特許第6146356号(P6146356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146356
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】加振装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/42 20060101AFI20170607BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20170607BHJP
   H02J 7/02 20160101ALI20170607BHJP
   H01M 2/10 20060101ALI20170607BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALN20170607BHJP
【FI】
   H01M10/42 P
   H01M10/48 P
   H02J7/02 H
   H01M2/10 E
   !H01M10/0587
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-63436(P2014-63436)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-185501(P2015-185501A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】田川 嘉夫
【審査官】 緑川 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−199936(JP,A)
【文献】 特開2001−218376(JP,A)
【文献】 特開平07−240226(JP,A)
【文献】 特開平04−274175(JP,A)
【文献】 特開2012−022957(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0017422(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42−10/48
H02J 7/00−7/12,7/34−7/36
H01M 2/10
H01M 10/05−10/0587,10/36−10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルで構成される組電池を加振する加振装置であって、
それぞれの前記電池セルのセル電圧を検知し、セル電圧が所定の上限電圧以上である電圧制御対象セルを選択する電圧制御対象セル選択手段と、
前記電圧制御対象セルに蓄積された電力を用いて前記電池セルに対して振動を加える加振手段と、
を備えることを特徴とする加振装置。
【請求項2】
前記加振手段は、それぞれの前記電池セルに個別に取り付けられ、
前記加振手段による加振対象となる加振対象セルを選択する加振対象セル選択手段と、
前記電圧制御対象セルに蓄積された電力を前記加振対象セルに取り付けられた加振手段に供給して当該加振手段を稼働させる加振制御手段と、を更に備え、
前記加振対象セル選択手段は、前記電圧制御対象セル以外の電池セルを前記加振対象セルとして選択する、
ことを特徴とする請求項1記載の加振装置。
【請求項3】
前記加振対象セル選択手段は、前記セル電圧が所定の下限電圧以下である電池セルを前記加振対象セルとして選択する、
ことを特徴とする請求項2記載の加振装置。
【請求項4】
前記電池セルは、正極および負極からなる電極体と、電解質を含み前記電極体に含浸された電解液とが容器内に格納され、前記正極および前記負極にそれぞれ接続された電極端子が前記容器の外部に設けられており、
前記加振手段は前記容器の側面下部または底部を加振する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の加振装置。
【請求項5】
前記電池セルは、正極および負極からなる電極体と、電解質を含み前記電極体に含浸された電解液とが容器内に格納され、前記正極および前記負極にそれぞれ接続された電極端子が前記容器の外部に設けられており、
前記加振手段は負側の前記電極端子を加振する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の加振装置。
【請求項6】
