(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るインバータ装置100が採用されたインバータ発電機の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、このインバータ発電機は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等のエンジン(原動機)11と、エンジン11の回転によりU相、V相、W相の3相交流の誘起電圧を発生する同期モータ13と、エンジン11の出力軸と同期モータ13の回転軸を結合するカップリング12と、を備えている。
【0017】
更に、同期モータ13に接続され該同期モータ13より出力されるU相、V相、W相の各誘起電圧をPN直流電圧に変換するコンバータ14と、該コンバータ14より出力されるPN直流電圧からR相、N相、T相の単相3線式の交流電圧、またはR相、S相、T相の3相交流電圧を生成するインバータ装置100と、コンバータ14とインバータ装置100とを接続するPN結線の間に介置される主回路コンデンサ19と、を備えている。
【0018】
そして、インバータ装置100の出力は、遮断機17を介して誘導電動機等の負荷18に接続されている。なお、
図1では、一つの遮断機17及び一つの負荷18のみを記載しているが、実際には、LCフィルタ16の後段側に、複数の遮断機及び負荷が設けられる場合が多い。また、同期モータ13として、例えば回転子に永久磁石を使用したPMモータを用いることができる。
【0019】
本実施形態では、R相、N相、T相の単相3線式の交流電圧を生成するインバータ装置を一例に説明する。
【0020】
インバータ装置100は、スイッチング回路15と、該スイッチング回路15にて生じるスイッチングノイズを軽減するためのLCフィルタ16と、該インバータ装置100のR相、N相、及びT相の各線間電圧を測定する電圧センサ31,32,33(電圧測定手段)と、スイッチング回路15を制御する制御部34(制御手段)と、を備えている。電圧センサ31は、R相とN相との間の線間電圧(以下、「RN電圧」という)を測定し、電圧センサ32は、T相とN相との間の線間電圧(以下、「TN電圧」という)を測定し、電圧センサ33は、R相とT相との間の電圧を測定する。なお、
図1に示すインバータ装置100は、単相3線式の場合を例に挙げており、N相は接地相である。
【0021】
また、エンジン11には、該エンジン11の回転を制御するECU(Engine Control Unit)20が接続されている。
【0022】
コンバータ14は、半導体素子であるトランジスタ、IGBT、或いはMOSFET等のスイッチング素子、及びダイオードを複数個備え、各スイッチング素子をスイッチング動作させることにより、U相、V相、W相の3相交流電圧をPN直流電圧に変換する。更に、該コンバータ14は、負荷18に出力する電力に応じて、同期モータ13に適宜電流を流すことにより、エンジン11の回転数を頻繁に変化させることなく、所望の電力を発生させるようにしている。つまり、コンバータ14は、通常の整流器とは異なり、同期モータ13より出力される3相交流電圧から所望の大きさのPN直流電圧を生成すると共に、負荷に出力する電力に応じて同期モータ13に電流を流すことにより、負荷変動に応じた安定した電力を発生させている。
【0023】
主回路コンデンサ19は、PN直流電圧を平滑化し、且つ、スイッチング回路15が大電力を出力する際の電力を蓄積する機能を有する。
【0024】
インバータ装置100に設けられるスイッチング回路15は、上述のコンバータ14と同様に、半導体素子であるトランジスタ、IGBT、MOSFET等のスイッチング素子、及びダイオードを複数備え、各スイッチング素子をスイッチング動作させることによりR相、N相、T相の単相3線式の交流電圧を生成する。即ち、直流電力を交流電力に変換する。また、各スイッチング素子のスイッチングのパターンにより、インバータ装置100の出力電圧及び出力周波数を任意の値に設定することができる。
