(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6145666
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】複数の異なる細孔径および/または異なる層を備えた電極を有するフロー電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20170607BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20170607BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M8/18
H01M4/86 B
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-505251(P2014-505251)
(86)(22)【出願日】2012年4月11日
(65)【公表番号】特表2014-514717(P2014-514717A)
(43)【公表日】2014年6月19日
(86)【国際出願番号】US2012033101
(87)【国際公開番号】WO2012142143
(87)【国際公開日】20121018
【審査請求日】2015年3月13日
(31)【優先権主張番号】13/084,156
(32)【優先日】2011年4月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590005449
【氏名又は名称】ユナイテッド テクノロジーズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】UNITED TECHNOLOGIES CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】ザッフォウ,ラチッド
(72)【発明者】
【氏名】ペリー,マイケル,エル.
(72)【発明者】
【氏名】パンディ,アルン
(72)【発明者】
【氏名】バーラトスキー,セルゲイ,エフ.
(72)【発明者】
【氏名】アトラジェフ,ヴァディム,ヴィー.
【審査官】
太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−092931(JP,A)
【文献】
特開2000−200618(JP,A)
【文献】
特開2008−243732(JP,A)
【文献】
特開2010−244972(JP,A)
【文献】
特開平11−260390(JP,A)
【文献】
特表2008−500707(JP,A)
【文献】
国際公開第1993/006626(WO,A1)
【文献】
特開2007−018742(JP,A)
【文献】
特表2007−509463(JP,A)
【文献】
特開2006−196430(JP,A)
【文献】
特開2009−176610(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/089518(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/98
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1μm以下の孔径を有する複数のミクロ細孔と、100μm以上の孔径を有する複数のマクロ細孔と、を有する電極層であって、前記マクロ細孔の孔径が、前記ミクロ細孔の孔径よりも少なくとも2桁大きい、電極層と、
複数の流路を含むとともに、前記電極層に電子を移動させ、かつ、該電極層から電子を移動させるように適合された集電体と、
可逆レドックス対反応物質を有する溶液であって、前記電極層を湿潤させる、溶液と、
前記電極層と、第2の電極層と、の間に配置されたイオン交換膜層と、
を備え、
前記電極層は、前記マクロ細孔によって画定されるとともに前記電極層の第1の端部と第2の端部との間で長さ方向に延在した少なくとも一つのマクロ細孔副層と、前記ミクロ細孔によって画定されるとともに前記電極層の前記第1の端部と前記第2の端部との間で長さ方向に延在した少なくとも一つのミクロ細孔副層と、を含み、前記マクロ細孔副層および前記ミクロ細孔副層の各々が、前記電極層に亘って前記長さ方向に延在した溶液流路を画定し、
前記電極層が、第1の表面と第2の表面との間に延在する厚さによって画定されるとともに、前記第1の端部と前記第2の端部との間に延在する長さによって画定され、
