特許第6146303号(P6146303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6146303-複合半透膜およびその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146303
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】複合半透膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/00 20060101AFI20170607BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20170607BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20170607BHJP
   B01D 71/48 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   B01D69/00
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01D71/48
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-518025(P2013-518025)
(86)(22)【出願日】2013年1月16日
(86)【国際出願番号】JP2013050683
(87)【国際公開番号】WO2013108788
(87)【国際公開日】20130725
【審査請求日】2016年1月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-5879(P2012-5879)
(32)【優先日】2012年1月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-79365(P2012-79365)
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100129160
【弁理士】
【氏名又は名称】古館 久丹子
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】岡部 淳
(72)【発明者】
【氏名】丸谷 由恵
(72)【発明者】
【氏名】高谷 清彦
(72)【発明者】
【氏名】志村 晴季
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇夫
(72)【発明者】
【氏名】木村 将弘
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−252538(JP,A)
【文献】 特開平09−085068(JP,A)
【文献】 特開2005−169332(JP,A)
【文献】 特開平03−270721(JP,A)
【文献】 特開2006−142275(JP,A)
【文献】 特開2001−179061(JP,A)
【文献】 国際公開第00/041800(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 − 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材および多孔性支持層を有する支持膜と、前記支持膜上に設けられた分離機能層とを備えた複合半透膜であって、
前記分離機能層はひだとしての突起を有し、
電子顕微鏡を用いて膜面方向における長さが2.0μmである前記複合半透膜の任意の断面10箇所を観察したときに、各断面において、前記分離機能層の10点平均面粗さの5分の1以上の高さを有する分離機能層の突起の平均数密度が10.0個/μm以上であり、かつ前記突起の平均高さが100nm以上であり、かつ1つの前記断面における前記突起の標準偏差が90nm以下であることを特徴とする複合半透膜。
【請求項2】
電子顕微鏡を用いて前記断面を観察したときに、各断面において、前記突起の平均数密度が12.0個/μm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項3】
電子顕微鏡を用いて前記断面を観察したときに、各断面において、前記突起の平均高さが110nm以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の複合半透膜。
【請求項4】
前記多孔性支持層が、基材側の第1層とその上に形成される第2層の多層構造を有することを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の複合半透膜。
【請求項5】
前記第1層と前記第2層との界面が連続構造であることを特徴とする、請求項に記載の複合半透膜。
【請求項6】
前記多孔性支持層が、基材上に前記第1層を形成する高分子溶液Aと前記第2層を形成する高分子溶液Bとが同時に塗布された後に、凝固浴に接触し相分離することで形成されることを特徴とする、請求項またはに記載の複合半透膜。
【請求項7】
前記高分子溶液Aと前記高分子溶液Bとが異なる組成であることを特徴とする、請求項に記載の複合半透膜。
【請求項8】
高分子溶液Aの固形分濃度a(重量%)と高分子溶液Bの固形分濃度b(重量%)が、a/b≦1.0の関係式を満たすことを特徴とする、請求項に記載の複合半透膜。
【請求項9】
前記多孔性支持層の10〜90重量%が前記基材に含浸していることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の複合半透膜。
【請求項10】
前記支持膜の基材が、主成分としてポリエステルを含有する長繊維不織布であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の複合半透膜。
【請求項11】
下記工程(a)〜(c)を備える複合半透膜の製造方法であって
(a)高分子溶液を基材上に塗布すること、
(b)前記高分子溶液を前記基材に含浸させ、その後に前記高分子溶液を凝固浴に接触させることで、相分離により、10〜90重量%が前記基材に含浸した多孔性支持層を形成すること、および
(c)前記多孔性支持層上に分離機能層を形成すること
前記工程(a)は、前記基材と接触する高分子溶液Aと、前記高分子溶液Aと積層される高分子溶液Bとを同時に塗布することを含む
複合半透膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な複合半透膜およびその製造方法に関する。本発明によって得られる複合半透膜は、例えば海水やかん水の淡水化に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして膜分離法の利用が拡大している。膜分離法に使用される膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などがあり、これらの膜は、例えば海水、かん水、有害物を含んだ水などから飲料水を得る場合や、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などに用いられている。
【0003】
現在市販されている逆浸透膜およびナノろ過膜の大部分は複合半透膜であり、支持膜上にゲル層とポリマーを架橋した活性層を有するものと、支持膜上でモノマーを重縮合した活性層を有するものとの2種類がある。なかでも、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる分離機能層を支持膜上に被覆して得られる複合半透膜は、透水性や塩除去性の高い分離膜として広く用いられている(特許文献1、2)。
