(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱伝達装置(15)は、前記第1の流路(A)または前記第2の流路(B)のいずれか一方からの前記流体が流れるラジエータ(23)と、前記ラジエータの熱を前記共振器部(2)に送風するファン(22)とを備えている、請求項1から3のいずれか一項に記載のガスレーザ発振器。
前記熱伝達装置(15)は、前記第1の流路(A)または前記第2の流路(B)のいずれか一方からの前記流体が流れる流路(26)を備えており、前記流路(26)は前記共振器部(2)に形成されている、請求項1から4のいずれか一項に記載のガスレーザ発振器。
【背景技術】
【0002】
金属や樹脂材料などにレーザ光を当てて切断や穴あけなどの加工を行うレーザ加工機が知られている。このようなレーザ加工機には、大出力が可能な炭酸ガスレーザ発振器が搭載されていることが多い。
【0003】
炭酸ガスレーザ発振器は、おもに二酸化炭素と窒素とヘリウムとからなる混合気体(以下、レーザガスと称する。)を励起し、励起されたレーザガスが発する光を増幅するために共振させる共振器部を有している。共振器部は、レーザガスを収容する放電管と、放電管の長軸方向の両端にそれぞれ配置された全反射鏡と半反射鏡(出力鏡)と、を備える。放電管内のレーザガスを放電により励起させると、放電管の長軸方向に光が放出される。この光が全反射鏡と半反射鏡(出力鏡)との間で反射を繰返して増幅されるとともに、出力鏡を透過して共振器部の外へ出力される。
【0004】
放電管内のレーザガスを放電により励起してレーザ光を発生させる場合、レーザガスに与えた放電エネルギーの10数%が光に変換される。残りの放電エネルギーは熱となり、レーザガスの温度が上昇する。それにより共振器部の温度が上昇するので、共振器部を構成する部材が変形する虞がある。そのため、ガスレーザ発振器では、高温となったレーザガスを放電管から流出させて熱交換器により冷却し、放電管内に戻すことが行われている。さらに、熱交換器に冷却水を循環させ、その冷却水の温度をレーザ発振器外部の冷却装置、例えばチラーにより一定の温度に制御することも行われている。このようにレーザガスの温度上昇を抑制することにより、共振器部を構成する部材が変形しにくくなるので、レーザ出力を安定させられる。
【0005】
特に、共振器部を構成する部材である出力鏡や全反射鏡などは高精度に位置決めされているので、共振器部の温度制御はレーザ出力を安定させるための重要な技術である。そのため、共振器部の温度を制御する技術が多数提案されている。
【0006】
特許文献1(特開2001−57452号公報)は、共振器の反射鏡を保持する光学ベンチ内に冷却媒体を循環させる流路と、この流路を開閉する電磁弁と、を備えるガスレーザ発振器を開示している。このガスレーザ発振器では、光学ベンチ内を流れる冷却媒体の温度を温度センサにより測定し、その測定値に応じて電磁弁を開閉する。それにより、冷却媒体の温度上昇を抑制して、共振器部の温度を所定の温度範囲内に保っている。
【0007】
また、特許文献2(特開平01−232779号公報)は、共振器部のミラーに冷却水を循環させるミラー冷却系統と、レーザ媒体を冷却する熱交換器と、熱交換器に冷却水を循環させるレーザ媒体冷却系統と、を備えるガスレーザ発振器を開示している。このガスレーザ発振器はさらに、レーザ媒体冷却系統とミラー冷却系統とを接続する配管と、この配管を開閉する電磁バルブとを備える。そして、ミラー冷却系統の冷却水の温度が所定の温度よりも低いときは電磁バルブを閉鎖している。ミラー冷却系統の冷却水の温度が所定の温度よりも高くなったときは、電磁バルブを開動作して、レーザ媒体冷却系統の熱交換器に流している冷却水の一部をミラー冷却系統に供給している。
【0008】
特許文献3(特開2001−24257号公報)は、一定の温度に制御された水を共振器部の周囲に螺旋状に流すことにより、共振器部の温度分布をより均等にする方法を開示している。
【0009】
