(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1または2に記載のIII族窒化物複合基板と、前記III族窒化物複合基板の前記III族窒化物膜側の主面上に配置されている少なくとも1層のIII族窒化物層と、を含む、積層III族窒化物複合基板。
請求項1または2に記載のIII族窒化物複合基板中の前記III族窒化物膜と、前記III族窒化物膜上に配置されている少なくとも1層のIII族窒化物層と、を含む、III族窒化物半導体デバイス。
前記III族窒化物層上にさらにデバイス支持基板を貼り合わせる工程と、前記III族窒化物複合基板から前記支持基板を除去する工程と、をさらに含む、請求項11に記載のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[実施形態1:III族窒化物複合基板]
図1を参照して、実施形態1であるIII族窒化物複合基板1を説明する。III族窒化物複合基板1は、支持基板11と、厚さが10μm以上250μm以下のIII族窒化物膜13と、が貼り合わされた直径が75mm以上の基板である。III族窒化物複合基板1は、支持基板11とIII族窒化物膜13との間に介在して、支持基板11とIII族窒化物膜13とを接合する接合膜12を備えている。そして、接合膜12は、厚さ分布が2%以上40%以下であることを特徴とする。
【0027】
また、本実施形態であるIII族窒化物複合基板1は、接合膜12によって、接合された支持基板11とIII族窒化物膜13とのせん断接合強度が4MPa以上40MPa以下であり、かつ支持基板11とIII族窒化物膜13との接合面積率が60%以上99%以下であることを特徴とする。
【0028】
本実施形態は、従来の自立III族窒化物基板と異なり、III族窒化物膜13が支持基板11に接合された複合基板である。かかる構成を採用することにより、高価なIII族窒化物膜の厚さを低減することができ、半導体デバイスの低廉化を図ることができる。
【0029】
さらに、本実施形態は、従来の貼り合わせ基板とも異なり、直径が75mm以上の大口径であり、III族窒化物膜13の厚さは10μm以上250μm以下である。これにより、本実施形態のIII族窒化物複合基板を用いて、極めて良好な半導体デバイス特性を得ることができる。
【0030】
かかる構成は、接合膜12の厚さ分布が2%以上40%以下であること、または支持基板11とIII族窒化物膜13とのせん断接合強度が4MPa以上40MPa以下であり、かつ支持基板11とIII族窒化物膜13との接合面積率が60%以上99%以下であることにより実現できる。
【0031】
厚さ分布が特定の範囲に制御された接合膜12を備えることにより、直径が75mm以上の大口径基板において、III族窒化物膜13の厚さを、たとえば、ワイヤーソーなどで切断、分離することにより、10μm以上250μm以下とした場合であっても、III族窒化物膜13上にエピタキシャル層を形成する半導体デバイス工程において、基板を搭載するサセプタからの熱が膜内に均一に伝導されるため、良好な厚さ分布を有し、高い結晶品質を有するエピタキシャル層を得ることができ、以って、半導体デバイスの製造歩留まりをも高めることができる。
【0032】
また、支持基板11とIII族窒化物膜13との接合強度および接合面積率を特定の範囲に制御することにより、接合膜にかかる応力が緩和され、反りの発生を抑制することができ、以って、半導体デバイスの製造歩留まりを高めることができる。
【0033】
なお、本実施形態であるIII族窒化物複合基板1は、上記のような接合膜12の厚さ分布の特徴と、支持基板11とIII族窒化物膜13との接合強度および接合面積率の特徴と、の少なくとも一方を有することにより、半導体デバイスの製造歩留まりを高めるとともに、半導体デバイスの特性を向上させることができる。そして、III族窒化物複合基板1が両方の特徴を併せ持つ場合には、それらの効果が相乗的に作用し、本発明の効果をより一層高めることができるため特に好ましい。
【0034】
(III族窒化物複合基板の直径)
III族窒化物複合基板1の直径は、1枚の複合基板から半導体デバイスのチップの取れ数を多くする観点から、75mm以上であり、100mm以上が好ましく、125mm以上がより好ましく、150mm以上がさらに好ましい。また、III族窒化物複合基板1の直径は、複合基板の反りを低減し半導体デバイスの歩留を高くする観点から、300mm以下が好ましく、200mm以下がより好ましい。
【0035】
以下、本実施形態であるIII族窒化物複合基板1を構成する各部について説明する。
(接合膜)
本実施形態の接合膜12は、支持基板11の接合面およびIII族窒化物膜13の接合面の凹凸を吸収、緩和して支持基板11とIII族窒化物膜13との接合強度を高める機能を有する。
【0036】
接合膜12は、支持基板11とIII族窒化物膜13とを接合できるものであれば特に制限されないが、支持基板11とIII族窒化物膜13との接合性が高い観点から、SiO
2膜、Si
3N
4膜、TiO
2膜、Ga
2O
3膜などが好ましい。接合膜12の平均厚さは、特に制限されないが、たとえば、100nm〜4μm程度とすることができる。
【0037】
(接合膜の厚さ分布)
本実施の形態において、接合膜12の厚さ分布は2%以上40%以下である。ここで、「厚さ分布」とは、接合膜12の厚みの均一性を示す指標であり、接合膜12の主面の面内全域に亘って測定された厚さのうち、「厚さの最大値t
max」と「厚さの最小値t
min」とから次式により算出された値である。
【0038】
式:厚さ分布(%)={(t
max−t
min)/(t
max+t
min)}×100
ここで、接合膜の厚さの基準面は、たとえば、支持基板11の主面11mとすることができる。また、厚さの測定点は少なくとも13点とすることが好ましく、隣接する各測定点の間隔は略均等間隔であることが好ましい。
【0039】
なお、接合膜の厚さは、従来公知の光干渉式膜厚計や段差計などにより測定することができる。また、該厚さは接合膜12の主面に対する垂直断面を走査型電子顕微鏡(SEM(Scanning Electron Microscope))などにより観察することによっても測定することができる。
【0040】
かかる厚さ分布が2%未満である場合には、エピタキシャル層を成長させる際に、基板を搭載するサセプタからの熱伝導が不均一となり、基板が凹状に反ることで中央部と外周部との温度差が大きくなり、良質なエピタキシャル層を成長させることができず、半導体デバイスの製造歩留まりが低下するとともに、半導体デバイスの特性が低下する。厚さ分布が40%を超える場合には、接合膜の薄い領域や接合膜が消失した領域(すなわち、未接合領域)が増加するため、この場合にも良質なエピタキシャル層を成長させることができず、半導体デバイスの製造歩留まりが低下する。したがって、本実施形態の接合膜の厚さ分布は、2%以上40%以下である。接合膜12の厚さ分布が該範囲を占めることにより、エピタキシャル成長時に複合基板全体の温度分布が均一化され、高い結晶品質を有する良質なエピタキシャル層を成長させることができるという優れた効果を示す。かかる厚さ分布は、より好ましくは5%以上25%以下であり、さらに好ましくは7%以上16%以下である。厚さ分布が該範囲を占めることにより、さらに接合膜の厚みの均一性が高められ、III族窒化物膜13の上に形成されるエピタキシャル層の結晶品質をより一層高いものとすることができる。
