(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
気体燃料を用いて運転される内燃機関と、スロットルバルブよりも吸気下流の吸気通路の吸気負圧を利用してブレーキ操作力を助勢するブースタ装置とを有する車両に適用され、
前記スロットルバルブの開度又はアクセルペダルの開度と、機関回転速度との関係に基づき、吸気負圧の推定値を算出する負圧推定部と、
前記ブースタ装置のブースタ圧を大きくする負圧回復処理の開始タイミングを、吸気負圧の推定値に基づき決定する回復制御部と、を備えた車両の制御装置において、
機関運転に用いられている気体燃料の性状が燃焼効率の高い性状であるときほど、前記負圧推定部によって算出された吸気負圧の推定値を大きくする負圧補正部をさらに備え、
前記回復制御部は、前記負圧補正部によって補正された吸気負圧の推定値が判定値以下になったときに、前記負圧回復処理を開始する
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したように、吸気負圧を推定し、その推定値と判定値との比較により負圧回復処理の開始タイミングを決定する場合、吸気負圧の推定精度が低いと、負圧回復処理の開始タイミングにばらつきが生じやすい。
【0006】
本発明の目的は、スロットルバルブよりも吸気下流の吸気通路の負圧である吸気負圧の推定精度を高くし、負圧回復処理の開始タイミングの適正化を図ることができる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための車両の制御装置は、気体燃料を用いて運転される内燃機関と、スロットルバルブよりも吸気下流の吸気通路の吸気負圧を利用してブレーキ操作力を助勢するブースタ装置とを有する車両に適用され、スロットルバルブの開度又はアクセルペダルの開度と、機関回転速度との関係に基づき、吸気負圧の推定値を算出する負圧推定部と、ブースタ装置のブースタ圧を大きくする負圧回復処理の開始タイミングを、吸気負圧の推定値に基づき決定する回復制御部と、を備えた装置を前提としている。この車両の制御装置は、機関運転に用いられている気体燃料の性状が燃焼効率の高い性状であるときほど、負圧推定部によって算出された吸気負圧の推定値を大きくする負圧補正部をさらに備える。そして、回復制御部は、負圧補正部によって補正された吸気負圧の推定値が判定値以下になったときに、負圧回復処理を開始する。
【0008】
車両に気体燃料を供給する設備毎によって、供給する気体燃料の性状が異なることがある。燃焼効率の低い性状の気体燃料が車両に供給され、当該気体燃料を用いた機関運転が行われている場合、内燃機関の燃焼室で燃焼された混合気の空燃比が目標空燃比よりも大きくなりやすい。そのため、燃焼効率の低い性状の気体燃料を用いた機関運転時には、一回の燃料噴射量を多くすることにより、空燃比を目標空燃比に近づけるようにしている。そして、このように一回の燃料噴射量を多くすると、スロットルバルブよりも吸気下流の吸気通路の負圧である吸気負圧が大きくなりにくくなる。一方、燃焼効率の高い性状の気体燃料が車両に供給され、当該気体燃料を用いた機関運転が行われている場合、内燃機関の燃焼室で燃焼された混合気の空燃比が目標空燃比よりも小さくなりやすい。そのため、燃焼効率の高い性状の気体燃料を用いた機関運転時には、一回の燃料噴射量を少なくすることにより、空燃比を目標空燃比に近づけるようにしている。そして、このように一回の燃料噴射量を少なくすると、吸気負圧が大きくなりやすい。すなわち、吸気負圧は、機関運転に用いられている気体燃料の性状によっても変わる。
【0009】
そこで、上記構成では、スロットルバルブの開度又はアクセルペダルの開度と、機関回転速度との関係に基づいて算出した吸気負圧の推定値を、機関運転に用いられている気体燃料の性状に応じて補正するようにした。このように使用中の気体燃料の性状を加味することにより、吸気負圧の推定値を、実際の吸気負圧に近づけることができる。したがって、スロットルバルブよりも吸気下流の吸気通路の負圧である吸気負圧の推定精度を高くし、負圧回復処理の開始タイミングの適正化を図ることができるようになる。
【0010】
