(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
レーザー光を対象物に照射し、対象物によって反射されたレーザー光を受光して解析することにより、対象物の距離および速度を測定するレーダ装置(LIDAR)が従来知られている。
【0003】
そのようなレーダ装置を車両に搭載して、歩行者や前方車両などの対象物の距離、速度を検出し、対象物との衝突回避などに利用することが進められている。その場合、速度の方向(対象物が車両に近づきつつあるのか、それとも離れつつあるのか)は非常に重要な情報となる。
【0004】
速度を求める方法としてはドップラー周波数fdを測定する方法がある。そして速度の方向を測定するには、ドップラー周波数fdの正負を測定する必要がある。従来はこれを測定するためにAOM(音響光学変調器)を用いてレーザー光をFSK変調することが行われている。
【0005】
たとえば特許文献1では、以下のようにしてドップラー周波数fdの正負を測定している。周波数f0のレーザー光をFSK変調し、f0+f1、f0+f2に周波数を変調する。そして、その周波数変調されたレーザー光を対象物に照射し、対象物からの反射光を受光する。受光したレーザー光とローカル光とを合波して光ヘテロダイン検波し、周波数がfd+f1、fd+f2の2値をとる電気信号に変換する。次に、周波数(f1+f2)/2の信号と乗算し、(f2−f1)/2−fdと(f2−f1)/2+fdの2値をとる信号に変換する。さらに、周波数(f2−f1)/2の信号で直交検波することにより、fdと−fdのIQ信号を得る。そして、そのIQ信号をFFT(高速フーリエ変換)して周波数スペクトルを算出し、ドップラー周波数fdを求める。ここで、直交検波しているためドップラー周波数fdは正負を測定することができ、その正負によって速度の方向を測定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、AOMは高価であり、レーダ装置が高コストとなる問題があった。また、AOMは表面弾性波を利用するため、集積化が困難であり、レーダ装置の低コスト化や小型化が困難であった。
【0008】
そこで本発明は、安価に速度の方向を測定することができるレーダ装置を実現することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、対象物にレーザー光を照射し、対象物によって反射されたレーザー光を検出して解析する
車載用のレーダ装置において、
対象物の運動によるドップラー周波数fdの測定可能な最小値よりも小さな周波数f0の周期信号で強度変調されたレーザー光を対象物に照射する送信手段と、受信したレーザー光と送信前のレーザー光とを合波して光ヘテロダイン検波する第1検波手段と、受信したレーザー光と送信前のレーザー光のうち一方の位相を90°シフトして他方と合波し、光ヘテロダイン検波する第2検波手段とを有した検波手段と、第1検波手段と第2検波手段から出力される電気信号をI信号、Q信号とする複素信号として、その複素信号を周波数解析してドップラー周波数fdを求め、そのドップラー周波数fdの正負から対象物の速度の方向を測定する周波数解析手段と、
検波手段からの電気信号のうち、周波数f0近傍の帯域を通過させるBPFを有し、BPFからの信号の周波数f0の成分と周期信号との位相差を検出し、対象物までの距離を測定する位相差検出手段と、を有し、検波手段
および送信手段は、光集積回路により構成され、光集積回路は、SiO
2 基板上に線路状にSiが形成された光導波路と、第1検波手段である第1フォトダイオードと、第2検波手段であるπ/2移相器および第2フォトダイオードと、
送信手段における強度変調の手段であるリングモジュレータと、レーザー光を受信する偏光補正回折格子と、偏光補正回折格子からの光のうちレーザー光の波長近傍の帯域を透過させる光BPFであるリング共振器とを有し、π/2移相器は、光導波路とヒータとを有
し、
レーザー光の波長は800〜1700nmであり、周期信号は、余弦波であり、その周波数f0は50kHz以上500kHz以下である、ことを特徴とするレーダ装置である。
【0010】
レーダ装置の構成のうち、レーザー光を処理する部分は、光集積回路により構成してもよい。本発明のレーダ装置をより安価に実現することができる。
【0011】
レーダ装置は、距離を測定する手段をさらに有していてもよい。
【0012】
たとえば、対象物の運動によるドップラー周波数fdの測定可能な最小値よりも小さな周波数f0の周期信号で強度変調されたレーザー光を対象物に照射する送信手段と、検波手段からの電気信号の周波数f0の成分と周期信号との位相差を検出し、対象物までの距離を測定する位相差検出手段と、をさらに設けてもよい。
【0013】