前記少なくとも一つのマクロ細孔副層が、マクロ細孔の第1の密度を有する第1のマクロ細孔副層と、マクロ細孔の第2の密度を有する第2のマクロ細孔副層と、を含み、前記第1の密度が前記第2の密度よりも大きく、
前記電極層の前記第1の表面が前記集電体に隣接するとともに、前記第2の表面が前記イオン交換膜層に隣接し、前記第1のマクロ細孔副層が、前記第2のマクロ細孔副層と前記電極層の前記第1の表面との間に配置され、
前記少なくとも一つのミクロ細孔副層が、ミクロ細孔の第1の密度を有する第1のミクロ細孔副層と、ミクロ細孔の第2の密度を有する第2のミクロ細孔副層と、を含み、前記第1の密度が前記第2の密度よりも大きく、
前記電極層の前記第1の表面が前記集電体に隣接するとともに、前記第2の表面が前記イオン交換膜層に隣接し、前記第1のミクロ細孔副層が、前記第2のミクロ細孔副層と前記電極層の前記第2の表面との間に配置されることを特徴とする、フロー電池。
【請求項2】
前記電極層が、炭素を備えることを特徴とする請求項1に記載のフロー電池。
【請求項3】
前記フロー電池が、前記溶液を、閉ループを通じて循環させるように構成されることを特徴とする請求項1に記載のフロー電池。
【請求項4】
前記電極層が、
4:6〜7:3の細孔体積対材料体積の多孔率を有し、前記細孔体積対材料体積の多孔率は、前記複数のミクロ細孔およびマクロ細孔の体積の、前記電極層の材料体積に対する比であることを特徴とする請求項1に記載のフロー電池。
【請求項5】
前記電極層に隣接して配置された炭素バッキング層をさらに備えた、請求項1に記載のフロー電池。
【請求項6】
前記電極層は、
前記電極層の長さに沿って均等または不均等に分散されたイオノマーのうちの少なくとも1つと、
前記電極層の長さに沿って均等または不均等に分散された電気化学触媒のうちの少なくとも1つと、
のうち少なくとも一つを備えた、請求項1に記載のフロー電池。
【請求項7】
前記電極層が、100mA/cm2以上の電流密度で動作するように適合されることを特徴とする請求項1に記載のフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願への相互参照]
出願人は、米国特許出願第13/084,156号(出願日:2011年4月11日)に対する優先権を主張する。本明細書中、同文献の開示内容を参考のため援用する。本出願はまた、国際出願PCT/US09/68681(出願日:2009年12月18日)、米国特許出願第第13/022,285号(出願日:2011年2月7日)および米国特許出願第13/023,101号(出願日:2011年2月8日)に関連する。これらの文献それぞれ全体を参考のため援用する。
【0002】
本開示は、主にフロー電池に関し、より詳細には、複数の異なる細孔径および/または異なる層を備えた電極を有するフロー電池に関する。
【背景技術】
【0003】
典型的なフロー電池システムは、フロー電池のスタックを含む。これらのフロー電池はそれぞれ、負極と正極との間に配置されたイオン交換膜を有する。動作時において、カソード溶液が正極内を流れ、アノード溶液が負極内を流れる。カソード溶液およびアノード溶液はそれぞれ、可逆的酸化還元(「レドックス」)反応において電気化学的に反応する。反応時において、イオン種がイオン交換膜上において搬送され、電子が外部回路を通じて搬送され、これにより電気化学反応が完成する。
【0004】
負極および正極は、炭素フェルト材料から構成され得る。このような炭素フェルト材料は典型的には、実質的に均一のサイズの複数の隙間を含む。これら複数の隙間により、当該材料中における電解質溶液の均等な分配が促進される。各電極は、比較的大きな厚さ(例えば、3.2ミリメートル(mm)、約125/1000インチ(125mil)を超える厚さ)を有し、電極の長さに亘る圧力低下を低減するようなサイズにされる。この長さは、厚さに対して実質的に垂直である。しかし、厚さをこのように比較的大きくした場合、電極厚さにおけるイオン伝導に対する抵抗が実質的に増加し得る。そのため、厚さの比較的大きな電極を用いた場合、特にフロー電池が比較的高い電流密度(例えば、100ミリアンペア(mA)/平方センチメートル(cm
2)(〜645mA/平方インチ(in
