(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記錯体交換により形成された脱離剤と超強酸との錯体を、前記第2の希釈剤とともに抽剤として前記混合物に添加して循環利用する工程を更に含む、請求項1記載の方法。
前記錯体に、前記アルキル芳香族炭化水素に対する相対塩基度が0.1〜2.0の範囲にある脱離剤及び第2の希釈剤を添加して、前記アルキル芳香族炭化水素と前記脱離剤の錯体交換を行うことにより、前記アルキル芳香族炭化水素を前記錯体から分離する工程、
を含む、請求項1又は2記載の方法。
前記アルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物が、C8のアルキルベンゼン、C9のアルキルベンゼン、またはC10のアルキルベンゼンである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
前記アルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物がC8のアルキルベンゼンであり、且つ、前記アルキル芳香族炭化水素がm−キシレンである、請求項4に記載の方法。
前記脱離剤と超強酸との錯体を、前記混合物中のアルキル芳香族炭化水素のモル数/前記錯体中のルイス酸のモル数が0.5〜1.5の範囲となるような量で添加する、請求項6に記載の方法。
前記第1の希釈剤を、前記第1の希釈剤の容量/前記超強酸中のルイス酸のモル数が、50mL/mol〜500mL/molの範囲となるような量で添加する、請求項6または7に記載の方法。
前記脱離剤を、前記アルキル芳香族炭化水素と超強酸との錯体中のルイス酸に対して、モル比で1〜15の範囲となる量で添加する、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
前記ルイス酸が、三フッ化ホウ素、五フッ化タンタル、五フッ化ニオブ、四フッ化チタン、五フッ化リン、五フッ化アンチモン、および六フッ化タングステンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項6〜11のいずれか一項に記載の方法。
前記第1および/または第2の希釈剤が、イソヘキサン、3−メチルペンタン、2−メチルヘキサン、2-エチルヘキサン、デカリン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、およびメチルシクロペンタンからなる群より選択される1種以上である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
前記錯体交換塔において、供給された前記アルキル芳香族炭化水素と超強酸との錯体溶液と、供給された前記第2の希釈剤および脱離剤の混合溶液とを、向流接触させる、請求項17又は18記載の装置。
前記錯体交換塔から排出された前記アルキル芳香族炭化水素、脱離剤および希釈剤からなる混合液を蒸留して、前記アルキル芳香族炭化水素、脱離剤および希釈剤をそれぞれ分離する蒸留塔をさらに備える、請求項17〜19のいずれか一項に記載の装置。
前記酸塩基抽出塔から排出された前記脱離剤、抽出されなかった抽残異性体、および希釈剤からなる混合液を蒸留して、脱離剤、抽残異性体および希釈剤をそれぞれ分離する蒸留塔をさらに備える、請求項17〜20のいずれか一項に記載の装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献2に記載された抽出分離方法においては、MX−HF−BF
3錯体を形成する際に、錯体を変質させないように、抽出塔を−20℃〜+30℃という低温に冷却しておく必要がある。一方、分解助剤を添加して、MX−HF−BF
3錯体の熱分解によりフッ化水素および三フッ化ホウ素を単離する際にも、MX−HF−BF
3錯体が熱により変質してしまうため、錯体の変質を抑制しながら素早く熱分解させるためには、分解塔の塔底を100℃以上の高温にしておく必要がある。しかしながら、フッ化水素の潜熱や分解助剤の潜熱等を考慮すると、塔底を高温に維持しておくには、多量のエネルギーを要してしまうという問題がある。
【0010】
したがって、本発明の課題は、フッ化水素および三フッ化ホウ素等の超強酸を用いて、アルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物からアルキル芳香族炭化水素を抽出分離して、所望のアルキル芳香族炭化水素を分離する方法において、分離に要するエネルギーを大幅に低減できる方法を提供することである。
【0011】
また、本発明の別の課題は、上記分離方法を実施する分離装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、混合キシレン等の複数の異性体を含むアルキル芳香族炭化水素から、フッ化水素および三フッ化ホウ素等の特定の超強酸を用いて、特定のアルキル芳香族炭化水素を抽出分離する際に、特定の脱離剤を用いてアルキル芳香族炭化水素と超強酸との錯体を分解することにより、前記アルキル芳香族炭化水素と超強酸とを分離する際の加熱をほぼなくすことができ、その結果、MX等の前記アルキル芳香族炭化水素を工業的に分離する際のエネルギーを大幅に低減できることがわかった。また、この特定の脱離剤によれば、超強酸(例えば、フッ化水素および三フッ化ホウ素)を単離しなくとも、超強酸を、脱離剤と超強酸との錯体の超強酸溶液として回収し、錯体状態のまま、再度、抽剤として循環利用できることがわかった。本発明はかかる知見に基づいて、完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]
アルキル芳香族炭化水素の分離方法であって、
前記アルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物に、第1の希釈剤と、超強酸からなる抽剤とを添加して、酸塩基抽出することにより、前記アルキル芳香族炭化水素と前記超強酸との錯体を形成させた後、前記混合物から前記錯体を分離する工程、
前記錯体に、前記アルキル芳香族炭化水素に対する相対塩基度が0.06〜10の範囲にある脱離剤及び第2の希釈剤を添加して、前記アルキル芳香族炭化水素と前記脱離剤の錯体交換を行うことにより、前記アルキル芳香族炭化水素を前記錯体から分離する工程、
を含む、アルキル芳香族炭化水素の分離方法。
[2]
前記錯体交換により形成された脱離剤と超強酸との錯体を、前記第2の希釈剤とともに抽剤として前記混合物に添加して循環利用する工程を更に含む、上記[1]記載のアルキル芳香族炭化水素の分離方法。
[3]
前記錯体に、前記アルキル芳香族炭化水素に対する相対塩基度が0.1〜2.0の範囲にある脱離剤及び第2の希釈剤を添加して、前記アルキル芳香族炭化水素と前記脱離剤の錯体交換を行うことにより、前記アルキル芳香族炭化水素を前記錯体から分離する工程、
を含む、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
前記アルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物が、C8のアルキルベンゼン、C9のアルキルベンゼン、またはC10のアルキルベンゼンである、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
前記アルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物がC8のアルキルベンゼンであり、且つ、前記アルキル芳香族炭化水素がm−キシレンである、上記[4]に記載の方法。
[6]
前記超強酸が、ブレンステッド酸とルイス酸との混合型超強酸である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]
前記脱離剤と超強酸との錯体を、前記混合物中のアルキル芳香族炭化水素のモル数/前記錯体中のルイス酸のモル数が0.5〜1.5の範囲となるような量で添加する、上記[6]に記載の方法。
[8]
前記第1の希釈剤を、前記第1の希釈剤の容量/前記超強酸中のルイス酸のモル数が、50mL/mol〜500mL/molの範囲となるような量で添加する、上記[6]または[7]に記載の方法。
[9]
前記脱離剤を、前記アルキル芳香族炭化水素と超強酸との錯体中のルイス酸に対して、モル比で1〜15の範囲となる量で添加する、上記[6]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