なお、車速が大きいときほど、車両に対して大きな減速度(制動力)が要求されやすい。そして、高い減速度が要求されているときには、ブースタ装置によるブレーキ操作力の助勢効率を高めることが好ましい。そこで、上記車両の制御装置は、車速が大きいほど、判定値を大きくする車速判定値決定部を備えるようにしてもよい。この構成によれば、車速が大きいときには、車速が小さいときよりも、吸気負圧が比較的大きい段階で負圧回復処理が開始されるようになる。そのため、車速が大きく、車両に対して大きな減速度が要求されやすいときには吸気負圧が小さくなりにくくなる。その結果、運転者によってブレーキ操作が行われたときに、車両は大きな減速度を得やすくなる。
【0011】
また、ブースタ装置は吸気通路と連通する負圧室を有しており、この負圧室内の圧力と大気圧との差分がブースタ圧となる。そのため、ブースタ装置によるブレーキ操作力の助勢効率は、大気圧が低いほど大きくなりにくい。そこで、上記車両の制御装置は、大気圧が低いほど、判定値を大きくする大気圧判定値決定部を備えることが好ましい。この構成によれば、大気圧が低く、ブースタ圧が大きくなりにくいときほど、吸気負圧が比較的大きい段階で負圧回復処理が開始されるようになる。したがって、大気圧が低いことに起因するブースタ装置によるブレーキ操作力の助勢効率の低下を早期に解消させることができるようになる。
【0012】
ちなみに、ガソリンなどの液体燃料の燃焼力は、気体燃料の燃焼力よりも大きい。そのため、液体燃料を用いた機関運転時と同等の機関出力を得るには、気体燃料を用いた機関運転時における一回の燃料噴射量を、液体燃料を用いた機関運転時よりも多くする必要がある。したがって、液体燃料を用いた機関運転時には、一回の燃料噴射量が少なくなりやすい分、気体燃料を用いた機関運転時と比較して上記吸気負圧が大きくなりやすい。
【0013】
そこで、車両に設けられる内燃機関が、気体燃料を用いた運転に加え、液体燃料を用いた運転も可能なバイフューエル型の内燃機関である場合、回復制御部は、気体燃料を用いた機関運転時において、負圧補正部によって補正された吸気負圧の推定値が判定値以下になったときに、負圧回復処理を開始するようにしてもよい。この場合、負圧回復処理は、機関運転を、気体燃料を用いた機関運転から液体燃料を用いた機関運転に切り替える処理を含むことが好ましい。この構成によれば、気体燃料を用いた機関運転から液体燃料を用いた機関運転に切り替わり、同液体燃料を用いた機関運転が行われることにより吸気負圧が大きくなる。これにより、ブースタ圧が大きくなるため、ブースタ装置によるブレーキ操作力の助勢効率の低い状態を解消することができるようになる。
【0014】
また、車両が、ブースタ装置の負圧室内を減圧させる電動ポンプが設けられている車両である場合、負圧回復処理は、電動ポンプを作動させる処理を含むことが好ましい。この構成によれば、電動ポンプを作動させることにより、ブースタ装置の負圧室内が減圧される。これにより、ブースタ圧が大きくなるため、ブースタ装置による助勢効率の低い状態を解消することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、車両の制御装置を具体化した一実施形態を
図1〜
図4に従って説明する。
図1には、本実施形態の車両の制御装置である制御装置100を備える車両の一部が図示されている。この車両に搭載されている内燃機関10は、液体燃料の一例であるガソリンを用いた機関運転と、気体燃料の一例であるCNG(圧縮天然ガス)を用いた機関運転との双方が可能なバイフューエル型の内燃機関である。
【0017】
図1に示すように、内燃機関10の気筒11の内部には、往復運動するピストン12が収容されている。このピストン12の往復運動が、コネクティングロッド13によって回転運動に変換されてクランク軸14に伝達される。機関回転速度でもあるクランク軸14の回転速度NEは、クランクポジションセンサ111によって検出される。
【0018】
また、気筒11の内周面、ピストン12の頂面及びシリンダヘッド15によって燃焼室16が区画形成されている。燃焼室16の上部には、ピストン12と対向するように点火プラグ17が設けられている。また、燃焼室16には、吸入空気が流れる吸気通路18と、燃焼室16から排出された排気が流れる排気通路19とが接続されている。
