特許第6146900号(P6146900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6146900-紙送りローラ 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146900
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】紙送りローラ
(51)【国際特許分類】
   B65H 5/06 20060101AFI20170607BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   B65H5/06 C
   F16C13/00 B
   F16C13/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-147729(P2013-147729)
(22)【出願日】2013年7月16日
(65)【公開番号】特開2015-20814(P2015-20814A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087701
【弁理士】
【氏名又は名称】稲岡 耕作
(74)【代理人】
【識別番号】100101328
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 実夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 俊裕
(72)【発明者】
【氏名】峯 章弘
(72)【発明者】
【氏名】吉里 成弘
【審査官】 松井 裕典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−347972(JP,A)
【文献】 特開2011−037563(JP,A)
【文献】 特開2006−111401(JP,A)
【文献】 特開2009−217111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 1/00− 3/68
B65H 5/02
B65H 5/06
B65H 5/22
B65H 23/00−23/16
B65H 23/24−23/34
B65H 27/00
B65H 29/12−29/24
B65H 29/32
B41J 11/00−15/24
F16C 13/00
G03G 13/00
G03G 15/00
G03G 15/36
G03G 21/00−21/02
G03G 21/14−21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のローラ本体を備え、前記ローラ本体は、筒状でかつ前記ローラ本体の外周面を構成する外層、および前記外層の筒内に直接に嵌挿されて、前記外層と一体化された筒状の内層からなる紙送りローラであって、
前記外層は、ベースポリマとしてウレタン系熱可塑性エラストマを含む組成物によって非多孔質でかつ筒状に形成され、タイプAデュロメータ硬さが40以上、65以下であるとともに、
前記内層は、ベースポリマとしてブチルゴム、またはエチレンプロピレンゴムを含む組成物の架橋物によって非多孔質でかつ筒状に形成され、タイプAデュロメータ硬さが10を超え、かつ20以下であることを特徴とする紙送りローラ。
【請求項2】
前記外層は、ベースポリマとしての、タイプAデュロメータ硬さが60以上、80以下であるウレタン系熱可塑性エラストマに、当該ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり30質量部以上、110質量部以下の可塑剤を配合した組成物からなる請求項1に記載の紙送りローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばレーザープリンタ等において紙送りに用いられる紙送りローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばレーザープリンタ、静電式複写機、普通紙ファクシミリ装置、およびこれらの複合機や、あるいはインクジェットプリンタ等の画像形成装置、さらには自動現金預払機(ATM)等の機器類における紙送り機構には、各種の紙送りローラが組み込まれている。
前記紙送りローラとしては、紙(プラスチックフィルムなどを含む。以下同様。)と接触しながら回転して摩擦によって紙を搬送する、例えば給紙ローラ、搬送ローラ、プラテンローラ、排紙ローラ等が挙げられる。
【0003】
前記紙送りローラとして、従来は、例えばゴムの架橋物等の弾性材料によって筒状に一体形成され、その外周面が紙との接触面とされた単層のローラ本体と、当該ローラ本体の中心の通孔に挿通されたシャフトとを備えたものが一般的に用いられてきた。
しかし単層のローラ本体は、通紙枚数が多くなると、前記外周面の、紙に対する摩擦係数が低下して紙の搬送不良を生じたり、紙が前記外周面をすべることによって音が出る、いわゆる鳴きを生じたりしやすいという問題があった。
【0004】
そこで、これらの問題が生じるのを防止するために、特許文献1では、ローラ本体を、それぞれ筒状の内層、および外層からなる2層構造とするとともに、前記両層をいずれも非多孔質で、かつ内層は、ブチルゴム(IIR)の架橋物からなり、タイプAデュロメータ硬さ(JIS−A硬さ)が10以下の層、外層は、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、またはウレタンゴムの架橋物からなり、タイプAデュロメータ硬さが25〜60の層とすることが提案されている。
【0005】
すなわち、内層を前記のように軟らかい層とすることで外層の変形を許容して、ローラ本体の外周面と、紙との間の接触面積を確保するとともに摩擦係数の低下を抑制しながら、外層を、前記内層よりも硬い層とすることで、ローラ本体の耐摩耗性と摩擦係数のバランスをとることができる。そのため、前記IIRが振動減衰性能に優れることと相まって、紙の搬送不良や鳴きが生じるのを、使用初期から、従来の単層構造のものに比べてより長期に亘って防止できると考えられている。
