【実施例】
【0050】
〈外層Aの形成〉
ベースポリマとしてのウレタン系熱可塑性エラストマ〔BASFジャパン(株)製のエラストラン(登録商標)C70A11FG、タイプAデュロメータ硬さ:75±3、可塑剤なし〕のペレット100質量部と、可塑剤〔ポリエチレングリコールジベンゾエート類、三洋化成工業(株)製のサンフレックス(登録商標)EB−300〕67質量部とをペール缶に入れ、80℃で15時間加熱して、ペレット中に可塑剤を含浸させた。
【0051】
次いでペール缶中の全量、すなわち可塑剤が含浸されたペレットと、前記ペレットに含浸されなかった残りの可塑剤とを2軸押出機〔スクリュー径30mm、L/D:36D、回転数:10〜300rpm〕に供給して混練しながら連続的に押し出したのちペレット化して、エラストマ組成物のペレットを作製した。
次いでこのペレットを50トン射出成形機〔住友重機械工業(株)製〕に供給し、射出成型して、内径φ16.0mm、外径φ23.2mm、長さ40mmの筒状に形成し、次いで80℃で15時間アニールしたのち、長さ30mmにカットして外層Aを形成した。カット芯の直径はφ16.8mmとした。
【0052】
当該外層Aの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、先に説明したように日本工業規格JIS K6253−3:2006「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方−第3部:デュロメータ硬さ」所載の測定方法に則って測定したところ47であった。
〈外層Bの形成〉
可塑剤の量を、ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり100質量部としたこと以外は前記外層Aと同様にして、同形状、同寸法の外層Bを形成した。
【0053】
当該外層Bの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ40であった。
〈外層Cの形成〉
可塑剤の量を、ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり130質量部としたこと以外は前記外層Aと同様にして、同形状、同寸法の外層Cを形成した。
【0054】
当該外層Cの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ35であった。
〈外層Dの形成〉
可塑剤の量を、ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり33質量部としたこと以外は前記外層Aと同様にして、同形状、同寸法の外層Dを形成した。
【0055】
当該外層Dの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ65であった。
〈外層Eの形成〉
可塑剤の量を、ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり20質量部としたこと以外は前記外層Aと同様にして、同形状、同寸法の外層Eを形成した。
【0056】
当該外層Eの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ70であった。
〈外層Fの形成〉
可塑剤の量を、ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり75質量部としたこと以外は前記外層Aと同様にして、同形状、同寸法の外層Fを形成した。
【0057】
当該外層Fの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ45であった。
〈外層Gの形成〉
可塑剤の量を、ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり40質量部としたこと以外は前記外層Aと同様にして、同形状、同寸法の外層Gを形成した。
【0058】
当該外層Gの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ55であった。
〈内層aの形成〉
下記の各成分を配合してゴム組成物を調製した。
【0059】
【表1】
【0060】
表1中の各成分は下記のとおり。
IIR:JSR(株)製のJSR BUTYL268、安定剤:NS、不飽和度:1.5モル%、ムーニー粘度:51ML
1+8(125℃)、比重:0.92
カーボンブラック:HAF、東海カーボン(株)製のシースト3
パラフィンオイル:出光興産(株)製のダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW−380
酸化亜鉛:促進助剤、三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ステアリン酸:促進助剤、日油(株)製の商品名つばき
粉末硫黄:架橋剤、鶴見化学工業(株)製
促進剤TBT−N:テトラブチルチウラムジスルフィド、大内新興化学工業(株)製のノクセラー(登録商標)TBT−N
促進剤DM:ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学工業(株)製のノクセラーDM
次いで前記ゴム組成物を金型に充填し、加圧下で160℃×30分間プレス架橋して、内径φ13.3mm、外径φ16.8mm、長さ60mmのコットルを形成したのち、このコットルを長さ30mmにカットして内層aを形成した。
【0061】
当該内層aの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ15であった。
〈内層bの形成〉
パラフィンオイルの量を、IIR100質量部あたり55質量部としたこと以外は前記内層aと同様にして、同形状、同寸法の内層bを形成した。
【0062】
当該内層bの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ10.5であった。
〈内層cの形成〉
パラフィンオイルの量を、IIR100質量部あたり65質量部としたこと以外は前記内層aと同様にして、同形状、同寸法の内層cを形成した。
【0063】
当該内層cの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ5であった。
〈内層dの形成〉
パラフィンオイルの量を、IIR100質量部あたり10質量部としたこと以外は前記内層aと同様にして、同形状、同寸法の内層dを形成した。
【0064】
当該内層dの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ25であった。
〈内層eの形成〉
