特許第6146146号(P6146146)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146146
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/12 20060101AFI20170607BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 652E
   H01L29/78 653A
   H01L29/78 652J
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-120771(P2013-120771)
(22)【出願日】2013年6月7日
(65)【公開番号】特開2014-239146(P2014-239146A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2016年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 光亮
(72)【発明者】
【氏名】和田 圭司
【審査官】 恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−253929(JP,A)
【文献】 特開平11−266015(JP,A)
【文献】 特開2013−008890(JP,A)
【文献】 特開2013−062397(JP,A)
【文献】 特開2005−340685(JP,A)
【文献】 特開平09−074193(JP,A)
【文献】 特開2007−013058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/12
H01L 29/78
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電型を有する第1の層と、前記第1の層上に設けられ第2の導電型を有する第2の層と、前記第2の層上に設けられ第1の導電型を有する第3の層とを含む炭化珪素基板を備え、
前記炭化珪素基板には、前記第3の層および前記第2の層を貫通して前記第1の層に至る側壁を有するトレンチが設けられており、
前記側壁は、面方位{0−33−8}を有する第1の面を含み、前記第1の面は絶縁膜に覆われており、
前記側壁の前記第1の面において前記絶縁膜に接触し、前記第3の層から前記第1の層に至る第1の導電型を有する第1の不純物注入領域をさらに備え、
前記第2の層に対向する部分における前記第1の不純物注入領域の不純物濃度は、前記第3の層側よりも前記第1の層側の方が低い、炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記第1の不純物注入領域の不純物濃度は、前記第1の面に沿う方向において変化している、請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記絶縁膜と前記第3の層とが直接接触している、請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
第1の導電型を有する第1の層と、前記第1の層上に設けられ第2の導電型を有する第2の層と、前記第2の層上に設けられ第1の導電型を有する第3の層とを含む炭化珪素基板を準備する工程と、
前記炭化珪素基板に前記第3の層および前記第2の層を貫通して前記第1の層に至る側壁を有するトレンチを形成する工程とを備え、
前記側壁は面方位{0−33−8}を有する第1の面を含み、
前記トレンチを形成する工程では、前記側壁の前記第1の面において表出する前記第3の層から前記第1の層に至る第1の導電型を有する第1の不純物注入領域が形成され、
前記第2の層に対向する部分における前記第1の不純物注入領域の不純物濃度は、前記第3の層側よりも前記第1の層側の方が低い、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第1の不純物注入領域の不純物濃度を前記第1の面に沿う方向において変化させる、請求項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記第1の不純物注入領域は、前記トレンチよりも先に形成されている、請求項4または5に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素半導体装置およびその製造方法に関し、特に、炭化珪素半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素を材料として用いた半導体装置のうち、たとえばMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)など、所定の閾値電圧を境にチャネル領域における反転層の形成の有無をコントロールし、電流を導通および遮断する半導体装置においては、チャネル移動度の向上やオン抵抗の低減について種々の検討がなされている。
【0003】
特開平9−199724号公報には、<112−0>方向に延長されており、n+型ソース領域とp型炭化珪素半導体層とをともに貫通してn−型炭化珪素半導体層に達する溝の内壁に、エピタキシャル成長によりn型炭化珪素半導体薄膜層が形成された炭化珪素半導体装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−199724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特開平9−199724号公報に記載の炭化珪素半導体装置は、閾値電圧の低下やチャネル領域のパンチスルー破壊などの特性劣化といったいわゆる短チャネル効果の発生を抑制しながら高移動度を実現することが困難である。具体的には、n型炭化珪素半導体薄膜層はエピタキシャル成長により形成されるため、炭化珪素半導体装置において一定の不純物濃度を有することになる。