特許第6146908号(P6146908)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6146908表面性状に優れたステンレス鋼とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6146908
(24)【登録日】2017年5月26日
(45)【発行日】2017年6月14日
(54)【発明の名称】表面性状に優れたステンレス鋼とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20170607BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20170607BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20170607BHJP
   C21C 7/076 20060101ALI20170607BHJP
   C21C 7/06 20060101ALI20170607BHJP
   C21C 7/068 20060101ALI20170607BHJP
   C21C 7/10 20060101ALI20170607BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/58
   C21C7/00 B
   C21C7/076 A
   C21C7/06
   C21C7/068
   C21C7/10 J
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-211957(P2013-211957)
(22)【出願日】2013年10月9日
(65)【公開番号】特開2015-74807(P2015-74807A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232793
【氏名又は名称】日本冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】桐原 史明
(72)【発明者】
【氏名】轟 秀和
(72)【発明者】
【氏名】山下 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 和貴
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−277727(JP,A)
【文献】 特開2012−201945(JP,A)
【文献】 特開2005−274408(JP,A)
【文献】 特開平10−226844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 1/00−11/00
C21C 7/00
C21C 7/06
C21C 7/068
C21C 7/076
C21C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.1%以下、Si:0.2〜1%、Mn:0.2〜2%、S:0.005%以下、Ni:3〜15%、Cr:13〜20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001〜0.01%、Ca:0.0001〜0.01%、O:0.0005〜0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼において、
該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物が、MgO、MgO・Al、CaO−SiO−MgO−Al系酸化物の1種または2種以上を含み、
前記非金属介在物のうち長さ5μm以上の物が任意の1cmあたり100個以下であり、
前記非金属介在物のうちMgO・Alが個数比率で50%以下であることを特徴とするステンレス鋼。
【請求項2】
前記非金属介在物のうちMgO・Alが個数比率で20%以下であることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼。
【請求項3】
前記非金属介在物のうちMgO・Alが個数比率で0%であることを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼。