パラフィンオイルを配合しなかったこと以外は前記内層aと同様にして、同形状、同寸法の内層eを形成した。
【0065】
当該内層eの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ35であった。
〈内層fの形成〉
下記の各成分を配合してゴム組成物を調製した。
【0066】
【表2】
【0067】
表2中、カーボンブラック、パラフィンオイル、酸化亜鉛、ステアリン酸、および粉末硫黄は内層aと同じ。その他の各成分は下記のとおり。
油展EPDM:住友化学(株)製のエスプレン(登録商標)670F、ゴム分:伸展油=100:100(質量比)
促進剤TET:テトラエチルチウラムジスルフィド、大内新興化学工業(株)製のノクセラーTET
促進剤MBTS:ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド、大内新興化学工業(株)製のノクセラーDM−P
そして、かかるゴム組成物を使用したこと以外は前記内層aと同様にして、同形状、同寸法の内層fを形成した。
【0068】
当該内層fの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ15であった。
〈内層g〉
油展EPDM200質量部に対するパラフィンオイルの量を190質量部としたこと以外は内層fと同様にして、同形状、同寸法の内層gを形成した。
【0069】
当該内層gの、23℃でのタイプAデュロメータ硬さを、前記測定方法に則って測定したところ18であった。
〈実施例1〉
前記内層a(タイプAデュロメータ硬さ:15)の通孔にシャフトを圧入した状態で、外層A(タイプAデュロメータ硬さ:47)の通孔内に圧入して、前記内層a、および外層Aの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0070】
〈実施例2〉
内層aに代えて内層b(タイプAデュロメータ硬さ:10.5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層b、および外層Aの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した
。
【0071】
〈実施例
3〉
内層aに代えて内層f(タイプAデュロメータ硬さ:15)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層f、および外層Aの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
〈実施例
4〉
外層Aに代えて外層B(タイプAデュロメータ硬さ:40)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、内層a、および前記外層Bの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0072】
〈実施例
5〉
外層Aに代えて外層D(タイプAデュロメータ硬さ:65)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、内層a、および前記外層Dの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
〈実施例
6〉
外層Aに代えて外層F(タイプAデュロメータ硬さ:45)を用いるとともに、内層aに代えて内層b(タイプAデュロメータ硬さ:10.5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層b、および前記外層Fの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0073】
〈実施例
7〉
外層Aに代えて外層D(タイプAデュロメータ硬さ:65)を用いるとともに、内層aに代えて内層b(タイプAデュロメータ硬さ:10.5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層b、および前記外層Dの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0074】
〈実施例
8〉
外層Aに代えて
外層G(タイプAデュロメータ硬さ:55)を用いるとともに、内層aに代えて
内層g(タイプAデュロメータ硬さ:18)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層
g、および前記外層
Gの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0075】
〈
比較例1〉
外層Aに代えて
外層B(タイプAデュロメータ硬さ:40)を用いるとともに、内層aに代えて
内層c(タイプAデュロメータ硬さ:5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層
c、および前記外層
Bの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0076】
〈
比較例2〉
内層aに代えて
内層c(タイプAデュロメータ硬さ:5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層
c、およ
び外層
Aの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0077】
〈比較例
3〉
外層Aに代えて
外層E(タイプAデュロメータ硬さ:70)を用いるとともに、内層aに代えて内層c(タイプAデュロメータ硬さ:5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層c、および前記外層
Eの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0078】
〈比較例
4〉
外層Aに代えて
外層E(タイプAデュロメータ硬さ:70)を用いたこと以外は実施例1と同様にして
、内層
a、および
前記外層
Eの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
〈比較例
5〉
内層aに代えて
内層e(タイプAデュロメータ硬さ:35)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層
e、およ
び外層
Aの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0079】
〈比較例
6〉
外層Aに代えて外層E(タイプAデュロメータ硬さ:70)を
