特許第6145281号(P6145281)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6145281
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】固定クリップ
(51)【国際特許分類】
   F16B 37/04 20060101AFI20170529BHJP
   F16B 39/10 20060101ALI20170529BHJP
   F16B 41/00 20060101ALI20170529BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   F16B37/04 A
   F16B37/04 H
   F16B39/10 A
   F16B41/00 H
   F16B5/02 U
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-25876(P2013-25876)
(22)【出願日】2013年2月13日
(65)【公開番号】特開2014-152916(P2014-152916A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】特許業務法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 潔
(72)【発明者】
【氏名】尾山 誠
【審査官】 鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−172212(JP,A)
【文献】 実開昭52−169665(JP,U)
【文献】 実開昭49−009960(JP,U)
【文献】 特開2010−255307(JP,A)
【文献】 特表2004−510925(JP,A)
【文献】 特開2005−282698(JP,A)
【文献】 特開平06−323317(JP,A)
【文献】 実開平03−094413(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0224018(US,A1)
【文献】 特開2002−276638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 23/00−43/02
F16B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をあけて互いに対向する第1プレート部および第2プレート部と、
これら第1および第2プレート部の基端縁同士を接続する第3プレート部と、
前記第1プレート部に形成されて第1プレート部の先端縁から第3プレート部に向かって切り欠かれ、ボルトの軸部を通される切り欠きと、
前記第2プレート部の両側縁から立ち上がり前記第1プレート部に向かって突出し、ボルトの頭部を回り止めする一対の壁部と
前記壁部のうち前記第3プレート部から遠い側になる先端側の縁部に延設されて前記第2プレート部の先端縁から離れる方向に延び、前記第1および第2プレート部の先端側から前記一対の壁部間に入ってくる前記ボルトの頭部を受け入れる拡大壁部とを備える、固定クリップ。
【請求項2】
前記第2プレート部は、基端側から先端側に向かうほど前記第1プレート部に近づくよう斜めに延びる板バネである、請求項1に記載の固定クリップ。
【請求項3】
前記一対の壁部の立ち上がり高さは、前記第2プレート部の先端側から基端側に向かうほど高くなり途中から低くなるよう、円弧状に形成される、請求項2に記載の固定クリップ。
【請求項4】
前記第2プレート部に設けられて、前記一対の壁部間に配置されるボルトの頭部を前記第1プレート部に向かって付勢する付勢手段をさらに備える、請求項1に記載の固定クリップ。
【請求項5】
前記切り欠きは、前記ボルトの軸部に形成された雄ねじのねじ山における直径よりも小さく、前記雄ねじのねじ溝における直径よりも大きな幅寸法を有するよう形成される、請求項1〜4のいずれかに記載の固定クリップ。
【請求項6】
前記拡大壁部は、前記一対の壁部それぞれ延設されて対をなし、前記第2プレート部から離れるほど前記一対の拡大壁部の間隔が大きくなる、請求項1〜5のいずれかに記載の固定クリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトやナットといったねじ要素の共回りを防止するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物においては、複数本の柱材と梁材がボルトおよびナットで連結固定される。ボルトおよびナットを用いて形鋼のフランジ部や鋼板といった建築部材同士を連結固定する際、作業者はボルトまたはナットのいずれかを手で押さえて共回りを防ぎつつ、残る他方を回転させて締め付ける。ところが実際の施工現場にあっては、建築部材同士を連結固定する箇所に、他のフランジ部や鋼板等々の部材が建て込んでいるために、ボルトおよびナットの双方に作業者の手が届かない場合がある。