【請求項4】
前記非金属介在物のうち、MgO・AlはMgO:10〜40%、Al:60〜90%であり、CaO−SiO−Al−MgO系酸化物は、CaO:20〜60%、SiO:10〜40%、Al:30%以下、MgO:5〜50%であることを特徴とする請求項1または2に記載のステンレス鋼。
【請求項5】
さらに、Mo:5%以下、Cu:1〜5%、Nb:0.05〜1%、N:0.01〜0.05%、B:0.01%以下の1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のステンレス鋼。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のステンレス鋼の製造方法であって、原料を溶解し、Ni:3〜15%、Cr:13〜20%を含有するステンレス溶鋼を溶製し、次いで、AODおよび/またはVODにおいて脱炭した後に、石灰、蛍石、フェロシリコン合金を投入しCaO/SiO比:2〜5未満、MgO:3〜15%、Al:5%未満からなるCaO−SiO−MgO−Al−F系スラグを用い、C:0.1%以下、Si:0.2〜1%、Mn:0.2〜2%、S:0.005%以下、Ni:3〜15%、Cr:13〜20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001〜0.01%、Ca:0.0001〜0.01%、O:0.0005〜0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス溶鋼に調整することを特徴とするステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面品質に優れたステンレス鋼に関するものである。さらに、ステンレス鋼の精錬方法に関し、スラグ塩基度および溶鋼中のMg、Al、Caといった微量成分を制御することにより、溶鋼中の有害な非金属介在物であるMgO・Alの生成を抑制して、ノズル内付着を防止しつつ、表面品質に優れたステンレス鋼を製造するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼は、その優れた耐食性から表面に塗装やコーティングなどの処理をせず、使用される場合が多い。しかしながら、非金属介在物の形態によっては表面欠陥が発生するなどの問題がある。
【0003】
ステンレス鋼の介在物の無害化を図る技術は幾つかの開示がある。例えば、特許文献1では、ステンレス鋼の精錬の際に、Al、CaおよびMg濃度の低いフェロシリコンを使用することにより、有害な非金属介在物であるMgO・Alを抑制している。この技術は、介在物形態をCaO−SiO−MgO−Al系に制御するためにスラグ塩基度を1.3〜2.7と比較的低めに制御する必要がある。そのため、場合によっては、十分な脱硫能が得られないことがあり、熱間加工性を低下させることがあった。
【0004】
また、特許文献2では、溶鋼中Al濃度およびスラグ組成を制御することにより、溶鋼中非金属介在物をMgO系介在物に制御している。さらに、特許文献3では、溶鋼中Al濃度およびスラグ組成を制御することにより、溶鋼中非金属介在物をMgO系介在物あるいはCaO−Al系介在物に制御している。
【0005】
上記2つの技術は、いずれもAl濃度を0.005%以上に調整する必要がある。Alは歩留まりが安定しないこともあり、本技術が完全に実施できるとは言い難かった。また、Alを積極的に添加するために、溶接を施す必要がある用途には、溶接後のビード部の品質に懸念があった。
【0006】
特許文献4では、スラグ組成を制御して、非金属介在物組成をMgO・Al、CaO−Al系、MgO、CaO−SiO−MgO−Al−MnO系酸化物に制御する技術が開示されている。これによれば、耐食性、溶接性および表面性状に優れたステンレス鋼が得られると示されている。特許文献5では、非金属介在物組成をCaO−SiO−MgO−Al−MnO−Cr−FeO系酸化物に制御する技術が開示されている。これによれば、耐食性、溶接性および表面性状に優れたステンレス鋼が得られると示されている。
【0007】
上記2つの技術は、いずれも精錬方法が明確に示されていないために、制御が不安定である問題があった。
