特許第6146062号(P6146062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6146062圧縮成形用炭素長繊維強化ポリアミド複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146062
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】圧縮成形用炭素長繊維強化ポリアミド複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20170607BHJP
【FI】
   C08J5/04CFG
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-46954(P2013-46954)
(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公開番号】特開2014-173005(P2014-173005A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】葭原 法
(72)【発明者】
【氏名】名合 聡
(72)【発明者】
【氏名】霧山 晃平
(72)【発明者】
【氏名】北村 仁志
(72)【発明者】
【氏名】園田 秀利
(72)【発明者】
【氏名】中切 信彦
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−105836(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/074536(WO,A1)
【文献】 特開2012−067150(JP,A)
【文献】 特開2012−136620(JP,A)
【文献】 特開2011−063681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
15/08− 15/14
C08J 5/04− 5/10
5/24
B29C 39/00− 39/24
39/38− 39/44
43/00− 43/34
43/44− 43/48
43/52− 43/58
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
C08G 69/00− 69/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均10mm以上の炭素長繊維(A)100質量部に対して、80モル%以上が(式1)及び(式2)で表されるアミド単位を有し、(式1)、(式2)で表されるアミド単位のモル比が、(式1):(式2)=80:20〜20:80であり、(式1)において12≧n≧10、(式2)において12≧m≧10である、融点が200〜300℃のポリアミド共重合体(B)35〜150質量部を含有し、絶乾時の成形品の曲げ強度に対する、80℃95%RH下200時間調湿した成形品の曲げ強度の保持率が、80%以上であることを特徴とする圧縮成形用炭素長繊維強化ポリアミド複合材料。
−NH−(CH−CO― ・・(式1)
−NH−(CH−NH−CO−C−CO− ・・(式2)
ここで、[−C−]はパラフェニレン構造を表す
【請求項2】
ポリアミド共重合体の融点が240〜280℃である請求項1に記載の圧縮成形用炭素長繊維強化ポリアミド複合材料。
【請求項3】
ポリアミド複合材料が、テープ状またはシート状である請求項1または2に記載の圧縮成形用炭素長繊維強化ポリアミド複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素長繊維とポリアミド樹脂からなる複合材料に関する。詳しくは、長鎖脂肪族ポリアミドと長鎖メチレンテレフタルアミドの共重合体と炭素長繊維からなる複合材料に関する。更に詳しくは、吸水率が低く、平衡吸水下でも高い弾性率と強度を保持し、高耐熱性で比強度の高い構造材用複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電線被覆法を応用したガラス長繊維強化ポリアミド樹脂複合材料は知られていた(例えば、非特許文献1参照)。しかし、かかる従来技術は、ガラス繊維とポリアミド樹脂のコンパウンド材料を射出成形により成形品を得ていた。コンパウンド工程や射出成形工程でガラス繊維の折損が著しく、ガラス繊維の強度や弾性率への補強効果が低下し、構造材としての実用性能には不満足であった。
【0003】
