特許第6145364号(P6145364)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6145364放射線遮蔽壁の設計方法、放射線遮蔽壁およびこれを備えた病室
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6145364
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月7日
(54)【発明の名称】放射線遮蔽壁の設計方法、放射線遮蔽壁およびこれを備えた病室
(51)【国際特許分類】
   G21F 3/00 20060101AFI20170529BHJP
   G21F 7/00 20060101ALI20170529BHJP
   G01T 1/161 20060101ALI20170529BHJP
【FI】
   G21F3/00 S
   G21F7/00 Z
   G01T1/161 D
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-184300(P2013-184300)
(22)【出願日】2013年9月5日
(65)【公開番号】特開2015-52473(P2015-52473A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2016年2月1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日 平成25年 3月30日〜31日 平成25年 4月5日 公開した場所 大分県別府市青山町7番52号 〔刊行物等〕公開日 平成25年 4月13日〜 8月22日 公開した場所 大分県別府市青山町7番52号 〔刊行物等〕公開日 平成25年 5月7日 公開した場所 大分県別府市青山町7番52号
(73)【特許権者】
【識別番号】000152424
【氏名又は名称】株式会社日建設計
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】野口 靖志
(72)【発明者】
【氏名】隈河 耕造
(72)【発明者】
【氏名】松永 剛
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−223987(JP,A)
【文献】 特開2010−151617(JP,A)
【文献】 実開昭62−012900(JP,U)
【文献】 実開昭54−049499(JP,U)
【文献】 特開2006−275610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 7/00
G21F 7/005
G21F 3/00
G01T 1/161
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外に面し前記屋外の光を採光可能な開口を有する病室に設けられる放射線遮蔽壁の設計方法であって、
前記病室内に放射線の発生源を設定する工程と、
前記発生源と前記放射線遮蔽壁の端部とを結ぶ直線が前記開口の周りの壁部を通るように、且つ、前記端部と前記病室の天井との間に上部空間を形成し当該上部空間から前記放射線遮蔽壁に対して前記開口とは反対側の領域に前記屋外の光を入射させるように、前記発生源と前記開口との間に配置される前記放射線遮蔽壁の位置および外形を決定する工程と、
を含むことを特徴とする、放射線遮蔽壁の設計方法。
【請求項2】
前記位置および外形を決定する工程では、前記放射線遮蔽壁の端部に向かうにつれて、前記放射線遮蔽壁を前記発生源に近づけるように湾曲させることを特徴とする、請求項1に記載の放射線遮蔽壁の設計方法。
【請求項3】
前記位置および外形を決定する工程は、
前記放射線遮蔽壁の端部に対応する複数の離散点を設定する工程と、
前記発生源と前記離散点のそれぞれとを結ぶ直線が前記開口の周りの壁部を通るように、前記離散点のそれぞれに対応する端部の位置を決定する工程と、
前記離散点のそれぞれに対応する端部間を補完することにより、前記放射線遮蔽壁の外形を決定する工程と、を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の放射線遮蔽壁の設計方法。
【請求項4】
屋外に面し前記屋外の光を採光可能な開口を有する病室に設けられる放射線遮蔽壁であって、
