(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鉄族金属の質量と、M2と鉄族金属との合金の質量との合計が、前記(イ)と前記(ロ)の合計質量100質量部に対して、0.005〜1質量部を占める請求項1または請求項2に記載の電気接点材料。
【背景技術】
【0002】
送配電や受配電網などの高圧大電流回路に使用する遮断器、断路器および開閉器等に用いる電気接点として、WとCuの複合材料や、WとAgの複合材料を用いた電気接点などが提案されている。
【0003】
大電流の開閉時には、開閉する二つの電気接点間にアーク(電弧)が生じる。
【0004】
接点の開閉により生じたアークが消弧するまでには、時間がかかる。このため、アークの両端に位置する接点部分は、消弧までの間、連続的に高熱にさらされる。この現象は、装置内をアークが消失しやすい雰囲気(例えばSF
6ガス中)で満たしても、容易には解決されない。
【0005】
接点材料は、良導体であることが好ましい。加えて、電気接点は、アークによって溶融・蒸発しにくい材料が用いられることが好ましい。しかし、単一素材を用いての前記問題の解決は難しい。そこで、良導体と高融点・高沸点の材料とを組み合わせたCu−W材料や、Ag−W材料がその用途に主に用いられている。
【0006】
例えば、Cu−W材料は、Cuマトリックス中にWが分散している構造ではなく、連続した開気孔を有するWのスケルトン中にCuが充填された構造を有する場合がある。この構造において、WはもちろんCuも連続している。WやMoがスケルトン構造を有していれば、融点の低いCuやAgが溶融しても、WやMoが脱粒しない(隣り合うWやMo粒子で保持された状態で残る)ので、接点材料の消耗は進行しにくい。これに対して、WやMoが、CuやAg中に分散した構造であれば、融点の低いCuやAgが溶融した際に、粒子状態のWやMoが脱粒して接点材料の消耗が進行しやすい。
【0007】
このように、電気接点の開閉によって生じるアークは、電気接点を大きく蒸発・消耗させることがあるので、寿命が十分でないという問題がある。
【0008】
そこで、多くの先行文献において、Cu−W材料を基本的な材料とした電気接点材料が示されている。このような電気接点材料は、Cu−W材料に、様々な物質を添加することによって得られる。
【0009】
特許文献1には、W基またはWC基合金、希土類元素または希土類酸化物などからなる耐アーク性導電材料が開示されている。特に希土類酸化物を含有した電気接点材料では、接点消耗量が大幅に低下することが記載されている。また、希土類酸化物の添加は、W基材料中のAgとの濡れ性を悪化させ、気孔を発生しやすくさせる。そこで、Fe、Co、Ni、Cuをさらに添加することによって、気孔を減少することが開示されている。
【0010】
特許文献2には、W、Moからなる第1成分と、銀(Ag)または銅(Cu)からなる第2成分と、ホウ化ストロンチウムやホウ化ランタンなどのホウ化物からなる第3成分とを含む電気接点材料が開示されている。また、前記電気接点材料の第2成分に、Cr、Fe、Rh、Ru、Irのいずれかを添加することによって、電気接点材料の特性を向上させ得ることが記載されている。
【0011】
上記の組成を有する材料を用いて電気接点を作製すれば、電気接点の消耗量、耐溶着性、および、接触抵抗を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態によれば、M1−M2の接点材料の基本構成(一例としてCu−Wが挙げられる)に加えて、鉄族金属(およびM2と鉄族金属の合金)と、M3のホウ酸化物とを含む電気接点材料が提供される。
【0025】
ここで、M1は、CuまたはAgのいずれか1種または2種およびそれらの合金を指す。M2は、WまたはMoのいずれか1種または2種およびそれらの合金を指す。M3は、Ca、Sr、Ba、Mg、希土類金属のいずれか1種または2種以上の金属を指す。また、前記鉄族金属とは、Fe、Co、Niのいずれか1種または2種以上の金属を指す。
【0026】