特許文献4(特開2009−117700号公報)は、レーザガスをガスレーザ発振器内に密閉するガス流路と、ガス流路内のレーザガスを冷却する熱交換器とを備えたガスレーザ発振器を開示している。さらにガス流路において、熱交換器を迂回するガス迂回路と、該ガス迂回路を流れるレーザガスの流量を調整するガス流量調整弁とを設けている。ガス流量調整弁により、熱交換器を通過するレーザガスの量を調整することにより、レーザガスの温度を調整している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、前述した共振器部では、放電管の両端に配置されるべき各反射鏡を高精度に位置決めすることにより、レーザ光を共振させている。そのため、各反射鏡の位置がずれると、レーザ出力の低下が発生するなど、炭酸ガスレーザ発振器の動作が不安定になることがある。
【0012】
また、各反射鏡の位置決め作業においては、各反射鏡の位置を調整しながら炭酸ガスレーザ発振器を動作させ、所定の出力を安定して発振できる状態、すなわち定常状態になる場所に反射鏡を固定している。つまり、共振器部の温度分布が定常状態の温度分布であるときに、各反射鏡を位置決めしている。そのため、炭酸ガスレーザ発振器を起動した直後では、共振器部の温度分布が定常状態の温度分布から乖離している場合がある。この場合、各反射鏡の位置が定常状態での位置からずれてしまい、炭酸ガスレーザ発振器の動作が不安定になることがある。特に、寒冷地や冬季などにおいて炭酸ガスレーザ発振器を使用する場合には、炭酸ガスレーザ発振器の起動直後の動作が不安定になるという問題がより顕著に発生する。
【0013】
上記問題に対しては、炭酸ガスレーザ発振器を起動し、放電管内のガス放電を一定時間行うことで共振器部の温度を上昇させる。そして、共振器部の温度分布が定常状態の温度分布になったらレーザ発振準備が完了したものとし、共振器部からのレーザ発振を許可している。しかし、こうした対策は、炭酸ガスレーザ発振器を起動してからレーザ発振準備が完了するまでに時間がかかるという問題点がある。
【0014】
さらに、炭酸ガスレーザ発振器では、共振器部から発生する熱を外部に放出するように設計されている。具体的には、炭酸ガスレーザ発振器を起動すると、チラーにより一定の温度に制御された冷却水を熱交換器内に流し、レーザガスを熱交換器により冷却するようにしている。このため、炭酸ガスレーザ発振器が冷えた状態から起動されたとき、レーザガスが冷却されてしまうため、かえって共振器部の温度が上がりにくくなる。その結果、炭酸ガスレーザ発振器を起動してから安定した発振動作が可能になるまでの時間が長くなるという問題点もある。
【0015】
なお、特許文献1〜4のいずれも、共振器部の温度が所定の温度を超えないように、レーザガスや反射鏡などを含む共振器部を冷却する技術を開示しているに過ぎない。つまり、特許文献1〜4に記載のガスレーザ発振器では、ガスレーザ発振器を起動してから共振器部の温度上昇を抑制する制御のみを行っている。そのため、寒冷地や冬季などにおいてガスレーザ発振器を使用した場合、ガスレーザ発振器を起動してから安定した発振動作が可能になるまでに時間がかかるという問題がある。
【0016】
そこで本発明は、上述したような問題点に鑑み、寒冷地や冬季などにおいてガスレーザ発振器を使用した場合、ガスレーザ発振器を起動してできるだけ早く発振準備を完了させることが可能なガスレーザ発振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第一の態様によれば、レーザガスを放電により励起する放電部を有し、レーザガスの励起によって発生したレーザ光を発振させる共振器部と、レーザガスと熱交換を行う流体が流れる熱交換器と、熱交換器内の流体を吸出し、当該流体を冷却して熱交換器内に供給するチラーと、流体の熱を共振器部に伝達する熱伝達装置と、を備えるガスレーザ発振器が提供される。
