(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数のレンズ保持部30が3つである前記ホルダー10を利用した前記請求項5から請求項7の何れかに記載のレンズ研磨用ホルダー1を利用した複数レンズの研磨方法2。
【背景技術】
【0002】
従来のレンズの球面研磨加工技術は、一つのレンズに対して一つの研磨皿を用いて行われていたが、その後、1つの研磨皿に対して複数のレンズを一つのホルダーに配置し、これを回転する研磨皿の内部で揺動させる技術へと進化してきた。係る研磨加工においては、レンズを保持するために接着剤や側面からの挟着、或いは真空引き等によりレンズをホルダーに固定して量産レンズの球面研磨加工がおこなわれてきた。
【0003】
しかしながら、複数個のレンズを一つのホルダーに固定すると、厚みの差異によりレンズ間のバラツキや偏磨耗等が生じる等の問題があった。また、接着を用いる研磨方法では、レンズを研磨用レンズホルダーに接着する工程、並びにレンズホルダーから取り外す工程、更に加工後のレンズを洗浄しなければならないといった作業工程が多く、作業時間や労力負担が問題となっていたといえる。
【0004】
このような問題に鑑み、本発明者以外にも従来から種々の技術が提案されている。例えば発明の名称を「部品の製造方法および加工方法」とする「球面レンズ等の光学素子の研磨加工において、加工条件を簡易に設定でき、且つ表面欠陥を生じさせず、被加工物を目標とする形状に加工する方法」(特許文献1参照)が提案されている。係る技術は、複数のレンズを同時に加工できるものではないため、上記の問題を解決していない。
【0005】
また、発明の名称を「光学球面レンズの研削加工方法」とする「精研削を単一工程にすることができるように粗研削を行い、球面レンズの研削加工の時間短縮化、工程管理の合理化を達成すること」(特許文献2参照)の技術について公知技術となっている。係る技術も前記の特許文献1と同様に、複数のレンズを加工することができず、前記の課題を解決するに至っていない。
【0006】
また、発明の名称を「光学部品の研磨用保持皿」とする「光学部品を支持するのに必要な支持面積を確保した上で、しかも、接触支持面上の余剰接着剤の排除を確実に行なえるように、上記接触支持面の大きさ、幅を工夫した、光学部品の研磨用保持皿を提供する」(特許文献3参照)技術も公知技術となっている。係る技術は、複数のレンズを同時に研磨でき、また、其々のレンズの軸心の延長線上で、一点で交差する配置構成の研磨用保持さらである点において、本発明と共通する点を有する発明である。しかしながら、係る技術は、レンズが接着されているため、上記工定数の軽減や作業時間の短縮といった課題を解決するに至っていない。
【0007】
そこで、本発明者は、これらの問題を解決すべく、研磨皿と接触して研磨される複数のレンズが接触摩擦による抵抗差によって別個独立して自由に自転させることに着目し、更に複数のレンズをホルダーの同一円周上に配置することで各レンズはホルダー内で公転し、該ホルダーは研磨皿の内部で揺動させれば均一な研磨ができるのではないかと着想し、本発明に係るレンズ研磨用ホルダーを完成させるとともに、これを用いて研磨する方法の提案に至ったものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題点に鑑み、複数のレンズを同時に研磨でき、接着することなく研磨可能であることから、レンズ1個当たりの研磨加工に要する時間を短縮するとともに、研磨加工における精度のバラツキを減らし、品質の高いレンズ研磨加工を可能とする研磨機用のレンズホルダーの提供、並びにそのレンズホルダーを利用した複数レンズの研磨方法の提供を図る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数のレンズを同時に研磨するレンズ研磨用のホルダーであって、該ホルダーの中心位置にはかんざし受け部を有し、該かんざし受け部を中心とする同一円周上には複数のレンズ保持部が周設され、該レンズ保持部は、前記各レンズを保持する略円筒形の凹状窪みであって、該凹状窪みの底面部は、研磨面の反対側の面となる保持側レンズ面を保護する緩衝シートと前記レンズを円滑に独立して自転させるための底面部滑りシートを介して前記レンズを保持するとともに、該レンズの研磨面が研磨皿に密着するように前記レンズを押圧し、研磨対象となる前記レンズに対応して保持する形状であって、前記凹状窪みの壁面部は、前記レンズを円滑に自転させるため壁面部滑りリングを介して前記レンズの外周側部を保持し、前記レンズ保持部に装着される前記各レンズは、前記研磨皿との摩擦によって独立して自転自在とするとともに前記ホルダーは公転自在とし、前記かんざし受け部を介してかんざしを揺動させる構成を採用した。
