特許第6145280号(P6145280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セーレン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6145280
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】本革製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C14C 11/00 20060101AFI20170529BHJP
   B05D 7/12 20060101ALI20170529BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20170529BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   C14C11/00
   B05D7/12
   C09D175/04
   C09D5/00 D
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-23352(P2013-23352)
(22)【出願日】2013年2月8日
(65)【公開番号】特開2014-152255(P2014-152255A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西永 嘉郎
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−158271(JP,A)
【文献】 特開2013−023646(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/139194(WO,A1)
【文献】 特開2010−082536(JP,A)
【文献】 特表2003−522248(JP,A)
【文献】 特開2000−063900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B68F 1/00− 3/04
C14B 1/00− 99/00
C14C 1/00− 99/00
B05D 1/00− 7/26
C09D 1/00− 10/00
101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本革基材上に、いずれもポリウレタン樹脂を主体としてなるベースコート層、カラーコート層およびトップコート層が順に積層して形成する本革製品の製造方法であって、ベースコート層を、塗料を2回塗布することにて形成し、1回目に塗布した塗料が乾燥する前に2回目の塗料をウェットオンウェットで塗布して形成することを特徴とする本革製品の製造方法。
【請求項2】
ベースコート層の厚さが30〜45μmであり、ベースコート層の1回目の塗布による層厚さが24〜36μmであって、ベースコート層の2回目の塗布による層厚さが6〜9μmであることを特徴とする請求項1に記載の本革製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本革製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本革は、外観(光沢、絞等)や風合い(柔軟性、弾力性、ふくらみ等)、触感(表面の滑らかさ等)といった特有の質感(いわゆる「革らしさ」)と高級感から、衣料、鞄、靴、インテリア資材、車両内装材など様々な分野で用いられている。本革は、通常、表面に塗装を施して仕上げられ、本革上に、それぞれベースコート層、カラーコート層、トップコート層と呼ばれる塗膜(樹脂皮膜)が積層される。本明細書においては、塗装前の本革を「本革基材」と呼び、塗装後の本革を「本革製品」と呼んで便宜上区別する。
【0003】
ここで、ベースコート層とは、本革基材の表面にある銀面を被覆することにより、虫食いや引っ掻き傷、皮膚病痕などの欠点を隠蔽し、上部に塗膜を安定して形成することを主目的として設けられる塗膜である。さらに、着色によりカラーコート層を補助する役割もある。
また、カラーコート層とは、それ自身の着色により、本革製品に所望の色を付与することを主目的として設けられる中間層の塗膜である。さらに、ベースコート層では隠蔽しきれない本革基材の欠点を隠蔽するという役割もある。
そして、トップコート層とは、風合い、触感、光沢、色などを調整するとともに、耐摩耗性などの物性を向上させることを主目的として設けられる最上層(最表層)の塗膜である。
【0004】
本革基材は、天然物であるためその表面に傷などがあり、表面が均一でない場合がある。これらを隠蔽するためにベースコート層を形成する前に、樹脂塗布により傷を隠蔽した後バフ加工を行って、本革基材の表面を削り均一にするという方法が採られる。しかしながら、この際、本革基材表面に残された樹脂の量に多い部分と少ない部分が生じるため、ベースコート層を形成する塗料の浸透バラツキによる色むらが起こるという課題があった。