【0006】
前記内層と外層とは、構造を簡略化するとともに製造工程を簡素化するため、前記外層の筒内に、内層を、接着剤を介さずに直接に嵌挿して一体化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4593445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、熱可塑性を有するためリサイクル等が容易な熱可塑性エラストマをベースポリマとして用いて、前記紙送りローラのローラ本体を形成することが求められるようになってきている。
そこでこの要求に対応するため、前記2層構造のローラ本体のうち外層を、ウレタン系熱可塑性エラストマを含む組成物によって形成することが検討された。
【0009】
ところがその場合、前記のように接着剤を介さずに直接に嵌挿した内層と外層との間で空転が発生して紙送りができなくなる場合があり、問題となっている。
この原因としては、ウレタン系熱可塑性エラストマからなる外層の伸縮性が、従来の、ウレタンゴム等のゴムの架橋物からなる外層に比べて低いため、嵌挿された内層に対する外層の密着力が不十分になりがちであることが考えられる。
【0010】
すなわち内層には、当該内層のタイプAデュロメータ硬さを10以下とするために多量のオイルを配合しなければならず、過剰のオイルが内層から染み出して、前記密着力を低下させるために作用する。
特許文献1に記載されているように、外層が、ウレタンゴム等のゴムの架橋物によって形成されていれば、それでも自身の持つ伸縮性によって内層と密着して、空転を生じることは稀である。
【0011】
ところが、前記のように伸縮性が低いウレタン系熱可塑性エラストマからなる外層は、内層に対する密着力が小さいため、内層から染み出したオイルの影響で空転を生じやすくなる。
本発明の目的は、従来同様に、外層の筒内に、接着剤を介さずに直接に内層を嵌挿した2層構造を有し、当該2層構造であることによる前述した種々の特性に優れる上、外層をウレタン系熱可塑性エラストマによって形成しているにも拘らず、前記内層と外層との間で空転を生じにくい紙送りローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、筒状のローラ本体を備え、前記ローラ本体は、筒状でかつ前記ローラ本体の外周面を構成する外層、および前記外層の筒内に直接に嵌挿されて、前記外層と一体化された筒状の内層からなる紙送りローラであって、
前記外層は、ベースポリマとしてウレタン系熱可塑性エラストマを含む組成物によって非多孔質でかつ筒状に形成され、タイプAデュロメータ硬さが40以上、65以下であるとともに、
前記内層は、ベースポリマとしてブチルゴム、またはエチレンプロピレンゴムを含む組成物の架橋物によって非多孔質でかつ筒状に形成され、タイプAデュロメータ硬さが10を超え、かつ20以下であることを特徴とするものである。
【0013】
本発明によれば、前記内層および外層の2層構造とするとともに、内層のタイプAデュロメータ硬さを20以下として、当該内層に適度な柔軟性を付与することで外層の変形を許容して、ローラ本体の外周面と紙との接触面積を確保するとともに摩擦係数の低下を抑制できる。またそれとともに、外層のタイプAデュロメータ硬さを、前記内層よりも硬い40以上、65以下に設定することで、ローラ本体の耐摩耗性と摩擦係数のバランスをとることができる。そのため紙の搬送不良や鳴きが生じるのを、使用初期から、単層構造のものに比べてより長期に亘って防止しつづけることができる。
【0014】
その上、前記内層のタイプAデュロメータ硬さを、10を超える範囲とすることで、当該内層を構成する組成物におけるオイルの配合割合を、従来に比べて少なくして、過剰のオイルが内層から染み出すのを抑制できる。そのため外層をウレタン系熱可塑性エラストマによって形成しているにも拘らず、当該外層との間で空転が生じるのを防止することができる。
【0015】
外層のタイプAデュロメータ硬さを前記40以上、65以下の範囲内とするためには、当該外層を、ベースポリマとしての、タイプAデュロメータ硬さが60以上、80以下であるウレタン系熱可塑性エラストマに、当該ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり30質量部以上、110質量部以下の可塑剤を配合した組成物によって形成するのが好ましい。
【0016】
なおタイプAデュロメータ硬さを、本発明では、日本工業規格JIS K6253−3:2006「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方−第3部:デュロメータ硬さ」所載の測定方法に則って、測定温度23℃で測定した値でもって表すこととする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、外層の筒内に、接着剤を介さずに直接に内層を嵌挿した2層構造を有し、当該2層構造であることによる種々の特性に優れる上、外層をウレタン系熱可塑性エラストマによって形成しているにも拘らず、前記内層と外層との間で空転を生じにくい紙送りローラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の紙送りローラの、実施の形態の一例の外観を示す斜視図である。
図2】実施例、比較例で製造した紙送りローラの初期摩擦係数を測定する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の紙送りローラの、実施の形態の一例の外観を示す斜視図である。
図1を参照して、この例の紙送りローラ1は、外周面2が紙との接触面とされた筒状のローラ本体3と、前記ローラ本体3の中心の通孔4に挿通されたシャフト5とを備えている。シャフト5は、例えば金属、セラミック、硬質樹脂等によって形成される。
ローラ本体3は、筒状でかつ前記ローラ本体3の外周面2を構成する外層6、および前記外層6の筒内に、接着剤を介さずに直接に嵌挿されて、前記外層6と一体化された筒状の内層7を備えている。