そのため、p型炭化珪素半導体層の膜厚を薄くし、かつp型炭化珪素半導体層の不純物濃度を高めて短チャネル化を図った場合において、n型炭化珪素半導体薄膜層の全体を高濃度に形成した場合、短チャネル効果の発生を抑制することが困難である。一方、n型炭化珪素半導体薄膜層の全体を低濃度に形成した場合、n型炭化珪素半導体薄膜層を低抵抗することは困難であり、オン抵抗を低減することは困難である。つまり、いわゆる短チャネル効果の発生を抑制しながらチャネル抵抗を低減することができる高性能な炭化珪素半導体装置を得ることは困難であった。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものである。本発明の主たる目的は、高性能な炭化珪素半導体装置およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る炭化珪素半導体装置は、第1の導電型を有する第1の層と、第1の層上に設けられ第2の導電型を有する第2の層と、第2の層上に設けられ第1の導電型を有する第3の層とを含む炭化珪素基板を備える。炭化珪素基板には、第3の層および第2の層を貫通して第1の層に至る側壁を有するトレンチが設けられており、側壁は、面方位{0−33−8}を有する第1の面を含む。第1の面は絶縁膜に覆われており、側壁の第1の面において絶縁膜に接触し、第3の層から第1の層に至る第1の導電型を有する第1の不純物注入領域をさらに備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高性能な炭化珪素半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の断面図である。
図2】本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置のチャネル領域の不純物濃度分布を説明するための図である。
図3】本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法のフローチャートである。
図4】本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を説明するための断面図である。
図5】本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を説明するための断面図である。
図6】本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を説明するための断面図である。
図7】本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を説明するための断面図である。
図8】本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を説明するための断面図である。
図9】本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を説明するための断面図である。
図10】本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を説明するための断面図である。
図11】本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を説明するための断面図である。
図12】本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の変更例を説明するための断面図である。
図13】特殊面を有する側壁面の微視的構造を概略的に示す部分断面図である。
図14】ポリタイプ4Hの六方晶における(000−1)面の結晶構造を示す図である。
図15図14の線XV−XVに沿う(11−20)面の結晶構造を示す図である。
図16図13の複合面の表面近傍における結晶構造を(11−20)面内において示す図である。
図17図13の複合面を(01−10)面から見た図である。
図18】巨視的に見たチャネル面および(000−1)面の間の角度と、チャネル移動度との関係の一例を、熱エッチングが行われた場合と行われなかった場合との各々について示すグラフ図である。
図19】チャネル方向および<0−11−2>方向の間の角度と、チャネル移動度との関係の一例を示すグラフ図である。
図20図13の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。また、本明細書中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また結晶学上の指数が負であることは、通常、”−”(バー)を数字の上に付すことによって表現されるが、本明細書中では数字の前に負の符号を付している。
【0011】
はじめに、本発明の実施の形態の概要について説明する。
(1)第1の導電型を有する第1の層(ドリフト層2)と、第1の層(ドリフト層2)上に設けられ第2の導電型を有する第2の層(ボディ領域3)と、第2の層(ボディ領域3)上に設けられ第1の導電型を有する第3の層(ソース領域4)とを含む炭化珪素基板(エピタキシャル基板100)を備える。炭化珪素基板(エピタキシャル基板100)には、第3の層(ソース領域4)および第2の層(ボディ領域3)を貫通して第1の層(ドリフト層2)に至る側壁を有するトレンチが設けられており、側壁(側壁面SW)は、面方位{0−33−8}を有する第1の面(面S1)を含む。第1の面は絶縁膜(ゲート絶縁膜8)に覆われており、側壁(側壁面SW)の第1の面において絶縁膜(ゲート絶縁膜8)と接触し、第3の層(ソース領域4)から第1の層(ドリフト層2)に至る第1の導電型を有する第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)をさらに備える。
【0012】