前記脱離剤に対する前記第2の希釈剤の量が、質量基準で0.001〜1の範囲である、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の方法。
[11]
前記脱離剤の沸点が145℃〜400℃の範囲である、上記[1]〜[10]のいずれかに記載の方法。
[12]
前記ルイス酸が、三フッ化ホウ素、五フッ化タンタル、五フッ化ニオブ、四フッ化チタン、五フッ化リン、五フッ化アンチモン、および六フッ化タングステンからなる群より選択される少なくとも1種である、上記[6]〜[11]のいずれかに記載の方法。
[13]
前記ブレンステッド酸がフッ化水素であり、前記ルイス酸が三フッ化ホウ素である、上記[6]〜[12]のいずれかに記載の方法。
[14]
前記第1および/または第2の希釈剤が、脂肪族飽和炭化水素および/または脂環式飽和炭化水素である、上記[1]〜[13]のいずれかに記載の方法。
[15]
前記第1および/または第2の希釈剤が、イソヘキサン、3−メチルペンタン、2−メチルヘキサン、2-エチルヘキサン、デカリン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、およびメチルシクロペンタンからなる群より選択される1種以上である、上記[1]〜[14]のいずれかに記載の方法。
[16]
前記超強酸の前記ルイス酸に対する前記ブレンステッド酸の割合が、モル比で5〜20の範囲である、上記[6]〜[15]のいずれかに記載の方法。
[17]
酸塩基抽出塔と錯体交換塔とを備えたアルキル芳香族炭化水素の分離装置であって、
前記酸塩基抽出塔は、アルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物を供給する管と、第1の希釈剤を供給する管と、前記錯体交換塔の塔底から抜き出された脱離剤と超強酸との錯体溶液を供給する管と、前記アルキル芳香族炭化水素を、アルキル芳香族炭化水素と超強酸との錯体溶液として、前記酸塩基抽出塔の塔底から排出する管と、錯体交換により分離した脱離剤、抽出されなかった抽残異性体、および希釈剤からなる混合液を前記酸塩基抽出塔の塔頂から排出する管と、を備え、
前記錯体交換塔は、前記酸塩基抽出塔の塔底から排出された前記アルキル芳香族炭化水素と超強酸との錯体溶液を供給する管と、第2の希釈剤および脱離剤を供給する管と、抽出された前記アルキル芳香族炭化水素、前記脱離剤および前記希釈剤からなる混合液を前記錯体交換塔の塔頂から排出する管と、錯体交換が行われた後の脱離剤と超強酸との錯体溶液を、前記錯体交換塔の塔底から排出する管と、を備えてなる、装置。
[18]
前記第2の希釈剤および脱離剤を供給する管が、第2の希釈剤を供給する管と、脱離剤を供給する管と、に分離されている、上記[17]記載の装置。
[19]
前記錯体交換塔において、供給された前記アルキル芳香族炭化水素と超強酸との錯体溶液と、供給された前記第2の希釈剤および脱離剤の混合溶液とを、向流接触させる、上記[17]又は[18]記載の装置。
[20]
前記錯体交換塔から排出された前記アルキル芳香族炭化水素、脱離剤および希釈剤からなる混合液を蒸留して、前記アルキル芳香族炭化水素、脱離剤および希釈剤をそれぞれ分離する蒸留塔をさらに備える、上記[17]〜[19]のいずれかに記載の装置。
[21]
前記酸塩基抽出塔から排出された前記脱離剤、抽出されなかった抽残異性体、および希釈剤からなる混合液を蒸留して、脱離剤、抽残異性体および希釈剤をそれぞれ分離する蒸留塔をさらに備える、上記[17]〜[20]のいずれかに記載の装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物からアルキル芳香族炭化水素を抽出分離して、所望のアルキル芳香族炭化水素を分離する方法において、分離に要するエネルギーを大幅に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。装置や部材の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0017】
<アルキル芳香族炭化水素の分離方法>
本実施形態におけるアルキル芳香族炭化水素の分離方法は、
アルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物に、第1の希釈剤と、超強酸からなる抽剤とを添加して、酸塩基抽出することにより、前記アルキル芳香族炭化水素と前記超強酸との錯体を形成させた後、前記混合物から前記錯体を分離する工程、
前記錯体に、前記アルキル芳香族炭化水素に対する相対塩基度が0.06〜10の範囲にある脱離剤及び第2の希釈剤を添加して、前記アルキル芳香族炭化水素と前記脱離剤の錯体交換を行うことにより、前記アルキル芳香族炭化水素を前記錯体から分離する工程、
を含む、アルキル芳香族炭化水素の分離方法である。
【0018】
本実施形態におけるアルキル芳香族炭化水素の分離方法は、アルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物から、アルキル芳香族炭化水素を選択的に抽出して分離することにより、特定のアルキル芳香族炭化水素を高純度で分離するものである。沸点差が20℃以内であるアルキル芳香族炭化水素の異性体を2種以上含む混合物から、特定のアルキル芳香族炭化水素を蒸留操作によって高純度で効率的に分離するには、高度な精密蒸留を必要とするため、製造コストや装置規模等の工業的な観点からは、現実的ではない。本実施形態の分離方法は、このような沸点が近い複数の異性体が含まれるアルキル芳香族炭化水素類から特定のアルキル芳香族炭化水素を分離するのに特に適している。
【0019】
本実施形態の分離方法によれば、アルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物に、希釈剤と超強酸を抽剤として添加し、酸塩基抽出することにより、前記混合物の中から、アルキル芳香族炭化水素と超強酸との錯体が高純度に含まれる抽出液を得る。その後、その抽出液に、相対塩基度が特定範囲にある脱離剤を添加し、錯体交換を行うことにより、高純度のアルキル芳香族炭化水素を前記抽出液から分離できる。また、錯体交換により形成された脱離剤と超強酸との錯体を、再度、前記混合物に戻すことにより、アルキル芳香族炭化水素と超強酸との錯体が形成されるため、超強酸を単離することなく循環利用することができる。さらに、上記の方法によれば、脱離剤と超強酸との錯体を熱分解することなく抽剤として循環利用できるため、従来のように、アルキル芳香族炭化水素と超強酸との錯体を分解して超強酸を単離するための熱量を必要としない。その結果、アルキル芳香族炭化水素を分離する際のエネルギーを大幅に低減できる。
【0020】
[アルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物]
本実施形態において使用されるアルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物としては、特に限定されないが、沸点が近い異性体の数の観点から、C8のアルキルベンゼン、C9のアルキルベンゼン、またはC10のアルキルベンゼンが好ましい。C8のアルキルベンゼンとは、p−キシレン(PX)、m−キシレン(MX)、o−キシレン(OX)、およびエチルベンゼンからなる群から選択される2種以上を含む混合物であり、C9のアルキルベンゼンとは、クメン、n−プロピルベンゼン、エチルトルエン異性体(2−体、3−体、4−体)、およびトリメチルベンゼン異性体(1,2,4−体、1,2,3−体))からなる群から選択される2種以上を含む混合物であり、C10のアルキルベンゼンとは、イソデュレン(1,2,3,5−体)およびそれ以外のテトラメチルベンゼン(1,2,4,5−体、1,2,3,4−体)、ならびにジメチルエチルベンゼン(1,3−ジメチル−5−エチル体、1,4−ジメチル−2−エチル体、1,3−ジメチル−4−エチル体、1,2−ジメチル−4−エチル体、1,3−ジメチル−2−エチル体、1,2−ジメチル−3−エチル体)からなる群から選択される2種以上を含む混合物である。本実施形態においては、原料として、上述したアルキル芳香族炭化水素類の異性体の混合物を使用するが、異性体以外の化合物が含まれていてもよく、混合物全体に対して、アルキル芳香族炭化水素類が質量基準で90%以上含まれていることが好ましい。
【0021】
