特許第6146098号(P6146098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146098
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20170607BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20170607BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20170607BHJP
   C23C 22/74 20060101ALI20170607BHJP
   C23C 22/00 20060101ALI20170607BHJP
   H01F 1/16 20060101ALI20170607BHJP
   C22C 38/06 20060101ALN20170607BHJP
【FI】
   C22C38/00 303U
   C21D9/46 501B
   C21D8/12 B
   C23C22/74
   C23C22/00 A
   H01F1/16
   !C22C38/06
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-80266(P2013-80266)
(22)【出願日】2013年4月8日
(65)【公開番号】特開2014-201806(P2014-201806A)
(43)【公開日】2014年10月27日
【審査請求日】2015年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】山崎 修一
(72)【発明者】
【氏名】廣田 芳明
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−061261(JP,A)
【文献】 特開平06−248465(JP,A)
【文献】 特開2003−041322(JP,A)
【文献】 特開昭53−022113(JP,A)
【文献】 特開昭59−104482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/16
C23C 22/00−22/86
C22C 38/00−38/60
C01B 33/20−39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面に、上部がムライト(Al6Si213)で、下部がシリカ(SiO2)からなる複合皮膜を備えることを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記複合皮膜の形成量が、片面当たり、0.5g/m2以上、10g/m2未満であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方向性電磁鋼板を製造する方法において、鋼板に脱炭焼鈍を施して鋼板表面に脱炭焼鈍酸化層を形成し、その後、該酸化層にカオリナイト(Al4Si410(OH)8)を焼鈍分離剤として塗布して仕上げ焼鈍を施し、鋼板表面に、上部がムライト(Al6Si213)で、下部がシリカ(SiO2)からなる複合皮膜を形成することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記脱炭焼鈍酸化層の形成量が、片面当たり、酸素換算で、0.2g/m2以上、3g/m2以下であることを特徴とする請求項3に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記カオリナイト(Al4Si410(OH)8)の平均粒径が3μm以下であることを特徴とする請求項3又は4に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記カオリナイト(Al4Si410(OH)8)の塗布量が、片面当たり、0.2g/m2以上、10g/m2未満であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜張力の大きい仕上げ焼鈍皮膜を備える方向性電磁鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、(110)[001]方位を主方位とする結晶組織を有し、通常、2質量%以上のSiを含有する鋼板である。主要な用途は変圧器等の鉄心材料であり、特に、変圧の際のエネルギーロスが少ない、即ち、鉄損の低い方向性電磁鋼板が求められている。
【0003】