【0011】
また本発明は、複数のレンズを同時に研磨するレンズ研磨用のホルダーであって、該ホルダーの中心位置にはかんざし受け部を有し、該かんざし受け部を中心とする同一円周上には複数のレンズ保持部が周設され、該レンズ保持部は前記各レンズを保持する略円筒形の凹状窪みであって、その配置は前記各レンズの両面の中心を通る延長線が常に前記かんざし受け部の中心から等距離となる平行な位置に配置される構成を採用し、前記凹状窪みの底面部は、研磨面と反対側の面となる保持側レンズ面を保護する緩衝シートと前記レンズを円滑に独立して自転させるための底面部滑りシートを介して前記レンズを保持するとともに、該レンズの研磨面が研磨皿に密着するように前記レンズを押圧し、研磨対象となる前記レンズに対応して保持する形状であって、前記凹状窪みの壁面部は、前記レンズを円滑に自転させるため壁面部滑りリングを介して前記レンズの外周側部を保持し、前記レンズ保持部に装着される前記各レンズは、前記研磨皿との摩擦によって独立して自転自在とするとともに前記ホルダーは公転自在とし、前記かんざし受け部を介してかんざしを揺動させる構成を採用することもできる。
【0012】
また本発明は、複数のレンズを同時に研磨するレンズ研磨用のホルダーであって、該ホルダーの中心位置にはかんざし受け部を有し、該かんざし受け部を中心とする同一円周上には複数のレンズ保持部が周設され、該レンズ保持部は前記各レンズを保持する略円筒形の凹状窪みであって、その配置は前記各レンズの両面の中心を通る延長線が交差する交点を頂点とする頂角を二等分した線上に前記かんざし受け部の中心が配置される構成を採用し、前記凹状窪みの底面部は、研磨面と反対側の面となる保持側レンズ面を保護する緩衝シートと前記レンズを円滑に独立して自転させるための底面部滑りシートを介して前記レンズを保持するとともに、該レンズの研磨面が研磨皿に密着するように前記レンズを押圧し、研磨対象となる前記レンズに対応して保持する形状であって、前記凹状窪みの壁面部は、前記レンズを円滑に自転させるため壁面部滑りリングを介して前記レンズの外周側部を保持し、前記レンズ保持部に装着される前記各レンズは、前記研磨皿との摩擦によって独立して自転自在とするとともに前記ホルダーは公転自在とし、前記かんざし受け部を介してかんざしを揺動させる構成を採用することもできる。
【0013】
また本発明は、前記複数のレンズ保持部が3つである構成を採用することもできる。
【0014】
また本発明は、レンズ研磨用ホルダーを用いて複数のレンズを同時に研磨する方法であって、前記レンズ研磨用ホルダーの中心位置にはかんざし受け部とレンズ保持部が設けられ、前記レンズ保持部は略円筒形の凹状窪みにより前記各レンズを保持し、前記凹状窪みの底面部は、研磨面と反対側の前記レンズの面となる保持側レンズ面を保護する緩衝シートと前記レンズを円滑に独立して自転させるための底面部滑りシートを介して前記レンズを保持させるとともに、前記レンズの前記研磨面が研磨皿に密着するように前記レンズを押圧し、研磨対象となる前記レンズに対応する形状に形成し、前記凹状窪みの壁面部には、前記レンズを円滑に自転させるため壁面部滑りリングを介して前記レンズの外周側部を保持させ、前記レンズ保持部に装着される前記各レンズは、前記研磨皿との摩擦によって独立して自転自在とさせるとともに、前記かんざし受け部を中心として前記レンズ研磨用ホルダーを公転自在とし、前記レンズ研磨用ホルダーの前記かんざし受け部を介してかんざしを揺動させて研磨する構成を採用することもできる。
【0015】
また、本発明は、レンズ研磨用ホルダーを用いて複数のレンズを同時に研磨する方法であって、前記レンズ研磨用ホルダーの中心位置にはかんざし受け部とレンズ保持部が設けられ、該レンズ保持部は前記各レンズを保持する略円筒形の凹状窪みであって、その配置は前記各レンズの両面の中心を通る延長線が常に前記かんざし受け部の中心から等距離となる平行な位置に配置される構成を採用し、前記凹状窪みの底面部は、研磨面と反対側の前記レンズの面となる保持側レンズ面を保護する緩衝シートと前記レンズを円滑に独立して自転させるための底面部滑りシートを介して前記レンズを保持させるとともに、前記レンズの前記研磨面が研磨皿に密着するように前記レンズを押圧し、研磨対象となる前記レンズに対応する形状に形成し、前記凹状窪みの壁面部には、前記レンズを円滑に自転させるため壁面部滑りリングを介して前記レンズの外周側部を保持させ、前記レンズ保持部に装着される前記各レンズは、前記研磨皿との摩擦によって独立して自転自在とさせるとともに、前記かんざし受け部を中心として前記レンズ研磨用ホルダーを公転自在とし、前記レンズ研磨用ホルダーの前記かんざし受け部を介してかんざしを揺動させて研磨する構成とすることもできる。