【0004】
逆浸透膜を用いる造水プラントではランニングコストの一層の低減を図るため、さらなる高い透水性能が求められている。また、逆浸透膜として複合半透膜を用いる場合には、高圧力での長時間運転においても上記の膜性能を維持できることが要求される。
【0005】
複合半透膜の性能に影響を及ぼす因子として、ポリアミド表面に形成される突起構造が挙げられる。膜性能と突起構造の関係については、突起を伸長することによって実質的な膜面積を大きくし、透水性を向上させられることが提示されている(特許文献3、4、5)。一方、塩除去性を高める方法として、突起の上面から見た水平等価円の径を小さくする方法(特許文献6)、突起のピッチおよびアスペクト比を制御するといった方法も提示されている(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開昭55−14706号公報
【特許文献2】日本国特開平5−76740号公報
【特許文献3】日本国特開平9−19630号公報
【特許文献4】日本国特開平9−85068号公報
【特許文献5】日本国特開2001−179061号公報
【特許文献6】日本国特開平9−141071号公報
【特許文献7】日本国特開2005−169332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、突起構造を変えることにより、高い塩除去性および透水性を付与できるが、突起の大きさは不均一になりやすく、例えば過度に大きい突起が存在する場合、高圧で使用した際に突起が潰れ、塩除去性や透水性の低下を引き起こすことがある。本発明の目的は、これらの問題を解決し、高い塩除去性および透水性を両立した複合半透膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の複合半透膜は、基材および多孔性支持層を有する支持膜と、前記支持膜上に設けられた分離機能層とを備えた複合半透膜であって、電子顕微鏡を用いて膜面方向における長さが2.0μmである前記複合半透膜の任意の断面10箇所を観察したときに、各断面において、前記分離機能層の10点平均面粗さの5分の1以上の高さを有する分離機能層の突起の平均数密度が10.0個/μm以上であり、かつ前記突起の平均高さが100nm以上であることを特徴とする。
上記複合半透膜は、下記工程(a)〜(c)を備える製造方法により、製造可能である。
(a)高分子溶液を基材上に塗布すること、
(b)前記高分子溶液を前記基材に含浸させ、その後に前記高分子溶液を凝固浴に接触させることで、相分離により、10〜90重量%が前記基材に含浸した多孔性支持層を形成すること、および
(c)前記多孔性支持層上に分離機能層を形成すること。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、複合半透膜における高い塩除去性および透水性の両立が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、電子顕微鏡により得られた複合半透膜の断面模式図(粗さ曲線)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.複合半透膜
複合半透膜は、基材および多孔性支持層を含む支持膜と、前記多孔性支持層上に設けられた分離機能層とを備える。前記分離機能層上の突起の平均数密度が10.0個/μm以上、かつ突起の平均高さが100nm以上であることを特徴とする。
【0012】
(1−1)分離機能層
分離機能層は、複合半透膜において溶質の分離機能を担う層である。分離機能層の組成および厚み等の構成は、複合半透膜の使用目的に合わせて設定される。
【0013】
一般に、分離機能層上の突起(ひだ)を拡大すると、透水性は向上するものの塩透過性も大きくなる。突起を拡大することによって高い塩除去性と透水性を両立することができると考えられるのは、あくまで、透水性が上がることによって、塩透過量に対して水透過量が相対的に増加した結果として、塩除去性が高い状態に維持されるのであって、塩の透過性を抑制しているわけではない。むしろ、過度に拡大した突起の存在は、加圧時の変形、ひいては、膜構造破壊につながり、塩除去性を低下させることになる。特に、高圧で運転される海水淡水化用の膜の場合は、この傾向が性能に現れやすい。
【0014】
そこで本発明者らは、表面の突起構造に着目し、鋭意検討を行った。その結果、突起の数密度と高さを精密に制御し、均一な大きさの突起を作ることにより、高い塩除去性と透水性を両立できることを見出した。
【0015】
本発明における分離機能層の突起とは、10点平均面粗さの5分の1以上の高さの突起のことを言う。
【0016】
10点平均面粗さとは、次のような算出方法で得られる値である。まず電子顕微鏡により、膜面に垂直な方向の断面を下記の倍率で観察する。得られた断面画像には、分離機能層(図1に符号“1”で示す。)の表面が曲線として表れる。この曲線について、ISO4287:1997に基づき定義される粗さ曲線を求める。なお、平均線とは、ISO4287:1997に基づき定義される直線であり、測定長さにおいて、平均線と粗さ曲線とで囲まれる領域の面積の合計が平均線の上下で等しくなるように描かれる直線である。上記粗さ曲線の平均線の方向に2.0μmの幅で断面画像を抜き取る(図1)。抜き取った幅2.0μmの画像において、上記平均線を基準線2として、分離機能層における突起の山頂の高さと、谷底の高さをそれぞれ測定する。最も高い山頂から5番目までの5つの山頂の高さH1−H5の絶対値について平均値を算出し、最も深い谷底から5番目まで5つの谷底の高さD1−D5の絶対値について平均値を算出して、さらに、得られた2つの平均値の絶対値の和を算出する。こうして得られた値が、10点平均面粗さである。なお、図1では、説明の便宜上、基準線2を水平方向に平行に描いている。
【0017】
分離機能層の断面は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡により観察できる。例えば走査型電子顕微鏡で観察するのであれば、複合半透膜サンプルに白金または白金−パラジウムまたは四酸化ルテニウム、好ましくは四酸化ルテニウムを薄くコーティングして3〜6kVの加速電圧で高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR−FE−SEM)を用いて観察する。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡は、日立製S−900型電子顕微鏡などが使用できる。観察倍率は5,000〜100,000倍が好ましく、突起の高さを求めるには10,000〜50,000倍が好ましい。得られた電子顕微鏡写真において、観察倍率を考慮して、突起の高さをスケールなどで直接測定することができる。
【0018】
さらに、突起の平均数密度は次のようにして測定される。複合半透膜において、任意の10箇所の断面を観察したときに、各断面において、上述の10点平均面粗さの5分の1以上の高さを有する突起を数える。各断面での数密度(つまり1μm当たりの突起数)を算出し、さらに10箇所の断面における数密度から、相加平均値を算出することで、平均数密度が得られる。ここで、各断面は、上記粗さ曲線の平均線の方向において、2.0μmの幅を有する。
【0019】
また、突起の平均高さは次のようにして測定される。複合半透膜において、任意の10箇所の断面を観察したときに、各断面において、上述の10点平均面粗さの5分の1以上の高さを有する突起について、その高さを測定して、1個の突起当たりの高さ平均を算出する。さらに、10箇所の断面についての算出結果に基づいて、相加平均を算出することで、平均高さが得られる。ここで、各断面は、上記粗さ曲線の平均線の方向において、2.0μmの幅を有する。
