特許第6146511号(P6146511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146511
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】インバータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20170607BHJP
   H02P 21/22 20160101ALI20170607BHJP
【FI】
   H02M7/48 E
   H02P21/22
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-88843(P2016-88843)
(22)【出願日】2016年4月27日
(62)【分割の表示】特願2012-160670(P2012-160670)の分割
【原出願日】2012年7月19日
(65)【公開番号】特開2016-136840(P2016-136840A)
(43)【公開日】2016年7月28日
【審査請求日】2016年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100103229
【弁理士】
【氏名又は名称】福市 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】河野 雅樹
【審査官】 戸次 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−051589(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/096523(WO,A1)
【文献】 特開2012−044830(JP,A)
【文献】 特開2008−312392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M7/42−7/98
H02P6/00−6/34
21/00−25/03
25/04
25/10−27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に変動する直流電圧(Vdc)を入力し、多相の交流電圧(Vu,Vv,Vw)を回転機(1)に出力するインバータ(2)を制御するインバータ制御装置(8)であって、
前記回転機の回転角周波数で回転する回転座標系における一対の電流指令(iqr,idr)を生成する電流指令生成器(12)と、
前記回転機に流れる電流(iu,iv)を前記回転座標系において表した一対の電流(iq,id)と、前記一対の電流指令との偏差から、前記回転座標系における電圧指令(Vqr,Vdr)を生成する電圧指令生成器(24a,24b)と、
前記電圧指令から前記交流電圧の指令値(Vu*,Vv*,Vw*)を求める座標変換器(17)と
を備え、
前記電圧指令生成器は、
前記偏差を増幅する増幅器(13a,13b)と、
前記増幅器の出力と前記偏差との和に対して比例積分制御を行う比例積分制御器(16a,16b)と
を有し、
前記増幅器は、少なくとも前記直流電圧が変動する周波数(ω1/2π)で共振する、インバータ制御装置。
【請求項2】
トルクの、もしくは速度の指令値(T*)と、前記直流電圧(Vdc)の波形を入力し、前記指令値を前記直流電圧が変動する周波数(2f)で変調して、前記直流電圧が増大する期間においてのみ増大し、前記直流電圧が減少する期間においてのみ減少する修正指令値(T**)を生成する指令値修正器(11)
を更に備え、
前記電流指令生成器(12)は、前記修正指令値と電流位相(β)とを入力し、前記電流指令(iqr,idr)を生成する、請求項1記載のインバータ制御装置。
【請求項3】
前記増幅器は他の周波数でも共振する、請求項1又は請求項2記載のインバータ制御装置。
【請求項4】
前記他の周波数は、前記直流電圧が変動する前記周波数の整数倍である、請求項3記載のインバータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機を駆動するインバータを制御する技術に関する。特に当該インバータに入力する直流電圧が大きく変動する場合にトルク指令に対する追従性を高める技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力交流電力を一旦整流して直流電力を得てから、スイッチングによって当該直流電力を可変電圧、可変周波数の多相(例えば三相)の交流電力に変換し、当該交流電力で多相交流の交流回転機を可変速制御する、電力変換装置が広く利用されている。
【0003】
当該電力変換装置は、整流回路と、直流リンクコンデンサと、インバータとを備える。整流回路は、商用電源から供給される入力交流電圧を全波整流して直流電圧に変換する。インバータは、スイッチングによってその直流電圧を三相交流電圧に変換し、負荷である三相の交流回転機に供給する。
【0004】
この電力変換装置において、整流回路には、コンデンサ入力型の整流回路が最も多く採用される。このコンデンサ入力型の整流回路の出力側に接続された直流リンクコンデンサは、整流回路の出力電圧を平滑化させる機能を担う場合には、電解コンデンサを用いてその静電容量が大きく設定される。
【0005】
しかし、このような大容量のコンデンサの採用は、電力変換装置が大きくなることや製作コストを増大させる課題がある。
【0006】
その課題の対策の一例として、単相交流電圧を電源とする電解コンデンサレス電力変換装置が開発された(例えば、特許文献1、非特許文献1、2)。例えば電解コンデンサレス電力変換装置では、直流リンクコンデンサとして小容量のフィルムコンデンサを使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4192979号公報
【特許文献2】特開2005−223991号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】宇津木、大石、芳賀、「IPMSM駆動用電解コンデンサレスインバータの高調波抑制制御の一検討」、平成23年電気学会産業応用部門大会、No.1-43、ppI-265-I-268
【非特許文献2】関本、他4名、「電解コンデンサレスインバータによるグローバル電源高調波規制対応エアコンの開発」、平成23年電気学会モータドライブ研究会、No.MD-11号、pp51-56
【非特許文献3】余、中野、王、「繰返し制御系における外乱の抑制」、計測自動制御学会論文集,Vol. 37, No.5, pp. 397-402, 2001.
