(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
粘結補填材を窒素中で900℃まで3℃/min.で昇温したときの質量減少曲線を時間で一次微分して得られる質量減少速度曲線において、質量減少速度が最大になる温度が400℃以上の粘結補填材の中から選択する請求項1又は2に記載の粘結補填材の選択方法。
粘結補填材を窒素中で900℃まで3℃/min.で昇温したときの質量減少曲線を時間で一次微分して得られる質量減少速度曲線において、質量減少速度が最大になる温度が400℃以上の粘結補填材の中から選択して添加する請求項4又は5に記載の高強度コークスの製造方法。
【背景技術】
【0002】
銑鉄を得る高炉において鉄鉱石の還元材として使用されるコークスは、単味炭や複数種の石炭を配合した配合炭を原料にしてコークス炉で乾留して製造されるが、高炉内での通気性を十分に確保できるといった高強度コークスを得るには、粘結性や炭化特性に優れた強粘結炭を多く含む必要がある。ところが、強粘結炭は高価であって資源としての制限もあることから、原料炭に粘結補填材を添加してコークス炉に装入する技術が広く採用されている。
【0003】
このような粘結補填材の添加に関して、例えば、芳香族性瀝青物(ASP)とコールタールとを相互溶解させたものを原料炭に添加混合して加圧成型することで、強度の高い成形炭を製造する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、石炭の固化温度に近い温度で熱分解してガスを発生するプラスチック等の気孔生成剤と共に、石炭系又は石油系ピッチ等の粘結剤を配合炭に添加して、気孔率が高く且つ一定レベル以上の強度を有するコークスを得る方法が提案されている(特許文献2参照)。更には、石炭をコークス炉で乾留する際に所定の粒度上限値以下に制御した廃プラスチックを添加することで、熱分解して発生したガスが石炭の軟化溶融層内に内包され、軟化溶融層内部のガス圧により、軟化溶融した石炭同士の融着結合を強固にして強度の高いコークスを得る方法が提案されている(特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、石炭は産地や銘柄等によってその性状が異なることから、例えば、上記のような方法によって、ある原料炭に適した粘結補填材を見つけることはできても、炭種毎にそれぞれ適した粘結補填材を選択することまでには至らない。
【0005】
一方で、粘結補填材を構成する成分をヘキサンに可溶な成分(HS成分)、ヘキサンに不溶でトルエンに可溶な成分(HITS成分)、及びトルエンに不溶な成分(TI成分)に分けて、粘結補填材におけるそれぞれの作用を見出し、添加する対象の原料炭の性状(揮発分含有量、粘結性等)に合わせて、適切な成分組成を有した粘結補填材を選択できるようにした方法が提案されている(特許文献4参照)。具体的には、粘結補填材を構成するHS成分(軽質成分)は、乾留途中でガス化し、軟化溶融した石炭中の気泡の成長および合体を促進して、気孔サイズを適切なサイズまで大きくする作用(気孔拡大作用)を有し、HITS成分(中間成分)は、乾留過程で軟化溶融した石炭の粘性を低下させ、気泡の形状を丸みのある形状とする作用(気孔丸状化作用)を有し、TI成分(重質成分)は、殆どが残差となるが、コークス壁を厚くする作用(壁厚増大作用)を有するとして、原料炭を全膨張率により4つの区分に分け、各区分に応じて粘結補填材における前記3成分の添加率の範囲を定めるようにしている。
【0006】
或いは、原料炭の気孔率が最小になる温度と最大になる温度とを求めて、この温度域における粘結補填材からのガスを有効利用できる組み合わせから粘結補填材を選択する方法も提案されている(特許文献5参照)。詳しくは、予め複数種の粘結補填材の質量減少曲線を測定しておき、原料炭の気孔率が最小になる温度と最大になる温度での間の温度域で各粘結補填材の質量減少率をガス利用可能率として求めて、このガス利用可能率が原料炭の揮発率を超えるものを選択するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、原料炭に添加する粘結補填材は、これまでに様々なものが知られ、使用されてきたが、石炭自体も産地や銘柄等によってその性状が異なることから、実際には炭種毎に最適な粘結補填材の組み合わせが存在すると考えられる。そのため、上記特許文献4及び5に記載されるように、原料炭に適した粘結補填材を選び出すことは、高強度コークスを製造する上で極めて重要である。なかでも、特許文献5に記載された方法によれば、原料炭に応じてコークス強度の向上に資する粘結補填材を簡便に選択することができる。
