(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146891
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】サンドブラスト方法
(51)【国際特許分類】
B24C 1/04 20060101AFI20170607BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
B24C1/04 C
B41M5/00 100
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-232133(P2012-232133)
(22)【出願日】2012年10月19日
(65)【公開番号】特開2014-83607(P2014-83607A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年8月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100140796
【弁理士】
【氏名又は名称】原口 貴志
(72)【発明者】
【氏名】中村 紀和
【審査官】
大山 健
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−045651(JP,A)
【文献】
特開平03−079270(JP,A)
【文献】
特開昭64−087160(JP,A)
【文献】
特開2008−265224(JP,A)
【文献】
特開2005−254441(JP,A)
【文献】
特開2000−042921(JP,A)
【文献】
特開2000−043495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 1/00− 11/00
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面に研磨材を吹き付けることによって前記表面を加工するサンドブラスト方法であって、
前記表面にレジスト液をインクジェット印刷して前記表面に前記レジスト液によるレジストを形成するレジスト形成ステップと、前記レジスト形成ステップによって前記レジストが形成された前記対象物の前記表面側に前記研磨剤を吹き付けることによって前記表面のうち前記レジストが形成されていない部分を研磨する表面研磨ステップとを備えており、
前記表面研磨ステップは、前記レジスト形成ステップによって前記表面に形成された前記レジストがタックを有する状態で実行され、前記タックを有する前記レジストに対して前記表面とは反対側に前記タックによって前記研磨剤の層が形成されるステップであり、
前記レジスト形成ステップは、紫外線硬化型の前記レジスト液をUVインクジェット印刷することによって、任意の印刷データに基づいた画像の前記レジストを形成するステップであることを特徴とするサンドブラスト方法。
【請求項2】
前記レジスト液は、単官能モノマーまたは単官能オリゴマーを40質量%以上、多官能モノマーまたは多官能オリゴマーを30質量%以下含んでいることを特徴とする請求項1に記載のサンドブラスト方法。
【請求項3】
前記表面研磨ステップは、前記レジスト形成ステップによって前記表面に形成された前記レジストの強度が120%以上400%以下の伸びである状態で実行されるステップであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のサンドブラスト方法。
【請求項4】
前記表面研磨ステップは、前記レジスト形成ステップによって前記表面に形成された前記レジストの強度がB以上2H以下の鉛筆硬度である状態で実行されるステップであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のサンドブラスト方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の表面に研磨材を吹き付けることによって対象物の表面を加工するサンドブラスト方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物の表面に研磨材を吹き付けることによって対象物の表面を加工するサンドブラスト方法として、対象物の表面にレジスト液をインクジェット印刷して対象物の表面にレジスト液によるレジストを形成するレジスト形成ステップと、レジスト形成ステップによってレジストが形成された対象物の表面側に研磨剤を吹き付けることによって対象物の表面のうちレジストが形成されていない部分を研磨する表面研磨ステップとを備えている方法が知られている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−265224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のサンドブラスト方法においては、表面研磨ステップにおいてレジストが研磨剤との衝突によって予期せず破損してしまうことによって、対象物の表面のうち本来研磨される予定ではない部分が研磨されてしまう場合がある。