【非特許文献4】稲妻、他3名「IPMSM駆動用電解コンデンサレスインバータの高調波抑制制御の一検討高力率制御されたIPMモータの入力電流の高調波抑制法」、電気学会研究会資料、家電・民生合同研究会、2011年3月4日、HCA-11-11、pp57-62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1もしくは非特許文献1、2に記載された方法では、直流リンクコンデンサの容量が小さいため、直流リンク電圧が電源周波数の2倍の周波数で変動することになる。つまり直流リンク電圧が零に近い小さい値となるタイミングは、電源周波数の周期の半分の周期で繰り返されることになる。
【0010】
回転機のトルクは回転機に与えられる電力に依存する。よって要求されるトルクが変わらなければ、直流リンク電圧が小さい値を採るほど大きな電流を流す必要がある。しかし電流が大きくなれば、回転機の銅損が増加する。
【0011】
よって直流リンク電圧が小さい値を採るときには回転機に小さな電力を与えることにより、銅損や高調波の抑制を行う技術が非特許文献1,4に示されている。
【0012】
しかしながら非特許文献1,4に示されている技術では、インバータが出力する(従って回転機に与える)電力が、直流リンク電圧の波形と近似して電源周波数の2倍の周波数で変動する。このような電力の大きな変動はトルクの制御を複雑にする。
【0013】
非特許文献1,4の制御では、非特許文献3に例示されるような繰返し制御系を採用する。しつつ、更にバンドパスフィルタを用いることによって、電流指令を生成する。
【0014】
しかし、繰返し制御を用いる場合、非特許文献3の図2に示されるように、応答が高速化されるが、高い周波数域で複数の周波数のゲインが高くなる特性となる。特許文献2や非特許文献2において、繰返し制御を用いた電流制御ではある特定の周波数を低減・抑制することができるが、その他の高域側の周波数帯が増加する傾向にある周波数特性となる課題がある。
【0015】
特に非特許文献1、2に記載されているように電解コンデンサレス電力変換装置では電源側に流れる入力電流の電源高調波の低減を実現する必要がある。繰返し制御の電流制御を用いると高い周波数域で複数の周波数のゲインが高くなる特性になることから、電源側に流れる入力電流の電源高調波の特性が悪化する可能性がある。
【0016】
かかる現象について、非特許文献4には、繰返し制御と共にバンドパスフィルタを採用し、繰返し制御において電源周波数の2倍の周波数以外でのゲインを抑える技術が紹介されている。しかしこれもトルク指令に対する制御の追従性を、電源電圧の2倍の周波数において高めているに過ぎず、トルク指令の変動自体を抑制しているものではない。しかも、非特許文献4に記載されているバンドパスフィルタは、非特許文献4の式(9)に示すように分母、分子とも2次の構成となっており、これを実現するためには制御系を実現するための計算負荷が高いという課題がある。かかる計算負荷の増大は、高性能のマイクロコンピュータを必要とし、コストを増大させてしまう。
【0017】
以上の課題に鑑み、本発明の主目的は、電流指令の変動に追従した制御を、低い計算負荷で実現することにある。更には、直流リンク電圧が小さいときに電流を小さくして回転機の銅損を抑制することや、電流指令の変動を抑えることも副次的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明にかかるインバータ制御装置(8)は、周期的に変動する直流電圧(Vdc)を入力し、多相の交流電圧(Vu,Vv,Vw)を回転機(1)に出力するインバータ(2)を制御する。