上記のM3のホウ酸化物(例えば、SrB
2O
4)は、その一部または全部が分解された状態で、接点材料中に存在していてもよい。また、上記のM3のホウ酸化物は、これに代替可能な複数の材料から構成されていても良い。本明細書では、これらの材料を「M3のホウ酸化物の構成物」と呼ぶことがある。「M3のホウ酸化物の構成物」は、M3の酸化物(例えば、SrO
2)および/または炭酸化物(例えば、SrCO
3)と、酸化ホウ素(例えば、B
2O
3)とを含む。本発明の実施形態による接点材料は、「M3のホウ酸化物」および「M3のホウ酸化物の構成物」のいずれかのみを含んでいても良いし、もちろん、両方を含んでいても良い。ただし、典型的には、M3のホウ酸化物を含む。
【0027】
以下、電気接点を有する開閉器を閉状態から開状態に変化させる過程について、主に
図2〜
図5を用いて説明する。
【0028】
図2は、開閉器と、この開閉器を内蔵する密閉容器5とを含む遮断器10の模式図である。
図2の上方において、先端に電気接点1を有する第1接点(遮断器部材)1Aが示されている。また、
図2の下方において、同じく電気接点1を有する第2接点1Bが示されている。第1接点1Aおよび第2接点1Bは、密閉容器5の中に収容されている。また、密封容器5は、SF
6ガス4によって満たされている。
【0029】
第1接点1Aおよび第2接点1Bは、それぞれ、先端でアークの開閉を行なう電気接点1、電気接点1を保持する良導体であるシャンク2、シャンク2と密閉容器外の回路を電気的に接続するリード3を有する。
【0030】
この開閉器にて大電流を遮断する(すなわち、接点を閉状態から開状態にする)と、第1接点1Aと第2接点1Bとの間にアークが発生する。アークの発生状態は直接の観察が難しい。そのために、発生時の詳細な挙動は不明である。しかし、その挙動は、使用後の第1接点1Aおよび第2接点1Bを観察することによって、推定することができる。
【0031】
図3(a)は、使用前の接点の模式図(断面図)を示す。また、
図3(b)、(c)、(d)は、使用後の接点の模式図(断面図)を示す。
【0032】
使用後においては、
図3(b)に示すように、接点が均一に消耗されることが好ましいが、実際には、
図3(c)および(d)に示すように、接点部分はアークによって全体に均一に消耗するとは限らない。
図3(c)および(d)に示す例では、対向する接点との距離が近い電気接点1の一部が極端に消耗している一方で、対向する接点との同等の距離や形状の部分でも、ほとんど消耗していない部分が存在する。消耗が激しい場合、
図3(d)に示すように、電気接点において、消耗部分6がシャンク2にまで達したり、多数のクラック7が生じることもある。このような消耗の不均衡が起る理由を、
図4(a)〜(d)を用いて説明する。
【0033】
図4(a)〜(d)は、電気接点材料として、Cu−Wの複合材料を用いた場合における、接点の表面近傍を示す断面図である。接点が開き、隙間が生じた瞬間からアーク12が発生し始める(
図4(a))。このとき、仕事関数の低い部分において最初にアークが発生しやすい。各組成の仕事関数は、低い順に、Ag、Cu(M1)<Mo、W(M2)であるので、最初のアークはCuやAgから生じやすい。また、接点は一般に表面に凹凸がないように滑らかな面として仕上げ加工されている。そのために、電気接点表面部11における最初のアークの発生箇所はランダムである。
【0034】
発生したアーク12により、CuやAgおよびその周りの箇所において、融点の低い材料は高温となることで蒸発し、融点の高いWやMoの一部のみが残存する(
図4(b))。このとき、電気接点表面部11において、消耗した部分6が存在する。電気接点の表面は、アーク発生前と比較して荒れている。そして、そこには主としてWやMoからなる凹凸表面が形成される。
【0035】
その次に発生するアークの発生点は、仕事関数が低い部分と、面が粗く先端が突出した部分のいずれかから選択される。
【0036】