本実施形態における分離方法は、上述したような沸点差が小さい異性体を含むアルキル芳香族炭化水素類の混合物から、混合物中で最も塩基性の強いアルキル芳香族炭化水素(以下、「特定アルキル芳香族炭化水素」ともいう。)を選択的に抽出して分離するものである。上記C8のアルキルベンゼン類の中で最も塩基性の強いものはMXであり、C9のアルキルベンゼン類の中で最も塩基性の強いものはメシチレンであり、C10のアルキルベンゼン類の中で最も塩基性の強いものはイソデュレンである。したがって、本実施形態における方法において、C8のアルキルベンゼン類を原料として使用する場合は、抽出分離されるのはMXであり、C9のアルキルベンゼン類を原料として使用する場合は、抽出分離されるのはメシチレンであり、C10のアルキルベンゼン類を原料として使用する場合は、抽出分離されるのはイソデュレンである。
【0022】
[酸塩基抽出工程]
本実施形態におけるアルキル芳香族炭化水素の分離方法は、
アルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物に、第1の希釈剤と、超強酸からなる抽剤とを添加して、酸塩基抽出することにより、前記アルキル芳香族炭化水素と前記超強酸との錯体を形成させた後、前記混合物から前記錯体を分離する工程(酸塩基抽出工程)を含む。
【0023】
(抽剤として使用される超強酸)
本実施形態における分離方法においては、先ず、上記特定のアルキル芳香族炭化水素とその異性体を少なくとも1種以上含む混合物に、抽剤として超強酸を添加する。ここで、「超強酸」とは、ハメットの酸度関数H
Oが−11.93である100%硫酸よりも強い酸強度を示す酸を意味するものとする。また、「超強酸」には、酸単独のみならず、酸の溶液も含まれる。超強酸は、混合物の中で最も塩基性の強いアルキル芳香族炭化水素と錯体を形成する。この錯体(以下、「アルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体」ともいう。)を含む混合物中に希釈剤を添加して、混合物中の特定アルキル芳香族炭化水素以外の成分をストリッピングすることにより、混合物中から、特定アルキル芳香族炭化水素を錯体の状態で抽出することができる。
【0024】
抽剤として使用される超強酸としては、特に限定されないが、ブレンステッド酸では、例えば、フルオロ硫酸(FSO
3H)、トリフルオロメタンスルホン酸(CF
3SO
3H)が挙げられる。また、ブレンステッド酸とルイス酸とを組み合わせた混合型の超強酸を使用してもよい。混合型超強酸としては、例えば、ブレンステッド酸としてフッ化水素(HF)、塩酸(HCl)、フルオロ硫酸(FSO
3H)、トリフルオロメタンスルホン酸(CF
3SO
3H)および硫酸(H
2SO
4)からなる群から選ばれる少なくとも一つ以上と、ルイス酸として五フッ化アンチモン(SbF
5)、三フッ化ホウ素(BF
3)、塩化アルミニウム(AlCl
3)、五フッ化タンタル(TaF
5)、五フッ化ニオブ(NbF
5)、四フッ化チタン(TiF
4)、および五フッ化リン(PF
5)からなる群から選ばれる少なくとも一つ以上と、を組み合わせた超強酸が挙げられる。
【0025】
上記超強酸の中でも、超強酸の循環利用の観点から、アルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体が、−50℃〜+20℃の温度範囲において液状で存在するような超強酸が好ましい。例えば、フッ化水素と上記ルイス酸との混合物を用いることが好ましく、より好ましくは、フッ化水素(HF)と三フッ化ホウ素(BF
3)との混合物、フッ化水素(HF)と五フッ化タンタル(TaF
5)との混合物、フッ化水素(HF)と五フッ化ニオブ(NbF
5)との混合物、フッ化水素(HF)と四フッ化チタン(TiF
4)との混合物、フッ化水素(HF)と五フッ化リン(PF
5)との混合物、フッ化水素(HF)と五フッ化アンチモン(SbF
5)との混合物、フッ化水素(HF)と六フッ化タングステン(WF
6)との混合物であり、これらの中でも、工業的使用実績のある超強酸であるフッ化水素(HF)と三フッ化ホウ素(BF
3)との混合物が特に好ましい。
なお、−50℃〜+20℃の温度範囲において液状で存在するとは、当該温度範囲に含まれるいずれかの温度で液状であればよく、全ての温度範囲で液状である必要はない。
【0026】
上記ブレンステッド酸とルイス酸との混合物を超強酸として用いる場合、アルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体や、後述する錯体交換反応後の脱離剤−超強酸錯体が、ルイス酸(気体)を放出することなく錯体状態を維持できるような量で添加することが好ましい。具体的には、超強酸中のルイス酸に対するブレンステッド酸のモル比(ブレンステッド酸のモル数/ルイス酸のモル数)が5〜50の範囲であることが好ましく、より好ましくは5〜20の範囲である。超強酸中のルイス酸に対するブレンステッド酸のモル比が上記範囲にあれば、錯体形成する反応容器の容積効率を維持しながら、アルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体および/または脱離剤−超強酸錯体を安定的に維持することができる傾向にある。また、超強酸錯体溶液からルイス酸が気体として放出されるのを有効に抑制できるため、アルキル芳香族炭化水素や脱離剤が、希釈剤や抽残物を含む油相側に移行する量を低減することができる傾向にある。また、ブレンステッド酸としてフッ化水素を上記の割合で用いた場合、脱離剤−超強酸錯体を液状に容易に制御することが可能であるため、特に好ましい。
【0027】
(酸塩基抽出工程で使用される第1の希釈剤)
本明細書においては、酸塩基抽出工程において用いられる希釈剤を「第1の希釈剤」と言い、錯体交換工程における希釈剤を「第2の希釈剤」と言う。なお、単に「希釈剤」としている場合は、それぞれの希釈剤単独を示すか、或いは、第1の希釈剤と第2の希釈剤との混合物を示す。
酸塩基抽出工程において添加される第1の希釈剤は、抽剤によって抽出された成分中の錯体以外の成分、即ち、錯体によって物理溶解した、特定アルキル芳香族炭化水素以外のアルキル芳香族炭化水素類をストリッピングするのに十分な量で添加されるのが好ましい。また、後述するように、脱離剤−超強酸錯体を循環利用する場合、第1の希釈剤は、脱離剤−超強酸錯体を錯体交換して、特定アルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体とするのに十分な量で添加されることが好ましい。
【0028】
第1の希釈剤としては、アルキル芳香族炭化水素類を溶解するものであれば特に制限なく使用できるが、アルキル芳香族炭化水素が超強酸の存在下で起こす不均化反応や重合等の副反応を抑制する観点から、脂肪族または脂環式の飽和炭化水素を用いることが好ましい。脂肪族または脂環式の飽和炭化水素としては、例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−デカン、イソヘキサン、3−メチルペンタン、2−メチルヘキサン、2-エチルヘキサン、cis−デカリン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン、cis−1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルアダマンタン、デカヒドロアセナフテン等が挙げられ、これらは単独または2種以上を混合して用いことができる。
【0029】
上記飽和炭化水素に加えて、第4級の炭素原子を含まない他の飽和炭化水素を併用してもよいが、この場合、装置の容積効率が低下する場合がある。また、上記第1の希釈剤には、不飽和結合を持つ不純物や、炭素、水素以外の原子を含む不純物が含まれていないことが好ましい。
【0030】
また、上記飽和炭化水素の中でも、不均化反応を抑制する観点から、イソヘキサン、3−メチルペンタン、2−メチルヘキサン、2-エチルヘキサン、cis−デカリン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、エチルシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン、cis−1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルアダマンタン、デカヒドロアセナフテンがより好ましく、特に好ましくはメチルシクロペンタン、cis−デカリン、デカヒドロアセナフテン、cis−1,2−ジメチルシクロヘキサン、1,3−ジメチルアダマンタン、デカヒドロアセナフテンである。
【0031】
[錯体交換工程]
本実施形態におけるアルキル芳香族炭化水素の分離方法は、
前記錯体に、前記アルキル芳香族炭化水素に対する相対塩基度が0.06〜10の範囲にある脱離剤及び第2の希釈剤を添加して、前記アルキル芳香族炭化水素と前記脱離剤の錯体交換を行うことにより、前記アルキル芳香族炭化水素を前記錯体から分離する工程(錯体交換工程)を含む。
