特許第6146904号(P6146904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ サカタインクス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146904
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】オフセット印刷用インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/03 20140101AFI20170607BHJP
【FI】
   C09D11/03
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-164194(P2013-164194)
(22)【出願日】2013年8月7日
(65)【公開番号】特開2015-34190(P2015-34190A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】森 富士雄
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康司
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−302259(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/119529(WO,A1)
【文献】 特開2006−124546(JP,A)
【文献】 特開2013−023619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00〜11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色顔料と、バインダー樹脂と、油成分と、下記成分(A)及び成分(B)の両方と、を含んでなるオフセット印刷用インキ組成物。
成分(A) エポキシ基を有するノボラック樹脂と、炭素数12以上のモノヒドロキシ脂肪酸を縮合させてなるポリエステル化合物と、の反応物又はその変性物
成分(B) 下記一般式(1)又は(2)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種
【化1】
(上記一般式(1)及び(2)中、Rは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、nは、1〜3の整数である。)
【請求項2】
前記成分(B)が、ヘキシルグリコール、ヘキシルジグリコール、2−エチルヘキシルジグリコール、フェニルグリコール、フェニルジグリコール、ベンジルグリコール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピルプロピレンジグリコール及びフェニルプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種である請求項記載のオフセット印刷用インキ組成物。
【請求項3】
組成物全体に対して、前記成分(A)の含有量が0.1〜5質量%であり、前記成分(B)の含有量が0.1〜5質量%であり、前記成分(A)及び(B)の合計含有量が0.3〜6質量%である請求項1又は2記載のオフセット印刷用インキ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷用インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷は、油性であるオフセット印刷用インキ組成物(以下、「インキ組成物」又は「インキ」と適宜省略する。)が水に反発する性質を利用した印刷方式であり、凹凸を備えた印刷版を用いる凸版印刷方式とは異なり、凹凸のない印刷版を用いることを特徴とする。この印刷版は、凹凸の代わりに親油性の画像部と親水性の非画像部とを備える。そして印刷に際しては、まず、湿し水によって印刷版の非画像部が湿潤されてその表面に水膜が形成され、次いでインキ組成物が印刷版に供給される。このとき、供給されたインキ組成物は、水膜の形成された非画像部には反発して付着せず、親油性の画像部のみに付着する。こうして、印刷版の表面にインキ組成物による画像が形成され、次いでそれがブランケット及び紙に順次転移することにより印刷が行われる。
【0003】
上記オフセット印刷方式は、印刷版の作製が比較的簡単でありながら、高い美粧性を備えた印刷物を得たり、大量の印刷物を短時間で得たりする分野に適するという特性を備える。そこで、オフセット印刷方式は、パンフレット、ポスター、カレンダー等といった高い美粧性が要求される分野から、新聞、雑誌、電話帳等といった高速かつ大量に印刷されることが要求される分野まで広く利用されている。
【0004】