【0008】
また、特許文献6では、耐衝撃性および表面性状に優れたFe−Ni−Cr−Mo合金が示されている。本技術はFe基であり、Ni:30〜32%、Cr:26超〜28%、Mo:6〜7%を含有する合金に適用可能な技術であり、スラグの塩基度C/Sを5〜20と高く制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−26811号公報
【特許文献2】特開平9−256028号公報
【特許文献3】特開2001−220619号公報
【特許文献4】特開2004−149833号公報
【特許文献5】特開2007−277727号公報
【特許文献6】特開2011−97224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、従来の方法では、有害な介在物であるMgO・Al、AlあるいはCaOの生成を抑制しつつ、さらには熱間加工性も健全な状態にて、表面品質を確保することは困難であった。本発明の目的は表面性状に優れたステンレス鋼を提供するとともに、該ステンレス鋼を汎用の設備を用いて安価に製造する方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた。まず、本発明者らは、実機にて発生した表面欠陥を研究した。すなわち、欠陥をSEM観察し、内部に含まれる異物組成を特定した。その結果、MgO・Al、CaOあるいはAlのいずれかであることが分かった。
【0012】
さらに、操業との関連を調査したところ、これらの酸化物は、溶鋼中に含まれる非金属介在物であり、連続鋳造機におけるタンディッシュからモールドに溶鋼を供給するノズルに付着堆積し、その一部が脱落することで、大型の欠陥を引き起こすことが明らかとなった。その防止には、スラグの塩基度を制御すると共に、溶鋼中のAlを極力低減せねばならないということも分かった。したがって、これらの非金属介在物を防止せねばならないという指針が得られた。
【0013】
同時に、介在物組成が、MgOまたはCaO−SiO−Al−MgO系であれば、ノズルに付着がなく、表面欠陥も生じないことが分かった。なお、MgO・Alは個数比率にして50%以下であれば、表面欠陥を生じないことも分かった。さらに、化学成分を詳細に調べたところ、微量に含まれるMg、CaおよびOといった微量成分を制御せねばならないということも分かった。
【0014】
そこで発明者らは、操業条件が微量成分および介在物組成におよぼす影響について、次のように実験室検討を行った。まず、実験室にてマグネシアるつぼを用いて、幾つかの合金成分を縦型抵抗炉で溶解した。合金成分は、Fe−18%Cr−8%Ni合金、Fe−18%Cr−12%Ni−2.5Mo合金、Fe−15%Cr−5%Ni−3%Cu−0.25%Nb合金、Fe−20%Cr−10%Ni−0.7%Nb合金を用いて実験した。この溶鋼中にSi、Mn、Al、Caのうちいずれか1種または2種以上添加して脱酸を行った後、CaO−SiO−Al−MgO−F系スラグを添加した後、所定時間で溶鋼を採取し、試料を得た。この試料の化学成分および試料中の介在物組成を測定し、実験条件による微量成分および介在物組成におよぼす影響について調査した。
【0015】
試料中の化学成分は、化学分析により測定し、試料中の介在物組成は採取した試料をSEM/EDSにて観察し、任意に5μm以上の介在物を20個選んで測定した。その結果、まず、Siにて脱酸を行い、なおかつ、Alを0.005%未満に制御することが肝要でことが分かった。併せて、Si濃度を0.2〜1%に制御しつつ、Mgを0.0001〜0.01%、Caを0.0001〜0.01%、Oを0.0005〜0.01%に調節することで、基本的に介在物組成をMgOまたはCaO−SiO−Al−MgO系に制御することが可能である指針を得た。さらには、MgO・Alは個数比率にして50%以下に抑制できることも明らかとなった。その際のスラグ組成は、スラグ塩基度を2〜5未満に制御することが必要である指針も得られた。
【0016】
