(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0023】
<1 第1実施形態>
図1は、本発明に係る乾燥装置を組み込んだ処理膜形成システム1の全体構成を示す図である。なお、
図1および以降の各図にはそれらの方向関係を明確にするためZ軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系を適宜付している。また、
図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0024】
この処理膜形成システム1は、基材としての金属箔の上面に電極材料である活物質を含む処理剤を塗布し、該処理剤の乾燥処理を行って基材上に処理膜を形成しリチウムイオン二次電池の電極製造を行う装置である。処理膜形成システム1は、主として、塗布装置10、乾燥装置40a〜40c、搬送機構80、および制御部90を備える。
【0025】
基材5は、リチウムイオン二次電池の集電体として機能する金属箔である。処理膜形成システム1にてリチウムイオン二次電池の正極を製造する場合には、基材5として例えばアルミニウム箔(Al)を用いることができる。また、処理膜形成システム1にて負極を製造する場合には、基材5として例えば銅箔(Cu)を用いることができる。基材5は長尺のシート状(帯状)の金属箔であり、その幅および厚さについては特に限定されるものではないが、例えば幅600mm〜700mm、厚さ10μm〜20μmとすることができる。
【0026】
長尺の基材5は、巻き出しローラ81から送り出されて巻き取りローラ82によって巻き取られる過程で、塗布装置10、乾燥装置40a〜40cの順に搬送される。搬送機構80は、これら巻き出しローラ81および巻き取りローラ82と複数の補助ローラ83a〜83dとを備えて構成される。なお、補助ローラ83a〜83dの個数および配置については、
図1の例に限定されるものではなく、必要に応じて適宜に増減することができる。
【0027】
塗布装置10は、塗布ノズル11およびバックアップローラ12を備える。バックアップローラ12に押圧支持された状態で走行する基材5の上面S1に塗布ノズル11から電極材料である活物質を含む処理剤を塗布する。処理膜形成システム1にて正極を製造する場合には、塗布ノズル11から正極材料として、例えば正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)、導電助剤であるカーボン(C)、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)、有機溶剤であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の混合液を基材5に塗布する。なお、コバルト酸リチウムに代えて、正極活物質としてニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、燐酸鉄リチウム(LiFePO4)などを用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
一方、処理膜形成システム1にて負極を製造する場合には、塗布ノズル11から負極材料として、例えば負極活物質である黒鉛(グラファイト)、結着剤であるPVDF、有機溶剤であるNMPの混合液を基材5に塗布する。黒鉛に代えて、負極活物質としてハードカーボン、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、シリコン合金、スズ合金などを用いることもできる。なお、正極材料および負極材料の双方において、結着剤としてPVDFに代えてスチレン−ブタジエンゴム(SBR)などを使用することができる。
【0029】
塗布ノズル11としては、基材5の幅方向(図示Y方向)に沿ってスリット状の吐出口を設けたスリットノズルを用いることができる。塗布ノズル11は、ポンプユニット15から送給された電極材料の処理剤を吐出口から吐出して、走行する基材5の上面S1に電極材料の処理剤Pを塗布する。塗布装置10にて処理剤Pが塗布された基材5は、搬送機構80によって乾燥装置40a〜40cに順に搬送されて、該処理剤Pの乾燥処理が施される。
【0030】