前記組電池は、バッテリケース内に複数の前記電池セルが格納されており、
前記加振手段は前記バッテリケースを加振する、
ことを特徴とする請求項1記載の加振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組電池を加振する加振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータを駆動源とした電動車において、モータに電力を供給する走行用バッテリとして、リチウムイオン二次電池を電池セルとする組電池が多く使用されている。
このような組電池の電池セルは、正極および負極を備える電極体と、電解質を含む電解液と、電解液を含浸した電極体を格納する容器等からなり、電解質が電極間を移動することにより充放電がなされる。
ここで、電池セルの電解液中の電解質濃度が不均一になると、電極体に形成される表面皮膜が不均一となったり、デンドライトが発生したりして、電池セルの性能が低下する。
このような個々の電池セルの性能低下を回避するため、例えば下記特許文献1では、正極板、負極板、及びこれらの間に介在するセパレータを含む発電要素、及び、この発電要素に含浸され、リチウム塩を含む非水型の電解液、を有するリチウムイオン二次電池と、電解液に振動を加える電解液加振手段と、を備える電池システムが開示されている。
また、下記特許文献2では、電池槽内に正極および負極を配置するとともに電気二重層除去手段としての超音波発生用の振動子を取り付け、振動子により直接正極および負極を振動させて電解液を励起振動させ、電池槽内に保持された電解液と正極および負極の界面に存在する電気二重層を破壊する技術が開示されている。
【0003】
また、組電池全体の性能低下の一因として、電池セル間の電圧バラつきが挙げられる。
複数の電池セルによって構成される組電池では、充放電をくり返すことで各電池セルの劣化の進み具合が異なり、各電池セルの放電特性が微妙に異なることになる。
このような組電池において各電池セルの性能を最大限発揮できるようにするために、各電池セル間の電圧のズレを修正するセル電圧バランス技術が知られている。
具体的には、たとえば、各電池セルに抵抗を接続して一番電圧が低い電池セルに合わせて他の電池セルを放電させることによって、組電池内の電圧バランスを合わせる方法が知られている(例えば下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−251025号公報
【特許文献2】特開平6−84544号公報
【特許文献3】特開2003−289629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来技術では、二次電池中の電解液に振動を加えることにより電解質濃度を均一にしているが、振動の発生にはモータ(特許文献1)や発振機(特許文献2)等、電力を用いて駆動する機器(振動発生装置)が用いられている。
このような振動発生装置の駆動用電力には、振動対象となるリチウムイオン二次電池内の電力、またはこれ以外の電池等の電力が用いられる。ここで、リチウムイオン二次電池が電動車の走行用バッテリとして用いられる場合、航続可能距離を延ばすため、走行用電力以外の電力消費はなるべく抑えることが好ましい。
また、上述した組電池の電圧バランス制御では、性能の低い電池セルに合わせて、性能の高い電池セルに放電を行わせる制御が行われている。このため、本来組電池が使用される目的とは異なる形で電力消費が発生するという課題がある。
【0006】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、不要な電力消費を抑えつつ組電池の性能低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した問題を解決し、目的を達成するため、請求項1の発明にかかる加振装置は、複数の電池セルで構成される組電池を加振する加振装置であって、それぞれの前記電池セルのセル電圧を検知し、セル電圧が所定の上限電圧以上である電圧制御対象セルを選択する電圧制御対象セル選択手段と、前記電圧制御対象セルに蓄積された電力を用いて前記電池セルに対して振動を加える加振手段と、を備えることを特徴とする。