【0016】
また、本発明は、レンズ研磨用ホルダーを用いて複数のレンズを同時に研磨する方法であって、前記レンズ研磨用ホルダーの中心位置にはかんざし受け部とレンズ保持部が設けられ、該レンズ保持部は前記各レンズを保持する略円筒形の凹状窪みであって、その配置は前記各レンズの両面の中心を通る延長線が交差する交点を頂点とする頂角を二等分した線上に前記かんざし受け部の中心が配置される構成を採用し、前記凹状窪みの底面部は、研磨面と反対側の前記レンズの面となる保持側レンズ面を保護する緩衝シートと前記レンズを円滑に独立して自転させるための底面部滑りシートを介して前記レンズを保持させるとともに、前記レンズの前記研磨面が研磨皿に密着するように前記レンズを押圧し、研磨対象となる前記レンズに対応する形状に形成し、前記凹状窪みの壁面部には、前記レンズを円滑に自転させるため壁面部滑りリングを介して前記レンズの外周側部を保持させ、前記レンズ保持部に装着される前記各レンズは、前記研磨皿との摩擦によって独立して自転自在とさせるとともに、前記かんざし受け部を中心として前記レンズ研磨用ホルダーを公転自在とし、前記レンズ研磨用ホルダーの前記かんざし受け部を介してかんざしを揺動させて研磨する構成とすることもできる。
【0017】
また本発明は、前記複数のレンズ保持
部が3つである前記ホルダ
ーを利用する構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るレンズ研磨用ホルダー並びこれを利用した複数レンズの研磨方法によれば、複数のレンズを同時に研磨でき、また、ホルダーへの接着を必要としないことから、接着に起因する接着工程、取り外し工程、洗浄工程をなくすことができ、1個当たりのレンズ研磨作業に要する時間と労力を大幅に軽減できるという優れた効果を奏するものである。
【0019】
また、本発明に係るレンズ研磨用ホルダー並びこれを利用した複数レンズの研磨方法によれば、複数のレンズがホルダー内で研磨皿との接触抵抗により自転しながら公転し、ホルダー自体も自転するという動作をさせることで、均一で精度の高い研磨が可能となるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1の技術的特徴は、研磨されるレンズ20がホルダー10に保持された状態において自転自在とするとともに、ホルダー10を公転させることにある。即ち、研磨皿40とレンズ20の接触摩擦によりレンズ20が自転するとともに、ホルダー10内でのレンズ20が公転し、更にはホルダー10をも自転させる構成を採用したことを最大の特徴とするものである。
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、
図7に図示した各レンズ20は、模式的に凹凸を強調して示しており、実際は研磨皿40の曲率とレンズ20の研磨面21の曲率は略等しいものである。なお、ホルダー10の表面形状は図面上では研削皿40と同一の曲率で示しているが、係るホルダー10の表面形状は同一の曲率にする必要はなく、個々のレンズ20の球芯軸が前記ホルダー10の軸芯上の1点で交差するよう略円筒形の凹状窪み31を設けていれば良い。
【0023】
図1は、本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1における回転状態説明図であり、本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1を用いた複数レンズ20の研磨方法における発明の技術的要部といえる動作について説明する。
【0024】
図1において1番大きな円が研磨皿40を示し、中間の大きさの円がホルダー10を示し、小さな3つの円がレンズ20を示し、
図1では、何れの動作も左回りである。係る回転方向はモーターの駆動力によって研磨皿40が回転Aする方向に従うこととなる。
【0025】
(研磨皿の回転A)
研磨材60と水が攪拌された研磨液を供給しながら、モーターの駆動力により研磨皿40は回転Aする。
【0026】
(レンズの自転B)
レンズ20は、研磨皿40との接触並びに押圧によって自転Bする。
係る自転Bは底面部32に設けた底面部滑りシート34と壁面部
33に設けた壁面部滑りリング36により容易となっている。
【0027】
(レンズの公転C及びホルダーの自転D)