【0019】
そしてその第1の態様は、前記回転機の回転角周波数で回転する回転座標系における一対の電流指令(iqr,idr)を生成する電流指令生成器(12)と、前記回転機に流れる電流(iu,iv)を前記回転座標系において表した一対の電流(iq,id)と、前記一対の電流指令との偏差から、前記回転座標系における電圧指令(Vqr,Vdr)を生成する電圧指令生成器(24a,24b)と、前記電圧指令から前記交流電圧の指令値(Vu*,Vv*,Vw*)を求める座標変換器(17)とを備える。
【0020】
前記電圧指令生成器は、前記偏差を増幅する増幅器(13a,13b)と、前記増幅器の出力と前記偏差との和に対して比例積分制御を行う比例積分制御器(16a,16b)とを有する。前記増幅器は、少なくとも前記直流電圧が変動する周波数(ω1/2π)で共振する。
【0021】
この発明にかかるインバータ制御装置の第2の態様は、その第1の態様であって、トルクの、もしくは速度の指令値(T*)と、前記直流電圧(Vdc)の波形を入力し、前記指令値を前記直流電圧が変動する周波数(2f)で変調して、前記直流電圧が増大する期間においてのみ増大し、前記直流電圧が減少する期間においてのみ減少する修正指令値(T**)を生成する指令値修正器(11)を更に備える。
【0022】
前記電流指令生成器(12)は、前記修正指令値と電流位相(β)とを入力し、前記電流指令(iqr,idr)を生成する。
【0023】
この発明にかかるインバータ制御装置の第3の態様は、その第1の態様又は第2の態様であって、前記増幅器は他の周波数でも共振する。
【0024】
この発明にかかるインバータ制御装置の第4の態様は、その第3の態様であって、前記他の周波数は、前記直流電圧が変動する前記周波数の整数倍である。
【発明の効果】
【0025】
この発明にかかるインバータ制御装置の第1の態様によれば、電圧指令生成器における増幅器が直流電圧が変動する周波数で共振するので、当該周波数における増幅度が非常に大きくなり、電流指令の変動に追従した制御が行われる。当該増幅器はバンドパスフィルタを採用する場合と比較して、急峻な周波数特性を低次の伝達関数で実現できるので、計算負荷が抑えられる。
【0026】
この発明にかかるインバータ制御装置の第2の態様によれば、トルク指令または速度指令を変調して、第1の態様にいう電流指令が生成される。
【0027】
この発明にかかるインバータ制御装置の第3の態様又は第4の態様によれば、トルクの、もしくは速度の指令値や、電流指令として台形波を採用しても、その変動への追従度が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1の実施の形態における電力変換装置及びその周辺を示す回路図である。
図2】第1の実施の形態における諸量の波形を示すグラフである。
図3】第1の実施の形態における出力演算手段の構成を例示するブロック図である。
図4】第1の実施の形態における増幅器の構成を示すブロック図である。
図5】第1の実施の形態における伝達関数を示すボード線図である。
図6】第1の実施の形態における伝達関数を示すボード線図である。
図7】第1の実施の形態における伝達関数を示すボード線図である。
図8】第2の実施の形態における諸量の波形を示すグラフである。
図9】第2の実施の形態における増幅器の構成を示すブロック図である。
図10】第2の実施の形態における伝達関数を示すボード線図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
第1の実施の形態.