また、たとえば、周波数が連続的に変化するよう周波数変調されたレーザー光を対象物に照射する送信手段をさらに有し、周波数解析手段は、第1検波手段と第2検波手段から出力される電気信号をI信号、Q信号とする複素信号として、その複素信号を周波数解析して、対象物までの距離に応じた周波数のシフトを測定することにより、対象物までの距離を測定する手段をさらに有するようにしてもよい。
【0014】
本発明の他の1つは、対象物にレーザー光を照射し、対象物によって反射されたレーザー光を検出して解析することにより、対象物の速度の方向を測定する速度の方向測定方法において、受信したレーザー光と送信前のレーザー光とを合波して光ヘテロダイン検波することでI信号を生成し、受信したレーザー光と送信前のレーザー光のうち一方の位相を90°シフトして他方と合波して光ヘテロダイン検波することでQ信号を生成し、I信号とQ信号からなる複素信号を周波数解析してドップラー周波数fdを求め、そのドップラー周波数fdの正負から対象物の速度の方向を測定する、ことを特徴とする速度の方向測定方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安価かつ簡易に対象物の速度の方向を測定することができる。また、本発明は光ヘテロダイン検波を用いるため、高感度に測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
図1は、実施例1のレーダ装置の構成を示した図である。
図1中、二重線の矢印はレーザー光の経路を示し、一重線の矢印は電気信号の経路を示している。実施例1のレーダ装置は、
図1に示すように、レーザー10、送信手段11、受信手段12、合波器13A、B、π/2移相器14、光検出器15A、B、ADC(アナログ−デジタル変換回路)16A、B、BPF(バンドパスフィルタ)17A、B、周波数解析手段18、によって構成されている。以下、各構成要素について詳しく説明する。
【0019】
レーザー10は、波長1550nmの連続光であるレーザー光を放射する。レーザー10から出力されるレーザー光は、2つに分配され、一方は合波器13Aに入力され、他方はπ/2移相器14に入力される。
【0020】
レーザー光の波長は1550nmに限らないが、測定精度、発生の容易さ、人体への影響などを考慮して800〜1700nmの範囲とすることが望ましい。
【0021】
送信手段11は、レーザー10からのレーザー光を対象物に照射する光学系であり、レーザー光を所定の方向に導く光導波路やレンズなどによって構成されている。
【0022】
受信手段12は、対象物によって反射されたレーザー光を集光して受光する光学系であり、光導波路、集光レンズ、受光したレーザー光の偏光状態を補正する回路などによって構成されている。受光したレーザー光は、光BPF15を通過した後、分配されて合波器13A、Bにそれぞれ入力される。光BPF15は外乱光などをカットしてCN比を改善し、測定精度を向上させるために設けるものである。
【0023】
なお、送信手段11と受信手段12は、光サーキュレータなどを用いることで送信と受信を共用する送受信手段としてもよい。
【0024】
合波器13Aには、レーザー10からのレーザー光と、受信手段12からのレーザー光が入力される。合波器13Aはこの2つのレーザー光を合波して光検出器15Aに出力する。
【0025】
π/2移相器14は、レーザー10から入力されたレーザ光の位相を90°ずらして出力する。
【0026】
合波器13Bには、π/2移相器14からのレーザー光と、受信手段12からのレーザー光が入力される。合波器13Bは、この2つのレーザー光を合波して光検出器15Bに出力する。
【0027】
光検出器15A、Bには、合波器13A、Bからのレーザー光がそれぞれ入力される。光検出器15A、Bは、入力されたレーザー光を光ヘテロダイン検波して電気信号に変換し出力する。光検出器15A、Bはフォトダイオードである。光検出器15A、Bからの出力はADC16A、Bにそれぞれ入力される。
【0028】
ADC16A、Bは、光検出器15A、Bからのアナログ信号をデジタル信号に変換して出力する。ADC16A、Bから出力されるデジタル信号はBPF17A、Bを介して周波数解析手段18に入力される。
【0029】
BPF17A、Bは、ドップラー周波数近傍の周波数帯域を通過させ、他の帯域は遮断するフィルタである。これにより、周波数解析手段18におけるドップラー周波数の算出精度を向上させ、対象物の速度の測定精度を向上させている。
【0030】
周波数解析手段18は、入力された電気信号をFFT(高速フーリエ変換)する。そして、得られた周波数スペクトルからドップラー周波数を検出し、対象物の速度およびその向きを測定する。その詳細については後述する。BPF17A、Bおよび周波数解析手段18は、たとえばDSP(デジタルシグナルプロセッサ)によって実現される。