【0020】
突起の高さの標準偏差は、平均高さと同様に、10箇所の断面において測定された、10点平均面粗さの5分の1以上である突起の高さに基づいて、算出される。
【0021】
本発明における分離機能層の突起の平均数密度は、10.0個/μm以上であり、好ましくは12.0個/μm以上である。また、分離機能層の突起の平均数密度は、好ましくは50個/μm以下であり、より好ましくは40個/μm以下である。平均数密度が10.0個/μm以上であることで、複合半透膜が十分な透水性を得られ、さらには加圧時の突起の変形を抑えることもでき、安定した膜性能を得られる。また平均数密度が50個/μm以下であることで、突起の成長が十分に起こり、所望の透水性を備えた複合半透膜を容易に得ることができる。
【0022】
本発明における分離機能層の突起の平均高さは、100nm以上、好ましくは110nm以上である。また、分離機能層の突起の平均高さは、好ましくは1000nm以下であり、より好ましくは800nm以下である。突起の平均高さが100nm以上であることで、十分な透水性を備えた複合半透膜を容易に得ることができる。また、突起の平均高さが1000nm以下であることにより、複合半透膜を高圧で運転して使用する際にも突起が潰れることなく、安定した膜性能を得ることができる。
【0023】
さらに、本発明において、1つの断面における分離機能層の突起の標準偏差は90nm以下であることが好ましい。標準偏差がこの範囲内であれば、均一な大きさの突起を形成でき、複合半透膜を高圧で運転して使用する際にも安定した膜性能を得ることができる。
【0024】
分離機能層は、ポリアミドを主成分として含有してもよい。分離機能層を構成するポリアミドは、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成することができる。ここで、多官能アミンまたは多官能酸ハロゲン化物の少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。
【0025】
なお、本明細書において、「XがYを主成分として含有する」とは、YがXの60重量%以上、80重量%以上、又は90重量%以上を占めることを意味し、Xが実質的にYのみを含有する構成を含む。
【0026】
ポリアミド分離機能層の厚みは、十分な分離性能および透過水量を得るために、通常0.01〜1μmの範囲内が好ましく、0.1〜0.5μmの範囲内がより好ましい。ここで、多官能アミンとは、一分子中に少なくとも2個の第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を有し、そのアミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基であるアミンをいい、例えば、2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合したフェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、3−アミノベンジルアミン、4−アミノベンジルアミンなどの芳香族多官能アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族アミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4−アミノピペリジン、4−アミノエチルピペラジンなどの脂環式多官能アミン等を挙げることができる。中でも、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を有する芳香族多官能アミンであることが好ましく、このような芳香族多官能アミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m−フェニレンジアミン(以下、m−PDA)を用いることがより好ましい。これらの多官能アミンは、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。2種以上を同時に用いる場合、上記アミン同士を組み合わせてもよく、上記アミンと一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンを組み合わせてもよい。一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンとして、例えば、ピペラジン、1,3−ビスピペリジルプロパン等を挙げることができる。
【0027】
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。例えば、3官能酸ハロゲン化物としては、トリメシン酸クロリド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4−シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物としては、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は多官能酸塩化物であることが好ましい。また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、多官能酸塩化物は一分子中に2〜4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸塩化物であることがより好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリドを用いるとさらに好ましい。これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。
【0028】
(1−2)支持膜
本発明において支持膜は、基材と多孔性支持層とを備えるものであり、実質的にイオン等の分離性能を有さず、実質的に分離性能を有する分離機能層に強度を与えるためのものである。
【0029】
多孔性支持層の素材にはポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーあるいはコポリマーを単独であるいはブレンドして使用することができる。ここでセルロース系ポリマーとしては酢酸セルロース、硝酸セルロースなど、ビニルポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが使用できる。中でもポリスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのホモポリマーまたはコポリマーが好ましい。より好ましくは酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、またはポリフェニレンスルホンが挙げられ、さらに、これらの素材の中では化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易であることからポリスルホンが一般的に使用できる。
【0030】
具体的には、次の化学式に示す繰り返し単位からなるポリスルホンを用いると、孔径が制御しやすく、寸法安定性が高いため好ましい。
【0031】
【化1】
【0032】
例えば、上記ポリスルホンのN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMF)溶液を、基材上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径1〜30nmの微細な孔を有する支持膜を得ることができる。
