特許第6145443号(P6145443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6145443輻射シールド、極低温ユニットおよびクライオポンプ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6145443
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】輻射シールド、極低温ユニットおよびクライオポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04B 37/16 20060101AFI20170607BHJP
   F04B 37/08 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   F04B37/16 C
   F04B37/08
   F04B37/16 A
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-249687(P2014-249687)
(22)【出願日】2014年12月10日
(62)【分割の表示】特願2011-516814(P2011-516814)の分割
【原出願日】2009年6月30日
(65)【公開番号】特開2015-45340(P2015-45340A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2015年1月8日
(31)【優先権主張番号】61/133,623
(32)【優先日】2008年7月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505047094
【氏名又は名称】ブルックス オートメーション インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100144082
【弁理士】
【氏名又は名称】林田 久美子
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(72)【発明者】
【氏名】ボール−ディファジオ・ドリーン・ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン・ウィリアム・エル
(72)【発明者】
【氏名】モリス・ロナルド・エヌ
(72)【発明者】
【氏名】サリバン・ロバート・ピー
【審査官】 所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04212170(US,A)
【文献】 特開平10−073077(JP,A)
【文献】 特開平05−312149(JP,A)
【文献】 特開2005−069209(JP,A)
【文献】 米国特許第04691534(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 37/16
F04B 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クライオポンプにおける極低温に冷却された表面を遮蔽する輻射シールドであって、
第1のシート材と、
第2のシート材と、
を備え、
前記第1のシート材と第2のシート材とが互いに冶金接合されてクラッドシート構造体を形成し、
前記第1のシート材は極低温に冷却された前記表面に面し、
前記第2のシート材は極低温に冷却された前記表面と反対側の表面に面しており、
記第1のシート材がアルミニウム製である、クライオポンプ用の輻射シールド。
【請求項2】
クライオポンプにおける極低温に冷却された表面を遮蔽する輻射シールドであって、
第1のシート材と、
第2のシート材と、
を備え、
前記第1のシート材と第2のシート材とが互いに冶金接合されてクラッドシート構造体を形成し、
前記第1のシート材は極低温に冷却された前記表面に面し、
前記第2のシート材は極低温に冷却された前記表面と反対側の表面に面しており、
記第1のシート材が銅製である、クライオポンプ用の輻射シールド。
【請求項3】
クライオポンプにおける極低温に冷却された表面を遮蔽する輻射シールドであって、
第1のシート材と、
第2のシート材と、
を備え、
前記第1のシート材と第2のシート材とが互いに冶金接合されてクラッドシート構造体を形成し、
前記第1のシート材は極低温に冷却された前記表面に面し、
前記第2のシート材は極低温に冷却された前記表面と反対側の表面に面しており、
記第2のシート材がステンレス鋼製である、クライオポンプ用の輻射シールド。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項において、前記第2のシート材が前記第1のシート材の外側に位置したカップ状に形成されている、クライオポンプ用の輻射シールド。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項において、前記第2のシート材が、低放射率の表面部を有する、クライオポンプ用の輻射シールド。
【請求項6】
請求項5において、前記第2のシート材が、コーティングにより、低放射率の表面部を有している、クライオポンプ用の輻射シールド。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか一項において、前記第1のシート材が、高放射率の表面部を支持している、クライオポンプ用の輻射シールド。
【請求項8】
請求項7において、前記第1のシート材が、コーティングにより、高放射率の表面部を有している、クライオポンプ用の輻射シールド。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか一項において、1つのシート材が高い熱伝導率を有する、クライオポンプ用の輻射シールド。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、2008年7月1日付出願の米国仮特許出願第61/133,623号の利益を主張するものである。
【0002】
上記米国仮特許出願の全教示内容は、参照によって本願に組み入れたものとする。
【技術分野】
【0003】
真空作業チャンバは、半導体ウェハ製造、電子顕微鏡法、ガスクロマトグラフ分析法などの種々の作業用の真空雰囲気を提供するために、製造業においてよく利用される。一般的に、このような真空作業チャンバには、フランジや導管などの真空接続手段を介して真空ポンプが取り付けられる。真空ポンプによって作業チャンバからほぼ全ての分子が取り除かれて、真空雰囲気が形成される。
【0004】
