【文献】
APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,2008年,vol.74 no.11,pp.3400-3409
【文献】
ANNALS NEW YORK ACADEMY OF SCIENCES,1990年,vol.613,pp.647-651
【文献】
THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2007年,vol.282 no.4,pp.2433-2439
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Val−Glyを、γ−グルタミルトランスフェラーゼ、又は同酵素を含有する微生物もしくはその処理物の存在下でγ−グルタミル基供与体と反応させて、γ−Glu−Val−Glyを生成させる工程を有するγ−Glu−Val−Glyの製造方法であって、
前記γ−グルタミルトランスフェラーゼは大サブユニット及び小サブユニットからなり、大サブユニット及び小サブユニットはともにγ−グルタミルトランスフェラーゼ活性を有する複合体を形成し得るものであり、
小サブユニットは、配列番号2の391〜580位のアミノ酸配列、又は同アミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、配列番号2に示すアミノ酸配列における下記のいずれかの変異に相当する変異を有することを特徴とする方法:
(T413A + Y444E)、(T413H + Y444E)、(T413N + Y444E)、(Q430N + Y444E)、(Q430N + Y444D)、(Q430N + Y444N)、(P441A + Y444E)、(V443A + Y444E)、(V443E + Y444E)、(V443G + Y444E)、(V443L + Y444E)、(V443N + Y444E)、(V443Q + Y444E)、(Y444E + L446A)、(Y444E + A453S)、(Y444E + D472I)、(Y444E + G484A)、(Y444E + G484S)、(Y444E + S498C)、(Y444E + Q542H)、(Y444E + D561N)
、(T413N + Y444E + V443A)、(T413N + Y444E + A453S)、(T413N + Y444E + S498C
)、(T413N + Y444E + Q542H)、(G484S + Y444E + V443A)、(G484S + Y444E + Q542H)、(Q430N + Y444E + T413N)、(T413H + Y444E + G484S)、(T413N + Y444E + G484S)、(T413N + Y444E + G484S + V443A)、(T413N + Y444E + G484S + A453S)、(T413N + Y444E + G484S + Q542H)、(T413N + Y444E + G484S + S572K)、(T413N + Y444E + G484S + Q430N)、(T413N + Y444E + G484E + S498C)。
大サブユニットは、配列番号2のアミノ酸配列における下記のいずれかの変異に相当する変異を有することを特徴とする、請求項2に記載の方法:P27H、E38K、L127V、F174A、F174I、F174L、F174M、F174V、F174W、F174Y、T246R、T276N、V301L。
大サブユニットは、配列番号2のアミノ酸配列におけるP27H、E38K、L127V、F174A、F174I、F174L、F174M、F174V、F174W、F174Y、T246R、T276N、及びV301Lのいずれかの変異
に相当する変異を除いて、
配列番号2の26〜390位、配列番号3の26〜390位、配列番号4の26〜391位、配列番号5の26〜387位、配列番号6の25〜390位、配列番号7の25〜390位、配列番号8の25〜390位、配列番号9の33〜399位、配列番号10の25〜390位、配列番号11の25〜391位、もしくは、配列番号12の25〜391のアミノ酸配列、又は、
これらのいずれかのアミノ酸配列において1〜20個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列、
を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
前記γ−グルタミルトランスフェラーゼ、又は同酵素を含有する微生物もしくはその処理物が微生物又はその処理物であり、かつ、微生物が腸内細菌科に属する細菌であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のγ-Glu-Val-Gly又はその塩の製造法は、Val-Gly又はその塩を、GGT、又は同酵素を含有する微生物もしくはその処理物の存在下でγ−グルタミル基供与体と反応させて、γ-Glu-Val-Gly又はその塩を生成させる工程を有する。本発明の方法においては、GGTは、大サブユニット及び小サブユニットからなり、少なくとも小サブユニットは特定の変異を有することを特徴としている。以下、この特定の変異を有するGGT、及びそれを利用したγ-Glu-Val-Gly又はその塩の製造法を説明する。
尚、本明細書において、アミノ酸は特記しない限りL-体である。
【0020】
<1>変異型GGT
前記の特定の変異を有するGGT(「変異型GGT」とも記載する。)は、それらの変異を有しないGGTをコードするggt遺伝子を、コードされるGGTが前記特定の変異を有するように改変し、得られる改変ggt遺伝子を発現させることによって、取得することができる。前記の特定の変異を有さないGGTを野生型GGT、野生型GGTをコードするggt遺伝子を野生型ggt遺伝子と記載することがある。尚、野生型GGTは、前記特定の変異を有さない限り、それ以外の変異を有していてもよい。特定の変異については後述する。
【0021】
野生型GGTとしては、エシェリヒア・コリのggt遺伝子によりコードされるGGT、及び、そのホモログ、例えばエシェリヒア・コリのGGT、特に小サブユニットと構造が類似する他の微生物のGGTが挙げられる。
【0022】
エシェリヒア・コリK-12株のggt遺伝子の塩基配列は、特開平02-231085号に記載されている。また、エシェリヒア・コリK-12 W3110株のggt遺伝子の塩基配列は、GenBank accession AP009048の4053592..4055334としてデータベースに登録されている。このggt遺伝子の塩基配列を配列番号1に示す。また、同塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を配列番号2に示す。配列番号2中、1〜25位はリーダーペプチド、26〜390位は大サブユニット、391〜580位は小サブユニットに相当する。
【0023】
エシェリヒア・コリのGGTに類似するGGTホモログとしては、配列番号2に示すアミノ酸配列中の小サブユニットに相当する部位(391-580位)と、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する小サブユニットを含むものが好ましい。また、GGTホモログは、配列番号2中の大サブユニットに相当する部位(26-390位)と、90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有する大サブユニットを含むものが好ましい。具体的には、腸内細菌科に属する細菌のGGTが挙げられる。腸内細菌科に属する細菌としては、特に限定されないが、エシェリヒア、エンテロバクター、エルビニア、クレブシエラ、パントエア、フォトルハブドゥス、プロビデンシア、サルモネラ、セラチア、シゲラ、モルガネラ、イェルシニア等の属に属する細菌を含む。特に、NCBI (National Center for Biotechnology Information)のデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=91347)で用いられている分類法により腸内細菌科に分類されている細菌が好ましい。具体的には例えば、シゲラ・フレクスネリ(Shigella flexneri)、シゲラ・ダイセンテリア(Shigella dysenteriae)、シゲラ・ボイディイ(Shigella boydii)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)、及び、エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae)等が挙げられる。