特許第6145513号(P6145513)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6145513アルブミン及びデキストランサルフェートを含む抗癌剤吸着能力の向上された生分解性マイクロビーズ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6145513
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】アルブミン及びデキストランサルフェートを含む抗癌剤吸着能力の向上された生分解性マイクロビーズ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/42 20170101AFI20170607BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20170607BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20170607BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20170607BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170607BHJP
   C08L 5/02 20060101ALI20170607BHJP
   C08L 89/00 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   A61K47/42
   A61K47/36
   A61K9/16
   A61K31/704
   A61P35/00
   C08L5/02
   C08L89/00
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-542954(P2015-542954)
(86)(22)【出願日】2013年11月15日
(65)【公表番号】特表2016-505530(P2016-505530A)
(43)【公表日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】KR2013010419
(87)【国際公開番号】WO2014077629
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2015年5月21日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0129722
(32)【優先日】2012年11月15日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515129331
【氏名又は名称】ユタ−イナ ディーディーエス アンド アドバンスト セラピューティクス リサーチ センター
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】キム・セユン
(72)【発明者】
【氏名】リ・ドンヘン
(72)【発明者】
【氏名】リ・イシャン
【審査官】 今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第07442385(US,B1)
【文献】 特表平09−505059(JP,A)
【文献】 特開昭52−047912(JP,A)
【文献】 特表平08−507806(JP,A)
【文献】 特表2009−538926(JP,A)
【文献】 International Journal of Pharmaceutics,2008年,Vol.351,p.219-226
【文献】 Journal of Controlled Release,1994年,Vol.31,P.49-54
【文献】 日本臨床 肺癌−基礎・臨床研究のアップデート−,2008年 8月28日,第66巻 増刊号6(通巻第941号),p.721-726
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 31/00− 31/33
A61K 33/00− 33/44
A61K 47/00− 47/69
A61P 1/00− 43/00
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)架橋剤を含有せず、架橋結合されてビーズの形態を有するアルブミンと、
(ii)前記アルブミン架橋物内に含まれた陰イオン性高分子のデキストランサルフェートと、
を含むことを特徴とする抗癌剤吸着能力の向上された生分解性マイクロビーズ。
【請求項2】
前記マイクロビーズが、前記陰イオン性高分子との静電気的引力によってビーズ表面に吸着された抗癌剤を追加的に含む請求項1に記載のマイクロビーズ。
【請求項3】