【0031】
次に、実施例1のレーダ装置によって対象物の速度およびその方向を測定する動作について詳細に説明する。
【0032】
レーザー10から出力されたレーザー光は、送信手段11によってレーザー装置の外部の対象物に照射される。そして、対象物によって反射されたレーザー光は、受信手段12によって受光される。ここで、対象物がレーザー装置に対して相対速度vで運動している場合、受光したレーザー光は、ドップラー効果によって周波数がシフトしている。ドップラー周波数をfdとし、ωd=2π・fdとすれば、v=c・ωd/(2ω)、である。ここでcは光速、ωはレーザー光の角周波数である。なお、ωdの正負は、対象物がレーダ装置に近づく方向を正、遠ざかる方向を負にとる。
【0033】
受信手段14によって受光したレーザー光は、合波器13A、B、光検出器15A、Bによって直交光ヘテロダイン検波される。すなわち、レーザー10からのレーザー光と受信手段12からのレーザー光とを合波して光ヘテロダイン検波することで、光検出器15Aはcos(ωd・t)の成分を含む電気信号であるI信号を生成して出力する。また、レーザー10からのレーザー光を90°移相して受信手段12からのレーザー光と合波して光ヘテロダイン検波することで、光検出器15Bはsin(ωd・t)の成分を含む電気信号であるQ信号を生成し出力する。光ヘテロダイン検波を用いるため、高感度に対象物の速度および方向を求めることができる。
【0034】
このI信号、Q信号は、ADC16A、Bによってデジタル信号に変換された後、BPF17A、Bによって所定の周波数成分のみが通過され、周波数解析手段18に入力される。
【0035】
周波数解析手段18では、I信号を実部、Q信号を虚部とする複素信号と見て、その複素信号をFFT(高速フーリエ変換)して周波数スペクトルを求める。実信号をFTTする場合には、周波数0でスペクトルが折り返されて周波数の正負を区別することはできない(
図2(a)参照)。しかし、周波数解析手段18は複素信号をFFTするため、得られる周波数スペクトルは、周波数が負の領域についても折り返しがなく算出されている(
図2(b)参照)。したがって、得られる周波数スペクトルからドップラー周波数fdの正負の判定が可能である。
【0036】
周波数解析手段18によって得られた周波数スペクトルから、以下のようにして対象物の速度およびその方向を求める。まず、周波数スペクトルのピーク位置を検出する。そして周波数スペクトルのピーク位置からドップラー周波数fdが求められ、v=λ・fd/2、ここでλはレーザー光の波長、によって対象物の速さvが算出される。また、ドップラー周波数fdの正負によって、対象物の速度の向きがわかる。ドップラー周波数fdが正の場合、対象物の速度の向きは、レーダ装置に近づいてくる方向であり、ドップラー周波数fdが負の場合、レーダ装置から遠ざかる方向である。
【0037】
以上、実施例1のレーダ装置によれば、対象物の速度の向きを簡易かつ高感度に測定することができる。
【実施例2】
【0038】
図3は、実施例2のレーダ装置の構成を示した図である。実施例2のレーダ装置は、実施例1のレーダ装置において、以下の構成を加えたものである。
【0039】
図3のように、実施例2のレーダ装置は、実施例1のレーダ装置に発振器110と、変調器120と、BPF180と、位相差検出手段200とを加え、対象物の速度だけでなく距離も測定可能としたものである。以下、実施例1と異なる構成部分について説明するとともに、実施例2のレーダ装置の動作について説明する。
【0040】
発振器110は、周波数100kHzの余弦波である周期信号を発生させる。この周期信号は、変調器120と位相差検出手段200に入力される。
【0041】
発振器110の出力する周期信号は余弦波である必要はなく、周期信号であれば任意の信号でよい。たとえば三角波、矩形波、ノコギリ波などの周期性を有する任意の信号を用いることができる。ただし、測定の感度を高め、測定精度の向上を図るために余弦波を用いることが好ましい。後段のBPF180において電気信号の周波数帯域をより絞ることができるからである。
【0042】
周期信号の周波数は、レーダ装置によって測定を予定している対象物の速度によって決める。詳細には、周期信号の周波数は、対象物の運動によって生じるドップラー周波数fdよりも十分に低い値に設定する。十分に低い値とは、周期信号の周波数とドップラー周波数fdとをフィルタによって分離可能な程度である。このように周期信号の周波数を設定することで、距離と速度の同時測定を容易に可能としている。
【0043】