ホルダー10は、かんざし受け部11に差し込まれるかんざし50を中心として回転自在としているため、研磨皿40の内側で自由に自転Dする。
係る自転Dは、同時にレンズ20の公転Cでもある。
係る公転Cは、レンズ20の研磨面21と研磨皿40の接触抵抗により前記レンズ20の自転Bにともなってホルダー10の周速度の速い外側へと運ばれることによって生じる動作である。
【0028】
(ホルダーの揺動E)
また、ホルダー10は、かんざし受部11に揺動装置のかんざし50の先端を受け止め、係るかんざし50を動作にともなってホルダー10は揺動Eする。
【0029】
上記AからEの各動作が行なわれることによって、本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1の効果が発揮されるものである。次に、本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1を用いた研磨の概要について説明する。
【0030】
まず、レンズ保持部30の凹状窪み31の底面部32へ底面部滑りシート34と緩衝シート35を配置し、壁面部33に壁面部滑りリング36を配置する。次に各レンズ20をホルダー10のレンズ保持部30に装着する。研磨皿40を回転Aさせ、研磨材60を配合した水を流動させて研磨皿40に供給し、レンズ20を装着したホルダー10を、研磨面21が研磨皿40に据え置く。
【0031】
この時各レンズ20は、研磨面21が研磨皿40と接触することとなり、接触抵抗の大きいところから先に削られ、前記AからEの動作によって複数の各レンズ20の研磨面21はバラツキを生じることなく均等に研磨される。なお、研磨の初期に各レンズ20の研磨面21に傷や粗さなどが多少存在していても、前記の動作による研磨の効果と緩衝シート35の弾性力によって許容できる範囲が広く、また、個々のレンズ20の仕上がりにバラツキの発生を抑え、精度の高い研磨を可能としている。また、研磨皿40に対しレンズ20の研磨面21の位置が変化しないとすると、研磨皿40の特定の箇所に偏磨耗や変形が生ずることとなるため、揺動Eには、研磨皿40に対して接触させる位置をずらしながら研磨させることで偏磨耗を抑え、研磨皿40の修正工程を減らす効果もある。
【0032】
最終的な仕上げ工程までに研磨材60の粒径を徐々に小さくするとともに、加圧調整して、最後に仕上げ用研磨材60を用いて最終研磨工程を終了する。
【0033】
図2、
図3及び
図4は、本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1の構成説明図であり、
図2は、研磨されるレンズ20の研磨面21が平面である場合の構成を示すものであって、
図2(a)はレンズ保持部30に平面レンズが収納された状態のホルダー10の断面を示し、
図2(b)は底面視によるレンズ20の配置構成を示したものである。
【0034】
図3は、研磨されるレンズ20の研磨面21が凸状の曲率を有する場合の構成を示すものであって、
図3(a)はレンズ保持部30に凸レンズが収納された状態のホルダー10の断面を示し、
図3(b)は底面視によるレンズ20の配置構成を示したものである。
【0035】
図4は研磨されるレンズ20の研磨面21が凹状の曲率を有する場合の構成を示すもので、
図4(a)は、レンズ保持部30に凹レンズが収納された状態のホルダー10の断面を示し、
図4(b)は底面視によるレンズ20の配置構成を示したものである。
【0036】
本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1は、複数のレンズ20を同時に研磨するレンズ研磨用のホルダー10であって、かんざし受け部11と複数のレンズ保持部30を有し、研磨するレンズ20の研磨面21が平面レンズである場合は、レンズ保持部30は各レンズ20の両面の中心を通る延長線が常にかんざし受け部11の中心から等距離となる平行な位置に配置される構成を採用し、研磨するレンズ20の研磨面21が曲率を有する凸レンズ又は凹レンズである場合は、レンズ保持部30は各レンズ20の両面の中心を通る延長線が交差する交点を頂点とする頂角を二等分した線上に前記かんざし受け部11の中心が配置される構成を採用し、各レンズ20は、レンズ保持部30に保持され、係るレンズ保持部30は、かんざし受部11を中心に同一円周上となるように等間隔に配置される略円筒形の凹状窪み31を基礎として構成されるものであって、円滑に各レンズ
20を独立して自転させてレンズ20を保持するとともに、該レンズ20の研磨面
