特許第6145320号(P6145320)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ Pioneer DJ株式会社の特許一覧

特許6145320音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラム
<>
  • 特許6145320-音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラム 図000002
  • 特許6145320-音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラム 図000003
  • 特許6145320-音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラム 図000004
  • 特許6145320-音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラム 図000005
  • 特許6145320-音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラム 図000006
  • 特許6145320-音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラム 図000007
  • 特許6145320-音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラム 図000008
  • 特許6145320-音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラム 図000009
  • 特許6145320-音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラム 図000010
  • 特許6145320-音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラム 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6145320
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G11B 33/10 20060101AFI20170529BHJP
   G11B 31/00 20060101ALI20170529BHJP
   G11B 20/10 20060101ALI20170529BHJP
   G10L 19/00 20130101ALI20170529BHJP
【FI】
   G11B33/10 C
   G11B31/00 R
   G11B20/10 321Z
   G10L19/00 312E
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-118190(P2013-118190)
(22)【出願日】2013年6月4日
(65)【公開番号】特開2014-235768(P2014-235768A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】315017409
【氏名又は名称】Pioneer DJ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 隆典
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 四郎
(72)【発明者】
【氏名】亀井 数雄
【審査官】 斎藤 眞
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−174374(JP,A)
【文献】 特開2004−086958(JP,A)
【文献】 特表2003−525510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 20/10−20/16
G11B 31/00
G11B 33/10
G10L 19/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に記録された音声信号を読み取る読取部と、
前記記録媒体を再生操作するための回転機構に対する操作を検出する検出部と、