乾燥装置40a〜40cは、その順に搬送上流側から下流側に向けて直列で配され、該乾燥装置40a〜40cの内部を通じて搬送される基材5の上面S1に塗布された処理剤Pを乾燥させる部分である。
【0031】
乾燥装置40a〜40cはいずれも同様の構成であるので、以下では、これらの代表として最も搬送上流側の乾燥装置40aについて詳細に説明し、乾燥装置40b,40cについては重複説明を省略する。
【0032】
図2は、乾燥装置40aの概略的な内部構成を示すXZ側面図である。なお、
図2では、図示が煩雑になるのを防ぐ目的で後述する仕切部材48を省略して描いている。
【0033】
乾燥装置40aは、両端に開口が形成されたチャンバー41の内側に上側熱風噴出部45、下側熱風噴出部51、上側排気ボックス56および下側排気ボックス55を備えて構成される。
【0034】
チャンバー41は、搬送機構80によって基材5が搬送される搬送経路を囲むように設けられている。チャンバー41の両端には、基材5が搬入される搬入口41aおよび搬出される搬出口41bが形成されている。チャンバー41の長さは特に限定されるものではないが、本実施形態では約3000mmとしている。また、搬入口41aおよび搬出口41bの大きさも特に限定されるものではないが、本実施形態では搬送経路の上方および下方のそれぞれに約5mmの間隔を確保できる程度(つまり、鉛直方向の大きさが約10mm)としている。
【0035】
チャンバー41の内側において、搬送経路の上側には、複数の上側熱風噴出部45(本実施形態では5個)と複数の上側排気ボックス56(本実施形態では6個)とが搬送経路(X方向)に沿って交互に配置されている。
【0036】
搬送経路の上側に設けられた5個の上側熱風噴出部45(気体供給部)の下方には、それぞれ整流板43が配設されている。
【0037】
整流板43は、搬送経路と平行になるように設けられた板状部材である。整流板43には、基材5の幅方向(Y方向)に沿って延びるスリット状の噴出孔(図示せず)が設けられている。
【0038】
上側熱風噴出部45は、導風管35に連結されており、導風管35から供給された熱風を整流板43の噴出孔から搬送経路の基材5に向けて噴出する。導風管35の基端側は熱風供給部34に接続されるとともに、先端側は5つに分岐されてそれぞれが上側熱風噴出部45に連通接続されている。5つに分岐された導風管35のそれぞれには流量調整弁36が介挿されている。
【0039】
熱風供給部34は、ヒータおよび送風機を備えており、加熱した空気を熱風として上側熱風噴出部45に送給する。5個の上側熱風噴出部45のそれぞれに送給される熱風の流量は対応する流量調整弁36によって個別に調整される。そして、導風管35によって上側熱風噴出部45に導かれた熱風は、整流板43の噴出孔から基材5上の処理剤Pに向けて噴出される。
【0040】
また、5個の上側熱風噴出部45に対して6個の上側排気ボックス56が設けられ、X方向について、隣り合って配置された上側排気ボックス56の間に上側熱風噴出部45が設けられている。各上側排気ボックス56は、基材5の幅方向に沿って延びる吸引口を下端に備えている。各上側排気ボックス56は、排気管57を介して排気部58と連通接続されている。すなわち、排気管57の基端側が排気部58に接続されるとともに、先端側は6つに分岐されてそれぞれが上側排気ボックス56に接続される。6つに分岐された排気管57のそれぞれには流量調整弁91が介挿されている。
【0041】
排気部58は、吸引用のブロワーを備えており、排気管57を介して上側排気ボックス56に負圧を付与する。これにより、上側排気ボックス56は、下端の吸引口周辺の雰囲気を吸引して排気管57へと排出する。6個の上側排気ボックス56のそれぞれが吸引する気体の排気流量は対応する流量調整弁91によって個別に調整される。
【0042】
一方、チャンバー41の内側において、搬送経路の下側には複数の下側熱風噴出部51(本実施形態では5個)と複数の下側排気ボックス55(本実施形態では2個)とが配置されている。
【0043】
搬送経路の下側に設けられた5個の下側熱風噴出部51のそれぞれは、図示を省略する複数の噴出孔を上側に向けて備えている。下側熱風噴出部51は、配管52を介して熱風供給部53と連通接続されている。すなわち、配管52の基端側が熱風供給部53に接続されるとともに、先端側は5つに分岐されてそれぞれが下側熱風噴出部51に接続される。5つに分岐された配管52のそれぞれには流量調整弁54が介挿されている。