方向性電磁鋼板の典型的な製造プロセスは以下の通りである。Siを2〜4質量%含有するスラブを熱間圧延して熱延板とし、熱延板に焼鈍を施した後、1回又は中間焼鈍を挟んで2回以上の冷間圧延を施して最終板厚の冷延板とし、冷延板に湿潤水素雰囲気中で脱炭焼鈍を施す。
【0004】
冷延板に上記脱炭焼鈍を施すと、一次再結晶が起きて結晶組織が適正化され、また、磁気特性に有害な炭素が除去されるとともに、鋼板表面にSiO2を主体とする脱炭焼鈍酸化層が形成される。
【0005】
この後、MgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布して、最終仕上げ焼鈍を行う。最終仕上げ焼鈍においては、二次再結晶により、(110)[001]方位を主方位とする結晶組織が発現し、また、脱炭焼鈍酸化層中のSiO2と焼鈍分離剤のMgOが反応して、鋼板表面にフォルステライト(Mg2SiO4)を主体とする仕上げ焼鈍皮膜が形成される。最後に、絶縁皮膜形成用の塗布液を塗布して焼き付けて、出荷する。
【0006】
方向性電磁鋼板は、鋼板に対して張力を付与することにより、鉄損が改善されるという性質を有する。したがって、鋼板よりも熱膨張率の小さい材質の皮膜を高温で形成することにより、鋼板に張力を附与し、鉄損を改善することができる。フォルステライトの熱膨張率は鋼板よりも小さく、したがって、仕上げ焼鈍皮膜としてフォルステライトを形成することは、鉄損改善に効果がある。
【0007】
さらに、絶縁皮膜として鋼板よりも熱膨張率の小さい材質の皮膜を高温で焼き付けて形成することにより、鋼板に対する張力を増やし、さらなる鉄損改善を図ることができる。
【0008】
特許文献1に開示された、コロイダルシリカと、燐酸塩、クロム酸から構成される塗布液を焼き付けて得られる絶縁皮膜は、上記目的に適合した絶縁被膜であり、長年にわたって使用されてきた。また、特許文献2と3に代表される、ほう酸とアルミナゾルを主体とする塗布液を焼き付けて得られる絶縁皮膜は、特許文献1に開示の皮膜より大きな張力を得ることができる。
【0009】
近年、地球温暖化の問題の深刻化により、変圧器のエネルギー変換ロスがあらためて注目されている。このため、方向性電磁鋼板には、より一層の低鉄損化が求められている。方向性電磁鋼板においてより一層の低鉄損化を実現するためには、より大きな皮膜張力が得られる仕上げ焼鈍皮膜と絶縁皮膜を開発する必要がある。
【0010】
特許文献4には、皮膜張力の大きい皮膜の材質に関する具備条件が開示されており、皮膜を構成する物質の熱膨張率とヤング率で皮膜張力が決定されるとしている。即ち、皮膜張力は、皮膜のヤング率Eと皮膜と地鉄の熱膨張率の差(αFe−αf)に比例する。
【0011】
ところで、方向性電磁鋼板の製造において、焼鈍分離剤に、カオリナイト(Al4Si410(OH)8)を添加する技術がいくつか開示されている。
【0012】
特許文献5には、脱炭焼鈍後の鋼板にAl2Si25(OH)4等の含水珪酸塩鉱物粉末とアルミナ粉末からなる焼鈍分離剤を塗布して仕上げ焼鈍する方法が開示されている。しかし、特許文献5の方法は、仕上げ焼鈍皮膜を形成させないことを目的としており、それ故、焼鈍分離剤中の含水珪酸塩鉱物粉末の含有量は40%以下に限定されている。
【0013】
特許文献6には、脱炭焼鈍をせずに、冷延鋼板に、MgOを主体とし、これにカオリンその他の珪酸塩化合物を添加した焼鈍分離剤を塗布して仕上げ焼鈍する方法が開示されている。しかし、特許文献6の方法は、仕上げ焼鈍中に脱炭させることにより脱炭焼鈍工程を省略することを目的としており、カオリンは、その目的を達成するための添加物として加えられている。この場合、脱炭焼鈍酸化層のない鋼板を用いるので、仕上げ焼鈍中、焼鈍分離剤と脱炭焼鈍酸化層の間で反応が起きず、仕上げ焼鈍皮膜は形成されない。
【0014】
特許文献7には、冷延板、即ち、脱炭焼鈍酸化層のない鋼板に、脱炭を促進する物質としてSiO2を含む物質を添加した焼鈍分離剤を塗布して仕上げ焼鈍する方法が開示されている。特許文献7の方法においても、特許文献6の方法と同じく、脱炭焼鈍酸化層が存在しないため、仕上げ焼鈍皮膜が形成されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開昭48−039338号公報
【特許文献2】特開平06−065754号公報
【特許文献3】特開平06−065755号公報
【特許文献4】特開平06−248465号公報
【特許文献5】特開昭53−022113号公報
【特許文献6】特開昭59−205420号公報