【0020】
〈内層7〉
内層7は、ベースポリマとしてIIR、またはエチレンプロピレンゴムを含む組成物の架橋物によって非多孔質でかつ筒状に形成され、タイプAデュロメータ硬さが10を超え、かつ20以下である必要がある。
内層7のタイプAデュロメータ硬さを前記範囲以下とするためには、当該内層7を構成する組成物に多量のオイルを配合しなければならないため、前述したように過剰のオイルが内層7から染み出して、ウレタン系熱可塑性エラストマからなる外層6の、前記内層7に対する密着力を大きく低下させる。そのため前記両層6、7間で空転が発生して紙送りができなくなるという問題を生じる。
【0021】
一方、タイプAデュロメータ硬さが前記範囲を超える場合には内層7が硬くなりすぎるため、当該内層7による、外層6の変形を許容して、ローラ本体3の外周面2と、紙との間の接触面積を確保するとともに摩擦係数の低下を抑制する効果が不十分になる。そのため、紙の搬送不良や鳴きが生じるのを、使用初期から長期間に亘って防止しつづける効果が得られない。
【0022】
これに対し、内層7のタイプAデュロメータ硬さを、前記10を超え、かつ20以下の範囲内とすることで、紙の搬送不良や鳴きが生じるのを、使用初期から長期間に亘って防止しながら、なおかつ外層6と内層7との間で空転が生じるのを防止することもできる。
なお、かかる効果をより一層向上することを考慮すると、内層7のタイプAデュロメータ硬さは、前記範囲内でも10.5以上、特に13以上であるのが好ましく、18以下であるのが好ましい。
【0023】
前記内層7は、前記IIRまたはエチレンプロピレンゴムをベースポリマとして含み、架橋剤、促進剤、促進助剤等の架橋成分や、オイル、充填剤等の添加剤成分を配合した組成物を、例えばプレス架橋によって筒状に成形するとともに架橋させたのち、さらに必要に応じて長さをカットしたり外周面を研磨したりすることで形成される。
前記内層7の、ローラ本体3の径方向の厚みは1mm以上であるのが好ましく、3mm以下であるのが好ましい。
【0024】
厚みが前記範囲未満では、当該内層7を設けることによる前記効果が十分に得られないおそれがあり、前記範囲を超える場合にはローラ本体3が偏摩耗してフレを生じやすくなるおそれがある。
(IIR)
IIRとしては、イソブチレンとイソプレンとの共重合体である種々のIIRの1種または2種以上が使用可能である。特にIIRとしては、イソプレン単位の割合が1.5質量%以上、4.5質量%以下であるもの等が好適に用いられる。
【0025】
かかるIIRの具体例としては、例えばJSR(株)製のJSR BUTYL268〔安定剤:NS、不飽和度:1.5モル%、ムーニー粘度:51ML1+8(125℃)、比重:0.92〕、JSR BUTYL 365〔安定剤:NS、不飽和度:2.0モル%、ムーニー粘度:33ML1+8(125℃)、比重:0.92〕等の少なくとも1種が挙げられる。
【0026】
(エチレンプロピレンゴム)
エチレンプロピレンゴムとしては、エチレンとプロピレンの共重合体である狭義のエチレンプロピレンゴム(EPM)、およびエチレンとプロピレンとジエンの共重合体であるエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)がいずれも使用可能であり、特にEPDMが好ましい。
【0027】
またEPDMとしては、エチレン、プロピレン、およびジエンを共重合させた種々の共重合体がいずれも使用可能である。前記ジエンとしては、エチリデンノルボルネン(ENB)、ジシクロペンタジエン(DCPD)等が挙げられる。
またEPDMとしては伸展油で伸展したいわゆる油展EPDM、および伸展油で伸展していない非油展EPDMのいずれを用いてもよい。
【0028】
ジエンがENBであるENB系の油展EPDMとしては、例えば住友化学(株)製のエスプレン(登録商標)670F〔ゴム分:伸展油=100:100(質量比)〕、671F〔ゴム分:伸展油=100:70(質量比)〕、三井化学(株)製の三井EPT3042E〔ゴム分:伸展油=100:120(質量比)〕等の1種または2種以上が挙げられる。
またジエンがDCPDであるDCPD系の油展EPDMとしては、例えば住友化学(株)製のエスプレン400〔ゴム分:伸展油=100:100(質量比)〕等が挙げられる。
【0029】
またジエンがENBであるENB系の非油展EPDMとしては、例えば住友化学(株)製のエスプレン501A、505A等の少なくとも1種が挙げられる。
さらにジエンがDCDPであるDCDP系の非油展EPDMとしては、例えば住友化学(株)製のエスプレン301A,301、305等の1種または2種以上が挙げられる。
EPDMは、前記例示のものをいずれか1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
(オイル)
オイルとしては、例えば出光興産(株)製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW−380等のパラフィンオイルなどの、前記IIRやエチレンプロピレンゴムと良好な相溶性を有する種々のオイルが挙げられる。
(充填剤)
充填剤としては、例えばシリカ、カーボン、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン等の1種または2種以上が挙げられる。
【0031】
(オイル、および充填剤の配合割合)
オイルや充填剤の配合割合は任意に設定できる。
すなわち、ベースポリマとしてのIIRやエチレンプロピレンゴムの種類やグレード、あるいはエチレンプロピレンゴムが油展か非油展かの違い等に応じて、架橋後の内層7のタイプAデュロメータ硬さを、前記10を超え、かつ20以下の範囲内とし得る任意の量のオイル、および充填剤を配合することができる。
【0032】
なおエチレンプロピレンゴムが油展ゴムである場合、当該油展ゴム中の固形分、すなわちエチレンプロピレンゴムそれ自体100質量部に対する、伸展油量+オイル量でもって、前記オイルの配合割合とすることとする。
(架橋成分)