【0005】
このような課題に対処するためには、例えば、ベースコート層を形成する前に行う樹脂塗布において樹脂の厚塗りをしたり、バフ工程後にも樹脂塗布をしたりするなどの方法が考えられるが、これらの方法の場合は、ベースコート層を形成する塗料の浸透バラツキによる色むらは軽減されるものの、得られる本革の風合いが粗硬になるという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、本革本来の風合いや触感を損なわずに、ベースコート層を形成する塗料の浸透バラツキによる色むらを防止することができる本革製品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、本革基材上に、いずれもポリウレタン樹脂を主体としてなるベースコート層、カラーコート層およびトップコート層が順に積層して形成する本革製品の製造方法であって、ベースコート層を、塗料を2回塗布することにて形成し、1回目に塗布した塗料が乾燥する前に2回目の塗料をウェットオンウェットで塗布して形成することを特徴とするものである。
また、ベースコート層の厚さが30〜45μmであり、ベースコート層の1回目の塗布による層厚さが24〜36μmであって、ベースコート層の2回目の塗布による層厚さが6〜9μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、本革本来の風合いや触感を損なわずに、ベースコート層を形成する塗料の浸透バラツキによる色むらを防止することができる本革製品の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明が対象とする本革製品は、本革基材上に、いずれもポリウレタン樹脂を主体としてなるベースコート層、カラーコート層およびトップコート層が順に積層されてなるものである。
【0010】
本発明に用いられる本革基材は特に限定されるものでなく、原料として、例えば、牛、馬、豚、山羊、羊、鹿、カンガルーなどの哺乳類、ダチョウなどの鳥類、ウミガメ、オオトカゲ、ニシキヘビ、ワニなどの爬虫類などに由来するものを挙げることができる。なかでも、汎用性が高く、面積が大きな牛皮を原料とするものが好ましい。生皮そのものや、塩漬けにしたりして腐敗を防いだものを原皮といい、この状態のものが製革工程に供される。
【0011】
動物の皮(原皮)を鞣して、耐久性(耐熱性、耐腐敗性、耐薬品性など)を付与するとともに、革らしさを引き出したものを「本革」(単に「革」ともいう)と呼び、鞣していない「皮」とは区別される。
【0012】
製革工程は、大きく、鞣し工程、染色工程、仕上げ工程に分けられ、さらに細かく、次のように分けられる。
鞣し工程;原皮、水漬け・背割り、裏打ち、脱毛・石灰漬け、分割、再石灰漬け、脱灰・酵解、浸酸、鞣し
染色工程;水戻し、水絞り・選別、シェービング、再鞣し、染色・加脂、セッティングアウト、乾燥、味取り、ステーキング(揉み、叩き)、張り乾燥、銀むき
仕上げ工程;塗装、アイロン掛け・型押し、艶出し
【0013】
個々の工程については改良が進められているものの、技術的におおよそ定まった工程であるといってよく、当業界において公知である。もっとも、一部順序が変わったり、省略されたり、あるいは、他の工程に置き換わったりする場合がある。
【0014】
塗装に先立ち、通常銀むきを施す。銀むきは、銀面の表面を削り取ることで、表面を平滑化し、個体差や部位差、虫食い、引っ掻き傷、皮膚病痕など、外観品位に影響を及ぼす要素を取り除き、均一化するための工程である。通常であれば銀むきを施すが、動物の皮本来の意匠を生かすことを目的として銀むきを施さない場合もある。
【0015】
銀むき後、本革基材の表面(銀面側)に塗装を施すことにより、第1の塗膜として、ポリウレタン樹脂を主体としてなるベースコート層を形成する。ベースコート層の役割は、前述のように欠点を隠蔽し上部の塗膜の形成を安定させることである。
【0016】
本発明のベースコート層の形成は、ベースコート層形成用塗料の塗布、および、熱処理にてなされる。このとき、ウェットオンウェットで2回塗布してベースコート層を形成することが肝要である。なぜなら、1回塗布で十分な隠蔽効果を得ようとすると、塗布量が多くなってしまい、風合いが粗硬になる。2回にわけて塗布すると、浸透が抑制されるため、少ない塗布量でも隠蔽の効果が得られ、風合いへの影響がないためである。すなわち、1回目の塗布で、本革に浸透させ密着性を向上させつつ傷等を隠蔽し、1回目の塗布による塗膜の上に2回目の塗料を塗布することにより、本革へ浸透することなく均一な薄膜が形成できるため、風合いの悪化を防止しつつ隠蔽効果をさらに付与する。ここで、ウェットオンウェットとは、1回目に塗布した塗料が乾燥する前、すなわち湿潤状態であるときに2回目の塗料塗布を行うことをいう。ウェットオンウェットで塗布することにより、2回目の塗布の際に、ベースコート層形成用塗料の表面張力によるハジキが抑えられるため、より均一で平らなベースコート層を形成することができ、ベースコート層を形成する塗料の浸透バラツキが生じにくく、得られる本革製品の色むら、触感(表面のざらつき)が改善される。