前記読取部により読み取った前記音声信号に基づく第1のキャリア信号に、前記検出部の検出結果に基づく第2のキャリア信号を重畳して出力する出力部と、を備えたことを特徴とする音声再生装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記回転機構の駆動状態を検出することを特徴とする請求項1に記載の音声再生装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記回転機構の回転速度を検出することを特徴とする請求項2に記載の音声再生装置。
【請求項4】
前記検出部は、前記回転機構の駆動のON/OFFを検出することを特徴とする請求項2または3に記載の音声再生装置。
【請求項5】
前記検出部は、前記回転機構の回転方向を検出することを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の音声再生装置。
【請求項6】
前記検出部は、前記回転機構または前記記録媒体への接触の有無を検出することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の音声再生装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の音声再生装置と、
前記出力部から出力された前記第1のキャリア信号および前記第2のキャリア信号に基づいて、音声処理を行う音声処理装置と、を備えたことを特徴とする音声再生システム。
【請求項8】
前記音声処理装置は、
前記第1のキャリア信号および前記第2のキャリア信号に基づいて、再生速度が変化しても音程を変えない処理であるマスターテンポ処理の有無、および、再生位置を可変する操作が行われた場合でもバックグラウンドで通常再生を継続して操作後通常再生位置に戻すことができる処理であるスリップ処理の有無、の少なくとも一方を判別し、当該判別結果に応じて、音声コンテンツの再生制御を行うことを特徴とする請求項7に記載の音声再生システム。
【請求項9】
音声再生装置が、
記録媒体に記録された音声信号を読み取る読取ステップと、
前記記録媒体を再生操作するための回転機構に対する操作を検出する検出ステップと、
前記読取ステップで読み取った前記音声信号に基づく第1のキャリア信号に、前記検出ステップの検出結果に基づく第2のキャリア信号を重畳して出力する出力ステップと、を実行することを特徴とする音声再生装置の制御方法。
【請求項10】
コンピューターに、請求項9に記載の音声再生装置の制御方法における各ステップを実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイムコードが記録された専用媒体を用いてDJアプリケーションを操作し、デジタルコンテンツの再生制御を行うための音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術として、DVS(Digital Vinyl System)が知られている(例えば、特許文献1参照)。DVSの一般的な仕組みは、以下の通りである。まず、ターンテーブルでタイムコード(時間の情報)が記録された専用レコードを再生し、そのタイムコードを、オーディオインターフェースにてA/D変換した後、コンピューターに送信する。コンピューター(コンピューターにインストールされたDJアプリケーション(以下、「DJアプリ」と称する))は、再生中の楽曲データから、送信されたタイムコードに対応する音声信号を抽出し、オーディオインターフェースに送信する。オーディオインターフェースは、送信された音声信号をミキサーに出力する。ミキサーは、当該音声信号をパワーアンプおよびスピーカーから成る音声出力手段に出力する。このように、DVSでは、アナログ機器であるターンテーブルを用いてデジタルコンテンツを操作することができ、操作性と利便性を兼ね備えたDJパフォーマンスを実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−525510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような利点から、プロDJにも根強い人気を誇るDVSであるが、デジタルDJ機器では既に一般的となっている機能を利用できないといった問題がある。例えば、DJアプリの音声処理機能として、MT(Master Tempo)機能(再生速度を変えても音程が変わらない機能)やSLIP機能(スクラッチなど出音がその場に留まる操作をしてもバックグラウンドで楽曲を再生し続ける機能)が知られているが、現状では、DJアプリの設定をON/OFFで手動切替するしかない。このため、DJアプリ側でMT機能を「ON設定」にしていた場合、ターンテーブルでスクラッチ操作を行っても、DJアプリでMT処理が行われてしまい、違和感のあるスクラッチ音が出力されてしまう、といった不具合がある。また、スクラッチ操作中に、手動でMT機能のON/OFFを切り替える方法も考えられるが、操作が煩雑となり、現実的ではない。