【0041】
接合膜の厚さ分布は、たとえば、接合膜の表面を化学機械的研磨(以下「CMP(chemical mechanical polishing)」とも記す)する際の条件を適宜調整することにより、所望の範囲に制御することができる。かかる条件としては、たとえば、研磨材の材質、研磨の線速度、研磨パッドの材質などを挙げることができる。
【0042】
(せん断接合強度)
本実施形態において、接合膜12によって接合された支持基板11とIII族窒化物膜13とのせん断接合強度は4MPa以上40MPa以下である。せん断接合強度が該範囲を占めることにより、半導体デバイスの製造工程おいて、基板剥離が発生することなく、基板の反りも緩和されるため、半導体デバイスの製造歩留まりが顕著に向上する。かかるせん断接合強度は、より好ましくは10MPa以上30MPa以下である。この場合、基板の反りを緩和させる効果がより一層高まる傾向にあるため好適である。せん断接合強度が4MPa未満の場合には、接合強度が十分ではなく、エピタキシャル成長時に、基板を搭載するサセプタからの熱伝導に起因する基板の変形により、基板剥離が発生し、半導体デバイスの製造歩留まりが低下する。せん断接合強度が40MPaを超える場合には、接合膜12に加わる応力が大きくなり、基板の反りが促進される傾向にあり、半導体デバイスの製造歩留まりが低下する。
【0043】
本実施形態において、かかるせん断接合強度は、ダイシェア試験機、引張試験機などを用いて、JIS K 6850「剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法」に準拠した方法によって測定することができる。すなわち、測定試料として矩形の複合基板(縦6mm×横8mm)を準備し、支持基板側を下にして、該複合基板を試験機の試料ステージ上に平置きにして固定した後、幅9mmの試験ジグでIII族窒化物膜に、支持基板とIII族窒化物膜との接合面に対して平行方向(すなわち、せん断方向)に荷重を印加し、接合面が破壊される際の最大せん断荷重を測定する。そして、最大せん断荷重を接合面の面積(4.8×10
-5m
2)で除すことにより、せん断接合強度を算出する。
【0044】
支持基板11とIII族窒化物膜13とのせん断接合強度を4MPa以上40MPa以下とする方法としては、たとえば、支持基板11とIII族窒化物膜13とを接合する前後にアニール処理する方法を好適に用いることができる。すなわち、支持基板11およびIII族窒化物膜13それぞれの一主表面に接合膜を
形成した後、支持基板11とIII族窒化物膜13とをそれぞれアニール処理し、アニール処理後の支持基板11とIII族窒化物膜13とを、接合膜を介して接合した後、再度アニール処理を行なう方法が好適である。
【0045】
かかるアニール処理の条件は、好ましくは窒素雰囲気下、400℃以上で1時間以上であり、より好ましくは窒素雰囲気下、600℃以上で1時間以上であり、特に好ましくは窒素雰囲気下、800℃以上1時間以上である。
【0046】
ここで、接合膜の品質の観点から、アニール処理の温度条件は、1200℃以下であることが好ましく、処理時間は48時間以下であることが好ましい。
【0047】
また、せん断接合強度は、接合膜の接合前における表面状態(すなわち、表面粗さ)によっても制御することができる。
【0048】
(接合面積率)
本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、上記のように、支持基板11とIII族窒化物膜13とのせん断接合強度が4MPa以上40MPa以下であるとともに、支持基板11とIII族窒化物膜13との接合面積率が60%以上99%以下であることを要する。このように、2つの観点から、支持基板11とIII族窒化物膜13との関係を規定したことにより、本実施形態のIII族窒化物複合基板1は、エピタキシャル成長時の基板の反りを顕著に低減し、平坦性が高く良質なエピタキシャル層を成長させることができる。また、これにより、半導体デバイスの製造工程において、基板剥離の発生頻度が極めて低く、半導体デバイスの製造歩留まりが高いという優れた効果を有する。接合面積率が60%未満である場合には、エピタキシャル成長工程および半導体デバイス製造工程において、基板剥離の発生頻度が高く、半導体デバイスの製造歩留まりが低下する。接合面積率が99%を超える場合には、接合膜12に加わる応力が大きくなり、基板に反りが生じやすくなるため、この場合にも半導体デバイスの製造歩留まりが低下する。
【0049】
ここで、本実施形態において、「接合面積率」は、支持基板11とIII族窒化物膜13との接合面である接合膜12を超音波顕微鏡により観測した場合に、接合欠陥(ボイドあるいは剥離)として検出される面積の総和を、支持基板11の主面11mの面積で除した値に100を乗じた値である。かかる接合面積率は、より好ましくは70%以上90%以下であり、さらに好ましくは80%以上86%以下である。接合面積率が該範囲を占める場合には、接合膜12に加わる応力が大幅に緩和され、半導体デバイスの製造歩留まりをより一層高めることができる。
【0050】
接合面積率を60%以上99%以下とする方法としては、たとえば、接合膜12の表面を清浄化する方法を用いることができる。具体的には、接合膜12の表面の汚れをCMPにより除去した後に、該表面をさらに水で超音波洗浄する方法を好適に用いることができる。また、より好ましい方法として、接合膜12の表面の汚れをCMPにより除去した後に、水酸化カリウム(KOH)水溶液や水などの薬液を用いた無砥粒ポリシング洗浄によりさらに汚れを除去する方法を用いることもできる。また、たとえば、超音波洗浄と無砥粒ポリシング洗浄とを併用しても良い。
【0051】
なお、接合面積率は、接合膜12の厚さ分布を2%以上40%以下とすることにより、より精細に制御することができる。すなわち、接合膜12の厚さ分布が2%以上40%以下であり、かつ接合面積率が60%以上99%以下であることが特に好ましい。
【0052】
(支持基板)
支持基板11は、III族窒化物膜13を支持できるものであれば特に制限はないが、高価なIII族窒化物の使用量を低減してコストを低減する観点から、III族窒化物と化学組成が異なる異組成基板であることが好ましい。支持基板11は透明であっても、不透明であっても良く、利用される半導体デバイスに応じて適宜選択することができる。
【0053】
支持基板11を構成する材料としては、従来公知のセラミックス材料、半導体材料、金属材料、多結晶材料、単結晶材料などを用いることができる。たとえば、窒化アルミニウム(AlN)、スピネル(MgAl
2O
4)、ムライト(3Al
2O
3・2SiO
2〜2Al
2O