【0017】
ベースコート層の乾燥後における厚さの好ましい範囲は、1回目の厚さが24〜36μm、2回目の厚さが6〜9μmである。1回目、2回目の厚さを上述の範囲にすることにより、風合いを損なわずに、得られる本革製品の色むらを改善することができる。
【0018】
ベースコート層全体の厚さは、好ましくは30〜45μmである。厚さが30μm未満であると、本革基材の欠点を十分に隠蔽することができず、本革製品の表面に色むらが生じたり、耐摩耗性、耐屈曲性などの物性が悪くなったりする虞がある。厚さが45μmを超えると、風合いや触感が損なわれたり、本革特有の外観が損なわれたりする虞がある。
【0019】
ベースコート層形成用塗料を塗布するには、例えば、リバースロールコーター、スプレーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ナイフコーター、コンマコーターなどの装置を特に制限なく用いることができる。なかでも、1回目の塗布には、本革とベースコート層の密着性や傷の隠蔽性の観点からリバースロールコーターによる塗布が好ましい。2回目の塗布には、本革に浸透させずに少ない塗布量で均一な塗膜の形成が可能という理由から、スプレーコーターによる塗布が好ましい。
【0020】
ウェット塗布量は、所望するベースコート層の厚さに応じて適宜設定すればよい。好ましくは、1回目のウェット塗布量が80〜120g/m、2回目のウェット塗布量が20〜30g/mである。1回目、2回目の厚さを上述の範囲にすることにより、風合いを損なわずに、得られる本革製品の色むらを改善することができる。
【0021】
ベースコート層形成用塗料に用いられるポリウレタン樹脂としては、溶媒を乾燥除去するだけで皮膜形成が可能な一液型樹脂が用いられる。
一液型樹脂は、通常、水に乳化分散(エマルジョンタイプ)または有機溶剤に溶解させた形で市販されているが、環境負荷の観点から、エマルジョンタイプが好ましく用いられる。
【0022】
ポリウレタン樹脂は、例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリエステル系ポリウレタン樹脂などを挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、耐久性の観点からはポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましく、風合いや触感の観点からはポリエーテル系ポリウレタン樹脂が好ましく、これらを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0023】
ベースコート層はポリウレタン樹脂を主体としてなり、他の樹脂成分は必ずしも要さないが、これを含んでいてもよい。ポリウレタン樹脂以外の樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などを挙げることができる。なかでも、風合い、触感の観点から、アクリル樹脂を組み合わせて用いることが好ましい。
【0024】
アクリル樹脂は特に限定されるものでなく、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸2−エチルへキシル等のアクリル酸アルキルエステル類;メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル類;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有アクリル酸エステル類;メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル等のヒドロキシ基含有メタクリル酸エステル類などの重合体を挙げることができる。これらは1種単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0025】
アクリル樹脂は市販のものを用いることができ、環境負荷の観点からエマルジョンタイプが好ましく用いられる。
【0026】
アクリル樹脂の使用量は、ポリウレタン樹脂に対して60重量%(固形分)以下であることが好ましい。使用量が60重量%を超えると、耐摩耗性が損なわれる虞がある。
【0027】
ベースコート層形成用塗料は、必要に応じて、ベースコート層の物性を損なわない範囲内で、架橋剤、着色剤(顔料、染料)、艶消し剤、平滑剤、界面活性剤、充填剤、レベリング剤、増粘剤などの各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0028】
ベースコート層の色は、必要に応じて、所望の色、すなわちカラーコート層と同色または近似色に着色される。これによりカラーコート層による調色が容易になる。