【0033】
上記の支持膜の厚みは、複合半透膜の強度およびそれを膜エレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、30〜300μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは50〜250μmの範囲内である。また、多孔性支持層の厚みは、10〜200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは20〜100μmの範囲内である。基材の厚みは10〜250μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは20〜200μmの範囲内である。なお、前記多孔性支持層の厚みは、基材中に多孔性支持層が含浸している場合、その部分の厚みも含む。また、前記基材の厚みは基材全体の厚みを示し、基材中に多孔性支持層が含浸している場合、その部分の厚みも含む。
【0034】
なお、本明細書において、特に付記しない限り、各層および膜の厚みとは、平均値を意味する。ここで平均値とは相加平均値を表す。すなわち、各層および膜の厚みは、断面観察で厚み方向に直交する方向(膜の面方向)に20μm間隔で測定した20点の厚みの平均値を算出することで求められる。
【0035】
本発明においては、多孔性支持層は多層構造を有することが好ましい。多層構造を有する多孔性支持層は、基材と接触する第1の層および分離機能層と接触する第2の層の2つの層からなる。第1層は、分離機能層の形成に必要なアミン等のモノマーを重合場へ移送する役割を果たす。モノマーを効率的に移送するためには連続した細孔を有しているべきであり、その孔径は0.1μm以上1μm以下であることが好ましい。第2層は、重合の場となり、かつモノマーを保持および放出することで、形成する分離機能層へモノマーを供給する役割を果たすと共に、突起成長の起点としての役割も果たす。このときのモノマー保持容量、放出速度および供給量によって突起の高さや厚みが決定し、層の構造によって突起の数密度を制御することができる。本発明者らによる鋭意検討の結果、支持膜作製時の原液ポリマー濃度が高いほど多孔性支持層は緻密な構造になり、分離機能層の突起の数密度も大きくなることがわかった。ここで、例えば、ポリマー濃度の高い原液のみを用いて作製した支持膜は、数密度の大きい突起を形成できるが、重合場へのモノマーの移送速度が小さくなるため、形成される突起の高さは小さくなる。このとき、連続した細孔を有する層である前記の第1層を基材側に、この緻密な層を第2層として第1層の上に積層させ、多孔性支持層とすることにより、モノマーの移送速度を補うことができ、均一な大きさの突起を形成できる。このように、突起の高さ、均一性および数密度を同時に制御するためには、第1層の上に第2層を積層させた多孔性支持層とすることが好ましい。
【0036】
さらに本発明の多孔性支持層は第1層とその上に形成される第2層の界面が連続構造であることが好ましい。本発明における連続構造とは、第1層とその上に形成される第2層の界面にスキン層を形成しない構造を指す。ここでいうスキン層とは、高い密度を有する部分を意味する。具体的には、スキン層の表面細孔は、1nm以上50nm以下の範囲内にある。第1層と第2層との界面にスキン層が形成された場合には、多孔性支持層中に高い抵抗が生じる。その結果、分離機能層を形成する際、重合場へのモノマー供給速度が小さくなり、形成される突起が小さくなるため透過流速は劇的に低下する。
【0037】
多孔性支持層のうち、その10重量%以上を占める部分が基材に含浸していることが好ましい。より好ましくは多孔性支持層の15重量%以上であり、さらに好ましくは20重量%以上である。また、基材に含浸する重量は、好ましくは多孔性支持層の90重量%以下であり、より好ましくは80重量%以下であり、さらに好ましくは50重量%以下である。多孔性支持層において基材へ含浸している部分の重量が、多孔性支持層の重量の10重量%以上であることで、支持膜が熱水洗浄または薬品洗浄などの処理を受けても、基材からの多孔性支持層の剥離が抑制される。一方、多孔性支持層において基材へ含浸している部分の重量が、多孔性支持層の重量の90重量%以下であることで、支持膜表面に、多孔性支持層の欠落部分(欠点)が生じにくくなるので、安定な膜性能が得られる。
【0038】
以上の説明から明らかなように、多孔性支持層全体の重量は、多孔性支持層のうち、基材外に位置する部分の重量と、基材中に含浸している部分の重量の合計に相当する。
【0039】
すなわち、多孔性支持層が基材に含浸する重量が上記範囲内であることで、高い塩除去性能と耐圧性を有する複合半透膜を実現することができる。
【0040】
なお、本発明における「含浸」とは、多孔性支持層が基材内に染み込んでいる状態を指す。具体的には、「含浸」とは、基材が繊維材料で形成されている場合は、多孔性支持層が基材の繊維間隙に染み込んでいる状態を指す。
【0041】
含浸性は、次のような算出方法で得られる値である。任意の大きさに切断した支持膜において、多孔性支持層を基材から物理的に剥離して多孔性支持層の重量を秤量する。さらに剥離した基材、および該基材を多孔性支持層の良溶媒に溶解した後に不溶である基材を秤量することで、含浸した多孔性支持層の重量を算出することができる。
【0042】
このように多孔性支持層が基材に含浸することで、多孔性支持層が基材に含浸しないときと比べて多孔性支持層を形成する相分離時において、溶媒の非溶媒との置換速度が大きくなる。その結果、製膜方向に対して直交する方向(膜幅方向)の断面において、長径が5μm以上の空孔(ボイド)の面積の総和が全断面積に占める割合が、低く抑えられる。以下では、この割合を「マクロボイド占有率」と称する。マクロボイド占有率は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは5%以下である。多孔性支持層が基材に含浸することで、マクロボイド占有率をこの範囲内とすることができる。多孔性支持層において、マクロボイド占有率が上記範囲にあることで、分離機能層形成時のモノマーの供給量を制御することができ、標準偏差の小さい突起構造を得ることができる。また、マクロボイド占有率が低いことで、高圧付加時にも欠陥の発生が抑制され、塩除去性能および透過流速が安定化される。なお、「製膜方向」とは、前記支持膜の製膜原液を流延する方向、すなわち、膜の長尺方向のことをいう。多孔性支持層において、空孔は連通していてもよい。
【0043】
マクロボイド占有率は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡で、支持膜断面の分離機能層との境界から基材との境界までの範囲にあるボイドを観察することによって、求めることができる。例えば走査型電子顕微鏡の断面写真の場合は、膜サンプルを液体窒素に浸漬して凍結させたものを、製膜原液を流延させた方向に対して垂直に割断して乾燥させた後、膜断面に白金/パラジウムまたは四酸化ルテニウム、好ましくは四酸化ルテニウムを薄くコーティングして1〜6kVの加速電圧で高分解能電界放射型走査電子顕微鏡にて観察する。最適な観察倍率は、微多孔質表面から基材表面までの膜断面全体が観察できる倍率であればよいが、例えば支持膜の膜厚が60μmであれば、100〜5,000倍が好ましく、ボイドの面積を求めるには500〜2,000倍が好ましい。得られた電子顕微鏡写真から観察倍率を考慮してボイドの大きさをスケールなどで直接測ることが出来る。
【0044】