このようにすれば、トレンチTRの側壁面SWおよび底面BTの各々を覆っている絶縁膜(ゲート絶縁膜8)の直下において、第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)と第2の層(ボディ領域3)とが接合しているため、ゲート電極9に閾値電圧以上の電圧が印加されていない状態では、第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)と第2の層(ボディ領域3)との接合部の境界面から第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)側に空乏層が拡がる。閾値電圧以上の電圧が印加されない場合には、伝導チャネルは形成されない。また、トレンチTRの側壁面SWは、特殊面を有しているため、絶縁膜(ゲート絶縁膜8)と第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)との界面における界面準位密度を低減することができるとともに、第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)に形成される伝導チャネルの移動度を高めることができる。
【0013】
(2)第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)の不純物濃度は、第1の面(面S1)に沿う方向において変化していてもよい。このようにすれば、第2の層(ボディ領域3)が炭化珪素基板(エピタキシャル基板100)の厚み方向において不純物濃度が一定に設けられている場合にも、第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)において、第2の層(ボディ領域3)との接合界面に形成される空乏層の拡がり方はチャネルの延びる方向に異なる。つまり、第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)は、空乏化しやすい領域と、不純物濃度が高い領域とを含むことができる。その結果、炭化珪素半導体装置200は、閾値電圧の低下やチャネル領域のパンチスルー破壊などの特性劣化といったいわゆる短チャネル効果の発生が抑制されるとともに、チャネル抵抗を低減することができる。
【0014】
(3)第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)の不純物濃度は、第3の層(ソース領域4)側よりも第1の層(ドリフト層2)側の方が低くてもよい。このようにすれば、第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)は、第1の導電型の不純物濃度が低い第1の層(ドリフト層2)側において、空乏化しやすく形成されている。その結果、炭化珪素半導体装置200は、閾値電圧の低下やチャネル領域のパンチスルー破壊などの特性劣化といったいわゆる短チャネル効果の発生が効果的に抑制される。
【0015】
(4)絶縁膜(ゲート絶縁膜8)と第3の層(ソース領域4)とが直接接触していてもよい。このようにすれば、炭化珪素半導体装置200は、n型チャネル領域7よりも不純物濃度の高いnソース領域4と、ゲート絶縁膜8とが直接接触する領域において、高濃度の伝導電子を生じさせることができる。さらに炭化珪素半導体装置200は、当該領域に生じた高濃度の伝導電子をn型チャネル領域7に流通させることができる。
【0016】
(5)第1の導電型を有する第1の層(ドリフト層2)と、第1の層(ドリフト層2)上に設けられ第2の導電型を有する第2の層(ボディ領域3)と、第2の層(ボディ領域3)上に設けられ第1の導電型を有する第3の層(ソース領域4)とを含む炭化珪素基板(エピタキシャル基板100)を準備する工程(S10)と、炭化珪素基板(エピタキシャル基板100)に第3の層(ソース領域4)および第2の層(ボディ領域3)を貫通して第1の層(ドリフト層2)に至る側壁を有するトレンチを形成する工程(S40)とを備える。側壁は面方位{0−33−8}を有する第1の面(面S1)を含む。トレンチTRを形成する工程(S40)では、側壁の第1の面(面S1)において表出する第3の層(ソース領域4)から第1の層(ドリフト層2)に至る第1の導電型を有する第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)が形成されている。
【0017】
工程(S40)において面方位{0−33−8}を有する第1の面(面S1)を含んでいる側壁面SW上に表出し、かつ第2の層(ボディ領域3)と接合している第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)をイオン注入法を用いて形成することができる。その結果、トレンチTRの側壁面SWを覆うように絶縁膜(ゲート絶縁膜8)を形成し、さらにゲート電極9を形成したときに、第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)は炭化珪素半導体装置200のチャネル領域として機能することができる。これにより、いわゆる短チャネル効果の発生が抑制されるとともに、チャネル抵抗を低減することができる高性能な炭化珪素半導体装置200を得ることができる。
【0018】
(6)第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)の不純物濃度を第1の面(面S1)に沿う方向において変化させてもよい。つまり、工程(S40)における注入条件を制御することにより、空乏化しやすい領域と、不純物濃度が高い領域とを含む第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)を容易に形成することができる。
【0019】
(7)第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)は、トレンチTRよりも先に形成されてもよい。つまり、まず第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)を形成する工程(S45)として、マスク膜16を用いてイオン注入してもよい。その後、トレンチを形成する工程(S46)を実施することにより、第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)を側壁面SW上に表出するように形成することができる。