【0032】
(脱離剤)
酸塩基抽出工程によりアルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体として抽出分離されたアルキル芳香族炭化水素は、錯体に特定の脱離剤を添加することにより錯体状態の交換(錯体交換)が行われ、所望のアルキル芳香族炭化水素が分離される。即ち、アルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体と、錯体交換された後の脱離剤−超強酸錯体とは、以下のような平衡反応が成立する。
【0034】
(式中、A
1はアルキル芳香族炭化水素であり、A
1H
+はアルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体であり、A
2は脱離剤であり、A
2H
+は脱離剤−超強酸錯体である。)
【0035】
本実施形態においては、抽出される目的化合物であるアルキル芳香族炭化水素の塩基性に着目し、アルキル芳香族炭化水素に対する相対塩基度が0.06〜10の範囲にある脱離剤を添加することにより、高純度で所望のアルキル芳香族炭化水素を油相に分離でき、さらに、後述するように、超強酸を単離することなく循環利用できることが判明した。なお、本実施形態において、アルキル芳香族炭化水素(A
1)に対する脱離剤(A
2)の「相対塩基度」とは、液温が0℃において、下記式から算出される値として定義されるものである。
相対塩基度=(A
2H
+のモル数/A
2のモル数)/(A
1H
+のモル数/A
1のモル数)
【0036】
アルキル芳香族炭化水素としてMXを、超強酸としてHF−BF
3を用いた場合を一例に、脱離剤の相対塩基度の算出方法について説明する。温度を制御できる内容積500mLの電磁撹拌装置付オートクレーブ(SUS316L製)に、無水フッ化水素、MX、ヘキサン、脱離剤を、モル比4.0:0.32:0.95:0.66で仕込み、内容物を撹拌し液温を−10℃に保つ。次に、無水フッ化水素に対するモル比(三フッ化ホウ素のモル数/フッ化水素のモル数)が0.1となる割合で、ルイス酸として三フッ化ホウ素を2L/分の割合で反応器に供給し、30分間0℃で保持する。その後、10分間攪拌を停止して静置し、二相に分離したフッ化水素溶液相と油相とをそれぞれ氷水中に採取し、得られた油層について、中和水洗した後にガスクロマトグラフィー分析を行う。分析結果より得られたフッ化水素溶液相および油相のそれぞれのMXと脱離剤とのモル数(フッ化水素溶液相に存在する成分はHF−ルイス酸錯体とみなす。)を、上記の計算式に当てはめることにより、液温が0℃における、MXに対する相対塩基度を算出することができる。
【0037】
分離しようとするアルキル芳香族炭化水素(例えば、MX)に対する相対塩基度が上記範囲にある脱離剤を使用することにより、アルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体と脱離剤との間、およびアルキル芳香族炭化水素と脱離剤−超強酸錯体との間の錯体状態の交換が容易に進行する。相対塩基度が0.06未満であると、酸塩基抽出は容易になるものの、アルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体と脱離剤との間の錯体交換反応が進行しにくく大量の脱離剤が必要となる。そのため、工業的に実施した場合、脱離剤との錯体交換が行われる反応容器の容積効率の低下を招く。一方、相対塩基度が10を超えると、アルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体と脱離剤との間の錯体交換反応は容易に進行するが、錯体交換により得られた脱離剤−超強酸錯体を循環利用する際に、アルキル芳香族炭化水素と脱離剤−超強酸錯体との間の錯体交換反応が進行しにくく大量の原料混合物が必要となる。そのため、工業的に実施した場合、アルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体を形成する反応容器の容積効率が低下し、経済性、生産効率の低下を招く。
【0038】
本実施形態における分離方法においては、脱離剤として、アルキル芳香族炭化水素に対する相対塩基度が0.08〜6.0の範囲にあるものを使用することが好ましく、相対塩基度が0.10〜4.0の範囲にあるものを使用することがより好ましく、相対塩基度が0.10〜2.0のものを使用することがさらに好ましく、相対塩基度が0.15〜2.0のものを使用することが特に好ましい。このような脱離剤としては、芳香族炭化水素を好適に使用することができるが、中でも、脱離剤−超強酸錯体を安定的に形成できるものを使用することがより好ましい。また、抽剤を再利用する観点からは、−50〜+20℃の範囲において、脱離剤単体および脱離剤−超強酸錯体が液状であることが好ましい。超強酸としてHF−ルイス酸を用いた場合、脱離剤−超強酸錯体を、フッ化水素の割合を調整することにより液状に容易に制御することが可能であるため、特に好ましい。
【0039】
例えば、上記非特許文献1には、詳細な測定法は省略されているが、p−キシレン(PX)の相対塩基度を1とした場合のアルキル芳香族炭化水素の相対塩基度が記載されている。この文献によれば、C8〜C9のアルキル芳香族炭化水素の相対塩基度は下記表1に示されるとおりであり、これらのデータを参考にして脱離剤を適宜選択してもよい。
【0041】
脱離剤としては、特定アルキル芳香族炭化水素を蒸留操作によってより容易に分離できるから観点から、分離する特定のアルキル芳香族炭化水素の沸点よりも高い沸点を有する芳香族炭化水素を用いることが好ましく、沸点が145〜400℃の範囲にある芳香族炭化水素を用いることがより好ましい。例えば、分離するアルキル芳香族炭化水素としてMXを目的化合物とした場合、脱離剤としては、3−エチルトルエン、1−メチル-3−プロピルベンゼン、メタジエチルベンゼン、1−フルオロナフタレン、1,3,5−トリエチルベンゼン、3−メチルビフェニル、フルオロ−2,4,6−トリメチルベンゼン、フルオロ−2,3,6−トリメチルベンゼン、フルオロ−3,4,5−トリメチルベンゼン、またはフルオロ−2,3,5−トリメチルベンゼン、1,3−ジメチル−4−(2,2−ジメチルプロピル)ベンゼン、1,3−ジメチル−5−(2,2−ジメチルプロピル)ベンゼン、1−メチル−3,5−ジ(2,2−ジメチルプロピル)ベンゼン、1−イソブチル−3−メチルベンゼン等を好適に使用することができ、これらの脱離剤は単独または2種以上を混合して用いことができる。
【0042】
特に、アルキル芳香族炭化水素類としてC8のアルキルベンゼン類を使用し、その混合物からMXを特定のアルキル芳香族炭化水素として抽出する際には、脱離剤として、3−エチルトルエン、メタジエチルベンゼンまたはこれらの混合物を好適に使用することができる。また、アルキル芳香族炭化水素類としてC9のアルキルベンゼン類を使用し、その混合物からメシチレンを特定のアルキル芳香族炭化水素として抽出する際には、脱離剤として1,3,5−トリエチルベンゼン等を好適に使用することができる。
【0043】
脱離剤の添加量は、アルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体と錯体交換し得る量であれば特に限定されないが、特定アルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体の量、脱離剤の相対塩基度、および錯体交換を行う反応容器の能力に応じて適宜決定される。工業的に特定アルキル芳香族炭化水素を製造するには、脱離剤の添加量は、錯体交換を行う反応容器の理論段数が5段〜10段の範囲で錯体交換し得る量であることが好ましい。上記観点から、本実施形態においては、超強酸としてブレンステッド酸とルイス酸との混合物を使用する場合、アルキル芳香族炭化水素と前記超強酸との錯体中のルイス酸に対して、モル比で1〜15の範囲となるような量で、脱離剤を添加することが好ましい。脱離剤の添加量を上記範囲とすることにより、アルキル芳香族炭化水素−ブレンステッド酸−ルイス酸錯体と、脱離剤との錯体交換反応が容易に進行するため、反応容器の理論段数を減らすことができるとともに、抽出されるアルキル芳香族炭化水素の濃度が高くなり、蒸留効率を向上させることができる傾向にある。反応容器の規模、容積効率を考慮すると、アルキル芳香族炭化水素と前記超強酸との錯体中のルイス酸に対して、モル比で1.1〜10の範囲となるような量であることがより好ましい。
【0044】