【特許文献7】特開2009−007642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
方向性電磁鋼板においてより一層の低鉄損化を実現するためには、より大きな皮膜張力が得られる仕上げ焼鈍皮膜を開発する必要があることに鑑み、本発明は、方向性電磁鋼板の表面に、従来のフォルステライトより皮膜張力の大きい仕上げ焼鈍皮膜を形成して、方向性電磁鋼板の鉄損を低減することを課題とし、該課題を解決する方向性電磁鋼板とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、方向性電磁鋼板に、より大きな皮膜張力を付与するため、各種酸化物からなる仕上げ焼鈍皮膜について鋭意検討した。基本的な考えは、「皮膜張力は、皮膜のヤング率と、皮膜と地鉄の熱膨張差の積に比例する」というものである。
【0018】
この考えに従い、図1に、各種セラミックスのヤング率E(GPa)(縦軸)と、鉄との熱膨張率差(αFe−αf(10-6/K))(横軸)の関係を示す。図1より、フォルステライト(Mg2SiO4)よりも、アルミナ(α−Al23)、ムライト(Al6Si213)、シリカ(SiO2)等の酸化物の方が大きな皮膜張力を期待できることが解る。
【0019】
そして、本発明者らは、さらに、これらの好ましい仕上げ焼鈍皮膜を鋼板上に形成することを鋭意試みた。例えば、脱炭焼鈍済みの鋼板に、アルミナ(Al23)やムライト(Al6Si213)の粉末を焼鈍分離剤とし塗布して仕上げ焼鈍を行った。しかし、皮膜は形成されなかった。
【0020】
多くの試みの後、本発明者らが確立した方法は、脱炭焼鈍板にカオリナイト(Al4Si410(OH)8)の粉末を水に懸濁したスラリーを塗布して乾燥し、その後、仕上げ焼鈍を行う方法である。図2に、この方法により形成した仕上げ焼鈍皮膜の断面を示す。
【0021】
図3に、上記皮膜に関するX線回折パターンを示す。図3より、上記皮膜がムライトとシリカから構成されていることが解る。図2に示す仕上げ焼鈍皮膜の断面を詳細に元素分析した結果、上部では、Al、Si、及び、Oが検出され、下につきだした部分(下部)では、SiとOのみが検出された。その結果、図2に示す仕上げ焼鈍皮膜は、上部がムライト、下部がシリカからなることが解った。
【0022】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0023】
(1)鋼板表面に、上部がムライト(Al6Si213で、下部がシリカ(SiO2からなる複合皮膜を備えることを特徴とする方向性電磁鋼板。
【0025】
)前記複合皮膜の形成量が、片面当たり、0.5g/m2以上、10g/m2未満であることを特徴とする前記()に記載の方向性電磁鋼板。
【0026】
)前記(1)又は(2)に記載の方向性電磁鋼板を製造する方法において、鋼板に脱炭焼鈍を施して鋼板表面に脱炭焼鈍酸化層を形成し、その後、該酸化層にカオリナイト(Al4Si410(OH)8)を焼鈍分離剤として塗布して仕上げ焼鈍を施し、鋼板表面に、上部がムライト(Al6Si213で、下部がシリカ(SiO2)からなる複合皮膜を形成することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0027】
)前記脱炭焼鈍酸化層の形成量が、片面当たり、酸素換算で、0.2g/m2以上、3g/m2以下であることを特徴とする前記()に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0028】
(5)前記カオリナイト(Al4Si410(OH)8)の平均粒径が3μm以下であることを特徴とする前記(3)又は(4)に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【0029】
(6)前記カオリナイト(Al4Si410(OH)8)の塗布量が、片面当たり、0.2g/m2以上、10g/m2未満であることを特徴とする前記(3)〜(5)のいずれかに記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、方向性電磁鋼板の表面に、従来のフォルステライトより皮膜張力の大きい仕上げ焼鈍皮膜を形成することができるので、方向性電磁鋼板の鉄損を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】各種セラミックスのヤング率E(GPa)と、鉄との熱膨張率差(αFe−αf(10-6/K))の関係を示す図である。
図2】脱炭焼鈍板にカオリナイトを塗布して仕上げ焼鈍することにより得られた仕上げ焼鈍皮膜の断面を示す図である。