21が研磨皿40に密着するようにレンズ20を押圧し、前記研磨皿40との摩擦によって独立して自転自在とするとともに前記ホルダー10は公転自在とし、前記かんざし受け部11を介してかんざし50により揺動させる構成を採用している。以下、各構成部材について説明する。
【0037】
ホルダー10は、複数のレンズ20を保持する研磨用の保持部材であって、研磨によるレンズ20の研磨面21の接触抵抗により、レンズ20は自転Bしながら公転Cする。また、ホルダー10の大きさは、研磨するレンズ20の配置する数とその直径によって定まり、高さは研磨するレンズ20の厚み及び研磨面21の曲率によって決定される。なお、凸レンズ若しくは凹レンズを研磨する場合は、それぞれ曲率を変える必要があり、原則としてホルダー10は、凸レンズを研磨する場合、研磨皿40と相対する表面形状は、研磨面21の曲率よりも小さく、凹レンズを研磨する場合、研磨皿40と相対する表面形状は研磨面21の曲率よりも大きくすることが必要となる。
【0038】
ホルダー10には、耐磨耗性や歪みが生じにくい剛性が求められる。特にガラス製の光学レンズの研磨においては、温度管理が極めて重要であり、摩擦による熱の影響を受けない耐熱性を有する素材であることが必要であることから、このような条件に対応する素材としては、例えばフェノール系樹脂を用いることが考え得る。但し、係る素材に限定されるものではなく、耐熱性や対薬品性及び機械的強度の高いものであればよく、近年開発が進んでいるエンプラや、加工性のよい真鍮や砲金、或いはアルミニウム合金などの金属でもよい。
【0039】
レンズ保持部30は、前記に示したとおり、各レンズ20を保持する略円筒形の凹状窪み31であって、以下にその配置構成を説明する。
【0040】
レンズ保持部30の配置には、研磨面21が平面な(
図2)レンズ20の場合には、各レンズ20の両面の中心を通る延長線が常にかんざし受け部11の中心から等距離となる平行な位置に配置される構成を採用し、研磨面21が凸状(
図3)又は凹状(
図4)のレンズ20の場合には、各レンズ20の両面の中心を通る延長線が交差する交点を頂点とする頂角を二等分した線上にかんざし受け部11の中心が配置される構成を採用する。
【0041】
図5は、レンズ保持部30を構成する要素及び部材を示す説明図であり、
図5(a)はレンズ保持部30の凹状窪み31を示し、
図5(b)は凹状窪み31に底面部滑りシート34と緩衝シート35と壁面部滑りリング36が備えられた状態を示し、
図5(c)は凹状窪み31に緩衝シート35と底面部滑りシート34と壁面部滑りリング36が備えられ、更にレンズ20が配設された状態を示している。以下、レンズ保持部30の各構成部材について説明する。
【0042】
凹状窪み31は、略円筒形状の窪みであって、底面部32と壁面部33から構成されている。
【0043】
底面部32は、保持側レンズ面22の形状に対応した形状を有し、該保持側レンズ面22に対応した形状を備えている。ここで、対応した形状とは、保持側レンズ面22と同形状の意味の他、レンズの自転Bがし易くなるよう、保持側レンズ面22の中止と、底面部32の中心が当接する凸形状又は凹形状の曲率を考慮した形状を含むものである。具体的には、保持側レンズ面22が平面である場合に、底面部32を凸形状の曲率を与えて、レンズの自転
Bをし易くする形状となる実施例を、
図5に示している。
【0044】
壁面部33は、凹状窪み31の内周面であり、研磨するレンズ20の外周側部23を保持する。但し、嵌め合い公差的には緩み嵌めとし、回転性を損なう締まり嵌め状態を生じさせない公差とすることが必要である。
【0045】
底面部滑りシート34は、レンズの自転Bをしやすくするために、底面部32と緩衝シート35との間に備えるシートであり、摩擦抵抗係数が小さな素材を用いる。例えばフッ素系等であるPTFE、FEP、PFA等、その他のフッ素系樹脂が考えられる。ここでフッ素系樹脂の中でもPTFE(ポリテトラフロロエチレン)は、滑り特性がプラスチック中最高であることからこれを選択することが望ましい。但し、係るPTFEに限定されるものではなく、滑り特性に優れ、比重と摩擦抵抗係数が小さいものであればよい。なお、係る底面部滑りシート34は接着せず壁面部33に対して圧縮されずに回転自在となる公差をもって配置するものである。
【0046】
緩衝シート35は、底面部滑りシート34と研磨するレンズ20の保持側レンズ面22の間に備えられ、該保持側レンズ面22と接触し、研磨皿40から受ける押圧に対して保持側レンズ面22を傷つけないようにするとともに、レンズ20の割れを防止する緩衝部材であって、弾性を有する素材を用いて係る衝撃等からレンズ20を保護する役割を果たすものである。素材には、例えば、耐久性や耐薬品性面から化学合成繊維のマイクロスウェードなどを用いることが望ましい。