さらに、第一の態様のガスレーザ発振器は、熱交換器内の、レーザガスの冷却に使用された流体を熱交換器から熱伝達装置に供給する第1の流路と、チラーにより冷却された流体を熱交換器内に供給する前に熱伝達装置に供給する第2の流路と、第1の流路または第2の流路のいずれか一方に切替える切替弁と、を備えたことを特徴とする。この第一の態様により上述の課題が解決される。しかし、本発明は、第一の態様に限られず、以下の第二ないし第六の態様のいずれかのガスレーザ発振器を提供することもできる。
【0018】
本発明の第二の態様によれば、第一の態様のガスレーザ発振器において、チラーにより冷却された、熱交換器に供給されるべき流体の流量を調整する調整弁をさらに備えている、ガスレーザ発振器が提供される。
【0019】
本発明の第三の態様によれば、第二の態様のガスレーザ発振器において、共振器部は、レーザ光の発振を防止する発振防止装置を備えている、ガスレーザ発振器が提供される。
【0020】
本発明の第四の態様によれば、第一から第三の態様のいずれかのガスレーザ発振器において、共振器部の温度を測定する温度センサと、温度センサにより測定された測定温度を所定の温度と比較し、その比較結果に基づいて切替弁を制御する制御装置と、をさらに備えている、ガスレーザ発振器が提供される。
【0021】
本発明の第五の態様によれば、第三の態様のガスレーザ発振器において、共振器部の温度を測定する温度センサと、温度センサにより測定された測定温度を所定の温度と比較し、その比較結果に基づいて、切替弁と、調整弁および発振防止装置のうちの少なくとも一つとを制御する制御装置と、をさらに備えている、ガスレーザ発振器が提供される。
【0022】
本発明の第六の態様よれば、第一から第四の態様のいずれかのガスレーザ発振器において、熱伝達装置は、第1の流路または第2の流路のいずれか一方からの流体が流れるラジエータと、ラジエータの熱を共振器部に送風するファンとを備えている、ガスレーザ発振器が提供される。
【0023】
本発明の第七の態様によれば、第一から第五の態様のいずれかのガスレーザ発振器において、熱伝達装置は、第1の流路または第2の流路のいずれか一方からの流体が流れる流路を備えており、該流路が共振器部に形成されている、ガスレーザ発振器が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第一の態様によれば、第1の流路を切替弁により選択すると、熱交換器内の、レーザガスの冷却に使用された流体が該熱交換器から熱伝達装置に供給される。そのため、熱伝達装置を共振器部の加温装置として使用することができる。したがって、寒冷地や冬季などにおいてガスレーザ発振器が起動されるとき、切替弁を制御して第1の流路に設定しておけば、ガスレーザ発振器を起動してから安定した発振動作が可能になるまでの時間を短縮できる。
一方、第2の流路を切替弁により選択すると、チラーにより冷却された流体は熱交換器内に供給する前に熱伝達装置に供給される。そのため、熱伝達装置を共振器部の冷却装置として使用することができる。したがって、平常の環境下、例えば空調機が在る工場内においてガスレーザ発振器が起動されるときは、切替弁を制御して第2の流路に設定する。それにより、共振器部の温度上昇が抑制されて、共振器部を構成する部材が変形しにくくなるので、レーザ出力を安定させることができる。
【0025】
本発明の第二の態様によれば、調整弁を使用することにより、チラーにより冷却された、熱交換器に供給されるべき流体の流量を調整することができる。このため、熱伝達装置を共振器部の加温装置として使用する場合は、チラーから熱交換器へ供給する流体の量を調整弁により減らす。それにより、熱交換器内の流体の温度を効率よく上昇させることができる。一方、チラーから熱交換器へ供給する流体の量を調整弁により増加させることにより、熱交換器内の流体の温度を効率よく低下させることができる。したがって、共振器部の加温および冷却を効率よく行うことが可能となる。
【0026】
本発明の第三の態様によれば、発振防止装置により、共振器部にてレーザ光を発振させないことにより、共振器部内の放電エネルギーの全てが熱としてレーザガスに付与される。そのため、熱交換器内の、レーザガスの冷却に使用されるべき流体の温度を、レーザ光を発振させる場合と比べて、より高くすることができる。したがって、熱伝達装置を共振器部の加温装置として使用する場合、共振器部の加温を効率よく行うことが可能となる。
