特許第6146543号(P6146543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146543
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】加硫ゴム用表面処理剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20170607BHJP
   C09D 109/00 20060101ALI20170607BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20170607BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20170607BHJP
   C09D 191/06 20060101ALI20170607BHJP
   C08L 15/00 20060101ALI20170607BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20170607BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   C09D133/00
   C09D109/00
   C09D127/12
   C09D175/04
   C09D191/06
   C08L15/00
   C08L27/12
   C08L91/06
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-550328(P2016-550328)
(86)(22)【出願日】2015年9月18日
(86)【国際出願番号】JP2015076799
(87)【国際公開番号】WO2016047640
(87)【国際公開日】20160331
【審査請求日】2017年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-192211(P2014-192211)
(32)【優先日】2014年9月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】木村 奈津美
(72)【発明者】
【氏名】阿部 克己
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−213122(JP,A)
【文献】 特開2007−332269(JP,A)
【文献】 特開2008−189892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
C09K 3/18
C08C19/00− 19/44
C08F 6/00−301/00
D06M 3/00− 15/715
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンと次の組成を有するOH基含有フッ素樹脂組成物
(A)パーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレート
(B)水酸基含有(メタ)アクリレート
の共重合体〔I〕、アクリル酸アルキルエステルの重合体〔II〕、フッ素化オレフィンの重合体〔III〕および硬化剤〔IV〕を含有する組成物との合計量100重量部に対し、軟化点40〜160℃のワックスおよびフッ素樹脂粒子をそれぞれ10〜160重量部の割合で含有させ、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンとOH基含有フッ素樹脂組成物との比が、重量比で50:50〜95:5の割合で用いられた加硫ゴム用表面処理剤。
【請求項2】
イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンおよびOH基含有フッ素樹脂組成物がいずれも有機溶剤溶液として用いられた請求項1記載の加硫ゴム用表面処理剤。
【請求項3】
オイルシールのシールリップ部のコーティングに用いられる請求項1記載の加硫ゴム用表面処理剤。
【請求項4】
請求項3記載の加硫ゴム用表面処理剤でコーティング被膜を形成させたシールリップ部を有するオイルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ゴム用表面処理剤に関する。更に詳しくは、コーティング被膜全体のさらなる低摩擦化および耐摩耗性を向上させた加硫ゴム用表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム被覆金属製ガスケットのゴム層やベアリングシール、オイルシール等のゴム製弾性体摺動部の表面には、固着防止、ブロッキング防止および耐摩耗性向上という目的で、グラファイトのコーティング膜や、脂肪酸の金属塩またはアミド、パラフィン等のワックス、シリコーンオイルなどのコーティング膜あるいはバインダーとしてエチルセルロース、フェノール樹脂などを含むコーティング膜を形成させることが行われている。エンジンガスケットなどは、高面圧、高温度条件下で使用され、これに更にエンジンの振動が加わると、ガスケット表面のゴム被覆層が摩耗し、ガス洩れを発生させることがある。また、ベアリングシールやオイルシール等のゴム製弾性体摺動部のゴム被覆層が、くり返し摺動により摩耗し、オイル洩れを発生させることがある。