3・SiO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、グラファイトなどの焼結体材料、AlN、サファイアなどの単結晶材料、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などの金属材料、ならびに銅−タングステン(Cu−W)などの合金材料などを挙げることができる。
【0054】
また、支持基板11は、エピタキシャル成長時などにおいて、アンモニアガスをはじめとする高温の腐食性ガスに曝されることもあるため、耐食性を有する基板であることが好ましい。したがって、たとえば、表面の耐食性を高めるため各種の表面保護コーティングなどが付されていても良い。
【0055】
(支持基板の熱伝導率)
支持基板11の熱伝導率λ
sは、3W・m
-1・K
-1以上280W・m
-1・K
-1以下が好ましく、5W・m
-1・K
-1以上210W・m
-1・K
-1以下がより好ましく、10W・m
-1・K
-1以上120W・m
-1・K
-1以下がさらに好ましい。ここで、支持基板11の熱伝導率λ
sは、レーザフラッシュ法により測定することができる。熱伝導率λ
sが好ましくは3W・m
-1・K
-1以上、より好ましくは5W・m
-1・K
-1以上、さらに好ましくは10W・m
-1・K
-1以上である支持基板11を有するIII族窒化物複合基板1は、III族窒化物層を成長させる際にサセプタの主面からの熱を効率よくIII族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13の主面13mに伝えることができる。熱伝導率λ
sが好ましくは280W・m
-1・K
-1以下、より好ましくは210W・m
-1・K
-1以下、さらに好ましくは120W・m
-1・K
-1以下である支持基板11を有するIII族窒化物複合基板1は、III族窒化物層を成長させる際にサセプタの主面からの熱をIII族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13の主面の全体に均一に伝えることができる。熱伝導率λ
sが280W・m
-1・K
-1以下の支持基板11は、熱伝導率λ
sが約300W・m
-1・K
-1のSiC基板を支持基板として用いる場合よりも、III族窒化物層を成長させる際にサセプタの主面からの熱をIII族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13の主面の全体に均一に伝えることができる。なお、支持基板11の熱伝導率は、III族窒化物膜13の熱伝導率と異なっていても良い。
【0056】
(支持基板の熱膨張係数)
支持基板11は、割れ難い基板であることが好ましい。そして、支持基板11の熱膨張係数は、III族窒化物膜13の熱膨張係数と近似していることが好ましい。支持基板11がこのような性質を有することにより、III族窒化物複合基板1が、エピタキシャル成長工程、半導体デバイス製造工程などで加熱されても、III族窒化物複合基板1が割れ難くなるため好適である。
【0057】
具体的には、支持基板11の熱膨張係数α
Sに対するIII族窒化物膜13の熱膨張係数α
III-Nの比α
III-N/α
Sは、0.75以上1.25以下が好ましく、0.8以上1.2以下がより好ましく、0.9以上1.1以下がさらに好ましく、0.95以上1.05以下が特に好ましい。
【0058】
(支持基板11の厚さ)
支持基板11の厚さ自体は特に制限されないが、加熱時にIII族窒化物膜13の反りや割れなどを抑制するという観点から、III族窒化物膜13の厚さとの間で、次のような関係を満たすことが好ましい。すなわち、支持基板11の厚さt
Sに対するIII族窒化物膜13の厚さt
III-Nの比t
III-N/t
Sは、0.02以上1以下であることが好ましい。ここで、上記の熱膨張係数の比α
III-N/α
Sが0.75以上1.25以下であり、かつ厚さの比t
III-N/t
Sが0.02以上1以下であることにより、複合基板の製造工程、エピタキシャル成長工程、半導体デバイス製造工程などのあらゆる場面において、III族窒化物膜13の反りや割れなどに起因する不良の発生を大幅に低減することができる。なお、厚さの比t
III-N/t
Sは、より好ましくは、0.07以上0.5以下である。
【0059】
(支持基板のヤング率)
支持基板11のヤング率E
sは、III族窒化物複合基板1が加熱された際の反りの発生を抑制するとの観点から、E
Sが150GPa以上500GPa以下であることが好ましい。E
Sが150GPa未満であると加熱時に反りが発生しやすい傾向にあり、E
Sが500GPaを超えると加熱時に割れやクラックが発生しやすい傾向にあるため好ましくない。ここで、E
Sのより好ましい範囲は、200GPa以上350GPa以下である。なお、支持基板11のヤング率は、III族窒化物膜13と異なっていても良いが、同程度であることが好ましい。
【0060】
支持基板11を構成する材料のうち、III族窒化物膜13と熱膨張係数やヤング率が近い値である材料としては、たとえば、ムライト(3Al
2O
3・2SiO
2〜2Al
2O
3・SiO
2)、ムライト−YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、スピネル(MgAl
2O
4)、Al
2O
3−SiO
2系複合酸化物の焼結体、およびこれらに酸化物、窒化物、炭酸塩などを添加した焼結体により形成される基板、モリブデン(Mo)基板、タングステン(W)基板などを挙げることができる。ここで、酸化物、窒化物および炭酸塩に含まれる元素は、Ca、Mg、Sr、Ba、Al、Sc、Y、Ce、Pr、Si、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znなどが好適に挙げられる。
【0061】
(III族窒化物膜)
III族窒化物膜13は、III族窒化物で形成される膜であり、GaN膜、AlN膜などのIn
xAl
yGa
1-x-yN膜(0≦x、0≦y、x+y≦1)などが挙げられる。
【0062】
III族窒化物膜13の厚さは、10μm以上250μm以下である。厚さが10μm未満の場合は、十分な半導体デバイス特性を得ることができない傾向にある。また、厚さが250μmを超えると、高価なIII族窒化物の使用量が増えるため、半導体デバイスの高付加価値化が困難となる。かかるIII族窒化物膜13の厚さは、半導体デバイス特性を高める観点から、好ましくは30μm以上であり、より好ましくは80μm以上であり、特に好ましくは100μm以上である。また、該厚さは、半導体デバイスの高付加価値化の観点から、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは180μm以下であり、特に好ましくは130μm以下である。
【0063】