前記ベースポリマとしてのIIR、またはエチレンプロピレンゴムを架橋させるための架橋剤成分としては架橋剤が挙げられる他、前記架橋剤とともに促進剤、促進助剤等の1種または2種以上が併用される。
【0033】
このうち架橋剤としては、例えば硫黄系架橋剤、チオウレア系架橋剤、トリアジン誘導体系架橋剤、過酸化物系架橋剤、各種モノマー等の1種または2種以上が挙げられる。
硫黄系架橋剤としては、粉末硫黄や有機含硫黄化合物等が挙げられる。また有機含硫黄化合物等としては、テトラメチルチウラムジスルフィド、N,N−ジチオビスモルホリン等が挙げられる。
【0034】
チオウレア系架橋剤としては、例えばテトラメチルチオウレア、トリメチルチオウレア、エチレンチオウレア、(C2n+1NH)C=S〔式中、nは1〜10の整数を示す。〕で表されるチオウレア等が挙げられる。
過酸化物系架橋剤としては、ベンゾイルペルオキシド等が挙げられる。
促進剤としては、例えば消石灰、マグネシア(MgO)、リサージ(PbO)等の無機促進剤や、下記の有機促進剤等の1種または2種以上が挙げられる。
【0035】
また有機促進剤としては、例えばグアニジン系促進剤、チアゾール系促進剤、スルフェンアミド系促進剤、チウラム系促進剤、チオウレア系促進剤、ジチオカルバミン酸塩系促進剤等の1種または2種以上が挙げられる。促進剤は種類によってその機能が異なっているため、2種以上の促進剤を併用するのが好ましい。
前記のうちグアニジン系促進剤としては、例えば1,3−ジフェニルグアニジン(D)、1,3−ジ−o−トリルグアニジン(DT)、1−o−トリルグビグアニド(BG)、ジカテコールボレートのジ−o−トリルグアニジン塩等の1種または2種以上が挙げられる。
【0036】
またチアゾール系促進剤としては、例えば2−メルカプトベンゾチアゾール(M)、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド(DM)、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩(MZ)、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩(HM、M60−OT)、2−(N,N−ジエチルチオカルバモイルチオ)ベンゾチアゾール(64)、2−(4′−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール(DS、MDB)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0037】
スルフェンアミド系促進剤としては、例えばN−シクロへキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等が挙げられる。
チウラム系促進剤としては、例えばテトラメチルチウラムモノスルフィド(TS)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TT、TMT)、テトラエチルチウラムジスルフィド(TET)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBT−N)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT−N)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(TRA)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0038】
ジチオカルバミン酸塩系促進剤としては、例えばジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(PZ)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(EZ)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(BZ)、N-ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛(ZP)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZTC)、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(TP)、ジメチルジチオカルバミン酸銅(TTCU)、ジメチルジチオカルバミン酸第二鉄(TTFE)、ジエチルジチオカルバミン酸テルル(TTTE)等の1種または2種以上が挙げられる。
【0039】
促進助剤としては、酸化亜鉛等の金属化合物;ステアリン酸、オレイン酸、綿実脂肪酸等の脂肪酸、その他従来公知の促進助剤の1種または2種以上が挙げられる。
架橋剤、促進剤、および促進助剤の配合割合は、ベースポリマの種類、組み合わせ、および配合割合や、あるいは架橋剤、促進剤、および促進助剤の種類や組み合わせ、そして内層7に求められるタイプAデュロメータ硬さ等に応じて適宜設定できる。
【0040】
〈外層6〉
外層6は、ベースポリマとしてウレタン系熱可塑性エラストマを含む組成物によって非多孔質でかつ筒状に形成され、タイプAデュロメータ硬さが40以上、65以下である必要がある。
タイプAデュロメータ硬さが前記範囲未満では外層6が柔らかすぎるため、当該外層6の耐摩耗性が低下して、紙の搬送不良や鳴きが生じるのを長期に亘って防止する効果が得られない。一方、タイプAデュロメータ硬さが前記範囲を超える場合には外層6が硬すぎるため、特に使用初期に、紙の搬送不良や鳴きが生じやすくなる。
【0041】
これに対し、外層6のタイプAデュロメータ硬さを、前記40以上、65以下の範囲内とすることで、紙の搬送不良や鳴きが生じるのを、使用初期から長期間に亘って防止しつづけることができる。
なお、かかる効果をより一層向上することを考慮すると、外層6のタイプAデュロメータ硬さは、前記範囲内でも45以上であるのが好ましく、55以下、特に50以下であるのが好ましい。
【0042】