極低温真空ポンプ(クライオポンプとも称される)には、冷凍機構によって低温に冷却された凝縮面に、多くの種類の気体(ガス)を凝縮させる低温を得るために冷凍機構が用いられている。クライオポンプの一種として、本願と同一の譲受人に譲渡された、1999年1月26日付発行の特許文献1に開示されたものが挙げられる。同特許文献に開示されているような種類のクライオポンプには、コールドフィンガを10K(ケルビン)付近の温度にまで冷却することのできる、二段式のヘリウム冷凍機が使用される。
【0005】
一般的なクライオポンプは、第二段に、通常4〜25K(ケルビン)の温度で動作する、低温アレイ(極低温アレイ)で構成された主な排気面を有する。この主な排気面は、それよりも高い温度の通常60〜130K(ケルビン)で動作する輻射シールドによって囲まれており、この輻射シールドにより、上記低温アレイは輻射熱から遮蔽される。一般的な輻射シールドはハウジングを形成しており、そのハウジングは、一部の開口を除いて閉じた形状をしている。その開口には、主な排気面と真空排気される作業チャンバとの間に位置することによって先行して排気を行う、前部アレイが配置されている。
【0006】
通常運転時には、まず、水蒸気などの高沸点気体が、上記前部アレイにおいて凝縮される。低沸点気体は、前部アレイを通過して輻射シールド内の体積空間に進入し、前述の低温アレイで凝縮する。当該体積空間内には、例えば、低温アレイ以下の温度に設定されてチャーコールやモレキュラーシーブなどの吸着材によって被覆された排気面が、水素などの極低沸点気体を除去する目的で設けられる。これらの排気面に気体を凝縮および/または吸着させることにより、前述の作業チャンバ内において真空雰囲気を維持することができる。
【0007】
輻射シールドは、例えば、極低温アレイの熱負荷を最小限に抑えるために当該極低温アレイの周囲に配置される。その場合の形状は、極低温アレイを取り囲むような閉じた形状であってもよい。また、輻射シールドには、ルーバーやシェブロンを介して真空雰囲気の作業チャンバに流体連通するものもある。
【0008】
極低温アレイおよび輻射シールドは非常に低い温度に冷却されるので、その低い温度の表面への熱の流れは、最小限に抑えられるのが理想的である。不必要な熱は、クライオポンプを冷却するのに必要な時間の増加や、クライオポンプのヘリウムガスの消費の増加や、クライオポンプの最低温度の変化を招来する。
【0009】
クライオポンプは、使用後数日または数週間経つと、クライオパネル(極低温パネル)に凝縮する気体、特に吸着排気される気体によって飽和状態に到達し始める。そうなると、クライオポンを昇温させて真空システムから気体を放出・除去する再生処理を実行しなければならない。このとき、液化気体の気化によってクライオポンプ内の圧力が増加するので、安全弁やその他の排気用の弁または導管から気体を排出させる。クライオポンプの再生運転時には、暖かい窒素ガスによるパージがたびたび行われる。窒素ガスは、クライオパネルの昇温を速め、かつ、水やその他の蒸気を排出する役割も果たす。窒素は不活性であり且つ水蒸気を含まないため、パージ用の気体として普及している。一般的に、パージに用いられる窒素は、クライオポンプに接続された導管(配管)及びパージ弁を介して窒素貯蔵容器から供給されるか、または液体窒素源からのボイルオフによって供給される。
【0010】
パージ後のクライオポンプは、気体の熱伝導による熱伝達を減少させるために、極低温排気面およびコールドフィンガの周辺を粗引き排気によって真空にして、再び通常の動作温度域にまで冷凍機を冷却させる。一般的に使用される粗引きポンプは、導管(配管)によって粗引弁に接続された機械式のポンプであり、その粗引弁を介してクライオポンプに取り付けられている。
【0011】
再生処理の制御は、コールドフィンガのヒートステーションに接続された温度計によって容易になされる。クライオポンプには電離真空計が用いられているものもあるが、熱電対を流れる電流からの火花がクライオポンプ内のガスに引火する可能性があり、一般的に推奨されていない。ポンプに取り付けられた温度センサおよび/または圧力センサは、電気リード線を介して温度表示器および/または圧力表示器に接続されている。
【0012】
再生運転の制御は、例えば、冷凍機を手動で電源をオン/オフしたり、パージ弁および粗引弁を手動制御したりすることで行われるが、より洗練されたシステムでは、個々の再生運転コントローラまたは統合型の再生運転コントローラによって制御が行われる。そして、コントローラからの各リード線が、それぞれ、センサ、冷凍機のモータ、および弁に接続されて作動される。
【0013】
コントローラは、加熱素子を調節することにより、冷却運転時または再生運転時のクライオポンプの冷凍機構、ヒートステーション、および極低温排気面の温度を制御する。
【0014】
クライポンプには、第二段の低温アレイを備えていないものもある。このような単段式のクライオポンプの主な排気面は、二段式のクライオポンプの前部アレイと同様の温度で動作する。このように単段式の高い動作温度では、輻射熱から冷凍機構を遮蔽するための輻射シールドを必要としない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第5862671号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本願発明は、クライオポンプの温度制御を行う新しい方法およびそのために改良されたクライオポンプの構成品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の実施形態において、極低温ユニットであるクライオポンプの輻射シールドは、高い熱伝導性を有する第1のシート材と高反射率(低放射率)を有する第2のシート材とをクラッド法で互いに接合したもので構成される。第1のシート材および第2のシート材で構成されるクラッド構造体は、筒状の外側の表面部が高反射率の材料で形成された、略筒壁を有するカップ状とされる。このカップ状の構造体の内側の表面部を形成する材料を第1のシート材とし、当該第1のシート材を高放射率を有する材料とする。第1のシート材は、例えば、アルミニウムでも銅でもよい。第2のシート材は、例えば、ステンレス鋼である。
【0018】