ボイドの面積とは、支持膜断面の電子顕微鏡観察写真で観察される支持膜断面のボイドを閉じた曲線で囲んだときの、その曲線で囲まれた面積である。マクロボイド占有率を求める場合、具体的には、走査型電子顕微鏡による1,000倍の膜断面写真において、5μm以上の長径を有する一つ一つのボイドの外周をトレースして、閉じた曲線で囲んで面積を求める。断面積におけるボイド面積の占める割合は次の方法で求めることが出来る。ボイドの面積は、曲線で囲んだ各ボイドの図形を一つ一つ切り取り、面積の総和(x)を測定する。さらに、写真から支持膜断面の外周をトレースしてその図形を切り取って面積(y)を測定し、前記ボイドの図形の面積の総和と膜断面の図形の面積の比(x/y×100)を断面積におけるボイド面積の占める割合(%)とする。支持膜断面の外周とは、写真にとらえられ、測定を対象としている断面全体の外周のことをいう。
【0045】
支持膜を構成する基材としては、例えば、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、あるいはこれらの混合物や共重合体等が挙げられるが、機械的強度、耐熱性、耐水性等により優れた支持膜を得られることから、ポリエステル系重合体であることが好ましい。
【0046】
本発明で用いられるポリエステル系重合体とは、酸成分とアルコール成分からなるポリエステルである。酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸およびフタル酸などの芳香族カルボン酸、アジピン酸やセバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびシクロヘキサンカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸などを用いることができる。また、アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびポリエチレングリコールなどを用いることができる。
【0047】
ポリエステル系重合体の例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂およびポリブチレンサクシネート樹脂等が挙げられ、またこれらの樹脂の共重合体も挙げられる。
【0048】
前記基材に用いられる布帛には、強度、凹凸形成能、流体透過性の点で繊維状基材を用いることが好ましい。基材としては、長繊維不織布及び短繊維不織布のいずれも好ましく用いることができる。特に、長繊維不織布は基材には高分子重合体の溶液を流延した際の浸透性に優れ、多孔性支持層が剥離すること、さらには基材の毛羽立ち等により膜が不均一化すること、及びピンホール等の欠点が生じたりすることを抑制できる。また、基材が熱可塑性連続フィラメントより構成される長繊維不織布からなることにより、短繊維不織布を用いたときに起こる、毛羽立ちによって生じる高分子溶液流延時の不均一化や、膜欠点を抑制することができる。また、分離膜の連続製膜においては、製膜方向に対し張力がかけられることからも、基材にはより寸法安定性に優れる長繊維不織布を用いることが好ましい。また、前記基材が、主成分としてポリエステルを含有する長繊維不織布であることが好ましい。
【0049】
長繊維不織布は、成形性、強度の点で、多孔性支持層とは反対側の表層における繊維が、多孔性支持層側の表層の繊維よりも縦配向であることが好ましい。そのような構造によれば、強度を保つことで膜破れ等を防ぐ高い効果が実現されるため好ましい。より具体的に、前記長繊維不織布の、多孔性支持層とは反対側の表層における繊維配向度は、0°〜25°であることが好ましく、また、多孔性支持層側表層における繊維配向度との配向度差が10°〜90°であることが好ましい。
【0050】
分離膜の製造工程やエレメントの製造工程においては加熱する工程が含まれるが、加熱により多孔性支持層または分離機能層が収縮する現象が起きる。特に連続製膜において張力が付与されていない幅方向において顕著である。収縮することにより、寸法安定性等に問題が生じるため、基材としては熱寸法変化率が小さいものが望まれる。不織布において多孔性支持層とは反対側の表層における繊維配向度と多孔性支持層側表層における繊維配向度との差が10°〜90°であると、熱による幅方向の変化を抑制することもでき、好ましい。
【0051】
ここで、繊維配向度とは、多孔性支持層を構成する不織布基材の繊維の向きを示す指標であり、連続製膜を行う際の製膜方向を0°とし、製膜方向と直角方向、すなわち不織布基材の幅方向を90°としたときの、不織布基材を構成する繊維の平均の角度のことを言う。よって、繊維配向度が0°に近いほど縦配向であり、90°に近いほど横配向であることを示す。
【0052】
繊維配向度は、不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、該サンプルの表面を走査型電子顕微鏡で100〜1000倍で撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維について、不織布の長手方向(縦方向、製膜方向)を0°とし、不織布の幅方向(横方向)を90°としたときの角度を測定し、それらの平均値を、小数点以下第一位を四捨五入して繊維配向度として求める。
【0053】
2.複合半透膜の製造方法
次に、上記複合半透膜の製造方法について説明する。製造方法は、支持膜の形成工程および分離機能層の形成工程を含む。
【0054】
(2−1)支持膜の形成工程
支持膜の形成工程は、多孔性基材に高分子溶液を塗布する工程、多孔性基材に高分子溶液を含浸させる工程、および前記溶液を含浸した前記多孔性基材を、高分子の良溶媒と比較して前記高分子の溶解度が小さい凝固浴に浸漬させて前記高分子を凝固させ、三次元網目構造を形成させる工程を含んでもよい。また、支持膜の形成工程は、多孔性支持層の成分である高分子を、その高分子の良溶媒に溶解して高分子溶液を調製する工程を、さらに含んでいてもよい。
【0055】
所定の構造をもつ支持膜を得るためには、高分子溶液の基材への含浸を制御する必要がある。高分子溶液の基材への含浸を制御するためには、例えば、基材上に高分子溶液を塗布した後、非溶媒に浸漬させるまでの時間を制御する方法、或いは高分子溶液の温度または濃度を制御することにより粘度を調製する方法が挙げられ、これらの製造方法を組み合わせることも可能である。
【0056】
基材上に高分子溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬させるまでの時間は、0.8〜5秒間の範囲であることが好ましい。凝固浴に浸漬するまでの時間がこの範囲であれば、高分子を含む有機溶媒溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。その結果、アンカー効果により多孔性支持層を基材に強固に接合させることができる。なお、凝固浴に浸漬するまでの時間の好ましい範囲は、用いる高分子溶液の粘度などによって適宜調製すればよい。
【0057】
第1層を形成する高分子溶液Aが多孔性支持層の材料としてポリスルホンを含有する場合、高分子溶液Aのポリスルホン濃度(すなわち固形分濃度a)は、好ましくは12重量%以上であり、より好ましくは13重量%以上である。また、高分子溶液Aのポリスルホン濃度は、好ましくは18重量%以下であり、より好ましくは15重量%以下である。高分子濃度が12重量%以上であることで、連通孔が比較的小さく形成されるので、所望の孔径が容易に得られる。また、高分子濃度が18重量%以下であることで、高分子の凝固前に相分離が十分に進行できるので、多孔性構造が容易に得られる。
【0058】