【0044】
熱風供給部53は、ヒータおよび送風機を備えており、加熱した空気を熱風として下側熱風噴出部51に送給する。5個の下側熱風噴出部51のそれぞれに送給される熱風の流量は対応する流量調整弁54によって個別に調整される。5個の下側熱風噴出部51は、熱風供給部53から送給された熱風を噴出孔から上側の搬送経路に向けて噴出する。
【0045】
搬送経路の下方においては、5個の下側熱風噴出部51に対して2個の下側排気ボックス55が設けられている。各下側排気ボックス55は、基材5の幅方向に沿って延びる吸引口を上端に備えている。下側排気ボックス55は、排気管92を介して排気部93と連通接続されている。すなわち、排気管92の基端側が排気部93に接続されるとともに、先端側は2つに分岐されてそれぞれが下側排気ボックス55に接続される。2つに分岐された排気管92のそれぞれには流量調整弁94が介挿されている。排気部93は、吸引用のブロワーを備えており、排気管92を介して下側排気ボックス55に負圧を付与する。これにより、下側排気ボックス55は、上端の吸引口周辺の雰囲気を吸引して排気管92へと排出する。2個の下側排気ボックス55のそれぞれが吸引する気体の排気流量は対応する流量調整弁94によって個別に調整される。
【0046】
図3は、
図2のA−A断面から見た図であり、乾燥装置40aの概略的な内部構成を示すYZ側面図である。また、
図4は、チャンバー41内の各部のうち、特に、搬送される基材5(図の点線部)と、下側熱風噴出部51と、仕切部材48との配置構成を示した部分拡大図である。
図4では、乾燥装置40aに備えられる5つの下側熱風噴出部51のうち、3つの下側熱風噴出部51にかかる部分を示している。
【0047】
図3および
図4に示すように、チャンバー41の内側において、上側熱風噴出部45と基材5の上面S1に塗布された処理剤Pとに挟まれる空間の両側方(±Y側)にはそれぞれ仕切部材48が配設される。ここで、一組の仕切部材48が配される上記空間の両側方とは、基材5の幅方向であるY方向(基材に沿う面内において搬送方向と垂直な方向)について、上側熱風噴出部45の配される区間D1の内側で、かつ、基材5の上面S1に塗布された処理剤Pの配される区間D2の外側を意味する(
図3に示す区間D3を意味する)。
【0048】
一組の仕切部材48は、その基端側が搬送経路の下方に配される5個の下側熱風噴出部51に固設され、その先端側が上方(+Z方向)に延設された板状部材である。また、一組の仕切部材48は、基材5の搬送方向(X方向)に沿って、5個の上側熱風噴出部45および5個の下側熱風噴出部51が配される区間を含む区間だけ配設される。
【0049】
このため、チャンバー41内には、YZ平面視において、搬送される基材5と一組の仕切部材48と上側熱風噴出部45とによって囲まれる乾燥処理空間L1が形成される。ここで、「囲まれる」とは、隙間のない密閉状態に限った概念ではなく、多少の隙間があったとしてもチャンバー41内の他の空間(後述する境界部L2や下方空間L3)との空気の置換の大部分が遮られた状態を含む概念である。例えば、上側熱風噴出部45の下面と下側熱風噴出部51の上面とのZ方向の区間を区間H1と呼び、上側熱風噴出部45の下面と下側熱風噴出部51の上面との間で仕切部材48が配されるZ方向の区間を区間H2と呼ぶとき、H2がH1の4分の3以上の高さとなれば望ましい。
【0050】
なお、仕切部材48の配設にあたり、該仕切部材48の下端を5個の下側熱風噴出部51の上端に固定する一方で該仕切部材48の上端を5個の上側熱風噴出部45の下端に固定していないのは、乾燥装置40aのメンテナンス等を実施する際に上側熱風噴出部45と下側熱風噴出部51とを分離可能とするためである。したがって、これらが分離可能であれば足り、本実施形態のように仕切部材48の下端のみが下側熱風噴出部51に固定される態様の他にも、例えば仕切部材48の上端のみが上側熱風噴出部45に固定される態様(例えば、後述する
図9)であっても構わない。
【0051】
境界部L2は、上側熱風噴出部45のY方向の両端部の直下に位置し、Y方向について上側熱風噴出部45により上方から熱風が吹き付けられる空間と上方から熱風の吹き付けられない空間との境界に相当する空間である。このため、境界部L2では、Y方向に沿って内側から外側に向けて熱風が流動し、これに伴いY方向に沿って外側から内側に向けて冷たい空気が流動する気流が生じ、チャンバー41内で最も勢いよく空気の置換が行われる。