最初のアーク発生の際には、前述のように接点表面は滑らかに仕上げられた表面であるので、アークの発生箇所はランダムである。しかし、電気接点表面は、一旦、最初のアークが起った後には、最初のアークにより蒸発消耗が起っているために、面に凹凸が生じている。電気接点表面の凹凸のうちの凸の部分において、次回のアークが極めて発生しやすい。これは、建物への落雷が、突出した避雷針に落ちる現象と同様である。アークの発生は、それ以前のアーク発生で蒸発・消耗した箇所から生じやすくなる(
図4(c))。そのために、電気接点は局所的な消耗がますます進行しやすくなる(
図4(d))。接点の寿命(使用回数やアークの発生回数)は、局所的な消耗が生じた結果、より低下しやすい。
【0037】
この現象を回避するには、凸部が発生した際にも、その次に発生するアークをその凸部以外の別の箇所に発生させればよい。そのためには、より仕事関数の低い箇所(典型的には、極端に仕事関数の低い箇所)を表面に多数設ければよい。
図5(a)〜(d)に、Cu−Wの複合材料中に仕事関数の低い粒子13が分散された構造の材料を示す。このような構造とすることで、最初にアーク12が発生した後(
図5(a)および(b))、次のアーク12は、電気接点の表面に多数設けられた仕事関数の低い部分から発生する(
図5(c)および(d))。よって、電気接点の表面全体に満遍なくアークの発生、蒸発・消耗が起り、長寿命となる。
【0038】
発明者らは、より仕事関数の低い物質として、Ca、Sr、Ba、Mg、希土類金属のいずれか1種または2種以上の金属のホウ酸化物を選択した。また、それらのホウ酸化物の一部または全部が、酸化ホウ素およびCa、Sr、Ba、Mg、希土類金属の酸化物または炭酸化物のいずれか1種または2種以上に分解しており、上述したホウ酸化物の構成物の形態を為していても良いことを発見した。
【0039】
ホウ酸化物の仕事関数は測定が困難であり、その数値自体を得ることは困難である。しかしながら、それらの仕事関数は、後述の実施例から推測できるように、従来技術に開示されているホウ素、ホウ酸、酸化物などよりも低いと推定される。
【0040】
電気接点材料を、(イ)5〜50質量部のM1(Ag、Cu)と、(ロ)50〜95質量部(=(イ)と合計して100質量部)のM2、鉄族金属、および/または、M2と鉄族金属の合金とを含むように構成した理由は、融点が高くアークによる蒸発・消耗が起りにくい(ロ)を50〜95質量部とすることで、アークにより広範囲が一度に消耗しないという特長を得るためである。また、(ロ)は融点が高いために、開閉時に対向する接点と溶着を起こさない。もし(ロ)が50質量部未満であれば、比較的低融点金属である(イ)の量が増える。そのために、電気接点はアークによる消耗が激しくなり、さらに、対向する接点と溶着しやすくなる。逆に(ロ)が95質量部を超える組成は、導電性が落ち、耐衝撃性が低下することからやはり望ましくない。
【0041】
なお、M2の量が例えば75〜95質量部と高い場合は、電気接点材料の焼結性および溶浸性が低下し、製造が困難となることがある。そこで、(ロ)に鉄族金属を追加することによって、この低下した焼結性および溶浸性を補うことができる。すなわち、組成に鉄族金属を加えることにより、M2のスケルトン構造の製造がより容易になる。
【0042】
鉄族金属の一部または全部は、M2金属と合金化して焼結性をより高める効果を示す。その一方で、鉄族金属および鉄族金属とM2との合金は、その電気伝導性が低い。そのため、鉄族金属および/または鉄族金属とM2との合金を一定量以上添加すると、接点の電気的特長に悪影響を及ぼすおそれがある。前記の利点が十分に現れ、かつ、電気的特性が低下しない範囲は、原料段階で例えば0.005〜1質量部程度である。
【0043】