【0020】
(8)第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)は、トレンチTRよりも後に形成されてもよい。このようにしても、側壁面SWの第1の面(面S1)において表出する第3の層(ソース領域4)から第1の層(ドリフト層2)に至る第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)が形成される領域に対応したマスク膜16を用いてイオン注入することにより、第1の不純物注入領域(n型チャネル領域7)を側壁面SW上に表出するように形成することができる。
【0021】
次に、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
まず、図1を参照して、本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の構造を説明する。本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置200は、縦型MOSFETとして構成されている。図1に示した炭化珪素半導体装置は、エピタキシャル基板100と、ゲート絶縁膜8と、ゲート電極9と、層間絶縁膜10と、ソース電極12と、ソース配線層13と、ドレイン電極14と、裏面保護電極15とを備える。エピタキシャル基板100は、ベース基板1と、ドリフト層2と、ボディ領域3(ボディ領域3)と、ソース領域4と、コンタクト領域5と、n型チャネル領域7とを備える。エピタキシャル基板100の上面の面方位は{0001}に対して0度よりも大きく8度よりも小さいオフ角を有している。
【0022】
ベース基板1は、結晶系が六方晶である単結晶炭化珪素からなり導電型がn型(第1導電型)である。ベース基板1は、たとえばN(窒素)などの不純物を高濃度で含んでいる。ベース基板1に含まれる窒素などの不純物濃度はたとえば1.0×1018cm−3程度である。
【0023】
ドリフト層2は、導電型がn型である。ドリフト層2はベース基板1上に形成されている、エピタキシャル層である。ドリフト層2は、たとえば窒素(N)などの不純物を含んでいる。ドリフト層2の不純物濃度は、ベース基板1の不純物濃度よりも低く、たとえば1×1015cm−3以上5×1016cm−3以下である。
【0024】
ボディ領域3は、導電型がp型(第2導電型)である。ボディ領域3はドリフト層2上に形成されている。ボディ領域3は、たとえばアルミニウム(Al)、ホウ素(B)などの不純物を含んでいる。ボディ領域3の不純物濃度は、1×1017cm−3以上5×1018cm−3以下であり、好ましくは1×1018cm−3である。ボディ領域3の厚みは、たとえば0.3μm以上1.2μm以下であり、好ましくは0.5μm程度である。
【0025】
ソース領域4は、導電型がn型である。ソース領域4はボディ領域3上に形成されている。ソース領域4は、たとえばNなどの不純物を含んでいる。ソース領域4の不純物濃度は、5×1018cm−3以上1×1020cm−3以下である。ソース領域4の厚みは、たとえば0.1μm以上0.4μm以下であり、好ましくは0.2μm程度である。
【0026】
コンタクト領域5は、導電型がp型である。コンタクト領域5は、ソース領域4を貫通してボディ領域3と接触するように形成されている。コンタクト領域5は、たとえばアルミニウム(Al)、ホウ素(B)などの不純物を含んでいる。
【0027】
トレンチTRは、エピタキシャル基板100の上面(ベース基板1に対して反対側の面)において、ソース領域4、ボディ領域3およびドリフト層2を部分的に除去することにより設けられている。トレンチTRは側壁面SWおよび底面BTを有している。側壁面SWはソース領域4およびボディ領域3を貫通してドリフト層2に至っている。底面BTはドリフト層2に位置している。底面BTは、エピタキシャル基板100の上面とほぼ平行な平坦な形状を有している。
【0028】
側壁面SWはエピタキシャル基板100の上面に対して傾斜しており、これによりトレンチTRは開口に向かってテーパ状に拡がっている。側壁面SWは、少なくともボディ領域3上において、所定の結晶面(特殊面とも称する)を有している。特殊面の詳細については後述する。
【0029】
n型チャネル領域7は、導電型はn型である。n型チャネル領域7は、トレンチTRの側壁面SWに沿うように、ソース領域4、ボディ領域3およびドリフト層2中に形成されている。つまり、本実施の形態においては、n型チャネル領域7は側壁面SWの全面に表出するように形成されている。n型チャネル領域7は底面BT上に表出するようには形成されていない。n型チャネル領域7に含まれるn型不純物は、たとえばP(リン)などである。n型チャネル領域7の不純物濃度は、ソース領域4の不純物濃度よりも低く、ドリフト層2の不純物濃度よりも高くなるように設けられている。n型チャネル領域7の不純物濃度は、ボディ領域3の不純物濃度よりも高く設けられており、好ましくはボディ領域3の不純物濃度の1.05倍以上として設けられている。たとえばn型チャネル領域7の不純物濃度は、5×1017cm−3以上1×1019cm−3以下であり、好ましくは5×1018cm−3である。
【0030】
