特許第6145538号(P6145538)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6145538触媒を用いたシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジメチルの生物学的分割による(3aS,7aR)−ヘキサヒドロイソベンゾフラン−1(3H)−オンの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6145538
(24)【登録日】2017年5月19日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】触媒を用いたシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジメチルの生物学的分割による(3aS,7aR)−ヘキサヒドロイソベンゾフラン−1(3H)−オンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 17/04 20060101AFI20170607BHJP
   C12P 7/40 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   C12P17/04
   C12P7/40ZNA
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-109985(P2016-109985)
(22)【出願日】2016年6月1日
(62)【分割の表示】特願2013-512160(P2013-512160)の分割
【原出願日】2011年5月24日
(65)【公開番号】特開2016-182128(P2016-182128A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2016年6月24日
(31)【優先権主張番号】61/347,487
(32)【優先日】2010年5月24日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516077792
【氏名又は名称】ビージーピー プロダクツ オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロイド, マイケル チャールズ
【審査官】 市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 G.Sabbioni, et al,Journal of Organic Chemistry,1987年,Vol.52, No.10,p.4565-4570
【文献】 A.Goswami, et al,Organic Process Research & Development,2009年,Vol.13,p.483-488
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/00
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列番号3に記載のアミノ酸配列を含む酵素の存在下でシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジメチルを加水分解することを含む、(3aS,7aR)−ヘキサヒドロイソベンゾフラン−1(3H)−オンの製造方法。
【請求項2】
前記酵素は固定化された形態である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
少なくとも95%eeの(3aS,7aR)−ヘキサヒドロイソベンゾフラン−1(3H)−オンを製造する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
少なくとも98%eeの(3aS,7aR)−ヘキサヒドロイソベンゾフラン−1(3H)−オンを製造する、請求項1〜のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
列番号3に記載のアミノ酸配列を含む酵素の存在下でシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジメチルを加水分解することを含む、(1S,2R)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸の製造方法。
【請求項6】
前記酵素は固定化された形態である、請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
95%ee以上の(1S,2R)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸を製造する、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
98%ee以上の(1S,2R)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸を製造する、請求項のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(2S,3aR,7aS)−ベンジルオクタヒドロ−1H−インドール−2−カルボン酸塩酸塩の合成中間体である(3aS,7aR)−ヘキサヒドロイソベンゾフラン−1(3H)−オン(1)の製造方法に関する。
【0002】
【化1】
【背景技術】
【0003】
従来の合成方法ではブタ肝臓エステラーゼを用いている。この方法のブタ肝臓エステラーゼの代わりに非哺乳類由来酵素を用いるほうが望ましい。また、上記ブタ肝臓エステラーゼを用いた生物学的分割によって得られた(1R,2S)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸(4)のエナンチオマー過剰率はたったの80%eeであり、これは、98%eeよりも高い物質を得るには塩の改質が必要なことを意味する。高ee物質をもたらし、そのためプロセス中での塩の改質ステップが必要ない代替の酵素は、単純で製造コストが低いものが相当であろう。また、固定化酵素を用いれば生体触媒が再利用しやすくなるであろう。