高強度・高剛性成形品を得るために、炭素繊維とポリアミド樹脂の複合材料も研究開発された。しかし、射出成形や押出成形工程で炭素繊維が折損し、その効果は要求に大幅に未達であった。また、強化繊維の折損を避けるために、成形時のせん断変形の小さい圧縮成形についても検討された。しかし、強化繊維が長くなると繊維のからみ合いが起こり、流動性が著しく低下して、大型成形品や細いリブやボス構造を有する成形品は、欠肉が起こり良好な成形品が得られなかった。
繊維の絡み合いが起こらないように、繊維のロービングを単繊維状に開繊した後、ポリアミド樹脂を含浸して、強化繊維とポリアミド樹脂からなる一軸のテープ状プリプレグを予備成形した後、加熱圧縮成形する方法も開示された(例えば、非特許文献2参照)。しかし、一般のポリアミド樹脂の場合、絶乾状態では、高い剛性や強度が得られるが、空気中の水分を吸湿しやすく、多湿状態では、剛性や強度が著しく低下して、目的とする構造材の要求には未達であった。
【0004】
ポリアミド樹脂として、吸水率の低い、芳香族環を有するポリアミド樹脂の複合材料も、特開平05−005060(特許文献1)や特開2002−234999(特許文献2)のように開示された。しかし、芳香族環を有するポリアミド樹脂は、融点は高くなり、その複合材料を圧縮成形する場合、材料を高温に予熱しなければならなく、予熱が困難になることや酸化による変色や劣化が起こり、工業生産に不適当であった。また、吸水率の低い長鎖脂肪族ポリアミドの複合材料も検討されたが、本来の弾性率や強度および耐熱性低下が大きく、構造材としての要求に不適切であった。このように、工業生産が容易で、かつ使用環境下で高い物性を保持する構造材用の複合材は見出せていなかった。
【0005】
しかし、工業的には、吸水率が低く、平衡吸湿下でも高い弾性率を保持し、耐熱変形性を有する構造材用ポリアミド複合材料について、市場の高い開発要求があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−005060号公報
【特許文献2】特開2002−234999号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Composites,July, 150 (1973)
【非特許文献2】SPI(Society of Plastics Industry) 30th 11−C (1975)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、吸水率が低く、使用環境下の温度や湿度における強度や剛性が飛躍的に優れた比強度の高く構造材用複合材組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
[1] 平均10mm以上の炭素長繊維(A)100質量部に対して、80モル%以上が(式1)及び(式2)で表されるアミド単位を有する、融点が200〜300℃のポリアミド共重合体(B)35〜150質量部を含有することを特徴とする圧縮成形用炭素長繊維強化ポリアミド複合材料。
−NH−(CH−CO― ・・(式1)
−NH−(CH−NH−CO−C−CO− ・・(式2)
ここで、n≧10、m≧8、[−C−]はパラフェニレン構造を表す
[2] (式1)、(式2)で表されるアミド単位のモル比が、(式1):(式2)=80:20〜20:80である[1]に記載の圧縮成形用炭素長繊維強化ポリアミド複合材料。
[3] ポリアミド共重合体が、(式1)において12≧n≧10、(式2)において12≧m≧10である[1]または[2]に記載の圧縮成形用炭素長繊維強化ポリアミド複合材料。
[4] 絶乾時の成形品の曲げ強度に対する、80℃95%RH下200時間調湿した成形品の曲げ強度の保持率が、80%以上である[1]〜[3]のいずれかに記載の圧縮成形用炭素長繊維強化ポリアミド複合材料
[5] ポリアミド共重合体の融点が240〜280℃である[1]〜[4]のいずれかに記載の圧縮成形用炭素長繊維強化ポリアミド複合材料。