【0027】
本発明の第四の態様によれば、温度センサにより共振器部の温度を測定し、その測定温度を所定の温度と比較し、その比較結果に基づいて切替弁を制御することにより、共振器部の加温および冷却を共振器部の温度に応じて正確に実施できる。
【0028】
本発明の第五の態様によれば、温度センサにより測定した共振器部の温度を所定の温度と比較し、その比較結果により、切替弁とともに、調整弁と発振防止装置のうちの少なくとも一つを制御することができる。このため、共振器部の温度に応じて調整弁および発振防止装置を正確に作動させることができる。
【0029】
本発明の第六の態様によれば、ファンによりラジエータの熱を共振器部に送風して、共振器部を加温または冷却することができる。
【0030】
本発明の第七の態様によれば、共振器部において温まりにくい箇所が在る場合、そのような箇所に熱交換器内の流体が流れる流路を設けると、共振器部全体を効率よく加温することができる。
【0031】
添付図面に示される本発明の典型的な実施形態の詳細な説明から、本発明のこれらの目的、特徴および利点ならびに他の目的、特徴および利点がさらに明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の図面において、同様の部材には同様の参照符号が付けられている。理解を容易にするために、これらの図面は縮尺を適宜変更している。また、以下では、ガスレーザ発振器として高速軸流型ガスレーザ装置を例にして説明するが、本発明はこれに限られない。
【0034】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態のガスレーザ発振器の構成を模式的に示すブロック図である。
本実施形態のガスレーザ発振器1Aは、出力すべきレーザ光を共振させるための共振器部2を筐体3内に備える。
【0035】
共振器部2は、レーザガス、例えば二酸化炭素と窒素とヘリウムとからなる混合気体を収容し、放電によってレーザガスを励起してレーザ光を放出する軸形の放電部4を有する。この軸形放電部は、例えば、4本の放電管(不図示)を直列に接続し、4本の放電管(不図示)を2本単位に折り返して筐体3内に配置されている。なお、放電管の総本数、および、折り返される放電管の単位数は上記の本数に限定されない。
【0036】
放電部4の光軸方向の両端となる位置にそれぞれ出力鏡(半反射鏡)5と全反射鏡6とが配置されている。放電部4の中間位置には折返鏡(不図示)が配置されている。これら鏡は高精度に位置決めされ、かつ、支持部(不図示)により支持されている。
【0037】
放電部4の外部には高周波電源7が設置されている。高周波電源7により高周波の電力を放電部4内の電極(不図示)に印加することにより、電極間のレーザガスを放電させている。レーザガスを放電により励起させると、放電部4の長軸方向にレーザ光が放出される。このレーザ光が出力鏡5と全反射鏡6との間で反射を繰返して増幅されるとともに、出力鏡5を透過して共振器部2の外へ出力される。出力されたレーザ光は金属加工や樹脂加工などに利用される。
【0038】
筐体3内には、放電部4内のレーザガスを循環させるレーザガス流路8が設けられている。レーザガス流路8は、放電部4の一端部から第1の熱交換器9、送風機10、および第2の熱交換器11を順次経由して放電部4の他端部に至る流路である。なお、
図1では、レーザガスが流れる方向の理解を容易にするため、レーザガス流路8を白抜き矢印により示している。
【0039】
レーザガス流路8において、送風機10を作動させることにより、放電部4内のレーザガスは放電部4外に排出され、第1の熱交換器9により冷却される。さらに、第1の熱交換器9を通過したレーザガスは、送風機10により放電部4内に供給される。送風機10を通過するときにレーザガスは圧縮されて該レーザガスの温度が上昇する。このため、送風機10を通過したレーザガスを第2の熱交換器11により冷却している。以上の構成により、放電部4内におけるレーザガスの温度上昇を抑制している。