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑み、ターンテーブルの操作感を維持しつつ、DJが求める音声処理機能を容易に実現可能な音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の音声再生装置は、記録媒体に記録された音声信号を読み取る読取部と、記録媒体を再生操作するための回転機構に対する操作を検出する検出部と、読取部により読み取った音声信号に基づく第1のキャリア信号に、検出部の検出結果に基づく第2のキャリア信号を重畳して出力する出力部と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
上記の音声再生装置において、検出部は、回転機構の駆動状態を検出することを特徴とする。
【0008】
上記の音声再生装置において、検出部は、回転機構の回転速度を検出することを特徴とする。
【0009】
上記の音声再生装置において、検出部は、回転機構の駆動のON/OFFを検出することを特徴とする。
【0010】
上記の音声再生装置において、検出部は、回転機構の回転方向を検出することを特徴とする。
【0011】
上記の音声再生装置において、検出部は、回転機構または記録媒体への接触の有無を検出することを特徴とする。
【0012】
本発明の音声再生システムは、上記の音声再生装置と、出力部から出力された第1のキャリア信号および第2のキャリア信号に基づいて、音声処理を行う音声処理装置と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
上記の音声再生システムにおいて、音声処理装置は、第1のキャリア信号および第2のキャリア信号に基づいて、再生速度が変化しても音程を変えない処理であるマスターテンポ処理の有無、および、再生位置を可変する操作が行われた場合でもバックグラウンドで通常再生を継続して操作後通常再生位置に戻すことができる処理であるスリップ処理の有無、の少なくとも一方を判別し、当該判別結果に応じて、音声コンテンツの再生制御を行うことを特徴とする。
【0014】
本発明の音声再生装置の制御方法は、音声再生装置が、記録媒体に記録された音声信号を読み取る読取ステップと、記録媒体を再生操作するための回転機構に対する操作を検出する検出ステップと、読取ステップで読み取った音声信号に基づく第1のキャリア信号に、検出ステップの検出結果に基づく第2のキャリア信号を重畳して出力する出力ステップと、を実行することを特徴とする。
【0015】
本発明のプログラムは、コンピューターに、上記の音声再生装置の制御方法における各ステップを実行させることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る音声再生システムのシステム構成図である。
図2】音声再生システムの機能ブロック図である。
図3】DJアプリにおけるDVS処理の流れを示すフローチャートである。
図4】第1実施形態に係るターンテーブルのブロック図である。
図5】各付加情報のbit表現の一例を示す図である。
図6】付加キャリア信号のbit配列の一例を示す図である。
図7】ターンテーブルの操作とDJアプリ制御方法の関係を示す表である。
図8】第2実施形態に係るターンテーブルのブロック図である。
図9】バースト波のインターバルとモーター回転速度の関係、付加情報のステータス表現の一例を示す図である。
図10】バースト波の送信イメージの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
以下、本発明の音声再生装置、音声再生システム、音声再生装置の制御方法、プログラムについて、添付図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態では、本発明の音声再生装置を、DJが操作するターンテーブルに適用した場合について例示する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る音声再生システムSYのシステム構成図である。音声再生システムSYは、2台のターンテーブル1と、オーディオインターフェース2と、パーソナルコンピューター3(音声処理装置,以下、「PC3」と称する)と、ミキサー4と、を備えている。
【0019】
各ターンテーブル1は、アナログレコード盤R(記録媒体,以下、「レコード盤R」と称する)を載置するプラッター11(回転機構)、針を支持するトーンアーム12、プラッター11の回転速度(=モーターの回転速度=レコード盤Rの再生速度)を調整するためのピッチコントローラー13、等を備えている。なお、ピッチコントローラー13は、同図に示したようなスライド式のつまみに限らず、回転式のつまみなど、その形態は問わない。