図1は本発明の第1の実施の形態における電力変換装置及びその周辺を示す回路図である。
【0030】
当該電力変換装置は、交流回転機(以下、単に「回転機」と称す)1を駆動すべく、整流手段5と、直流リンクコンデンサ3と、電力変換器たるインバータ2と、インバータ制御装置たる出力電圧演算手段8とを備えている。本実施の形態では直流リンクコンデンサ3の容量を小さくし、上述の電解コンデンサレス電力変換装置を採用する。回転機1はインバータ2の三相負荷として機能し、例えば同期機や誘導機を採用することができる。
【0031】
整流手段5は単相交流電源6の交流電圧を直流電圧に変換し、例えば全波整流型のダイオードブリッジが採用される。直流リンクコンデンサ3の容量は小さく、その支持する直流リンク電圧Vdcは周期的に変動する。ここでは整流手段5が全波整流を行うので、直流リンク電圧Vdcは単相交流電源6の交流電圧の半分の周期で変動する。直流リンク電圧Vdcは直流電圧検出手段4によって検出される。
【0032】
インバータ2は、直流リンク電圧Vdcを入力し、トルク指令T*に対応した多相の交流電圧Vu,Vv,Vwを回転機1に出力する。
【0033】
出力電圧演算手段8は、直流電圧検出手段4により検出された直流リンク電圧Vdc、回転機1に流れる電流iu,iv、回転機1の位相角θに基づいて、インバータ2が回転機1に与えるべき電圧Vu,Vv,Vwの指令値たる電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を出力する。
【0034】
電流iu,ivはそれぞれ電流検出器7a、7bによって検出され、回転機1の位相角θは位相検出器9によって検出される。
【0035】
電流検出器7a、7bは、インバータ2と回転機1とを接続する結線に設けられる。これらは例えばカレントトランスを採用することができる。そのほか、他の公知の手法を用いて、直流リンクを流れる電流(母線電流)など、インバータ2内部に流れる電流を用いて相電流を検出してもよい。
【0036】
回転機1に流れる三相電流の和は零となるので、二相分の検出電流(ここでは電流iu,iv)から残り一相の電流を求めることができる。もちろん、電流iu,ivをそれぞれU相電流、V相電流として把握すると、W相電流とV相電流とを検出して、電流iuを求めることもできる。
【0037】
図2は本実施の形態における諸量の波形を示すグラフである。同図(a)は直流リンク電圧Vdcの波形を示し、同図(b)は修正トルク指令T**の波形をトルク指令T*と併せて示し、同図(c)はq軸電流指令iqr及びd軸電流指令idrの波形を示す。図2では直流リンク電圧Vdcの一周期分、即ち単相交流電源6の交流電圧の半周期T/2分における諸波形のみを示している。他の期間における諸波形は半周期T/2分における諸波形と同様になるので、図2においては省略した。
【0038】
トルク指令T*は、定常状態の運転時には、図2(b)において破線で示されるように大きく変動はせず、例えば半周期T/2においてほぼ一定値を採る。回転機1が出力するトルクは、回転機1に入力する電力によって賄われる。よって半周期T/2においてほぼ一定のトルクを出力しようとすると、直流リンク電圧Vdcが小さいときに、大きな電流を回転機1に流す必要がある。
【0039】
しかしながら、回転機1に流れる電流を大きくすると、回転機1の銅損を増加させる。かかる観点からは、直流リンク電圧Vdcが小さい時点では、トルクを小さくすることが望ましい。よって修正トルク指令T**は、直流リンク電圧Vdcが小さいときに小さく、直流リンク電圧Vdcがある程度大きいときに大きく、それぞれ設定することが望ましい。
【0040】
つまり修正トルク指令T**も直流リンク電圧Vdcと同様に、周波数(2/T)で変動することが望ましい。更に望ましくは、トルクの変動を抑制する観点から、修正トルク指令T**が変動する期間は短いことが望ましい。
【0041】
そこで本実施の形態では、修正トルク指令T**をトルク指令T*に替えて採用し、その波形に台形波を採用する。図2に即して言えば、当該台形波は直流リンク電圧Vdcが増大する期間においてのみ期間trで増大し、直流リンク電圧Vdcが減少する期間においてのみ期間tdで減少する。そして半周期(T/2)における修正トルク指令T**の平均値はトルク指令T*に等しいことが望ましい。これにより当所のトルク指令T*に対応した制御を行うことができる。
【0042】