クライオポンプの構成品(例えば、冷凍機、輻射シールド、クライオアレイ)に、冷却運転時または再生運転時において温度を制御する薄層の加熱素子を設けてもよい。この薄層の加熱素子は、クラッド構造体である輻射シールドもしくはクライオアレイに設けられた抵抗層、薄膜の加熱素子、フォイル状の加熱素子、吹付け形成された抵抗性材料、またはパターン形成された抵抗パターンなどを含む。なお、加熱素子は、再生運転時において、極低温の液溜まりをボイルオフするように構成されてもよい。薄層の加熱素子を、輻射シールドまたはクライオパネルにおける液溜まりの位置に直接設けることにより、その液溜まり物質の気化を促進することができる。液溜まり物質は再生時間を長くするので、液溜まり物質の位置に薄層の加熱素子を設けることにより、熱エネルギーを効率的に利用することができる。
【0019】
クラッド構造体である輻射シールドの第1のシート材または第2のシート材を、高い抵抗値を有するものとしてもよい。また、高い抵抗値を有する方のシート材を、絶縁層によって電気的に絶縁してもよい。高い抵抗値を有する方のシート材を、電流を印加することで活性化されて抵抗加熱体となるように構成してもよい。また、輻射シールドは、さらに、高い抵抗値を有する第3のシート材を備えていてもよい。なお、クラッドシート構造体は、第1のシート材と第2のシート材との間に第3のシート材が位置するようにしてこれら3つのシート材が互いに接合形成されたものであってもよい。第3のシート材に電流を印加して抵抗加熱体としてもよい。第3のシート材は、2つの絶縁層によって電気的に絶縁されたものであってもよい。
【0020】
また、クライオアレイ部材(例えば、極低温排気を行うクライオパネル表面部、クライオパネルを支持するブラケットなど)も、2つ以上のシート材で構成されたものとしてもよい。2つのシート材の一方を、高い抵抗値を有するものとしてクライオパネル部材に対する抵抗加熱体としてもよい。2つのシート材の間に、電気絶縁層を設けてもよい。あるいは、クライオパネルのアレイ部材を、上方のシート材、下方のシート材および高い抵抗値のシート材で構成する、複数層のクラッドシート構造体を有するものとしてもよい。高い抵抗値のシート材は、前記上方のシート材と下方のシート材との間に設けられ2つの絶縁シート材によって絶縁されたものであってもよい。
【0021】
輻射シールドは、抵抗パターンによって被覆(コーティング)されたものであってもよい。この抵抗パターンに電流を印加することで、抵抗加熱体としてもよい。なお、抵抗パターンは、絶縁層によって電気的に絶縁されたものであってもよい。クライオパネルのアレイ部材の上側の表面部または下側の表面部に、抵抗加熱体として構成された抵抗パターンの形態のコーティングを設けてもよい。
【0022】
他の実施形態では、クライオポンプの取付の向きに対応できるように、輻射シールドにおける複数の領域において、複数の薄膜の加熱素子が別々に設けられている。姿勢センサ(向きを感知するセンサ)が向きを自動的に感知することにより、再生運転時に液体溜まりに位置する加熱素子のみに通電され、活性化される。
【0023】
他の実施形態では、クライオアレイ部材(例えば、クライオパネル、ブラケットなど)に、薄層の加熱ヒータが直接取り付けられて気体(ガス)が凝縮または吸着される領域を直接加熱する。この薄層の加熱ヒータは、薄膜の形態、フォイル状の形態、または吹付け形成された抵抗性材料などを含む。薄層の加熱ヒータは、クライオパネルにおける、気体(ガス)が凝縮される表面、または吸着材の取り付けられた表面に設けられてもよい。薄層の加熱素子は、アレイのディスクの裏側に取り付けられてもよい。
【0024】
他の実施形態において、薄層の加熱ヒータは、極低温運転時または再生運転時に温度制御の必要に応じて均一な加熱または選択的な加熱をする、複数の加熱素子からなる。選択的な制御は、例えば、設置前、設置時、または運転条件が変化する際に、手動でまたはプログラミングでなされる。
【0025】
他の実施形態において、クライオポンプは、温度段である第一段および第二段を有する冷凍機を備える。加熱素子は、各段内において、温度制御および構造支持体の両方を行うように構成されている。加熱素子は、クライオポンプの構造体構成品として形成された、セラミック加熱素子であってもよい。また、加熱素子は、抵抗加熱体として構成された輻射シールドであってもよい。クライポンプは、一つの温度段しか備えていないもの(単段式)であっても、複数の温度段を備えているもの(多段式)であってもよい。
【0026】
各実施形態において、加熱にかかる解決手段の制御は、手動で行われてもよいし、個々のコントローラ、統合型のコントローラ、またはホストコントローラによって自動的に行われてもよい。このコントローラは、ヒータからの熱量を調節することにより、クライオポンプの輻射シールド、クライオパネル部材、または構造支持体の温度を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】クライオポンプの側面図である。
図2】本発明の実施形態にかかる、クラッドシート構造体で構成された輻射シールドを示す図である。
図3A】本発明の実施形態にかかる、温度制御用の加熱方法を利用した輻射シールドを示す図である。
図3B】本発明の実施形態にかかる、高い熱伝導性を有する中間層を含む輻射シールドを示す図である。
図3C】本発明の実施形態にかかる、図3Aの温度制御用の加熱方法を利用したクライオパネルの断面図である。
図3D】本発明の実施形態にかかる、図3Bの高い熱伝導性を有する中間層を含んだクライオパネルの断面図である。
図4】本発明の実施形態にかかる、構造体としてのセラミック加熱素子を含む、クライオポンプの構成品を示す図である。
図5】本発明の実施形態にかかる、薄層の加熱素子を含む、クライオポンプの第二段を示す図である。
図6A】本発明の実施形態にかかる、液溜まりを防止するための薄層の加熱素子を備えた輻射シールドを示す図である。
図6B】本発明の実施形態にかかる、液溜まりを防止するための薄層の加熱素子を備えた他の輻射シールドを示す図である。
図7】本発明の実施形態にかかる、薄層の加熱素子を備えたウォーターポンプを備える図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
前述の内容は、添付の図面を用いて行う本発明の実施形態についての以下の詳細な説明から、より明らかになる。異なる図をとおして、同一の符号は同一の構成要素または部位を指すものとする。図面は必ずしも縮尺どおりではなく、むしろ、本発明の実施形態を示すことに重点を置いている。
【0029】
本発明の本発明の実施形態についての説明を以下で行う。
【0030】
図1に、先行技術の典型的なクライオポンプを示す。クライオポンプ20は、駆動用のモータ40およびクロスヘッドのアセンブリ42を備える。クロスヘッドは、モータ40の回転運動を二段式のコールドフィンガ(冷凍機)44内のディスプレーサの往復運動に変換すると共に、吸気バルブ及び排気バルブの開閉動作も担う。サイクル毎に、加圧されたヘリウムガスが吸気用の導管(配管)46からコールドフィンガに導入され、膨張して冷却され、これにより、コールドフィンガは極低温域に保持される。ディスプレーサの熱交換マトリクスによって暖められたヘリウムガスは、排気用の導管48を介して排気される。