【0004】
【化2】
【0005】
様々な特許文献や学術論文に、光学純度の高い2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸の製造方法が開示されている。特許文献1と非特許文献1及び2には、ブタ肝臓エステラーゼを触媒として用いたシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジメチル(2)の生物学的分割が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,879,392号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】F.Brionら,“Stereoselective Synthesis of a trans−Octahydroindole Derivative, Precursor of Trandolapril, an Inhibitor of Angiotensin Converting Enzyme,”Tetrahedron Letters,Vol.33,No.34,4889〜4892頁,1992
【非特許文献2】R.M.Borzilleriら,“Total Synthesis of the Unusual Marine Alkaloid (−)−Papuamine Utilizing a Novel Imino Ene Reaction,”Journal of the American Chemical Society,Vol.117,10905〜10913頁,1995
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の一態様は、(3aS,7aR)−ヘキサヒドロイソベンゾフラン−1(3H)−オン(1)の合成方法を提供する。ある態様において、本願は、(1)の製造中間体である(1S,2R)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸(3)の製造方法を提供する。
【0009】
【化3】
【0010】
本発明は、哺乳類由来でない配列番号1、配列番号2、または配列番号3に記載のアミノ酸配列を含む酵素の存在下でシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジメチルを加水分解することを含む、(3aS,7aR)−ヘキサヒドロイソベンゾフラン−1(3H)−オンの製造方法に関する。
【0011】
前記酵素が配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0012】
前記酵素が配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0013】
前記酵素は固定化された形態であることが好ましい。
【0014】
少なくとも95%eeの(3aS,7aR)−ヘキサヒドロイソベンゾフラン−1(3H)−オンを製造することが好ましい。
【0015】
少なくとも98%eeの(3aS,7aR)−ヘキサヒドロイソベンゾフラン−1(3H)−オンを製造することが好ましい。
【0016】
また、本発明は、哺乳類由来でない配列番号1、配列番号2、または配列番号3に記載のアミノ酸配列を含む酵素の存在下でシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジメチルを加水分解することを含む、(1S,2R)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸の製造方法に関する。
【0017】
前記酵素が配列番号3に記載のアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0018】
前記酵素が配列番号1または2に記載のアミノ酸配列を含むことが好ましい。
【0019】
前記酵素は固定化された形態であることが好ましい。
【0020】
95%ee以上の(1S,2R)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸を製造することが好ましい。
【0021】
98%ee以上の(1S,2R)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸を製造することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1-1】カイロテックエステラーゼ(Chirotech Esterase)K、カイロテックエステラーゼ(Chirotech Esterase)N及びカンジダ・アンタークティカ リパーゼ(Candida antarctica Lipase)として同定された3つの酵素の配列表である。
図1-2】カイロテックエステラーゼK、カイロテックエステラーゼN及びカンジダ・アンタークティカ リパーゼとして同定された3つの酵素の配列表である。
図1-3】カイロテックエステラーゼK、カイロテックエステラーゼN及びカンジダ・アンタークティカ リパーゼとして同定された3つの酵素の配列表である。
図1-4】CカイロテックエステラーゼK、カイロテックエステラーゼN及びカンジダ・アンタークティカ リパーゼとして同定された3つの酵素の配列表である。
図1-5】カイロテックエステラーゼK、カイロテックエステラーゼN及びカンジダ・アンタークティカ リパーゼとして同定された3つの酵素の配列表である。