前記病室内に位置する放射線の発生源と前記開口との間に配置されて、
前記発生源と外周端部とを直線で結んだ場合に、前記直線が前記開口の周りの壁部を通るような外形を有し、前記外周端部と前記病室の天井との間に上部空間を形成し当該上部空間から前記開口とは反対側の領域に前記屋外の光を入射させることを特徴とする、放射線遮蔽壁。
【請求項5】
前記外周端部に向かうにつれて、前記発生源に近づくように湾曲することを特徴とする、請求項4に記載の放射線遮蔽壁。
【請求項6】
前記発生源に近づくように湾曲する部分の上下方向の長さまたは左右方向の長さは、前記外周端部に向かうにつれて小さくなっていることを特徴とする、請求項5に記載の放射線遮蔽壁。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか一項に記載の放射線遮蔽壁を備えた病室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線遮蔽壁の設計方法、放射線遮蔽壁およびこれを備えた病室に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記の特許文献1〜4に記載された放射線遮蔽装置または放射線遮蔽室が知られている。特許文献1に記載の放射線遮蔽装置では、平面視コ字状の自立可能なパネル構造体を複数配列することにより、PET(陽電子放射断層撮影装置)検査において、各受診者が待機するためのブースを形成している。特許文献2に記載の放射線遮蔽室では、放射線発生装置が設置された室内に中壁を設け、この中壁と部屋を囲う壁との間に開口部および作業者用の小通路を設けている。この遮蔽室では、放射線発生装置で発生した放射線が開口部を経由して入口扉に至るルートと、小通路を経て入口扉に至るルートとを考慮している。
【0003】
また、特許文献3に記載の放射線遮蔽室では、X線発生装置が設置された室内に、袖壁と、複数の仕切り壁と、下部に開口部を有する下がり壁とを設けている。この遮蔽室では、X線発生装置から発生する漏洩線の平面的な広がりと高さ方向の広がりを考慮している。特許文献4に記載の放射線遮蔽室では、X線発生装置が設置された室内において、出入口から一次散乱面が見通せないように、通路に向けて突出する壁を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−275610号公報
【特許文献2】特開平2−77698号公報
【特許文献3】特開平4−52598号公報
【特許文献4】特開平5−223987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、たとえばRI(放射性同位元素)による放射線治療または検査・診断では、治療を受ける患者は、病室内で時間を過ごすことになる。その場合、患者からは放射線が放出され得るが、放出された放射線が病室の出入口等から漏洩しないよう、放射線を遮蔽するための袖壁等が病室内に設けられる。
【0006】
一方で、病室内で過ごす患者にとっては、袖壁等の放射線遮蔽壁は、閉鎖的かつ薄暗いといった印象を与えてしまう。たとえば、室外に面した窓等が病室に設けられていても、その窓等から差し込む光は放射線遮蔽壁によって遮られてしまい、病室内は明るくなり難い。このように、従来の技術を適用したとしても、放射線治療用の病室において、明るく開放的な雰囲気をもたらす放射線遮蔽壁を設けることは難しかった。
【0007】
本発明は、病室に明るく開放的な雰囲気をもたらすことができる放射線遮蔽壁の設計方法、放射線遮蔽壁およびこれを備えた病室を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、屋外に面し屋外の光を採光可能な開口を有する病室に設けられる放射線遮蔽壁の設計方法であって、病室内に放射線の発生源を設定する工程と、発生源と放射線遮蔽壁の端部とを結ぶ直線が開口の周りの壁部を通るように、且つ、端部と病室の天井との間に上部空間を形成し当該上部空間から放射線遮蔽壁に対して開口とは反対側の領域に屋外の光を入射させるように、発生源と開口との間に配置される放射線遮蔽壁の位置および外形を決定する工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