図2に本実施の形態におけるn型チャネル領域7の不純物濃度の分布を示す。図2(a)は、ソース領域4、ボディ領域3およびドリフト層2と接するように形成されたn型チャネル領域7の概略断面図であり、図2(b)は図2(a)に示したn型チャネル領域7についてのトレンチTRの深さ方向(ソース領域4、ボディ領域3およびドリフト層2の積層方向)での不純物濃度分布を示すグラフである。図2を参照して、n型チャネル領域7の不純物濃度は、n型チャネル領域7内において側壁面SWに沿う方向において変化しており、好ましくはドリフト層2とボディ領域3との界面付近でのn型チャネル領域7の不純物濃度は、ボディ領域3とソース領域4との界面付近でのn型チャネル領域7の不純物濃度よりも低い。つまり、ドリフト層2とボディ領域3との界面付近でのn型チャネル領域7の不純物濃度は、たとえば5×1017cm−3以上1×1019cm−3以下である。ボディ領域3とソース領域4との界面付近でのn型チャネル領域7の不純物濃度は、たとえば5×1017cm−3以上1×1019cm−3以下である。このとき、ボディ領域3上に形成されたn型チャネル領域7の不純物濃度は、ドリフト層2とボディ領域3との界面付近でのn型チャネル領域7の不純物濃度から漸次増加して、ボディ領域3とソース領域4との界面付近でのn型チャネル領域7の不純物濃度に達するように設けられていればよい。本実施の形態においては、ソース領域4上に形成された(ボディ領域3とソース領域4との界面よりエピタキシャル基板100の上面側に位置する)n型チャネル領域7の不純物濃度は、ボディ領域3とソース領域4との界面付近でのn型チャネル領域7の不純物濃度よりも低く設けられている。
【0031】
ゲート絶縁膜8は、トレンチTRの側壁面SWおよび底面BTの各々を覆っている。つまり、ゲート絶縁膜8は、トレンチTRの側壁面SWにおいてn型チャネル領域7と直接接触して、これを覆っている。ゲート電極9はゲート絶縁膜8上に設けられている。ソース電極12は、ソース領域4およびpコンタクト領域5の各々に接している。ソース配線層13はソース電極12に接している。ソース配線層13は、たとえばアルミニウム層である。層間絶縁膜10はゲート電極9とソース配線層13との間を絶縁している。
【0032】
次に、図1に示した半導体装置の動作について簡単に説明する。図1を参照して、ゲート電極9に閾値以上の電圧が印加されない状態、すなわちオフ状態では、ゲート絶縁膜8直下であってボディ領域3上に設けられているn型チャネル領域7において伝導チャネルが形成されない。具体的には、ドリフト層2とボディ領域3との界面近傍において、オフ状態ではn型チャネル領域7とボディ領域3との接合部の境界面からn型チャネル領域7側に空乏層が拡がるため、非導通状態となる。一方、ゲート電極9に閾値電圧以上の正の電圧が印加されると、ボディ領域3上に設けられているn型チャネル領域7において蓄積層が形成される。その結果、ソース領域4とドリフト層2とが電気的に接続された状態となる。この結果、ソース電極12とドレイン電極14との間に電流が流れる。
【0033】
次に、図3図10を参照して、本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。
【0034】
まず、結晶系が六法晶である単結晶炭化珪素からなるベース基板1が準備される(工程(S10))。次に、図4を参照して、ベース基板1上における炭化珪素のエピタキシャル成長によってドリフト層2が形成される(工程(S20))。ベース基板1の、エピタキシャル成長が行われる面は、{000−1}面から8度以内のオフ角を有することが好ましく、(000−1)面から8度以内のオフ角を有することがより好ましい。エピタキシャル成長はCVD法により行われ得る。原料ガスとしては、たとえば、シラン(SiH)とプロパン(C)との混合ガスを用い得る。この際、不純物として、たとえば窒素(N)やリン(P)を導入することが好ましい。
【0035】
次に、図5を参照して、ドリフト層2上にボディ領域3およびソース領域4が形成される(工程(S30))。これらの形成は、たとえばドリフト層2の上面2A上へのイオン注入により行い得る。ボディ領域3を形成するためのイオン注入においては、たとえばアルミニウム(Al)などの、p型を付与するための不純物がイオン注入される。またソース領域4を形成するためのイオン注入においては、たとえばリン(P)などの、n型を付与するための不純物がイオン注入される。なおイオン注入に代わり、不純物の添加をともなうにエピタキシャル成長が用いられてもよい。さらに、ドリフト層2、ボディ領域3およびソース領域4上にコンタクト領域5が形成される。具体的には、ソース領域4上にコンタクト領域5が形成されることになる位置に対応した開口部を有するマスク膜が形成され、該マスク膜を用いてソース領域4の上面にたとえばAlなどのp型不純物がイオン注入される。マスク膜はたとえば二酸化珪素(SiO)からなる。コンタクト領域5が形成された後、マスク膜は除去される。
【0036】
次に、図6図8を参照して、トレンチTRが形成される(工程(S40))。具体的には、トレンチTRを形成するとともに、n型チャネル領域7を形成する。本実施の形態においては、まず、図6を参照して、n型チャネル領域7が形成される(工程(S45))。具体的には、まずソース領域4上に、後の工程(S46)においてトレンチTRの底面BTが形成されることになる位置に対応した開口部を有するマスク膜16が形成される。マスク膜16の開口部は、トレンチTRの底面BTと比べてトレンチTRの側壁面SWが形成されることになる側に広く形成されている。マスク膜16の開口部は壁面16wで規定される。マスク膜16の材質、膜厚、および壁面16Wの形状(上面2Aに対する傾斜角など)は、本工程(S40)においてマスク膜16を介してイオン注入が所定の注入条件(注入エネルギーなど)で行われたときに、n型チャネル領域7が側壁面SWに沿って形成されるように設けられる。n型チャネル領域7が形成されない位置を覆うマスク膜16の膜厚は、ソース領域4へのイオン注入を阻止できる十分な厚さを有していればよい。
【0037】
本工程(S45)では、次に、マスク膜16を用いて上面2Aに対してn型不純物が注入される。本実施の形態においては、注入方向は上面2Aに対して垂直な方向である。上面2A上においてマスク膜16の壁面16wが形成されている位置では、マスク膜16の壁面16wを介してn型不純物が注入される。本工程(S45)におけるn型不純物の注入エネルギーは、たとえば100keV以上500keV以下程度である。注入エネルギーが100keV未満である場合には、n型チャネル領域7をソース領域4、ボディ領域3およびドリフト層2中に渡って形成することは困難である。一方、上記注入エネルギーが500keV超えである場合には、後の工程(S46)においてトレンチTRの底面BTが形成されることになるドリフト層2上の位置よりも、上面2Aからの深さが深い領域にまで不純物が注入されるおそれがある。