【0047】
壁面部滑りリング36は、レンズ20の自転をしやすくするために、側壁部35と外周側部23との間に備えるリングであり、前記底面部滑りシート34と同様に、摩擦抵抗係数が小さな素材を用いる。従来からレンズ研磨加工の分野で使用されてきたジュラコン(登録商標)やデルリン(登録商標)といったポリアセタール(POM)を用いてもよい。係るポリアセタールは比較的強度があり、耐薬品性に優れ、加工しやすいというメリットを持ったエンジニアリングプラスチックである。なお、係るジュラコン(登録商標)やデルリン(登録商標)は接着性が悪いため、従来型の研磨装置で用いられてきた接着によるホルダーへの固定方法には向かない構成である。しかしながら、本発明では接着を必要としないため、装着並びに脱着の再の接着剤の塗布並びに剥離工程を省略することができ、作業時間を大幅に短縮することができる。
【0048】
次に、ホルダー10を用いて研磨するレンズ20について説明する。レンズ20は、研磨面21が平面であっても、凸状又は凹状の曲率を有するものであっても、本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1で使用可能である。また、レンズ20の外周側部23は、図面上では軸心方向に筒状の平行部がある場合を示しているが、係る平行部を有さないコンタクトレンズ状の縁部も含むものとする。
【0049】
研磨面21は、研磨皿40と接触して研磨されるレンズ20の面であり、保持側レンズ面22は底面部32に底面部滑りシート34と緩衝シート35を介して接触する面である。研磨面21と保持側レンズ面22の其々の形状の組み合わせは、
図6に示すとおりであり、係る保持側レンズ面22の形状に応じた底面部32とするホルダー10を用意することとなる。
【0050】
次にまた、本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1を利用する研磨機について説明する。研磨機は従来から一般に広く利用されている装置を利用することが可能であり、特に特別な装置を取り付けたり改造を施すことなく利用できる。
【0051】
但し、研磨皿40については、研磨するレンズ20が平面である場合にはある程度の汎用性を有するが、曲率を有するレンズ20の研磨においては、各レンズ20の両面の中心を通る延長線が交差する交点を頂点とする頂角を二等分した線上に前記かんざし受け部11の中心が配置される構成に対応した研磨皿40が必要となる。係る研磨皿40は、研磨材60を含む冷却用の水を循環させながら接触抵抗の大きい所から研磨面21を削り、最終的には複数のレンズ20の研磨面21の全面が均一に接触するまで研磨工程を行なう。この時レンズ20の研磨中に発生する熱は、研磨材60を供給する流水によって冷却され、冷却用の水に含まれる研磨材
60は研磨用研磨機内で循環して利用できる。
【0052】
また、研磨皿40の回転速度は、研磨機の動力を制御して調節することとなるが、本発明では、ホルダー10の中心から周方向に複数のレンズ20をもうけているため、同じ径のレンズ20を1個で研磨する場合の研磨皿40と比較すると、周設されたレンズ20の外側を縁部とする大きな研磨皿40が必要となり、レンズ20の1個当りの直径に対して周速度が速くなるため、研磨量の関係から研磨皿40の回転A速度を下げることが好適であり、係る回転速度の低下は熱の発生を軽減させることができるという効果も発揮するものであり、係る効果を下記の表1に示す。但し、表1に示す実験結果は、研磨されるレンズ20の研磨面21が平面である場合、凹状の曲率を有する場合、凸状の曲率を有する場合などの形状と大きさを変化させ、レンズ研磨を行なった結果のうちから一部を抜粋したものであり、平均的な効果が現れたものを例として示したものである。
【0053】
図6は、本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1で研磨するレンズ20の数による配置説明図であり、
図6(a)、
図6(b)、
図6(c)、及び
図6(d)はレンズ20の配置数を其々3個、4個、5個及び6個である場合を例示している。ホルダー10は、
図3に示すとおり、中心位置にはかんざし受け部11を有し、該かんざし受け部11を中心とする同一円周上には複数のレンズ保持部30が周設される。なお、係る配置数に限定されることはなく、同一円周上に配置可能な限り本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0054】