【0020】
各ターンテーブル1は、レコード盤Rから読み取った音声信号を、LchおよびRchの2チャンネルアナログ信号(以下、「キャリア信号」とも称する)として、オーディオインターフェース2に出力する。なお、本実施形態では、DVS(Digital Vinyl System)を想定しているため、レコード盤Rとして、タイムコードが記録された専用レコードR0を読み取るものとする。
【0021】
オーディオインターフェース2は、各ターンテーブル1から出力された2チャンネルアナログ信号(タイムコード)を入力し、これをA/D変換する。また、A/D変換したデジタル信号を、USBインターフェース等を介して、PC3に出力する。
【0022】
PC3は、ディスプレイ、キーボード、マウス、ハードディスクドライブなど、一般的なコンピューターの構成を有しており、ハードディスクドライブには、DVSを実現するためのDJアプリケーション31(以下、「DJアプリ31」と称する)が格納されている。また、PC3は、オーディオインターフェース2から入力されたデジタル信号からタイムコードを抽出し、再生中の楽曲データの当該タイムコードに相当する音声信号を、オーディオインターフェース2に出力する。なお、楽曲データは、PC3内にあっても良いし、PC3と通信可能な外部機器または外部サーバー内にあっても良い。以下の説明では、楽曲データがPC3内に記憶されているものとする。
【0023】
オーディオインターフェース2は、PC3から、USBインターフェース等を介して音声信号が入力されると、これをD/A変換し、LchおよびRchの2チャンネルアナログ信号として、ミキサー4に出力する。ミキサー4は、入力されたアナログ信号に対し、ミキサー4に搭載された各種操作子の操作状態に応じた音声処理(2台のターンテーブル1の操作に基づく2種類の音声信号のミキシング処理など)を行う。その後、ミキサー4は、パワーアンプおよびスピーカーから成る音声出力手段(図示省略)に、処理済み音声信号を出力する。
【0024】
次に、図2を参照し、音声再生システムSYの機能構成について説明する。ターンテーブル1は、主な機能構成として、読取部51、駆動部52、検出部53および出力部54を備えている。読取部51は、タイムコードが刻まれた円盤状の記録媒体である専用レコードR0から音声信号(タイムコード)を読み取る。駆動部52は、プラッター11を回転駆動するものであり、モーターによって実現される。
【0025】
検出部53は、専用レコードR0(レコード盤R)やプラッター11に対するユーザーの操作を検出する。具体的に、本実施形態では、ユーザーの操作によって変化するプラッター11の駆動状態(ピッチコントローラー13によって調整されるモーターの回転速度、モーターの駆動のON/OFF)と、専用レコードR0に対する手の接触の有無を検出する。なお、接触の有無については、専用レコードR0、プラッター11またはターンテーブル1本体に搭載された各種検出手段によって検出を行うものとする。例えば、プラッター11に設けられたタッチセンサーまたは圧力センサー、ターンテーブル1本体に設けられた近接センサー等が考えられる。なお、以下の説明では、タッチセンサーを用いるものとする。
【0026】
出力部54は、読取部51により読み取った音声信号に基づいて生成される第1のキャリア信号に、検出部53の検出結果に基づいて生成される第2のキャリア信号を重畳し、アナログキャリア信号としてオーディオインターフェース2に出力する。なお、第2のキャリア信号の生成方法については、後に詳述する(付加キャリア信号生成部80,図4参照)。
【0027】
オーディオインターフェース2は、主な機能構成として、A/D変換部61を備えている。A/D変換部61は、第1のキャリア信号と第2のキャリア信号が合成されたアナログ信号を、デジタル信号に変換する。
【0028】
PC3は、主な機能構成として、デコード部71、音声コンテンツ記憶部72、機能設定部73および音声処理部74を備えている。なお、これら各部は、主にDJアプリ31によって実現される。デコード部71は、オーディオインターフェース2から出力されたデジタル信号から、各種ステータスのデコード処理を行う。具体的には、第1のキャリア信号から、タイムコードをデコードし、第2のキャリア信号から、各種付加情報(モーター回転速度情報、モーターON/OFF情報、タッチセンサーON/OFF情報)をデコードする。なお、付加情報のデコード方法については後述する。
【0029】