前記抗癌剤が、アントラサイクリン系抗癌剤である請求項2に記載のマイクロビーズ。
【請求項4】
前記アントラサイクリン系抗癌剤が、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ゲムシタビン、ミトザントロン、ピラルビシン及びバルビシンからなる群から選択される請求項3に記載のマイクロビーズ。
【請求項5】
前記抗癌剤が、イリノテカンである請求項2に記載のマイクロビーズ。
【請求項6】
前記マイクロビーズが、化学塞栓用マイクロビーズである請求項1に記載のマイクロビーズ。
【請求項7】
前記化学塞栓が、肝癌化学塞栓である請求項6に記載のマイクロビーズ。
【請求項8】
前記マイクロビーズの抗癌剤吸着能力が、マイクロビーズ1mL当り10mg〜100mgである請求項1に記載のマイクロビーズ。
【請求項9】
(a)アルブミン及び陰イオン性高分子のデキストランサルフェートの溶解されたビーズ製造用溶液をエマルジョン化し、マイクロサイズのバブルを形成させる工程と、
(b)工程(a)のマイクロサイズのバブルを架橋し、アルブミンが熱架橋により架橋結合されて、前記アルブミン架橋物内にデキストランサルフェートの含まれたマイクロビーズを形成させる工程と、
を含むことを特徴とする抗癌剤吸着能力の向上された生分解性マイクロビーズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤吸着能力の向上された生分解性マイクロビーズ、その製造方法及びこれを利用した癌治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近来、映像技術が発展して、体中に隠れている癌の正確な位置を探し出し、放射線照射、内視鏡手術など、多様な方法で除去することができるようになった。しかし、癌の位置を正確に発見したとしても、癌が全体臓器に広がっているか、他の臓器に付いている場合など、いろいろな理由によって手術的除去が不可能な場合がある。肝癌、膵臓癌などの場合、発見したとしても、手術的根治が不可能な場合が多い。
【0003】
現在、肝腫瘍の治療に最もよく施行されている施術である経動脈的化学塞栓術(Transaterial Chemoembolization、TACE)は、肝腫瘍に栄養を供給する動脈を探し、抗癌剤を投与した後、血管を塞ぐ治療法である。肝組織は、小腸及び大腸から肝臓へ向けて出ている門脈(portal vein)と大動脈から直接出る肝動脈を通じて酸素と栄養を供給してもらうが、正常肝組織は、主に門脈から、腫瘍組織は、主に肝動脈から血液を供給してもらう。したがって、腫瘍に影響を供給する肝動脈に抗癌剤を投与して血管を塞ぐと、正常肝組織に害を与えずに、腫瘍のみを選択的に壊死させることができる。この治療法は、癌の進行程度による制約がなくて適用範囲が広く、治療対象の制限が少ないなど、長所が多いため、現在肝癌治療率の向上に最も大きな寄与をしている方法である。化学塞栓術は、まず鼠径部に位置した大腿動脈にカテーターを挿入して肝動脈に接近した後、血管造影剤を注射し、腫瘍の位置、大きさ及び血液供給様相など、治療に必要な情報を得て、治療方針が決まると、約1mm程度の細い管をカテーターに挿入し、標的の動脈を探して施術する。
【0004】
現在、代表的にリピオドールを利用した肝塞栓法が臨床的に最も頻繁に応用されてきて、これを利用した特許技術も非常に多く報告されている。リピオドールは、構成成分としてヨードを多量含有しており、CT映像が可能であるという長所があって、施術の便宜性を提供する。しかしながら、ドキソルビシンをローディングするために、手術直前に薬物を溶かした注射液とオイル相のリピオドールを振とうして混合しなければならない短所がある。また、施術後、水相に溶けているドキソルビシンが肝癌部位で蓄積されず、急速に全身血に抜け出し、十分な抗癌効果が得られないだけではなく、患者の副作用も少なくないと臨床に報告されている。
【0005】
特許文献1は、ポリビニルアルコール(PVA)を架橋してマイクロサイズのパーチクルを製造した後、抗癌剤であるドキソルビシンをビーズの表面に電気的引力によって吸着させて肝癌部位に伝達することにより、持続的な抗癌剤の放出と塞栓効果を同時に達成する方法について記述している。このために、ポリビニルアルコールの架橋過程で陰イオン性単量体の2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパン−スルホン酸(AMPS)を架橋末端に共有結合させてポリマーを改質することにより、ドキソルビシンのような陽イオン性薬物を吸着することができるようにした。しかし、ポリビニルアルコールを利用した肝塞栓術は、架橋されたPVAが体内で分解されないため、肝腫瘍の壊死後、PVAビーズが体内に不特定に広がって炎症をおこすか、さらには、血管にのって他の臓器に広がり、脳血栓を起こすなどの問題がある。したがって、このような問題点を改善できる抗癌伝達体としての機能と血管塞栓機能を同時に達成できる薬物伝達体が要求される。