【0052】
本実施形態の乾燥装置40aでは、乾燥処理空間L1と境界部L2とが仕切部材48によって仕切られている。このため、乾燥処理空間L1で基材5の上面S1に塗布された処理剤Pに熱風を吹き付け乾燥させる乾燥処理において、境界部L2での空気置換の影響を受け難い。すなわち、本実施形態では、乾燥処理空間L1内においてY方向の両端側(境界部L2に近い側)での空気置換性が高くY方向中心側での空気置換性が低いといった、Y方向における気流の不均一性を是正することができる。
【0053】
図5は、本実施形態の比較例としての乾燥装置40zの概略的な内部構成を示すYZ側面図である。
【0054】
図5に示すように、乾燥装置40zは本実施形態の乾燥装置40aの仕切部材48に相当する構成を有しておらず、上側熱風噴出部45と基材5の上面S1に塗布された処理剤Pとに挟まれる処理空間L4と境界部L2とが連通している。このため、乾燥装置40zにおいては、境界部L2での空気置換の影響により、処理空間L4内においてY方向の両端側(境界部L2に近い側)での空気置換性が高くY方向中心側での空気置換性が低くなる。
【0055】
一般に空気置換性が高いほど処理剤Pが乾燥し易くなるため、乾燥装置40zのように処理空間L4内でのY方向における空気置換性が不均一であれば、基材5の上面S1に塗布された処理剤Pの乾燥速度に差が生じ、基材5と処理剤Pとの密着強度が不均一になる。これにより、処理剤Pが塗布された基材5によって得られる最終製品の性能(本実施形態では、リチウムイオン電池の電池性能)が低下する。既述の通り、本実施形態の乾燥装置40aでは、一組の仕切部材48を設けることでY方向における気流の不均一性を是正しているため、基材5の上面S1に塗布された処理剤Pの全面に対してより均一な乾燥速度で乾燥処理を実行することができ、より高精度な最終製品を得ることができる。
【0056】
仕切部材48は、具体的には、X方向に沿って連続的に形成される本体部481と、X方向に沿って所定間隔ごとに形成され、本体部481の下端から基材5の下方に向けてY方向に沿って突出する突出部482とを備える。
【0057】
この突出部482のX方向幅は隣り合う下側熱風噴出部51のX方向間隔D4と等しい。また、隣り合う突出部482のX方向間隔は1つの下側熱風噴出部51のX方向幅D5と等しい。こうして、仕切部材48の下端と下側熱風噴出部51の上端とが嵌め合わされ、突出部482の上面と下側熱風噴出部51の上面とが同じ高さ位置となるよう両者が密着形成される。この結果、基材5のY方向両端部の下方においては、隣り合う下側熱風噴出部51に挟まれる下方空間L3と乾燥処理空間L1とが仕切部材48の突出部482によって仕切られる(
図4)。
【0058】
このため、乾燥処理空間L1と下方空間L3との空気置換性を低下することができ、乾燥処理空間L1内においてY方向の両端側(下方空間L3と連通する側)での空気置換性が高くY方向中心側での空気置換性が低いといった、乾燥処理空間L1のY方向における気流の不均一性を是正することができる。こうして、基材5の上面S1に塗布された処理剤Pの全面に対してより均一な乾燥速度で乾燥処理を実行することができ、より高精度な最終製品を得ることができる。
【0059】
突出部482の突出寸法D6(Y方向に延設される寸法)は特に限定されるものではないが、突出部482の先端部482aが搬送される基材5の直下に位置するまで突出部482が延設されることが望ましい。
【0060】
また、既述の通り、仕切部材48は基材5の側方および基材5の下方(隣り合う下側熱風噴出部51の区間)に配される。仕切部材48は上側熱風噴出部45と基材5との区間または下側熱風噴出部51と基材5との区間には配されないので、上側熱風噴出部45および下側熱風噴出部51から基材5に向けて熱風が吹き付けられることについて仕切部材48が悪影響を及ぼすことはない。
【0061】
また、5個の上側熱風噴出部45と5個の下側熱風噴出部51とは搬送経路を挟んで相対向して配置されている。すなわち、各上側熱風噴出部45に1対1で対応して各下側熱風噴出部51が設けられており、各上側熱風噴出部45の直下に下側熱風噴出部51が配置される。これにより、基材5の上下面の同じ位置に下側熱風噴出部51および上側熱風噴出部45から熱風が吹き付けられることとなる。