高分子溶液Bが、同じくポリスルホンを含有する場合、高分子溶液Bのポリスルホン濃度(すなわち固形分濃度b)は、好ましくは14重量%以上であり、より好ましくは15重量%以上である。また、高分子溶液Bのポリスルホン濃度は、好ましくは30重量%以下であり、より好ましくは25重量%以下である。高分子溶液Bのポリスルホン濃度が14重量%未満であると、表面細孔が大きくなる傾向にあり、分離機能層を形成する際、第2層中のモノマー保持容量に対してモノマーの供給量が大きくなりすぎてしまい、十分な厚みを有する突起を形成することが困難となる。また、高分子溶液Bのポリスルホン濃度が30重量%を超えると、表面細孔が小さくなる傾向にあり、分離機能層を形成する際、モノマーの供給速度が小さくなり、結果的に形成される突起が小さくなる。
【0059】
すなわち、分離機能層の突起の形態は固形分濃度a,bの影響を受ける。そして、分離機能層において上述した構成を実現するための構成の例として、a、bが上述の範囲を満たすことが挙げられる。
【0060】
固形分濃度aと固形分濃度bとは、a/b≦1.0の関係式を満たすことが好ましい。また、比a/bは、目的とする膜の性質により設定されるが、0.94以下であることが好ましく、より好ましくは0.80以下である。さらに、比a/bは、0.50以上であることが好ましく、より好ましくは0.65以上である。
【0061】
比率a/bが1.0以下であることで、突起の数密度と高さを精密に制御し、均一な大きさの突起を作ることによって、高い塩除去性と透水性を両立できることができる。一方、a/bが0.50以上であることで多孔性支持層の欠落部分(欠点)が生じにくくなるので、安定な膜性能が得ることができる。
【0062】
また、固形分濃度aと固形分濃度bとが、上述のそれぞれの好ましい数値範囲を満たしつつ、かつ上記関係式を満たすことがより好ましい。
【0063】
高分子溶液塗布時の高分子溶液の温度は、ポリスルホンを用いる場合、通常10〜60℃の範囲内で塗布するとよい。この範囲内であれば、高分子溶液が析出することなく、高分子を含む有機溶媒溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。その結果、アンカー効果により支持膜が基材に強固に接合し、本発明の支持膜を得ることができる。なお、高分子溶液の好ましい温度範囲は、用いる高分子溶液の粘度などによって適宜調製すればよい。
【0064】
支持膜の形成においては、基材上に第1層を形成する高分子溶液Aを塗布すると同時に第2層を形成する高分子溶液Bを塗布することが好ましい。高分子溶液Aを塗布後に硬化時間を設けた場合には、高分子溶液Aの相分離によって形成される第1層の表面に密度の高いスキン層が形成され、透過流速を大幅に低下させる。そのため、高分子溶液Aが相分離により密度の高いスキン層を形成しない程度に、同時に高分子溶液Bを塗布することが重要である。例えば、「同時に塗布される」とは、高分子溶液Aが、基材に到達する前に、高分子溶液Bと接触している状態、つまり、高分子溶液Aが基材に塗布されたときには、高分子溶液Bが高分子溶液A上に塗布されている状態を含む。
【0065】
基材上への高分子溶液の塗布は、種々のコーティング法によって実施できるが、正確な量のコーティング溶液を供給できるダイコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング等の前計量コーティング法が好ましく適用される。さらに、本発明の多層構造を有する多孔性支持層の形成においては、第1の層を形成する高分子溶液と第2の層を形成する高分子溶液を同時に塗布する二重スリットダイ法がさらに好ましく用いられる。
【0066】
なお、高分子溶液Aおよび高分子溶液Bが含有する樹脂は、同一の樹脂でも、互いに異なる樹脂でも良い。適宜、製造する支持膜の強度特性、透過特性、表面特性などの諸特性をより広い範囲で調製することができる。
【0067】
なお、高分子溶液Aおよび高分子溶液Bが含有する溶媒は、高分子の良溶媒であれば同一の溶媒でも、異なる溶媒でも良い。適宜、製造する支持膜の強度特性、高分子溶液の基材への含浸を勘案して、より広い範囲で調製することができる。
【0068】
本発明の良溶媒とは、高分子材料を溶解するものである。良溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP);テトラヒドロフラン;ジメチルスルホキシド;テトラメチル尿素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド;アセトン、メチルエチルケトン等の低級アルキルケトン;リン酸トリメチル、γ−ブチロラクトン等のエステルおよびラクトン;並びにこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0069】
前記樹脂の非溶媒としては、例えば水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0070】
また、上記高分子溶液は、支持膜の孔径、空孔率、親水性、弾性率などを調節するための添加剤を含有してもよい。孔径および空孔率を調節するための添加剤としては、水、アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等の水溶性高分子またはその塩、さらに塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸リチウム等の無機塩、ホルムアルデヒド、ホルムアミド等が例示されるが、これらに限定されるものではない。親水性や弾性率を調節するための添加剤としては、種々の界面活性剤が挙げられる。
【0071】
凝固浴としては、通常水が使われるが、重合体を溶解しないものであればよい。組成によって支持膜の膜形態が変化し、それによって複合膜の膜形成性も変化する。また、凝固浴の温度は、−20℃〜100℃が好ましい。さらに好ましくは10〜30℃である。この範囲より高いと、熱運動により凝固浴面の振動が激しくなり、膜形成後の膜表面の平滑性が低下しやすい。逆に低すぎると凝固速度が遅くなり、製膜性に問題が生じる。
【0072】
次に、このような好ましい条件下で得られた支持膜を、膜中に残存する製膜溶媒を除去するために熱水洗浄する。このときの熱水の温度は50〜100℃が好ましく、さらに好ましくは60〜95℃である。この範囲より高いと、支持膜の収縮度が大きくなり、透水性が低下する。逆に、低いと洗浄効果が小さい。
【0073】
(2−2)分離機能層の形成工程
次に、複合半透膜を構成する分離機能層の形成工程の一例として、ポリアミドを主成分とする層の形成を挙げて説明する。ポリアミド分離機能層の形成工程では、前述の多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する水と非混和性の有機溶媒溶液とを用い、支持膜の表面で界面重縮合を行うことにより、ポリアミド骨格を形成することができる。
【0074】
多官能アミン水溶液における多官能アミンの濃度は0.1重量%以上20重量%以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上15重量%以下の範囲内である。この範囲であると十分な透水性と塩およびホウ素の除去性能を得ることができる。多官能アミン水溶液には、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や有機溶媒、アルカリ性化合物、酸化防止剤などが含まれていてもよい。界面活性剤は、支持膜表面の濡れ性を向上させ、アミン水溶液と非極性溶媒との間の界面張力を減少させる効果がある。有機溶媒は界面重縮合反応の触媒として働くことがあり、添加することにより界面重縮合反応を効率よく行える場合がある。
【0075】