本発明の構成をとれば、ベースコート層の色むらは小さくなり、色差(ΔE)が0.2以下になる。その結果、本革製品の色むらのΔEは0.2以下になる。なお、色差は、ミノルタカメラ株式会社製の分光側色計CM−1000を用いて、L、a、b表示単位で明度と彩度を測定し、ベースコート層の任意の1点を基準とした場合の色差を5点測定し、その平均を算出する。
【0029】
ベースコート層形成用塗料を付与した後の熱処理は、塗料中の溶媒を蒸発させ、樹脂を乾燥させるとともに、必要に応じて架橋反応を促進し、十分な強度を有する塗膜を形成するために行われる。本革基材の過剰な水分蒸発を防ぐために、熱処理は、本革基材自体の温度が80℃以上にならないように行うことが好ましい。そのため、熱処理温度は90〜130℃であることが好ましく、より好ましくは100〜120℃である。また、熱処理時間は1〜5分間であることが好ましく、より好ましくは2〜3分間である。熱処理温度や熱処理時間が下限値未満であると、乾燥や架橋が不十分となる虞がある。熱処理温度や熱処理時間が上限値を超えると、風合いや触感が損なわれる虞がある。
【0030】
かくして、ベースコート層を形成することができる。
【0031】
次いで、ベースコート層の表面にさらに塗装を施すことにより、第2の塗膜として、ポリウレタン樹脂を主体としてなるカラーコート層を形成する。カラーコート層の役割は、前述の通り、本革製品の着色である。
【0032】
本発明のカラーコート層の形成は、カラーコート層形成用塗料の塗布、および、熱処理によりなされる。
カラーコート層形成用塗料を塗布するには、例えば、リバースロールコーター、スプレーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ナイフコーター、コンマコーターなどの装置を特に制限なく用いることができる。なかでも、均一な塗膜が形成できるという観点から、スプレーコーターで塗布することが好ましい。
【0033】
カラーコート層形成用塗料に用いられるポリウレタン樹脂としては、ベースコート層の場合と同様のポリウレタン樹脂を挙げることができる。また、ポリウレタン樹脂以外の樹脂成分を含んでいてもよい。
【0034】
カラーコート層の着色には、有機顔料、無機顔料等の顔料が用いられる。
着色剤の使用量は特に限定されるものでなく、所望の色に応じて適宜設定すればよいが、添加剤を含めた組成物全体に対して、固形分換算で、25重量%以下であることが好ましく、より好ましくは15〜23重量%である。使用量が25重量%を超えると、風合い、触感が損なわれたり、塗膜強度が低下して耐摩耗性などの物性が悪くなったりする虞がある。
【0035】
カラーコート層形成用塗料は、ベースコート層の場合と同様、各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0036】
カラーコート層の厚さは、3〜15μmであることが好ましく、より好ましくは6〜9μmである。厚さが3μm未満であると、均一な塗膜を形成することが困難で、色斑が生じたり、耐摩耗性、耐屈曲性などの物性が悪くなったりする虞がある。厚さが15μmを超えると、風合いや触感が損なわれたり、本革特有の外観が損なわれたりする虞がある。
ウェット塗布量は、所望するカラーコート層の厚さに応じて適宜設定すればよい。
かくして、カラーコート層を形成することができる。
【0037】
次いで、カラーコート層の表面にさらに塗装を施すことにより、第3の塗膜として、ポリウレタン樹脂を主体としてなるトップコート層を形成する。トップコート層の役割は風合い、触感、光沢、色などを調整するとともに、耐摩耗性などの物性を向上させることである。
【0038】
本発明のトップコート層の形成は、トップコート層形成用塗料の塗布、および、熱処理によりなされる。
トップコート層形成用塗料を塗布するには、例えば、リバースロールコーター、スプレーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ナイフコーター、コンマコーターなどの装置を特に制限なく用いることができる。なかでも、均一な塗膜が形成できるという観点から、スプレーコーターで塗布することが好ましい。
【0039】
トップコート層形成用塗料に用いられるポリウレタン樹脂としては、ベースコート層の場合と同様のポリウレタン樹脂を挙げることができる。また、ポリウレタン樹脂以外の樹脂成分を含んでいてもよい。
【0040】
トップコート層形成用塗料は、ベースコート層の場合と同様、各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0041】
トップコート層を構成する樹脂の架橋は必ずしも要さないが、架橋剤や自己架橋型樹脂を使用することにより架橋されていることが好ましい。これにより、耐摩耗性などの物性を向上させることができる。架橋剤としては、イソシアネート系の架橋剤を用いることができる。
【0042】
イソシアネート系架橋剤の使用量は、添加剤を含めた組成物全体に対して、固形分換算で、15〜25重量%であることが好ましく、より好ましくは17〜23重量%である。使用量が15重量%未満であると、耐摩耗性などの物性が悪くなる虞がある。使用量が25重量%を超えると、風合いや触感が損なわれる虞がある。