【0062】
処理剤Pが塗布された基材5は、搬送機構80によって搬送経路に沿って乾燥装置40a〜40cの搬入口41aから搬出口41bに向けて搬送される。−X側から+X側に向けて基材5が乾燥装置40aを通過する際に、基材5上の処理剤Pは上側熱風噴出部45および下側熱風噴出部51からの熱風噴出によって加熱される。
【0063】
熱風供給部53から熱風が送給された下側熱風噴出部51が基材5の下方より熱風を吹き付けることによって、直接的には基材5が加熱され、その基材5からの熱伝導によって処理剤Pが加熱される。下側熱風噴出部51から基材5の下面に吹き付けられた熱風は、下側排気ボックス55によって回収される。
【0064】
また、熱風が上側熱風噴出部45から基材5の上方より吹き付けられることによって、処理剤Pが直接的に加熱される。
図2に示すように、上側熱風噴出部45から基材5の上面に吹き付けられた熱風は、搬送経路と平行に設けられた整流板43と基材5との間を基材5の搬送方向(X方向)に沿って流れ、上側熱風噴出部45の両隣に設けられた上側排気ボックス56に回収される。整流板43と基材5との間を熱風が流れるため、基材5の上に形成された処理剤Pは湿度の少ない熱風と接触し続けることとなり、効率良く処理剤Pを加熱乾燥することができる。また、熱風の温度低下を最小限に抑制することができる。
【0065】
このような上側熱風噴出部45および下側熱風噴出部51からの熱風噴出によって基材5の上に形成された電極材料の処理剤Pが上下から加熱されることにより、処理剤Pから有機溶剤(本実施形態ではNMP)が蒸発して乾燥処理が進行する。
【0066】
また、5個の下側熱風噴出部51が基材5の下方より上方に向けて熱風を吹き付けることにより、処理剤Pを間接加熱するとともに、熱風の風圧によって基材5に上向きに浮上する力が作用する。これにより、乾燥装置40aに固有のローラを設けなくとも、補助ローラ83aと補助ローラ83bとの間で基材5が大きく撓むことなく、搬送経路に沿って−X側から+X側に向けて搬送される。すなわち、下側熱風噴出部51は、基材5を浮上搬送させるという搬送機構80の補助的役割も果たすこととなる。
【0067】
さらに、5個の上側熱風噴出部45と5個の下側熱風噴出部51とが搬送経路を挟んで相対向して配置されているため、下側熱風噴出部51から基材5の下面に熱風が吹き付けられる位置の反対面側(上面側)に上側熱風噴出部45から熱風が吹き付けられる。このため、基材5の上下面の同じ位置に上下から熱風が吹き付けられ、基材5の波うちを防止して安定して基材5を搬送することができる。
【0068】
ここまで、乾燥装置40a〜40cの代表として乾燥装置40aについて説明したが、乾燥装置40b,40cについても乾燥装置40aと同様の構成である。すなわち、乾燥装置40b,40cは、チャンバー41内に、上側熱風噴出部45、上側排気ボックス56、下側熱風噴出部51、下側排気ボックス55等を有する。そのため、乾燥装置40aと同様、搬送経路に沿って搬送される基材5に対して上方および下方から熱風を吹き付け、基材5上に塗布された処理剤Pの乾燥処理を実行することができる。このため、制御部90によって、乾燥装置40a〜40cごとに個別に各部の制御(熱風の温度制御、熱風の流量制御など)を行うことで、所望の乾燥処理を実現することができる。
【0069】
そして、乾燥装置40a〜40cで乾燥処理を施された基材5は、搬送下流の複数の補助ローラ83dを介して搬送され、巻き取りローラ82によって回収される(
図1)。回収された基材5は、処理膜形成システム1の外部の加工処理部(図示せず)に搬送され、当該加工処理部で所望の大きさに切断された後、電極板として加工される。
【0070】
制御部90は、熱処理システム1に設けられた各部の機構を制御しており、そのハードウェア構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部90は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部90のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって処理膜形成システム1における処理が進行する。
【0071】