図3】脱炭焼鈍板にカオリナイトを塗布して仕上げ焼鈍することにより得られた仕上げ焼鈍皮膜のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の方向性電磁鋼板(以下「本発明鋼板」ということがある。)は、鋼板表面に、上部がムライト(Al6Si213で、下部がシリカ(SiO2からなる複合皮膜を備えることを特徴とする。
【0033】
本発明鋼板を製造する製造方法(以下「本発明方法」ということがある。)は、鋼板に脱炭焼鈍を施して鋼板表面に脱炭焼鈍酸化層を形成し、その後、該酸化層にカオリナイト(Al4Si410(OH)8)を焼鈍分離剤として塗布して仕上げ焼鈍を施し、鋼板表面に、上部がムライト(Al6Si213で、下部がシリカ(SiO2)からなる複合皮膜を形成することを特徴とする。
【0034】
以下、本発明の特徴である複合皮膜、及び、複合皮膜の形成方法、次いで、本発明鋼板について説明する。
【0035】
まず、複合皮膜について説明する。
【0036】
本発明鋼板が通常の方向性電磁鋼板と異なる最大の点は、酸化物皮膜を構成する酸化物である。本発明鋼板は、前述したように、鋼板表面に、ムライト(Al6Si213)とシリカ(SiO2)の複合皮膜を備えている。図2に示すように、ムライトは皮膜上部に存在し、シリカは皮膜下部に存在する。
【0037】
皮膜の上部がムライト、下部がシリカという複合皮膜になっているということは、皮膜の形成が、焼鈍分離剤であるカオリナイトと、鋼板表面の脱炭焼鈍酸化層が反応したことに起因する。そして、このことが、皮膜の鋼板に対する良好な密着性をもたらしている。
【0038】
上記複合皮膜の形成量は、片面あたり、0.5g/m2以上、10g/m2未満とする。上記形成量が0.5g/m2未満では、皮膜の密着性が低下する。10g/m2以上では、皮膜が厚くなりすぎて占積率が低下するので、電磁鋼製品において、電磁鋼板の低鉄損効果が十分に得られない。好ましくは2.0〜8g/m2である。
【0039】
次に、複合皮膜の形成方法について説明する。
【0040】
本発明方法においては、本発明鋼板の特徴の複合皮膜を形成するために、特別の焼鈍分離剤を用いる。通常、下記式(1)の反応により、フォルステライト(Mg2SiO4)を主体とする仕上げ焼鈍皮膜を形成するので、マグネシア(MgO)を主体とする焼鈍分離剤を用いる。
【0041】
これに対し、本発明方法では、下記式(2)の反応により、ムライト(Al6Si213)とシリカ(SiO2)からなる仕上げ焼鈍皮膜が形成されるように、カオリナイト(Al4Si410(OH)8)を主体とする焼鈍分離剤を用いる。
2MgO+SiO2→Mg2SiO4 ・・・(1)
3Al4Si410(OH)8+SiO2→12H2O+2Al6Si213+9SiO2
・・・(2)
【0042】
即ち、カオリナイトが分解して生成したSiO2と、鋼板の脱炭焼鈍酸化層に凝集したSiO2が、ムライト皮膜層の下部で合体してSiO2層を形成する。このことが、仕上げ焼鈍皮膜の鋼板に対する良好な密着性の発現を可能としている。したがって、本発明方法により形成される仕上げ焼鈍皮膜は、上部がムライト、下部がシリカという二重構造の複合皮膜になる。
【0043】
上記式(2)の反応で、ムライトとシリカの複合皮膜を形成する場合、焼鈍分離剤として塗布するカオリナイトと同様に、反応物質であるシリカの状態を制御することが重要である。仕上げ焼鈍に先行して実施する脱炭焼鈍で、シリカを鋼板表面に形成しておくことが、製造工程上有利となる。
【0044】
本発明方法において、脱炭焼鈍時に形成する脱炭焼鈍酸化層の形成量は、片面当たり、酸素換算(脱炭酸素量)で、0.2g/m2以上、3g/m2以下が好ましい。
【0045】
上記形成量が0.2g/m2未満であると、仕上げ焼鈍皮膜の鋼板に対する密着性が低下する。上記形成量が3g/m2を超えると、皮膜が厚くなりすぎて占積率が低下して、電磁鋼製品の磁気特性が低下する。
【0046】
脱炭焼鈍時、雰囲気中の水蒸気分圧の水素分圧に対する比、PH2O/PH2を0.3〜0.7に調整することにより、必要なSiO2量を確保することができる。
【0047】
脱炭焼鈍板に対するカオリナイトの塗布量は、片面当たり、0.2g/m2以上、10g/m2未満が好ましい。上記塗布量が0.2g/m2未満では、仕上げ焼鈍皮膜の密着性が低下する。上記塗布量が10g/m2以上では、皮膜が厚くなりすぎて占積率が低下するので、電磁鋼製品の磁気特性が低下する。
【0048】