【0009】
ところが、本発明者らが更なる検討を進めたところ、粘結炭に添加する粘結補填材を選択する場合は、石炭が膨張し始めた状態から再固化が完了するまでの温度域(つまり、石炭が溶融している温度域)に注目することで、幅広い粘結補填材を対象とすることができ、これによりさらに的確に選択することができることを知見した。
【0010】
そこで、本発明の目的は、高強度コークスの製造において、粘結炭の炭種毎に適した粘結補填材を的確に選択することができる方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、この方法を利用して効果的に高強度コークスを製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、粘結補填材から生じたガスが石炭の膨張に寄与するためには、石炭が軟化して膨張し、再固化する過程において、粘結補填材由来のガスを十分に捕捉できる必要があり、粘結炭のように石炭自体がある程度の溶融成分を有していることが有利であることを新たに見出した。そして、粘結炭の最大収縮温度と最大膨張温度とを求めて、この温度域での粘結炭の揮発分を補い、さらには揮発分を超えることができる粘結補填材を選択することで、コークス強度の向上に資する粘結補填材を的確に選択できるようになることから、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
【0012】
(1) 高強度コークスの製造にあたり粘結炭に添加する粘結補填材を選択する方法であって、JIS M8801に記載される膨張性試験方法により粘結炭の最大収縮温度T
1と最大膨張温度T
2とを求め、また、予め測定した複数種の粘結補填材の質量減少曲線から、前記T
1−T
2の温度域における各粘結補填材の質量減少率をガス利用可能率として求めて、該ガス利用可能率が前記T
1−T
2温度域における粘結炭の揮発率以上になるもの
のうち、最もガス利用可能率が高い粘結補填材を選択することを特徴とする粘結補填材の選択方法。
(2) 前記T
1−T
2温度域における粘結炭の揮発率は、温度に対する粘結炭の質量減少曲線におけるT
1−T
2温度域での粘結炭の質量減少率である(1)に記載の粘結補填材の選択方法。
(3) 粘結補填材を窒素中で900℃まで3℃/min.で昇温したときの質量減少曲線を時間で一次微分して得られる質量減少速度曲線において、質量減少速度が最大になる温度が400℃以上の粘結補填材の中から選択する(1)又は(2)に記載の粘結補填材の選択方法。
【0013】
(
4) 粘結炭に粘結補填材を添加して乾留し、高強度コークスを製造する方法であって、JIS M8801に記載される膨張性試験方法により粘結炭の最大収縮温度T
1と最大膨張温度T
2とを求め、また、予め測定した複数種の粘結補填材の質量減少曲線から、前記T
1−T
2の温度域における各粘結補填材の質量減少率をガス利用可能率として求めて、該ガス利用可能率が前記T
1−T
2温度域における粘結炭の揮発率以上になるもの
のうち、最もガス利用可能率が高い粘結補填材を選択して添加することを特徴とする高強度コークスの製造方法。
(
5) 前記T
1−T
2温度域における粘結炭の揮発率は、温度に対する粘結炭の質量減少曲線におけるT
1−T
2温度域での粘結炭の質量減少率である(
4)に記載の高強度コークスの製造方法。
(
6) 粘結補填材を窒素中で900℃まで3℃/min.で昇温したときの質量減少曲線を時間で一次微分して得られる質量減少速度曲線において、質量減少速度が最大になる温度が400℃以上の粘結補填材の中から選択して添加する(
4)又は(