【0019】
吸気通路18には、アクチュエータ20の駆動によって開度が調整されるスロットルバルブ21が設けられている。そして、このスロットルバルブ21よりも吸気下流の吸気通路18には、ガソリンを噴射する第1の燃料噴射弁22と、CNGを噴射する第2の燃料噴射弁23とが接続されている。すなわち、ガソリン及びCNGなどの燃料は、スロットルバルブ21よりも吸気下流の吸気通路18に噴射される。
【0020】
吸気バルブ24が開弁しているときに、こうした燃料噴射弁22,23から噴射された燃料(ガソリン又はCNG)と吸入空気とを含む混合気が、吸気通路18から燃焼室16に供給される。そして、燃焼室16では、点火プラグ17によって混合気が燃焼される。その後、排気バルブ25が開弁されているときに、排気が燃焼室16から排気通路19に排出される。
【0021】
また、車両に搭載されているブレーキ装置30は、運転者によるブレーキペダル31の操作力であるブレーキ操作力を助勢するブースタ装置32と、ブースタ装置32によって助勢されたブレーキ操作力に応じた液圧を発生するマスタシリンダ33とを備えている。そして、車両には、マスタシリンダ33内に発生した液圧に応じた制動力が付与されるようになっている。
【0022】
ブースタ装置32は、スロットルバルブ21よりも吸気下流の吸気通路18の負圧である吸気負圧を利用して運転者によるブレーキ操作力を助勢する装置である。このブースタ装置32には、大気と連通する大気圧室321と、スロットルバルブ21よりも吸気下流の吸気通路18と負圧供給通路34を通じて連通する負圧室322とが形成されている。負圧供給通路34には、負圧室322から吸気通路18への空気の流動を許容する一方で、吸気通路18から負圧室322への空気の流動を規制する一方向弁35が設けられている。そのため、負圧室322の圧力は、上記吸気負圧と同程度となっている。そして、ブースタ装置32は、負圧室322内の圧力と大気圧室321内の圧力(大気圧)との差圧に応じたブースタ圧が大きいほど、運転者によるブレーキ操作力を効率よく助勢することができる。なお、ブースタ圧は、負圧室322内の圧力が低いほど大きくなりやすく、大気圧室321内の圧力が大きいほど大きくなりやすい。
【0023】
本実施形態の制御装置100には、クランクポジションセンサ111に加え、アクセル開度センサ112、エアフローメータ113、空燃比センサ114及び車速センサ115が電気的に接続されている。アクセル開度センサ112は、運転者によって操作されるアクセルペダル26の開度であるアクセル開度ACを検出する。エアフローメータ113は、吸気通路18を流れる吸入空気の流量を検出する。空燃比センサ114は排気通路19を流れる排気の酸素濃度を検出するセンサであり、この排気の酸素濃度に基づき、燃焼室16で燃焼された混合気の空燃比が算出される。車速センサ115は、車速Vを検出する。そして、制御装置100は、これら各センサ111〜115を含む各種検出系によって検出された情報に基づき、車両を制御するようにしている。
【0024】
ところで、CNGを用いた機関運転中にクランク軸14の回転速度NEを規定速度とする場合、一回の燃料噴射量は、ガソリンを用いた機関運転中にクランク軸14の回転速度NEを規定速度とする場合よりも多くする必要がある。そのため、CNGを用いた機関運転時にあっては、ガソリンを用いた機関運転時よりも、スロットルバルブ21よりも吸気下流の吸気通路18の負圧である吸気負圧が大きくなりにくい。そして、吸気負圧が小さいと、ブースタ装置32のブースタ圧が大きくなりにくく、ブースタ装置32によるブレーキ操作力の助勢効率が低くなる。したがって、本実施形態の制御装置100は、CNGを用いた機関運転時にあっては、吸気負圧を推定し、この吸気負圧の推定値PEが判定値PTh以下になったときに、吸気負圧を大きくする負圧回復処理を実施するようにしている。
【0025】
なお、負圧回復処理としては、例えば、機関運転を、CNGを用いた機関運転からガソリンを用いた機関運転に切り替える処理を挙げることができる。このように燃料がCNGからガソリンに切り替わると、一回の燃料噴射量が少なくなり、吸気負圧が大きくなる。その結果、ブースタ圧が大きくなり、ブースタ装置32によるブレーキ操作力の助勢効率の低い状態が解消されることとなる。