音声コンテンツ記憶部72は、楽曲データやサンプリング音源等の音声コンテンツを記憶する。機能設定部73は、DJアプリ31の各種機能を設定する。本実施形態では、MT(Master Tempo)機能(再生速度が変化しても音程を変えない機能)のON/OFF、並びにSLIP機能(スクラッチなど再生位置を可変する操作が行われた場合でもバックグラウンドで通常再生を継続して操作後通常再生位置に戻すことができる機能)のON/OFFを設定可能であるものとする。音声処理部74は、デコード部71のデコード結果および機能設定部73の設定に基づき、音声コンテンツ記憶部72に記憶された音声コンテンツの音声処理を行う。特に本実施形態では、MT機能やSLIP機能が「ON設定」の場合、第2のキャリア信号のデコード結果(付加情報)に応じて、MT処理やSLIP処理の自動切替制御を行う。
【0030】
ここで、図3のフローチャートを参照し、PC3(DJアプリ31)におけるDVS処理の流れを説明する。PC3(DJアプリ31)は、オーディオインターフェース2からデジタル信号を取得すると、タイムコードのデコードおよび付加情報のデコードを行う(S01,S02)。続いて、MT機能のユーザー設定を判別し(S03)、MT機能が「ON設定」の場合は(S03:Yes)、付加情報に基づいてMTフラグの自動ON/OFF制御を行う(S04)。つまり、付加情報が、MT処理を実行すべき情報であった場合はMTフラグを「ON」にし、そうでない場合は「OFF」にする。一方、MT機能が「OFF設定」の場合は(S03:No)、付加情報に関わらずMTフラグを「OFF」にする(S05)。
【0031】
PC3は、さらにSLIP機能のユーザー設定を判別し(S06)、SLIP機能が「ON設定」の場合は(S06:Yes)、付加情報に基づいてSLIPフラグの自動ON/OFF制御を行う(S07)。つまり、付加情報が、SLIP処理を実行すべき情報であった場合はSLIPフラグを「ON」にし、そうでない場合は「OFF」にする。一方、SLIP機能が「OFF設定」の場合は(S06:No)、付加情報に関わらずSLIPフラグを「OFF」にする(S08)。
【0032】
PC3は、その後MTフラグの状態を判別し(S09)、MTフラグが「ON」の場合は(S09:Yes)、MT処理を実行する(S10)。つまり、再生速度が変化しても音程が変化しないように処理する。一方、MTフラグが「OFF」の場合は(S09:No)、MT処理をスキップする(S11)。同様に、SLIPフラグの状態を判別し(S12)、SLIPフラグが「ON」の場合は(S12:Yes)、SLIP処理を実行する(S13)。つまり、スクラッチなどのエフェクト操作中にバックグラウンドで楽曲を再生し続けることにより、エフェクト操作後でも原曲の展開を変えることなくDJパフォーマンスを行えるように処理する。一方、SLIPフラグが「OFF」の場合は(S12:No)、SLIP処理をスキップする(S14)。その後、PC3は、MT処理およびSLIP処理以外のDVS処理を実行し(S15)、S01にリターンする。
【0033】
次に、図4ないし図6を参照し、ターンテーブル1における第2のキャリア信号の生成方法について説明する。なお、第2のキャリア信号は、付加情報に基づいて生成される信号であるため、以下「付加キャリア信号」とも称する。まず、付加情報について説明する。モーター回転速度情報は、駆動部52(モーター)の回転速度を検出する周波数発生器(図示省略)の出力値を示す情報である。なお、モーター回転速度情報は、ピッチコントローラー13の設定を加味した情報である。また、モーターON/OFF情報は、駆動部52(モーター)の駆動/停止(ターンテーブル1の電源のON/OFF)を示す情報である。さらに、タッチセンサーON/OFF情報は、タッチセンサーの検出の有無を示す情報である。
【0034】
本実施形態に係る付加キャリア信号生成部80は、以下の符号81ないし95から成る。モーター回転速度情報は、デジタルエンコーダー81によって10bitのbitデータに変換される(図5(a)参照)。また、モーターON/OFF情報は、デジタルエンコーダー82によって1bitのbitデータに変換される(図5(b)参照)。さらに、タッチセンサーON/OFF情報は、デジタルエンコーダー83によって1bitのbitデータに変換される(図5(c)参照)。
【0035】
その後、合成部84により、変換された各bitデータが合成されると共に、合成されたデータの先頭を識別するためのヘッダーが付加される(図6参照)。その後、Lch用のbitデータ列は、Lch用同期出力部85により、所定のキャリア周波数f(例えば、15kHz)で出力される。同様に、Rch用のbitデータ列は、Rch用同期出力部86により、所定のキャリア周波数f(例えば、15kHz)で出力される。一方、矩形波出力部87は、所定のキャリア周波数f(例えば、15kHz)でAM変調するための信号を生成・出力する。出力部85,86の出力は出力部87に同期して出力され、出力部85,86,87から出力された信号は、それぞれLPF(Low Pass Filter)88,89,90に入力されてアナログ化され、アナログサイン波が生成される。さらに、LPF88,89,90から出力された信号は、それぞれレベル変調器91,92,93に入力される。