III族窒化物膜13の結晶構造は、良好な特性の半導体デバイスが得られる観点から、ウルツ鉱型構造が好ましい。III族窒化物膜13の主面が最も近似する上記の所定の面方位は、所望の半導体デバイスに適したものであれば制限はなく、{0001}、{10−10}、{11−20}、{21−30}、{20−21}、{10−11}、{11−22}、{22−43}、およびこれらのそれぞれの面方位から15°以下の角度でずらした(15°以下でオフした)面方位でもよい。また、これらのそれぞれの面方位の面の裏面の面方位およびかかる裏面の面方位から15°以下でオフした面方位でもよい。すなわち、III族窒化物膜13は、極性面、非極性面、および半極性面のいずれであってもよい。また、III族窒化物膜13の主面は、大口径化が容易であるとの観点から{0001}面およびその裏面が好ましく、得られる発光デバイスのブルーシフトを抑制する観点から{10−10}面、{20−21}面およびそれらの裏面が好ましい。
【0064】
III族窒化物膜13の主面13mにおける不純物金属原子は、III族窒化物膜13上に成長させるIII族窒化物層の結晶品質を高め、形成する半導体デバイスの特性を高くする観点から、3×10
12原子/cm
2以下が好ましく、1×10
12原子/cm
2以下がより好ましく、1×10
11原子/cm
2以下がさらに好ましい。支持基板11として、ムライト(3Al
2O
3・2SiO
2〜2Al
2O
3・SiO
2)、ムライト−YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、スピネル(MgAl
2O
4)、Al
2O
3−SiO
2系複合酸化物の焼結体などの基板を含むIII族窒化物複合基板1は、支持基板11からの金属原子の溶出を抑制した洗浄、たとえば、界面活性剤と純水とを用いたスクラブ洗浄、二流体洗浄、メガソニック洗浄、低濃度の酸またはアルカリを用いた片面の枚葉洗浄などにより、III族窒化物膜13の主面13mにおける不純物金属原子の濃度が低減されていることが好ましい。
【0065】
また、III族窒化物膜13の主面13mにおけるその他の不純物は、III族窒化物膜13上に成長させるIII族窒化物層の結晶品質を高め、形成する半導体デバイスの特性を高くする観点から、Cl原子が2×10
14原子/cm
2以下が好ましく、Si原子が9×10
13原子/cm
2以下が好ましい。III族窒化物膜13の転位密度は、特に制限はないが、半導体デバイスのリーク電流低減化の観点から、1×10
8cm
-2以下が好ましい。III族窒化物膜13のキャリア濃度は、特に制限はないが、半導体デバイスの低抵抗化の観点から、1×10
17cm
-3以上が好ましい。
【0066】
以上に説明したIII族窒化物複合基板は以下のような製造方法によって製造することができる。すなわち、以下のような製造方法によって得られるIII族窒化物複合基板は、安価に製造することができるとともに、大口径で好適な厚さを有し、かつ結晶品質の高いIII族窒化物膜を有するIII族窒化物複合基板である。
【0067】
[実施形態2:III族窒化物複合基板の製造方法]
以下、
図5および6を参照して、実施形態2であるIII族窒化物複合基板1の製造方法について説明する。III族窒化物複合基板1の製造方法は、支持基板11の主面11m側にIII族窒化物膜13を配置する方法であれば特に制限はなく、次の第1および第2の方法が挙げられる。
【0068】
第1の方法は、
図5に示すように、支持基板11の主面11mにIII族窒化物膜ドナー基板13Dを貼り合わせた後、そのIII族窒化物膜ドナー基板13Dを貼り合わせ面から所定の深さの面で切断することにより支持基板11の主面11m上にIII族窒化物膜13を形成する方法である。
【0069】
第2の方法は、
図6に示すように、支持基板11の主面11mにIII族窒化物膜ドナー基板13Dを貼り合わせた後、そのIII族窒化物膜ドナー基板13Dを貼り合わせ面の反対側の主面から研削、研磨およびエッチングの少なくともいずれかにより厚さを減少させて調整することにより支持基板11の主面11m上にIII族窒化物膜13を形成する方法である。
【0070】
上記の第1および第2の方法において、支持基板11にIII族窒化物膜ドナー基板13Dを貼り合わせる方法には、支持基板11の主面11mに接合膜12を介在させてIII族窒化物膜ドナー基板13Dを貼り合わせる方法(
図5および6を参照)などが挙げられる。
【0071】
なお、
図5および6には、支持基板11に接合膜12aを形成するとともに、III族窒化物膜13に接合膜12bを形成し、それらを貼り合わせる方法が図示されているが、たとえば、支持基板11のみ接合膜12を形成しておき、III族窒化物膜13と貼り合わせても何ら差し支えない。
【0072】
(第1の方法:切断法)
図5に示す、第1の方法により複合基板を製造する方法は、特に制限はないが、効率的に複合基板を製造する観点から、支持基板11とIII族窒化物膜ドナー基板13Dとを貼り合わせて接合基板1Lを形成する工程と(
図5(A))と、接合基板1LのIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ面である主面13nから内部に所定の深さに位置する面で切断する工程(
図5(B))と、を含むことが好ましい。
【0073】
ここで、支持基板11は、特に制限されず、たとえば、金属元素Mを含む酸化物であるMO
x(xは任意の正の実数)、Alを含む酸化物であるAl
2O
3、およびSiを含む酸化物であるSiO
2を所定のモル比で混合し焼結して得られる焼結体を所定の大きさに切り出して得られる基板の主面を研磨することにより得ることができる。
【0074】
III族窒化物膜ドナー基板13Dとは、後工程において分離によりIII族窒化物膜13を提供するドナー基板である。かかるIII族窒化物膜ドナー基板13Dを形成する方法には、MOCVD(有機金属化学気相堆積)法、スパッタ法、MBE(分子線エピタキシ)法、PLD(パルス・レーザ堆積)法、HVPE(ハイドライド気相エピタキシ)法、昇華法、フラックス法、高窒素圧溶液法などを好適に用いることができる。
【0075】
図5(A)に示すように、支持基板11とIII族窒化物膜ドナー基板13Dとを貼り合わせて接合基板1Lを形成する工程は、支持基板11の主面11m上に接合膜12aを形成するサブ工程(
図5(A1))と、III族窒化物膜ドナー基板13Dの主面13n上に接合膜12bを形成するサブ工程(
図5(A2))と、支持基板11の主面11m上に形成された接合膜12aとIII族窒化物膜ドナー基板13Dの主面13n上に形成された接合膜12bとを貼り合わせるサブ工程(
図5(A3))と、を含む。これらのサブ工程により、互いに貼り合わされた接合膜12aと接合膜12bとが接合により一体化して接合膜12が形成され、支持基板11と、III族窒化物膜ドナー基板13Dとが、接合膜12を介在させて接合されることにより、接合基板1Lが形成される。
【0076】
ここで、接合膜12a,12bの形成方法は、特に制限はないが、膜形成コストを抑制する観点から、スパッタ法、蒸着法、CVD(化学気相堆積)法などが好適に行なわれる。また、接合膜12aと接合膜12bとを貼り合わせる方法には、特に制限はなく、貼り合わせ面を洗浄しそのまま貼り合わせた後600℃〜1200℃程度に昇温して接合する直接接合法、貼り合わせ面を洗浄しプラズマやイオンなどで活性化処理した後に室温(たとえば25℃)〜400℃程度の低温雰囲気下で接合する表面活性化接合法、貼り合わせ面を薬液と純水で洗浄処理した後、0.1MPa〜10MPa程度の圧力を掛けて接合する高圧接合法、貼り合わせ面を薬液と純水で洗浄処理した後、10