【0038】
このとき、注入エネルギーとドーズ量などの注入条件を制御することにより、n型チャネル領域7は、不純物濃度が後の工程(S46)にて形成される側壁面SWに沿う方向において変化するように形成される。好ましくはドリフト層2とボディ領域3との界面付近でのn型チャネル領域7の不純物濃度が、ボディ領域3とソース領域4との界面付近でのn型チャネル領域7の不純物濃度よりも低く設けられる。このようにして、ベース基板1と、ドリフト層2と、ボディ領域3と、ソース領域4と、コンタクト領域5と、n型チャネル領域7とを備えるエピタキシャル基板100が形成される。
【0039】
次に、図7および図8を参照して、トレンチTRが形成される(工程(S46))。具体的には、図7を参照して、まず図16に示したマスク膜16を除去した後、ソース領域4の上部表面上にマスク層17を形成する。マスク層17として、たとえばSiOなどの絶縁膜を用いることができる。マスク層17の形成方法は、たとえばCVD法などを用いて絶縁膜を形成する。マスク層17の膜厚は、本工程(S46)におけるエッチング条件に曝されたときに確実に残存することができる任意の厚さとすればよい。次に、絶縁膜上にフォトリソグラフィ法を用いて、トレンチTRの底面BTが形成されるべき領域に開口部を有するレジスト膜(図示せず)を形成する。このレジスト膜をマスクとして用いて、レジスト膜の開口部から露出した絶縁膜を除去することにより、絶縁膜に開口パターンを形成する。その後レジスト膜を除去する。この結果、図7に示したトレンチTRの底面BTが形成されるべき領域に開口部を有するマスク層17が形成される。
【0040】
次に、図7を参照して、マスク層17をマスクとして用いて、n型チャネル領域7の一部がエッチングにより除去される。エッチングの方法としてはたとえば反応性イオンエッチング(RIE)、特に誘導結合プラズマ(ICP)RIEを用いることができる。具体的には、たとえば反応ガスとしてSFまたはSFとOとの混合ガスを用いたICP−RIEを用いることができる。このようなエッチングにより、トレンチTRが形成されるべき領域に、エピタキシャル基板100の上面2A(ソース領域4の上面)に対してほぼ垂直な側壁を有する溝が形成される。このようにして、図7に示す構造を得る。
【0041】
次に、図8を参照して、マスク層17をマスクとして用いて、n型チャネル領域7の一部が熱エッチングによりさらに除去される。熱エッチングは、たとえば、少なくとも1種類以上のハロゲン原子を有する反応性ガスを含む雰囲気中で、基板を加熱することによって行い得る。少なくとも1種類以上のハロゲン原子は、塩素(Cl)原子およびフッ素(F)原子の少なくともいずれかを含む。この雰囲気は、たとえば、Cl、BCL、SF、またはCFである。たとえば、塩素ガスと酸素ガスとの混合ガスを反応ガスとして用い、熱処理温度を、たとえば700℃以上1000℃以下として、熱エッチングが行われる。これにより、側壁面SWを有しているトレンチTRが形成される。側壁面SWはエピタキシャル基板100の上面に対して傾斜しており、側壁面SWの全面においてn型チャネル領域7が表出している。好ましくは、ボディ領域3上に設けられているn型チャネル領域7上において、側壁面SWは所定の結晶面(特殊面とも称する)を含んでいる。具体的には、側壁面SWは面方位{0−33−8}を有する面を含んでいる。図9を参照して、マスク層17は、図8に示す構造を得た後、任意の方法によって除去される。
【0042】
次に、エピタキシャル基板100に注入された不純物を活性化するための活性化アニールが行われる(工程(S50))。具体的には、たとえばアルゴン(Ar)などの不活性ガス雰囲気中において、エピタキシャル基板100をたとえば1700℃程度に加熱して、30分間程度保持する熱処理が実施される。これにより、エピタキシャル基板100に注入された不純物が活性化する。
【0043】
次に、図10を参照して、ゲート絶縁膜が形成される(工程(S60))。具体的には、トレンチTRの側壁面SWおよび底面BT、ならびにエピタキシャル基板100の上面を覆うようにゲート絶縁膜8が形成される。ゲート絶縁膜8は、たとえば熱酸化により形成され得る。
【0044】
次に、図11を参照して、ゲート電極9が形成される(工程(S70))。具体的には、トレンチTRの内部の領域(側壁面SWおよび底面BTで囲われた領域)をゲート絶縁膜8を介して埋めるようにゲート電極9が形成される。まず、ゲート絶縁膜8上においてゲート電極となるべき導電体膜を、スパッタリング法などを用いて形成する。導電体膜の材料としては導電性を有する材料であれば金属など任意の材料を用いることができる。その後、エッチバックあるいはCMP法など任意の方法を用いて、トレンチTRの内部以外の領域に形成された導電体膜の部分を除去する。このようにして、図11に示す構造を得る。
【0045】
次に、図12を参照して、層間絶縁膜10が形成される(工程(S80))。具体的には、まず、ゲート電極9の上部表面を覆うように、ゲート絶縁膜8およびゲート電極9上に層間絶縁膜10が形成される。層間絶縁膜10を構成する材料は、絶縁性を有する材料であれば任意の材料とすればよい。次に、層間絶縁膜10上に、p型のコンタクト領域5上に開口部を有するレジスト膜(図示しない)が形成される。該レジスト膜をマスクとして用いて、層間絶縁膜10およびゲート絶縁膜8を部分的にエッチングにより除去する。この結果、層間絶縁膜10およびゲート絶縁膜8には、p型のコンタクト領域5およびソース領域4の一部が露出した開口部が形成される。
【0046】
次に、オーミック電極(ソース電極12およびドレイン電極14)が形成される(工程(S90))。具体的には、まず、ソース電極12が、先の工程(S80)において形成したレジスト膜を用いたリフトオフ法により形成される。ソース電極12はp型のコンタクト領域5およびソース領域4と接するように形成される。さらに、ドレイン電極14が、ベース基板1においてエピタキシャル基板100の下面(トレンチTRが形成されている面とは反対側の表面)上に形成される。