(ハ)の添加の効果、種類選定についての理由は前述した。その量としては(イ)(ロ)の質量の合計を100質量部として、0.05〜8外部質量部がよい。(ハ)の量がこの範囲であれば、アーク発生時点で数多くの(ハ)粒子が接点表面に露出しており、そこがアーク発生の基点となりやすい。(ハ)の量が0.05外部質量部未満であると、接点表面に十分な数が常に露出せず、添加の効果は限られる。また、ホウ酸化物は一般に焼結や溶浸を阻害する働きがある。そのために、(ハ)が8外部質量部を超えると、十分に緻密な電気接点材料を得るのは困難である。電気接点材料が緻密でなく、表面や内部に気孔を有していると、その周辺がアークの発生点になりやすく、均一な消耗を阻害する。このことを防止することが、前記(ロ)に鉄族金属を加える目的の一つでもある。鉄族金属を含有させることによって、ホウ酸化物による焼結や溶浸の阻害を抑える効果が期待できる。
【0044】
図1は、本発明の実施形態による電気接点用材料の組織を示す模式図である。(イ)、(ロ)はそれぞれに連続した構造を有している(模式図では切れているように見えるが、3次元組織ではそれぞれ連続している)。また、(ロ)のスケルトン構造の隙間を(イ)が埋める構造を有している。さらに(イ)(ロ)の粒界部や、(イ)の粒子内を中心に(ハ)が分散した構造を有している。
【0045】
(ハ)は、一部または全部が分解して、酸化ホウ素(B
2O
3、B
2O
2、B
4O
3・2H
2O、B
4O
5)およびM3の酸化物(M3
2O
3、M3O
2)や炭酸化物(M3CO
3)の状態で存在していてもよい。
【0046】
前述のように、(ハ)のホウ酸化物は、ホウ酸化物そのままの形態で電気接点材料中に分散していることが、仕事関数の点からは最も望ましい。しかしながら、焼成や溶浸の工程中や、整形加工時の過熱などによって、その一部または全部が分解して酸化ホウ素およびM3酸化物、M3炭酸化物に分解する場合がある。
【0047】
分解により生成された酸化ホウ素およびM3酸化物(またはM3炭酸化物)は、M3ホウ酸化物ほどではないが、両方が一定量存在することにより、効果が得られる十分な程度に仕事関数を低くすることが可能である。したがって、M3酸化物、M3炭酸化物あるいは酸化ホウ素など(M3ホウ酸化物の構成物)を所定の量だけ含む場合も本発明の範囲内である。なお、M3ホウ酸化物の構成物は、M3ホウ酸化物の分解により生成されたものに限られず、原料として添加された酸化ホウ素およびM3酸化物(またはM3炭酸化物)であってもよい。
【0048】
M3のホウ酸化物は、一般に「M3
aB
bO
c」の形で表されるが、入手の容易性や化学的安定性の面から、前記式で「a=2、b=2、c=5」「a=1、b=2、c=4」のいずれか1種または両方を含むことが望ましい。前者としては例えばSr
2B
2O
5が挙げられ、後者としては例えばSrB
2O
4が挙げられる。
【0049】
以上に示した組成を持つ電気接点材料を電気接点として用いれば、電気特性の劣化を防止しながら、寿命を向上させることができるので、好適である。
【0050】
本発明の実施形態による電気接点材料および電気接点は、例えば、以下に説明する工程にて得ることができる。
【0051】
(1)M2スケルトン製造
M2スケルトンは、M2であるWまたはMoの粉末に、鉄族金属粉末とホウ酸化物粉末を混合したものから作製することができる。すなわち、Cu、Ag以外の電気接点材料の成分は、M2スケルトンを製造する段階で添加してよい。
【0052】
W粉末、Mo粉末としては、平均粒子径が、0.1〜100μm程度で純度が99%以上のものを選定することが好ましい。
【0053】
なお、本明細書において、「平均粒子径」は、レーザー解析法により求められる、d50平均粒子径(累積50%のメジアン径)を意味する。
【0054】
鉄族金属は、凝集が起らないように、できるだけ粒子径の細かいものを選定することが好ましい。使用に好適なものは平均粒子径が200μm以下のものであるが、100μm以下がより望ましい。
【0055】
この混合工程よりも前に、所望のホウ酸化物粉末を準備するが、ホウ酸化物粉末としては、例えば、市販されている粉末を用いることができる。
【0056】
あるいは、Ca、Sr、Baや希土類金属の酸化物および/または炭酸化物と、炭化ホウ素や炭酸ホウ素などのホウ素を有する物質とを混合し、酸化雰囲気中で熱処理を行なうことによって、Ca、Sr、Ba、希土類金属のホウ酸化物を得ることもできる。この際の酸素濃度や熱処理温度によって、形態の違う(前記a、b、cの数が異なる)ホウ酸化物が得られる。また、得られたホウ酸化物を酸化雰囲気などの非還元雰囲気中、アトライターなどで粉砕することにより、より粒子径の小さいホウ酸化物粉末を得ることもできる。
