(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について図面に基づいて詳細に説明する。
【0010】
(実施形態1)
図1及び2は、実施形態1のVリブドベルトB(Vベルト)を示す。実施形態1のVリブドベルトBは、ポリVベルトとも称され、例えば、自動車のエンジンルーム内に設けられる補機駆動ベルト伝動装置等に用いられる。実施形態1のVリブドベルトBは、例えば、ベルト長さが700〜3000mm、ベルト幅が10〜36mm、及びベルト厚さが4.0〜5.0mmである。
【0011】
実施形態1のVリブドベルトBは、ベルト内周側の圧縮ゴム層11とベルト外周側の接着ゴム層12とが積層されるように設けられて一体化したVリブドベルト本体10を備える。接着ゴム層12には、そのベルト外周側に、ベルト背面を構成する背面補強布13が積層されるように貼設されている。また、接着ゴム層12には、そのベルト厚さ方向の中間部に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配された心線14が埋設されている。
【0012】
圧縮ゴム層11には、各々、プーリ接触面となるV側面110を構成する複数のVリブ15がベルト内周側に垂下するように設けられている。複数のVリブ15は、各々がベルト長さ方向に延びる横断面略逆三角形の突条に形成されていると共にベルト幅方向に並設されている。各Vリブ15は、例えば、リブ高さが2.0〜3.0mm、基端間の幅が1.0〜3.6mm、及びV角度が35〜40°である。リブ数は、例えば3〜6個である(
図1では6個)。
【0013】
圧縮ゴム層11は、ゴム成分に有機繊維のナノファイバー16(以下、単に「ナノファイバー16」という。)及び有機短繊維17と共に種々のゴム配合剤が配合された未架橋ゴム組成物を加熱及び加圧してゴム成分を架橋剤により架橋させたゴム組成物で形成されている。
【0014】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物のゴム成分としては、例えば、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)等が挙げられる。これらのうち、耐熱性及び耐寒性の観点からエチレン−α−オレフィンエラストマーが好ましい。
【0015】
エチレン−α−オレフィンエラストマーのα−オレフィン成分としては、例えば、プロピレン、ペンテン、オクテン等が挙げられる。ジエン成分としては、例えば、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボネン等の非共役ジエンが挙げられる。エチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、具体的には、EPDM、EPR等が挙げられる。
【0016】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物のゴム成分は、単一種のみで構成されていてもよく、また、複数種のブレンドゴムで構成されていてもよい。なお、エチレン−α−オレフィンエラストマーを主成分とするブレンドゴムを用いる場合には、その特徴を損なうことがないように、その他のゴム種の割合を25質量%以下とすることが好ましい。
【0017】
ナノファイバー16は、圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物に、ベルト幅方向に配向するように含まれている。
【0018】
ナノファイバー16の繊維径は300〜1000nmであるが、好ましくは400nm以上であり、また、好ましくは900nm以下である。ナノファイバー16の繊維長は、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、また、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下、更に好ましくは2mm以下である。ナノファイバー16の繊維径に対する繊維長の比(アスペクト比)は、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上であり、また、好ましくは10000以下、より好ましくは7000以下、更に好ましくは3000以下である。ここで、ナノファイバー16の繊維径及び繊維長はSEM等の電子顕微鏡観察により測定することができる。
【0019】
ナノファイバー16としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、6−ナイロン繊維、6,6−ナイロン繊維等のナノファイバーが挙げられる。これらのうちポリエチレンテレフタレート(PET)繊維のナノファイバーが含まれていることが好ましい。ナノファイバー16は、単一種のみが含まれていてもよく、また、複数種が含まれていてもよい。
【0020】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるナノファイバー16の含有量は、それによるベルト幅方向の高弾性率化の効果を発現させる観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、また、加工性を良好にする観点から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。
【0021】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるナノファイバー16の体積分率は、それによるベルト幅方向の高弾性率化の効果を発現させる観点から、好ましくは0.4体積%以上、より好ましくは0.8体積%以上であり、また、加工性を良好にする観点から、好ましくは8.0体積%以下、より好ましくは6.0体積%以下である。
【0022】
有機短繊維17も、圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物に、ベルト幅方向に配向するように含まれており、また、そのうちV側面110に露出した有機短繊維17は、V側面110から突出した有機短繊維17を含む。
【0023】
有機短繊維17の繊維径は10μm以上であり、また、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下である。有機短繊維17の繊維長は、好ましくは1.5mm以上、より好ましくは2mm以上であり、また、好ましくは10mm以下、より好ましくは8mm以下、更に好ましくは4mm以下である。有機短繊維17の繊維径に対する繊維長の比(アスペクト比)は、好ましくは100以上、より好ましくは150以上、更に好ましくは200以上であり、また、好ましくは500以下、より好ましくは400以下、更に好ましくは300以下である。ここで、有機短繊維17の繊維径及び繊維長はマイクロスコープにより測定することができる。
【0024】
有機短繊維17のV側面110からの突出長さは、好ましくは0.01〜5mmであり、より好ましくは0.05〜2mmである。ここで、有機短繊維17の突出長さは、SEM等の電子顕微鏡観察により測定することができる。
【0025】
有機短繊維17としては、例えば、6−ナイロン繊維、6,6−ナイロン繊維、4,6−ナイロン繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維、綿や麻などの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維等の短繊維が挙げられる。これらのうち6−ナイロン繊維、6,6−ナイロン繊維、4,6−ナイロン繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、及びパラ系アラミド繊維のうちの1種又は2種以上の短繊維が含まれていることが好ましい。有機短繊維17は、単一種のみが含まれていてもよく、また、複数種が含まれていてもよい。
【0026】
有機短繊維17には、例えばレゾルシン・ホルマリン・ラテックス水溶液(以下「RFL水溶液」という。)に浸漬した後に加熱する接着処理が施されていても、また、かかる接着処理が施されていなくても、どちらでもよい。
【0027】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物における有機短繊維17の含有量は、V側面110の摩擦係数を低減する観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、また、加工性を良好にする観点から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。
【0028】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物における有機短繊維17の体積分率は、好ましくは3体積%以上、より好ましくは4体積%以上であり、また、好ましくは8体積%以下、より好ましくは7体積%以下である。
【0029】
ナノファイバー16及び有機短繊維17は、異なる繊維種であっても、また、同一の繊維種であっても、どちらでもよい。具体的には、例えば、圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物には、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維のナノファイバー16及び6,6−ナイロン繊維又はパラ系アラミド繊維の有機短繊維17が含まれていてもよく、また、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維のナノファイバー16及び有機短繊維17が含まれていてもよい。
【0030】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるナノファイバー16の含有質量は有機短繊維17の含有質量以下であることが好ましく、ナノファイバー16の含有質量は有機短繊維17の含有質量よりも少ないことがより好ましい。ナノファイバー16の含有質量の有機短繊維17の含有質量に対する比は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上であり、また、好ましくは1.00以下、より好ましくは0.95以下である。
【0031】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるナノファイバー16及び有機短繊維17の合計の含有質量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上、更に好ましくは10質量部以上であり、また、好ましくは25.0質量部以下、より好ましくは20.0質量部以下、更に好ましくは18.0質量部以下である。