[6] ポリアミド複合材料が、テープ状またはシート状である[1]〜[5]のいずれかに記載の圧縮成形用炭素長繊維強化ポリアミド複合材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、吸水率が低く、使用環境下で強度や弾性率が飛躍的に高く、構造材の要求を満たす複合材料を工業的製造工程により提供することができる。本発明により得られた複合材組成物を成形して得られる成形品は、自動車のフレーム部品や機械器具の構造部材やスポーツ器具などに使用される。本発明により、使用環境下で高い強度や弾性率が得られる複合材組成物が提供される理由は、未だ明確でないが、本発明で用いるポリアミド共重合体の次のような特徴によると考えられる。吸水率は低く、強度や弾性率は高いが、融点も高い長鎖メチレンテレフタルアミド単位と、弾性率や強度は低いが、低吸水率の長鎖脂肪族ポリアミド単位を特定比率で共重合することにより、成形加工が工業的に可能な融点に制御できた。さらには、長鎖脂肪族ポリアミド単位による弾性率、強度、及び耐熱性の低さを、長鎖メチレン芳香族ポリアミド単位が補償することにより、吸水率を低下し、吸水による物性低下を抑制する。また、高い機械的物性を有するバランスがとれる組成比で、かつ炭素繊維表面への濡れ性がよく、接着強度が高い特定の組成比が発明できたことによると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳述する。
本発明には、重量平均繊維長が10mm以上、好ましくは15mm以上、更に好ましくは20mm以上の炭素長繊維や連続繊維が使用される。重量平均繊維長が10mm未満では、構造材としての強度が未達となり、好ましくない。機械物性上は連続繊維が好ましいが、成形時の金型内における流動性が必要な成形方法の場合、プリプレグとしてより短く切断されたものが使用される。このような場合、炭素長繊維の重量平均繊維長の上限は、プリプレグの長さに相当し、50mm程度であることが好ましい。
炭素繊維としては、製造法に特に制限されないが、ポリアクリロニトル繊維やセルロース繊維などの繊維を空気中で200〜300℃にて処理した後、不活性ガス中で1000〜3000℃以上で焼成され炭化製造された引っ張り強度20t/cm以上、引っ張り弾性率200GPa以上の炭素繊維が好ましい。本発明に使用される単繊維径は、特に制限されないが、複合化の製造ライン工程から3〜25μmが好ましく、特に4〜15μm好ましい。3μm未満では、含浸や脱泡が難しく、25μmを超えると、比表面積が小さくなり、複合化の効果が小さくなり好ましくない。本発明に使用される炭素繊維は、空気や硝酸による湿式酸化、乾式酸化、ヒートクリーニング、ウイスカライジングなどによる接着性改良のための処理されたものが好ましい。また本発明の複合材料製造に使用される炭素繊維は、作業工程の取り扱い性から、100℃以下で軟化する集束剤により集束されていることが好ましい。集束フィラメント数には特に制限ないが、1000〜30000フィラメント、好ましくは、3000〜25000フィラメントが好ましい。本発明に使用される炭素繊維の集束剤は特に限定されないが、炭素繊維と母相のポリアミド共重合体に高い接着力を有するウレタン系、エポキシ系、及び無水マレイン酸変性ポリオレフィン系集束剤が好ましい。
【0012】
本発明には、炭素長繊維(A)100質量部当り、80モル%以上が(式1)及び(式2)で表されるアミド単位を有する、融点が200〜300℃のポリアミド共重合体(B)35〜150質量部、好ましくは40〜150質量部、より好ましくは50〜150質量部複合される。
−NH−(CH−CO― ・・(式1)
−NH−(CH−NH−CO−C−CO− ・・(式2)
ここで、n≧10、m≧8、[−C−]はパラフェニレン構造を表す
ポリアミド共重合体(B)が35質量部未満では、炭素繊維へのポリアミド樹脂の含浸が困難であり、また150質量部を超えると、炭素繊維補強の効果が不十分となり、本発明の目的である構造部材としての要求を満たせず好ましくない。
【0013】
本発明には、融点が200〜300℃、好ましくは、220〜280℃、より好ましくは、230〜280℃、特に好ましくは,240℃〜280℃の範囲にある長鎖脂肪族ポリアミド(式1)と長鎖メチレンテレフタルアミド(式2)のポリアミド共重合体が使用される。融点が200℃未満の場合、耐熱変形温度が低く好ましくない。また300℃を超えると、成形時、成形材料の予熱温度として高温が必要になり、酸化変色や劣化が起こり好ましくない。