【0043】
トップコート層の着色は必ずしも要さないが、着色剤により、カラーコート層の同系色に着色されていることが色むら低減の観点から好ましい。用いられる着色剤としては、カラーコート層と同様の顔料を挙げることができる。
着色剤の使用量は、添加剤を含めた組成物全体に対して、固形分換算で、1〜7重量%以下であることが好ましく、より好ましくは3〜5重量%である。使用量が1重量%未満であると、黄変隠蔽効果が十分に発揮されない虞がある。使用量が7重量%を超えると、風合いや触感が損なわれたり、塗膜強度が低下して耐摩耗性などの物性が悪くなったり、着色剤が色移りしたりする虞がある。
【0044】
トップコート層の厚さは、3〜17μmであることが好ましく、より好ましくは6〜14μmである。厚さが3μm未満であると、耐摩耗性などの物性が悪くなる虞がある。厚さが17μmを超えると、風合いや触感が損なわれる虞がある。
【0045】
かくして、トップコート層を形成することができる。
【0046】
なお、本発明が対象とする本革製品は、本革基材と、ベースコート層と、カラーコート層と、トップコート層とを必須の構成部材とするものであるが、必要に応じて、各塗膜の間に、1層または2層以上の塗膜を備えていてもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。実施例中の「%」および「部」は重量基準であるものとする。
なお、評価は以下の方法に従った。
【0048】
[色むら]
得られた本革製品の試験片をミノルタカメラ株式会社製の分光側色計CM−1000を用いて、L表示単位で明度と彩度を測定し、任意の1点を基準とした場合の色差を5点測定し、その平均を算出し、以下の基準に従って、評価した。
○:色差(ΔE)が0.2未満
△:色差(ΔE)が0.2以上、0.3未満
×:色差(ΔE)が0.3以上
【0049】
[風合い(BLC値)]
150mm四方の大きさの試験片を1枚採取し、ST300 Leather Softness Tester(BLC Leather Technology Center Ltd.製)を用いて、500gの荷重で押し込んだときの歪み測定値(BLC値)を測定した。
歪み測定値が大きいものほど柔らかい風合いであることを示す。
○:歪み測定値が3.0mm以上
△:歪み測定値が2.0mm以上、3.0mm未満
×:歪み測定値が2.0mm未満
【0050】
[風合い(官能評価)]
試験片を検査員が触って、手持ち感(試験片を持ったり握ったりしたときの感覚)の評価を行い、下記基準に従って判定した。
○:本革独特の柔らかい風合いであった。
△:やや硬い風合いであった。
×:風合いが硬く、本革独特の風合いが損なわれていた。
【0051】
[触感]
試験片の表面を検査員が触って、官能評価を行い、下記基準に従って判定した。
○:表面が滑らかでざらつきを感じなかった。
△:表面にわずかにざらつきを感じた。
×:表面にざらつきを感じた。
【0052】
[実施例1]
(1)本革基材の調製
原皮として成牛皮を用い、通常の工程を経ることにより銀むきまでを行った。なお、染色はベースコート層と同系色になるように行った。
【0053】
(2)ベースコート層の形成
[処方A1]
1)商品名「BAYDERM Bottom DLV」;160部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分40%)
2)商品名「BAYDERM Bottom 51UD」;200部
(ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、固形分35%)
3)商品名「PRIMAL SB−300」;200部
(アクリル樹脂、固形分34%)
4)商品名「EUDERM White CB−N」;112.4部
(顔料、固形分60%)
5)商品名「EUDERM Charamel C−N」;3.1部
(顔料、固形分35%)
6)商品名「EUDERM Bordo CB−N」;2.7部
(顔料、固形分40%)
7)商品名「EUDERM Black B−N」;1.8部
(顔料、固形分23%)
8)商品名「EUDERM Nappa Softs」;110部
(艶消し剤、固形分25%)
9)商品名「EUDERM Matting Agent SN−C」;120部
(艶消し剤・充填剤、固形分23%)
10)商品名「EUDERM Paste DO」;40部
(艶消し剤・充填剤、固形分52%)
11)商品名「AQUADERM Fluid H」;10部
(レベリング剤、固形分100%)
12)商品名「AQUADERM XL−50」;150部
(架橋剤、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、固形分50%)
13)商品名「ACRYSOL RM−1020」;約10部
(増粘剤、固形分20%)
14)水;150部