【0025】
次に、インバータ装置100に設けられる制御部34の詳細な構成について説明する。
図2は、制御部34の詳細な構成を示すブロック図である。
図2に示すように、制御部34は、スイッチング回路15から出力させる電圧の指令値(電圧指令値;例えば、100V)を生成して出力する電圧指令値出力部41(電圧指令値出力手段)と、周波数指令値(例えば、50Hz)を出力する周波数指令出力部42と、該周波数指令出力部42より出力される周波数指令値に基づいて、0〜360度の電気角を生成する電気角生成部43と、を備えている。
【0026】
更に、R相電圧指示値を生成するための構成要素として、実効値変換部47と、フーリエ変換部48(周波数解析手段)と、電圧補正値計算部49(補正信号生成手段)と、補償回路45と、電圧計算部46、及び減算器44,50を備えている。なお、T相電圧指示値を生成するための構成要素は、上記のR相電圧指示値を生成するための構成要素と同一であり、各符号にサフィックス「a」を付して示している。以下、R相電圧指示値を生成するための構成要素について説明する。
【0027】
実効値変換部47は、電気角生成部43より出力される電気角データに基づいて電圧センサ31にて検出されたRN電圧(フィードバック値)を実効値に変換し、この実効値データを減算器44に出力する。減算器44は、電圧指令値と、RN電圧のフィードバック値との偏差を算出し、この偏差データを補償回路45に出力する。
【0028】
フーリエ変換部48は、電気角データに基づいてRN電圧をフーリエ変換(周波数解析)し、得られた周波数データを電圧補正値計算部49に出力する。
【0029】
電圧補正値計算部49は、フーリエ変換部48より出力される周波数データ、及び電気角生成部43より出力される電気角データに基づいて、電圧補正係数を計算し、求めた電圧補正係数を減算器50に出力する。該電圧補正値計算部49では、フーリエ変化の結果として、高調波成分(交流電力の周波数に対して、3倍、5倍等の周波数成分)が存在する場合に、この高調波成分を相殺するための電圧補正係数を算出して、減算器50に出力する。電圧補正係数の詳細な演算方法については、後述する。
【0030】
補償回路45は、減算器44で求められる偏差がゼロとなるように、電圧指令値を補償する。
【0031】
図3は、補償回路45の詳細な構成を示すブロック図である。図示のように、該補償回路45は、符号検出部61と、増分ゲインKaを乗じる乗算器62と、積分器63と、該積分器63に初期値を与える初期電圧出力部64と、を備えている。
【0032】
符号検出部61は、減算器44(
図2参照)にて演算される偏差データが与えられた際には、この偏差の符号がプラスであるか、マイナスであるか、或いはゼロであるかを判断する。そして、プラスの場合にはその大きさに拘わらず出力を「1」とし、マイナスの場合にはその大きさに拘わらず「−1」とし、ゼロの場合には、そのまま出力をゼロとする。
【0033】
乗算器62は、符号検出部61より出力される符号データに、増分ゲインKaを乗じる。積分器63は、乗算器62の出力データを積分し、更に、初期電圧出力部64より出力される初期電圧を加算する演算を行う。そして、この演算結果を、補正した電圧指令値として出力する。ここで、初期電圧は、積分器63の初期値であり、例えば、電圧指令値に相当する電圧を用いたり、或いは、予め予想される電圧出力に近くなる指示値を用いることができる。
【0034】
補償回路45を用いることによる利点は、
図2に示す減算器44より出力される偏差が「0」を超えた場合(指令電圧に対して出力電圧が小さい場合)には、瞬時に符号検出部61の出力が「1」となり、電圧出力を増大することができるために、偏差ゼロ付近でプラス、マイナスの電圧出力を維持できることである。つまり、電圧フィードバックの即応性を向上させることができる。通常の比例積分方式(PI制御)を用いた場合には、少なからずオーバーシュートやアンダーシュートの可能性があり、電圧制御が発振する可能性がある。しかし、この補償回路45の方式を用いれば、増分ゲインKaを適切に設定することにより、発振することを防止できる。その一方で、偏差が大きい場合でも小さい場合でも、電圧指令値の変化は同一となるため(「1」、または「−1」で一定のため)、偏差が大きい場合には応答性が遅くなる。これについては、仕様に合わせて、個々の制御パターンに応じた適当な増分ゲインKaを設定すれば良い。