<2 第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0072】
第2実施形態の処理膜形成システムが第1実施形態の処理膜形成システム1と異なるのは乾燥装置にかかる構成のみであるので、以下では特に第2実施形態の乾燥装置40dについて説明する。
【0073】
図6は、第2実施形態にかかる乾燥装置40dの概略的な内部構成を示すYZ側面図である。また、
図7は、チャンバー41内の各部のうち、特に、搬送される基材5(図の点線部)と、下側熱風噴出部51と、仕切部材48dと、チャンバー41を構成する±Y側の側壁410と、の配置構成を示した部分拡大図である。
図7では、乾燥装置40aに備えられる5つの下側熱風噴出部51のうち、3つの下側熱風噴出部51にかかる部分を示している。
図6および以降の各図において、第1実施形態と同一の要素については同一の符号を付し、重複説明を省略する。
【0074】
図6および
図7に示すように、第2実施形態の乾燥装置40dにおいても第1実施形態の乾燥装置40aと同様に、搬送される基材5の上方でY方向に沿って延設される複数の上側熱風噴出部45と、搬送される基材5の下方でY方向に沿って延設される複数の下側熱風噴出部51とを備える。
【0075】
第2実施形態の上側熱風噴出部45および下側熱風噴出部51は、そのY方向の両端がチャンバー41を構成する±Y側の側壁410に固設される。
【0076】
仕切部材48dは、水平方向に延びる板状の部材で、搬送経路を搬送される基材5から見て±Y側にそれぞれ配される。一組の仕切部材48dは、上面視において少なくとも搬送される基材5の占有領域を除いた部分に配される。また、一組の仕切部材48dは、搬送される基材5と略同一の高さ位置に配設される。ここで、「搬送される基材5と略同一の高さ位置に配設」とは、例えば、一組の仕切部材48dの上面が下側熱風噴出部51の上面と一致する高さ位置(
図8(a))から、一組の仕切部材48dの上面が基材5の上面S1に塗布された処理剤Pの上面と一致する高さ位置(
図8(b))までのZ方向区間に一組の仕切部材48dが配設されることを意味する。
【0077】
第2実施形態では、複数の下側熱風噴出部51の上面の一部を一組の仕切部材48dの下面が覆うように、一組の仕切部材48dが複数の下側熱風噴出部51の上方に配設される(
図6および
図7)。なお、搬送される基材5の下方のうち少なくとも処理剤Pが塗布された部分の下方については処理剤Pの加熱および基材5の浮上搬送の目的で下側熱風噴出部51より基材5に向けて熱風噴出が行われるため、処理剤Pが塗布された部分の下方には一組の仕切部材48dは配されない。また、複数の下側熱風噴出部51の上方のうち一組の仕切部材48dによって覆われる部分については、複数の下側熱風噴出部51による熱風の供給が停止される。
【0078】
一組の仕切部材48dは、その基端側がチャンバー41の側壁410に固設され、その先端側が搬送経路を搬送される基材5の下方に向けて延設される。また、一組の仕切部材48dは、基材5の搬送方向(X方向)に沿って、複数の上側熱風噴出部45および複数の下側熱風噴出部51が配される区間を含む区間だけ配設される。
【0079】
このため、チャンバー41内には、YZ平面視において、搬送される基材5と一組の仕切部材48dと±Y側の側壁410と上側熱風噴出部45とによって囲まれる、より具体的には搬送される基材5と一組の仕切部材48dとによって底面が構成され±Y側の側壁410によって側面が構成されて上方の上側熱風噴出部45により熱風の供給をうける、乾燥処理空間L1が形成される。ここで、「囲まれる」とは、隙間のない密閉状態に限った概念ではなく、多少の隙間があったとしてもチャンバー41内の他の空間との空気の置換の大部分が遮られた状態を含む概念である。
【0080】
既述の通り一組の仕切部材48dと搬送される基材5とが略同一の高さでかつ上面視において隙間なく配されるので、一組の仕切部材48dと搬送される基材5とによって、乾燥処理空間L1と、隣り合う下側熱風噴出部51に挟まれる下方空間L3とが仕切られる。これにより、基材5のY方向両端側(下方空間L3と連通する側)での空気置換性が高くY方向中心側での空気置換性が低いといった、乾燥処理空間L1のY方向における気流の不均一性を是正することができる。
【0081】