【0032】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるナノファイバー16の体積分率は有機短繊維17の体積分率以下であることが好ましく、ナノファイバー16の体積分率は有機短繊維17の体積分率よりも小さいことがより好ましい。ナノファイバー16の体積分率の有機短繊維17の体積分率に対する比は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上であり、また、好ましくは1.00以下、より好ましくは0.95以下である。
【0033】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるナノファイバー16及び有機短繊維17の合計の体積分率は、好ましくは5体積%以上、より好ましくは5.5体積%以上であり、また、好ましくは8体積%以下、より好ましくは7.5体積%以下である。
【0034】
ゴム配合剤としては、例えば、補強剤、可塑剤、プロセスオイル、加工助剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、架橋剤等が挙げられる。
【0035】
補強剤としては、例えば、カーボンブラックやシリカが挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、SAF、ISAF、N−339、HAF、N−351、MAF、FEF、SRF、GPF、ECF、N−234などのファーネスブラック;FT、MTなどのサーマルブラック等が挙げられる。補強剤は、単一種のみが含まれていても、また、複数種が含まれていても、どちらでもよい。補強剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは30〜80質量部、より好ましくは40〜70質量部である。
【0036】
可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)などのジアルキルフタレート、ジオクチルアジペート(DOA)などのジアルキルアジペート、ジオクチルセバケート(DOS)などのジアルキルセバケート等が挙げられる。可塑剤は、単一種のみが含まれていても、また、複数種が含まれていても、どちらでもよい。可塑剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜40質量部、より好ましくは0.1〜20質量部である。
【0037】
プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、芳香族オイル等が挙げられる。プロセスオイルは、単一種のみが含まれていても、また、複数種が含まれていても、どちらでもよい。プロセスオイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜40質量部、より好ましくは0.1〜20質量部である。なお、揮発減量が少なく且つ耐熱性に優れる市販のプロセスオイルとして、例えば日本サン石油社製の「サンパー2280」が公知である。
【0038】
加工助剤としては、例えば、ステアリン酸、ポリエチレンワックス、脂肪酸の金属塩等が挙げられる。加工助剤は、単一種のみが含まれていても、また、複数種が含まれていても、どちらでもよい。加工助剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して例えば0.1〜3質量部である。
【0039】
加硫促進剤としては、例えば、チウラム系(例えばTETなど)、ジチオカルバメート系(例えばEZなど)、スルフェンアミド系(例えばMSAなど)のもの等が挙げられる。加硫促進剤は、単一種のみが含まれていても、また、複数種が含まれていても、どちらでもよい。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して例えば2〜10質量部である。
【0040】
加硫促進助剤としては、例えば、酸化マグネシウムや酸化亜鉛(亜鉛華)などの金属酸化物、金属炭酸塩、ステアリン酸などの脂肪酸及びその誘導体等が挙げられる。加硫促進助剤は、単一種のみが含まれていても、また、複数種が含まれていても、どちらでもよい。加硫促進助剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して例えば0.5〜8質量部である。
【0041】
老化防止剤としては、例えば、ジアミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤等が挙げられる。老化防止剤は、単一種のみが含まれていても、また、複数種が含まれていても、どちらでもよい。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.5〜3質量部である。
【0042】
架橋剤としては、有機過酸化物及び硫黄が挙げられる。耐熱性を高める観点からは、架橋剤として有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド類、t−ブチルパーオキシアセテートなどのパーオキシエステル類、ジシクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類等が挙げられる。有機過酸化物は、単一種のみが含まれていても、また、複数種が含まれていても、どちらでもよい。有機過酸化物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは1〜6質量部である。
【0043】
架橋剤として有機過酸化物を用いる場合、共架橋剤も含まれていてもよい。かかる共架橋剤としては、例えば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリアリルイソシアヌレート、液状ポリブタジェエン、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド等が挙げられる。共架橋剤は、単一種のみが含まれていても、また、複数種が含まれていても、どちらでもよい。共架橋剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは2〜7質量部である。
【0044】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物には、後述の複合材料の熱可塑性樹脂が含まれる。熱可塑性樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して例えば1〜7質量部である。
【0045】
なお、圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物には、その他に、炭酸カルシウム、タルク、珪藻土などの充填剤、安定剤、着色剤等が含まれていてもよい。
【0046】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるJIS K6253に基づいてタイプAデュロメータにより測定されるゴム硬さは、好ましくは80°以上、より好ましくは85°以上であり、また、好ましくは98°以下、より好ましくは95°以下である。
【0047】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるJIS K6251に基づいて測定されるベルト幅方向、つまり、ナノファイバー16及び有機短繊維17の配向方向である列理方向の10%伸び時における引張応力(M
10)は、好ましくは3MPa以上、より好ましくは5MPa以上であり、また、好ましくは40MPa以下、より好ましくは30MPa以下である。
【0048】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるJIS K6251に基づいて測定されるベルト幅方向である列理方向の引張強さ(T
B)は、好ましくは8MPa以上、より好ましくは10MPa以上であり、また、好ましくは50MPa以下、より好ましくは40MPa以下である。
【0049】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるJIS K6251に基づいて測定されるベルト幅方向である列理方向の切断時伸び(E
B)は、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上であり、また、好ましくは300%以下、より好ましくは250%以下である。
【0050】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるJIS K6251に基づいて測定されるベルト長さ方向、つまり、ナノファイバー16及び有機短繊維17の配向方向に直交する方向である反列理方向の10%伸び時における引張応力(M
10)は、好ましくは0.5MPa以上、より好ましくは0.8MPa以上であり、また、好ましくは10MPa以下、より好ましくは8MPa以下である。
【0051】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるJIS K6251に基づいて測定されるベルト長さ方向である反列理方向の50%伸び時における引張応力(M
50)は、好ましくは1MPa以上、より好ましくは1.5MPa以上であり、また、好ましくは20MPa以下、より好ましくは15MPa以下である。
【0052】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるJIS K6251に基づいて測定されるベルト長さ方向である反列理方向の引張強さ(T
B)は、好ましくは5MPa以上、より好ましくは8MPa以上であり、また、好ましくは20MPa以下、より好ましくは18MPa以下である。
【0053】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるJIS K6251に基づいて測定されるベルト長さ方向である反列理方向の切断時伸び(E
B)は、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上であり、また、好ましくは400%以下、より好ましくは300%以下である。
【0054】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるベルト幅方向である列理方向の10%伸び時における引張応力(M
10)のベルト長さ方向である反列理方向の10%伸び時における引張応力(M
10)に対する比は、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、また、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。