ポリアミド共重合体の融点は、長鎖脂肪族ポリアミド(式1)と長鎖メチレンテレフタルアミド(式2)の共重合比と、原料モノマーの炭素数に依存する。本発明に使用される長鎖脂肪族ポリアミド(式1)の炭素数は、11以上(式1で、nが10以上)であり、好ましくは、11〜13(式1でnが10〜12)であり、より好ましくは、11〜12(式1でnが10〜11)である。式1で、nが10未満では、吸水率が期待値に未達となり、好ましくない。具体的には、アミノウンデカン酸やω―ラウリルラクタムの重合体が例示される。長鎖メチレンテレフタルアミド(式2)に使用されるジアミンの炭素数(式2のm)は8以上であり、好ましくは9以上、より好ましくは10〜12である。8未満では、吸湿率の低下効果が低く、また融点の低下効果も小さく好ましくない。具体的には、1、8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10―デカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミンなどが挙げられる。吸水率と融点の低下効果から、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミンが好ましく、特にデカメチレンジアミンが吸湿率や融点の低下効果と弾性率や強度の保持効果のバランスがよく好ましい。
長鎖脂肪族ポリアミド成分(式1)と長鎖メチレンテレフタルアミド成分(式2)のモル比率[(式1):(式2)]は、80:20〜20:80が好ましく、70:30〜30:70がより好ましく、60:40〜40:60がさらに好ましい。長鎖脂肪族ポリアミド成分が80モル%を超えると、弾性率や強度が低下し好ましくない。また20モル%未満では、吸水率低下効果が小さく好ましくない。
【0014】
本発明に使用されるポリアミド共重合体(B)は、(式1)及び(式2)で表される成分の他に、融点が200〜300℃の範囲になるように、20モル%以下の範囲で他のモノマーを共重合することができる。共重合成分としては、カプロラクタムや、ジアミン成分として、1,4−テトラメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,18オクタデカメチレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレイジアミン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミンなど、また酸成分としては、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’―ジフェニルジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,11−ウンデカン酸、1,12ドデカン酸、1,14−テトラデカン二酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等からなるポリアミド成分などが挙げられる。これらの中でも、ポリデカメチレンセバカミド、ポリデカメチレンデカアミドなどが吸水による物性変化が小さく好ましい。
ポリアミド共重合体の分子量は特に限定されないが、25℃において測定した98質量%硫酸の5g/l溶液における相対粘度が、1.8〜3.0であることが好ましく、より好ましくは、2.0〜2.8、さらに好ましくは、2.1〜2.7の範囲である。1.8未満では、強度が低下するので好ましくない。3.0を超えると、炭素繊維への含浸性が低下し、また脱泡不良となり、結果として複合材の強度が低下し、好ましくない。
【0015】
本発明の複合材料は、100℃にて160時間真空乾燥した状態(絶乾時)の成形体の曲げ強度に対して、80℃95%RH下で200時間調湿した状態の成形品の曲げ強度は、80%以上保持して、高い機械的物性を保持している。80%未満では、使用環境による物性変化が大きく、構造材としては好ましくない。本発明の複合材料が、この強度保持率が80%以上となることは、80℃95%RH環境下での吸水率が低いことと、吸水による可塑化品のガラス転移点が試験環境温度より高く保持されているためと考察される。
さらに具体的には、低吸水率は、疎水性の高い長鎖脂肪族炭化水素モノマー分率が高いこと、高ガラス転移点はテレフタルアミド分率が高いことの特異的な複合効果よるものと考察される。
上記のように、本発明のポリアミド共重合体(B)を選択することにより、この強度保持率を80%以上、さらには85%以上にすることができる。
【0016】
本発明の効果は、複合材料がテープ状またはシート状において特に発揮される。テープ状やシート状成形品は、一般に表面積が大きく、吸湿しやすいことと、成形品の断面係数が小さく曲げ剛性が小さく、吸湿による物性低下の影響を受けやすいためと考察される。
【0017】