【0031】
第一段のヒートステーション50は、冷凍機の第一段52の低温側端部に取り付けられている。同様に、第二段のヒートステーション54は、冷凍機の第二段56の低温側端部に取り付けられている。好適な温度センサ素子58,60が、それぞれ、ヒートステーション50,54の後部(各ヒートステーション50,54における低温側の領域)に取り付けられている。極低温排気面である主な排気面は、ヒートシンク54に取り付けられたクライオパネル(極低温パネル)のアレイ(クライオアレイ)62である。このアレイ62は、米国特許第4,555,907号明細書に開示されているような複数のディスクを有する。アレイ62の表面部には、難凝縮性の気体を吸着するために、低温吸着材が設けられている。
【0032】
第一段のヒートステーション50には、カップ状の輻射シールド64が取り付けられている。また、輻射シールド64に設けられた開口部を通って、コールドフィンガの第二段が延びている。輻射シールド64は、主な排気面であるクライオパネルのアレイ62の側部および後部(前記開口部の周辺の領域)を取り囲み、輻射熱によるクライオパネルのアレイ62の加熱を最小限に抑えている。輻射シールド64の温度は40K(ケルビン)以上130K(ケルビン)以下としてもよい。クライオパネルの前部アレイ(先行して排気を行うアレイ)70は、主な排気面であるクライオパネルのアレイ62の輻射シールドとして、および水蒸気などの高沸点気体の極低温排気面として作用する。前部アレイ70のクライオパネルは、スポーク状のプレート74で連結された、同心のルーバーおよびシェブロン72の円状アレイを成す。このクライオパネルは、必ずしも複数の同心円状の構成品からなるものに限定されないが、輻射熱のシールド(輻射シールド)および高温側の極低温排気パネルとしての役割を有すると共に、低沸点気体を主な排気面のクライオパネルに通す通路として構成されているのが望ましい。クライオパネルの前部アレイ70は、輻射熱の軽減には効果的であるが、ルーバーやシェブロンによって気体の通流を妨げる可能性がある。
【0033】
図1には、さらに、電気加熱ユニットをチューブで密封封入した加熱素子センブリ69が示されている。この電気加熱ユニットは、冷却運転時または再生運転時の温度制御として、第1の加熱素子取付部71を介して第一段を加熱し、第2の加熱素子取付部73を介して第二段を加熱する。なお、第1の加熱素子取付部71は、第一段のヒートステーション50の外径側に取り付けられる。クライオポンプは、一般的に、フランジ22を有する導管(配管)を介して真空処理チャンバに取り付けられる。
【0034】
クライオポンプおよび真空システムの設計時や、それらの動作時に当たっては、クライオポンプの運転中の温度制御および温度維持について、特別な配慮が払われる。例えば、一実施形態では、再生運転時のクライオポンプの構成品は、液化気体の気化を加速するために加熱される。また、冷凍機のヒートステーション、輻射シールドやクライオパネル部材の温度を制御するために、加熱素子が用いられてもよい。
【0035】
一般的に、先行技術の輻射シールドは、高い熱伝導性を有する銅シート材を用いてカップ状に形成されている。その高い熱伝導性により、輻射シールドの熱が第一段のヒートシンクに素早く移動するので、輻射熱による第二段の加熱が抑えられる。輻射シールドは、互いに熱的な接合状態でヒートシンクに接続された複数の材料部で構成されたものであってもよいし、個々にヒートシンクに接続された複数の材料部で構成されたものであってもよい。
【0036】
輻射シールドは、一般的に、クライオポンプの第二段への輻射を軽減するための高放射率を有する内側の表面部と、真空容器から第一段への輻射熱の流れを軽減するための高反射率を有する外側の表面部とを備えるように製作される。先行技術の輻射シールドにおける高放射率の内側の表面部は、通常、銅シート材の内側の表面部を黒色に塗布することで得られる。低放射率および高反射率を有する外側の表面部は、一般的に、銅シート材の外側の表面部にニッケルめっき処理されている。ニッケルめっき処理は、一般的に、高価な電気めっき処理である。ニッケルめっきが施された外側の表面部に、その放射率をさらに低下させるための研磨処理またはバフ研磨処理を施してもよい。
【0037】
先行技術の銅ベースの輻射シールドは、20K(ケルビン)未満で動作する第二段の極低温凝縮排気用の構成品よりも高い温度(50〜150K(ケルビン))で動作する。クライオポンプでは、2つの段と段とが互いに独立しており、高温側の第一段の熱的性能は低温側の第二段の熱的性能ほど制約されないので、高温側の第一段の材料に、極低温系に適した標準的な材料(例えば、無酸素高電導銅[OFHC銅]やその他の銅)とは異なる材料を用いてもよい。
【0038】
図2に示す本発明の一実施形態では、クラッドシート構造体で構成された輻射シールド200が用いられる。クラッドシート構造体のクラッド層は、当該技術分野で周知の、機械的な接合、冶金的な接合、その他の接合方法、またはクラッド法によって形成されてもよい。これにより、電気めっき処理を用いなくてもよいので、コストの削減や、製造時の複雑性の減少を図ることができる。
【0039】
図2の輻射シールド200を構成するクラッドシート構造体は、外側の表面部201と内側の表面部203とを有する。外側の表面部201は、低放射率、高反射率および高い熱伝導性を有する。内側の表面部203は、高放射率、低反射率および高い熱伝導性を有する。このような構成により、外側の表面部201の輻射熱の吸収は最小限に抑えられ、また、内側の表面部203の輻射熱の吸収を最大限にすることができ、かつ、内側の表面部203からの第二段56、アレイ62およびヒートシンク54への輻射エネルギーの放出を最小限に抑えることができる。さらに、このような輻射シールドの構成により、高い熱伝導率を有する内側の表面部203から低温側のヒートシンク50(図1)へと、熱を伝導させることができる。
【0040】
本発明の実施形態において、内側の表面部203はアルミニウム製であり、外側の表面部201はステンレス鋼製である。一般的に、ステンレス鋼は、先行技術の輻射シールド系を構成する銅とは異なり、ニッケルコーティングやニッケルめっきなどのさらなる処理を必要としない。また、ステンレス鋼は、クライオポンプの運転時に輻射シールドが曝され得る腐食性の気体や液体に対し、銅よりも優れた耐性を有する。