このような修正トルク指令T**の波形を反映して、q軸電流指令iqr及びd軸電流指令idrの波形も台形波となる。なおここではいわゆる弱め界磁を想定して、d軸電流指令idrは負となっている。
【0043】
このように周波数(2/T)で変動する修正トルク指令T**に基づいてインバータ2を制御する場合、出力電圧演算手段8は周波数(2/T)における追従性を良好にする必要がある。例えば電源周波数を50Hzとすると直流リンク電圧Vdcが変動する周波数は100Hzである。よって出力電圧演算手段8内での電流制御応答を100Hz以上に設定する必要がある。
【0044】
このような電流制御の高性能化・高速化応答のため、非特許文献4では繰返し制御と共にバンドパスフィルタが採用され、繰返し制御において電源周波数の2倍の周波数以外でのゲインが抑えられている。しかし上述の通り、かかる構成は計算負荷を増大させてしまう。そこで、本実施の形態の出力電圧演算手段8では、下記のようにして、直流リンク電圧Vdcが小さいときにトルクを小さくして回転機1の銅損を抑制しつつ、修正トルク指令T**の変動に追従した制御を、低い計算負荷で実現する。
【0045】
図1に示されるように、出力電圧演算手段8には、直流電圧検出手段4で検出された直流リンク電圧Vdc(正確にはその値及び/又は波形)と、電流検出器7a、7bで検出された電流iu、iv(正確にはその値)と、位相検出器9で検出された位相θとを入力する。
【0046】
また、交流回転機1が所望のトルクを出力するためのトルク指令T*を入力する。トルク指令T*は、速度制御を行う場合の速度指令と、検出された交流回転機1の実速度との偏差にゲイン倍などよって算出される値、つまり速度制御の出力値でもよい。つまり、モータの出力するトルクに相当する制御量である。
【0047】
図3は出力電圧演算手段8の構成を例示するブロック図である。出力電圧演算手段8は、トルク指令修正器11、dq軸電流指令生成器12、電圧指令生成器24a,24b、座標変換器10,17及び減算器14a,14bを備えている。
【0048】
座標変換器10は三相/dq軸変換器であって、電流iu,ivをdq座標系におけるq軸電流iq及びd軸電流idに変換する。ここでdq座標系はd軸及びこれに対してπ/2進相するq軸を有し、回転機1の回転角周波数で回転する回転座標系である。本来的には三相の電流をdq軸上の電流に変換するが、既述のように三相電流の和が零であるという特徴から、実際にq軸電流iq及びd軸電流idを求めるために必要な相電流は二相分で足りる。
【0049】
公知の通り、三相電圧あるいは三相電流を回転直交二軸へ座標変換をするときに、制御座標軸が必要となるが、この制御座標軸の位相をθとする。位相θは、本実施の形態では図1に示す位相検出器9で検出する。
【0050】
トルク指令修正器11は、直流リンク電圧Vdcとトルク指令T*とを入力し、上述の修正トルク指令T**を出力する。具体的には、直流リンク電圧Vdcの波形を入力し、トルク指令T*を直流リンク電圧Vdcが変動する周波数(2f=2/T))で変調する。これにより、直流リンク電圧Vdcが増大する期間においてのみ増大し、直流リンク電圧Vdcが減少する期間においてのみ減少する修正トルク指令T**が得られる。
【0051】
dq軸電流指令生成器12は、修正トルク指令T**と、電流位相βとを入力し、dq座標系における電流指令iqr,idrを生成する。電流位相βは、例えば回転機1に流れる電流のq軸に対する進相角として把握される。
【0052】
減算器14aは電流指令idrに対するd軸電流idの偏差Δdを出力し、減算器14bは電流指令iqrに対するq軸電流iqの偏差Δqを出力する。
【0053】
座標変換器17はdq/三相軸変換器であって、d軸電圧指令Vdr及びq軸電圧指令Vqrを、三相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に変換する。電圧指令Vu*,Vv*,Vw*は、回転機1に与える交流電圧Vu,Vv,Vwの指令値である。インバータ2は電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に基づいて、回転機1にトルク指令T*に対応した動作をさせる制御を行う。
【0054】
座標変換器10,17、トルク指令修正器11、dq軸電流指令生成器12、減算器14a,14bは、周知であるので、その具体的な構成の説明は本実施の形態において割愛する。
【0055】
