【0013】
本発明には、融点が200〜300℃、好ましくは、220〜280℃、より好ましくは、230℃〜280℃、特に好ましくは,240〜280℃の範囲にある長鎖脂肪族ポリアミド(式1)と長鎖メチレンテレフタルアミド(式2)のポリアミド共重合体が使用される。融点が200℃未満の場合、耐熱変形温度が低く好ましくない。また300℃を超えると、成形時、成形材料の予熱温度として高温が必要になり。酸化変色や劣化が起こり好ましくない。
ポリアミド共重合体の融点は、長鎖脂肪族ポリアミド(式1)と長鎖メチレンテレフタルアミド(式2)の共重合比と、原料モノマーの炭素数に依存する。本発明に使用される長鎖脂肪族ポリアミド(式1)の原料モノマーであるジアミンの炭素数は、8以上(式1で、jが8以上)、好ましくは、10以上である。8未満では、吸水率が期待値に未達となり、好ましくない。具体的には、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミンなどが挙げられる。また長鎖脂肪族ポリアミド(式1)のもう一つの原料であるジカルボン酸の炭素数は、9以上(式1でkが7以上)、好ましくは10以上である。炭素数が9未満では、吸水率が期待値に未達となり、好ましくない。具体的には、アゼライン酸(ノナン二酸)、セバシン酸(デカン二酸)、1,11−ウンデカン酸、1,12−ドデカン酸、1,14−テトラデカン二酸等からなるポリアミド成分などが挙げられる。
長鎖メチレンテレフタルアミド(式2)に使用されるジアミンの炭素数(式2のm)は8以上、好ましくは8〜12、より好ましくは9〜12、特に好ましくは10〜12である。8未満では、吸湿率の低下効果が低く、また融点の低下効果も小さく好ましくない。具体的には、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミンなどが挙げられる。吸水率と融点の低下効果から、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミンが好ましく、特にデカメチレンジアミンが吸湿率や融点の低下効果と弾性率や強度の保持効果のバランスがよく好ましい。
長鎖脂肪族ポリアミド成分(式1)と長鎖メチレンテレフタルアミド成分(式2)のモル比率[(式1):(式2)]は、80:20〜20:80が好ましく、70:30〜30:70がより好ましく、60:40〜40:60がさらに好ましい。長鎖脂肪族ポリアミド成分が80モル%を超えると、弾性率や強度が低下し好ましくない。また20モル%未満では、融点が高く炭素繊維への含浸工程や成形工程の条件幅が狭く好ましくない。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(測定方法)
(1)炭素長繊維の重量平均繊維長
複合材料または複合成形品の微小片を、2枚のスライドグラス板間で溶融し、厚さ0.05mm程度のフイルム状とした。マイクロスコープ(キーエンス社製)を使用して、透過光により倍率100倍にて限定視野内に各繊維の重心(長さの中心)が存在する繊維の長さを、100本〜200本を測定して、0.1mm間隔のヒストグラムを作成した。クラスの中央値(Xi)と頻度(fi)から次式により求めた。
X=ΣfiXi
2/ΣfiXi
(2)相対粘度
JIS K6920−2:2009に準じて、25℃の恒温水槽中で、ポリアミド共重合体の98%硫酸の5g/l溶液について、オストワルド粘度計(旭製作所製、4810型)を使用して、溶液の落下秒数と溶媒の落下秒数から求めた。
(3)融点(Tm)
ポリアミド共重合体から、約10mg試験片をアルミパンに採取した。示差走査熱量計(DSC)として、TA instruments社製Q100型DSCを使用し、ISO11357−3に準じて、窒素流動中で20℃/minにて昇温し、ヒートフローのピーク温度を融点とした。
【0024】
成形性や物性評価は次のように行った。
(4)吸湿率
得られた平板成形品から切削して得られた100×12.5×2mmの曲げ試験片13本を、恒温恒湿機(ナガノサイエンス社製 LH21−21M型)を使用し、80℃95%RH下にて200時間放置した後、表面付着水をティッシュペーパーで拭き取り、それぞれ質量を測定し、m1とした。この試験片の中から任意の7本を、100℃に温度調節した真空乾燥機(ヤマト科学社製、角型真空定温乾燥器DP43型)に投入し、160時間乾燥した後質量を測定し、m2とした。
次式により、80℃95%RH下での吸湿率を求めた。
吸湿率(%)=(m1−m2)×100/m2
【0025】
(5)曲げ特性
(4)にて80℃95%RH下で200H吸湿処理した後、23℃50%RHに調節された試験室で2時間放置した成形品5本(吸湿サンプル)と、吸湿処理後真空乾燥した後、23℃に温度調節された試験室中のデシケータ中で2時間放置された試験片5本(乾燥サンプル)について、ISO178に準拠した3点曲げ試験機(オリエンテック社製テンシロン4L型)を使用して、スパン長80mm、クロスヘッド速度1mm/minによる曲げ強度と曲げ弾性率を測定した。
(6)荷重たわみ温度