用いるとともに、内層aに代えて内層e(タイプAデュロメータ硬さ:35)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、
前記内層
e、および前記外層Eの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
〈比較例
7〉
内層aに代えて
内層d(タイプAデュロメータ硬さ:25)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層
d、および外層Aの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0080】
〈比較例
8〉
外層Aに代えて
外層F(タイプAデュロメータ硬さ:45)を用いるとともに、内層aに代えて
内層d(タイプAデュロメータ硬さ:25)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層
d、および前記外層
Fの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
〈比較例9〉
外層Aに代えて外層D(タイプAデュロメータ硬さ:65)を用いるとともに、内層aに代えて内層d(タイプAデュロメータ硬さ:25)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、前記内層d、および前記外層Dの2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラを製造した。
【0081】
〈耐摩耗性評価〉
前記各実施例、比較例で製造した紙送りローラを秤量後、複合機〔日本ヒューレット・パッカード(株)製のHP LaserJet P4515n〕の本体カセット内に、ピックアップローラ、フィードローラ、およびリタードローラと呼ばれるそれぞれの給紙ローラとして組み込んだ。
【0082】
そしてコピー用紙〔キヤノン(株)製、GF500〕を100000枚、連続通紙させた後に再び紙送りローラを秤量して、通紙による摩耗重量W1(mg)を求めた。評価にはリタードローラを用い、式(1):
【0083】
【数1】
【0084】
によって求められる、それぞれの実施例、比較例の外層と同じ材料からなる単層のローラ本体を備えた紙送りローラの磨耗重量W0(mg)に対する摩耗重量W1(mg)の減少率(%)の大小により、耐摩耗性を評価した。すなわち摩耗重量の減少率が30%を超えるものを耐摩耗性良好(○)、30%未満のものを耐摩耗性不良(×)と評価した。
〈層間の空転評価〉
前記各実施例、比較例で製造した紙送りローラのシャフトをトルクゲージ〔(株)東日製作所製のBTG90CN−S〕に固定した状態で、前記トルクゲージと紙送りローラのローラ本体とを、シャフトの中心軸を中心として互いに逆方向に、回転速度30rpmでねじった際に、ローラ本体を形成する内層と外層との層間で空転が発生するまでに測定された最大のトルクを、空転トルクとして求めた。そして空転トルクが30cN・m以上であったものを空転なし、合格(○)、30cN・m未満であったものを空転あり、不合格(×)として評価した。
【0085】
〈鳴き評価〉
前記各実施例、比較例で製造した紙送りローラを秤量後、複合機〔日本ヒューレット・パッカード(株)製のHP LaserJet P4515n〕の本体カセット内に、ピックアップローラ、フィードローラ、およびリタードローラと呼ばれるそれぞれの給紙ローラとして組み込んだ。
【0086】
そしてコピー用紙〔キヤノン(株)製、GF500〕を1000枚、連続通紙させた際の鳴きの有無を確認し、鳴きあり、不良(×)、鳴きなし、良好(○)として評価した。
〈初期期摩擦係数測定〉
図2は実施例、比較例で製造した紙送りローラの初期摩擦係数を測定する方法を説明する図である。
【0087】
図2を参照して、固定されたポリテトラフノレオロエチレン(PTFE)製の板8と、摩擦係数を測定する紙送りローラ1との間に、一端をロードセル9に接続した、60mm×210mmサイズのP紙10〔富士ゼロックス(株)製〕の他端を挟んだ状態で、紙送りローラから板8に向けて0.98N(=100gf)の鉛直荷重Wを印加した。
この状態で、温度23℃、相対湿度55%の環境下、紙送りローラ1を図中の矢印Rで示す方向に周速300mm/秒で回転させて、ロードセル9に加わる搬送力F(gf)を測定した。
【0088】
そして前記搬送力Fと、鉛直荷重W(=100gf)とから、式(2):
【0089】
【数2】
【0090】
によって摩擦係数μを求めた。
以上の結果を表3〜表5に示す。
なお表中、「TPU」はウレタン系熱可塑性エラストマを示す。また「硬さ」は、タイプAデュロメータ硬さを示す。
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
【0094】
表
4の比較例1〜3の結果より、内層をIIR等のゴム、外層をウレタン系熱可塑性エラストマで形成するとともに、前記外層の筒内に、接着剤を介さずに直接に内層を嵌挿した2層構造のローラ本体を備えた紙送りローラにおいて、内層のタイプAデュロメータ硬さを10以下とすると、当該内層中に多量のオイルが含まれることにより、前記内層と外層との間で空転が発生することが判った。そのため比較例1〜3では他の試験を実施しなかった。
【0095】
また
表5の比較例4〜
9の結果より、外層のタイプAデュロメータ硬さが65を超え(比較例4)たり、内層のタイプAデュロメータ硬さが
20を超え(比較例5
、7〜9)たり、あるいはこの両方(比較例6)である場合には、いずれにおいても鳴きが発生
したり、摩擦係数が低下
したりする傾向があることが判った。
これに対し、表3、表4の実施例1〜
8の結果より、外層のタイプAデュロメータ硬さを40以上、65以下の範囲内とするとともに、内層のタイプAデュロメータ硬さを、10を超え、かつ
20以下の範囲内とすると、摩擦係数の低下や鳴きを生じないなど、前記2層構造であることによる種々の特性に優れる上、前記内層と外層との間での空転が生じない紙送りローラが得られることが判った。
【0096】
また前記各実施例の結果より、外層のタイプAデュロメータ硬さは、前記範囲内でも45以上であるのが好ましく、55以下、特に50以下であるのが好ましいこと、内層のタイプAデュロメータ硬さは、前記範囲内でも10.5以上、特に13以上であるのが好ましく
、18以下であるのが好ましいことが判った。
また前記各実施例の結果より、外層は、タイプAデュロメータ硬さが60以上、80以下であるウレタン系熱可塑性エラストマに、当該ウレタン系熱可塑性エラストマ100質量部あたり30質量部以上、110質量部以下の可塑剤を配合した組成物によって形成するのが好ましいことが判った。