カオリナイトは、人工的に合成したものを工業的に入手することは難しく、天然の粘土鉱物から精製したものを使用せざるを得ない。したがって、石英やカリ長石などが不純物つとして混入している場合もある。しかし、カオリナイトが80質量%以上含有されていれば、上部がムライト、下部がシリカという二重構造の仕上げ焼鈍皮膜を得ることができる。
【0049】
同様に、カオリナイトに意図的にMgOやAl23を添加した焼鈍分離剤であっても、カオリナイト含有量が80質量%以上であれば、上部がムライト、下部がシリカという二重構造の仕上げ焼鈍皮膜を得ることができる。
【0050】
上記脱炭焼鈍酸化層の形成量(片面当たり、酸素換算で、0.2g/m2以上、3g/m2以下)とカオリナイトの上記塗布量(片面当たり、0.2g/m2以上、10g/m2未満)で得られる仕上げ焼鈍皮膜量は、片面あたり、0.5g/m2以上、10g/m2未満となる。
【0051】
本発明方法で規定するカオリナイトの塗布量は、塗布のために懸濁させる水等の媒体、MgOやAl23など意図的な添加混合物、さらに、不可避的な不純物を除いた、カオリナイトとしての塗布量である。
【0052】
本発明方法で用いるカオリナイトは、Al2Si25(OH)4なる化学組成を有する粘土鉱物である。カオリナイトは、一般市場で、粉末状のものが入手可能である。カオリナイトの平均粒径が3μm以下であれば、マグネシア焼鈍分離剤と同様に、水に懸濁してスラリー状にして、脱炭焼鈍板に塗布することができる。
【0053】
カオリナイトの粒子径が著しく小さい場合の影響は定かでないが、工業的に入手可能な0.1μmまでは、特段の悪影響は確認されていないので、下限カオリナイトの平均粒径の下限は特に限定しない。
【0054】
本発明方法における仕上げ焼鈍は、マグネシアを焼鈍分離剤として用いた場合と同様の条件で行うことができる。即ち、昇温は、水素と窒素の混合雰囲気で行い、均熱温度の1200℃程度まで加熱する。均熱中は、純水素に切り替えて、鋼板の純化を促進する。均熱時間は10〜20時間が適当である。
【0055】
次に、本発明鋼板について説明する。
【0056】
本発明鋼板は、脱炭焼鈍工程までは、従来公知の方法及び条件で製造することができる。GossらによるMnSを主インヒビターとして用いる製造法(例えば、米国特許第1,965,559号明細書)、田口、坂倉等によるAlNとMnSを主インヒビターとして用いる製造法(例えば、特公昭40−15644号公報)、又は、小松等による(Al、Si)Nを主インヒビターとして用いる製造法(例えば、特公昭62−45285号公報)が基本的な製造法である。以下に、その要点を述べる。
【0057】
Siは、電気抵抗を高め、鉄損を下げるうえで重要な元素である。しかし、4.8質量%を超えると、冷間圧延時に鋼板が割れ易くなり、圧延が困難になる。一方、Si量を下げると、仕上げ焼鈍時にα→γ変態が生じ、結晶の方向性が損なわれる。したがって、Siの下限は、通常、0.8質量%である。
【0058】
MnとSは、MnSを形成し、インヒビターとして機能する元素である。安定した二次再結晶を起こさせるためには、Mnが0.02〜0.3質量%、Sが0.005〜0.04質量%が好ましい。
【0059】
酸可溶性Alは、Nと結合してAlN又は(Al、Si)Nを形成し、インヒビターとして機能する元素である。磁束密度の高い方向性珪素鋼板を製造するために、酸可溶性Alは、0.012〜0.05質量%が好ましい。
【0060】
製鋼時に、Nを0.01質量%を超えて添加すると、ブリスターという空孔が鋼板に生成するので、Nは0.01質量%以下が好ましい。
【0061】
他のインヒビター構成元素として、B、Bi、Pb、S、Se、Sn、Ti等を、Alに加えて利用することができる。
【0062】
Cは、γ相形成元素であり、仕上げ焼鈍前の一次再結晶組織を、二次再結晶に適する集合組織に整えるために必要な元素である。したがって、冷間圧延工程までは0.02質量%以上含有させておく必要がある.一方、0.1質量%を超えると、一次再結晶集合組織が悪化し、また、脱炭に必要な時間も長くなり不経済である。
【0063】
上記成分組成の鋼帯は、通常の工程により熱延板とされるか、又は、溶鋼を連続鋳造して薄帯とされる。
【0064】
上記熱延板又は連続鋳造薄帯は、直ちに、又は、短時間の焼鈍を経て冷間圧延される。この短時間の焼鈍は、製品の磁気特性を向上させるのに有効であり、750〜1200℃の温度域で30秒〜30分間行うのがよいが、製品の所望特性レベルとコストを勘案して採否を決めればよい。
【0065】