【0006】
また、マイクロビーズの製造時、通常的にグルタルアルデヒドなどの化学的架橋剤を使用してビーズを製造した。グルタルアルデヒドを利用して架橋した場合は、グルタルアルデヒドが体内に流入されると、組織の繊維化を起こす危険性があって、残留グルタルアルデヒドを5%の亜硫酸水素ナトリウムを利用して完全に中和させた後、蒸留水で数回洗浄しなければならない。したがって、グルタルアルデヒドを利用したマイクロビーズの製造工程は、前記グルタルアルデヒド除去工程により工程が複雑で非経済的であり、グルタルアルデヒドだけではなくビーズに吸着された抗癌剤まで除去され、結果的にビーズの抗癌剤吸着率を落としてしまう問題がある。
【0007】
本明細書全体にかけて多数の論文及び特許文献が参照されて、その引用が表示されている。引用された論文及び特許文献の開示内容は、その全体が本明細書に参照として取り込まれ、本発明の属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許7442385号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、従来の癌局所治療用マイクロビーズが有する、生体内で分解されない問題を解決し、マイクロビーズにより多い量の抗癌剤を吸着させることができて、製造工程が簡単で経済性の高いマイクロビーズの製造方法を開発するために鋭意研究した。その結果、ビーズの形態を形成する高分子物質としてアルブミンを使用して、抗癌剤をビーズの表面に吸着できるように、前記アルブミン架橋物中に陰イオン性高分子のデキストランサルフェートが含まれるようにマイクロビーズを製造することにより、本発明を完成した。また、アルブミンが熱架橋結合されたマイクロビーズを製造した後、ビーズの抗癌剤吸着能力を確認した結果、グルタルアルデヒドを架橋剤として使用して製造されたビーズより抗癌剤吸着能が著しく優れていることを確認することにより、本発明を完成した。
【0010】
したがって、本発明の目的は、抗癌剤吸着能力の向上された生分解性マイクロビーズを提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、抗癌剤吸着能力の向上された生分解性マイクロビーズの製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明のまた他の目的は、前記マイクロビーズを投与して癌を治療する方法を提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的及び利点は、発明の詳細な説明、請求の範囲及び図面により、さらに明確にされる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一様態によると、本発明は、(i)架橋結合されて、ビーズの形態を形成するアルブミンと、(ii)前記アルブミン架橋物内に含まれた陰イオン性高分子のデキストランサルフェートと、を含む、抗癌剤吸着能力の向上された生分解性マイクロビーズを提供する。
【0015】
本発明者らは、従来の癌局所治療用マイクロビーズが有する、生体内で分解されない問題を解決し、マイクロビーズにより多い量の抗癌剤を吸着させることができて、製造工程が簡単で経済性の高いマイクロビーズの製造方法を開発するために鋭意研究した。その結果、ビーズの形態を形成する高分子物質としてアルブミンを使用して、抗癌剤をビーズの表面に吸着できるように、前記アルブミン架橋物中に陰イオン性高分子のデキストランサルフェートが含まれるようにマイクロビーズを製造した。また、アルブミンが熱架橋結合されたマイクロビーズを製造した後、ビーズの抗癌剤吸着能力を確認した結果、グルタルアルデヒドを架橋剤として使用して製造されたビーズより抗癌剤吸着能が著しく優れていることを確認した。
【0016】
本発明の一具現例によると、前記マイクロビーズは、前記陰イオン性高分子との静電気的引力によってビーズ表面に吸着された抗癌剤を追加的に含む。
【0017】
一つの特定例において、前記抗癌剤は、アントラサイクリン系抗癌剤である。前記アントラサイクリン系抗癌剤には、例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ゲムシタビン、ミトザントロン、ピラルビシン及びバルビシンなどがある。
【0018】
他の特定例において、前記抗癌剤は、イリノテカンである。
【0019】
本発明の一具現例によると、本発明のマイクロビーズは、固形癌治療のための化学塞栓用ビーズである。
【0020】
一つの特定例において、本発明のマイクロビーズは、肝癌化学塞栓術(肝動脈塞栓術)用ビーズである。肝癌治療の他に適用可能な固形癌としては、直腸動脈を通じて直腸細胞癌腫を治療する方法が挙げられる(K.Tsuchiya,Urology.Apr;55(4):495−500(2000))。