【0054】
原料は、水を除き全てランクセス株式会社製である。
【0055】
処方A1に従い、各原料をミキサーにて混合し、ベースコート層形成用塗料1を調製した。このとき、カップ粘度計(アネスト岩田株式会社製)を用いて、粘度が50秒になるように、増粘剤で調整した。
塗料の合計部数は1270部であり、このうち34.2%にあたる434.9部が全固形分である。ウレタン樹脂に対するアクリル樹脂の割合は50.7%であった。
【0056】
(1)で得られた本革基材の表面に、リバースロールコーター(商品名「JUMBOSTAR−SR」、Ge.Ma.Ta.SpA製)を用いて、ベースコート層形成用塗料1を、ウェット塗布量が100g/mになるように塗布した。乾燥時の厚さは、固形分と塗布量から換算すると32μmであった。
【0057】
次いで、下記処方A2に従い、各原料をミキサーにて混合し、ベースコート層形成用塗料2を調整した。このとき、カップ粘度計(アネスト岩田株式会社製)を用いて、粘度が25秒になるように、増粘剤で調整した。
塗料の合計部数は1265部であり、このうち34.3%にあたる433.9部が全固形分であり、ウレタン樹脂に対するアクリル樹脂の割合は50.9%であった。
[処方A2]
1)商品名「BAYDERM Bottom DLV」;160部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分40%)
2)商品名「BAYDERM Bottom 51UD」;200部
(ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、固形分35%)
3)商品名「PRIMAL SB−300」;200部
(アクリル樹脂、固形分34%)
4)商品名「EUDERM White CB−N」;112.4部
(顔料、固形分60%)
5)商品名「EUDERM Charamel C−N」;3.1部
(顔料、固形分35%)
6)商品名「EUDERM Bordo CB−N」;2.7部
(顔料、固形分40%)
7)商品名「EUDERM Black B−N」;1.8部
(顔料、固形分23%)
8)商品名「EUDERM Nappa Softs」;110部
(艶消し剤、固形分25%)
9)商品名「EUDERM Matting Agent SN−C」;120部
(艶消し剤・充填剤、固形分23%)
10)商品名「EUDERM Paste DO」;40部
(艶消し剤・充填剤、固形分52%)
11)商品名「AQUADERM Fluid H」;10部
(レベリング剤、固形分100%)
12)商品名「AQUADERM XL−50」;150部
(架橋剤、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、固形分50%)
13)商品名「ACRYSOL RM−1020」;約5部
(増粘剤、固形分20%)
14)水;150部
【0058】
原料は、水を除き全てランクセス株式会社製である。
【0059】
ベースコート層形成塗料1を塗布した後の湿潤状態である塗布面表面に、スプレーコーター(商品名「TU ROT.3400/1.41」、BARNINI Srl製)を用いて、ベースコート層形成用塗料2を、ウェット塗布量が20g/mなるよう塗布し、110℃に調整した乾燥機内に3分間静置して熱処理した。乾燥時の厚さは、固形分と塗布量から換算すると7μmであった。ベースコート層全体の厚さは39μm、色むら(色差)は0.20であった。
【0060】
(3)型押し、ステーキング(揉み、叩き)
(2)で得られた中間製品に対し、エンボス機(商品名「KOMBIPRESS−1800NE」、BERGI ofb s.p.a製)を用いて、ロール温度90℃、圧力150kgf/m、加工速度5m/分の条件で、型押しを行い、絞模様を付与した。
次いで、ミリング機(商品名「N2500×1200TS」、BAGGIO Tecnologie s.r.l製)を用いて、温度20℃、回転数15rpmの条件で、30分間揉み加工を行った。
次いで、ステーキング機(商品名「3H3200A」、CARTIGLIANO S.p.A製)を用いて、加工速度8m/分、打ち込み深度:順に2mm、1.5mm、1mmの条件で、叩き加工を行った。
【0061】
(4)カラーコート層の形成
[処方B1]
1)商品名「BAYDERM Bottom DLV」;160部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分40%)
2)商品名「BAYDERM Bottom 51UD」;200部
(ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、固形分35%)
3)商品名「PRIMAL SB−300」;200部
(アクリル樹脂、固形分34%)
4)商品名「EUDERM White CB−N」;112.4部
(顔料、固形分60%)
5)商品名「EUDERM Charamel C−N」;3.1部
(顔料、固形分35%)