Shigella flexneri 5 str. 8401(GenBank accession ABF05491)、Shigella dysenteriae Sd197(GenBank accession ABB63568)、Shigella boydii Sb227(GenBank accession ABB67930)、Salmonella enterica typhimurium strain ATCC700720 (Salmonella typhimurium LT2とも名付けられている)(GenBank accession AAL22411)、Salmonella enterica enterica choleraesuis strain SC-B67(GenBank accession AAX67386)、Salmonella enterica typhi strain Ty2(GenBank accessionAAO71440)、Klebsiella pneumoniae ATCC202080(US6610836、配列番号10810)、Salmonella enterica subsp. enterica serovar Paratyphi A str. ATCC9150(GenBank accession AAV79214)、Klebsiella pneumoniae clone KPN308894(WO02077183、配列番号60310)、Enterobacter cloacae clone EBC103795(WO02077183、配列番号56162)のGGTのアミノ酸配列を、配列番号3〜12に示す。
【0024】
各GGT中のリーダーペプチド、大サブユニット、及び小サブユニットの位置を、表1に示す。また、各GGTの小サブユニットのアミノ酸配列のアラインメントを、
図1、及び
図2に示す。各々の小サブユニットアミノ酸配列のコンセンサス配列を、
図1、2及び配列番号13に示す。また、各細菌の小サブユニットと、エシェリヒア・コリの小サブユニットとの同一性を、表1に示す。尚、
図1、2中のアミノ酸表記は以下のとおりである。Xは、具体的には、
図1、2のアラインメントにおいて、各細菌のGGT小サブユニット中のXの位置に相当するアミノ酸残基が挙げられる。例えば、配列番号13の4位のXは、Tyr又はPheである。
【0025】
A:Ala、C:Cys、D:Asp、E:Glu、F:Phe、G:Gly、H:His、I:Ile、K:Lys、L:Leu、M:Met、N:Asn、P:Pro 、Q:Gln、R:Arg、S:Ser、T:Thr、V:Val、W:Trp、X:Xaa、Y:Tyr
【0027】
野生型GGTとして好ましい形態は、小サブユニットに配列番号13のアミノ酸配列を含むものである。
【0028】
本発明の変異型GGTは、小サブユニットに、下記より選ばれる1又はそれ以上の残基に変異を有するものである。
N411、T413、Q430、P441、V443、Y444、L446、A453、D472、G484、S498、D561、Q542、S572。
上記表記における、数字の左側の文字はアミノ酸残基を、数字はGGTにおける位置を、各々示す。アミノ酸残基の位置は、ggt遺伝子のORFによってコードされるGGT前駆体(リーダーペプチド、大サブユニット、小サブユニットがこの順で連結したタンパク質)のアミノ酸配列上の位置で表される。例えば、エシェリヒア・コリのGGT小サブユニットのN末端のアミノ酸残基は、配列番号2の26位に相当する。以下、GGTのアミノ酸配列というときは、特記しない限り、GGT前駆体のアミノ酸配列を指すことがある。
【0029】
前記変異の位置において、置換後のアミノ酸残基は、元のアミノ酸残基以外のアミノ酸残基であればいずれであってもよいが、具体的には、下記より選ばれる変異が挙げられる。
N411Q
T413(H, N, A)
Q430(M, N)
P441A
V443(E, L, G, N, Q, A)
Y444(D, E, N,A)
L446A
A453S
D472I
G484(S, A)
S498C
Q542H
D561N
S572K。
変異の表記におけるアミノ酸を示す文字は前記と同様である。数字は、変異の位置を表す。数字の左側の文字は野生型におけるアミノ酸残基を、数字の右側の文字は変異後のアミノ酸残基を、各々示す。例えば、「N411Q」は411位のAsn残基がGln残基に置換されたことを示す。また、数字の右側のカッコ内の文字は、変異後のアミノ酸残基を包括的に示す。例えば、T413(H, N, A)は、413位のThr残基がHis、Asn、又はAlaのいずれかのアミノ酸残基に置換されることを示す。
【0030】
本発明の変異型GGTとしてより具体的には、小サブユニットに、下記に示す変異のいずれかを有するものが挙げられる。「+」で表される2又は3以上の変異の併記は、二重変異又はそれ以上の多重変異を示す。例えば、(N411Q + Q430N)は、変異型GGTがN411Q変異とQ430N変異を同時に有することを示す。
【0031】
N411Q、T413H、T413N、T413A、Q430M、Q430N、P441A、V443E、V443L、V443G、V443N、V443Q、V443A、Y444D、Y444E、Y444N、Y444A、L446A、A453S、D472I、G484S、G484A、G484E、S498C、Q542H、D561N、S572K、
(N411Q + Q430N)
(N411Q + S572K)
(T413N + G484E)
(T413N + G484S)
(T413A + Y444E)
(T413H + Y444E)
(T413N + Y444E)
(Q430N + Y444E)
(Q430N + Y444D)
(Q430N + Y444N)
(P441A + Y444E)
(V443A + Y444E)
(V443E + Y444E)
(V443G + Y444E)
(V443L + Y444E)
(V443N + Y444E)
(V443Q + Y444E)
(V443A + Y444E)
(Y444E + L446A)
(Y444E + A453S)
(Y444E + D472I)
(Y444E + G484A)
(Y444E + G484S)
(Y444E + Q542H)
(Y444E + D561N)
(T413N + Y444E + V443A)
(T413N + Y444E + A453S)
(T413N + Y444E + S498C)
(T413N + Y444E + Q542H)
(G484S + Y444E + T276N)
(G484S + Y444E + V443A)
(G484S + Y444E + Q542H)
(Q430N + Y444E + T413N)
(T413H + Y444E + G484S)
(T413N + Y444E + G484S)
(T413N + Y444E + G484S + V443A)
(T413N + Y444E + G484S + A453S)
(T413N + Y444E + G484S + Q542H)
(T413N + Y444E + G484S + S572K)
(T413N + Y444E + G484S + Q430N)
(T413N + Y444E + G484E + S498C)
【0032】
上記変異の内、413位、472位、及び、572位は、新規な変異部位である。また、N411Q、Q430M、Q430N、Q430P、Q430S、Q430Y、Y444D、Y444E、D472S、及び、G484Sは新規な変異である。
【0033】
上記のうち、好ましいのは、実施例5においてγ-Glu-Val-Glyの生成が確認されたいずれかの変異である。また、本発明の方法において特に好ましいのは、実施例5におけるγ-Glu-Val-Glyの生成量が、単変異において40mM以上、複合変異において60mM以上である変異が好ましい。例えば、N411Q、Q430M、Y444A、Y444D、Y444E、G484S、及び、上記の二重変異、三重変異、又は四重変異を有するものである。
また、別の観点からは、上記変異のうち、Y444E変異、又はY444Eと1又はそれ以上の変異との組合せからなる複合変異であることも好ましい。
また、本発明の変異型γ−グルタミルトランスフェラーゼとしては、変異型として公知のY444A(実施例5におけるGlu-Val-Glyの生成量が52.5mM)よりも活性の優れた変異型酵素が特に好ましく、例えば、Y444D、Y444E、及び、上記の二重変異、三重変異、又は四重変異を有するものである。
【0034】