5)に記載の高強度コークスの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高強度コークスを製造するにあたり、粘結炭の炭種毎にコークス強度の向上に資する粘結補填材を的確に選択することができるようになる。また、この方法を利用すれば、粘結炭の炭種毎に効果的な粘結補填材を選択して添加することができるようになるため、高強度コークスの効果的な製造が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明では、コークス強度の向上に資する粘結補填材を選択するにあたり、配合対象の石炭を粘結炭とし、その粘結炭の膨張を促進させて効果的にコークス強度を向上させることができる粘結補填材を見つけ出すようにする。
【0017】
一般に、石炭は400℃前後の温度で軟化し始めてその後膨張し、500℃前後の温度で再固化するが、後述する実験結果からも分かるように、その際の石炭の溶融物が粘結補填材由来のガスを十分に捕捉して、石炭の膨張が促進されることで、好適に石炭粒子を接着させることができるようにするには、粘結炭のように石炭自体がある程度の溶融成分を有していることが有利であることを見出した。そこで、本発明においては、JIS M8801に記載される膨張性試験方法(ディラトメーター法)により粘結炭の最大収縮温度T
1と最大膨張温度T
2とを求めて、このT
1−T
2温度域で多量のガスを発生して粘結炭の揮発分を補うことができる粘結補填材を選択するようにする。
【0018】
本発明では、選択対象となる複数種の粘結補填材について、温度に対する質量減少曲線を測定しておき、前記T
1−T
2温度域における各粘結補填材の質量減少率をガス利用可能率として求めるようにする。この求めたガス利用可能率が、T
1−T
2温度域における粘結炭の揮発率以上になる粘結補填材、好ましくは粘結炭の揮発率を超える粘結補填材を選択することで、効果的にコークス強度の向上を図ることができるようになる。
【0019】
ここで、JIS M8801記載の膨張性試験方法とは、微粉砕した試料(石炭)を規定の棒状に加圧成形して所定の細管に挿入し、その上にピストンを入れた後、規定の昇温速度で加熱して、ピストンの上下の変位を測定し、棒状に成形した試料の最初の長さに対する分率(%)をもって試料の軟化溶融特性を表すものであり、ピストンが初めて最低位置に達したときの温度を最大収縮温度(T
1)と呼び、ピストンが最低位置に達してから後に初めて最高位置に達した温度を最大膨張温度(T
2)と呼ぶ。
図1は、ある粘結炭(後述するB炭)の膨張性試験方法による温度と変位の様子であり、最大収縮温度T
1と最大膨張温度T
2とが示されている。
図1ではピストンの変位を膨張率(%)で表しており、この膨張率とは、ピストンのゼロ点から最高位置までの変位の、棒状に成形した試料の最初の長さに対する分率(%)を示す。
【0020】
本発明者らは、表1に示した5種類の石炭(A炭〜E炭)について、表2に示した添加物1〜4の粘結補填材を添加した場合における、JIS M8801の膨張性試験方法による最大膨張率の向上代(ΔMD)を調べる実験を行った。ここで、最大膨張率向上代(ΔMD)とは、各石炭をそれぞれ単独でディラトメーター法により測定した場合の最大膨張率MDと、各石炭に添加物を所定の割合で加えて同様にして測定した場合の最大膨張率MD’との差(ΔMD=MD'−MD)を表す。また、この実験においては、5種類の石炭のT
1−T
2温度域において、それぞれの粘結補填材の質量減少率をガス利用可能率として求めておき、下記式から得られるガス利用指数[−]と最大膨張率向上代(ΔMD)[%]との関係を求めた。結果は
図2〜6に示したとおりである。なお、各石炭に添加した添加物の割合について、添加物1は3質量%、添加物2及び3はそれぞれ1質量%、2質量%、3質量%となるようにし、添加物4はC炭に対してのみ1
質量%添加するようにした(添加量はいずれも内数)。
ガス利用指数[−]=ガス利用可能率[質量%]×添加率[質量%]/100
【0023】
上記の実験で用いた石炭のうち、A〜C炭は粘結炭であり、D〜E炭は非微粘結炭である。粘結炭と非微粘結炭の区分けについては、JIS M8001に規定されたキーセラープラストメータ法での再固化温度が470℃未満の石炭を非微粘結炭とし、再固化温度が470℃以上の石炭を粘結炭とした。