【0055】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるJIS K6394に基づいて測定されるベルト幅方向である列理方向の貯蔵弾性係数(E’)は、好ましくは50MPa以上、より好ましくは80MPa以上であり、また、好ましくは2000MPa以下、より好ましくは1500MPa以下である。この列理方向の貯蔵弾性係数(E’)は、歪み1%時の荷重の1.3倍の荷重を負荷したときの歪みを平均歪みとし、歪み振幅0.1%、周波数10Hz、及び試験温度100℃として引張方法により測定される。
【0056】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるJIS K6394に基づいて測定されるベルト幅方向である列理方向の損失係数(tanδ)は、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.04以上であり、また、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.17以下である。この列理方向の損失係数(tanδ)も、歪み1%時の荷重の1.3倍の荷重を負荷したときの歪みを平均歪みとし、歪み振幅0.1%、周波数10Hz、及び試験温度100℃として引張方法により測定される。
【0057】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるJIS K6394に基づいて測定されるベルト長さ方向である反列理方向の貯蔵弾性係数(E’)は、好ましくは10MPa以上、より好ましくは15MPa以上であり、また、好ましくは100MPa以下、より好ましくは80MPa以下である。この反列理方向の貯蔵弾性係数(E’)は、平均歪み5%、歪み振幅1%、周波数10Hz、及び試験温度100℃として引張方法により測定される。
【0058】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるJIS K6394に基づいて測定されるベルト長さ方向である反列理方向の損失係数(tanδ)は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.07以上であり、また、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.17以下である。この反列理方向の損失係数(tanδ)も、平均歪み5%、歪み振幅1%、周波数10Hz、及び試験温度100℃として引張方法により測定される。
【0059】
圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物におけるベルト幅方向である列理方向の貯蔵弾性係数(E’)のベルト長さ方向である反列理方向の貯蔵弾性係数(E’)に対する比は、好ましくは5以上、より好ましくは6以上であり、また、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。
【0060】
接着ゴム層12は、断面横長矩形の帯状に形成されており、厚さが例えば1.0〜2.5mmである。接着ゴム層12は、ゴム成分に種々のゴム配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物を加熱及び加圧して架橋剤により架橋させたゴム組成物で形成されている。
【0061】
接着ゴム層12を形成するゴム組成物のゴム成分としては、例えば、圧縮ゴム層11と同様に、エチレン−α−オレフィンエラストマー等が挙げられる。接着ゴム層12を形成するゴム組成物のゴム成分は、圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物のゴム成分と同一であることが好ましい。それらが同一の場合、接着ゴム層12を形成するゴム組成物は、圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物と同一であってもよい。ゴム配合剤としては、圧縮ゴム層11と同様に、例えば、補強剤、可塑剤、プロセスオイル、加工助剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、架橋剤等が挙げられる。接着ゴム層12を形成するゴム組成物には、ナノファイバー16が含まれていても、含まれていなくても、どちらでもよい。また、接着ゴム層12を形成するゴム組成物には、有機短繊維17が含まれていても、含まれていなくても、どちらでもよい。
【0062】
背面補強布13は、例えば、綿、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維等の糸で形成された織布、編物、不織布等の布材で構成されている。背面補強布13は、Vリブドベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形前にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理が施されている。背面補強布13の厚さは例えば0.5〜3mmである。なお、背面補強布13の代わりに、
図3に示すように背面ゴム層18を設け、圧縮ゴム層11、接着ゴム層12、及び背面ゴム層18の三重層によりVリブドベルト本体10を構成してもよい。
【0063】
心線14は、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維、パラ系アラミド繊維、ビニロン繊維等の撚り糸や組紐等の線材で構成されている。心線14は、Vリブドベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形前にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理が施されている。なお、心線14は、RFL水溶液及び/又はゴム糊による接着処理の前に、必要に応じてエポキシ樹脂やポリイソシアネート樹脂等の溶液からなる接着剤溶液に浸漬した後に加熱する接着処理が施されていてもよい。心線14の外径は例えば0.1〜2mmである。
【0064】
ところで、従来からVリブドベルトのようにV側面を構成する圧縮ゴム層がゴム組成物で形成されたVベルトでは、プーリから負荷される高い側圧に抗するために圧縮ゴム層を形成するゴム組成物にベルト幅方向に配向するように有機短繊維が含められ、Vベルトの曲げ剛性を高めることなく、ベルト幅方向の弾性率を高めている。しかしながら、ベルト幅方向のさらなる高弾性率化を図るために、有機短繊維の含有量を多くすると、圧縮ゴム層を形成するゴム組成物のベルト長さ方向の切断時伸びが低下すると共に弾性率が上昇し、その結果、走行初期にクラックが発生することにより耐屈曲疲労性が劣るものとなってしまうという問題がある。
【0065】
しかしながら、以上の構成の実施形態1のVリブドベルトBによれば、V側面110を構成する部分である圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物に、ナノファイバー16及び有機短繊維17がベルト幅方向に配向するように含まれており、それらのうちナノファイバー16が、少ない含有量でも圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物にベルト幅方向の高い弾性率向上効果を発現する一方、ベルト長さ方向の物性への影響が小さく、そして、それに起因して、圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物が、ベルト幅方向である列理方向の貯蔵弾性係数のベルト長さ方向である反列理方向の貯蔵弾性係数に対する比が5以上という高い異方性を有するので、VリブドベルトBにおいて、ベルト幅方向の高い弾性率と共に、それと比較してベルト長さ方向の弾性率が高くないことから、優れた耐屈曲疲労性を得ることができる。また、圧縮ゴム層11を形成するゴム組成物が高い異方性を有するので、屈曲によるエネルギーロスが少なく、従って、高効率の動力伝達が可能となる。さらに、V側面110に露出した有機短繊維17がV側面110から突出した有機短繊維17を含むので、V側面110の摩擦係数が低減され、それによってプーリとの間の摩擦により生じる異音の発生を抑制することができると共に優れた耐摩耗性を得ることができる。
【0066】
図4は、実施形態1のVリブドベルトBを用いた自動車の補機駆動ベルト伝動装置20のプーリレイアウトを示す。この補機駆動ベルト伝動装置20は、VリブドベルトBが4つのリブプーリ及び2つの平プーリの6つのプーリに巻き掛けられて動力を伝達するサーペンタインドライブ方式のものである。
【0067】
この補機駆動ベルト伝動装置20は、最上位置のパワーステアリングプーリ21と、そのパワーステアリングプーリ21のやや右斜め下方に配置されたACジェネレータプーリ22と、パワーステアリングプーリ21の左斜め下方で且つACジェネレータプーリ22の左斜め上方に配置された平プーリのテンショナプーリ23と、ACジェネレータプーリ22の左斜め下方で且つテンショナプーリ23の直下方に配置された平プーリのウォーターポンププーリ24と、テンショナプーリ23及びウォーターポンププーリ24の左斜め下方に配置されたクランクシャフトプーリ25と、ウォーターポンププーリ24及びクランクシャフトプーリ25の右斜め下方に配置されたエアコンプーリ26とを備えている。これらのうち、平プーリであるテンショナプーリ23及びウォーターポンププーリ24以外は全てリブプーリである。これらのリブプーリ及び平プーリは、例えば、金属のプレス加工品や鋳物、ナイロン樹脂、フェノール樹脂などの樹脂成形品で構成されており、また、プーリ径がφ50〜150mmである。
【0068】
この補機駆動ベルト伝動装置20では、VリブドベルトBは、Vリブ15側が接触するようにパワーステアリングプーリ21に巻き掛けられ、次いで、ベルト背面が接触するようにテンショナプーリ23に巻き掛けられた後、Vリブ15側が接触するようにクランクシャフトプーリ25及びエアコンプーリ26に順に巻き掛けられ、さらに、ベルト背面が接触するようにウォーターポンププーリ24に巻き掛けられ、そして、Vリブ15側が接触するようにACジェネレータプーリ22に巻き掛けられ、最後にパワーステアリングプーリ21へと戻るように設けられている。
【0069】
次に、実施形態1のVリブドベルトBの製造方法の一例について
図5〜9に基づいて説明する。
【0070】
−部材準備工程−