これらの分野のうち、高速かつ大量に印刷することが必要な分野では、オフセット輪転機を用いるのが一般的である。オフセット輪転機では、印刷用紙を巻き取りの状態で用紙供給部に装着し、この巻き取りを巻き解くことで印刷用紙を印刷部へ供給し印刷を行う。印刷された印刷用紙は、裁断部で裁断を受けたあと、折り加工等といった必要な加工を受けて製品となる。このような印刷方法によれば、数万部から数十万部程度の印刷を一度に行うことができるので効率的である。そして、その印刷速度も1時間あたり、十万部以上という高速に達することもある。このような中、オフセット印刷用のインキ組成物においても、高速印刷適性を付与した製品が数多く提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−281954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既に述べたように、オフセット印刷では、オフセット印刷版上における水と油の反発を巧みに利用して、インキが付着してはならない非画像部にインキが付着しないようにしながら印刷を行う。このような印刷を行うに際しては、水(湿し水)と油(インキ)のバランスに関してとてもデリケートな調整を要するものであり、印刷に用いる用紙の吸水度、印刷機における湿し水の供給方式、印刷環境等の条件によってはこれらのバランスが崩れ、印刷紙面の非画像部にインキが付着して汚れを生じる場合がある。こうした汚れを生じた印刷物ではその商品価値が著しく低下し、場合によっては廃棄物(損紙)とされる。特に、オフセット輪転機を用いて高速印刷を行う場合には、一度汚れが発生すると、その汚れに対処をする間にも高速な印刷が行われ続けるので、こうした廃棄物(損紙)を大量に発生させてしまうことになる。
【0007】
また、オフセット輪転機で印刷される印刷物において、特に多くの部数が印刷されるものの代表として、新聞、雑誌、電話帳等を挙げることができる。これらの印刷物は、主として情報伝達を目的とするものであるので、高度な美粧性が要求される際に用いられる高級印刷用紙ではなく、紙質のやや劣る更紙等が主として用いられる。しかしながら、こうした用紙では、その表面強度が高級印刷用紙に比べて劣るので、印刷の際に、用紙の表面に存在する紙の繊維の一部が印刷機のブランケットに毟られてしまうことがある。
【0008】
用紙の表面から毟られた紙の繊維(紙粉)は、印刷機のブランケットや印刷版に滞留し、印刷物へのオフセット印刷用インキ組成物の良好な転写を妨害する。このように、印刷機のブランケットや印刷版に紙粉が滞留して印刷物へのインキの転移が妨害される現象は着肉不良と呼ばれ、これが発生してしまうと印刷物がかすれたような状態となり、上記の汚れと同様にその商品価値を低下させる。そして、こうした現象は、印刷部数が多くなればなるほど紙粉の堆積が累積するので顕著になる。そのため、印刷部数の多い上記新聞、雑誌、電話帳等の印刷では、着肉不良を抑制させることが特に重要である。
【0009】
以上のように、オフセット輪転機を用いた大量かつ高速な印刷を行うに際しては、紙面の汚れや着肉不良を抑制することが重要な課題となるので、こうした要求性能を満たすことのできるインキ組成物が強く求められている。
【0010】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、印刷の際に、印刷紙面における汚れ及び着肉不良の発生を抑制することのできるオフセット印刷用のインキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、変性ノボラック樹脂と、特定の構造を備えたグリコールエーテル化合物とをインキ組成物に配合することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
本発明は、着色顔料と、バインダー樹脂と、油成分と、下記成分(A)及び成分(B)の両方と、を含んでなるオフセット印刷用インキ組成物である。
成分(A) エポキシ基を有するノボラック樹脂と、炭素数12以上のモノヒドロキシ脂肪酸を縮合させてなるポリエステル化合物と、の反応物又はその変性物
成分(B) 下記一般式(1)又は(2)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種
【化1】
(上記一般式(1)及び(2)中、Rは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、nは、1〜3の整数である。)
【0014】
上記成分(B)は、ヘキシルグリコール、ヘキシルジグリコール、2−エチルヘキシルジグリコール、フェニルグリコール、フェニルジグリコール、ベンジルグリコール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピルプロピレンジグリコール及びフェニルプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
組成物全体に対して、上記成分(A)の含有量が0.1〜5質量%であり、上記成分(B)の含有量が0.1〜5質量%であり、上記成分(A)及び(B)の合計含有量が0.3〜6質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、印刷の際に、印刷紙面における汚れ及び着肉不良の発生を抑制することのできるオフセット印刷用のインキ組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のオフセット印刷用インキ組成物の一実施形態について説明する。
【0018】