界面重縮合を支持膜上で行うために、まず、上述の多官能アミン水溶液を支持膜に接触させる。接触は、支持膜面上に均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、多官能アミン水溶液を支持膜にコーティングする方法や支持膜を多官能アミン水溶液に浸漬する方法を挙げることができる。支持膜と多官能アミン水溶液との接触時間は、5秒以上10分以下の範囲内であることが好ましく、10秒以上3分以下の範囲内であるとさらに好ましい。
【0076】
多官能アミン水溶液を支持膜に接触させた後は、膜上に液滴が残らないように十分に液切りする。十分に液切りすることで、複合半透膜形成後に液滴残存部分が欠点となって複合半透膜の除去性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、例えば、日本国特開平2−78428号公報に記載されているように、多官能アミン水溶液接触後の支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの気流を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させて水溶液の水分を一部除去することもできる。
【0077】
次いで、多官能アミン水溶液接触後の支持膜に、多官能酸ハロゲン化物を含む水と非混和性の有機溶媒溶液を接触させ、界面重縮合により架橋ポリアミド分離機能層を形成させる。
【0078】
水と非混和性の有機溶媒溶液中の多官能酸ハロゲン化物濃度は、0.01重量%以上10重量%以下の範囲内であると好ましく、0.02重量%以上2.0重量%以下の範囲内であるとさらに好ましい。多官能酸ハロゲン化物濃度が0.01重量%以上であることで十分な反応速度が得られ、また、10重量%以下であることで副反応の発生を抑制することができる。さらに、この有機溶媒溶液にDMFのようなアシル化触媒を含有させると、界面重縮合が促進され、さらに好ましい。
【0079】
水と非混和性の有機溶媒は、多官能酸ハロゲン化物を溶解し、支持膜を破壊しないものが望ましく、多官能アミン化合物および多官能酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであればよい。好ましい例として、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの炭化水素化合物が挙げられる。
【0080】
多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒溶液を支持膜へ接触させる方法は、多官能アミン水溶液を支持膜へ被覆する方法と同様に行えばよい。
【0081】
本発明の界面重縮合工程においては、支持膜上を架橋ポリアミド薄膜で十分に覆い、かつ、接触させた多官能酸ハロゲン化物を含む水と非混和性の有機溶媒溶液を支持膜上に残存させておくことが肝要である。このため、界面重縮合を実施する時間は、0.1秒以上3分以下が好ましく、0.1秒以上1分以下であるとより好ましい。界面重縮合を実施する時間が0.1秒以上3分以下であることで、支持膜上を架橋ポリアミド薄膜で十分に覆うことができ、かつ多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒溶液を支持膜上に保持することができる。
【0082】
界面重縮合によって支持膜上にポリアミド分離機能層を形成した後は、余剰の溶媒を液切りする。液切りの方法は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法を用いることができる。この場合、垂直方向に把持する時間としては、1分以上5分以下であることが好ましく、1分以上3分以下であるとより好ましい。短すぎると分離機能層が完全に形成せず、長すぎると有機溶媒が過乾燥となってポリアミド分離機能層に欠損部が発生し、膜性能が低下する。
【0083】
3.複合半透膜の利用
複合半透膜は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントは、直列または並列に接続されて圧力容器に収納されることで、複合半透膜モジュールを構成することもできる。
【0084】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0085】
流体分離装置の操作圧力は高い方が塩除去性は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、1.0MPa以上、10MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると塩除去性が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上、45℃以下が好ましい。また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0086】
複合半透膜によって処理される原水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L〜100g/LのTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」で表されるか、1Lを1kgと見なして「重量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5〜40.5℃の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分から換算する。
【実施例】
【0087】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0088】
<半透膜の作成>
(実施例1)
ポリスルホン13重量%のDMF溶液(高分子溶液A)およびポリスルホン20重量%のDMF溶液(高分子溶液B)を、各溶媒および溶質の混合物を攪拌しながら90℃で2時間加熱保持することで調製した。
【0089】
調製した高分子溶液はそれぞれ室温まで冷却し、別々の押出機に供給して高精度濾過した。その後、濾過した高分子溶液は二重スリットダイを介し、ポリエチレンテレフタレート繊維からなる長繊維不織布(糸径:1デシテックス、厚み:約90μm、通気度:1.3cc/cm/sec)上に高分子溶液Aを110μmの厚みで、高分子溶液Bを90μmの厚みで同時にキャストし、2.8秒後に純水中に浸漬して5分間洗浄することによって支持膜を得た。
【0090】
得られた支持膜を、m−PDAの4.0重量%水溶液中に2分間浸漬した後、膜面が鉛直になるようにゆっくりと引き上げた。エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド0.12重量%を含む25℃のn−デカン溶液を膜表面が完全に濡れるように塗布した。1分間静置した後、膜から余分な溶液を除去するために膜面を1分間鉛直に保持して液切りした。その後、45℃の水で2分間洗浄することで、基材、多孔質支持層、およびポリアミド分離機能層を備える複合半透膜を得た。
【0091】
(実施例2)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリスルホン15重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合半透膜を得た。
【0092】
(実施例3)
実施例1において、高分子溶液Bとしてポリスルホン25重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合半透膜を得た。
【0093】
(実施例4)
実施例1において、高分子溶液Aを150μmの厚みで、高分子溶液Bを50μmの厚みで同時にキャストに変更した以外は、実施例1と同様にして、複合半透膜を得た。