【0036】
レベル変調器91,93でレベル変調された信号は、加算器94で合成された後、さらに加算器96により、Lch用のタイムコード用キャリア信号(第1のキャリア信号)に合成される。一方、レベル変調器92,93でレベル変調された信号は、加算器95で合成された後、加算器97により、Rch用のタイムコード用キャリア信号に合成される。合成された各チャンネルのキャリア信号は、オーディオインターフェース2を介して、PC3(DJアプリ31)に出力される。なお、タイムコード用キャリア信号は、専用レコードR0の再生信号(所定のキャリア周波数(例えば、1kHz)でAM変調された信号)である。
【0037】
一方、PC3(DJアプリ31)では、図6の表にしたがって、デコード処理を行う。このとき、ヘッダーは、付加情報を読み取るトリガー信号として用いられる。DJアプリ31は、デコード後の情報を用いて、図7に示す制御を行う。
【0038】
例えば、ターンテーブル1において、レコード盤R(専用レコードR0)にノータッチの状態で電源ONされた場合(つまり、通常再生の場合)、「各種ステータス」欄に示すように、タイムコード「有」、モーター回転速度情報の推移「通常」、モーターON/OFF情報「ON」、タッチセンサーON/OFF情報「OFF」を示す付加キャリア信号が出力される。DJアプリ31は、当該付加キャリア信号のデコード結果から、「モーターON」且つ「回転速度とタイムコード一致」と判別し、MTフラグ「ON」且つSLIPフラグ「OFF」に設定する。また、ターンテーブル1においてリバース再生が行われた場合も、同様の設定を行う。
【0039】
また、DJ特有のエフェクト操作として、レコード盤Rにノータッチの状態で電源ONからOFFに切り替え徐々に低速化させる操作があるが、この操作が行われた場合は、タイムコード「有」、モーター回転速度情報の推移「徐々に遅く」、モーターON/OFF情報「OFF」、タッチセンサーON/OFF情報「OFF」を示す付加キャリア信号が出力される。DJアプリ31は、当該付加キャリア信号のデコード結果から、「モーターONからOFF」且つ「回転速度低速へ変化」と判別し、MTフラグ「OFF」且つSLIPフラグ「ON」に設定する。これにより、MT処理がスキップされるため、ユーザーが意図する(違和感のない)エフェクト効果が得られる。
【0040】
同様に、レコード盤Rにノータッチの状態で電源OFFからONに切り替えて徐々に高速化させるエフェクト操作が行われた場合は、タイムコード「有」、モーター回転速度情報の推移「徐々に速く」、モーターON/OFF情報「ON」、タッチセンサーON/OFF情報「OFF」を示す付加キャリア信号が出力される。DJアプリ31は、当該付加キャリア信号のデコード結果から、「モーターOFFからON」且つ「回転速度高速へ変化」且つ「タッチセンサーOFF」と判別し、MTフラグ「OFF」且つSLIPフラグ「ON」に設定する。この場合も、MT処理がスキップされるため、ユーザーが意図するエフェクト効果が得られる。なお、「タッチセンサーOFF」を判別するのは、後述する「スクラッチ」や「ベンド」の操作と区別するためである。
【0041】
また、レコード盤Rがストップされた場合は、タイムコード「なし」、モーター回転速度情報の推移「通常」、モーターON/OFF情報「ON」、タッチセンサーON/OFF情報「ON」を示す付加キャリア信号が出力される。DJアプリ31は、当該付加キャリア信号のデコード結果から、「モーターON」且つ「タイムコードなし」且つ「回転速度とタイムコード不一致」と判別し、MTフラグを前回設定値に設定し、且つSLIPフラグを「ON」に設定する。
【0042】
また、スクラッチ操作(DJがレコード盤Rを直接触り、針の読み取る方向を前後にずらして特殊な音を出す操作)が行われた場合は、タイムコード「有」、モーター回転速度情報の推移「通常」、モーターON/OFF情報「ON」、タッチセンサーON/OFF情報「ON」を示す付加キャリア信号が出力される。DJアプリ31は、当該付加キャリア信号のデコード結果から、「モーターON」且つ「タッチセンサーON」且つ「回転速度とタイムコード大きく不一致」と判別し、MTフラグ「OFF」且つSLIPフラグ「ON」に設定する。これにより、スクラッチ操作時にMT処理が行われてしまい、ユーザーの意図しない音が出力されてしまうことを防止できる。
【0043】