エシェリヒア・コリ以外の微生物のGGTに関しては、エシェリヒア・コリのGGTのアミノ酸配列上の変異に相当する変異の位置は、そのGGTのアミノ酸配列とエシェリヒア・コリのGGTのアミノ酸配列のアラインメントにおける、エシェリヒア・コリのGGTのアミノ酸配列中の位置で表される。例えば、ある微生物のGGTのアミノ酸配列中の100位のアミノ酸残基が、エシェリヒア・コリのGGTのアミノ酸配列中の101位に相当するときは、そのアミノ酸残基は101位であるとみなされる。本発明において、配列番号2における特定の残基に相当する残基とは、このように、配列番号2のアミノ酸配列と対象配列とのアライメントにおいて、配列番号2のアミノ酸配列における特定のアミノ酸残基に相当する残基をいう。同様に、配列番号2における特定の変異に相当する変異とは、上記のように、配列番号2のアミノ酸配列と対象配列とのアライメントにおいて、配列番号2のアミノ酸配列における特定のアミノ酸残基における変異に相当する残基をいう。
アラインメントの方法としては、公知の遺伝子解析ソフトウェアが利用可能である。具体的なソフトウェアには、日立ソリューションズ製のDNASISや、ゼネティックス製のGENETYXなどが挙げられる(Elizabeth C. Tyler et al., Computers and Biomedical Research, 24(1), 72-96, 1991;Barton GJ et al., Journal of molecular biology, 198(2), 327-37. 1987)。
【0035】
また、変異の位置は、必ずしも変異型GGTのアミノ酸配列におけるN末端からの絶対的な位置を示すものではなく、配列番号2に記載のアミノ酸配列との相対的な位置を示すものである。例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するGGTにおいて、n位よりもN末端側の位置で一アミノ酸残基が欠失した場合、このn位はN末端からn-1番目のアミノ酸残基となる。このような場合であっても、前記アミノ酸酸残基は、n位のアミノ酸残基とみなされる。アミノ酸置換の絶対的な位置は、対象のGGTのアミノ酸配列と配列番号2のアミノ酸配列とのアラインメントにより、決定することができる。この場合のアラインメントの方法もまた、上述の方法と同様である。
【0036】
本発明の変異型GGTは、大サブユニットには変異を有していなくてもよいが、下記に示す変異のいずれかを有していてもよい。
P27H、E38K、L127V、F174A、F174I、F174L、F174M、F174V、F174W、F174Y、T246R、T276N、V301L
【0037】
小サブユニットと大サブユニットの変異の組合わせとしては、下記のものが挙げられる。
(E38K + Y444E)
(F174A + Y444E)
(F174I + Y444E)
(F174L + Y444E)
(F174M + Y444E)
(F174V + Y444E)
(F174W + Y444E)
(F174Y + Y444E)
(T246R + Y444E)
(V301L + Y444E)
(T413N + Y444E + P27H)
(T413N + Y444E + E38K)
(T413N + Y444E + L127V)
(T413N + Y444E + T276N)
(G484S + Y444E + T276N)
(G484S + Y444E + P27H)
【0038】
さらに、本発明の変異型GGTは、そのアミノ酸配列、例えば配列番号2〜12のいずれかにおいて、GGT活性が損われない限り、それらの保存的バリアント、すなわち、上記アミノ酸配列を有するタンパク質のホモログや人為的な改変体等であってもよい。すなわち、上記アミノ酸配列において、前記変異以外に、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列を有していてもよい。「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、具体的には好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個を意味する。また、保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、または逆位等には、遺伝子が由来する微生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
【0039】
さらに、上記のような保存的変異を有するGGTは、配列番号2〜12のアミノ酸配列に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有し、かつ、GGT活性を有するタンパク質であってもよい。
尚、本明細書において、「相同性」(homology)は、「同一性」(identity)を指すことがある。
【0040】
また、GGTは、配列番号1の塩基配列に相補的な塩基配列を有するプローブ、又は前記相補的な塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAによってコードされ、かつ、GGT活性を有するタンパク質も含まれる。ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、例えば、42℃でのハイブリダイゼーション、及び1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による42℃での洗浄処理を挙げることができ、65℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理をより好ましく挙げることができる。なお、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える要素としては、上記温度条件以外に種々の要素があり、当業者であれば、種々の要素を適宜組み合わせて、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0041】
ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、ggt遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、公知の遺伝子配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、これらの塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとして、300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
【0042】
本発明の変異型GGTは、それをコードする変異型ggt遺伝子を適当なベクターに挿入し、得られた組換えベクターを適切な宿主に導入し、発現させることによって製造することができる。また、後述するγ-Glu-Val-Glyの製造法に用いる、変異型GGTを含有する微生物は、前記組組換えベクターを適切な宿主微生物に導入することによって取得することができる。
【0043】
特定の変異を有するggt遺伝子は、例えば、部位特異的変異法によって、コードされるGGTの特定の部位のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基で置換されるように、野生型ggt遺伝子、例えば配列番号2〜12のいずれかのアミノ酸配列をコードするggt遺伝子の塩基配列を改変することによって取得することができる。
【0044】
DNAの目的部位に目的の変異を起こす部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))、ファージを用いる方法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))などがある。
【0045】
変異型ggt遺伝子を組込むベクターとしては、宿主において複製可能なものであれば特に制限はない。宿主としてエシェリヒア・コリを用いる場合には当該細菌で自律複製できるプラスミドを挙げることができる。例えば、pUC19、pET、pGEMEX、pGEM-T等が使用可能である。また、好ましい宿主としては、エシェリヒア・コリ菌株が挙げられるが、これ以外にも、構築した組換えDNAの複製起点と変異型ggt遺伝子が機能し、組換えDNAが複製可能でかつ変異型ggt遺伝子の発現が可能な微生物ならば、すべて宿主として利用できる。宿主としては、例えばエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等のエシェリヒア属細菌、エンテロバクター属細菌、パントエア属細菌等のグラム陰性細菌、グラム陽性細菌としてはバチルス属細菌、コリネバクテリウム属細菌等を用いることが出来る。たとえば、バチルス・ズブチリスの場合には、産生されるGGTは細胞外へ分泌されることが知られており(XU et al., Journal of Bacteriology Vol.178 No.14 (1996))、変異型ggt遺伝子を細胞外へ分泌させても良い。その他、酵母、カビなどの細胞等を利用して、目的の変異型ggt遺伝子を発現させても良い。