本発明は上記知見に基づいて成されたものであり、すなわち、C:0.1%以下、Si:0.2〜1%、Mn:0.2〜2%、S:0.005%以下、Ni:3〜15%、Cr:13〜20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001〜0.01%、Ca:0.0001〜0.01%、O:0.0005〜0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス鋼において該ステンレス鋼中に含まれる非金属介在物が、MgO、MgO・Al、CaO−SiO−MgO−Al系酸化物の1種または2種以上を含み、非金属介在物のうち長さ5μm以上の物が任意の1cmあたり100個以下であり、非金属介在物のうちMgO・Alが個数比率で50%以下であることを特徴とするステンレス鋼である。
【0017】
本発明においては、非金属介在物のうちMgO・Alが個数比率で20%以下であることが好ましく、さらに、個数比率で0%であることがさらに好ましい。
【0018】
また、上記の非金属介在物は、MgO・AlはMgO:10〜40%、Al:60〜90%であり、CaO−SiO−Al−MgO系酸化物は、CaO:20〜60%、SiO:10〜40%、Al:30%以下、MgO:5〜50%であるとより好ましい。
【0019】
また、上記の成分に加えて、Mo:5%以下、Cu:1〜5%、Nb:0.05〜1%、N:0.01〜0.05%、B:0.01%以下の1種または2種以上を含んでもよい。
【0020】
さらに本発明においては、上記ステンレス鋼の製造方法も提供する。すなわち、原料を溶解し、Ni:3〜15%、Cr:13〜20%を含有するステンレス溶鋼を溶製し、次いで、AODおよび/またはVODにおいて脱炭した後に、石灰、蛍石、フェロシリコン合金を投入しCaO/SiO比:2〜5未満、MgO:3〜15%、Al:5%未満からなるCaO−SiO−MgO−Al−F系スラグを用い、C:0.1%以下、Si:0.2〜1%、Mn:0.2〜2%、S:0.005%以下、Ni:3〜15%、Cr:13〜20%、Al:0.005%未満、Mg:0.0001〜0.01%、Ca:0.0001〜0.01%、O:0.0005〜0.01%、残部がFeおよび不可避的不純物からなるステンレス溶鋼に調整することを特徴とするステンレス鋼の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、合金成分の比率および介在物の絶対数および比率を特定の範囲内に制御することにより、熱間加工性を健全な状態に維持し、さらに、表面性状に優れたステンレス鋼を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず本発明に用いる鋼の化学成分の限定理由について説明する。なお、以下の説明において「%」は「質量%」を意味する。
【0023】
C:0.1%以下
Cはオーステナイト安定化元素であるが、多量に存在すると、CrおよびMo等と結合して炭化物を形成し、母材に含まれる固溶CrおよびMo量を低下させ、耐食性を劣化させる。そのため、C含有量は0.1%以下とした。なお、好ましくは0.08%以下であり、より好ましくは0.07%である。
【0024】
Si:0.2%〜1%
Siは本発明で、とても重要な元素である。Siは脱酸に有効な元素であり、酸素濃度を0.01%以下に制御するためには、0.2%は必要である。さらに、CaO−SiO−MgO−Al−F系スラグ中のCaOやMgOを還元し、溶鋼中にCaやMgをそれぞれ0.0001%以上供給する役割もある。その観点からも0.2%は必要である。一方、1%を超えて含有すると、スラグ中のCaOやMgOを還元しすぎてしまい、Ca、Mgを0.01%超供給してしまう。その結果Caは、CaO単体の介在物を形成させてしまい、製品に表面欠陥を発生させてしまう。また、Mgはスラブ中にMg気泡を形成して表面欠陥をもたらす危険がある。そのため、Si含有量は、0.2%〜1%と規定した。好ましくは0.4〜0.8%である。
【0025】
Mn:0.2%〜2%
Mnは脱酸に有効な元素である。Mn含有量が、0.2%未満では、その効果が十分に得られず、逆に、2%を超えて存在すると、シグマ相の生成を促進し、脆化を招く。そのため、Mn含有量は0.2%〜2%と規定した。
【0026】
S:0.005%以下