部材準備工程では、ゴム成分、及び熱可塑性樹脂の海と繊維径が300〜1000nmの有機繊維のナノファイバーの収束体の多数の島との海島構造を有する複合材料を、複合材料の熱可塑性樹脂の融点又は軟化温度以上の温度下で混練する操作に加え、繊維径が10μm以上の有機短繊維17も加えて混練する操作を行うことにより、ゴム成分にナノファイバー16及び有機短繊維17が分散した未架橋ゴム組成物の混練物を調製し(混練物調製ステップ)、その調製した未架橋ゴム組成物の混練物を圧延することによりV側面110を構成する圧縮ゴム層11を形成するための未架橋ゴム組成物シートを作製する(圧延ステップ)。
【0071】
具体的には、まず、バンバリーミキサー等の密閉式混練機に、架橋剤、共架橋剤、熱可塑性樹脂とナノファイバー16との複合材料、及び有機短繊維17を除く成分を投入して所定のエネルギーを与えて混練した後、複合材料を投入して、そこに含まれる熱可塑性樹脂の融点又は軟化温度以上の温度下でさらに混練する。このとき、複合材料は、熱可塑性樹脂が溶融乃至軟化してゴム成分中に拡散すると共に、ナノファイバー16の収束体が剪断力により開繊されてゴム成分中に分散する。また、このように複合材料を用いて混練することにより、ナノファイバー16のゴム成分中における高い分散性を得ることができる。
【0072】
ここで、
図5に示すように、複合材料Mは、熱可塑性樹脂Rの海ポリマー中にナノファイバー16が互いに独立し且つ並列して島状に存在したコンジュゲート繊維をロッド状に切断したものである。
【0073】
熱可塑性樹脂Rとしては、例えば、ポリエチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ナイロン系樹脂、ウレタン系樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂Rは、混練時にゴム成分に拡散することから、ゴム成分との相溶性が高いことが好ましく、かかる観点から、熱可塑性樹脂Rは、ゴム成分が低極性の場合には、低極性のポリエチレン樹脂やエチレン酢酸ビニル共重合体樹脂が好ましい。特に、ゴム成分がエチレン−α−オレフィンエラストマーである場合には、熱可塑性樹脂Rがポリエチレン樹脂であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂Rは、ゴム成分がニトリルゴム(NBR)のように極性が高い場合には、ポリエチレン樹脂にマレイン酸などの極性基を導入して変性したもの、ナイロン系樹脂、ウレタン系樹脂等であってもよい。
【0074】
熱可塑性樹脂Rの融点又は軟化温度は、好ましくは70℃以上、より好ましくは90℃以上であり、また、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下である。融点は、結晶性高分子の熱可塑性樹脂Rの場合において、示差走査熱量測定(DSC)により測定される。軟化温度は、不定形高分子の熱可塑性樹脂Rの場合において、JIS K7206に基づいて測定されるビカット軟化温度である。例えば、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)の融点は95〜130℃である。高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)の融点は120〜140℃である。エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)の融点は65〜90℃である。超高分子量ポリエチレン樹脂(UHMWPE)の融点は125〜135℃である。
【0075】
ナノファイバー16としては、既述の通り、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、6−ナイロン繊維、6,6−ナイロン繊維等のナノファイバーが挙げられる。
【0076】
複合材料Mの外径は、加工性を良好にする観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上であり、また、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下である。複合材料Mの長さは、材料コストを抑える観点から、好ましくは0.5mm以上であり、また、ナノファイバー16の分散性を高める観点から、好ましくは5mm以下、より好ましくは2mm以下である。複合材料Mの外径に対する長さの比(アスペクト比)は、好ましくは20以上、より好ましくは30以上であり、また、好ましくは700以下、より好ましくは500以下である。
【0077】
複合材料Mにおけるナノファイバー16の含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、また、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。複合材料Mにおけるナノファイバー16の本数は例えば100〜1000本である。
【0078】
次いで、密閉式混練機から未架橋ゴム組成物の塊状の混練物を排出して一旦冷却した後、それを有機短繊維17及び架橋剤と共にオープンロール、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機に投入して混練する。このとき、有機短繊維17及び架橋剤がゴム成分中に分散する。
【0079】
続いて、混練機から未架橋ゴム組成物の塊状の混練物を排出した後、それをカレンダーロールに通して圧縮ゴム層11を形成するための未架橋ゴム組成物シートに加工する。この未架橋ゴム組成物シートは、列理方向、つまり、カレンダーロールからの引き出し方向にナノファイバー16及び有機短繊維17が配向したものとなる。
【0080】
部材準備工程では、同様に、接着ゴム層12を形成するための未架橋ゴム組成物シートも作製する。また、背面補強布13となる布材及び心線14となる線材にそれぞれ所定の接着処理を行う。
【0081】
−成形架橋工程−
成形架橋工程(成形架橋ステップ)では、まず、
図6(a)に示すように、円筒型31の外周面上に、背面補強布13となる布材13’、及び接着ゴム層12を形成するための未架橋ゴム組成物シート12’を順に巻き付けて積層し、その上から心線14となる線材14’を円筒型31に対して螺旋状に巻き付け、さらにその上から接着ゴム層12を形成するための未架橋ゴム組成物シート12’及び圧縮ゴム層11を形成するための未架橋ゴム組成物シート11’を順に巻き付けて積層することによりベルト成形体B’を成形する。このとき、圧縮ゴム層11を形成するための未架橋ゴム組成物シート11’を、その列理方向が円筒型31の軸方向となるように、従って、ベルト幅方向となるように配する。
【0082】
次いで、
図6(b)に示すように、ベルト成形体B’にゴムスリーブ32を被せ、それを加硫缶内に配置して密閉すると共に、加硫缶内に高温及び高圧の蒸気を充填し、その状態を所定時間だけ保持する。このとき、未架橋ゴム組成物シート11’,12’の架橋が進行して一体化すると共に布材13’及び線材14’と複合化し、
図7に示すように、最終的に、円筒状のベルトスラブSが成型される。ベルトスラブSの成型温度は例えば100〜180℃、成型圧力は例えば0.5〜2.0MPa、成型時間は例えば10〜60分である。
【0083】
−研削・仕上げ工程−
加硫缶内から蒸気を排出して密閉を解いた後、円筒型31を取り出してゴムスリーブ32を外して冷却し、円筒型31からベルトスラブSを脱型する。
【0084】
次いで、
図8に示すように、ベルトスラブSを一対のスラブ懸架軸33間に掛け渡すと共に、ベルトスラブSの外周面に対し、周方向に延びるVリブ形状溝が外周面の軸方向に連設された研削砥石34を回転させながら当接させ、また、ベルトスラブSも一対のスラブ懸架軸33間で回転させることにより、その外周面を全周に渡って研削する。このとき、
図9に示すように、ベルトスラブSの外周面にはVリブ15が形成され、また、そのVリブ15の表面から有機短繊維17が突出した形態が得られる。なお、ベルトスラブSは、必要に応じて長さ方向に分割して研削を行ってもよい。
【0085】
そして、研削によりVリブ15を形成したベルトスラブSを所定幅に幅切りして表裏を裏返すことにより実施形態1のVリブドベルトBが得られる。
【0086】
(実施形態2)
図10〜12は、実施形態2のダブルコグドVベルトC(Vベルト)を示す。実施形態2のダブルコグドVベルトCは、例えば、二輪スクータ、バギー車、スノーモビルなどの小型自動車の変速装置等に用いられる。実施形態2のダブルコグドVベルトCは、上部部分の横断面形状が横に細長い矩形に形成され且つ下部部分の横断面形状が上底よりも下底の方が短い台形に形成されており、例えば、ベルト長さが700〜1000mm、ベルト外周側のベルト幅が10〜36mm、ベルト厚さが13〜16mm、及び横断面におけるV角度が27〜33°である。
【0087】
実施形態2のダブルコグドVベルトCは、ベルト内周側の圧縮ゴム層41とそのベルト外周側の接着ゴム層42とさらにそのベルト外周側の伸張ゴム層43が積層されるように設けられて一体化したダブルコグドVベルト本体40を備える。圧縮ゴム層41には、そのベルト内周面を被覆するように底面補強布44が積層されて貼設されている。また、接着ゴム層42には、そのベルト厚さ方向の中央に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配された心線45が埋設されている。
【0088】
圧縮ゴム層41は、その両側の側面がプーリ接触面となるV側面410に構成されている。圧縮ゴム層41の厚さは例えば8〜10mmである。
【0089】
圧縮ゴム層41には、ベルト長さ方向に沿って下コグ41aが一定ピッチで配設されている。下コグ41aは、その縦断面外郭が略正弦波形を構成するように形成されている。下コグ41aのピッチは例えば8〜10mmである。下コグ41aの高さ、つまり、下コグ41a間の溝底から下コグ41aの頂部までのベルト厚さ方向の寸法は、例えば6〜8mmである。
【0090】
圧縮ゴム層41は、実施形態1のVリブドベルトBにおける圧縮ゴム層11と同様、ナノファイバー46及び有機短繊維47を含み且つそれらがベルト幅方向に配向したゴム組成物で形成されている。高排気量の二輪スクータの変速装置等のような高負荷伝動用途で用いられる場合には、圧縮ゴム層41のベルト幅方向の弾性率がより高いことが望ましいことから、圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物には、有機短繊維47としてパラ系アラミド繊維の短繊維が含まれていることが好ましい。V側面410に露出した有機短繊維47は、V側面410から突出した有機短繊維47を含んでいても、また、かかる有機短繊維47を含んでいなくても、どちらでもよい。
【0091】