また、本発明に使用されるポリアミド共重合体は、結晶核剤を含有することが好ましい。結晶核剤が配合されていないと、溶融状態から固化される成形過程で結晶サイズが大きくなり、結晶界面の強度が弱く、靭性が低下し、脆性破棄しやすくなるため好ましくない。本発明において使用される結晶核剤としては、タルク、クレイ、周期表第1a属金属の有機化合物から選ばれた1種以上の組み合わせである。これらの結晶核剤は、ポリアミド共重合体の溶融状態から冷却固化するときに、結晶核剤として作用し、過冷却度が小さい状態から結晶の成長を促進し、球晶状結晶の数を増加して、そのサイズを微細化する。結晶核剤が配合されていないと、固化の過程で成形品コア部が徐冷される以外結晶化せず、結晶が光の波長サイズに到達せずに殆ど透明な成形品となる。タルクやクレイのような珪酸塩が結晶核剤として有効である。これらは、天然石を微細化したものや合成された珪酸塩でもよい。結晶核剤としては、これらの表面の結晶からエピタキシー状に成長することや表面と樹脂界面の自由エネルギーの低下の効果と推察される。表面積が大きい微細なほど好ましい。平均粒径としては、0.1〜20μmが好ましい。また、周期表1a属の有機化合物も有効な結晶核剤として作用する。特に、高級脂肪酸のNa塩、高級脂肪酸のK塩、高級脂肪酸のLi塩が有効である。高級脂肪酸としては、ステアリン酸、モンタン酸、ラウリル酸などが例示される。またアクリル酸やメタクリル酸とポリオレフィンの共重合体をケン化してえられるアイオノマー共重合体が例示される。
【0018】
結晶核剤の配合量は特に限定されないが、ポリアミド共重合体100質量部に対して、0〜10質量部、好ましくは0.01〜5質量部配合される。結晶核剤としては、タルク、クレイのような鉱物や高級脂肪酸のナトリウム塩、カリウム塩、ジチウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、エチレン−アクリル酸のアルカリ塩やエチレン−メタクリル酸のアルカリ塩などが例示される。
【0019】
本発明においては、さらに高級脂肪酸の周期表第2a属の金属塩が、炭素繊維100質量部に対して、0.05〜5質量部、特に0.1〜2質量部含有することがスタンピング成形性を改良するために好ましい態様である。0.05質量部未満では、スタンピング成形後の離型性が低く深絞り成形品では離型時に変形することや取り出し可能までの冷却時間が長く好ましくない。また、5質量部を超えると成形品表面の外観を損なうことがあり、好ましくない。高級脂肪酸としては、ステアリン酸、ラウリル酸、モンタン酸などが例示される。周期表第2a属としては、マグネシュウム、カルシュウム、バリュウムが挙げられる。具体的な化合物としては、ステアリン酸マグネシュウム、ステアリン酸カルシュウム、モンタン酸カルシュウムが挙げられる。
【0020】
また、本発明の複合材料の成形法は、スタンピング成形が適当な成形法である。従って、金型温度(金型表面温度)が150℃以下、好ましくは100℃以下の通常の射出成形法とは全く異なり、驚いたことに金型温度160〜280℃、好ましくは、180〜260℃の金型にて成形することが好ましい態様である。金型表面温度が160℃未満では、流動性が低く、流動末端やリブ部の充填不足になることがあり好ましくない。また、280℃を超えると、樹脂表面が酸化し、変色や劣化が起こり好ましくない。充填初期に160〜280℃という高温の金型を使用することにより、本発明の特徴を発揮することができる。より高温の金型において充填することで、充填時の材料温度か充填後の材料温度が、材料の結晶化温度より高くなり。成形品取り出しまでの冷却過程で、最も結晶化速度が速くなる結晶化ピーク温度を経過することにより、成形品表面の結晶化が十分進行するため、耐熱変形性の高い成形品が得られるためと考察される。
【0021】
本発明の複合材料には、上記の必須成分、任意成分の他に物性改良・成形性改良、耐久性改良を目的として、滑剤、酸化防止剤、難燃剤、耐光剤、耐候剤などが、合計で複合材料中10質量%以下の範囲で配合できる。
本発明の複合材料の製造法は特に限定されない。例えば、ポリアミド共重合体の融点以上に温度調節されたスクリュータイプ押出機のホッパーにポリアミド共重合体と安定剤などを所定割合に予備混合して供給する。溶融樹脂をギアポンプの回転数にて計量して、樹脂の融点以上に温度調節された含浸用押出機の上流に供給する。一方、ロービング状の炭素繊維を拡張開繊し、含浸用押出機の下流に供給する。下流先端に開口部を絞ったスリットダイを備えた含浸用押出機中で樹脂圧により、炭素繊維ロービングに樹脂を含浸・脱泡する。下流開口部から吐出されたテープ状の炭素繊維とポリアミド共重合体からなる複合材料を冷却してかせに巻き取る。さらに、このテープ状複合材料を10mm以上にカットすることや、テープ状複合材料をカットせずに織物状に織って成形用に提供される。また、樹脂の融点以上に温度調節されたスクリュータイプ押出機の上流ホッパーにポリアミド共重合体と安定剤などを所定割合に予備混合して供給する。下流の出口ダイにロービング状炭素繊維を供給して、繊維の送り速度と樹脂の吐出量を調節して、所定の繊維含有率からなるストランド状の炭素繊維の樹脂被覆材を得る。このストランドを冷却してかせに巻き取る。このストランドを10mm以上にカットするか、織物状に織って成形用に提供される方法などが上げられる。