【0026】
ここで、吸気負圧の推定方法について説明する。すなわち、クランク軸14の回転速度NEが大きいほど、単位時間あたりの吸気行程の数が多くなり、燃焼室16に吸い込まれる吸入空気量が多くなる。そのため、吸気負圧が大きくなりやすい。また、スロットルバルブ21の開度であるスロットル開度THが大きいほど、吸気通路18を流れる吸入空気の量が多くなるため、吸気負圧が小さくなりやすい。すなわち、吸気負圧の推定値PEは、基本的には、クランク軸14の回転速度NEと、スロットル開度THとの関係に基づいた値となる。
【0027】
しかしながら、吸気負圧は、機関運転に用いられているCNGの性状(燃料性状)によっても変わる。すなわち、燃焼効率の低い性状のCNGを用いた機関運転が行われている場合には、燃料効率の高い性状のCNGを用いた機関運転が行われている場合と比較して一回の燃料噴射量が多くなりやすいため、吸気負圧が大きくなりにくい。
【0028】
図2には、クランク軸14がある速度で回転しているときにおける吸気負圧Pとスロットル開度THとの関係を、燃料性状毎に表したグラフを図示している。
図2における実線は、燃焼効率が標準的な性状のCNG(以下、「標準CNG」ともいう。)を用いた機関運転時における吸気負圧Pとスロットル開度THとの関係を示している。また、
図2における破線は、燃焼効率の低い性状のCNG(以下、「低水準CNG」ともいう。)を用いた機関運転時における吸気負圧Pとスロットル開度THとの関係を示している。そして、
図2における一点鎖線は、燃焼効率の高い性状のCNG(以下、「高水準CNG」ともいう。)を用いた機関運転時における吸気負圧Pとスロットル開度THとの関係を示している。
【0029】
図2に示すように、何れの性状のCNGを用いた機関運転でも、スロットル開度THが小さいほど、吸気負圧Pが大きくなる傾向を有している。しかし、機関運転に用いるCNGの性状毎に比較すると、高水準CNGを用いたときには、標準CNGや低水準CNGを用いたときよりも吸気負圧Pが大きくなる。また、低水準CNGを用いたときには、標準CNGや高水準CNGを用いたときよりも吸気負圧Pが小さくなる。
【0030】
そのため、機関運転に用いられているCNGの性状を予め学習し、クランク軸14の回転速度NEとスロットル開度THとの関係に基づき算出した吸気負圧の推定値PEを、機関運転に用いられているCNGの性状に応じて補正することにより、吸気負圧の推定精度を高めることができる。
【0031】
例えば、CNGの性状は、燃焼室16で燃焼された混合気の空燃比、すなわち一回のCNG噴射量の補正量に基づき推定することができる。CNGの噴射量は、空燃比センサ114による検出結果に基づいて算出された実際の空燃比と、目標空燃比とに基づき補正される。すなわち、実際の空燃比が目標空燃比とほぼ等しい場合、CNGの噴射量が適量であると判断され、噴射量が補正されない。一方、実際の空燃比が目標空燃比よりも大きい場合、CNGの噴射量が少ないと判断され、噴射量が増大補正される。また、実際の空燃比が目標空燃比よりも小さい場合、CNGの噴射量が多いと判断され、噴射量が減少補正される。そのため、機関運転に用いられているCNGが標準CNGであると仮定した場合のCNGの噴射量を標準噴射量としたとき、補正後の噴射量である実際の噴射量が標準噴射量よりも多いときには、機関運転に用いられているCNGが低水準CNGであると判断することができる。また、実際の噴射量が標準噴射量よりも少ないときには、機関運転に用いられているCNGが高水準CNGであると判断することができる。
【0032】
そして、本実施形態の制御装置100では、機関運転に用いられているCNGが標準CNGであると仮定し、クランク軸14の回転速度NEとスロットル開度THとの関係に基づき、吸気負圧の推定値PEが算出される。そして、実際に用いられているCNGが標準CNGであると見なせるときには、吸気負圧の推定値PEが補正されない。また、実際に用いられているCNGが低水準CNGであると見なせるときには、クランク軸14の回転速度NEとスロットル開度THとの関係に基づき算出した吸気負圧の推定値PEが減少補正される。また、実際に用いられているCNGが高水準CNGであると見なせるときには、クランク軸14の回転速度NEとスロットル開度THとの関係に基づき算出した吸気負圧の推定値PEが増大補正される。