また、ベンド操作(レコード盤Rの回転速度を調整することにより、他方のターンテーブル1で再生されている音声信号との同期をとるための操作)が行われた場合は、タイムコード「有」、モーター回転速度情報の推移「通常」、モーターON/OFF情報「ON」、タッチセンサーON/OFF情報「ON」を示す付加キャリア信号が出力される。DJアプリ31は、当該付加キャリア信号のデコード結果から、「モーターON」且つ「タッチセンサーON」且つ「回転速度とタイムコード少し不一致」と判別し、MTフラグ「ON」且つSLIPフラグ「OFF」に設定する。これにより、ベンド操作時にSLIP処理が行われてしまい、ベンド操作の効果が得られなくなってしまうことを防止できる。なお、スクラッチ操作とベンド操作は、回転速度とタイムコードのずれ量が所定の閾値で以上であるか否かで判別される。
【0044】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、ターンテーブル1により、タイムコード用のキャリア信号に、付加情報用のキャリア信号を重畳して出力するため、DJアプリ31側で、DJの操作を判別できる。これにより、DJアプリ31側でMT/SLIP処理の自動切替制御を実現でき、ひいては、DJが望むエフェクト効果を得ることができる。また、MT/SLIP処理の自動切替制御を実現するために、DJの特段の操作を必要とせず、且つ使い慣れたターンテーブル1の操作感を維持することができるため、パフォーマンスに影響を与えることがない。
【0045】
なお、上記の実施形態では、プラッター11の回転速度として、駆動部52(モーター)の回転速度を検出したが、これに代えて、ピッチコントローラー13の設定値を検出しても良い。
【0046】
また、上記の実施形態では、ターンテーブル1に、読取部51、駆動部52、検出部53および出力部54を備えた構成を例示したが、このうち出力部54をオーディオインターフェース2に備えても良い。すなわち、請求項における「音声再生装置」を、ターンテーブル1とオーディオインターフェース2で実現しても良い。
【0047】
また、上記の実施形態では、オーディオインターフェース2とミキサー4を別体としたが、これらを一体化しても良い。すなわち、請求項における「音声再生装置」を、当該一体化した装置で実現しても良い。この場合、ミキサー4は、第1のキャリア信号に第2のキャリア信号を重畳したアナログ信号をデジタル信号に変換して出力することとなる(出力部)。
【0048】
また、上記の実施形態では、専用レコードR0への接触の有無を検出するためにタッチセンサーを用いたが、これを省略しても良い。この場合、第1のキャリア信号から得られるタイムコードと、第2のキャリア信号から得られるモーター回転速度情報との差異に基づいて、専用レコードR0への接触の有無を検出可能である。この構成によれば、ターンテーブル1の装置構成を簡素化することができると共に、低廉化を図ることができる。
【0049】
[第2実施形態]
次に、図8ないし図10を参照し、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、付加キャリア信号生成部110(具体的には、付加情報をアナログ信号に変換するまでの処理)が第1実施形態と異なる。また、付加情報として、プラッター11(モーター)の回転方向を検出する点も異なる。以下、第1実施形態と異なる点のみ説明する。なお、本実施形態において、第1実施形態と同様の構成部分については同様の符号を付し、詳細な説明を省略する。また、第1実施形態と同様の構成部分について適用される変形例は、本実施形態についても同様に適用される。
【0050】
図8は、第2実施形態に係るターンテーブル1のブロック図である。本実施形態の付加キャリア信号生成部110は、以下の符号111ないし117から成る。まず、モーター回転速度情報が入力される回転信号生成部111は、駆動部52(モーター)の回転速度に合わせて、特定のパルス波形を生成する信号発生器である。また、モーターON/OFF情報、モーター回転方向情報およびタッチセンサーON/OFF情報が入力されるパターン信号生成部112は、モーターの回転速度に合わせて回転方向(FWD/REV)を検出し、当該回転方向とタッチセンサーの信号に基づいて特定のパルス波形を生成する信号発生器である。また、キャリア信号発生部113は、各生成部111,112から入力された特定のパルス波形を、キャリア信号を所定数個束ねたバースト波に変換する信号発生器である。
【0051】
図9(a)は、バースト波のインターバルと、モーター回転速度の関係を示す表である。同図に示すように、キャリア信号発生部113で生成されるバースト波のインターバルは、モーター回転速度に応じて決定される。
【0052】