図1-6】カイロテックエステラーゼK、カイロテックエステラーゼN及びカンジダ・アンタークティカ リパーゼとして同定された3つの酵素の配列表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本願の一態様は、シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジメチル(2)の酵素的加水分解を含む、(1S,2R)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸(3)の合成方法を提供する。
【0024】
【化4】
【0025】
本願の一態様は、(3)の還元的環化を含む、(3aS,7aR)−ヘキサヒドロイソベンゾフラン−1(3H)−オン(1)の製造方法を提供する。
【0026】
【化5】
【0027】
本願の一態様は、酵素的加水分解において固定化酵素調製物を用いる方法を提供する。
【0028】
本願の一態様は、グルタルアルデヒド処理等によって架橋されたマトリクスを有する固定化酵素調製物を用いる方法を提供する。
【0029】
本願の一態様は、酵素的加水分解において、特に限定されないが、カイロテックエステラーゼ(Chirotech Esterase)K又はカイロテックエステラーゼ(Chirotech Esterase)N(それらの配列表及び有用な野生型CAL-B酵素の配列表を図1に示す)、Novozymes A/S製のNovozym(登録商標)(ノボザイム)435、NZL−107 LYO及び42044、Codexis製のICR−110 CALB、Chiralvision製のCV−CALB及びCALB−Y、並びに、セリンエステラーゼクチナーゼのいずれかのリパーゼ等の酵素を用いる方法を提供する。複数種の酵素の混合物も使用できる。酵素は、例えば、溶解させたり、酵素を固定化する樹脂中に分散させたりするなど、任意の物理的形態で使用できる。
【0030】
なかでも有用な酵素としては、カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)由来のものが挙げられ、例えば、J.Uppenbergら,“The Sequence, Crystal Structure Determination and Refinement of Two Crystal Forms of Lipase B from Candida Antarctica,”Structure,Vol.2(4),293〜308頁,1994;及び、J.Uppenbergら,“Crystallographic and Molecular−Modeling Studies of Lipase B from Candida Antarctica Reveal a Stereospecifity Pocket for Secondary Alcohols,”Biochemistry,Vol.34(51),16838〜16851頁,1995に記載のもの等が含まれる。
【0031】
本願のいくつかの実施形態によれば、酵素的加水分解においてNovozym(登録商標)(ノボザイム)435酵素を用いる方法が提供される。
【0032】
本願のいくつかの実施形態によれば、基質濃度が約10〜200g/Lである方法が提供される。
【0033】
本願のいくつかの実施形態によれば、基質濃度が少なくとも約75g/Lである方法が提供される。
【0034】
本願のいくつかの実施形態によれば、酵素担持量が基質の重量に対して約1%〜約20%である方法が提供される。
【0035】
本願のいくつかの実施形態によれば、酵素担持量が基質の重量に対して約10%未満である方法が提供される。
【0036】
本願のいくつかの実施形態によれば、酵素的加水分解温度が約10℃〜約50℃の範囲である方法が提供される。
【0037】
本願のいくつかの実施形態によれば、酵素的加水分解温度が約40℃である方法が提供される。
【0038】
本願のいくつかの実施形態によれば、酵素的加水分解pHが約6〜約9の範囲である方法が提供される。
【0039】
本願のいくつかの実施形態によれば、酵素的加水分解pHが約7〜約8の範囲である方法が提供される。
【0040】
本願の一態様は、反応容器に加水分解酵素を直接添加し、生物学的分割終了後に濾過して回収した後、新品のバッファで洗浄し、新品の基質/バッファバッチに添加する方法を提供する。
【0041】
いくつかの実施形態によれば、新品のバッファはリン酸バッファである。
【0042】
本願の一態様は、加水分解酵素がカラムリアクター内に内包されており、上記カラムを通して生物学的分割バッチを連続的に循環させ、生物学的分割終了後に上記カラムを新品のバッファで洗浄し、次の基質/バッファバッチを上記カラムを通して循環させることができる方法を提供する。
【0043】
いくつかの実施形態によれば、新品のバッファはリン酸バッファである。
【0044】
本願の一態様は、(1S,2R)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸(3)の還元的環化において、クロロギ酸C−Cアルキルを用い、水素化ホウ素で還元する方法を提供する。
【0045】
本願の一態様は、クロロギ酸C−Cアルキルがクロロギ酸エチルである方法を提供する。
【0046】
本願の一態様は、水素化ホウ素が水素化ホウ素ナトリウムである方法を提供する。
【0047】
本明細書では、酵素的加水分解の方法を例証するために、Novozym(登録商標)435酵素を用いている。この製品は、固定化された顆粒状のカンジダ・アンタークティカ リパーゼB(Candida antarctica Lipase B)であって、マクロ多孔質アクリル樹脂製高分子マトリクスを有する。Novozym 435は哺乳類由来ではなく、98%eeの物質を生成させることができるため、上記方法中で塩の改質ステップが不要である。この酵素源は、実験では少なくとも8回再利用できた。
【0048】
本願のいくつかの実施形態によれば、まず、(1S,2R)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸(3)をクロロギ酸エチルで処理して中間体混合無水物を得、次に水素化ホウ素ナトリウムで還元して対応のヒドロキシエステルを得、これがin situ環化して所望のcis−ラクトン物質が形成することによって、(3aS,7aR)−ヘキサヒドロイソベンゾフラン−1(3H)−オン(1)は製造される。