2)を超える電流密度)で動作する場合、イオン伝導に対する抵抗増加に起因して、フロー電池の電圧非効率性(voltage inefficiency)が増加し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際出願PCT/US09/68681号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、当該分野において、電圧非効率性を大きく高くすることなく比較的高い電流密度において動作することが可能なフロー電池が求められている。過度の電圧損失無く比較的高い電流密度において動作することが可能であるため、より小型のスタックサイズの利用が可能になり、よって所与の出力に必要なスタックコストも低減する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フロー電池を含む。フロー電池は、電極(「電極層」とも呼ぶ)を有する。電極は、可逆的レドックス対反応物質を有する溶液によって湿潤されるように、動作可能である。本発明の一態様によれば、電極は、複数のミクロ細孔およびマクロ細孔を有する。マクロ細孔の孔径は、ミクロ細孔の孔径よりも少なくとも1桁大きい。本発明の別の態様によれば、電極は、複数の層を有する。複数の層のうち1つは、複数のマクロ細孔を有する。複数の層の別の1つは、複数のミクロ細孔を有する。本発明の別の態様によれば、電極の厚さは、およそ2mm未満(〜78mil)である。本発明の別の態様によれば、電極は、多孔質炭素層を有する。層は、相互結合された複数の粒子によって形成される。
【0008】
本発明の上記の特徴および動作は、以下の記載および添付図面を参照すればより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】スタック状に配置された複数のフロー電池を含むフロー電池システムの一実施形態の模式図である。
【
図2】
図1のフロー電池のうちの1つの一実施形態の模式図、およびフロー電池内に含まれる電極層の一部の拡大図である。
【
図3】
図1のフロー電池のスタックの一実施形態の模式図である。
【
図4】
図1のフロー電池のうちの1つの別の実施形態の模式図、およびフロー電池内に含まれる電極層の一部の拡大図である。
【
図5】
図1のフロー電池のうちの1つの別の実施形態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1を参照して、フロー電池システム10の模式図が図示されている。フロー電池システム10は、電気エネルギーを選択的に保存および放出するように、構成される。例えば、動作時において、フロー電池システム10は、再生可能電力システムまたは再生不可能電力システム(図示せず)によって生成された電気エネルギーを化学エネルギーへ変換することができる。この化学エネルギーは、一対の第1の電解質溶液および第2の電解質溶液(例えば、アノード溶液およびカソード溶液)内に保存される。その後、フロー電池システム10を作動させて、保存された化学エネルギーを電気エネルギーへ変換することができる。適切な第1の電解質溶液および第2の電解質溶液の例を非限定的に挙げると、バナジウム/バナジウム電解質溶液および臭素/多硫化物電解質溶液がある。
【0011】
フロー電池システム10は、第1の電解質保存タンク12、第2の電解質保存タンク14、第1の電解質回路ループ16、第2の電解質回路ループ18および少なくとも1つのフロー電池20を含む。いくつかの実施形態において、フロー電池システム10は、複数のフロー電池20を含み得る。これら複数のフロー電池20を配置および圧縮することで、少なくとも1つのスタック21を一対のエンドプレート39間に配置する。電池20を作動して、電気エネルギーを集合的に保存および生成することができる。フロー電池システム10は、制御システム(図示せず)をさらに含む。この制御システムは、コントローラと、電力変換装置/調整器と、第1の電解質溶液流れ調整器および第2の電解質溶液流れ調整器(例えば、弁、ポンプ)とを含む。この制御システムは、フロー電池システムによる電気エネルギーの保存および放出を制御するように、適合される。
【0012】
第1の電解質保存タンク12および第2の電解質保存タンク14はそれぞれ、電解質溶液それぞれを保持および保存するように、適合される。
【0013】
第1の電解質回路ループ16および第2の電解質回路ループ18はそれぞれ、ソース導管22および24と、リターン導管26および28とをそれぞれ有する。
【0014】
図2を参照して、フロー電池20の一実施形態の模式図が図示されている。フロー電池20は、第1の集電体30と、第2の集電体32と、第1の液体多孔性電極層34(以下「第1の電極層」)と、第2の液体多孔性電極層36(以下「第2の電極層」)と、イオン交換膜層38とを含む。