【0040】
筐体3の外側には、第1の熱交換器9内の冷却水の温度を制御する冷却水温度制御装置、例えばチラー12が設けられている。チラー12は、第1の熱交換器9内の、レーザガスの冷却に使用された冷却用流体、例えば冷却水を第1の冷却水流路13により吸出する。さらにチラー12は、冷却水を一定の温度に調整して第2の冷却水流路14により
第1の熱交換器9内に供給する。
【0041】
さらに、ガスレーザ発振器1Aは、熱伝達装置15と切替弁16と制御装置17とを備えている。
切替弁16は、例えば、2つの入口と1つの出口とを有する三方弁である。切替弁16の2つの入口のうちの一方は第1の熱交換器9に接続されており、2つの入口のうちの他方は第2の冷却水流路14に接続されている。切替弁16の出口は熱伝達装置15に接続されている。したがって、切替弁16は、冷却水を熱伝達装置15に供給する冷却水供給流路を2つの流路A、Bに切替えられる。すなわち、熱伝達装置15への冷却水供給流路に関して、第1の熱交換器9内の冷却水を熱伝達装置15に供給する第1の流路A、または、第2の冷却水流路14内の冷却水を熱伝達装置15に供給する第2の流路Bのいずれか一方を選択することができる。
【0042】
上記2つの流路A、Bを選択可能な切替弁16は制御装置17により制御される。制御装置17は高周波電源7の電力も制御する。また、熱伝達装置15とチラー12とは第3の冷却水流路18により接続されている。第3の冷却水流路18により、熱伝達装置15内の冷却水をチラー12に還流させることができる。
【0043】
熱伝達装置15は、冷却水の熱を共振器部2に伝達する装置である。上記第1の流路Aを切替弁16により選択し、第1の熱交換器9内の、レーザガスを冷却して温かくなった冷却水を熱伝達装置15に供給すると、熱伝達装置15は加温装置として機能する。また、上記第2の流路Bを切替弁16により選択し、チラー12から第2の冷却水流路14に流入する低温の冷却水を熱伝達装置15に供給すると、熱伝達装置15は冷却装置として機能する。
【0044】
次に、ガスレーザ発振器1Aの動作および共振器部2の温度制御について説明する。
ガスレーザ発振器1Aを起動すると、制御装置17により高周波電源7の電力を制御して放電部4内のレーザガスを放電し、レーザガスを励起する。それにより、励起されたレーザガスから発生したレーザ光の一部が共振器部2の出力鏡5から出力される。その一方で、レーザ光の励起に使用されなかった放電エネルギーは熱となるため、放電部4内のレーザガスの温度が上昇する。また、出力鏡5、全反射鏡6または折返鏡などもレーザ光の一部を吸収するため、それらの部品も熱源となる。したがって、共振器部2全体の温度が上昇する。
【0045】
放電部4内のレーザガスの温度上昇を抑制するため、送風機10を作動させる。それにより、放電部4内のレーザガスが、放電部4の一端部、すなわち全反射鏡6が配置された端部からレーザガス流路8に排出される。そして、レーザガス流路8内のレーザガスは、第1および第2の熱交換器9、11により冷却されて、放電部4の他端部、すなわち出力鏡5が配置された端部から放電部4内に供給される。このようにレーザガスが流れることにより、レーザガスの温度上昇が抑制される。
【0046】
さらに、熱伝達装置15を冷却装置として使用する。それにより、共振器部2全体を冷却し、出力鏡5、全反射鏡6または折返鏡などの、共振器部2を構成する部品を冷却する。
【0047】
なお、共振器部2に使用される各反射鏡を位置決めするときもまた、上記のようにガスレーザ発振器1Aを稼働し、熱伝達装置15を冷却装置として使用する。そして、共振器部2の発熱と共振器部2の冷却とが協働して共振器部2全体の温度が平衡状態となったとき、出力鏡5、全反射鏡6または折返鏡などの位置を精密に決定することが好ましい。これにより、共振器部2は所定の出力を安定して発振できる状態、すなわち定常状態になる。
【0048】