前記外層6は、前記ウレタン系熱可塑性エラストマをベースポリマとして含み、可塑剤等の添加剤成分を配合した組成物を、例えば射出成形によって筒状に成形しせたのち、さらに必要に応じて長さをカットしたり外周面を研磨したりすることで形成される。
前記外層6の、ローラ本体3の径方向の厚みは2mm以上であるのが好ましく、5mm以下であるのが好ましい。
【0043】
厚みが前記範囲未満では、前記外周面が早期に摩耗して、ローラ本体3の使用寿命が短くなるおそれがあり、前記範囲を超える場合には、前記内層7との2層構造とすることによる前記効果が十分に得られないおそれがある。
外層6のタイプAデュロメータ硬さを前記40以上、65以下の範囲内とするためには、ベースポリマとして、タイプAデュロメータ硬さが60以上、80以下であるウレタン系熱可塑性エラストマを用いるとともに、当該ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり30質量部以上、110質量部以下の可塑剤を配合するのが好ましい。
【0044】
前記範囲内で可塑剤の配合割合を多くするほど、外層6を軟らかく、すなわちタイプAデュロメータ硬さを小さくすることができる。
なお可塑剤の配合割合は、前記範囲内でも33質量部以上、中でも52質量部以上、特に61質量部以上であるのが好ましく、100質量部以下、特に77質量部以下であるのが好ましい。
【0045】
(ウレタン系熱可塑性エラストマ)
ウレタン系熱可塑性エラストマとしては、例えば分子内に、ポリウレタン構造を有するハードセグメントと、ポリエステルまたはポリエーテル構造を有するソフトセグメントとを含み、射出成形等が可能な熱可塑性を有するとともに、ローラ本体3の外層6として機能しうる弾性を有する種々のポリウレタン系の熱可塑性エラストマのうち、前記のようにタイプAデュロメータ硬さが60以上、80以下であるものが、いずれも使用可能である。
【0046】
かかるウレタン系熱可塑性エラストマの具体例としては、例えばBASFジャパン(株)製のエラストラン(登録商標)C60A10WN〔タイプAデュロメータ硬さ:65±4、可塑剤入り〕、C70A10WN〔タイプAデュロメータ硬さ:73±4、可塑剤入り〕、C70A11FG〔タイプAデュロメータ硬さ:75±3、可塑剤なし〕、ET870−11V〔タイプAデュロメータ硬さ:71±3、可塑剤なし〕等の、比較的低硬度のTPUの1種または2種以上が挙げられる。
【0047】
(可塑剤)
可塑剤としては、例えば三洋化成工業(株)製のサンフレックス(登録商標)EB−200、EB−300、EB−400(いずれもポリエチレングリコールジベンゾエート類)や、イーストマンケミカル社製のベンゾフレックス(登録商標)9‐88〔ジプロピレングリコールジベンゾエート〕等の1種または2種以上が挙げられる。
【0048】
先に説明したように、前記可塑剤を配合するとともにその配合割合を多くするほど、外層6を軟らかく、すなわちタイプAデュロメータ硬さを小さくすることができる。
本発明の構成は、以上で説明した図の例のものには限定されない。
例えば内層7、および外層6は、それぞれ2層以上の積層構造に形成しても良い。
また、外層6の外周面2には溝等の凹部を形成してもよい。前記凹部を設けると、紙から発生する紙粉等を前記凹部内に取り込むことで、前記外周面2への紙粉の付着による摩擦係数の低下を抑制して、より長期に亘って良好な紙送りを維持することができる。
【0049】
さらにシャフト5は、図示しない駆動機構への連結等のため、角柱状等の、円柱状以外の形状に形成してもよい。
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜、設計変更を施すことができる。
本発明の紙送りローラ1は、例えば静電式複写機、レーザープリンタ、普通紙ファクシミリ装置、およびこれらの複合機や、あるいはインクジェットプリンタ等の画像形成装置、さらには自動現金預払機(ATM)等の機器類における紙送り機構に組み込まれる、給紙ローラ、搬送ローラ、プラテンローラ、排紙ローラ等の種々の紙送りローラとして用いることができる。
【実施例】
【0050】
〈外層Aの形成〉
ベースポリマとしてのウレタン系熱可塑性エラストマ〔BASFジャパン(株)製のエラストラン(登録商標)C70A11FG、タイプAデュロメータ硬さ:75±3、可塑剤なし〕のペレット100質量部と、可塑剤〔ポリエチレングリコールジベンゾエート類、三洋化成工業(株)製のサンフレックス(登録商標)EB−300〕67質量部とをペール缶に入れ、80℃で15時間加熱して、ペレット中に可塑剤を含浸させた。
【0051】
次いでペール缶中の全量、すなわち可塑剤が含浸されたペレットと、前記ペレットに含浸されなかった残りの可塑剤とを2軸押出機〔スクリュー径30mm、L/D:36D、回転数:10〜300rpm〕に供給して混練しながら連続的に押し出したのちペレット化して、エラストマ組成物のペレットを作製した。
次いでこのペレットを50トン射出成形機〔住友重機械工業(株)製〕に供給し、射出成型して、内径φ16.0mm、外径φ23.2mm、長さ40mmの筒状に形成し、次いで80℃で15時間アニールしたのち、長さ30mmにカットして外層Aを形成した。カット芯の直径はφ16.8mmとした。
【0052】
当該外層Aの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、先に説明したように日本工業規格JIS K6253−3:2006「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方−第3部:デュロメータ硬さ」所載の測定方法に則って測定したところ47であった。
〈外層Bの形成〉
可塑剤の量を、ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり100質量部としたこと以外は前記外層Aと同様にして、同形状、同寸法の外層Bを形成した。
【0053】
当該外層Bの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ40であった。
〈外層Cの形成〉