但し、実施形態2のダブルコグドVベルトCは、通常、実施形態1のVリブドベルトBと比較して圧縮ゴム層41のV側面410が高い側圧を受けて使用されるという観点から、圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物は以下の特性を有することが好ましい。
【0092】
圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物におけるJIS K6253に基づいてタイプAデュロメータにより測定されるゴム硬さは、好ましくは88°以上、より好ましくは90°以上であり、また、好ましくは100°以下、より好ましくは98°以下である。
【0093】
圧縮ゴム層14を形成するゴム組成物におけるJIS K6251に基づいて測定されるベルト幅方向、つまり、ナノファイバー16及び有機短繊維17の配向方向である列理方向の10%伸び時における引張応力(M
10)は、好ましくは5MPa以上、より好ましくは10MPa以上であり、また、好ましくは70MPa以下、より好ましくは50MPa以下である。
【0094】
圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物におけるJIS K6251に基づいて測定されるベルト幅方向である列理方向の引張強さ(T
B)は、好ましくは10MPa以上、より好ましくは15MPa以上であり、また、好ましくは80MPa以下、より好ましくは60MPa以下である。
【0095】
圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物におけるJIS K6251に基づいて測定されるベルト幅方向である列理方向の切断時伸び(E
B)は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上であり、また、好ましくは100%以下、より好ましくは80%以下である。
【0096】
圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物におけるJIS K6251に基づいて測定されるベルト長さ方向、つまり、ナノファイバー16及び有機短繊維17の配向方向に直交する方向である反列理方向の10%伸び時における引張応力(M
10)は、好ましくは0.5MPa以上、より好ましくは1MPa以上であり、また、好ましくは10MPa以下、より好ましくは8MPa以下である。
【0097】
圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物におけるJIS K6251に基づいて測定されるベルト長さ方向である反列理方向の50%伸び時における引張応力(M
50)は、好ましくは2MPa以上、より好ましくは3MPa以上であり、また、好ましくは20MPa以下、より好ましくは18MPa以下である。
【0098】
圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物におけるJIS K6251に基づいて測定されるベルト長さ方向である反列理方向の引張強さ(T
B)は、好ましくは5MPa以上、より好ましくは7MPa以上であり、また、好ましくは30MPa以下、より好ましくは20MPa以下である。
【0099】
圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物におけるJIS K6251に基づいて測定されるベルト長さ方向である反列理方向の切断時伸び(E
B)は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上であり、また、好ましくは200%以下、より好ましくは180%以下である。
【0100】
圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物におけるベルト幅方向である列理方向の10%伸び時における引張応力(M
10)のベルト長さ方向である反列理方向の10%伸び時における引張応力(M
10)に対する比は、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、また、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。
【0101】
圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物におけるJIS K6394に基づいて測定されるベルト幅方向である列理方向の貯蔵弾性係数(E’)は、好ましくは150MPa以上、より好ましくは200MPa以上であり、また、好ましくは2000MPa以下、より好ましくは1800MPa以下である。この列理方向の貯蔵弾性係数(E’)は、歪み1%時の荷重の1.3倍の荷重を負荷したときの歪みを平均歪みとし、歪み振幅0.1%、周波数10Hz、及び試験温度100℃として引張方法により測定される。
【0102】
圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物におけるJIS K6394に基づいて測定されるベルト幅方向である列理方向の損失係数(tanδ)は、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.04以上であり、また、好ましくは0.20以下、より好ましくは0.18以下である。この列理方向の損失係数(tanδ)も、歪み1%時の荷重の1.3倍の荷重を負荷したときの歪みを平均歪みとし、歪み振幅0.1%、周波数10Hz、及び試験温度100℃として引張方法により測定される。
【0103】
圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物におけるJIS K6394に基づいて測定されるベルト長さ方向である反列理方向の貯蔵弾性係数(E’)は、好ましくは10MPa以上、より好ましくは15MPa以上であり、また、好ましくは70MPa以下、より好ましくは50MPa以下である。この反列理方向の貯蔵弾性係数(E’)は、平均歪み5%、歪み振幅1%、周波数10Hz、及び試験温度100℃として引張方法により測定される。
【0104】
圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物におけるJIS K6394に基づいて測定されるベルト長さ方向である反列理方向の損失係数(tanδ)は、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上であり、また、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.25以下である。この反列理方向の損失係数(tanδ)も、平均歪み5%、歪み振幅1%、周波数10Hz、及び試験温度100℃として引張方法により測定される。
【0105】
圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物におけるベルト幅方向である列理方向の貯蔵弾性係数(E’)のベルト長さ方向である反列理方向の貯蔵弾性係数(E’)に対する比は、5以上であるが、好ましくは7以上であり、また、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。
【0106】
接着ゴム層42の厚さは例えば1.5〜3.0mmである。接着ゴム層42は、ゴム成分に種々のゴム配合剤が配合された未架橋ゴム組成物を加熱及び加圧してゴム成分を架橋剤により架橋させたゴム組成物で形成されている。接着ゴム層42を形成するゴム組成物は、短繊維やパルプ状繊維、及び/又は、補強充填剤や共架橋剤が含まれて高弾性率化されていてもよい。接着ゴム層42は、実施形態1のVリブドベルトBにおける接着ゴム層12を形成するのと同一のゴム組成物で形成されていてもよく、また、圧縮ゴム層41を形成するのと同一のゴム組成物で形成されていてもよい。
【0107】
伸張ゴム層43の厚さは例えば3〜5mmである。伸張ゴム層43には、ベルト長さ方向に沿って上コグ43aが一定ピッチで配設されている。上コグ43aは、その縦断面外郭が略台形を構成するように形成されている。上コグ43aのピッチは、例えば7〜9mmであり、下コグ41aのピッチよりも小さいことが好ましい。上コグ43aの高さ、つまり、上コグ43a間の溝底から上コグ43aの頂部までのベルト厚さ方向の寸法は、例えば3〜4mmである。
【0108】
伸張ゴム層43は、ゴム成分に種々のゴム配合剤が配合された未架橋ゴム組成物を加熱及び加圧してゴム成分を架橋剤により架橋させたゴム組成物で形成されている。伸張ゴム層43もまた、圧縮ゴム層41を形成するのと同一のゴム組成物で形成されていてもよい。
【0109】
底面補強布44は、例えば、綿、ポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維等の糸で形成された織布、編物、不織布等の布材44’で構成されている。底面補強布44は、綿やポリエチレンテレフタレート(PET)繊維の経糸及び緯糸が例えば100°以上の広角度をなすように製織された広角織布や伸縮加工が施されたナイロン繊維の織布等で構成されていることが好ましい。底面補強布44は、ダブルコグドVベルト本体40に対する接着性を付与するために、成形前にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理が施されている。底面補強布44の厚さは例えば0.5〜3mmである。なお、伸縮ゴム層43のベルト外周面を被覆するように同様の構成の補強布が積層されて貼設されていてもよい。
【0110】
心線45は、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維、パラ系アラミド繊維、ビニロン繊維等の撚り糸や組紐等の線材で構成されている。変速装置のような用途で用いられる場合には、心線45は、伸びの小さいパラ系アラミド繊維で構成されていることが好ましい。心線45は、ダブルコグドVベルト本体40に対する接着性を付与するために、成形前にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理が施されている。なお、心線45は、RFL水溶液及び/又はゴム糊による接着処理の前に、必要に応じてエポキシ樹脂やポリイソシアネート樹脂等の溶液からなる接着剤溶液に浸漬した後に加熱する接着処理が施されていてもよい。心線45の外径は例えば0.1〜2mmである。また、心線45の埋設位置は、下コグ41a間の溝底から心線45までの厚さが2〜5mmとなる位置であることが好ましい。
【0111】