なお公知の通り、座標変換器10,17の動作には制御座標軸が必要となるが、この制御座標軸の位相をθとする。位相θは、本実施の形態では図1に示す位相検出器9で検出する。
【0056】
電圧指令生成器24aは、偏差Δdから電圧指令Vdrを生成し、電圧指令生成器24bは、偏差Δqから電圧指令Vqrを生成する。電圧指令生成器24a,24bは電流の偏差から電圧指令値を生成するので、減算器14a,14bと共に電流制御部として把握される。
【0057】
電圧指令生成器24aは、増幅器13a、加算器15a、PI制御器16aを備えている。電圧指令生成器24bは、増幅器13b、加算器15b、PI制御器16bを備えている。
【0058】
図4は、増幅器13a,13bの構成を示すブロック図であり、増幅器13a,13bのいずれにも採用される。当該構成は定数倍部18、減算器19、乗算部20、積分部21,22を有している。
【0059】
本実施の形態においては、増幅器13a,13bが周波数2fにおいてのみ高利得化することが望ましい。この目的のため、電流制御部が特定角周波数ω1においてのみ高利得化するためのフィルタを構成する。例えば周波数2f=100Hzである。
【0060】
まず、極jω1に対して高利得化するためのフィルタの伝達関数F0を式(1)式で表現する。記号sは微分要素を示す。
【0061】
【数1】
【0062】
式(1)に示した伝達関数F0の極はjω1であり、定常状態(s=0)及び十分高い帯域(s=∞)で零となるので、極jω1に対してのみ高利得となることが可能である。
【0063】
図5はボード線図であり、グラフG1,P1が、特定角周波数ω1を2π×100[rad/sec]としたときの伝達関数F0の式(1)のゲイン及び位相を示す。
【0064】
図5に示すように伝達関数F0は極に対してゲインが高くなることが判る。しかし、伝達関数F0はその極近傍においてもゲインが大きい特性を有しているので、極近傍のゲインを下げることと、高周波域でゲインを小さくすることを目指す。具体的には、フィルタのゲインを周波数に反比例するように、伝達関数F0を特定周波数ω1で除算したフィルタの伝達関数F1を求める。
【0065】
【数2】
【0066】
図5のグラフG2は、特定角周波数ω1を2π×100[rad/sec]としたときの伝達関数F1のゲインを示す。伝達関数F1の位相は伝達関数F0の位相と同じくグラフP1で示される。
【0067】
グラフG2から、伝達関数F1のゲイン特性は、特定周波数(ω1/2π)=100Hz(10Hz)のみでゲインが1(=0dB)以上となっていることが判る。またグラフG1,G2の比較から、その他の周波数帯のゲインも、伝達関数F0よりも伝達関数F1の方が低いことが確認できる。よって、式(2)により、特定周波数のみゲインを高めつつ、他の周波数帯に影響を抑制したフィルタが設計できる。
【0068】
式(2)式の特性を実現する増幅器13a、13bの構成は図4に示される。定数倍部18はゲインK1で偏差Δd(あるいは偏差Δq)を定数倍する。減算器19は、乗算部20の出力を定数倍部18の出力から差し引く。積分部21は減算器19の出力に積分演算を行い、信号Hd(あるいは信号Hq)を出力する。積分部22は信号Hd(あるいは信号Hq)に積分演算を行い、当該積分演算の結果に対して乗算部20は特定角周波数ω1の二乗を乗算する。このような構成により、増幅器13a、13bは伝達関数F1を実現することができることは明白である。
【0069】
伝達関数F1は特定角周波数ω1で共振する直列共振回路のアドミッタンスに相当する特性を有している。換言すれば増幅器13a,13bは直流リンク電圧Vdcが変動する周波数である特定周波数(ω1/2π)で共振する特性を有していると言える。そしてかかる共振特性を利用することにより、式(2)から明白なように、伝達関数は分母が2次式、分子が1次式という比較的に低い次数の多項式で表されている。
【0070】
このように特定周波数で共振する増幅器13a、13bを採用することにより、非特許文献4で例示された手法よりも本実施の形態の技術の方が計算負荷が低い利点がある。
【0071】
電圧指令生成器24aでは、増幅器13aが出力する信号Hdと偏差Δdとが加算器15aによって加算される。PI制御器16aは当該加算結果を比例積分制御して電圧指令Vdrを生成する。同様に、電圧指令生成器24bでは、増幅器13bが出力する信号Hqと偏差Δqとが加算器15bによって加算される。PI制御器16bは当該加算結果を比例積分制御して電圧指令Vqrを生成する。