【0021】
本発明のマイクロビーズは、構成成分としてアルブミン及びデキストランサルフェートを含む。前記アルブミンは、架橋結合されてマイクロビーズの形態を形成して維持する支持体としての役割をする。前記デキストランサルフェートは、陰イオン性高分子として架橋結合されたアルブミン内に含まれて、抗癌剤をビーズの表面に吸着させる役割をする。前記アルブミン及びデキストランサルフェートは、生体適合性高分子物質であって、体内で分解が可能であるため、従来のポリビニルアルコールを利用したビーズが有する、体内で分解されなくて発生する問題点、例えば、ポリビニルアルコールが不特定に広がって炎症を起こすか、血管にのって他の臓器に広がって脳血栓を起こすなどの問題点を解決することができる。
【0022】
本明細書で使用された用語、‘生分解性’とは、生理的溶液(physiological solution)に露出された時分解可能な性質を意味し、例えば、人間を始めとした哺乳動物の生体内で体液又は微生物などによって分解できる性質を意味する。
【0023】
本発明の一具現例によると、前記アルブミンは、生体細胞や体液中に広く分布されているタンパク質であって、動物性アルブミン及び植物性アルブミンを含む。
【0024】
一つの特定例において、前記動物性アルブミンは、オボアルブミン、血清アルブミン、ラクトアルブミン及びミオゲンを含み、前記植物性アルブミンは、ロイコシン(小麦)、レグメリン(えんどう豆)及びリシン(蓖麻子)を含む。前記アルブミンには、アルブミンの変異体も含まれる。
【0025】
本発明の一具現例によると、前記アルブミンの架橋は、熱架橋によるものである。下記実施例から確認されたように、アルブミンが熱架橋結合されたマイクロビーズは、グルタルアルデヒドを架橋剤として製造されたビーズに比べ、抗癌剤吸着能力が高く、体内に有害な化学的架橋剤を使用しないため身体適合性に優れており、化学的架橋剤の除去工程を省くことができ、経済的な利点が得られる(表2〜4参照)。
【0026】
本発明の他の具現例によると、前記アルブミンの架橋は、アルデヒド類架橋剤によるものである。一つの特定例において、前記アルデヒド類架橋剤は、グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、ジアルデヒドデンプン、コハク酸アルデヒド、アクリルアルデヒド、オキサルアルデヒド、2−メチルアクリルアルデヒド及び2−オキソプロパンアルからなる群から選択される。
【0027】
本発明の一具現例によると、本発明のマイクロビーズの抗癌剤吸着能力は、マイクロビーズ1mL当り10〜100mgである。一つの特定例では、マイクロビーズ1mL当り20〜60mgであり、他の特定例では、マイクロビーズ1mL当り20〜55mgであって、また他の特定例では、マイクロビーズ1mL当り20〜50mgである。
【0028】
本発明の一具現例によると、本発明のマイクロビーズの抗癌剤吸着能力は、熱架橋に代わってグルタルアルデヒド架橋剤を使用したことを除いては同一な条件で製造されたマイクロビーズに吸着された抗癌剤の量より20〜45%向上されて、一つの特定例では21〜43%、他の特定例では22〜42%、また他の特定例では、23〜41%向上される。
【0029】
本発明の一具現例によると、本発明のマイクロビーズは、徐放型特性を示す。下記実施例では、本発明のマイクロビーズにおいて、ドキソルビシンが一ヶ月にかけて徐々に溶出されることを確認した(図7参照)。
【0030】
本発明のマイクロビーズは、溶液と主にバイアルにパッケージングすることができて(湿式マイクロビーズ)、選択的に粉末化して利用することもできる(乾式マイクロビーズ)。
【0031】
本発明の他の様態によると、本発明は、
(a)アルブミン及び陰イオン性高分子のデキストランサルフェートの溶解されたビーズ製造用溶液をエマルジョン化し、マイクロサイズのバブルを形成させる工程と、
(b)工程(a)のマイクロサイズのバブルを架橋し、アルブミンが架橋結合されて、前記アルブミン架橋物内にデキストランサルフェートの含まれたマイクロビーズを形成させる工程と、
を含む、抗癌剤吸着能力の向上された生分解性マイクロビーズの製造方法を提供する。
【0032】
本発明の一具現例によると、本発明の方法は、工程(b)以後に、工程(b)のマイクロビーズに抗癌剤を接触させ、マイクロビーズのデキストランサルフェートの静電気的引力によって抗癌剤をビーズ表面に吸着させる工程(c)をさらに含む。
【0033】
本発明の一具現例によると、本発明の工程(a)のビーズ製造用溶液内アルブミンとデキストランサルフェートの組成比は、15〜50:10%濃度(W/V)である。ビーズ製造用溶液内アルブミンの量がデキストランサルフェートに比べて著しく少ない場合は、ビーズが堅固に形成されず、デキストランサルフェートの量がアルブミンに比べて著しく少ない場合は、抗癌剤の吸着効率が低下する。