【0003】
そこで、本出願人は先に、エンジンヘッドガスケットの使用環境である高面圧、高温度に、更に振動が加わるような苛酷な使用条件下においても、ガスケット表面のゴム被覆層に摩耗や破壊を生ずる現象が殆んどみられず、ガスシールに有効なガスケットなどのゴム層を形成させ得る加硫ゴム用表面処理剤として、液状1,2-ポリブタジエンの水酸基含有物およびその硬化剤としての1,2-ポリブタジエンイソシアネート基含有物に、ポリオレフィン樹脂の水性分散液を添加した加硫ゴム用表面処理剤を提案している(特許文献1)。
【0004】
ここで、提案された加硫ゴム用表面処理剤は、ゴム被覆層の耐摩耗性の向上という所期の目的は達成させるものの、水性分散液が用いられているため、水が1,2-ポリブタジエンの水酸基とイソシアネート基との間の反応を促進し、また水がイソシアネート基自身とも反応するため、表面処理分散液の粘度上昇およびゲル化が起こり、塗布加工時の作業性が悪いという問題がみられた。また、水とイソシアネート基との反応の結果、1,2-ポリブタジエンの高分子量化が妨げられ、表面処理層の耐摩耗性、耐剥離性および滑り性が劣るという欠点もみられた。
【0005】
かかる問題を解決すべく、本出願人はさらにポリオレフィン樹脂の水性分散液をポリオレフィン樹脂の有機溶媒分散液に変更した加硫ゴム用表面処理剤を提案している(特許文献2)。しかし、この方法ではポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂が含まれないため、高温圧縮時の粘着や高面圧での摩擦摩耗により、塗膜の剥がれを生じるといった問題があった。
【0006】
本出願人はさらに、従来の固着防止、ブロッキング防止および耐摩耗性向上といった加硫ゴム用表面処理剤に要求される性能を損なうことなく、高温圧縮時の粘着や高面圧での摩擦摩耗により、塗膜の剥がれを生じない加硫ゴム用表面処理剤として、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンまたはこれに水酸基含有1,2-ポリブタジエンがブレンドされた1,2-ポリブタジエン混合物100重量部に対し軟化点40〜160℃のワックスおよびフッ素樹脂をそれぞれ10〜160重量部の割合で含有させた有機溶媒溶液よりなる加硫ゴム用表面処理剤を提案している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−252442号公報
【特許文献2】特開平7−165953号公報
【特許文献3】特開2003−213122号公報
【特許文献4】特許第3449014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン、軟化点40〜160℃のワックスおよびフッ素樹脂粒子を必須成分とする加硫ゴム用表面処理剤であって、それから形成されたコーティング被膜全体のさらなる低摩擦化およびこれに伴う摺動面の耐摩耗化を向上せしめたものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる本発明の目的は、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンと次の組成を有するOH基含有フッ素樹脂組成物
(A)パーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレート
(B)水酸基含有(メタ)アクリレート
の共重合体〔I〕、アクリル酸アルキルエステルの重合体〔II〕、フッ素化オレフィンの重合体〔III〕および硬化剤〔IV〕を含有する組成物との合計量100重量部に対し、軟化点40〜160℃のワックスおよびフッ素樹脂粒子をそれぞれ10〜160重量部の割合で含有させ、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンとOH基含有フッ素樹脂組成物との比が、重量比で50:50〜95:5の割合で用いられた加硫ゴム用表面処理剤によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
従来の技術では、コーティング剤のフィラー成分としてフッ素樹脂粒子を配合することで、低摩擦化および耐摩耗性を向上させているが、バインダー成分であるイソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン樹脂には低摩擦化成分が含まれていないため、さらなる低摩擦化を図ることが難しい。
【0011】