【0003】
そこで鋼板の縁部にナットを仮固定しておき、ナットの共回りを防止するための技術としては従来、例えば、特開2003−120639号公報(特許文献1)、特開2000−310212号公報(特許文献2)、および実公平7−40724号公報(特許文献3)に記載のごときクリップ類が知られている。
【0004】
特許文献1〜3記載のクリップ類は、鋼板の縁部に係止するU字状に湾曲したクリップを備えることを前提とする。そして特許文献1記載のクリップは、ナットを収容するための六角形の部屋を有する。また特許文献2記載のクリップナットは、ナットを位置決めするための六角形の貫通孔を有する。特許文献3記載のクリップナットは、クリップにナットを溶接するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−120639号公報
【特許文献2】特開2000−310212号公報
【特許文献3】実公平7−40724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の技術にあっては、以下に説明するような問題を生ずる。つまり、特許文献1記載の技術は、ナットが六角形の部屋から脱落しないようクリップに係止片を取り付ける作業が煩雑である。特許文献2記載の技術は、クリップの貫通孔よりも大きな外径を有するばね座金をナットに装着しなければならず作業が煩雑である。特許文献3記載の技術は、クリップにナットを溶接する作業が煩雑である。建築物に使用されるナットおよびボルトの数は多大であるから、施工効率において改善の余地がある。
【0007】
また特許文献1〜3記載のクリップ類は、まずナットをクリップに取り付けて、次にナットをクリップとともに建築物に仮固定することはできる。しかしながら特許文献1〜3記載のクリップ類は、ボルトを建築物に仮固定することはできないという欠点がある。その理由は、ナットは首下の軸部を有しないが、ボルトは首下の軸部を有するため、特許文献1〜3記載のクリップ類にボルトの頭部を取り付けると、ボルトの首下の軸部がプレートの縁部に引っ掛かってしまい、もはやクリップ類を建築物に仮固定することはできないからである。
【0008】
本発明の第1の目的は、柱材、梁材、ブレースといった建築部材にボルトを仮固定することができる固定クリップを提供することである。本発明の第2の目的は、煩雑な作業を要することなく、建築部材にねじ要素を容易に仮固定することができる固定クリップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため本発明による固定クリップは、間隔をあけて互いに対向する第1プレート部および第2プレート部と、これら第1および第2プレート部の基端縁同士を接続する第3プレート部と、第1プレート部に形成されて第1プレート部の先端縁から第3プレート部に向かって切り欠かれ、ボルトの軸部を通される切り欠きと、第2プレート部の両側縁から立ち上がり第1プレート部に向かって突出し、ボルトの頭部を回り止めする一対の壁部と、かかる壁部のうち第3プレート部から遠い側になる先端側の縁部に延設されて第2プレート部の先端縁から離れる方向に延び、第1および第2プレート部の先端側から一対の壁部間に入ってくるボルトの頭部を受け入れる拡大壁部とを備える。
【0010】
かかる本発明によれば、ボルトが通された建築部材の縁部に本発明の固定クリップを差し込み、建築部材の縁部を第1プレート部および第2プレート部間に挟むだけで、切り欠きがボルトの軸部を受け入れるとともに、第1プレート部および第2プレート部間に建築部材の縁部およびボルトの頭部を受け入れる。したがって柱材や梁材といった建築部材にボルトを仮固定することができる。
【0011】
また本発明によれば、ボルト頭部を固定クリップに溶接する作業が不要であり、係止片やばね座金といった別部材を固定クリップやボルト頭部に取り付ける作業も不要であり、ボルトが通された建築部材の縁部に本発明の固定クリップを差し込むだけで、建築部材にボルトを仮固定することができる。したがって煩雑な作業を要することなく、建築部材にボルトを容易に仮固定することができるし、ボルト頭部以外のねじ要素であっても、建築部材に容易に仮固定することができる。