【0035】
そして、電圧計算部46は、補償回路45で求められた電圧出力に基づいて、電圧指示値を計算し、減算器50に出力する。
【0036】
次に、
図2に示した電気角生成部43の詳細な構成を、
図4に示すブロック図を参照して説明する。該電気角生成部43は、周波数指示値(例えば、50Hz)に対して、電気角カウント用のクロック周期を計算するクロック周期計算部71と、該クロック周期計算部71で計算された周期に基づいて、クロック信号を生成するクロック生成部72と、電気角テーブル用カウンタ73と、電気角テーブル74と、を有している。
【0037】
クロック周期計算部71は、下記(1)式に基づいて、クロック周期(カウント値)を演算する。
【0038】
クロック周期(カウント値)=基本クロック/4096/周波数[Hz] …(1)
つまり、基本クロックがN[カウント/秒]である場合で、出力電力の周波数が50[Hz]である場合には、出力電力の1周期分のカウント値は、N/50[カウント]となる。更に、この1周期を4096等分する。従って、N/(50×4096)をクロック周期とし、0〜4095を1周期とすることができる。
【0039】
そして、クロック生成部72は、上記(1)式で求められたクロック周期(カウント値)のカウントアップで1クロックを生成し、このクロック信号(N/(50×4096))を電気角テーブル用カウンタ73に出力する。電気角テーブル用カウンタ73は、クロック生成部72で生成されたクロック信号を用いて0〜4095の範囲でカウントし、このカウント値を、電気角テーブル74に出力する。また、カウントアップした場合(0〜4095まで繰り返された場合)には、カウントアップ信号を出力する。なお、本実施形態では、一例として1周期を4096等分する例について説明するが、電圧補正の精度に応じて適宜設定することができる。
【0040】
電気角テーブル74には、電気角テーブル用カウンタ73によるカウント値に応じた正弦波(sinθ)、余弦波(cosθ)、及びこれらの高調波成分(sin3θ,sin5θ・・、cos3θ,cos5θ・・)に対する数値(−1〜0〜+1の数値で、これを電気角とする)が記憶されている。例えば、カウント値が「1023」である場合は、1/4周期を示すので、電気角テーブルの「sinθ」に対応する電気角として、sin90°=1が記憶されている。
【0041】
更に、単相三線式である場合には、R相に対してT相は位相が180°ずれるので、sin(θ+180°)のデータを出力する。また、三相三線式である場合には、R相に対して位相が120°進むS相、及びR相に対して位相が120°遅れるT相が存在するので、sin(θ+120°)、及びsin(θ−120°)のデータを出力する。
【0042】
そして、電気角テーブル74より出力される各電気角データは、
図1に示す電圧計算部46、実効値変換部47、フーリエ変換部48、及び電圧補正値計算部49に出力される。
【0043】
次に、インバータ装置100の電圧出力に生じる高調波を抑制する回路について説明する。高調波は、電圧出力のPWMのデッドタイムや、接続する負荷の相違(抵抗、インダクタンス、静電容量等)により発生の状態は異なる。また、負荷にインバータ等が接続されている場合や、負荷の大きさによっても高調波の大きさは異なる。従って、常時動作するような補正が必要である。本実施形態では、フーリエ変換部48、及び電圧補正値計算部49を設けることにより、高調波を抑制するための補正指令を出力する。
【0044】