本発明においては、上記先行例のバインダー成分に低摩擦化効果のあるOH基含有フッ素樹脂組成物を有機溶剤溶液として加えることで、フィラー成分だけではなく、バインダー成分の低摩擦化を図ることができ、コーティング被膜全体のさらなる低摩擦化およびこれに伴う摺動面の耐摩耗性の向上が達成される。
【0012】
本発明に係る加硫ゴム用表面処理剤は、オイルシールのシールリップ部等のシール部品に有効に適用されるばかりではなく、複写機用のゴムロール、ゴムベルト、工業用のゴムホース、ゴムベルト、自動車用のワイパー、ウェザーストリップ、ガラスラン等のゴム部品の粘着防止、低摩擦化、耐摩耗性の向上にとっても有効である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンとしては、末端基としてイソシアネート基が付加された分子量1,000〜3,000程度のものが用いられ、これは固形分濃度約3〜70重量%の市販品、例えば日本曹達製品日曹TP-1001(固形分濃度50重量%の酢酸ブチル溶液)などをそのまま用いることが出来る。このポリブタジエン樹脂は、加硫ゴム表面の官能基や水酸基含有成分と反応し、接着、硬化することができ、同様のイソシアネート基で反応高分子化するポリウレタン樹脂よりも、ゴムとの相性、相溶性が良いため、ゴムとの密着性が良く、特に耐摩擦摩耗特性が良いのが特徴である。
【0014】
また、このイソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンは、末端基にイソシアネート基が付加されているため、加硫ゴム表面の官能基と反応させることで高分子化する。
【0015】
有機溶剤溶液として用いられるOH基含有フッ素樹脂組成物は、固形分濃度約10〜50重量%で、
(A)パーフルオロアルキルアルキル(メタ)アクリレート
(B)水酸基含有(メタ)アクリレート
の共重合体〔I〕、アクリル酸アルキルエステルの重合体〔II〕、フッ素化オレフィンの重合体〔III〕および硬化剤〔IV〕を含有し、共重合体〔I〕と重合体〔II〕と重合体〔III〕とが2〜15:35〜70:20〜50の重量比(合計100)等である組成物よりなる。このOH基含有フッ素樹脂組成物溶液は、OH変性基を有するため、バインダー成分であるイソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンと効果的に反応し、安定した恒久性の高い被膜を形成することができる。これらOH基含有フッ素樹脂組成物の詳細は、例えば特許文献4に記載されている。また、有機溶剤としては、例えばメチルイソブチルケトン-酢酸エチル-メチルエチルケトン混合溶剤等が用いられる。
【0016】
共重合体〔I〕の(B)成分である水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が用いられる。重合体〔II〕は、基材との密着性、他の成分との相溶性、ニーズに合致した皮膜を形成させる点で重要な成分である。重合体〔III〕としては、例えばフッ化ビニリデン系重合体等が用いられ、皮膜の断面方向において表面成分である共重合体〔I〕と密着成分である重合体〔II〕との中間に位置し、基材樹脂に含有される顔料、染料、可塑剤等の添加物のコーティング層への移行を防止するバリア層の役割を担う。硬化剤〔IV〕としては、OH基と反応する反応性官能基、例えばイソシアネート基、エポキシ基等を有する有機化合物が、重合体〔I〕、〔II〕、〔III〕の合計量に対して約0.001〜100重量%の割合で用いられる。
【0017】
OH基含有フッ素樹脂組成物溶液としては、実際には市販品、例えばDIC製品ディフェンサTR-101(OH価:6.0mgKOH/g溶液)、102(OH価:2.7mgKOH/g溶液)、103(OH価:4.1mgKOH/g溶液)等が用いられる。
【0018】
イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンとOH基含有フッ素樹脂組成物とは、重量比で50:50〜95:5、好ましくは60:40〜90:10の割合で用いられる。この範囲よりもOH基含有フッ素樹脂組成物が少なく用いられると、低摩擦化、耐摩耗性が改善されず、一方これよりも多く用いられても、耐摩耗性は改善されない。
【0019】
ワックスとしては、軟化点40〜160℃、好ましくは60〜120℃の植物系ワックス、石油系ワックス、合成ワックスなどが用いられる。植物系ワックスとしてはカルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックスなどが、石油系ワックスとしてはパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどが、また合成ワックスとしてはポリエチレンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、脂肪酸アミド、各種変性ワックスなどが挙げられ、通常は市販されているワックスをそのまま用いることが出来る。軟化点がこれより高いものを用いると、滑り性、非粘着性能が低下するようになる。一方、これよりも軟化点の低いものを用いると、ゴムと表面処理剤との密着性や耐摩擦摩耗性が低下するようになる。