(錯体交換工程で使用される第2の希釈剤)
また、錯体交換工程においては、脱離剤とともに第2の希釈剤を添加することにより、錯体交換により分離されたアルキル芳香族炭化水素が、脱離剤および第2の希釈剤との混合溶液として抽出分離され、さらに、蒸留等の公知の手段によりアルキル芳香族炭化水素のみを得ることができる。したがって、第2の希釈剤は、超強酸溶液と油相(アルキル芳香族炭化水素と脱離剤と第2の希釈剤との混合溶液)とを分離できるような量で添加されることが好ましい。また、第2の希釈剤を添加することにより、錯体交換反応の際の脱離剤の不均化反応を抑制することができる。上述のように超強酸溶液と油相とを分離でき、脱離剤の不均化反応を抑制できる第2の希釈剤の添加量としては、添加する脱離剤に対して質量比(第2の希釈剤の質量/脱離剤の質量)で0.001〜1の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.25の範囲である。第2の希釈剤の添加量を上記範囲内とすることにより、超強酸溶液と油相との分離や、脱離剤の不均化反応の抑制に有利であり、さらに、経済的および生産効率の観点からも有利である。
【0045】
第2の希釈剤としては、上述した第1の希釈剤と同様のものを用いることができる。
【0046】
<超強酸の循環利用>
本実施形態の分離方法においては、錯体交換により形成された脱離剤と超強酸との錯体を、第2の希釈剤とともに抽剤としてアルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物に添加して循環利用する工程を更に含むことが好ましい。錯体交換により形成された脱離剤−超強酸錯体は、超強酸(例えば、フッ化水素およびルイス酸)を単離することなく、連続的にもとの混合物に添加されて循環利用される。上記工程を含む場合、従来必要であった超強酸の単離操作を必要としないため、アルキル芳香族炭化水素の分離に要するエネルギーを大幅に低減できる。なお、もとの混合物に添加される脱離剤−超強酸錯体には、錯体交換工程で錯体交換をしきれなかったアルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体が一部含まれていてもよい。また、もとの混合物に添加されて酸塩基抽出工程を繰り返した際に、該酸塩基抽出工程後に排出されるアルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体中には、酸塩基抽出と同時に行われるアルキル芳香族炭化水素との錯体交換をしきれなかった脱離剤−超強酸錯体が、一部含まれていてもよい。
【0047】
上記脱離剤−超強酸錯体は、アルキル芳香族炭化水素とその異性体とを含む混合物に添加されることにより、再度、錯体交換が行われて、アルキル芳香族炭化水素は、超強酸との錯体として酸塩基抽出される。したがって、錯体形成が行われる反応容器に添加される第1の希釈剤は、アルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体の超強酸溶液中に物理溶解した錯体形成されていない他のアルキル芳香族炭化水素(即ち、異性体)をストリッピングし得る量で添加されることが好ましい。
【0048】
(超強酸循環利用における酸塩基抽出塔での第1の希釈剤)
超強酸として、ブレンステッド酸とルイス酸との混合物を使用する場合を一例に説明すると、超強酸溶液中のルイス酸の量に対する第1の希釈剤の量(希釈剤の容量(mL)/超強酸溶液中のルイス酸のモル数)は、50mL/mol〜500mL/molの範囲であることが好ましく、より好ましくは100mL/mol〜300mL/molの範囲である。第1の希釈剤の添加量を上記範囲とすることにより、反応容器の容積効率を維持しながらストリッピングを充分に行えるとともに、フッ化水素溶液として抽出されるアルキル芳香族炭化水素−ブレンステッド酸−ルイス酸錯体の含有量を多くすることができるため、反応容器の理論段数が少なくても高純度のアルキル芳香族炭化水素を得ることができる傾向にある。
【0049】
上述したように、脱離剤−超強酸錯体を含む超強酸溶液は、アルキル芳香族炭化水素とその異性体とを含む混合物に添加されることにより、再度、錯体交換が行われるとともに、脱離剤−超強酸錯体を含む超強酸溶液が抽剤として機能するため、酸塩基抽出により、混合物中のアルキル芳香族炭化水素が、アルキル芳香族炭化水素−超強酸錯体として抽出される。例えば、超強酸としてブレンステッド酸とルイス酸との混合物を使用する場合、錯体交換と酸塩基抽出が行われるためには、脱離剤−超強酸錯体を含む超強酸溶液を、抽剤として、混合物中のアルキル芳香族炭化水素のモル数/錯体中のルイス酸のモル数が0.5〜1.5の範囲となる量で、混合物に添加する。混合物と脱離剤−超強酸錯体との量が上記範囲となるように調整することにより、脱離剤−超強酸錯体とアルキル芳香族炭化水素との錯体交換反応が容易に進行する傾向にある。その結果、錯体交換されないアルキル芳香族炭化水素が、抽残成分の他の異性体、希釈剤および脱離剤とともに油相として排出されてしまうのを低減できる傾向にある。
【0050】
<アルキル芳香族炭化水素の分離装置>
次に、本実施形態におけるアルキル芳香族炭化水素の分離装置を、
図1を参照しながら説明する。
本実施形態におけるアルキル芳香族炭化水素の分離装置は、
酸塩基抽出塔と錯体交換塔とを備えた分離装置であって、
前記酸塩基抽出塔は、アルキル芳香族炭化水素およびその異性体を1種以上含む混合物を供給する管と、第1の希釈剤を供給する管と、前記錯体交換塔の塔底から抜き出された脱離剤と超強酸との錯体溶液を供給する管と、前記アルキル芳香族炭化水素を、アルキル芳香族炭化水素と超強酸との錯体溶液として、前記酸塩基抽出塔の塔底から排出する管と、錯体交換により分離した脱離剤、抽出されなかった抽残異性体、および希釈剤からなる混合液を前記酸塩基抽出塔の塔頂から排出する管と、を備え、
前記錯体交換塔は、前記酸塩基抽出塔の塔底から排出された前記アルキル芳香族炭化水素と超強酸との錯体溶液を供給する管と、第2の希釈剤および脱離剤を供給する管と、抽出された前記アルキル芳香族炭化水素、前記脱離剤および前記希釈剤からなる混合液を前記錯体交換塔の塔頂から排出する管と、錯体交換が行われた後の脱離剤と超強酸との錯体溶液を、前記錯体交換塔の塔底から排出する管と、を備えてなる、装置である。
【0051】
図1は、本発明による精製方法を実施するための精製装置の一実施形態を示した概略図である。
図1は、脱離剤と超強酸との錯体を、第2の希釈剤とともに抽剤として混合物に添加して循環利用する工程を行うための管5を備えた例である。また、
図1は、錯体交換塔の下方から、管2−1により第2の希釈剤が、管2−2により脱離剤が供給され、塔下部で両者が混合される、即ち、第2の希釈剤と脱離剤を供給する管が分離した例であるが、第2の希釈剤と脱離剤が予め混合されて、一つの管で供給されてもよい。以下、アルキル芳香族炭化水素類である混合キシレンから、その中で最も塩基性の強いMXを、超強酸を用いて抽出分離してMXを精製する例を用いて説明する。
【0052】
先ず、原料である混合キシレンが、管7により、混合キシレン中のMXをMX−超強酸錯体として抽出するための酸塩基抽出塔6に供給される。また、第1の希釈剤が、酸塩基抽出塔の下方に配置された管9より酸塩基抽出塔6に供給される。さらに、MX−超強酸錯体を脱離剤により錯体交換反応を行うための錯体交換塔1の塔底5から抜き出された脱離剤−超強酸錯体の超強酸溶液が、管8により、酸塩基抽出塔6の上方から供給される。酸塩基抽出塔6において、脱離剤−超強酸錯体とMXとの錯体交換が行われて、MX−超強酸錯体としてMXが酸塩基抽出され、酸塩基抽出塔6の塔底10から、MX−超強酸錯体の超強酸溶液が連続的に抜き出される。また、錯体交換により分離した脱離剤、抽出されなかった抽残キシレン、および希釈剤は、混合液として酸塩基抽出塔6の塔頂11から連続的に抜き出される。なお、超強酸としてブレンステッド酸およびルイス酸の混合物を使用する場合、脱離剤−超強酸錯体の超強酸溶液は、脱離剤−ブレンステッド酸−ルイス酸錯体のブレンステッド酸溶液とも言え、また、MX−超強酸錯体の超強酸溶液は、MX−ブレンステッド酸−ルイス酸錯体のブレンステッド酸溶液とも言える。
【0053】