-6Pa〜10
-3Pa程度の高真空雰囲気下で接合する超高真空接合法、などが好適である。上記のいずれの接合法においてもそれらの接合後に600℃〜1200℃程度に昇温することによりさらに接合強度を高めることができる。特に、表面活性化接合法、高圧接合法、および超高真空接合法においては、それらの接合後に600℃〜1200℃程度に昇温することによる接合強度を高める効果が大きい。
【0077】
図5(B)に示す、接合基板1LのIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ面である主面13nから内部に所定の深さに位置する面で切断する工程は、接合基板1LのIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ面である主面13nから内部に所定の深さに位置する面でIII族窒化物膜ドナー基板13Dを切断することにより行なう。III族窒化物膜ドナー基板13Dを切断する方法は、特に制限なく、ワイヤーソー、内周刃、外周刃などが好適に用いられる。
【0078】
このようにして、接合基板1LがIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ面である主面13nから内部に所定の深さに位置する面で切断して、支持基板11と、支持基板11の主面11m上に配置された接合膜12と、接合膜12の主面上に配置されたIII族窒化物膜13と、を含むIII族窒化物複合基板1が得られる。
【0079】
(第2の方法:研削、研磨およびエッチング法)
図6に示すように、第2の方法により複合基板を製造する方法は、特に制限はないが、効率的に複合基板を製造する観点から、支持基板11とIII族窒化物膜ドナー基板13Dとを貼り合わせて接合基板1Lを形成する工程と(
図6(A))と、接合基板1LのIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ面である主面13nと反対側の主面13mから研削、研磨およびエッチングの少なくともいずれかを行なう工程(
図6(B))と、を含むことが好ましい。
【0080】
図6(A)に示すように、支持基板11とIII族窒化物膜ドナー基板13Dとを貼り合わせて接合基板1Lを形成する工程は、支持基板11の主面11m上に接合膜12aを形成するサブ工程(
図6(A1))と、III族窒化物膜ドナー基板13Dの主面13n上に接合膜12bを形成するサブ工程(
図6(A2))と、支持基板11の主面11m上に形成された接合膜12aとIII族窒化物膜ドナー基板13Dの主面13n上に形成された接合膜12bとを貼り合わせるサブ工程(
図6(A3))と、を含む。これらのサブ工程により、互いに貼り合わされた接合膜12aと接合膜12bとが接合により一体化して接合膜12が形成され、支持基板11と、III族窒化物膜ドナー基板13Dとが、接合膜12を介在させて接合されることにより、接合基板1Lが形成される。
【0081】
III族窒化物膜ドナー基板13Dを形成する方法は、上記の第1の方法におけるIII族窒化物膜ドナー基板13Dを形成する方法と同様である。また、接合膜12a,12bの形成方法は、第1の方法により複合基板を製造する方法における接合膜12a,12bの形成方法と同様である。また、支持基板11とIII族窒化物膜ドナー基板13Dとを貼り合わせる方法は、上記の第1の方法により複合基板を製造する方法における支持基板11とIII族窒化物膜13とを貼り合わせる方法と同様である。
【0082】
図6(B)に示すように、接合基板1LのIII族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ面である主面13nと反対側の主面13mから研削、研磨およびエッチングの少なくともいずれかを行なう工程により、III族窒化物膜ドナー基板13Dの厚さを減少させて所望の厚さのIII族窒化物膜13が形成されるため、支持基板11と、支持基板11の主面11m上に配置された接合膜12と、接合膜12の主面上に配置されたIII族窒化物膜13と、を含むIII族窒化物複合基板1が得られる。
【0083】
ここで、III族窒化物膜ドナー基板13Dを研削する方法は、特に制限はなく、砥石による研削(平面研削)、ショット・ブラストなどが挙げられる。III族窒化物膜ドナー基板13Dを研磨する方法は、特に制限はなく、機械的研磨、化学機械的研磨などが挙げられる。III族窒化物膜ドナー基板13Dをエッチングする方法は、特に制限はなく、薬液によるウェットエッチング、RIE(反応性イオンエッチング)などのドライエッチングなどが挙げられる。
【0084】
以上のようにして、III族窒化物複合基板1を製造することができる。以上のようにして製造されたIII族窒化物複合基板1は、その上に良質なエピタキシャル層を成長させることができるとともに、半導体デバイスの製造歩留まりを向上させるという優れた効果を有する。
【0085】
[実施形態3:積層III族窒化物複合基板]
以下、
図2を参照して、別の実施形態である積層III族窒化物複合基板2を説明する。
【0086】
積層III族窒化物複合基板2は、実施形態1のIII族窒化物複合基板1と、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面13m上に配置されている少なくとも1層のIII族窒化物層20と、を含む。
【0087】
このように、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面13m上に、III族窒化物層20が配置されることにより、III族窒化物層20は良質なエピタキシャル層として成長することができる。
【0088】
本実施形態の積層III族窒化物複合基板2において、III族窒化物膜13側の主面13m上に配置されているIII族窒化物層20は、作製する半導体デバイスの種類に応じて異なる。半導体デバイスとして発光デバイスを作製する場合は、III族窒化物層20は、たとえば、n−GaN層21、n−In
0.05Ga
0.95N層22、多重量子井戸構造を有する活性層23、p−Al
0.09Ga
0.91N層24、およびp−GaN層25で構成することができる。半導体デバイスとして電子デバイスの1例であるHEMT(高電子移動度トランジスタ)を作製する場合は、III族窒化物層は、たとえば、GaN層、Al
0.2Ga
0.8N層で構成することができる。半導体デバイスとして電子デバイスの別の例であるSBD(ショットキーバリアダイオード)を作製する場合は、III族窒化物層は、たとえば、n
+−GaN層(キャリア濃度がたとえば2×10
18cm
-3)、n
-−GaN層(キャリア濃度がたとえば5×10
15cm
-3)で構成することができる。
【0089】
[実施形態4:III族窒化物半導体デバイス]
以下、