【0057】
得られたホウ酸化物粉末と、M2粉末および鉄族金属粉末と混合する。混合にはアトライターやブレンダー、ヘンシェルミキサー、ボールミル、らいかい機などを用いることができる。この混合に際し、W粉末やMo粉末は酸化しやすいので、メタノール雰囲気などの非酸化雰囲気中での処理を行うことが望ましい。鉄族金属粉末とホウ酸化物粉末とが均一に混合されるように十分に混合することが好ましい。
【0058】
ここで、(イ)(ロ)(ハ)以外の成分を故意に添加する場合は、前記ホウ酸化物の添加と同様の手順にて行なうことができる。すなわち、M2スケルトンの製造の際に粉末状態で添加する。添加できる成分は、例えば、酸化物やホウ化物、Cr、Ti、Zr、Taなどの金属である。これらの成分は付加的に含まれていても良いが、基本的に電気接点の性能を向上させる働きはないために、本説明では(イ)(ロ)(ハ)以外の成分を故意に添加する場合の説明は以後省略する。
【0059】
得られた混合粉末を、必要に応じて成形用バインダーを加えた上で、5〜150MPa程度で金型プレスまたは冷間静水圧プレス成形し、H
2雰囲気などの還元性の雰囲気にて900〜1600℃程度に加熱する。接触したM2の粒子同士がネッキングを開始した状態に至っていれば十分である。この時点で、M2粒子間の気孔は連続状態にあり、またハンドリングに十分な強度を持っている。こうしてM2のスケルトンが得られる。
【0060】
添加された鉄族金属は、WやMoとの合金を形成し、M2粒子のネッキングを助ける。これによって、緻密化を進め、スケルトン強度を増すことができる。一方、ホウ酸化物は、M2との濡れ性が極めて低く、M2粒子の軟化やネッキングを妨げる。このため、ホウ酸化物を添加すると、崩れやすく、ハンドリング性に問題があるM2スケルトンが生成されやすかった。このため、本発明の実施形態では、前述のように鉄族金属を添加することによって、ホウ酸化物を添加していても、ハンドリングやその後の製造処理に十分な強度のM2スケルトンが得られるようにしている。
【0061】
(2)M1のM2への溶浸
(1)で得られたM2スケルトンに、M1であるCu、Agを溶浸する。
【0062】
M1:Cu、Agの場合、M2スケルトンの連続気孔の径がある程度小さければ、M1の融点以上の温度では毛細管現象により溶浸を行なうことができる。
【0063】
溶浸は、セラミックスやカーボンなどの耐熱容器を用いて、溶浸に十分な量のM1の中にM2スケルトンを埋設し、その状態でH
2雰囲気などの還元雰囲気にてCuの融点である1084℃やAgの融点である962℃以上に加熱することによって行われてよい。毛細管現象によりM2スケルトンにM1が十分溶浸されれば、材料は完成する。このように、M1が溶融した状態でM2スケルトンと接する状態に設置することによって溶浸を行うことができる。
【0064】
得られた材料を所望の電気接点形状に加工することにより、本発明の電気接点材料を得ることができる。
【0065】
また、この材料から溶浸余剰のM1を取り除き、必要に応じて所望の形状に加工し、さらに必要に応じて台金金属と接合することにより本発明の電気接点を得ることができる。
【0066】
以下、本発明の電気接点材料の実施例を説明する。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
Wスケルトンを作製する原料として、平均粒子径が約4μmのWの粉末と、平均粒子径が約1μmのCoおよびSrのホウ酸化物の粉末を準備した。Srホウ酸化物としては、平均粒子径が約5μmの市販のSrB
2O
4(ホウ酸ストロンチウム)粉末を使用した。
【0068】
これらの粉末を、ヘンシェルミキサーにて30分間混合し、混合粉末を得た。
【0069】
次に、混合粉末に対して50MPaの圧力にて金型プレスを行い、直方体の成形体を得た。
【0070】