図2〜6に示したグラフから明らかなように、粘結炭(A〜C炭)の場合、ガス利用指数が大きくなるにつれて、最大膨張率向上代(ΔMD)が線形的に増加する。それに対して、非微粘結炭(D〜E炭)の場合には、ガス利用指数が大きくなっても、最大膨張率向上代(ΔMD)の増加分は小さい。
【0024】
また、表3には、高温NMR(NMR: Nuclear Magnetic Resonance)を用いてA〜E炭の溶融成分量を測定した結果が示されている。
1H−NMRによる石炭のスペクトル測定では、緩和時間が長いmobile成分と緩和時間の短いimmobile成分とが存在することが知られている(参考文献:新日鐵技法新 第384号, p.48-52(2006)、日本エネルギー学会誌 Vol.83, pp.889-894(2004)、特開2002-195966号公報)。そこで、表3には、この高温NMRによって測定されたmobile成分を溶融成分として、A〜E炭についてその値(%)を示した。
【0026】
高温NMRの測定にあたり、詳しくは、水素90度のパルス幅は8μsec、エコー時間は50μsec〜3msec、繰り返し時間は5msec〜1secとして、積算回数は512回とした。データのサイズはX方向で512ポイント、Y方向で512ポイント、Z方向は1〜512ポイントに設定した。その際に試料を3℃/min.で昇温させながら、加熱温度域を30−550℃とし、X、Y、Zの3軸にそれぞれ、89gauss/cm、96gauss/cm、107gauss/cmの磁場勾配を短時間で与えるような方法で測定を行った。mobile(溶融成分)の存在量は、軟化溶融温度域で、横緩和時間が100マイクロ秒以上である成分の量を意味し、軟化溶融温度域での溶融している石炭中の成分割合に相当する。なお、多重パルスや横緩和時間に関しては、特開平11−326248号公報においても説明されている。
【0027】
先の
図2〜6に係る実験とあわせれば、ガス利用指数と共に最大膨張率向上代(ΔMD)が線形的に増加したA〜C炭に比べて、最大膨張率向上代(ΔMD)の増加が僅かであったD炭及びE炭では、溶融成分量が少ないことが分かる。すなわち、添加物(粘結補填材)から生じたガスが、石炭の膨張に寄与するためには、石炭が軟化してその後膨張し、再固化する過程において、添加物由来のガスを石炭の溶融物が十分にトラップ(捕捉)できることが重要であると考えられる。そして、これらの実験結果から、添加物由来のガスをトラップできる石炭の溶融成分量は40%前後必要になり、溶融成分を一定量以上含むもの、好適には40%以上含むものであるのがよい。
【0028】
ここで、コークスの表面破壊強度DI
1506は、石炭の膨張性が高いほど、高強度であることが知られている(参考文献:新日鐵技法新 第384号, p.43-47(2006)参照)。
図8は、この参考文献より引用したDI
1506に及ぼす全膨張率の影響を表すグラフである。この関係に基づけば、最大膨張率向上代(ΔMD)を効果的に増大させることができればコークス強度の向上に資することになり、ガス利用指数の高い粘結補填材とA〜C炭のような粘結炭との組み合わせを選択することで、高強度のコークスを効率的に製造することができると考えられる。その際、好適には、T
1−T
2温度域における粘結補填材のガス利用可能率が粘結炭の揮発率以上になるもののうち、最もガス利用可能率が高い粘結補填材を選択することで、粘結炭と粘結補填材との最適な組み合わせを見出すことができる。
【0029】
粘結補填材については、これまでに使用されている公知のものとして、主に石油系粘結補填材や石炭系粘結補填材が知られており、その他、廃プラスチック等も利用可能である。本発明においては、これら公知の粘結補填材のなかから配合の対象となる粘結炭に適したものを選ぶようにすればよいが、なかでも、前述したT
1−T