本発明のインキ組成物は、オフセット印刷用として使用されるものであり、印刷紙面における汚れの発生を抑制する性能(「汚れ耐性」とも呼ぶ。)と、着肉不良の発生を抑制する性能とを両立することができるので、新聞印刷等のような、輪転機を用いた高速印刷用として好ましく用いられる。本発明のインキ組成物は、着色顔料と、バインダー樹脂と、油成分と、後述する成分(A)及び成分(B)の両方と、を含むことを特徴とする。以下、各事項について説明する。
【0019】
[着色顔料]
着色顔料は、インキ組成物に着色力を付与するための成分である。着色顔料としては、従来からインキ組成物に使用される有機及び/又は無機顔料を特に制限無く挙げることができる。
【0020】
このような着色顔料としては、ジスアゾイエロー(ピグメントイエロー12、ピグメントイエロー13、ピグメントイエロー17、ピグメントイエロー1)、ハンザイエロー等のイエロー顔料、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウオッチングレッド等のマゼンタ顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー等のシアン顔料、カーボンブラック等の黒色顔料等が例示される。
【0021】
着色顔料の添加量としては、インキ組成物全体に対して8〜30質量%程度が例示されるが、特に限定されない。なお、イエロー顔料を使用してイエローインキ組成物を、マゼンタ顔料を使用してマゼンタインキ組成物を、シアン顔料を使用してシアンインキ組成物を、黒色顔料を使用してブラックインキ組成物をそれぞれ調製するに際しては、補色として、他の色の顔料を併用したり、他の色のインキ組成物を添加したりすることも可能である。
【0022】
[バインダー樹脂]
バインダー樹脂(以下、単に「樹脂」とも呼ぶ。)は、印刷用紙の表面で上記着色顔料を固定するバインダーとして機能する成分であり、また、上記着色顔料をインキ組成物中に分散させるために用いられる成分でもある。このような樹脂としては、インキ組成物の分野で通常使用されるものを特に制限なく挙げることができ、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性アルキド樹脂、ロジン変性石油樹脂、ロジンエステル樹脂、石油樹脂変性フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、アルキド樹脂、植物油変性アルキド樹脂、石油樹脂等が例示される。これらの樹脂の重量平均分子量としては、3000〜30万程度を好ましく例示することができる。
【0023】
これらの樹脂の中でも、顔料分散性、印刷品質及び長時間にわたる安定な印刷適性といった観点からは、重量平均分子量が1万〜15万であるロジン変性フェノール樹脂及びロジン変性マレイン酸樹脂よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、顔料の分散性を向上させるために、これらの樹脂とアルキド樹脂とを併用することも好ましい。この場合、ロジン変性フェノール樹脂及びロジン変性マレイン酸樹脂の合計100質量部に対して、アルキド樹脂を3〜10質量部程度用いるのが好ましい。樹脂の添加量としては、インキ組成物全体に対して、10〜35%程度を好ましく例示できる。
【0024】
樹脂は、後述する油成分とともに加熱されることにより溶解され、ワニスとされた状態で使用される。ワニスを調製する際、樹脂を溶解させて得られた溶解ワニス中に金属キレート化合物や金属石けん等のゲル化剤を投入し、ゲル化ワニスとしてもよい。樹脂からゲル化ワニスを調製し、これをインキ組成物の調製に用いることにより、インキ組成物に適度な粘弾性を付与することができるので好ましい。
【0025】
[油成分]
油成分は、上記樹脂を溶解させてワニスとしたり、インキ組成物の粘度を調節したりするために使用される。油成分としては、植物油及び/又は鉱物油を挙げることができ、これまでインキ組成物の調製に使用されてきたものを特に制限なく使用できる。
【0026】
本発明において、植物油には、植物油の他に植物油由来の脂肪酸エステル化合物が含まれてもよい。植物油としては、大豆油、綿実油、アマニ油、サフラワー油、桐油、トール油、脱水ヒマシ油、カノーラ油等の乾性油や半乾性油等が例示される。また、植物油由来の脂肪酸エステル化合物としては、上記植物油に由来する脂肪酸のモノアルキルエステル化合物等が例示される。この脂肪酸モノアルキルエステル化合物を構成する脂肪酸としては、炭素数16〜20の飽和又は不飽和脂肪酸が好ましく例示され、このような飽和又は不飽和脂肪酸としては、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸等が好ましく例示される。脂肪酸モノアルキルエステル化合物を構成するアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく例示され、より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、2−エチルヘキシル基等が好ましく例示される。
【0027】