【0046】
形質転換法としては、例えば、エシェリヒア・コリ K-12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel, M. and Higa, A.,J. Mol. Biol. 1970, 53, 159-162)、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan, C. H., Wilson, G. A. and Young, F. E.., 1997. Gene 1: 153-167)などが挙げられる。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S.and Choen, S.N., 1979. Mol. Gen. Genet. 168: 111-115; Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A. 1978. Nature 274: 398-400; Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R. 1978. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75: 1929-1933)も応用できる。また、電気パルス法(特開平2-207791号公報)によっても、微生物の形質転換を行うこともできる。
【0047】
変異型ggt遺伝子を発現させるためのプロモーターは、ggt遺伝子固有のプロモーターでもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。他の遺伝子のプロモーターとしては、rpoHプロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージのPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、等が挙げられる。
【0048】
また、ggt遺伝子を挿入するベクターとして、遺伝子の発現に好適なプロモーターを含む発現ベクターを用いてもよい。
【0049】
上記のようにして得られる変異型ggt遺伝子を含む組換えDNAを導入した形質転換体は、炭素源、窒素源、無機イオン、更に必要ならば有機栄養源を含む適当な培地で培養することにより変異型GGTを発現させることができる。
【0050】
変異型ggt遺伝子を発現する微生物を、γ-Glu-Val-Glyの製造に用いる場合、前記微生物は、ペプチダーゼD(PepD)を欠損していることが好ましい。PepDの欠損には、PepDを完全に消失している場合に加えて、野生株よりもPepDの量又は活性が少ない場合を含む。本発明者等は、エシェリヒア・コリでは、PepDがVal-Glyの分解に大きく関与していることを見出した。変異型GGT発現微生物がPepDを欠損することによって、Val-Glyを基質とするγ-Glu-Val-Glyの生成量を高くすることができる。
【0051】
PepDを欠損させるには、例えば、PepDをコードするpepD遺伝子の発現を低下させればよい。pepD遺伝子の発現は、野生型RNA又は野生型タンパク質が発現しないように染色体上のpepD遺伝子を改変すること、例えばpepD遺伝子を破壊することによって低下させることができる。このような遺伝子破壊を行う方法としては、例えば「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))や、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組合わせた方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミド、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で複製起点を持たないスイサイドベクターを利用する方法などがある(米国特許第6303383号明細書、または特開平05-007491号公報)。
エシェリヒア・コリのpepD遺伝子の塩基配列、及び同遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を、配列番号14、及び15に示す。また、エシェリヒア・コリの他のペプチダーゼ遺伝子である、pepA、pepB、pepE、及びpepN遺伝子の塩基配列を各々配列番号16、18、20、及び22に示す。また、これらの遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を各々配列番号17、19、21、及び23に示す。変異型ggt遺伝子を発現する微生物は、PepDを欠損している限り、任意の他のペプチダーゼを欠損していてもよい。
【0052】
<2>γ-Glu-Val-Gly又はその塩の製造法
上記のようにして得られる変異型GGT、又はこの変異型GGTを含有する微生物もしくはその処理物の存在下で、Val−Gly又はその塩をγ-グルタミル基供与体と反応させて、γ-Glu-Val-Gly又はその塩を生成させることにより、γ-Glu-Val-Gly又はその塩が製造される。
【0053】
変異型GGTを含有する微生物は、変異型ggt遺伝子が発現可能な形態で導入された微生物を、同遺伝子が発現可能な条件で培養し、菌体を増殖させることにより製造することができる。培養に用いる培地としては、目的の微生物が増殖し得るものであれば特に制限されず、炭素源、窒素源、イオウ源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地を用いることができる。
【0054】
炭素源としては、グルコース、フラクトース、シュクロース、グリセロール、エタノール、糖蜜やでんぷんの加水分解物などの糖類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類を用いることができる。
【0055】
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。
【0056】
イオウ源としては、硫酸塩、亜硫酸塩、硫化物、次亜硫酸塩、チオ硫酸塩等の無機硫黄化合物が挙げられる、
【0057】
有機微量栄養源としては、ビタミンB1などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じてリン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0058】
培養条件は、用いる微生物によって適宜設定すればよく、例えば、培養温度は20℃〜45℃、好ましくは24℃〜45℃で培養することが好ましい。培養は通気培養が好ましく、酸素濃度は、飽和濃度に対して5〜50%に、望ましくは10%程度に調節して行うことが好ましい。また、培養中のpHは5〜9が好ましい。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、例えば炭酸カルシウム、アンモニアガス、アンモニア水等を使用することができる。
【0059】
上記のような条件下で、好ましくは10時間〜120時間程度培養することにより、菌体のぺリプラズムに変異型GGTが蓄積する。
尚、使用する宿主及びggt遺伝子の設計によっては、菌体内にGGTを蓄積させることや、もしくは、菌体外にGGTを分泌生産させることも可能である。
【0060】
変異型GGTは、菌体に含まれたまま使用することもできるが、菌体から抽出した粗酵素画分又は精製酵素として使用してもよい。変異型GGTは、通常のペリプラズム酵素の抽出と同様の方法、例えば浸透圧ショック法、凍結融解法等により、抽出することができる。また、変異型GGTの精製は、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、等電点沈殿等、酵素の精製に通常用いられる手法を適宜組み合わせて行うことができる。菌体外にGGTが分泌生産される場合は、培地から採取した変異型GGTを使用することができる。
【0061】
変異型GGTを含有する微生物の処理物としては、変異型GGTが機能可能な状態で含まれる限り特に制限されず、菌体破砕物、菌体抽出物、それらの部分精製物、又は精製酵素等、及び、それらをアクリルアミド、カラギーナン等で固定化した菌体、又は変異型GGTを樹脂等の固相に固定化した固定化酵素などが挙げられる。