【0033】
また、上記の判定値PThは、負圧回復処理の開始タイミングを決定するための値である。そのため、車両に対して大きな減速度(制動力)が要求される可能性が高いほど、判定値PThを大きくし、負圧回復処理を早期に開始させることが好ましい。このように車両に対して大きな減速度が要求される可能性が高い場合としては、車速Vが大きい場合を挙げることができる。このように車速Vが大きい場合ほど、運転者が車両に対して急制動を要求する可能性が高い。そのため、本実施形態の制御装置100にあっては、判定値PThを、車速Vが大きいほど大きくしている。
【0034】
また、上述したように、ブースタ圧は、大気圧室321内の圧力である大気圧と、負圧室322内の圧力(すなわち、吸気負圧Pに準じた値)との差圧が大きいほど大きくなる。そのため、例えば車両が高地を走行するときのように大気圧が低い場合には、ブースタ圧が大きくなりにくく、ブースタ装置32によるブレーキ操作力の助勢効率が低くなりやすい。そのため、本実施形態の制御装置100にあっては、大気圧が低いほど、判定値PThを大きくして負圧回復処理を早期に開始するようにしている。
【0035】
次に、
図3に示すフローチャートを参照し、機関運転に用いられているCNGの性状を学習するために制御装置100が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、本処理ルーチンは、機関運転中には予め設定された制御サイクル毎に実行される。
【0036】
図3に示すように、本処理ルーチンにおいて、制御装置100は、CNGを用いた機関運転が行われている最中であるか否かを判定する(ステップS11)。ガソリンを用いた機関運転が行われている最中である場合(ステップS11:NO)、制御装置100は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、CNGを用いた機関運転が行われている最中である場合(ステップS11:YES)、制御装置100は、空燃比センサ114によって検出されている排気の酸素濃度に基づき、燃焼室16で燃焼された混合気の空燃比AFを算出する(ステップS12)。この点で、制御装置100が、燃焼室16で燃焼された混合気の空燃比AFを算出する「空燃比算出部」の一例として機能する。
【0037】
そして、制御装置100は、算出した空燃比AFに基づいて、一回のCNGの噴射量Xを補正する補正処理を実施する(ステップS13)。続いて、制御装置100は、機関運転に用いているCNGの性状を学習する学習処理を実施する(ステップS14)。このとき、例えば、制御装置100は、実際のCNGの噴射量Xと上記の標準噴射量との比較に基づき、機関運転に用いているCNGの性状に応じた燃料系学習値Zを算出する。この点で、制御装置100が、機関運転に用いられているCNGの性状を学習する「性状学習部」の一例としても機能する。その後、制御装置100は、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0038】
次に、
図4に示すフローチャートを参照し、上記の負圧回復処理の開始タイミングを決定するために制御装置100が実行する処理ルーチンについて説明する。なお、本処理ルーチンは、機関運転中には予め設定された制御サイクル毎に実行される。
【0039】
図4に示すように、制御装置100は、CNGを用いた機関運転が行われている最中であるか否かを判定する(ステップS21)。ガソリンを用いた機関運転が行われている最中である場合(ステップS21:NO)、制御装置100は、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、CNGを用いた機関運転が行われている最中である場合(ステップS21:YES)、制御装置100は、上記の判定値PThを車速Vに応じた値とする(ステップS22)。この点で、制御装置100が、車速Vが大きいほど、判定値PThを大きくする「車速判定値決定部」の一例としても機能する。続いて、制御装置100は、ステップS22で算出した判定値PThを、大気圧APに応じて補正する(ステップS23)。この点で、制御装置100が、大気圧APが低いほど、判定値PThを大きくする「大気圧判定値決定部」の一例としても機能する。