2温度域で多量のガスを発生して効果的にコークス強度を向上させることができる粘結補填材としては、好ましくは、窒素中で900℃まで3℃/min.で昇温したときの質量減少曲線を時間で一次微分して得られる質量減少速度曲線において、質量減少速度が最大になる温度が400℃以上(すなわち、一般的に石炭が溶融している温度)であるものであるのがよい。このような特性を有する粘結補填材の具体例としては、石油系粘結補填材(ユリカピッチや溶剤脱瀝アスファルトのような石油系ピッチ等)のほか、プラスチック(ポリエチレン等)が挙げられる。なお、先の表2に示した添加物1〜4は、いずれも石油系の粘結補填材である。
【0030】
また、前記T
1−T
2温度域における粘結炭の揮発率については、一般に1〜3質量%程度である。そして、この粘結炭の揮発分は、石油系粘結補填材等のT
1−T
2温度域における揮発分とほぼ同様の成分と考えられる。そのため、質量減少曲線から求められるT
1−T
2温度域での粘結補填材の質量減少率をガス利用
可能率とし、このガス利用
可能率がT
1−T
2温度域における粘結炭の揮発率以上となるものを選択することで、その粘結炭に対してコークス強度の向上に資する粘結補填材を確実に見つけ出すことができる。ここで、T
1−T
2温度域における粘結炭の揮発率について、より正確に求めることができるなどの観点から、好ましくは、対象となる粘結炭の質量減少曲線を予め測定しておき、T
1−T
2温度域での粘結炭の質量減少率をその揮発率とするのがよい。
【0031】
ここで、
図7には、先の表2に示した添加物1〜4の粘結補填材の質量減少曲線と、表1に示したA〜E炭のT
1−T
2温度域とがまとめて示されている。また、表4には、これらA〜E炭の溶融温度域(T
1−T
2温度域)及びその温度域での各石炭の揮発分(揮発率)の詳細と、各石炭における溶融温度域での添加物1〜4の揮発分(ガス利用可能率)の詳細とが示されている。
【0033】
上述したように、本発明では、JIS M8801に記載される膨張性試験方法により石炭の最大収縮温度T
1と最大膨張温度T
2とを求めて、このT
1−T
2温度域における石炭の揮発分を補う、あるいは揮発分を超えることができる量のガスを発生する粘結補填材を選択する。これに対して、従来の特許文献5に係る方法では、所定の温度変化(350℃から550℃まで)における石炭の気孔率が最小になる温度(ここではt
1とする)と最大になる温度(ここではt
2とする)とを求めて、そのt
1−t
2温度域での石炭の揮発分を補う量のガスを発生する粘結補填材を選択するようにしている。つまり、本発明と特許文献5に係る発明とでは、石炭が軟化して膨張し、再固化する過程において注目する指標が異なる点で相違する。
【0034】
すなわち、特許文献5に係る発明では、気孔率が最小−最大になる温度を求めて、石炭が膨張し始めた状態から再固化し始めるまでの温度域(つまり、石炭が十分に溶融している温度域)に注目している。一方、本発明では、粘結炭の場合、石炭の再固化が起こり始めた後でも、石炭の一部が溶融していれば、粘結補填材由来のガスを捕捉することができると考え、ディラトメーター法による最大収縮温度T
1と最大膨張温度T
2とからT
1−T
2温度域を求めるようにする。
【0035】
また、特許文献5では、ディラトメーター法により石炭の最大収縮温度T
1と最大膨張温度T
2とを求めて、これらの中間温度T
3=(T
1+T
2)/2によって、石炭の気孔率が最大になる温度t
2が代用できるとしている(特許文献5の段落0054〜0056を参照)。すなわち、先の
図1にはこの中間温度T
3が示されているように、特許文献5によれば、ディラトメーター法により求めた石炭の最大収縮温度T
1から中間温度T
3までの温度域は、石炭の気孔率が最小−最大になるt
1−t
2温度域とみなすことができるとしている。これは、上記で説明したとおり、特許文献5では、石炭が十分に溶融している温度域に注目しているためである。本発明では、粘結炭を用いた場合に、石炭が膨張し始めた状態から再固化し終わるまでの温度域に注目しており、T
3を超える温度からT
2までの温度域も加えられることになる。つまり、本発明では粘結炭との配合を特定したことにより、特許文献5記載の方法と比較して、組み合わせの対象となる適切な粘結補填材の選択幅が広がり、これによりさらに最適な粘結補填材を選択することができる。
【0036】
例えば、先の
図7に示した添加物4の質量減少曲線を見れば、400℃から500℃にかけて急激に熱分解していることが分かる。このような添加物4の場合、例えば配合対象をC炭としたときに、注目する温度域をT