【0072】
PI制御器16a、16bは、いずれの伝達関数も式(3)で示される。但しゲインKp及び積分時定数Tiを導入した。式(3)の右辺第1項が比例制御を示し、右辺第2項が積分制御を示す。
【0073】
【数3】
【0074】
図6はボード線図であり、グラフG3,P3が、それぞれ式(3)で示された伝達関数のゲイン及び位相を表す。またグラフG21,P1をも併記した。グラフG21は増幅器13a,13bのゲインを示すが、図5に示されたグラフG2とはゲインK1の値が異なる。このように定数倍部18のゲインK1も、特定周波数(ω1/2π)におけるゲイン特性を調整するために有効なパラメータである。
【0075】
なお、ボード線図の位相曲線はゲインK1の値に依存しないので、図5及び図6においてグラフP1は共通する。
【0076】
図7はボード線図であり、グラフG4,P4が、それぞれ電圧指令生成器24a(又は電圧指令生成器24b)の伝達関数のゲイン及び位相を表す。
【0077】
このように電圧指令生成器24a,24bが有するPI制御器16a,16bと増幅器13a,13bと加算器15a,15bにより、周辺の周波数におけるゲインを増加させることなく、ある特定周波数(ここでは100Hz)のみのゲイン特性を改善できる。
【0078】
このように、本実施の形態では、直流リンクコンデンサ3の容量を小さくした電解コンデンサレス電力変換装置で、トルク指令T*を、直流リンク電圧Vdcの変動と同じ周波数で変動する修正トルク指令T**へと修正する。これにより、直流リンク電圧Vdcが低いときに回転機1へ流れる電流を低減することができ、回転機1の銅損が低減される。これは回転機1の小型・低コスト化に資する。
【0079】
そして修正トルク指令T**に対応するための電流制御は、当該修正トルク指令T**が変動する周波数において伝達関数のゲインが高められるので、追従性がよい。このような良好な追従性は、トルクの立ち上げを速くすることに資する。
【0080】
しかもそれ以外の周波数において電流制御のゲインが高められないので、電源側に流れる入力電流の高調波成分を増加させない。
【0081】
しかもそのような周波数特性を得るために用いる増幅器13a,13bは、直流リンク電圧Vdcが変動する周波数で共振するので、バンドパスフィルタを採用する場合と比較して、急峻な周波数特性を低次の伝達関数で実現できる。これは計算負荷を抑制する観点で望ましい。
【0082】
また修正トルク指令T**に台形波を採用することにより、トルク指令の変動を、従ってトルクの変動をも抑制することができる。
【0083】
単相交流電源6を三相交流電源に代えても本実施の形態を適用することができる。この場合、整流手段5は三相全波整流型のダイオードブリッジが採用される。そしてこの場合、直流リンク電圧Vdcの一周期分は、当該三相交流電源の周期Tの1/6となるので、増幅器13a,13bは特定角周波数ω1=12π/Tで共振する構成を採用する。
【0084】
第2の実施の形態.
図8は本実施の形態における諸量の波形を示すグラフであり、第1の実施の形態の図2に対応する。
【0085】
第1の実施の形態と同様に、修正トルク指令T**が示す波形は直流リンク電圧Vdcが増大する期間においてのみ期間trで増大し、直流リンク電圧Vdcが減少する期間においてのみ期間tdで減少する。しかし第1の実施の形態とは異なり、修正トルク指令T**は期間trの前半tr1と後半tr2とでは増大率(波形の傾斜)が異なり、期間tdの前半td2と後半td1とでは減少率(波形の傾斜)が異なる。これに伴い、電流指令iqr,idrも、傾斜部分が屈曲する台形波を呈する。本実施の形態ではこのような、傾斜部分が屈曲する台形波を呈する修正トルク指令T**にも対応する技術を説明する。
【0086】
このような場合、修正トルク指令T**は電源周波数の2倍の周波数の他の周波数でも変動することになる。本実施の形態においても出力電圧演算手段8は、図3に示された構成が採用される。但し、本実施の形態においては、増幅器13a,13bが特定角周波数ω1,ω2においてのみ高利得化する。式(1)(2)と同様にして式(4)(5)を得る。
【0087】
【数4】
【0088】
【数5】
【0089】
図9は増幅器13a,13bの構成を示すブロック図であり、増幅器13a,13bのいずれにも採用される。当該構成は定数倍部18a,18b、減算器19a,19b、乗算部20a,20b、積分部21a,21b,22a,22b及び加算器23を有している。