請求項2の発明にかかる加振装置は、前記加振手段は、それぞれの前記電池セルに個別に取り付けられ、前記加振手段による加振対象となる加振対象セルを選択する加振対象セル選択手段と、前記電圧制御対象セルに蓄積された電力を前記加振対象セルに取り付けられた加振手段に供給して当該加振手段を稼働させる加振制御手段と、を更に備え、前記加振対象セル選択手段は、前記電圧制御対象セル以外の電池セルを前記加振対象セルとして選択する、ことを特徴とする。
請求項3の発明にかかる加振装置は、前記加振対象セル選択手段は、前記セル電圧が所定の下限電圧以下である電池セルを前記加振対象セルとして選択する、ことを特徴とする。
請求項4の発明にかかる加振装置は、前記電池セルは、正極および負極からなる電極体と、電解質を含み前記電極体に含浸された電解液とが容器内に格納され、前記正極および前記負極にそれぞれ接続された電極端子が前記容器の外部に設けられており、前記加振手段は前記容器の側面下部または底部を加振する、ことを特徴とする。
請求項5の発明にかかる加振装置は、前記電池セルは、正極および負極からなる電極体と、電解質を含み前記電極体に含浸された電解液とが容器内に格納され、前記正極および前記負極にそれぞれ接続された電極端子が前記容器の外部に設けられており、前記加振手段は負側の前記電極端子を加振する、ことを特徴とする。
請求項6の発明にかかる加振装置は、前記組電池は、バッテリケース内に複数の前記電池セルが格納されており、前記加振手段は前記バッテリケースを加振する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、セル電圧が所定の上限電圧以上である電圧制御対象セルの電力を用いて加振手段を駆動する。これにより、組電池内の電池セルに電圧バラつきが生じた場合に、単なる放電によって電力を消費するのではなく、電池セルの振動に電力を使用することができ、電池セル内の電力をより有効に使用することができる。
請求項2の発明によれば、電圧制御対象セル以外の電池セルを加振対象セルとする。電圧制御対象セルは、劣化が進んでいない比較的性能が高い電池セルであり、これ以外の劣化が進んでいる電池セルを加振対象セルとすることによって、電池セル同士の性能バラつきが抑制され、組電池全体の電池性能を向上させることができる。
請求項3の発明によれば、セル電圧が所定の下限電圧以下である電池セルを加振対象セルとして選択する。相対的に電圧が低い電池セルは、劣化が進んだ電池セルであり、このような電池セルを選択して加振することによって、電池セル同士の性能バラつきをより抑制することができる。
請求項4の発明によれば、加振手段によって電池セルの容器の側面下部または底面を加振するので、容器内の電解液の液だまりを効率的に振動させることができ、迅速に電解質濃度を均等にすることができる。
請求項5の発明によれば、加振手段によって電池セルの負側の電極端子を加振するので、電極体の負極に形成されるデンドライトの発生を効率的に抑制することができる。
請求項6の発明によれば、加振手段によって組電池のバッテリケースを加振するので、特定の電池セルのみならず、全ての電池セルが振動され、全ての電池セルにおいて性能低下の抑制が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態にかかる加振装置10の構成を示すブロック図である。
図2】電池セル20Aの構成を示す説明図である。
図3】電池セル20Aの構成を示す説明図である。
図4】電池セル20Aの構成を示す説明図である。
図5】電池セル20Aの構成を示す説明図である。
図6】加振装置10による電圧バランス制御を模式的に示す説明図である。
図7】加振手段106に対する電力供給経路を模式的に示す説明図である。
図8】加振装置10による処理の手順を示すフローチャートである。
図9】加振手段106の取り付け位置の他の例を示す説明図である。
図10】加振手段106の取り付け位置の他の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる加振装置の好適な実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態では、本発明を、電動車を駆動する走行用バッテリとして用いられる組電池を加振する加振装置として用いた例について説明する。
【0011】
(実施の形態)
図1は、実施の形態にかかる加振装置10の構成を示すブロック図である。
本実施の形態では、加振装置10は電動車30に搭載されており、電動車30の駆動用電力を蓄電する走行用バッテリ20を加振する。