【0047】
次に、パッド電極(図示しない)や各電極と電気的に接続された配線(図示しない)が形成される(工程(S100))。以上の手順により、本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置200を得ることができる。
【0048】
次に、本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置200およびその製造方法の作用効果について説明する。
【0049】
本実施の形態に係る炭化珪素半導体装置200では、n型チャネル領域7が、ソース領域4およびボディ領域3を貫通してドリフト層2に至るように形成されているトレンチTRの側壁面SWの全面に表出するように形成されている。つまり、トレンチTRの側壁面SWおよび底面BTの各々を覆っているゲート絶縁膜8の直下において、n型チャネル領域7とボディ領域3とが接合している。そのため、ゲート電極9に閾値電圧以上の電圧が印加されていない状態では、上述のように、n型チャネル領域7とボディ領域3との接合部の境界面からn型チャネル領域7側に空乏層が拡がっており、n型チャネル領域7において伝導チャネルが形成されない。一方、ゲート電極9に閾値電圧以上の電圧が印加されている状態では、ボディ領域3上に設けられているn型チャネル領域7には蓄積層が形成されることにより、n型チャネル領域7において伝導チャネルが形成される。
【0050】
さらに、トレンチTRの側壁面SWは、特殊面を有している。そのため、ゲート絶縁膜8とn型チャネル領域7との界面における界面準位密度を低減することができるとともに、n型チャネル領域7に形成される伝導チャネルの移動度を高めることができる。
【0051】
また、n型チャネル領域7はイオン注入により形成されるため、注入条件を制御することによりn型チャネル領域7の不純物濃度分布を制御することができる。そのため、ドリフト層2とボディ領域3との界面付近でのn型チャネル領域7の不純物濃度がボディ領域3とソース領域4との界面付近でのn型チャネル領域7の不純物濃度よりも低く設けることができる。この場合には、ドリフト層2とボディ領域3との界面付近において、オフ状態時にn型チャネル領域7とボディ領域3との接合部の境界面において生じる空乏層がn型チャネル領域7側により拡がる。その結果、ボディ領域3が薄く形成されている場合にも短チャネル効果をより効果的に抑制することができる。また、n型チャネル領域7の不純物濃度を低くすることにより、閾値電圧を高くすることができる。つまり、n型チャネル領域7の不純物濃度を制御することにより、閾値電圧を制御することができる。さらにこの場合には、ボディ領域3とソース領域4との界面付近でのn型チャネル領域7の不純物濃度は、たとえば5×1018cm−3以上1×1019−3以下程度と高く設けられていてもよい。このようにすれば、ゲート電極9に閾値電圧以上の電圧が印加されて、ゲート絶縁膜8直下であってボディ領域3上に設けられているn型チャネル領域7において伝導チャネルが形成された場合に、チャネル抵抗を低減することができ、オン抵抗を低減することができる。
【0052】
なお、本実施の形態において、n型チャネル領域7は、側壁面SWの全面に表出するように形成されていたが、これに限られるものではない。n型チャネル領域7は、少なくともボディ領域3中に形成されているn型チャネル領域7上の部分において形成されていればよい。たとえば、図11を参照して、n型チャネル領域7は、ドレイン電極14側においてドリフト層2に接するように形成されていてもよく、好ましくはドリフト層2内に相対的に長い距離だけ延在しない。このようにすれば、炭化珪素半導体装置200内における電流経路として、n型チャネル領域7よりも不純物濃度が低く高移動度を示すドリフト層2をより積極的に利用することができる。その結果、炭化珪素半導体装置200のチャネル移動度をさらに向上することができる。また、図11を参照して、n型チャネル領域7は、ソース電極12側においても、nソース領域4に接するように形成されていてもよい。この場合、n型チャネル領域7よりも不純物濃度の高いnソース領域4と、ゲート絶縁膜8とが直接接触する領域が形成されるため、当該領域に生じる高濃度の伝導電子をn型チャネル領域7に流通させることができる。
【0053】
本実施の形態において、n型チャネル領域7を形成する工程(S45)の後にトレンチTRを形成する工程(S46)を行っているが、これに限られるものではない。たとえば、トレンチTRを形成した後、トレンチTRの側壁面SWに対してイオン注入を行うことにより、n型チャネル領域7を形成してもよい。
【0054】
次に、上述した「特殊面」について詳しく説明する。上述したように、トレンチTRの側壁面SWは特殊面を有している。
【0055】
図13に示すように、特殊面を有する側壁面SWは、面S1を含む。面S1は面方位{0−33−8}を有し、好ましくは面方位(0−33−8)を有する。好ましくは側壁面SWは面S1を微視的に含む。好ましくは側壁面SWはさらに面S2(第2の面)を微視的に含む。面S2は面方位{0−11−1}を有し、好ましくは面方位(0−11−1)を有する。ここで「微視的」とは、原子間隔の2倍程度の寸法を少なくとも考慮する程度に詳細に、ということを意味する。このように微視的な構造の観察方法としては、たとえばTEM(Transmission Electron Microscope)を用いることができる。
【0056】
好ましくは側壁面SWは複合面SRを有する。複合面SRは、面S1およびS2が周期的に繰り返されることによって構成されている。このような周期的構造は、たとえば、TEMまたはAFM(Atomic Force Microscopy)により観察し得る。複合面SRは面方位{0−11−2}を有し、好ましくは面方位(0−11−2)を有する。この場合、複合面SRは{000−1}面に対して巨視的に62°のオフ角を有する。ここで「巨視的」とは、原子間隔程度の寸法を有する微細構造を無視することを意味する。このように巨視的なオフ角の測定としては、たとえば、一般的なX線回折を用いた方法を用い得る。好ましくは、チャネル面上においてキャリアが流れる方向であるチャネル方向CDは、上述した周期的繰り返しが行われる方向に沿っている。次に、複合面SRの詳細な構造について説明する。