【0041】
内側の表面部にアルミニウムを使用することは、銅を使用する先行技術の方法よりも有利である。輻射シールドの内側の表面部の材料としてアルミニウム、銅のいずれを用いた場合も、その表面部の放射率を向上させるために塗布処理が施されるものの、一般的に、塗布処理は、先行技術の銅製の輻射シールドよりもアルミニウムに良好に密着する。その上、先行技術の輻射シールドのニッケルめっきによる表面仕上げの後に、塗布処理の良好な密着性を得るには、複雑な処理が必要となる。なお、塗布処理の代わりに、あるいは、塗布処理に加えて、吹付けカーボンや、陽極酸化処理などのその他の表面処理によって内側の表面部の放射率を向上させるようにしてもよい。なお、コーティング処理によって、低放射率の表面部、高放射率の表面部のいずれも形成することができる。
【0042】
なお、アルミニウムの熱伝導性は銅のそれに及ばないものの、アルミニウムは銅よりも製造コストが低い。よって、アルミニウムを用いることで、先行技術の輻射シールド系よりも内側層(内側の表面部)をより厚く形成することができる。厚いアルミニウム層(厚層のアルミニウム)は、高い熱伝導率を有する。この高い熱伝導率により、輻射シールドから第一段のヒートシンク50への輻射熱の伝導効率を向上させると共に、第二段への輻射熱を抑制することができる。
【0043】
もちろん、クラッドシートの内側層(内側の表面部)203に銅を使用してもよい。このとき、外側の表面部として、ニッケルめっきの代わりにステンレス鋼を使用することにより、構造的に強固に支持することができる。これにより、内側の銅の層を薄くすることができる。薄い銅の層によって、輻射シールドの全体的な製造コストを減少させることができるので有利である。なお、必ずしも、内側の表面部を、高い熱伝導性を有する表面部としなくてもよい。
【0044】
なお、内側の表面部203または外側層(外側の表面部)201を、高い抵抗値を有するものとしてもよい。高い抵抗値を有する薄層(外側の表面部203または内側の表面部201)と他方の層(内側の表面部201または外側の表面部203)との間に絶縁層を設けることにより、前者の高い抵抗値を有する薄層を電気的に絶縁してもよい。高い抵抗値を有する内側層(内側の表面部)203または外側層(外側の表面部)201は、通電した際に抵抗加熱体(加熱素子)として構成されてもよい。
【0045】
他の実施形態において、輻射シールドは、温度制御を行うように構成された薄層の抵抗加熱ヒータとして作用する。図3Aに、クライオポンプの輻射シールド301を示す。電気接触部305,307が、輻射シールド301の電気的な抵抗層に接続されている。電流が、電気接触部305,307を介して電気的な抵抗層に直接印加される。この電気的な抵抗層は、例えば、輻射シールド301の内側の表面部306または外側の表面部308に設けられ、その抵抗加熱体(加熱素子)は、再生運転時に利用したり、温度制御に利用したりすることができる。
【0046】
輻射シールド301の内側の表面部306または外側の表面部308の全体に電流をまんべんなく導通させるように構成された、薄層で形成された抵抗パターンが設けられてもよい。また、電流が輻射シールド301の表面部の全体に一様に導通するように、抵抗パターンを輻射シールド301の表面部の全体に設けてもよい。なお、抵抗パターンを、蛇行形状に形成してもよい。あるいは、抵抗パターンを、輻射シールドの全体にわたって分布する、複数の局所的な領域に形成してもよい。例えば、抵抗加熱体は、再生運転時の液溜まりを防止するのに用いられる。また、抵抗パターンを、輻射シールドの表面部に対して電気的に絶縁してもよい。
【0047】
さらなる実施形態として、図3Bに、複数の層で構成された輻射シールド309を示す。輻射シールド309は、例えば、図2に関連して説明したものと同様の外側層(外側の表面部)311および内側層(内側の表面部)313を有する。輻射シールド309は、さらに、高い抵抗値を有する薄層の中間層315を備える。高い抵抗値を有する中間層315を内側層313および外側層311から電気的に絶縁するために、当該中間層315の両側に緩衝層314を設けてもよい。必要に応じて(適切な箇所に)吐出口を設けてもよい。
【0048】
図3Aを参考に説明したものと同様の電気接触部が、中間面部(中間層)315に形成されてもよい。中間層315は、例えば、薄層の抵抗パターンを用いたものである。この抵抗パターンは、局所的に形成されたものであってもそうでなくてもよい。なお、必ずしも、輻射シールドの内側の表面部(内側層)313、外側の表面部(外側層)311または中間面部(中間層)315に対して電流を直接印加する構成である必要はなく、輻射シールドに固定された薄層の加熱素子、または含浸によって輻射シールド内に形成された薄層の加熱素子に電流を印加する構成であってもよい。さらに言えば、輻射シールドを抵抗体として用いるのに、輻射シールドを必ずしもクラッド構造体とする必要はない。
【0049】
なお、クライオポンプの他の構成品、例えば、クライオパネルを有するクライオアレイ、クライオパネル同士を接続する構造ブラケット、またはクライオパネルを冷凍機に接続する構造ブラケットなどを、高い抵抗値を有する薄層および/または薄層の抵抗パターンを含むクラッド層として構成してもよい。
【0050】
図3Cに、4つのアレイ部材または4枚のディスク(a)〜(d)を含む、クライオパネルのアレイの断面319を示す。各アレイ部材は、上側の表面部323および下側の表面部325を有する。上側の表面部323または下側の表面部325に、抵抗パターンの形態である薄層のコーティングが設けられてもよい。この抵抗パターンに電流を流すと、抵抗加熱体(加熱素子)になり、これにより、クライオパネルのアレイの温度を制御することができる。なお、上側の表面部323および下側の表面部325はクラッドシート構造体としてもよい。また、上側の表面部323または下側の表面部325を、絶縁層で互いに隔てられた高い抵抗値を有する領域(層)としてもよい。この高い抵抗値を有する薄層は、電流の印加によって抵抗加熱体とすることができる。
【0051】
図3Dに、3つのアレイ部材または3枚のディスク(a)〜(c)を含む、クライオパネルの断面321を示す。各アレイ部材は、複数の層のクラッドシート構造体である。この複数の層のクラッドシート構造体は、上側の表面部326および下側の表面部329を有する。高い抵抗値を有する層328を、絶縁層327で電気的に絶縁して、上側の表面部326と下側の表面部329との間に設けてもよい。この高い抵抗値の薄層に電流を印加することにより、抵抗加熱することができる。
【0052】