電動車30は、走行用バッテリ20に蓄電された電力を用いてモータ302を駆動してタイヤ304を回転させることによって走行する。なお、図示の便宜上、図1にはタイヤ304を2つのみ図示しているが、実際は4つのタイヤ304が装着されている。
【0012】
走行用バッテリ20は、複数の電池セル20Aが直列接続された組電池である。
すなわち、加振装置10は、直列接続された複数の電池セル20Aで構成される組電池(走行用バッテリ20)の電池セル20Aを加振する。
このように複数の電池セルを接続することにより、走行用バッテリ20は高電圧電力の供給を可能としている。
走行用バッテリ20への充電は、電動車30の車体外部などに設けられた充電口104に外部充電器50を接続し、外部電力を供給することによって行われる。より詳細には、充電口104に接続される外部充電器50が単相100V〜200V程度で充電を行う普通充電器である場合には、電動車30に搭載された車載充電器102で充電に適した電圧に昇圧して走行用バッテリ20に供給する。また、充電口104に接続される外部充電器50が交流〜500V程度で充電を行う急速充電器である場合には、充電口104から供給された電力をそのまま走行用バッテリ20に供給する。
なお、図1では充電口104を1つのみ図示しているが、通常は普通充電用の充電口と急速充電用の充電口の2つの充電口が設けられる。
【0013】
また、走行用バッテリ20への充電は、電動車30の回生時にも行われる。
すなわち、電動車30の減速時に生じる回生力を利用してモータ302で発電を行い、発電した電力を走行用バッテリ20に蓄電することによって、走行中も走行用バッテリ20の充電を行う。
【0014】
つぎに、走行用バッテリ20を構成する電池セル20Aについて説明する。
図2図5は、電池セル20Aの構成を示す説明図である。
図2Aは電池セル20Aの外観、図2Bは電池セル20Aの内部構成を示している。
本実施の形態では、電池セル20Aはリチウムイオン二次電池であるものとする。
図2Bに示すように、電池セル20Aは、電極体202と、電極体202を収容する矩形板状の容器204と、容器204に設けられた正負の電極端子206,208とを含んで構成されている。
電極体202には、リチウムイオンを含む電解液が含浸されている。
図3に示すように、電極体202は、正極2022と、負極2024と、2枚のセパレータ2026,2028とで構成されている。
すなわち、電池セル20Aは、正極2022および負極2024からなる電極体202と、リチウムイオンを含む電解液とを備えている。
【0015】
正極2022は、幅よりも大きな長さを有する帯状を呈している。
正極2022は、図4に示すように、3層構造であり、厚さ方向の中央に位置する正極集電箔2022Aと、その両面に形成された正極活物質2022Bとで構成されている。正極集電箔2022Aは不図示の接続部材を介して容器204の正側の電極端子206に接続されている。
正極集電箔2022Aとしてはアルミニウム箔が用いられ、正極活物質2022Bとしてはコバルト酸リチウムなどが用いられる。
【0016】
負極2024は、幅よりも大きな長さを有する帯状を呈している。
負極2024は、図4に示すように、3層構造であり、厚さ方向の中央に位置する負極集電箔2024Aと、その両面に形成された負極活物質2024Bとで構成されている。負極集電箔2024Aは不図示の接続部材を介して容器204の負側の電極端子208に接続されている。
負極集電箔2024Aとしては銅箔が用いられ、負極活物質2024Bとしては炭素材料などが用いられる。
【0017】
セパレータ2026,2028は、幅よりも大きな長さを有する帯状を呈し、リチウムイオンが移動できる多孔質の絶縁フィルムで構成されている。
電極体202は、正極2022と、負極2024とが、セパレータ2026,2028を介在させて重ね合わされ複数回巻回され、図5に示すように断面が扁平な長円形状を呈している。
具体的には、セパレータ2026と、正極2022と、セパレータ2028と、負極2024とがこの順番で重ね合わされ、セパレータ2026を外側にし、負極2024を内側にして複数回巻回されている。
電極体202は、このような状態で容器204に格納されている。
【0018】
ここで、図2Aに示すようにそれぞれの電池セル20Aには、電池セル20Aに対して振動を加える加振手段106が取り付けられている。
図2Aの例では、加振手段106はそれぞれの電池セル20Aの容器204の側面下部に取り付けられている。すなわち、加振手段106は、それぞれの電池セル20Aを個別に加振可能である。