これらの植物油は、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。植物油としては、大豆油、大豆油脂肪酸エステル等が好ましく例示される。インキ組成物における植物油の含有量としては、インキ組成物全体に対して20〜60質量%程度を例示することができる。
【0028】
本発明において、鉱物油としては、溶剤成分と呼ばれる軽質の鉱物油や、潤滑油状である重質の鉱物油等が挙げられる。
【0029】
軽質の鉱物油としては、沸点160℃以上、好ましくは沸点200℃以上の非芳香族系石油溶剤が例示される。このような非芳香族系石油溶剤としては、JX日鉱日石エネルギー株式会社製の0号ソルベント、同AFソルベント5号、同AFソルベント6号、同AFソルベント7号等が例示される。
【0030】
重質の鉱物油としては、スピンドル油、マシン油、ダイナモ油、シリンダー油等として分類されてきた各種の潤滑油を挙げることができる。これらの中でも、米国におけるOSHA基準やEU基準に適応させるとの観点からは、縮合多環芳香族成分の含有量が抑制されたものであることが好ましい。このような鉱物油としては、JX日鉱日石エネルギー株式会社製のインクオイルH8、同インクオイルH35、三共油化工業株式会社製のSNH8、同SNH46、同SNH220、同SNH540等が例示される。
【0031】
これらの鉱物油は、単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。インキ組成物における鉱物油の含有量としては、インキ組成物全体に対して0〜50質量%程度を例示することができる。なお、財団法人日本エコマーク事務局が認定する、インキ組成物におけるエコマーク基準(類型名:印刷インキVersion2.0、基準:インキ組成物中の石油系溶剤が30質量%以下)に適合させるとの観点からは、インキ組成物における鉱物油の含有量を30質量%以下とすることが好ましい。
【0032】
[成分(A)]
成分(A)は、変性ノボラック樹脂である。本発明者らは、印刷中における着肉不良の発生を抑制することのできるインキ組成物の処方を検討していたところ、意外にも、インキ組成物中に少量の変性ノボラック樹脂を添加することにより、着肉不良の発生が顕著に抑制されることを見出した。本発明のインキ組成物は、こうした知見に基づくものであり、成分(A)として変性ノボラック樹脂を含む。インキ組成物中における成分(A)の含有量は、0.1〜5質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましく、0.5〜2質量%がさらに好ましい。
【0033】
変性ノボラック樹脂としては、ノボラック樹脂のフェノール性水酸基にカルボキシル基や水酸基等の官能基を備えた化合物を反応させたものや、ノボラック樹脂のフェノール性水酸基にエピクロルヒドリンやβ−メチルエピクロルヒドリン等のエピクロルヒドリン誘導体を作用させてエポキシ基を導入した後に、カルボキシル基や水酸基等の官能基を備えた化合物をこのエポキシ基と反応させたものを挙げることができる。特に、後者については、エポキシ基を導入されたノボラック樹脂がエポキシ樹脂の調製用等として各種市販されており便宜である。
【0034】
より好ましい態様における変性ノボラック樹脂としては、(X)エポキシ基を有するノボラック樹脂(以下、「化合物(X)」とも呼ぶ。)と、(Y)炭素数12以上のモノヒドロキシ脂肪酸を縮合させてなるポリエステル化合物(以下、「化合物(Y)」とも呼ぶ。)との反応物又はその変性物を挙げることができる。
【0035】
上記化合物(X)は、フェノール性水酸基を有するノボラック樹脂に、常法によりエピクロルヒドリン、β−メチルエピクロルヒドリン等のエピクロルヒドリン誘導体を反応させることで合成される。もちろん、エポキシ基を導入されたノボラック樹脂が上記のように市販されているので、これを化合物(X)として用いてもよい。
【0036】
フェノール性水酸基を有するノボラック樹脂としては、一価又は多価フェノール類とアルデヒド類とから常法により誘導されるノボラック樹脂を用いることができる。
【0037】
このうち一価フェノールとしては、フェノール、クレゾール、キシレノール、トリメチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、アミルフェノール、ヘキシルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノール等の無置換フェノール類やアルキルフェノール等の置換フェノール類を挙げることができる。多価フェノール類としては、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、トリヒドロキシベンゼン、又はこれらの置換体や、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のジヒドロキシジフェニルメタン類、ジヒドロキシビフェニル類等を挙げることができる。これらのフェノール類は、単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