【0015】
第1の集電体30および第2の集電体32はそれぞれ、第1の電極層34および第2の電極層36の各々に、および/または、第1の電極層34および第2の電極層36の各々から、電子を移動させるように適合される。
図3を参照して、いくつかの実施形態において、スタック22中の第1の集電体30のうちの1つおよび第2の集電体32のうちの1つは、共にバイポーラ板41として構成することができる。バイポーラ板41は、スタック21内の隣接するフロー電池20間において配置されるように、適合される。バイポーラ板41は、一対の集電体表面43,45の間に延びる。第1の表面43は、上記電池のうち第1の電池のための第1の集電体30として機能するように動作することができる。第2の表面45は、上記電池のうち第2の電池のための第2の集電体32として機能するように動作することができる。再度
図2を参照して、各集電体30および32は、複数の流路40および42を含み得る。これらの流路40および42は、例えば、直線状、曲線状または螺旋状の幾何学的形状を持ち得る。適切な集電体および流路の構成のさらなる例について、特許文献1に開示がある。同文献全体を参考のため援用する。
【0016】
第1の電極層34および第2の電極層36はそれぞれ、比較的高い電流密度(例えば、およそ100mA/cm
2、〜645mA/in
2以上の電流密度)において動作するように、適合される。各電極層34および36は、それぞれ第1の表面44および46と、第2の表面48および50と、第1の端部52および54と、第2の端部56および58と、厚さ60および62と、長さ64および66とを有する。厚さ60および62はそれぞれ、第1の表面44および46と第2の表面48および50との間を延びる。一実施形態において、厚さ60および62は、およそ3mm未満(〜118mil)である。別の実施形態において、厚さ60および62は、およそ2mm未満である(〜78mil)。各電極層34および36の厚さ60および62は比較的小さいため、厚さが例えば3.2mmを超える(〜125mil)電極層と比較して、電極層34および36を通じた抵抗イオン移動損失が大幅に低減する。長さ64および66は、電解質溶液流路68および70に沿った方向に延びる。電解質溶液流路68および70はそれぞれ、第1の端部52および54と第2の端部56および58との間に設けられる。
【0017】
図2に示す第2の電極層36の拡大図を参照して、各電極層34および36は、複数のマクロ細孔72およびミクロ細孔74を有する。これら複数のマクロ細孔72およびミクロ細孔74は、電極層の体積多孔率を規定する。本明細書中、「体積多孔率」という用語は、材料中の細孔(「隙間」とも呼ぶ)の体積の、層材料の体積に対する比を指す。一実施形態において、例えば、マクロ細孔72およびミクロ細孔74の細孔体積対材料体積の体積多孔率は、およそ9:1未満である。別の実施形態において、マクロ細孔72およびミクロ細孔74の細孔体積対材料体積の体積多孔率は、およそ7:3未満である。しかし、組み立て時において各電極層34および36がイオン交換膜層38と集電体30および32のそれぞれとの間に圧縮された場合、体積多孔率は変化し得る。各電極層が圧縮された後、マクロ細孔72およびミクロ細孔74の細孔体積対材料体積は、例えばおよそ4:6〜7:3である。
【0018】
実質的に全てのマクロ細孔72のサイズは、実質的に全てのミクロ細孔74のサイズよりも少なくとも1桁大きい(すなわち、10
1倍大きい)。別の実施形態において、実質的に全てのマクロ細孔72のサイズは、実質的に全てのミクロ細孔74のサイズよりも少なくとも2桁大きい(すなわち、10
2倍大きい)。各マクロ細孔72のサイズは、電極層34および36上における圧力低下を減少させるように選択されるため、各電極層34および36中の電解質溶液の流れが促進される。一方、各ミクロ細孔74のサイズは、電極層34および36と各電解質溶液との間の電気化学的相互作用に必要な適切な電極表面積が維持できるように、選択される。一実施形態において、例えば、実質的に全てのマクロ細孔72の直径は、およそ100マイクロメートル(μm)(〜3.9mil)以上であり、実質的に全てのミクロ細孔74の直径は、およそ1μm(〜39マイクロインチ(μin))以下である。
【0019】
マクロ細孔72およびミクロ細孔74はそれぞれ、電極層34および36上における圧力低下およびイオン損失を低減するように、パターン状に配置される。