ところで、レーザ加工機は、恒温室のように温度が一定な場所ばかりでなく、温度が変化する場所、例えば気温が低下する工場の屋内や、さらには屋外にも設置されることがある。そのため、寒冷地や冬季などにおいてガスレーザ発振器1Aを起動した場合、熱伝達装置15を加温装置として使用する。
具体的には、ガスレーザ発振器1Aを起動すると、レーザガスは、放電により励起されて直ぐに熱くなり、
図1に示したようにレーザガス流路8を流れて循環する。このとき、放電部4内のレーザガスは、出力鏡5が配置された放電部4の一端部から、全反射鏡6が配置された放電部4の他端に向かって流通する。したがって、寒冷地や冬季などにおいてガスレーザ発振器1Aが起動された場合、全反射鏡6およびこの近隣の部品の温度が他の部品よりも早く上昇する。
【0049】
一方、出力鏡5が配置された放電部4の他端部には、熱交換器9、11により冷却されたレーザガスが供給されるため、出力鏡5およびこの近隣の部品の温度は上昇しにくい。さらに、放電部4の材料として使用される石英ガラスの熱伝導率は比較的低いため、全反射鏡6の熱が放電部4自体により出力鏡5側へ伝達されることは期待できない。したがって、共振器
部2の温度分布に関して、放電部4の両端部間の温度差は上記の定常状態のときと比べて大きくなる。その結果、出力鏡5と全反射鏡6との相対的な位置関係が変化してしまい、レーザ出力が定常状態のときよりも低下する。また、レーザ光の発振動作が不安定となる。
【0050】
そこで、寒冷地や冬季などにおいてガスレーザ発振器1Aが起動された場合、まず熱伝達装置15を加温装置として使用し、共振器部2全体を温める。それにより、放電部4の両端部間の温度差が小さくなって、共振器部2の温度分布が定常状態の温度分布に移行する。共振器部2の温度分布が定常状態の温度分布になったら、熱伝達装置15を冷却装置として使用する。
【0051】
以上のように寒冷地や冬季などにおいてガスレーザ発振器1Aを起動したら、先ず、レーザガスを冷却した熱交換器9内の冷却水の熱を利用して共振器部2を加温する。それにより、寒冷地や冬季などにおいてガスレーザ発振器を起動してから安定した発振動作が可能になるまでの時間を短縮することができる。
【0052】
なお、本実施形態の共振器部2では出力鏡5およびこの近隣の部品が温まりにくいが、共振器部2の構造を変更すれば、それに応じて共振器部2の温まりにくい場所も変わる。したがって、熱伝達装置15を加温装置として使用して共振器部2を温める際、共振器部2の温度分布に応じて、共振器部2の、相対的に温度の低い場所を温めることが好ましい。
また、熱伝達装置15は、共振器部2を構成する複数の部品のうちの一つ以上を加温または冷却できることが好ましい。共振器部2を構成する複数の部品としては、放電部4、出力鏡5、全反射鏡6、各反射鏡を支持する支持部品、レーザガス流路8を構成する部品、または、レーザ光が通る光路となる部品、などである。
【0053】
(第2の実施形態)
図2は第2の実施形態のガスレーザ発振器の構成を模式的に示すブロック図である。以下に第1の実施形態と同じ構成要素には同一符号を使用して、第1の実施形態と異なる構成を主に説明する。
図2に示すように、第2の実施形態のガスレーザ発振器1Bは、第1の実施形態のガスレーザ発振器1Aに対して、調整弁19をさらに備えている。調整弁19は第2の冷却水流路14に設置されている。調整弁19は、第2の冷却水流路14の開口面積を変更することにより、チラー12から第1の熱交換器9に供給する冷却水の量を調整できる。調整弁19は制御装置17より制御される。
【0054】
切替弁
16を制御して熱伝達装置15を冷却装置として使用する場合、調整弁19を制御して、チラー12から第1の熱交換器9に供給される低温の冷却水の量を多くする。それにより、第1の熱交換器9内の冷却水の温度上昇は小さくなる。このため、熱伝達装置15は冷却装置として良好に機能する。
一方、切替弁
16を制御して熱伝達装置15を加温装置として使用する場合、調整弁19を制御して、チラー12から第1の熱交換器9に供給される冷却水の流量を少なくする。それにより、第1の熱交換器9内の冷却水の温度上昇は大きくなる。したがって、温かくなった冷却水を第1の熱交換器9から熱伝達装置15に効率よく供給することができる。