アルデヒド類としては、ノボラック樹脂の製造のために一般に用いられているものを特に制限無く挙げることができる。具体的には、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、グリオキサール等の低級脂肪族アルデヒド類、フルフラール、フェニルアルデヒド等の芳香族アルデヒド類等を挙げることができる。これらアルデヒド類は、単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
ノボラック樹脂を合成するには、常法により、パラトルエンスルホン酸、過塩素酸、塩酸、硝酸、硫酸、クロロ酢酸、シュウ酸、リン酸等の酸触媒の存在下に、上記フェノール類及びアルデヒド類を80〜130℃にて反応させればよい。この反応の進行は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等により追跡することができる。
【0040】
上記化合物(Y)としては、12−ヒドロキシステアリン酸等の炭素数12以上のモノヒドロキシ脂肪酸同士をエステル化触媒等の存在下で縮合させたものを例示することができる。これらのモノヒドロキシ脂肪酸は、分子内に水酸基とカルボキシル基とを併せ持つので、モノヒドロキシ脂肪酸同士で脱水縮合(エステル化反応)してポリエステル化合物を生成させる。このようなポリエステル化合物は、エポキシ基と反応をすることのできる可能なカルボキシル基を分子内に含み、上記化合物(X)の分子内に含まれるエポキシ基と反応して反応物を生成させる。
【0041】
上記化合物(X)と化合物(Y)とを反応させて反応物を得るには、これらを混合した上で加熱すればよい。その際、必要に応じてジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、キシレン等といった適切な溶媒を添加してもよい。反応に際しての反応温度としては、100〜175℃程度を例示することができるが、特に限定されない。化合物(X)と化合物(Y)とが反応するにつれて、化合物(Y)に含まれるカルボキシル基が消費され、反応混合物の酸価が低下するので、反応中の酸価をモニターすることにより反応の進行度合い及び終了を判断することが可能である。反応終了時点の酸価としては、0.1〜1.0mgKOH/g程度を例示することができるが特に限定されない。
【0042】
化合物(X)及び化合物(Y)の混合割合は、化合物(X)の1分子中に含まれるエポキシ基の数及び化合物(Y)の1分子中に含まれるカルボキシル基の数を考慮して適宜決定すればよい。化合物(X)と化合物(Y)との混合割合としては、化合物(X)に含まれるエポキシ基1モルに対して化合物(Y)に含まれるカルボキシル基が0.5〜0.9モルである割合を好ましく例示でき、更には化合物(X)に含まれるエポキシ基1モルに対して化合物(Y)に含まれるカルボキシル基が0.6〜0.85モルである割合をより好ましく例示できるが、特に限定されない。
【0043】
このようにして得られた変性ノボラック樹脂をそのまま上記成分(A)として用いてもよいし、必要に応じて、さらに、例えば化合物(Z)として分子内に2以上のカルボキシル基を有する化合物を添加して反応させて変性物としたものを上記成分(A)として用いてもよい。この場合、化合物(X)として2以上のエポキシ基を有するノボラック樹脂を用いれば、化合物(Y)により変性された化合物(X)同士が化合物(Z)によって架橋され、より高分子量化された変性ノボラック樹脂を得ることができる。このように高分子量化された変性ノボラック樹脂を成分(A)として用いることにより、低分子の樹脂化合物をインキ組成物に添加した際にしばしば観察されるミスチング等の問題を抑制できるので好ましい。
【0044】
化合物(Z)としては、分子内に2以上のカルボキシル基を有する化合物であれば特に限定されず、このような化合物の一例として、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸等を挙げることができる。
【0045】
化合物(Z)により架橋を行う際の反応温度としては、125〜175℃程度を例示することができるが、特に限定されない。未反応のエポキシ基と化合物(Z)とが反応するにつれて、化合物(Z)に含まれるカルボキシル基が減少し、反応混合物の酸価が低下するので、反応中の酸価をモニターすることにより反応の進行度合い及び終了を判断することが可能である。例えば、反応を継続させても酸価が減少しなくなれば、それはエポキシ基が用い尽くされた状況を意味するのであり、反応が終了したと判断することができる。
【0046】
化合物(Z)の添加量は、反応に使用する化合物(X)に含まれるエポキシ基及び化合物(Y)に含まれるカルボキシル基の量に応じて適宜決定すればよい。このような添加量の一例として、化合物(X)に含まれるエポキシ基のモル数と化合物(Y)に含まれるカルボキシル基のモル数との差1モルに対して、化合物(Z)に含まれるカルボキシル基のモル数が0.5〜0.9モルである割合を好ましく例示でき、更には化合物(Z)に含まれるカルボキシル基のモル数が0.6〜0.85モルである割合をより好ましく例示できるが、特に限定されない。
【0047】
[成分(B)]
成分(B)は、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である。
【化2】
(上記一般式(1)及び(2)中、Rは、それぞれ独立にアルキル基、アリール基又はアラルキル基であり、nは、1〜3の整数である。)