この放射線遮蔽壁の設計方法によれば、発生源と開口との間に配置される放射線遮蔽壁の位置および外形は、放射線の発生源と放射線遮蔽壁の端部とを結ぶ直線が開口の周りの壁部を通るように決定される。よって、発生源から発生した放射線の一部は放射線遮蔽壁によって遮蔽され、残りの一部は開口の周りの壁部に到達する。これにより、放射線が開口を通じて屋外に漏洩することが防止される。ここで、開口に対する位置関係により、放射線遮蔽壁の端部を天井から離隔させることができるので、放射線遮蔽壁と天井との隙間である上部空間から屋外の光を入射させることができる。その結果として、室内への採光が確保され、病室に明るく開放的な雰囲気をもたらすことができる。なお、「開口の周りの壁部」とは、壁の他、梁、柱、床等を広く意味しており、放射線の遮蔽能が期待されるようなものであればよい。
【0010】
また、上記の設計方法において、位置および外形を決定する工程では、放射線遮蔽壁の端部に向かうにつれて、放射線遮蔽壁を発生源に近づけるように湾曲させてもよい。この設計方法によれば、放射線遮蔽壁の端部に向かうにつれて、放射線遮蔽壁が発生源に近づくように湾曲させられる。よって、発生源と放射線遮蔽壁の端部とを結ぶ直線が開口の周りの壁部を通るという条件を維持しつつ、放射線遮蔽壁の上下方向の長さ(たとえば、高さ)または左右方向の長さ(たとえば、室内に突出する幅)を小さく抑えることができる。これにより、放射線遮蔽壁のサイズを小さくすることができ、圧迫感を低減するとともに、病室内に入射する光を増大させることができる。
【0011】
また、上記の設計方法において、位置および外形を決定する工程は、放射線遮蔽壁の端部に対応する複数の離散点を設定する工程と、発生源と離散点のそれぞれとを結ぶ直線が開口の周りの壁部を通るように、離散点のそれぞれに対応する端部の位置を決定する工程と、離散点のそれぞれに対応する端部間を補完することにより、放射線遮蔽壁の外形を決定する工程と、を含んでもよい。この設計方法によれば、複数の離散点を設定し、それらの離散点を基準として端部の位置が決定される。そして、端部間を補完することにより、放射線遮蔽壁の外形が決定される。このように、放射線遮蔽壁の位置および外形を確実かつ簡易に決定することができる。
【0012】
本発明は、屋外に面し屋外の光を採光可能な開口を有する病室に設けられる放射線遮蔽壁であって、病室内に位置する放射線の発生源と開口との間に配置されて、発生源と外周端部とを直線で結んだ場合に、直線が開口の周りの壁部を通るような外形を有し、外周端部と病室の天井との間に上部空間を形成し当該上部空間から開口とは反対側の領域に屋外の光を入射させることを特徴とする。
【0013】
この放射線遮蔽壁は、放射線の発生源と外周端部とを直線で結んだ場合に、直線が開口の周りの壁部を通るような外形を有する。よって、発生源から発生した放射線の一部は放射線遮蔽壁によって遮蔽され、残りの一部は開口の周りの壁部に到達する。これにより、放射線が開口を通じて屋外に漏洩することが防止される。ここで、開口に対する位置関係により、放射線遮蔽壁の端部を天井から離隔させることができるので、放射線遮蔽壁と天井との隙間である上部空間から屋外の光を入射させることができる。その結果として、室内への採光が確保され、病室に明るく開放的な雰囲気をもたらすことができる。なお、「外周端部」とは、放射線遮蔽壁の外周を意味し、上端部または先端部の他、基端部、床面側の端部等のすべてを含む。
【0014】
また、上記の放射線遮蔽壁は、その外周端部に向かうにつれて、発生源に近づくように湾曲してもよい。この構成によれば、発生源と放射線遮蔽壁の外周端部とを結ぶ直線が開口の周りの壁部を通るという条件を維持しつつ、放射線遮蔽壁の上下方向の長さ(たとえば、高さ)または左右方向の長さ(たとえば、室内に突出する幅)を小さく抑えることができる。これにより、放射線遮蔽壁のサイズを小さくすることができ、圧迫感を低減するとともに、病室内に入射する光を増大させることができる。
【0015】
また、上記の放射線遮蔽壁において、発生源に近づくように湾曲する部分の上下方向の長さまたは左右方向の長さは、外周端部に向かうにつれて小さくなっていてもよい。この構成によれば、放射線遮蔽壁の高さが低くなる、または、放射線遮蔽壁の幅が小さくなるため、放射線遮蔽壁による圧迫感がより一層低減され、また、放射線遮蔽壁の上方から入射する光を増大させることができる。
【0016】