【0090】
定数倍部18aは第1実施の形態の定数倍部18に相当し、ゲインK1で偏差Δd(あるいは偏差Δq)を定数倍する。定数倍部18bは第1実施の形態の定数倍部18に相当し、ゲインK2で偏差Δd(あるいは偏差Δq)を定数倍する。
【0091】
減算器19a,19bはいずれも第1実施の形態の減算器19に相当し、積分部21a,21bはいずれも第1実施の形態の積分部21に相当し、積分部22a,22bはいずれも第1実施の形態の積分部22に相当する。
【0092】
乗算部20aは第1実施の形態の乗算部20に相当し、特定角周波数ω1の二乗を乗算する。乗算部20bは第1実施の形態の乗算部20に相当し、特定角周波数ω2の二乗を乗算する。加算器23は積分部21a,22bの出力を加算し、信号Hd(あるいは信号Hq)を出力する。
【0093】
図9の構成により、上式(5)の伝達関数F3を実現する増幅器13a,13bが得られることは明白である。
【0094】
図10はボード線図であり、グラフG5,P5が、それぞれ式(5)で示された伝達関数のゲイン及び位相を表す。またグラフG6,P6をも併記した。グラフG6,P6はそれぞれ電圧指令生成器24a(又は電圧指令生成器24b)の伝達関数のゲイン及び位相を表す。
【0095】
このように、修正トルク指令T**が示す波形の周波数成分に応じて、増幅器13a,13bは、直流リンク電圧Vdcが変動する周波数の2倍の周波数以外にも共振することが望ましい。
【0096】
本実施の形態では二つの特定角周波数ω1、ω2が採用される場合について説明したが、3つ以上の特定角周波数ω1、ω2,…ωn(n≧3)が採用されてもよい。この場合、図4に示された構成の複数が、偏差Δd(あるいは偏差Δq)と加算器23とに対して並列に設けられる。
【0097】
第3の実施の形態.
第2の実施の形態で説明されたように、修正トルク指令T**の波形の傾斜部分が屈曲する場合の他、屈曲しない場合であっても増幅器13a,13bは、直流リンク電圧Vdcが変動する周波数の2倍の周波数以外にも共振することが望ましい。通常、台形波の周波数スペクトラムは当該台形波の基本周期の整数倍の周波数成分を含むからである。
【0098】
よって第2の実施の形態で示された増幅器13a,13bを採用し、これらが共振する周波数は直流リンク電圧が変動する周波数(4π/T)の整数倍であることが望ましい。修正トルク指令T**として台形波を採用しても、その変動への追従度が良好だからである。
【0099】
<変形>
上記のトルク指令T*はトルクの指令値であるが、速度の指令値についても、修正トルク指令T**と同様に修正指令値を採用することができる。この場合、トルク指令修正器11は、速度指令から修正速度指令を生成する指令値修正器に代替される。具体的には当該指令値修正器は、速度指令を直流リンク電圧Vdcが変動する周波数2fで変調して、直流リンク電圧Vdcが増大する期間においてのみ増大し、直流リンク電圧Vdcが減少する期間においてのみ減少する修正速度指令を生成する。
【0100】
また、上述のように、修正トルク指令T**の波形を反映して、q軸電流指令iqr及びd軸電流指令idrの波形も台形波となる。つまり、上記の各実施の形態において、q軸電流指令iqr及びd軸電流指令idrの波形の絶対値は、直流リンク電圧Vdcが増大する期間においてのみ増大し、直流リンク電圧Vdcが減少する期間においてのみ減少すると把握できる。
【0101】
結局、q軸電流指令iqr及びd軸電流指令idrが上記の増大/減少を呈する波形を有していれば、その波形を呈することとなった要因がトルク指令であっても、速度指令であっても、その他の要因であっても、上記実施の形態が適用可能となる。このような電流指令idrに対するd軸電流idの偏差Δdと、電流指令iqrに対するq軸電流iqの偏差Δqとに対して、少なくとも周波数(ω1/2π)で共振する増幅器13a,13bを用いれば、q軸電流指令iqr及びd軸電流指令idrの変動に追従した制御が行われ、上記実施の形態の効果が得られる。
【符号の説明】
【0102】
1 交流回転機
2 インバータ
8 出力電圧演算手段
11 トルク指令修正器
12 dq軸電流指令生成器
13a,13b 増幅器
16a,16b PI制御器
17 座標変換器
24a,24b 電圧指令生成器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10