図2に示す実施形態において、例えば、マクロ細孔72およびミクロ細孔74はそれぞれ、複数の列65および69として配置される。これら複数の列65および69は、電解質溶液流路68および70に沿って、各電極層34,36の第1の端部52,54と第2の端部56,58との間に延びる。マクロ細孔の列65はそれぞれ、実質的に等しいマクロ細孔密度(すなわち、層の単位体積あたりのマクロ細孔数が実質的に等しい)ため、マクロ細孔72は、各電極層34および36内において均等に分配される。同様に、ミクロ細孔の列69はそれぞれ、実質的に等しいミクロ細孔密度(すなわち、層の単位体積あたりのミクロ細孔数が実質的に等しい)ため、ミクロ細孔74も、各電極層34および36内において均等に分配される。あるいは、
図4の実施形態に示すように、マクロ細孔172および/またはミクロ細孔174を各電極層134および136中に不均等に分配することも可能である。各電極層134および136の第1の表面144および146に隣接するマクロ細孔172の列165は、例えば、第2の表面148および150に隣接するマクロ細孔の列167よりもマクロ細孔密度が高いため、第1の表面144および146に隣接する圧力低下が減少する。一方、各電極層134および136の第2の表面148および150に隣接するミクロ細孔174の列169は、第1の表面144および146の近隣のミクロ細孔の列171よりもミクロ細孔密度が高いため、これらの領域中の各電解質溶液と電気化学的相互作用する電極表面積が増加する(例えば、最大化される)。電極表面積を増加することにより、各電極層134および136の第2の表面148および150付近において発生するレドックス反応の密度を高めることができ、これにより、電池120中におけるイオン損失が低減する。
【0020】
再度
図2を参照して、例えば複数の電極副層73および75から各電極層34および36を形成することにより、マクロ細孔72およびミクロ細孔74は、上記したパターンに配置することができる。例えば、電極副層73の第1の層を、複数のマクロ細孔72を含むように形成することができる。一方、電極副層75の第2の層を、複数のミクロ細孔74を含むように形成することができる。
【0021】
各電極層34および36は、固体電子伝導体、溶媒、細孔形成剤およびバインダーの混合物から構成することができる。固体電子伝導体は、金属、黒鉛または炭素粒子、フェノール樹脂粉末、セルロース繊維および/または炭素または黒鉛繊維の混合物を含み得る。黒鉛または炭素粒子の粉末は、炭素繊維および球状炭素粒子のうち少なくとも1つを含み得る。一実施形態において、例えば、炭素粉末(例えば、Vulcan XC−72(Cabot社(米国マサチューセッツ州ボストン)製造)、溶媒(例えば、イソプロパノール)、細孔形成剤(例えば、炭酸アンモニウムまたはポリスチレン)およびバインダー(例えば、ポリマーまたは樹脂)を混合して、電極インクを得る。バインダーが疎水性である場合、このバインダーを後続プロセスにおいて処理して親水性を高めてもよいし、あるいは、このバインダーを後で熱処理して、実質的に全てのバインダーを除去してもよい(例えば、炭化を用いることにより、炭素−炭素複合層を形成することができる)。あるいは、親水性バインダーを電極インクに含めてもよい(例えば、イオン交換ポリマーまたはイオノマー(例えば、スルホン化テトラフルオロエチレンベースのフッ素重合体共重合体またはペルフルオロスルホン酸(PFSA)(例えば、Nafion(登録商標)ポリマー(DuPont社(米国デラウェア州ウィルミントン)製造))。イオノマー(例えば、PFSAまたは他の任意の種類のイオン交換ポリマー)をバインダーおよび支持電解質として用いて、電極層中においてイオン種を移動させる。イオノマーを電極インク中において混合して、電極層の長さに沿って均等にまたは不均等に分配する。電極インク混合物中に電気化学触媒を含めてもよい。電気化学触媒は、電解質溶液中における特定の酸化還元(「レドックス」)反応を促進するように、選択される。このような電気化学触媒の例は、触媒の表面積を増強するように導電性担体(例えば、炭素)上において担持できるまたは担持できない金属を含む。担持される金属電気化学触媒の例は、炭素上に分散されたニッケル触媒(Ni/C)および炭素上に分散された白金触媒(Pt/C)を含む。電気化学触媒を電極インク中に混合して、電極層の長さに沿って均等にまたは不均等に分配する。
【0022】