図3および4を参照して、さらに別の実施形態であるIII族窒化物半導体デバイス4を説明する。
【0090】
III族窒化物半導体デバイス4は、実施形態1のIII族窒化物複合基板中のIII族窒化物膜13と、III族窒化物膜13上に配置されている少なくとも1層のIII族窒化物層20と、を含む。
【0091】
このように、本実施形態のIII族窒化物半導体デバイス4は、厚さが10μm以上250μmのIII族窒化物膜13を含むIII族窒化物複合基板1とその上に成長することにより配置されている結晶品質の極めて高いIII族窒化物層20とを含むため、高い半導体特性を有する。
【0092】
III族窒化物半導体デバイス4のIII族窒化物層20は、III族窒化物半導体デバイス4の種類に応じて異なる。
図3に示すように、III族窒化物半導体デバイス4が発光デバイスの場合は、III族窒化物層20は、たとえば、n−GaN層21、n−In
0.05Ga
0.95N層22、多重量子井戸構造を有する活性層23、p−Al
0.09Ga
0.91N層24、およびp−GaN層25で構成することができる。
図4に示すように、III族窒化物半導体デバイス4が電子デバイスの一例であるHEMTの場合は、III族窒化物層20は、たとえば、GaN層26、Al
0.2Ga
0.8N層27で構成することができ、Al
0.2Ga
0.8N層27上に、ソース電極60、ドレイン電極70、ゲート電極80などを形成することができる。半導体デバイスとして電子デバイスの別の例であるSBDを作製する場合は、III族窒化物層は、たとえば、n
+−GaN層(キャリア濃度がたとえば2×10
18cm
-3)、n
-−GaN層(キャリア濃度がたとえば5×10
15cm
-3)で構成することができる。
【0093】
また、
図3および4に示すように、III族窒化物半導体デバイス4は、III族窒化物層20を支持するための支持基板11およびデバイス支持基板40の少なくともひとつをさらに含むことが好ましい。ここで、デバイス支持基板40の形状は、平板形状に限らず、III族窒化物膜13およびIII族窒化物層20を支持してIII族窒化物半導体デバイス4を形成することができるものである限り、任意の形状をとることができる。
【0094】
以上に説明した実施形態のIII族窒化物半導体デバイスは以下のような製造方法によって製造することができる。すなわち、以下のような製造方法によって製造されるIII族窒化物半導体デバイスは、安価で好適な歩留まりで製造できるとともに、極めて高い半導体特性を有する半導体デバイスである。
【0095】
[実施形態5:III族窒化物半導体デバイスの製造方法]
以下、
図7を参照して、実施形態5であるIII族窒化物半導体デバイスの製造方法について説明する。
【0096】
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、III族窒化物複合基板1を準備する工程と、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面13m上に、少なくとも1層のIII族窒化物層20を成長させる工程と、を含む。
【0097】
ここで、III族窒化物複合基板1を準備する工程は、前述の実施形態2として説明したIII族窒化物複合基板の製造方法と同様であるので、同じ説明は繰り返さない。以下、III族窒化物複合基板1を準備する工程以降の工程について説明する。
【0098】
本実施形態であるIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、
図7に示すように、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面13m上に、少なくとも1層のIII族窒化物層20を成長させる工程(
図7(A))を含む。本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法は、III族窒化物層の成長の際に、III族窒化物複合基板1の主面13m上にIII族窒化物層を成長させるため、高い歩留で高特性のIII族窒化物半導体デバイスを製造できる。
【0099】
本実施形態のIII族窒化物半導体デバイスの製造方法において、III族窒化物層20上にさらにデバイス支持基板40を貼り合わせる工程(
図7(B))と、III族窒化物複合基板1から支持基板11を除去する工程(
図7(C))と、をさらに含むことができる。これらの工程を加えることにより、高い歩留でデバイス支持基板40により支持された機械的強度が強く高特性のIII族窒化物半導体デバイスを製造できる。以下、各工程を具体的に説明する。
【0100】
(III族窒化物層の成長工程)
図7(A)に示す、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面13m上に、少なくとも1層のIII族窒化物層20を成長させる工程において、III族窒化物層20を成長させる方法は、結晶品質の高いIII族窒化物層20をエピタキシャル成長させる観点から、MOVPE法、MBE法、HVPE法、昇華法などの気相法、フラックス法などの液相法などが好適であり、特にMOVPE法が好適である。
【0101】
III族窒化物層20の構成は、III族窒化物半導体デバイス4の種類に応じて異なる。III族窒化物半導体デバイス4が発光デバイスの場合は、III族窒化物層20は、たとえば、III族窒化物膜13上に、n−GaN層21、n−In
0.05Ga
0.95N層22、多重量子井戸構造を有する活性層23、p−Al
0.09Ga
0.91N層24、およびp−GaN層25を順に成長させることにより構成することができる。
【0102】
上記のようにして、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13上に、少なくとも1層のIII族窒化物層20を成長させることにより、積層III族窒化物複合基板2が得られる。
【0103】
(デバイス支持基板の貼り合わせ工程)
図7(B)に示す、III族窒化物層20上にさらにデバイス支持基板40を貼り合わせる工程は、積層III族窒化物複合基板2のIII族窒化物層20上に、第1電極30およびパッド電極33を形成するとともに、デバイス支持基板40上にパッド電極43および接合金属膜44を形成し、パッド電極33に接合金属膜44を貼り合わせることにより行なう。かかる工程により、積層基板3が得られる。デバイス支持基板40には、Si基板、CuW基板などが用いられる。
【0104】
(支持基板の除去工程)
図7(C)に示す、III族窒化物複合基板1から支持基板11を除去する工程は、積層基板3から、III族窒化物複合基板1の支持基板11を除去することにより行なう。これにより、支持基板11とIII族窒化物膜13との間に介在している接合膜12も同時に除去することができる。
【0105】