本発明の一態様として、上記の放射線遮蔽壁を備えた病室を提供することができる。この病室では、室外の光が入射し易くなっていることにより、室内への採光が確保され、明るく開放的な雰囲気がもたらされる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、病室に、明るく開放的な雰囲気をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の病室および放射線遮蔽壁の一実施形態を示す平面図である。
図2図1の病室および放射線遮蔽壁の側面図である。
図3】放射線遮蔽壁の設計方法の一工程を示す平面図である。
図4】離散点を用いて上端部の高さを決める工程を示す平面図である。
図5図2に示す病室における採光状態を示す側面図である。
図6】(a)は他の例による放射線遮蔽壁が設けられた病室の平面図、(b)は(a)の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1および図2に示されるように、病院内に設置された病室1は、たとえばRI(放射性同位元素)による放射線治療または検査・診断に用いられる病室、すなわちRI病室である。病室1は、廊下側に面する壁部2と、側方の壁部2,2と、外壁の一部を構成する柱部3,3と、病室1が設けられた階とその上階との間に形成される天井9と、柱部3,3と天井9との間に設けられる梁部12と、床部11とによって画成されている。壁部2、柱部3、天井9、梁部12および床部11は、たとえば内部に鉛板が設けられる、または放射線の遮蔽に十分な壁厚を有する等により、いずれも放射線遮蔽能を有している。壁部2、柱部3、天井9、梁部12および床部11は、病室1を画定する壁部に相当する。
【0021】
病室1には、屋外に面する開口6を有しており、この開口6に窓7が嵌め込まれている。このようにして、開口6は、屋外からの光を採光可能になっている。なお、開口6の大きさや設置位置は、特に限定されるものではない。開口6は、屋外に面する場合に限られず、他の部屋に面してもよい。開口6には、窓7が設けられていなくてもよい。
【0022】
病室1内には、RI治療を受ける患者またはRI検査・診断を受ける受診者が横たわるためのベッドBが設置されている。ベッドBと出入口4との間には、放射線遮蔽能を有する袖壁8が設けられている。この袖壁8は、患者または受診者から放出される放射線が廊下側に漏洩することを防止するためのものである。
【0023】
ベッドBと開口6との間には、患者または受診者から放出される放射線を遮蔽するための放射線遮蔽壁10が設けられている。放射線遮蔽壁10は、たとえば、鉛製の板を木製の合板等によりサンドイッチした層状の構造を有している。
【0024】
図1に示されるように、放射線遮蔽壁10は、側方の壁部2から室内に向けて突出するように設けられている。放射線遮蔽壁10の基端部10aは、側方の壁部2に連結されており、一方、先端部10bは病室1の中心部に向けて延出している。言い換えれば、放射線遮蔽壁10は、ベッドBの長手方向の一端側に立設されて、ベッドBの側方の一部を覆うように湾曲した形状をなしている。
【0025】
図2に示されるように、放射線遮蔽壁10の基端部10aは、床部11から天井9にまで達するように設けられている。放射線遮蔽壁10の高さは、開口6に対面する部分において、天井9よりも低くなっている。より詳細には、放射線遮蔽壁10は、基端部10aから先端部10bに向かうにつれて、ベッドBに近づくように湾曲しており、その湾曲部10cの高さ(すなわち上下方向の長さ)は、先端部10bに向かうにつれて低くなっている。
【0026】
上記したように、放射線遮蔽壁10の上端部が室内側に向けてなだらかに傾斜することにより、放射線遮蔽壁10の湾曲部10cと天井9との間には、上部空間Sが形成されている。放射線遮蔽壁10と、屋外の光を採光する開口6と、放射線を遮蔽する壁部2と、柱部3と、天井9と、梁部12と、床部11とによって、本実施形態に係る放射線遮蔽構造Aが形成されている。放射線遮蔽構造Aでは、上部空間Sが形成されることにより、明るく開放的な雰囲気が形成され、病室1内の患者または受診者にとって安らげる空間が提供されている。
【0027】
次に、放射線遮蔽壁10の設計方法について説明する。放射線遮蔽壁10の設計にあたっては、病室1内における放射線の発生源Xを設定する。発生源Xは、たとえばベッドBに横たわる患者または受診者の体躯の中心部を想定して、ベッドB上の一点とすることができる。発生源Xは、一点であってもよいし、ある程度の範囲をもった領域であってもよい。
【0028】