【0012】
さらに本発明によれば、水平な鋼板に穿設されたボルト孔に、当該鋼板の下面からボルトを上向きに差し込んだ状態で、側方から鋼板の縁部に固定クリップを差し込むだけで、ボルトを上向きに仮固定することができる。したがって従来のクリップ類では成し得なかった、ボルトを立てたまま仮固定する作業が可能になる。
【0013】
本発明の一実施形態として、第2プレート部は、基端側から先端側に向かうほど第1プレート部に近づくよう斜めに延びる板バネである。かかる実施形態によれば、固定クリップの側方からみて、第2プレート部は傾斜して延び、第1プレート部と第2プレート部の先端縁との間隔が小さくなる。これにより、厚みの小さな建築部材に対してもボルトを仮固定することができる。また、第1プレート部および第2プレート部の間隔を板バネの弾性変形によって大きくして、厚みの大きな建築部材に対してもボルトを仮固定することができる。したがって、ボルトが通される建築部材の厚みが施工箇所毎に異なる場合であっても、個々の建築部材に適応させることができ、汎用性に優れた固定クリップを提供することができる。他の実施形態として、第1プレート部および第2プレート部は互いに略平行であってもよい。かかる他の実施形態であっても第2プレートを板バネのように弾性変形させて、第1および第2プレート間の間隔を大きくすることが可能である。あるいは建築部材の厚み毎に適正な間隔の固定クリップを準備してもよい。
【0014】
第2プレートから立ち上がる一対の壁部の立ち上がり高さは特に限定されない。一実施形態として一対の壁部の立ち上がり高さは一定であってもよい。かかる実施形態では、第2プレート部の傾斜に倣って一対の壁部が斜めに連続してしまい、一対の壁部のうち第3プレートから最も遠い箇所のみが建築部材に当接する場合がある。そうすると一対の壁部がボルトの頭部を適正に回り止めできない虞がある。
【0015】
あるいは板バネである第2プレートの弾性変形によって、第2プレートがその基端側を中心として回動し、第2プレートの先端側が第1プレートから遠ざかる場合、上述した状態とは反対に、一対の壁部のうち第3プレートに最も近い箇所のみが建築部材に当接する場合がある。そうするとやはり、一対の壁部がボルトの頭部を適正に回り止めできない虞がある。そこで本発明の好ましい実施形態として、一対の壁部の立ち上がり高さは、第2プレート部の先端側から基端側に向かうほど高くなり途中から低くなるよう、円弧状に形成される。かかる実施形態によれば、一対の壁部が例えば円弧状に形成されることから、第2プレート部の傾斜角度にかかわらず、先端縁と基端縁との間に位置する一対の壁部の中央領域が、建築部材に当接する。したがって、板バネである第2プレートの弾性変形によって、第1および第2プレートの間隔が変化しても一対の壁部の中央領域間にボルトの頭部を受け入れて、一対の壁部の中央領域で頭部を確実に回り止めすることができる。
【0016】
第2プレート自身が板バネである実施形態の他、本発明の他の実施形態として、第2プレート部に設けられて、一対の壁部間に配置されるボルトの頭部を第1プレート部に向かって付勢する付勢手段をさらに備える。かかる実施形態によっても、ボルトの頭部を建築部材に押し当てることができ、ボルトを建築部材に仮固定することができる。付勢手段は、第1プレート部と向き合う第2プレート部の対向面に予め設けられたバネや弾性体である。本発明の材質は特に限定されないが、好ましくは金属製である。より好ましくは、本発明は、ステンレス板を打ち抜き、曲げ加工によって形成される。
【0017】
好ましい実施形態として、切り欠きは、ボルトの軸部に形成された雄ねじのねじ山における直径よりも小さく、雄ねじのねじ溝における直径よりも大きな幅寸法を有するよう形成されるとよい。かかる実施形態によれば、ボルトの軸部と固定クリップの切り欠きが互いに係合する。これにより、ボルトの脱落を防止することができる。またボルト頭部を建築部材に近接させることができる。
【0018】
一対の壁部間はボルトの頭部を受け入れるための空間を画成する。そして、一対の壁部によって区画される空間は第1および第2プレート部の先端側に向かって開口することから、ボルトの頭部は第1および第2プレート部の先端側から一対の壁部間に容易に入ることができる。好ましい実施形態として拡大壁部は、一対の壁部それぞれ延設されて対をなし、第2プレート部から離れるほど一対の拡大壁部の間隔が大きくな。かかる実施形態によれば、一対の拡大壁部が第1および第2プレート部の先端側から入ってくるボルト頭部を受け入れる。これにより、ボルトが通された建築部材の縁部に本発明の固定クリップを一層容易に差し込むことができ、施工現場での施工効率が益々向上する。