すなわち、従来のサンドブラスト方法においては、歩留りが悪いという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、従来より歩留りを向上することができるサンドブラスト方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のサンドブラスト方法は、対象物の表面に研磨材を吹き付けることによって前記表面を加工するサンドブラスト方法であって、前記表面にレジスト液をインクジェット印刷して前記表面に前記レジスト液によるレジストを形成するレジスト形成ステップと、前記レジスト形成ステップによって前記レジストが形成された前記対象物の前記表面側に前記研磨剤を吹き付けることによって前記表面のうち前記レジストが形成されていない部分を研磨する表面研磨ステップとを備えており、前記表面研磨ステップは、前記レジスト形成ステップによって前記表面に形成された前記レジストがタックを有する状態で実行されるステップであることを特徴とする。
【0007】
この構成により、本発明のサンドブラスト方法は、表面研磨ステップにおいてレジストがタックを有するので、レジストと研磨剤との衝突によってレジストの表面に研磨剤の層が形成されることによって、レジストと研磨剤との直接の衝突が防止され、結果として、レジストの破損が防止される。したがって、本発明のサンドブラスト方法は、対象物の表面のうち本来研磨される予定ではない部分が研磨されることをレジストによって防止することができ、従来より歩留りを向上することができる。
【0008】
また、本発明のサンドブラスト方法において、前記表面研磨ステップは、前記レジスト形成ステップによって前記表面に形成された前記レジストの強度が120%以上400%以下の伸びである状態で実行されるステップであっても良い。
【0009】
この構成により、本発明のサンドブラスト方法は、表面に研磨剤の層が形成されたレジスト上のこの層に研磨剤が衝突しても、レジストの柔軟性によって衝突の衝撃を吸収するので、表面研磨ステップにおけるレジストの破損を更に効果的に防止することができる。
【0010】
また、本発明のサンドブラスト方法において、前記表面研磨ステップは、前記レジスト形成ステップによって前記表面に形成された前記レジストの強度がB以上2H以下の鉛筆硬度である状態で実行されるステップであっても良い。
【0011】
この構成により、本発明のサンドブラスト方法は、表面に研磨剤の層が形成されたレジスト上のこの層に研磨剤が衝突しても、レジストの柔軟性によって衝突の衝撃を吸収するので、表面研磨ステップにおけるレジストの破損を更に効果的に防止することができる。
【0012】
また、本発明のサンドブラスト方法において、前記レジスト形成ステップは、紫外線硬化型の前記レジスト液をUVインクジェット印刷するステップであっても良い。
【0013】
この構成により、本発明のサンドブラスト方法は、レジスト液が紫外線硬化型の液であるので、レジスト液が有機溶剤型の液である構成と比較して、レジスト液の硬化の速度が速く、結果として、一連の加工の全体の速度を向上することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のサンドブラスト方法は、従来より歩留りを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るサンドブラスト方法によって製造される加工品の側面断面図である。
【
図2】
図1に示す加工品の製造に使用されるインクジェットプリンターの斜視図である。
【
図3】(a)は、本発明の一実施の形態に係るサンドブラスト方法によって加工される前の対象物の側面断面図である。(b)は、表面にレジストが形成された
図3(a)に示す対象物の側面断面図である。
【
図4】表面のうちレジストが形成されていない部分が研磨された
図3に示す対象物の側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0017】
まず、本実施の形態に係るサンドブラスト方法によって製造される加工品の構成について説明する。
【0018】