支持基板11および接合膜12の除去方法は、特に制限はなく、研削、エッチングなどが好適に用いられる。たとえば、硬度、強度、および耐摩耗性が低く削られ易い材料で形成される支持基板11は、製造コストを低減する観点から、研削および研磨の少なくともいずれかにより除去することができる。また、酸、アルカリなどの薬液に溶解する材料で形成される支持基板11は、製造コストが低い観点から薬液でエッチングして除去することができる。なお、支持基板11の除去が容易な観点から、支持基板11は、サファイア、SiC、III族窒化物(たとえばGaN)などの単結晶材料で形成されている支持基板に比べて、セラミックスなどの多結晶材料で形成されている支持基板の方が好ましい。
【0106】
(電極の形成工程)
図7(D)に示す、積層基板3から支持基板11および接合膜12が除去されることにより露出したIII族窒化物膜13上に第2電極50を形成し、デバイス支持基板40上にデバイス支持基板電極45を形成する。
【0107】
以上のようにして、高い歩留で極めて良好な特性を有するIII族窒化物半導体デバイスを製造することができる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0109】
[(1) III族窒化物複合基板の作製]
(実施例A)
以下、
図5を参照して、実施例に係るIII族窒化物複合基板を説明する。
【0110】
まず、
図5(A1)に示すように、支持基板11として直径75mmで厚さ300μmのAl
2O
3−SiO
2複合酸化物基板(基板全体に対してAl
2O
3が85質量%であり、SiO
2が15質量%である複合酸化物基板)を準備した。この支持基板11は、熱伝導率が10W・m
-1・K
-1であり、ヤング率が250GPaであった。
【0111】
次いで、支持基板11の両側の主面11mを、研磨剤としてダイヤモンドスラリーを用いて、銅系定盤により粗研磨、スズ系定盤により中間研磨、不織布研磨パッドにより仕上げ研磨を行なった。仕上げ研磨においては、作用係数FEが4×10
-17m
2/s以上1×10
-16m
2/s以下の条件で研磨した。
【0112】
次に、支持基板11の仕上げ研磨後の主面11m上に、厚さ800nmのSiO
2膜をPE−CVD(プラズマ援用−化学気相堆積)法により成長させ、窒素雰囲気中で800℃で1時間のアニールを行なった。
【0113】
次に、平均粒径40nmのコロイダルシリカ砥粒を含みpHが10のスラリーを用いたCMPにより、主面12amが二乗平均平方根粗さ(以下「RMS(Root-Mean-Square roughness)」とも記す)で0.3nm以下に鏡面化された厚さ400nmの接合膜12aを形成した。次いで、CMPの際に用いたコロイダルシリカ砥粒を除去するために、KOH水溶液による無砥粒ポリシング洗浄、純水によるポリシング洗浄、および純水によるメガソニック洗浄(500kHz〜5MHzのメガソニック帯域の周波数の超音波を用いた洗浄)を行なった。
【0114】
また、
図5(A2)に示すように、III族窒化物膜ドナー基板13Dとして直径75mmで厚さ8mmのGaN結晶体を準備した。次いで、III族窒化物膜ドナー基板13Dの貼り合わせ面を機械研磨およびCMPによりRMSを2nm以下に平坦化し、その上に厚さ800nmのSiO
2膜をPE−CVD法により成長させ、窒素雰囲気中、800℃で1時間のアニール行なった。続いて、平均粒径が40nmのコロイダルシリカ砥粒を含みpHが10のスラリーを用いたCMPにより、主面12bnがRMSで0.3nm以下に鏡面化された厚さ500nmの接合膜12bを形成した。次いで、CMPの際に用いたコロイダルシリカ砥粒を除去するために、KOH水溶液による無砥粒ポリシング洗浄、純水によるポリシング洗浄、および純水によるメガソニック洗浄を行なった。
【0115】
なお、ここで、III族窒化物膜ドナー基板13Dは、下地基板としてGaAs基板を用いて、HVPE法により成長させたものであった。III族窒化物膜ドナー基板13Dは、n型の導電型であり、転移密度が1×10
8cm
-2であり、キャリア濃度が1×10
17cm
-3であった。
【0116】
次に、
図5(A1)〜(A3)に示すように、接合膜12aの主面12amと接合膜12bの主面12bnとを貼り合わせることにより、支持基板11とIII族窒化物膜13とを接合膜12を介在させて貼り合わせた接合基板1Lを得た。貼り合わせた後に、接合基板1Lを窒素雰囲気中で800℃まで昇温することによりアニールして接合強度を高めた。
【0117】
次に、
図5(B)に示すように、接合基板1LのIII族窒化物膜ドナー基板13Dを接合膜12との貼り合わせ面から内部に40μmの距離の深さに位置する面でワイヤーソーにより切断することによって、支持基板11とGaN薄膜であるIII族窒化物膜13とが接合膜12を介在させて貼り合わされたIII族窒化物複合基板1を得た。
【0118】
なお、ここで、ワイヤーとしては、ダイヤモンド砥粒を電着させた線径180μmの固定砥粒ワイヤーを用いた。また、切断抵抗を低減して厚さの精度および切断面の平坦性を高めるために、切断方式としては、ワイヤーを揺動させ、それに同期してIII族窒化物膜ドナー基板13Dを振動させる方式を採用した。そして、ワイヤーソー切断の抵抗係数は4200Nとした。
【0119】
さらに、切断後には、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13に対して機械研磨およびCMPを行なった。このとき、研磨材としてはダイヤモンドスラリーを用いて、銅系定盤により粗研磨、スズ系定盤により中間研磨を実施した。さらに、pH11のコロイダルシリカスラリー(平均粒径60nmのコロイダルシリカ砥粒を含みpH11のスラリー)を用いて、不織布研磨パッドにより仕上げ研磨を行なった。なお、III族窒化物膜13の厚さの均一化のため、CMPにおける複合基板の装置への取り付けには、予備的に真空チャック吸着によって基板形状を矯正した後に、該基板を装置に吸着固定する方式を採用した。また、仕上げ研磨の際の作用係数FEは7×10
-14m
2/sとした。仕上げ研磨後のIII族窒化物膜13の厚さは110μmであった。
【0120】
[(2) III族窒化物半導体デバイスの作製]
以下、
図8を参照して、実施例に係るIII族窒化物半導体デバイスであるSBD(ショットキーバリアダイオード)を説明する。
【0121】
まず、
図8(A)に示すように、III族窒化物複合基板1のIII族窒化物膜13側の主面13m上に、MOVPE法により、III族窒化物層20として、厚さ2μmのn
+−GaN層28(キャリア濃度が2×10
18cm
-3)、厚さ7μmのn
-−GaN層29(キャリア濃度が5×10
15cm
-3)を、この順序でエピタキシャル成長させることにより、積層III族窒化物複合基板2を得た。
【0122】
次に、
図8(B)に示すように、積層III族窒化物複合基板2のIII族窒化物層20の最上層であるn
-−GaN層29上に、電子線蒸着法(以下、EB(Electron Beam)蒸着法とも記す)により、厚さ4nmのNi層と厚さ200nmのAu層とを順次形成し、アニールにより合金化することによってショットキー電極である第1電極30を形成した。なお、このとき、第1電極30の径は200μmとした。さらに、第1電極30上に、EB蒸着法により、厚さ200nmのTi層と、厚さ100nmのPt層と、厚さ1000nmのAu層とを順次形成することによりパッド電極33を形成した。