【発明の効果】
【0019】
形鋼のフランジ部や鋼板といった建築部材のボルト孔にボルトを通し、ボルトが通された建築部材に本発明の固定クリップを差し込むだけで、該ボルトの頭部を回り止めすることができる。したがって、作業者はボルト頭部を押えなくても、ナットのみを締め付け方向に回転させるとよく、ナットおよびボルトの締付作業が省力化される。また作業者は本発明の固定クリップを建築部材のフランジに差し込むだけでよいから、クリップの取り扱いが従来よりも省力化される。したがって従来のクリップ類のような煩雑な作業を要することがなく、施工効率を向上させることができる。本発明を採用することにより、柱材の四方から梁材がそれぞれ延びる柱梁接合構造のように、形鋼のフランジ部同士が重なり合ってボルト頭部およびナットの双方を押えることが物理的に不可能な場合であっても、締付作業の際のボルトの共回りを確実に防止することができる。本発明はボルトを仮固定するための他、他のねじ要素を仮固定するために用いられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態になる固定クリップを示す平面図である。
図2】同実施形態の固定クリップを示す底面図である。
図3】同実施形態の固定クリップを示す右側面図である。
図4】同実施形態の固定クリップを示す左側面図である。
図5】同実施形態の固定クリップを示す正面図である。
図6】同実施形態の固定クリップを示す背面図である。
図7】固定クリップがボルトを建築部材に仮固定した状態を示す平面図である。
図8】固定クリップがボルトを建築部材に仮固定した状態を示す側面図であり、(a)〜(e)は厚みの異なる建築部材を例示する。
図9】本発明の変形例になる固定クリップを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態になる固定クリップを示す平面図である。図2は同実施形態の固定クリップを示す底面図である。図3は同実施形態の固定クリップを示す右側面図であり、図4は同実施形態の固定クリップを示す左側面図であり、図3および図4は固定クリップの側方からみた状態を表す。図5は同実施形態の固定クリップを示す正面図であり、固定クリップの先端側からみた状態を表す。図6は同実施形態の固定クリップを示す背面図であり、固定クリップの基端側からみた状態を表す。図7は同実施形態の固定クリップがボルトを建築部材に仮固定した状態を示す平面図である。図8は同実施形態の固定クリップがボルトを建築部材に仮固定した状態を示す側面図であり、(a)が厚みt1の建築部材を示し、(b)が厚みt2の建築部材を示し、(c)が厚みt3の建築部材を示し、(d)が厚みt4の建築部材を示し、(e)が厚みt5の建築部材を示す。これら5種類の建築部材の厚みの関係は、t1<t2<t3<t4<t5である。本実施形態は、形鋼のフランジ部や鋼板といった建築部材にボルトを仮固定するための固定クリップである。
【0022】
固定クリップ10は、間隔をあけて互いに対向する第1プレート部11および第2プレート部12と、これら第1および第2プレート部の基端縁11s,12s同士を接続する第3プレート部13とを備える。そして第1プレート部11および第2プレート部12間に建築部材を受け入れる。第1〜第3プレート部11〜13はそれぞれ厚み一定の平板であり、建築部材を挟むクリップを構成する。なお図示はしなかったが、第3プレート部13を曲面状に加工して、第1〜第3プレート部11〜13を側方からみて略U字状にしてもよい。
【0023】
固定クリップ10は、第1プレート部11に形成された切り欠き14を有する。切り欠き14は、第1プレート部11の先端縁11tから第3プレート部13に向かって切り欠かれており、先端縁と基端縁との間になる第1プレート部11の中央領域まで延びている。図1に示すように、プレート部12は少なくとも切り欠き14の奥側を覆う。切り欠き14には、図7および図8に示すようにボルトBの軸部Sを通され、軸部Sは切り欠き14と略直交する。固定クリップ10は、所定の形状に打ち抜いたステンレス板をコ字状に曲げ加工することによって製造されたものである。
【0024】