(第3の実施形態)
図3は第3の実施形態のガスレーザ発振器の構成を模式的に示すブロック図である。以下に第1および第2の実施形態と同じ構成要素には同一符号を使用して、第1および第2の実施形態と異なる構成を主に説明する。
図3に示すように、第3の実施形態のガスレーザ発振器1Cは、第2の実施形態のガスレーザ発振器1Bに対して、レーザ光の発振を防止する発振防止装置20をさらに備えている。発振防止装置20が共振器部2内に設けられている。発振防止装置20には、遮光板などが用いられる。制御装置17は発振防止装置20を制御できる。
【0055】
切替弁
16を制御して熱伝達装置15を加温装置として使用するとき、発振防止装置20を制御装置17により有効にする。つまり、発振防止装置20が、共振器部2から外にレーザ光を発振できない状態に制御される。その結果、放電部4内のレーザガスを励起するための放電エネルギーは全てレーザガスの熱となる。このため、第1および第2の実施形態と比べて、放電部4内のレーザガスの温度は高くなって、第1の熱交換器9内の冷却水の温度も高くなる。したがって、熱伝達装置15を加温装置として使用して共振器部2の温度を上げたいときに、熱伝達装置15の伝熱量を増加させることができる。
【0056】
但し、共振器部2からレーザ光を出力しているとき、例えばレーザ加工中に、熱伝達装置15を加温装置として使用したい場合には、発振防止装置20を制御装置17により無効にする。これにより、共振器部2がレーザ光を発振できるようになる。
【0057】
(第4の実施形態)
図4は第4の実施形態のガスレーザ発振器の構成を模式的に示すブロック図である。以下に第1から第3の実施形態と同じ構成要素には同一符号を使用して、第1から第3の実施形態と異なる構成を主に説明する。
図4に示すように、第4の実施形態のガスレーザ発振器1Dは、第3の実施形態のガスレーザ発振器1Cに対して、温度センサ21をさらに備えている。温度センサ21は共振器部2に設置されている。
【0058】
前述したように、放電部4内のレーザガスは、出力鏡5が配置された放電部4の一端部から、全反射鏡6が配置された放電部4の他端に向かって流れる。そして、出力鏡5が配置された放電部4の一端部には、熱交換器9、11により冷却されたレーザガスが供給されるため、出力鏡5およびこの近隣の部品の温度は上昇しにくい。したがって、出力鏡5およびこの近隣の部品が、共振器部2全体において相対的に温度が低い部品となる。このため、本実施形態では出力鏡5の近くに温度センサ21を設置している。勿論、温度センサ21の設置場所は、出力鏡5の近くに限られず、共振器部2の温度分布において相対的に温度が低い場所に設置されていればよい。
【0059】
制御装置17は、温度センサ21により測定された測定温度と、制御装置17に予め記憶された設定温度とを比較する。その結果、測定温度が設定温度よりも低い場合、制御装置17は、切替弁16を制御して第1の熱交換器9と熱伝達装置15とを流通させる。さらに制御装置17は、調整弁19を制御して第2の冷却水流路14の開口面積を小さくし、かつ、発振防止装置20を有効にすることにより、第1の熱交換器9から熱伝達装置15に供給される冷却水の温度を上昇させる。それにより、熱伝達装置15によって共振器部2を効率よく温めることができる。なお、切替弁16に加えて、調整弁19および発振防止装置20のうちの一方のみを制御するようにしてもよい。
【0060】
但し、共振器部2からレーザ光を出力しているとき、例えばレーザ加工中に、熱伝達装置15を加温装置として使用したい場合には、発振防止装置20を制御装置17により無効にする。これにより、共振器部2がレーザ光を発振できるようになる。
【0061】