たとえば、レーダ装置を車両に搭載して車載レーダとして用いる場合、対象物は歩行者や前方車両などである。それらの車両に対する相対速度(レーダ装置に対する相対速度v)は、およそ0.5m/s〜50m/sであるから、ドップラー周波数fdはfd=2v/λ、ここでλはレーザー光の波長、より0.65〜65MHzである。したがって、周期信号の周波数は650kHzより十分に低い値、たとえば500kHz以下であればよい。ただし、50kHzよりも小さいと、測定精度が悪化してしまい望ましくない。実施例1では、上記範囲とレーザーの線幅を考慮して100kHzに設定している。
【0044】
変調器120は、レーザー光を発振器110からの周期信号で強度変調して出力する。その出力されたレーザー光は送信手段11に入力される。レーザー10からのレーザー光は、変調器120、合波器13A、π/2移相器14にそれぞれ入力される。変調器120は、レーザー10からのレーザー光と、発振器11からの周期信号が入力される。
【0045】
実施例1のレーダ装置と同様に、受信手段12によって受信したレーザー光は、合波器13A、Bにそれぞれ入力され、直交光ヘテロダイン検波され、光検出器15A、BからはI信号とQ信号が出力される。ただし、このI信号、Q信号は、実施例1の場合とは異なり、ドップラー周波数fdの周波数成分のみならず、周期信号の周波数成分も含む。
【0046】
光検出器15AからのI信号は、ADC16Aによってアナログ信号からデジタル信号に変換された後2つに分配され、一方はBPF180に、他方はBPF17Aに入力される。
【0047】
BPF180は、入力された電気信号について、周期信号の周波数近傍、すなわち100kHz近傍(たとえば90〜110kHz)の周波数帯域は通過させ、それ以外の帯域については遮断して出力するフィルタである。BPF180を通過したI信号は位相差検出手段200に入力される。
【0048】
ここで、周期信号の周波数は、ドップラー周波数fdよりも十分に低い値としているため、BPF180によって周期信号の周波数とドップラー周波数fdは十分に分離可能であり、I信号の周波数成分のうち、周期信号の周波数成分のみが通過され、ドップラー周波数fdの周波数成分は遮断される。
【0049】
位相差検出手段200には、BPF180からのI信号と、発振器110からの周期信号が入力される。位相差検出手段200は、ロックインアンプによる同期検波で入力されたI信号と周期信号の位相差を検出し、その位相差から対象物の距離を測定する。ロックインアンプを用い、かつBPF180からのI信号は周期信号の周波数成分のみであるため、高精度に距離を測定することができる。なお、光検出器15AからのI信号ではなく、光検出器15BからのQ信号と周期信号の位相差を検出する構成としてもよい。
【0050】
周波数解析手段18には、BPF17A、BからのI信号、Q信号が入力される。周波数解析手段18は、実施例1の場合と同様に、I信号を実部、Q信号を虚部とする複素信号と見て、その複素信号をFFT(高速フーリエ変換)して周波数スペクトルを求める。そして、周波数スペクトルのピーク位置を検出し、そのピーク位置からドップラー周波数fdを求め、ドップラー周波数fdから対象物の速度を測定する。また、ドップラー周波数fdの正負から、速度の方向を測定する。ここで、光検出器15A、BからのI信号、Q信号の周波数成分のうち、周期信号の周波数成分はBPF17A、Bによって遮断されている。したがって、実施例1と同様の精度で速度およびその方向を測定することができる。
【0051】
BPF180、BPF17A、B、位相差検出手段200、周波数解析手段18は、たとえばDSPによって実現され、ワンチップ化によりレーダ装置の低コスト化を図ることができる。
【0052】
以上、実施例2のレーダ装置によれば、安価かつ高感度、高精度に対象物の距離、速度およびその方向を測定することができる。
【0053】
なお、実施例2において光検出器202において光ヘテロダイン検波する際に、レーザー10から出力されるレーザー光側ではなく、受信手段14により受信したレーザー光の方をπ/2移相器200によって位相を90°シフトすることで光検出器202においてQ信号を生成するようにしてもよい。
【実施例3】
【0054】
図4は、実施例3のレーダ装置の構成を示した図である。実施例3のレーダ装置は、実施例1のレーダ装置に、発振器310と変調器320を加え、周波数解析手段18に替えて周波数解析手段380を設けたものである。以下、実施例1と異なる構成部分について説明するとともに、実施例3のレーダ装置の動作について説明する。
【0055】
発振器310は、周期Tの三角波を発生させて出力する。また、変調器320は、発振器310からの三角波に基づき、レーザー光を周波数変調して出力する。これにより、レーザー光は、中心周波数f0が1550nmで、周波数がΔf変化する周期Tの三角波に周波数変調されたレーザー光となる。変調器320から出力されたレーザー光は、分配されて合波器13A、π/2移相器14、送信手段11にそれぞれ入力される。三角波以外にも、ノコギリ波、正弦波などの連続的に変化する周期関数を用いることができる。