図8に示す建築部材Iは、H形鋼の水平なフランジ部である。建築部材Iの上面には図示しない被固定部材(例えば柱の接合プレート)を載置する。そしてボルトBを建築部材Iおよび被固定部材に通して、両者をボルトBおよび図示しないナットで連結固定する。ボルトBは、頭部Hを下にし、軸部Sを上にして、下方から建築部材Iのボルト孔に通される。このため、作業者の手等でボルトBを支えなければ、ボルトBはボルト孔から抜け出し脱落してしまう。本実施形態では後述するように、建築部材Iに取り付けられた固定クリップ10とボルトBが互いに係合するため、ボルトBは抜け出すことなく、建築部材Iに仮固定される。さらに後述する壁部15が頭部Hの回転を規制する。これにより軸部Sに図示しないナットを締め込む際、仮固定されたボルトBが共回りすることはない。
【0025】
固定クリップ10の作用につき詳細に説明する。固定クリップ10の第1〜第3プレート部11〜13は側方からみてコ字状である。第1プレート部11は建築部材Iの上面と接触する。第2プレート部12に設けられた壁部15は、板ばねの役目を果たす第2プレート12の付勢力によって建築部材Iの下面に当接する。かくして、建築部材Iの縁部を第1および第2プレート部11,12で挟むことができる。これにより固定クリップ10が建築部材から容易に外れることはない。なお図に示さなかったが、第1〜第3プレート部11〜13は側方からみてU字状であってもよいし、あるいは他の形状であってもよく、建築部材をクリップとして挟む形状であればよい。
【0026】
本実施形態では、切り欠き14の一方側縁と他方側縁が平行に延びている。また切り欠き14の幅寸法が、ボルトBの軸部Sに形成された雄ねじのねじ山における直径よりも小さく、軸部S外周面の雄ねじのねじ溝における直径よりも大きい関係にある。このため、軸部Sが切り欠き14に係合し、ボルトBが落下する虞がない。そしてボルトBの頭部を建築部材Iの下面に接触ないし近接させることができる。
【0027】
さらに固定クリップ10は、第2プレート部12の両側縁から立ち上がり第1プレート部11に向かって突出する一対の壁部15を備える。本実施形態の壁部15は、第2プレート部12の基端縁12sから先端縁12tまで延在する。一対の壁部15は、図7に破線で示すように、互いに略平行な厚み一定の平板である。一対の壁部15は、図7および図8に示すようにボルトBの頭部Hを受け入れる。そして、頭部Hの平行な2辺が、一対の壁部15とそれぞれ僅かな隙間を介して対面する。これにより一対の壁部15はボルトの頭部を回り止めする。したがって、柱材や梁材といった建築部材にボルトを容易に仮固定することができ、しかも煩雑な作業を要することがない。
【0028】
一対の壁部15は互いに略平行であるが、図7に破線で示すように、先端側の間隔が基端側の間隔よりも僅かに大きくされてもよい。この場合、頭部Hの平行な2辺の距離がボルトB毎に異なる場合であっても、頭部Hを回り止めすることができる。
【0029】
第2プレート部12は、基端縁12sから先端縁12tに向かうほど第1プレート部11に近づくよう斜めに延び、第3プレート部13に対して弾性変形する板バネを構成する。原形の固定クリップ10において、先端縁12tと第1プレート部11との間隔は、図8(a)に示す厚みt1よりも小さく形成される。したがって固定クリップ10は、第1プレート部11と第2プレート部12との間隔が大きくなるよう弾性変形して図8(a)に示す建築部材Iを挟むことができる。固定クリップ10は、水平な構造部材Iの縁部を挟むことができる他、弾性変形の作用によって、垂直な構造部材や傾斜した構造部材の縁部を挟むことができる。
【0030】
第2プレート部12は、基端縁12sから先端縁12tに向かうほど第1プレート部11に近づくよう斜めに延びる。そして基端縁12sを含む箇所が弾性変形して、第2プレート部12は第1プレート部11から離れる方向に回動可能である。これにより図8(a)〜(e)に示すように、固定クリップ10は様々な厚みの建築部材Iを挟むことができる。即ち固定クリップ10の側方からみて第2プレート部12が傾斜して延びることから、第2プレート部12の先端縁12tと第1プレート部11との間隔が狭く設定される。したがって建築部材Iの厚みが小さい場合であっても、図8(a)〜(c)に示すように、建築部材Iの縁部を第1および第2プレート部11,12で挟むことができる。また建築部材Iの厚みが大きい場合であっても、第1プレート部11と第2プレート部12との間隔が大きくなるように弾性変形して、図8(d)〜(e)に示すように建築部材Iの縁部を第1および第2プレート部11,12で挟むことができる。このとき壁部15の上縁が建築部材Iの下面に当接する。また第1プレート部11の下面が建築部材Iの上面に接触する。
【0031】