また、温度センサ21により測定された測定温度が設定温度よりも高い場合、制御装置17は、切替弁16を制御して第2の冷却水流路14と熱伝達装置15とを流通させる。つまり、チラー12により冷却された冷却水を熱伝達装置15に供給する。さらに制御装置17は、調整弁19を制御して第2の冷却水流路14の開口面積を大きくし、かつ、発振防止装置20を無効にする。それにより、第1の熱交換器9内の冷却水の温度を低下させられるため、熱伝達装置15により共振器部2を効率よく冷却することができる。なお、切替弁16に加えて、調整弁19および発振防止装置20のうちの一方のみを制御するようにしてもよい。
【0062】
(第5の実施形態)
図5は第5の実施形態のガスレーザ発振器の構成を模式的に示すブロック図である。以下に第1から第4の実施形態と同じ構成要素には同一符号を使用して、第1から第4の実施形態と異なる構成を主に説明する。
第1から第4の実施形態において、熱伝達装置15は、
図5に示すようにファン22とラジエータ23とを備えている。ファン22は対向する2つの側面を備えていて、2つの側面のうちの一方から空気24を吸い込み、2つの側面のうちの他方から空気24を吐出す。ファン22の2つの側面のうちの一方にラジエータ23が隣接して配置されている。
【0063】
ラジエータ23には冷却水25が供給されており、冷却水25と、ラジエータ23を通過する空気24との間で熱交換が行われる。ラジエータ23に供給される冷却水25が高温の場合は、高温の空気24が共振器部2の周囲に送風されるため、共振器部2全体が温められる。また、ラジエータ23に供給される冷却水25が低温の場合は、低温の空気24が共振器部2の周囲に送風されるため、共振器部2全体が冷却される。なお、ラジエータ23に供給される高温の冷却水は、第1から第4の実施形態に示した第1の流路Aからの冷却水である。ラジエータ23に供給される低温の冷却水は、第1から第4の実施形態に示した第2の流路Aからの冷却水である。
【0064】
上記のようなファン22とラジエータ23とを組合せた熱伝達装置15は、ファン22から吐出する空気24が共振器部2を通過するように設置されていることが好ましい。また、そのような空気24が筐体3内を循環するように複数の熱伝達装置15を筐体3内に配置してもよい。
【0065】
(第6の実施形態)
図6は第6の実施形態のガスレーザ発振器の構成を模式的に示すブロック図である。以下に第1から第5の実施形態と同じ構成要素には同一符号を使用して、第1から第5の実施形態と異なる構成を主に説明する。
第1から第5の実施形態に用いられている共振器部2には、
図6に示すように水路26が設けられていることが好ましい。切替弁16を制御して熱伝達装置15を加温装置として使用する場合、熱伝達装置15から水路26に高温の冷却水を流入させることにより、共振器部2を温めることができる。また、切替弁16を制御して熱伝達装置15を冷却装置として使用する場合には、熱伝達装置15から水路26に低温の冷却水を流入させることにより、共振器部2を冷却することができる。なお、水路26に流入させる高温の冷却水は、第1から第4の実施形態に示した第1の流路Aからの冷却水である。水路26に流入させる低温の冷却水は、第1から第4の実施形態に示した第2の流路Aからの冷却水である。
【0066】
特に、共振器部2において温まりにくい箇所が在る場合、そのような箇所に水路26を設けると、共振器部2全体を効率よく加温することができる。また、第5の実施形態のように送風を使った熱伝達方法に水路26の構成を適用してもよい。
【0067】
以上、放電部4内のレーザガスの流れがレーザ光の光軸に沿っている高速軸流型ガスレーザ装置を例にして本発明を説明したが、本発明のガスレーザ発振器はそのような軸流型に限定されず、直交型であってもよい。つまり、本発明は、放電部4内のレーザガスの流れとレーザ光の光軸または放電の方向とが直交する直交型ガスレーザ発振器にも適用可能である。
また、上述の実施形態ではレーザガスの励起に高周波放電を用いているが、本発明のガスレーザ発振器は、それに限定されず、励起に直流放電を用いるものであってもよい。
【0068】
以上では典型的な実施形態を示したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の思想を逸脱しない範囲で上述の実施形態を様々な形、構造や材料などに変更可能である。