本実施の形態では、加振手段106は小型のバイブレータであり、処理部108(図1参照)の制御で稼働する。また、加振手段106は、走行用バッテリ20内の所定の電池セル20A(後述する電圧制御対象電池セル)の電力を用いて稼働する。
なお、加振手段106としてはバイブレータの他、従来公知の様々な振動発生装置を用いることができる。
加振手段106が稼働(振動)することによって、電池セル20Aの各部に振動が伝達される。これにより、電極体202に含まれる電解液中の電解質濃度が均一となり、表面皮膜の不均衡やリチウムデンドライトの発生による電池セル20Aの性能低下を抑制することができる。
【0019】
図1の説明に戻り、処理部108は、CPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成される。
処理部108は、例えば電動車30全体の制御を司るECU(Electronic Control Unit)や走行用バッテリ20の状態を監視して充放電を制御するBMU(Battery Management Unit)などである。
【0020】
処理部108は、電圧制御対象セル選択手段1082と、加振対象セル選択手段1084、加振制御手段1086とによって構成される。
電圧制御対象セル選択手段1082は、それぞれの電池セル20Aのセル電圧を検知し、セル電圧が所定の上限電圧以上である電圧制御対象セルを選択する。
電圧制御対象セルとして選択された電池セル20Aは、加振手段106へと電力を供給する。この結果、電圧制御対象セル内の電力が消費され、電圧制御対象セルのセル電圧が低下する。
【0021】
上述のように、複数の電池セル20Aによって構成される組電池では、充放電をくり返すことで各電池セルの劣化の進み具合が異なり、各電池セルの放電特性が微妙に異なってくる。この結果、各電池セル20Aのセル電圧にバラつきが生じて、組電池の性能が低下する。
電圧制御対象セル選択手段1082は、このような電圧バラつきを解消するため、所定の上限電圧よりもセル電圧が高い電圧制御対象セルを選択し、放電を行わせることで電池セル20A間の電圧が均等になるようにしている。
すなわち、電圧制御対象セル選択手段1082は、組電池である走行用バッテリ20の電圧バランサとして機能する。
なお、上記の上限電圧の定め方は任意であるが、例えば複数の電池セル20Aのセル電圧の平均値としたり、セル電圧の最小値+α(αはセル電圧のバラつき度合いによって決まる所定電圧値)などとすることができる。
【0022】
図6は、加振装置10による電圧バランス制御を模式的に示す説明図である。
図6には、3つの電池セル、セルA、セルB、セルCのセル電圧を棒グラフとして示している。セルAのセル電圧はVA、セルBのセル電圧はVB、セルCのセル電圧はVCであり、VA<VC<VBの順に電圧が高くなっている。
ここで、例えば最も低いセル電圧であるセルAの電圧VAを上限電圧とした場合、上限電圧を上回るセルBおよびセルCから加振手段106に電力を供給させ、電圧VAとなるまで放電を行わせる。
また、例えば電圧VA,VB,VCの平均値(図6に示す線分N)を上限電圧とした場合、上限電圧を上回るセルBから加振手段106に電力を供給させ、電圧の平均値となるまで放電を行わせる。
【0023】
図1の説明に戻り、加振対象セル選択手段1084は、加振手段106による加振対象となる加振対象セルを選択する。
加振制御手段1086は、電圧制御対象セルに蓄積された電力を加振対象セルに取り付けられた加振手段106に供給して当該加振手段106を稼働させる。
【0024】
本実施の形態では、加振対象セル選択手段1084は、電圧制御対象セル以外の電池セルを加振対象セルとして選択する。
このとき、加振対象セル選択手段1084は、例えばセル電圧が所定の下限電圧以下である電池セルを加振対象セルとして選択する。
【0025】
これは、組電池内の電池セル20Aに電圧バラつきが生じる場合、電圧が高い電池セル20Aほど性能が高く(劣化度が小さい)、電圧が低い電池セル20Aほど性能が低い(劣化度が大きい)ためである。
上述のように、二次電池に振動を加えることによって、電解液内の電解質濃度を均一にして二次電池の性能低下を抑制できることが知られている。このため、電圧が高い電池セル20A(すなわち電圧制御対象セル)のみを加振対象セルにすると、電圧が低く性能が低い電池セル20Aとの間の性能差が更に拡大する可能性がある。