1−T
3温度域とすると最適な粘結補填材として添加物4は選択されないが、注目する温度域をT
1−T
2温度域とすると添加物4は最適な粘結補填材として選択されることになる。
【0037】
すなわち、配合対象をC炭としたときに、添加物2を1質量%添加した場合と添加物4を1質量%添加した場合とにおいて、C炭のT
1−T
2温度域での揮発分(ガス利用可能率)を比べると、添加物2では25.0%、添加物4では46.3%になり、添加物4を用いた方がより効果的に石炭の膨張に寄与すると考えられる。
一方で、仮にT
1−T
3温度域での揮発分を比べると、添加物2では14.5%、添加物4では9.6%になり、添加物2の方がT
1−T
3温度域での揮発分(ガス利用可能率)が多い結果となる。しかし、実際には、
図4に示したとおり、添加物4の方が最大膨張率向上代(ΔMD)を増大させることができ、C炭に対する粘結補填材として添加物4の方がより適していると言える。
【0038】
したがって、例えば配合対象をC炭としたときに、注目する温度域をT
1−T
2温度域とすることにより、添加物4が選択されることになり、適切な粘結補填材の選択幅が広がるとともに、より最適な粘結補填材を選択することができる。
なお、添加物1〜3については、揮発分の量が最も多い最適な粘結補填材を決めるにあたって、T
1−T
2温度域の場合とT
1−T
3温度域の場合とで変わりはないことを確認している。
【0039】
本発明において高強度コークスを製造するに際しては、上述した粘結補填材の選択方法を利用して、T
1−T
2温度域における粘結炭の揮発率以上のガス利用可能率を有する粘結補填材を選択し、好適には、T
1−T
2温度域における粘結補填材のガス利用可能率が粘結炭の揮発率以上になるもののうち、最もガス利用可能率が高い粘結補填材を選択して、粘結炭に添加して乾留を行うようにすればよい。
【0040】
ここで、選択した粘結補填材の添加量は特に制限されないが、一般には内数で0.1質量%以上10質量%以下程度である。また、高強度コークスを製造する際に、粘結補填材を添加する方法としては公知の方法を利用することができ、例えば、粘結炭をコークス炉に装入する前段階において流動層で乾燥・分級させるようにしてもよく、乾留条件等についても特に制限はない。但し、粘結炭を流動層で乾燥・分級させる場合は、乾燥後の石炭に粘結補填材を添加することが好ましい。なお、選択した粘結補填材のなかから少なくとも1種を原料炭に添加して乾留すればよいが、2種以上の粘結補填材を配合するようにしてもよい。また、複数の粘結炭を含んだ配合炭を原料にする場合には、粘結炭毎に本発明の選択方法を用いて粘結補填材を選択し、それぞれを添加するようにするのが望ましい。
【0041】
また、本発明においては、粘結炭に予め石炭系の粘結補填材を添加した上で、ディラトメーター法により最大収縮温度T
1と最大膨張温度T
2とを求めて、このT
1−T
2温度域における粘結補填材のガス利用
可能率と石炭系粘結補填材を添加した状態での粘結炭の揮発率との関係から、上記のようにして粘結補填材を選択し、添加するようにしてもよい。すなわち、石炭系の粘結補填材を事前に粘結炭に添加すると、これを添加していない場合と比べてT
1−T
2温度域が広がる効果がある。そのため、石炭系の粘結補填材を配合した粘結炭を用いることで、選択された粘結補填材から発生するガスをより効果的に利用することができるようになる。
【実施例】
【0042】
本発明について、実施例に基づきより具体的に説明するが、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
【0043】
上記表1に示した性状を有するA〜E炭と、表2に示した性状を有する添加物(粘結補填材)1〜4とを用いて、以下のようにして本発明の粘結補填材の選択方法に係る実験を行った。
【0044】
先ず、A〜E炭について、JIS M8801に記載される膨張性試験方法に従って、各石炭の軟化溶融特性を調べた。すなわち、微粉砕した試料(石炭)を規定の棒状に加圧成形して所定の細管に挿入し、その上にピストンを入れた後、規定の昇温速度で加熱して、ピストンの上下の変位を測定し、各石炭の軟化開始温度、最大収縮温度T