【0094】
(実施例5)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリスルホン13重量%のNMP溶液を、高分子溶液Bとしてポリスルホン20重量%のNMP溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして複合半透膜を得た。
【0095】
(実施例6)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリスルホン17重量%のDMF溶液を、高分子溶液Bとしてポリスルホン18重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合半透膜を得た。
【0096】
(実施例7)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリスルホン15重量%のDMF溶液を、高分子溶液Bとしてポリスルホン25重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合半透膜を得た。
【0097】
(実施例8)
実施例1において、基材として糸径1デシテックス、厚み約90μm、通気度0.7cc/cm/secの短繊維不織布を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合半透膜を得た。
【0098】
参考例1
実施例1において、長繊維不織布に高分子溶液をキャストした後、0.2秒後に純水中に浸漬した以外は、実施例1と同様にして、複合半透膜を得た。
【0099】
参考例2
実施例1において、長繊維不織布に高分子溶液をキャストした後、7秒後に純水中に浸漬した以外は、実施例1と同様にして、複合半透膜を得た。
【0100】
(比較例1)
ポリスルホン20重量%のDMF溶液のみを、二重スリットダイではなく単スリットダイを用いて、200μmの厚みで不織布上に塗布した以外は、実施例1と同様の手順によって支持膜を得た。得られた支持膜上に、実施例1と同様の手順によって分離機能層を形成し、複合半透膜を得た。
【0101】
(比較例2)
高分子溶液としてポリスルホン15重量%のDMF溶液を用いた以外は、比較例1と同様にして複合半透膜を得た。
【0102】
(比較例3)
高分子溶液としてポリスルホン15重量%のNMP溶液を用いた以外は、比較例1と同様にして、合半透膜を得た。
【0103】
(比較例4)
高分子溶液Aとしてポリスルホン20重量%のDMF溶液を、高分子溶液Bとしてポリスルホン13重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして複合半透膜を得た。
【0104】
(比較例5)
高分子溶液Aとしてポリスルホン18重量%のDMF溶液を、高分子溶液Bとしてポリスルホン17重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして複合半透膜を得た。
【0105】
(比較例6)
高分子溶液としてポリスルホン18重量%のDMF溶液を用いた以外は、比較例1と同様の手順によって支持膜を得た。
【0106】
得られた支持膜上に、m−PDA3.0重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15重量%、トリエチルアミン3.0重量%、カンファースルホン酸6.0重量%を含有した水溶液を塗布した。1分間静置した後、膜から余分な溶液を除去するために膜面を2分間鉛直に保持して液切りし、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。その後、トリメシン酸クロリド0.20重量%を含む25℃のヘキサン溶液を、膜表面が完全に濡れるように塗布した。1分間静置した後、膜から余分な溶液を除去するために膜面を1分間鉛直に保持して液切りし、その後120℃の熱風乾燥機の中で3分間保持して分離機能層を形成し、比較例6における複合半透膜を得た。
【0107】
(比較例7)
高分子溶液としてポリスルホン17重量%のDMF溶液を用いた以外は、比較例1と同様の手順によって支持膜を得た。
【0108】
得られた支持膜上に、m−PDA3.0重量%を含有した水溶液を塗布した。1分間静置した後、膜から余分な溶液を除去するために膜面を2分間鉛直に保持して液切りし、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。その後、トリメシン酸クロリド0.13重量%を含む25℃のIsopar L(エクソンモービル社(ExxonMobil Corp.)製)溶液を、膜表面が完全に濡れるように噴霧した。1分間静置した後、膜から余分な溶液を除去するために膜面を1分間鉛直に保持して液切りし、その後室温の水での洗浄を経て、複合半透膜を得た。
【0109】
(比較例8)
ポリスルホン13重量%のDMF溶液を110μmの厚みで不織布上に塗布し、以降は比較例1と同様の手順によって単層の支持膜を得た後、前記単層支持膜の支持層上に、ポリスルホン20重量%のDMF溶液を90μmの厚みで塗布し、再び比較例1と同様の手順を経て2層の支持膜を得た。得られた2層支持膜上に、実施例1と同様の手順によって分離機能層を形成し、複合半透膜を得た。
【0110】
<突起数密度、高さおよび標準偏差の測定>
複合半透膜サンプルをエポキシ樹脂で包埋し、断面観察を容易にするためOsO4で染色して、これをウルトラミクロトームで切断し超薄切片を10個作成した。得られた超薄切片について、透過型電子顕微鏡を用いて断面写真を撮影した。観察時の加速電圧は100kVであり、観察倍率は10,000倍であった。得られた断面写真について、長さ2.0μmの距離における突起の数をスケールを用いて測定し、上述したように10点平均面粗さを算出した。この10点平均面粗さに基づいて、10点平均面粗さの5分の1以上の高さを有する部分を突起として、その数を数えた。分離機能層の突起の平均数密度を求めた。また、断面写真中の全ての突起の高さをスケールで測定し、突起の平均高さを求めると共に、標準偏差を計算した。
【0111】
<塩除去性(TDS除去率)>
温度25℃、pH6.5の海水(供給水に該当)を、操作圧力5.5MPaで複合半透膜に供給することで、24時間に渡ってろ過処理を行った。得られた透過水を、塩除去性の測定に用いた。
【0112】
東亜電波工業株式会社製電気伝導度計で供給水および透過水の電気伝導度を測定することにより、実用塩分を得た。この実用塩分を換算して得られるTDS濃度から、次の式により塩除去性すなわちTDS除去率を求めた。
TDS除去率(%)=100×{1−(透過水中のTDS濃度/供給水中のTDS濃度)}
【0113】
<膜透過流束>
24時間の上記ろ過処理により得られた透過水量を、膜面1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)でもって膜透過流束(m/m/日)として表した。
【0114】
以上の結果を表1に示す。これらの結果より、本発明により、高い塩除去性および透水性を両立した複合半透膜が得られることがわかる。
【0115】
【表1】

【0116】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2012年1月16日出願の日本特許出願2012−005879及び2012年3月30日出願の日本特許出願2012−079365に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の複合半透膜は、特に、かん水や海水の脱塩に好適に用いることができる。
図1