本発明の複合材料を、赤外線や高周波により、加熱溶融した後、構成するポリアミド共重合体の結晶化ピーク温度より高い160〜280℃に温度調節された金型に供給して、圧縮力により賦形し、冷却後脱型する方法で構造部品が成形される。
【0022】
本発明の複合材料から得られた成形部品は、自動車のフレーム、バンパーフェースバーサポート材、シャシーシェル、座席フレーム、サスペンジョン支持部、サンルーフフレーム、バンパービーム、二輪車のフレーム、農機具のフレーム、OA機器のフレーム、機械部品など高い強度と剛性の必要な部品に利用される。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(測定方法)
(1)炭素長繊維の重量平均繊維長
複合材料または複合成形品の微小片を、2枚のスライドグラス板間で溶融し、厚さ0.05mm程度のフイルム状とした。マイクロスコープ(キーエンス社製)を使用して、透過光により倍率100倍にて限定視野内に各繊維の重心(長さの中心)が存在する繊維の長さを、100本〜200本を測定して、0.1mm間隔のヒストグラムを作成した。クラスの中央値(Xi)と頻度(fi)から次式により求めた。
X=ΣfiXi/ΣfiXi
(2)相対粘度
JIS K6920−2:2009に準じて、25℃の恒温水槽中で、ポリアミド共重合体の98%硫酸の5g/l溶液について、オストワルド粘度計(旭製作所製、4810型)を使用して、溶液の落下秒数と溶媒の落下秒数から求めた。
(3)融点(Tm)
ポリアミド共重合体から、約10mg試験片をアルミパンに採取した。示差走査熱量計(DSC)として、TA instruments社製Q100型DSCを使用し、ISO11357−3に準じて、窒素流動中で20℃/minにて昇温し、ヒートフローのピーク温度を融点とした。
【0024】
成形性や物性評価は次のように行った。
(4)吸湿率
得られた平板成形品から切削して得られた100×12.5×2mmの曲げ試験片13本を、恒温恒湿機(ナガノサイエンス社製 LH21−21M型)を使用し、80℃95%RH下にて200時間放置した後、表面付着水をティッシュペーパーで拭き取り、それぞれ質量を測定し、m1とした。この試験片の中から任意の7本を、100℃に温度調節した真空乾燥機(ヤマト科学社製、角型真空定温乾燥器DP43型)に投入し、160時間乾燥した後、質量を測定し、m2とした。
次式により、80℃95%RH下での吸湿率を求めた。
吸湿率(%)=(m1−m2)×100/m2
【0025】
(5)曲げ特性
(4)にて80℃95%RH下で200H吸湿処理した後、23℃50%RHに調節された試験室で2時間放置した成形品5本(吸湿サンプル)と、吸湿処理後真空乾燥した後、23℃に温度調節された試験室中のデシケータ中で2時間放置された試験片5本(乾燥サンプル)について、ISO178に準拠した3点曲げ試験機(オリエンテック社製テンシロン4L型)を使用して、スパン長80mm、クロスヘッド速度1mm/minによる曲げ強度と曲げ弾性率を測定した。
(6)荷重たわみ温度
(4)にて吸湿処理と真空乾燥処理した成形品3本について、東洋精機社製ヒートデストーションテスターを使用し、ISO75−1,−2に準じて、フラットワイズ方向に1.8MPa荷重下での荷重たわみ温度を求めた。
(7)プリプレグ含浸性
プリプレグの含浸性を、成形品表面の繊維の浮き出し状態から判断した。
○:繊維の浮き出し部分の面積割合が5%未満、×:繊維の浮き出し部分の面積割合が5%以上
【0026】
実施例1〜5
表1に示したポリアミド共重合体を、融点+約30℃に温度調節されたスクリュー式押し出し機のホッパーに投入した。押し出し機内で可塑化後、ダイヘッドより含浸台に溶融樹脂を供給した。一方、表1に示した炭素繊維のロービングを拡張開繊して、押出機のダイヘッドに連結された含浸ダイに導き、炭素繊維が100質量部になる速度で、引き取りローラーを駆動して、含浸ダイから引き抜いた。幅10mm・高さ0.2mmのダイから含浸被覆されたテープ状プリプレグを、引き取りローラーにて賦形して固化した後、枷に巻き取った。