【0057】
一般に、ポリタイプ4Hの炭化珪素単結晶を(000−1)面から見ると、図14に示すように、Si原子(またはC原子)は、A層の原子(図中の実線)と、この下に位置するB層の原子(図中の破線)と、この下に位置するC層の原子(図中の一点鎖線)と、この下に位置するB層の原子(図示せず)とが繰り返し設けられている。つまり4つの層ABCBを1周期としてABCBABCBABCB・・・のような周期的な積層構造が設けられている。
【0058】
図15に示すように、(11−20)面(図14の線XV−XVの断面)において、上述した1周期を構成する4つの層ABCBの各層の原子は、(0−11−2)面に完全に沿うようには配列されていない。図15においてはB層の原子の位置を通るように(0−11−2)面が示されており、この場合、A層およびC層の各々の原子は(0−11−2)面からずれていることがわかる。このため、炭化珪素単結晶の表面の巨視的な面方位、すなわち原子レベルの構造を無視した場合の面方位が(0−11−2)に限定されたとしても、この表面は、微視的には様々な構造をとり得る。
【0059】
図16に示すように、複合面SRは、面方位(0−33−8)を有する面S1と、面S1につながりかつ面S1の面方位と異なる面方位を有する面S2とが交互に設けられることによって構成されている。面S1および面S2の各々の長さは、Si原子(またはC原子)の原子間隔の2倍である。なお面S1および面S2が平均化された面は、(0−11−2)面(図15)に対応する。
【0060】
図17に示すように、複合面SRを(01−10)面から見て単結晶構造は、部分的に見て立方晶と等価な構造(面S1の部分)を周期的に含んでいる。具体的には複合面SRは、上述した立方晶と等価な構造における面方位(001)を有する面S1と、面S1につながりかつ面S1の面方位と異なる面方位を有する面S2とが交互に設けられることによって構成されている。このように、立方晶と等価な構造における面方位(001)を有する面(図17においては面S1)と、この面につながりかつこの面方位と異なる面方位を有する面(図17においては面S2)とによって表面を構成することは4H以外のポリタイプにおいても可能である。ポリタイプは、たとえば6Hまたは15Rであってもよい。
【0061】
次に図18を参照して、側壁面SWの結晶面と、チャネル面の移動度MBとの関係について説明する。図18のグラフにおいて、横軸は、チャネル面を有する側壁面SWの巨視的な面方位と(000−1)面とのなす角度D1を示し、縦軸は移動度MBを示す。プロット群CMは側壁面SWが熱エッチングによる特殊面として仕上げられた場合に対応し、プロット群MCはそのような熱エッチングがなされない場合に対応する。
【0062】
プロット群MCにおける移動度MBは、チャネル面の表面の巨視的な面方位が(0−33−8)のときに最大となった。この理由は、熱エッチングが行われない場合、すなわち、チャネル表面の微視的な構造が特に制御されない場合においては、巨視的な面方位が(0−33−8)とされることによって、微視的な面方位(0−33−8)、つまり原子レベルまで考慮した場合の面方位(0−33−8)が形成される割合が確率的に高くなったためと考えられる。
【0063】
一方、プロット群CMにおける移動度MBは、チャネル面の表面の巨視的な面方位が(0−11−2)のとき(矢印EX)に最大となった。この理由は、図16および図17に示すように、面方位(0−33−8)を有する多数の面S1が面S2を介して規則正しく稠密に配置されることで、チャネル面の表面において微視的な面方位(0−33−8)が占める割合が高くなったためと考えられる。
【0064】
なお移動度MBは複合面SR上において方位依存性を有する。図19に示すグラフにおいて、横軸はチャネル方向と<0−11−2>方向との間の角度D2を示し、縦軸はチャネル面の移動度MB(任意単位)を示す。破線はグラフを見やすくするために補助的に付してある。このグラフから、チャネル移動度MBを大きくするには、チャネル方向CD(図13)が有する角度D2は、0°以上60°以下であることが好ましく、ほぼ0°であることがより好ましいことがわかった。
【0065】
図20に示すように、側壁面SWは複合面SR(図20においては直線で単純化されて示されている。)に加えてさらに面S3(第3の面)を含んでもよい。この場合、側壁面SWの{000−1}面に対するオフ角は、理想的な複合面SRのオフ角である62°からずれる。このずれは小さいことが好ましく、±10°の範囲内であることが好ましい。このような角度範囲に含まれる表面としては、たとえば、巨視的な面方位が{0−33−8}面となる表面がある。より好ましくは、側壁面SWの(000−1)面に対するオフ角は、理想的な複合面SRのオフ角である62°からずれる。このずれは小さいことが好ましく、±10°の範囲内であることが好ましい。このような角度範囲に含まれる表面としては、たとえば、巨視的な面方位が(0−33−8)面となる表面がある。
【0066】
より具体的には側壁面SWは、面S3および複合面SRが周期的に繰り返されることによって構成された複合面SQを含んでもよい。このような周期的構造は、たとえば、TEMまたはAFM(Atomic Force Microscopy)により観察し得る。
【0067】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 ベース基板、2 ドリフト層、2A 上面、3 ボディ領域、4 ソース領域、5 コンタクト領域、7 n型チャネル領域、8 ゲート絶縁膜、9 ゲート電極、10 層間絶縁膜、12 ソース電極、13 ソース配線層、14 ドレイン電極、16 マスク膜、16w 壁面、17 マスク層、100 エピタキシャル基板、200 炭化珪素半導体装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20