【0123】
また、デバイス支持基板40としてMo基板を準備し、デバイス支持基板40上にEB蒸着法により、厚さ200nmのTi層と、厚さ100nmのPt層と、厚さ1000nmのAu層とを順次形成することによりパッド電極43を形成した。そして、パッド電極43上に、接合金属膜44として、AuSnはんだ膜を形成した。
【0124】
次に、パッド電極33に接合金属膜44を貼り合わせることにより、積層基板3を得た。
【0125】
次に、
図8(C)に示すように、積層基板3から、III族窒化物複合基板1の支持基板11および接合膜12を、フッ化水素酸を用いたエッチングにより除去した。
【0126】
次に、
図8(D)に示すように、積層基板3から支持基板11および接合膜12が除去されることによって露出したIII族窒化物膜13上に、EB蒸着法により、厚さ20nmのTi層と、厚さ200nmのAl層と、厚さ300nmのAu層とを順次形成し、アニールすることにより、オーミック電極である第2電極50を形成した。また、デバイス支持基板40上に、EB蒸着により、厚さ20nmのTi層と、厚さ300nmのAu層とを順次形成し、アニールすることにより、デバイス支持基板電極45を形成した。こうして、SBDであるIII族窒化物半導体デバイス4が得られた。
【0127】
以上のようにして得られたIII族窒化物半導体デバイス4の歩留率は、以下のようにして算出した。すなわち、SBDについて逆方向の電流−電圧特性を測定し、耐電圧が250V以上の基準に適合したものを良品とし、適合しなかったものを不良品として、良品数を、良品数と不良品数との合計で除した値の百分率を歩留率とした。
【0128】
以上に説明した方法により、表1に示す厚さ分布を有する接合膜を含むIII族窒化物複合基板、および、それらを用いたIII族窒化物半導体デバイスを作製した。
【0129】
これらのIII族窒化物複合基板は、支持基板と、厚さが110μm(すなわち、10μm以上250μm以下)のIII族窒化物膜と、が貼り合わされた直径が75mm(すなわち、75mm以上)の複合基板である。
【0130】
接合膜の厚さ分布と、前述の方法により算出したIII族窒化物半導体デバイスの歩留率との関係を表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
表1より明らかなように、接合膜の厚さ分布が2%以上40%以下であるIII族窒化物複合基板を用いた半導体デバイス(A2〜A6)は、かかる条件を満たさないIII族窒化物複合基板を用いた半導体デバイス(A1およびA7)に比べて、歩留率が良好であった。
【0133】
(実施例B)
実施例Aと同様にして、表2に示すせん断接合強度および接合面積率で、支持基板とIII族窒化物膜とが接合されたIII族窒化物複合基板、および、それらを用いたIII族窒化物半導体デバイスを作製した。
【0134】
これらのIII族窒化物複合基板は、支持基板と、厚さが110μm(すなわち、10μm以上250μm以下)のIII族窒化物膜と、が貼り合わされた直径が75mm(すなわち、75mm以上)の複合基板である。
【0135】
せん断接合強度および接合面積率と、前述の方法により算出したIII族窒化物半導体デバイスの歩留率との関係を表2に示す。
【0136】
【表2】
【0137】
表2より明らかなように、支持基板とIII族窒化物膜とのせん断接合強度が4MPa以上40MPa以下であり、支持基板とIII族窒化物膜との接合面積率が60%以上99%以下であるIII族窒化物複合基板を用いた半導体デバイス(B2〜B5、B7およびB8)は、かかる条件を満たさないIII族窒化物複合基板を用いた半導体デバイス(B1、B6およびB9)に比べて、歩留率が良好であった。
【0138】
(実施例C)
以下の(i)〜(v)以外の条件は、実施例Aと同様にして、実施例Cに係るIII族窒化物複合基板、および、それらを用いたIII族窒化物半導体デバイスを作製した。
(i)支持基板11として、Al
2O
3−SiO
2複合酸化物基板(基板全体に対してAl
2O
3が82質量%であり、SiO
2が18質量%である複合酸化物基板)、ムライト−YSZ、およびムライトから選択される複合酸化物基板を用いたこと
(ii)直径をそれぞれ75mm〜150mmの間で変動させたこと
(iii)接合膜12をAP−CVD(常圧−化学気相堆積)法により成長させたこと
(iv)支持基板11側の主面11mの仕上げ研磨の際に作用係数FEが8.5×10
-17m
2/s以上1×10
-16m
2/s以下の条件で研磨したこと
(v)仕上げ研磨後のIII族窒化物膜13の厚さをそれぞれ10μm〜250μmの間で変動させたこと
なお、実施例Cに係るIII族窒化物複合基板の接合膜の厚さ分布はすべて5%(すなわち、2%以上40%以下)とした。
【0139】
実施例Cに係るIII族窒化物複合基板の構成と、それらを用いたIII族半導体デバイスの歩留率との関係を表3に示す。
【0140】
【表3】
【0141】
表3中、α
III-N/α
Sは支持基板の熱膨張係数α
Sに対するIII族窒化物膜の熱膨張係数α
III-Nの比を示し、t
III-N/t
Sは支持基板の厚さt
Sに対するIII族窒化物膜の厚さt
III-Nの比を示している。
【0142】
表3より明らかなように、支持基板と、厚さが10μm以上250μm以下のIII族窒化物膜と、が貼り合わされた直径が75mm以上のIII族窒化物複合基板であり、接合膜の厚さ分布が5%(すなわち、2%以上40%以下)であるIII族窒化物複合基板のうち、t
III-N/t
Sが0.02以上1以下である複合基板を用いたIII族窒化物半導体デバイスは特に高い歩留率で製造することができた。
【0143】
上記に加えて、α
III-N/α
Sが0.75以上1.25以下である複合基板には、割れが全く発生しておらず、歩留まりも良好であった。
【0144】
(実施例D)
表4に示す熱伝導率λ
sを有する支持基板を使用した以外は、実施例Aと同様にして、III族窒化物複合基板、および、それらを用いたIII族窒化物半導体デバイスを作製した。
【0145】
支持基板の熱伝導率λ
sとIII族窒化物半導体デバイスの歩留率との関係を表4に示す。
【0146】
【表4】
【0147】
表4より明らかなように、支持基板と、厚さが110μm(すなわち、10μm以上250μm以下)のIII族窒化物膜と、が貼り合わされた直径が75mm(すなわち、75mm以上)のIII族窒化物複合基板であり、接合膜の厚さ分布が5%(すなわち、2%以上40%以下)であるIII族窒化物複合基板のうち、熱伝導率λ
Sが3W・m
-1・K
-1以上280W・m
-1・K
-1以下である複合基板を用いたIII族窒化物半導体デバイスは特に高い歩留率で製造することができた。
【0148】
以上のように本発明の実施形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0149】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。