図2図3Aおよび図3Bに示す輻射シールドの改良品は、加熱素子および構造支持体の両方の役割を果たすクライオポンプ部材として使用することができる。他の実施形態において、加熱制御は、構造支持体としての役割も果たすセラミック加熱素子を用いて行われる。このセラミック加熱素子は、一般的なプレート状のセラミック加熱素子であってもよいし、あるいは、クライオポンプの構成品(セラミック製の構成品)として形成されたものであってもよい。例えば、このクライオポンプのセラミック製の構成品は、複数のセラミック製のパーツを、熱源および構造体(例えば、ヒートシンクおよび/またはクライオパネルの取付具)の両方の役割を果たす一体的なクライオポンプ構成品としてモールドまたは製作したものである。上記のクライオポンプのセラミック製の構成品は、加熱機能に加えて、クライオパネルのアレイの気体凝縮面として使用されてもよい。
【0053】
図4に、温度制御および/または再生運転を加速することに利用される、クライオポンプのセラミック製の構成品を例示する。図4には、図1のコールドフィンガ44と同じく第一段403および第二段408で構成される、二段式のコールドフィンガ400が示されている。取付プレート401はクライオポンプ容器に接続される。コールドフィンガの第一段403はヒートシンク406を有しており、一般的には、このヒートシンク406に輻射シールドが取り付けられる。
【0054】
この実施形態において、ヒートシンク406は加熱用のリング部材407に取り付けられており、このリング部材407は、輻射シールドをさらに支持している。リング部材407は、セラミック製の材料で構成された、温度制御可能な部材であってもよい。つまり、リング部材407は、輻射シールドに対して構造的なさらなる支持を行うだけでなく、再生運転時の気化速度を上昇させることもできる。また、リング部材407は、図1に示す温度センサ58である熱センサの近傍に位置していることから、クライオポンプのあらゆる運転サイクルにおいて、ヒートシンクまたは輻射シールドの温度調節に利用可能である。
【0055】
コールドフィンガの第二段408は、一般的なプレート409の形態のセラミック加熱素子を備えていてもよい。加熱用のプレート409は、図1に示す第二段のヒートステーション54の近傍に設けられても、第二段のヒートステーション54自体に設けられてもよい。前述のリング部材407と同じく、加熱用のプレート409は、図1に示すクライオパネルのアレイ62および/または温度センサ60の被取付面とされることで、構造支持体としての役割を果たすことができる。なお、図1に示すコールドフィンガの形態は、トップエントリー型のコールドフィンガ(上下方向から挿入または装着するタイプ)であり、図4に示すコールドフィンガの形態は、サイドエントリー型のコールドフィンガ(横方向から挿入または装着するタイプ)である。加熱用のプレート409は、クライオポンプの運転サイクル時に温度制御を行えるように構成されてもよい。
【0056】
なお、クライオポンプのセラミック製の構成品とは、クライオポンプにおいて典型的に用いられる物品であり、例えば、セラミック製の構成品は、クライオパネルのアレイであってもよい。なお、クライオポンプでは、任意の数のセラミック製の構成品、または任意の数の一般的なプレート状のセラミック加熱素子が同時に使用されてもよい。
【0057】
他の実施形態において、温度制御は、クライオアレイ部材および/または冷凍機および/または輻射シールドの表面部に設けられた薄層の加熱素子によって行われる。この薄層の加熱素子は、フォイル状の加熱素子および/または薄膜の加熱素子および/または吹付け形成された加熱素子であってもよい。また、この薄層の加熱素子は、高い抵抗値を有するグラファイトを含むものであってもよい。このような薄層の加熱素子は、広い面積にわたって設けられるか、または複数の小さな加熱素子で構成されたものであってもよく、さらに、必要な動作電力が少なくて済むように、高い抵抗値の層を含んでもよい。薄層の加熱素子は、温度制御および/または再生運転の加速が望まれる輻射シールドや極低温排気面などにおける、局所的な表面部に用いられてもよい。薄層の加熱素子を用いる場合には、基板から当該加熱素子を電気的に絶縁する電気絶縁材料が必要となることがある。
【0058】
図5に、輻射シールド503を収容するクライオポンプ容器またはハウジング501を示す。なお、輻射シールド503は、クラッド構造体であってもクラッド構造体でなくてもよい。図5には、さらに、コールドフィンガの挿入部付近の副構成品506が示されており、この副構成品506は、図4に示すリング部材407を有してもよい。挿入部副構成品506から、第二段のコールドフィンガ(コールドフィンガの第二段)507が延びている。コールドフィンガ507の端部に、クライオパネルのアレイ62が設けられてもよい。薄層の加熱素子509は、任意の数のクライオアレイ部材62に設けられるか、ヒートステーション54に設けられる。例えば図1に示すように、薄層の加熱素子511を第二段のヒートステーション54に設ける。
【0059】
薄層の加熱素子は、クライオポンプ容器またはハウジング501の表面部に沿って設けられてもよい。薄層の単一または複数の加熱素子が、ハウジング501の表面部の任意の箇所に設けられてもよい(例えば、薄層の加熱素子513,515)。薄層の加熱素子513,515は、クライオポンプの再生運転時にボイルオフ用の、さらなるエネルギーを供給するものとされてもよい。なお、薄層の加熱素子、輻射シールドおよびセラミック製の構成品によって行われる加熱は、コントローラ517によって調節される。
【0060】
他の実施形態において、薄層の加熱素子は、輻射シールドの表面部に設けられる。また、薄層の加熱素子は、再生運転時に液溜まりのボイルオフ用に形成されてもよい。図6Aに、輻射シールド603を収容するクライオポンプ容器601を示す。図6Aの例では、クライオポンプが垂直方向の向きに配置されていることから、液溜まりは輻射シールドの内壁の底面部に形成することになる。したがって、薄層の加熱素子605は、輻射シールド603の内壁の底面部に設けられる。
【0061】
図6Bに、クライオポンプが水平方向に配置された場合の、薄層の加熱素子を用いた液溜まりの防止例を示す。図6Bでは、輻射シールド603を収容するクライオポンプ容器601が水平方向の向きに配置されていることから、液溜まりの領域は、輻射シールド603の内面の側壁に形成されることになる。したがって、薄層の加熱素子605は、そのように液溜まりが形成される領域に設けられる。
【0062】
なお、本明細書で説明する温度制御方法は、圧縮器(コンプレッサ)、ターボ分子ポンプ、粗引きポンプ、ウォーターポンプ、冷凍機、弁、ゲージ(各種測定形)、およびその他の真空システムを含むように適用可能である。