可塑剤の量を、ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり130質量部としたこと以外は前記外層Aと同様にして、同形状、同寸法の外層Cを形成した。
【0054】
当該外層Cの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ35であった。
〈外層Dの形成〉
可塑剤の量を、ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり33質量部としたこと以外は前記外層Aと同様にして、同形状、同寸法の外層Dを形成した。
【0055】
当該外層Dの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ65であった。
〈外層Eの形成〉
可塑剤の量を、ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり20質量部としたこと以外は前記外層Aと同様にして、同形状、同寸法の外層Eを形成した。
【0056】
当該外層Eの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ70であった。
〈外層Fの形成〉
可塑剤の量を、ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり75質量部としたこと以外は前記外層Aと同様にして、同形状、同寸法の外層Fを形成した。
【0057】
当該外層Fの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ45であった。
〈外層Gの形成〉
可塑剤の量を、ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり40質量部としたこと以外は前記外層Aと同様にして、同形状、同寸法の外層Gを形成した。
【0058】
当該外層Gの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ55であった。
〈内層aの形成〉
下記の各成分を配合してゴム組成物を調製した。
【0059】
【表1】
【0060】
表1中の各成分は下記のとおり。
IIR:JSR(株)製のJSR BUTYL268、安定剤:NS、不飽和度:1.5モル%、ムーニー粘度:51ML1+8(125℃)、比重:0.92
カーボンブラック:HAF、東海カーボン(株)製のシースト3
パラフィンオイル:出光興産(株)製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW−380
酸化亜鉛:促進助剤、三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ステアリン酸:促進助剤、日油(株)製の商品名つばき
粉末硫黄:架橋剤、鶴見化学工業(株)製
促進剤TBT−N:テトラブチルチウラムジスルフィド、大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)TBT−N
促進剤DM:ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学工業(株)製のノクセラーDM
次いで前記ゴム組成物を金型に充填し、加圧下で160℃×30分間プレス架橋して、内径φ13.3mm、外径φ16.8mm、長さ60mmのコットルを形成したのち、このコットルを長さ30mmにカットして内層aを形成した。
【0061】
当該内層aの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ15であった。
〈内層bの形成〉
パラフィンオイルの量を、IIR100質量部あたり55質量部としたこと以外は前記内層aと同様にして、同形状、同寸法の内層bを形成した。
【0062】
当該内層bの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ10.5であった。
〈内層cの形成〉
パラフィンオイルの量を、IIR100質量部あたり65質量部としたこと以外は前記内層aと同様にして、同形状、同寸法の内層cを形成した。
【0063】
当該内層cの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ5であった。
〈内層dの形成〉
パラフィンオイルの量を、IIR100質量部あたり10質量部としたこと以外は前記内層aと同様にして、同形状、同寸法の内層dを形成した。
【0064】
当該内層dの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ25であった。
〈内層eの形成〉
パラフィンオイルを配合しなかったこと以外は前記内層aと同様にして、同形状、同寸法の内層eを形成した。
【0065】
当該内層eの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ35であった。
〈内層fの形成〉
下記の各成分を配合してゴム組成物を調製した。
【0066】
【表2】
【0067】
表2中、カーボンブラック、パラフィンオイル、酸化亜鉛、ステアリン酸、および粉末硫黄は内層aと同じ。その他の各成分は下記のとおり。
油展EPDM:住友化学(株)製のエスプレン(登録商標)670F、ゴム分:伸展油=100:100(質量比)
促進剤TET:テトラエチルチウラムジスルフィド、大内新興化学工業(株)製のノクセラーTET
促進剤MBTS:ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学工業(株)製のノクセラーDM−P
そして、かかるゴム組成物を使用したこと以外は前記内層aと同様にして、同形状、同寸法の内層fを形成した。
【0068】
当該内層fの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ15であった。
〈内層g〉
油展EPDM200質量部に対するパラフィンオイルの量を190質量部としたこと以外は内層fと同様にして、同形状、同寸法の内層gを形成した。