6)商品名「EUDERM Bordo CB−N」;2.7部
(顔料、固形分40%)
7)商品名「EUDERM Black B−N」;1.8部
(顔料、固形分23%)
8)商品名「EUDERM Nappa Softs」;110部
(艶消し剤、固形分25%)
9)商品名「EUDERM Matting Agent SN−C」;120部
(艶消し剤・充填剤、固形分23%)
10)商品名「EUDERM Paste DO」;40部
(艶消し剤・充填剤、固形分52%)
11)商品名「AQUADERM Fluid H」;5部
(レベリング剤、固形分100%)
12)商品名「ACRYSOL RM−1020」;約5部
(増粘剤、固形分20%)
13)水;150部
【0062】
原料は、水を除き全てランクセス株式会社製である。
【0063】
処方B1に従い、各原料をミキサーにて混合し、カラーコート層形成用塗料を調製した。このとき、カップ粘度計(アネスト岩田株式会社製)を用いて、粘度が25秒になるように、増粘剤で調整した。
塗料の合計部数は1115部であり、このうち32.2%にあたる358.9部が全固形分であり、顔料の含有率は19.5%であった。
【0064】
(3)の工程を経た中間製品の表面に、スプレーコーター(商品名「TU ROT.3400/1.41」、BARNINI Srl製)を用いて、カラーコート層形成用塗料を、ウェット塗布量が25g/mとなるよう塗布し、110℃に調整した乾燥機内に3分間静置して熱処理した。
乾燥時のカラーコート層の厚さは、固形分と塗布量から換算すると7.0μmであった。
【0065】
(5)トップコート層の形成
[処方C1]
1)商品名「HYDRHOLAC UD−2」;320部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分25%)
2)商品名「HYDRHOLAC Finish HW−2」;140部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分35%)
3)商品名「AQUADERM Finish HAT」;200部
(ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、固形分40%)
4)商品名「EUDERM White CB−N」;22.4部
(顔料、固形分60%)
5)商品名「EUDERM Charamel C−N」;3.1部
(顔料、固形分35%)
6)商品名「EUDERM Bordo CB−N」;2.7部
(顔料、固形分40%)
7)商品名「EUDERM Black B−N」;1.8部
(顔料、固形分23%)
8)商品名「Rosilk 2229」;70部
(平滑剤、固形分60%)
9)商品名「AQUADERM Additive SF」;30部
(平滑剤、固形分50%)
10)商品名「AQUADERM Fluid H」;10部
(レベリング剤、固形分100%)
11)商品名「AQUADERM XL−50」;150部
(架橋剤、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、固形分50%)
12)商品名「ACRYSOL RM1020」;約10部
(増粘剤、固形分20%)
13)水;150部
【0066】
原料は、水を除き全てランクセス株式会社製である。
【0067】
処方C1に従い、各原料をミキサーにて混合し、トップコート層形成用塗料を調製した。このとき、カップ粘度計(アネスト岩田株式会社製)を用いて、粘度が25秒になるように、増粘剤で調整した。
塗料の合計部数は1110部であり、このうち33.2%にあたる369.0部が全固形分であり、顔料の含有率は4.3%であった。
【0068】
(4)で得られた中間製品の表面に、スプレーコーター(商品名「TU ROT.3400/1.41」、BARNINI Srl製)を用いて、トップコート層形成用塗料を、ウェット塗布量が25g/mとなるよう塗布し、110℃に調整した乾燥機内に3分間静置して熱処理した。
乾燥時のトップコート層の厚さは、固形分と塗布量から換算すると7.0μmであった。
【0069】
かくして、実施例1の本革製品を得た。
【0070】
実施例2および実施例3は、ベースコート層1回目の塗料の塗布量を変更した以外は、実施例1と同様にして表1〜3に従い本革製品を作製した。比較例1はベースコート層2回目の塗布をせず、比較例2はベースコート1回目の塗布後に乾燥工程(110℃に調整した乾燥機内に3分間静置)を実施する変更をした以外は、実施例1と同様にして表1〜3に従い本革製品を作製した。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
実施例および比較例によって作製された本革製品の評価は前述の方法によってなされ、結果を表3に記載した。
表3に示されるように、実施例の本革製品は、色むら、風合い、触感の全ての面において優れたものであった。
これに対し、比較例の本革製品は、色むらや風合い、触感が劣るものであった。