【0056】
送信手段11から対象物に照射され、対象物によって反射されたレーザー光は、受信手段12によって受光される。受信手段12により受光したレーザー光は、光BPF15を通過した後、2つに分配されて合波器13A、Bにそれぞれ入力される。
【0057】
合波器13Aには、変調器320からのレーザー光と、受信手段12からのレーザー光が入力される。そして、それらのレーザー光が合波された後光検出器15Aに入力され、光ヘテロダイン検波されて電気信号(I信号)に変換される。このI信号は、変調器320からのレーザー光の周波数と受信手段12からのレーザー光の周波数の差周波数のビート信号である。また、周波数差が生じるのは、対象物までの距離に応じた遅延による周波数シフトと、ドップラー効果による周波数シフトのためである。そのため、ビート信号は周波数の増加区間と減少区間で2つの周波数成分を含み、fup=fr+fd、fdown=fr−fdである。ここでfrは対象物までの距離遅延による周波数のシフト量、fdはドップラー周波数である。
【0058】
また、合波器13Bには、変調器320からのレーザー光がπ/2移相器14によって位相が90°シフトされて入力される。また、受信手段12からのレーザー光が入力される。そして、それらのレーザー光が合波されて光検出器15Bに入力され、光ヘテロダイン検波されて電気信号(Q信号)に変換される。このQ信号もまた、入力された2つのレーザー光の差周波数のビート信号である。
【0059】
周波数解析手段380は、実部をI信号、虚部をQ信号とする複素信号をFFTして、周波数スペクトルを算出する。その周波数スペクトルは、fupとfdownに周波数ピークを有する。したがって、周波数スペクトルからfupとfdownを算出し、fd=(fup−fdown)/2によりドップラー周波数fdを算出することができる。そしてドップラー周波数fdから、対象物の速度vは、v=λ・fd/2によって算出することができる。ここでλはレーザー光の波長である。また、複素信号をFFTしているため、周波数スペクトルは負の領域についても折り返しがなく算出され、fdについても正負を測定することができる。よって、fdの正負により対象物の速度の方向を測定することができる。
【0060】
一方、fr=(fup+fdown)/2によりfrを算出することができる。そして、対象物までの距離をRとし、光速をcとして、R=fr・c・T/(4Δf)により距離Rを算出することができる。
【0061】
以上、実施例3のレーダ装置によれば、安価かつ高感度、高精度に対象物の距離、速度およびその方向を測定することができる。
【0062】
[各種変形例]
対象物の距離、速度を測定する方式は、実施例2、3に示した方式に限るものではない。距離の測定方式には、従来知られている任意の方式を用いることができる。また、速度の測定方式には、ドップラー周波数fdにより速度を測定する方式であれば任意の方式を用いることができる。
【0063】
また、実施例1〜3のレーダ装置において、レーザー光を処理する構成部分を光集積回路によって構成してもよい。一例として、
図5に、実施例2のレーダ装置におけるレーザー光処理部分を光集積回路とした構成を示す。光集積回路の各素子と実施例2の構成要素との対応を説明する。
【0064】
各構成要素を接続する光導波路400には、SiO
2 基板上に線路状にSiを形成された構造を用いる。光導波路400を分配・結合するにはカプラ401を用いる。また、変調器120としてリングモジュレータ402を用いる。また、送信手段11として、光導波路400の端面からそのまま外部に放射させる構成としている。受信手段12として、偏光補正回折格子403を用いている。偏光補正回折格子403により受信するレーザー光の偏光状態を補正することで光導波路400との結合を良好としている。また、光BPF19としてはリング共振器404を用いている。π/2移相器14としては、光導波路上にヒータを設置し、ヒータの熱により熱光学効果を起こし位相調整する構成を用いる。光検出器15A、Bにはフォトダイオード405を用いている。また、VOA(可変光アッテネータ)406が光導波路400に挿入されており、これによりレーザー10からフォトダイオード405に入力されるレーザー光の強度を調整可能としている。
【0065】
このように実施例1〜3のレーダ装置のレーザー光処理部分を光集積回路としてモジュール化することで、レーダ装置のコストを低減することができる。
【0066】
また、実施例2、3ではレーザー光の変調について出力されたレーザー光を変調器を用いて変調する外部変調方式を用いているが、レーザーの駆動電流の制御により変調されたレーザー光を出力させる直接変調方式を用いることもできる。