【0069】
当該内層gの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ18であった。
〈実施例1〉
前記内層a(タイプAデュロメータ硬さ:15)の通孔にシャフトを圧入した状態で、外層A(タイプAデュロメータ硬さ:47)の通孔内に圧入して、前記内層a、および外層Aの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0070】
〈実施例2〉
内層aに代えて内層b(タイプAデュロメータ硬さ:10.5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層b、および外層Aの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した
【0071】
〈実施例
内層aに代えて内層f(タイプAデュロメータ硬さ:15)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層f、および外層Aの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
〈実施例
外層Aに代えて外層B(タイプAデュロメータ硬さ:40)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、内層a、および前記外層Bの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0072】
〈実施例
外層Aに代えて外層D(タイプAデュロメータ硬さ:65)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、内層a、および前記外層Dの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
〈実施例
外層Aに代えて外層F(タイプAデュロメータ硬さ:45)を用いるとともに、内層aに代えて内層b(タイプAデュロメータ硬さ:10.5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層b、および前記外層Fの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0073】
〈実施例
外層Aに代えて外層D(タイプAデュロメータ硬さ:65)を用いるとともに、内層aに代えて内層b(タイプAデュロメータ硬さ:10.5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層b、および前記外層Dの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0074】
〈実施例
外層Aに代えて外層G(タイプAデュロメータ硬さ:55)を用いるとともに、内層aに代えて内層g(タイプAデュロメータ硬さ:18)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層、および前記外層の2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0075】
比較例1
外層Aに代えて外層B(タイプAデュロメータ硬さ:40)を用いるとともに、内層aに代えて内層c(タイプAデュロメータ硬さ:5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層、および前記外層の2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0076】
比較例2
層aに代えて内層c(タイプAデュロメータ硬さ:5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層、および外の2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0077】
〈比較例
外層Aに代えて外層E(タイプAデュロメータ硬さ:70)を用いるとともに、内層aに代えて内層c(タイプAデュロメータ硬さ:5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層c、および前記外層の2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0078】
〈比較例
外層Aに代えて外層E(タイプAデュロメータ硬さ:70)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、内、および前記外層の2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
〈比較例
層aに代えて内層e(タイプAデュロメータ硬さ:35)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層、および外の2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0079】
〈比較例
外層Aに代えて外層E(タイプAデュロメータ硬さ:70)を用いるとともに、内層aに代えて内層e(タイプAデュロメータ硬さ:35)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層、および前記外層Eの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
〈比較例
内層aに代えて内層d(タイプAデュロメータ硬さ:25)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層、および外層Aの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0080】
〈比較例