1、最大膨張温度T
2、最大収縮率、及び最大膨張率をそれぞれ求めた。また、石炭20mgを窒素雰囲気下で900℃まで3℃/minで昇温し、質量の経時変化を熱天秤で測定して、各石炭の質量減少曲線を求めた。同様に、添加物1〜4について、添加物20mgを窒素雰囲気下で900℃まで3℃/minで昇温し、質量の経時変化を熱天秤で測定して、それぞれの質量減少曲線を得た。
図7には、上記で求めたA〜E炭のT
1−T
2温度域(溶融温度域)と添加物1〜4の質量減少曲線とがまとめて示されている。
【0045】
これらに基づき、A〜E炭のT
1−T
2温度域(溶融温度域)、質量減少曲線から求めた各石炭のT
1−T
2温度域での質量減少率(揮発分)、及び、質量減少曲線から求めた添加物1〜4のT
1−T
2温度域での質量減少率(揮発分)を求めて、上記の表4にまとめて示した。
【0046】
ここで、実験番号1〜16に示した各石炭と添加物との組み合わせについて、T
1−T
2の温度域における各粘結補填材の質量減少率(揮発分)をガス利用可能率とすれば、添加物1〜4は、A〜E炭のいずれの組み合わせにおいてもT
1−T
2温度域における石炭の揮発率(揮発分)を上回ることになる。ところが、
図2〜6に示したとおり、粘結炭であるA〜C炭の場合には、ガス利用指数が大きくなるにつれて、最大膨張率向上代(ΔMD)が線形的に増加するのに対し、非微粘結炭であるD〜E炭の場合には、ガス利用指数が大きくなっても、最大膨張率向上代(ΔMD)の増加分は僅かであり、非微粘結炭の場合には、粘結補填材から生じたガスが石炭の膨張に寄与する効果は小さいと考えられる。一方で、例えば、C炭において、ガス利用可能率が最も高くなるのは添加物4であり、実際に、添加量1質量%(内数)の場合で比較すれば、添加物2の場合はΔMD=8.9%、添加物3の場合はΔMD=6.1%、添加物4の場合はΔMD=20.2%であり、添加物4の場合が最もC炭の膨張に寄与する効果が高いと考えられる。
【0047】
また、上記のなかからA炭、B炭、及びE炭を用いて配合炭を形成し、粘結補填材として添加物2及び3を用いて、以下のようにしてコークスを試験製造した。
先ず、A炭、B炭、及びE炭を、それぞれ3mm以下の粒径が質量比85%となるように粉砕し、表5に示すように、配合割合(質量%)がA炭25%、B炭25%、E炭50%となるように配合した。このような配合炭に対して、添加物2及び3を一切加えない場合(水準1)、添加物2のみ質量比で3%(内数)添加した場合(水準2)、添加物3のみ質量比で3%(内数)添加した場合(水準3)について、それぞれ嵩密度0.85g/cm
3(乾燥状態)となるようにして実験用乾留装置に装入した。そして、これらについて、それぞれ炉温1250℃で18.5時間加熱して試験コークスを製造し、コークス強度DI
15015(−)およびDI
1506を測定した。
【0048】
なお、DI
1506とDI
15015とには、以下の関係がある。
DI
15015=DI
1506−DI
1506-15
DI
1506に関しては、
図8に示すように石炭の膨張による石炭粒子同士の接着性の影響を受け、DI
1506-15に関しては、収縮による亀裂の影響を受ける。粘結補填材の添加により石炭の膨張性が変化するため、粘結補填材の添加による強度の変化は、主にDI
1506の変化に由来し、DI
1506-15はほとんど変化しない。以上により、結果として、DI
15015が向上する。
【0049】
【表5】
【0050】
結果は表5に示したとおりである。ここで、ΔDI
1506およびΔDI
15015は、それぞれ添加物を一切加えずに製造した場合のコークス強度DI
1506およびDI
15015からの増加分を示す。また、ガス利用指数は先の式から求められる値であり、ここでは粘結炭であるA炭及びB炭の配合割合に応じて、それぞれ単味炭でのガス利用指数を加重平均して算出している(非微粘結炭であるE炭へのガス利用指数はゼロとした)。これらの結果より、ガス利用指数が高い水準2の場合の方が、コークス強度の向上効果ΔDI
1506およびΔDI
15015が大きく、高強度のコークスを効率的に製造できることが分かる。