【0020】
フッ素樹脂粒子としては、粒子状のポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体などが挙げられる。
【0021】
これらのフッ素樹脂粒子としては、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合などで得られたフッ素樹脂を粒子径約0.1〜5μm程度に分級したものや、懸濁重合、溶液重合、乳化重合などで得られた分散液をせん断攪拌などにより、約0.1〜5μm程度に微粒子分散させたもの、上記重合で得られたものを凝析・乾操後、乾式粉砕や冷却粉砕により、約10μm以下に微粒子化したものが用いられる。約0.1〜10μmに設定される粒子径において、粒子径がより小さい場合には、塗布厚みを小さく出来るメリットがあるが、塗布表面の凹凸が小さくなることにより接触面積が小さくなり、そのため低面圧では摩擦係数が大きくなる傾向があり、一方粒子径がより大きい場合には、塗布厚みが大きくなり、塗布の際のコストがかかるが、凹凸が大きくなり、低面圧では相手材との接触面積が小さくなり、そのため摩擦係数が下がるようになる。したがって、粒子径は使用要求によって適宜調整され、例えばシール部品などではこれら長所、短所を考慮して決定され、好ましくは約0.5〜2μm程度のものが用いられる。
【0022】
ワックスおよびフッ素樹脂粒子は、イソシアネート基含有1,2−ポリブタジエンおよびOH基含有フッ素樹脂組成物の合計量100重量部に対して、植物系ワックス、石油系ワックス、合成ワックスのいずれか1種以上が10〜160重量部の割合で、またフッ素樹脂粒子が10〜160重量部の割合で用いられる。ワックスの割合がこれより多いと、ゴムとの密着性、耐摩擦摩耗特性が悪くなり、一方この範囲より少ないと、皮膜の柔軟性、滑り性、非粘着性が悪くなるようになる。また、フッ素樹脂粒子の割合がこれより多いと、ゴムとの密着性、耐摩擦摩耗特性が悪くなり、皮膜の柔軟性が損なわれ、その結果硬化塗膜にヒビ割れが発生し、一方この範囲より少ないと、滑り性、非粘着性が悪くなるようになる。これらの各成分は、固形分濃度約1〜40重量%の有機溶剤の溶液または分散液として用いられる。なお、本発明に係る加硫ゴム表面処理剤を、シール部品などに用いる場合には、ワックス、フッ素樹脂粒子はそれぞれ、25〜120重量部が好ましい。
【0023】
有機溶剤としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが単独であるいは混合溶剤として用いられる。有機溶剤による希釈量は、塗布厚み(膜厚)、塗布方法に応じて適宜選択されるが、一般には全固形分濃度が約5〜20重量%になるように設定される。なお、膜厚は、通常1〜10μm、好ましくは2〜5μmであり、膜厚がこれより小さい場合には、ゴム表面をすべて被覆することが出来ず、滑り性、非粘着性を損なうことがある。一方、膜厚がこれより大きいと、塗布表面の剛性が高くなり、シール性、柔軟性を損なうことがある。シール部品などの使用用途では、1〜5μm程度が好ましい。
【0024】
かかる表面処理剤により処理が可能なゴムとしては、フッ素ゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ステレン−ブタジエンゴム、アクリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、天然ゴムなどの一般的なゴム材料が挙げられ、この内好ましくは、ゴムに配合している老化防止剤、オイルなどのゴム表面層へのブルームミングが少ないゴム材料が用いられる。なお、ゴム材質や目的に応じて、上記各成分の配合比率および有機溶剤の種類、有機溶剤量、有機溶剤混合比率は適宜選択される。
【0025】
加硫ゴム表面処理剤のゴム表面への塗布方法としては、浸せき、スプレー、ロールコータ、フローコータなどの塗布方法が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。この際、あらかじめ表面処理剤塗布前にゴム表面の汚れ等を洗浄などにより除去することが好ましい。特に、加硫ゴムからブルーム物、ブリード物が表面に析出している場合には、水、洗剤、溶剤などによる洗浄および乾燥が行われる。
【0026】
加硫ゴム表面処理剤をゴム表面へ塗布した後、約150〜250℃で約10分〜24時間程度熱処理して焼成される。加熱温度がこれより低く、加熱時間がこれより短い場合には、皮膜の硬化およびゴムとの密着性が不十分で、非粘着性、滑り性が悪くなる。一方、加熱温度がこれより高く、加熱時間がこれより長い場合には、ゴムの熱老化が起こるようになる。従って、各種ゴムの耐熱性に応じて、加熱温度、加熱時間を適宜設定する必要がある。
【0027】