【0034】
一つの特定例において、本発明の工程(a)のビーズ製造用溶液内アルブミンとデキストランサルフェートの組成比は、15〜45:10%濃度(W/V)であり、他の特定例では、15〜40:10%濃度(W/V)であって、また他の特定例では、15〜35:10%濃度(W/V)であり、また他の特定例では、15〜30:10%濃度(W/V)であって、また他の特定例では、20〜45:10%濃度(W/V)であり、また他の特定例では、20〜40:10%濃度(W/V)であって、また他の特定例では、20〜35:10%濃度(W/V)であり、また他の特定例では、20〜30:10%濃度(W/V)である。
【0035】
本発明の一具現例によると、本発明の工程(a)のビーズ製造用溶液のエマルジョン化は、天然オイル又は粘度増加剤を含有する有機溶媒を使用して行う。使用可能な天然オイルの例としては、MCTオイル、綿実油、玉蜀黍油、アーモンド油、あんず油、アボカド油、ババスヤシ油、カモミール油、カノラ油、ココアバター油、ココナッツ油、タラ肝油、コーヒー油、魚油、亜麻種油、ホホバ油、瓢箪油、ブドウ種子油、ヘーゼルナッツ油、ラベンダー油、レモン油、マンゴ種油、オレンジ油、オリーブ油、ミンク油、棕櫚油、ローズマリー油、ゴマ油、シアバター油、豆油、ヒマワリ油、及び胡桃油などが挙げられる。
【0036】
使用可能な有機溶媒としては、アセトン、エタノール及びブチルアセテートなどが挙げられる。前記有機溶媒は、適切な粘度を付与するために粘度増加剤を含む。前記粘度増加剤の例としては、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース系列のポリマーが挙げられる。好ましくは、前記粘度増加剤を含有する有機溶媒は、セルロースアセテートブチレートを含有したブチルアセテートである。
【0037】
本発明の一具現例によると、本発明の工程(a)のマイクロサイズのバブルは、マイクロ流体システム又はエンカプセレーターを利用して形成できる。マイクロ流体システムは、微細構造のチップを利用してビーズを製造する方法であって、大きい管の内部にそれより小さい管を位置させた後、互いに反対方向に水相と油相を流すと、相互張力によりビーズが形成される。即ち、ビーズ製造用溶液を内部流体として、それと同時に前記天然オイル又は有機溶媒(収集溶液)を外部流体として流すと、張力によりビーズが形成されて、これを再び収集溶液に収集し、架橋反応を通じてビーズを製造することができる。
【0038】
エンカプセレーションは、電気放射と類似した方法でノズルと収集溶液との間に電場を形成し、張力により生成される水玉を細かく割って、非常に小さい大きさの水滴に分散させることをその特徴とする。ビーズ製造用溶液を容量に合う注射器に移して、これを注射器ポンプに取り付けた後、エンカプセレーターと連結する。そして、収集溶液も容量に合うディッシュに移した後、攪拌機に位置させて、エンカプセレーターの環境を適切に設定した後、ビーズ製造用溶液を収集溶液に噴射し、バブルを形成させる。エンカプセレーターの条件は、流速1〜5mL/分、加える電力1,000〜3,000V、超音波2,000〜6,000Hz、回転数100rpm以下が好ましく、放出ノズルの大きさは、製造するビーズの大きさに合わせて選択して使用する。
【0039】
本発明の他の一具現例によると、本発明の工程(a)のマイクロ大きさのバブルは、ビーズ製造用溶液と収集溶液を混合した後、適切な回転数で攪拌する乳化法で製造することができる。この際、ビーズの大きさは、回転数と攪拌時間に依存する。適切な大きさのバブルが形成されると、前記収集溶液を加熱して、アルブミンの熱架橋によるマイクロビーズを形成させる。
【0040】
本発明の一具現例によると、アルブミンの架橋反応が完了するまで攪拌し続けて反応を維持し、反応が完了すると、収集溶液の洗浄のために過量のアセトンあるいはエタノールを利用してビーズを数回洗浄する。
【0041】
本発明の一具現例によると、本発明の工程(b)では、工程(a)で収得したマイクロサイズのバブルに熱を加え、アルブミンを熱架橋結合させてマイクロビーズの形態を形成させて、前記アルブミン熱架橋物にデキストランサルフェートが含まれるようにする。
【0042】
本発明の一具現例によると、前記熱架橋温度は、60〜160℃であり、熱架橋時間は、1〜4時間である。一つの特定例において、前記熱架橋温度は、80〜160℃であり、熱架橋時間は、1〜4時間である。
【0043】
本発明の一具現例によると、工程(b)でアルブミンが熱架橋結合された場合、工程(c)でマイクロビーズに吸着された抗癌剤の量は、熱架橋に代わってグルタルアルデヒド架橋剤を使用したことを除いては同一な条件で製造されたマイクロビーズに吸着された抗癌剤の量より20〜45%向上されて、一つの特定例では21〜43%、他の特定例では22〜42%、また他の特定例では、23〜41%向上される。