【0048】
本発明において、インキ組成物中に成分(B)を添加するのは、当該成分を含むインキ組成物が良好な汚れ耐性を発現するようになることを本発明者らが知見したことに基づく。インキ組成物中に成分(B)が添加されることにより汚れ耐性が向上する理由は必ずしも明らかでないが、概ね次のようなものと推察される。上記成分(B)は、グリコールエーテルとも呼ばれる化合物であり、水酸基や複数のエーテル基といった親水性の高い部分と、アルキル基等のような疎水性の高い部分とを併せ持つものである。そのため、油性環境であるインキ組成物中にあって、成分(B)は、速やかに湿し水をインキ組成物中に取り込むのを助ける一方で、取り込んだ湿し水を比較的大きな水滴の状態としてインキ組成物中に乳化させる働きを持つものと推察される。そのため、インキ組成物中に乳化水として取り込まれた湿し水が、その水滴の大きさ故にオフセット印刷版の表面で容易に乳化破壊されてインキ組成物と分離し、湿し水としての本来機能である汚れ防止効果を発現するものと思われる。
【0049】
本発明のインキ組成物は、このようなメカニズムにより汚れ耐性が向上されると考えられ、印刷版に直接湿し水を供給するAD(Arch typed Dampner)印刷方式においては勿論、インキトレイン中のインキ組成物に湿し水を供給するITD(Ink Train Dampner)印刷方式においても良好な汚れ耐性を発現できる。とりわけ、ITD方式では、印刷版上に直接湿し水が供給されるのではなく、インキ組成物の膜表面に供給された湿し水がインキ中に含まれた状態で印刷版まで運ばれる方式となるので、用いられるインキ組成物には、供給された湿し水を速やかに内部へ取り込み、印刷版上では速やかにその湿し水を分離させる性能が必要になる。このような観点からは、本発明のインキ組成物は、ITD方式の印刷機においても良好に用いることができるといえる。勿論、本発明のインキ組成物は、ITD方式でない印刷機にも好ましく用いられ、その場合には、印刷版上での過剰な乳化を抑制しながら優れた汚れ耐性を発揮することができる。
【0050】
インキ組成物中における成分(B)の含有量は、0.1〜5質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましく、0.3〜2質量%がさらに好ましい。インキ組成物における成分(B)の含有量が上記の範囲であることにより、良好な汚れ耐性が得られるとともに、インキ組成物の乳化バランスが良好になって着肉不良の発生が抑制されるので好ましい。
【0051】
成分(B)としては、ヘキシルグリコール、ヘキシルジグリコール、2−エチルヘキシルジグリコール、フェニルグリコール、フェニルジグリコール、ベンジルグリコール、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピルプロピレンジグリコール及びフェニルプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種を好ましく例示できる。これらの中でも、2−エチルヘキシルジグリコールをより好ましく例示できる。これらの成分(B)は、単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
インキ組成物中における上記成分(A)と成分(B)との合計量は、0.3〜6質量%であることが好ましく、0.3〜4質量%であることがより好ましく、0.3〜3質量%であることがさらに好ましい。インキ組成物中における成分(A)及び成分(B)の合計量が上記の範囲であることにより、汚れ耐性と着肉不良抑制効果とを良好な状態で両立させることができるので好ましい。
【0053】
[その他の成分]
本発明のインキ組成物には、印刷性能を向上させる等の観点から、必要に応じて上記の各成分の他に各種成分を添加することができる。このような各種成分としては、無色顔料、リン酸塩等の塩類、ポリエチレン系ワックス・オレフィン系ワックス・フィッシャートロプシュワックス等のワックス類、アルコール類、酸化防止剤等が例示される。
【0054】
無色顔料は、体質顔料とも呼ばれ、インキ組成物における粘度等といった特性を調節するために好ましく使用される。無色顔料としては、クレー、タルク、カオリナイト(カオリン)、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、ベントナイト、酸化チタン等が例示される。無色顔料の添加量としては、インキ組成物全体に対して0〜33質量%程度が例示されるが、特に限定されない。
【0055】
[インキ組成物の調製方法]
上記の各成分を用いて本発明のインキ組成物を製造するに際しては、従来公知の方法を用いることができる。このような方法としては、上記の各成分を混合した後にビーズミルや三本ロールミル等で練肉することで着色顔料を分散させた後、必要に応じて鉱物油や添加剤(酸化防止剤、アルコール類、ワックス類等)等を加えてよく撹拌し、さらに粘度調整することを例示できる。インキ組成物の粘度は、それが適用される印刷機の構成や印刷用紙の紙質等を考慮して適宜設定すればよいが、一例として、ラレー粘度計による25℃での値が2.0〜20Pa・sであることを挙げることができるが、特に限定されない。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明の印刷インキ組成物をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の記載では、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0057】