Sは熱間加工性を阻害する元素であるため、極力低下させるべきであり、S含有量は0.005%以下とした。好ましくは0.003%以下である。さらに好ましくは0.002%以下である。そのためには、AODおよび/またはVODにてスラグを用いて脱硫する必要がある。スラグの塩基度C/Sを2〜5未満として、溶鋼中にSiを0.2%〜1%含有させることで脱硫することが可能であり、本範囲を満たすことが出来る。
【0027】
Ni:3%〜15%
Niは塩化物を含む溶液環境における耐孔食性、耐隙間腐食性ならびに耐応力腐食割れ性を改善する効果を有する。しかしながら、その効果を得る為には、3%以上の必要である。しかしながら、その効果は、15%以下の添加で十分であり、それ以上ではコスト上昇を招くため好ましくない。そこで、Ni含有量は、3%〜15%と規定した。
【0028】
Cr:13%〜20%
Crは、耐食性を確保するために必要不可欠な不動態皮膜を、鋼鈑表面に形成させる元素であり、耐酸性、耐孔食性、耐隙間腐食性ならびに耐応力腐食割れ性を改善するための母材の構成成分として、最も重量な元素である、しかしながら、Cr含有量が13%未満では、十分な耐食性が得られない。逆に、含有量が20%を超えると、シグマ相を生成し脆化を招く。以上の理由から、Cr含有量は13%〜20%と規定した。
【0029】
Al:0.005%未満
Alは、クラスター起因の表面欠陥をもたらすMgO・Alを50個数%以上形成させるとともに、アルミナ介在物を形成する元素であるため、極力低減せねばならない元素である。さらには、溶接ビード部の品質を劣化させる元素でもある。そのため、Al含有量は0.005%未満と規定した。好ましくは0.004%以下である。この範囲に制御するには、もちろんAlを脱酸剤として用いないことが最重要である。
【0030】
Mg:0.0001%〜0.01%
Mgは鋼中の非金属介在物の組成を、クラスターを形成せず、表面品質に悪影響の無い酸化物系MgOあるいはCaO−SiO−Al−MgO系酸化物に制御するために有効な元素である。その効果は、含有量が0.0001%未満では得られず、逆に、0.01%を超えて含有させると、スラブ中にMg気泡を形成するため、最終製品に表面欠陥をもたらす。そのため、Mg含有量は、0.0001%〜0.01%と規定した。好ましくは、0.0002〜0.005%である。より好ましくは、0.0003〜0.003%である。
【0031】
溶鋼中に効果的にMgを添加させるには、下記の反応を利用することが好ましい。
2(MgO)+Si=(SiO)+2Mg …(1)
括弧内はスラグ中成分を示し、下線は溶鋼中成分を示す。
上記の範囲にMgを制御するには、スラグ塩基度を2〜5未満に制御するとともに、スラグ中MgO濃度を3〜15%に調整すればよい。
【0032】
Ca:0.0001%〜0.01%
Caは鋼中の非金属介在物の組成を、クラスターを形成せず、表面品質に悪影響の無いCaO−SiO−Al−MgO系酸化物に制御するために有効な元素である。その効果は、含有量が0.0001%未満では得られず、逆に、0.01%を超えて含有させると、CaO単体の介在物が形成し、最終製品に表面欠陥をもたらす。そのためCa含有量は、0.0001%〜0.01%と規定した。好ましくは、0.0002〜0.005%である。より好ましくは、0.0003〜0.003%である。
溶鋼中に効果的にCaを添加させるには、下記の反応を利用することが好ましい。
2(CaO)+Si=(SiO)+2Ca …(2)
上記の範囲にCaを制御するには、スラグ塩基度を2〜5未満に制御すればよい。
【0033】
O:0.0005%〜0.01%
Oは、鋼中に0.01%を超えて存在すると、脱硫を阻害し、溶鋼中S濃度が0.005%を超えてしまう。逆に0.0005%未満と低くなると、Siがスラグ中のMgOやCaOを還元する能力を高めすぎてしまう。つまり、上記の(1)および(2)式の反応が進行しすぎてしまうことにより、溶鋼中のMgやCaがそれぞれ、0.01%を超えて高くなってしまう。そのため、O含有量は、0.0005%〜0.01%と規定した。この範囲に制御するためには、Si濃度を0.2%〜1%に調整することと、スラグの塩基度を2〜5未満に調整することが必要である。好ましくは、0.0006〜0.005%未満であり、さらに好ましくは、0.001〜0.004%である。
【0034】
さらに本発明鋼は、下記の元素を1種または2種以上含有してもよい。
Cu:1〜5%