酸化物耐熱容器に成形体が十分収まる凹状部の部位を設け、その中に成形体を設置し、H
2雰囲気1150℃にて60分間焼結を行ない、理論密度比で約65%のスケルトン(気孔が約35%)を得た。
【0071】
このスケルトン上に、溶浸に十分な量の板状のCuを設置し、この状態でH
2雰囲気、1100℃にて20分間溶浸を行い、本発明の実施例の電気接点材料を得た。
【0072】
得られた電気接点材料において、(イ)のCuが20.0質量部を占め、(ロ)のWが79.9質量部、Coが0.1質量部を占め、(イ)と(ロ)の合計で100質量部であった。これに加えて、(ハ)として1.0外部質量部のSrB
2O
4が含まれていた。(ロ)については、CoとWが一部合金化していた。
【0073】
得られた材料から溶浸しきれなかった余分なCuを取り除いて直方体状とし、さらにフライス盤にて切削加工を行なうことによって、
図3(a)に示すような直方体の一つの面の4角部の周りが滑らかな孤の形状となるように面取りされた電気接点が得られた。
【0074】
次に、電気接点1を、銅のシャンク2に鋳包み固着(internal chill casting)して、シャンク2の先端に接合した。その後にシャンク2を鍛造にて硬化処理した。
【0075】
以上の手順にて、試料1として、本発明の実施例の電気接点を有する遮断器部材を得た。この遮断器部材の2つを、
図2に示すように電気接点部を対向させて、電気の正極および負極をリード3を介してそれぞれの端点につないだ。両遮断器部材を高圧のSF
6ガス4が封入された密閉容器中5に固定して、遮断器をつないだ状態(電流が流れる状態)とした。印加した電流は2500アンペア、電圧は230ボルトである。対向した面に対する垂直方向において規定される電気接点の厚さは5mmである。この試料を試料1とする。
【0076】
この状態で、密閉容器中の遮断基部材の操作機構を作動させることにより、電流の遮断および開閉を10回繰り返す試験を行った。
【0077】
試験後に通電を止め、SF
6ガスを排気した後に、遮断器部材を取り出し、接点部分の調査を行なった。
【0078】
外観を観察したところ、
図3(b)に示すように、開閉した電気接点1同士の対向する面の全面において、なだらかな消耗が発生していた。測定の結果、電気接点1の消耗量は2.63mm
3であった。
【0079】
また、試料2の実施例は、試料1と他の条件は同じで、(ハ)がSrB
2O
4、B
2O
3およびSrO
2を含むように構成されている実施例である。SrB
2O
4は市販されているが、純度が高いものは高価である。そこで、安価であるB
2O
3およびSrO
2の粉末を購入し、両者を混合した状態で酸化雰囲気にて熱処理して同等のものを得ることを考えた。熱処理後に得られた粉末は、完全なSrB
2O
4となっておらずに、分析の結果B
2O
3およびSrO
2がそれぞれ10質量%ずつ残る混合物であった。試料2は、この混合物を市販のSrB
2O
4の代りに用いた試料である。
【0080】
この試料2についても試料1と同様の試験を行ったが、接点の表面において全面的になだらかな消耗が起っており、消耗量は2.66mm
3であった。
【0081】
(実施例2)
次に、下記の表1〜3に示すように、電気接点材料のみを変更して、実施例1と同様の試験を行った。試料3〜50は本発明の実施例にかかる試料、比較試料101〜132は本発明の範囲外の比較試料である。(ロ)については、M2と鉄族金属との一部または全部が合金化しているが、どのような形態で最終的に存在するかは観察するのが困難であるために、原料投入時点での質量分率を記載した。最終生成物としては、M2(単体)、鉄族金属、M2と鉄族金属の合金、のいずれかの形態で(ロ)としての相を形成している。
【0082】
また、M1と鉄族金属との間で若干の反応が起こり、例えばCu−Coの合金を作ることがわかっているが、(イ)(ロ)の界面を中心に限られた領域でのみ合金化すると考えられるために、最終生成物のこれらの合金の形態については考慮していない。
【0083】
それぞれの試料について、まずは比較試料から説明する。
【0084】