図5は、フーリエ変換部48の、一部の構成を示すブロック図であり、「cos3θ」についての係数A3を求める演算部481の構成を示している。フーリエ変換部48では、交流電圧の周波数に対する各次数の高調波成分の信号についてのフーリエ変換を実行する。フーリエ変換の演算式を示すと、一般に、周期関数f(x)をフーリエ変換すると、下記(2)式に示す通りとなる。また、(2)式に示す各項の係数An、Bn(n=1,2,3,…)は、(3)式、(4)式で求めることができる。
【数1】
【0045】
そして、フーリエ変換部48は、「cos3θ」以外に、cosθ、cos5θ、cos7θ、・・・、及びsinθ、sin3θ、sin5θ、sin7θ、・・・の各項に対して係数を演算するために、それぞれ
図5に示す如くの演算部を備えている。
【0046】
図5に示すように、演算部481は、乗算器81と、積分器82、及び係数演算部83を備えている。乗算器81は、RN電圧のフィードバック値に対し、「cos3θ」の係数を乗算する。積分器82は、予め設定したサンプリング時間毎に、乗算器81で求められた係数を加算し、積分値を求める。係数演算部83は、積分器82で演算される積分値から、1周期分の積分値を取得し、カウントアップ信号によりこれをラッチする。そして、「cos3θ」の係数「A3」として出力する。また、カウントアップ信号(電気角の1周期の区切りを示す信号)が与えられた場合には、積分器82の積分値はクリアされる。
【0047】
そして、上記の処理を他の次数(他の周波数)についても同様に実行することにより、「cos5x」の係数A5、「cos7x」の係数A7、・・、及び「sin3x」の係数B3、・・・を算出する。係数演算部83では、積分回数で除して係数を求める。なお、最終的に係数を0にすることが目的であるので、積分回数で除する演算を割愛し、積分値をそのまま係数として扱っても問題はない。
【0048】
ここで、スイッチング回路15より出力される正弦波に、高調波成分が含まれていない場合、即ち、正弦波に歪みが生じていない場合には、高調波成分A3、A5、・・・、B3、B5、・・は、全てゼロとなる。
【0049】
次に、電圧補正値計算部49の詳細な構成について、
図6,
図7を参照して説明する。
図6は、電圧補正値計算部49の、「cos3θ」の補正係数を算出する演算部491の構成を示すブロック図である。
図6に示すように、演算部491は、係数の符号を検出する符号検出部91と、予め設定した補正ゲインKbを乗じる乗算器92と、積分演算を行う積分器93と、を備えている。
【0050】
符号検出部91は、「cos3θ」の係数「A3」(前述の
図5で示したA3)が与えられた際に、この係数A3の符号を判定して出力する。乗算器92は、符号検出部91の出力データに対して、補正ゲインKbを乗じ、この乗算結果のデータを積分器93に出力する。積分器93は、この出力データを「cos3θ」の補正計数値とする。補正ゲインKbは、補正の即応性を決めるためのものであり、適度な数値により適度な速度で振動的にならないような値を設定する。そして、
図6に示す演算部491は、各係数毎にそれぞれ設けられ、cos3θ、cos5θ・・・、sin3θ、sin5θ・・についてのそれぞれの補正係数が演算される。
【0051】
図7は、電圧補正値計算部49の、各次数にて算出された補正係数を加算して補正電圧を求める構成を示すブロック図である。上述した
図6に示したように、各次数に対して補正係数が求められると、
図4に示した電気角テーブル74に設定されている各次数毎の電気角データ94に、各補正係数を乗算する。更に、加算器95にて各次数毎の乗算結果を加算して、補正電圧とする。そして、この補正電圧を、
図2に示した減算器50に出力する。
【0052】
ここで、
図2に示すように、各相(R、N、T)の電圧補正値の先述の実効値による電圧制御による電圧計算値より減算、結果を各相の相電圧の指示値とする。即ち、上記では、R相についての電圧指示値の算出手順について説明したが、T相についても同様に実施することができる。また、N相に対しては補正はかけない。即ち、R相についての電圧計算部46より出力される電圧指示値と、T相についての電圧計算部46aより出力される電圧指示値とを加算器51(