【0063】
図7に、加熱素子730が取り付けられたアレイ720を備える、ウォーターポンプ700を示す。アレイ720は、流体導管712によって取り囲まれている。図6Aおよび図6Bの輻射シールド603と同じく、薄層の加熱素子(例えば、薄層の加熱素子722)が、通常運転時および再生運転時に温度制御を行うためにアレイ720の表面に沿って設けられてもよい。薄層の加熱素子(例えば、薄層の加熱素子724)は、再生運転時において温度制御を行うために流体導管712の表面に設けられてもよい。加熱用の薄い層である加熱素子722,724は、再生運転時に液溜まりが発生し得る複数の領域において動作するように、複数の加熱素子で構成されたものであってもよい。
【0064】
なお、任意の数の薄層の加熱素子が、セラミック加熱素子および/またはクラッド構造体の輻射シールドと共に用いられてもよい。また、複数の加熱素子が、互いに独立して制御されてもよい。例えば、輻射シールドは、当該輻射シールドの表面部またはクライオポンプ容器の表面部に設けられた複数の薄層の加熱素子を有していてもよい。また、重力センサを用いて、輻射シールドの向き(例えば、垂直方向や水平方向)を決定するようにしてもよい。輻射シールドの向きが決定されると、予測される液溜まり領域において気化させるのに適した薄層の加熱素子が、手動でまたは自動的に選択される。上記のような薄層は、再生運転時に液溜まりが形成されるクライオアレイの領域に用いられてもよい。ポンプの向きの特定は、クライオポンプを設置する際の初期設定のプログラミングで行われてもよい。向きの特定は、自動的に行われてもよいし、手動で入力されてもよい。なお、薄層の加熱素子は、液溜まり物質から自身を保護するための保護コーティング(例えば、カプトン(登録商標))を有していてもよい。
【0065】
また、個々の加熱素子は、互いに独立した役割を有するように構成されてもよい(例えば、ある加熱素子は、再生運転の用途のみに用いられてもよいし、極低温運転時の温度制御の用途のみに用いられてもよい)。なお、温度制御に関する前述のどの実施形態も、クライオポンプの運転時のホットスポット(高温の箇所)の発生を防止するか、またはその数を減少させるための温度センサと共に用いられてよい。
【0066】
なお、薄層の加熱素子は、単段式の極低温真空ポンプや、二段以上(多段式)のクライオポンプにも用いられてよい。
【0067】
なお、温度制御/再生運転の加速に関する前述の実施形態は、任意の数および/または任意の組合せで実施されてもよい。また、前述のどの実施形態も、二重または複数の目的(例えば、液溜まりの防止、温度制御、構造支持体、再生運転などのため)に用いられてよい。
【0068】
本発明を、実施形態に基づいて詳細に図示かつ説明したが、当業者であれば本発明の範囲を逸脱することなく形態や細部に対して様々な変更が可能であり、そのような変更は、添付の特許請求の範囲に包含される。上記の実施形態はつぎの態様1〜45を含む。
[態様1](出願当初の請求項1)
冷凍機と、
少なくとも1つの極低温排気面と、
前記排気面に接続された、少なくとも1つの薄層の電気的な加熱素子と、
を備える、極低温ユニット。
[態様2](同請求項2)
態様1において、前記少なくとも1つの薄層の加熱素子が前記排気面の温度を制御する、極低温ユニット。
[態様3](同請求項3)
態様1において、前記少なくとも1つの薄層の加熱素子が前記排気面に取り付けられている、極低温ユニット。
[態様4](同請求項4)
態様1において、前記薄層の電気的な加熱素子が、排気面を形成するクラッド構造体に設けられた、薄膜の加熱素子、フォイル状の加熱素子、吹付け形成された加熱素子、抵抗パターン、または抵抗層を有する、極低温ユニット。
[態様5](同請求項5)
態様1において、前記少なくとも1つの薄層の加熱素子が、前記排気面に対して電気的に絶縁されている、極低温ユニット。
[態様6](同請求項6)
態様1において、前記少なくとも1つの薄層の加熱素子が、前記排気面の重力方向における下方側領域に位置している、極低温ユニット。
[態様7](同請求項7)
態様6において、重力センサが、前記排気面の重力方向における下方側領域に位置している薄層の加熱素子を決定するのに使用される、極低温ユニット。
[態様8](同請求項8)
態様1において、さらに、
前記少なくとも1つの薄層の加熱素子を調節することによって当該極低温ユニットの温度を制御するコントローラ、
を備える、極低温ユニット。
[態様9](同請求項9)
態様8において、前記コントローラが、当該ユニットの向きを入力として受け取る、極低温ユニット。
[態様10](同請求項10)
態様1において、さらに、前記少なくとも1つの薄層の加熱素子を調節することによって前記極低温排気面の温度を制御するコントローラ、
を備える、極低温ユニット。
[態様11](同請求項11)
態様1において、前記薄層の加熱素子が、前記冷凍機のヒートステーションに位置している、極低温ユニット。
[態様12](同請求項12)
態様1において、さらに、輻射シールド、を備え、
前記少なくとも1つの薄層の加熱素子が、前記輻射シールドの温度を制御する、極低温ユニット。
[態様13](同請求項13)
態様12において、前記少なくとも1つの薄層の加熱素子が、前記輻射シールドの重力方向における下方側領域に位置している、極低温ユニット。
[態様14](同請求項14)
態様13において、重力センサが、前記輻射シールドの重力方向における下方側領域に位置している薄層の加熱素子を決定するのに使用される、極低温ユニット。
[態様15](同請求項15)
態様12において、さらに、前記輻射シールドに位置する少なくとも1つの薄層の加熱素子を調節することによって前記輻射シールドの温度を制御するコントローラ、を備える、極低温ユニット。
[態様16](同請求項16)
態様15において、前記コントローラが、当該ユニットの向きを入力として受け取る、極低温ユニット。
[態様17](同請求項17)
態様15において、前記少なくとも1つの薄層の加熱素子が、前記輻射シールドにおける別個の領域に設けられた加熱素子に選択的に通電するように構成されている、極低温ユニット。
[態様18](同請求項18)
態様1において、前記少なくとも1つの薄層の加熱素子が、当該極低温ユニットにおける別個の領域に設けられた加熱素子に選択的に通電するように構成されている、極低温ユニット。
[態様19](同請求項19)
態様1において、複数の温度段を備える、極低温ユニット。
[態様20](同請求項20)
少なくとも1つの薄層の電気的な加熱素子を備える、クライオポンプ用のクライオアレイ部材。