【0062】
上記のようにして得られる変異型GGT、又は変異型GGTを含有する微生物もしくはその処理物の存在下で、Val-Glyをγ-グルタミル基供与体と反応させる。
【0063】
Val-Gly又はその塩は、ホルミル-L-バリンとグリシンエチルエステルを原料として、化学合成法によっても製造することが出来る(Journal of the American Chemical Society (1958), 80, 1154-1158)。あるいは、バリンのN−カルボキシ無水物(バリン-NCA)とグリシンを原料とした化学合成法を利用することが出来る(Canadian Journal of Chemistry (1973), 51(8), 1284-87)。また、その他のペプチド合成法として知られている方法も利用することが出来る(「ペプチド合成の基礎と実験」丸善株式会社(1985))。
【0064】
また、用いるVal-Glyが塩の形態をとる場合、化学的に許容される塩であればいずれの塩であっても良い。ここに「化学的に許容される塩」としては、具体的に例えば、カルボキシル基等の酸性基に対しては、アンモニウム塩、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ジシクロヘキシルアミン等の有機アミンとの塩、アルギニン、リジン等の塩基性アミン酸との塩を挙げることができる。また、塩基性基に対しては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、臭化水素酸等の無機酸との塩、酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、ヒベンズ酸、パモ酸、エナント酸、デカン酸、テオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、マンデル酸、リンゴ酸等の有機カルボン酸との塩、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩を挙げることができる。
さらに、本発明の方法により得られるγ-Glu-Val-Glが、塩の形態をとる場合において、化学的、薬理学的に許容される、可食性の塩であればよく、例えば、カルボキシル基等の酸性基に対しては、アンモニウム塩、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ジシクロヘキシルアミン等の有機アミンとの塩、アルギニン、リジン等の塩基性アミン酸との塩を挙げることができる。また、塩基性基に対しては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、臭化水素酸等の無機酸との塩、酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、ヒベンズ酸、パモ酸、エナント酸、デカン酸、テオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、マンデル酸、リンゴ酸等の有機カルボン酸との塩、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩を挙げることができる。、食品として用いる場合においては可食性の塩であれば良い。
【0065】
酵素反応を利用したペプチド製造法は、ペプチドの製造法として報告されている以下の方法、すなわち、N保護、C無保護のカルボキシ成分とN無保護、C保護のアミン成分を用いる縮合反応(反応1)、N保護、C保護のカルボキシ成分とN無保護、C保護のアミン成分を用いる置換反応(反応2)、N無保護、C保護のカルボキシ成分とN無保護、C保護のアミン成分を用いる置換反応(反応3)、N無保護、C保護のカルボキシ成分とN無保護、C無保護のアミン成分を用いる置換反応(反応4)、あるいはN無保護、C保護のカルボキシ成分とN無保護、C無保護のアミン成分を用いる転移反応(反応5)を用い、反応物からVal-Gly又はその塩を精製することによって、製造することができる。
【0066】
(反応1)の例としては、例えばZ−アスパラギン酸とフェニルアラニンメチルエステルからのZ-アスパルチルフェニルアラニンメチルエステルの製造方法(特許文献X;特開昭53−92729号公報)、(反応2)の例としては、例えばアセチルフェニルアラニンエチルエステルとロイシンアミドからのアセチルフェニルアラニルロイシンアミドの製造方法(Biochemical J., 163, 531 (1977))、(反応3)の例としては、例えばアルギニンエチルエステルとロイシンアミドからのアルギニルロイシンアミドの製造方法(WO 90/01555公報)、(反応4)の例としては、例えばチロシンエチルエステルとアラニンからのチロシルアラニンの製造方法(EP 278787A1公報、EP 359399B1公報)、(反応5)の例としては、例えばアラニンメチルエステルとグルタミンからのアラニルグルタミンの製造方法(W2004/011653)が挙げられる。以上の反応をVal-Gly又はその塩の製造に応用することが考えられる。この場合には、カルボキシル末端をエステル化又はアミド化したバリンと、アミノ基がフリーの状態であるグリシンをペプチド生成酵素の存在下で反応させ、反応物からVal-Glyを精製することによって、製造することが出来る。
【0067】
γ-グルタミル基供与体としては、γ-グルタミル化合物の中から選択することができる。例えば、グルタミン、グルタミン酸-γ-メチルエステル等のグルタミン酸-γ-アルキルエステル等、またはこれらの塩が挙げられる。これらの中ではグルタミン又はその塩が好ましい。この場合の塩についても、上記の化学的に許容される塩であれば良く、その定義も同様である。
【0068】
Val-Gly又はその塩とγ-グルタミル基供与体との反応は、バッチ式でもよく、カラム式でもよい。バッチ式の場合は、反応容器内の反応液中で、Val-Gly又はその塩、γ-グルタミル基供与体、及び変異型GGT、又は変異型GGTを含有する微生物もしくはその処理物を混合すればよい。反応は、静置でもよく、撹拌下でもよい。バッチ式の場合は、固定化菌体又は固定化酵素を充填したカラムに、Val-Gly又はその塩及びγ-グルタミル基供与体を含む反応液を通液すればよい。
【0069】
反応液は、Val-Gly又はその塩、及びγ-グルタミル基供与体を含む水又は緩衝液が好ましく、pHは好ましくは6.0〜10.0、より好ましくは6.5〜9.0である。
【0070】
反応時間又は反応液の通液速度は、基質の濃度、基質に対する変異型GGTの量等により適宜設定することができる。具体的には例えば、酵素量は一定条件下での酵素活性を測定し、その活性値に基づいて添加量を決定することが出来る。たとえば、反応液組成を0.1Mグルタミン、0.1M Val-Gly、0.1Mリン酸カリウム(pH7.6)、反応温度37℃、反応時間1−10分として、適切な酵素量を使用すれば酵素活性を測定することが出来る。たとえば、本条件で1分間に1μmolのγ-Glu-Val-Glyを生成せしめる酵素量を1Uとした場合、基質濃度としてγ-グルタミル基供与体であるグルタミンは1〜2000mM、Val-Glyは1〜2000mM、酵素濃度は0.1U/ml〜100U/mlで反応することが可能である。
【0071】
反応温度は、通常15〜50℃、好ましくは15〜45℃、より好ましくは20〜40℃である。
【0072】
反応液中のVal-Gly又はその塩及びγ-グルタミル基供与体のモル比は、反応に使用するγ-グルタミル基供与体の種類にもよるが、通常、Val-Gly:γ-グルタミル基供与体=1:0.1〜1:10が好ましい。反応液中のVal-Gly及びγ-グルタミル基供与体の濃度は、それぞれ、通常、1〜2000mM、好ましくは100〜2000mM、より好ましくは100〜1000mMである。
【0073】
基質に対する変異型GGTの量は、基質1mmolに対して、通常、0.01〜1000U、好ましくは0.1〜500U、より好ましくは0.1〜100Uである
【0074】
変異型GGTを含有する微生物又はその処理物を用いる場合、ペプチダーゼ、特にPepDが含まれていると、基質のVal-Gly、及び/又は産物のγ-Glu-Val-Glyが分解されやすい。したがって、微生物としてPepD欠損株を用いることが好ましい。あるいは、ペプチダーゼの酵素活性に必要な金属イオン、例えばCo
2+、Mn
2+、Fe