図2参照)にて加算し、更に、演算器52で「−1/2」を乗じてN相の電圧指示値とする。
【0053】
上述のようにな構成により、電圧波形に生じる高調波成分を除去するための、電圧補正が可能となる。制御の流れとしては、各相(R相、T相)のフィードバック信号をフーリエ変換したデータの、各次数の係数をゼロに近づけることが、即ち、各線間電圧の高調波成分をゼロに近づけ、波形に生じる歪みを回避できるという理論に基づいている。但し、計算量や高調波の成分の大きさにより次数を少なく絞って制御することも可能である。
【0054】
更に、上述のような高調波の抑制方法において、許容範囲を超えるリアクタンス成分を有する負荷18(主として、大きな静電容量を持つ負荷)がインバータ装置100(
図1参照)に接続された場合には、このリアクタンス成分により、電流に対して電圧の位相が大幅に遅れる場合があり、このような場合には、上述の制御が発散してしまう。即ち、ある次数において、係数が一定値に収束しない場合があり、このような場合には、電圧補正値を安定的に求めることができず、高調波成分を補正するための制御ができなくなる。
【0055】
以下、
図8に示す回路図を参照してその理由について説明する。
図8(a)は、
図1に示したLCフィルタ16、及び負荷18の等価回路図である。
【0056】
図1に示したように、スイッチング回路15の後段側には、該スイッチング回路15より出力されるPWM波形を平滑化して正弦波とするために、LCフィルタ16が設けている。そして、該LCフィルタ16は、コンデンサC1を備えている。更に、負荷18として容量性の負荷(例えば、パソコン等)が接続される場合には、コンデンサC2が設けられるので、これらによる容量性負荷が増大し、各電圧センサ31〜33で検出される電圧が電流に対して大きな位相ずれを生じることになる。従って、この電圧値をフィードバック信号として用いると、位相ずれが存在することにより、制御ループが不安定となる場合がある。
【0057】
即ち、
図8(b)に示すように、電圧信号P1が、電流P2に対して位相が遅れることにより、安定した制御が行われず、場合によっては制御が発散してしまう可能性がある。そこで、本実施形態では、予め設定した所定時間内にて、補正後の電圧信号のフーリエ変換値が予め設定した閾値未満に収束しない場合は、その次数となる高調波信号の補正を停止するという自己診断機能を搭載している。つまり、制御が不能となる次数については、制御を停止することにより、発散することを防止し、制御が可能な次数についてのみ、電圧補正値を生成してスイッチング回路15を制御する。
【0058】
具体的には、前述したcos3θ、・・・、sin3θ、・・についての各係数A3、A5、・・・、B3、B5、・・・を算出する際に、係数の演算結果が収束せずに発散する場合には、この次数の高調波に対して補正することができない。この場合には、発散した次数の高調波のみについて制御を停止し、それ以外の収束する高調波についてのみ係数を演算することにより、電圧補正値を算出する。つまり、
図7に示した各高調波の補正係数のうち、例えば、sin7θ及びcos7θの補正係数が発散する場合には、sin3θ、sin5θ、cos3θ、cos5θの補正係数のみを用いて補正電圧を演算する。そもそも、制御ができないくらいの容量が接続された場合には、高調波もフィルタがかかって減衰する傾向となるため、敢えて制御を行う必要がないという考え方も前提にある。
【0059】
次に、
図9に示すフローチャートを参照して、本実施形態に係るインバータ装置の処理手順について説明する。この処理は、
図2に示した電圧補正値計算部49の演算により実行される。また、この処理は奇数倍の次数の係数(即ち、A1,A3,A5,・・・、B1,B3,B5・・・)についてそれぞれ実行される。なお、ここでは、高調波の影響は、奇数倍の周波数成分が多くの割合を占めるので、奇数倍の次数を用いている。勿論、偶数倍の次数の周波数を含めて演算しても良い。
【0060】