【0049】
Novozym(登録商標)435を触媒として用いたシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジメチル(2)の生物学的分割によって、(1R,2S)−ではなく(1S,2R)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸が生成する。しかしながら、下記合成ステップにおいて、エステル部分ではなく、酸部分が還元されると、ブタ肝臓エステラーゼを用いた場合に得られるものと同様の立体化学を有するcis−ラクトンが生じる。また、生物学的分割によって、従来法よりも著しくeeの高い物質が生成する(98%対80%)。Novozym(登録商標)435は固定化酵素製剤であり、生体触媒の再利用が可能である。非哺乳類酵素は再利用しやすく、高ee物質をもたらす。これにより、物質のeeを高めるために塩の改質を行う必要がない。
【0050】
定義
特に断りのない限り、本願の化合物に関して以下の定義を用いる。特定の基に含まれる炭素原子の数は、通常、「C−C」(x及びyはそれぞれ下限及び上限)で表される。例えば、「C−C」で表される基は1〜6つの炭素原子を含む。本明細書中の定義においては、炭素数は主鎖部炭素及び枝部炭素をいうが、アルコキシ置換基などの置換基の炭素原子は含まない。
【0051】
「アルキル(基)」は、直鎖又は分枝鎖であってもよい、記載された炭素数の炭化水素鎖をいう。特に数が示されてなければ、「アルキル」は、炭素数1〜6(境界値を含む)の直鎖又は分枝鎖である。C−Cアルキル基としては、特に限定されないが、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル、ネオペンチル及びイソヘキシルが挙げられる。
【0052】
「クロロギ酸C−Cアルキル」は、一般式:R−O−C(O)−Cl(RはC−Cアルキル基)で表される化合物をいう。
【0053】
「水素化ホウ素」は還元剤であり、エステルの存在下で酸を還元する。その例として、特に限定されないが、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素亜鉛、ジボラン、BH/THF、及び、9−BBNが挙げられる。
【0054】
「ee」という用語は、物質のエナンチオマー過剰率を意味し、各エナンチオマー間のモル分率の差の絶対値として定義するものであり、%で表す。
【0055】
Celite(登録商標)として販売されている物質は融剤焼成珪藻土である。Celite(登録商標)はWorld Minerals Inc.の登録商標である。GCはガスクロマトグラフィである。NMRは核磁気共鳴分析法である。MTBEはメチルt−ブチルエーテル又は2−メトキシ−2−メチルプロパンである。Novozym(登録商標)NZL−107 LYOは真菌由来リパーゼである。Novozym(登録商標)435は、カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)由来のLipase Bが固定化された形態である。Novozym(登録商標)は、Novozyms A/S、Novo Industri A/S(デンマーク、Bagsvaerd DK−2880)の登録商標である。PLEはブタ肝臓エステラーゼである。Chirotech Esterase K310−903は、エステル、特にカルボン酸エステルの立体選択的加水分解を触媒する。カイロテックエステラーゼ(Chirotech Esterase)K310−903は、元はオフィオストマ(Ophiostoma)属真菌から単離された組み換え酵素である。カイロテックエステラーゼ(Chirotech Esterase)N310−902は、エステル、特にカルボン酸エステルの立体選択的加水分解を触媒するものであり、元はオフィオストマ(Ophiostoma)属真菌から単離された組み換え酵素である。
【0056】
本願の方法の特定の態様について、以下の実施例1及び2を参照して詳細に説明する。これらの実施例は例示のために記載したにすぎず、本開示の範囲を決して限定するものではない。
【0057】
実施例1:(1S,2R)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸(3)の製造
ジャケット付100mL容容器にシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジメチル((2)、4g、20mmol)と0.1Mリン酸カリウムバッファ(39mL、pH8)を入れた。その混合液を40℃で連続的に撹拌し、Novozym(登録商標)435(320mg)を添加した。40℃で43時間撹拌し続け、2M NaOH溶液を添加してpHを8に維持した。反応液のサンプルをGCで分析して出発物質が5%未満しか残っていないことを確認した。反応混合液を濾過して酵素を除去し、濾液をトルエン(20mL)で抽出して残った出発物質を除去した。2M HClを用いて水相のpHを3.5に再調整し、MTBE50mLで2回抽出した。抽出物を合わせて、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮して、3.2g(86%)の(1S,2R)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸(3)をee=98%の無色油状物として得た。分離した酵素は、次の基質/バッファバッチとともに再利用するために新品のバッファで洗浄する。
【0058】
H−NMR(d−DMSO):12.17(brs;1H),3.57(s;3H),2.82−2.72(m;2H),1.97−1.79(m;2H),1.79−1.59(m;2H),1.48−1.26(m;4H);13C−NMR(d−DMSO):174.61,173.62,51.16,41.63,25.96,25.60,23.34,23.17.