また、アウトガス量の低減が要求される加硫ゴムの場合には、熱処理、減圧処理、抽出処理などを単独または組み合わせて行うことができるが、経済的には熱処理が最も良く、アウトガス量を減らすには、約150〜250℃で1〜24時間程度熱処理して焼成することが好ましく、ゴム中の低分子成分および皮膜中のワックス、ポリブタジエンに含まれる低分子成分をガス化させるために、温度は高いほど、また時間は長い程有効である。
【実施例】
【0028】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0029】
実施例1
フッ素樹脂粒子溶液(粒子径0.2μm、 467重量部
固形分濃度5重量%の酢酸ブチル溶液)
PEワックス溶液(固形分濃度5重量%の酢酸ブチル溶液) 467 〃
NCO含有1,2-ポリブタジエン溶液(日本曹達製品 55 〃
日曹TP-1001;固形分濃度50重量%の酢酸ブチル溶液)
OH基含有フッ素樹脂組成物溶液(DIC製品ディフェンサ 11 〃
TR-103;OH価4.1mgKOH/g溶液、固形分濃度30重量%の
MIBK-酢酸ブチル-MEK溶液)
以上の各成分よりなる表面処理剤(NCO含有ポリブタジエン/OH基含有フッ素樹脂組成物=90/10)を用い、次の各測定、評価を行った。
バインダー硬さ:金属板上に、コーティング剤のバインダー成分のみ(フッ素樹脂粒子成分を除く)を50μmの膜厚になるように塗布し、200℃で10時間焼成したサンプルを作製し、島津製作所製ダイナミックス超微小硬度計を用い、三角錐圧子(稜間角115°)を負荷速度14.1mN/秒で押し込み、押し込み深さが10μmのときのダイナミック硬さを測定
摩擦係数:厚さ2mmの加硫圧縮成形したフッ素ゴム表面にコーティング剤を膜厚10μmとなるように塗布し、200℃で10時間焼成したサンプルを作製し、新東科学製HEIDON TYPE 14DRを用い、コーティング被膜表面に荷重50gを載せた直径10mmの綱球を押し当て、往復動距離50mm、速度50mm/分の速さで移動させ、動摩擦係数を測定
(評価) ○:0.13未満
△:0.13以上0.17未満
×:0.17以上
耐摩耗性試験:厚さ2mmの加硫圧縮成形したフッ素ゴム表面にコーティング剤を膜厚10μmとなるように塗布し、200℃で10時間焼成したサンプルを作製し、レスカ製フリクションプレーヤーFPR-2000を用い、コーティング被膜表面に荷重2kgを載せた直径3mmの圧子球を押し当て、平均面圧3.9MPa、線速度20.9cm/秒の速さで回転させ、コーティング被膜が剥がれ、ゴムが露出する迄の回転数を測定
(評価) ◎:15万回以上
○:5万回以上15万回未満
△:1万回以上5万回未満
×:1万回未満
【0030】
実施例2
フッ素樹脂粒子溶液(実施例1と同じ) 460重量部
PEワックス溶液(実施例1と同じ) 460 〃
NCO含有ポリブタジエン溶液(日曹TP-1001) 30 〃
OH基含有フッ素樹脂組成物溶液(ディフェンサTR-103) 50 〃
以上の各成分よりなる表面処理剤(NCO含有ポリブタジエン/OH基含有フッ素樹脂組成物=50/50)を用い、実施例1と同様の各測定、評価が行われた。
【0031】
比較例1
フッ素樹脂粒子溶液(実施例1と同じ) 458重量部
PEワックス溶液(実施例1と同じ) 458 〃
NCO含有ポリブタジエン溶液(日曹TP-1001) 24 〃
OH基含有フッ素樹脂組成物溶液(ディフェンサTR-103) 60 〃
以上の各成分よりなる表面処理剤(NCO含有ポリブタジエン/OH基含有フッ素樹脂組成物=40/60)を用い、実施例1と同様の各測定、評価が行われた。
【0032】
比較例2
実施例1において、フッ素樹脂粒子溶液量を469重量部に、PEワックス溶液量を469重量部に、NCO含有ポリブタジエン溶液量を62重量部にそれぞれ変更し、OH基含有フッ素樹脂組成物溶液が用いられない表面処理剤(NCO含有ポリブタジエン/OH基含有フッ素樹脂組成物=100/0)を用い、実施例1と同様の各測定、評価が行われた。
【0033】
比較例3
フッ素樹脂粒子溶液(実施例1と同じ) 365重量部
PEワックス溶液(実施例1と同じ) 365 〃
OH基含有フッ素樹脂組成物溶液(ディフェンサTR-103) 40 〃
ウレタン樹脂溶液(DIC製品16-416; 40 〃
固形分濃度30重量%のMEK-IPA溶液)
メチルエチルケトン〔MEK〕 95 〃
イソプロパノール〔IP〕 95 〃
以上の各成分よりなる表面処理剤(ウレタン樹脂/OH基含有フッ素樹脂組成物=50/50)を用い、実施例1と同様の各測定、評価が行われた。
【0034】
以上の各実施例および比較例で得られた測定、評価結果は、次の表に示される。

バインダー 摩擦係数 耐摩耗性
硬さ 測定値 評価 測定値(×104) 評価
実施例1 6.7 0.12 ○ 30 ◎
〃 2 5.2 0.10 ○ 5 ○
比較例1 4.8 0.08 ○ 3 △
〃 2 7.6 0.15 △ 3 △
〃 3 1.1 0.10 ○ 0.3 ×