【0040】
そして、制御装置100は、クランク軸14の回転速度NEとスロットル開度THとの関係に基づき、吸気負圧の推定値PEを算出する(ステップS24)。この吸気負圧の推定値PEは、機関運転に用いているCNGが標準CNGであるとの仮定の元で算出した値である。この点で、制御装置100が、「負圧推定部」の一例としても機能する。続いて、制御装置100は、上記ステップS14で算出した燃料系学習値Zに基づき、ステップS24で算出した吸気負圧の推定値PEを補正する(ステップS25)。例えば、機関運転に用いられているCNGが高水準CNGである場合、吸気負圧の推定値PEが増大補正される。また、機関運転に用いられているCNGが低水準CNGである場合、吸気負圧の推定値PEが減少補正される。そして、機関運転に用いられているCNGが標準CNGである場合、吸気負圧の推定値PEは補正されない。したがって、この点で、制御装置100が、機関運転に用いられているCNGの性状が燃焼効率の高い性状であるときほど、吸気負圧の推定値PEを大きくする「負圧補正部」の一例としても機能する。
【0041】
そして、制御装置100は、算出した吸気負圧の推定値PEが判定値PTh以下になったか否かを判定する(ステップS26)。吸気負圧の推定値PEが判定値PThよりも大きい場合(ステップS26:NO)、制御装置100は、負圧回復処理を開始させることなく、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、吸気負圧の推定値PEが判定値PTh以下になった場合(ステップS26:YES)、制御装置100は、負圧回復処理を開始し(ステップS27)、その後、本処理ルーチンを終了する。
【0042】
次に、本実施形態の制御装置100を備える車両の作用について説明する。
CNGを用いた機関運転時にあっては、吸気負圧の推定値PEが算出される。この吸気負圧の推定値PEは、機関運転に用いているCNGの性状に見合った値となっている。そのため、機関運転に用いているCNGが高水準CNGである場合、CNGの性状に応じて吸気負圧の推定値PEを補正しない場合と比較して、吸気負圧の推定値PEが大きくなるため、負圧回復処理が開始されにくくなる。すなわち、実際の吸気負圧が未だ大きく、ブースタ装置32によるブレーキ操作力の助勢効率が許容範囲に収まっている段階で、負圧回復制御が開始されることが抑制される。
【0043】
一方、機関運転に用いているCNGが低水準CNGである場合、CNGの性状に応じて吸気負圧の推定値PEを補正しない場合と比較して、吸気負圧の推定値PEが小さくなるため、負圧回復処理が早期に開始されるようになる。すなわち、実際の吸気負圧が既に小さく、ブースタ装置32によるブレーキ操作力の助勢効率が低くなっているにも拘わらず、負圧回復制御が実施されないという事象が生じにくくなる。
【0044】
こうして負圧回復処理が開始されると、機関運転が、CNGを用いた機関運転からガソリンを用いた機関運転に切り替わる。そして、吸気通路18にガソリンが噴射されるようになると、一回の燃料噴射量が少なくなる分、吸気負圧Pが大きくなる。その結果、ブースタ装置32の負圧室322の圧力が減圧され、ブースタ圧が大きくなる。これにより、ブースタ装置32によるブレーキ操作力の助勢効率の低い状態が解消される。
【0045】
以上、上記構成及び作用によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、クランク軸14の回転速度NEとスロットル開度THとの関係に基づいて算出した吸気負圧の推定値PEが、機関運転に用いられているCNGの性状に応じて補正される。このように使用中のCNGの性状を加味することにより、吸気負圧の推定値PEを、実際の吸気負圧に近づけることができる。したがって、吸気負圧Pの推定精度を高くし、負圧回復処理の開始タイミングの適正化を図ることができる。