以上の構成の実施形態2のダブルコグドVベルトCによれば、V側面410を構成する部分である圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物に、ナノファイバー46及び有機短繊維47がベルト幅方向に配向するように含まれており、それらのうちナノファイバー46が、少ない含有量でも圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物にベルト幅方向の高い弾性率向上効果を発現する一方、ベルト長さ方向の物性への影響が小さく、そして、それに起因して、圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物が、ベルト幅方向である列理方向の貯蔵弾性係数のベルト長さ方向である反列理方向の貯蔵弾性係数に対する比が5以上という高い異方性を有するので、ダブルコグドVベルトCにおいて、ベルト幅方向の高い弾性率と共に、それと比較してベルト長さ方向の弾性率が高くないことから、優れた耐屈曲疲労性を得ることができる。また、圧縮ゴム層41を形成するゴム組成物が高い異方性を有するので、屈曲によるエネルギーロスが少なく、従って、高効率の動力伝達が可能となる。さらに、V側面410に有機短繊維47が露出しているので、V側面410の摩擦係数が低減され、それによってプーリとの間の摩擦により生じる異音の発生を抑制することができると共に、ダブルコグドVベルトCがプーリから送り出される際にダブルコグドVベルトCがプーリから円滑に抜けることができる。
【0112】
図13(a)及び(b)は、実施形態2のダブルコグドVベルトCを用いた自動二輪車等の変速装置50を示す。
【0113】
この変速装置50は、回転軸が平行になるように配置された駆動プーリ51及び従動プーリ52とそれらの間に巻き掛けられたダブルコグドVベルトCとを備える。
【0114】
駆動プーリ51及び従動プーリ52は、それぞれ軸方向に移動不能な固定シーブ51a,52aと軸方向に移動可能な可動シーブ51b,52bとを有すると共に、それらの固定シーブ51a,52aと可動シーブ51b,52bとの間にV溝53が形成されており、固定シーブ51a,52aに対して可動シーブ51b,52bが近づく方向に移動することによりプーリ径(プーリピッチラインL1,L2の径)が大きくなる一方、離れる方向に移動することによりプーリ径が小さくなることで、プーリ径が可変に構成されている。そして、ダブルコグドVベルトCは、駆動プーリ51及び従動プーリ52のそれぞれのV溝53に嵌まるように巻き掛けられている。なお、V溝53のV角度は、ダブルコグドVベルトCのV角度よりも若干小さいことが好ましい。
【0115】
以上の機構により、この変速装置50は、駆動プーリ51及び従動プーリ52のそれぞれのプーリ径の比を変化させることにより、ダブルコグドVベルトCを介して駆動プーリ51の回転速度を変速して従動プーリ52に伝動するように構成されている。
【0116】
次に、実施形態2のダブルコグドVベルトCの製造方法の一例について
図14〜18に基づいて説明する。
【0117】
−部材準備工程−
部材準備工程では、実施形態1と同様、ゴム成分、及び熱可塑性樹脂の海と繊維径が300〜1000nmの有機繊維のナノファイバー46の収束体の多数の島との海島構造を有する複合材料を、複合材料の熱可塑性樹脂の融点又は軟化温度以上の温度下で混練する操作に加え、繊維径が10μm以上の有機短繊維47も加えて混練する操作を行うことにより、ゴム成分にナノファイバー46及び有機短繊維47が分散した未架橋ゴム組成物の混練物を調製し(混練物調製ステップ)、その調製した未架橋ゴム組成物の混練物を圧延することによりV側面410を構成する圧縮ゴム層41を形成するための未架橋ゴム組成物シートを作製する(圧延ステップ)。
【0118】
部材準備工程では、同様に、接着ゴム層42を形成するための未架橋ゴム組成物シート、及び伸張ゴム層43を形成するための未架橋ゴム組成物シートも作製する。また、底面補強布44となる布材及び心線45となる線材’にそれぞれ所定の接着処理を行う。
【0119】
―成形架橋工程―
成形架橋工程(成形架橋ステップ)では、まず、
図14(a)に示すように、外周に軸方向に延びるように形成された下コグ形成溝311aが周方向に連設された第1円筒型311の外周面上に、底面補強布44となる布材44’及び圧縮ゴム層41を形成するための未架橋ゴム組成物シート41’を順に巻き付けて積層することにより下コグ成形体411’を成形する。このとき、布材44’を、下コグ形成溝311aが形成された第1円筒型311の外周面に沿うように配することが好ましい。また、圧縮ゴム層41を形成するための未架橋ゴム組成物シート41’を、その列理方向が第1円筒型311の軸方向、従って、ベルト幅方向となるように配する。
【0120】
次いで、
図14(b)に示すように、第1円筒型311上の下コグ成形体411’に、内周面が平滑な第1ゴムスリーブ321を被せ、それを加硫缶内に配置して密閉すると共に、加硫缶内に高温及び高圧の蒸気を充填し、その状態を所定時間だけ保持する。このとき、未架橋ゴム組成物シート41’が流動して下コグ形成溝311aに圧入されると共に架橋が半分程度進行して布材44’と複合化し、
図15(a)に示すように、内周側に下コグが形成された円筒状の下コグ複合体412’が成型される。下コグ複合体412’の成型温度は例えば100〜120℃、成型圧力は例えば0.5〜2.0MPa、成型時間は例えば5〜15分である。
【0121】
次いで、加硫缶内から蒸気を排出して密閉を解いた後、第1円筒型311を取り出して第1ゴムスリーブ321を外して冷却し、
図15(b)に示すように、第1円筒型311上に成型された下コグ複合体412’の背面部を刃物で削って厚みを調整する。
【0122】
次いで、第1円筒型311から下コグ複合体412’を脱型した後、
図16(a)に示すように、それを、第1円筒型311と同様に、外周に軸方向に延びるように形成された下コグ嵌合溝312aが周方向に連設された第2円筒型312に外嵌めする。このとき、下コグ複合体412’を、その内周側の下コグが第2円筒型312の下コグ嵌合溝312aに嵌まるように配する。
【0123】
次いで、
図16(b)に示すように、第2円筒型312上の下コグ複合体412’の上に、接着ゴム層42を形成するための未架橋ゴム組成物シート42’を巻き付けて積層し、その上から心線45となる線材45’を第2円筒型312に対して螺旋状に巻き付け、さらにその上から接着ゴム層42を形成するための未架橋ゴム組成物シート42’及び伸張ゴム層43を形成するための未架橋ゴム組成物シート43’を順に巻き付けて積層することによりベルト成形体C’を成形する。このとき、接着ゴム層42及び/又は伸張ゴム層43を形成するための未架橋ゴム組成物シート42’,43’として、圧縮ゴム層41と同様、ナノファイバー46及び有機短繊維47を含むものを用いる場合には、その列理方向が第2円筒型312の軸方向となるように、従って、ベルト幅方向となるように配する。
【0124】
次いで、
図16(c)に示すように、ベルト成形体C’に、内周に軸方向に延びるように形成された上コグ形成溝322aが周方向に連設された第2ゴムスリーブ322を被せ、それを加硫缶内に配置して密閉すると共に、加硫缶内に高温及び高圧の蒸気を充填し、その状態を所定時間だけ保持する。このとき、下コグ複合体412’の本架橋が進行すると同時に、接着ゴム層42を形成するための未架橋ゴム組成物シート42’の架橋が進行して線材45’と複合化し、また、伸張ゴム層43を形成するための未架橋ゴム組成物シート43’が流動して上コグ形成溝322aに圧入されると共に架橋が進行し、全体が一体化されて、
図17に示すように、最終的に、円筒状のベルトスラブSが成型される。ベルトスラブSの成型温度は例えば160〜180℃、成型圧力は例えば0.5〜2.0MPa、成型時間は例えば10〜60分である。
【0125】
−研削・仕上げ工程−
加硫缶内から蒸気を排出して密閉を解いた後、第2円筒型312を取り出して第2ゴムスリーブ322を外して冷却し、第2円筒型312からベルトスラブSを脱型する。
【0126】
次いで、
図18(a)に示すように、ベルトスラブSを所定幅に幅切りした後、
図18(b)に示すように、両側面を刃物で切断してV側面410を形成し、また、その表面を研削して平坦化することにより実施形態2のダブルコグドVドベルトCが得られる。
【0127】
(その他の実施形態)
実施形態1ではVリブドベルトB及び実施形態2ではダブルコグドVベルトCを示したが、特にこれらに限定されるものではなく、
図19に示すような標準的なローエッジタイプのVベルトDであってもよい。
【実施例】
【0128】
[試験評価1]
(ゴム組成物)
以下の実施例1〜5及び比較例1〜5並びに参考例のゴム組成物を作製した。それぞれの詳細構成については表1にも示す。
【0129】
<実施例1>
バンバリーミキサーに、ゴム成分としてのEPDM(Dow Chemical社製EPDM 商品名:Nordel IP 4640)、並びに、このゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック(東海カーボン社製FEF 商品名:シーストSO)65質量部、プロセスオイル(サン石油社製 商品名:サンパー2280)10質量部、加工助剤としてのステアリン酸(新日本理化社製 商品名:ステアリン酸50S)1質量部、加硫促進助剤としての酸化亜鉛(堺化学社製 商品名:酸化亜鉛3種)5質量部、及び老化防止剤(大内新興化学興業社製 商品名:ノクラックMB)2質量部を投入して混練した後、ゴム成分100質量部に対して複合材料A(帝人社製ポリエチレン樹脂-PETナノファイバー複合材料)7.1質量部を投入して、複合材料Aに含まれるポリエチレン樹脂の融点よりも高い135℃の温度下でさらに混練した。
【0130】
続いて、バンバリーミキサーから未架橋ゴム組成物の塊状の混練物を排出して一旦冷却した後、それを、ゴム成分100質量部に対して、6,6−ナイロン短繊維(帝人社製 商品名:CFN3000、繊維径:26μm、繊維長:3mm、アスペクト比:115)10質量部、架橋剤としての有機過酸化物(日本油脂社製 商品名:パークミルD(ジクミルパーオキサイド))3質量部、及び共架橋剤としてのエチレングリコールジメタクリレート(三新化学工業社製 商品名:サンエステルEG)2質量部と共にバンバリーミキサーに投入して混練した。
【0131】
そして、バンバリーミキサーから未架橋ゴム組成物の塊状の混練物を排出し、それをカレンダーロールにより圧延して厚さが0.6〜0.7mmの実施例1の未架橋のゴム組成物シートを作製した。
【0132】