図1は、本実施の形態に係るサンドブラスト方法によって製造される加工品10の側面断面図である。
【0019】
図1に示すように、加工品10は、対象物11の表面11aが凹まされることによって生成される物である。例えば、対象物11は、ガラスである。
【0020】
次に、加工品10の製造に使用されるインクジェットプリンターの構成について説明する。
【0021】
図2は、加工品10の製造に使用されるインクジェットプリンター20の斜視図である。
【0022】
図2に示すように、インクジェットプリンター20は、対象物11を載せるテーブル21と、矢印20aで示す主走査方向に延在する本体22とを備えている。
【0023】
テーブル21は、矢印20bで示す副走査方向に延在していて本体22を矢印20bで示す副走査方向に移動可能に支持しているガイド機構21aを、矢印20aで示す主走査方向における両側に備えている。
【0024】
本体22は、矢印20aで示す主走査方向に延在しているガイドレール23と、矢印20aで示す主走査方向に移動可能にガイドレール23に支持されているキャリッジ24とを備えている。キャリッジ24は、紫外線硬化型の液体の滴をテーブル21に向けて吐出するための図示していない記録ヘッドと、記録ヘッドによって吐出された紫外線硬化型の液体を硬化させるための紫外線をテーブル21に向けて照射するための図示していないLED(Light Emitting Diode)とを搭載している。
【0025】
次に、対象物11の表面11aに研磨材を吹き付けることによって対象物11の表面11aを加工するサンドブラスト方法、すなわち、加工品10の製造方法について説明する。
【0026】
図3(a)は、本実施の形態に係るサンドブラスト方法によって加工される前の対象物11の側面断面図である。
図3(b)は、表面11aにレジスト12が形成された対象物11の側面断面図である。
【0027】
1.レジスト形成ステップ
作業者は、
図3(a)に示す対象物11をインクジェットプリンター20のテーブル21の所定の位置に固定し、任意の印刷データに基づいた画像を対象物11上に紫外線硬化型のレジスト液で記録するように、インクジェットプリンター20に指示する。
【0028】
作業者から指示を受けたインクジェットプリンター20は、テーブル21に対してキャリッジ24をガイドレール23に沿って矢印20aで示す主走査方向に移動するとともに、テーブル21に対して本体22をガイド機構21aに沿って矢印20bで示す副走査方向に移動する。すなわち、インクジェットプリンター20は、テーブル21上に固定された対象物11に対してキャリッジ24を印刷データに応じて移動する。そして、インクジェットプリンター20は、テーブル21上に固定された対象物11上に向けてキャリッジ24上の記録ヘッドによって紫外線硬化型のレジスト液を吐出するとともに、対象物11上に吐出された紫外線硬化型のレジスト液に向けてキャリッジ24上のLEDによって紫外線を照射する。すなわち、インクジェットプリンター20は、印刷データに基づいた画像の形で紫外線硬化型のレジスト液を対象物11上にUVインクジェット印刷することによって、
図3(b)に示すように、紫外線硬化型のレジスト液によるレジスト12を対象物11上に形成する。
【0029】
なお、レジスト形成ステップによって使用されるレジスト液は、単官能モノマーまたは単官能オリゴマーと、多官能モノマーまたは多官能オリゴマーとを含んでいるラジカル重合タイプのレジスト性のインクである。特に、レジスト液は、単官能モノマーまたは単官能オリゴマーを40質量%以上(より好ましくは60%以上)、多官能モノマーまたは多官能オリゴマーを30質量%以下含んでいると好ましい。ここで、単官能モノマーとしては、例えばイソボルニルアクリレート、アクリル酸エステルなどが採用されることが可能である。また、多官能モノマーとしては、例えばアミン変性アクリル酸オリゴマーなどが採用されることが可能である。
【0030】
2.表面研磨ステップ
次いで、作業者は、インクジェットプリンター20のテーブル21から対象物11を取り外し、インクジェットプリンター20のテーブル21から取り外した対象物11の表面11aに形成されたレジスト12がタック(粘着性)を有する状態で、対象物11の表面11a側に研磨剤をサンドブラスターなどの装置を用いて吹き付ける。したがって、対象物11の表面11aのうちレジスト12が形成されていない部分は、研磨剤によって研磨される。
【0031】
ここで、表面研磨ステップが実行されるタイミングは、レジスト12を構成するレジスト液が完全に硬化している場合にレジスト12がタックを有しているときであっても良いし、レジスト12を構成するレジスト液がある程度硬化している場合にレジスト12がタックを有しているときであっても良い。