酸塩基抽出塔6から抜き出されたMX−超強酸錯体の超強酸溶液は、管3により、錯体交換塔1の上方から供給される。また、錯体交換塔の下方から、管2−1により第2の希釈剤が、管2−2により脱離剤が供給され、塔下部で両者が混合される。錯体交換塔1内では、MX−超強酸錯体溶液と、第2の希釈剤および脱離剤の混合溶液とを向流接触させる。ここで錯体交換が行われ、MX−超強酸錯体は、MXと脱離剤−超強酸錯体とに分離される。分離されたMXは、余剰の脱離剤と希釈剤との混合液として、錯体交換塔1の塔頂4から連続的に抜き出される。また、錯体交換された脱離剤−超強酸錯体は、上述したように、超強酸溶液として、錯体交換塔1の塔底5から連続的に抜き出され、再度、管5により酸塩基抽出塔6に供給されることにより循環利用される。
【0054】
また、本実施形態における分離装置は、錯体交換塔から排出されたアルキル芳香族炭化水素、脱離剤および希釈剤からなる混合液を蒸留して、アルキル芳香族炭化水素、脱離剤および希釈剤をそれぞれ分離する蒸留塔をさらに備えることが好ましい。この場合、酸塩基抽出塔6の塔頂11より排出された脱離剤、抽出されなかった抽残キシレンおよび希釈剤からなる混合液は、公知の蒸留塔(図示せず)を経て、抽残キシレン、脱離剤、希釈剤のそれぞれに分離される。
【0055】
さらに、本実施形態における分離装置は、酸塩基抽出塔から排出された脱離剤、抽出されなかった抽残異性体、および希釈剤からなる混合液を蒸留して、脱離剤、抽残異性体および希釈剤をそれぞれ分離する蒸留塔をさらに備えることが好ましい。この場合、錯体交換塔1の塔頂4より排出されたMX、脱離剤および希釈剤からなる混合液は、公知の蒸留塔(図示せず)を経て、MX、脱離剤および希釈剤のそれぞれに分離される。このようにして、混合キシレンから、高純度のMXを分離することができる。
【0056】
錯体交換塔1および酸塩基抽出塔6としては、液々抽出操作系に適用される公知の手段を特に制限なく使用することができ、充填塔、多孔板塔、多孔板パルス塔、攪拌機付酸塩基抽出塔、WINTRAY(登録商標)、ミキサーセトラー等を好適に使用できる。これらの中でも、単位断面積当りの処理量が高く、抽出効率が高い形式のものが好ましく使用できる。
【0057】
混合キシレンに限らず、アルキル芳香族炭化水素とその異性体とを含む混合物に超強酸を添加した場合、温度が高いと不均化反応や重合反応が激しく起こる。また、抽剤として超強酸を使用するため、高温になると錯体交換塔1および酸塩基抽出塔6の腐食が進行する。そのため、錯体交換塔1および酸塩基抽出塔6の内部温度は−50℃〜+20℃の温度範囲に保持しておくことが好ましく、より好ましい温度範囲は−30℃〜0℃である。また、錯体交換塔1および酸塩基抽出塔6の内部温度が上記温度範囲であれば、錯体の変質を低減することができる傾向にある。なお、上記観点からは、なるべく低温で保持することが好ましいと言えるが、過剰に冷却すると分離コストの上昇を招くという不利益がある。
【0058】
超強酸としてHF−BF
3を用いた場合、錯体交換塔1および酸塩基抽出塔6の内部圧力は、MX−HF−BF
3錯体および脱離剤−HF−BF
3錯体の蒸気圧よりも高く、かつ塔を運転する上で不具合がない圧力が好適に選択される。具体的には、錯体交換塔1および酸塩基抽出塔6の内部圧力は、0.2MPa〜10MPaの圧力範囲あることが好ましく、より好ましくは0.25MPa〜1MPaの圧力範囲である。内部圧力を低くし過ぎると、HF−BF
3錯体から三フッ化ホウ素(気体)が放出してしまい、錯体状態が維持されない場合がある。また、内部圧力が高過ぎると、それに耐えうる材質や構造の塔を準備する必要があるため、分離コストの上昇を招く傾向にある。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。
【0060】
<相対塩基度の測定>
試料1
温度を制御できる内容積500mLの電磁撹拌装置付オートクレーブ(SUS316L製)に、無水フッ化水素50g(2.5mol、森田化学工業株式会社製)を仕込み、内容物を撹拌し液温を−10℃に保った。次に、MX(三菱ガス化学株式会社製)、3−エチルトルエン(試薬グレード、東京化成工業株式会社製)、およびn−ヘキサン(試薬グレード、和光純薬工業株式会社製)のモル比が1:2:3の割合となるように混合した原料液122.9g(MX:0.20mol、3−エチルトルエン:0.41mol、n−ヘキサン:0.59mol)を、反応器に4g/分の割合で供給した。続いて、反応器の液温を−10℃に冷却した後、三フッ化ホウ素(ステラケミファ株式会社製)を6g/分の割合で反応器に17.0g(0.25mol)供給し、0℃に昇温した後、30分間保持した。その後、攪拌を停止し、反応液を10分間静置したところ、フッ化水素溶液相と油相とに分離しているのが確認された。分離したフッ化水素溶液相および油相を、それぞれ氷水中に抜き出した。得られたフッ化水素溶液相および油相に対してそれぞれ中和処理を行い、フッ化水素溶液に溶解していた油分および油相中から微量酸分を取り除いた油分をそれぞれ得た。ガスクロマトグラフィー分析により得られた反応成績から3−エチルトルエンの相対塩基度を求めたところ、0.52であった。なお、分析はガスクロマトグラフィー(GC−14B、島津製作所製)を用いて、n−デカン(試薬グレード、和光純薬工業株式会社製)を内部標準物質として検量線を作成し評価した。また、キャピラリーカラムとして、信和化工株式会社製のULBON Xylene Master(内径0.32mmφ、長さ50m)を用いた。昇温プログラムは、70℃から2℃/分の割合で150℃まで昇温し、30分間保持した。
【0061】
試料2
3−エチルトルエンの代わりに1−フルオロナフタレン(試薬グレード、東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、試料1と同様にして相対塩基度の測定を行った。1−フルオロナフタレンの相対塩基度は0.37であった。
【0062】
試料3
3−エチルトルエンの代わりにフルオロ−2,3,4,6−テトラメチルベンゼン(新日本薬業株式会社製)を用いたこと以外は、試料1と同様にして相対塩基度の測定を行った。1−フルオロ−2,3,4,6−テトラメチルベンゼンの相対塩基度は0.29であった。
【0063】
試料4
3−エチルトルエンの代わりにメタジエチルベンゼン(試薬グレード、東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、試料1と同様にして相対塩基度の測定を行った。メタジエチルベンゼンの相対塩基度は0.28であった。
【0064】
試料5
3−エチルトルエンの代わりにフルオロ−2,4,6−トリメチルベンゼン(試薬グレード、東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、試料1と同様にして相対塩基度の測定を行った。フルオロ−2,4,6−トリメチルベンゼンの相対塩基度は0.16であった。
【0065】
試料6
3−エチルトルエンの代わりにプソイドクメン(試薬グレード、和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、試料1と同様にして相対塩基度の測定を行った。プソイドクメンの相対塩基度は1.63であった。
【0066】
試料7
3−エチルトルエンの代わりにメシチレン(試薬グレード、和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、試料1と同様にして相対塩基度の測定を行った。メシチレンの相対塩基度は5.00であった。
【0067】
試料8
3−エチルトルエンの代わりにOX(試薬グレード、和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は、試料1と同様にして相対塩基度の測定を行った。OXの相対塩基度は0.04であった。
【0068】
試料9
3−エチルトルエンの代わりに1,3,5−トリエチルベンゼン(試薬グレード、東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、試料1と同様にして相対塩基度の測定を行った。1,3,5−トリエチルベンゼンの相対塩基度は3.52であった。
【0069】
試料10
3−エチルトルエンの代わりにエチルベンゼン(試薬グレード、東京化成工業株式会社製)を用いたこと以外は、試料1と同様にして相対塩基度の測定を行った。エチルベンゼンの相対塩基度は0.02であった。
【0070】
上記した試料1〜10の相対塩基度の測定結果を、下記の表2に示す。なお、表2には、相対塩基度の高い順に試料を記載した。
【0071】
【表2】
【0072】
後述する各工程におけるMX−HF−BF