また、第2実施形態の乾燥装置40dにおいては、2つの側壁410が乾燥処理空間L1の側面として機能し、上側熱風噴出部45が一方の側壁410から他方の側壁410までY方向に延設されるため、上記第1実施形態に記載の境界部L2に相当する空間が存在しない。したがって、境界部L2の存在に起因して乾燥処理空間L1内の気流が不均一になるおそれがない。
【0082】
<3 変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。
【0083】
図9は、変形例に係る乾燥装置40eの概略的な内部構成を示すYZ側面図である。
図9に示すように、一組の仕切部材48eが、搬送経路に沿って搬送される基材5の側方において上方から下方に向けて延設される構成であっても構わない。
【0084】
特に、一組の仕切部材48eの配されるY方向位置が、基材5の幅方向(Y方向)について、基材5の配される区間D7の内側で、かつ、基材5の上面S1に塗布された処理剤Pの配される区間D2の外側であれば、乾燥処理空間L1の密閉性が高まるため乾燥処理空間L1とチャンバー41内の他の空間との空気置換をより抑制できる。また、上側熱風噴出部45の下面と基材5の上面S1とのZ方向の区間を区間H3と呼び、上側熱風噴出部45の下面と基材5の上面S1との間で仕切部材48が配されるZ方向の区間を区間H4と呼ぶとき、H4がH3の4分の3以上の高さとなれば乾燥処理空間L1の密閉性が高まるため乾燥処理空間L1とチャンバー41内の他の空間との空気置換をより抑制できる。
【0085】
図10は、変形例に係る乾燥装置40fの概略的な内部構成を示すYZ側面図である。
図10に示すように、複数組の仕切部材48f(
図10では二組の仕切部材48f)を有し、搬送経路に沿って搬送される基材5の側方(±Y側)において、上方から下方に向けて延設される仕切部材48fの組と、下方から上方に向けて延設される仕切部材48fの組とが交互に配される乾燥装置40fであってもよい。
【0086】
図11は、変形例に係る乾燥装置40gの概略的な内部構成を示すYZ側面図である。
図11に示すように、乾燥装置40gは、第1実施形態の乾燥装置40aの構成にくわえ、上側熱風噴出部45の下面に設けられた一組の封止部材SPを有する。そして、乾燥装置40gで乾燥処理が行われる状態(
図11)においては、一組の仕切部材48gの上端が対応する一組の封止部材SPの下端に当接され、YZ平面視において基材5と一組の仕切部材48gと上側熱風噴出部45とによって囲まれる乾燥処理空間L1が形成される。乾燥処理空間L1の両側方は一組の仕切部材48と一組の封止部材SPとによって密閉されるため、乾燥処理空間L1とチャンバー41内の他の空間(境界部L2など)との空気置換をより抑制できる。
【0087】
また、乾燥装置40a〜40gに設けられる上側熱風噴出部45、上側排気ボックス56、下側熱風噴出部51および下側排気ボックス55など各部の個数は上記実施形態の例に限定されるものではなく、乾燥装置の長さ等に応じて適宜のものとすることができる。
【0088】
また、乾燥装置40a〜40gでは、基材5の上面S1(上側の主面)に処理剤Pを塗布し基材5の上側の乾燥処理空間L1にて該処理剤Pを乾燥させる態様について説明したが、これに限られるものではない。本発明は、一方側の主面に処理剤Pを塗布された基材5を搬送経路に沿って搬送しつつ、該一方側に気体供給部と一組の仕切り部材48とを配することで乾燥処理空間L1を形成して処理剤Pを乾燥させる種々の構成を含む。したがって、上記各実施形態(上側を上記一方側とする態様)の他にも、例えば、水平方向に搬送される基材5の下側の主面に処理剤Pを塗布し基材5の下側の乾燥処理空間にて該処理剤Pを乾燥させる態様(下側を上記一方側とする態様)でも構わない。また、鉛直方向に搬送される基材5の一方側の主面に処理剤Pを塗布し基材5の該一方側の乾燥処理空間にて該処理剤Pを乾燥させる態様でも構わない。
【0089】
また、本発明に係る技術を用いて乾燥処理を行う対象となる処理剤Pはリチウムイオン二次電池の電極材料膜に限定されるものではなく、例えば太陽電池材料(電極材、封止材)の処理剤Pまたは電子材料の絶縁膜や保護膜であっても良い。比較的粘度の高い材料を厚く塗布した処理剤Pを乾燥させるのに本発明に係る技術を好適に適用することができる。よって、顔料や接着剤の処理剤Pを乾燥させるのに、本発明に係る技術を用いるようにしても良い。