よって、本実施の形態では、電圧制御対象セル以外の電池セル、特に、電圧が低い電池セル20Aを加振対象セルにすることによって、劣化が進んだ電圧が低い電池セル20Aの更なる性能低下を抑制する。この結果、電池セル間の性能を均一化して、走行用バッテリ20全体の性能を向上させることができる。
【0026】
なお、上記の下限電圧の定め方は任意であるが、例えば複数の電池セル20Aのセル電圧の平均値としたり、セル電圧の最小値+β(βは例えばセル電圧のバラつき度合いによって決まる所定電圧値であり、上記αより小さい値である。0でもよい)などとすることができる。
【0027】
図7は、加振手段106に対する電力供給経路を模式的に示す説明図である。
図7には、3つの電池セル20Aと処理部108とを図示している。
3つの電池セル20Aは、それぞれ正側の電極端子206と負側の電極端子208とが太線で示す配線L1で接続され、直列接続されている。
また、各電池セル20Aの容器204には、それぞれ電力を用いて稼働する加振手段106が取り付けられている。
また、各電池セル20Aの電極端子206,208からは、処理部108へと向かう配線L2が延びている。
処理部108からは、各加振手段106へと電力を供給する配線L3が延びている。
処理部108の加振制御手段1086(図1参照)内には、配線L2,L3間を接続するスイッチが設けられており、このスイッチを切り換えることによって、任意の電池セル20A内の電力を任意の加振手段106へと供給することが可能である。
すなわち、処理部108において、上限電圧よりもセル電圧が高い電池セル20Aを電圧制御対象セルとして選択するとともに、下限電圧よりもセル電圧が低い電池セル20Aを加振対象セルとして選択する。そして、電圧制御対象セルの電力を加振対象セルに取り付けられた加振手段106へと供給することにより、電圧制御対象セルに放電させるとともに、加振対象セルを加振することができる。
【0028】
図8は、加振装置10による処理の手順を示すフローチャートである。
図8のフローチャートにおいて、加振装置10は、処理部108によって、各電池セルのセル電圧を取得する(ステップS800)。
つぎに、処理部108の電圧制御対象セル選択手段1082は、電池セル20A間の電圧バラつきが所定範囲以上か否かを判断する(ステップS802)。上記所定範囲は、電圧バラつきの許容範囲を示す。
電池セル20A間のバラつきが所定範囲未満である場合は(ステップS802:No)、ステップS800に戻り、セル電圧の監視を継続する。
【0029】
一方、電池セル20A間の電圧バラつきが所定範囲以上の場合は(ステップS802:Yes)、セル電圧が上限電圧以上の電池セルを電圧制御対象セルとして選択する(ステップS804)。
つぎに、加振対象セル選択手段1084は、電圧制御対象セル以外の電池セル、例えばセル電圧が下限電圧以下である電池セルを加振対象セルとして選択する(ステップS806)。
【0030】
そして、加振制御手段1086は、電圧制御対象セルに蓄積された電力を加振対象セルに取り付けられた加振手段106に供給して当該加振手段106を稼働させる(ステップS808)。
電圧制御対象セルのセル電圧が上限電圧未満となるまでは(ステップS810:No)、ステップS808に戻り加振手段106への電力供給を継続する。
そして、電圧制御対象セルのセル電圧が上限電圧未満となると(ステップS810:Yes)、加振手段106への電力供給を停止して加振手段106を停止させて(ステップS812)、本フローチャートによる処理を終了する。
なお、ステップS810の判断は、それぞれの電圧制御対象セルに対して個別におこなう。すなわち、それぞれの電圧制御対象セルのセル電圧と上限電圧との差分は個々に異なるため、加振手段106への電力供給時間もそれぞれ異なることになる。
【0031】
なお、上述した実施の形態では、加振手段106を電池セル20Aの容器204の側面下部に取り付けた場合について例示した。
しかしながら、加振手段106の取り付け位置はこれに限らず、例えば図9に示すように、電池セル20Aの電極端子、特に負側の電極端子208にしてもよい。
この場合、加振手段106によって負側の電極端子208が加振されることにより、電極体202の負極2024に形成されるリチウムデンドライトの発生を効率的に抑制することができる。
なお、加振手段106が取り付け位置から離れた場所を振動させる装置である場合には、加振手段106の取り付け位置によらず、負側の電極端子208を加振させるように適宜調整する。