反応物質の分配を促進するための電極副層構造は、細孔形成剤とその他の構成成分そのものとの間の重量比を調節することによって形成することもできるし、あるいは、炭素粉末粒子のサイズを調整することにより形成することもできる。電極副層は例えば比較的高い多孔率で形成することが可能であるため、電極インク中に細孔形成剤を比較的高い重量比で含めることにより、比較的多数のマクロ細孔またはミクロ細孔を形成することができる。電極インクを所望の表面(例えば、イオン交換膜層または転写シールの表面)上に適用(例えば、噴霧または印刷)することにより、電極副層73または75のうち1つを形成する。先行して形成された副層上にさらなる副層を形成または取り付けることにより、電極層34または36のうち1つを構成することができる。細孔形成剤を電極層から除去(例えば、溶解)するには、例えば溶媒洗浄(例えば、フッ化水素酸)を用いて除去を行うことができる。電極インク中に親水性材料(例えば、Nafion(登録商標)ポリマー(DuPont社(米国デラウェア州ウィルミントン)製造))が含まれない場合、各電極副層または層にさらなる処理(例えば、化学的または電気化学的酸化)を施して、親水性を得ることができる。熱処理プロセスを用いて、炭素種をより黒鉛形態にすることもできる。黒鉛形態は、耐腐食性に優れる。
【0023】
図5を参照して、いくつかの実施形態において、各電極層34および36は、バッキング層76および78へ接続される。バッキング層76および78は、(i)電極層34および36に機械的支持を提供し、(ii)電極層34および36への電解質溶液の均等な分配を向上させ、(iii)高速起動時および過渡条件時にレドックス反応を完了するための一時的な電解質溶液保存部および/またはさらなる表面積を提供するように適合される。バッキング層76および78は、親水性多孔質炭素層から構成され得る(例を非限定的に挙げると、Toray(登録商標)繊維(東レ株式会社(東京、日本)製造)、カーボン紙、炭素フェルトまたは炭素布)。上記の実施形態において、電極層34および36は、バッキング層上に形成され得る。
【0024】
他の実施形態(図示せず)において、各電極層34および36は、比較的大きくかつ均一の細孔径を有する親水性多孔質炭素層を少なくとも1つ含む。このような親水性多孔質炭素層の例を挙げると、カーボン紙、炭素フェルトまたは炭素布がある。親水性の多孔質炭素層を比較的小型の粒子で含浸させることにより、2つの形態の細孔径を有する電極層(すなわち、マクロ細孔およびミクロ細孔を含む電極層)を形成する。粒子、溶媒およびバインダーのインクを用いて、各電極層全体を通して粒子の含浸および結合を行うことができる。電極層を上記技術で構成することにより、実質的に均等に分配されたマクロ細孔およびミクロ細孔で各電極層を構成することが可能になる。上記した含浸電極層を、
図5に示すようなバッキング層と組み合わせてもよい。
【0025】
再度
図2を参照して、イオン交換膜層38は、特定の非レドックス対反応物質(「電荷輸送イオン」または「電荷担体イオン」とも呼ぶ)(例えば、酸中のバナジウム電解質溶液のプロトン(またはH
+イオン))に対して浸透性となるように、構成される。イオン交換膜層38はまた、特定のレドックス対反応物質(「非電荷輸送イオン」または「非電荷担体イオン」)(例えば、酸中のバナジウム電解質溶液のV
4+/5+イオンまたはV
2+/3+イオン)に対して実質的に非浸透性となるように、構成される。他のレドックス対反応物質の例を非限定的に挙げると、酸性溶液または塩基性溶液中のFe
2+/3+、Cr
2+/3+、Br
-/Br
3-、S
22-/S
42-がある。
【0026】
イオン交換膜層38は、第1の電極層34と、第2の電極層36との間に配置される。一実施形態において、例えば、第1の電極層34および第2の電極層36はイオン交換膜層38上に形成され、あるいは、第1の電極層34および第2の電極層36は(例えば、転写シールから)イオン交換膜層38の両側上へと高温プレスされて、上記層34,36,38間の表面界面に取り付けられ、この表面界面を増加させる。別の実施形態において、第1の電極層34および第2の電極層36は、例えば上記イオノマーによってイオン交換膜層38の両側に結合され、これにより、膜と電極層との間の界面表面積も増加する。第1の電極層34および第2の電極層36は、第1の集電体30と第2の集電体32との間に配置される。
図5を参照して、各電極層34および36は、各バッキング層76および78により各集電体30および32へと接続される。再度