2+等のイオンをキレートする金属キレート剤を反応液に含ませることによっても、ペプチダーゼ活性を抑制することができる。金属キレート剤としては、EDTA等が挙げられる。反応液中の金属キレート剤の濃度は、通常、0.01〜500mM、好ましくは0.01〜100mM、より好ましくは0.1〜10mMである。尚、精製された変異型GGT、又はペプチダーゼ活性を含まない粗精製変異型GGTを用いる場合は、金属キレート剤は不要であるが、含んでいてもよい。
【0075】
上記のようにして、反応液中にγ-Glu-Val-Glyが生成する。反応液からのγ-Glu-Val-Gly又はその塩の採取は、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー、溶液からの結晶化操作、再結晶等によって精製することができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明する。
〔実施例1〕GGT発現プラスミドの構築
GGT発現プラスミドは、下記に示すrpoHプロモーターを含む発現プラスミドpSF12_Sm_Aetにエシェリヒア・コリのggt遺伝子を挿入することで構築した。
【0077】
初めに、スフィンゴバクテリウム エスピー.FERM BP-8124由来ペプチド生成酵素とphoCプロモーターを含むpUC18由来プラスミドpSF_Sm_Aet(WO2006/075486 A1)に含まれるNdeI認識サイト(pUC18由来の制限酵素サイト)を欠失させるため、ストラタジーン社の「Quik Change Site-Directed Mutagenesis Kit」を使用し、pSF_Sm_Aetを鋳型として製造元のプロトコールに従い、配列番号24、25の配列で表されるプライマーを用いてPCRを実施した。得られたPCR産物をDpnIで消化した後、該反応液でエシェリヒア・コリJM109株を形質転換し、100mg/Lのアンピシリンナトリウム(Amp)を含むLB寒天培地に塗布後、25℃で36時間培養した。生育してきた形質転換体のコロニーから公知の方法に従ってプラスミドを抽出し、3100ジェネティックアナライザー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて塩基配列の確認を行い、目的の構造を持つプラスミドをpSF1_Sm_Aetと名付けた。FERM BP-8124株は、AJ110003と名付けられ、2002年7月22日付けで独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター)(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)にFERM BP-8124の受託番号でブダペスト条約に基づいて寄託されている。
【0078】
次に、pSF1_Sm_Aetのスフィンゴバクテリウム エスピー.FERM BP-8124由来ペプチド生成酵素遺伝子の開始メチオニン部分にNdeI認識配列を導入するため、上記の「Quik change Site-Directed Mutagenesis Kit」を使用し、pSF1_Sm_Aetを鋳型として、配列番号26、27の配列で表されるプライマーを用いてPCRを実施した。得られたPCR産物をDpnIで消化した後、該反応液でエシェリヒア・コリJM109株を形質転換し、100mg/LのAmpを含むLB寒天培地に塗布後、25℃で24時間培養した。生育してきた形質転換体のコロニーから公知の方法に従ってプラスミドを抽出し、3100ジェネティックアナライザー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて塩基配列の確認を行い、目的の構造を持つプラスミドをpSF2_Sm_Aetと名付けた。
【0079】
続いて、pSF2_Sm_AetのphoCプロモーターを、下記の方法に従ってrpoHプロモーターに置換した。rpoHプロモーター領域は、エシェリヒア・コリW3110株の染色体DNAからPCRにより取得した。PCRは、W3110株の染色体DNAを鋳型とし、センスプライマーとして配列番号28の配列で表されるプライマー(rpoHプロモーター領域の5'末端にXbaI認識配列を含む塩基配列を付加したもの)、およびアンチセンスプライマーとして配列番号29の配列で表されるプライマー(rpoHプロモーター領域と相補的な塩基配列の5'末端にNdeI認識配列を含む塩基配列を付加したもの)を用いて、ポリメラーゼとしてKOD-plus-(東洋紡社)を使用して、製造元のプロトコールに従って94℃で30秒、52℃で1分、68℃で30秒の条件で30サイクル行った。
【0080】
次に、得られたPCR産物をXbaI/NdeIで消化した後に、アガロースゲル電気泳動にて目的の約0.4kbのDNAを切り出し、XbaI/NdeIで消化したpSF2_Sm_Aet断片(約4.7kb)に、DNAライゲーションキットVer.2.1(タカラバイオ社製)を用いて連結した。該反応液でエシェリヒア・コリJM109株を形質転換し、100mg/LのAmpを含むLB寒天培地に塗布後、25℃で36時間培養した。生育してきた形質転換体のコロニーから公知の方法に従ってプラスミドを抽出し、3100ジェネティックアナライザー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて塩基配列の確認を行い、目的の構造を持つプラスミドをpSF12_Sm_Aetと名付けた。
【0081】
エシェリヒア・コリのggt遺伝子は、エシェリヒア・コリW3110株の染色体DNAからPCRにより取得した。PCRは、W3110株の染色体DNAを鋳型とし、センスプライマーとして配列番号30の配列で表されるプライマー(ggt遺伝子の開始コドンを含む領域の5'末端にNdeI認識配列を含む塩基配列を付加したもの)およびアンチセンスプライマーとして配列番号31の配列で表されるプライマー(ggt遺伝子の終止コドンを含む配列と相補的な塩基配列の5'末端にPstI配列を含む塩基配列を付加したもの)を用いて、KOD-plus-を使用して製造元のプロトコールに従って94℃で30秒、52℃で1分、68℃で120秒の条件で30サイクル行った。次に、得られたPCR産物をNdeI/PstIで消化した後に、アガロースゲル電気泳動にて目的の約1.8kbのDNAを切り出し、NdeI/PstIで消化したpSF12_Sm_Aet断片(約3.0kb)にDNAライゲーションキットVer.2.1(タカラバイオ社製)を用いて連結した。該反応液をエシェリヒア・コリJM109株で形質転換し、100mg/LのAmpを含むLB寒天培地に塗布後、25℃で36時間培養した。生育してきた形質転換体のコロニーから公知の方法に従ってプラスミドを抽出し、3100ジェネティックアナライザー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて塩基配列の確認を行い、目的の構造を持つプラスミドをpSF12_ggtと名付けた。
【0082】
〔実施例2〕エシェリヒア・コリJM109株由来pepA遺伝子、pepB遺伝子、pepD遺伝子、pepE遺伝子、およびpepN遺伝子破壊株の作製
エシェリヒア・コリJM109株を親株として、PepA、PepB、PepD、PepE、およびPepN非産生株の構築を行った。PepAはpepA遺伝子(GenBank Accession;7439053、配列番号16)、PepBはpepB遺伝子(GenBank Accession;7437614、配列番号18)、PepDはpepD遺伝子(GenBank Accession;7438954、配列番号14)、PepEはpepE遺伝子(GenBank Accession;7438857、配列番号20)、PepNはpepN遺伝子(GenBank Accession;7438913、配列番号22)によってコードされている。
【0083】
各遺伝子の破壊は、DatsenkoとWannerによって最初に開発された「Red-driven integration」と呼ばれる方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, vol.97, No.12, p6640-6645)とλファージ由来の切り出しシステム(J. Bacteriol. 2002 Sep; 184(18): 5200-3.Interactions between integrase and excisionase in the phage lambda excisive nucleoprotein complex. Cho EH, Gumport RI,Gardner JF.)を組合わせた方法(WO2005/010175号参照)によって行った。「Red-driven integration」方法によれば、目的とする遺伝子の一部を合成オリゴヌクレオチドの5'側に、抗生物質耐性遺伝子の一部を3'側にデザインした合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて得られたPCR産物を用いて、一段階で遺伝子破壊株を構築することができる。さらにλファージ由来の切り出しシステムを組み合わせることにより、遺伝子破壊株に組み込んだ抗生物質耐性遺伝子を除去することが出来る。