【0032】
また、電池セル20Aの容器204に加振手段106を取り付ける際に、図2Aに示すように容器204の側面下部や底面に取り付けるようにすれば、容器204内の電解液の液だまりを効率的に振動させることができ、電解質濃度を均等にすることができる。
なお、電池セル20Aの容器204が横置きにされる場合には、容器204の壁面のうち、液だまりができる重力方向側の壁面に加振手段106を取り付ける。
また、加振手段106が取り付け位置から離れた場所を振動させる装置である場合には、加振手段106の取り付け位置によらず、電解液の液だまりができる位置を加振させるように適宜調整する。
【0033】
また、1つの電池セル20Aに対して取り付ける加振手段106は1つに限らず複数であってもよい。この場合、例えば電池セル20Aの充放電状態や周囲の環境(例えば温度など)によって、いずれも加振手段106を稼働させるかを判断してもよい。
【0034】
また、図2Aではそれぞれの電池セル20Aに加振手段106を取り付けているが、これに限らず、例えば数個の電池セル20A単位で構成される電池モジュールごとに、または走行用バッテリ20のバッテリケースなどに対して加振手段106を取り付けてもよい。
図10は、走行用バッテリ20のバッテリケース20Bに加振手段106を取り付けた場合の例である。すなわち、図10では、組電池である走行用バッテリ20は、バッテリケース20B内に複数の電池セル20Aが格納されており、加振手段106はバッテリケース20Bを加振するように構成されている。
これにより、特定の電池セル20Aのみならず、全ての電池セル20Aが振動され、全ての電池セル20Aにおいて性能低下の抑制が期待できる。
【0035】
以上説明したように、実施の形態にかかる加振装置10は、セル電圧が所定の上限電圧以上である電圧制御対象セルの電力を用いて加振手段106を駆動する。これにより、組電池である走行用バッテリ20内の電池セル20Aに電圧バラつきが生じた場合に、単なる放電によって電力を消費するのではなく、電池セル20Aの振動に電力を使用することができ、電池セル20A内の電力をより有効に使用することができる。
また、加振装置10は、電圧制御対象セル以外の電池セル20Aを加振対象セルとする。電圧制御対象セルは、劣化が進んでいない比較的性能が高い電池セル20Aであり、これ以外の劣化が進んでいる電池セル20Aを加振対象セルとすることによって、電池セル同士の性能バラつきが抑制され、組電池全体の電池性能を向上させることができる。
また、加振装置10は、セル電圧が所定の下限電圧以下である電池セル20Aを加振対象セルとして選択する。相対的に電圧が低い電池セル20Aは、劣化が進んだ電池セルであり、このような電池セル20Aを選択して加振することによって、電池セル同士の性能バラつきをより抑制することができる。
また、加振装置10において、加振手段106によって電池セル20Aの容器204の側面下部または底面を加振するようにすれば、容器204内の電解液の液だまりを効率的に振動させることができ、迅速に電解質濃度を均等にすることができる。
また、加振装置10において、加振手段106によって電池セル20Aの負側の電極端子208を加振するようにすれば、電極体202の負極2024に形成されるリチウムデンドライトの発生を効率的に抑制することができる。
また、加振装置10において、加振手段106によって走行用バッテリ20のバッテリケース20Bを加振するので、特定の電池セル20Aのみならず、全ての電池セル20Aが振動され、全ての電池セル20Aにおいて性能低下の抑制が期待できる。
【0036】
なお、上述した実施形態では、走行用バッテリ20は、複数の電池セル20Aが直列接続された組電池としたが、これに限定されるものではなく、複数の電池セル20Aが並列接続を含んで接続された組電池であってもよい。
【符号の説明】
【0037】
10……加振装置、102……車載充電器、104……充電口、106……加振手段、108……処理部、1082……電圧制御対象セル選択手段、1084……加振対象セル選択手段、1086……加振制御手段、20……走行用バッテリ、20A……電池セル、20B……バッテリケース、202……電極体、204……容器、206,208……電極端子、30……電動車、302……モータ、304……タイヤ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10