図3に示されるように、放射線の発生源Xを設定すると、続いて、発生源Xと放射線遮蔽壁10の端部(外周端部)とを結ぶ直線が開口6の周りの壁部を通るように、発生源Xと開口6との間に配置される放射線遮蔽壁10の位置および外形を決定する。より具体的には、発生源Xと放射線遮蔽壁10の上端部(外周端部)10eおよび先端部(外周端部)10bとを結ぶ直線が開口6の周りの壁部を通るように、放射線遮蔽壁10の位置および外形を決定する。ここで、基端部10aから先端部10bに向かうに連れて、放射線遮蔽壁10を発生源Xに近づけるように湾曲させる。
【0029】
ここで、「開口6の周りの壁部」とは、壁部2等のいわゆる壁の他、梁部12、柱部3、床部11、天井9等を広く意味している。言い換えれば、「開口6の周りの壁部」は、放射線の遮蔽能が期待されるようなものであればよい。また、放射線遮蔽壁10の端部(外周端部)は、放射線遮蔽壁10の外周を意味しており、上端部10eまたは先端部10bの他、たとえば基端部、床面側の端部(すなわち下端部)等のすべてを含む。言い換えれば、放射線遮蔽壁10が病室1を画定する壁部に接続される場合には、放射線遮蔽壁10と壁部との接続部である基端部(たとえば上記の基端部10a等)が、放射線遮蔽壁10の端部の一つに相当する。さらに、放射線遮蔽壁10が病室1内に向けて突出する場合には、病室1内に位置する終端部(たとえば上記の先端部10b等)が、放射線遮蔽壁10の端部の一つに相当する。
【0030】
より詳細には、図4に示されるように、鉛板10fが配置された部分に相当する、放射線遮蔽壁10の厚み方向の中間部を上端部10eの基準位置とし、上端部10e上において、互いに離間する複数の離散点P1,P2,P3を設定する。次に、発生源Xと各離散点P1,P2,P3とを結ぶ仮想の直線L1,L2,L3が開口6の周りの壁部(たとえば開口6上方の梁部12等)を通るように、各離散点P1,P2,P3に対応する3点の上端部10eの位置を決定する。言い換えれば、直線L1,L2,L3の先端が、開口6内には位置しないように、上端部10eの位置を決定する。そして、決定した3点の上端部10e間を補完することにより、放射線遮蔽壁10の上部の外形、すなわち上端部10eの高さを決定する。
【0031】
図4に示されるように、離散点P1よりも離散点P2の方が発生源Xに近く、離散点P2よりも離散点P3の方が発生源Xに近い。開口6の上端が水平な場合、各離散点P1,P2,P3に対応する3点の上端部10eの位置は、先端部10bに近づくほど低くなる。そして、補完の結果、放射線遮蔽壁10の上端部10eは先端部10bに向けてなだらかに傾斜することになる。このようにして、開口6に対面する部分である湾曲部10cが形成される。
【0032】
上記の設計方法によって、発生源Xと上端部10eとを直線で結んだ場合に、直線が開口6の周りの壁部を通るような外形を有する放射線遮蔽壁10が設計される。言い換えれば、放射線遮蔽壁10の設計方法では、発生源Xを光源として放射線遮蔽壁10を開口6(室外側)に向けて投影した場合に、開口6全体が放射線遮蔽壁10の投影像によって覆われるように設計を行う。
【0033】
以上説明した放射線遮蔽壁10および放射線遮蔽壁10の設計方法によれば、発生源Xと開口6との間に配置される放射線遮蔽壁10の位置および外形は、発生源Xと放射線遮蔽壁10の上端部10eとを結ぶ直線L1,L2,L3(図4参照)が開口6の周りの壁部(梁部12等)を通るように決定される。よって、発生源Xから発生した放射線の一部は放射線遮蔽壁10によって遮蔽され、残りの一部は開口6の周りの壁部に到達する。これにより、放射線が開口6を通じて室外に漏洩することが防止されている。ここで、開口6に対する位置関係により、放射線遮蔽壁10の端部を天井9、床部11、壁部2等から離隔させることができる(たとえば上端部10eが天井9から離隔される)ので、放射線遮蔽壁10と天井9、床部11、壁部2等との隙間(たとえば上部空間S)から、室外の日光等が入射する(図5参照)。その結果として、病室1内への採光が確保され、明るく開放的な雰囲気を病室1にもたらすことができる。
【0034】