【0084】
PCRの鋳型として、プラスミドpMW118-attL-Cm-attRを使用した。pMW118-attL-Cm-attR(WO2006078039)は、pMW118(ニッポンジーン社製)にλファージのアタッチメントサイトであるattL及びattR遺伝子と抗生物質耐性遺伝子であるcat遺伝子を挿入したプラスミドであり、attL-cat-attRの順で挿入されている。このattLとattRの両端に対応する配列をプライマーの3'末端に、目的遺伝子であるpepA、pepB、pepD、pepE、およびpepN遺伝子の一部に対応する配列をプライマーの5'末端に有する合成オリゴヌクレオチドをプライマーに用いてPCRを行った。
【0085】
すなわち、pepA遺伝子破壊用DNA断片は、pMW118-attL-Cm-attRを鋳型とし、配列番号32および配列番号33の配列で表されるプライマーを用いて、東洋紡社のKOD-plus-にて製造元のプロトコールに従って94℃で30秒、52℃で1分、68℃で120秒の条件で30サイクルのPCRを行うことで調製した。
【0086】
pepB遺伝子破壊用DNA断片は、下記の通り取得した。エシェリヒア・コリW3110株の染色体DNAを鋳型とし、配列番号34および配列番号35で表されるプライマーを用いてKOD-plus-にて製造元のプロトコールに従って94℃で30秒、52℃で1分、68℃で60秒の条件で30サイクルのPCRを行うことで、pepB遺伝子上流約1.0kbを増幅した(DNA断片A)。同様に、配列番号36および配列番号37で表されるプライマーを用いてKOD-plus-にて製造元のプロトコールに従って94℃で30秒、52℃で1分、68℃で60秒の条件で30サイクルのPCRを行うことで、pepB遺伝子下流約1.0kbを増幅した(DNA断片B)。さらに、プラスミドpMW118-attL-Cm-attRを鋳型として、配列番号38および配列番号39で表されるプライマーを用いてKOD-plus-にて製造元のプロトコールに従って94℃で30秒、52℃で1分、68℃で120秒の条件で30サイクルのPCRを行うことで約1.6kbの断片を増幅した(DNA断片C)。得られたDNA断片A、B、C、各々50、10、50ngを用いて、KOD-plus-にて製造元のプロトコールに従って94℃で2分、52℃で30秒、68℃で2分の条件で10サイクルのPCRを行った。次に、得られたPCR産物1μlを2nd PCRの鋳型として、配列番号34および配列番号37で表されるプライマーを用いてKOD-plus-にて製造元のプロトコールに従って94℃で30秒、52℃で1分、68℃で4分の条件で30サイクルのPCRを行うことでpepB遺伝子破壊用DNA断片を得た。
【0087】
pepD遺伝子破壊用DNA断片は、配列番号40および配列番号41の配列で表されるプライマーを用いて、KOD-plus-にて製造元のプロトコールに従って94℃で30秒、52℃で1分、68℃で120秒の条件で30サイクルのPCRを行うことで調製した。
pepE遺伝子破壊用DNA断片は、配列番号42および配列番号43の配列で表されるプライマーを用いて、KOD-plus-にて製造元のプロトコールに従って94℃で30秒、52℃で1分、68℃で120秒の条件で30サイクルのPCRを行うことで調製した。
pepN遺伝子破壊用DNA断片は、配列番号44および配列番号45の配列で表されるプライマーを用いて、KOD-plus-にて製造元のプロトコールに従って94℃で30秒、52℃で1分、68℃で120秒の条件で30サイクルのPCRを行うことで調製した。
【0088】
上記のようにして得られたそれぞれの遺伝子破壊用DNA断片をアガロースゲル電気泳動で精製し、温度感受性の複製能を有するプラスミドpKD46を含むエシェリヒア・コリJM109株にエレクトロポレーションにより導入した。プラスミドpKD46(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000, vol. 97, No. 12, p6640-6645)は、アラビノース誘導性P
araBプロモーターに制御されるλRed相同組換えシステムのRedレコンビナーゼをコードする遺伝子(γ、β、exo遺伝子)を含むλファージの合計2154塩基のDNAフラグメント(GenBank/EMBL Accession;JO2459、第31088〜33241位)を含む。プラスミドpKD46は遺伝子破壊用DNA断片をJM109株の染色体に組み込むために必要である。エレクトロポレーション用のコンピテントセルは次のようにして調製した。すなわち、100mg/LのAmpを含んだLB培地中で30℃、20時間培養したプラスミドpKD46を含むエシェリヒア・コリJM109株を、Amp(100mg/L)を含んだ2mlのSOB培地(モレキュラークローニング:実験室マニュアル第2版、Sambrrok, J.ら,Cold SpringHarbor Laboratory Press(1989年))で50倍希釈した。得られた希釈物を30℃でOD600が約0.3になるまで生育させた後、10%(v/v)のL−アラビノースを70μl添加し、37℃で1時間培養した。得られた培養液を65倍に濃縮し、10%(v/v)グリセロールで3回洗浄することによってエレクトロポレーションに使用できるようにした。エレクトロポレーションは30μLのコンピテントセルと約100ngのPCR産物を用いて行った。
【0089】
エレクトロポレーション後、細胞懸濁液に、0.27mLのSOC培地(モレキュラークローニング:実験室マニュアル第2版、Sambrook, J.ら,Cold SpringHarbor Laboratory Press(1989年))を加えて37℃で3時間培養した後、37℃でクロラムフェニコール(Cm)(50mg/L)を含むLB-寒天培地上で培養し、Cm耐性組換え体を選択した。次に、pKD46プラスミドを除去するために、Cm(50mg/L)を含むLB-寒天培地上で42℃にて培養し、得られたコロニーのAmp耐性を試験し、pKD46が脱落しているAmp感受性株を取得した。Cm耐性遺伝子によって識別できた変異体のpepA遺伝子、pepB遺伝子、pepD遺伝子、pepE遺伝子、およびpepN遺伝子の破壊を、PCRによって確認した。得られたpepA遺伝子、pepB遺伝子、pepD遺伝子、pepE遺伝子、およびpepN遺伝子破壊株をJM109ΔpepA:att-cat株、JM109ΔpepB:att-cat株、JM109ΔpepD:att-cat株、JM109ΔpepE:att-cat株、およびJM109ΔpepN:att-cat株と名づけた。
【0090】
次に、pepA遺伝子、pepB遺伝子、pepD遺伝子、pepE遺伝子、およびpepN遺伝子内に導入されたatt-cat遺伝子を除去するために、ヘルパープラスミドとしてpMW-intxis-tsを使用した。pMW-intxis-tsは、λファージのインテグラーゼ(Int)をコードする遺伝子、及び、エクシジョナーゼ(Xis)をコードする遺伝子を搭載し、温度感受性の複製能を有するプラスミドである。pMW-intxis-ts導入により、染色体上のattLあるいはattRを認識して組換えを起こし、attLとattRの間の遺伝子を切り出し、染色体上にはattB配列のみ残る。上記で得られたJM109ΔpepA:att-cat株、JM109ΔpepB:att-cat株、JM109ΔpepD:att-cat株、JM109ΔpepE:att-cat株およびJM109ΔpepN:att-cat株のコンピテントセルを常法に従って作製し、pMW-intxis-tsにて形質転換し、30℃で100 mg/LのAmpを含むLB-寒天培地上にて培養し、Amp耐性株を選択した。次に、pMW-intxis-tsプラスミドを除去するために、LB寒天培地にて42℃で培養し、得られたコロニーのAmp耐性、及びCm耐性を試験して、att-cat及びpMW-intxis-tsが脱落し、かつ、pepA遺伝子、pepB遺伝子、pepD遺伝子、pepE遺伝子、およびpepN遺伝子が破壊された株である、Cm、Amp感受性株を取得した。これらの株をJM109ΔpepA株、JM109ΔpepB株、JM109ΔpepD株、JM109ΔpepE株、およびJM109ΔpepN株と名づけた。
【0091】
〔実施例3〕変異型ggt遺伝子の構築