【0059】
GC分析条件は以下の通り。Chirasil Dex−CB 25m×0.25mmカラム;ヘリウムキャリアガス20psi;オーブンプログラム:140℃で30分間保持した後、5℃/分で200℃まで昇温し、5分間保持(ランタイム約47分間);検出器及びインジェクタ温度200℃;2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸(1S,2R)の保持時間36.99分、2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸(1R,2S)の保持時間37.28分。
【0060】
【化6】
【0061】
実施例2:(3aS,7aR)−ヘキサヒドロイソベンゾフラン−1(3H)−オン(1)の製造
ジャケット付25mL容容器を0℃未満に冷却し、(1S,2R)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸((3)、880mg、4.72mmol)とトリエチルアミン(659μL、4.72mmol)をTHF(6.6mL)に溶解させた溶液を入れた。クロロギ酸エチル(512μL、4.72mmol)のTHF(1.2mL)溶液を数分かけてゆっくり添加し、得た混合液を30分間撹拌した。析出したトリエチルアミン塩酸塩を濾別し、水素化ホウ素ナトリウムを水(4.6mL)に懸濁した懸濁液に12℃で濾液を滴下した。滴下終了後、反応混合液をさらに3.5時間20℃で撹拌した。その後、反応混合液を10℃未満に冷却し、2M HCl溶液でpH4まで酸性化し、ジクロロメタン15mLで2回抽出した。有機抽出物を合わせて、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去して、無色油状物450mgを得た。この物質を短行程蒸留により精製して、無色油状物170mgをee=98%及び[α]20=−39.3°(c1、メタノール)で得た。
【0062】
【化7】
【0063】
比較例:(1R,2S)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸の製造
30℃に設定したジャケット付2L容容器にシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジメチル((2)、84.6g、0.42mol)と0.1Mリン酸カリウムバッファ(900mL、pH8)を入れた。その混合液を30℃で連続的に撹拌し、PLE(600mg、10200ユニット)を添加した。混合液を91時間撹拌し、5M NaOH溶液を添加してpHを8に維持した。混合液の一部をGCで分析して出発物質が5%未満しか残っていないことを確認した。その後、反応混合液をCelite(登録商標)ベッドを通して濾過し、濾液をMTBE(250mL)で抽出して残った出発物質を除去した。その後、濃HClで水相をpH4まで酸性化し、MTBE500mLで3回抽出した。抽出物を合わせて、硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去して、69.28g(収率88%)の(1R,2S)−2−(メトキシカルボニル)シクロヘキサンカルボン酸(4)をee=79%の無色油状物として得た。
【0064】
【化8】
【0065】
以上、本願の特定の実施形態を例証し、説明したが、本開示の趣旨及び範囲を逸脱することなく様々な変更及び改変が可能であることは当業者に明らかであろう。従って、添付の特許請求の範囲では本開示の範囲内のそのようなあらゆる変更及び改変を包含することを意図している。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図1-6】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]