ここで、図6(a)および図6(b)に示されるように、放射線遮蔽壁100を他の例として挙げることができる。放射線遮蔽壁100では、先端部100bが過度にベッドBを覆ってしまっており、患者にとってやや閉鎖的な印象を与える。また、開口6を介しての採光が考慮されていないため、上端部100eは天井9にまで達しており、病室内が薄暗くなりがちである。上述の放射線遮蔽壁10および放射線遮蔽壁10の設計方法によれば、外壁等の壁部によって遮蔽できる範囲には放射線遮蔽壁10を延長せず、天井9との間に上部空間Sを形成する。よって、このような閉鎖的な印象または薄暗い印象を与えることなく、安らげる病室1が実現される。
【0035】
また、基端部10aから先端部10bに向かうにつれて、放射線遮蔽壁10が発生源Xに近づくように湾曲させられるため、発生源Xと放射線遮蔽壁10の上端部10eとを結ぶ直線L1,L2,L3(図4参照)が開口6の周りの壁部を通るという条件を維持しながらも、放射線遮蔽壁10の上下方向の長さ(たとえば、高さ)または左右方向の長さ(たとえば、病室1内に突出する幅)が小さく抑えられている。これにより、放射線遮蔽壁10のサイズを小さくすることができ、圧迫感が低減されており、さらには、病室1内に入射する日光等の光が増大する。
【0036】
また、発生源Xに近づくように湾曲する湾曲部10cの高さは、先端部10bに向かうにつれて低くなっているため、放射線遮蔽壁10による圧迫感がより一層低減され、また、放射線遮蔽壁10の上方の上部空間Sから入射する光が増大する。
【0037】
また、複数の離散点P1,P2,P3を設定し、それらの離散点P1,P2,P3を基準として上端部10eの位置が決定される。そして、上端部10e間を補完することにより、放射線遮蔽壁10の上部の外形が決定される。このように、放射線遮蔽壁の位置および外形を確実かつ簡易に決定することができる。
【0038】
病室1では、室外の光が入射し易くなっていることにより、室内への採光が確保され、明るく開放的な雰囲気がもたらされる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。たとえば、離散点P1,P2,P3を設定せずに、一点のみを用いて直線を引いてもよい。湾曲部10cをなだらかに傾斜させる場合に限られず、湾曲部10cを階段状に形成してもよい。湾曲部10cは、一定の高さに形成されて、天井9から離隔されてもよい。
【0040】
病室1には、ベッドBが設置される場合に限られない。病室1は、椅子やテーブル等が配置された、患者または受診者の単なる居室であってもよい。病室1は、RI病室に限られない。放射線を用いた治療・検査・診断に関する病室であれば、本発明は適用可能である。
【0041】
上記の実施形態では、上端部10eまたは先端部10bが「外周端部」に相当する場合を挙げたが、これに限られない。「外周端部」は、たとえば基端部または下端部等であってもよい。上記の実施形態では、上端部10eと天井9との間、および、先端部と壁部2との間に空間が形成される場合について説明したが、これに限られない。放射線遮蔽壁の投影像が開口を覆う形態であれば、たとえば下端部と床面との間、または、基端部と側方の壁部との間に隙間や空間が形成されてもよい。
【0042】
上記の実施形態では、放射線遮蔽壁10の基端部10aが壁部2に連結されている場合について説明したが、放射線遮蔽壁は、壁部2から離間して形成されてもよい。たとえば、ベッドBの位置によっては、放射線遮蔽壁を病室1の中央部に設置してもよい。放射線遮蔽壁の幅方向の両端が壁部2から離間している場合、幅方向の中央部から両端に向かうにつれて、放射線遮蔽壁を発生源Xに近づけるように湾曲させてもよい。この場合、放射線遮蔽壁は、ベッドBの側方に形成されて床部11から立ち上がり、水平断面において弓状に湾曲する形状とすることができる。
【0043】
また、上記の実施形態では、基端部10aから先端部10bにかけて放射線遮蔽壁10を湾曲させる場合について説明したが、他の外周端部を湾曲させてもよい。たとえば、放射線遮蔽壁の中央部から上端部または下端部にかけて、放射線遮蔽壁を発生源に近づけるように放射線遮蔽壁10を湾曲させてもよい。この場合、放射線遮蔽壁の左右方向の長さすなわち幅が、上端部または下端部に向かうにつれて小さくなる。
【符号の説明】
【0044】
1…病室、2…壁部、3…柱部(壁部)、6…開口、9…天井(壁部)、10…放射線遮蔽壁、10a…基端部、10b…先端部(外周端部)、10c…湾曲部(湾曲する部分)、10e…上端部(外周端部)、11…床部(壁部)、12…梁部(壁部)、L1,L2,L3…直線、P1,P2,P3…離散点、S…上部空間、X…発生源。
図1
図2
図3
図4
図5
図6