図6(a)から
図6(d)までの各構成をそれぞれ比較するために実験したところ、
図6(a)に示した3個構成が、他の構成と比較して最も品質にバラツキが生じない配置構成であった(表3参照)。また、4個構成(ロ)、5個構成(ハ)、及び6個構成(ニ)は3個構成(イ)と比較すると、研磨面21の仕上がりに若干ながらバラツキが見える結果となったが、許容できる範囲のものであり、1個構成の従来の研磨方法で研磨した結果と比較しても遜色のない仕上がりといえるものであるため、表3には3個構成のみを示した。
【0055】
係る比較は、干渉計を用いて干渉縞の状態を比較したところ、3個構成の場合が干渉縞の状態が最も良く、レンズ20の数が増える構成毎に若干ながら干渉縞に歪みが見られた。これは、3個構成の場合であると全てのレンズ20に係る押圧力が研磨皿40に対して均等に働き、各レンズ20がバランスの良い三点支持で研磨皿40と接触することから、係るレンズ20に加える圧力が均等に等分されて伝わりやすくなることが考えられる。
【0056】
次に、本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1を用いた研磨後のレンズ20について、干渉計により観察した結果から評価を行なった内容を示す。
【0057】
係る評価は、数値化が困難であり、三次元測定機による形状測定や、表面粗さ測定機による表面粗さ測定では判断することはできないため、レンズ
20の磨き面評価を判断するに適する方法として適切且つ簡易的である干渉縞による観察方法を用いた。係る観察には測定したレンズ
20が良好か否かを比較するための基準となる干渉縞が必要であり、表1にその評価の基準となる干渉縞を示した。左側には良好(OK)と評価できる干渉縞を例示し、右側には良好な状態とはいえない(NG)と評価される干渉縞を例示した。具体的には、左側の干渉縞には極端な歪みを示す変化は見られず、縞と縞との間隔も等間隔である。これに対し、右側の干渉縞の幅(暗線)にはやや歪みが見受けられ、縞と縞との間隔もわずかながら不均一である。
【0059】
下記表2は、1個構成の従来型のレンズ研磨用ホルダー
1を用いた研磨状態と、本発明に係る3個構成のレンズ研磨用ホルダー1を用いたレンズ20の研磨状態を比較したものである。なお、本発明に係る研磨状態を示すレンズ20は、バラツキがないことから(表3参照)3個構成中1個のみを示した。研磨条件は、研磨皿40の回転数が2000rpmと1000rpm、研磨皿40に係る圧力は2kg/cm2と1kg/cm2、研磨時間は120秒と180秒というように、それぞれ異なった研磨条件となっているが、これは本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1の特徴ともいえる効果との関係で生じる条件の違いであって、特にホルダー
10全体の大きさが異なることに起因したものである。
【0061】
上記表2において、従来型を用いて研磨されたレンズ20と本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1を用いた研磨後のレンズ20とを比較観察すると、縞の幅及び縞と縞との間隔、更には縞の歪み方など、いずれも遜色はないと評価することができる。そうすると、本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1を用いると、1個当りの研磨に要する時間は1分となり、従来の研磨用ホルダーと比較して半分の時間で研磨ができること、及び研磨における研磨皿40に対するレンズ20への押圧と回転数が半分ですむため、研磨皿40の磨耗とレンズ20の摩擦による温度上昇を減少させることができることを示している。
【0062】
下記表3に、本発明に係る3個構成のレンズ研磨用ホルダー1を用いて同時に研磨した3個のレンズ20のバラツキに関する評価を示す。
【0064】
上記表3に示した同時研磨による3個のレンズ20を比較すると、ほとんどその状態に差異は見られない良好な結果を得ており、バラツキもないことが観察できる。また、各1個毎を評価しても、何れも歪みが少なく、縞の幅、及び縞と縞との間隔に不均一性も見受けられない。なお、表1は、3個構成の本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1を使用し、凹レンズ、凸レンズ、及び平面レンズの各レンズ20を、それぞれ3個同時に研磨し、これを観察したものである。表1に示されている通り、3個のレンズ20はバラツキも少ない。なお、4個以上の構成へ増やすと、わずかながらその数に応じて干渉縞の線の幅に違いが現れることとなった。そこで、表1は、より良い結果が得られた平面レンズの結果を代表例として示したものである。但し、4個以上の構成でも商品に求められる品質としては十分許容できる範囲内のものであり、本発明の構成により発揮される効果が共通する範囲の個数であれば個数に限定されるものではない。