【0046】
(2)また、負圧回復処理の開始タイミングを決定するための判定値PThが車速Vに応じて決定される。そのため、車速Vが大きく、運転者が車両に対して大きな減速度(制動力)を要求する可能性が高いほど、負圧回復処理を早期に開始させることができる。
【0047】
(3)また、判定値PThは、大気圧APに応じて補正される。そのため、大気圧APが低く、ブースタ圧が大きくなりにくいときほど、負圧回復処理を早期に開始させることができる。したがって、大気圧APが低いときでも、ブースタ装置32によるブレーキ操作力の助勢効率の低下を適切に解消することができる。
【0048】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・大気圧APの変動に起因するブースタ圧の変動が許容範囲内で収まるのであれば、大気圧APに応じた判定値PThの補正を行わなくてもよい。こうした構成であっても、上記(1),(2)と同等の効果を得ることができる。
【0049】
・判定値PThを車速Vによらず決定するようにしてもよい。この場合、判定値PThを大気圧APに応じて可変とすることにより、上記(1),(3)と同等の効果を得ることができる。
【0050】
・判定値PThは、車速Vや大気圧APによらず決定するようにしてもよい。すなわち、判定値PThを所定値で固定してもよい。この場合であっても、上記(1)と同等の効果を得ることができる。
【0051】
・スロットル開度THは、アクセル開度ACが大きいほど大きくなりやすい。そのため、スロットル開度THの代わりに、アクセル開度ACを用いて吸気負圧の推定値PEを算出するようにしてもよい。こうした構成であっても、上記(1)と同等の効果を得ることができる。
【0052】
・上記実施形態では、機関運転に用いているCNGが、標準CNGであるか、高水準CNGであるか、低水準CNGであるかによって、吸気負圧の推定値PEを補正している。しかし、このように複数段階によって吸気負圧の推定値PEを補正するのではなく、機関運転に用いているCNGが、燃焼効率の高いCNGであるときほど、吸気負圧の推定値PEを次第に大きくするようにしてもよい。
【0053】
・車両の中には、例えば、
図5に示すように、ブースタ装置32の負圧室322を減圧させるための電動ポンプ40が設けられているものがある。こうした車両の制御装置100で実施する負圧回復処理は、CNGを用いた機関運転からガソリンを用いた機関運転に切り替える処理に加え、電動ポンプ40の作動によって負圧室322を減圧させる処理を含んでもよい。
【0054】
また、このように電動ポンプ40が設けられる車両は、CNGを用いた機関運転のみを行うモノフューエル型の内燃機関を搭載する車両であってもよい。この場合の負圧回復処理は、電動ポンプ40を作動させる処理となる。
【0055】
・負圧回復処理は、吸気負圧を大きくすることができる処理であれば、CNGを用いた機関運転からガソリンを用いた機関運転に切り替える処理以外の他の処理を含んでもよい。例えば、負圧回復処理は、スロットル開度THを小さくすることにより、吸気負圧Pを大きくする処理を含んでもよい。また、負圧回復処理は、点火時期を遅角させる処理を含んでもよい。
【0056】
次に、上記実施形態及び別の実施形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)上記車両の制御装置は、前記内燃機関の燃焼室で燃焼された混合気の空燃比を算出する空燃比算出部と、機関運転に用いられている気体燃料の性状を学習する性状学習部と、を備えてもよい。そして、前記性状学習部は、前記空燃比算出部によって算出された空燃比と目標空燃比との関係により一回の気体燃料の噴射量が増大補正されているときには、機関運転に用いられている気体燃料の燃焼効率が低いとする一方、前記空燃比算出部によって算出された空燃比と目標空燃比との関係により一回の気体燃料の噴射量が減少補正されているときには、機関運転に用いられている気体燃料の燃焼効率が高いとするようにしてもよい。この場合、前記負圧補正部は、前記性状学習部による学習結果に基づき、前記負圧推定部によって算出された吸気負圧の推定値を補正することが好ましい。