表3に示す比較試料101は、従来から多用されているCu−Wのみからなる電気接点材料である。比較試料101は、Wスケルトン中にCuが充填された構造を持つ。
【0085】
比較試料111〜114は、Cu−Wにホウ化物(例えば、ホウ化ストロンチウム)や希土類金属酸化物を加えることによって作製された従来の電気接点材料である。
【0086】
また、比較試料115、116は、Cu−Wに、鉄族金属と、Y、Laの酸化物とを加えた、またはさらに鉄族金属を加えた電気接点材料である。
【0087】
次に本発明の実施例について説明する。
【0088】
試料3〜7は、試料1の(イ)であるCuと、(ロ)であるW(またはMo)との配合比をそれぞれ変更したものである。また、試料8は、試料5のCuに替えてAgを用いた例である。なお、比較試料102は、(イ)(ロ)の質量比が本発明の範囲外である。試料6は、M2としてMoを用いた例である。
【0089】
試料21〜試料26は、(イ)(ロ)について優れた性能を示した試料5において、(ハ)の分量(外部質量部)を様々に変更した試料である。なお、本発明の範囲外の(ハ)の分量とした比較試料は、比較試料131、132とした。
【0090】
表2に示す試料31〜試料34は、(ハ)として最も優れた性能を示した試料23をもとに、(ハ)の種類を変えて試験を行った。また、(ロ)に含まれる鉄族金属(Fe、Co、Ni)の種類を適宜選択している。
【0091】
試料41〜試料44は、試料23で用いたSrB
2O
4の一部または全部を、SrO
2と、B
2O
3またはSrCO
3とで置換した試料とした。なお、試料41では、(ハ)のうち10質量%ずつのSrO
2およびB
2O
3で置換し、試料42ではそれぞれ25質量%ずつのSrO
2およびB
2O
3で置換し、試料43では全てのSrB
2O
4を50質量%ずつのSrO
2およびB
2O
3で置換した。試料44では、全てのSrB
2O
4を50質量%ずつのB
2O
3とSrCO
3で置換した。なお、ホウ酸化物以外の成分は、表2〜3中の「その他」の欄に記載した。
【0092】
試料45〜49は、試料31の組成中の(ロ)に含まれる鉄族金属の量や種類を変更した試料である。試料31の(ロ)は、W69.9質量部+Co0.1質量部であるが、この組成をWを69.0〜69.995質量部の範囲で変化させ、鉄族金属を0.005〜1.0質量部の範囲で変化させた。なお、試料48は、鉄族金属としてNiを用いた例であり、試料48は、鉄族金属としてCoとNiとの両方を用いた例である。また、試料50は、W68.0質量部+Co2.0質量部の例である。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
電極材消耗量の評価は、電気接点部分を3次元形状測定器で測定することによって行った。使用前の体積から使用後の体積の値を引き、消耗量(mm
3)を求めた。
【0097】
また、全体的に均一に消耗しているかどうかの評価を併せて行なった。この評価は、
図3(c)、(d)に示すような局所的な消耗が起っているかを目視にて判断することによって行った。局所的に消耗した試料にはXを、
図3(b)のように接点が対向した面が均一に消耗している試料にはAを付与した。結果を表4〜表6に示す。
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
【表6】
【0101】
試料3〜試料7および比較試料102の結果は、大電流を遮断するには、(イ)(ロ)の比として、(イ)Cuが5〜50質量部、(ロ)Wが50〜90質量部が良好であること示している。比較試料102は、溶着や銅製のシャンク部分までの消耗やクラックの到達はなかったが、試料1、2と比較すると消耗が大きかった。比較試料102よりも(イ)を増やすと、さらに消耗量が増え、使用が難しいことは明白であった。
【0102】
消耗やクラックの発生において、特に優れていたのは(イ)が30質量部、(ロ)が70質量部の試料であった。
【0103】