Cuは、加工効果しにくくして成形性を高めたるため、有用な元素である。さらに、抗菌性や硫酸に対する耐食性を向上する元素でもある。しかしながら、多量に添加すると熱間加工性が低下すると共に靱性も低下する。そのため、1〜5%が望ましい。より望ましくは2〜4%である。なお、精錬に及ぼす作用として、Cuは溶鋼中Mgの溶解度を高め、MgO介在物を形成しやすくする作用を持つ。同時に逆の側面では、Cuは溶鋼中のAlの作用を強くするため、Mgと反応して、MgO・Alスピネル介在物を形成し易くする作用もある。そのため、Cu含有鋼に対しては、本発明の適用は極めて効果的である。
【0035】
Mo:5%以下
Moは耐食性を向上する元素である。5%を超えると、σ相の形成傾向が強まり、脆化する傾向がある。そのため、5%以下に留めるのが望ましい。好ましくは3%以下である。
【0036】
Nb:0.05〜1%
Nbは析出硬化型ステンレス鋼に必要な元素であり、硬化に対して寄与するとともに、Cを固着して耐食性を高める。このような効果を得るためには、0.05%以上必要である。一方、これらの元素の含有量が過剰になると、固溶化熱処理温度においてフェライトが多く形成されてしまい、時効硬化後の硬さが低下してしまう。したがって、これらの元素の総含有量は、1%以下とすべきである。よって、0.05〜1%が望ましい範囲である。好ましくは0.1〜0.7%である。
【0037】
N:0.01%〜0.05%
Nは、侵入型元素であり、鋼の硬さ及び耐食性を向上させるので、0.01%以上の添加が好ましい。しかしながら、N含有量が過剰になると、Nb、Crと共に窒化物を形成し、加工性に悪影響を及ぼす。したがって、N含有量は、0.05%以下である必要がある。よって、0.01%〜0.05%が望ましい。好ましくは、0.015〜0.04%である。
【0038】
B:0.01%以下
Bは900℃程度の比較的低温側での熱間加工性を改善する元素である。しかしながら、0.01%を超えての添加は、1200℃程度の比較的高温側での熱間加工性を阻害する。そのため、添加は0.01%以下に留めるのが良い。好ましくは0.005%以下である。
【0039】
非金属介在物
本発明では、非金属介在物組成は、MgO、MgO・Al、CaO−SiO−MgO−Al系酸化物の1種または2種以上を含み、MgO・Alを個数比率で50%以下であることを好ましい態様としている。以下、非金属介在物の個数比率限定の根拠を示す。
【0040】
非金属介在物組成は、MgO、MgO・Al、CaO−SiO−MgO−Al系酸化物の1種または2種以上を含み、MgO・Alを個数比率で50%以下
本発明に係るステンレス鋼は、鋼のSi、Al、Mg、Caの含有量に従い、MgO、MgO・Al、CaO−SiO−MgO−Al系酸化物のうち1種または2種以上含む。これらの介在物を含有させる理由は、まず、MgOは融点が2800℃と高いために、連続鋳造機の浸漬ノズル内で焼結しないため付着堆積しない。そのため、表面欠陥を引き起こさない。CaO−SiO−MgO−Al系酸化物は、融点が1300℃程度と低いため、これも焼結しない。そのため、表面欠陥を引き起こさない。
MgO・Alは表面欠陥を引き起こす介在物であるので、極力少ない方が好ましい。ただし、その含有量が個数割合で50%以下であれば、MgO・Alはノズル内に付着しないことから、個数比率で50%以下と定めた。
【0041】
MgO・Alの構成成分を規定した理由を説明する。
MgO:10〜40%、Al:60〜90%
MgO・Alは比較的広い固溶体を持つ化合物である。上記の範囲で固溶体となるので、このように定めた。
【0042】
CaO−SiO−Al−MgO系酸化物の各成分を規定した理由を説明する。
CaO:20〜60%、SiO:10〜40%、Al:30%以下、MgO:5〜50%
基本的には、CaO−SiO−Al−MgO系酸化物の融点を1300℃程度以下に保つために、上記範囲に設定した。なお、CaOが20%未満では融点が高くなり、CaOが60%を超えるとCaO介在物が共存する。SiOが10%未満ならびに40%超では、融点が高くなってしまう。Alが30%超では純粋なAl介在物が共存する。MgOが5%未満ならびに40%超では、融点が高くなってしまう。以上から、CaO:20〜60%、SiO:10〜40%、Al:30%以下、MgO:5〜50%とした。
【0043】
製造方法