(4)にて吸湿処理と真空乾燥処理した成形品3本について、東洋精機社製ヒートデストーションテスターを使用し、ISO75−1,−2に準じて、フラットワイズ方向に1.8MPa荷重下での荷重たわみ温度を求めた。
(7)プリプレグ含浸性
プリプレグの含浸性を、成形品表面の繊維の浮きだし状態から判断した。
○:繊維の浮き出し部分の面積割合が5%未満、×:繊維の浮き出し部分の面積割合が5%以上
【0026】
実施例1〜5
表1に示したポリアミド共重合体を、融点+約30℃に温度調節されたスクリュー式押し出し機のホッパーに投入した。押し出し機内で可塑化後、ダイヘッドより含浸台に溶融樹脂を供給した。一方、表1に示した炭素繊維のロービングを拡張開繊して、押出機のダイヘッドに連結された含浸ダイに導き、炭素繊維が100質量部になる速度で、引き取りローラーを駆動して、含浸ダイから引き抜いた。幅10mm・高さ0.2mmのダイから含浸被覆されたテープ状プリプレグを、引き取りローラーにて賦形して固化した後、枷に巻き取った。
テープ状プリプレグを間隔300mm・幅150mmのバー間に10層となるように配列し、巻き上げた。これを、融点より約30℃高い温度に温度調節したヒートプレスの200×200mmの面盤間に配置し、5分間、約5MPa加圧した。その後、面盤と共に取り出し、水冷却回路が配置された冷却盤間に移動し、5MPaに加圧保持した状態で50℃以下まで冷却した。その後、面盤を開放して、炭素繊維が一軸配向した厚さ約2mmの炭素繊維強化ポリアミド共重合体の成形板を得た。成形板から繊維軸方向に100mm×12.5mmのテストピースを切削した。得られたテストピースについて、吸水率、曲げ特性、荷重たわみ温度を評価した。
実施例品は、吸湿時の保持率は80%以上保持している。
【0027】
実施例6
実施例1と同様に樹脂を含浸し、含浸ダイから引き抜き、引き取りローラーにて賦形して固化したテープを、35mmにカットして得られた短冊状プリプレグを短冊状のプリプレグテープを200mm×200mmの平板状の型内にランダムにばらまき供給した。型を280℃まで加熱した後、圧縮し、3分間保持後、型を150℃まで冷却して、炭素繊維がランダム配向したプリプレグシートを得た。このプリプレグシートを、予め遠赤外線ヒータにて280℃まで予熱し、圧縮成形機(神藤金属工業所製、50t)に取り付け、予め180℃に温度調節した210mm×210mmのキャビティを有する金型に供給し、30MPaにて3分間圧縮成形し、厚さ約2mmの平板成形品を得た。
圧縮成形により得られた平板成形品の中央部から100mm×12.5mmのテストピースを切削した。得られたテストピースについて、実施例1と同様に吸湿率、曲げ特性、荷重たわみ温度を評価した。
繊維をランダム配向した実施例6では、異方性が殆どなく、吸湿後も410MPaと高い曲げ強度を示している。
【0028】
比較例1〜3
ポリアミド共重合体を表2に示したように変更した以外は、実施例1と全く同様にプリプレグテープを作製した後、成形板を成形し、繊維軸方向にテストピースを切削した。得られた試験片について,実施例と全く同様に物性を評価した。得られた試験データを表2に合わせて示した。
【0029】
比較例4
短冊状プリプレグの長さを6.5mmにした以外は、実施例6と全く同様に、ランダム配向した成形板を成形し、平板から切削して得られたテストピースについて、同様に評価した結果を表2に示した。
実施例6と比較して、繊維の補強効果が十分でなく曲げ強度は、乾燥状態でも335MPaと構造材としては不十分である。
【0030】
実験に使用した原料と記号
PA1:デカメチレンテレフタルアミド/アミド1010=60/40(モル比)共重合体(東洋紡試作品、Tm 255℃、相対粘度2.5)
PA2:デカメチレンテレフタルアミド/アミド1010=20/80(モル比)共重合体(東洋紡試作品,Tm 227℃、相対粘度 2.5)
PA3:デカメチレンテレフタルアミド/アミド1010=80/20(モル比)共重合体(東洋紡試作品、Tm 295℃、相対粘度 2.4)
PA4:ノナメチレンテレフタルアミド/アミド1010=60/40(モル比)共重合体(東洋紡試作品、Tm 248℃、相対粘度2.5)
PA5:ポリアミド6 T802(東洋紡製,相対粘度2.5)
PA6:ポリアミド1010(東洋紡試作品、Tm 200℃、相対粘度2.5)
PA7:ポリデカメチレンテレフタルアミド(東洋紡試作品、Tm 305℃、相対粘度2.5)
炭素繊維:帝人社製東邦テナックス IMS40(単繊維径6.4μm、6000フィラメント)
MW5000:タルク (林化成製、ミクロンホワイト)平均粒径 4μm
CAV102:モンタン酸カルシュウム塩(クラリアント製)
【0031】
上記ポリアミドの東洋紡試作品は、特開2010−150445号公報に記載の方法に基づき、適宜原料モノマーを選択することで重合した。アミド1010は、デカメチレンジアミンとセバシン酸からなるアミド単位である。
【0032】
【表1】
【0033】
繊維を一軸配向した実施例1〜5は、構造材としての高い強度や耐熱性を保持し、かつ吸湿率が低く、吸湿時の強度保持率が高い。
【0034】
【表2】