試料3は、(ロ)であるWの質量割合が最も多い試料であるが、試験後の表面には多くのクラックが観察された。Wは融点が高い一方で、脆い金属であり、延性が低い。脆いWの割合が高い組成であると、Wからなるスケルトンの構造が緊密で変形しにくい構造となる。そのスケルトン中にCuを溶浸しても延性の向上はできない。そのために、アークの衝撃でスケルトンにクラックが発生しやすく、また発生したクラックが伝播しやすい。結果として、これよりもWの質量割合を高くした組成では、アークによりクラックが発生しやすく、そのクラックから電気接点が欠損しやすくなり、使用に耐えにくいと判断できる。
【0104】
試料8は、試料5のCuに代えてAgを用いた例である。M1としてAgを使用した試料の方が、同じくCuを使用した試料と比較してさらに消耗は少なかった。
【0105】
比較試料101は、CuとWのみからなる、従来の電気接点材料である。
【0106】
試料21〜試料26および比較試料131、132は、(イ)(ロ)について優れた特性を示した試料5の比率を採用するとともに、(ハ)の分量(外部質量部)を様々に変更したものである。
【0107】
(ハ)の配合割合を変えて試験した試料21〜試料26および比較試料131、132について、最も消耗が小さい試料は(ハ)であるSrB
2O
4が1.0外部質量部の試料23であった。最も(ハ)の量が少ない比較試料131では、添加の効果がほとんど見られず、比較試料101とほぼ同様の消耗であった。
【0108】
(ハ)の添加量を0.05外部質量部とした試料21からは添加の効果が明確に見られ、アークによる消耗は電気接点が対向する面ほぼ全部に亘りなだらかに起っていた。この効果は、1.0外部質量部まで、添加量の増加とともにその特性を示すが、8質量部を超えた比較試料132については、焼結性が著しく劣化しており、製造が困難であった。
【0109】
試料31〜試料34は、(ハ)として特に優れた性能を示した試料23をもとに、(ハ)の種類を変えた試験を行った。(ハ)として用いたホウ酸化物は、それぞれ、LaBO
3、BaB
2O
4、Mg
3(BO
3)
2、CaB
2O
4である。
【0110】
これらはいずれも添加することにより、Cu−W材料や従来の技術よりも顕著な電気接点の消耗を低く抑えることができ、クラックの発生も同じく改善されている。
【0111】
試料41〜44は、(ハ)のホウ酸化物の一部または全部を、酸化ホウ素と、M3酸化物(M3
2O
3、M3O
2)またはM3の炭酸化物(M3CO
3)のいずれかに置換した試料である。いずれの試料も(ハ)がホウ酸化物である場合とほぼ同様の消耗であり、優れた特性を示した。
【0112】
試料45〜49および試料50は、(ロ)の総量は変えずに、(ロ)に含まれる鉄族金属の量や種類を変更した試料である。試験結果から、鉄族金属の量が(イ)(ロ)の合計100質量部に対して0.005〜1.0質量部の範囲で特に良好であることが確認された。この範囲内であれば、焼結や溶浸が特に良好であった。また、アークによって蒸発しやすい鉄族金属の量が好適であるので、より鉄族金属の量が多い場合(試料50)に比べて、アークに対する電極接点の消耗を、より十分に少なくすることができた。なお、M2と鉄族金属との合金が形成される場合には、鉄族金属の量と、M2と鉄族金属との合金の量との合計が、(イ)(ロ)の合計100質量部において0.005〜1.0質量部の範囲内に設定されていることが好ましい。
【0113】
(実施例3)
実施例2に示した試料41の電気接点材料を、
図6に示すような棒材とカップ材の形状の組合せから構成される、アークが多点から発生する構造の電気接点1に使用した。
【0114】
実施例3の遮断器10においても、密閉容器5内に配置される電気接点1およびシャンク2の形状などは異なっているが、
図2に示した遮断器10と同様に、電気接点材料の消耗を好適に制御することができた。なお、
図6に示す遮断器10では、断面U字型(いわゆる、チューリップ型)の遮断器部材(図の右側)には、電極を押し引きする機構8が接続されている。
【0115】
このような形態を有する遮断器においても、本発明の実施形態による電気接点1は好適に利用される。