本発明では、ステンレス鋼の製造方法も提案する。まず、原料を溶解し、Ni:3〜15%、Cr:13〜20%を含有するステンレス溶鋼を溶製し、次いで、AODおよび/またはVODにおいて脱炭した後に、石灰、蛍石、フェロシリコン合金を投入しCaO/SiO比:2〜5未満、MgO:3〜15%、Al:5%未満からなるCaO−SiO−MgO−Al−F系スラグを用いて溶鋼を精錬する方法である。これによれば、本発明のステンレス溶鋼中S濃度を効果的に0.005%以下まで低下させることが可能である。さらに、非金属介在物もMgO、MgO・Al、CaO−SiO−MgO−Al系酸化物の1種または2種以上を含み、MgO・Alを個数比率で50%以下に制御して、最終製品での表面欠陥を防止して良好な表面性状を確保することが可能となる。
【0044】
本発明に係るステンレス合金の製造方法では、上述のようにスラグの組成に特徴を有している。以下、本発明で規定するスラグ組成の根拠を説明する。
CaO/SiO比:2〜5未満
合金溶湯を効率よく脱酸、脱硫し、かつ非金属介在物組成を本発明の範囲に制御するためには、スラグのCaO/SiO比を制御する必要がある。この比の値が5を超えると、スラグ中CaOの活量が高くなり、(2)式の反応が進行しすぎる。そのため、溶鋼中に還元されるCa濃度が0.01%を超えて高くなり、CaO単体の非金属介在物が生成し、ノズル内に付着して、最終製品に表面欠陥をもたらす。そのため、上限を5(未満)とした。一方、CaO/SiO比が2未満になると、脱酸、脱硫が進まずに、本発明におけるS濃度、O濃度の範囲に制御することができなくなる。そのため、下限を2とした。このようなCaO/SiO2比に制御するため、CaO成分として、石灰または蛍石を添加することで調整可能である。一方、SiO2成分は脱酸剤であるSiの酸化により得ることが出来る。すなわち、Cr還元期にFeSi合金を投入して、Cr酸化物を還元すると、スラグ中にはSiOシリカが形成される。限定はしないが、不足があれば、SiO成分として珪砂を適宜添加しても構わない。したがって、塩基度は2〜5未満と定めた。好ましくは、2.7超〜4.9である。
【0045】
MgO:3〜15%
スラグ中のMgOは、溶鋼中に含まれるMg濃度を請求項に記載される濃度範囲に制御するために、重要な元素であるとともに、非金属介在物を本発明に好ましい組成に制御するためにも重要な元素である。そこで、下限を3%とした。一方、MgO濃度が15%を超えると、(2)式の反応が進行しすぎてしまい、溶鋼中のMg濃度が高くなり、スラブ中にMg気泡を形成するため、最終製品に表面欠陥をもたらす。そこで、MgO濃度の上限を15%とした。スラグ中のMgOは、AOD精錬、あるいはVOD精錬する際に使用されるドロマイトレンガ、またはマグクロレンガがスラグ中に溶け出すことで、所定の範囲となる。あるいは、所定の範囲に制御するため、ドロマイトレンガ、またはマグクロレンガの廃レンガを添加してもよい。
【0046】
Al:5%未満
スラグ中のAlは、高いと溶鋼中のAl濃度も0.005%以上と高くなり、MgO・Alが50個数%を超えて生成させる。また、アルミナ介在物も形成してしまうため、スラグ中のAl濃度は極力下げる必要がある。そのため、上限を5%(未満)とした。なお、上限を満足させるためには、Alを脱酸剤として用いないことが重要である。
【実施例】
【0047】
次に実施例を提示して、本発明の構成および作用効果をより、明らかにするが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
容量60トンの電気炉により、フェロニッケル、純ニッケル、フェロクロム、鉄屑、ステンレス屑、Fe−Ni合金屑などを原料として、溶解した。一部の鋼種ではFeMo、FeNbあるいはCuも原料として添加した。その後、AODまたはVODにおいてCを除去するための酸素吹精(酸化精錬)を行い、石灰石および蛍石を投入し、CaO−SiO−Al−MgO−F系スラグを生成させ、さらに、FeSi合金を投入し、Cr還元を行い、次いで脱酸した。その後、さらにAr撹拌して脱硫を進めた。AOD、VODではマグクロレンガをライニングした。その後、取鍋に出鋼して、温度調整ならびに成分調整を行い、連続鋳造機によりスラブを製造した。
【0048】