3錯体、MXの物質量は、各フッ化水素溶液相および油相を、それぞれ氷水中に抜き出し、得られたフッ化水素溶液相および油相に対してそれぞれ中和処理を行い、フッ化水素溶液に溶解していた油分および油相中から微量酸分を取り除いた油分をそれぞれ得た後、ガスクロマトグラフィー(GC−14B、島津製作所製)を用いて、n−デカン(試薬グレード、和光純薬工業株式会社製)を内部標準物質として検量線を作成することにより、評価したものである。なお、キャピラリーカラムとしては、信和化工株式会社製のULBON Xylene Master(内径0.32mmφ、長さ50m)を用いた。昇温プログラムは、70℃から2℃/分の割合で150℃まで昇温し、30分間保持した。
【0073】
[実施例1]
[MXの酸塩基抽出工程]
原料として、エチルベンゼン、p−キシレン、m−キシレン、およびo−キシレン(全て試薬グレード、和光純薬工業株式会社製)を、それぞれ質量基準で14%、19%、41%、および24%含まれるように混合したキシレン混合物を用いた。
【0074】
内部に合計52枚の回転円盤を備える内径45mm、全長2,000mmの回転円盤抽出塔(材質SUS316L製)を、塔内温度0℃、窒素圧で0.4MPaに保持し、抽出塔の中段に設けた供給管から、上記キシレン混合物を524g/時の割合で供給し、抽出塔の下部に備えた管より、希釈剤としてメチルシクロペンタンが39mol%含まれるヘキサン(株式会社ゴードー社製)を524g/時の割合で供給した。また、抽出塔の上段に備えた管から、フッ化水素、三フッ化ホウ素、MXおよびメタジエチルベンゼンをモル比で、フッ化水素:三フッ化ホウ素:MX:メタジエチルベンゼン=5:0.5:0.04:0.56の割合で含む混合液を、1738g/時の割合で供給し、MXの抽出を行った。なお、系内では、MX−HF−BF
3錯体およびメタジエチルベンゼン−HF−BF
3錯体が混合物として存在していた。
【0075】
フッ化水素および三フッ化ホウ素により抽出されたMXを、MX−HF−BF
3錯体のフッ化水素溶液として、抽出塔の塔底に備えた管から1370g/時の割合で連続的に排出した。また、抽出塔の塔頂に備えた管より、錯体溶液以外の混合成分を1534g/時の割合で連続的に排出した。塔底から排出された錯体溶液は、MX−HF−BF
3錯体とメタジエチルベンゼン−HF−BF
3錯体とが含まれており、そのモル比は、60:8であった。この排出された錯体溶液(フッ化水素溶液)中のMX−HF−BF
3錯体のモル数は、錯体溶液中のキシレン混合物の総モル数に対して0.995であった。また、下記式よりMX抽出率を算出したところ、92%であった。
MX抽出率(%)=(([抽出塔から排出されるMX−HF−BF
3錯体]のモル数−[抽出塔に供給したMX−HF−BF
3錯体]のモル数)/[供給したキシレン混合物中のMX]のモル数)×100
【0076】
[錯体交換工程]
錯体交換塔として、内部に合計26枚の回転円盤を備える内径45mm、全長1,000mmの回転円盤抽出塔(材質SUS316L)を塔内温度0℃、窒素圧で0.4MPaに保持し、抽出塔の上段に備えた管より、上記したMX抽出工程で排出された錯体溶液を、1367g/時の割合で供給した。また、希釈剤としてメチルシクロペンタンを39mol%含有するヘキサン(株式会社ゴードー社製)を20mol%、および脱離剤としてメタジエチルベンゼンを80mol%含む混合液を、抽出塔の下部に備えた管より2422g/時の割合で供給した。
【0077】
錯体交換塔内で脱離剤と錯体交換したMXを、脱離剤と希釈剤との混合液として、錯体交換塔の塔頂に備えた管より1988g/時の割合で連続的に排出した。排出された混合液中のMXの濃度、およびメタジエチルベンゼンの濃度は、質量基準でそれぞれ、11.2%および55.2%であった。また、メタジエチルベンゼン−HF−BF
3錯体のフッ化水素溶液を、錯体交換塔の塔底に備えた管より1843g/時の割合で連続的に排出した。排出された錯体フッ化水素溶液には、MX−HF−BF
3錯体とメタジエチルベンゼン−HF−BF
3錯体とが含まれており、その割合は、モル比で8:112であった。また、下記式よりMX錯体交換率を算出したところ、88%であった。
MX錯体交換率(%)=100−([錯体交換塔から排出されたMX−HF−BF
3錯体]のモル数)/([錯体交換塔に供給されたMX−HF−BF
3錯体]のモル数)×100
【0078】
以上の結果より、MX酸塩基抽出工程および錯体交換工程を経て、原料であるキシレン混合物からMXを分離した際のMX収率は81%であった。なお、MX収率は、下記式に従って算出した。
MX収率(%)=MX抽出率(%)×MX錯体交換率(%)/100
【0079】
従来技術では、錯体形成時に0℃以下へ冷却し、さらに、錯体分解時に塔底温度を100℃以上へ加熱する必要があったが、本実施形態のアルキル芳香族炭化水素の分離方法によれば、錯体形成時の冷却のみで済み、エネルギーコストを削減できるため、工業的に有利であることが分かる。
【0080】
[MXの単離]
上述した錯体交換工程において、抽出塔の塔頂に備えた管より排出されたMXを含む混合液を蒸留して、MXの単離を行った。先ず、脱離剤と希釈剤とを含むMX混合液約1kgを、93kPaの塔頂圧力で蒸留を行うことにより、ヘキサンとメチルシクロペンタンを主に含むMXの沸点未満の成分と、MXの沸点以上の成分とに分離した。続いて、31kPaの塔頂圧力で蒸留を行うことにより、MXを主に含む成分と、MXの沸点よりも高いジエチルベンゼンを主に含む成分とに分離した。この2段階の蒸留操作により、MX約105gを回収した。MXの純度は99.8%であった。なお、使用した蒸留塔の理論段数は約20段、各蒸留作業の還流比条件は30、MXの蒸留回収率は81%であった。
【0081】
[実施例2]
脱離剤として、メタジエチルベンゼンに代えて3−エチルトルエンを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、上記の操作を行った。その結果、MX抽出工程でのMX抽出率は90%であり、錯体交換工程でのMX錯体交換率は98%であり、MX抽出工程および錯体交換工程を経て、原料であるキシレン混合物からMXを分離した際のMX収率は88%であった。
【0082】
[実施例3]
脱離剤として、メタジエチルベンゼンに代えてプソイドクメンを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、上記の操作を行った。その結果、MX抽出工程でのMX抽出率は74%であり、錯体交換工程でのMX錯体交換率は100%であり、MX抽出工程および錯体交換工程を経て、原料であるキシレン混合物からMXを分離した際のMX収率は74%であった。
【0083】
[実施例4]
脱離剤として、メタジエチルベンゼンに代えてフルオロ−2,4,6−トリメチルベンゼンを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、上記の操作を行った。MX抽出工程でのMX抽出率は93%であり、錯体交換工程でのMX錯体交換率は70%であり、MX抽出工程および錯体交換工程を経て、原料であるキシレン混合物からMXを分離した際のMX収率は65%であった。
【0084】
[実施例5]
脱離剤として、メタジエチルベンゼンに代えてメシチレンを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、上記の操作を行った。MX抽出工程でのMX抽出率は53%であり、錯体交換工程でのMX錯体交換率は100%であり、MX抽出工程および錯体交換工程を経て、原料であるキシレン混合物からMXを分離した際のMX収率は53%であった。
【0085】
[比較例1]
脱離剤として、メタジエチルベンゼンに代えてo−キシレン(OX)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、上記の操作を行った。MX抽出工程でのMX抽出率は71%であり、錯体交換工程でのMX錯体交換率は1.6%であり、MX抽出工程および錯体交換工程を経て、原料であるキシレン混合物からMXを分離した際のMX収率は1%であった。
【0086】
上述した実施例1〜5および比較例1のMXの分離において、酸塩基抽出工程におけるMX抽出率、および抽出塔の塔底から排出された錯体溶液中のMX錯体の含有割合(=排出されたフッ化水素溶液中の炭素数8の芳香族炭化水素(エチルベンゼン、p−キシレン、MX、およびo−キシレン)の総モル数に対するMX−HF−BF
3錯体のモル数、即ち、フッ化水素溶液中のMX成分/全C8芳香族炭化水素のモル比)、ならびに錯体交換工程でのMX錯体交換率は、それぞれ下記表3に示すとおりであった。なお、表3においては、使用した脱離剤の相対塩基度の順に、実施例及び比較例を記載した。
【0087】
[比較例2]
[MXの酸塩基抽出工程]