初めに、ステップS11において、電圧補正値計算部49は、係数の絶対値が予め設定した閾値よりも小さいか否かを判定する。即ち、各次数の係数(即ち、A1,A3,A5,・・・、B1,B3,B5・・・)と閾値とを比較する。そして、係数絶対値の方が小さい場合(閾値未満の場合)には(ステップS11でYES)、この係数は収束すると推定されるので、ステップS12において、該当する係数の加算を実施する。例えば、係数A3、A5、B3、B5については閾値よりも小さく、係数A7、A9、・・・、及びB7,B9・・・については、閾値よりも大きい場合には、係数A3、A5、B3、B5についての補正係数の加算を実施する。具体的には、係数A3、A5、B3、B5について、
図6に示した処理にて補正係数を求め、更に、
図7に示すように、補正電圧を演算する。その後、ステップS13において、時間計測をクリアする。
【0061】
一方、係数絶対値が閾値以上である場合には(ステップS11でNO)、ステップS14において、計測時間を積算する。ステップS15において、電圧補正値計算部49は、計測時間が予め設定した閾値時間に達したか否かを判断する。そして、達していない場合には(ステップS15でNO)、ステップS16において、該当する係数の加算を実施する。その後、ステップS11に処理を戻す。
【0062】
また、閾値時間に達している場合には(ステップS15でYES)、ステップS17において、該当する係数の加算を実施しない。例えば、係数A7、A9、・・・、及びB7,B9・・・について、計測時間が閾値時間に達しており、且つ、係数の絶対値が閾値よりも大きい場合には、この係数は一定値に収束せず、発散するものと判断できるので、該当する係数を加算しない。
【0063】
その後、ステップS18において、電圧補正値計算部49は、インバータ装置100に接続される負荷が、予め設定した閾値負荷未満であるか否かを判断し、閾値負荷未満である場合には(ステップS18でYES)、ステップS19において、該当する補正係数の加算を実施し、ステップS11に処理を戻す。つまり、インバータ装置100に接続される負荷の状況が変化し、係数が発散する要因が除去された場合(ブレーカがオフとされた場合等)には、該当する係数の加算を実施する。その後、ステップS11に処理を戻す。
【0064】
上記の処理により、各次数の係数A3,A5,A7,・・・、及び係数B3,B5,B7,・・・のうち、一定値に収束すると推定される係数(例えば、A3、A5、B3、B5)については、加算処理を実行し、収束しないと推定される係数については、加算を実施しない。こうすることにより、安定的に電圧補正値を求めることができ、電圧信号に重畳する高周波成分を効果的に除去することが可能となる。
【0065】
このようにして、本実施形態に係るインバータ装置では、電圧センサで検出される電圧値をフーリエ変換(周波数解析)し、各次数となる高調波成分の係数を求める。この際、係数が収束する場合にはこの係数を用いて、電圧指令値の補正係数を算出し、この補正係数を用いて電圧指令値を補正する。また、係数が収束しない場合には補正係数の算出にこの係数を使用しない。
【0066】
従って、負荷のリアクタンス成分により、負荷に供給する電圧と電流に大きな位相差が発生した場合でも、収束する次数の係数のみを用いて補正係数を求めるので、即応性、及び安定性に優れた電圧制御が可能となる。その結果、負荷18に安定的に電力を供給して該負荷18を作動させることが可能となる。
【0067】
また、本実施形態では、補償回路45として、
図3に示した構成のものを用いる例について説明したが、この代わりに、一般的なPIDのような補償器を使用しても良い。但し、負荷の状態によって制御ループは、不安定となる可能性があるため、なるべく安定した補償器を選択することが必要である。
【0068】
以上、本発明のインバータ装置100及びインバータ発電機を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【0069】
例えば、上述した実施形態では、単相三線式の電源として用いる例について説明したが、三相三線式の電源についても採用することが可能である。