[態様21](同請求項21)
態様20において、前記薄層の電気的な加熱素子が、排気面を形成するクラッド構造体に設けられた、薄膜の加熱素子、フォイル状の加熱素子、吹付け形成された加熱素子、抵抗パターン、または抵抗層を有する、クライオポンプ用のクライオアレイ部材。
[態様22](同請求項22)
態様20において、少なくとも2つのシート材を互いに接合したクラッドシート構造体で構成される、クライオポンプ用のクライオアレイ部材。
[態様23](同請求項23)
少なくとも1つの薄層の電気的な加熱素子を備える、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様24](同請求項24)
態様23において、前記薄層の電気的な加熱素子が、当該輻射シールドを形成するクラッド構造体に設けられた、薄膜の加熱素子、フォイル状の加熱素子、吹付け形成された加熱素子、抵抗パターン、または抵抗層を有する、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様25](同請求項25)
態様23において、少なくとも2つのシート材を互いに接合したクラッドシート構造体で構成される、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様26](同請求項26)
態様25において、さらに、高い抵抗を有する第3の薄層のシート材、を備え、
前記第3のシート材が、前記クラッドシート構造体における前記第1のシート材と第2のシート材との間に接合され、抵抗加熱体として構成されている、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様27](同請求項27)
態様26において、前記第3のシート材が、前記第1と第2の2つのシート材に対して電気的に絶縁されている、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様28](同請求項28)
当該冷凍機に対して温度制御を行うように構成された薄層の加熱素子を備える、極低温冷凍機。
[態様29](同請求項29)
態様28において、前記薄層の電気的な加熱素子が、クラッド構造体に設けられた、薄膜の加熱素子、フォイル状の加熱素子、吹付け形成された加熱素子、抵抗パターン、または抵抗層を有する、極低温冷凍機。
[態様30](同請求項30)
冷凍機と、
少なくとも1つのクライオパネルと、
輻射シールドと、
を備え、
前記輻射シールドには、当該輻射シールドの温度を制御する少なくとも1つの薄層の加熱素子が設けられ、
前記薄層の加熱素子は、クラッド構造体に設けられた、薄膜の加熱素子、フォイル状の加熱素子、吹付け形成された加熱素子、抵抗パターン、または抵抗層を有する、クライオポンプ。
[態様31](同請求項31)
冷凍機と、
クライオアレイと、
を備え、
前記クライオアレイには、当該アレイの温度を制御する少なくとも1つの薄層の加熱素子が設けられ、
前記薄層の加熱素子は、クラッド構造体に設けられた、薄膜の加熱素子、フォイル状の加熱素子、吹付け形成された加熱素子、抵抗パターン、または抵抗層を有する、クライオポンプ。
[態様32](同請求項32)
第1のシート材と、
第2のシート材と、
を備え、
前記第1のシート材と第2のシート材とが互いに接合されてクラッドシート構造体を形成し、
前記第1のシート材は極低温に冷却された表面に面し、
前記第2のシート材は極低温に冷却された表面と反対側の表面に面している、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様33](同請求項33)
態様32において、前記第2のシート材が前記第1のシート材の外側に位置したカップ状に形成されている、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様34](同請求項34)
態様32において、前記第2のシート材が、低放射率の表面部を有する、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様35](同請求項35)
態様34において、前記第2のシート材が、コーティングにより、低放射率の表面部を有している、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様36](同請求項36)
態様32において、前記第1のシート材が、高放射率の表面部を支持している、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様37](同請求項37)
態様36において、前記第1のシート材が、コーティングにより、高放射率の表面部を有している、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様38](同請求項38)
態様32において、1つのシート材が高い熱伝導率を有する、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様39](同請求項39)
態様32において、前記第1のシート材がアルミニウム製である、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様40](同請求項40)
態様32において、前記第1のシート材が銅製である、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様41](同請求項41)
態様32において、前記第2のシート材がステンレス鋼製である、クライオポンプ用の輻射シールド。
[態様42](同請求項42)
少なくとも1つの段を有する冷凍機と、
極低温排気面に対して温度制御および構造支持体の両方を行うように構成された加熱素子と、
を備える、極低温ユニット。
[態様43](同請求項43)
態様42において、前記加熱素子がセラミック加熱素子である、クライオポンプ。
[態様44](同請求項44)
態様42において、前記加熱素子が輻射シールドを支持している、クライオポンプ。
[態様45](同請求項45)
態様42において、前記加熱素子がクライオアレイを支持している、クライオポンプ。
【符号の説明】
【0069】
20 クライオポンプ(極低温ユニット)
44 冷凍機(コールドフィンガ)
62,70 極低温排気面(クライオアレイ部材)
64,200,301 輻射シールド
201 第2のシート材
203 第1のシート材、
319,321 クライオパネル
323,325 加熱素子
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6A
図6B
図7