複合材料Aは、融点が130℃のポリエチレン樹脂の海と繊維径が840nmの700本のポリエチレンテレフタレート(PET)繊維のナノファイバーの収束体による700の島との海島構造を有し、ポリエチレン樹脂の含有量が30質量%及びナノファイバーの含有量が70質量%、並びに外径が28μm、長さが1mm、及びアスペクト比が35.7である。従って、複合材料Aに含まれるナノファイバーのアスペクト比は1190である。また、実施例1のゴム組成物におけるポリエチレン樹脂及びナノファイバーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、それぞれ2.1質量部及び5質量部である。
【0133】
実施例1のゴム組成物は、ナノファイバーの体積分率が2.01体積%、有機短繊維の体積分率が4.74体積%、ナノファイバー及び有機短繊維の合計の体積分率が6.75体積%である。
【0134】
<実施例2>
複合材料Aの代わりに、ゴム成分100質量部に対して、複合材料B(帝人社製ポリエチレン樹脂-PETナノファイバー複合材料)7.1質量部を配合したことを除いて実施例1と同一構成の実施例2の未架橋のゴム組成物シートを作製した。
【0135】
複合材料Bは、融点が130℃のポリエチレン樹脂の海と繊維径が400nmの700本のポリエチレンテレフタレート(PET)繊維のナノファイバーの収束体による700の島との海島構造を有し、ポリエチレン樹脂の含有量が30質量%及びナノファイバーの含有量が70質量%、並びに外径が14μm、長さが1mm、及びアスペクト比が71.4である。従って、複合材料Bに含まれるナノファイバーのアスペクト比は2500である。また、実施例2のゴム組成物におけるポリエチレン樹脂及びナノファイバーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、それぞれ2.1質量部及び5質量部である。
【0136】
実施例2のゴム組成物は、ナノファイバーの体積分率が2.01体積%、有機短繊維の体積分率が4.74体積%、ナノファイバー及び有機短繊維の合計の体積分率が6.75体積%である。
【0137】
<実施例3>
6,6−ナイロン短繊維の代わりに、ゴム成分100質量部に対して、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維(帝人社製 商品名:CFT3000、繊維径:16μm、繊維長:3mm、アスペクト比:188)10質量部を配合したことを除いて実施例1と同一構成の実施例3の未架橋のゴム組成物シートを作製した。
【0138】
実施例3のゴム組成物は、ナノファイバーの体積分率が2.02体積%、有機短繊維の体積分率が4.04体積%、ナノファイバー及び有機短繊維の合計の体積分率が6.06体積%である。
【0139】
<実施例4>
6,6−ナイロン短繊維の代わりに、ゴム成分100質量部に対して、実施例3で用いたのと同一のポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維10質量部を配合したことを除いて実施例2と同一構成の実施例4の未架橋のゴム組成物シートを作製した。
【0140】
実施例4のゴム組成物は、ナノファイバーの体積分率が2.02体積%、有機短繊維の体積分率が4.04体積%、ナノファイバー及び有機短繊維の合計の体積分率が6.06体積%である。
【0141】
<実施例5>
6,6−ナイロン短繊維の代わりに、ゴム成分100質量部に対して、パラ系アラミド短繊維(帝人社製 商品名:テクノーラ、繊維径:12.3μm、繊維長:3mm、アスペクト比:244)12質量部を配合すると共に、複合材料Aの含有量をゴム成分100質量部に対して14.3質量部としたことを除いて実施例1と同一構成の実施例5の未架橋のゴム組成物シートを作製した。
【0142】
実施例5のゴム組成物におけるポリエチレン樹脂及びナノファイバーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、それぞれ4.3質量部及び10質量部である。
【0143】
実施例5のゴム組成物は、ナノファイバーの体積分率が3.90体積%、有機短繊維の体積分率が4.52体積%、ナノファイバー及び有機短繊維の合計の体積分率が8.42体積%である。
【0144】
<比較例1>
複合材料Aを配合せずに、6,6−ナイロン短繊維の含有量をゴム成分100質量部に対して25質量部としたことを除いて実施例1と同一構成の比較例1の未架橋のゴム組成物シートを作製した。
【0145】
比較例1のゴム組成物は、有機短繊維の体積分率が11.40体積%である。
【0146】
<比較例2>
複合材料Aを配合せずに、ポリエチレンテレフタレート(PET)短繊維の含有量をゴム成分100質量部に対して25質量部としたことを除いて実施例3と同一構成の比較例2の未架橋のゴム組成物シートを作製した。
【0147】
比較例2のゴム組成物は、有機短繊維の体積分率が9.83体積%である。
【0148】
<比較例3>
6,6−ナイロン短繊維を配合せずに、複合材料Aの含有量をゴム成分100質量部に対して14.3質量部としたことを除いて実施例1と同一構成の比較例3の未架橋のゴム組成物シートを作製した。
【0149】
比較例3のゴム組成物におけるポリエチレン樹脂及びナノファイバーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、それぞれ4.3質量部及び10質量部である。
【0150】
比較例3のゴム組成物は、ナノファイバーの体積分率が4.08体積%である。
【0151】
<比較例4>
6,6−ナイロン短繊維を配合せずに、複合材料Bの含有量をゴム成分100質量部に対して14.3質量部としたことを除いて実施例2と同一構成の比較例4の未架橋のゴム組成物シートを作製した。
【0152】
比較例4のゴム組成物におけるポリエチレン樹脂及びナノファイバーの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、それぞれ4.3質量部及び10質量部である。
【0153】
比較例4のゴム組成物は、ナノファイバーの体積分率が4.08体積%である。
【0154】
<比較例5>
複合材料Aを配合せずに、パラ系アラミド短繊維の含有量をゴム成分100質量部に対して20質量部としたことを除いて実施例5と同一構成の比較例5の未架橋のゴム組成物シートを作製した。
【0155】
比較例5のゴム組成物は、有機短繊維の体積分率が7.78体積%である。
【0156】
<参考例>
複合材料も有機短繊維も配合しないことを除いて実施例1〜5及び比較例1〜5と同一構成の参考例の未架橋のゴム組成物シートを作製した。
【0157】
【表1】
【0158】
(試験評価方法)
実施例1〜5及び比較例1〜5並びに参考例のそれぞれについて、プレス成形により架橋したゴム組成物の試験片を作製し、以下の試験を実施した。
【0159】
<ゴム硬さ評価試験>
JIS K6253に基づいてタイプAデュロメータによりゴム硬さを測定した。
【0160】
<引張特性評価試験>
JIS K6251に基づいて列理方向及び反列理方向のそれぞれについて引張試験を行った。そして、列理方向については、10%伸び時における引張応力(M
10)、引張強さ(T
B)、及び切断時伸び(E
B)を測定した。反列理方向については、10%伸び時における引張応力(M
10)、50%伸び時における引張応力(M
50)、引張強さ(T
B)、及び切断時伸び(E
B)を測定した。また、列理方向の10%伸び時における引張応力(M
10)の反列理方向の10%伸び時における引張応力(M
10)に対する比を求めた。
【0161】
<動的粘弾性特性評価試験>
JIS K6394に基づいて、列理方向については、歪み1%時の荷重の1.3倍の荷重を負荷したときの歪みを平均歪みとし、歪み振幅0.1%、周波数10Hz、及び試験温度100℃として引張方法により貯蔵弾性係数(E’)及び損失係数(tanδ)を測定した。反列理方向については、平均歪み5%、歪み振幅1%、周波数10Hz、及び試験温度100℃として引張方法により貯蔵弾性係数(E’)及び損失係数(tanδ)を測定した。また、列理方向の貯蔵弾性係数(E’)の反列理方向の貯蔵弾性係数(E’)に対する比を求めた。なお、測定には、RHEOLOGY社の粘弾性試験機を用いた。
【0162】
<耐摩耗特性・摩擦係数評価試験>
ピン・オン・ディスク型摩擦摩耗試験機を用い、5mm角の試験片における列理方向に直交する面を摺動面とし、その摺動面を、100℃に調温したS45C製のディスク状の相手材の表面に、列理方向及び反列理方向に直交する方向が摺動方向となるように当接させると共に、試験片に上から19.6Nの荷重を負荷し、相手材を80rpmの回転数で回転させ(すべり速度:15.072m/min)、24時間後の摩耗体積を測定した。この試行を2回行い、その平均値を摩耗体積のデータとした。
【0163】
また、5mm角の試験片における列理方向に直交する面を摺動面とし、その摺動面を、室温(23℃)でS45C製のディスク状の相手材の表面に、列理方向及び反列理方向に直交する方向が摺動方向となるように当接させると共に、試験片に上から19.6Nの荷重を負荷し、相手材を80rpmの回転数で回転させ(すべり速度:15.072m/min)、その摩擦係数を測定した。
【0164】
<耐屈曲疲労性評価試験>
JIS K6260に基づいて、デマッチャ式屈曲試験機を用い、反列理方向を長さ方向とした試験片を、ストロークを20mm及び毎分の屈曲回数を300回として繰り返し屈曲させ、切断までの屈曲回数を測定した。試行を2回行い、その平均値を切断までの屈曲回数のデータとした。
【0165】
(試験評価結果)
表2は試験結果を示す。
【0166】
【表2】
【0167】
これらの結果によれば、ナノファイバー及び有機短繊維を配合した実施例1〜4は、ナノファイバーを配合せずに有機短繊維のみを配合した比較例1及び2に比較して、摩擦係数については同等であるが、列理方向の貯蔵弾性係数(E’)の反列理方向の貯蔵弾性係数(E’)に対する比が大きく、高い異方性を有することが分かる。
【0168】
また、ナノファイバー及び有機短繊維を配合した実施例1〜4は、有機短繊維を配合せずにナノファイバーのみを配合した比較例3及び4に比較して、異方性及び耐屈曲疲労性については同等であるが、摩擦係数が低いことが分かる。
【0169】
さらに、ナノファイバー及びパラ系アラミド短繊維を配合した実施例5は、列理方向及び反列理方向ともに高弾性であり且つ高い異方性を有するにも関わらず、比較的良好な耐屈曲疲労性を有することが分かる。一方、ナノファイバーを配合せずにパラ系アラミド短繊維のみを配合した比較例5は、列理方向及び反列理方向ともに高弾性であり且つ高い異方性を有するが、耐屈曲疲労性が劣ることが分かる。
【0170】
なお、実施例1〜5のそれぞれの引張試験後の試験片について、切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、ナノファイバーが凝集することなく分散していることを確認した。
【0171】
[試験評価2]
(Vリブドベルト)