また、図9(b)は、Lch用バースト波の情報を示す表である。パターン信号生成部112は、モーターON/OFF情報および回転方向情報に応じてステータスを決定し、決定したステータスを含むパルス波形を生成する。そして、キャリア信号発生部113は、入力されたパルス波形のステータスに応じて、Lch用バースト波の数およびバースト波長を決定する。なお、モーターON/OFF情報が「OFF」の場合、モーター回転方向は得られないため、同表では、「Don't Care」と記載している。
【0053】
また、図9(c)は、Rch用バースト波の情報を示す表である。パターン信号生成部112は、タッチセンサーON/OFF情報および拡張機能の検出結果に応じてステータスを決定し、決定したステータスを含むパルス波形を生成する。そして、キャリア信号発生部113は、入力されたパルス波形のステータスに応じて、Rch用バースト波の数およびバースト波長を決定する。なお、拡張機能としては、ターンテーブル1に対するユーザーの操作を示す情報(例えば、回転数のモード切替(33回転モード/45回転モード)に付随する情報)など、上記に示した情報以外の付加情報を追加可能である。
【0054】
図8の説明に戻る。LPF114,115は、キャリア信号発生部113から、LchおよびRch用のバースト波を入力し、それぞれLchおよびRch用のアナログサイン波を生成する。また、レベル変調器116,117は、それぞれLchおよびRch用のアナログサイン波をレベル変調する。そして、加算器118,119は、レベル変調されたアナログサイン波(第2のキャリア信号=付加キャリア信号)を、それぞれLchおよびRchのタイムコード用キャリア信号(第1のキャリア信号)に合成する。
【0055】
図10は、バースト波の送信イメージの一例を示す図である。同図では、1回目および2回目の検出でモーター回転速度「+20%」が検出され、3回目および4回目の検出でモーター回転速度「+10%」が検出され、さらに各回でモーターON/OFF情報「ON」および回転方向「+」(つまり、Lch=Status2,図9(b)参照)、並びに各回でタッチセンサー情報「OFF」および拡張機能「OFF」(つまり、Rch=Status1,図9(c)参照)が検出された場合の送信イメージを示している。
【0056】
DJアプリ31は、このようなバースト波が入力されると、付加キャリア信号からバースト波の間隔を測定し、モーター回転速度を判別する。また、その他の付加情報(モーターON/OFF、モーター回転方向およびタッチセンサーON/OFF)に関しては、パターンタイミングによりステータスを取り出し、各情報を判別する。
【0057】
以上説明したとおり、本発明の第2実施形態によれば、バースト波を用いて、ターンテーブル1の付加情報を、PC3(DJアプリ31)に伝えることができる。
【0058】
以上、2つの実施形態を示したが、各実施形態に示した音声再生システムSY(特に、ターンテーブル1)の各構成要素をプログラムとして提供することが可能である。また、そのプログラムを各種記録媒体(CD−ROM、フラッシュメモリー等)に格納して提供することも可能である。すなわち、コンピューターを音声再生システムSYの各構成要素として機能させるためのプログラム、およびそれを記録した記録媒体も、本発明の権利範囲に含まれる。
【0059】
また、上記の各実施形態では、本発明の音声再生装置をターンテーブル1に適用した場合を例示したが、CDを再生するCDプレーヤー(図示省略)に適用しても良い。この場合、プラッター11をジョグダイヤル(回転機構)、モーター回転速度を再生スピード、モーターON/OFFをPLAY/PAUSEと、読み替えれば良い。また、本構成において、オーディオインターフェース2は不要である。さらに、タッチセンサーは、ジョグダイヤルに設けられる。
【0060】
また、上記の各実施形態では、本発明の音声処理装置をPCに適用した場合を例示したが、スマートフォンなどの各種情報処理端末で実現しても良い。また、クラウドコンピューティングに本発明を適用し、DJアプリ31をサーバー上で動作させても良い。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…ターンテーブル 2…オーディオインターフェース 3…パーソナルコンピューター 4…ミキサー 11…プラッター 12…トーンアーム 13…ピッチコントローラー 31…DJアプリケーション 51…読取部 52…駆動部 53…検出部 54…出力部 61…A/D変換部 71…デコード部 72…音声コンテンツ記憶部 73…機能設定部 74…音声処理部 R…レコード盤 R0…専用レコード SY…音声再生システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10