変異型ggt遺伝子を構築するため、ストラタジーン社の「Quik change Site-Directed Mutagenesis Kit」を使用し、製造元のプロトコールに従って、各種変異型ggt遺伝子に対応するプライマー(配列番号46〜211)を用いて、実施例1に記載したpSF12_ggtを鋳型として、PCRを実施した。各変異とプライマーの関係を表2〜表5に示す。
【0092】
得られたPCR産物をDpnIで消化した後、該反応液をエシェリヒア・コリJM109ΔpepA株、JM109ΔpepB株、JM109ΔpepD株、JM109ΔpepE株又は、JM109ΔpepN株を形質転換し、100mg/LのAmpを含むLB寒天培地に塗布後、25℃で36時間培養した。生育してきた形質転換体のコロニーから公知の方法に従ってプラスミドを抽出し、3100ジェネティックアナライザー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いて塩基配列の確認を行い、目的の形質転換株を以後の検討に用いた。
【0093】
各変異が導入されたプラスミドは、pSF12-ggtに各々の変異の態様を付加して命名した。例えば、Y444E変異を有する変異型GGTをコードする変異型ggt遺伝子を持つプラスミドは、pSF12-ggt(Y444E)と表記する。
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
【表5】
【0098】
〔実施例4〕エシェリヒア・コリの各ペプチダーゼ欠損株と、Val-Gly分解能評価
JM109ΔpepA株、JM109ΔpepB株、JM109ΔpepD株、JM109ΔpepE株、およびJM109ΔpepN株を、各々pUC18により形質転換した。
【0099】
得られた形質転換株を100mg/LのAmpを含むLB培地[1.0%(w/v)ペプトン、0.5%(w/v)酵母エキス、1.0%(w/v)NaCl]を用いて25℃、22時間培養した。得られた培養液は、0.2Mリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)を用いて洗菌し、同緩衝液によって菌体けん濁液を調製した。100mM Val-Gly、0.2Mリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)、及び菌体を含む反応液を調製した。菌体は、反応液中の濃度が、51倍希釈で測定したときに610nmの吸光度が0.2となるようにした。反応液に金属塩を添加する場合には、終濃度が0.1mMとなるように調製した。エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を添加する場合には、ナカライテスク社製の500mM水溶液(pH8.0)を用いて、終濃度1mMとなるように加えた。反応条件は、20℃、20時間として、反応終了後にVal-GlyをHPLCにて定量した。条件は、以下のとおりである。
【0100】
カラムには、Phenomenex社製Synergi 4μ Hydro-RP 80A(粒子径4ミクロン、内径4.6mm、長さ250mm)を用いた。溶離液には、A液(50mMリン酸二水素ナトリウム(pH2.5、リン酸によってpH調整)、及び、B液(A液とアセトニトリルの1:1の混合液)を用いた。カラム温度は40℃、UV検出波長は210nmとし、溶離液のグラジエントは、0〜5分はB液0〜5%、5〜15分はB液5%、15〜30分はB液5〜80%、30〜30.1分はB液80〜0%、30.1〜50分はB液0%とした。
結果を表6に示す。
【0101】
【表6】
【0102】
表2に示されるように、エシェリヒア・コリ野生株菌体は、Co
2+、Mn
2+、又はFe
2+イオンが存在すると、Val-Glyを分解する。これらの結果から、Val-Glyの分解には、主としてPepDが関与しているが明らかとなった。尚、これらの金属イオンを添加しない場合、1mM EDTAの添加により、Val-Glyの抑制がある程度抑制された。
【0103】
〔実施例5〕GGT変異型酵素によるVal-Glyのγ−グルタミル化評価
JM109ΔpepD株を、実施例3に示したプラスミドで形質転換した。100mg/LのAmpを含むTB培地[Terrific Broth(モレキュラークローニング:実験室マニュアル第3版、Sambrook, J.ら,Cold SpringHarbor Laboratory Press(2001年)]を用いて25℃、22時間培養した。得られた培養液と等量の試験液(0.2M L-グルタミン、0.2M Val-Gly(試験液のpHはNaOHによって7.6に調整した))と混合することによって、反応を開始した。反応条件は、20℃、4時間として、反応終了後に、HPLCにてγ-Glu-Val-Glyを定量した。HPLCは、実施例4と同様にして行った。
結果を表7〜9に示す。
【0104】
【表7】
【0105】
【表8】
【0106】
【表9】
【0107】
〔実施例6〕エシェリヒア・コリの各ペプチダーゼ欠損株を宿主にしたGGT変異型酵素発現株によるVal-Glyのγ-グルタミル化評価
エシェリヒア・コリJM109、及びΔpepA株、ΔpepB株、ΔpepD株、ΔpepE株、ΔpepN株を、pUC18、pSF12-ggt、又は、pSF12-ggt(Y444E)により形質転換し、各形質転換株を得た。100mg/LのAmpを含むLB培地[1.0%(w/v)ペプトン、0.5%(w/v)酵母エキス、1.0%(w/v)NaCl]を用いて25℃、20時間培養した。得られた培養液を遠心分離し、湿菌体と上清に分離した。51倍希釈で測定したときに610nmの吸光度が0.4となるように、菌体を上清液によってけん濁し、菌体けん濁液を調製した。この菌体けん濁液を、等量の試験液(0.2Mリン酸カリウム緩衝液(pH8.0)、0.2M L-グルタミン、0.2M Val-Gly)と混合することによって反応を開始した。反応条件は、20℃、20時間として、反応終了後にγ-Glu-Val-Gly、及びVal-Glyを、実施例4と同様にしてHPLCにて定量した。結果を表10に示す。
【0108】
【表10】
【0109】
〔配列表の説明〕
配列番号1:Escherichia coli ggt遺伝子の塩基配列
配列番号2:Escherichia coli GGTのアミノ酸配列
配列番号3:Shigella flexneri flexneri 5 str. 8401 GGTのアミノ酸配列
配列番号4:Shigella dysenteriae Sd197 GGTのアミノ酸配列
配列番号5:Shigella boydii strain Sb227 GGTのアミノ酸配列
配列番号6:Salmenella Typhimurium ATCC700720 GGTのアミノ酸配列
配列番号7:Salmonella enterica enterica choleraesuis strain SC-B67 GGTのアミノ酸配列
配列番号8:Salmonella enterica typhi strain Ty2 GGTのアミノ酸配列
配列番号9:Klebsiella pneumoniae ATCC202080 GGTのアミノ酸配列
配列番号10:Salmonella enterica subsp. enterica serovar A str. ATCC9150 Paratyphi GGTのアミノ酸配列
配列番号11:Klebsiella pneumoniae clone KPN308894 GGTのアミノ酸配列
配列番号12:Enterobacter cloaceae clone EBC103795 GGTのアミノ酸配列
配列番号13:各種GGT小サブユニットのコンセンサス配列
配列番号14:Escherichia coli pepD遺伝子の塩基配列
配列番号15:Escherichia coli PepDのアミノ酸配列
配列番号16:Escherichia coli pepA遺伝子の塩基配列
配列番号17:Escherichia coli PepAのアミノ酸配列
配列番号18:Escherichia coli pepB遺伝子の塩基配列
配列番号19:Escherichia coli PepBのアミノ酸配列
配列番号20:Escherichia coli pepE遺伝子の塩基配列
配列番号21:Escherichia coli PepEのアミノ酸配列
配列番号22:Escherichia coli pepN遺伝子の塩基配列
配列番号23:Escherichia coli PepNのアミノ酸配列
配列番号24〜31:pSF12_ggt作製用PCRプライマー
配列番号32〜45:各種ペプチダーゼ遺伝子破壊用PCRプライマー
配列番号46〜199:変異導入用PCRプライマー