【0044】
本発明のまた他の様態によると、本発明は、架橋結合されて、ビーズの形態を形成するアルブミンと、前記アルブミン架橋物内に含まれた陰イオン性高分子のデキストランサルフェートと、前記陰イオン性高分子との静電気的引力によってビーズ表面に吸着された抗癌剤とを含む、抗癌剤吸着能力の向上された生分解性マイクロビーズを患者に投与する工程を含む癌治療方法を提供する。
【0045】
本発明によると、本発明のマイクロビーズを癌患者に投与し、化学塞栓を通じて癌を治療することができる。
【0046】
本発明の一具現例によると、前記患者は、肝癌患者であって、前記マイクロビーズは、患者の肝動脈に投与される。
【発明の効果】
【0047】
本発明の特徴及び利点を要約すると、以下の通りである:
(i)本発明は、抗癌剤吸着能力の向上された生分解性マイクロビーズ、その製造方法及びこれを利用した癌治療方法を提供する。
(ii)本発明のマイクロビーズは、生体適合性及び生分解性高分子で製造されて、人体に適用時安全であり、肝腫瘍に栄養を供給する血管を効果的に塞ぐと同時に、ビーズの表面に吸着されている抗癌剤を持続的に放出することにより、腫瘍の成長を有効に抑制させることができる。
(iii)本発明は、熱架橋を通じてマイクロビーズを製造することができ、このビーズは、化学的架橋剤を利用したマイクロビーズより優れた抗癌剤吸着能力を有して、体内に有害な化学的架橋剤を使用しないため身体適合性に優れており、化学的架橋剤の除去工程を省くことができ、経済的である。
(iv)したがって、本発明は、肝癌の化学塞栓術に有用に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1図1は、自己製作したマイクロ流体システムの概略図である。
図2図2は、組成1によって、マイクロ流体システムで製造したビーズの写真である。
図3図3は、組成1によって、エンカプセレーターで製造したビーズの写真である。
図4図4は、組成1によって、乳化法で製造したビーズの写真である。
図5図5は、ドキソルビシンの吸着されたアルブミン/デキストランサルフェートビーズの断面写真である。
図6図6は、デキストランサルフェートを含有しないドキソルビシン吸着アルブミンビーズの短期溶出挙動を示すグラフである。
図7図7は、ドキソルビシン吸着アルブミン/デキストランサルフェートビーズの長期溶出挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これら実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の範囲がこれら実施例に限定されないことは、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者にとって自明なことであろう。
【実施例】
【0050】
製造例:マイクロビーズの製造
1.マイクロビーズの組成
マイクロビーズの製造のためのアルブミン及び陰イオン性高分子の組成を下記表1に示した。
【0051】
【表1】
【0052】
2.マイクロ流体システムを利用したビーズの製造
図1に示したように、自己製作したマイクロ流体システムに、内部流体として前記組成1〜5の溶液を2mL/時間の流速で流し、収集溶液のMCTオイルを外部流体として10mL/時間の流速で流してビーズが形成されるようにした後、形成されたビーズを架橋剤のグルタルアルデヒドの含有された収集溶液に収集し、24時間架橋反応を行った。組成1によって、マイクロ流体システムで製造したビーズの写真を図2に示した。
【0053】
3.エンカプセレーターを利用した化学塞栓用ビーズの製造
前記組成1〜5のビーズをエンカプセレーター(B−390,BUCHI)を利用して製造した。製造条件は、流速1〜5mL/分間、加える電力1,000〜3,000V、超音波2,000〜6,000Hz及び回転数100rpm以下であった。放出ノズルの大きさは、製造するビーズの大きさに合わせて選択して使用した。製造されたビーズを収集溶液に収集して24時間架橋し、収集溶液として、セルロースアセテートブチレート(cellulose acetate butyrate)が5〜10%含有されたブチルアセテート又はヒドロキシプロピルメチルセルロースが含有されたアセトンを使用した。組成1によってエンカプセレーション法で製造したビーズの写真を図3に示した。
【0054】
4.エンカプセレーターを利用した化学塞栓用ビーズの製造
実施例3と同一な組成及び条件で進行したが、架橋剤を使用せず収集溶液を120℃で加熱することにより、タンパク質のアルブミンを熱架橋してビーズを形成した。反応時間は、2時間であった。
【0055】
5.乳化法を利用した化学塞栓用ビーズの製造