上記実施形態1と同様の方法により、実施例1〜4及び比較例1〜4のそれぞれのゴム組成物を用い、列理方向がベルト幅方向となるように圧縮ゴム層を形成したVリブドベルトを作製した。
【0172】
なお、接着ゴム層にはEPDMのゴム組成物、背面補強布にはポリエチレンテレフタレート(PET)繊維/綿混紡帆布の厚さ0.7mmの織布、及び心線にはポリエチレンテレフタレート(PET)繊維の外径が1.1mmの撚り糸をそれぞれ用いた。Vリブドベルトは、ベルト長さが1400mm、ベルト幅が2.2mm、ベルト厚さが4.5mm、及びVリブ数が3個とした。
【0173】
(試験評価方法)
<耐屈曲疲労性評価試験>
図20(a)は、耐屈曲疲労性評価試験用のベルト走行試験機60のプーリレイアウトを示す。
【0174】
このベルト走行試験機60は、プーリ径がφ60mmの駆動プーリ61と、その上方に設けられたプーリ径がφ60mmの第1従動プーリ621と、駆動プーリ61及び第1従動プーリ621の中間部の右方に設けられたプーリ径がφ60mmの第2従動プーリ622と、駆動プーリ61及び第1従動プーリ621の中間部の右側に上下に間隔をおいて設けられた、各々、プーリ径がφ50mmの一対のアイドラプーリ63とで構成されている。駆動プーリ61並びに第1及び第2従動プーリ621,622はリブプーリであり、アイドラプーリ63は平プーリである。第1従動プーリ61は、巻き掛けたVリブドベルトBにデッドウエイトDWを負荷できるように上下方向に可動に設けられている。なお、このベルト走行試験機60では、VリブドベルトBを背面側に曲げることにより、Vリブ先端に発生する歪みを大きくして屈曲疲労を加速させる。
【0175】
VリブドベルトBを、上記ベルト走行試験機60に、ベルト内周側が駆動プーリ61並びに第1及び第2従動プーリ621,622に、また、ベルト外周側がアイドラプーリ63に、それぞれ接触するように巻き掛け、さらに、第1従動プーリ621に上方に荷重をかけてVリブドベルトBに588NのデッドウエイトDWを負荷した。そして、70℃の温度雰囲気下において、駆動プーリ61を5100rpmの回転数で回転させてVリブドベルトBを走行させ、定期的に走行を停止して圧縮ゴム層におけるクラックの発生の有無を目視にて確認し、クラックの発生が確認された時点で試験を終了し、それまでの走行時間をクラック発生寿命とした。VリブドベルトBの走行は最長500時間とした。
【0176】
<ベルト走行時異音評価試験>
図20(b)は、ベルト走行時異音評価試験用のベルト走行試験機70のプーリレイアウトを示す。
【0177】
このベルト走行試験機は、プーリ径がφ80mmの駆動プーリ71と、その右方に設けられたプーリ径がφ130mmの第1従動プーリ721と、それらの中間部の上方に設けられたプーリ径がφ60mmの第2従動プーリ722と、駆動プーリ71及び第1従動プーリ721の中間部に設けられたプーリ径がφ80mmのアイドラプーリ73とで構成されている。駆動プーリ71並びに第1及び第2従動プーリ721,722はリブプーリであり、アイドラプーリ73は平プーリである。第2従動プーリ722は、巻き掛けたVリブドベルトBにデッドウエイトDWを負荷できるように上下方向に可動に設けられている。
【0178】
VリブドベルトBを、上記ベルト走行試験機70に、ベルト内周側が駆動プーリ71並びに第1及び第2従動プーリ721,722に、また、ベルト外周側がアイドラプーリ73に、それぞれ接触するように巻き掛け、さらに、第1従動プーリ721に駆動プーリ71との間で1.5°のミスアライメントを付与すると共に、第2従動プーリ722に上方に荷重をかけてVリブドベルトBに267NのデッドウエイトDWを負荷した。そして、常温の温度雰囲気下において、駆動プーリ71を750rpmの回転数で回転させてVリブドベルトBを走行させ、第2従動プーリ722に霧吹きで10回注水し、そのときの異音の発生の有無を官能評価した。
【0179】
(試験評価結果)
表3は試験結果を示す。
【0180】
【表3】
【0181】
クラック発生寿命は、比較例1が150時間及び比較例2が130時間であったが、その他の実施例1〜4並びに比較例3及び4は、500時間走行後もクラックの発生が認められなかった。
【0182】
異音の発生は、比較例3及び4では認められたが、その他の実施例1〜4並びに比較例1及び2では認められなかった。
【0183】
これらの結果によれば、ナノファイバー及び有機短繊維を配合した実施例1〜4を圧縮ゴム層に用いたVリブドベルトは、ナノファイバーを配合せずに有機短繊維のみを配合した比較例1及び2を圧縮ゴム層に用いたVリブドベルトよりも耐屈曲疲労性が優れ、また、有機短繊維を配合せずにナノファイバーのみを配合した比較例3及び4を圧縮ゴム層に用いたVリブドベルトよりも異音の抑制性能が優れることが分かる。
【0184】
[試験評価3]
(ダブルコグドVベルト)
上記実施形態2と同様の方法により、実施例5及び比較例5のそれぞれのゴム組成物を用い、列理方向がベルト幅方向となるように圧縮ゴム層を形成したダブルコグドVベルトを作製した。
【0185】
なお、接着ゴム層及び伸張ゴム層にはEPDMのゴム組成物、補強布には6,6ナイロン繊維製の厚さ1.0mmの織布、及び心線にはパラ系アラミド繊維の外径が0.7mmの撚り糸をそれぞれ用いた。ダブルコグドVベルトは、ベルト長さが820mm、ベルト外周側のベルト幅が28.6mm、ベルト厚さが14.5mm、及び横断面形状におけるV角度が30°、並びに下コグのピッチが9.5mm、下コグの高さが7.3mm、上コグのピッチが8.0mm、上コグの高さが3.3mm、心線中心から下コグ間の溝底までの厚さが2.0mm、及び心線中心から上コグ間の溝底までの厚さが1.9mmとした。
【0186】
(試験評価方法)
図21は、ダブルコグドVベルトC用のベルト走行試験機80を示す。
【0187】
このベルト走行試験機80は、同一面内に横方向に配設されたV溝プーリの駆動プーリ81及び従動プーリ82を有する。駆動プーリ81は駆動軸831の一端に取り付けられている。駆動軸831の他端にはプーリ841が取り付けられており、それと駆動モータ851のモータ軸851aに取り付けられたプーリ861とにベルトb
1が巻き掛けられている。そして、駆動モータ81の動力がベルトb
1を介して駆動軸831に伝えられ、駆動プーリ81が回転するように構成されている。また、駆動軸831にはトルク計871が設けられている。従動プーリ82は従動軸832の一端に取り付けられている。従動軸832の他端にはプーリ842が取り付けられており、それと負荷機852の軸852aに取り付けられたプーリ862とにベルトb2が巻き掛けられている。そして、負荷機852の負荷がベルトb2を介して従動軸832に伝えられるように構成されている。また、従動軸832にはトルク計872が設けられている。駆動モータ851等の駆動系は移動台881上に設けられており、この移動台881を移動させることにより試験片たるダブルコグドVベルトCに所定の荷重をかけることができ、その荷重をロードセル891で検出するように構成されている。
【0188】
<伝動能力・伝動効率評価試験>
図22(a)は、伝動能力・伝動効率評価試験のプーリレイアウトを示す。
【0189】
伝動能力・伝動効率試験では、プーリ径68mmの駆動プーリ81及びプーリ径158mmの従動プーリ82を用いた。そして、ダブルコグドVベルトCを、これらの駆動プーリ81及び従動プーリ82に巻き掛け、従動プーリ82に軸荷重を負荷すると共に、駆動プーリ81を2000rpmで回転させてダブルコグドVベルトCを走行させた。
【0190】
このとき、軸荷重を588〜2452Nの範囲で変量し、各軸荷重において、駆動プーリ81及び従動プーリ82の回転数を計測し、従動側伝達トルクを変えたときの見掛けのスリップ率(ベルトの変形によるベルトのプーリ内側への落ち込み及びベルトの伸びによるスリップ率をも含むもの)を経時的に求めた。そして、従動側伝達トルクと理論駆動プーリ径(心線中心位置でのベルト幅(ベルトピッチ幅)が変化しないと仮定して、そのベルト幅と同一のプーリ幅を有する位置でのプーリ径)とレイアウトとから、スリップ率が4%のときにおける下記式で定義されるST値を求めた。
【0191】
【数1】
【0192】
また、各軸荷重におけるスリップ率が4%のときのST値(以下「4%ST値」という。)を求め、その軸荷重と4%ST値との関係から、4%ST値の極大値を伝動能力(ダブルコグドVベルトCの単位巻き付き長さ当たりの伝動できる力)の指標とした。
【0193】
さらに、下記式に基づいて、駆動側入力トルクを5N・m及び軸荷重を196Nとしたとき、並びに駆動側入力トルクを20N・m及び軸荷重を784Nとしたときのそれぞれについて伝動効率を求めた。
【0194】
【数2】
【0195】
<高速耐久性評価試験>
図22(b)は、高速耐久性評価試験のプーリレイアウトを示す。
【0196】
高速耐久試験では、プーリ径128mmの駆動プーリ81及びプーリ径105mmの従動プーリ82を用い、ダブルコグドVベルトCを、これらの駆動プーリ81及び従動プーリ82に巻き掛け、従動プーリ82に側方に686Nの軸荷重を負荷した。そして、120℃の温度雰囲気下において、入力トルクを20N・mとして駆動プーリ81を6000rpmで回転させてダブルコグドVベルトCを走行させ、定期的に走行を停止して圧縮ゴム層におけるクラックの発生の有無を目視にて確認し、クラックの発生が確認された時点で試験を終了し、それまでの走行時間を高速耐久寿命とした。ダブルコグドVベルトCの走行は最長1000時間とした。
【0197】
(試験評価結果)
表4は試験結果を示す。
【0198】
【表4】
【0199】
伝動能力(4%ST値の極大値)は、実施例5が8200N/m及び比較例5が8100N/mであった。
【0200】
伝動効率は、入力トルクが5N・m及び軸荷重が196Nのとき、実施例5が75%及び比較例5が70%であり、また、入力トルクが20N・m及び軸荷重が784Nのとき、実施例5が89%及び比較例5が88%であった。
【0201】
高速耐久性は、実施例5が1000時間の走行後もクラックの発生は認められなかったが、比較例5が650時間で下コグ間の溝底にクラックの発生が認められた。
【0202】
これらの結果によれば、ナノファイバー及びパラ系アラミド短繊維を配合した実施例5を圧縮ゴム層に用いたVリブドベルトも、ナノファイバーを配合せずにパラ系アラミド短繊維のみを配合した比較例5を圧縮ゴム層に用いたVリブドベルトも、伝動能力の差は認められないものの、伝動効率、特に低トルクでの伝動効率は、実施例5を圧縮ゴム層に用いたVリブドベルトの方が、比較例5を圧縮ゴム層に用いたVリブドベルトよりも優れることが分かる。また、高速耐久性も、実施例5を圧縮ゴム層に用いたVリブドベルトの方が、比較例5を圧縮ゴム層に用いたVリブドベルトよりも著しく優れることが分かる。