製造したスラブは、表面を研削し、1200℃で加熱して熱間圧延を実施し、厚み6mmの熱帯を製造した。その後、焼鈍、酸洗を行い、表面のスケールを除去した。最終的に冷間圧延を施し、板厚1mm×幅1m×長さ1000mの薄板コイルを製造した。
【0049】
表1および2に、得られたステンレス鋼の化学成分、AODもしくはVOD精錬終了時のスラグ組成、非金属介在物組成および介在物の形態および品質評価を示す。なお、表1中の―は、無添加のため、分析限界以下であったことを示す。
【0050】
なお、表1および2に記載の諸項目は、下記のようにして求めた。
1)合金の化学成分およびスラグ組成:蛍光X線分析装置を用いて定量分析を行い、合金の酸素濃度は不活性ガスインパルス融解赤外線吸収法で定量分析を行った。
2)非金属介在物組成:鋳込み開始直後、タンディッシュにて採取したサンプルを鏡面研磨し、SEM−EDSを用いて、サイズ5μm以上の介在物を20点ランダムに測定した。
3)スピネル介在物の個数比率:上記2)の測定の結果から個数比率を評価した。
4)品質評価:圧延により製造した上記薄板表面を目視で観察し、非金属介在物起因の表面欠陥(板幅中央近傍に線状の疵が発生、線状欠陥)ならびに熱間加工性低下起因の表面欠陥(板のエッジ部にめくれ状に疵が発生、耳割れ)の発生有無を判定した。コイル全長を観察して、その欠陥数をそれぞれ示した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
発明例の1〜9は、本発明の範囲を満足していたために、最終製品での表面に介在物起因の欠陥は無いか極めて少なく(11箇所以下)、良好な品質を得ることが出来た。
【0054】
一方、比較例は本発明の範囲を逸脱したため、表面欠陥が発生した。以下に、各例について説明する。比較例10は塩基度が5.45と5よりも高かったため、酸素濃度も低くなりすぎ、Ca濃度が0.0117%と0.01%よりも高くなってしまった。また、スラグ中MgO濃度も1.7%と3.0%よりも低く、Mg濃度が分析限界以下となってしまった。その結果、CaO単体の非金属介在物を生成し、最終製品で介在物起因の欠陥が生じた。
【0055】
比較例11は塩基度が1.73と2未満であったため、脱酸および脱硫が進まなかった。そのため、介在物個数が156個/cmと100個/cmを超えて多くなってしまった。さらに、Caが分析限界以下と低く、介在物中のMnOが47.5%と高くなったと同時に、S濃度が0.0058%と0.005%よりも高くなってしまった。その結果、熱間加工性が低下し、表面欠陥を生じた。
【0056】
比較例12は、Siが1.23%と1.0%を超えて高かったこと、および、Al濃度が0.006%と0.005%よりも高かったために、溶鋼中Mgと相まってMgO・Al介在物が多く形成してしまった。その結果スピネル比率が95%と50%を超えてしまい、表面欠陥が発生した。
【0057】
比較例13はSiが0.11%と0.2%未満であったため、脱酸が進まず、介在物個数が127個/cmと100個/cmを超えて多くなってしまった。MgとCa濃度が分析限界以下となってしまい、介在物中のMnO濃度も36.3%と高くなった。さらに、脱酸や脱硫が進まず、S濃度が0.0068%と0.005%よりも高くなってしまった。その結果、熱間加工性が低下し、表面欠陥を生じた。
【0058】
比較例14はスラグ中アルミナ濃度が8.5%と5%を超えて高かったため、溶鋼中Al濃度が0.025%と0.005%を超えて高くなり、アルミナ単体の非金属介在物が生成し、表面欠陥が生じた。
【0059】
比較例15はスラグ中アルミナ濃度が7.5%と5%を超えて高く、溶鋼中のAl濃度が0.007%と0.005%よりも高くなり、MgO・Al比率が60%と50%を超えてしまい、表面欠陥が発生した。
【0060】
比較例16はスラグ中MgO濃度が17.5%と15%を超えて高く、溶鋼中のMg濃度が0.0112%と0.01%よりも高くなり、スラブ中にMg気泡を形成し、最終製品に表面欠陥をもたらした。
【0061】
比較例17は、Siが1.02%と1.0%を超えて高かった。さらに、スラグ中のアルミナ濃度が5.5%と5%を超えて高かったために、溶鋼中のAl濃度が0.008%と0.005%よりも高くなった。その結果、MgO・Al介在物のみが形成してしまい表面欠陥が発生した。