前記組成1〜5を収集溶液と混合して攪拌した。攪拌と同時に架橋剤のグルタルアルデヒドを添加した。反応は、24時間進行した。収集溶液は、セルロースアセテートブチレートが5〜10%含有されたブチルアセテート又はヒドロキシプロピルメチルセルロースが含有されたアセトンを使用した。組成1によって、乳化法で製造したビーズの写真を図4に示した。
【0056】
実験例1.ドキソルビシン吸着実験
ドキソルビシン吸着実験を下記のように行った。まず、50mgのドキソルビシンを2mLの蒸留水に溶解して、1mLのビーズを取ってドキソルビシン溶液に入れてよく混合した。20分間常温で放置した後、上澄み液を取って、紫外線分光器で483nmで吸光度を測定した。予め作成しておいた検量線に対比して濃度を計算すると、50mg/2mLのドキソルビシン溶液から抜け出したドキソルビシンの量を計算することができ、この値は、ドキソルビシンがビーズに吸着された量である。実験結果は、表2に示した。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示したように、組成1及び3ビーズのドキソルビシン吸着量は、グルタルアルデヒド及びEDC(ethyldimethylaminopropylcarbodimide)とNHS(N−hydroxysuccimide)を使用して架橋した場合、33〜35mg/mLであったが、熱を加えてタンパク質変性により形成された場合は、44〜46mg/mLであった。また、組成2及び4のビーズのドキソルビシン吸着量は、グルタルアルデヒドで架橋した場合、24〜26mg/mLであったが、熱を加えてタンパク質変性により形成された場合は、32〜34mg/mLであった。
【0059】
同一な方法でダウノルビシンとエピルビシンに対する吸着量を実験した結果、ドキソルビシンと同等な量を吸着することが確認された(表3)。
【0060】
【表3】
【0061】
実験例2.残留グルタルアルデヒド確認
架橋後、残留グルタルアルデヒドは、5%の亜硫酸水素ナトリウム(sodium hydrogensulfite)を利用して中和した。この際、処理回数によるグルタルアルデヒドの残留量を確認するために、0,1及び5回に分けて回当り30分間ずつ亜硫酸水素ナトリウムを処理した。以後、HPLCを利用して483nmで残留グルタルアルデヒドを確認した。各群によるドキソルビシンの吸着量も測定した。実験結果は、表4に示した。
【0062】
【表4】
【0063】
表4から確認できるように、中和が繰り返されるほどグルタルアルデヒドの残留量が減ったが、ドキソルビシンの吸着量も共に減少した。残留グルタルアルデヒドは、体内に流入される場合、組織の繊維化を起こす危険性がある。しかし、実験例1から確認できるように、アルブミンを加熱し熱架橋させてビーズを製造する場合は、残留グルタルアルデヒドの危険性がないばかりか、吸着能力が向上する効果が得られる(42〜46mg/mLのドキソルビシン吸着)。前記吸着能力は、現在製品化されて販売中の英国バイオコンパチブルス社のディーシービーズのドキソルビシン吸着能力(37mg/mL)を遥かに上回る性能である。また、産業的規模で大量製造時、グルタルアルデヒド中和工程が必要なく、工程が単純化される利点も得られる。
【0064】
実験例3.ドキソルビシン溶出実験
ドキソルビシン溶出を二つの群に分けて確認した。まず、基本的にビーズの溶出挙動を確認するためのアルブミン/デキストランサルフェートビーズ群と、陰イオン性高分子としてのデキストランサルフェートの影響力を確認するための、デキストランサルフェートを含有しないアルブミンビーズ群とに分けて確認した。実験方法は、以下のようである。ドキソルビシンで3.5mgに当るビーズを50mLコニカルチューブに入れて、溶出液(PBS、pH7.4)50mLを満たして37℃でインキュベーションした。溶出液は、回収時点で全て回収した後、新しい溶出液を入れ替えて、これによって溶出曲線を累積値で算出した。溶出された薬物の分析は、HPLCで行った。溶出結果は、図6及び7に示した。
【0065】
図6に示されたように、デキストランサルフェートを含有しないアルブミンビーズにも、タンパク質自体の極性によりドキソルビシンが吸着されるが、その溶出挙動が非常に速かった。その反面、図7に示されたように、デキストランサルフェートを含有するアルブミンビーズは、静電気的引力がさらに強いため、ドキソルビシンが一ヶ月にかけて徐々に溶出された。
【0066】
以上、本発明の望ましい具現例を詳細に記述したが、当業界の通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述はただ望ましい具現例に過ぎなく、これに本発明の範囲が限定されないことは明らかである。従って、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とその等価物により定義されると言える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7