【0065】
図7は、本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1を使用するレンズ20の種類説明図であり、
図7(a)、
図7(b)、及び
図7(c)は、レンズ20の保持側レンズ面22が平らである場合の設置状態を示しており、其々研磨面21は
図7(a)が凸状レンズ、
図7(b)が凹状レンズ、
図7(c)が平面レンズである場合を示している。この場合において、
図7(a)及び
図7(b)は各レンズ20の両面の中心を通る延長戦が交差する交点を頂点とする頂角を2等分した線上にかんざし受け部11の中心が配置される構成であり、
図7(c)は研磨面21が平面であるため、各レンズ20の両面の中心を通る延長線は平行となる構成である。
【0066】
なお、
図7(d)、
図7(e)、及び
図7(f)は、レンズ20の保持側レンズ面22が凹状である場合の設置状態を示しており、其々研磨面21は
図7(d)が凸状レンズ、
図7(b)が凹状レンズ、
図7(c)が平面レンズである場合を示している。この場合において、
図7(d)及び
図7(e)は各レンズ20の両面の中心を通る延長戦が交差する交点を頂点とする頂角を2等分した線上にかんざし受け部11の中心が配置される構成であり、
図7(f)は研磨面21が平面であるため、各レンズ20の両面の中心を通る延長線は平行となる構成である。
【0067】
またなお、
図7(g)、
図7(h)、及び
図7(i)は、レンズ20の保持側レンズ面22が凸状である場合の設置状態を示しており、其々研磨面21は
図7(g)が凸状レンズ、
図7(h)が凹状レンズ、
図7(i)が平面レンズである場合を示している。この場合において、
図7(g)及び
図7(h)は各レンズ20の両面の中心を通る延長戦が交差する交点を頂点とする頂角を2等分した線上にかんざし受け部11の中心が配置される構成であり、
図7(i)は研磨面21が平面であるため、各レンズ20の両面の中心を通る延長線は平行となる構成である。
【0068】
図8は、本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1のかんざし受部11の配置構成説明図である。
図8(a)は従来の研磨ホルダーのかんざし受部11の配置構成を示し、
図8(b)は本発明に係るレンズ研磨用ホルダー1のかんざし受部11の配置構成を示している。
【0069】
かんざし受部11は、一般的な研磨機に用いられる揺動装置の動作の受部であって、その動作は揺動装置のかんざし50によって伝えられ、研磨皿40内をホルダー10が一定の位置に留まらないように動作する目的で設けられる。
【0070】
図8(a)に示すように、従来型における研磨ホルダーに対してレンズ20が1個の場合、又は複数であってもホルダーの中心にレンズ20が配置される構成のホルダーでは、かんざし受部11がレンズ20から距離をおいた位置に配置しなければならなかった。係る距離が離れていると、レンズ20に接触する研磨皿40に対しホルダー10が首を振るなど不安定な接触となりやすく、この距離は短いほうが望ましい。
図8(b)に示すとおり、本発明に係るかんざし受部11は、ホルダー10の中心にレンズ20が配置されないことから、係るかんざし受部11をより研磨面21に近づけた位置に配置させることが可能となっている。本発明では、
図8(b)に破線で示した保持側レンズ面22よりも、研磨面21側に近づけることが可能であり、より高い安定性を確保できる構成を採用可能である。
【課題】複数のレンズを同時に研磨でき、接着を用いることなく、レンズ1個当たりの研磨加工に係る作業時間を低減させ、研磨加工における量産バラツキを低減させるとともに、品質の高いレンズ研磨加工に必要なレンズホルダーの提供、並びにそのレンズホルダーを利用した研磨方法の提供を図ることを課題とするものである。
【解決手段】本発明に係るレンズ研磨用ホルダーの技術的特徴は、回転する研磨皿とレンズの接触摩擦によりレンズが自転するとともに、ホルダー内でのレンズが公転し、係る公転はホルダーの自転でもあり、係るホルダーを揺動させることによって研磨皿に対して複数のレンズが均一な力で押しつけて課題を解決したものである。