図2を参照して、各電極層34および36は、イオン交換膜層38と、集電体30および32のうちそれぞれ1つとの間に圧縮することができ、これにより、その厚さ60および62は少なくとも40%だけ減少して、層間の界面表面積をさらに増加させる。
【0027】
図1および
図2を参照して、上記したようなフロー電池20は、一対のエンドプレート39間のスタック21として配置および圧縮される。第1の電解質回路ループ16のソース導管22は、第1の電解質保存タンク12を、各フロー電池20の第1の集電体30および第1の電極層34のうちの1つまたは双方へと流体接続させる。第1の電解質回路ループ16のリターン導管26は、各フロー電池20の第1の集電体30および/または第1の電極層34を、第1の電解質保存タンク12と相互に流体接続させる。第2の電解質回路ループ18のソース導管24は、第2の電解質保存タンク14を、各フロー電池20の第2の集電体32および第2の電極層36のうちの1つまたは双方へと流体接続させる。第2の電解質回路ループ18のリターン導管28は、各フロー電池20の第2の集電体32および/または第2の電極層36を、第2の電解質保存タンク14へと相互に流体接続させる。
【0028】
再度
図1および
図2を参照して、フロー電池システム10の動作時において、第1の電解質溶液を第1の電解質保存タンク12とフロー電池20との間において第1の電解質回路ループ16を通じて(例えば、ポンプを介して)循環させる。より詳細には、第1の電解質溶液を第1の電解質回路ループ16のソース導管22を通じて各フロー電池20の第1の集電体30へと案内する。第1の電解質溶液は、第1の集電体30中の流路40内を流れ、マクロ細孔72およびミクロ細孔74を通じて第1の電極層34の内外に浸透する(すなわち、第1の電極層34を湿潤する)。第1の電解質溶液の第1の電極層34を通じた浸透は、拡散または強制対流(例えば、特許文献1に記載のもの)から得ることができ、これにより、比較的高い電流密度での動作における比較的高い反応速度が促進され得る。第1の電解質回路ループ16のリターン導管26は、各フロー電池20の第1の集電体30からの第1の電解質溶液を第1の電解質保存タンク12へと返送する。
【0029】
第2の電解質溶液は、第2の電解質保存タンク14とフロー電池20との間において第2の電解質回路ループ18を通じて(例えば、ポンプを介して)循環される。より詳細には、第2の電解質溶液は、第2の電解質回路ループ18のソース導管24を通じて各フロー電池20の第2の集電体32へと案内される。第2の電解質溶液は、第2の集電体32中の流路42を流れ、マクロ細孔72およびミクロ細孔74を通じて第2の電極層36の内外に浸透する(すなわち、第2の電極層36を湿潤する)。上記したように、第2の電極層36を通じた第2の電解質溶液の浸透は、拡散または強制対流(例えば、特許文献1に記載のもの)から得ることができ、これにより、比較的高い電流密度での動作における比較的高い反応速度が促進され得る。第2の電解質回路ループ18のリターン導管28は、各フロー電池20の第2の集電体32からの第2の電解質溶液を第2の電解質保存タンク14へと返送する。
【0030】
動作がエネルギー保存モードにあるとき、集電体30および32を通じて、電気エネルギーが各フロー電池20へ入力される。この電気エネルギーは、第1の電解質溶液および第2の電解質溶液中における電気化学反応と、例えばイオン交換膜層38上における第1の電解質溶液から第2の電解質溶液への非レドックス対反応物質の移動とを通じて化学エネルギーへ変換される。その後、この化学エネルギーは電解質溶液中に保存される。これらの電解質溶液はそれぞれ、第1の電解質保存タンク12および第2の電解質保存タンク14中に保存される。一方、動作がエネルギー放出モードにあるとき、電解質溶液中に保存された化学エネルギーは、第1の電解質溶液および第2の電解質溶液中における逆電気化学反応と、例えばイオン交換膜層38上における第1の電解質溶液から第2の電解質溶液への非レドックス対反応物質の移動とを通じて再度電気エネルギーへ変換される。フロー電池20によって再生された電気エネルギーは、集電体30および32を通じて電池から出て行く。
【0031】
本発明の多様な実施形態について開示してきたが、当業者であれば、他にも多数の実施形態および実行様態が本発明の範囲内において可能であることが理解できるであろう。例えば、各電極層は、上記したマクロ細孔およびミクロ細孔以外のさらなる種類の細孔を1つ以上含み得る。よって、本発明は、添付の特許請求の範囲およびそれに相当するものを考慮することなく限定されない。