いたCMSを、純ガスと混成ガス(50%CO
2−50%CH
4)ストリームの両方について試験した。表2に純ガスフィードの分離性能と未改変CMSの性能値との比較を示す。
【0095】
【表2】
【0096】
6FDA:BPDA−DAMの場合、透過の増加は、マトリミド(登録商標)について示された増加と類似している(約5倍)。
【0097】
VTMS改変6FDA繊維を用いたCMSの安定性を試験するために、最大800psiaの混成ガスでCMSモジュールを試験し、US6,565,631でKorosらによって教示されたような様々な方法に従って作製された6FDA:BPDA−DAM繊維を用いたCMSの性能と比較した。
図13aおよび13bは、この実施態様のVTMS処理したCMSと、US6,565,631で教示された方法によって生産された繊維との性能の比較を示す。この実施態様のCMS繊維の透過は、US6,565,631の繊維の透過の2倍であり、同時に類似の選択性を維持した。
【0098】
実施例3
VTMS改変前駆体繊維の非付着(Anti-Stick)特性
本発明の様々な実施態様を使用することによって、優れた分離性能を維持しながら、繊維間の付着の量を少なくするかまたはなくすことができる。未改変マトリミド(登録商標)前駆体繊維を用いた対照実験を行ったが、ここで、
図14aに示されるように、熱分解の際、複数の繊維を互いに近接するように束ねた。熱分解後、未改変繊維を用いたCMSは互いに付着し、深刻な損傷または破損を引き起こさずに繊維を分離することができなかった。
図14bで示されるように、本発明の様々な実施態様に従って改変されたマトリミド(登録商標)前駆体にも同じ実験を行った。熱分解後、これらのVTMS改変繊維を用いたCMSは、一緒に付着せずに、「非付着(anti-stick)」特性を達成した。
【0099】
「非付着(anti-stick)」特性に加えて、CMS繊維は、優れた分離性能を有することも望ましい。束ねた繊維の透過を、表3に示される束になっていない未処理繊維および束ねた未処理繊維の両方と比較した。未処理繊維は一緒に付着しているため、試験不可能であった。
【0100】
【表3】
【0101】
前述の説明において、多数の特徴および利点を構造および機能の詳細と共に説明した。当業者には明らかであると予想されるが、本発明を数種の形態で開示したが、以下の特許請求の範囲に記載される本発明の本質および範囲ならびにそれに等しいものから逸脱することなく、多くの改変、追加、および削除を、特に部品の形状、サイズ、および配置に関してなすことができる。それゆえに、本明細書に記載の教示により示唆され得るようなその他の改変または実施態様は、それらが本明細書に添付された特許請求の範囲内に含まれるものとして具体的に権利が確保される。