テープ状プリプレグを間隔300mm・幅150mmのバー間に10層となるように配列し、巻き上げた。これを、融点より約30℃高い温度に温度調節したヒートプレスの200×200mmの面盤間に配置し、5分間、約5MPa加圧した。その後、面盤と共に取り出し、水冷却回路が配置された冷却盤間に移動し、5MPaに加圧保持した状態で50℃以下まで冷却した。その後、面盤を開放して、炭素繊維が一軸配向した厚さ約2mmの炭素繊維強化ポリアミド共重合体の成形板を得た。成形板から繊維軸方向に100mm×12.5mmのテストピースを切削した。得られたテストピースについて、吸水率、曲げ特性、荷重たわみ温度を評価した。
実施例品は、吸湿時の保持率を80%以上保持している。
【0027】
実施例6
実施例1と同様に樹脂を含浸し、含浸ダイから引き抜き、引き取りローラーにて賦形して固化したテープを、35mmにカットして得られた短冊状プリプレグを短冊状のプリプレグテープを200mm×200mmの平板状の型内にランダムにばらまき供給した。型を280℃まで加熱した後、圧縮し、3分間保持後、型を150℃まで冷却して、炭素繊維がランダム配向したプリプレグシートを得た。このプリプレグシートを、予め遠赤外線ヒータにて280℃まで予熱し、圧縮成形機(神藤金属工業所製、50t)に取り付け、予め180℃に温度調節した210mm×210mmのキャビティを有する金型に供給し、30MPaにて3分間圧縮成形し、厚さ約2mmの平板成形品を得た。
圧縮成形により得られた平板成形品の中央部から100mm×12.5mmのテストピースを切削した。得られたテストピースについて、実施例1と同様に吸湿率、曲げ特性、荷重たわみ温度を評価した。
繊維をランダム配向した実施例6では、異方性が殆どなく、吸湿後も405MPaと高い曲げ強度を示している。
【0028】
比較例1〜3
ポリアミド共重合体を表2に示したように変更した以外は、実施例1と全く同様にプリプレグテープを作製した後、成形板を成形し、繊維軸方向にテストピースを切削した。得られた試験片について,実施例と全く同様に物性を評価した。得られた試験データを表2に合わせて示した。
【0029】
比較例4
短冊状プリプレグの長さを6.5mmにした以外は、実施例6と全く同様に、ランダム配向した成形板を成形し、平板から切削して得られたテストピースについて、同様に評価した結果を表2に示した。
実施例6と比較して、繊維の補強効果が十分でなく曲げ強度は、乾燥状態でも330MPaと構造材としては不十分である。
【0030】
実験に使用した原料と記号
PA1:デカメチレンテレフタルアミド/ウンデカンアミド=60/40(モル比)共重合体(東洋紡試作品、Tm 250℃、相対粘度2.4)
PA2:デカメチレンテレフタルアミド/ウンデカンアミド=20/80(モル比)共重合体(東洋紡試作品,Tm 215℃、相対粘度 2.4)
PA3:デカメチレンテレフタルアミド/ウンデカンアミド=80/20(モル比)共重合体(東洋紡試作品、Tm 290℃、相対粘度 2.4)
PA4:ノナメチレンテレフタルアミド/ωーラウリルラクタム=60/40(モル比)共重合体(東洋紡試作品、Tm 242℃、相対粘度2.5)
PA5:ポリアミド6 T802(東洋紡製,相対粘度2.5)
PA6:ポリウンデカンアミド(東洋紡試作品、Tm 190℃、相対粘度2.5)
PA7:ポリデカメチレンテレフタルアミド(東洋紡試作品、Tm 306℃、相対粘度2.5)
炭素繊維:帝人社製東邦テナックス IMS40(単繊維径6.4μm、6000フィラメント)
MW5000:タルク (林化成製、ミクロンホワイト)平均粒径 4μm
CAV102:モンタン酸カルシュウム塩(クラリアント製)
【0031】
上記ポリアミドの東洋紡試作品は、国際公開WO2011/074536パンフレットに記載の方法に基づき、適宜原料モノマーを選択することで重合した。
【0032】
【表1】
【0033】
繊維を一軸配向した実施例1〜5は、構造材としての高い強度や耐熱性を保持し、かつ吸湿率が低く、吸湿時の強度保持率が高い。
【0034】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明により、吸湿率が低く、平衡吸湿後の弾性率や曲げ強度が高く、耐熱性に優れたスタンピング成形品を得ることが可能となり、構造部材やハウジングの樹脂化が可能となり、軽量化や省エネルギーの面から産業界に大きく寄与することが期待される。