【0032】
図4は、表面11aのうちレジスト12が形成されていない部分が研磨された対象物11の側面断面図である。
【0033】
表面11aのうちレジスト12が形成されていない部分が表面研磨ステップによって研磨された対象物11は、例えば
図4に示すようになる。
【0034】
図4に示すように、タックを有するレジスト12の表面には、レジスト12と研磨剤との衝突によって研磨剤の層13が形成されている。
【0035】
3.レジスト剥離ステップ
次いで、作業者は、対象物11を剥離液に浸ける。したがって、対象物11の表面11a上のレジスト12は、剥離液によって膨潤または溶解させられることによって、対象物11の表面11aから剥離させられる。
【0036】
レジスト剥離ステップによって表面11aからレジスト12が剥離させられた対象物11は、例えば
図1に示すように加工品10として完成する。
【0037】
以上に説明したように、本実施の形態に係るサンドブラスト方法は、表面研磨ステップにおいてレジスト12がタックを有するので、レジスト12と研磨剤との衝突によってレジスト12の表面に研磨剤の層13が形成されることによって、レジスト12と研磨剤との直接の衝突が防止され、結果として、レジスト12の破損が防止される。したがって、本実施の形態に係るサンドブラスト方法は、対象物11の表面11aのうち本来研磨される予定ではない部分が研磨されることをレジスト12によって防止することができ、従来より歩留りを向上することができる。
【0038】
なお、本実施の形態に係るサンドブラスト方法は、レジスト形成ステップによって対象物11の表面11aに形成されたレジスト12の強度が、120%以上400%以下の伸びである状態、または、B以上2H以下の鉛筆硬度である状態で、表面研磨ステップが実行されるようになっていても良い。ここで、鉛筆硬度とは、JIS K5600-5-4に規定されている硬度である。
【0039】
本実施の形態に係るサンドブラスト方法は、レジスト形成ステップによって対象物11の表面11aに形成されたレジスト12の強度が、120%以上400%以下の伸びである状態、または、B以上2H以下の鉛筆硬度である状態で、表面研磨ステップが実行されるようになっている場合、表面に研磨剤の層13が形成されたレジスト12上の層13に研磨剤が衝突しても、レジスト12の柔軟性によって衝突の衝撃を吸収するので、表面研磨ステップにおけるレジスト12の破損を更に効果的に防止することができる。
【0040】
なお、本実施の形態に係るサンドブラスト方法は、レジスト形成ステップによって対象物11の表面11aに形成されたレジスト12の強度が、120%未満の伸びである状態、または、B未満の鉛筆硬度である状態で、表面研磨ステップが実行されるようになっていても良い。
【0041】
本実施の形態に係るサンドブラスト方法は、レジスト形成ステップにおいて使用されるレジスト液が紫外線硬化型の液であるので、レジスト液が有機溶剤型の液である構成と比較して、レジスト液の硬化の速度が速く、結果として、一連の加工の全体の速度を向上することができる。
【0042】
なお、本実施の形態に係るサンドブラスト方法は、ガラスの加工品10の製造に利用されているが、ガラス以外の加工品10の製造に利用されても良い。
【0043】
また、本実施の形態に係るサンドブラスト方法は、レジスト形成ステップにおいて使用されるレジスト液として紫外線硬化型の液が採用されているが、例えば有機溶剤型のレジスト液など、紫外線硬化型以外のレジスト液が採用されていても良い。
【0044】
また、本実施の形態に係るサンドブラスト方法のレジスト剥離ステップにおいて使用される剥離液は、対象物11の表面11aからレジスト12を剥離させることが可能である物質であれば良い。例えば、レジスト液に含まれている単官能モノマーまたは単官能オリゴマーと、多官能モノマーまたは多官能オリゴマーとの少なくとも一部がフリーの酸基(アクリル酸誘導体)を有していて、その酸価が100以上である場合、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、N−メチルジエタノールアミン、ピリジン、ピペリジンなどの塩基性化合物の水溶液が剥離液として採用されても良い。
【0045】
また、本実施の形態に係るサンドブラスト方法は、レジスト剥離ステップを備えているが、対象物11の表面11aからレジスト12が剥離させられなくても良い加工品10の場合には、レジスト剥離ステップを備えていなくても良い。
【符号の説明】
【0046】
11 対象物
11a 表面
12 レジスト