外層Aに代えて外層F(タイプAデュロメータ硬さ:45)を用いるとともに、内層aに代えて内層d(タイプAデュロメータ硬さ:25)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層、および前記外層の2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
〈比較例9〉
外層Aに代えて外層D(タイプAデュロメータ硬さ:65)を用いるとともに、内層aに代えて内層d(タイプAデュロメータ硬さ:25)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層d、および前記外層Dの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0081】
〈耐摩耗性評価〉
前記各実施例、比較例で製造した紙送りローラを秤量後、複合機〔日本ヒューレット・パッカード(株)製のHP LaserJet P4515n〕の本体カセット内に、ピックアップローラ、フィードローラ、およびリタードローラと呼ばれるそれぞれの給紙ローラとして組み込んだ。
【0082】
そしてコピー用紙〔キヤノン(株)製、GF500〕を100000枚、連続通紙させた後に再び紙送りローラを秤量して、通紙による摩耗重量W1(mg)を求めた。評価にはリタードローラを用い、式(1):
【0083】
【数1】
【0084】
によって求められる、それぞれの実施例、比較例の外層と同じ材料からなる単層のローラ本体を備えた紙送りローラの磨耗重量W0(mg)に対する摩耗重量W1(mg)の減少率(%)の大小により、耐摩耗性を評価した。すなわち摩耗重量の減少率が30%を超えるものを耐摩耗性良好(○)、30%未満のものを耐摩耗性不良(×)と評価した。
〈層間の空転評価〉
前記各実施例、比較例で製造した紙送りローラのシャフトをトルクゲージ〔(株)東日製作所製のBTG90CN−S〕に固定した状態で、前記トルクゲージと紙送りローラのローラ本体とを、シャフトの中心軸を中心として互いに逆方向に、回転速度30rpmでねじった際に、ローラ本体を形成する内層と外層との層間で空転が発生するまでに測定された最大のトルクを、空転トルクとして求めた。そして空転トルクが30cN・m以上であったものを空転なし、合格(○)、30cN・m未満であったものを空転あり、不合格(×)として評価した。
【0085】
〈鳴き評価〉
前記各実施例、比較例で製造した紙送りローラを秤量後、複合機〔日本ヒューレット・パッカード(株)製のHP LaserJet P4515n〕の本体カセット内に、ピックアップローラ、フィードローラ、およびリタードローラと呼ばれるそれぞれの給紙ローラとして組み込んだ。
【0086】
そしてコピー用紙〔キヤノン(株)製、GF500〕を1000枚、連続通紙させた際の鳴きの有無を確認し、鳴きあり、不良(×)、鳴きなし、良好(○)として評価した。
〈初期期摩擦係数測定〉
図2は実施例、比較例で製造した紙送りローラの初期摩擦係数を測定する方法を説明する図である。
【0087】
図2を参照して、固定されたポリテトラフノレオロエチレン(PTFE)製の板8と、摩擦係数を測定する紙送りローラ1との間に、一端をロードセル9に接続した、60mm×210mmサイズのP紙10〔富士ゼロックス(株)製〕の他端を挟んだ状態で、紙送りローラから板8に向けて0.98N(=100gf)の鉛直荷重Wを印加した。
この状態で、温度23℃、相対湿度55%の環境下、紙送りローラ1を図中の矢印Rで示す方向に周速300mm/秒で回転させて、ロードセル9に加わる搬送力F(gf)を測定した。
【0088】
そして前記搬送力Fと、鉛直荷重W(=100gf)とから、式(2):
【0089】
【数2】
【0090】
によって摩擦係数μを求めた。
以上の結果を表3〜表5に示す。
なお表中、「TPU」はウレタン系熱可塑性エラストマを示す。また「硬さ」は、タイプAデュロメータ硬さを示す。
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
【0094】
の比較例1〜3の結果より、内層をIIR等のゴム、外層をウレタン系熱可塑性エラストマで形成するとともに、前記外層の筒内に、接着剤を介さずに直接に内層を嵌挿した2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラにおいて、内層のタイプAデュロメータ硬さを10以下とすると、当該内層中に多量のオイルが含まれることにより、前記内層と外層との間で空転が発生することが判った。そのため比較例1〜3では他の試験を実施しなかった。
【0095】
また表5の比較例4〜の結果より、外層のタイプAデュロメータ硬さが65を超え(比較例4)たり、内層のタイプAデュロメータ硬さが20を超え(比較例5、7〜9)たり、あるいはこの両方(比較例6)である場合には、いずれにおいても鳴きが発生したり、摩擦係数が低下したりする傾向があることが判った。
これに対し、表3、表4の実施例1〜の結果より、外層のタイプAデュロメータ硬さを40以上、65以下の範囲内とするとともに、内層のタイプAデュロメータ硬さを、10を超え、かつ20以下の範囲内とすると、摩擦係数の低下や鳴きを生じないなど、前記2層構造であることによる種々の特性に優れる上、前記内層と外層との間での空転が生じない紙送りローラが得られることが判った。
【0096】
また前記各実施例の結果より、外層のタイプAデュロメータ硬さは、前記範囲内でも45以上であるのが好ましく、55以下、特に50以下であるのが好ましいこと、内層のタイプAデュロメータ硬さは、前記範囲内でも10.5以上、特に13以上であるのが好ましく、18以下であるのが好ましいことが判った。
また前記各実施例の結果より、外層は、タイプAデュロメータ硬さが60以上、80以下であるウレタン系熱可塑性エラストマに、当該ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり30質量部以上、110質量部以下の可塑剤を配合した組成物によって形成するのが好ましいことが判った。
【符号の説明】
【0097】
1 紙送りローラ
2 外周面
3 ローラ本体
4 通孔
5 シャフト
6 外層
7 内層
8 板
9 ロードセル
10 P紙
図1
図2