第2プレート部12の側縁から壁部15の上縁までの立ち上がり高さは、図3および図4に示すように、第2プレート部12の先端縁12tから基端縁12sに向かうほど高くなり途中から低くなるよう、円弧状に膨出して形成される。つまり壁部15の上縁は、図3に矢で示すように、第2プレート部12よりも下方の点を中心とする半径Rの円弧である。これにより図8(a)〜(e)に示すように、第2プレート部12が基端縁12sを中心として下方に回動しても、第2プレート部12の先端縁12tと基端縁12sとの間に位置する一対の壁部15の中央領域が建築部材Iの下面に当接する。したがって、先端縁12tと基端縁12sとの間に位置する壁部15の中央領域が必ず頭部Hの平行な2辺と対向して、ボルトBを確実に回り止めすることができる。
【0032】
本実施形態の固定クリップ10は、各壁部15に附設された拡大壁部16をさらに備える。各拡大壁部16は、一対の壁部15のうち第2プレート部12の先端側の縁部にそれぞれ延設されて、第3プレート部13から離れる方向に延び、当該離れるほど図2に示すように間隔が大きくなるよう対をなす。これにより、頭部Hが第2プレート部12の先端側から近づいてくると、一対の拡大壁部16が頭部Hを捕捉し、一対の壁部15の間に頭部Hを送り込む。したがって本実施形態によれば、頭部Hを一対の壁部15の間に容易に設置することができる。
【0033】
図3および図4に示すように、各拡大壁部16の上縁は、各壁部15の上縁と連続しており、拡大壁部16および壁部15が共通する円弧状の縁を構成する。こうして拡大壁部16の立ち上がり高さは、先端側に向かうほど小さくされる。これにより図8(a)に示すように建築部材Iの厚みが特に小さい場合であっても、各拡大壁部16が建築部材Iの下面と当接せず、壁部15の中央領域が建築部材Iの下面と当接する。そして頭部Hの平行な2辺と対向して、頭部Hの回転を確実に規制することができる。
【0034】
固定クリップ10は、厚みt1〜t5といった様々な厚みの建築部材Iの縁部を挟むことができる。ここで付言すると第2プレート部12は先端縁12tに向かうほど第1プレート部11との間隔が小さくなる。このため、固定クリップ10を小さな厚みt1の建築部材Iに差し込む際、一対の壁部5と建築部材Iの下面と先端縁12tで区画される先端側開口が小さくなる虞がある。しかし本実施形態によれば図5に示すように、各拡大壁部16は壁部15に接続するが、第2プレート部12に接続しない。これにより、拡大壁部16を備えても先端側開口が小さくなることを回避して、頭部Hを受け入れ易くすることができる。
【0035】
固定クリップ10は、厚み一定の平坦な鋼板を打ち抜き、これを各箇所で曲げ加工して形成される。したがって、第1〜第3プレート部11〜13と、一対の壁部15と、一対の拡大壁部16は、それぞれ厚み一定の平板であり、板バネのように弾性変形が可能である。
【0036】
次に本発明の変形例を説明する。図9は本発明の変形例になる固定クリップを示す側面図であり、使用状態を表す。変形例において上述した実施形態と共通する構成は同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成について以下に説明する。変形例の固定クリップ20は、図9に示すように建築部材Iに取り付けられる。ただし、固定クリップ20の原形において、壁部15の上縁と第1プレート部11との間隔が建築部材Iの厚みt6よりも大きい。このため固定クリップ20は建築部材Iを挟むものではない。かかる変形例の場合であっても、第1プレート部11が建築部材Iに支持されることから、固定クリップ20の脱落を回避することができる。
【0037】
この他、図示はしなかったが、固定クリップ10,20の切り欠き14の幅寸法が、軸部S外周面に形成された雄ねじのねじ山における直径よりも大きな場合、ボルトBの軸部Sと固定クリップ10,20の切り欠き14が互いに係合しない。この場合であっても、 第2プレート部12で頭部Hを支持することが可能である。しかも一対の壁部15で頭部Hの回り止めを実現することができる。
【0038】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
この発明になる固定クリップは、鋼構造において有利に利用される。
【符号の説明】
【0040】
10 固定クリップ、 11 第1プレート部、 12 第2プレート部、 13 第3プレート部、 14 切り欠き、 15 一対の壁部、 16 一対の拡大壁部、 20 固定クリップ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9