冷間圧延は、使用するインヒビターの種類によっても異なるが、AlNやAl(Si、N)をインヒビターのうちの一つとして利用する場合には、特公昭40−15644号公報に開示されているように、基本的に、最終冷延率を80%以上とすればよい。
【0066】
冷間圧延後、一次再結晶と鋼中炭素の除去を目的として、湿潤雰囲気中、750〜900℃の温度域で脱炭焼鈍を行う。脱炭焼鈍では、脱炭反応を起こさせるだけでなく、SiO2を主体とする脱炭焼鈍酸化膜を形成しなければならないので、湿潤水素雰囲気中で行うことが望ましい。
【0067】
(Al、Si)Nを主インヒビターとして用いる場合(例えば、特公昭62−45285号公報)には、脱炭焼鈍後に、鋼板に窒化処理を施す。この窒化処理の具体的方法については、特に限定するものではなく、アンモニア等の窒化能を有する雰囲気ガス中で焼鈍する方法等がある。窒化量は0.005質量%以上、望ましくは、鋼中のAl当量以上である。
【0068】
仕上げ焼鈍後に二次再結晶組織を得るとともに、ムライトとシリカを主体とする仕上げ焼鈍皮膜が形成されれば、そのまま、電磁鋼製品とすることができるが、通常は、絶縁性の強化と、さらなる張力付与による鉄損改善を目的とし、張力付与型の絶縁皮膜を形成する。
【0069】
絶縁皮膜は特に限定されるものでなく、公知のもので構わない。代表的なものとしては、コロイダルシリカと燐酸塩、クロム酸から構成される塗布液を焼き付けて得られる絶縁皮膜や、ほう酸とアルミナゾルを主体とする塗布液を焼き付けて得られる絶縁皮膜を挙げることができる。
【実施例】
【0070】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0071】
(実施例1)
Si:3.3質量%、Mn:0.1質量%、C:0.05質量%、S:0.007質量%、Al:0.03質量%、N:0.008質量%を含有する板厚2.3mmの熱延珪素鋼帯を1100℃で2分間焼鈍し、酸洗した後、0.23mmに冷延し冷延鋼板とした。この冷延鋼板に、種々の雰囲気と焼鈍時間で脱炭焼鈍を施した。
【0072】
表1に、脱炭焼鈍板の酸素量を示す。
【0073】
【表1】
【0074】
次いで、脱炭焼鈍板をアンモニア雰囲気中で焼鈍して、鋼板の窒素量を0.025質量%まで増加させ、インヒビターの強化を行った。その後、鋼板の一部については、従来のように、マグネシアを水スラリーで塗布して乾燥し、鋼板の他の一部については、平均粒径1μmのカオリナイト粉末を水スラリーで塗布して乾燥した。焼鈍分離剤の塗布量は、いずれも、4g/m2である。
【0075】
その後、仕上げ焼鈍を行った。仕上げ焼鈍では、1200℃までは、水素75%、窒素25%の雰囲気ガス中で10℃/hrの昇温速度で昇温した。1200℃に到達した後、水素100%の雰囲気ガスに切り替えて、20時間保定した。
【0076】
仕上げ焼鈍後の鋼板に、コロイダルシリカと燐酸塩、クロム酸から構成される塗布液を焼き付けて絶縁皮膜を形成した。得られた電磁鋼製品の磁気特性を、表1に併せて示す。
【0077】
(実施例2)
Si:3.3質量%、Mn:0.07質量%、C:0.07質量%、S:0.025質量%、Al:0.026質量%、N:0.008質量%を含有する板厚2.3mmの熱延珪素鋼帯を1100℃で2分間焼鈍し、酸洗した後、0.23mmに冷延し冷延鋼板とした。
【0078】
この冷延鋼板に脱炭焼鈍を施し、片面当たり、酸素量換算で、0.8g/m2の酸化層を形成した。その後、鋼板の一部については、従来のように、MgOを6g/m2、水スラリーで塗布して乾燥し、鋼板の他の一部については、平均粒径0.2μmのカオリナイト粉末を、水スラリーで塗布して乾燥し、それぞれ仕上げ焼鈍を行った。
【0079】
表2に、カオリナイトの塗布量を示す。
【0080】
【表2】
【0081】
カオリナイトの塗布量は、表2に示す範囲で変更した。仕上げ焼鈍では、1200℃までは、水素75%、窒素25%の雰囲気ガス中で10℃/hrの昇温速度で昇温した。1200℃に到達した後、水素100%の雰囲気ガスに切り替えて、20時間保定した。
【0082】
仕上げ焼鈍後の鋼板に、ほう酸とアルミナゾルから構成される塗布液を焼き付けて絶縁皮膜を形成した。得られた電磁鋼製品の磁気特性を、表2に併せて示す。
【産業上の利用可能性】
【0083】
前述したように、本発明によれば、方向性電磁鋼板の表面に、従来のフォルステライトより皮膜張力の大きい仕上げ焼鈍皮膜を形成することができるので、方向性電磁鋼板の鉄損を大幅に低減することができる。よって、本発明は、電磁鋼製造産業及び電磁鋼利用産業において利用可能性が高いものである。
図1
図2
図3