[変性ノボラック樹脂の合成]
冷却管、水分分離管、温度計、窒素導入管を備えたセパラブルフラスコに12−ヒドロキシステアリン酸300部、キシレン30部、テトラ−n−ブチルチタネート0.3部の混合物を入れ、窒素気流下にて生成する水を水分分離管で分離しながら180〜200℃で3時間加熱撹拌した。次いで、キシレンを減圧留去して重量平均分子量800、酸価80の淡褐色重合物であるポリエステルAを得た。
【0058】
反応容器に、エポキシ基を有するノボラック樹脂(新日鉄住金化学株式会社製、YDPN−638)30部、上記ポリエステルA64部及びDMF50部の混合溶液を入れ、窒素気流下にて130〜150℃で2時間加熱撹拌した。次いで、テレフタル酸6部を加えて2時間反応させた後、無水コハク酸6部を加えてさらに3時間加熱撹拌した。その後、DMFを減圧留去し、重量平均分子量9000、酸価32の変性ノボラック樹脂を得た。
【0059】
[インキ組成物用ワニスの調製]
冷却管、温度計及び撹拌機を装着した4つ口フラスコに、重量平均分子量10万のロジン変性フェノール樹脂(荒川化学工業株式会社製、KG−2212)35部、大豆油20部及びAFソルベント6号(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)44.5部を仕込んだ後200℃に昇温し、同温度を1時間維持することにより樹脂を溶解させた後、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(川研ファインケミカル株式会社製、ALCH)を0.5部仕込み、その後170℃で60分間加熱保持して、ワニスを得た。
【0060】
[インキ組成物用ベースの調製]
上記ワニス42部、カーボンブラックMA70(三菱化学株式会社製)20部、炭酸カルシウム(白艶華DD、白石カルシウム株式会社製)5部、ギルソナイトワニス13部、及び大豆油5部を混合し、三本ロールミルにて練肉することでインキ組成物用ベースを調製した。なお、上記ギルソナイトワニスは、ギルソナイト(American Gilsonite Company社製、製品名:ギルソナイト S325L)20部を、AFソルベント6号(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)80部で溶解させたものである。
【0061】
[インキ組成物の調製]
上記インキ組成物用ベース、変性ノボラック樹脂、2−エチルヘキシルジグリコール(成分B−1)、ヘキシルジグリコール(成分B−2)、及び大豆油を表1及び2に示す配合(質量部)にて混合して、実施例1〜12、及び比較例1〜4のインキ組成物を調製した。
【0062】
[印刷評価]
実施例1〜12、及び比較例1〜4のインキ組成物のそれぞれについて、湿し水の供給方式をITD方式に組み替えたN−750型印刷実験機(東浜精機株式会社製)を使用して、印刷速度12万部/時で用紙を新聞用更紙として2万部の印刷試験を行った。湿し水としては水道水にN−4(サカタインクス株式会社製、中性H液)を0.7%加えたものを使用し、湿し水の供給にはスプレーダンプナーSSD−12(サカタインクス株式会社製)を使用した。印刷に際しては、水幅の下限付近での印刷状態の比較を行うために、水幅の下限値よりもSSD−12のダイヤルを2ポイント上げた状態とした。また、印刷時のベタ紙面濃度は、1.20±0.02とした。なお、ベタ紙面濃度は、印刷物におけるベタ部の濃度をSpectroeye濃度計(Gretagmacbeth社製)により測定した数値である。
【0063】
(汚れ耐性評価)印刷試験終了直前の紙面の非画像部の汚れを目視で評価した。評価結果を表1及び2の「汚れ耐性」欄に示す。なお、評価基準は以下の通りである。
◎:非画像部に汚れが全く観察されない
○:平網部(50%網点)にて若干のからみ汚れが観察されるが、その他の非画像部では汚れが全く観察されない
△:咥え尻部の非画像部にてやや汚れが観察される
×:非画像部にて目立った汚れが観察される
【0064】
(着肉性評価)印刷終了直前の紙面の画像部(ベタ部)の着肉状態を目視で評価した。評価結果を表1及び2の「着肉性」欄に示す。なお、評価基準は以下の通りである。
◎ 印刷物において、ベタ部のかすれが全く観察されない
○ 印刷物において、ベタ部のかすれがわずかに観察される
△ 印刷物において、ベタ部のかすれが観察される
× 印刷物において、ベタ部のかすれが著しく観察される
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
表1及び2から明らかなように、本発明のインキ組成物によれば、紙面に汚れの生じやすいITD印刷方式であっても汚れを生じず、かつ着肉不良も良好に抑制されることがわかる。このことから、本発明のインキ組成物によれば、汚れ及び着肉不良の発生を抑制できることが理解される。