内部に合計52枚の回転円盤を備える内径45mm、全長2,000mmの回転円盤抽出塔(材質SUS316L製)を、塔内温度0℃、窒素圧で0.4MPaに保持し、抽出塔の下部に備えた管より、希釈剤としてメチルシクロペンタンが39mol%含まれるヘキサン(株式会社ゴードー社製)を524g/時の割合で供給した。また、抽出塔の上段に備えた管から、フッ化水素、三フッ化ホウ素、エチルベンゼン、p−キシレン、MXおよびo−キシレンを、モル比でフッ化水素:三フッ化ホウ素:エチルベンゼン:p−キシレン:MX:o−キシレン=5:0.5:0.14:0.18:0.40:0.23の割合で含む混合液を、1909g/時の割合で供給し、MXの抽出を行った。
【0088】
フッ化水素および三フッ化ホウ素により抽出されたMXを、MX−HF−BF
3錯体のフッ化水素溶液として、抽出塔の塔底に備えた管から1429g/時の割合で連続的に排出した。また、抽出塔の塔頂に備えた管より、錯体溶液以外の混合成分を1005g/時の割合で連続的に排出した。塔底から排出された錯体溶液のMX、HFおよびBF
3のモル比は、0.39:5:0.5であった。この排出された錯体溶液(フッ化水素溶液)中のMX−HF−BF
3錯体のモル数は、錯体溶液中のキシレン混合物の総モル数に対して0.995であった。また、下記式よりMX抽出率を算出したところ、98.5%であった。
MX抽出率(%)=([抽出塔の塔底から排出される錯体溶液中のMX]のモル数)/([供給した混合液中のMX]のモル数)×100
【0089】
[錯体分解工程]
圧力0.4MPa、塔底温度120℃、ヘキサンを10g/分の割合で供給した、還流下の錯体分解塔(SUS316L製、内径760mm、長さ1760mm、1/2インチのテフロン製ラシヒリング充填)へ、上記で得られたMX−HF−BF
3錯体フッ化水素溶液を10g/分の割合で供給し、塔頂よりフッ化水素および三フッ化ホウ素を回収し、塔底部よりMXを含むヘキサン溶液を排出した。得られたヘキサン溶液に対して中和処理を行い、油層を得た。ガスクロマトグラフィー分析による反応成績からMX錯体分解率およびMX回収率を算出したところ、それぞれ、99.9%および99.9%であった。なお、錯体分解率およびMX回収率は、下記式により算出した。以上の結果より、MXの酸塩基抽出工程および錯体分解工程を経て、原料であるキシレン混合物からMXを分離した際のMX収率は98.4%であった。
MX錯体分解率(%)=100−(ヘキサン溶液中の三フッ化ホウ素のモル数/ヘキサン溶液中のMXのモル数)×100
MX回収率(%)=(ヘキサン溶液中のMXのモル数)/(供給したMX−HF−BF
3錯体のモル数)×100
【0090】
[MXの単離]
上記錯体分解工程において、分解塔の塔底より排出されたMXを含むヘキサン溶液を用いて、実施例1と同様の操作によりMXの単離を行った。得られたMXの純度は99.7%であり、MXの蒸留回収率は78%であった。錯体分解塔を用いた場合、錯体を変質することなく分解するには、塔底温度を100℃以上の温度にする必要があり、実施例1〜5では必要のない熱量を要することがわかる。
【0091】
【表3】
【0092】
[実施例6]
[脱離剤錯体の循環利用によるMXの酸塩基抽出工程]
抽出塔の上段に備えた管から供給する混合液として、実施例1の錯体交換工程で塔底より排出されたメタジエチルベンゼン−HF−BF3錯体を用いたこと以外は実施例1のMXの酸塩基抽出工程と同様にして操作を行った。
塔底より排出された錯体溶液中のMX−HF−BF3錯体のモル数は、錯体溶液中のキシレン混合物の総モル数に対して0.995で、MX抽出率は92%であり、上記の割合で調合した場合と同等の成績であった。
【0093】
[実施例7]
[メシチレンの酸塩基抽出工程]
原料として、プロピルベンゼン類7%、エチルトルエン類36%、メシチレン11%、プソイドクメン35%、ヘミメリテン6%、インダン1%、およびその他4%を含有するC9アルキルベンゼン混合物(株式会社ゴードー社製)を用いた。
【0094】
内部に合計52枚の回転円盤を備える内径45mm、全長2,000mmの回転円盤抽出塔(材質SUS316L製)を、塔内温度0℃、窒素圧で0.4MPaに保持し、抽出塔の中段に設けた供給管から、上記したC9アルキルベンゼン混合物を2392g/時の割合で供給し、抽出塔の下部に備えた管より、希釈剤としてメチルシクロペンタンが39mol%含まれるヘキサン(株式会社ゴードー社製)を524g/時の割合で供給した。また、抽出塔の上段に備えた管から、メシチレン−HF−BF
3錯体および1,2,3−トリエチルベンゼン−HF−BF
3錯体のフッ化水素溶液(モル比で、フッ化水素:三フッ化ホウ素:メシチレン:1,2,3−トリエチルベンゼン=5:0.5:0.002:0.66)を、1676g/時の割合で供給し、メシチレンの抽出を行った。
【0095】
フッ化水素および三フッ化ホウ素により抽出されたメシチレンを、メシチレン−HF−BF
3錯体のフッ化水素溶液として、抽出塔の塔底に備えた管から1460g/時の割合で連続的に排出した。また、抽出管の塔頂に備えた管より、錯体溶液以外の混合成分を3132g/時の割合で連続的に排出した。塔底から排出された錯体溶液は、メシチレン−HF−BF
3錯体および1,2,3−トリエチルベンゼン−HF−BF
3錯体のフッ化水素溶液(モル比で、メシチレン−HF−BF
3錯体:1,2,3−トリエチルベンゼン−HF−BF
3錯体とのモル比は、9:55)であった。この排出された錯体溶液(フッ化水素溶液)中のメシチレン−HF−BF
3錯体のモル数は、投入したC9アルキルベンゼン混合物の総モル数に対して0.90であった。また、下記式よりメシチレン抽出率を算出したところ、87%であった。
メシチレン抽出率(%)=(([抽出塔から排出されるメシチレン−HF−BF
3錯体]のモル数−[抽出塔に供給したメシチレン−HF−BF
3錯体]のモル数)/[供給したC9アルキルベンゼン混合物中のメシチレン]のモル数)×100
【0096】
[錯体交換工程]
錯体交換塔として、内部に合計26枚の回転円盤を備える内径45mm、全長1,000mmの回転円盤抽出塔(材質SUS316L)を塔内温度0℃、窒素圧で0.4MPaに保持し、抽出塔の上段に備えた管より、上記したメシチレン抽出工程で排出された錯体溶液を、1300g/時の割合で供給した。また、希釈剤としてメチルシクロペンタンを39mol%含有するヘキサン(株式会社ゴードー社製)を20mol%、および脱離剤として1,2,3−トリエチルベンゼンを80mol%含む混合液を、抽出塔の下部に備えた管より2169g/時の割合で供給した。
【0097】
抽出塔内で脱離剤と錯体交換したメシチレンを、脱離剤と希釈剤との混合液として、抽出塔の塔頂に備えた管より1299g/時の割合で連続的に排出した。排出された混合液中のメシチレンの濃度、および1,2,3−トリエチルベンゼンの濃度は、質量基準でそれぞれ、15.0%および48.0%であった。また、1,2,3−トリエチルベンゼン−HF−BF
3錯体フッ化水素溶液を、抽出塔の塔底に備えた管より2170g/時の割合で連続的に排出した。排出された錯体フッ化水素溶液には、メシチレン−HF−BF
3錯体および1,2,3−トリエチルベンゼン−HF−BF
3錯体が含まれており、その割合は、モル比で0.26:99.74であった。また、下記式よりメシチレン錯体交換率を算出したところ、99.5%であった。
メシチレン錯体交換率(%)=100−([錯体交換塔から排出されたメシチレン−HF−BF
3錯体]のモル数)/([錯体交換塔に供給されたメシチレン−HF−BF
3錯体]のモル数)×100
【0098】
[メシチレンの単離]
上記錯体交換工程において、抽出塔の塔頂に備えた管より排出されたメシチレンを含む混合液を蒸留して、メシチレンの単離を行った。先ず、脱離剤と希釈剤とを含むメシチレン150kgを、93kPaの塔頂圧力で蒸留を行うことにより、ヘキサンとメチルシクロペンタンを主に含むメシチレンの沸点未満の成分と、メシチレンの沸点以上の成分とに分離した。続いて、31kPaの塔頂圧力で蒸留を行うことにより、メシチレンを主に含む成分と、メシチレンの沸点よりも高い1,2,3−トリエチルベンゼンを主に含む成分とに分離した。この2段階の蒸留操作により、メシチレン19.2kgを回収した。メシチレンの純度は99.5%であった。なお、使用した蒸留塔の理論段数は85段、各蒸留作業の還流比条件は15、メシチレンの蒸留回収率は85%であった。
【0099】
本出願は、2012年6月29日に日本国特許庁へ出願された日本特許出願(特願2012−147540)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。